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特許7327150ガラス体の製造方法及びガラス体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ガラス体の製造方法及びガラス体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/02 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
C03B19/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019232718
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100894
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川島 道
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-132323(JP,A)
【文献】特表2006-520311(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018484(WO,A1)
【文献】特開昭50-051516(JP,A)
【文献】特公昭47-013510(JP,B1)
【文献】特開昭58-060638(JP,A)
【文献】特開昭53-050218(JP,A)
【文献】特開2015-209364(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106746512(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-40/04
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口するキャビティを有する鋳込型の前記開口から前記鋳込型のキャビティ内に溶融したガラスを流し込む工程と、
前記鋳込型のキャビティ内で成形されてなるガラス体を取り出す工程と、を備える鋳込み成形法によりガラス体を製造するガラス体の製造方法であって、
前記鋳込型は、前記キャビティの内底面を有する底面部材を備え、
前記底面部材は、前記キャビティの前記開口まで移動可能に構成されており、
前記ガラスを流し込む工程では、加振装置により前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる、ガラス体の製造方法。
【請求項2】
前記加振装置は、振動モーターを備える、請求項1に記載のガラス体の製造方法。
【請求項3】
前記加振装置は、鋳込型を載置する載置部と、前記載置部の下方に設けられる加振部と、前記載置部と前記加振部とを連結する柱状部材と、を備える、請求項1又は請求項2に記載のガラス体の製造方法。
【請求項4】
前記鋳込型のキャビティの形状は、上下方向に延びる柱状である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガラス体の製造方法。
【請求項5】
前記鋳込型のキャビティの形状は、縦長直方体形状である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のガラス体の製造方法。
【請求項6】
前記鋳込型は、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体と、前記鋳込型本体を保温する保温材とを備え、前記保温材は、前記鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの短辺側となる外周面のみに設けられる、請求項5に記載のガラス体の製造方法。
【請求項7】
前記ガラスを流し込む工程では、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの長辺側の外周面に冷風又は冷却液を接触させる、請求項5又は請求項6に記載のガラス体の製造方法。
【請求項8】
前記ガラスを流し込む工程では、前記鋳込型のキャビティ内に流入した前記ガラスの流入量の増加に応じて前記底面部材を下降させることで、前記キャビティの容量を増大させる、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のガラス体の製造方法。
【請求項9】
前記ガラスを取り出す工程では、前記底面部材を前記キャビティの前記開口に向けて移動させることで前記キャビティ内のガラスを押し出す、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のガラス体の製造方法。
【請求項10】
前記鋳込型のキャビティは、カーボンから構成された内面を有する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス体の製造方法。
【請求項11】
上方に開口するキャビティを有する鋳込型の前記開口から前記鋳込型のキャビティ内に溶融したガラスを流し込む工程と、
前記鋳込型のキャビティ内で成形されてなるガラス体を取り出す工程と、を備える鋳込み成形法によりガラス体を製造するガラス体の製造方法であって、
前記鋳込型のキャビティの形状は、縦長直方体形状であり、
前記鋳込型は、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体と、前記鋳込型本体を保温する保温材とを備え、
前記保温材は、前記鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの短辺側となる外周面のみに設けられ、
前記ガラスを流し込む工程では、加振装置により前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる、ガラス体の製造方法。
【請求項12】
前記ガラスを流し込む工程では、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの長辺側の外周面に冷風又は冷却液を接触させる、請求項11に記載のガラス体の製造方法。
【請求項13】
インゴット状のガラス体を製造するためのガラス体の製造装置であって、
上方に開口するキャビティを有し、前記開口から前記キャビティ内に供給される溶融ガラスを受け入れる鋳込型と、
前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる加振装置と、を備え
前記鋳込型は、前記キャビティの内底面を有する底面部材を備え、
前記底面部材は、前記キャビティの前記開口まで移動可能に構成されている、ガラス体の製造装置。
【請求項14】
インゴット状のガラス体を製造するためのガラス体の製造装置であって、
上方に開口するキャビティを有し、前記開口から前記キャビティ内に供給される溶融ガラスを受け入れる鋳込型と、
前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる加振装置と、を備え、
前記鋳込型のキャビティの形状は、縦長直方体形状であり、
前記鋳込型は、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体と、前記鋳込型本体を保温する保温材とを備え、
前記保温材は、前記鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの短辺側となる外周面のみに設けられている、ガラス体の製造装置。
【請求項15】
前記キャビティの内面を有する鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの長辺側の外周面に冷風又は冷却液を接触させる、請求項14に記載のガラス体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス体の製造方法及びガラス体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、ガラスインゴット等のガラス体を成形する成形法として鋳込み成形法が知られている。ガラス体の鋳込み成形法は、上方に開口するキャビティを有する鋳込型の開口部から鋳込型のキャビティ内に溶融したガラスを流し込む工程を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-209364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス体を鋳込み成形法で成形する場合、ガラス組成によっては鋳込型のキャビティ内に流し込まれた溶融ガラスの一部がキャビティの内面に焼き付き易くなる場合がある。鋳込型のキャビティの内面に焼き付いたガラスは、キャビティの内面に沿って流動するガラスの流動抵抗になったり、キャビティ内で成形されてなるガラス体の取り出しに手間を要したりするおそれがある。このようにガラス体の鋳込み成形法について未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラス体を鋳込み成形法を用いて好適に製造することのできるガラス体の製造方法及びガラス体の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス体の製造方法は、上方に開口するキャビティを有する鋳込型の前記開口から前記鋳込型のキャビティ内に溶融したガラスを流し込む工程と、前記鋳込型のキャビティ内で成形されてなるガラス体を取り出す工程と、を備える鋳込み成形法によりガラス体を製造するガラス体の製造方法であって、前記ガラスを流し込む工程では、加振装置により前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる。
【0007】
この方法によれば、鋳込型のキャビティの内面とガラスとの密着性を低下させることができる。このため、鋳込型のキャビティの内面にガラスが焼き付くことを抑えることができる。これにより、例えば、鋳込型のキャビティの内面に沿ったガラスの流動が促進されることで、鋳込型のキャビティ内のガラスの充填性を高めることが可能となる。また、例えば、鋳込型のキャビティ内で成形されてなるガラス体を容易に取り出すことが可能となる。
【0008】
上記ガラス体の製造方法において、前記加振装置は、振動モーターを備えることが好ましい。
この方法によれば、鋳込型に所定の振動力を安定して伝達させることができる。
【0009】
上記ガラス体の製造方法において、前記加振装置は、鋳込型を載置する載置部と、前記載置部の下方に設けられる加振部と、前記載置部と前記加振部とを連結する柱状部材と、を備えることが好ましい。
【0010】
この方法によれば、加振部で発生した振動を安定的に載置部へ伝達させることができる。ここで、載置部は鋳込型が載置されることにより極めて高温となるが、上述した柱状部材を介して振動を伝達させることにより加振部を熱から保護し、安定したガラス体の製造が可能となる。また、柱状部材の材質を適切に選定することにより、加振部で発生した振動の振幅を柱状部材によって増幅することができる。この場合、載置部に載置された鋳込型には、加振部で発生した振動よりも増幅された振動が伝達されることで、鋳込型のキャビティの内面とガラスとの密着性をより低下させることができる。
【0011】
上記ガラス体の製造方法において、前記鋳込型のキャビティの形状は、上下方向に延びる柱状であってもよい。
上記ガラス体の製造方法において、前記鋳込型のキャビティの形状は、縦長直方体形状であってもよい。
【0012】
上記ガラス体の製造方法において、前記鋳込型は、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体と、前記鋳込型本体を保温する保温材とを備え、前記保温材は、前記鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの短辺側となる外周面のみに設けられることが好ましい。
【0013】
この方法によれば、キャビティにおいて鋳込型本体の上面視で短辺側となる部分の温度低下を抑えることができる。これにより、鋳込型のキャビティの上記短辺側となる部分において、ガラスが流動し易くなるため、キャビティ内のガラスの充填性を高めることができる。
【0014】
上記ガラス体の製造方法において、前記ガラスを流し込む工程では、前記キャビティの内面を有する鋳込型本体の外周面のうち、上面視で前記キャビティの長辺側の外周面に冷風又は冷却液を接触させることが好ましい。
【0015】
この方法によれば、鋳込型本体の周壁のうち、上面視でキャビティの長辺側となる壁部の温度上昇を抑えることで、鋳込型本体の劣化を抑えることができる。
上記ガラス体の製造方法において、前記鋳込型は、前記キャビティの内底面を有する底面部材を備え、前記底面部材は、前記キャビティの前記開口まで移動可能に構成されていることが好ましい。
【0016】
この方法によれば、供給ノズルから流下するガラスの落差を小さくできるので、キャビティの底面部材上に流下したガラスが折り畳まれて発生する気泡や脈理を回避することが可能となる。
【0017】
上記ガラス体の製造方法において、前記ガラスを流し込む工程では、前記鋳込型のキャビティ内に流入した前記ガラスの流入量の増加に応じて前記底面部材を下降させることで、前記キャビティの容量を増大させることが好ましい。
【0018】
この方法によれば、供給ノズルから流出したガラスがキャビティの内底面やキャビティ内のガラスに到達するまでの時間を所定の範囲に維持することができる。すなわち、キャビティの内底面やキャビティ内のガラスに到達するガラスの温度を所定の範囲に維持することができる。
【0019】
上記ガラス体の製造方法において、前記ガラスを取り出す工程では、前記底面部材を前記キャビティの前記開口に向けて移動させることで前記キャビティ内のガラスを押し出すことが好ましい。
【0020】
この方法によれば、底面部材を利用して鋳込型のキャビティ内からガラスを容易に取り出すことができる。
上記ガラス体の製造方法において、前記鋳込型のキャビティは、カーボンから構成された内面を有することが好ましい。
【0021】
上記ガラス体の製造方法において、前記ガラスの組成は、質量%で、SiO:50~72%、Al:0~22%、B:15~38%、LiO+NaO+KO:0~3%、及びMgO+CaO+SrO+BaO:0~12%を含有することが好ましい。
【0022】
ガラス体の製造装置は、インゴット状のガラス体を製造するためのガラス体の製造装置であって、上方に開口するキャビティを有し、前記開口から前記キャビティ内に供給される溶融ガラスを受け入れる鋳込型と、前記鋳込型を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる加振装置と、を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガラス体を鋳込み成形法を用いて好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態におけるガラス体の製造装置を示す分解斜視図である。
図2】ガラス体の製造装置を示す正断面図である。
図3】ガラス体の製造装置を示す側断面図である。
図4】ガラスを流し込む工程を説明する正断面図である。
図5】ガラスを流し込む工程を説明する正断面図である。
図6】ガラスを流し込む工程を説明する正断面図である。
図7】ガラスを取り出す工程を説明する正断面図である。
図8】ガラスを取り出す工程を説明する正断面図である。
図9】ガラス体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、ガラス体の製造方法及びガラス体の製造装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0026】
図1図3に示すように、ガラス体の製造装置11は、鋳込み成形法によりガラス体を製造する装置であり、鋳込型12と、鋳込型12を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる加振装置13とを備えている。以下、図面において、Z軸に沿った方向が上下方向であり、XY平面に沿った方向が水平方向である。
【0027】
ガラス体の製造装置11における鋳込型12は、上方に開口するキャビティ14を有している。鋳込型12は、キャビティ14の開口から供給される溶融ガラスを受け入れる。キャビティ14の形状は、上下方向に延びる柱状である。すなわち、キャビティ14は、上下が長手方向となる形状を有する。本実施形態のキャビティ14の形状は、縦長直方体形状である。なお、キャビティ14の形状は、円柱状、立方体形状、多角柱状等であってもよい。また、キャビティ14の形状は、水平方向に延びる形状であってもよい。
【0028】
本実施形態の鋳込型12は、キャビティ14の内面を有する鋳込型本体15と、鋳込型本体15の外周面に設けられる保温材16とを備えている。
鋳込型本体15は、キャビティ14の内周面14aを有する周面部材17と、キャビティ14の内底面14bを有する底面部材18とを備えている。鋳込型本体15の底面部材18は、キャビティ14の開口まで移動可能に構成されている。詳述すると、周面部材17は、底面部材18が挿入される筒状部17aと、筒状部17a内に配置された底面部材18を支持する支持部17bとを有している。底面部材18は、筒状部17aの内周面14aに案内されながら、筒状部17a内を上下に移動可能である。このように筒状部17a内に配置された底面部材18を下降させることで、キャビティ14の容量を増大させることができる。底面部材18は、周面部材17の支持部17bで支持されることで底面部材18の下端位置が規制される。周面部材17の支持部17bの形状は、第1貫通孔H1を有する板状であるが、例えば、筒状部17aの下端部から筒状部17a内に向かって突出する突出形状であってもよい。鋳込型本体15のキャビティ14は、カーボンから構成された内面、すなわち内周面14a及び内底面14bを有することが好ましい。なお、本実施形態では、鋳込型本体15全体がカーボンにより構成されている場合を例示する。
【0029】
鋳込型12の保温材16は、鋳込型本体15における周面部材17の外周面のうち、上面視でキャビティ14の短辺側となる外周面のみに設けられている。詳述すると、キャビティ14の短辺側となる周面部材17の外周面は、第1外周面15aと、第1外周面15aとは反対側となる第2外周面15bとから構成されている。保温材16は、第1外周面15aに設けられる第1保温材16aと、第2外周面15bに設けられる第2保温材16bとを備えている。保温材16としては、例えば、耐火材料を好適に用いることができる。耐火無機材料としては、耐火煉瓦、耐火繊維マット等が挙げられる。耐火繊維としては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、及びジルコニア繊維が挙げられる。
【0030】
図1及び図3に示すように、上面視でキャビティ14の長辺側となる周面部材17の外周面は、第3外周面15cと、第3外周面15cとは反対側となる第4外周面15dとから構成されている。周面部材17の第3外周面15c及び第4外周面15dは、いずれも露出している。
【0031】
図1図3に示すように、加振装置13は、鋳込型12を載置する載置部19と、載置部19の下方に設けられる加振部20と、載置部19と加振部20とを連結する柱状部材21とを備えている。載置部19の形状は、第2貫通孔H2を有する板状であり、載置部19の上面に鋳込型12が載置される。
【0032】
加振装置13の加振部20は、振動発生部20aと、振動発生部20aが取り付けられる取付部20bとを備えている。振動発生部20aは、上下方向及び水平方向を含む方向に沿った振動を発生する。振動発生部20aは、所定の振動力を安定して発生させることができることから、振動モーターを備えることが好ましい。振動モーターとしては、回転軸に連結され、回転軸周りに回転されるウエイトを備えている。振動モーターは、円振動を発生するものが好ましい。なお、直線振動を発生する振動モーターを複数用いてもよい。また、振動発生部20aとしては、流体圧で振動する振動発生装置を用いてもよい。
【0033】
振動発生部20aで発生する振動の振動数は、例えば、20Hz以上、700Hz以下の範囲内であることが好ましい。振動発生部20aで発生する振動の振幅は、例えば、0.1mm以上、0.3mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
加振装置13の加振部20における取付部20bの形状は、第3貫通孔H3を有する板状であり、取付部20bの上面に振動発生部20aが固定されている。加振装置13の柱状部材21は、四角形の四隅を形成するように配置される4本の柱状部材21から構成されている。各柱状部材21は、上述した載置部19及び取付部20bに固定されている。なお、柱状部材21の本数は、4本に限定されず、単数であってもよいし、4本以外の複数本であってもよい。
【0035】
加振装置13は、加振部20の取付部20bを支持する脚部材22をさらに備えている。脚部材22は、4本の柱状部材21にそれぞれ連続する4本の脚部材22から構成されている。なお、脚部材22の本数は、3本であってもよいし、5本以上であってもよい。
【0036】
本実施形態のガラス体の製造装置11は、鋳込型本体15の底面部材18を昇降させる昇降装置23をさらに備えている。昇降装置23は、上下方向に延びる軸状部材24と、軸状部材24を上下方向に沿って往復動させる駆動部25とを備えている。軸状部材24は、周面部材17の第1貫通孔H1、載置部19の第2貫通孔H2、取付部20bの第3貫通孔H3に挿通することができる。軸状部材24の上端部は、鋳込型本体15の底面部材18の下面に当接される。軸状部材24の下端側は駆動部25と連結されている。
【0037】
次に、本実施形態のガラス体の製造方法について作用とともに説明する。
図2及び図3に示すように、ガラス体を製造するには、まず、溶融したガラスG1を供給する供給ノズルNの下方にガラス体の製造装置11を配置する。詳述すると、供給ノズルNから流下するガラスG1が、鋳込型12のキャビティ14の上面視でキャビティ14の中央側となる位置に供給されるようにガラス体の製造装置11を配置する。また、鋳込型本体15の底面部材18をキャビティ14の開口側、すなわち周面部材17の上端側となる位置に配置するように、昇降装置23の軸状部材24の上端位置を設定する。
【0038】
ガラス体の製造方法は、鋳込型12の開口から鋳込型12のキャビティ14内に溶融したガラスG1を流し込む工程と、鋳込型12のキャビティ14内で成形されてなるガラス体を取り出す工程とを備えている。ガラスG1を流し込む工程では、加振装置13により鋳込型12を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる。換言すると、鋳込型12は、上下方向に振動し、かつ水平方向にも振動される。
【0039】
この方法によれば、鋳込型12のキャビティ14の内面とガラスG1との密着性を低下させることができる。これにより、キャビティ14の内面にガラスG1が焼き付くことを抑えることができる。従って、例えば、キャビティ14の内底面14bに沿って広がるようにガラスG1が流動し易くなる。
【0040】
本実施形態の加振装置13では、加振部20の振動を、柱状部材21を介して載置部19に伝達させることができる。このように柱状部材21を介して離間した位置から載置部19へ振動を伝達させることにより加振装置13を熱から保護し、安定したガラス体の製造が可能である。また、柱状部材21を例えば耐熱樹脂等の弾性体により構成すれば加振部20の振動における振幅を柱状部材21に増幅することができる。この場合、載置部19に載置された鋳込型12には、加振部20で発生した振動よりも増幅された振動が伝達されることで、鋳込型12のキャビティ14の内面とガラスG1との密着性をより低下させることができる。
【0041】
また、鋳込型本体15の底面部材18は、上述したように周面部材17の上端側となる位置に配置されている。すなわち、ガラスG1を流し込む工程を開始する際には、キャビティ14の内底面14bを供給ノズルNの先端(下端)により近づけて位置に配置することで、供給ノズルNからキャビティ14の内底面14bに流下するガラスG1の温度低下を抑えることができる。このため、鋳込型12のキャビティ14の内底面14bに沿って広がるようにガラスG1がより流動し易くなる。
【0042】
キャビティ14において鋳込型本体15の上面視で短辺側となる部分は、キャビティ14の中央側に流入したガラスG1が到達するまでにガラスG1の温度が低下し易く、ガラスG1の充填不足が発生し易い。本実施形態の鋳込型12は、上述した保温材16を備えているため、キャビティ14において鋳込型本体15の上面視で短辺側となる部分の温度低下を抑えることができる。これにより、キャビティ14の上記短辺側となる部分において、ガラスG1が流動し易くなるため、キャビティ14内のガラスG1の充填性を高めることができる。
【0043】
ガラスG1を流し込む工程では、鋳込型本体15は、キャビティ14内に流入したガラスG1によって温度上昇する。このとき、キャビティ14の内周面14aのうち、鋳込型本体15の上面視で長辺側となる面は、比較的高い温度のガラスG1が接触する。すなわち、鋳込型本体15の周壁のうち、上面視でキャビティ14の長辺側となる壁部は、温度上昇し易く、劣化し易い傾向にある。このため、ガラスG1を流し込む工程では、図3に示すように、鋳込型本体15の外周面のうち、上面視でキャビティ14の長辺側となる外周面、すなわち周面部材17の第3外周面15cと第4外周面15dに冷風W又は冷却液を接触させることが好ましい。これにより、鋳込型本体15の周壁のうち、上面視でキャビティ14の長辺側となる壁部の温度上昇を抑えることで、鋳込型本体15の劣化を抑えることができる。冷風Wを接触させる方法としては、供給ノズルNから流入するガラスG1の温度よりも低い温度の空気を、ファンを用いて鋳込型本体15の第3外周面15cと第4外周面15dとに向けて吹き付ける方法が挙げられる。また、冷却液を接触させる方法としては、例えば、鋳込型本体15の第3外周面15cと第4外周面15dとに冷却液を噴霧する方法、冷却液を含浸させた耐火物を鋳込型本体15の第3外周面15cと第4外周面15dとに接触させる方法等が挙げられる。冷却液としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。
【0044】
図4及び図5に示すように、ガラスG1を流し込む工程では、キャビティ14内に流入したガラスG1の流入量の増加に応じて底面部材18を下降させることで、キャビティ14の容量を増大させる。詳述すると、ガラスG1を流し込む工程では、供給ノズルNの先端と、キャビティ14内のガラスG1の上面との距離が所定の範囲内となるように底面部材18を下降させる。このとき、鋳込型12は、加振装置13により上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動している。これにより、キャビティ14内のガラスG1の底面部材18に追従した下降を促進することができる。なお、底面部材18の下降は、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
【0045】
図6に示すように、底面部材18を下端位置まで下降した状態で、キャビティ14内に所定量のガラスG1を充填するまで、ガラスG1を流し込む工程を行う。ガラスG1を流し込む工程の後、鋳込型12を加振装置13の載置部19上から搬出する。
【0046】
図7及び図8に示すように、キャビティ14内で成形されてなるガラス体G2を取り出す工程では、底面部材18をキャビティ14の開口に向けて移動させることでキャビティ14内のガラス体G2を押し出す。詳述すると、鋳込型本体15の第1貫通孔H1に挿入した押圧部材26により底面部材18を押圧することで、底面部材18を移動させる。このような底面部材18の移動に伴ってガラス体G2はキャビティ14の開口から押し出される。
【0047】
キャビティ14から取り出されたガラス体G2を徐冷炉中で徐冷することで、図9に示すインゴット状のガラス体G3が得られる。ガラス体G3は、例えば、板状等の所望の形状に切断して用いられる。ガラス体G3の用途としては、例えば、高周波デバイス用途、光学部品、内外装材等が挙げられる。
【0048】
ガラス体G3のガラスとしては、例えば、ソーダガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルカリ含有ガラス、無アルカリガラス、結晶性ガラス等が挙げられる。ガラス体G3が結晶性ガラスである場合、ガラス体の製造方法は、さらに加熱焼成により結晶化させ、結晶化ガラスからなるガラス体を得る工程を備えてもよい。
【0049】
例えば、高周波デバイス用途に好適に用いられるガラスの一例としては、ガラス組成として、質量%で、SiO:50~72%、Al:0~22%、B:15~38%、LiO+NaO+KO:0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO:0~12%を含有するガラスが挙げられる。このガラスは、低誘電特性を有するガラスであり、例えば、25℃、周波数10GHzにおける比誘電率が5以下である。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「25℃、周波数10GHzにおける比誘電率」は、例えば、周知の空洞共振器法で測定可能である。
【0050】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ガラス体G3の製造方法は、鋳込み成形法によりガラス体G3を製造する方法であり、上方に開口するキャビティ14の開口から鋳込型12のキャビティ14内に溶融したガラスG1を流し込む工程と、鋳込型12のキャビティ14内で成形されてなるガラス体G2を取り出す工程とを備えている。ガラスG1を流し込む工程では、加振装置13により鋳込型12を上下方向及び水平方向を含む方向に沿って振動させる。
【0051】
この方法によれば、鋳込型12のキャビティ14の内面とガラスG1との密着性を低下させることができる。このため、鋳込型12のキャビティ14の内面にガラスG1が焼き付くことを抑えることができる。これにより、例えば、鋳込型12のキャビティ14の内面に沿ったガラスG1の流動が促進されることで、鋳込型12のキャビティ14内のガラスG1の充填性を高めることが可能となる。また、例えば、鋳込型12のキャビティ14内で成形されてなるガラス体G2を容易に取り出すことが可能となる。従って、ガラス体G3を鋳込み成形法を用いて好適に製造することができる。
【0052】
(2)加振装置13は、振動モーターを備えることが好ましい。この場合、鋳込型12に所定の振動力を安定して伝達させることができる。
(3)加振装置13は、鋳込型12を載置する載置部19と、載置部19の下方に設けられる加振部20と、載置部19と加振部20とを連結する柱状部材21とを備えている。
【0053】
この場合、加振部20で発生した振動を安定的に載置部19へ伝達させることができる。ここで、載置部19は鋳込型12が載置されることにより極めて高温となるが、上述した柱状部材21を介して振動を伝達させることにより加振部20を熱から保護し、安定したガラス体G3の製造が可能となる。また、柱状部材21の材質を適切に選定することにより、加振部20で発生した振動の振幅を柱状部材21によって増幅することができる。このため、載置部19に載置された鋳込型12には、加振部20で発生した振動よりも増幅された振動が伝達されることで、鋳込型12のキャビティ14の内面とガラスG1との密着性をより低下させることができる。従って、鋳込型12のキャビティ14の内面にガラスG1が焼き付くことをより抑えることができる。
【0054】
(4)鋳込型12のキャビティ14の形状は、縦長直方体形状である。鋳込型12は、キャビティ14の内面を有する鋳込型本体15と、鋳込型本体15を保温する保温材16とを備えている。保温材16は、鋳込型本体15の外周面のうち、上面視でキャビティ14の短辺側となる外周面のみに設けられている。この場合、キャビティ14において鋳込型本体15の上面視で短辺側となる部分の温度低下を抑えることができる。これにより、鋳込型12のキャビティ14の上記短辺側となる部分において、ガラスG1が流動し易くなるため、キャビティ14内のガラスG1の充填性を高めることができる。
【0055】
(5)ガラスG1を流し込む工程では、鋳込型本体15の外周面のうち、上面視でキャビティ14の長辺側の外周面に冷風W又は冷却液を接触させることが好ましい。この場合、鋳込型本体15の周壁のうち、上面視でキャビティ14の長辺側となる壁部の温度上昇を抑えることで、鋳込型本体15の劣化を抑えることができる。従って、鋳込型本体15を繰り返して使用することの可能な回数を増やすことができる。
【0056】
(6)鋳込型12は、鋳込型12のキャビティ14の内底面14bを有する底面部材18を備え、底面部材18は、キャビティ14の開口まで移動可能に構成されている。この場合、供給ノズルNから流下するガラスG1の落差を小さくできるので、キャビティ14の底面部材18上に流下したガラスG1が折り畳まれて発生する気泡や脈理を回避することが可能となる。これにより、得られるガラス体G3の品位を容易に高めることができる。
【0057】
また、例えば、内底面14bが損傷した場合、底面部材18を交換することで、鋳込型12において底面部材18以外の部分を再利用することができる。また、例えば、厚さの異なる底面部材18を用いることで、異なる寸法のガラス体G3を成形することもできる。また、例えば、底面部材18をキャビティ14内の所定の高さで支持することで、異なる寸法のガラス体G3を成形することも可能である。
【0058】
(7)ガラスG1を流し込む工程では、鋳込型12のキャビティ14内に流入したガラスG1の流入量の増加に応じて底面部材18を下降させることで、キャビティ14の容量を増大させている。この場合、供給ノズルNから流出したガラスG1がキャビティ14の内底面14bやキャビティ14内のガラスG1に到達するまでの時間を所定の範囲に維持することができる。すなわち、キャビティ14の内底面14bやキャビティ14内のガラスG1に到達するガラスG1の温度を所定の範囲に維持することができる。例えば、ガラスG1を流し込む工程の開始時には、底面部材18を鋳込型12のキャビティ14の開口側に配置することで、底面部材18に到達するまでのガラスG1の温度低下を抑えることができる。従って、鋳込型12のキャビティ14内のガラスG1の充填性をより高めることができる。
【0059】
(8)鋳込型12のキャビティ14内のガラス体G2を取り出す工程では、底面部材18をキャビティ14の開口に向けて移動させることでキャビティ14内のガラス体G2を押し出している。この場合、底面部材18を利用して鋳込型12のキャビティ14内からガラス体G2を容易に取り出すことができる。
【0060】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
・ガラス体G2を取り出す工程において、底面部材18を用いずに、例えば、ガラス体G2の自重を利用してキャビティ14からガラス体G2を取り出してもよい。
・ガラス体G2を取り出す工程において、押圧部材26の代わりに昇降装置23の軸状部材24を用いてもよい。
【0062】
・ガラスG1を流し込む工程の開始時に、底面部材18を鋳込型12の下端となる位置に配置し、底面部材18を移動させずにガラスG1を流し込む工程を行ってもよい。この場合、底面部材18は、鋳込型本体15の底壁として固定されていてもよい。
【0063】
・鋳込型12の第1保温材16a及び第2保温材16bの少なくとも一方を省略してもよい。
・加振装置13の載置部19及び柱状部材21を省略し、加振部20の取付部20b上に鋳込型12を載置してもよい。
【0064】
・加振装置13による鋳込型12の振動は、ガラスG1を流し込む工程の開始から終了まで連続して行ってもよいし、断続的に行ってもよい。但し、加振装置13による鋳込型12の振動を、ガラスG1を流し込む工程の開始から終了まで連続して行うことが好ましい。この場合、鋳込型12のキャビティ14の内面にガラスG1が焼き付くことをより抑えることができる。
【0065】
・供給ノズルNの数は、1つであっても、複数であってもよい。但し、ガラスG1の均一性の観点から、供給ノズルNの数は一つであることが好ましい。
・ガラス体G2及びガラス体G3の形状は、鋳込型12から取り出すことのできる形状であればよく、例えば、凹凸部を有する形状であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
11…ガラス体の製造装置、12…鋳込型、13…加振装置、14…キャビティ、14b…内底面、15…鋳込型本体、16…保温材、18…底面部材、19…載置部、20…加振部、21…柱状部材、G1…ガラス、G2,G3…ガラス体、W…冷風。
図1
図2
図3
図4
図5
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