(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】研削方法及び研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 47/22 20060101AFI20230808BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20230808BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B24B47/22
B24B49/10
B24B5/04
(21)【出願番号】P 2019081826
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-017749(JP,B1)
【文献】特開2010-139032(JP,A)
【文献】特開平01-252358(JP,A)
【文献】特開平07-256542(JP,A)
【文献】特開平05-162069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 47/22
B24B 49/10
B24B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性機能を有する砥石層をコアの外周に有する砥石車を回転させつつ、前記砥石層を工作物に接触させて前記砥石層の厚さ方向に変形させながら、前記工作物の研削を行う方法であって、
前記砥石層が前記厚さ方向に変形していない状態における前記砥石層の厚みを検出する厚み検出工程と、
前記厚み検出工程で検出された前記厚みに基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する変形量算出工程と、
前記砥石車を前記工作物に対し前記変形量分を切込んで前記工作物に対して前記一定の応力を与えて研削を行う研削工程と
、を有し、
前記変形量算出工程は、前記砥石層の変形量が、前記砥石層のヤング率、前記砥石層の厚み、及び、前記工作物に対して与える応力により表される関係を用いて、前記厚み検出工程で検出された前記厚み及び前記砥石層のヤング率に基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する、研削方法。
【請求項2】
前記変形量算出工程は、
前記工作物に対して低減可能な第1応力を与える前記砥石層の第1変形量を算出する第1変形量算出工程と、
前記工作物に対して前記第1応力よりも小さい第2応力を与える前記砥石層の第2変形量を算出する第2変形量算出工程と
を有し、
前記研削工程は、
前記砥石車を前記工作物に対し前記第1変形量分を切込んで研削を行う第1研削工程と、
前記第1研削工程の後、前記砥石車を前記工作物に対し前記第2変形量分を切込んで研削を行う第2研削工程と
を有する請求項1
に記載の研削方法。
【請求項3】
前記厚み検出工程は、
前記砥石車及び前記工作物の少なくとも一方を互いに接近する方向へ相対移動させて前記砥石車と前記工作物との接触を検出する接触検出工程と、
前記接触検出工程で接触が検出された時の前記砥石車と前記工作物との相対位置を示す接触位置情報を取得する接触位置取得工程と、
前記接触位置情報と、前記工作物の径情報と、前記コアの径情報とに基づいて、前記砥石層の厚みを算出する厚み算出工程と
を有する請求項1
又は2に記載の研削方法。
【請求項4】
前記研削工程は、前記工作物の撓み量に応じて前記砥石車の切込み量を補正する、請求項1乃至
3の何れか一項に記載の研削方法。
【請求項5】
弾性機能を有する砥石層をコアの外周に有する砥石車を有し、前記砥石車を回転させつつ、前記砥石層を工作物に接触させて前記砥石層の厚さ方向に変形させながら、前記工作物の研削を行う研削盤であって、
前記砥石層が前記厚さ方向に変形していない状態における前記砥石層の厚みを検出する厚み検出部と、
前記厚み検出部で検出された前記厚みに基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する変形量算出部と、
前記砥石車を前記工作物に対し前記変形量分を切込んで前記工作物に対して前記一定の応力を与えて研削を行う研削制御部と
、を備え、
前記変形量算出部は、前記砥石層の変形量が、前記砥石層のヤング率、前記砥石層の厚み、及び、前記工作物に対して与える応力により表される関係を用いて、前記厚み検出工程で検出された前記厚み及び前記砥石層のヤング率に基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する、研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削方法及び研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研削盤において、コアの外周に弾性砥石からなる砥石層を設けた砥石車を回転させつつ切込みを与えて、工作物をトラバースすることにより仕上げ研削が行われている(例えば、特許文献1等参照。)。この弾性砥石は、結合剤が弾性材料から構成された砥石である。そのため、砥石車を工作物に対して切込むことで砥石層が変形し、この変形した砥石層から工作物に応力が作用する状態でトラバースを行うことで、工作物の仕上げ研削が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、砥石車を用いて研削加工を繰り返すと、砥石層が摩耗して厚みが徐々に減少する。このため、工作物に対して同一量の切込みを行った場合、砥石層の厚みの減少に伴って、工作物に作用する応力が増加する。よって、砥石層が殆ど摩耗していない砥石車を使用した場合と、砥石層が相当程度に摩耗した砥石車を使用した場合とでは、仕上げ研削において砥石層から工作物に作用する応力の大きさに差が生じる。そして、仕上げ研削時に個々の工作物に作用する応力の大きさが異なると、表面粗さのばらつきが生じるという問題がある。すなわち、工作物に作用する応力が過小な場合は必要な表面粗さを得ることが出来ず、一方、応力が過大な場合は工作物表面に送りマークが目立つようになるという問題も発生しうる。
【0005】
本発明は、砥石車における砥石層の厚み変化の影響を排除して高精度な研削を行うことができる研削方法及び研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る研削方法は、弾性機能を有する砥石層をコアの外周に有する砥石車を回転させつつ、前記砥石層を工作物に接触させて前記砥石層の厚さ方向に変形させながら、前記工作物の研削を行う方法である。
【0007】
そして、本発明に係る研削方法は、前記砥石層が前記厚さ方向に変形していない状態における前記砥石層の厚みを検出する厚み検出工程と、前記厚み検出工程で検出された前記厚みに基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する変形量算出工程と、前記砥石車を前記工作物に対し前記変形量分を切込んで前記工作物に対して前記一定の応力を与えて研削を行う研削工程とを有し、前記変形量算出工程は、前記砥石層の変形量が、前記砥石層のヤング率、前記砥石層の厚み、及び、前記工作物に対して与える応力により表される関係を用いて、前記厚み検出工程で検出された前記厚み及び前記砥石層のヤング率に基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する。
【0008】
この方法によれば、工作物に対して一定の応力を与える砥石層の変形量を砥石層の厚みに基づいて算出し、砥石車を工作物に対して変形量分を切込んで研削を行うので、必要な一定の応力で高精度な研削を行うことができるという効果を奏する。
【0009】
本発明に係る研削盤は、弾性機能を有する砥石層をコアの外周に有する砥石車を有し、前記砥石車を回転させつつ、前記砥石層を工作物に接触させて前記砥石層の厚さ方向に変形させながら、前記工作物の研削を行う研削盤である。
【0010】
そして、本発明に係る研削盤は、前記砥石層が前記厚さ方向に変形していない状態における前記砥石層の厚みを検出する厚み検出部と、前記厚み検出部で検出された前記厚みに基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する変形量算出部と、前記砥石車を前記工作物に対し前記変形量分を切込んで前記工作物に対して前記一定の応力を与えて研削を行う研削制御部とを備え、前記変形量算出部は、前記砥石層の変形量が、前記砥石層のヤング率、前記砥石層の厚み、及び、前記工作物に対して与える応力により表される関係を用いて、前記厚み検出工程で検出された前記厚み及び前記砥石層のヤング率に基づいて、前記工作物に対して一定の応力を与える前記砥石層の変形量を算出する。
【0011】
この構成によれば、工作物に対して一定の応力を与える砥石層の変形量を砥石層の厚みに基づいて算出し、砥石車を工作物に対して変形量分を切込んで研削を行うので、必要な一定の圧力で高精度な研削を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る研削盤の全体構成を示す平面図である。
【
図2】実施形態に係る研削方法の全体の流れを示すフローチャートである。
【
図3】砥石層の厚みを検出する工程の流れを示すフローチャートである。
【
図4】砥石車と工作物との接触を検出する様子を模式的に示す平面図である。
【
図5】砥石車を工作物に対して砥石層の変形量分を切込んだ様子を模式的に示す平面図である。
【
図6】砥石車を工作物に対して砥石層の変形量分を切込んで仕上げ研削を行う様子を模式的に示す平面図である。
【
図7】変形例において砥石車の切込み量を工作物の撓み量で補正して切込んだ様子を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の工作物Wの磨きを行う(工作物Wの径が減少しない)研削方法及び研削盤の実施形態について図面を参照しつつ説明する。この磨きの前に、別の研削盤で工作物Wの径が減少する研削が行われ、研削終了時に工作物Wの径が磨きの研削盤に送られる。
(1.研削盤の全体構成)
本発明の研削方法が実行される研削盤1の実施形態の全体構成について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、研削盤1の全体構成を示す平面図である。研削盤1は、円筒研削盤であって、ベッド2に支持された工作物Wに対して砥石車11を相対移動させて研削加工を行う工作機械である。研削盤1は、砥石台10と、Z軸送り装置50と、工作物支持装置20と、X軸送り装置60と、制御装置40とを備えて構成される。
【0014】
砥石台10は、砥石車11と、砥石軸12とを有する。砥石台10には、工作物Wを研削する砥石車11を回転駆動させる砥石回転駆動装置15が設けられている。砥石軸12は、砥石台10に軸受を介して回転可能に支持され、上記の砥石回転駆動装置15によって所定の回転数で回転駆動される砥石車11の回転軸である。砥石軸12の先端部分に近い砥石台10の内部には、AEセンサ13が取り付けられ、制御装置40と電気的に接続されている。AEセンサ13は、工作物Wと砥石車11とが接触した際に発生する音波等、特有のアコースティックエミッション(以下、「AE」と称する)を検出するセンサである。
【0015】
また、砥石車11は、コア111および砥石層112により構成される。コア111は、本実施形態においては、円盤状に形成された鉄などの金属コアであって砥石軸12にボルト等により着脱可能に連結されている。砥石層112は、研削加工の際に工作物Wと接触する研削面112aを外周に形成する部位であって、結合剤が弾性材料から構成された超仕上げ加工用の弾性砥石からなる。砥石層112は、例えば、コア111の外周にダイヤモンドやCBN等の砥粒が熱硬化性樹脂等の結合剤(ボンド)により結合されて構成される。砥石層112は、例えば、弾性率が3000MPa、外径がφ300mm、厚さが10~32mm、粒度が♯1000のものを使用してもよい。結合剤は、二液硬化型樹脂でもよい。
【0016】
また、砥石台10は、ベッド2の上面に配置され砥石車11の中心軸AWに直交する方向に延びる図示しないガイドレール上に案内支持されている。Z軸モータ51と、図略のZ軸ボールねじとからなるZ軸送り装置50により、砥石車11は、ベッド2の上面と平行で且つ工作物Wの径方向であるZ軸方向(
図1の上下方向)に移動するようになっている。また、Z軸モータ51及び砥石回転駆動装置15は、制御装置40により砥石車11のZ軸方向への移動および砥石車11の回転数を制御される。
【0017】
工作物支持装置20は、円柱状の工作物Wの中心軸の回りに回転可能となるように、工作物Wの両端を支持する。工作物支持装置20は、テーブル21と、主軸台22と、心押台23と、チャック24と、センタ25とを有する。テーブル21は、研削盤1のベッド2の上面に配置され砥石車11の中心軸AWの方向に延びる図示しないガイドレール上に案内支持されている。X軸モータ61と、図略のX軸ボールねじとからなるX軸送り装置60により、テーブル21は、ベッド2の上面と平行で且つ工作物Wの軸方向であるX軸方向(
図1の左右方向)に移動するようになっている。
【0018】
主軸台22および心押台23は、テーブル21の上面に対向して配置され工作物Wの一端または他端をそれぞれ支持している。主軸台22には、主軸回転駆動装置26により回転する主軸27が備えられており、主軸27が回転駆動されることにより工作物Wが回転するように構成されている。また、主軸回転駆動装置26は、制御装置40により主軸27の回転数や回転位相などを制御される。主軸27には工作物Wの一端を把持するためのチャック24が設けられ、心押台23には工作物Wの他端を支持するセンタ25が設けられている。よって、工作物Wは、チャック24とセンタ25とによってテーブル21の移動方向(X軸方向)と平行な軸回りに回転可能に両端を支持されるとともに、主軸回転駆動装置26により回転駆動される。
【0019】
制御装置40は、加工プログラムの実行によって数値制御することで工作物Wを研削加工することができ、CPU、ROM、RAM、ハードディスク等を有するコンピュータを用いて構成されたCNC制御装置である。制御装置40は、X軸送り装置60やZ軸送り装置50、砥石軸12を回転駆動させる砥石回転駆動装置15、主軸27を回転駆動させる主軸回転駆動装置26が接続されていると共に、AEセンサ13等の各種センサが接続されており、各センサからの信号を処理すると共に各部を制御するものである。尚、制御装置40は、加工プログラム等を入力するための入力手段や、処理内容や処理状況等を出力するための出力手段(ともに図示せず)を更に備えている。
【0020】
(2.研削方法の流れ)
次に、本実施形態の研削方法について、
図2~
図6を参照しつつ説明する。
図2は、研削方法の全体の流れを示すフローチャートである。
図3は、砥石層112の厚みを検出する工程の流れを示すフローチャートである。
図4は、砥石車11と工作物Wとの接触を検出する様子を模式的に示す平面図である。
図5は、砥石車11を工作物Wに対して砥石層112の変形量分を切込んだ様子を模式的に示す平面図である。尚、
図5の破線は、切込みを行う前の接触位置における砥石車11の外形を示している。
図6は、砥石車11を工作物Wに対して砥石層112の変形量分を切込んでトラバース研削を行う様子を模式的に示す平面図である。
【0021】
本実施形態に係る研削方法は、研削盤1を用いて工作物Wに超仕上げ加工を施す方法であって、
図2のフローチャートに示すように、厚み検出工程S1(Sはステップを表す。他のステップも同様。)と、第1変形量算出工程S2と、第1仕上げ研削工程S3と、第2変形量算出工程S4と、第2仕上げ研削工程S5とを有する。厚み検出工程S1の前に工作物Wと、砥石車11をそれぞれ所定の回転速度で回転させる。尚、第1変形量算出工程S2と第2変形量算出工程S4とが本発明の変形量算出工程に相当し、第1仕上げ研削工程S3が研削工程及び第1研削工程に、第2仕上げ研削工程S5が研削工程及び第2研削工程にそれぞれ相当する。また、制御装置40は、厚み検出工程S1を実行することにより厚み検出部として、第1変形量算出工程S2及び第2変形量算出工程S4を実行することにより変形量算出部として、第1仕上げ研削工程S3及び第2仕上げ研削工程S5を実行することにより研削制御部としてそれぞれ機能する。
【0022】
厚み検出工程S1は、砥石車11における砥石層112の厚みを検出する工程である。厚み検出工程S1は、具体的には、
図3のフローチャートに示す流れで行われる。まずS11で、工作物Wが砥石車11に対向する位置でテーブル21を停止させた状態で、砥石車11を搭載した砥石台10を、所定の後退位置からZ軸方向に工作物Wに接近する側へ所定速度で前進移動させる。S12でAEが検出されたか否かを判定し、AEが検出されるまで(S12:No)、S11の前進移動が継続される。
【0023】
S12でAEが検出されると(S12:Yes)、砥石台10の前進移動を停止し、S13で、この時の機械座標MをZ軸モータ51に内蔵されたZ軸エンコーダから取得する。機械座標Mは、Z軸エンコーダから制御装置40に送られ、制御装置40によって管理される砥石台10のZ軸方向の現在の位置座標である。砥石台10のZ軸方向の現在の位置座標は、工作物Wの中心軸のZ軸方向の位置座標を0とすると、工作物Wの中心軸から砥石車11の中心軸AWまでの距離を表す値である。すなわち、工作物Wと砥石車11との接触により発生したAEをAEセンサ13によって検出することで、工作物Wとの接触を開始した位置を砥石車11の現在位置として特定することができる。AEセンサ13は、砥石台10側、特に砥石車11に近い位置に設けられているため、AEセンサ13は、AEを高精度に検出することができる。S13の後、砥石台10を所定量後退させる。
【0024】
続いて、S14で、砥石層112の厚みιを算出する。砥石層112の厚みιは、Z軸方向の機械座標をM、工作物径(工作物Wの半径)をD1(別の研削盤で研削したときの工作物Wの最終径を入力)、コア径(砥石車11のコア111の半径)をD2としたとき、これらの関係は
図4に示す通りである。すなわち、機械座標Mからコア径D2と工作物径D1とを差し引くことで砥石層112の厚みιが求められる。よって、砥石層112の厚みιは、ι=M-D2-D1で算出される。
【0025】
次に、S2の第1変形量算出工程で、厚み検出工程S1で検出された厚みιに基づいて、砥石車11が工作物Wに対して一定の第1応力を与える砥石層112の変形量λ1を算出する。第1応力σ1は、複数の工作物W間の表面粗さのばらつきを低減するための仕上げ研削用の応力値であり、制御装置40に入力し設定された値である。ここで、砥石層112のヤング率をΕ、応力をσ、ひずみ率をεとしたとき、ヤング率Εは、E=σ/εで表される。また、変形量をλ、砥石層112の厚みをιとしたとき、ひずみ率εは、ε=λ/ιで表される。そして、これら二つの式より、Ε=σ/(λ/ι)と表される。よって、第1変形量λ1は、第1応力σ1と砥石層112の厚みιとヤング率Εとを用いて、λ1=(σ1/E)×ιで算出される。
【0026】
続いて、S3の第1仕上げ研削工程では、第1変形量算出工程S2で算出した第1変形量λ1を砥石車11の切込み量として切込んで工作物Wにトラバース研削を実行する。すなわち、S13後に砥石車11を所定位置まで一旦後退させた後、所定の仕上げ切込み速度でZ軸方向に前進移動させて工作物Wに変形量λ1を切込んだ状態で(
図5参照)、テーブル21をX軸方向にトラバースさせて工作物Wの第1端P1と第2端P2との間で第1仕上げ研削を行う(
図6参照)。第1仕上げ研削工程S3では、一定の第1応力σ1でトラバース研削を行うので、工作物Wの表面粗さのばらつきが低減される。S3後、砥石台10を所定量後退させ、テーブル21をX軸方向にトラバースさせ、工作物Wの第1端P1に砥石車11の左端(左側の端面)に対応させる。この場合のトラバース研削は、1回のみである。しかも、テーブルの往動時に研削し、復動時に研削しない。
【0027】
次に、S4の第2変形量算出工程で、厚み検出工程S1で検出された厚みιに基づいて、砥石車11が工作物Wに対して一定の第2応力を与える砥石層112の変形量λ2を算出する。第2応力σ2は、送りマークを低減するための仕上げ研削用の応力値であり、制御装置40に入力し設定された値である。第2応力σ2は、第1応力よりも小さい値が設定される。第2変形量λ2は、第2応力σ2と砥石層112の厚みιとヤング率Εとを用いて、λ2=(σ2/E)×ιで算出される。第1応力σ1と第2応力σ2とは、σ2<σ1の関係であるため、第1変形量λ1と第2変形量λ2とはλ2<λ1の関係となる。
【0028】
続いて、S5の第2仕上げ研削工程では、第2変形量算出工程S4で算出した第2変形量λ2を砥石車11の切込み量として切込んで工作物Wにトラバース研削を実行する。すなわち、所定の仕上げ切込み速度でZ軸方向に前進移動させて工作物Wに変形量λ2を切込んだ状態で(
図5参照)、テーブル21をX軸方向にトラバースさせて工作物Wの第1端P1と第2端P2との間で第2仕上げ研削を行う(
図6参照)。第2仕上げ研削工程S5では、一定の第2応力σ2でトラバース研削を行うので、工作物W表面の送りマークが低減される。この場合のトラバース研削は、1回のみである。しかも、テーブルの往動時に研削し、復動時に研削しない。
【0029】
(3.まとめ)
上述したように、本実施形態によれば、工作物Wに対して一定の応力を与える砥石層112の変形量λを砥石層112の厚みιに基づいて算出し、砥石車11を工作物Wに対して変形量λ(λ1又はλ2)分を切込んで仕上げ研削を行うので、必要な一定の圧力で高精度な仕上げ研削を行うことができるという効果を奏する。
【0030】
また、本実施形態では、工作物Wに対して表面粗さのばらつきを低減可能な第1応力σ1を与える砥石層112の第1変形量λ1を算出する第1変形量算出工程S2と、工作物Wに対して第1応力σ1よりも小さく且つ送りマークを低減可能な第2応力σ2を与える砥石層112の第2変形量λ2を算出する第2変形量算出工程S4とを有している。さらに、砥石車11を工作物Wに対し第1変形量λ1分を切込んで仕上げ研削を行う第1仕上げ研削工程S3と、第1仕上げ研削工程S3の後、砥石車11を工作物Wに対し第2変形量λ2分を切込んで仕上げ研削を行う第2仕上げ研削工程S5とを有している。
【0031】
この方法によれば、第1仕上げ研削工程S3を実行することで、工作物Wの表面粗さのばらつきを低減し、さらに、第1仕上げ研削工程S3の後、第2仕上げ研削工程S5を実行することで、送りマークを低減することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態では、厚み検出工程S1が、砥石車11及び工作物Wの少なくとも一方を互いに接近する方向へ相対移動させて砥石車11と工作物Wとの接触をAEセンサ13により検出する接触検出工程S11~S12と、接触検出工程S11~S12で接触が検出された時の砥石車11と工作物Wとの相対位置を示す接触位置情報として機械座標Mを取得する接触位置取得工程S13と、接触位置情報(機械座標M)と、工作物Wの径情報(工作物径D1)と、コア111の径情報(コア径D2)とに基づいて、砥石層112の厚みιを算出する厚み算出工程S14とを有する。
【0033】
この方法によれば、研削盤1の既存の構成を利用して、砥石車11と工作物Wとを接触させた時に制御装置40より取得した機械座標Mと、制御装置40によって管理される工作物径D1及びコア径D2とに基づいて、砥石層112の厚みιを正確に算出することができる。
【0034】
(4.変形例)
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。上記実施形態では、第1変形量算出工程S2後に第1仕上げ研削工程S3を実施し、その後、第2変形量算出工程S4を実行する例を示したが、これには限られない。第1変形量算出工程S2と第2変形量算出工程S4とを実行した後、第1仕上げ研削工程S3と第2仕上げ研削工程S5とを実行するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、仕上げ研削工程として第1仕上げ研削工程S3と第2仕上げ研削工程S5との二段階で仕上げ研削を行う例を示したが、これには限られない。仕上げ研削は、第1仕上げ研削工程S3及び第2仕上げ研削工程S5の一方のみ実施してもよいし、各仕上げ研削工程で工作物に与える応力を目的に応じて変更して設定してもよい。さらに必要に応じて、工作物に与える応力の異なる別の仕上げ研削工程を加えて実施してもよい。
【0036】
また、工作物Wが圧延ロールのような長尺の円柱体であって砥石車11の切込みによって軸方向中間に撓みが生じる場合は、仕上げ研削工程(第1仕上げ研削工程S3及び第2仕上げ研削工程S5)において、工作物Wの撓み量tに応じて砥石車11の切込み量を補正するようにしてもよい。
図7は、変形例において砥石車11の切込み量を工作物Wの撓み量で補正して切込んだ様子を模式的に示す平面図である。
図7に示すように、砥石車11の変形量λ(λ1又はλ2)に工作物Wの撓み量tを加算した値λ+t(λ1+t又はλ2+t)を切込み量としてZ軸方向に切込みを行ってトラバース研削することで、より円滑な工作物W表面を得ることができる。この場合の工作物Wの撓み量tは、工作物Wの弾性率、長さ、径、及び応力が作用する長さ方向の位置に基づいて予め算出された値である。
【0037】
また、上記実施形態では、AEセンサ13を用いて砥石車11と工作物Wとの接触を検出する構成としたが、AEセンサ13以外の検出手段で接触検出を行うように構成してもよい。例えば、砥石軸12を回転駆動する砥石回転駆動装置15の駆動力の変化を電流計で検出して接触検出するようにしてもよい。或いは、主軸27を回転駆動する主軸回転駆動装置26の駆動力の変化を電流計で検出して接触検出するようにしてもよい。
【0038】
さらに、上記実施形態では、工作物Wを回転させて、工作物Wの外周を研削する円筒仕上げ研削について述べたが、円盤状の砥石車を水平軸線回り回転させ、平板状の工作物Wを水平方向に送る平面仕上げ研削にも上述した発明を適用できる。
【符号の説明】
【0039】
W…工作物、1…研削盤、11…砥石車、111…コア、112…砥石層、40…制御装置(厚み検出部、変形量算出部、研削制御部)、S1…厚み検出工程、S2…第1変形量算出工程(変形量算出工程)、S3…第1仕上げ研削工程(研削工程、第1研削工程)、S4…第2変形量算出工程(変形量算出工程)、S5…第2仕上げ研削工程(研削工程、第2研削工程)、S11~S12…接触検出工程、S13…接触位置取得工程、S14…厚み算出工程。