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特許7326825貼付剤支持体用フィルム、積層体、及び貼付剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】貼付剤支持体用フィルム、積層体、及び貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20230808BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230808BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K47/34
A61K47/32
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019073737
(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公開番号】P2020172447
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】高柳 浩介
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼山 徹三
(72)【発明者】
【氏名】藤井 愛沙子
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-127531(JP,A)
【文献】米国特許第04237889(US,A)
【文献】特開平08-231385(JP,A)
【文献】特開2009-082701(JP,A)
【文献】特開平06-135827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤バリア性を有する樹脂からなる貼付剤支持体用フィルムであって、
フィルム全体が厚さ方向にうねった形状に構成されることで、面に沿って凹部と凸部を繰り返す凹凸構造を有し、
貼付剤支持体用フィルムの膜厚が5μm以上150μm以下であり、
上記凹部と上記凸部との高低差が、貼付剤支持体用フィルムの膜厚よりも大きく、
上記凸部の頂部及び上記凹部の底部は、それぞれ断面平坦な平坦部を構成し、
隣り合う上記凸部の頂部と凹部の底部とが斜面部で連結され、断面において上記凸部の頂部とそれに連続する上記斜面部との成す角が110度以上150度以下であり、
上記凸部が突出する側の面での隣り合う上記凹部の上記底部間の間隔Lに対する上記高低差Hの比率(H/L)が、0.10以上1.00以下であり、
上記間隔Lは、143μm以上224μm以下であり、
隣り合う上記頂部と上記底部において、凹部と凸部の並び方向における上記頂部の幅は、53μm以上205μm以下であり、
上記薬剤バリア性を有する樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体、のいずれかから選ばれる樹脂であること、
を特徴とする貼付剤支持体用フィルム。
【請求項2】
上記薬剤バリア性を有する樹脂は、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体、のいずれかから選ばれる樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項3】
上記薬剤バリア性を有する樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項4】
上記凸部の頂部と上記凹部の底部は、互いに平行であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項5】
断面において、上記凸部の頂部とそれに連続する一方の斜面部との成す角と、上記凸部の頂部とそれに連続する他方の斜面部との成す角が等しいことを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項6】
上記凹部と上記凸部との高低差は、5μmより大きく300μm以下であることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項7】
隣り合う上記頂部と上記底部において、凹部と凸部の並び方向において、上記底部の幅に対する上記頂部の幅の比率が、0.10以上10.00以下であることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項8】
複数の領域を有し、各領域毎に個別の凹凸パターンで上記凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項9】
隣り合う上記頂部と上記底部において、凹部と凸部の並び方向における上記底部の幅は、31μmであることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項10】
上記バリア性材料は、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、
上記高低差は、5μmより大きく300μm以下であり、
上記貼付剤支持体用フィルムの厚さは、30μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の貼付剤支持体用フィルム。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載された貼付剤支持体用フィルムの両面又は片面に、熱可塑性樹脂層を積層した積層体。
【請求項12】
上記熱可塑性樹脂層は、上記貼付剤支持体用フィルムよりも弾性率が低い材料で形成された層であることを特徴とする請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
上記熱可塑性樹脂層は、400MPa以下の弾性率の樹脂で形成された層であることを特徴とする請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載された貼付剤支持体用フィルムの両面又は片面に、機能層を積層した積層体。
【請求項15】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載された貼付剤支持体用フィルムを複数枚積層した積層体。
【請求項16】
上記貼付剤支持体用フィルムにおける凹凸構造の延在方向での、上記熱可塑性樹脂層と180度剥離試験を実施した際の剥離強度が0.001N/15mm以上0.200N/15mm以下であることを特徴とする、請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項17】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載された貼付剤支持体用フィルムの両面又は片面に、粘着剤層と剥離ライナー層とをこの順に積層した貼付剤。
【請求項18】
請求項11~請求項16のいずれか1項に記載された積層体の両面又は片面に、粘着剤層と剥離ライナー層とをこの順に積層した貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付剤支持体用フィルム、積層体、及び貼付剤に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野で用いられる貼付剤は、皮膚に貼り付けることで薬剤を経皮吸収させて体内へ取り込ませることを目的とした製剤である。貼付剤は、フィルムや不織布の積層体で構成されており、その構成の一例として、支持体の表面に薬剤と粘着剤を混合した粘着剤層を積層し、更に粘着剤層の表面に剥離ライナーを積層した構成のものがある。
【0003】
ここで支持体に求められる特性として、薬剤バリア性を有すること、伸び性を有すること、等が挙げられる。薬剤バリア性とは、薬剤の経皮吸収を妨げないために支持体が薬剤を吸収しない若しくは吸収し難い特性のことを指しており、ここでは温度40℃、湿度75%RHの環境下で1ヶ月保管した際に、支持体の薬剤吸収率が10%未満であれば薬剤バリア性があると定義する。一方で、伸び性とは、支持体が引っ張られた際に降伏点に到達するまでに伸びる比率で表される指標であり、貼付剤を皮膚に貼り付けた際に突っ張りやごわつきを感じないこと、体を動かした際に貼付剤が剥がれにくくさせること、等のために重要な要素である。
【0004】
しかしながら、薬剤バリア性と伸び性とを両立させることは困難である場合が多い。薬剤バリア性を有する樹脂は、二軸延伸ポリエチレンテレフタラート(PolyEthylene Terephthalate;PET)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(Ethylene-Vinylalcohol copolymer;EVOH)、環状オレフィンコポリマー(Cyclic Olefin Copolymer;COC)などの一部材料に限定され、これらの材料は一般的に強度が大きく延在が小さい、伸び性が低いという欠点がある。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば特許文献1では、貼付剤支持体としてPETフィルム等のポリエステル樹脂フィルムを用い、その表面に溝状の切れ目を設けることによって、皮膚に貼り付けた際の追従性を高めた貼付剤を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5349837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしこの場合、製膜したフィルム表面に微細な溝を加工することとなり、このような加工には、極めて微妙な機械的あるいは電気的な調整が必要となる。
本発明は、上記のような点に着目したもので、簡易な構成で薬剤バリア性と伸び性を有する貼付剤支持体用フィルム、積層体、及び貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、面に沿って凹部と凸部とを繰り返す凹凸構造を有することで薬剤バリア性と伸び性を兼備し、更に凹凸構造の形状を制御することによってキャリア層から剥離する際の剥離強度を低減させた貼付剤支持体用フィルムを提供する。
【0009】
すなわち、課題を解決するために、本発明の一態様は、薬剤バリア性を有する樹脂からなる貼付剤支持体用フィルムであって、フィルム全体が厚さ方向にうねった形状に構成されることで、面に沿って凹部と凸部を繰り返す凹凸構造を有し、貼付剤支持体用フィルムの膜厚が5μm以上150μm以下であり、上記凹部と上記凸部との高低差が、貼付剤支持体用フィルムの膜厚よりも大きく、上記凸部の頂部及び上記凹部の底部は、それぞれ断面平坦な平坦部を構成し、隣り合う上記凸部の頂部と凹部の底部とが斜面部で連結され、断面において上記凸部の頂部とそれに連続する上記斜面部との成す角が110度以上150度以下であり、上記凸部が突出する側の面での隣り合う上記凹部の上記底部間の間隔Lに対する上記高低差Hの比率(H/L)が、0.10以上1.00以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、面に沿って凹部と凸部とを繰り返す凹凸構造を有することで薬剤バリア性と伸び性を兼備し、なおかつ凹凸構造の形状を制御することでキャリア層からの剥離が容易である貼付剤支持体用フィルム、これを用いた積層体及び貼付剤を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを示した断面図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを示した斜視図である。
図3】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを引っ張った場合の、フィルム全体の伸びとフィルムに掛かる応力の関係を示した概略図である。
図4】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを用いた積層体を示した断面図である。
図5】貼付剤支持体用フィルムを用いた、比較例の積層体の一例を示した断面図である。
図6】貼付剤支持体用フィルムを用いた比較例の積層体の一例を示した断面図である。
図7】複数層からなる貼付剤支持体用フィルムの一例を示す断面図である。
図8】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを用いた積層体を示した断面図である。
図9】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを用いた積層体を示した断面図である。
図10】一般的な貼付剤の概略を示した断面図である。
図11】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを用いた貼付剤を示した断面図である。
図12】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムを用いた貼付剤を示した断面図である。
図13】本発明に基づく実施形態に係る貼付剤支持体用フィルムの、複数の区画を有する場合の一実施形態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明に記載の貼付剤支持体用フィルムの実施形態について説明する。
なお、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさや形状等は理解を容易に知るために適宜誇張して示している。また、本明細書で用いる表面と裏面とは便宜上の記載であり、貼付剤支持体用フィルムにおける一対の面のいずれかを表面及び裏面としても良い。
【0013】
図1及び図2に示す本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1は、薬剤バリア性を有する樹脂からなる単層の樹脂製フィルムからなる。貼付剤支持体用フィルム1は、フィルム全体が厚さ方向にうねった形状(蛇行した形状)に構成されることで、フィルムの面に沿って凹部12Aと凸部12Bを周期的に繰り返す凹凸構造12を有する。
凹部12Aと凸部12Bは、凹凸の並び方向と交差する方向に延在している。図2では、凹凸の並び方向と直交方向へ、凹部12Aと凸部12Bが直線状に延在する場合が例示されているが、凹部12Aと凸部12Bがそれぞれ、蛇行しながら延在したり、同心状に延在したりするなど、凹部12Aと凸部12Bの延在パターンの形態(凹凸パターン)に制限はない。
【0014】
貼付剤支持体用フィルム1は、凹凸構造12を有することで、凹凸の並び方向に高い伸び性を発現可能となっている。また、凹部12Aと凸部12Bの延在方向(凹部12Aと凸部12Bの並び方向と交差する方向)の曲げ剛性が向上する。なお、凹凸構造12を設ける領域は、平面視で、貼付剤支持体用フィルム1全面であっても良いし、貼付剤支持体用フィルム1の一部であっても良い。また凹凸構造12を設ける領域を、後述のように複数設けても良い。
【0015】
また、凸部12Bの頂部12Ba及び凹部12Aの底部12Aaは、図1及び図2に示すように、それぞれ断面平坦形状(フラット形状)となっている。隣り合う頂部12Baと底部12Aaは、壁部12Cで連結されている。本実施形態では、壁部12Cは、膜厚方向に対し傾斜している。このため、壁部12Cを斜面部12Cとも呼ぶ。斜面部12Cは膜厚方向と同方向に延びるように配置されていても良い。但し、斜面部12Cは、隣り合う頂部12Baと底部12Aaとの位置が離れる方向に傾斜した傾斜部となっていることが好ましい。頂部12Baに対し壁部12Cが90度よりも大きい角度で傾斜していることで、フィルムを凹凸の並び方向に引っ張った際に、斜面部12Cと頂部12Ba、及び斜面部12Cと底部12Aaの境界部分に応力が集中してフィルムが破断する可能性が抑えられ、凹凸構造12が伸びやすくなる。
【0016】
図1の例では、凹凸構造12は、紙面垂直方向の一縁側(図1中、左端側)から他縁側(図1中、右端側)にわたって、頂部上面2a、斜面部上面2b、底部上面2c及び斜面部上面2bが繰り返し形成されている。また、頂部上面2a、斜面部上面2b、及び底部上面2cにそれぞれ対応する下面3位置に、頂部下面3a、斜面部下面3b、及び底部下面3cを有している。
ここで、図1において、頂部上面2aの幅方向のいずれかの一端(図1では左端)から、隣接する頂部上面2aの幅方向の同じ側の一端までの距離を、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12のピッチPと定義する。ピッチPは、隣り合う頂部12Ba間の距離に対応する。ピッチPは、隣り合う頂部12Baの中央部間の距離などであっても良い。
【0017】
また、図1に示すように、貼付剤支持体用フィルム1の膜厚をTと定義する。また、凸部12Bが突出する側の面(図1で上面側)での隣り合う凹部12Aの底部上面2c間の間隔をLと定義する。この間隔Lは、斜面部上面2bと底部上面2cの境界部から、頂部上面2aを挟んで隣接する、斜面部上面2bと底部上面2cの境界部までの距離であって、以下凹凸構造12の幅方向の長さLとも呼ぶ。
【0018】
更に、隣り合う凹部12Aと凸部12Bとの、膜厚方向での高低差をHと呼ぶ。高低差Hは、上面2側での高低差Hでも下面3側での高低差Hであっても構わない。すなわち、膜厚方向に沿った、頂部上面2aと底部上面2cの高さ方向の距離又は頂部下面3aと底部下面3cとの高さ方向の距離のいずれかを、高低差Hと定義する。図1では、上面側の高低差Hを例示している。
また、凸部12Bにおいて、頂部上面2aと、その頂部上面2aに連続する斜面部上面2bとが境界部分において成す角度をθと定義する。角度θは、下面側(鈍角側)の角度とする。
【0019】
図3は、図1のような凹凸構造12のある貼付剤支持体用フィルム1と、凹凸構造12の無いフラットな貼付剤支持体用フィルムを、それぞれ図1の左右方向、凹凸構造12のある貼付剤支持体用フィルム1では凹凸の並び方向に引っ張った場合の、フィルム全体の伸びと、フィルムに掛かる応力の関係を示した概略図である。
凹凸構造12を設けないフラットな貼付剤支持体用フィルムを引っ張った場合には、図3の符号X1に示したように、フィルムが伸び始めてから短い距離でのみ弾性変形が生じ、すぐに降伏点(以降、ネッキングが始まる起点を降伏点と呼ぶ)を迎える。降伏点以降は、ネッキングを伴う塑性変形が生じ、破断点に到達すると、フィルムが破断する。
【0020】
一方で、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1を、凹凸構造12の並び方向に引っ張った場合には、まず弾性変形による形状変形が生じ、その後、形状変形の一部に塑性変形を生じる。更に引っ張り続けると引っ張り応力により凹凸構造12の高低差Hが小さくなりフラットに近づくことで形状変形できなくなる。すなわち、図3の符号X2に示したように、主に凹凸構造が潰れて広がる段階(あまり力をかけずに伸びる領域)と、潰れた凹凸構造が更に引き伸ばされて、ほぼフラットになる段階(力が掛かって伸びる領域)を経て降伏点に達し、最終的にはネッキングが発生し、破断する。
【0021】
本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1は、このような多段階からなる形状変形を行うことで、従来の貼付剤支持体用フィルムよりも降伏点を迎えるまでの伸び量が大きくなり、かつ伸びに要する応力が小さくなる。このため、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1は、ネッキングせず容易に伸びる性質に寄与できる。このように、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1は、一般的に伸び性が低いとされる材料で作られた貼付剤支持体用フィルム1であっても、形状に工夫を与えることより、高い伸び性を付与することができる。但し、最終的には塑性変形が支配的になるため、破断強度は通常のフラットな貼付剤支持体用フィルムと同等である。
【0022】
このように、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1では、表裏面に周期的な凹凸が形成された凹凸構造12を有することによって、一般的に伸び性が低いとされる材料で貼付剤支持体用フィルムを作製しても、フィルムの伸び性を高めることができる。
貼付剤支持体用フィルム1の膜厚Tは、5μm以上150μmである。膜厚Tは、より好ましくは10μm以上100μmである。貼付剤支持体用フィルム1の膜厚Tは必ずしも均一である必要は無く、例えば頂部12Ba、斜面部12C、及び底部12Aaで膜厚がそれぞれ異なっていても良い。
【0023】
なお、凹凸構造12の高低差Hは、貼付剤支持体用フィルム1の膜厚Tよりも大きく設計されている。凹凸構造12の高低差Hが膜厚T以下であると、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12をフラットな状態に形状変形させることによる、伸びの効果が得られ難い。
高低差Hの上限については300μm以下が好ましい。高低差Hの上限がこの範囲であれば、熱プレスや押出成形等の各種方法を用いて貼付剤支持体用フィルム1を製造する際に安定して凹凸構造12を形成させることができる。
【0024】
また、凹凸構造12において、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θは、110度以上150度以下である。本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1を押出成形による共押出で製造する場合、貼付剤支持体用フィルム1と熱可塑性樹脂層5との積層体4を製造した後、貼付剤支持体用フィルム1と熱可塑性樹脂層5とを剥離して使用する。このとき、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12の並び方向に引っ張って剥離すると凹凸構造12が伸びてしまうため、凹凸構造12の延在方向に引っ張って剥離することが好ましい。剥離の際、図4に示す形状のように、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θが110度以上150度以下であれば、貼付剤支持体用フィルム1と熱可塑性樹脂層5とを剥離する際の剥離強度を低減させ、剥離の際に貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12の変形、あるいは破断を防ぐことが可能になる。
【0025】
また、貼付剤支持体用フィルム1において、凹凸構造12の幅方向の長さLに対する高低差Hの比(H/L)は0.10以上1.00以下である。比(H/L)は、より好ましくは0.10以上0.50以下である。幅方向の長さLに対する高低差Hの比(H/L)が1.00よりも大きくなると、凹凸構造12を形成することが製造上困難となり、更に上面2において頂部上面2a、斜面部上面2b、及び底部上面2cでの膜厚を均一に保つことも困難である。また、幅方向の長さLに対する高低差Hの比(H/L)が0.10よりも小さくなると、凹凸構造12が形状変形することによる伸び性の効果が得られ難い。
【0026】
図5の比較例のように、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θが110度未満の場合には、貼付剤支持体用フィルム1とキャリア層とを剥離する際に凹凸構造12に加えられる剪断力が大きくなり、凹凸構造12が変形あるいは破断する可能性が大きくなる。また図6の比較例のように、角度θが150度を超える場合には、凹凸構造12が平坦に近い形状となるため伸び量が小さくなり、貼付剤支持体用フィルム1の伸び性が低下する原因となる。
【0027】
貼付剤支持体用フィルム1の材質としては、キャスティング成形、インフレーション成形、熱プレス成形、押出成形、カレンダー成形などのような所望の製膜方法に適し、かつ所望の薬剤に対するバリア性(薬剤バリア性)を持った樹脂を適宜選択すればよい。すなわち、貼付剤支持体用フィルム1の材料となる樹脂は、貼付剤の使用(用途)で想定される薬剤に対し薬剤バリア性を有する公知の樹脂材料から適宜選択すればよい。
貼付剤支持体用フィルム1の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体から選択した樹脂が挙げられる。このような樹脂を用いれば、良好な薬剤バリア性が発現されるため好ましい。このような材料で形成したフィルムは、例えばリバスチグミン、ツロブテロールなどのような薬剤に対し、薬剤バリア性を有する。
【0028】
また、貼付剤支持体用フィルム1に設ける周期的な凹凸構造12の凹凸形状や凹凸パターンを適切に制御することにより、伸び性や伸びの方向を任意に制御できる。例えば、伸びの量を大きくしたい場合には、凹凸構造12の高低差Hを大きく、ピッチPを小さくする、などの調整を行えば良い。このような調整を行えば、簡易に、貼付剤支持体用フィルム1を形状変形させてフラットな状態に近づけるまでのフィルム1の伸びの量が大きくなり、伸び性を高めることができる。
【0029】
また、図1のように、凹凸構造12の断面を観察した場合に、斜面部12Cの面2b、3bが、断面直線で構成されている必要はなく、折れ線(階段形状など)あるいは曲線で構成されていても良い。但し少なくとも図1及び図2のように、凸部12Bの頂部12Baと凹部12Aの底部12Aaが、斜面部12Cを挟みながら交互に形成される。このような形状であれば、凹凸構造12の凹凸の並び方向に引っ張った場合に局所的に応力が集中してその箇所が破断する可能性を抑えつつ、伸び性を高めることができる。
ここで、斜面部12Cの面2b、3bの断面プロフィールが直線状の場合には、上述のように、頂部上面2aと、その頂部上面2aに連続する斜面部上面2bとが境界部分において成す角度をθと定義する。斜面部12Cの面2b、3bが、折れ線(階段形状など)あるいは曲線で構成されている場合には、斜面部上面2bの上端部(頂部上面2aとの連結部)と斜面部上面2bの下端部(底部上面との連結部)とを結ぶ直線と頂部上面2aとの角度をθとする。
【0030】
更に図1及び図2のように、頂部上面2aと底部上面2c、及び頂部下面3aと底部下面3cが互いに平行であるような台形形状であることが好ましい。この場合には、後述するように、貼付剤支持体用フィルム1を、熱可塑性樹脂や粘着剤層等のような他の層と積層することで積層体あるいは貼付剤として用いる場合に、貼付剤支持体用フィルム1と他の層との密着性が向上するため、より好ましい。また、複数の頂部上面2aが、同一の仮想平面上に位置するように構成すると共に、複数の底部上面2cが同一の仮想平面上に位置するように構成しても良い。なお、仮想平面はなだらかに湾曲した曲面であってもよい。凸部12Bの頂部12Ba及び凹部12Aの底部12Aaが断面平坦形状(フラット形状)であれば、貼付剤支持体用フィルム1に他の層を積層する際に、凸部12Bの頂部12Ba及び凹部12Aの底部12Aaと他の層との密着性が向上する。更に、凹凸形状を設けても、凸部12Bの頂部12Ba及び凹部12Aの底部12Aaへのインキの密着性が向上して良好な印刷適性を有するようになる。
【0031】
更に、凹凸構造12の頂部上面2aにおいて、頂部上面2aと一方の斜面部上面2bが境界部分において成す角度θと、頂部上面2aともう一方の斜面部上面2bが境界部分において成す角度θとが等しくなることが好ましい。角度が等しくない場合には、貼付剤支持体用フィルム1を凹凸構造12の並び方向に引っ張った際に、頂部上面2aと斜面部上面2bとの境界部分のうちどちらか一方の境界部分に応力が集中して、この境界部分において貼付剤支持体用フィルム1が破断する可能性が高くなる。
【0032】
なお、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12の高低差Hは、5μmより大きく300μm以下であると好ましく、高低差Hはより好ましくは10μm以上200μm以下である。高低差Hが5μm以下の場合には、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12をフラットな状態に形状変形させる効果が得られ難く、また300μmを超える凹凸構造12を設けることは製造上困難である。
また、貼付剤支持体用フィルム1において、上面2における底部上面2cの紙面左右方向の幅W2cに対する、頂部上面2aの紙面左右方向の幅W2aの比(W2a/W2c)が、0.10以上10.00以下であると好ましい。
【0033】
幅W2cに対する幅W2aの比(W2a/W2c)が0.10よりも小さい場合、頂部上面2aとその両端で接している斜面部上面2bとの境界部分が近接して存在することとなる。そして、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12を並び方向に引っ張った場合、この境界部分に局所的に応力が集中して破断する可能性が高くなる。また、幅W2cに対する幅W2aの比(W2a/W2c)が10.00よりも大きい場合、底部上面2cとその両端で接している斜面部上面2bとの境界部分が近接して存在することとなる。そして、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12を並び方向に引っ張った場合、この境界部分に局所的に応力が集中して破断する可能性が高くなる。
【0034】
(製造方法)
本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1の製造方法は、例えば熱プレスや押出成形等の各種方法を適宜選択できる。押出成形を用いた製造方法の例として、複数の押出機を使用し、複数種類の樹脂をフィードブロック法又はマルチマニホールド法により共押出することで、2層以上の多層のフィルムを得ることができる。フィルム化するための冷却工程において、凹凸形状が設けられた冷却ロールを用いてニップ圧力を付加しながら冷却することで、フィルムの表裏面に連続的な凹凸構造12を設けることができる。更にこのとき、冷却ロールと接する第一樹脂層のフィルム膜厚Tに対し、凹凸構造12の高低差Hが大きい場合には、第一樹脂層と第二樹脂層の界面にも同様に凹凸構造12が形成される。このため、冷却後の多層フィルムから第二樹脂層を剥離すれば、表裏面に凹凸構造12が設けられた第一樹脂層が得られ、これを貼付剤支持体用フィルム1として用いることができる。
【0035】
その他、キャスティング成形、カレンダー成形、などのような種々の方法を適宜選択して貼付剤支持体用フィルム1を製造することが可能である。
貼付剤支持体用フィルム1は、図1及び図2のように一層であっても良い。更に、図7に示すように、共押出の層構成を増やすことで複数の貼付剤支持体用フィルム1を積層した複層構造としても良い。この場合、一方の貼付剤支持体用フィルム1の裏面が、別の貼付剤支持体用フィルム1の表面と接着される。
また貼付剤支持体用フィルム1が三層以上の積層構造であっても良い。これらの場合、貼付剤支持体用フィルム1に対して後工程で、印刷層、蒸着層、ハードコート層、又は反射防止層などの機能層を積層した構造とすることもできる。
【0036】
図4のように、貼付剤支持体用フィルム1の上面2からなる表面又は下面3からなる裏面のうち少なくともどちらか一方の面に熱可塑性樹脂層5を積層して、積層体4としても良い。図4では、熱可塑性樹脂層5を下面に積層した場合を例示している。積層体4は、別々に製膜した貼付剤支持体用フィルム1と熱可塑性樹脂層5を接着剤や粘着剤を介して積層しても良いし、製膜時に共押出法などで同時に製膜しても良い。熱可塑性樹脂層5を積層した場合、伸び性は若干低減する傾向にある。しかし、熱可塑性樹脂層5は、貼付剤支持体用フィルム1の強度の向上や、酸素バリア性などの機能層としての効果が期待できる。熱可塑性樹脂層5の材料には特に制限は無い。熱可塑性樹脂層5の材料として、例えば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、又は高密度ポリエチレン等のような弾性率の低い材料を用いれば、熱可塑性樹脂層5を積層しても、貼付剤支持体用フィルム1の伸び性の低減が抑えられるため好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂層5は、貼付剤支持体用フィルム1よりも弾性率が低い材料とすることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂層5として、400MPa以下の弾性率の樹脂を使用する。
【0037】
このとき、貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12の延在方向の、熱可塑性樹脂層5と180度剥離試験を実施した際の剥離強度が0.001N/15mm以上0.200N/15mm以下であると好ましい。剥離強度が0.001N/15mmよりも小さい場合、貼付剤支持体用フィルム1と熱可塑性樹脂層5が簡単に剥離してしまい、積層体としての使用が困難である。剥離強度が0.200N/15mmよりも大きい場合、貼付剤支持体用フィルム1に加えられる応力によって凹凸構造12が変形する可能性が高くなる。
【0038】
更に図8のように、別の貼付剤支持体用フィルム6を、貼付剤支持体用フィルム1と一部に空隙を設けられた状態で積層し、積層体4としても良い。又は、図9のように、接着剤層7を介して、別の貼付剤支持体用フィルム6を、貼付剤支持体用フィルム1と一部に空隙を設けられた状態で積層した積層体4としても良い。これらの場合、熱可塑性樹脂層5及び別の貼付剤支持体用フィルム6の材料には、特定の機能を有する機能性材料を選択することが好ましい。なお、凹凸構造を有する貼付剤支持体用フィルム1に対し積層する層6,7の樹脂は、貼付剤支持体用フィルム1よりも弾性率が低いことが好ましい。また、図4図9のような、凹凸構造を有する貼付剤支持体用フィルム1を備えた積層体4に、後述する粘着剤層と剥離ライナーを積層することで貼付剤として用いることができる。
【0039】
図10は、一般的な貼付剤11の概略を示した断面図である。図10の一般的な貼付剤11では、貼付剤支持体用フィルム8の両面がフラットである。そして、図10の一般的な貼付剤11では、この貼付剤支持体用フィルム8の一方の面に、薬剤を含有した粘着剤層9と剥離ライナー10とをこの順に積層した構成となっている。このような貼付剤11を使用する場合、剥離ライナー10を粘着剤層9から剥がし、粘着剤層9を皮膚に貼り付ける。これにより、粘着剤層9に含まれる薬剤の成分が皮膚から吸収され、薬剤が生体で薬効作用を示す。一般的な貼付剤11を構成している貼付剤支持体用フィルム8は、その表裏面がフラットであるため伸び性に乏しく、皮膚に貼り付けた際に突っ張りやごわつきを感じる、体を動かした際に剥がれ易い、などの課題がある。
これに対して本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1やこれを用いた積層体4では、従来よりも大きな伸び性を持たせることができる。この結果、皮膚に貼り付けた際に、突っ張りやごわつきを抑制し、且つ体を動かした際に剥がれにくくさせることが可能になる。
【0040】
図11及び図12は、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1を用いた貼付剤11の例の概略を示した断面図である。図11の貼付剤11は、貼付剤支持体用フィルム1の下面に、粘着剤層9と剥離ライナー10をこの順に積層した構成である。更に図12の貼付剤11のように、貼付剤支持体用フィルム1の、粘着剤層9を積層したのとは反対側の面に、更に熱可塑性樹脂層5を積層した積層構造としても良い。
【0041】
いずれの場合においても、薬剤バリア性の高い材料で貼付剤支持体用フィルム1を製造することで、薬剤の貼付剤支持体用フィルム1への吸収を防ぎ、効率よく皮膚へ吸収させることが可能になる。また貼付剤支持体用フィルム1の表裏面に設けられた凹凸構造12により、伸び性を高くすることが可能になる。ここで、上記説明では、貼付剤支持体用フィルム1の全面を、凹凸構造12を形成する領域13とした場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、凹凸の並び方向(図1では、左右方向)の端部や中央部などに凹凸構造12を形成しないフラット部分を有する構成としても良い。凹凸構造12を部分的に設ける場合には、相対的に外縁側よりも中央側に多く有することが好ましい。
【0042】
また、図13に示すように、貼付剤支持体用フィルム1を複数の領域13に区画し、各領域13毎に個別の凹凸パターンで上記凹凸構造12を形成するようにしても良い。図13では、隣り合う領域13を区画する縁(境界線)13aは実線で表されており、個々の領域13内において、頂部上面2aと斜面部上面2bの境界は点線で、底部上面2cと斜面部上面2bの境界は一点鎖線で表されている。図13では、貼付剤支持体用フィルム1が16個の領域13に区画されており、上面2において、各領域13の一つの縁(「縁端」と呼ぶ)から、これと対向する他の縁端へ頂部上面2a、斜面部上面2b、及び底部上面2cが延在している。なお、下面3においても、頂部下面3a、斜面部下面3b、及び底部下面3cについても同様である(図示せず)。
【0043】
また、図13では、隣り合う領域13同士では、互いに凹凸方向の並び方向が異なるように、各領域13での凹凸パターンを設計している。
伸び性が大きなフィルムにおいては、加工時の引っ張りによってフィルムが伸びて安定製膜が難しいという問題点がある。これに対し、図13のように、一枚のフィルムを複数の領域13に区画し、各領域での凹凸パターンを個別に設定することで、貼付剤支持体用フィルム1全体での伸び性が小さく抑えられる。これによって、成形加工時に安定した製膜が可能である。すなわち、凹凸構造12を設けて伸び性を向上させても、貼付剤支持体用フィルム1の製造時や管理時の当該フィルム1のハンドリングが容易となる。
【0044】
図13のような貼付剤支持体用フィルム1を最終製品の原反とし、各領域13毎にカットしたり打ち抜き加工を行ったりすることで、最終製品として所望の方向へ伸びる貼付剤支持体用フィルム1を得ることができる。
ここで、最終製品は、一領域だけから構成されていなくても良い。例えば、連続した2領域や4領域など複数の領域13で一つの最終製品が構成されていても良い。このとき、各領域13の中央位置でカットして二種類の凹凸構造を有する最終製品としても良い。このような場合、最終製品においては、伸び性が良い方向を2方向以上に設定することが可能となる。
【0045】
なお、図13では、同一構造の最終製品を複数製造するための原反としての貼付剤支持体用フィルム1を例示している。また各領域13の輪郭は、矩形である必要は無く、円形など、他の輪郭形状であってもよい。
また、隣接する領域13同士の境界は明確な境界線13aがなくても良い。また貼付剤支持体用フィルム1が有する領域13の数は任意である。また、図13の貼付剤支持体用フィルム1では、縁端に対して頂部上面2aと斜面部上面2bの境界、及び底部上面2cと斜面部上面2bの境界が平行、又は直交する方向で設けられているが、縁端に対する境界の角度は任意であり、また領域13毎に異なっていても良い。
【0046】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、例を挙げた実施形態を適宜組み合わせて用いることは任意である。
【実施例
【0047】
次に本発明に基づく実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
貼付剤支持体用フィルム1の材料として、日本合成化学工業株式会社製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(Ethylene-Vinylalcohol copolymer;EVOH)であるソアノール(登録商標)D2908を選択した。また、貼付剤支持体用フィルム1と共押出するキャリア層の樹脂の材料として、日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン(Low Density PolyEthylene;LDPE)であるノバテックLD(登録商標)LC701を選択した。
【0048】
この二種類の樹脂を、押出成形により共押出を行い、その後、フィルム化するための冷却工程において凹凸形状が設けられた冷却ロールを用いてニップ圧力を付加しながら冷却した。その後、後述する剥離強度試験を実施することで、共押出した低密度ポリエチレン層を剥離することで、図1のような形状からなる、フィルムの表裏面に連続的な凹凸構造12を設けた貼付剤支持体用フィルム1を製造し、実施例1とした。貼付剤支持体用フィルム1の底部上面2cにおける膜厚は30μmとし、この部分における貼付剤支持体用フィルム1と共押出する低密度ポリエチレン層の膜厚は60μmとした。また凹凸構造12は高低差H60μm、幅方向の長さL224μm、ピッチP255μm、頂部上面2aの左右方向の幅155μm、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θは120度とした。
【0049】
(実施例2)
貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12において、幅方向の長さL143μm、ピッチP174μm、頂部上面2aの左右方向の幅を74μmとしたこと以外は、実施例1と同様に貼付剤支持体用フィルム1を製造し、実施例2とした。
(実施例3)
貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12において、頂部上面2aの左右方向の幅53μm、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θを145度としたこと以外は、実施例1と同様に貼付剤支持体用フィルム1を製造し、実施例3とした。
【0050】
(比較例1)
貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12において、頂部上面2aの左右方向の幅205μm、頂部上面2aと斜面部上面2bが境界部分において成す角度θを99度としたこと以外は、実施例1と同様に貼付剤支持体用フィルム1を製造し、比較例1とした。
(比較例2)
材料に実施例1と同じEVOH及びLDPEを用い、押出成形でフィルム化するための冷却工程において、凹凸形状の無い平坦な冷却ロールを用いてニップ圧力を付加しながら冷却することで、表裏面が平坦なフィルムを膜厚30μmで製造し、比較例2とした。
(比較例3)
東洋紡株式会社製の二軸延伸ポリエチレンテレフタラート(PolyEthylene Terephthalate;PET)フィルムであるエステルフィルム(登録商標)E5100(膜厚12μm)を比較例3とした。比較例3のフィルムは表裏面が平坦なフィルムである。
【0051】
(剥離強度試験)
各実施例の貼付剤支持体用フィルム1、及び各比較例のフィルムの伸び性を評価するため、剥離強度試験を行った。剥離強度試験、及び後述の引張試験は株式会社オリエンテック製テンシロン万能試験機(RTC-1250A)を用いて実施した。共押出で低密度ポリエチレン層と積層構造で製造された貼付剤支持体用フィルム1を、凹凸構造12の並び方向に幅15mm、凹凸構造12の延在方向に幅100mmで切り出し、貼付剤支持体用フィルム1と低密度ポリエチレン層を180度剥離する際の強度(応力)を測定した。測定条件は、チャック間距離50mm、引っ張り速度100mm/minとした。
【0052】
(引張評価)
各実施例の貼付剤支持体用フィルム1、及び各比較例のフィルムの伸び性を評価するため、引張試験を行った。テンシロン万能試験機を用いて、フィルムが破断するまで引っ張り力を付与して、降伏点及び破断点に到達したときの伸び率(当初のチャック間距離に対する伸び量の比率)を記録した。測定条件は、サンプル幅15mm、チャック間距離50mm、引っ張り速度100mm/minとした。
【0053】
(薬剤吸着性試験)
各実施例の貼付剤支持体用フィルム1、及び各比較例のフィルムの薬剤バリア性を評価するため、薬剤吸着性試験を実施した。各フィルムを100mm角にカットした後、中央に貼付剤を貼付した。貼付剤は、薬剤としてリバスチグミンを含有する小野薬品工業株式会社製リバスタッチ(登録商標)パッチ18mg、及びツロブテロールを含有するマイラン製薬株式会社製ホクナリン(登録商標)テープ2mgを使用した。薬剤が揮発、拡散しないようアルミ箔で密閉し、温度40℃、湿度75%RHの環境下で1ヶ月保管した。その後フィルムから貼付剤を剥がし、フィルムに吸着した薬剤をメタノールで55℃、3時間以上抽出し、高速液体クロマトグラフィーにより薬剤の吸着量を測定した。
【0054】
表1に、各実施例の貼付剤支持体用フィルム1、及び各比較例のフィルムの材料、膜厚、形状、及び評価結果を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から分かるように、本発明に基づく実施例1~3の貼付剤支持体用フィルム1は、共押出した低密度ポリエチレン層から剥離する際の剥離強度の値が、比較例2の平坦なフィルムよりは高いものの、比較例1の貼付剤支持体用フィルムよりも低くなった。これは貼付剤支持体用フィルム1の凹凸構造12において、頂部上面2aと斜面部上面2bが成す角度が適当な範囲に制御されていることにより、剥離の際に凹凸構造12に加えられる剪断力が抑えられたためと考えられる。
【0057】
また、実施例1及び3の貼付剤支持体用フィルム1では、比較例1の貼付剤支持体用フィルムと比較して、引張試験において降伏点に達したときの伸び率の値が小さいが、実施例2の貼付剤支持体用フィルム1では、引張試験において降伏点に達したときの伸び率の値が比較例1の貼付剤支持体用フィルムに近い値となった。
実施例2の貼付剤支持体用フィルム1では、頂部上面2aと斜面部上面2bが成す角度だけでなく幅方向の長さ及びピッチについても適当な範囲に制御されていることにより、剥離強度の低さと良好な伸び性が両立できているためと考えられる。一方で、比較例2及び比較例3の貼付剤支持体用フィルムは、表裏面に凹凸構造12が設けられておらず平坦であるため、引張試験において降伏点に達したときの伸び率の値が比較例1の貼付剤支持体用フィルムと比較して著しく小さく、伸び性に乏しいことが確認された。
【0058】
また、実施例1~3の貼付剤支持体用フィルム1は、リバスチグミン及びツロブテロールのどちらの薬剤についても吸着性を示さず、比較例3のPETフィルムと同等の良好な薬剤バリア性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の技術を用いることで、製造時の手間やコストを抑えつつ薬剤バリア性と伸び性を兼備し、なおかつキャリア層からの剥離が容易である貼付剤支持体用フィルム、これを用いた積層体及び貼付剤を提供することが可能になる。本発明に記載の貼付剤支持体用フィルムは、医療分野で用いられる貼付剤としての利用が期待できる。
【符号の説明】
【0060】
1 貼付剤支持体用フィルム
2a 頂部上面
2b 斜面部上面
2c 底部上面
3a 頂部下面
3b 斜面部下面
3c 底部下面
4 積層体
5 熱可塑性樹脂層
6 貼付剤支持体用フィルム
7 接着剤層
8 貼付剤支持体用フィルム
9 粘着剤層
10 剥離ライナー
11 貼付剤
12 凹凸構造
12A 凹部
12Aa 底部
12B 凸部
12Ba 頂部
12C 壁部(斜面部)
13 領域
13a 縁(境界)
H 高低差
P ピッチ
L 幅方向の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13