(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
G02B6/036
(21)【出願番号】P 2019112800
(22)【出願日】2019-06-18
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】田村 欣章
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-297254(JP,A)
【文献】特開2013-018699(JP,A)
【文献】特開2003-207675(JP,A)
【文献】特開2014-010412(JP,A)
【文献】米国特許第06515795(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/10
G02B 6/44
C03B 37/00-37/16
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを取り囲むクラッドと、を備え、
前記クラッドは、前記コアを取り囲む内クラッド層と、前記内クラッド層を取り囲む外クラッド層と、を備え、
前記コアの比屈折率差の最大値Δn1max、前記内クラッド層の比屈折率差の最小値Δn2min、前記外クラッド層の比屈折率差の最大値Δn3maxは、
-0.15%<Δn1max<0.05%、-0.5%<Δn2min<-0.2%、及び、0.02%<Δn3max-Δn2min<0.2%なる関係をそれぞれ満足しており、
前記コア及び前記内クラッド層は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含み、
前記外クラッド層は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を含まず、
前記内クラッド層及び前記外クラッド層の比屈折率差の径方向に対する微分値の絶対値は、0.2%/μm以下であり、
径方向位置rにおける残留応力σ(r)は、前記クラッドにおいて、|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmである、光ファイバ。
【請求項2】
残留応力をσとし、径方向位置をrとしたとき、前記クラッドにおいて、|dσ/dr|≦20MPa/μmである、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
波長1550nmにおける基底モードの実効断面積は、100μm
2以上である、請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
ケーブルカットオフ波長は、1530nm以下である、請求項3に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアの全域に圧縮応力が残留している、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
波長1550nmにおける伝送損失は、0.174dB/km以下である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
波長1550nmにおける伝送損失は、0.164dB/km以下である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
波長1550nmにおける伝送損失は、0.154dB/km以下である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
信号光を伝送する光ファイバには、伝送損失が低いことが望まれる。汎用的な光ファイバでは、ゲルマニウム(Ge)を添加して屈折率を高くしたコアにより導波構造を形成している。しかしながら、このようなコアでは、Geによる散乱損失が生じるため、十分に伝送損失を低減することが困難である。そこで、コアの散乱損失を低減するため、実質的に添加物が存在しないシリカガラスをコアとすると共に、クラッドの屈折率をフッ素(F)の添加により低くした構造が提案されている。ところが、このような構造であっても、十分な伝送損失の低減効果が得られない場合がある。それは、シリカガラスのコアとFを含むクラッドとの粘性差が大きいために、線引時の応力がコアへ集中することでガラス欠陥が生じてしまうことによる。
【0003】
特許文献1,2では、コアにGeを含まない光ファイバにおいて、コアとコアに隣接するクラッドとの間の粘性差(応力差)を緩和し、伝送損失の低減を図る方法が提案されている。特許文献1に記載の光ファイバは、Geを含まず塩素(Cl)を含むコアと、Fを含むクラッドとを備えている。この光ファイバは、コアとクラッドとの間に、Fを含む応力緩和層を更に備えている。特許文献2に記載の光ファイバは、粘性が一致するように、軟化点の差が50℃以下に調整されたコア及びクラッドを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2016/0170137号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0219770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通信容量拡大を実現するため、実効断面積を大きくすることで非線形性を低減した光ファイバや、コアに複数のモードを伝搬させる光ファイバなどが提案されている。こうした伝送用光ファイバには、低い曲げ損失特性も同時に要求される。曲げ損失特性の改善には、クラッドが2層以上で構成され、W型又はトレンチ型とよばれる屈折率分布を有する光ファイバが一般的に用いられている。
【0006】
従来の粘性整合による伝送損失の低減方法は、光パワーが集中するコアとクラッドとの間の粘性(応力)差に着目したものであるが、実際には光パワーは広い分布を有している。特に、多層構造のクラッドを備える光ファイバでは、クラッド内で応力差が大きくなる場合がある。この場合、構造不整に起因して伝送損失が増加する。したがって、このような光ファイバでは、クラッド内の粘性(応力)差も考慮しなければ十分な伝送損失低減効果が得られない。
【0007】
そこで、曲げ損失特性を改善しながら、伝送損失が低い光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る光ファイバは、コアと、コアを取り囲むクラッドと、を備え、クラッドは、コアを取り囲む内クラッド層と、内クラッド層を取り囲む外クラッド層と、を備え、コアの比屈折率差の最大値Δn1max、内クラッド層の比屈折率差の最小値Δn2min、外クラッド層の比屈折率差の最大値Δn3maxは、Δn2min<n3max<Δn1maxなる関係を満足しており、径方向位置rにおける残留応力σ(r)は、クラッドにおいて、|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmである。
【0009】
本開示の他の実施形態に係る光ファイバは、コアと、コアを取り囲むクラッドと、を備え、クラッドは、コアを取り囲む内クラッド層と、内クラッド層を取り囲む外クラッド層と、を備え、コアの比屈折率差の最大値Δn1max、内クラッド層の比屈折率差の最小値Δn2min、外クラッド層の比屈折率差の最大値Δn3maxは、-0.15%<Δn1max<0.05%、-0.5%<Δn2min<-0.2%、及び、0.02%<Δn3max-Δn2min<0.2%なる関係をそれぞれ満足しており、コア及び内クラッド層は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含み、外クラッド層は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を含まず、内クラッド層及び外クラッド層の比屈折率差の径方向に対する微分値の絶対値は、0.2%/μm以下であり、径方向位置rにおける残留応力σ(r)は、クラッドにおいて、|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、曲げ損失特性を改善しながら、伝送損失が低い光ファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図である。
【
図2】
図2は、実験例1に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、実験例1に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図3(b)は、実験例1に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
【
図4】
図4は、実験例2に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、実験例2に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図5(b)は、実験例2に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
【
図6】
図6は、伝送損失と残留応力の微分最大値の絶対値との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実験例3及び実験例4に係る光ファイバの屈折率分布及びカリウム分布を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、実験例3に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図8(b)は、実験例3に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、実験例4に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図9(b)は、実験例4に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。実施形態に係る光ファイバは、コアと、コアを取り囲むクラッドと、を備え、クラッドは、コアを取り囲む内クラッド層と、内クラッド層を取り囲む外クラッド層と、を備え、コアの比屈折率差の最大値Δn1max、内クラッド層の比屈折率差の最小値Δn2min、外クラッド層の比屈折率差の最大値Δn3maxは、Δn2min<n3max<Δn1maxなる関係を満足しており、径方向位置rにおける残留応力σ(r)は、クラッドにおいて、|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmである。
【0013】
上記実施態様に係る光ファイバでは、曲げ損失特性を改善することができる。また、残留応力の変化がクラッドにおいて|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmと緩やかであることにより、ガラス欠陥又は構造不整による伝送損失の増加を抑制することができる。
【0014】
残留応力をσとし、径方向位置をrとしたとき、クラッドにおいて、|dσ/dr|≦20MPa/μmであってもよい。この場合、伝送損失の増加を更に抑制することができる。
【0015】
波長1550nmにおける基底モードの実効断面積は、100μm2以上であってもよい。この場合、通信容量の拡大を図ることができる。
【0016】
ケーブルカットオフ波長は、1530nm以下であってもよい。この場合、Cバンド全域において単一モード動作させることができる。
【0017】
コアの全域に圧縮応力が残留していてもよい。コアに引張応力が残留していると、コアを含む周辺のガラスが引っ張られることにより、ガラス欠陥が増え、伝送損失が増加してしまう。この場合、コアの全域に圧縮応力が残留しているので、伝送損失の増加が抑制される。
【0018】
コアは、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含んでいてもよい。この場合、光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する際、コアの粘性を下げることができる。これによりガラス構造の緩和が促進され、伝送損失を低減することができる。
【0019】
波長1550nmにおける伝送損失は、0.174dB/km以下であってもよく、0.164dB/km以下であってもよく、0.154dB/km以下であってもよい。
【0020】
他の実施形態に係る光ファイバは、コアと、コアを取り囲むクラッドと、を備え、クラッドは、コアを取り囲む内クラッド層と、内クラッド層を取り囲む外クラッド層と、を備え、コアの比屈折率差の最大値Δn1max、内クラッド層の比屈折率差の最小値Δn2min、外クラッド層の比屈折率差の最大値Δn3maxは、-0.15%<Δn1max<0.05%、-0.5%<Δn2min<-0.2%、及び、0.02%<Δn3max-Δn2min<0.2%なる関係をそれぞれ満足しており、コア及び内クラッド層は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含み、外クラッド層は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を含まず、内クラッド層及び外クラッド層の比屈折率差の径方向に対する微分値の絶対値は、0.2%/μm以下であり、径方向位置rにおける残留応力σ(r)は、クラッドにおいて、|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmである。
【0021】
上記他の実施態様に係る光ファイバでは、曲げ損失特性を改善することができる。また、残留応力の変化がクラッドにおいて|dσ(r)/dr|≦30MPa/μmと緩やかであることにより、ガラス欠陥又は構造不整による伝送損失の増加を抑制することができる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る光ファイバ1は、コア10と、コア10を取り囲むクラッド20と、クラッド20を取り囲む図示されていない樹脂被覆とを備える。光ファイバ1では、クラッド20が2層以上で構成される多層構造を有している。本実施形態では、クラッド20は、コア10を取り囲む内クラッド層21と、内クラッド層21を取り囲む外クラッド層22と、を含んでいる。
図1の断面図は、光ファイバ1の軸方向に対して垂直な断面を表している。
【0024】
コア径(コア10の外径)は、例えば、15μmである。内クラッド層径(内クラッド層21の外径)は、例えば、50μmである。外クラッド層径(外クラッド層22の外径)は、例えば、125μmである。本実施形態では、外クラッド層径は、クラッド径(クラッド20の外径)でもある。
【0025】
コア10の全域には、圧縮応力が残留している。光ファイバ1では、コア10の比屈折率差の最大値をΔn1maxとし、内クラッド層21の比屈折率差の最小値をΔn2minとし、外クラッド層22の比屈折率差の最大値をΔn3maxとしたとき、Δn2min<n3max<Δn1maxなる関係が満足され、W型の屈折率分布を有している。比屈折率差は、純石英の屈折率を基準としたものである。また、-0.15%<Δn1max<0.05%、-0.5%<Δn2min<-0.2%、及び、0.02%<Δn3max-Δn2min<0.2%なる関係が満たされていてもよい。これにより、曲げ損失特性を改善することができる。光ファイバ1は、コア10と内クラッド層21の間に、比屈折率差が外クラッド層22とほぼ等しい台座層(pedestal)を含む「トレンチ型」の屈折率分布を有してもよく、内クラッド層21が空孔を含む「空孔付与型」の屈折率分布を有してもよい。
【0026】
光ファイバ1では、波長1550nmにおける基底モードの実効断面積(Aeff)(以下、単に「実効断面積」)は、例えば、100μm2以上である。これにより、通信容量の拡大を図ることができる。ケーブルカットオフ波長は、例えば、1530nm以下である。このため、Cバンド全域において単一モード動作させることができる。波長1550nmにおける伝送損失は、0.174dB/km以下であってもよく、0.164dB/km以下であってもよく、0.154dB/km以下であってもよい。
【0027】
コア10は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む。コア10は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうち少なくとも1種類以上の元素を含むとも言える。コア10は、例えば、カリウム(K)を含む。内クラッド層21は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む。内クラッド層21は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうち少なくとも1種類以上の元素を含むとも言える。内クラッド層21は、例えば、カリウム(K)を含む。外クラッド層22は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素を含まない。
【0028】
内クラッド層21及び外クラッド層22の比屈折率差の径方向に対する微分値の絶対値は、0.2%/μm以下である。すなわち、光ファイバ1の比屈折率差をΔnとし、径方向位置をrとしたとき、内クラッド層21及び外クラッド層22において、|dΔn/dr|≦0.2%/μmである。これにより、内クラッド層21及び外クラッド層22において粘性差が生じ難いので、残留応力が急峻に変化することが抑制される。この結果、ガラス欠陥や構造不整が抑制されることにより、伝送損失の増加が抑制可能となる。
【0029】
残留応力をσとし、径方向位置をrとしたとき、残留応力の径方向に対する微分値の絶対値|dσ/dr|は、クラッド20において30MPa/μm以下である。すなわち、クラッド20において|dσ/dr|≦30MPa/μmの関係が満足されている。このように、クラッド20において残留応力の変化(傾き)が緩やかであることにより、ガラス欠陥又は構造不整による伝送損失の増加を抑制することができる。|dσ/dr|は、クラッド20において20MPa/μm以下であってもよい。すなわち、クラッド20において|dσ/dr|≦20MPa/μmの関係が満足されていてもよい。この場合、クラッド20において残留応力の変化(傾き)が更に緩やかであるため、伝送損失の増加を更に抑制することができる。
【0030】
光ファイバ1は、例えば、シングルモードファイバ(SMF)である。光ファイバ1は、シングルモードファイバに限られず、複数のモードを信号光として伝搬させる光ファイバであってもよい。高次のモードでは実効断面積が大きい。よって、高次のモードの伝送損失では、クラッド20の残留応力分布に起因する伝送損失の影響が大きくなり易く、結果としてモード依存損失が大きくなり易い。しかし、光ファイバ1によれば、モード依存損失を低減することが可能となる。
【0031】
コア10は、中心に設けられた屈折率のくぼみと、屈折率のくぼみを取り囲むリングと、を有するリングコア形状であってもよい。リングコア形状とすることで、モードフィールド径(MFD)を維持しつつ、実効断面積を拡大することができる。つまり、汎用シングルモードファイバとの接続損失の増大を抑制しつつ、非線形性を低くすることが可能となる。クラッド20は、トレンチ型の屈折率プロファイルの場合のように3層以上のクラッド層を有していてもよい。
【0032】
以下、実験例について説明する。
図2は、実験例1に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
図2の横軸は、径方向位置rを示し、縦軸は、純石英の屈折率を基準とした比屈折率差を示す。参考のため、
図2では、コア、クラッド、内クラッド層、及び外クラッド層に対応する位置に、符号「10」、「20」、「21」、及び「22」を付している。実験例1の光ファイバは、W型の屈折率分布を有している。実験例1の光ファイバでは、実効断面積が150μm
2であり、ケーブルカットオフ波長が1420nm以下である。コアには、質量分率で100ppmのカリウムを含む。コア径は、15μmであり、内クラッド層径は、50μmである。
【0033】
図3(a)は、実験例1に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図3(a)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は、残留応力(σ)を示す。
図3(b)は、実験例1に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
図3(b)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は残留応力の径方向に対する微分値の絶対値(|dσ/dr|)を示す。
図3(a)において、マイナスは圧縮応力、プラスは引張応力に対応する。
【0034】
図3(a)に示されるように、コアの全域には、圧縮応力が残留している。内クラッド層には、圧縮応力が残留し、外クラッド層には、引張応力が残留している。
図3(b)に示されるように、|dσ/dr|の最大値は、42MPa/μmである。
【0035】
実験例1の光ファイバでは、内クラッド層及び外クラッド層には、フッ素濃度を調整することで屈折率差が与えられている。これと同時に、内クラッド層及び外クラッド層には、粘性差も生じる。したがって、内クラッド層と外クラッド層との間(界面)で急峻に残留応力が変化する。残留応力の急峻な変化は、ガラス欠陥や構造不整による伝送損失の増加の原因となる。実験例1の光ファイバの伝送損失は、0.156dB/kmである。
【0036】
図4は、実験例2に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
図4の横軸は、径方向位置rを示し、縦軸は純石英の屈折率を基準とした比屈折率差を示す。参考のため、
図4では、コア、クラッド、内クラッド層、及び外クラッド層に対応する位置に、符号「10」、「20」、「21」、及び「22」を付している。
図4に示されるように、実験例2の光ファイバは、内クラッド層と外クラッド層との間で残留応力が緩やかに変化するよう、フッ素濃度分布を調整した母材により作製した。実験例2の光ファイバは、W型の屈折率分布を有している。実験例2の光ファイバでは、実効断面積は150μm
2であり、ケーブルカットオフ波長が1420nm以下である。コアは、質量分率で100ppmのカリウムを含む。コア径は、15μmであり、内クラッド層径は、50μmである。
【0037】
図5(a)は、実験例2に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図5(a)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は、残留応力(σ)を示す。
図5(a)において、マイナスは圧縮応力、プラスは引張応力に対応する。
図5(b)は、実験例2に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
図5(b)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は残留応力の径方向に対する微分値の絶対値(|dσ/dr|)を示す。
【0038】
図5(a)に示されるように、コアの全域には、圧縮応力が残留している。内クラッド層のコア寄りの部分には、圧縮応力が残留している。残留応力は、内クラッド層の外クラッド層寄りの部分において、圧縮応力から引張応力へと緩やかに変化している。外クラッド層には、引張応力が残留している。
図5(b)に示されるように、|dσ/dr|の最大値は、24MPa/μmである。実験例2の光ファイバの伝送損失は、0.152dB/kmである。
【0039】
図6は、伝送損失と残留応力の微分最大値の絶対値との関係を示すグラフである。
図6の横軸は、クラッドにおける|dσ/dr|の最大値を示し、縦軸は、伝送損失を示す。
図6に示されるように、|dσ/dr|を30MPa/μm以下とすることで伝送損失を低減することができる。|dσ/dr|を20MPa/μm以下とすることで伝送損失を更に低減することができる。
【0040】
実験例2では、残留応力の変化を緩やかにする方法として、クラッドでのフッ素濃度を調整したが、残留応力の調整方法は、これに限られない。塩素若しくは臭素などの他のハロゲン元素、ゲルマニウム、リン(P)、アルカリ金属元素、又はアルカリ土類金属元素の濃度分布を調整してもよい。また、例えば、ナトリウム(Na)又はカリウムなどのガラス中での拡散速度が速い元素については、線引時の張力、又は線引速度などの条件を調整することによって拡散をコントロールし、所望の残留応力分布とすることができる。
【0041】
光ファイバ母材(ガラス母材)のコア部にカリウムを含む場合を考える。カリウムの拡散速度は、比較的速い。したがって、カリウムは、光ファイバ母材ではコア部の中心部に分布していても、線引時の加熱によって、特にドローダウン部(外径が減少する部分)で拡散する。その結果、カリウムは、ファイバ状態では全体に分布する。
【0042】
例えば、線引速度を高速化することで、拡散が生じやすいドローダウン部におけるカリウムの滞在時間が短くなる。これにより、カリウムの拡散を抑制することが可能となる。また、線引時の張力を高くすることによっても、カリウムの拡散を抑制することが可能である。これは、張力が高くなると光ファイバ母材から光ファイバを引き出すのに必要な温度が低温になるので、熱による拡散の効果が弱くなるためである。
【0043】
図7は、実験例3及び実験例4に係る光ファイバの屈折率分布及びカリウム分布を示す図である。
図7の横軸は、径方向位置rを示し、縦軸は純石英の屈折率を基準とした比屈折率差を示す。縦軸は、カリウムの濃度(a.u.)も示す。参考のため、
図7では、コア、クラッド、内クラッド層、及び外クラッド層に対応する位置に、符号「10」、「20」、「21」、及び「22」を付している。実験例3,4の光ファイバの屈折率分布が実線で示され、実験例3の光ファイバのカリウム分布が破線で示され、実験例4の光ファイバのカリウム分布が一点破線で示されている。実験例3,4の光ファイバは、W型の屈折率分布を有している。実験例3,4の光ファイバでは、実効断面積が150μm
2であり、ケーブルカットオフ波長が1420nm以下である。コアは、質量分率で100ppmのカリウムを含む。コア径は、15μmであり、内クラッド層径は、50μmである。
【0044】
実験例3に係る光ファイバは、上述のような線引条件の調整を行わず作製された(線引条件未調整)。実験例4に係る光ファイバは、上述のような線引条件の調整を行って作製された(線引条件調整)。実験例3,4に係る光ファイバは、互いに同じ屈折率分布を有すると共に、互いに異なるカリウム分布を有している。カリウムは、ガラスの粘性を低減する効果を有している。このため、カリウムの拡散をコントロールし、カリウムの分布範囲を適正化することで、クラッドの残留応力分布を調整することができる。具体的には、カリウムの存在する領域と、存在しない領域との境界において、残留応力が不連続となる。これにより、クラッド全体での残留応力の変化(傾き)を緩やかにすることができる。
【0045】
図8(a)は、実験例3に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図8(a)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は、残留応力(σ)を示す。
図8(b)は、実験例3に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
図8(b)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は残留応力の径方向に対する微分値の絶対値(|dσ/dr|)を示す。
図8(a)において、マイナスは圧縮応力、プラスは引張応力に対応する。
【0046】
図9(a)は、実験例4に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
図9(a)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は、残留応力(σ)を示す。
図9(b)は、実験例4に係る光ファイバの残留応力の径方向に対する微分値の絶対値の分布を示す図である。
図9(b)の横軸は、径方向位置(r)を示し、縦軸は残留応力の径方向に対する微分値の絶対値(|dσ/dr|)を示す。
図9(a)において、マイナスは圧縮応力、プラスは引張応力に対応する。
【0047】
図8(a)及び
図9(a)に示されるように、実験例3,4の光ファイバのいずれにおいても、コアの全域に圧縮応力が残留している。内クラッド層のコア寄りの部分にも、圧縮応力が残留している。残留応力は、内クラッド層の外クラッド層寄りの部分において、圧縮応力から引張応力に変化している。外クラッド層には、引張応力が残留している。実験例4の光ファイバでは、実験例3の光ファイバよりも、内クラッド層の外クラッド層寄りの部分における残留応力の変化が緩やかである。
【0048】
図8(b)及び
図9(b)に示されるように、実験例3の光ファイバでは、|dσ/dr|の最大値は、45MPa/μmであるのに対し、実験例4の光ファイバでは、|dσ/dr|の最大値は、28MPa/μmである。実験例3の光ファイバの伝送損失は、0.161dB/kmであるのに対し、実験例4の光ファイバの伝送損失は、0.154dB/kmである。
【符号の説明】
【0049】
1…光ファイバ、10…コア、20…クラッド、21…内クラッド層、22…外クラッド層。