IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層体 図1
  • 特許-積層体 図2
  • 特許-積層体 図3
  • 特許-積層体 図4
  • 特許-積層体 図5
  • 特許-積層体 図6
  • 特許-積層体 図7
  • 特許-積層体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20230808BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 23/522 20060101ALI20230808BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
H01L21/88 R
H01L21/88 S
C23C14/06 A
C23C14/06 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019117759
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2020037253
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018164810
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 優太
(72)【発明者】
【氏名】勝見 昌高
(72)【発明者】
【氏名】川島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】南 和希
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170639(WO,A1)
【文献】特開2017-068219(JP,A)
【文献】特開2015-069573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0046017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C23C14/00-14/58
G02B1/10-1/18
H01L21/3205-21/3213
21/768
23/522
23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材と、
該基材に積層されて電極及び/又は配線を形成する金属層と、
該金属層の前記基材とは反対側の面、または該金属層と該基材との間に積層された黒化膜と、を少なくとも有し、
該黒化膜は(Ti1-xMox1-yyで表されるチタン合金の窒化物および不可避的不純物からなり、x及びyはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.40≦y<0.50を満たすことを特徴とする積層体。
【請求項2】
透明な基材と、
該基材に積層されて電極及び/又は配線を形成する金属層と、
該金属層の前記基材とは反対側の面、または該金属層と該基材との間に積層された黒化膜と、を少なくとも有し、
該黒化膜は(Ti1-xMox1-y-ZyZで表されるチタン合金の酸窒化物および不可避的不純物からなり、x、y及びzはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.10≦y≦0.481、0.03≦z≦0.47を満たすことを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属層での反射を抑制する黒化膜を備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルは、カラーフィルタ基板と、TFTアレイ基板と、これら二つの基板に挟まれた液晶層と、を有している。TFTアレイ基板上に形成された電極については、透明なITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)電極のほか、極細の金属電極が用いられる。金属電極の場合、金属線が不透明で金属光沢を有することから、外部からの光がこの金属線に当って反射し、その反射光によって表示部に対する視認性が低下する問題を有している。
【0003】
その対策として、液晶パネルでは、金属電極の直上にブラックマトリクスを配置して、金属電極からの反射光を遮蔽する構造が採用されている。しかしながら、このような場合R(赤色)、G(緑色)、B(青色)各色のカラーフィルタを格子状に区画するブラックマトリクスの幅を狭めることが困難となり、カラーフィルタの開口率を高めるなどパネル性能の向上を図ることが難しくなってしまう。
【0004】
一方、金属電極からの反射光を抑制する他の手段として、金属電極を形成する金属層上に、反射を低く抑えることが可能な黒化膜を形成したものが各種提案されている(例えば下記特許文献1参照)。これら黒化膜は、金属層での反射を抑制する一定の効果が認められるものであるが、近年、更に反射率の低い黒化膜が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-69573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、反射率の低い黒化膜を備えた積層体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明の積層体は、透明な基材と、
該基材に積層されて電極及び/又は配線を形成する金属層と、
該金属層の前記基材とは反対側の面、または該金属層と該基材との間に積層された黒化膜と、を少なくとも有し、
該黒化膜は(Ti1-xMox1-yyで表されるチタン合金の窒化物および不可避的不純物からなり、x及びyはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.40≦y<0.50を満たすことを特徴とする。
【0008】
以上のように本発明の積層体は、透明な基材と、電極及び/又は配線を形成する金属層とを備えた積層体を構成するに際して、金属層の基材とは反対側の面に(すなわち基材を下側とし金属層を上側としたときに、その金属層の上面に)、または金属層と基材との間に、所定の組成範囲内にあるチタン合金の窒化物からなる黒化膜を積層形成したものである。
【0009】
本発明に従って金属層の上面にチタン合金の窒化物からなる黒化膜を積層形成した場合には、金属層の側から基材の側に向って入射する光に対する金属層での反射を低く抑えることができる。
【0010】
一方、金属層と基材との間に黒化膜を積層形成した場合にあっては、基材を上側とし、金属層を下側とする向きに積層体を配置した場合において、基材の側から金属層の側に向って入射する光に対する金属層での反射を低く抑えて良好な視認性を確保することが可能となる。
【0011】
本発明の黒化膜は、金属成分としてTiおよびMoを含有する窒化物である。組成を規定する(Ti1-xMox1-yyの式において、xは金属成分中のMoの原子比を示し、1-xは金属成分中のTiの原子比を示す。また、yは黒化膜中のNの原子比を示す。
金属成分としてTiおよびMoを含有する黒化膜は、耐熱性に優れるため、TFT製造プロセスのように300℃以上(例えば真空状態で370℃で10分)熱が加えられた場合でも色変化無く、所定の反射率低減の効果が維持される。
【0012】
本発明では、黒化膜における、金属成分中のMoの原子比xを0.03≦x≦0.28としている。xの値が小さく、0.03未満の場合には、ウェットエッチングによるパターニングが困難となり製造性が悪化するためである。一方、xの値が大きく、0.28超の場合には反射率が25%を超えて高くなり、反射率低減の効果が小さくなってしまう。このため本発明では、xの範囲を、製造性を確保しつつ反射率低減の効果が得られる0.03≦x≦0.28としている。
【0013】
ここで、より反射率低減の効果を得るための好ましいxの範囲は、0.08≦x≦0.25であり、さらに好ましい範囲は0.10≦x≦0.20である。
【0014】
また、反射率低減の効果は、黒化膜におけるNの原子比yの値にも依存する。このため本発明ではyの範囲を0.40≦y<0.50としている
【0015】
なお、黒化膜は、上記元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。例えば、酸素(O)は、不可避的不純物として3at%未満含有してもよい。
【0016】
また本発明では、黒化膜を、金属成分としてTiおよびMoを含有する酸窒化物で構成することも可能である。この場合、黒化膜は(Ti1-xMox1-y-ZyZで表されるチタン合金の酸窒化物および不可避的不純物からなり、x、y、zはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.10≦y≦0.481、0.03≦z≦0.47を満たすように構成する。
【0017】
黒化膜の組成を規定する(Ti1-xMox1-y-ZyZの式において、xは金属成分中のMoの原子比を示し、1-xは金属成分中のTiの原子比を示す。また、yは黒化膜中のNの原子比を示し、zは黒化膜中のOの原子比を示す。
【0018】
黒化膜を酸窒化物とすることで、更に反射率低減の効果を高めることが可能である。但し、過度に黒化膜におけるOの原子比を高めた場合には、逆に反射率低減の効果が損なわれるため、本発明ではzの範囲を0.03≦z≦0.47としている。
【0019】
また、本発明の黒化膜の形成に用いられるターゲット材は、Moを3~28at%含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。このように規定したチタン合金のターゲット材を用いることで、反射率の低い黒化膜を反応性スパッタリングによって容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明によれば、反射率の低い黒化膜を備えた積層体、および反射率の低い黒化膜の形成に好適なターゲット材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の積層体を示した図である。
図2】同積層体の製造手順を示す説明図である。
図3図2に続く製造手順を示す説明図である。
図4図3に続く製造手順を示す説明図である。
図5図4に続く製造手順を示す説明図である。
図6】本発明の他の実施形態の積層体を示した図である。
図7】黒化膜中のMoの原子比xと反射率との関係を示した図である。
図8】反射率の評価に用いる積層体の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1において、10は薄膜トランジスタ(以下、「TFT」と称する)としての機能を備えた積層体で、基板18上に形成されたゲート電極層20と、ゲート電極層20を覆うゲート絶縁層22と、ゲート絶縁層22を介してゲート電極層20と重なるように配置された半導体層24と、半導体層24と接合するソース電極層26およびドレイン電極層28と、を備えている。
【0023】
基板18は、透明な基材からなり、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラス基板のほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂基板を使用することができる。基板18の厚みは300μm~1mmとするのが加工性の点から好ましい。
【0024】
ゲート電極層20は、AlやCuなどの低抵抗の金属材料で構成することができる。しかしながら、Al単体では耐熱性が劣り、また腐蝕しやすい等の問題点があるので他の耐熱性導電性材料と組み合わせて形成することも可能である。
【0025】
ゲート絶縁層22は、単層であっても2層以上であってもよく、従来一般に用いられるもの、例えばシリコン酸化膜(SiOx膜)、シリコン窒化膜(SiNx膜)等を用いることができる。
【0026】
半導体層24は、In-Ga-Zn系酸化物(IGZOとも表記する)などの酸化物半導体で構成することができる。In-Ga-Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
なお、半導体層24は、酸化物半導体に限定されるものではなく、例えばアモルファスシリコン(a-Siとも表記する)を用いることも可能である。
【0027】
ソース電極層26およびドレイン電極層28は、それぞれ半導体層24に接合されている。詳しくは、ソース電極層26とドレイン電極層28の間には凹部29が設けられ、この凹部29によってソース電極層26とドレイン電極層28とは分離された状態で、それぞれ半導体層24に接合されている。
【0028】
ソース電極層26およびドレイン電極層28は、Al、Cuもしくはこれらを含む合金で構成される金属層32と、金属層32の半導体層24側の面に設けられた第1の黒化膜34と、金属層32の半導体層24とは反対側の面に設けられた第2の黒化膜35と、を含む積層構造をなしている。
【0029】
金属層32は、低抵抗とするためAl単体で構成することが望ましい。一般に電極材料としてAlのほかCuが用いられる。これらAl、Cuはともにウェットエッチングによる加工が可能であるが、Cuはドライエッチングによる加工ができないため、Alの方が汎用性が高い。またコスト面において、AlはCuの1/3程度と安価である。
金属層32をAl単体で構成する場合、純Alのターゲット材を用いた非反応性スパッタリングによって成膜することができる。また、場合によっては金属層32を、Al含有量が90at%以上であるAl合金で構成することも可能であるし、耐熱性導電性材料と組み合わせて形成することも可能である。金属層32の厚みは、10nm~1μmとすることが好ましい。
【0030】
第1の黒化膜34および第2の黒化膜35は、金属層32表面での光の反射を抑える目的で金属層32の下面および上面を被覆する。第1の黒化膜34および第2の黒化膜35は(Ti1-xMox1-yyで表されるチタン合金の窒化物である。x及びyはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.40≦y≦0.60を満たしている。このような第1の黒化膜34および第2の黒化膜35は、所定組成のチタン合金からなるターゲット材、詳しくはMoを3~28at%含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなるターゲット材を用い、Ar等の不活性ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気下で反応性スパッタリングにより形成することができる。
【0031】
第1の黒化膜34および第2の黒化膜35の組成は、互いに同一であっても良く、あるいは異なってもよい。同一の組成であれば共通のターゲット材を使用することができる。
尚、第1の黒化膜34および第2の黒化膜35の厚みは15~200nmとすることが好ましい。
【0032】
層間絶縁層14は、ソース電極層26およびドレイン電極層28を覆うように配置され、ソース電極層26とドレイン電極層28との間の凹部29において、半導体層24のチャネル領域43と接するように配置されている。層間絶縁層14は、ゲート絶縁層22と同様に、シリコン酸化膜(SiOx膜)、シリコン窒化膜(SiNx膜)等を用いることができる。
【0033】
酸化物導電層16は、ITO、ZnO、SnO2、IZOなどで構成され、層間絶縁層14上に配置される。本例の積層体10が、液晶パネルを構成するTFTアレイ基板として機能する場合、酸化物導電層16は図示を省略した液晶表示部における画素電極を構成する。酸化物導電層16は、層間絶縁層14に形成された接続孔36を介してドレイン電極層28と電気的に接続されており、TFTがON・OFFすることで、酸化物導電層16への電圧印加の開始・終了が行われる。
【0034】
このように構成された積層体10においては、ソース電極層26およびドレイン電極層28が、金属層32と、これを挟むようにして積層形成された黒化膜34,35とで構成されているため、外部からの光に対する金属層32での反射を抑えることができる。
【0035】
次に、この積層体10の製造工程を説明する。
先ず、基板18上に、スパッタ法や蒸着法等の真空薄膜形成方法によって第1の導電膜を形成し、第1の導電膜をパターニングして図2(A)に示すように、Al等からなるゲート電極層20を形成する。
【0036】
第1の導電膜のパターニングによってゲート電極層20が形成されると、ゲート電極層20が位置する部分以外は基板18の表面が露出する。図2(B)に示すように、基板18およびゲート電極層20の表面に、SiO2、SiNx等のゲート絶縁層22を形成する。
【0037】
次に、図2(C)に示すように、ゲート絶縁層22上に半導体の薄膜を形成し、その後パターニングして、パターニングされた半導体の薄膜からなる半導体層24を形成する。例えば、In、Ga、Znを所定の割合で含有するIn-Ga-Zn系酸化物からなる酸化物半導体層を形成する。
【0038】
次に、図3(A)、(B)、(C)に示すように、半導体層24の表面と、半導体層24の位置する部分以外の場所で露出するゲート絶縁層22の表面に、第1の黒化膜34a、第2の導電膜32a、第2の黒化膜35aの順でこれらを膜状に積層する。
第1の黒化膜34aは、図2(C)の状態まで作製された積層体に対し、所定組成のチタン合金のターゲット材を用い、スパッタリングガスとして窒素ガスを含んだ混合ガスを用い反応性スパッタリングによって形成する。
【0039】
次に、Alを主成分とするターゲット材を用い、スパッタリングガスとしてターゲット材とは非反応性のガスを用いた非反応性スパッタリングによって、第2の導電膜32aを、図3(B)に示すように、第1の黒化膜34aの表面に形成する。
【0040】
次に、所定組成のチタン合金からなるターゲット材を用い、スパッタリングガスとして窒素ガスを含んだ混合ガスを用いた反応性スパッタリングによって第2の黒化膜35aを、図3(C)に示すように、第2の導電膜32aの表面に形成する。このようにして第1の黒化膜34a、第2の導電膜32a、第2の黒化膜35aからなる積層膜30aが形成される。
【0041】
その後、図4(A)に示すように積層膜30aの非除去部分にレジスト38を形成して、この状態で積層膜30aを含む積層体をエッチング液に浸漬することで積層膜30aの、レジスト38にてマスクされていない部分が部分的に除去される。その後、レジスト38を除去すると、図4(B)に示すように、第1の黒化膜34、金属層32および第2の黒化膜35を有するソース電極層26およびドレイン電極層28が形成される。
このように、本例の第1の黒化膜34および第2の黒化膜35は、金属層32とともに、従来のウェットエッチングまたはドライエッチングによるパターン形成が可能である。
【0042】
図4(B)において、半導体層24の、ソース領域41とドレイン領域42の間がチャネル領域43であり、ゲート電極層20は、ゲート絶縁層22を挟んでチャネル領域43と対向する位置にある。この状態で、半導体層24と、ゲート絶縁層22と、ゲート・ソース・ドレインの各電極層20、26、28とで、TFTが構成される。
【0043】
次に、図5(A)に示すようにSiNxやSiO2等からなる層間絶縁層14を形成する。これとともに、層間絶縁層14の所定の箇所には接続孔36(図1参照)を形成しておく。その後、図5(B)に示すように層間絶縁層14の表面に、ITOなどの第3の導電膜を形成し、その後パターニングして、酸化物導電層16を形成する。
【0044】
以上、本発明の一実施形態の積層体10の構成およびその製造方法について説明したが、積層体10の構成およびその製造方法については適宜変更可能である。例えば、上記積層体10ではソース・ドレイン電極26,28に黒化膜を設けているが、場合によっては、図1で示されたゲート電極20の上下に黒化膜を形成することも可能である。また、ゲート電極20、ソース・ドレイン電極26,28の上側にのみ黒化膜を形成することも可能であるし、ゲート電極20、ソース・ドレイン電極26,28の下側にのみ黒化膜を形成することも可能である。
【0045】
また、上記実施形態では、第1の黒化膜34および第2の黒化膜35をチタン合金の窒化物で構成したが、これら黒化膜34,35を(Ti1-xMox1-y-ZyZで表されるチタン合金の酸窒化物で構成することも可能である。x、y、zはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.10≦y≦0.60、0.03≦z≦0.47を満たしている。このような酸窒化物は、所定組成のチタン合金からなるターゲット材を用い、窒素ガスおよび酸素ガスを含む混合ガス雰囲気下での反応性スパッタリングにより形成することができる。
【0046】
図6は、本発明の他の実施形態の積層体を示している。
図6(A)において、50Aはタッチパネルセンサとして使用する積層体の一例を示している。同図において52は透明な基材で、この基材52の一方の面(図中の上面)に、電極形成する金属層54が基材52全面に亘って膜状に積層されている。そしてこの金属層54の、基材52とは反対側の面、すなわち図中上面に、黒化膜56が積層形成されている。この黒化膜56もまた、金属層54の全面に亘って膜状に積層形成されている。
【0047】
本例における黒化膜56は、(Ti1-xMox1-yyで表されるチタン合金の窒化物である。ここでx及びyはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.40≦y≦0.60を満たしている。また黒化膜56は、(Ti1-xMox1-y-ZyZで表されるチタン合金の酸窒化物で構成することも可能である。ここでx、y、zはそれぞれ原子比を示し、0.03≦x≦0.28、0.10≦y≦0.60、0.03≦z≦0.47を満たしている。
【0048】
積層体50Aは、実際にはこれを加工してタッチパネルセンサの要素として用いる。50は、その加工後の積層体を示している。
加工後の積層体50においては、加工前の積層体50Aにおける膜状の金属層54の余分となる部分が除去されて多数の極細線S1のみが金属層54として残されており、それら残された極細線S1が互いに平行をなして縞状パターンの電極54Dを形成している。
黒化膜56もまた余分の部分が除去されて、極細線S1の図中上面を覆う部分のみが極細線S2となって残され、それらが極細線S1の図中上面に入射する光に対する反射を低減する働きをなしている。
なお、この実施形態における図6(A)の積層体50A及び50は、何れも本発明の積層体の概念に含まれるものである。
【0049】
また図6(B)で示す積層体20A及び20は、本実施形態における積層体の他の形態例である。積層体20A及び20では、金属層54と透明な基材52との間に黒化膜56が積層形成されている。このようにすることで、下側から上向きに入射する光が電極54D(金属層54)で下向きに反射するのを抑制することができる。
【0050】
[実施例1]
次に本発明の実施例を以下に詳しく説明する。
この実施例1では、下記表1に示すように、(Ti1-xMox1-yyで表される黒化膜における、Moの原子比xを変化させた種々の積層体を以下のようにして製造し、反射率およびエッチング性を以下の方法で測定し、評価を行った。
【0051】
(黒化膜/金属膜/黒化膜/基材の積層体の作製)
透明な基材として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板を用い、まず反応性スパッタリングを行って基材上に第1の黒化膜を形成した。反応性スパッタリングは、Mo比が異なるTiMo合金からなるスパッタリングターゲットを用い、真空度を5×10-4~5×10-5Paとし、チャンバ内に窒素ガス比率が80%以上の混合ガスを導入して、スパッタ圧は0.1~1.5Pa,電力は100~500Wとして行なった。これにより厚さ100nmの黒化膜を形成した。
次に、非反応性スパッタリングを行って黒化膜上にCuからなる金属膜を積層形成した。金属膜を形成するための非反応性スパッタリングは真空度を5×10-4~5×10-5Paとし、チャンバ内にArガス(不活性ガス)を導入して行った。スパッタ圧は0.1~1.5Pa,電力は100~500Wとして行った。これにより厚さ200nmでCuからなる金属膜を形成した。
次に、反応性スパッタリングを行って金属膜上に第2の黒化膜を形成した。成膜の条件は第1の黒化膜と同じである。
このようにして、透明基材上に第1の黒化膜と金属膜と第2の黒化膜がその順に積層した構造、すなわち図8で示す黒化膜/金属膜/黒化膜/基材の積層体を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
(反射率の評価)
上記のように作製した黒化膜/金属膜/黒化膜/基材の積層体を用い、JIS K 7105に準拠して反射率の測定を行った。詳しくは紫外可視分光光度計を用いて可視光(波長400~780nm)について波長1nm毎の反射率を測定し、その平均値を算出した。反射率の測定は、図8にて矢印で示すように、金属膜の側から基材側を見たときの反射光の測定、即ち金属膜の側から基材側に光が入射したときの反射光を測定し、下記評価基準にて評価した。その結果を表1に示す。
○:反射率が25%未満
×:反射率が25%以上
【0054】
(ウェットエッチング性評価)
ウェットエッチング性評価では、金属膜が形成される前の黒化膜/基材の積層体から5cm角の試料を切り出し、この試料を林純薬工業製のエッチング液Pure Etch TEに浸漬し、基板上に形成した黒化膜が完全に溶解されるまでの時間を測定し、エッチングレート(nm/min)を求め、下記評価基準にて評価した。その結果を表1に示す。
○:エッチングレートが70nm/min以上
×:エッチングレートが70nm/min未満
【0055】
表1の結果において、No.1の積層体は、Moを含有せず、黒化膜をTiNで構成したものである。No.1の積層体は、反射率の評価、ウェットエッチング性の評価がともに×であった。
一方、黒化膜にMoを32at%以上含有させたNo.6およびNo.7の積層体は、ウェットエッチング性の評価は○であったが、反射率が25%超と高く反射率の評価が×であった。
【0056】
これに対し本発明で規定した組成の黒化膜を備えたNo.2~No.5の積層体については、反射率およびウェットエッチング性、いずれも良好な結果が得られた。なお、図7に黒化膜中のMoの原子比xと反射率との関係を示している。
【0057】
また、表1では参考として、ドライエッチング性についての評価も示している。表1に示す黒化膜は、何れもドライエッチング可能であった。
【0058】
[実施例2]
黒化膜用のターゲット材として、Ti0.92Mo0.08のチタン合金を用い、上記実施例1と同様の手順で、黒化膜/金属膜/黒化膜/基材の積層体を作製した。ただし、ここでは表2に示すように黒化膜を成膜する際の混合ガス中の窒素ガス量を変化させて積層体を製造し、黒化膜の組成を調査するとともに反射率を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果によれば、目標とする反射率25%未満を実現するためには、黒化膜中のNを40at%以上含有させる必要があることが分かる。本例においては、成膜時の混合ガス中の窒素ガス量を80%以上とすることで、黒化膜中のNを40at%以上とすることができた。
【0061】
[実施例3]
黒化膜用のターゲット材として、Ti単体またはチタン合金のターゲット材を用い、上記実施例1と同様の手順で、黒化膜/金属膜/黒化膜/基材の積層体を作製した。ただし、ここでは表3、表4に示すように黒化膜を成膜する際の混合ガス中の窒素ガス量と酸素ガス量の比率を変化させて積層体を製造し、黒化膜の組成を調査するとともに反射率を測定した。また、ウェットエッチング性およびドライエッチング性についての評価も併せて行っている。その結果を表3、表4に示す。
なお、表3におけるTi-4Moの記載は、ターゲット材の組成がTi0.96Mo0.04であることを示し、Ti-8Moの記載は、ターゲット材の組成がTi0.92Mo0.08であることを示している。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
表3、表4の結果によれば、Tiのみから成るターゲットを用いた場合(No.21、22参照)およびMo比率の高いターゲット(Ti-32Mo)を用いた場合(No.57~62参照)については、目標(反射率25%未満)未達であった。
一方、共通のターゲット材を用いて作製された積層体について注目すると(例えば表3のNo.23~No.29参照)、黒化膜中に含まれるO量が増加するにつれて反射率は低下しており、黒化膜中にOを含有させたことによる効果が認められる。但し、適量を超えて含有させた場合には、反射率は逆に高くなっており、目標とする反射率25%未満を実現するためにはOを47at%未満(且つNを10~60at%)とすることが有効であることが分かる。
【0065】
以上本発明の実施形態及び実施例について詳しく説明したが、これはあくまで一例示である。例えば、本発明の積層体は、液晶パネルやタッチパネルのほか有機ELを備えた表示装置に用いることも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0066】
10,50,50A,60,60A, 積層体
18,52 基材
32,54 金属層
34,35,56 黒化膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8