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特許7326833発色構造体、表示体、及び、発色構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】発色構造体、表示体、及び、発色構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230808BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230808BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230808BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230808BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/18
B32B3/30
B32B7/023
B32B27/20 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019079451
(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公開番号】P2020177138
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】市原 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】川下 雅史
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112732(JP,A)
【文献】特表2018-536184(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065149(WO,A1)
【文献】米国特許第07846266(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/18
B32B 3/30
B32B 7/023
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸構造を有する凹凸層と、
上記凹凸構造上に設けられ当該凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層と、を備え、
上記多層膜層を構成する各層は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く、
予め設定した第1方向と上記第1方向と直交する第2方向とは、上記凹凸層の厚さ方向に上記凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向であり、
上記仮想平面において上記凹凸構造の凸部の投影像が構成するパターンは、上記第2方向に沿った長さが上記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、
上記各図形要素の上記第1方向に沿った長さはサブ波長以下であり、上記各図形要素は、上記第2方向に沿った長さの標準偏差が上記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
上記凹凸層は、上記第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、上記凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下を含有し、
上記凹凸層は、ウレタンアクリル系樹脂を含む層、または、EO変性ビスフェノールAジアクリレートと、N-ビニル-2-ピロリドンとを含む層である
ことを特徴とする発色構造体。
【請求項2】
上記凹凸層に含まれる無機粒子の粒径は、上記第1方向の線幅の3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の発色構造体。
【請求項3】
上記凹凸層に含まれる無機粒子の少なくとも一部がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は2に記載の発色構造体。
【請求項4】
上記凹凸層に含まれる無機粒子の少なくとも一部がチタンブラックであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項5】
上記凹凸層に含まれる無機粒子の少なくとも一部がシリカであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項6】
上記凹凸層は、上記入射光に対する可視光透過率が15%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項7】
上記多層膜層とは反対側の面に接着層を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項8】
上記凹凸層は、基材と、上記基材の一方の面に形成された樹脂層とから構成され、上記樹脂層における上記基材とは反対側の面に上記凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項9】
上記多層膜層の上記凹凸層側とは反対側の面は、露出していることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項10】
上記凹凸層は、ウレタンアクリル系樹脂を含む層であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項11】
上記凹凸層は、EO変性ビスフェノールAジアクリレートと、N-ビニル-2-ピロリドンとを含む層であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の発色構造体。
【請求項12】
少なくとも表面に複数の表示要素を備える表示体であって、
上記表示要素が、請求項1~11のいずれか1項に記載の発色構造体から構成されていることを特徴とする表示体。
【請求項13】
凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程と、
上記凹凸構造上に、多層膜層を構成する各層が相互に隣接する層の屈折率が互いに異なるように形成する工程と、を含み、
予め設定した第1方向と上記第1方向と直交する第2方向とを、上記凹凸層の厚さ方向に上記凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向とし、
上記凹凸層を形成する工程では、上記凹凸構造を構成する凸部の投影像が上記仮想平面において構成するパターンとして、上記第2方向に沿った長さが上記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含むように上記凹凸構造を形成し、
上記図形要素の上記第1方向に沿った長さをサブ波長以下とし、上記図形要素における上記第2方向に沿った長さの標準偏差を上記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きくし、
上記凹凸層は、ウレタンアクリル系樹脂を含む層、または、EO変性ビスフェノールAジアクリレートと、N-ビニル-2-ピロリドンとを含む層であり、
上記凹凸層は、上記第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、上記凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下を含有す
ことを特徴とする発色構造体の製造方法。
【請求項14】
上記凹凸層に含まれる無機粒子の少なくとも一部がシリカであることを特徴とする請求項1に記載の発色構造体の製造方法。
【請求項15】
上記凹凸層は、ウレタンアクリル系樹脂を含む層であることを特徴とする請求項13又は14に記載の発色構造体の製造方法。
【請求項16】
上記凹凸層は、EO変性ビスフェノールAジアクリレートと、N-ビニル-2-ピロリドンとを含む層であることを特徴とする請求項13又は14に記載の発色構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の発色構造体の製造方法であって、
凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程と、
上記凹凸構造上に、多層膜層を構成する各層が相互に隣接する層の屈折率が互いに異なるように形成する工程と、を含み、
予め設定した第1方向と上記第1方向と直交する第2方向とを、上記凹凸層の厚さ方向に上記凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向とし、
上記凹凸層を形成する工程では、上記凹凸構造を構成する凸部の投影像が上記仮想平面において構成するパターンとして、上記第2方向に沿った長さが上記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含むように上記凹凸構造を形成し、
上記図形要素の上記第1方向に沿った長さをサブ波長以下とし、上記図形要素における上記第2方向に沿った長さの標準偏差を上記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きくする、
ことを特徴とする発色構造体の製造方法。
【請求項18】
上記ナノインプリント法は、光ナノインプリント法又は熱ナノインプリント法であることを特徴とする請求項13~1のいずれか1項に記載の発色構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色を呈する発色構造体、発色構造体を備える表示体、及び、発色構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界の生物には、モルフォ蝶等のような構造色を有するものがある。この自然界で観察される構造色は、色素が呈する色のように分子における電子遷移に起因して視認される色とは異なり、光の回折や干渉や散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。
光の干渉による構造色のうち、例えば、多層膜干渉による構造色は、相互に隣り合う薄膜の屈折率が互いに異なる多層膜層では、多層膜の各界面で反射した光が干渉することによって生じる構造色である。この多層膜干渉は、モルフォ蝶の翅の発色原理の1つである。モルフォ蝶の翅では、多層膜干渉に加えて、翅の表面の微細な凹凸構造によって光の散乱や回折が生じる結果、鮮やかな青色が広い観察角度において視認される。
【0003】
モルフォ蝶の翅のような構造色を人工的に再現する構造として、特許文献1に記載の構造がある。特許文献1に記載では、不均一に配列された微細な凹凸を有する基材の表面に、多層膜層が積層された構造が提案されている。
多層膜層において、干渉によって強められる光の波長は、多層膜層の各層にて生じる光路差によって変わり、光路差は各層の膜厚及び屈折率に応じて決まる。そして、干渉によって強められた光の出射方向は、入射光の入射角度に依存した特定の方向に限定される。したがって、平面に多層膜層が積層された構造では、視認される反射光の波長が観察角度によって大きく変化するため、視認される色が観察角度によって大きく変化する。
【0004】
これに対し、特許文献1の構造では、不規則な凹凸の上に多層膜層が積層されていることにより、干渉によって強められた反射光が多方向に広がるため、観察角度による色の変化が緩やかになる。その結果、モルフォ蝶の翅のように広い観察角度で特定の色を呈する構造体が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の構造体においては、多層膜層は基材の凹凸に追従した凹凸を有しており、この凹凸が構造体の表面を構成している。この凹凸構造をフォトリソグラフィやエッチング法などの技術により、基材表面を加工して作製するには、時間及びコストが掛かる。そのため、モールドから基材上の樹脂などに転写するナノインプリント法によって、凹凸構造を作製することがある。
このように作製した構造体が屋外などに長時間曝されることより劣化した場合、凹凸層や基材などが黄変し、構造色の色相が変化することがある。
【0007】
凹凸構造の色相変化を防ぐための手法は複数あるが、それぞれ欠点を有する。例えば凹凸構造に紫外線吸収剤を添加した場合、ブリードアウトによる移りなどの問題が生じることがある。また、凹凸構造に染料を入れ、色相変化を見えづらくした場合、染料の耐候性が悪いことにより、色相が変化してしまうことがある。さらに凹凸構造に無機粒子を入れた場合、粒子による表面散乱や光吸収性によって、色相変化を抑えることができるが、粒子の脱落によりモールドの汚染が生じてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、発色構造体の長期保存後の色相変化を防ぐことができ、かつ凹凸構造を作製する際にモールドの汚染を防ぐことができる発色構造体、表示体、及び、発色構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題解決のために、本発明の一態様は、表面に凹凸構造を有する凹凸層と、上記凹凸構造上に設けられ当該凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層と、を備え、上記多層膜層を構成する各層は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く、予め設定した第1方向と上記第1方向と直交する第2方向とは、上記凹凸層の厚さ方向に上記凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向であり、上記仮想平面において上記凹凸構造の凸部の投影像が構成するパターンは、上記第2方向に沿った長さが上記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、上記各図形要素の上記第1方向に沿った長さはサブ波長以下であり、上記各図形要素は、上記第2方向に沿った長さの標準偏差が上記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、上記凹凸層は、上記第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、上記凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下を含有する、ことを要旨とする。
【0010】
また、本発明の他の態様は、凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程と、上記凹凸構造上に、多層膜層を構成する各層が相互に隣接する層の屈折率が互いに異なるように形成する工程と、を含み、予め設定した第1方向と上記第1方向と直交する第2方向とを、上記凹凸層の厚さ方向に上記凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向とし、上記凹凸層を形成する工程では、上記凹凸構造を構成する凸部の投影像が上記仮想平面において構成するパターンとして、上記第2方向に沿った長さが上記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含むように上記凹凸構造を形成し、上記図形要素の上記第1方向に沿った長さをサブ波長以下とし、上記図形要素における上記第2方向に沿った長さの標準偏差を上記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きくする、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、発色構造体の長期保存後の色相変化を防ぐことができ、かつ凹凸構造を作製する際にモールドの汚染を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】発色構造体の一実施形態について、第1の構造を有する発色構造体の断面構造を示す断面図である。
図2】発色構造体の一実施形態について、(a)は、第1の構造における凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第1の構造における凹凸構造の断面構造を示す断面図である。
図3】発色構造体の一実施形態について、第2の構造を有する発色構造体の断面構造を示す断面図である。
図4】発色構造体の一実施形態について、(a)は、第2の構造における第2凸部要素のみからなる凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第2の構造における第2凸部要素のみからなる凹凸構造の断面構造を示す断面図である。
図5】発色構造体の一実施形態について、(a)は、第2の構造における凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第2の構造における凹凸構造の断面構造を示す断面図である。
図6】発色構造体の一実施形態について、変形例の発色構造体の断面構造を示す断面図である。
図7】表示体の一実施形態について、表示体の平面構造を示す平面図である。
図8】表示体の一実施形態について、表示体の断面構造を示す断面図である。
図9】発色シートの一実施形態について、発色シートの断面構造を示す断面図である。
図10】成形体の一実施形態について、成形体の断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図10を参照して、発色構造体、表示体、及び、発色構造体の製造方法の実施形態を説明する。
【0014】
[発色構造体]
本実施形態の発色構造体は、凹凸構造を有する凹凸層と、凹凸構造体に設けられた多層膜層とを備える凹凸構造体からなる。凹凸構造体が有する凹凸構造としては、例えば、第1の構造と第2の構造とのいずれもが適用可能である。
まず、これらの2つの構造の各々について説明する。
なお、発色構造体に対する入射光及び反射光の波長域は特に限定されないが、以下の説明においては、一例として、可視光領域の光を対象とした発色構造体について説明する。本実施形態においては、360nm以上830nm以下の波長域の光を可視光領域の光とする。
【0015】
<第1の構造>
図1は、第1の構造を有する凹凸構造体10を備える発色構造体20を示す。
凹凸構造体10は、表面に凹凸構造を有する凹凸層の一例である基材15と、基材15の表面に積層された多層膜層16とを備えている。すなわち、多層膜層16は、基材15における凹凸の形成されている面を覆うようにして凹凸構造の上に形成されている。基材15の有する凹凸構造は、複数の凸部15aと、複数の凸部15aの間の領域である凹部15bとから構成され、凸部15aは、不規則な長さを有して略帯状に延びる部分から構成される。基材15には、第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下、含有している。
【0016】
多層膜層16は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層された構造を有する。高屈折率層16aの屈折率は、低屈折率層16bの屈折率よりも大きい。例えば、基材15の表面には、高屈折率層16aが接し、多層膜層16における基材15とは反対側の面を、低屈折率層16bが構成する。
基材15における凸部15a上と凹部15b上とで、多層膜層16の構成、すなわち、多層膜層16を構成する各層の材料や膜厚や積層順序は一致している。そして、多層膜層16における基材15とは反対側の面である表面は、基材15の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、基材15に形成された凹凸の配置に対応する配置の凹凸を有している。これにより、多層膜層16は、凹凸構造に追従した表面形状を有する。
【0017】
こうした構造においては、多層膜層16の位置する側(図1中、上側)から発色構造体20に光が入射すると、多層膜層16における高屈折率層16aと低屈折率層16bとの各界面で反射した光が干渉を起こすとともに、多層膜層16の表面における不規則な凹凸に起因して進行方向を変える。この結果、特定の波長域の光が広い角度に出射される。この反射光として強く出射される特定の波長域は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの材料及び膜厚、並びに、凸部15aの幅、高さ及び配列によって決まる。なお、ここでいう特定の波長域とは、例えば多層膜干渉が生じる波長領域および/または凹凸構造により反射率が高められる領域を意味する。
【0018】
そして、多層膜層16の表面が保護層によって覆われていることが好ましい。この場合は、多層膜層16が有する凹凸構造の崩れ、具体的には、凹凸構造の変形や凹凸構造に汚れや異物が詰まることが抑えられる。
なお、多層膜層16における基材15と接する面も、多層膜層16の表面と同様の凹凸を有するため、基材15の位置する側から発色構造体20に光が入射した場合にも、同様に、特定の波長域の反射光が広い角度に出射される。すなわち、発色構造体20は、多層膜層16と基材15とのいずれの側から観察されてもよい。
【0019】
図2を参照して、凹凸層である基材15が有する凹凸構造の詳細について説明する。
図2(a)は、基材15をその表面と対向する方向から見た平面図であり、図2(b)は、図2(a)の2-2線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図2(a)においては、凹凸構造を構成する凸部15aにドットを付して示している。この図2(a)の表示は、仮想平面での凸部の投影像からなる、複数の図形要素の集合によるパターンに対応する。
図2(a)が示すように、第1方向Dxと第2方向Dyとは、基材15の厚さ方向に凹凸構造が投影される仮想的な面である仮想平面に沿った方向であり、第1方向Dxと第2方向Dyとは直交する。仮想平面は、基材15の広がる方向に沿った面であり、基材15の厚さ方向と直交する面で表現される。
【0020】
仮想平面において、凸部15aの投影像が構成するパターンは、破線によって示す複数の矩形Rの集合からなるパターンである。矩形Rは、図形要素の一例である。矩形Rは、第2方向Dyに延びる形状を有し、矩形Rにおいて、第2方向Dyの長さd2は、第1方向Dxの長さd1以上の大きさを有する。複数の矩形Rは、第1方向Dx及び第2方向Dyのいずれにおいても重ならないように配列されている。
複数の矩形Rにおいて、第1方向Dxの長さd1は一定であり、複数の矩形Rは、第1方向Dxに、長さd1の配列間隔、すなわち、長さd1の周期で配置されている。第1方向の線幅とは、このd1を意味する。
【0021】
一方、複数の矩形Rにおいて、第2方向Dyの長さd2は不規則、つまり複数の長さを有し、各矩形Rにおける長さd2は、所定の標準偏差を有する母集団から選択された値である。この母集団は、正規分布に従うことが好ましい。複数の矩形Rからなるパターンは、例えば、所定の標準偏差で分布する長さd2を有する複数の矩形Rを所定の領域内に仮に敷き詰め、各矩形Rの実際の配置の有無を一定の確率に従って決定することにより、矩形Rの配置される領域と矩形Rの配置されない領域とを設定することによって形成される。多層膜層16からの反射光を効率よく散乱させるためには、長さd2は、平均値が4.15μm以下、かつ、標準偏差が1μm以下の分布を有することが好ましい。
【0022】
矩形Rの配置されている領域が、凸部15aの配置される領域であり、互いに隣接する矩形Rが接する場合には、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15aが配置される。こうした構成においては、凸部15aの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍である。
【0023】
凹凸によって虹色の分光が生じることを抑えるために、矩形Rにおける第1方向Dxの長さd1は可視光領域の光の波長以下とされる。換言すれば、長さd1は、サブ波長以下、すなわち、入射光の波長域以下の長さを有する。すなわち、長さd1は830nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましい。さらに、長さd1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長よりも小さいことが好ましい。例えば、発色構造体20にて青色を発色させる場合は、長さd1は300nm程度であることが好ましく、発色構造体20にて緑色を発色させる場合は、長さd1は400nm程度であることが好ましく、発色構造体20にて赤色を発色させる場合は、長さd1は460nm程度であることが好ましい。
【0024】
多層膜層16からの反射光の広がりを大きくするため、すなわち、反射光の散乱効果を高めるためには、凹凸構造の起伏が多いことが好ましく、基材15の表面と対向する方向から見て、単位面積あたりにおいて、凸部15aが占める面積の比率は40%以上60%以下であることが好ましい。例えば、基材15の表面と対向する方向から見て、単位面積あたりにおける凸部15aの面積と凹部15bとの面積の比率は、1:1であることが好ましい。
【0025】
図2(b)が示すように、凸部15aの高さh1は一定であり、発色構造体20にて発色させる所望の色、すなわち、発色構造体20から反射させることの望まれる波長域に応じて設定されればよい。凸部15a上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも、凸部15aの高さh1が大きければ、反射光の散乱効果は得られる。
ただし、多層膜層16の表面の凹凸での反射に起因した光の干渉を抑えるために、凸部15aの高さh1は可視光領域の光の波長の1/2以下であることが好ましく、すなわち、415nm以下であることが好ましい。さらに、上記光の干渉を抑えるために、高さh1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長の1/2以下であることがより好ましい。
【0026】
また、凸部15aの高さh1が過剰に大きいと、反射光の散乱効果が高くなりすぎて、反射光の強度が低くなりやすいため、反射光が可視光領域の光である場合、凸部15aの高さh1は10nm以上200nm以下であることが好ましい。例えば、青色を呈する発色構造体20では、効果的な光の広がりを得るためには、凸部15aの高さh1は40nm以上150nm以下の程度であることが好ましく、散乱効果が高くなりすぎることを抑えるためには、凸部15aの高さh1は100nm以下であることが好ましい。
【0027】
なお、矩形Rは、第1方向Dxに沿って並ぶ2つの矩形Rの一部が重なるように配列されることにより、仮想平面における凸部15aのパターンを構成していてもよい。すなわち、複数の矩形Rは、第1方向Dxに、長さd1よりも小さい配列間隔で配置されていてもよいし、矩形Rの配列間隔は一定でなくてもよい。矩形Rが重なり合う部分では、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15aが位置する。この場合、凸部15aの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍とは異なる長さとなる。また、矩形Rの長さd1は、一定でなくてもよく、各矩形Rにおいて、長さd2が長さd1以上であって、複数の矩形Rにおける長さd2の標準偏差が長さd1の標準偏差よりも大きければよい。こうした構成によっても、反射光の散乱効果は得られる。
【0028】
<第2の構造>
図3は、第2の構造を有する凹凸構造体11を備える発色構造体21を示す。
第2の構造を有する凹凸構造体11は、第1の構造を有する凹凸構造体10と比較して、基材15における凹凸構造の構成、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の構成が異なる。こうした凹凸構造の構成以外については、上述の第1の構造を有する凹凸構造体10と同様の構成を有する。以下では、発色構造体21について、上述の発色構造体20との相違点を中心に説明し、発色構造体20と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0029】
凹凸構造体11における基材15の凹凸構造を構成する凸部15cは、第1の構造における凸部15aと同様の構成を有する第1凸部要素と、帯状に延びる第2凸部要素とが、基材15の厚さ方向に重畳された構造を有する。
第1の構造の発色構造体20によれば、反射光の散乱効果によって、視認される色の観察角度による変化は緩やかになるものの、散乱に起因した反射光の強度の低下によって、視認される色の鮮やかさは低下する。発色構造体の用途等によっては、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な構造体が求められる場合もある。第2の構造において、第2凸部要素は、入射光が特定の方向へ強く回折されるように配列されており、第1凸部要素による光の散乱効果と第2凸部要素による光の回折効果とによって、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な発色構造体21が実現される。
【0030】
図4を参照して、第2凸部要素の構成について説明する。図4(a)は、第2凸部要素のみからなる凹凸構造の平面図であり、図4(b)は、図4(a)の4-4線に沿った断面構造を示す断面図である。図4(a)においては、第2凸部要素にドットを付して示している。この図4(a)の表示は、仮想平面での凸部の投影像からなる、複数の図形要素の集合によるパターンに対応する。
【0031】
図4(a)が示すように、平面視において、すなわち、上記仮想平面において、第2凸部要素15Ebは、第2方向Dyに沿って一定の幅で延びる帯状を有し、複数の第2凸部要素15Ebは、第1方向Dxに沿って、間隔をあけて並んでいる。換言すれば、仮想平面において第2凸部要素15Ebの投影像が構成するパターンは、第2方向Dyに沿って延び、第1方向Dxに沿って並ぶ複数の帯状領域からなるパターンである。第2凸部要素15Ebにおける第1方向Dxの長さd3は、第1凸部要素のパターンを決定する上記矩形Rの長さd1と一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
第1方向Dxにおける第2凸部要素15Ebの配列間隔de、すなわち、第1方向Dxにおける帯状領域の配列間隔は、第2凸部要素15Ebが構成する凹凸構造の表面での反射光の少なくとも一部が、一次回折光として観測されるように設定される。一次回折光は、換言すれば、回折次数mが1又は1である回折光である。すなわち、入射光の入射角度をθ、反射光の反射角度をφ、回折する光の波長をλとした場合、配列間隔deは、de≧λ/(sinθ+sinφ)を満たす。例えば、λ=360nmである可視光線を対象とするとき、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは180nm以上であればよく、すなわち、配列間隔deは、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。なお、配列間隔deは、互いに隣り合う2つの第2凸部要素15Ebの端部間の第1方向Dxに沿った距離であって、第1方向Dxにおいて第2凸部要素15Ebに対して同一の側に位置する端部間の距離である。
【0033】
第2凸部要素15Ebが構成するパターンの周期性は、基材15が有する凹凸構造の周期性、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の周期性に反映される。複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deが一定の場合、多層膜層16の表面での回折現象によって、多層膜層16からは、特定の波長の反射光が特定の角度に出射される。この回折による光の反射強度は、上述の第1の構造にて説明した第1凸部要素による光の散乱効果によって生じる反射光の反射強度と比較して非常に強いため、金属光沢のような輝きを有する光が視認されるが、一方で、回折による分光が生じ、観察角度の変化に応じて視認される色が変化する。
【0034】
したがって、例えば、青色を呈する発色構造体21が得られるように第1凸部要素の構造を設計したとしても、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを例えば400nm以上5μm以下の範囲で一定値に設定すると、観察角度によっては、回折に起因した強い緑色から赤色の表面反射による光が観察される。これに対し、例えば、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを50μm程度に大きくすると、可視光領域の光が回折される角度の範囲が狭くなるため、回折に起因した色の変化が視認されにくくなるが、金属光沢のような輝きを有する光は特定の観察角度でのみしか観察されない。
【0035】
そこで、配列間隔deを一定の値とせず、第2凸部要素15Ebのパターンを、周期が異なる複数の周期構造が重ね合わされたパターンとすれば、回折による反射光に複数の波長の光が混じり合うため、分光された単色性の高い光は視認されにくくなる。したがって、光沢感のある鮮やかな色が広い観察角度で観察される。この場合、配列間隔deは、例えば、360nm以上5μm以下の範囲から選択され、複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deの平均値が、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。
【0036】
ただし、配列間隔deの標準偏差が大きくなるにつれ、第2凸部要素15Ebの配列が不規則となって散乱効果が支配的になり、回折による強い反射が得られにくくなる。そのため、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは、第1凸部要素による光の散乱効果によって光が広がる角度に応じて、この光が広がる範囲と同程度の範囲に回折による反射光が出射されるように決定することが好ましい。例えば、青色の反射光が、入射角度に対して±40°の範囲に広がって出射される場合、第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、その平均値が1μm以上5μm以下の程度であり、標準偏差が1μm程度であるように設定する。これにより、第1凸部要素の光の散乱効果によって光が広がる角度と同程度の角度に回折による反射光が生じる。
【0037】
すなわち、複数の第2凸部要素15Ebからなる構造は、特定の波長域の光を回折させて取り出すための構造とは異なり、配列間隔deの分散により、回折を利用して所定の角度範囲に様々な波長域の光を射出させるための構造である。
【0038】
さらに、より長周期の回折現象を生じさせるために、一辺が10μm以上100μm以下の正方形領域を単位領域とし、単位領域ごとの第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、平均値が1μm以上5μm以下の程度、かつ、標準偏差が1μm程度としてもよい。なお、複数の単位領域のなかには、配列間隔deが1μm以上5μm以下の範囲に含まれる一定の値である領域が含まれてもよい。配列間隔deが一定である単位領域が存在したとしても、この単位領域と隣接する単位領域のいずれかにおいて、配列間隔deが標準偏差1μm程度のばらつきを有していれば、人の目の解像度においてはすべての単位領域で配列間隔deがばらつきを有している構成と同等の効果が期待できる。
【0039】
なお、図4に示した第2凸部要素15Ebは、第1方向Dxのみに、配列間隔deに起因した周期性を有している。第1凸部要素による光の散乱効果は、主として、基材15の表面と対向する方向から見た場合での第1方向Dxに沿った方向への反射光に作用するが、第2方向Dyに沿った方向への反射光にも一部影響し得る。したがって、第2凸部要素15Ebは、第2方向Dyにも周期性を有してもよい。すなわち、第2凸部要素15Ebのパターンは、第2方向Dyに延びる複数の帯状領域が、第1方向Dxと第2方向Dyとの各々に沿って並ぶパターンであってもよい。
【0040】
こうした第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、例えば、帯状領域の第1方向Dxに沿った配列間隔と第2方向Dyに沿った配列間隔との各々は、各々の平均値が1μm以上100μm以下であるようにばらつきを有していればよい。また、第1凸部要素による光の散乱効果の第1方向Dxへの影響と第2方向Dyへの影響との違いに応じて、第1方向Dxに沿った配列間隔の平均値と、第2方向Dyに沿った配列間隔の平均値とは互いに異なっていてもよく、第1方向Dxに沿った配列間隔の標準偏差と、第2方向Dyに沿った配列間隔の標準偏差とは互いに異なっていてもよい。
【0041】
図4(b)が示すように、第2凸部要素15Ebの高さh2は、凸部15c上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも大きければよい。ただし、第2凸部要素15Ebの高さh2が大きくなるほど、凹凸構造が反射光に与える効果において第2凸部要素15Ebによる回折効果が支配的となって、第1凸部要素による光の散乱効果が得られにくくなるため、第2凸部要素15Ebの高さh2は第1凸部要素の高さh1と同程度であることが好ましく、第2凸部要素15Ebの高さh2は高さh1と一致していてもよい。例えば、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上200nm以下の範囲に含まれていることが好ましく、青色を呈する発色構造体21では、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上150nm以下の範囲に含まれていることが好ましい。
【0042】
<第1の構造と第2の構造の複合構造>
図5を参照して、第1の構造と第2の構造からなる凹凸構造体11が有する凹凸構造の詳細について説明する。図5(a)は、基材15をその表面と対向する方向から見た平面図であり、図5(b)は、図5(a)の5-5線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図5(a)においては、第1凸部要素が構成するパターンと、第2凸部要素が構成するパターンとに異なる密度のドットを付して示している。この図5(a)の表示は、仮想平面での凸部の投影像からなる、複数の図形要素の集合によるパターンに対応する。
【0043】
図5(a)が示すように、上記仮想平面にて、凸部15cの投影像が構成するパターンは、第1凸部要素15Eaの投影像が構成するパターンである第1パターンと、第2凸部要素15Ebの投影像が構成するパターンである第2パターンとが重ね合わされたパターンで構成される。すなわち、凸部15cが位置する領域には、第1凸部要素15Eaのみから構成される領域S1と、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重なっている領域S2と、第2凸部要素15Ebのみから構成される領域S3とが含まれる。なお、図5においては、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが、第1方向Dxにおいてその端部が揃うように重ねられているが、こうした構成に限らず、第1凸部要素15Eaの端部と第2凸部要素15Ebの端部とはずれていてもよい。
【0044】
図5(b)が示すように、領域S1では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1である。また、領域S2では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2との和である。また、領域S3では、凸部15cの高さは、第2凸部要素15Ebの高さh2である。このように、凸部15cは、仮想平面での投影像が第1パターンを構成し、所定の高さh1を有する第1凸部要素15Eaと、仮想平面での投影像が第2パターンを構成し、所定の高さh2を有する第2凸部要素15Ebとが、高さ方向に重ねられた多段形状を有する。凸部15cは、第1凸部要素15Eaに第2凸部要素15Ebが重ねられた構造と捉えることも可能であり、第2凸部要素15Ebに第1凸部要素15Eaが重ねられた構造と捉えることも可能である。
【0045】
こうした構造においては、第1の構造と比較して、多層膜層16の表面における凹凸構造が複雑であるため、使用方法によっては、凹凸構造が変形することもある。その場合は、保護層を設けることによって多層膜層16の凹凸構造を保護してもよい。
【0046】
以上のように、第2の構造を有する発色構造体21によれば、凸部15cにおける第1凸部要素15Eaが構成する部分に起因した光の拡散現象と、第2凸部要素15Ebが構成する部分に起因した光の回折現象との相乗によって、特定の波長域の反射光が広い観察角度で観察可能であるとともに、この反射光の強度が高められることにより光沢感のある鮮やかな色が視認される。換言すれば、第2の構造においては、1つの構造体である凸部15cが、光の拡散機能と光の回折機能との2つの機能を担っている。
【0047】
なお、仮想平面にて、第1凸部要素15Eaが構成するパターンと、第2凸部要素15Ebが構成するパターンとは、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重ならないように配置されてもよい。こうした構造によっても、第1凸部要素15Eaによる光の拡散効果と第2凸部要素15Ebによる光の回折効果とは得られる。ただし、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを互いに重ならないように配置しようとすれば、第1の構造と比較して、単位面積あたりにおける第1凸部要素15Eaの配置可能な面積が小さくなり、光の拡散効果が低下する。したがって、凸部要素15Ea、15Ebによる光の拡散効果と回折効果とを高めるためには、図5に示したように、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを重ねて凸部15cを多段形状とすることが好ましい。
【0048】
[発色構造体の製造方法]
発色構造体20、21を構成する各層の材料、及び、発色構造体20、21の製造方法を説明する。
基材15は、例えば合成石英基板や、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリウレタン等の樹脂からなるフィルムからなる。基材15の表面の凹凸構造は、例えば、光又は荷電粒子線を照射するリソグラフィとドライエッチング法等の微細加工技術を利用して、基材表面へ直接加工することで形成も可能だが、加工に時間が掛かり、コストも非常に高くなる。そのため、これらの技術によって形成された凹凸構造を有するモールドからナノインプリント法により転写することで、凹凸構造を作製することが望ましい。ナノインプリント法における硬化方法は光、熱のいずれでも良い。
【0049】
ナノインプリント法によって作製される基材15は硬化及び/又は乾燥後にフィルムの自立性が得られる樹脂ならば、従来公知のものを使用できる。樹脂としては、例えば、ポリウレタンやエポキシ、シリコーン、アクリル、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどがあるが、この限りではない。上記樹脂とは、硬化及び/又は乾燥後に樹脂となるものを意味しており、硬化及び/又は乾燥前の段階では、モノマー、オリゴマー、プレポリマーなど高分子化されていない状態でも良い。例えば、ポリオールやイソシアネートの混合物を熱硬化する、アクリルモノマーに光ラジカル重合開始剤を添加することで光硬化することができる。
【0050】
バーコーターやアプリケーターを用たり、圧力をかけたりすることで樹脂を広げることができ、これ以外にも従来公知の方法で基材15を作製することもできる。
また、樹脂の粘度が高いとモールドへの充填に時間が掛かる。高圧力や高温により充填することも可能であるが、コストが掛かる。そのため、モールド充填時には低粘度であることが望ましい。
押出しラミネーションによる賦形も可能ではあるが、粘度が高いため、充填が難しく、適正なプロセス条件を選定するのは難易度が高い。
【0051】
第2の構造の凹凸構造は、例えば、上記第1パターンのレジストパターンを用いたエッチングと、上記第2パターンのレジストパターンを用いたエッチングとを順に行うことにより形成される。このとき、第1パターンのエッチングと第2パターンのエッチングとは、いずれが先に行われてもよい。すなわち、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとは、いずれが先に形成されてもよい。これらの技術によって形成された凹凸構造を前述のナノインプリント法により樹脂に転写することで作製しても良い。
【0052】
多層膜層16を構成する高屈折率層16aと低屈折率層16bとは、可視光領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視光領域の光に対して透明な材料から構成される。高屈折率層16aの屈折率が、低屈折率層16bの屈折率よりも高い構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。こうした観点から、例えば、高屈折率層16aと低屈折率層16bとを無機材料から構成する場合、高屈折率層16aを二酸化チタン(TiO)から構成し、低屈折率層16bを二酸化珪素(SiO)から構成することが好ましい。こうした無機材料からなる高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々は、スパッタリング、真空蒸着、あるいは、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を用いて形成される。また、高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々は有機材料から構成されてもよく、この場合、高屈折率層16a及び低屈折率層16bの形成には、自己組織化等の公知の技術が用いられればよい。
【0053】
高屈折率層16a及び低屈折率層16bの各々の膜厚は、発色構造体20、21にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。例えば、青色を呈する発色構造体20、21を形成する場合は、TiOからなる高屈折率層16aの膜厚は40nm程度であることが好ましく、SiOからなる低屈折率層16bの膜厚は75nm程度であることが好ましい。
【0054】
なお、図1及び図3では、多層膜層16として、基材15に近い位置から高屈折率層16aと低屈折率層16bとがこの順に交互に積層された10層からなる多層膜層16を例示した。しかし、多層膜層16が有する層数や積層の順序はこれに限られず、所望の波長域の反射光が得られるように高屈折率層16aと低屈折率層16bとが設計されていればよい。例えば、基材15の表面に低屈折率層16bが接し、その上に高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層されている構成でもよい。また、多層膜層16における基材15とは反対側の表面である最表面を構成する層も、高屈折率層16aと低屈折率層16bとのいずれであってもよい。さらに、低屈折率層16bと高屈折率層16aとが交互に積層されていれば、基材15の表面に接する層と、上記最表面を構成する層とを構成する材料が同じであってもよい。さらに、多層膜層16は、3つ以上の屈折率の異なる層の組合せによって構成されてもよい。
【0055】
要は、多層膜層16は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層16に入射する入射光のうち特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高いように構成されていればよい。
発色構造体20、21が多層膜の位置する側から観察される場合には、多層膜の上に可視光領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視光領域の光に対して透明な材料を用いて保護層を構成しても良い。こうした材料としては、例えば、アクリル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアミド等の樹脂が用いられる。この保護層には、紫外線吸収剤を含有していてもよい。
【0056】
ここで、凹凸構造体10、11が可視光領域の光に対して透明な材料から形成されている場合には、入射光に含まれる波長域のうち、多層膜層16にて反射される特定の波長域以外の波長域の光の一部は、多層膜層16、さらには、凹凸構造体10、11を透過する。そのため、凹凸構造体10、11をその表裏の一方側から観察するとき、凹凸構造体10、11の他方側に、光源や、白色板等の透過光をはね返す構造物が存在すると、上記一方側では、多層膜層16からの特定の波長域の反射光とともに、他方側から多層膜層16を透過した透過光が視認される。上述のように、この透過光の波長域は反射光の波長域とは異なり、透過光の色は、主として、反射光の色の補色である。そのため、こうした透過光が視認されると、反射光による色の視認性が低下する。
【0057】
そこで、発色構造体20、21には多層膜を透過した透過光を吸収する材料が含まれることが望ましい。
例えば多層膜層16上に、透過光を吸収する吸収層を設けても良い。こうした構成によれば、基材15側から多層膜層16を透過した光は多層膜層16上の吸収層によって吸収され、透過光が基材15側に返ってくることが抑えられるため、基材15側から発色構造体20、21を観察した場合に、多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光による色の視認性が低下することが抑えられ、発色構造体20、21において所望の発色が好適に得られる。
あるいは、基材の凹凸構造とは反対側の面に吸収層を設けても良い。こうした構成によれば、多層膜層16から基材15を透過した光が、凹凸構造とは反対側の面に設けられた透過光を吸収する吸収層によって吸収されることでも、反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。
【0058】
また、凹凸層に透過した透過光を吸収する材料が含まれる場合には、多層膜層16から透過した光は、基材15に吸収されるため、反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。こうした構成によれば、吸収層を別途設ける必要がなく、製造プロセスの簡素化が可能である。ただし、凹凸構造を作製する際に粒子のサイズ及び添加量によってはモールドの汚染が生じるため、第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、凹凸層を構成する固形分に対し、3質量%以上25質量%以下を含有する必要がある。
透過した透過光を吸収する材料としては、光吸収剤や黒色顔料等の可視光領域の光を吸収する材料を意味し、具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料が樹脂に混合された層であることが好ましい。
【0059】
[発色構造体の変形例]
発色構造体は、図6が示す構成を有していてもよい。図6が示す発色構造体22が備える凹凸構造体12は、基材15と、基材15の表面に形成された樹脂層17と、樹脂層17に積層された多層膜層16とを備える。基材15の表面は平坦であり、樹脂層17がその表面に凹凸を有する。図6に示す形態においては、樹脂層17が凹凸層を構成する。樹脂層17の表面における凹凸構造としては、例えば、上述の第1の構造の凹凸構造と第2の構造の凹凸構造とのいずれか、又はその複合構造のものが適用可能である。
【0060】
樹脂層17の凹凸構造の形成方法には、例えば、ナノインプリント法が用いられる。例えば、光ナノインプリント法によって樹脂層17の凹凸構造を形成する場合、まず、形成対象の凹凸の反転された凹凸を有する凹版であるモールドの凹凸が形成された面に、樹脂層17を構成する樹脂として、光硬化性樹脂が塗布される。光硬化性樹脂の塗布方法は特に限定されず、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法が用いられればよい。
【0061】
次いで、光硬化性樹脂からなる塗布層の表面に、基材15が重ねられ、塗布層とモールドとが互いに押し付けられた状態で、基材15側若しくはモールド側から光が照射される。続いて、硬化した光硬化性樹脂及び基材15からモールドが離型される。これによって、モールドの有する凹凸が光硬化性樹脂に転写されて、表面に凹凸を有する樹脂層17が形成される。モールドは、例えば、合成石英やシリコンから構成され、光又は荷電粒子線を照射するリソグラフィやドライエッチング等の公知の微細加工技術を利用して形成される。
【0062】
なお、光硬化性樹脂は、基材15の表面に塗布され、基材15上の塗布層にモールドが押し当てられた状態で、光の照射が行われてもよい。
また、光ナノインプリント法に代えて、熱ナノインプリント法が用いられてもよい。この場合、樹脂層17の樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の、製造方法に応じた樹脂が用いられる。光硬化性樹脂を用いた場合でも、熱ラジカル開始剤などを用いることで、熱ナノインプリント法を用いることができる。
【0063】
熱ナノインプリント法は光ナノインプリント法と比較して、硬化に時間が掛かるというデメリットもあるが、熱硬化ゆえに光ナノインプリントでは難しい可視光透過性の低い凹凸層を形成することができるというメリットがある。短時間で熱硬化を実現するためには、硬化温度が低い、あるいは硬化時間の短い硬化剤を選択すればよい。このような硬化剤を使用した際の弊害として、塗液のポットライフの短時間化が考えられるが、塗液に塗工直前に硬化剤をインジェクションで添加することで、ポットライフの問題は解決できる。
【0064】
硬化時には樹脂とモールドに圧力をかけてもよい。ただし、樹脂の粘度が低ければ、毛細管現象にて凹凸構造体に樹脂が入り込むため、必ずしも圧力をかける必要はない。圧力をかけない場合などには、気泡が含有することで凹凸構造に欠陥が生じる懸念があるため、塗液のフィルタリングや硬化及び/又は乾燥条件を最適化することで脱泡することが好ましい。
【0065】
[凹凸層の特性]
これらの発色構造体が屋外などに長時間曝されることより劣化した場合、基材15や樹脂層17などが黄変し、構造色の色相が変化することがある。そこで、凹凸層には、第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下、含有する必要がある。なお、ここでいう凹凸層とは、凹凸構造を形成している層を意味し、例えば図1のように基材15上に凹凸構造がある場合は基材15を、図6のように樹脂層17上に凹凸構造があるものは樹脂層17を凹凸層という。
【0066】
無機粒子を含有することで、粒子の散乱効果や透過光の吸収効果により凹凸層の光透過性を抑えることができる。無機粒子が3質量%よりも少ない場合は、無機粒子の散乱効果や透過光の吸収効果が小さくなり、色相変化を防ぐことができない。一方で、25質量%よりも多い場合には、無機粒子の脱落により凹凸構造体を転写するためのモールドを汚染する。モールド以外の部分にも無機粒子が脱落することで、汚染が生じることもある。また、添加量が増えると樹脂の比率が減り、塗膜が脆くなり、発色構造体を成型する際に塗膜の割れが生じることもある。
【0067】
無機粒子の粒径は、第1方向の線幅の23%よりも大きいと、無機粒子の脱落により凹凸構造体を転写するためのモールドを汚染する。なお、ここでいう粒径とは、走査型電子顕微鏡で測定した粒子1個辺りの1次粒子の平均粒径を示す。粒子1個辺りの平均粒径がこの範囲であれば凝集体を含んでいてもよい。
第1方向の線幅に対し、23%以下の粒径の無機粒子を、凹凸層の固形分に対し3質量%以上25質量%以下、含有することで、発色構造体の長期保存後の色相変化を防ぐことができ、かつ凹凸構造をモールドから転写する際にモールドの汚染を防ぐことができる。
【0068】
さらに無機粒子を含有することで、凹凸層に糊付け性を付与することができる。糊付け性を付与することで、接着層を用いる場合と比べ接着強度は劣るものの、接着層や接着剤を用いることなく、発色構造体を被着体へ容易に貼り付けることができる。上記範囲であれば、発色構造体が剥がれてしまう懸念もなく、糊側に大量に粒子が付着することで、糊の性能を低下される懸念もない。
無機粒子としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、チタンブラックなどが上げられる。無機粒子は1種である必要はなく、複数種含まれていてもよい。
【0069】
カーボンブラックを用いた場合、凹凸層の可視光透過性が小さくなり、かつカーボンブラックが強い耐候性を有するため、長期保存後の色相変化を強く防ぐことができる。加えて、多層膜側から発色構造体を観察した場合、発色構造体の基材側からの透過光による視認性低下を抑えることができる。この場合、多層膜層16側から良好な視認性を得ることができる。
チタンブラックを用いた場合、凹凸層の可視光透過性が小さくなるため、長期保存後の色相変化を防ぐことができる。加えて、視認性を良好にするために必要な吸収層を別途設ける必要がない。また、チタンブラックは紫外光を透過するという性質を持つため、光ナノインプリントによる製造が可能である。この場合、多層膜層16側から良好な視認性を得ることができる。
【0070】
なお、凹凸層は、可視光領域の光のすべてを吸収せずとも、多層膜層16を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する構成であれば良い。このような構成であれば、こうした光吸収性を有する層が設けられない構成と比較して、反射光による色の視認性が低下することを抑える効果は得られる。したがって、凹凸層は、上記規定の範囲内であれば多層膜層16を透過する光の波長域に応じた色の顔料を含む層であってもよい。ただし、凹凸層が黒色顔料を含む黒色の層であれば、透過光の波長域に応じた凹凸層の色の調整等が不要であり、また、凹凸層が広い波長域の光を吸収するため、簡便に、かつ、好適に、反射光による色の視認性の低下が抑えられる。ただし、モールドの汚染が生じるため、上記所定の範囲の顔料である必要がある。
【0071】
特に、凹凸層の入射光に対する可視光透過率が15%以下の場合には、好適に、反射光による色の視認性の低下が抑えられる。この場合、多層膜層16側から良好な視認性を得ることができる。なお、入射光に対する可視光透過率の下限値は特に無く、0%でも問題はない。
凹凸層には、性能を損なわない範囲で添加剤など従来公知の材料が含まれていても良い。
【0072】
[発色構造体の適用例]
上述した発色構造体の具体的な適用例について説明する。以下で説明する適用例には、第1の構造を有する発色構造体20、第2の構造を有する発色構造体21、及び、上述の変形例で説明した発色構造体22のいずれもが適用可能である。
【0073】
<表示体>
発色構造体の第1の適用例は、発色構造体を表示体に用いる形態である。表示体は、物品の偽造の困難性を高める目的で用いられてもよいし、物品の意匠性を高める目的で用いられてもよいし、これらの目的を兼ねて用いられてもよい。物品の偽造の困難性を高める目的としては、表示体は、例えば、パスポートや免許証等の認証書類、商品券や小切手等の有価証券類、クレジットカードやキャッシュカード等のカード類、紙幣等に貼り付けられる。また、物品の意匠性を高める目的としては、表示体は、例えば、身に着けられる装飾品や、使用者に携帯される物品、家具や家電等のように据え置かれる物品、壁や扉等の構造物、自動車の内装や外装等に取り付けられる。
【0074】
図7が示すように、表示体30は、表面30Fと、表面30Fとは反対側の面である裏面30Rとを有する。表面30Fと対向する方向から見て、表示体30は、第1表示領域31Aと第2表示領域31Bとを含んでいる。第1表示領域31Aは、複数の第1画素32Aが配置されている領域であり、第2表示領域31Bは、複数の第2画素32Bが配置されている領域である。換言すれば、第1表示領域31Aは、複数の第1画素32Aの集合から構成されており、第2表示領域31Bは、複数の第2画素32Bの集合から構成されている。第1画素32Aと第2画素32Bとの各々には、発色構造体の構成が適用されており、第1画素32Aと第2画素32Bとは、互いに異なる色相の色を呈する。すなわち、表示体30の表面30Fと対向する方向から見て、第1表示領域31Aと第2表示領域31Bとには、互いに異なる色相の色が視認される。
【0075】
第1表示領域31Aと第2表示領域31Bとの各々は、これらの領域単独、若しくは、これらの領域の2以上の組合せによって、凸部の投影像が構成するパターンによる、文字、記号、図形、模様、絵柄、これらの背景等を表現する。一例として、図7に示す構成では、第1表示領域31Aによって円形の図形が表現され、第2表示領域31Bによって三角形の図形が表現されている。
なお、表示体30は、表示領域31A、31Bの周囲等に、発色構造体の構成とは異なる構成を有する領域、例えば、表面が平坦な基材に多層膜層が積層された構造を有する領域や、基材に金属薄膜が積層された構造を有する領域等を有していてもよい。
裏面30Rにも、表示領域を配置してもよい。
【0076】
図8は、第1画素32Aと第2画素32Bとの断面構造を示す図である。図8においては、これらの画素32A、32Bを構成する発色構造体23が、第1の構造を有する発色構造体である例を示している。
第1画素32Aと第2画素32Bとでは、凸部15aの高さh1が互いに異なっている。一方、第1画素32Aと第2画素32Bとにおいて、多層膜層16の構成は共通している。すなわち、高屈折率層16aの材料や膜厚、低屈折率層16bの材料や膜厚、及び、これらの層の層数は、共通している。第1画素32Aと第2画素32Bとで、凸部15aの高さh1が異なることによって、第1画素32Aと第2画素32Bとは互いに異なる色相の色を呈する。各画素32A、32Bにおける凸部15aの高さh1は、各画素32A、32Bの所望の色相に応じて設定されればよい。
【0077】
ここで、第1画素32Aの凸部15aの高さh1aと、第2画素32Bの凸部15aの高さh1bとの差が大きいほど、第1画素32Aの呈する色相と第2画素32Bの呈する色相との差が大きくなり、その色相の差が人の目によって認識されやすくなる。例えば、高さh1aと高さh1bとの差は5nm以上であることが好ましく、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長の1%以上であることが好ましい。
例えば、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が500nmであり、画素によって緑色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を100nm程度とすることが好ましく、画素によって赤色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を200nm程度とすることが好ましい。
【0078】
上記構成においては、第1表示領域31Aと第2表示領域31Bとで、多層膜層16の表面における凹凸構造の高さが異なり、こうした高さが一定である場合と比較して表示体30の全体における凹凸構造が複雑であるため、保護層によって多層膜層16の凹凸構造を保護してもよい。
なお、画素32A、32Bに適用される発色構造体が、第2の構造を有する発色構造体である場合、上記仮想平面にて凸部15cの投影像が構成するパターンにおいて第1凸部要素15Eaが占める割合よりも第2凸部要素15Ebが占める割合が小さい構成においては、第2凸部要素15Ebの高さh2が画素32A、32Bの呈する色相に与える影響は微小である。したがって、第2の構造を有する発色構造体においても、第1の構造の凸部15aに相当する第1凸部要素15Eaの高さh1の調整によって、画素32A、32Bの呈する色相の調整が可能である。
【0079】
凸部15aのパターンは、例えば、第1画素32Aごと、及び、第2画素32Bごとに設定される。すなわち、凸部15aの投影像のパターンを構成する複数の矩形Rにおける長さd1や長さd2の平均値や標準偏差は、画素32A、32Bごとに設定される。凸部15aのパターンは画素32A、32Bごとに異なっていてもよいし、一致していてもよい。画素32A、32Bの大きさは、表示領域31A、31Bが構成する像についての所望の解像度に応じて設定されればよい。より高精度な像を表示するためには、画素32A、32Bの一辺は10μm以上であることが好ましい。
【0080】
なお、画素32A、32Bの製造の際には、例えば、複数の矩形Rからなるパターンに従った凸部を一括して大面積の領域に形成後、このパターンを分割するように凸部を切断等により分割することで、各画素32A、32Bの凹凸構造を形成してもよく、こうした製造方法は、製造工程が容易となるため好ましい。ここで、凸部の分割によって、複数の画素32A、32Bの一部には、画素32A、32Bの端部に、第2方向Dyの長さd2が、第1方向Dxの長さd1よりも小さい矩形Rを構成する凸部が形成される場合がある。しかし、凸部15aのパターンにこうした矩形Rが含まれたとしても、その割合が十分に小さい場合は当該矩形Rによる光学的影響は無視できるほど小さい。
【0081】
第1画素32Aと第2画素32Bとの間で、基材15は連続しており、すなわち、これらの画素32A、32Bは、共通した1つの基材15を有している。
基材15における凹凸構造は、例えば、第1画素32Aの位置する第1表示領域31Aに対応する部分と、第2画素32Bの位置する第2表示領域31Bに対応する部分との各々に対して、リソグラフィやドライエッチングを行うことによって形成される。凸部15aの高さh1を変えるためには、エッチング時間を変更すればよい。
第1表示領域31Aに対応する部分と第2表示領域31Bに対応する部分とに対し、多層膜層16は、同一の工程によって、同時に形成される。
第1表示領域31Aと第2表示領域31Bとが接している場合、第1画素32Aと第2画素32Bとの間で、多層膜層16は連続している。
【0082】
なお、第1画素32Aと第2画素32Bとの呈する色相を異ならせることは、第1画素32Aと第2画素32Bとで、多層膜層16を構成する層の材料や膜厚等の構成を異ならせることによっても可能ではある。しかしながら、表示領域31A、31Bごとに多層膜層16の構成が異なると、表示領域31A、31Bごとに、領域のマスキングや高屈折率層16aと低屈折率層16bとの成膜を繰り返すことが必要であり、製造工程が複雑になる。結果として、製造コストの増加や歩留りの低下が引き起こされる。また、微小な領域にマスキングを行うことは困難であるため、精細な像の形成には限界がある。
【0083】
これに対し、上記表示体30の構成であれば、第1表示領域31Aに対応する部分と第2表示領域31Bに対応する部分とに対し、多層膜層16を同時に形成することが可能であるため、表示体30の製造に要する負荷が軽減される。また、微小な領域へのマスキングと比較して、微小な領域ごとに凸部15aの高さh1を異ならせることは容易であるため、表示領域31A、31Bを小さくしてより精細な像を形成することもできる。
【0084】
なお、第1画素32Aと第2画素32Bとで、多層膜層16の構成を同一として、凸部15aの高さh1を変えることによって色相を異ならせるためには、多層膜層16を以下のように構成することが好ましい。すなわち、平坦面に多層膜層16を積層した場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が、第1画素32Aにて発色させる色相の光の波長と、第2画素32Bにて発色させる色相の光の波長との間に位置するように、多層膜層16を構成することが好ましい。
【0085】
凸部15aの高さh1を変えることにより、多層膜層16を構成する各層の形状が変わって光路長が変化することや、凹凸構造が効率的に散乱させる光の波長域が変化することが起こり、こうした現象等に起因して、発色構造体に視認される色相が変化すると考えられる。
また、画素32A、32Bの構成に、発色構造体22の構成、すなわち、基材15に積層された樹脂層17が凹凸構造を有している構成が適用される場合、この凹凸構造は、例えば、以下のように形成される。すなわち、ナノインプリント法を利用して、各表示領域31A、31Bに対応する部分で凹凸の高さを変えたモールドが用いられ、各画素32A、32Bの樹脂層17の凹凸構造が同時に形成される。
【0086】
こうしたモールドは、表示領域31A、31Bに対応する部分ごとに、リソグラフィやドライエッチングを行うことにより形成されてもよい。また例えば、以下の方法によれば、より簡便にモールドの形成が可能である。すなわち、荷電粒子線リソグラフィに用いられるレジストに対して照射する荷電粒子線の線量を表示領域31A、31Bごとに変え、各表示領域31A、31Bについて所望の高さの凹凸が形成されるように現像時間を調整してレジストパターンを形成する。レジストパターンの表面に例えばニッケル等の金属層を電鋳によって形成した後、レジストを溶解することによって、ニッケル製のモールドが得られる。
【0087】
なお、表示体30が含む表示領域の数、すなわち、発色構造体から構成される画素が配置されて、互いに異なる色相の色を呈する表示領域の数は特に限定されない。表示領域の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。さらに、表示領域には、発色構造体から構成された表示要素が含まれればよく、表示要素は、ラスタ画像を形成するための繰り返しの最小単位である画素に限らず、ベクタ画像を形成するためのアンカを結んだ領域であってもよい。
また、表示要素の構成としては、上述した発色構造体の構成であればいずれの構成であっても適用可能であり、例えば、多層膜層や、多層膜層とは反対側の面の上に、保護層や反射防止層、接着層などを設けることができる。
【0088】
<発色シート及び成形体>
発色構造体の第2の適用例は、発色構造体を発色シートに用いる形態である。発色シートは、発色構造体から構成されたシートであり、装飾等のために被着体に固定される。発色シートと被着体とから、成形体が構成される。
被着体の形状や材料は特に限定されないが、例えば、樹脂製の被着体に発色シートが取り付けられるとき、発色シートは、例えば、フィルムインサート工法、インモールドラミネーション工法、三次元オーバーレイラミネーション工法(TOM)等のラミネート加飾工法を用いて、被着体の表面へ固定される。
【0089】
フィルムインサート工法とは、熱真空成形により成形された発色シートを金型に配置した状態で射出成形を行うことによって、被着体と発色シートとを一体化する方法である。インモールドラミネーション工法とは、発色シートの熱真空成形から射出成形による被着体の形成及び発色シートとの一体化までを、すべて同じ金型内で行う方法である。三次元オーバーレイラミネーション工法とは、発色シートで上下に隔離した気密空間の気圧差を利用して、被着体と発色シートとを一体化する方法である。
【0090】
発色シートを構成する発色構造体としては、上述した発色構造体のいずれの構成も適用可能である。ただし、発色シートは、被着体の表面に沿って配置されるように用いられるため、発色構造体は、被着体の表面に追従した形状に変形しやすい性質を有することが好ましい。こうした観点においては、発色構造体22の構成、すなわち、基材15に積層された樹脂層17が凹凸構造を有している構成は、基材15として用いることのできる材料についての自由度が高いため好ましい。
【0091】
発色シートが、ラミネート加飾工法を用いて樹脂製の被着体に固定される場合、被着体との一体化のための加熱の際に基材15が被着体に追従して変形するように、基材15は、熱可塑性樹脂から構成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン(PA)等が挙げられる。基材15の膜厚は、発色シートが被着体に追従しやすい観点から、薄いほど好ましく、例えば、20μm以上300μm以下の程度であることが好ましい。
【0092】
同様に、図1の基材15においても、被着体の表面に追従した形状に変形しやすい性質を有していた方が被着体への固定の観点からは望ましい。基材15が被着体の表面に追従した形状に変形しやすい性質を有していれば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など限定はなく、いずれの樹脂も使用できる。また、上記以外にサンドウィッチラミネーションやドライラミネーションで固定することも可能である。
基材15に糊付け性がある場合には、紙などの基材上に容易に貼り付けることが可能である。
【0093】
図9が示すように、発色シート40を構成する発色構造体24は、多層膜層16とは反対側の面側に接着層18を備えていることが好ましい。接着層18は、発色シート40と被着体とを接着する機能を有する。なお、図9においては、発色シート40を構成する発色構造体24として、基材15に積層された樹脂層17が第2の構造の凹凸構造を有している構成の発色構造体が適用された例を示している。
上記に限らず、図1においても、基材15における凹凸構造とは反対側の面、すなわち凸部15a、15c、凹部15bを有しない側の面に、接着層を付与していてもよい。
【0094】
発色シートが、ラミネート加飾工法を用いて樹脂製の被着体に固定される場合、被着体との一体化のための加熱の際に接着層18が接着機能を発現するように、接着層18はヒートシール性を有することが好ましい。こうした接着層18を構成するヒートシール剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
接着層18は、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を用いて形成される。接着層18の膜厚は特に限定されないが、例えば、2μm以上200μm以下の程度であることが好ましい。
【0095】
図10が示すように、上記構成の発色シート40は、接着層18が被着体51と接するように、被着体51に固定される。すなわち、発色シート40が被着体51に固定された成形体50において、多層膜層16が外側に向けられ、基材15が位置する側に、被着体51が位置する。そして、発色シート40は、多層膜層16が位置側から観察される。
なお、接着層18は、多層膜層16上に形成されてもよく、多層膜層16上の保護層に形成されてもよい。
なお、発色シート40を構成する発色構造体24は、反射防止層を備えていてもよい。また、発色シートの構成としては、上述した発色構造体の構成であればいずれの構成であっても適用可能である。
【0096】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)発色構造体において、凹凸層に第1方向の線幅の23%以下の粒径の無機粒子を、凹凸層を構成する固形分に対し3質量%以上25質量%以下含有する。
この構成よれば、粒子の散乱効果や透過光の吸収効果により凹凸層の光透過性を抑えることができる。凹凸層の光透過性が低下することで、発色構造体の長期保存後の色相変化を防ぐことができる。
多層膜層16及び凹凸層を透過した光は、凹凸層と接する下の層との界面など、例えば図6の樹脂層17と基材15の界面や図9の基材15と接着層18の界面で、一部反射し、視認性を低下させることもある。無機粒子を含有し、光透過性を下げ、光を散乱させることで、視認性の低下を防ぐこともできる。
【0097】
また、凹凸層を安価で簡便に得るためには、ナノインプリント法で作製することが望ましい。上記粒径及び添加量の範囲であれば、ナノインプリント法で作製する際に粒子の脱落を防ぐことができ、モールドの汚染を防ぐことができる。モールドは高価であるため、汚染を防ぐことができればコスト削減に貢献できる。上記粒径及び添加量の範囲であれば、モールド以外への脱落による汚染や塗膜が脆くなることも防ぐことができる。
さらには凹凸層の糊付け性も良好となり、接着層を用いる場合と比べ接着強度は劣るものの、発色構造体を被着体へ容易に貼り付けることができる。
【0098】
(2)凹凸層に含まれる無機粒子の粒径が、第1方向の線幅の3%以上であるとよい。この構成によれば、粒子の散乱効果や透過光の吸収効果を十分に得ることができ、発色構造体の長期保存後の色相変化を防ぐことができる。
【0099】
(3)凹凸層が、カーボンブラックを含む構成であれば、凹凸層が可視光領域において広い波長域の光を吸収可能であるため、光透過性をさらに抑えることができ、耐候性も良好である。この結果、発色構造体の長期保存後の色相変化をさらに防ぐことができる。上記凹凸層と接する下の層との界面の反射も防ぐことができるため、視認性の低下を防ぐこともできる。
【0100】
(4)凹凸層が、チタンブラックを含む構成であれば、凹凸層が可視光領域において広い波長域の光を吸収可能であるため、光透過性をさらに抑えることができる。このため、発色構造体の長期保存後の色相変化をさらに防ぐことができる。上記凹凸層と接する下の層との界面の反射も防ぐことができるため、視認性の低下を防ぐこともできる。チタンブラックは、紫外光の透過性があるため、光ナノインプリントにより凹凸層を形成することが可能である。
【0101】
(5)入射光に対する可視光透過率が15%以下であれば、上記凹凸層と接する下の層との界面の反射も防ぐことができるため、視認性の低下を防ぐこともできる。
【0102】
(6)基材15の表面を覆う樹脂層17に、凹凸構造が形成されている構成であれば、基材15の材料の選択についての自由度が高まり、また、凹凸構造の形成に、微細な凹凸の形成に適したナノインプリント法の適用が可能である。
【0103】
(7)接着層18を備えることで、被着体へ容易に固定することができる。接着層18がヒートシール性を有している構成であれば、発色シート40がラミネート加飾工法を用いて被着体51の表面へ固定される際に、接着層18を被着体51に接触させて発色シート40と被着体51とを一体化することにより、発色シート40と被着体51とが好適に接着される。したがって、ラミネート加飾工法を用いて被着体51の表面へ固定される発色シート40として好適な構成が実現される。
【0104】
(8)表示体が複数の表示要素を備えることで、表示体としてあらゆる分野に使用することが可能となる。
【0105】
(9)ナノインプリント法を用いて凹凸層の凹凸構造が形成される製造方法によれば、微細な凹凸構造を好適に、かつ、簡便に形成することができる。そして、ナノインプリント法として、光ナノインプリント法若しくは熱ナノインプリント法が用いられる製造方法であれば、ナノインプリント法による凹凸構造の形成が、好適、かつ、簡便に実現される。
【0106】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・接着層18は多層膜層16の上に設けられてもよい。ただし、凹凸層の透過性が低い場合には、凹凸層側から多層膜層16を視認するのが難しいため、接着層18は基材15の凹凸層とは反対側の面に設けられることが望ましい。
・基材15は別の基材や材料などに貼り合わせられていてもよい。例えば基材15の下に接着層を介して別の基材を貼り合せることができる。1種の基材では発現できない性能を、複数種の材料を組み合わせることで達成することができる。
・多層膜層16の上に複数の保護層などの機能層が設けられてもよい。1層で付与することが難しい性能を複数の層を組み合わせることで、発現することができる。ただし、保護層が保存により劣化した場合、色相変化を生じてしまうため、材料などに制約がある。
【0107】
・表示体30が含む画素には、上記仮想平面にて凹凸層における凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素が含まれてもよい。具体的には、任意の画素での凸部の延びる方向である第2方向Dyと、この画素とは異なる画素での凸部の延びる方向である第2方向Dyとが、異なる方向であり、例えばこれらの方向が直交する構成であってもよい。こうした構成によれば、画素によって、多層膜層16からの反射光が拡散される方向を変えることが可能であり、多彩な像の表現が可能である。
【0108】
なお、多層膜層16は、凹凸層における凸部の側面にも成膜されるため、多層膜層16における凹凸構造の凸部の幅は、凹凸層における凸部の幅よりもやや広がる。凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素が相互に隣接する部分において、延びる方向の異なる凸部の間で多層膜層16における上述のように広がった部分が連なり、多層膜層16における凹凸構造に崩れが生じると、各画素から所望の発色が所望の方向に得られ難くなる。そのため、凹凸構造の延びる方向が互いに異なる画素の間には、凹凸層に凹凸が形成されていない領域が設けられていることが好ましい。また、延びる方向が同一の凹凸構造を有する画素間においても、凹凸層に凹凸が形成されていない領域が設けられていてもよく、こうした構成によれば、多層膜層16の広がりに起因した凹凸構造の崩れが画素の端部にて抑えられ、各画素の全体から所望の発色が得られやすくなる。画素間に設けられる凹凸が形成されていない領域の幅は、例えば、多層膜層16の膜厚の1/2以上であることが好ましい。
【0109】
・凹凸層の凹凸構造を構成する凸部は、基部から頂部に向かって第1方向Dxの幅が徐々に小さくなる構成を有していてもよい。こうした構成によれば、凸部に多層膜層16が成膜されやすくなる。この場合、第1方向Dxの長さd1や長さd3は、凸部の底面が構成するパターンにて規定される。
・凹凸層における凹凸構造の第1の構造にて凸部15aの投影像が構成するパターン、及び、第2の構造にて第1凸部要素15Eaの投影像が構成するパターンを構成する図形は、矩形に限られない。これらのパターンを構成する図形は、長円等であってもよく、要は、第2方向Dyに沿った長さが第1方向Dxに沿った長さ以上である形状を有する図形要素であればよい。そして、図形要素における第1方向Dxの長さd1と第2方向Dyの長さd2とが、第1の構造の説明にて述べた各種の条件を満たしていればよい。
【0110】
・多層膜層16における最外層、すなわち、多層膜層16における凹凸層とは反対側の最表面を構成する層が、保護層として機能してもよい。そして、保護層として機能する層は、保護層よりも下層における凹凸構造の変形や変質等の、発色構造体において所望の発色を得られ難くする変化を、少なくとも1つの観点において抑えることができればよい。
【0111】
具体的には、多層膜層16における最外層は、多層膜層16における最外層以外の層とは異なる特性を有することによって、保護層として機能する。こうした特性は、構造的な特性であっても化学的な特性であっても物理的な特性であってもよく、例えば、硬さ、厚さ、凹凸の高さ、撥水性等である。例えば、最外層における硬さが他の層よりも大きい構成や、最外層における厚さが他の層よりも大きい構成であれば、最外層は他の層よりも衝撃に強くなるため、最外層よりも下層の凹凸構造が保護される。また、最外層における凹凸の高さが他の層よりも小さく、すなわち、最外層における平坦性が他の層よりも高い構成であれば、多層膜層16の表面の凹凸の高さが小さくなることにより、衝撃が凹凸の変形を引き起こし難くなる。このため、最外層よりも下層の凹凸構造が保護される。
【0112】
なお、多層膜層16における最外層が最外層以外の層と異なる特性を有する場合であっても、多層膜層16全体としては、凹凸層の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、凹凸層の凹凸構造における凹凸の配置に対応する配置の凹凸を有し、多層膜層16は、多層膜層16に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高いように構成される。
【実施例
【0113】
次に、上述した発色構造体及びその製造方法について、具体的な実施例を用いて説明する。
【0114】
<実施例1>
実施例1は、発色構造体が画素に適用された表示体である。実施例1の表示体が有する画素は、基材に第1の構造の凹凸構造が形成された発色構造体から構成される。
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールドを用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。画素となる領域は、一辺が130mmの正方形であり、第1方向における上記矩形の長さは350nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2300nm、標準偏差が560nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
【0115】
次に、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去し、離型剤としてオプツールHD-1100(ダイキン工業製)を塗布し、凹凸構造が形成されたモールド1を得た。
【0116】
続いて、モールドから凹凸構造を転写するための塗液を用意した。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。開始剤を除いた塗液を、ボールミルを用いて、ジルコニアボール0.1mmとともに200rpmで3時間攪拌した。攪拌後に希釈した開始剤を添加し、3分間攪拌した。その後、ろ過し、ジルコニアボールを取り除くことで、下記の塗液-1を得た。
【0117】
「塗液-1」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
61.8質量部
シリカ(商品名:QSG-80、信越化学製) 2.0質量部
粒径:80nm、線幅に対する粒径:23%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 33.8質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 固形分50% 2.4質量部(固形分1.2質量部)
【0118】
塗液-1をモールド1上に50μm塗布し、80℃3分で乾燥した後、窒素パージ環境下で365nmの光を3000mJ/cm照射し硬化した。その後、モールドから剥離した。凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が50nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が85nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
実施例1の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青緑色が視認性よく確認された。
【0119】
<実施例2>
塗液を下記の塗液-2に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2の発色構造体を得た。実施例2の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青緑色が視認性よく確認された。
【0120】
「塗液-2」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
36.8質量部
シリカ(商品名:QSG-80、信越化学製) 12.5質量部
粒径:80nm、線幅に対する粒径:23%、添加量:25質量%
メチルエチルケトン 49.3質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 Nv50% 1.4質量部(固形分0.7質量部)
【0121】
<実施例3>
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールドを用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。画素となる領域は、一辺が130mmの正方形であり、第1方向における上記矩形の長さは460nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が3600nm、標準偏差が640nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
【0122】
次に、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去し、離型剤としてオプツールHD-1100(ダイキン工業製)を塗布し、凹凸構造が形成されたモールド2を得た。
【0123】
続いて、モールドから凹凸構造を転写するための塗液を用意した。開始剤を除いた塗液を、ボールミルを用いて、ジルコニアボール0.1mmとともに200rpmで3時間攪拌した。攪拌後に希釈した開始剤を添加し、3分間攪拌した。その後、ろ過し、ジルコニアボールを取り除くことで、下記の塗液-3を得た。
【0124】
「塗液-3」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
61.8質量部
シリカ(商品名:EP-M2130Y、固形分30%、日産化学製)6.5質量部
粒径:12nm、線幅に対する粒径:3%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 29.3質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 Nv50% 2.4質量部(固形分1.2質量部)
【0125】
塗液-3をモールド2上に50μm塗布し、80℃3分で乾燥した後、窒素パージ環境下で365nmの光を3000mJ/cm照射し硬化した。その後、モールドから剥離した。凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が80nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が110nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これにより、実施例3の発色構造体が得られた。実施例3の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、赤色が視認性よく確認された。
【0126】
<実施例4>
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールドを用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。画素となる領域は、一辺が130mmの正方形であり、第1方向における上記矩形の長さは300nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2000nm、標準偏差が500nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
【0127】
次に、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去し、離型剤としてオプツールHD-1100(ダイキン工業製)を塗布し、凹凸構造が形成されたモールド3を得た。
続いて、モールドから凹凸構造を転写するための塗液を用意した。開始剤を除いた塗液を、ボールミルを用いて、ジルコニアボール0.1mmとともに200rpmで3時間攪拌した。攪拌後に希釈した開始剤を添加し、3分間攪拌した。その後、ろ過し、ジルコニアボールを取り除くことで、下記の塗液-4を得た。
【0128】
「塗液-4」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
60.0質量部
カーボンブラック(商品名:デンカブラック Li Li-250、デンカ製)
2.0質量部
粒径:35nm、線幅に対する粒径:12%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 32.0質量部
アゾ系重合開始剤(商品名:2、2‘-Azobis-2-methylbutyronitrile、大塚化学製)
メチルエチルケトン希釈 Nv50% 6.0質量部(うち固形分3.0質量部)
【0129】
塗液-4をモールド3上に50μm塗布し、120℃で4時間硬化した。その後、モールドから剥離した。凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が40nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が75nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これにより、実施例4の発色構造体が得られた。
実施例4の発色構造体を多層膜の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青色が視認性よく確認された。
【0130】
<実施例5>
実施例1と同様の混練方法にて作製した、下記の塗液-5を用いて、モールド2上に50μm塗布し、120℃で4時間硬化した。その後、モールドから剥離した。凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が80nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が110nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これにより実施例5の発色構造体を得た。実施例5の発色構造体を多層膜の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、赤色が視認性よく確認された。
【0131】
「塗液-5」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
60.0質量部
カーボンブラック(商品名:旭#95、旭カーボン製) 2.0質量部
粒径:17nm、線幅に対する粒径:4%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 32.0質量部
アゾ系重合開始剤(商品名:2、2‘-Azobis-2-methylbutyronitrile、大塚化学製)
メチルエチルケトン希釈 Nv50% 6.0質量部(固形分3.0質量部)
【0132】
<実施例6>
実施例1と同様の混練方法にて作製した塗液-6を用いて、モールド3上に50μm塗布し、80℃3分で乾燥した後、窒素パージ環境下で365nmの光を3000mJ/cm照射し硬化した。その後、モールドから剥離した。凹凸を有する表面に、真空蒸着によって、膜厚が40nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が75nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
これにより実施例6の発色構造体を得た。実施例6の発色構造体を多層膜の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青色が視認性よく確認された。
【0133】
「塗液-6」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
61.8質量部
チタンブラック(商品名:13M-T、三菱マテリアル製) 2.0質量部
粒径:67nm、線幅に対する粒径:22%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 33.8質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 固形分50% 2.4質量部(うち固形分1.2質量部)
【0134】
<実施例7>
実施例7は、発色構造体が適用された発色シート、及び、この発色シートを用いた成形体である。実施例7の発色シートは、基材上の樹脂層に第2の構造の凹凸構造が形成された発色構造体から構成される。
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールドを用意した。具体的には、光ナノインプリント法において照射する光として、365nmの波長の光を用いたため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料として用いた。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図2に示した複数の矩形の集合からなるパターンである。第1方向における上記矩形の長さは350nmであり、第2方向における上記矩形の長さは、平均値が2300nm、標準偏差が560nmの正規分布から選択される長さである。上記パターンにおいて、複数の矩形は第1方向に重ならないように配列されている。使用したレジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
【0135】
続いて、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは70nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去することにより、第1構造に対応する凹凸構造が形成された合成石英基板を得た。
【0136】
次に、上記凹凸構造が形成された合成石英基板の表面に、Crからなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによって電子線レジストパターンをCr膜上に形成した。形成したパターンは、図4に示した複数の帯状領域からなるパターンである。第1方向における上記帯状領域の長さは350nmであり、第2方向における上記帯状領域の長さは94μmであり、第1方向の長さが40μmかつ第2方向の長さが94μmである矩形領域ごとに、第1方向における配列間隔を、平均値が1.5μm、標準偏差が0.5μmとして上記帯状領域が配列されている。使用した電子線レジストはポジ型であり、膜厚は200nmとした。
【0137】
続いて、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。これによりエッチングした合成石英基板の深さは65nmであった。残存したレジスト及びCr膜を除去した後、合成石英基板の表面に、離型剤としてオプツールHD-1100(ダイキン工業製)を塗布した。これにより、第2構造に対応する凹凸構造が形成されたモールドを得た。
【0138】
次に、片面に易接着処理が施されたポリエステルフィルム(コスモシャインA4100、東洋紡製)の易接着処理が施された面に、実施例1と同様の方法にて混練した下記の塗液-7を塗布し、この樹脂にモールドの凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を3000mJ/cm照射した。この光の照射によって光硬化性樹脂を硬化した後、ポリエステルフィルム及び樹脂層をモールドから剥離した。これにより、第2の構造の凹凸構造を有する樹脂層が積層された基材であるポリエステルフィルムが得られた。なお実施例7では、塗液はモールドとポリエステルフィルムに挟まれており、硬化阻害が生じづらいため窒素パージをしなくても、硬化することができる。
【0139】
「塗液-7」
EO変性ビスフェノールAジアクリレート(商品名:ライトアクリレートBP-10EA、共栄社化学製)
47.5質量部
N-ビニル-2-ピロリドン 47.5質量部
シリカ(商品名:QSG-80、信越化学製) 3.0質量部
粒径:80nm、線幅に対する粒径:23%、添加量:3質量%
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
1.9質量部
【0140】
次に、得られた基材と樹脂層との積層体の凹凸を有する面に、真空蒸着によって、膜厚が50nmである高屈折率層としてのTiO膜と、膜厚が85nmである低屈折率層としてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層と低屈折率層との組を5組、すなわち、10層の層を有する多層膜層を形成した。
続いて、基材の樹脂層とは反対側の面、すなわちポリエステルフィルムの樹脂層が塗布されていない側の面に、バーコート法を用いて4質量%程度のカーボンナノチューブ粉末を混合したアクリル系樹脂を塗布し、塗布層を80℃で2分間乾燥させて、膜厚が50μm程度の接着層を形成した。これにより、実施例7の発色シートが得られた。
【0141】
実施例7の発色シートを、三次元オーバーレイラミネーション工法を用いて、ポリカーボネート製の被着体と一体化させることによって、実施例7の成形体を得た。詳細には、発色シートの接着層を被着体に向けて成形機に設置して、成形機内を真空引きした後に160℃まで加熱し、発色シートと被着体とを接触させた。この状態で、発色シート側から大気圧まで加圧を行うことにより、発色シートと被着体とを一体化した。その後、発色シートのうちの不要な部分を切り取ることによって、発色シートで加飾された実施例7の成形体が得られた。
実施例7の成形体を観察したところ、発色シートの位置する部分に、光沢感のある青緑色が視認性よく確認された。
【0142】
<比較例1>
塗液を下記の塗液-8に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて比較例1の発色構造体を得た。比較例1の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青緑色が視認性よく確認された。
【0143】
「塗液-8」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
63.7質量部
メチルエチルケトン 33.7質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 固形分50% 2.6質量部(固形分1.3質量部)
【0144】
<比較例2>
塗液を下記の塗液-9に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて比較例2の発色構造体を得た。比較例2の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青緑色が視認性よく確認された。
【0145】
「塗液-9」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
34.3質量部
シリカ(商品名:QSG-80、信越化学製) 15.0質量部
粒径:80nm、線幅に対する粒径:23%、添加量:30質量%
メチルエチルケトン 49.3質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 固形分50% 1.4質量部(固形分0.7質量部)
【0146】
<比較例3>
塗液を下記の塗液-10に変更した以外は、実施例6と同様の方法にて比較例3の発色構造体を得た。比較例3の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青緑色が視認性よく確認された。
【0147】
「塗液-10」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
62.5質量部
シリカ(商品名:QSG-80、信越化学製) 1.3質量部
粒径:80nm、線幅に対する粒径:23%、添加量:2質量%
メチルエチルケトン 49.3質量部
光ラジカル重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM製)
メチルエチルケトン希釈 固形分50% 1.4質量部(固形分0.7質量部)
【0148】
<比較例4>
塗液を上記塗液-1に変更し、塗液の硬化条件を80℃3分で乾燥した後、窒素パージ環境下で365nmの光を3000mJ/cm照射に変更した以外は、実施例4と同様の方法にて比較例4の発色構造体を得た。比較例4の発色構造体の下に黒台紙を重ね、多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青色が視認性よく確認された。
【0149】
<比較例5>
塗液を下記の塗液-11に変更し、塗液の硬化条件を120度4時間に変更した以外は、実施例4と同様の方法にて比較例5の発色構造体を得た。比較例5を多層膜層の位置する側から観察したところ、画素の位置する領域に、青色が視認性よく確認された。
【0150】
「塗液-11」
ウレタンアクリル系樹脂(商品名:UV-7000B、日本合成化学製)
35.7質量部
カーボンブラック(商品名:HTC #SL SRF-LM、新日化カーボン製)
12.5質量部
粒径:75nm、線幅に対する粒径:25%、添加量:3質量%
メチルエチルケトン 48.2質量部
アゾ系重合開始剤(商品名:2、2‘-Azobis-2-methylbutyronitrile、大塚化学製)
メチルエチルケトン希釈 Nv50% 3.6質量部(固形分1.8質量部)
【0151】
「評価」
実施例1~7及び比較例1~5の発色シートにおいて、下記の色相変化、モールドの汚れ、糊付け性の評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、実施例7については、接着層を塗布する前の発色構造体において、色相変化、モールドの汚染の評価を行った。
・[色相変化の評価]
アイスーパーUV促進試験機SUV-Wl61(光源:メタルハライド式ランプ、フィルター:スーパーUV、岩崎電気製)を用いて、光照射20時間(65w/m、63℃50%)、休止4時間(0w/m)の24時間のサイクルを繰り返し、合計1920時間の耐候性試験を行った。暴露面は多層膜層側とした。試験前後の色相を紫外可視近赤外分光光度計UV3600(島津製作所製)で、入射角8度にて380~780nmの可視光領域での反射光測定を行った。分光反射スペクトルをXYZ 成分にわけ、L*a*b*表色系に変換し、耐候性試験前後の退色の度合いを色差にて算出した。
【0152】
ここで、以下の基準で、「○」は良好、「△」は実用上問題ないレベル、「×」は不良と判断している。
判断基準
○:ΔE≦3.2(A級許容差以上、一般的には同じ色と判断される)
△:3.2<ΔE≦6.5(B級許容差、印象レベルでは同じ色として扱える)
×:ΔE≧6.5 (C級許容差以下)
【0153】
・[モールドの汚染の評価]
作製したモールドから凹凸層を50枚作製した後に、モールドの汚れを目視及び走査型電子顕微鏡で判断した。
評価は、次の通りである。
○:良好。パターンの詰まりはなく、異物付着もほとんどない。
(ここで、微小な異物付着がほとんどないとは、観察範囲の面積に対し、異物付着面積が2%未満を意味する。)
×:不良。モールドに詰まりがある、又は異物付着が多い。
【0154】
・[糊付け性の評価]
多層膜層とは反対側の面、すなわち多層膜を蒸着していない側の表面に、スティック糊(固形アラビック、ヤマト製)を塗り、上質紙に貼り付けた。乾燥後の様子を観察した後に剥離をし、糊付け性を判断した。
評価は、次の通りである。
○:良好。剥離面は上質紙がやぶれた状態となっている。
△:実用上問題ないレベル。
剥離面の糊と上質紙の間で剥がれている部分もある。
×:不良。乾燥後に端部などのはがれが見られる。
剥離面は糊と上質紙の間で概ね剥がれている。
【0155】
【表1】
【0156】
表1の結果から、実施例1~7の発色構造体は長期保存後の色相変化が小さく、モールドの汚染がほとんど発生しないことがわかった。実施例1~6の発色構造体は、糊付け性も良好であることがわかった。
実施例4~6、比較例5の発色構造体は、色相変化が特に小さいことがわかった。また、裏面に黒色シートを用いなくとも、良好な視認性が確認された。
比較例1の発色構造体は、無機粒子を含有しないため、長期保存後に色相変化を生じた。比較例2の発色構造体は、無機粒子の添加量が大きいため、モールドの汚染が生じた。比較例3の発色構造体は、無機粒子の添加量が2%と小さいため、長期保存後の色相変化が生じた。比較例4、5の発色構造体は、粒径に対する線幅の比率が大きいため、モールドの汚染が生じた。
【符号の説明】
【0157】
Dx…第1方向、Dy…第2方向、10、11、12…凹凸構造体、15…基材、15a、15c…凸部、15b…凹部、15Ea…第1凸部要素、15Eb…第2凸部要素、16…多層膜層、16a…高屈折率層、16b…低屈折率層、17…樹脂層、18…接着層、20、21、22、23、24…発色構造体、30…表示体、30F…表面、30R…裏面、31A、31B…表示領域、32A、32B…画素、30…発色シート、40…成形体、51…被着体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10