(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】練り製品用改質剤および練り製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20230808BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20230808BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20230808BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20230808BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20230808BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230808BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L17/00 101F
A23L17/00 101D
A23L13/00 A
A23L13/40
A23L13/60 A
A23L7/109 B
(21)【出願番号】P 2019105738
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018107948
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】川竹 紀義
(72)【発明者】
【氏名】富山 桂子
(72)【発明者】
【氏名】大貫 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田邊 友佳
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和歌子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-060431(JP,A)
【文献】特開2016-174587(JP,A)
【文献】国際公開第2005/032279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースオキシダーゼ
、グルタチオン
およびトランスグルタミナーゼを含有する、
食肉練り製品の物性の経時的な変化を抑制するための食肉練り製品用改質剤
であって、グルコースオキシダーゼ活性1Uあたりのグルタチオンの含有量の比([グルタチオンの含有量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が0.00001~1で、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するトランスグルタミナーゼの酵素活性比([トランスグルタミナーゼの酵素活性(U)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が0.00001~100であり、前記物性の経時的な変化が、食肉練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、改質剤。
【請求項2】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを含有する、請求項
1に記載の改質剤。
【請求項3】
魚肉練り製品用改質剤である、請求項
1または2に記載の改質剤。
【請求項4】
畜肉練り製品用改質剤である、請求項
1または2に記載の改質剤。
【請求項5】
グルコースオキシダーゼ
、グルタチオン
およびトランスグルタミナーゼを含有する、
穀物練り製品の物性の経時的な変化を抑制するための穀物練り製品用改質剤
であって、グルコースオキシダーゼ活性1Uあたりのグルタチオンの含有量の比([グルタチオンの含有量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が0.00001~1で、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するトランスグルタミナーゼの酵素活性比([トランスグルタミナーゼの酵素活性(U)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が0.00001~100であり、前記物性の経時的な変化が、穀物練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、改質剤。
【請求項6】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを含有する、請求項
5に記載の改質剤。
【請求項7】
グルコースオキシダーゼ
を食肉1gあたり0.01U~10U、グルタチオ
ンを食肉1重量部あたり0.00005重量部~0.05重量部、およびトランスグルタミナーゼを食肉1gあたり0.00001U~1Uとなるように添加することを含む、
物性の経時的な変化の抑制された食肉練り製品の製造方法
であって、前記物性の経時的な変化が、食肉練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、製造方法。
【請求項8】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
魚肉練り製品の製造方法である、請求項
7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
畜肉練り製品の製造方法である、請求項
7または8に記載の製造方法。
【請求項11】
グルコースオキシダーゼ
を穀粉1gあたり0.01U~10U、グルタチオ
ンを穀粉1重量部あたり0.00005重量部~0.05重量部、およびトランスグルタミナーゼを穀粉1gあたり0.00001U~1Uとなるように添加することを含む、
物性の経時的な変化の抑制された穀物練り製品の製造方法
であって、前記物性の経時的な変化が、穀物練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、製造方法。
【請求項12】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、請求項
11に記載の製造方法。
【請求項13】
グルコースオキシダーゼを食肉1gあたり0.01U~10U、グルタチオンを食肉1重量部あたり0.00005重量部~0.05重量部、およびトランスグルタミナーゼを食肉1gあたり0.00001U~1Uとなるように添加することを含む、食肉練り製品の物性の経時的な変化の抑制方法であって、前記物性の経時的な変化が、食肉練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、抑制方法。
【請求項14】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、請求項13に記載の抑制方法。
【請求項15】
魚肉練り製品の物性の経時的な変化の抑制方法である、請求項13または14に記載の抑制方法。
【請求項16】
畜肉練り製品の物性の経時的な変化の抑制方法である、請求項13または14に記載の抑制方法。
【請求項17】
グルコースオキシダーゼを穀粉1gあたり0.01U~10U、グルタチオンを穀粉1重量部あたり0.00005重量部~0.05重量部、およびトランスグルタミナーゼを穀粉1gあたり0.00001U~1Uとなるように添加することを含む、穀物練り製品の物性の経時的な変化の抑制方法であって、前記物性の経時的な変化が、穀物練り製品の原材料を混練した状態で保存することによるものである、抑制方法。
【請求項18】
グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、請求項17に記載の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉練り製品や穀物練り製品といった練り製品用改質剤、および該改質剤により改質された練り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハム、ソーセージ、ハンバーグ等の牛肉、豚肉等の畜肉を用いた畜肉練り製品、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、ハンペン等の魚肉を用いた魚肉練り製品等の食肉練り製品は、消費者に広く受け入れられており、良好な食感、高品質を有する製品が求められている。
食肉練り製品の品質を改善、向上させる技術も多く提案されており、たとえば、魚肉や豚肉、牛肉、羊肉等のくさみを改善するために、グルタチオンを添加して加工すること(特許文献1)、加熱工程や保存時に発生する歩留まりの低下、食感の硬化および食味の劣化を抑制する食肉用改質剤として、焼き塩に対し、グルタチオン、糖アルコールおよび澱粉誘導体を特定の重量比で含有する食肉用改質剤(特許文献2)、トランスグルタミナーゼおよび酸化還元酵素を添加して、喉ごしや歯ごたえ等の物性、食感に優れ、かつ好ましい色調および風味を呈するタンパク質含有食品を製造する方法(特許文献3)、かまぼこ等の水産練り製品、エビ加工食品等の水産加工品の物性を改善するために、グルコースオキシダーゼおよび金属含有酵母を添加して製造する方法(特許文献4)等が提案されている。
【0003】
しかし、食肉練り製品の製造に際し、製造ラインの停止や製造スケジュールの調整等により、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一時的に保存した場合に、食肉練り製品の物性が経時的に変化することが問題となっている。
【0004】
また、小麦粉等の穀粉を主な原材料として用いた穀物練り製品においても、たとえばトランスグルタミナーゼ等の酵素製剤を用いた改質が行われてきた(特許文献5~7)。
しかし、穀物練り製品の製造においても、その原材料を混練した状態で一時的に保存した場合に、穀物練り製品の物性が経時的に変化する現象が観察され、問題となっている。
【0005】
それゆえ、食肉練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、食肉練り製品の物性の経時的な変化を抑制し、食感や品質の低下を抑制することが望まれている。
同様に、穀物練り製品の製造時においても、製造ラインの停止その他の理由により、穀物練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際に、穀物練り製品の物性の経時的な変化を抑制し、食感や品質の低下を抑制することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-239867号公報
【文献】特許第4544160号公報
【文献】特許第3702709号公報
【文献】特許第6187467号公報
【文献】特開平2-286054号公報
【文献】特開平6-014733号公報
【文献】特開平4-360641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、食肉練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、食肉練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、食肉練り製品の食感および品質を良好に維持することのできる食肉練り製品用改質剤を提供することを目的とした。
また、本発明は、穀物練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、穀物練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、穀物練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、穀物練り製品の食感および品質を良好に維持することのできる穀物練り製品用改質剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食肉練り製品用改質剤に、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有させることにより、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存した際の物性の経時的な変化が抑制され、食肉練り製品の食感および品質が良好に維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者らは、穀物練り製品用改質剤においても、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有させることにより、穀物練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存した際の物性の経時的な変化が抑制され、穀物練り製品の食感および品質が良好に維持されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]食肉練り製品および穀物練り製品から選ばれる1種の練り製品用改質剤であって、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有する練り製品用改質剤。
[2]グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有する、食肉練り製品用改質剤。
[3]グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを含有する、[2]に記載の改質剤。
[4]グルコースオキシダーゼ活性1Uあたりのグルタチオンの含有量の比([グルタチオンの含有量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~10である、[2]または[3]に記載の改質剤。
[5]さらにトランスグルタミナーゼを含有する、[2]~[4]のいずれかに記載の改質剤。
[6]魚肉練り製品用改質剤である、[2]~[5]のいずれかに記載の改質剤。
[7]畜肉練り製品用改質剤である、[2]~[5]のいずれかに記載の改質剤。
[8]グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有する、穀物練り製品用改質剤。
[9]グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを含有する、[8]に記載の改質剤。
[10]グルコースオキシダーゼ活性1Uあたりのグルタチオンの含有量の比([グルタチオンの含有量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~10である、[8]または[9]に記載の改質剤。
[11]さらにトランスグルタミナーゼを含有する、[8]~[10]のいずれかに記載の改質剤。
[12]食肉練り製品および穀物練り製品から選ばれる1種の練り製品の製造方法であって、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを添加することを含む、練り製品の製造方法。
[13]グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを添加することを含む、食肉練り製品の製造方法。
[14]グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、[13]に記載の製造方法。
[15]グルコースオキシダーゼの添加量が食肉1gあたり、0.001U~100Uである、[13]または[14]に記載の製造方法。
[16]グルタチオンの添加量が食肉1重量部あたり、0.00001重量部~0.1重量部である、[13]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17]さらにトランスグルタミナーゼを添加することを含む、[13]~[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]トランスグルタミナーゼの添加量が食肉1gあたり、0.000001U~10Uである、[17]に記載の製造方法。
[19]魚肉練り製品の製造方法である、[13]~[18]のいずれかに記載の製造方法。
[20]畜肉練り製品の製造方法である、[13]~[18]のいずれかに記載の製造方法。
[21]グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを添加することを含む、穀物練り製品の製造方法。
[22]グルタチオンとして、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加することを含む、[21]に記載の製造方法。
[23]グルコースオキシダーゼの添加量が穀粉1gあたり、0.001U~100Uである、[21]または[22]に記載の製造方法。
[24]グルタチオンの添加量が穀粉1重量部あたり、0.00001重量部~0.1重量部である、[21]~[23]のいずれかに記載の製造方法。
[25]さらにトランスグルタミナーゼを添加することを含む、[21]~[24]のいずれかに記載の製造方法。
[26]トランスグルタミナーゼの添加量が穀粉1gあたり、0.000001U~10Uである、[25]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の食肉練り製品用改質剤により、食肉練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、食肉練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、食肉練り製品の食感および品質を良好に維持することができる。
また、本発明の穀物練り製品用改質剤により、穀物練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、穀物練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、穀物練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、穀物練り製品の食感および品質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試験例1において、魚肉練り製品のしなやかさについての官能評価結果を示す図である。
【
図2】
図2は、試験例1において、魚肉練り製品の硬さについての官能評価結果を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例1において、魚肉練り製品の嗜好性についての官能評価結果を示す図である。
【
図4】
図4は、試験例1において、魚肉練り製品の破断強度の測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、試験例1において、魚肉練り製品の破断距離の測定結果を示す図である。
【
図6】
図6は、試験例1において、魚肉練り製品の破断に要するエネルギー量の測定結果を示す図である。
【
図7】
図7は、試験例2において、ソーセージの破断強度の測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、試験例3において、うどん麺の硬さの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、食肉練り製品および穀物練り製品から選ばれる1種の練り製品用改質剤を提供する。
【0013】
本発明の一態様として、本発明は、食肉練り製品用改質剤を提供する。
本発明の食肉練り製品用改質剤は、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有する。
【0014】
本発明の「食肉練り製品用改質剤」とは、食肉練り製品の物性を改善するために、食肉練り製品の原材料に添加される組成物をいう。
ここで、「食肉練り製品」とは、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉等の畜肉を挽肉とし、塩、香辛料等を加えて混練した後、成形し、焼く、煮る、蒸す、揚げる、燻す等の加熱処理を行って得られる畜肉練り製品、および、スケソウタラ、タイ、シログチ等の白身の魚や、サメ、ナガヅカ、イカ、エビ等のすり身に塩、調味料等を加えて混練し、成形して、焼く、煮る、蒸す、揚げる、燻す等の加熱処理を行って得られる魚肉練り製品をいう。
また、上記畜肉練り製品や魚肉練り製品の調製において、原材料を混練し成形した後、加熱処理を行わずに冷凍保存し、加熱処理を行って食される練り製品も含まれる。
畜肉練り製品としては、ソーセージ、ハム、ハンバーグ、メンチカツ、ミートボール、ミートローフ、つくね等が挙げられ、魚肉練り製品としては、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、ハンペン、つみれ、エビ団子等が挙げられる。
本発明の食肉練り製品用改質剤は、好ましくは魚肉練り製品用改質剤または畜肉練り製品用改質剤として提供される。
【0015】
また、本発明の他の一態様として、本発明は、穀物練り製品用改質剤を提供する。
本発明の穀物練り製品用改質剤は、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを含有する。
【0016】
本発明の「穀物練り製品用改質剤」とは、穀物練り製品の物性を改善するために、穀物練り製品の原材料に添加される組成物をいう。
ここで、「穀物練り製品」とは、穀物を挽いて調製した穀粉に塩等の調味料、香辛料等、水を加えて混練して生地を調製し、該生地を細切、成形等して得られ、焼く、煮る、蒸す、揚げる等の加熱処理を行って食される練り製品、あるいは、調製された前記生地を細切、成形等した後に、さらに前記加熱処理を行って得られる練り製品をいう。
穀粉としては、小麦、ライ麦、大麦、麦芽、トウモロコシ、エンバク、米等のイネ科穀物;そば等の擬穀類;片栗、くず、タピオカ等のイモ類および根菜類;大豆、緑豆等の豆類等の穀物を挽いて得られる穀粉が挙げられる。
穀物練り製品としては、うどん、ひやむぎ、素麺、中華麺、そば、パスタ、ビーフン、フォー等の麺類、パン、ケーキ、マントウ等が挙げられる。
本発明の穀物練り製品用改質剤は、穀粉として、小麦粉を用いた練り製品用の改質剤として好ましく用いられ、また、麺類用の改質剤として好ましく用いられる。
【0017】
本発明の食肉練り製品用改質剤または穀物練り製品用改質剤(以下、本明細書にて「本発明の改質剤」と表記することがある)に含有されるグルコースオキシダーゼは、β-D-グルコースを酸化してD-グルコノ-δ-ラクトンと過酸化水素を生成する酵素であり、現在報告されているグルコースオキシダーゼは、2量体として存在し、補酵素としてサブユニットあたり1個のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を含む。グルコースの酸化により生成された過酸化水素により、タンパク質中のスルフヒドリル基(SH基)の酸化を促進する作用を有すると考えられる。
グルコースオキシダーゼは、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム アマガサキエンシス(Penucillium amagasakiensis)等により産生されることが知られており、またハチミツ中にも存在する。
本発明の改質剤には、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム アマガサキエンシス(Penucillium amagasakiensis)等から抽出し、精製等して用いることもできるが、天野エンザイム株式会社、新日本化学工業株式会社等から販売されている市販の製品を用いることもできる。
【0018】
本発明の目的には、グルコースオキシダーゼとしては、0.0001U/g~10000U/gの活性を有するものを用いることが好ましく、0.001U/g~1000U/gの活性を有するものを用いることがより好ましい。
なお、グルコースオキシダーゼ活性は、たとえば、酸素存在下でグルコースを基質としてグルコースオキシダーゼを反応させ、生成される過酸化水素を、4-アミノアンチピリンおよびフェノール存在下でパーオキシダーゼを作用させて生じるキノン色素の呈色を505nmにて測定することにより、求めることができる。
グルコースオキシダーゼ活性については、37℃で1分間に1μmolのグルコースを酸化するのに要する酵素量を1ユニット(U)と定義される。
【0019】
本発明の改質剤に含有されるグルタチオンは、グルタミン酸、システインおよびグリシンからなるトリペプチド (L-γ-グルタミル-L-システイニル-グリシン)であり、タンパク質中のジスルフィド結合をスルフヒドリル基(SH基)に還元する作用を有する。
本発明において、グルタチオンは、動植物や酵母等から抽出し精製して用いてもよく、自体公知の方法に従い化学的または酵素反応により合成して用いてもよいが、和光純薬工業株式会社等から提供されている市販の製品を用いることもできる。
また、本発明においては、グルタチオンとして、「スーパー酵母エキス」(味の素株式会社)等、グルタチオンを1~10重量%程度含有する酵母エキスを用いることもできる。
【0020】
本発明の改質剤には、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとは、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するグルタチオンの含有量比([グルタチオンの含有量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~10となるように含有させることが好ましく、0.00001~1となるように含有させることがより好ましい。
【0021】
本発明の改質剤は、さらにトランスグルタミナーゼを含有することができる。
トランスグルタミナーゼは、タンパク質中のグルタミン残基のアミノ基と第1級アミンを縮合させ、アミン上の置換基をグルタミン残基に転移させて、アンモニアが生成する反応を触媒する転移酵素(タンパク質-グルタミンγ-グルタミルトランスフェラーゼ)であり、通常は第1級アミンとしてタンパク質中のリジン残基のアミノ基が用いられ、架橋酵素として作用する。
【0022】
トランスグルタミナーゼとしては、微生物より得られるカルシウム非依存性のものが好ましく用いられる。
微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼとしては、ストレプトマイセス属に属する放線菌により産生されるトランスグルタミナーゼが挙げられ、特許第2572716号公報に記載された方法等に従って得ることができるが、味の素株式会社等から提供されている「アクティバTG-K」、「アクティバTG-S」等、市販の製品を用いることもできる。
本発明においては、トランスグルタミナーゼとしては、0.01U/g~10000U/gの活性を有するものを用いることが好ましく、0.1U/g~1000U/gの活性を有するものを用いることがより好ましい。
なお、トランスグルタミナーゼの酵素活性については、たとえば、ヒドロキサメート法により測定し、算出することができる。すなわち、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行わせ、トリクロロ酢酸存在下で、前記反応で生成したヒドロキサム酸の鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定して、ヒドロキサム酸の生成量を検量線より求めることにより、酵素活性を算出することができる。本明細書では、37℃、pH=6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を、1Uと定義した(特開昭64-027471号公報参照)。
【0023】
本発明の改質剤には、トランスグルタミナーゼは、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するトランスグルタミナーゼの酵素活性比([トランスグルタミナーゼの酵素活性(U)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~1000となるように含有させることが好ましく、0.00001~100となるように含有させることがより好ましい。
【0024】
さらに本発明の改質剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、賦形剤(たとえば、炭酸マグネシウム、糖類(グルコース、ラクトース、澱粉等)、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール等)等)、結合剤(たとえば、ゼラチン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等)、崩壊剤(たとえば、クロスポビドン、ポビドン、結晶セルロース等)、滑沢剤(たとえば、タルク、ステアリン酸マグネシウム等)、増粘安定剤(キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等)、保存料(安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ε-ポリリシン等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン等)、甘味料(アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物等)、酸味料(クエン酸、酢酸、酒石酸等)、苦味料(カフェイン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物等)、調味料(砂糖、食塩、しょうゆ、みりん、味噌、L-グルタミン酸ナトリウム等)、だし類(昆布だし、かつおだし、さばだし、煮干だし等)、エキス類(魚介エキス、畜肉エキス、野菜エキス、海藻エキス、酵母エキス等)、着色料(アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素等)、香料(アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド等の合成香料、香辛料抽出物、ローレル等の天然香料)等の添加物を含有させることができる。
上記添加物は、必要に応じて、1種または2種以上を含有させることができ、その含有量も、かかる添加物の通常の使用量に準じて設定することができる。
【0025】
本発明の改質剤は、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状の形態とすることができ、また、さらに水を含有し、溶液状、乳濁液状、懸濁液状、分散液状等の液状の形態、またはゲル状、クリーム状、ペースト状等の半固形状の形態とすることができる。
水としては、蒸留水、イオン交換水等の精製水、水道水等、食品製造用水として適合する水が用いられる。
【0026】
本発明の改質剤は、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとを混合し、あるいはさらにトランスグルタミナーゼを加え、必要に応じて上記した添加物や水を加えて、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状の形態、溶液状、乳濁液状、懸濁液状、分散液状等の液状の形態、あるいはゲル状、クリーム状、ペースト状等の半固形状の形態の食品の一般的な製造方法に準じて製造することができる。
【0027】
本発明の改質剤は、食肉練り製品または穀物練り製品の原材料に添加して食肉練り製品または穀物練り製品を調製した際、食肉練り製品または穀物練り製品の原材料を混練し、成形前または成形後加熱する前に一定時間保存された場合において、食肉練り製品または穀物練り製品の硬さ、しなやかさ等の物性の経時的な変化を抑制することができる。
従って、本発明の改質剤を用いることにより、食肉練り製品または穀物練り製品の物性を一定の範囲に制御することができ、これら練り製品の食感および品質を良好に維持することができる。
【0028】
本発明はまた、食肉練り製品および穀物練り製品から選ばれる1種の練り製品であって、物性の経時的な変化の抑制された練り製品の製造方法を提供する。
【0029】
本発明の一態様として、本発明は、物性の経時的な変化の抑制された食肉練り製品の製造方法(以下、本明細書にて「本発明の食肉練り製品の製造方法」とも称することがある)を提供する。
本発明の食肉練り製品の製造方法は、食肉にグルコースオキシダーゼとグルタチオンとを添加することを含む。
【0030】
本発明の食肉練り製品の製造方法において、食肉に対して添加されるグルコースオキシダーゼおよびグルタチオンについては、上記本発明の改質剤について述べた通りである。
本発明の食肉練り製品の製造方法において、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンは、食肉練り製品用改質剤として、上記した固形状、液状または半固形状の形態で食肉に添加され得る。
本発明の食肉練り製品の製造方法において、グルコースオキシダーゼは、食肉1gあたり0.001U~100Uとなるように添加することが好ましく、0.01U~10Uとなるように添加することがより好ましい。
また、グルタチオンは、食肉1重量部に対し、0.00001重量部~0.1重量部添加することが好ましく、0.0001重量部~0.05重量部、あるいは0.00005重量部~0.05重量部添加することがより好ましい。
なお、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとは、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するグルタチオンの添加量の比([グルタチオンの添加量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~10となるように添加することが好ましく、0.00001~1となるように添加することがより好ましい。
【0031】
本発明の食肉練り製品の製造方法は、さらにトランスグルタミナーゼを添加することを含み得る。トランスグルタミナーゼについては、本発明の改質剤において上記した通りである。
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼは、食肉1gあたり0.000001U~10Uとなるように添加することが好ましく、0.00001U~1Uとなるように添加することがより好ましい。
【0032】
本発明の食肉練り製品の製造方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに食用油脂、調味料、つなぎ、その他の一般的な食品添加物等を添加することができる。
【0033】
食用油脂としては、食用に供される油脂であれば、特に制限されることなく用いることができ、たとえば、サラダ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油、菜種油、コメ油、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ油、エゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、ピーナッツ油、アーモンド油、アボカド油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油等の植物性油脂;魚油、牛脂、豚脂、乳脂等の動物性油脂等が挙げられる。
【0034】
調味料としては、上記本発明の改質剤について述べたような調味料を用いることができる。
【0035】
つなぎとしては、食肉練り製品において一般的に用いられるもの、たとえば卵、パン粉等が挙げられる。
【0036】
その他の一般的な食品添加物としては、上記本発明の改質剤について述べた乳化剤、保存料、酸化防止剤、着色料、香料等や、製造用剤(リン酸塩、二酸化ケイ素等)、防かび剤(チアベンダゾール、フルジオキソニル等)が用いられる。
【0037】
上記した食用油脂、調味料、つなぎ、その他の一般的な食品添加物等は、必要に応じて、1種または2種以上を添加することができ、その添加量についても、通常の添加量に準じて決定することができる。
【0038】
本発明の食肉練り製品の製造方法においては、挽肉とした畜肉またはすり身とした魚肉に、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼを添加し、さらに必要に応じて塩、調味料等の添加物や他の原材料を添加して混練する。
食肉とグルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼ、その他の添加物との混合は、食肉練り製品の種類、使用する製造機器等に応じて適宜行うことができ、通常のミキサーにて、通常0℃~40℃、好ましくは0℃~15℃にて、通常1分間~60分間、好ましくは3分間~30分間行われる。
また、本発明の食肉練り製品の製造方法においては、食肉練り製品の製造において通常採用される工程、たとえば挽肉またはすり身とした食肉を混練する工程(荒摺り)、食肉に塩を加えて混練する工程(塩摺り)、成形する工程、加熱する工程、冷却する工程、冷凍する工程等が含まれ得る。
【0039】
挽肉またはすり身とした食肉を混練する工程(荒摺り)および食肉に塩を加えて混練する工程(塩摺り)は、食肉練り製品の種類等に応じて、いずれも通常行われる条件で行うことができ、たとえば通常0℃~40℃、好ましくは0℃~20℃にて、通常1分間~20分間、好ましくは1分間~10分間行われる。
【0040】
成形は、金型や成形枠等を用いて、食肉練り製品の最終的な形態に応じて、適宜行うことができる。
【0041】
加熱する手段としては、煮る、蒸す、焼く、揚げる、燻す等の通常の調理手段を採用することができ、蒸し器、オーブン、コンベクションオーブン、スチームコンベクションオーブン、フライヤー、燻製器等の調理器具を用いて行うことができる。
かかる加熱する工程は、食肉練り製品の種類、加熱手段、使用する調理機器等に応じて適宜行うことができ、通常70℃~300℃、好ましくは70℃~100℃にて、あるいは、通常60℃~300℃、好ましくは60℃~100℃にて、通常1分間~120分間、好ましくは5分間~60分間行うことができる。
【0042】
冷却する手段としては、食品の製造において採用される通常の冷却手段、たとえば室温にて放冷、送風冷却、流水冷却、氷冷等の冷却手段を用いることができる。
また、冷凍する手段としても、食品の製造において採用される通常の冷凍手段、たとえばフリーザー中、-20℃~-40℃程度における冷凍、急速冷凍等の冷凍手段を採用することができる。保存期間中、食肉練り製品の品質を維持するという観点からは、急速冷凍を行うことが好ましい。
【0043】
本発明の食肉練り製品の製造方法により、食肉練り製品の経時的な物性の変化が良好に抑制され、食感および品質が良好に維持される。
従って、本発明の食肉練り製品の製造方法においては、食肉その他の食肉練り製品の原材料に、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼを加え、あるいはさらにその他の添加物を混合した後、成形する前に、または成形した後に、たとえば0℃~15℃、または15℃~25℃にて30分間~3時間程度保存しても、食肉練り製品の物性の経時的な変化が抑制され、食肉練り製品の食感や品質に与える影響を低減することができる。
【0044】
本発明の他の一態様として、本発明はまた、物性の経時的な変化の抑制された穀物練り製品の製造方法(以下、本明細書にて「本発明の穀物練り製品の製造方法」とも称することがある)を提供する。
本発明の穀物練り製品の製造方法は、穀粉にグルコースオキシダーゼとグルタチオンとを添加することを含む。
【0045】
本発明の穀物練り製品の製造方法において、穀粉に対して添加されるグルコースオキシダーゼおよびグルタチオンについては、上記本発明の改質剤について述べた通りである。
本発明の穀物練り製品の製造方法において、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンは、穀物練り製品用改質剤として、上記した固形状、液状または半固形状の形態で穀粉に添加され得る。
本発明の穀物練り製品の製造方法において、グルコースオキシダーゼは、穀粉1gあたり0.001U~100Uとなるように添加することが好ましく、0.01U~10Uとなるように添加することがより好ましい。
また、グルタチオンは、穀粉1重量部に対し、0.00001重量部~0.1重量部添加することが好ましく、0.00005重量部~0.05重量部添加することがより好ましい。
なお、グルコースオキシダーゼとグルタチオンとは、グルコースオキシダーゼ活性1Uに対するグルタチオンの添加量の比([グルタチオンの添加量(g)]/[グルコースオキシダーゼ活性(U)])が、0.000001~10となるように添加することが好ましく、0.00001~1となるように添加することがより好ましい。
【0046】
本発明の穀物練り製品の製造方法は、さらにトランスグルタミナーゼを添加することを含み得る。トランスグルタミナーゼについては、本発明の改質剤において上記した通りである。
本発明の穀物練り製品の製造方法において、トランスグルタミナーゼは、穀粉1gあたり0.000001U~10Uとなるように添加することが好ましく、0.00001U~1Uとなるように添加することがより好ましい。
【0047】
本発明の穀物練り製品の製造方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに食用油脂、調味料、つなぎ、その他の一般的な食品添加物等を添加することができる。
食用油脂、調味料、つなぎ、その他の一般的な食品添加物については、本発明の食肉練り製品の製造方法において上記した通りである。
【0048】
本発明の穀物練り製品の製造方法においては、穀粉に、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼを添加し、さらに必要に応じて塩、調味料等の添加物や他の原材料を添加して混練する。
穀粉とグルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼ、その他の添加物との混合は、穀物練り製品の種類、使用する製造機器等に応じて適宜行うことができ、通常のミキサーにて、通常0℃~50℃、好ましくは20℃~30℃にて、通常1分間~60分間、好ましくは2分間~30分間、より好ましくは5分間~30分間行われる。
また、本発明の穀物練り製品の製造方法においては、穀物練り製品の製造において通常採用される工程、たとえば穀粉とその他の原材料を混練する工程、穀粉に水を加えて混練する工程、生地を細切または成形する工程、加熱する工程、冷却する工程、冷凍する工程等が含まれ得る。
【0049】
穀粉とその他の原材料を混練する工程および穀粉に水を加えて混練する工程は、穀物練り製品の種類等に応じて、いずれも通常行われる条件で行うことができ、たとえば通常0℃~50℃、好ましくは20℃~30℃にて、通常1分間~60分間、好ましくは2分間~30分間、より好ましくは5分間~30分間行われる。
【0050】
生地の細切または成形は、切断機または金型や成形枠等を用いて、穀物練り製品の最終的な形態に応じて、適宜行うことができる。
加熱、冷却、冷凍等の工程については、食肉練り製品の製造方法について上記した通りである。
【0051】
本発明の穀物練り製品の製造方法により、穀物練り製品の経時的な物性の変化が良好に抑制され、食感および品質が良好に維持される。
従って、本発明の穀物練り製品の製造方法においては、穀粉その他の原材料に、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオン、またはさらにトランスグルタミナーゼを加え、あるいはさらにその他の添加物を混合した後、成形する前に、または成形した後に、たとえば0℃~30℃にて30分間~3時間程度保存しても、穀物練り製品の物性の経時的な変化が抑制され、穀物練り製品の食感や品質に与える影響を低減することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0053】
[実施例1、比較例1、2]魚肉練り製品(蒲鉾)の製造
表1に示す原材料を表1に示す配合量にて用いて、次の通り、魚肉練り製品(全量2100g)を製造した。なお、対照として、いずれの酵素製剤も、またグルタチオンを含有する酵母エキスも添加せずに同様に魚肉練り製品を製造した。
(1)表1中のスケソウタラのすり身をミキサーに入れ、4℃にて2分間混合した(荒摺り)。
(2)少量の水を加え、食塩を添加して6℃にて3分間混合した(塩摺り)。
(3)植物油、馬鈴薯澱粉、調味料、各酵素製剤および酵母エキスを添加して、8℃にて3分間混合した(本摺り)。
(4)ケーシングに充填し、湯煎にて40℃で20分間加温し、次いで85℃で20分間加熱した。
(5)氷水で急冷した後、急速冷凍した。
【0054】
【0055】
[試験例1]魚肉練り製品の物性に及ぼす置き身時間の影響の検討
上記実施例および比較例ならびに対照の製造において、(4)の工程中、ケーシング充填後に5℃~15℃にて一定の時間(0分間、30分間、60分間および180分間)静置して保存した後、次の加温および加熱処理を実施した。(4)の工程中に静置した時間を「置き身時間」と称し、その物性に及ぼす影響を次の通り評価した。
【0056】
(I)官能評価
解凍後の魚肉練り製品のしなやかさ、硬さおよび嗜好性について、5名の専門パネラーにより下記評価基準に従って評価させ、5名の評点の合計点を求め、
図1~3に示した。
<評価基準>
(i)しなやかさについては、魚肉練り製品を噛み切るまでの距離感により、下記のように評価させた。
非常にしなやかである:5点
しなやかである:4点
ややしなやかである:3点
ややしなやかでない:2点
しなやかでない:1点
(ii)硬さについては、魚肉練り製品を噛み切るための力により、下記のように評価させた。
非常に硬い:5点
硬い:4点
やや硬い:3点
やや柔らかい:2点
柔らかい:1点
(iii)嗜好性については、魚肉練り製品(蒲鉾)として好ましいか否かにより、下記のように評価させた。
好ましい:5点
やや好ましい:4点
どちらでもない:3点
やや好ましくない:2点
好ましくない:1点
【0057】
(II)テクスチャーアナライザーによる破断強度、破断距離および破断に要するエネルギー量の測定
テクスチャーアナライザー島津小型卓上試験機EZTest(EZ-SX)(株式会社島津製作所)を用いて、下記測定条件により、魚肉練り製品の破断強度および破断距離を測定した(n=10)。破断に要するエネルギー量は、前記測定により得られたグラフ上の面積から、すなわち破断強度と破断距離との積に基いて求めた。測定結果は
図4~6に示した。
<測定条件>
(i)プランジャー:直径=3mmの球状プランジャー
(ii)クリアランス:ダウン1mm/sec、アップ5mm/sec
(iii)測定温度:品温=10℃
【0058】
図1~3に示されるように、対照の魚肉練り製品では、置き身時間に関わらず、しなやかさおよび硬さともに不十分であると評価され、嗜好性についても低い評価であった。
トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを含有する酵母エキスを添加して製造した魚肉練り製品(実施例1)では、しなやかで適度な硬さを有すると評価され、嗜好性についても高い評価が得られた。また、置き身時間が長くなっても、前記評価結果には、ほとんど変化は見られなかった。
一方、トランスグルタミナーゼのみを添加して製造した魚肉練り製品(比較例1)では、置き身時間の増加とともに硬さの顕著な増加が認められた。また、トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼとを添加して製造した魚肉練り製品(比較例2)においても、置き身時間の増加に伴い、硬さが増加する傾向が認められた。
さらに、比較例1および2の魚肉練り製品においては、置き身時間の増加に伴い、嗜好性の評価が向上する傾向が見られた。これらの魚肉練り製品については、嗜好性についてある程度の評価を得るには、一定の置き身時間を設ける必要があることが示唆された。
【0059】
また、
図4~6に示されるように、対照の魚肉練り製品では、十分な破断強度および破断距離が得られなかった。
トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを含有する酵母エキスを添加して製造した魚肉練り製品(実施例1)は、適度な破断強度と高値の破断距離を示し、しなやかな物性が得られることが認められた。また、それらの物性値は、置き身時間によりほぼ変動しないことが認められた。
一方、トランスグルタミナーゼのみを添加して製造した魚肉練り製品(比較例1)、およびトランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼとを添加して製造した魚肉練り製品(比較例2)では、置き身時間により破断強度および破断距離が変動することが認められ、置き身時間が長くなるにつれ、前記各物性値が高くなる傾向が認められた。特に、比較例1の魚肉練り製品では、置き身時間が180分の場合の各物性値は、適度であると評価される範囲を逸脱するものであった。
【0060】
試験例1の上記結果から、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを添加して魚肉練り製品を製造することにより、トランスグルタミナーゼを添加した魚肉混練物を、加熱工程の前に一定時間保存しても、硬さやしなやかさ等の物性の変化が抑制され、好ましい食感および品質が維持されることが示唆された。
【0061】
[実施例2、比較例3、4]畜肉練り製品(ソーセージ)の製造
表2に示す原材料を表2に示す配合量にて用いて、次の通り、ソーセージ(全量2500g)を製造した。なお、対照として、いずれの酵素製剤も、またグルタチオンを含有する酵母エキスも添加せずに同様にソーセージを製造した。
(1)豚肉の余分なスジや脂を取り除き、15℃にて2cm角に切り、挽き肉機にて、塊径5.2mmの挽き肉とした。
(2)表2中Bの原材料を添加し、多機能スタンドミキサー(「キッチンエイド」(株式会社エフ・エム・アイ)で5分間混合した(3℃~6℃、撹拌速度=60rpm~70rpm)。
(3)表2中CおよびDの原材料を添加し、多機能スタンドミキサー(「キッチンエイド」(株式会社エフ・エム・アイ)で5分間混合した(7℃~10℃、撹拌速度=60rpm~70rpm)。
(4)混合した原材料を真空袋に入れて真空とし、コラーゲンケーシングに充填して、氷水中で保存した。
(5)60℃で30分間乾燥した後60℃で10分間燻煙し、次いで75℃で30分間蒸し煮を行った。
(6)3分間散水し、次いで10分間放冷した後、冷蔵庫で一晩静置して冷却した。
【0062】
【0063】
[試験例2]畜肉練り製品(ソーセージ)の物性に及ぼす置き身時間の影響の検討
上記した対照、比較例3、4および実施例2のソーセージの製造において、(4)の工程と(5)の工程の間に、25℃で30分間、60分間、120分間および180分間の置き身時間を設けた場合と、かかる置き身時間を設けない(置き身時間=0分)場合の物性の相違を、破断強度の測定により評価した。
破断強度の測定は、各ソーセージを3cm幅に切って試料とし、湯煎にて温めた後に、テクスチャーアナライザー島津小型卓上試験機EZTest(EZ-SX)(株式会社島津製作所)を用いて、下記測定条件により、測定した(n=10)。測定結果は
図7に示した。
<測定条件>
(i)プランジャー:直径=5mmの球状プランジャー
(ii)試験速度:1.0mm/sec
(iii)測定温度:品温=50℃~60℃
【0064】
図7に示されるように、対照のソーセージでは、十分な破断強度が得られなかった。
トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを含有する酵母エキスを添加して製造したソーセージ(実施例2)は、適度な破断強度を示し、置き身に伴う破断強度の変動は小さいものであった。
一方、トランスグルタミナーゼのみを添加して製造したソーセージ(比較例3)、およびトランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼとを添加して製造したソーセージ(比較例4)では、置き身に伴う破断強度の若干の変動が認められた。
【0065】
試験例2の上記結果から、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを添加して畜肉練り製品を製造することにより、トランスグルタミナーゼを添加した畜肉混練物を、加熱工程の前に一定時間保存しても、物性の変化が抑制されることが示唆された。
【0066】
[実施例3、比較例5、6]穀物練り製品(うどん麺)の製造
表3に示す原材料を表3に示す配合量にて用いて、次の通り、うどん麺(全量451.5g~453.3g)を製造した。なお、対照として、いずれの酵素製剤も、またグルタチオンを含有する酵母エキスも添加せずに同様にうどん麺を製造した(全量450g)。
(1)表3中の小麦粉を混練機(フードプロセッサーMK-K81(パナソニック株式会社))の専用のボウルに入れ、酵素製剤と、あらかじめ食塩を水に溶解して調製した食塩水を加えて、20℃にて、ボウルの縁に付着した生地をゴムベラでこそぎ落としながら、混合した(低速モードにて2分間)。
(2)生地の小片を手で集め、塊状にまとめて、約80gずつ等分し、パスタマシン(インペリアSP-150(インペリア社))にて圧延した(ダイヤル6(2.0mm)、5回)。
(3)生地に打ち粉をし、綿棒で圧延し(4.0mm)、4mm幅に麺切りして、うどん麺を得た。
【0067】
【0068】
[試験例3]穀物練り製品(うどん麺)の物性に及ぼす置き身時間の影響の検討
上記した対照、比較例5、6および実施例3のうどん麺の製造において、(2)の工程と(3)の工程の間に、24℃で30分間、60分間、120分間および180分間の置き身時間を設けた場合と、かかる置き身時間を設けない(置き身時間=0分)場合の物性の相違を、硬さの測定により評価した。なお、前記置き身時間の間、調製した生地は、チャック付きポリエチレン製袋(ユニパック(株式会社生産日本社))に入れて、24℃の恒温室内に静置した。
硬さの測定は、各うどん麺を沸騰した湯で20分間茹でた後、冷水で洗浄して試料とし、テクスチャーアナライザー島津小型卓上試験機EZTest(EZ-SX)(株式会社島津製作所)を用いて、下記測定条件により測定した(n=10)。測定結果は
図8に示した。
<測定条件>
(i)プランジャー:楔形冶具
(ii)試験速度:1.0mm/sec
(iii)測定温度:25℃
【0069】
図8に示されるように、対照のうどん麺では、置き身時間の増加に伴い、硬さが低下することが認められた。
グルコースオキシダーゼを含有するトランスグルタミナーセ製剤に加えて、グルタチオンを含有する酵母エキスを添加して製造した実施例3のうどん麺は、置き身時間にかかわらずほぼ一定で適切な硬さを示した。
一方、トランスグルタミナーゼを添加して製造した比較例5のうどん麺では、置き身時間により硬さの変動が見られた。
また、グルコースオキシダーゼとトランスグルタミナーゼを添加して製造した比較例6のうどん麺では、置き身時間の増加に伴い、硬さが増す傾向が認められた。
【0070】
試験例3の上記結果から、グルコースオキシダーゼおよびグルタチオンを添加して穀物練り製品を製造することにより、トランスグルタミナーゼを添加した穀粉混練物を、加熱工程の前に一定時間保存しても、物性の変化が抑制されることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上、詳述したように、本発明により、食肉練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、食肉練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、食肉練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、食肉練り製品の食感および品質を良好に維持することができる食肉練り製品用改質剤、および食肉練り製品の製造方法を提供することができる。
また、本発明により、穀物練り製品の製造時に、製造ラインの停止その他の理由により、穀物練り製品の原材料を混練した状態で一定時間保存する必要が生じた際にも、穀物練り製品の物性の経時的な変化を抑制することができ、穀物練り製品の食感および品質を良好に維持することができる穀物練り製品用改質剤、および穀物練り製品の製造方法を提供することができる。
【0072】
本願は、わが国で出願された特願2018-107948を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。