(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】電動車両の回生制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 7/14 20060101AFI20230808BHJP
B60L 7/18 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B60L7/14
B60L7/18
(21)【出願番号】P 2019063434
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聖悟
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190021(WO,A1)
【文献】特開2012-175754(JP,A)
【文献】特開2017-143685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/14
B60L 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に設けられた回転電機の回生量を制御する回生制御装置であって、
第1の位置と第2の位置との間を連続的に移動可能な操作部と、
前記操作部の操作量に応じて前記回転電機が出力する回生トルクを増減させるトルク制御部と、を備え、
前記トルク制御部は、前記操作部を第1の位置から第2の位置に操作する際の
前記操作量の変化に対する回生トルクの減少量を示す第1のマップと、前記操作部を第2の位置から第1の位置に操作する際の
前記操作量の変化に対する前記回生トルクの増加量を示す第2のマップと、を備え、
前記第1のマップは、前記操作量に対して一定の割合で前記回生トルクが減少し、
前記第2のマップは、前記操作量に対して前記回生トルクの増加量
の変化率が異なる複数区間を有することを特徴とする電動車両の回生制御装置。
【請求項2】
前記操作部が前記第1の位置に設定された際に、前記第1のマップに基づいて設定される前記回生トルクよりも前記第2のマップに基づいて設定される前記回生トルクの方が大きいことを特徴とする請求項1記載の電動車両の回生制御装置。
【請求項3】
前記回転電機は、バッテリから蓄積電力の供給を受けて駆動するとともに、回生発電で発生した回生電力を前記バッテリに蓄積可能であり、
前記トルク制御部は、前記操作部が前記第2の
位置から前記第1の
位置に操作されている間の前記回生トルクの増加量を前記バッテリの充電率に基づいて変更する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両の回生制御装置。
【請求項4】
前記トルク制御部は、前記バッテリの充電率が高いほど前記回生トルクの増加量を小さくする、
ことを特徴とする請求項3記載の電動車両の回生制御装置。
【請求項5】
前記トルク制御部は、前記操作部が前記第2の
位置から前記第1の
位置へ向かって操作される際の操作速度が所定速度以上の場合には、前記回生トルクの増加量を前記第2のマップより小さくする、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の電動車両の回生制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の回生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機を備えた電動車両では、回生ブレーキの活用によりエンジン車等と比較して少ないエネルギーでの走行が可能となっている。
例えば、下記特許文献1は、回生動作に伴う車両の操作性を向上させるため、回生制御装置は、回生動作における回生レベルの選択を行うパドルスイッチ装置と、パドルスイッチ装置の操作に応じて回生レベルを所定段階に遷移させる回生レベル設定手段と、回生レベル設定手段によって遷移された回生レベルの段階に応じて回生動作を実行する回生実行手段とを備える。パドルスイッチ装置が、所定時間内にアップ方向又はダウン方向の一方向に二度以上操作された場合、操作された一方向側の最高段階に回生レベルを遷移させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、ユーザの意思により回生レベル(回生ブレーキの大きさ)を段階的に調整可能としているが、車両の走行中に停車位置を調整したい場合など、回生ブレーキの大きさを微妙に調整したい場合に直感的な操作を行う上で改善の余地がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、回生ブレーキの大きさをより直感的に調整可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる電動車両の回生制御装置は、電動車両に設けられた回転電機の回生量を制御する回生制御装置であって、第1の位置と第2の位置との間を連続的に移動可能な操作部と、前記操作部の操作量に応じて前記回転電機が出力する回生トルクを増減させるトルク制御部と、を備え、前記トルク制御部は、前記操作部を第1の位置から第2の位置に操作する際の前記操作量の変化に対する回生トルクの減少量を示す第1のマップと、前記操作部を第2の位置から第1の位置に操作する際の前記操作量の変化に対する前記回生トルクの増加量を示す第2のマップと、を備え、前記第1のマップは、前記操作量に対して一定の割合で前記回生トルクが減少し、前記第2のマップは、前記操作量に対して前記回生トルクの増加量の変化率が異なる複数区間を有することを特徴とする。
請求項2の発明にかかる電動車両の回生制御装置は、前記操作部が前記第1の位置に設定された際に、前記第1のマップに基づいて設定される前記回生トルクよりも前記第2のマップに基づいて設定される前記回生トルクが大きいことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる電動車両の回生制御装置は、前記回転電機は、バッテリから蓄積電力の供給を受けて駆動するとともに、回生発電で発生した回生電力を前記バッテリに蓄積可能であり、前記トルク制御部は、前記操作部が前記第2の位置から前記第1の位置に操作されている間の前記回生トルクの増加量を前記バッテリの充電率に基づいて変更する、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる電動車両の回生制御装置は、前記トルク制御部は、前記バッテリの充電率が高いほど前記回生トルクの増加量を小さくする、ことを特徴とする。
請求項5の発明にかかる電動車両の回生制御装置は、前記トルク制御部は、前記操作部が前記第2の位置から前記第1の位置へ向かって操作される際の操作速度が所定速度以上の場合には、前記回生トルクの増加量を前記第2のマップより小さくする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、連続的に移動可能な操作部を用いて電動車両の回生トルクを操作可能なので、回生トルクの大きさを任意に変更しやすく、直観的な操作が可能となる。また、操作部の操作量に応じた回生トルクを増加量の変化率が異なる区間があるので、回生トルクを増加させる際の操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態にかかる回生制御装置10の構成を示す図である。
【
図2】回生ペダル12の操作状態を模式的に示す図である。
【
図3】シフトレバー14の周辺構成を示す模式図である。
【
図4】パドルスイッチ16の周辺構成を示す模式図である。
【
図6】ペダル操作量と回転電機20の発生トルクとの関係を示すグラフである。
【
図7】充電率に基づく発生トルクの変更を示すグラフである。
【
図8】踏み込み中所定速度以上で踏み戻しが行われた場合の発生トルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる電動車両の回生制御装置(以下、単に「回生制御装置」という)の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかる回生制御装置10の構成を示す図である。
本実施の形態では、走行用動力源として回転電機20のみを搭載した電気自動車に回生制御装置10が搭載されているものとする。
回転電機20は、バッテリ22から供給される電力で駆動トルク(正のトルク)を発生させ電動車両の駆動輪を駆動するとともに、電動車両の減速時には回生トルク(負のトルク)を発生させ発電動作が可能である。すなわち、回転電機20は、バッテリ22から蓄積電力の供給を受けて駆動するとともに、回生発電で発生した回生電力をバッテリ22に蓄積可能である。
【0009】
より詳細には、運転者が図示しないアクセルペダルを踏み込むと、バッテリ22に蓄積された電力が図示しないインバータで交流電流に変換され、回転電機20へと供給される。回転電機20は、インバータから供給された交流電流を用いて作動し、電動車両の走行のための駆動トルクを駆動輪に出力する。
また、運転者がアクセルペダルを踏み戻すと、回転電機20が出力する駆動トルクを減少させる。アクセルペダルの踏み戻しが更に大きくなると、回転電機20はジェネレータとして機能して発電動作を行う。すなわち、回転電機20は回生発電を行うことにより駆動輪に対して回生トルクを与え、この発電負荷を車両の制動力(回生制動力)として発揮する。回生発電で得られた電力は、インバータで直流に変換されて、バッテリ22に充電される。
【0010】
バッテリ22の充電率や温度、入出力電力量などは、BMU(Battery Management Unit)24によって検知され、後述するECU(Electronic Control Unit)18へと出力される。
【0011】
回生制御装置10は、操作部としての回生ペダル12およびECU18を備える。
回生ペダル12は、電動車両の運転者の足元に設けられ、運転者が踏み込む、または踏み戻すことにより操作される。後述のように、回生ペダル12の操作により回転電機20で発生する回生トルク(負のトルク)の増減が可能である。従来アクセルペダルとブレーキペダルが設けられている位置にアクセルペダルと回生ペダル12とを設けてもよいし、アクセルペダルと回生ペダル12に加えてブレーキペダルを設けてもよい。
【0012】
図2は、回生ペダル12の操作状態を模式的に示す図である。
図2の紙面左側が車両前方、紙面右側が車両後方となる。
回生ペダル12は、棒状のアーム120と、アーム120の一端に取り付けられた踏み込み板122を備える。アーム120は、その他端(踏み込み板122が取り付けられていない方の端部)付近に位置する回転軸Oで電動車両本体に取り付けられている。
操作開始位置P1(第1の操作位置)から運転者が足Fで踏み込み板122を踏み込む(車両前方に押す)と、アーム120が回転軸Oを中心として揺動する。アーム120の揺動は所定角度、すなわち
図2の操作限界位置P2(第2の操作位置)で停止し、それ以上の踏み込みはできなくなっている。なお、運転者が踏み込み板122から足を離す(踏む込みを解除する)と、図示しない付勢機構により回生ペダル12が操作開始位置P1へと復帰される。
すなわち、回生ペダル12は、第1の位置(操作開始位置P1)と第2の位置(操作限界位置P2)との間を連続的に移動可能である。
本実施の形態では、回生ペダル12が操作開始位置P1から操作限界位置P2に向かう方向を第1の方向D1、操作限界位置P2から操作開始位置P1に向かう方向を第2の方向D2とする。
なお、回生ペダル12の操作量(踏み込み量)は、図示しないペダルセンサにより検知され、ECU18に出力される。
【0013】
本実施の形態では、回生トルクの調整機構として、回生ペダル12に加えて、シフトレバー14およびパドルスイッチ16が設けられている。シフトレバー14およびパドルスイッチ16は、運転者の操作によって、回転電機20の回生トルクの相対的な強さ(回生レベル)を段階的に選択可能とする。より詳細には、シフトレバー14は、電動車両の回生レベルを初期設定に対して増方向に調整可能である。また、パドルスイッチ16は、回生レベル増方向および回生レベル減方向に複数段の設定を有する。
【0014】
図3は、運転席に設けられたシフトレバー14の周辺構成を上方から示す模式図である。
シフトレバー14は、運転者の操作によって走行モードを切り換え可能とする操作部であり、電動車両の運転席に設けられている。シフトレバー14は、初期状態として図示のホームポジションに設定されており、運転者が矢印に沿って前後左右にシフトポジションを変更することにより、対応する走行モードに切り換え可能になっている。
ここで、Nポジションは回転電機20の動力を駆動輪に伝達しないニュートラルモードであり、Dポジションは前進走行を行う通常走行モードであり、Rポジションは後退走行を行う後退モードを示している。
【0015】
Dポジションを選択することで通常走行モードにある場合、シフトレバー14をBポジションに操作することによって、回転電機20の回生レベルを段階的にシフトできる。運転者がシフトレバー14をBポジションに操作した後にシフトレバー14を開放すると、シフトレバー14は自動的にホームポジションに復帰するように構成されており、Bポジションへの操作回数に応じて回生レベルが増方向にシフトするようになっている。
【0016】
図4は、ステアリングホイール17に設けられたパドルスイッチ16の周辺構成を示す模式図である。
パドルスイッチ16は、回生レベルを増加方向に段階的に切り換え可能なプラススイッチ16Aと回生レベルを減少方向に段階的に切り換え可能なマイナススイッチ16Bとを備えており、運転者がステアリングホイール17を握った状態でプラススイッチ16Aまたはマイナススイッチ16Bを運転者側(車両後方側)に移動させることによって操作可能に構成されている。
運転者がプラススイッチ16Aまたはマイナススイッチ16Bを操作した後に同スイッチを開放すると、同スイッチは自動的にホームポジションに自動復帰するように構成されており、各スイッチの操作回数に応じて回生レベルが増方向または減方向にシフトするようになっている。
【0017】
図5は、シフトレバー14およびパドルスイッチ16によって設定可能な回生レベルを示す概念図である。
回転電機20の回生制動力は、その大きさによって例えばB0~B5の6段階の回生レベルが設定されている。回生制動力はB0からB5に向かうに従って相対的に強くなり、運転者の減速フィーリングや回生発電量(回生トルク)が増大するようになっている。
なお、これら複数の回生レベルのうち、基準となる初期設定を例えばB2とする。すなわち、パドルスイッチ16がB2に操作されている、またはシフトレバー14がDポジションにある状態を初期設定とする。
【0018】
シフトレバー14によって選択可能な回生レベルは、シフト段D、B、BLから構成されている。シフト段Dはシフトレバー14をDポジションに操作することによって選択可能であり、回生レベルは初期設定であるB2に相当している。シフト段Bにはシフトレバー14をDポジションからBポジションに一回操作することにより移行し、シフト段Dより回生制動力が強いB3に設定されている。シフト段BLにはシフトレバー14をさらに一回Bポジションに操作することにより移行し、シフト段Bより回生制動力が強いB5に設定されている。なお、シフト段BLの状態でさらにシフトレバー14を一回Bポジションに操作すると、シフト段Dに移行する。
【0019】
また、パドルスイッチ16によって選択可能な回生レベルはB0、B1、B2、B3、B4、B5であり、プラススイッチ16Aおよびマイナススイッチ16Bの操作回数に応じて移行できるようになっている。なお、電動車の起動時には、回生レベルが初期設定であるB2に初期化される。
【0020】
図1の説明に戻り、ECU18は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されるマイクロコンピュータであり、電動車両全体の制御を行う。
ECU18は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、トルク制御部180として機能する。
【0021】
トルク制御部180は、回生ペダル12の操作量に応じて、回転電機20が出力する回生トルクを増減させる。本実施の形態では、トルク制御部180は、回生ペダル12が操作開始位置P1から操作限界位置P2に向かう第1の方向D1に操作された場合に、回生ペダル12の操作量に応じて回転電機20が出力する回生トルクを減少させる。また、回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1に向かう第2の方向D2に操作された場合に、回生ペダル12の操作量に応じて回転電機20が出力する回生トルクを増加させる。すなわち、回生中に回生ペダル12を踏み込んだ場合は、回生制動力が低減し、車両は加速傾向となる。また、回生中に回生ペダル12を踏み戻した場合は、回生制動力が増加し、車両は減速傾向となる。
ここで、トルク制御部180は、回生ペダル12を操作開始位置P1から操作限界位置P2に操作する際の回生トルクの減少量を示す第1のマップM1と、回生ペダル12を操作限界位置P2から操作開始位置P1に操作する際の回生トルクの増加量を示す第2のマップM2とを備える。第1のマップM1では、回生ペダル12の操作量に対して一定の割合で回生トルクが増減する。第2のマップM2では、回生ペダル12の操作量に対して回生トルクの増加量が異なる複数区間を有する。
【0022】
図6は、本願発明におけるペダル操作量と回転電機20の発生トルクとの関係を示すグラフであり、縦軸に回生トルク量、横軸に回生ペダル12の踏み込み量(操作量)を示す。横軸の踏み込み量0は回生ペダル12が操作開始位置P1にあることを示し、横軸の踏み込み量MAXは回生ペダル12が操作限界位置P2にあることを示す。また、縦軸上の0から離れた位置ほど回生トルクが大きいことを示す。
【0023】
回生ペダル12が操作開始位置P1から操作限界位置P2に操作されている間における回生トルクの増減量は第1のマップM1(以下、単にマップM1という)で示される。また、回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1に操作されている間における回生トルクの増減量は第2のマップM2(以下、単にマップM2という)で示される。
マップM1は踏み込み量0から踏み込み量MAXまで一定の傾きを有する。すなわち、踏み込み量0から踏み込み量MAXまで一定速度で操作した場合、回生トルクの減少量は一定となる。
図6の例では、マップM1は、踏み込み開始時の回生トルクをαとし、踏み込み量MAXでは回生トルクが0となるよう一定の傾きを有している。踏み込み量MAXにおける回生トルクは0に限らず、踏み込み開始時の回生トルクαより小さい値であればよく、例えば駆動トルク(正のトルク)を発生させるようにしてもよい。
【0024】
一方、マップM2は踏み込み量MAXから踏み込み量0までの間が複数区間に分割されており、それぞれの区間でマップの傾きが異なる。例えば踏み込み量MAXから踏み込み量N1までの区間はマップM1と同じ傾きであるが、踏み込み量N1から踏み込み量N2(<N1)までの区間はマップM1や区間MAX~N1と比較して傾きが大きくなっている。また、踏み込み量N2から踏み込み量0までの区間はマップM1と同じ傾きである。すなわち、踏み込み量MAXから踏み込み量0まで一定速度で操作した場合、区間N1~N2で回生トルクの増加量が他の区間よりも大きくなる。
また、区間N1~N2で回生トルクの増加量が大きくなることから、回生ペダル12を踏み込み量0(操作開始位置P1)から踏み込み量MAX(操作限界位置P2)まで操作し、踏み込み量0(操作開始位置P1)に戻した場合、最初に回生ペダル12を踏み込んだ時よりも回生トルクが大きくなっていることになる。例えば、
図6の例では、マップM1の踏み込み開始時の回生トルクがαであるのに対して、マップM2の踏み戻し完了時の回生トルクがβ(>α)となっている。マップM2の踏み戻し完了後の回生トルクは、車速が0になると、βからαに変更される。すなわち、回生ペダル12が操作開始位置P1に設定された際に、マップM1に基づいて設定される生トルクよりもマップM2に基づいて設定される回生トルクの方が大きい。
なお、回生トルクの増加量が変化する区間は1区間に限らず、複数設けられていても良い。
【0025】
マップM1、M2におけるα、βの具体的な値は、回生ペダル12の操作開始時における回生レベルの設定により決定される。例えば、回生ペダル12の操作開始時にシフトレバー14やパドルスイッチ16によって回生レベルB2に設定されている場合、αはB2となり、βはB2より大きい回生レベル(例えばB3、B4、B5またはこれらの中間値であってもよい)となる。αに対してβをどの程度大きくするかは、予め運転者によって設定されていてもよいし、シフトレバー14やパドルスイッチ16への操作状況に基づいて運転者の回生設定傾向を学習して車両側で適宜設定してもよい。
また、例えば、回生ペダル12の操作開始時に回生レベルB5(シフトレバー14やパドルスイッチ16によって設定できる回生レベルの最大値)に設定されている場合には(α=B5の場合には)、例えばβを回生レベルB5よりも大きく設定してもよいし、β=α=B5としてマップM1上を往復するような(マップM1=マップM2とするような)制御としてもよい。
【0026】
なお、回生ペダル12が操作開始位置P1から踏み込まれ、操作限界位置P2に至る前に踏み戻された場合、すなわちマップM1を用いた制御中に回生ペダル12が踏み戻された場合、トルク制御部180はそのままマップM1を用いて回生トルクを制御する。また、回生ペダル12が操作限界位置P2から踏み戻され、操作開始位置P1に至る前に再度踏み込まれた場合、すなわちマップM2を用いた制御中に回生ペダル12が踏み込まれた場合、トルク制御部180はそのままマップM2を用いて回生トルクを制御する。
これは、特に回生ペダル12の踏み込み量が小さい領域では、マップM1・M2間の回生トルクの差が大きく、使用マップを切り替えると運転者に不安を与える可能性があるためである。
【0027】
また、バッテリ22の充電率に基づいてマップM2の最大回生トルクβを変更してもよい。すなわち、バッテリ22の充電率が高いほど最大回生トルクβを小さくするようにしてもよい。これは、バッテリ22の充電率が高い場合、回生発電により発生した電力をバッテリ22に充電することができないためである。
具体的には、例えば
図7に示すように、バッテリ22の充電率が所定値未満の場合には踏み戻し時にマップM2(最大回生トルクβ)を用い、バッテリ22の充電率が所定値以上の場合には踏み戻し時にマップM3(最大回生トルクγ(|γ|<|β|))を用いるなどとすることができる。
図7のように2段階のマップを設定するに限らず、3以上のマップを設けたり、充電率に基づいて連続的にマップ(最大回生トルク)を変更するようにしてもよい。
すなわち、トルク制御部180は、回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1に操作されている間の回生トルクの増加量をバッテリ22の充電率に基づいて変更してもよい。この時、トルク制御部180は、バッテリ22の充電率が高いほど回生トルクの増加量を小さくする。トルク制御部180は、バッテリ22の充電率と目標充電率との乖離が大きいほど、回生トルクの増加量を大きくするように変更してもよい。
【0028】
また、回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1へ向かって操作される際の操作速度が所定速度以上の場合には、回生トルクの増加量をマップM2より小さくする。具体的には、例えば
図8にようにマップM1にほぼ沿ったマップM4に沿って踏み戻し時の回生トルクを制御する。
これは、踏み戻しの速度が速い場合、運転者が誤操作を行った可能性があるためである。すなわち、運転者は回生トルクを減少させる意図がないにも関わらず誤って踏み込みを行い、これに気づいて慌てて踏み戻しを行ったことが予想されるためである。またこのとき、運転者は、踏み戻し後の回生トルクを踏み込み前に近い回生トルクに戻すことを望むと予想されるためである。なお、所定速度以上とは、例えば運転者が回生ペダル12から足を離した場合に自動的に操作開始位置P1に復帰する速度が含まれるように設定する。
【0029】
なお、本実施の形態では操作部として回生ペダル12を用いる場合を例にして説明したが、操作部としては所定の距離を有する操作開始位置から操作限界位置までを連続的に移動させることによって操作する機構であればよく、例えば基準位置から特定方向に移動可能なレバーなどであってもよい。
また、本実施の形態では、回生制御装置10が搭載される電動車両として、走行用動力源として回転電機のみを有する電気自動車を例にして説明したが、回転電機に加えて内燃機関を備えたハイブリッド電気自動車にも、本発明にかかる回生制御装置が適用可能なことは無論である。
【0030】
以上説明したように、実施の形態にかかる電動車両の回生制御装置10によれば、連続的に移動可能な回生ペダル12を用いて電動車両の回生トルクを操作可能なので、回生トルクの大きさを任意に変更しやすく、直観的な操作が可能となる。また、マップM2において、回生ペダル12操作量に対する回生トルクの増減割合が変化する区間があるので、回生トルクの増減割合を選択することが可能となり、増減割合が一定な場合に比べて、操作性が向上する。また、回生ペダル12が操作開始位置P1から操作限界位置P2に操作されている間の回生トルクの減少量よりも、回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1に操作されている間の回生トルクの増加量が大きいので、車両を停車させる際などに必要な回生制動力を得る上で有利となる。
また、回生制御装置10において、バッテリ22の充電率に基づいて回生ペダル12が操作限界位置P2から操作開始位置P1に操作されている間のトルクの増加量を変更するようにすれば、回生トルクを用いた発電量をバッテリ22の充電率に基づいて変更することができる。例えば、バッテリ22の充電率と目標充電率との乖離が大きいほど、回生トルクの増加量を大きくするようにすれば、目標充電率を維持しやすくなる。特に、バッテリ22の充電率が高いほど回生トルクの増加量を小さくするようにすれば、バッテリ22が過充電されるのを防止することができる。
また、回生制御装置10において、回生ペダル12が操作限界位置P2から第2の方向D2へ操作される際の操作速度が所定速度以上の場合には回生トルクの増加量を第2のマップM2より小さくするようにすれば、誤操作により、減速度制御装置を第1の方向に操作してしまった際に、所定操作速度以上で操作手段を第2の方向へ操作することで、不必要に回生トルクを増加させることなく、元の回生トルクに近いトルクに戻すことが出来るため、運転者の意思をより反映した制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
10 回生制御装置
12 回生ペダル
120 アーム
122 踏み込み板
14 シフトレバー
16 パドルスイッチ
18 ECU
180 トルク制御部
20 回転電機
22 バッテリ
D1 第1の方向
D2 第2の方向
P1 操作開始位置(第1の位置)
P2 操作限界位置(第2の位置)