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特許7326978バドミントンラケットの仕様決定方法及びシャフト挙動の解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】バドミントンラケットの仕様決定方法及びシャフト挙動の解析方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 60/42 20150101AFI20230808BHJP
   A63B 49/00 20150101ALI20230808BHJP
   A63B 102/04 20150101ALN20230808BHJP
【FI】
A63B60/42
A63B49/00
A63B102:04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019146570
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021023724
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】君塚 渉
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035452(JP,A)
【文献】特開2013-029393(JP,A)
【文献】特開2019-062977(JP,A)
【文献】KWAN, Maxine et al.,Linking Badminton Racket Design and Performance Through Motion Capture,Computer Aided Medical Engineering,Vol.2,2011年01月,pp.13-18,https://www.researchgate.net/ publication/233782806_Linking_badminton_racket_design_and_performance_through_motion_capture
【文献】BLOMSTRAND, Elias et al.,Simulation of a Badminton Racket - A parametric study of racket design parameters using Finite Element Analysis,Chalmers Open Digital Repository,2017年,pp.1-2,6,13-14,27,32-34,38-40,https://odr.chalmers.se/handle/20.500.12380/250350
【文献】水野 衛 ほか,工業科目「工業材料」と「機械設計」分野に対するスポーツ工学の教育効果 -バドミントンラケットに関する学生自主研究からの報告-,秋田県立大学総合科学研究彙報,12号,2011年03月31日,pp.55-62,https://akita-pu.repo.nii.ac.jp/? action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=111&item_no=1&page_id=13&
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00-51/16
A63B 55/00-60/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ショットにおける、面内方向のシャフトのしなり量と、面外方向のシャフトのしなり量とを、計測することで、シャフトのしなり方を解析するステップ
及び
(B)上記ステップ(A)の解析の結果に基づいて、目標シャフトの特性を決定するステップ
を含む、バドミントンラケットの仕様決定方法。
【請求項2】
上記ステップ(A)において、面内方向におけるシャフトの最大しなり量及び面外方向におけるシャフトの最大しなり量によって、しなり方が判定される請求項1に記載の仕様決定方法。
【請求項3】
上記ステップ(A)において、面内方向におけるシャフトのしなり量と面外方向におけるシャフトのしなり量との比によって、しなり方が判定される請求項1又は2に記載の仕様決定方法。
【請求項4】
上記ステップ(B)において決定される特性が、シャフトの剛性である請求項1から3のいずれかに記載の仕様決定方法。
【請求項5】
上記ステップ(B)において決定される特性が、シャフトの剛性分布である請求項1から3のいずれかに記載の仕様決定方法。
【請求項6】
上記ステップ(B)において決定される特性が、面内方向におけるシャフトの剛性及び面外方向におけるシャフトの剛性である請求項1から3のいずれかに記載の仕様決定方法。
【請求項7】
上記ステップ(B)において決定される特性が、面内方向におけるシャフトの剛性分布及び面外方向におけるシャフトの剛性分布である請求項1から3のいずれかに記載の仕様決定方法。
【請求項8】
上記ステップ(A)において、面内方向のシャフトのしなり量と、面外方向のシャフトのしなり量とが、このシャフトの所定位置にて測定される、請求項1から7のいずれかに記載の仕様決定方法。
【請求項9】
(A)ショットにおける、面内方向のシャフトのしなり量と、面外方向のシャフトのしなり量とを、計測することで、シャフトのしなり方を解析するステップ、
(B)上記ステップ(A)の解析の結果に基づいて、目標シャフトの特性を決定するステップ
並びに
(C)上記ステップ(B)によって決定された特性を有するシャフトに、フレーム及びグリップを装着するステップ
を含む、バドミントンラケットの製造方法。
【請求項10】
(A)ショットにおける、面内方向のシャフトのしなり量と、面外方向のシャフトのしなり量とを、計測するステップ
及び
(B)上記面内方向のシャフトのしなり量と面外方向のシャフトのしなり量とを、対比するステップ
を含む、バドミントンラケットのシャフト挙動の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バドミントンラケットの仕様決定方法に関する。詳細には、本発明は、ラケットの部品であるシャフトの特性の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バドミントンのラケットは、フレーム、ストリング及びシャフトを有している。プレーヤーは、ラケットでシャトルをショットする。ショット時には、シャフトが変形する。シャフトの変形挙動は、シャトルの挙動に影響を与える。シャフトの特性は、ショットのクオリティを左右する。
【0003】
特開2012-147846公報には、適度なしなりやすさと適度な剛性とを有するシャフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-147846公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バドミントンのゲームでは、プレーヤーは、様々な種類のショットを行う。例えば、スマッシュ、ロビング、カット等のショットを、プレーヤーは行う。
【0006】
パワフルなショットを好むプレーヤーが、存在する。コントロールされたショットを好むプレーヤーも、存在する。
【0007】
バドミントンのダブルスのゲームでは、前衛のプレーヤーと後衛のプレーヤーとが、ペアを形成する。前衛のプレーヤーに主として求められるショットと、後衛のプレーヤーに主として求められるショットとは、異なる。
【0008】
プレーヤーが好むショットに適した仕様のシャフトが、求められている。プレーヤーが多用するショットに適した仕様のシャフトも、求められている。
【0009】
本発明の目的は、特定のプレーヤー又は特定のショットに適したバドミントンラケットが得られる仕様決定方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るバドミントンラケットの仕様決定方法は、
(A)ショットにおけるシャフトのしなり方を解析するステップ
及び
(B)上記ステップ(A)の解析の結果に基づいて、目標シャフトの特性を決定するステップ
を含む。
【0011】
好ましくは、ステップ(A)において、シャフトのしなり量によってしなり方が判定される。
【0012】
好ましくは、ステップ(A)において、シャフトの最大しなり量によってしなり方が判定される。
【0013】
好ましくは、ステップ(A)において、面内方向におけるシャフトのしなり量及び面外方向におけるシャフトのしなり量によって、しなり方が判定される。
【0014】
好ましくは、ステップ(A)において、面内方向におけるシャフトの最大しなり量及び面外方向におけるシャフトの最大しなり量によって、しなり方が判定される。
【0015】
好ましくは、ステップ(A)において、面内方向におけるシャフトのしなり量と面外方向におけるシャフトのしなり量との比によって、しなり方が判定される。
【0016】
好ましくは、ステップ(B)において決定される特性は、シャフトの剛性である。
【0017】
好ましくは、ステップ(B)において決定される特性は、シャフトの剛性分布である。
【0018】
好ましくは、ステップ(B)において決定される特性は、面内方向におけるシャフトの剛性及び面外方向におけるシャフトの剛性である。
【0019】
好ましくは、ステップ(B)において決定される特性は、面内方向におけるシャフトの剛性分布及び面外方向におけるシャフトの剛性分布である。
【0020】
他の観点によれば、本発明に係るバドミントンラケットの製造方法は、
(A)ショットにおけるシャフトのしなり方を解析するステップ、
(B)上記ステップ(A)の解析の結果に基づいて、目標シャフトの特性を決定するステップ
並びに
(C)上記ステップ(B)によって決定された特性を有するシャフトに、フレーム及びグリップを装着するステップ
を含む。
【0021】
さらに他の観点によれば、本発明に係るバドミントンラケットのシャフト挙動の解析方法は、
(A)ショットにおける、面内方向のシャフトのしなり量と、面外方向のシャフトのしなり量とを、計測するステップ
及び
(B)上記面内方向のシャフトのしなり量と面外方向のシャフトのしなり量とを、対比するステップ
を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る決定方法により、特定のプレーヤーに適したバドミントンラケットが得られうる。本発明に係る決定方法により、特定のショットに適したバドミントンラケットが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る決定方法で得られたバドミントンラケットが示された正面図である。
図2図2は、図1のラケットが示された右側面図である。
図3図3は、標準ラケットのシャフトの、3点曲げ剛性試験の結果が示されたグラフである。
図4図4は、標準ラケットのシャフトの、スマッシュのときのしなり量の測定結果が示されたグラフである。
図5図5は、図1のラケットが湾曲した状態が示された正面図である。
図6図6は、図1のラケットが湾曲した状態が示された右側面図である。
図7図7は、他のラケットのシャフトの、3点曲げ剛性試験の結果が示されたグラフである。
図8図8は、標準ラケットのシャフトの、ロビングのときのしなり量の測定結果が示されたグラフである。
図9図9は、さらに他のラケットのシャフトの、3点曲げ剛性試験の結果が示されたグラフである。
図10図10は、標準ラケットのシャフトの、カットのときのしなり量の測定結果が示されたグラフである。
図11図11は、さらに他のラケットのシャフトの、3点曲げ剛性試験の結果が示されたグラフである。
図12図12は、本発明の一実施形態に係る仕様決定方法が示されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0025】
図1及び2に、バドミントンラケット2が示されている。このラケット2は、シャフト4、フレーム6、グリップ8及びストリング10を有している。図1及び2において、矢印Xは幅方向を表し、矢印Yは軸方向を表し、矢印Zは厚み方向を表す。
【0026】
シャフト4は、中空である。シャフト4は、繊維強化樹脂から形成されている。この繊維強化樹脂では、多数の強化繊維の中に基材樹脂が含浸している。
【0027】
シャフト4の基材樹脂として、エポキシ樹脂、ピスマレイミド樹脂、ポリイミド及びフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂;並びにポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド及びポリプロピレンのような熱可塑性樹脂が例示される。シャフト4に特に適した樹脂は、エポキシ樹脂である。
【0028】
シャフト4の強化繊維として、カーボン繊維、金属繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維が例示される。シャフト4に特に適した繊維は、カーボン繊維である。複数種の繊維が併用されてもよい。
【0029】
フレーム6は環状であり、中空である。フレーム6は、繊維強化樹脂から形成されている。この繊維強化樹脂の基材樹脂として、シャフト4の基材樹脂と同様の樹脂が用いられ得る。この繊維強化樹脂の強化繊維として、シャフト4の強化繊維と同様の樹脂が用いられ得る。フレーム6は、シャフト4の前端に、堅固に結合されている。
【0030】
グリップ8は、軸方向(Y方向)に延びる穴(図示されず)を有している。この穴に、シャフト4の後端近傍が挿入されている。穴の内周面とシャフト4の外周面とは、接着剤で接合されている。
【0031】
ストリング10は、フレーム6に張られている。ストリング10は、幅方向X及び軸方向Yに沿って張られる。ストリング10のうち幅方向Xに沿って延在する部分は、横ストリングと称される。ストリング10のうち軸方向Yに沿って延在する部分は、縦ストリングと称される。複数の横ストリング及び複数の縦ストリングにより、フェース12(図2参照)が形成される。フェース12は、概してX-Y平面に沿っている。
【0032】
本発明に係る設計方法では、まず、標準ラケットが準備される。この標準ラケットは、シャフトを有している。図3に、このシャフトの3点曲げ剛性試験の結果が示されている。本実施形態では、曲げ剛性の測定点は4である。このシャフトは、グリップの近傍から前端まで、ほぼフラットな剛性分布を有する。フラットでない剛性分布を有するシャフトが、標準ラケットに採用されてもよい。種々の仕様のシャフトが、標準ラケットに採用されうる。プレーヤーが日常使用しているラケットが、標準ラケットであってもよい。
【0033】
[スマッシュ]
この標準ラケットを一人のプレーヤーに使用させ、スマッシュのときのシャフトのしなりを、赤外線カメラで撮影した。得られた画像から、ショット中のシャフトのしなり量を測定した。本実施形態では、ショットの開始時からシャトルとのインパクトが終わるまでの間のシャフトのしなり量が、測定された。この結果が、図4に示されている。図4において、実線は面内方向におけるしなり量であり、点線は面外方向におけるしなり量である。本実施形態では、面内方向におけるしなり量とは、シャフトの前端のX方向への移動距離であり、図5において矢印Lxで示されている。本実施形態では、面外方向におけるしなり量とは、シャフトの前端のZ方向への移動距離であり、図6において矢印Lzで示されている。前端以外の、シャフトの所定位置にて、面内方向及び面外方向におけるしなり量が測定されてもよい。
【0034】
面内方向におけるしなり量及び面外方向におけるしなり量に基づき、シャフトの挙動が解析される。図4からは、このプレーヤーのスマッシュにおいてシャフトが、面内方向に大きくしなり、面外方向にも大きくしなることが分かる。面内方向における最大しなり量と、面外方向における最大しなり量との比R1は、0.76である。
【0035】
このプレーヤーに、他のラケットを使用させた。このラケットのシャフトの剛性分布が、図7に示されている。このシャフトは、前下がりの剛性分布を有する。このラケットを用いたスマッシュの後のシャトルの挙動を、高速度カメラで撮影した。得られた画像から、ネットを超えるときのシャトルの速度を測定した。この結果は、下記の通りである。
【0036】
標準ラケット(剛性分布:フラット)
平均速度:23.9m/s
最大速度:26.6m/s
最小速度:21.0m/s
ばらつき:5.6m/s
他のラケット(剛性分布:前下がり)
平均速度:24.5m/s
最大速度:25.7m/s
最小速度:23.9m/s
ばらつき:1.8m/s
【0037】
前下がりの剛性分布を有するシャフトを含むラケットを用いたスマッシュでは、平均速度が速く、かつ速度のばらつきが小さい。この結果から、このプレーヤーのスマッシュには、前下がりの剛性分布を有するシャフトを含むラケットが適していることが分かる。
【0038】
このプレーヤーによる、スマッシュ以外のショットでも、面内方向及び面外方向の両方にてシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が1/2以上2/1以下となり得る。このようなショットには、前下がりの剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0039】
他のプレーヤーによるショットでも、面内方向及び面外方向の両方にてシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が1/2以上2/1未満となり得る。このようなショットには、前下がりの剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0040】
面内方向及び面外方向の両方にてシャフトが大きくしなるショットを多用するプレーヤーには、前下がりの剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。面内方向及び面外方向の両方にてシャフトが大きくしなるショットを重視するプレーヤーにも、前下がりの剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0041】
[ロビング]
前述の標準ラケットを一人のプレーヤーに使用させ、ロビングのときのシャフトのしなりを、赤外線カメラで撮影した。得られた画像から、ショットの開始時からシャトルとのインパクトが終わるまでのシャフトのしなり量を、測定した。この結果が、図8に示されている。図8において、実線は面内方向におけるしなり量であり、点線は面外方向におけるしなり量である。
【0042】
図8から明らかなように、このプレーヤーのロビングでは、シャフトは面内方向にはあまりしならず、面外方向に大きくしなる。面内方向における最大しなり量と、面外方向における最大しなり量との比R1は、0.14である。
【0043】
このプレーヤーに、他のラケットを使用させた。このラケットのシャフトの剛性分布が、図9に示されている。このシャフトは、下に凸な剛性分布を有する。このラケットを用いたロビングの後のシャトルの挙動を、高速度カメラで撮影した。得られた画像から、ネットを超えるときのシャトルの高さを測定した。この結果は、下記の通りである。
【0044】
標準ラケット(剛性分布:フラット)
平均高さ:1.88m
最大高さ:2.20m
最小高さ:1.63m
ばらつき:0.57m
他のラケット(剛性分布:下に凸)
平均高さ:1.85m
最大高さ:1.97m
最小高さ:1.80m
ばらつき:0.17m
【0045】
下に凸な剛性分布を有するシャフトを含むラケットを用いたロビングでは、シャトルの高さのばらつきが小さい。この結果から、このプレーヤーのロビングには、下に凸な剛性分布を有するシャフトを含むラケットが適していることが分かる。
【0046】
このプレーヤーによる、ロビング以外のショットでも、主として面外方向にシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が1/2未満となり得る。このようなショットには、下に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0047】
他のプレーヤーによるショットでも、主として面外方向にシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が1/2未満となり得る。このようなショットには、下に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0048】
主として面外方向にシャフトが大きくしなるショットを多用するプレーヤーには、下に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。主として面外方向にシャフトが大きくしなるショットを重視するプレーヤーにも、下に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0049】
[カット]
前述の標準ラケットを一人のプレーヤーに使用させ、カットのときのシャフトのしなりを、赤外線カメラで撮影した。得られた画像から、ショットの開始時からシャトルとのインパクトが終わるまでのシャフトのしなり量を、測定した。この結果が、図10に示されている。図10において、実線は面内方向におけるしなり量であり、点線は面外方向におけるしなり量である。
【0050】
図10から明らかなように、このプレーヤーのカットでは、シャフトは面外方向にはあまりしならず、面内方向に大きくしなる。面内方向における最大しなり量と、面外方向における最大しなり量との比R1は、2.47である。
【0051】
このプレーヤーに、他のラケットを使用させた。このラケットのシャフトの剛性分布が、図11に示されている。このシャフトは、上に凸な剛性分布を有する。このラケットを用いたカットの後のシャトルの挙動を、高速度カメラで撮影した。 得られた画像から、ネットを超えるときのシャトルの高さを測定した。この結果は、下記の通りである。
【0052】
標準ラケット(剛性分布:フラット)
平均高さ:0.58m
最大高さ:0.72m
最小高さ:0.36m
ばらつき:0.36m
他のラケット(剛性分布:上に凸)
平均高さ:0.50m
最大高さ:0.55m
最小高さ:0.45m
ばらつき:0.10m
【0053】
上に凸な剛性分布を有するシャフトを含むラケットを用いたカットでは、シャトルの高さのばらつきが小さい。この結果から、このプレーヤーのカットには、上に凸な剛性分布を有するシャフトを含むラケットが適していることが分かる。
【0054】
このプレーヤーによる、カット以外のショットでも、主として面内方向にシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が2/1以上となり得る。このようなショットには、上に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0055】
他のプレーヤーによるショットでも、主として面内方向にシャフトが大きくしなりうる。例えば、比R1が2/1以上となり得る。このようなショットには、上に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0056】
主として面内方向にシャフトが大きくしなるショットを多用するプレーヤーには、上に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。主として面内方向にシャフトが大きくしなるショットを重視するプレーヤーにも、上に凸な剛性分布を有するシャフトが適していると推測される。
【0057】
[ラケットの仕様の決定]
図12は、本発明の一実施形態に係る仕様決定方法が示されたフローチャートである。この決定方法では、まず、標準ラケットによるショットにおいて、シャフトのしなりが撮影される(STEP1)。典型的には、撮影は、赤外線カメラでなされる。典型的には、モーション・コントロール撮影がなされる。プレーヤーが多用するショット、又はプレーヤーが重視するショットにおいて、撮影がなされる。
【0058】
撮影された画像に基づき、シャフトのしなり方が解析される(STEP2)。好ましくは、ショットの開始時からシャトルとのインパクトが終わるまでの、シャフトの最大しなり量が測定される。好ましくは、面内方向におけるしなり量と、面外方向におけるしなり量とが、測定される。好ましくは、面内方向における最大しなり量と、面外方向における最大しなり量との比R1が、算出される。
【0059】
得られたシャフトのしなり方に基づき、目標シャフトの特性が決定される(STEP3)。特性として、長さ、太さ、重さ、質量分布、剛性、剛性分布等が例示される。典型的には、目標シャフトの剛性分布が決定される。面内方向におけるシャフトの剛性及び面外方向におけるシャフトの剛性が、決定されてもよい。面内方向におけるシャフトの剛性分布及び面外方向におけるシャフトの剛性分布が、決定されてもよい。
【0060】
面内方向における最大しなり量と、面外方向における最大しなり量との比R1に基づき、目標シャフトの剛性分布が決定される場合の、基準の一例が、以下に示される。
比R1が1/2未満:下に凸な剛性分布を選定
比R1が1/2以上2/1未満:前下がりな剛性分布を選定
比R1が2/1以上:上に凸な剛性分布を選定
【0061】
決定された特性を有するシャフトが装着されたラケットが、既製品の中から選定される(STEP4)。こうして、バドミントンラケットの仕様が決定される。選定されたラケットは、当該プレーヤーに適している。プレーヤーは、このラケットを使用して、精度の高いショットをなすことができる。
【0062】
決定された特性を有する既存のシャフトに、フレーム及びグリップが装着されて、新たなラケットが製造されてもよい。換言すれば、本発明は、以下の観点を有する。
(A)ショットにおけるシャフトのしなり方を解析するステップ、
(B)上記ステップ(A)の解析の結果に基づいて、目標シャフトの特性を決定するステップ
及び
(C)上記ステップ(B)によって決定された特性を有するシャフトに、フレーム及びグリップを装着するステップ
を含む、バドミントンラケットの製造方法。
【0063】
決定された特性を有するシャフトが、新たに製造されてもよい。
【0064】
本発明に係る仕様決定方法の有用な利用例は、カスタマイズである。本発明により、プレーヤーごとに最適なバドミントンラケットが、決定されうる。
【0065】
本発明に係る仕様決定方法は、商品ラインナップの充実にも寄与しうる。例えば、
(1)パワフルなショットを好むプレーヤーに適したバドミントンラケット
(2)コントロールされたショットを好むプレーヤーに適したバドミントンラケット
(3)ダブルスの前衛プレーヤーに適したバドミントンラケット
(4)ダブルスの後衛プレーヤーに適したバドミントンラケット
(5)サーブを重視するプレーヤーに適したバドミントンラケット
(6)スマッシュを重視するプレーヤーに適したバドミントンラケット
(7)レシーブを重視するプレーヤーに適したバドミントンラケット
等が、市販されうる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る仕様決定方法により、個々のプレーヤーに適したバドミントンラケットが選定されうる。
【符号の説明】
【0067】
2・・・バドミントンラケット
4・・・シャフト
6・・・フレーム
8・・・グリップ
10・・・ストリング
12・・・フェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12