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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ボール螺子装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20230808BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F16H25/22 D
F16H25/24 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019082058
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020180625
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲也
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-226314(JP,A)
【文献】特開2002-106672(JP,A)
【文献】特開2006-112593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0223058(US,A1)
【文献】中国実用新案第202418466(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に螺子溝が形成された螺子軸と、
内周に螺子溝が形成されたボール螺子ナットと、
前記螺子軸の螺子溝と前記ボール螺子ナットの螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に配置された複数のボールとを備え、
前記ボール螺子ナットを径方向に貫通する取付孔に循環部材を取り付けることにより、前記ボール軌道の二点間を短絡して前記ボール軌道を転動する各ボールの無限循環を可能とする循環路を構成するボール螺子装置において、
前記循環部材における前記取付孔の内周面と対向する対向面は、前記内周面に圧接する突起部が形成された圧接領域と、前記循環部材が前記取付孔に対して隙間嵌めとなるように形成された非圧接領域とを含み、
前記非圧接領域は、前記対向面における前記圧接領域よりも前記ボール螺子ナットの少なくとも内周側の領域に設けられ
前記突起部における前記ボール螺子ナットの内周側に位置する当接面は、前記ボール螺子ナットの軸方向視で、該ボール螺子ナットの外周面に倣う湾曲形状に形成されたボール螺子装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボール螺子装置において、
前記突起部は、前記循環部材における前記ボール螺子ナットの軸方向両側及び周方向両側の少なくとも一方に形成されたボール螺子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール螺子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転舵軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する回転部材を備え、この回転部材の回転をボール螺子装置によって転舵軸の軸方向移動に変換することで、操舵機構に運転者の操舵を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)がある。こうしたEPSに用いられるボール螺子装置として、例えば特許文献1には、回転部材としてのプーリと一体回転するボール螺子ナットを備え、該ボール螺子ナットの内周に形成された螺子溝と転舵軸の外周に形成された螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボールを配置してなるものが開示されている。
【0003】
一般にボール螺子装置は、ボール軌道に設定された二点間を短絡する循環路を有している。そして、ボール軌道内を転動するボールは、この循環路を通過することにより、上記二点間を下流側から上流側へと移動し、無限循環する。特許文献1に記載のボール螺子装置では、ボール螺子ナットを径方向に貫通する取付孔に対して、ボール軌道からボールを掬い上げる機能及びボール軌道にボールを排出する機能を備えた循環部材、所謂デフレクタを取り付けることにより、上記循環路が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-155845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の構成では、循環部材はボール螺子ナットの取付孔内に挿入されるものであり、該取付孔内での循環部材の位置がずれた場合を想定すると、各ボールが循環路を通過する際の挙動に影響が及び、その円滑な循環が妨げられるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、ボールの円滑な循環を実現できるボール螺子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するボール螺子装置は、外周に螺子溝が形成された螺子軸と、内周に螺子溝が形成されたボール螺子ナットと、前記螺子軸の螺子溝と前記ボール螺子ナットの螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に配置された複数のボールとを備え、前記ボール螺子ナットを径方向に貫通する取付孔に循環部材を取り付けることにより、前記ボール軌道の二点間を短絡して前記ボール軌道を転動する各ボールの無限循環を可能とする循環路を構成するものにおいて、前記循環部材における前記取付孔の内周面と対向する対向面は、前記内周面に圧接する突起部が形成された圧接領域と、前記循環部材が前記取付孔に対して隙間嵌めとなるように形成された非圧接領域とを含み、前記非圧接領域は、前記対向面における前記圧接領域よりも前記ボール螺子ナットの少なくとも内周側の領域に設けられた。
【0008】
上記構成によれば、突起部が取付孔の内周面に圧接することで、取付孔内における循環部材の位置ずれを抑制できる。これにより、各ボールの円環な循環を実現できる。また、循環部材の対向面は、循環部材が取付孔に対して隙間嵌めの状態となる非圧接領域を含み、非圧接領域が圧接領域よりもボール螺子ナットの内周側に存在するため、循環部材を取付孔に対して径方向外側から取り付ける際において、圧接領域が取付孔に差し掛かるまでは、循環部材を取付孔に抵抗なく挿入できる。これにより、対向面に突起部を設けても、循環部材の取付孔への組み付け性が低下することを抑制できる。
【0009】
上記ボール螺子装置において、前記突起部は、前記循環部材における前記ボール螺子ナットの軸方向両側及び周方向両側の少なくとも一方に形成されることが好ましい。
上記構成によれば、取付孔内において、循環部材の位置がボール螺子ナットの軸方向及び周方向の少なくとも一方にずれることを好適に抑制できる。
【0010】
上記ボール螺子装置において、前記突起部における前記ボール螺子ナットの内周側に位置する当接面は、前記ボール螺子ナットの軸方向視で、該ボール螺子ナットの外周面に倣う湾曲形状に形成されることが好ましい。
【0011】
上記構成では、突起部は対向面に圧接するように形成されているため、循環部材を取付孔に対して径方向外側から取り付ける際において、突起部におけるボール螺子ナットの内周側に位置する当接面は、ボール螺子ナットの外周面における取付孔の周縁部に当接する。そして、当接面がボール螺子ナットの外周面に倣う湾曲形状に形成されているため、当接面は取付孔の周縁部に対して面接触する。そのため、突起部が取付孔の内周面に圧接する直前の循環部材の姿勢を安定させることができ、組付け性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボールの円滑な循環を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】(a)はアクチュエータ近傍のボール螺子ナットの軸方向に沿った断面図、(b)は循環部材近傍の拡大断面図。
図3】ボール螺子ナットの平面図。
図4】ボール螺子ナットの軸方向に沿った断面であって、図3のIV-IV線断面図。
図5】循環部材の斜視図。
図6】循環部材をボール螺子ナットの径方向外側から見た平面図。
図7】循環部材をボール螺子ナットの径方向内側から見た底面図。
図8】循環部材をボール螺子ナットの周方向から見た側面図。
図9】循環部材をボール螺子ナットの軸方向から見た側面図。
図10】循環部材の連結部における循環路の延伸方向と直交する断面であって、図6のX-X線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ボール螺子装置を電動パワーステアリング装置(EPS)に適用した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、運転者によるステアリングホイール2の操作に基づいて転舵輪3を転舵させる操舵機構4と、操舵機構4にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ5とを備えている。
【0015】
操舵機構4は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11に連結された転舵軸としてのラック軸12と、ラック軸12が往復動可能に挿通されるラックハウジング13と、ステアリングシャフト11の回転をラック軸12の往復動に変換するラックアンドピニオン機構14とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール2が位置する側から順にコラム軸11a、中間軸11b、及びピニオン軸11cを連結することにより構成されている。
【0016】
ラックハウジング13は、それぞれ円筒状に形成された第1ハウジング15と第2ハウジング16とを連結してなる。ラック軸12とピニオン軸11cとは、第1ハウジング15内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構14は、ラック軸12に形成されたラック歯17とピニオン軸11cに形成されたピニオン歯18とが噛合されることで構成されている。また、ラック軸12の両端には、タイロッド19が連結されており、タイロッド19の先端は、転舵輪3が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転がラックアンドピニオン機構14によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド19を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪3の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0017】
EPSアクチュエータ5は、駆動源であるモータ21と、モータ21の回転を伝達するベルト機構22と、ベルト機構22を介して伝達された回転をラック軸12の往復動に変換するボール螺子装置23とを備えており、第1ハウジング15と第2ハウジング16との連結部分に設けられている。そして、EPSアクチュエータ5は、モータ21の回転をベルト機構22を介してボール螺子装置23に伝達し、ボール螺子装置23にてラック軸12の往復動に変換することで操舵機構4にアシスト力を付与する。
【0018】
次に、EPSアクチュエータ5の構成について詳細に説明する。なお、以下では、説明の便宜上、ラック軸12におけるラックアンドピニオン機構14と反対側、すなわち図2の左側を軸方向一端側とし、ラックアンドピニオン機構14側、すなわち図2の右側を軸方向他端側とする。
【0019】
図2(a)に示すように、第1ハウジング15は、第1筒状部31と、第1筒状部31の軸方向一端側に形成された第1収容部32とを有している。第1収容部32は、第1筒状部31よりも大径の筒状に形成されている。第1収容部32には、その周壁の一部をモータ21が配置された側に膨出させた形状の膨出部33が形成されている。膨出部33の端壁には、ラック軸12の軸方向に貫通した挿入孔34が形成されている。
【0020】
第2ハウジング16は、第2筒状部36と、第2筒状部36の軸方向他端側に形成された第2収容部37とを有している。第2収容部37は、第2筒状部36よりも大径の円筒状に形成されている。第2収容部37には、第1ハウジング15の膨出部33を覆うカバー部38が形成されている。
【0021】
モータ21の回転軸41は、挿入孔34を介して膨出部33内に挿入されている。そして、モータ21は、回転軸41がラック軸12と平行になる姿勢で、ボルト42を介して第1ハウジング15に取り付けられている。
【0022】
ベルト機構22は、駆動プーリ51と、回転部材としての従動プーリ52と、ベルト53とを備えている。駆動プーリ51は、円筒状に形成されており、モータ21の回転軸41に対して同軸上で一体回転可能に連結されている。従動プーリ52は、円筒状に形成されており、駆動プーリ51と同じ軸方向位置でラック軸12の外周に回転可能に配置されている。従動プーリ52の軸方向他端側には、径方向内側に延出されたフランジ部54が形成されている。フランジ部54には、軸方向に貫通した複数の挿通孔55が形成されている。ベルト53は、ゴム等の弾性材料からなり、駆動プーリ51と従動プーリ52との間で所定の張力が発生するように巻き掛けられている。
【0023】
ボール螺子装置23は、螺子軸となるラック軸12と、ラック軸12の外周に同軸配置されたボール螺子ナット61と、ラック軸12とボール螺子ナット61との間に設けられた複数のボール62とを備えている。
【0024】
ボール螺子ナット61は、外径が異なる段付きの円筒状に形成されており、小径筒部63と、小径筒部63の軸方向他端側に設けられた大径筒部64とを有している。小径筒部63の外径は、大径筒部64の外径よりも小さく設定されている。小径筒部63の外周における軸方向一端寄りの位置には、その全周に亘って延びる円環状の固定溝65が形成されている。小径筒部63の外周には、固定溝65に密着するようにかしめられることにより円環状のリテーナ66が固定されるとともに、リテーナ66によって転がり軸受67が小径筒部63と大径筒部64との段差面に押し付けられた状態で固定されている。これにより、ボール螺子ナット61は、第1収容部32及び第2収容部37内で回転可能に支持されている。
【0025】
なお、転がり軸受67には、複列アンギュラ玉軸受が採用されており、その内部隙間が予め設定された隙間となるように、リテーナ66によって予圧が付与されている。また、転がり軸受67の両側には、断面L字状の保持器68がその外輪に隣接して配置されるとともに、保持器68には、ゴム等の弾性体69が第1ハウジング15及び第2ハウジング16との間でそれぞれ圧縮された状態で配置されている。
【0026】
大径筒部64の外径は、従動プーリ52の内径と略等しく設定されている。大径筒部64の軸方向他端面には、複数のボルト穴71が形成されている。また、大径筒部64の外周には、従動プーリ52が嵌合されている。そして、ボール螺子ナット61は、挿通孔55を介してボルト穴71にボルト72が螺着されることにより、従動プーリ52と一体回転可能に連結されている。
【0027】
ボール螺子ナット61の内周には、螺子溝73が形成されている。一方、ラック軸12の外周には、螺子溝73に対応する螺子溝74が形成されている。そして、螺子溝73,74が互いに対向することによって螺旋状のボール軌道R1が形成されている。ボール軌道R1内には、複数のボール62が螺子溝73,74に挟まれた状態で配置されている。つまり、ボール螺子ナット61は、ラック軸12の外周に各ボール62を介して螺合されている。これにより、各ボール62は、ラック軸12とボール螺子ナット61との間の相対回転に伴い、その負荷を受けつつ、ボール軌道R1内を転動する。そして、各ボール62の転動によってラック軸12とボール螺子ナット61との軸方向の相対位置が変位することにより、モータ21のトルクがアシスト力としてラック軸12に付与される。
【0028】
また、図2(b)に示すように、ボール螺子ナット61には、螺子溝73内の二箇所に設定された接続点P1,P2に開口する循環路R2が形成されている。そして、ボール軌道R1は、循環路R2により、その開口位置に対応する二つの接続点P1,P2間が短絡されている。したがって、ボール軌道R1内を転動して接続点P1又は接続点P2に到達した各ボール62は、循環路R2を通過することにより、接続点P2又は接続点P1に排出され、ボール軌道R1を下流側から上流側へと移動することで無限循環する。なお、循環路R2内では、各ボール62は、ボール軌道R1から循環路R2内に新たにボール62が進入することにより、それぞれ循環方向後方に隣接したボール62に押されて同循環路内を移動する。
【0029】
ここで、ボール螺子装置23では、循環路R2は、ボール螺子ナット61を径方向に貫通する取付孔82に対してボール軌道R1からボール62を掬い上げる機能及びボール軌道R1にボール62を排出する機能を備えた循環部材81を径方向外側から取り付けることにより構成されている。
【0030】
詳述すると、図3及び図4に示すように、循環部材81を装着するための取付孔82は、ボール螺子ナット61の大径筒部64に形成されている。取付孔82は、二つの接続点P1,P2に対応する位置に形成された貫通孔部83,84と、貫通孔部83,84間を接続する接続凹部85とを有している。なお、取付孔82は、ボール螺子ナット61の径方向視で、取付孔82の中心に関して点対称となるように形成されている。
【0031】
貫通孔部83,84は、それぞれボール螺子ナット61の内外を貫通する長円形状に形成されている。接続点P1,P2は、ボール螺子ナット61の軸方向において、その間に数巻き分の螺子溝73を挟む位置に設定されており、ボール軌道R1及び循環路R2により1系統の流通経路が形成されている。また、接続点P1,P2は、ボール螺子ナット61の周方向において互いにずれた位置に設定されており、貫通孔部83,84は、ボール螺子ナット61の周方向において互いにずれた位置に形成されている。
【0032】
接続凹部85は、貫通孔部83におけるボール螺子ナット61の周方向一端部分と貫通孔部84におけるボール螺子ナット61の周方向他端部分とを接続する直線の溝状に形成されている。接続凹部85は、ボール螺子ナット61の周方向中央部分に両側部分よりも深く形成された深溝部86を有している。つまり、接続凹部85は、ボール螺子ナット61の周方向に沿って中央部分が深くなる段付きの溝状に形成されている。一方、接続凹部85は、その延伸方向の全域に亘って略一定の深さとなるように形成されている。なお、接続凹部85の延伸方向は、ボール螺子ナット61の軸方向に対して傾斜している。
【0033】
図5図10に示すように、循環部材81は、貫通孔部83,84にそれぞれ挿入される一対の柱状部91,92と、これら柱状部91,92間を連結する連結部93とを有している。なお、循環部材81は、ボール螺子ナット61の径方向視で、その中心に関して点対称となるように形成されている。
【0034】
図6図7及び図8に示すように、各柱状部91,92は、貫通孔部83,84の断面形状に対応した断面長円形の柱状に形成されている。そして、各柱状部91,92には、ボール螺子ナット61の内周側に位置する挿入端部91a,92a側に開口するとともに、挿入端部91a,92aからボール螺子ナット61の外周側に位置する基端部91b,92b側に向って滑らかに湾曲しつつ延出されて連結部93に繋がる偏向孔94,95が形成されている。偏向孔94,95の内径は、ボール62の直径よりもやや大きく設定されている。また、図7図8及び図9に示すように、挿入端部91a,92aには、ボール軌道R1内を転動した各ボール62を偏向孔94,95に掬い上げるためのベロ部96,97が、ラック軸12の螺子溝74内に入り込むように突出して形成されている。
【0035】
図6図7及び図8に示すように、連結部93は、基端部91b,92bを連結するように柱状部91,92間に形成されている。連結部93は、ボール螺子ナット61の径方向視で、接続凹部85に挿入可能な略長方形状に形成されている。連結部93におけるボール螺子ナット61の内周側には、該ボール螺子ナット61の周方向に沿った幅が狭くなる狭小部98が形成されている。連結部93には、その長手方向に延びる連結孔99が形成されている。なお、連結部93の長手方向は、接続凹部85の延伸方向と略平行をなしており、ボール螺子ナット61の軸方向に対して傾斜している。図10に示すように、連結孔99の断面形状は、狭小部98側に開口するように一部が切り欠かれた円形に形成されている。また、連結孔99は、連結部93の長手方向に沿って直線状に延び、その両端が偏向孔94,95に連通されている。そして、循環路R2は、偏向孔94,95及び連結孔99によって構成されている。
【0036】
このように構成された循環部材81は、その柱状部91,92がそれぞれ対応する貫通孔部83,84に挿入されるとともに、その連結部93が接続凹部85に挿入されることにより、ボール螺子ナット61に取り付けられる。
【0037】
ここで、循環部材81における取付孔82の内周面82sと対向する対向面81sは、内周面82sに圧接するように形成された圧接領域と、循環部材81が取付孔82に対して隙間嵌めとなるように形成された非圧接領域とから構成されている。
【0038】
詳しくは、図3及び図4に示すように、取付孔82の内周面82sは、貫通孔部83,84の内周面83s,84sと、接続凹部85及び深溝部86の側面85s,86sとによって構成されている。図6及び図7に示すように、柱状部91,92は、貫通孔部83,84に挿入されるため、柱状部91,92の外周面91s,92sは、貫通孔部83,84の内周面83s,84sにそれぞれ対向する。また、連結部93におけるボール螺子ナット61の周方向両側の各側面93sは、接続凹部85の側面85sに対向し、狭小部98におけるボール螺子ナット61の周方向両側の側面98sは、深溝部86の側面86sに対向する。つまり、循環部材81の対向面81sは、柱状部91,92の外周面91s,92s及び接続凹部85及び深溝部86の側面85s,86sによって構成されている。
【0039】
図3及び図6に示すように、ボール螺子ナット61の径方向視で、柱状部91,92の外周面91s,92sが構成する長円は、貫通孔部83,84の内周面83s,84sが構成する長円よりも僅かに小さくそれぞれ形成されている。連結部93及び狭小部98の幅は、接続凹部85及び深溝部86の幅よりも僅かに小さくそれぞれ形成されている。つまり、ボール螺子ナット61の径方向視で、循環部材81の輪郭形状は、取付孔82の輪郭形状よりも一回り小さく形成されている。
【0040】
図5図9に示すように、柱状部91の外周面91sにおけるボール螺子ナット61の軸方向一端側、及び柱状部92の外周面92sにおけるボール螺子ナット61の軸方向他端側には、それぞれ突起部101,102が形成されている。つまり、突起部101,102は、循環部材81におけるボール螺子ナット61の軸方向両側に形成されている。突起部101,102は、それぞれボール螺子ナット61の周方向に延びる略長方形板状に形成されている。また、突起部101,102は、外周面91s,92sにおけるボール螺子ナット61の外周寄りに形成されている。突起部101,102の突出量は、柱状部91,92を貫通孔部83,84に挿入した状態で、突起部101,102のみが内周面83s,84sにそれぞれ圧接するように設定されている。
【0041】
また、図5図10に示すように、連結部93の各側面93sには、それぞれ突起部103,104が形成されている。つまり、突起部103,104は、循環部材81におけるボール螺子ナットの周方向両側に形成されている。そして、突起部101~104は、ボール螺子ナット61の径方向視で、循環部材81の外周に沿って非連続となるように間隔を空けている。突起部103,104は、連結部93の長手方向、すなわちボール螺子ナット61の軸方向に対して傾斜した方向に延びる略長方形板状に形成されている。また、突起部103,104は、各側面93sにおけるボール螺子ナット61の径方向中央付近に形成されている。突起部103,104の突出量は、連結部93を接続凹部85に挿入した状態で、突起部103,104のみが各側面85sに圧接するように設定されている。
【0042】
これにより、循環部材81を取付孔82に取り付けた状態で、突起部101~104がそれぞれ内周面83s,84s及び各側面85sに圧接し、循環部材81の対向面81sにおける突起部101~104が形成された領域以外の領域は、取付孔82の内周面82sに対して隙間嵌めされた状態となる。つまり、循環部材81の対向面81sにおける突起部101~104が形成された領域が圧接領域となり、対向面81sにおける突起部101~104が形成された領域以外の領域が非圧接領域となる。そして、非圧接領域は、圧接領域よりも対向面81sにおけるボール螺子ナット61の内周側、外周側及びボール螺子ナット61の周方向両側の各領域に設けられている。
【0043】
また、突起部101~104は、上記のように内周面83s,84s及び各側面85sに圧接するように形成されている。そのため、循環部材81を取付孔82に対して径方向外側から取り付ける際において、突起部101~104におけるボール螺子ナット61の内周側に位置する当接面101s~104sは、ボール螺子ナット61における大径筒部64の外周面61sにおける取付孔82の周縁部に当接する。そして、本実施形態では、図9に示すように、突起部101~104の当接面101s~104sは、ボール螺子ナット61の軸方向視で、ボール螺子ナット61の外周面61sに倣う円弧状に形成されている。なお、当接面101s~104sは、ボール螺子ナット61の中心からの距離が互いに同一となるように形成されている。これにより、当接面101s~104sは、それぞれ外周面61sにおける取付孔82の周縁部に対して面接触する。
【0044】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)循環部材81の対向面81sに、取付孔82の内周面82sに圧接する突起部101~104が形成された圧接領域と、循環部材81が取付孔82に対して隙間嵌めとなるように形成された非圧接領域とを設けた。そのため、突起部101~104が取付孔82の内周面82sに圧接することで、取付孔82内における循環部材81の位置ずれを抑制できる。これにより、各ボール62の円環な循環を実現できる。また、非圧接領域を圧接領域よりも対向面81sにおけるボール螺子ナット61の少なくとも内周側の領域に設けたため、循環部材81を取付孔82に対して径方向外側から取り付ける際において、圧接領域、すなわち突起部101~104が取付孔82に差し掛かるまでは、循環部材81を取付孔82に抵抗なく挿入できる。これにより、対向面81sに突起部101~104を設けても、循環部材81の取付孔82への組み付け性が低下することを抑制できる。
【0045】
(2)突起部101,102を循環部材81におけるボール螺子ナット61の軸方向両側に設け、突起部103,104を循環部材81におけるボール螺子ナット61の周方向両側に形成したため、取付孔82内において、循環部材81の位置がボール螺子ナット61の軸方向及び周方向にずれることを好適に抑制できる。
【0046】
(3)突起部101~104におけるボール螺子ナット61の内周側に位置する当接面101s~104sを、ボール螺子ナット61の軸方向視で、該ボール螺子ナット61の外周面61sに倣う円弧形状に形成した。そのため、循環部材81を取付孔82に対して径方向外側から取り付ける際において、当接面101s~104sは外周面61sにおける取付孔82の周縁部に対して面接触する。これにより、突起部101~104が取付孔82の内周面に圧接する直前の循環部材81の姿勢を安定させることができ、組付け性の向上を図ることができる。
【0047】
(4)突起部101~104は、ボール螺子ナット61の径方向視で、循環部材81の外周に沿って非連続となるように間隔を空けて設けられているため、例えば突起部101~104が循環部材81の外周に沿って連続する環状となるように形成される場合に比べ、循環部材81の取付孔82への組み付け性が低下することを好適に抑制できる。換言すると、循環部材81は、取付孔82の内周面82sに対し、対向面81sよりも面積の小さな突起部101~104のみで圧入されるため、対向面81sの全面を圧入する場合に比べ、循環部材81を取付孔82に組み付け易い。
【0048】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、当接面101s~104sのボール螺子ナット61の中心からの距離が互いに異なるように形成してもよい。
【0049】
・上記実施形態において、当接面101s~104sの少なくとも1つを、例えばボール螺子ナット61の外周面61sの接線に平行な平面状に形成してもよく、その形状は適宜変更可能である。
【0050】
・上記実施形態では、突起部101~104を略長方形状に形成したが、例えば略三角形状に形成してもよく、その形状は適宜変更可能である。
・上記実施形態において、非圧接領域が圧接領域よりも対向面81sにおけるボール螺子ナット61の少なくとも内周側の領域に設けられれば、循環部材81に形成する突起部の数や配置は適宜変更可能である。例えば、循環部材81の柱状部91,92に突起部101,102を形成し、連結部93に突起部103,104を形成しなくてもよく、逆に循環部材81の連結部93に突起部103,104を形成し、柱状部91,92に突起部101,102を形成しなくてもよい。また、例えば柱状部91の外周面91sにおけるボール螺子ナット61の軸方向両側にそれぞれ突起部を形成してもよい。さらに、循環部材81に突起部を1つだけ形成してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、ボール螺子ナット61に1つの循環部材81を装着することで1系統の流通経路を形成したが、これに限らず、ボール螺子ナット61に複数の循環部材を装着し、独立した複数系統の流通経路を形成してもよい。この場合、ボール螺子ナット61に設定される接続点P1,P2の軸方向位置に応じて、循環部材81が連結部93を備えず、単一の柱状部のみからなる構成とすることができる。
【0052】
・上記実施形態では、ボール螺子装置23をEPS1に適用したが、これに限らず、例えば運転者により操舵される操舵ユニットと、運転者の操舵に応じて転舵輪3を転舵させる転舵ユニットとの間の動力伝達が分離したステアバイワイヤ式の操舵装置の転舵ユニットに適用してもよい。また、ボール螺子装置を操舵装置以外の用途に用いてもよい。
【0053】
次に、上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記突起部は、前記ボール螺子ナットの径方向視で、前記循環部材の外周に沿って非連続となるように間隔を空けて前記対向面に複数形成されたボール螺子装置。上記構成によれば、ボール螺子ナットの径方向視で、例えば突起部が循環部材の外周に沿って連続する環状となるように形成される場合に比べ、循環部材の取付孔への組み付け性が低下することを好適に抑制できる。換言すると、循環部材は、取付孔の内周面に対し、循環部材の対向面よりも面積の小さな突起部のみで圧入されるため、対向面の全面を圧入する場合に比べ、循環部材を取付孔に組み付け易い。
【0054】
(ロ)軸方向に往復動可能に設けられた転舵軸と、前記転舵軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する回転部材と、前記転舵軸を螺子軸とする上記いずれかのボール螺子装置とを備えた電動パワーステアリング装置。
【符号の説明】
【0055】
R1…ボール軌道、R2…循環路、1…EPS、12…ラック軸、21…モータ、22…ベルト機構、23…ボール螺子装置、52…従動プーリ、61…ボール螺子ナット、61s…外周面、62…ボール、73,74…螺子溝、81…循環部材、81s…対向面、82…取付孔、82s…内周面、83,84…貫通孔部、83s,84s…内周面、85…接続凹部、85s…側面、86…深溝部、86s…側面、91,92…柱状部、91s,92s…外周面、93…連結部、93s…側面、98…狭小部、98s…側面、101~104…突起部、101s~104s…当接面。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10