(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】回路基板用積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/088 20060101AFI20230808BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20230808BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230808BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230808BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230808BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B32B15/088
B32B15/20
B32B27/34
H05K1/03 610N
H05K1/03 670A
H05K1/03 630H
H05K3/00 R
H05K3/38 A
H05K3/38 D
(21)【出願番号】P 2019238170
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 優吾
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-255145(JP,A)
【文献】特開2018-027690(JP,A)
【文献】特開昭61-195832(JP,A)
【文献】特開2018-031603(JP,A)
【文献】国際公開第2013/150991(WO,A1)
【文献】米国特許第06563998(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0041080(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08G 73/00 - 73/26
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
H05K 1/03
H05K 3/00
H05K 3/10 - 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド層と、前記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体であって、
硬X線光電子分光法によるC1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、前記ポリイミド層と前記アルミニウム含有層との界面を含む第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、前記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、
7%であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法による分析を行った場合に、前記ポリイミド層と前記アルミニウム含有層との界面を含む第2領域において、Al
2O
4Hフラグメントのカウント数が
3667であり、
前記第1領域は、前記硬X線光電子分光法においてX線エネルギーが8keVでありかつ取り出し角度が80°である条件で測定される領域であり、
前記第2領域は、前記界面から前記アルミニウム含有層の厚さ方向に10nm離れた位置を一方端とし、前記界面から前記ポリイミド層の厚さ方向に30nm離れた位置を他方端とする領域である、回路基板用積層体。
【請求項2】
ポリイミド層と、前記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体の製造方法であって、
基板と、前記基板上に設けられている保護層とを準備する工程と、
前記保護層上に前記アルミニウム含有層を形成する工程と、
前記アルミニウム含有層上にポリイミド前駆体液を供給して硬化処理することにより、前記アルミニウム含有層上に前記ポリイミド層を形成して、前記基板、前記保護層、前記アルミニウム含有層および前記ポリイミド層を含む中間積層体を得る工程と、
前記中間積層体から、前記基板および前記保護層を除去して、前記回路基板用積層体を得る工程と、を備え、
前記ポリイミド前駆体液は、ポリイミド前駆体と溶媒とを含み、
前記硬化処理は、300℃以上かつ3時間以上の熱処理である、回路基板用積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミド前駆体液は、水を更に含む、
請求項2に記載の回路基板用積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回路基板用積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板として、ポリイミド層と該ポリイミド層上に積層された金属層(例えば、銅層、アルミニウム含有層)とを備える回路基板用積層体がある。このような積層体を製造する方法としては、ラミネート法、スパッタめっき法、キャスティング法等が広く用いられている。たとえば、特許文献1(特開2016-060138号公報)には、キャスティング法として、銅箔層上にポリイミドの前駆体溶液を塗布して乾燥させることによって、銅箔層上にポリイミド層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】宮村剛夫著、「金属/ポリイミド界面の界面密着強度と影響因子」、東北大学博士論文、2009年
【文献】Haight,R.;White,R.C.;Silverman,B.D.;Ho,P.S.Complex Formation and Growth at the Cr- and Cu-PI Interface. J.Vac.Sci.Technol.A 1988,6,2188-2199
【文献】Ho,P.S.;Hahn,P.O.;Bartha,J.W.;Rubloff,G.W.;LeGouses,F.K.;Silverman,B.D.Chemical Bonding and Reaction at Metal/Polymer Interfaces. J.Vac.Sci.Technol.A 1985,3,739-745
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような回路基板用積層体においては、ポリイミド層と金属層との高い密着性が求められる。しかし、ラミネート法、スパッタめっき法、キャスティング法といった従来の製造方法により製造された回路基板用積層体において、密着性は未だ十分ではない。例えば、宮村剛夫著、「金属/ポリイミド界面の界面密着強度と影響因子」、東北大学博士論文、2009年(非特許文献1)では、スパッタめっき法で作製された回路基板用積層体の密着強度が0.2N/mm程度であることが開示されている。
【0006】
本開示では、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に優れた回路基板用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る回路基板用積層体は、
ポリイミド層と、上記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体であって、
硬X線光電子分光法によるC1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法による分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第2領域において、Al2O4Hフラグメントのカウント数が5000以下であり、
上記第1領域は、上記硬X線光電子分光法においてX線エネルギーが8keVでありかつ取り出し角度が80°である条件で測定される領域であり、
上記第2領域は、上記界面から上記アルミニウム含有層の厚さ方向に10nm離れた位置を一方端とし、上記界面から上記ポリイミド層の厚さ方向に30nm離れた位置を他方端とする領域である。
【0008】
本開示の一態様に係る回路基板用積層体の製造方法は、
ポリイミド層と、上記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体の製造方法であって、
基板と、上記基板上に設けられている保護層とを準備する工程と、
上記保護層上に上記アルミニウム含有層を形成する工程と、
上記アルミニウム含有層上にポリイミド前駆体液を供給して硬化処理することにより、上記アルミニウム含有層上に上記ポリイミド層を形成して、上記基板、上記保護層、上記アルミニウム含有層および上記ポリイミド層を含む中間積層体を得る工程と、
上記中間積層体から、上記基板および上記保護層を除去して、上記回路基板用積層体を得る工程と、を備え、
上記ポリイミド前駆体液は、ポリイミド前駆体と溶媒とを含み、
上記硬化処理は、300℃以上かつ3時間以上の熱処理である。
【発明の効果】
【0009】
上記によれば、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に優れた回路基板用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の一部を図解する模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の一部を図解する模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の一部を図解する模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の一部を図解する模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、ポリイミドの構造式(上部)及びポリイミドを硬X線光電子分光法により分析したときのC1s軌道における光電子スペクトルの分析結果を示すグラフ(下部)である。
【
図7】
図7は、実施例1(上部)および比較例1(下部)それぞれを硬X線光電子分光法により分析したときのC1s軌道における光電子スペクトルの分析結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1のTOF-SIMS分析結果であって、Al
3フラグメントのカウント数を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例1のTOF-SIMS分析結果であって、Al
2O
4Hフラグメントのカウント数を示すグラフである。
【
図10】
図10は、比較例1のTOF-SIMS分析結果であって、Al
3フラグメントのカウント数を示すグラフである。
【
図11】
図11は、比較例1のTOF-SIMS分析結果であって、Al
2O
4Hフラグメントのカウント数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
〔1〕本開示の一態様に係る回路基板用積層体は、
ポリイミド層と、上記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体であって、
硬X線光電子分光法によるC1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法による分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第2領域において、Al2O4Hフラグメントのカウント数が5000以下であり、
上記第1領域は、上記硬X線光電子分光法においてX線エネルギーが8keVでありかつ取り出し角度が80°である条件で測定される領域であり、
上記第2領域は、上記界面から上記アルミニウム含有層の厚さ方向に10nm離れた位置を一方端とし、上記界面から上記ポリイミド層の厚さ方向に30nm離れた位置を他方端とする領域である。
【0012】
上記回路基板用積層体は、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に優れる。界面におけるC-O-Al結合が十分に生成され、かつ界面に存在するアルミニウム水酸化物の量が従来と比して少ないためである。TOF-SIMS分析に関し、第2領域にて測定されるAl2O4Hフラグメントは、アルミニウム水酸化物由来のフラグメントである。
【0013】
〔2〕上記回路基板用積層体は、
上記硬X線光電子分光法による上記C1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、上記第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上20%以下である。
上記回路基板用積層体は、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に更に優れることができる。界面におけるC-O-Al結合が更に生成されているためである。
【0014】
〔3〕上記回路基板用積層体は、
上記飛行時間型二次イオン質量分析法による分析を行った場合に、上記第2領域において、上記Al2O4Hフラグメントのカウント数が3000以上5000以下である。
上記回路基板用積層体は、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に更に優れることができる。界面に存在するアルミニウム水酸化物の量が従来と比して更に少ないためである。
【0015】
〔4〕本開示の一態様に係る回路基板用積層体の製造方法は、
ポリイミド層と、上記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体の製造方法であって、
基板と、上記基板上に設けられている保護層とを準備する工程と、
上記保護層上に上記アルミニウム含有層を形成する工程と、
上記アルミニウム含有層上にポリイミド前駆体液を供給して硬化処理することにより、上記アルミニウム含有層上に上記ポリイミド層を形成して、上記基板、上記保護層、上記アルミニウム含有層および上記ポリイミド層を含む中間積層体を得る工程と、
上記中間積層体から、上記基板および上記保護層を除去して、上記回路基板用積層体を得る工程と、を備え、
上記ポリイミド前駆体液は、ポリイミド前駆体と溶媒とを含み、
上記硬化処理は、300℃以上かつ3時間以上の熱処理である。
【0016】
上記回路基板用積層体の製造方法によれば、アルミニウム含有層とポリイミド層との密着性に優れた回路基板用積層体を製造することができる。上記硬化処理を実施することにより、アルミニウム含有層とポリイミド層との界面におけるアルミニウム水酸化物の量が低減されるためである。
【0017】
〔5〕上記回路基板用積層体の製造方法において、上記ポリイミド前駆体液は、水を更に含む。
上記ポリイミド前駆体液が水を含むことによって、上記ポリイミド前駆体液中で上記ポリアミック酸の加水分解が進行し、カルボキシル基が新たに生成される。その結果、上記ポリイミド前駆体液における酸性環境がより強くなり、ポリイミド層とアルミニウム含有層との界面に存在するアルミニウム水酸化物の分解が更に促進される。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0019】
〈回路基板用積層体の製造方法〉
本実施形態に係る回路基板用積層体の理解を容易とするために、まず、回路基板用積層体の製造方法の一実施形態について、
図1~
図5を用いながら説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図2~
図5は、本開示の一実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法の一部を図解する模式的な断面図である。
【0020】
本実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法は、ポリイミド層4と、上記ポリイミド層4上に設けられているアルミニウム含有層3と、を備える回路基板用積層体6の製造方法であって、基板1と、上記基板1上に設けられている保護層2とを準備する工程(ステップS10)と、上記保護層2上に上記アルミニウム含有層3を形成する工程(ステップS11)と、上記アルミニウム含有層3上にポリイミド前駆体液を供給して硬化処理することにより、上記アルミニウム含有層3上に上記ポリイミド層4を形成して、上記基板1、上記保護層2、上記アルミニウム含有層3および上記ポリイミド層4を含む中間積層体5を得る工程(ステップS12)と、上記中間積層体5から、上記基板1および上記保護層2を除去して、上記回路基板用積層体6を得る工程(ステップS13)と、を備える(
図1)。ここで、上記ポリイミド前駆体液は、ポリイミド前駆体と溶媒とを含む。上記硬化処理は、300℃以上かつ3時間以上の熱処理である。以下、各工程ついて詳述する。
【0021】
《基板と、上記基板上に設けられている保護層とを準備する工程》
本工程は、基板1と、上記基板1上に設けられている保護層2とを準備する工程である(ステップS10)。たとえば、プラズマCVD法(プラズマ化学気相成長法)、スパッタ法等により、基板1の主面1aに保護層2を形成することができる(
図2)。スパッタ法としては、イオンプレーティングスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等が挙げられる。マグネトロンスパッタ法としては、特にマグネトロンイオンスパッタ法が好ましい。スパッタによる目付量が多く、スパッタ速度が速いからである。
【0022】
基板1は、後に続く工程(ステップS11)で形成されるアルミニウム含有層3の形状を維持するための部材である。基板1としては、たとえばGaAs基板(ヒ化ガリウム基板)、サファイア基板、GaN基板(窒化ガリウム基板)等を用いることができる。劈開性が高く、取り扱いが容易な点から、基板1としてはGaAs基板を用いることが好ましい。また、基板1として、2種以上の基板が積層されてなる複合基板を用いてもよい。取り扱いの容易性から、基板1の厚さは、0.35~0.7mmであることが好ましい。
【0023】
基板1の主面1aは平滑であることが好ましい。基板1の主面1aが平滑であることによって、保護層2を介して当該主面1a上に形成されるアルミニウム含有層3の表面の表面平滑性が向上するためである。具体的には、当該主面1aの平均表面粗さ(Ra)を0.1nm以下に設計しておくことが好ましい。なお、ここでのアルミニウム含有層3の表面平滑性とは、アルミニウム含有層3の表面のうちの保護層2と接する面の表面平滑性を意味している。すなわち、回路基板用積層体6におけるアルミニウム含有層3の向かい合う面のうち、ポリイミド層4と接していない側の面の表面平滑性である(
図5参照)。なお算術平均表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡により算出した値である。
【0024】
保護層2は、後述の工程(ステップS13)でアルミニウム含有層3上から除去される層であり、基板1とアルミニウム含有層3とを容易に分離させるための層である。このため、保護層2としては、SiO2層、SiN層等を用いることができる。これらの層は、エッチング除去が容易だからである。なかでも、保護層2はSiO2層であることが好ましい。SiO2層は、特にエッチング除去が容易だからである。
【0025】
保護層2の厚さは、20~100nmであることが好ましい。保護層2の厚さが100nm以下である場合、保護層2の表面2aにおいて、基板1の主面1aの平滑性を十分に反映させることができる(
図2)。保護層2の表面2aが平滑であることにより、当該表面2a上に形成されるアルミニウム含有層3の表面(保護層2と接する面)の平滑性も担保される。また保護層2の厚さが20nm未満である場合、保護層2から基板1を取り除く際に、アルミニウム含有層3を損傷させてしまう傾向がある。
【0026】
以上を考慮すると、基板1および保護層2はそれぞれ、GaAs基板およびSiO2層であることが好ましい。両者の分離性が高いためである。また、SiO2層はアルミニウム含有層3に接する層として特に好適である。SiO2層はエッチング除去が容易である。そのため、SiO2層を除去する過程で過剰なエッチングを必要とせず、故に、SiO2層と接するアルミニウム含有層3への負荷を低減できるためである。
【0027】
《保護層上にアルミニウム含有層を形成する工程》
本工程は、保護層2上にアルミニウム含有層3を形成する工程である(ステップS11)。
【0028】
アルミニウム含有層3の形成方法としては、たとえば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、2極スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、イオンプレーティングスパッタ法、無電解めっき法等が挙げられる。薄いアルミニウム含有層3を形成する場合、たとえば厚さが50nm以下であるアルミニウム含有層3を形成する場合には、抵抗加熱蒸着法が好ましい。1nm単位での膜厚制御が容易だからである。厚いアルミニウム含有層3を形成する場合、たとえば厚さが50nm超であるアルミニウム含有層3を形成する場合には、無電解めっき法が好ましい。低コストで成膜できるからである。
【0029】
本工程によれば、技術的には、アルミニウム含有層3の厚さの下限値をアルミニウム含有層を構成する原子(例えば、Al原子)の1原子分とすることが可能である。本実施形態の一側面において、アルミニウム含有層3が回路基板の回路としての機能を好適に発揮する観点からは、上記アルミニウム含有層3の厚さは少なくとも20nmであることが好ましい。すなわち、アルミニウム含有層3の厚さは20nm以上であることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。またアルミニウム含有層3の厚さの上限値は特に制限されない。アルミニウム含有層3の厚さが20μm以下の場合に、アルミニウム含有層3の柔軟性が十分に担保され、回路基板用積層体6をフレキシブル基板として好適に利用することができる。したがって、アルミニウム含有層3の厚さは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0030】
たとえば、回路基板用積層体6をフレキシブル基板として利用する場合には、アルミニウム含有層3の厚さは300nm~20μmであることがより好ましく、300~500nmであることがさらに好ましい。アルミニウム含有層3の回路としての機能を十分に維持しつつ、高い柔軟性を発揮することができるためである。一方で、アルミニウム含有層3の厚さを500nm以上とした場合、アルミニウム含有層3とポリイミド層4との密着性がさらに向上することが期待される。その理由は以下のとおりである。
【0031】
アルミニウム含有層3のうちの表面2aに接する面は、保護層2の表面平滑性を受け継ぐことができる。一方、アルミニウム含有層3のうちの表面2aに接しない面、すなわちポリイミド層4と接することとなる面の表面平滑性は、保護層2上に形成されていくアルミニウム含有層3の厚さが大きくなるに連れて徐々に低下していく。表面平滑性の低いアルミニウム含有層3の表面とポリイミド層4との界面にはアンカー効果が発生するため、アンカー効果が発生しない場合と比して、両層の密着性が高まることとなる。本発明者らは、アルミニウム含有層3の厚さを500nm以上とした場合、アンカー効果により、両層の密着性がさらに向上すると考えている。
【0032】
また、本工程(ステップS11)から続く工程(ステップS12)への移行は、素早く、たとえば24時間以内に行うことが好ましい。またアルミニウム含有層3の形成後は、アルミニウム含有層3を大気環境下に晒さないように、たとえばアルミニウム含有層3を窒素雰囲気下におくことが好ましい。その理由は、以下のとおりである。
【0033】
アルミニウム含有層3を大気環境下に放置した場合、アルミニウム含有層3の露出する表面において、アルミニウムの水酸化物生成が進行し、アルミニウム含有層3の表面に意図しないアルミニウム水酸化物(例えばAlOOH、Al(OH)3等)が生成されてしまう。アルミニウム含有層3の表面に存在するアルミニウム水酸化物は、アルミニウム含有層3とポリイミド層4との密着性を低下させる因子である。この段階で生成されたアルミニウム水酸化物は、後述するステップS12において除去される。しかし、より効率的なアルミニウム水酸化物の除去を可能にすべく、この段階においてアルミニウム水酸化物の形成を抑制しておくことが好ましい。このため、アルミニウム含有層3と大気との接触をできるだけ回避すべく、上記のような窒素雰囲気下におく等の措置を採用することが好ましい。
【0034】
アルミニウム含有層3は、アルミニウムのみから構成されてもよく、アルミニウムを主成分とする合金であってもよい。アルミニウムの合金としては、銅-アルミニウム合金、シリコン-アルミニウム合金等が挙げられる。上記アルミニウム含有層3におけるアルミニウムの含有割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。本実施形態において、アルミニウム含有層3はアルミニウムのみから構成されることが更に好ましい。後述するアルミニウム水酸化物の低減に伴う密着性の向上が顕著となるためである。
【0035】
《アルミニウム含有層上にポリイミド層を形成して、中間積層体を得る工程》
本工程は、アルミニウム含有層3上にポリイミド前駆体液を供給して硬化処理することにより、アルミニウム含有層3上にポリイミド層4を形成して、中間積層体5を得る工程である(ステップS12)。上記中間積層体5は、基板1、保護層2、アルミニウム含有層3およびポリイミド層4を含む(
図4参照)。上記アルミニウム含有層3上にポリイミド前駆体液を供給する方法としては、特に制限されないが、例えば、塗布による方法、スプレーによって噴霧する方法、等が挙げられる。
【0036】
具体的には、まず、ポリイミド前駆体液をアルミニウム含有層3上に塗布する。上記ポリイミド前駆体液は、ポリイミド前駆体と溶媒とを含む。ポリイミド前駆体とは、重合することによってポリイミドを構成する化合物である。本実施形態において「ポリイミド」とは、主鎖における繰り返し単位中にイミド結合が含まれる高分子化合物を意味する。ポリイミド前駆体としては、公知のものであれば特に制限されないが、例えば、ポリアミック酸が挙げられる。上記ポリアミック酸は、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸二無水物とから、公知の縮重合反応によって生成することができる。溶媒は、該化合物を分散または溶解させる機能を有する。塗布方法としては、たとえばドクターブレード法、ディップコーティング法、スピンコーティング法等が挙げられる。
【0037】
次に、塗布されたポリイミド前駆体液を硬化処理する。上記硬化処理は、300℃以上かつ3時間以上の熱処理である。このような熱処理により、アルミニウム含有層3の表面に存在しているアルミニウム水酸化物が除去される。また、アルミニウム水酸化物が除去されたアルミニウム含有層3上においては、ポリイミド前駆体が重合するとともに溶媒が除去される。これにより、アルミニウム含有層3上にポリイミド層4が生成される。したがって、結果的に、アルミニウム水酸化物が除去されたアルミニウム含有層3上に、ポリイミド層4が形成されることとなる。本工程においてアルミニウム水酸化物の除去が可能な理由は以下のとおりである。
【0038】
上記のような過酷な熱処理により、アルミニウム含有層3の表面においては、アルミニウム水酸化物とポリイミド前駆体とが接している状態で、300℃以上の高温が3時間以上加えられることとなる。ポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、強い酸であることから、アルミニウム水酸化物は高温酸性環境下に長時間晒されることとなり、結果的に、アルミニウム水酸化物が分解されてアルミニウム含有層3から除去されることとなる。ここで、当該アルミニウム水酸化物を構成するアルミニウム原子が上記アルミニウム含有層3に残留していたとしても、「アルミニウム水酸化物がアルミニウム含有層3から除去された」と解釈できる。
【0039】
上記溶媒は極性溶媒が好ましく、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒が好適である。
【0040】
ポリイミド前駆体液におけるポリイミド前駆体の濃度は、十分な密度のポリイミド層4が形成可能であればよく、特に制限されない。たとえば、ポリイミド前駆体としてポリアミック酸を用い、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いた場合には、取り扱いの容易性から、ポリイミド前駆体液におけるポリイミド前駆体の濃度は、0.2~0.3g/mlであることが好ましい。
【0041】
本実施形態の一側面において、上記ポリイミド前駆体液は、水を更に含むことが好ましい。このようにすることによって、上記ポリイミド前駆体液中で上記ポリアミック酸の加水分解が進行し、カルボキシル基が新たに生成される。その結果、上記ポリイミド前駆体液における酸性環境がより強くなり、上述のアルミニウム水酸化物の分解が更に促進される。上記水は、各種工業製品の原料として用いられる水、水道水等であれば特に制限はない。上記水は、蒸留水であってもよいし、イオン交換水であってもよい。上記水の含有割合は、上記ポリイミド前駆体液を基準として、0.1体積%以上1体積%以下であることが好ましい。上記水の含有割合が1体積%を超えると、ポリアミック酸からポリイミドへの縮重合反応が阻害される傾向がある。上記水の含有割合が0.1体積%未満であると、ポリアミック酸の加水分解が進行しにくくなる傾向があり、結果として生成されるカルボキシル基の数が増加しにくくなる傾向がある。
【0042】
硬化処理における温度は、300℃~350℃であることが好ましい。ポリイミドの生成、溶媒の除去、及びアルミニウム水酸化物の除去に関して好適だからである。また硬化処理の時間は、3時間以上8時間以下であることが好ましく、3時間以上6時間以下であることがより好ましい。このようにすることで、アルミニウム含有層とポリイミド層との界面におけるC-O-Al結合の数が増加しやすい傾向がある。
【0043】
また硬化処理は、窒素雰囲気下で実施されることが好ましい。アルミニウム含有層3の水酸化物化を抑制するためである。硬化処理前に予備加熱処理を行ってもよい。たとえば、予備加熱処理として、窒素雰囲気下において、100~150℃で1~3時間熱処理することができる。これにより、ポリイミド前駆体液を乾燥させることができる。
【0044】
ポリイミド層4の厚さは特に制限されないが、たとえば10~25μmであることが好ましい。ポリイミド層4の厚さが25μmを超えると、回路基板用積層体の柔軟性が低下する傾向がある。ポリイミド層4の厚さが10μm未満である場合、得られる回路基板用積層体において強度が低下する傾向がある。
【0045】
《中間積層体から基板および保護層を除去して、回路基板用積層体を得る工程》
本工程は、中間積層体5から、基板1および保護層2を除去して、回路基板用積層体6を得る工程(ステップS13)である。なお、本工程の理解が容易となるように、
図4において、中間積層体5の上下方向を反転させてなる図を示す(
図4の右側)。
【0046】
具体的には、まず
図4に示されるように、基板1、保護層2、アルミニウム含有層3およびポリイミド層4を含む中間積層体5から、基板1および保護層2を除去する。その結果、
図5に示されるように、ポリイミド層4とポリイミド層4上に積層されたアルミニウム含有層3とを備える、回路基板用積層体6が製造される。
【0047】
基板1は、たとえば保護層2上から剥離させることにより、中間積層体5から除去することができる。基板1がGaAs基板であり、保護層2がSiO2層である場合、基板1の剥離は特に容易である。次に、保護層2は、たとえばエッチングにより、アルミニウム含有層3上から除去することができる。エッチング方法としては、ドライエッチング、ウェットエッチング等が挙げられる。ドライエッチングとしてはリアクティブイオンエッチングが好ましい。ウェットエッチングとしてはフッ酸を用いた処理が好ましい。フッ酸を用いることで、アルミニウム含有層3の表面を荒らすことなく、アルミニウム含有層3の表面から保護層2を選択的に除去することができるためである。
【0048】
また基板1を剥離除去することなく、保護層2のエッチングのみを実施してもよい。この方法では、中間積層体5から基板1および保護層2を一体的に除去することができる。
【0049】
《作用効果》
本実施形態に係る回路基板用積層体の製造方法(以下、「本製造方法」とも言う)によれば、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に優れた回路基板用積層体を製造することができる。この理由について、従来技術と比較しながら以下に詳述する。
【0050】
ラミネート法は、アルミニウム箔とポリイミドフィルムとを熱圧着する方法である。またキャスティング法は、アルミニウム箔上にポリイミド前駆体液を塗布してこれを硬化させる方法である。ラミネート法、キャスティング法それぞれに用いられるアルミニウム箔の表面には、アルミニウム水酸化物が存在する。このため、製造される回路基板用積層体において、アルミニウム箔とポリイミド層との界面近傍には、アルミニウム水酸化物が存在していた。
【0051】
また、仮に熱圧着前にアルミニウム箔の表面のアルミニウム水酸化物を除去したとしても、最終製品である回路基板用積層体における上記界面近傍には、アルミニウム水酸化物が存在してしまう。この理由は、水分子、酸素、二酸化炭素等がポリイミド層内を通過してポリイミド層と接するアルミニウム箔の表面にまで到達してしまい、これにより、アルミニウム箔の表面が再度水酸化物化されてしまうためである。
【0052】
一方、スパッタめっき法は、スパッタ蒸着と電解めっきにより、ポリイミドフィルム上にアルミニウム含有層を形成する方法である。これにより製造された回路基板用積層体においても、やはり最終製品である回路基板用積層体における界面近傍には、アルミニウム水酸化物が存在してしまう。上述のように、水分子、酸素、二酸化炭素等がポリイミド層内を通過するためである。
【0053】
すなわち、従来の方法で製造された回路基板用積層体において、アルミニウム含有層とポリイミド層との界面には、アルミニウム水酸化物が多く存在している。上述のアルミニウム水酸化物は、両層の密着性の低下を引き起こす因子であり、故に、両層の十分な密着性を担保することができない。
【0054】
これに対し本製造方法によれば、上記ステップS12においてアルミニウム含有層上にポリイミド層が形成されるが、この際の硬化処理として、300℃以上かつ3時間以上の熱処理が実施される。このような過酷な熱処理により、アルミニウム含有層の表面(ポリイミド層と接する面)に存在するアルミニウム水酸化物が分解され、表面から酸素原子及び水素原子が除去される。特に、強酸性のポリイミド前駆体を用いた場合には、より効率的にアルミニウム水酸化物を分解することができる。
【0055】
さらに、酸素原子及び水素原子が除去されることにより発生したアルミニウムの結合サイトは、硬化処理中に、ポリイミド前駆体と化学的に結合することができる。このため最終製品である回路基板用積層体において、水分子、酸素、二酸化炭素等が、ポリイミド層と接するアルミニウム含有層の表面にまで到達したとしても、当該表面において酸素原子等と結合可能なサイトは従来と比して少なくなっているため、アルミニウムの再度の水酸化物化が十分に抑制されることとなる。したがって本製造方法によれば、従来と比して、アルミニウム含有層とポリイミド層との密着性に優れた回路基板用積層体を製造することができる。
【0056】
また従来、酸素プラズマ法等よって機械的にアルミニウム含有層の表面またはポリイミド層の表面に微細な凹凸を形成し、アンカー効果によって両層の密着性を向上させることが試みられていた。しかし、この方法では、アルミニウム含有層とポリイミド層との界面に数十nm~数百μm程度の高低差(例えば、10nm~1mmの高低差)が生じるため、アルミニウム含有層の厚さを数十nm以上(例えば、1000nm以上)に設定する必要があった。
【0057】
これに対し本製造方法によれば、十分に高い密着性を維持しつつ、nmオーダーのアルミニウム含有層(例えば、厚さが2~500nmであるアルミニウム含有層)を形成することができる。すなわち本製造方法は、アルミニウム含有層の厚さ設計に対して高い自由度を有する。なお、アルミニウム含有層の厚さを大きくするほど、界面におけるアルミニウム含有層の表面平滑性が低下すると考えられる。しかし、上記アルミニウム含有層における表面の凹凸は数十nmオーダー(例えば、10nm超100nm以下)ではない。アルミニウム含有層の表面のうちポリイミド層と接する表面の算術平均表面粗さ(Ra)は、少なくとも10nm以下である。
【0058】
またスパッタめっき法においては、ポリイミド層上にアルミニウム含有層が形成されていくが、この際にポリイミド層の一部が分解されてしまう。ポリイミド層の分解により生成されたポリイミド分解物は、アルミニウム水酸化物と同様に、アルミニウム含有層とポリイミド層との密着性の低下を引き起こす因子である。これに対し本製造方法によれば、アルミニウム含有層上にポリイミド層が形成されるため、上記のようなポリイミド層の分解は起こらない。
【0059】
〈回路基板用積層体〉
本実施形態に係る回路基板用積層体は、ポリイミド層と、上記ポリイミド層上に設けられているアルミニウム含有層と、を備える回路基板用積層体であって、
硬X線光電子分光法(HAXPES)によるC1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法による分析(TOF-SIMS分析)を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第2領域において、Al2O4Hフラグメントのカウント数が5000以下である。第1領域及び第2領域については後述する。この回路基板用積層体は、上述の製造方法によって製造することができる。
【0060】
《ポリイミド層》
ポリイミド層はポリイミドからなる層である。ただし、上述のステップS12において重合しなかった低分子化合物等の不純物、不可避不純物を含み得ることはいうまでもない。
【0061】
ポリイミド層の厚さは特に制限されないが、たとえば10~25μmであることが好ましい。ポリイミド層の厚さが25μmを超えると、回路基板用積層体の柔軟性が低下する傾向がある。ポリイミド層の厚さが10μm未満である場合、製造される回路基板用積層体の機械的強度が低下する傾向がある。
【0062】
《アルミニウム含有層》
アルミニウム含有層は、回路基板の回路として機能する層である。したがって、上記アルミニウム含有層はアルミニウムのみから構成されてもよく、アルミニウムを主成分とする合金から構成されてもよい。合金としては、銅-アルミニウム合金、シリコン-アルミニウム合金等が挙げられる。上記アルミニウム含有層におけるアルミニウムの含有割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。なかでも、アルミニウム含有層はアルミニウムのみからなることが更に好ましい。この場合、アルミニウム水酸化物の低減に伴う密着性の向上が顕著となる。
【0063】
アルミニウム含有層の厚さは、20nm~20μmであることが好ましく、300nm~20μmであることがより好ましく、300nm~15μmであることが更に好ましい。アルミニウム含有層が回路基板の回路としての機能を十分に発揮しつつ、高い柔軟性を発揮できるためである。アルミニウム含有層の厚さは、300~500nmであることがより好ましい。なお、15μm以下のアルミニウム含有層を従来のキャスティング法で作製するのは難しいのが実情である。
【0064】
またアルミニウム含有層のうち、ポリイミド層と接する面の算術平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましい。この場合、回路基板用積層体を好適に高周波デバイスに利用することができる。当該算術平均表面粗さの下限は特に制限されないが、例えば0.1nm以上であってもよい。
【0065】
《C1s軌道の光電子スペクトル》
本実施形態に係る回路基板用積層体は、HAXPESによるC1s軌道の光電子スペクトルの分析を行った場合に、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との界面を含む第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合が、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上である。上記第1領域における当該積分強度の割合の上限値は、特に制限されないが例えば、20%以下であってもよい。
ここで、上記第1領域は、上記硬X線光電子分光法においてX線エネルギーが8keVでありかつ取り出し角度が80°である条件で測定される領域である。
【0066】
硬X線光電子分光法(HAXPES)とは、硬X線を固体試料に照射することによって固体試料内の電子のうち準位に対応したエネルギーの電子を励起し、固体試料から真空中に放出された光電子の運動エネルギーを測定することにより固体試料の化学状態(例えば、固体試料の構成元素、その構成元素の電子状態)を分析する方法である。HAXPESにおける測定可能深さは、代表的には50nmである。HAXPESは、大型放射光施設などで実施することができる。HAXPESが実施可能な大型放射光施設の例としては、SPring-8などが挙げられる。
【0067】
本実施形態におけるHAXPESによる分析の手順について説明する。まず、アルミニウム含有層とポリイミド層とを備える回路基板用積層体の、アルミニウム含有層側に硬X線が照射されるように回路基板用積層体を所定の位置にセットする。このときのアルミニウム含有層の厚さは20nmとする。上記アルミニウム含有層の厚さが20nmを超える場合、機械研磨、超低角斜め切削等によって当該厚さを20nmに調整する。測定の際にはX線源と検出器に対して取り出し角度θが80°となるように回路基板用積層体(分析用試料)を傾斜させ、X線源から回路基板用積層体に対し硬X線を照射する。回路基板用積層体に向けて硬X線を照射すると、光電効果により回路基板用積層体から真空中に光電子が放出される。放出された光電子を検出器で捕捉して、C1s軌道の光電子スペクトルを描画する(例えば、
図7のPT)。ここで、「C1s軌道の光電子スペクトル」とは、炭素原子の1s軌道の光電子スペクトルを意味する。
【0068】
HAXPESの分析条件は以下の通りである。
使用放射光施設:大型放射光施設SPring-8のアンジュレータビームライン、BL16XU及びBL46XU(Si(111)2結晶分光器及びSi(444)チャネルカット結晶分光器で単色化)
X線エネルギー:8keV
エネルギー幅 :250meV
パスエネルギー:200eV
ビームサイズ:約150μm×35μm(ベンドシリンドリカルミラー(横集光+縦集光)を使用)
測定時間:200ms/1点あたり
測定間隔:50meV
測定スペクトル:C1s軌道の光電子スペクトル
取り出し角度:80°(取り出し角度は、分析用試料の表面と検出器による取り出し方向とのなす角度を意味する。)
アナライザー:VG Scienta株式会社製、商品名:R4000
【0069】
ここで得られるC1s軌道の光電子スペクトルPT(例えば、
図7)は、互いに異なる化学状態にある複数のC1s軌道の光電子スペクトル(P1~P5)が合成されたものである。そこで上記C1s軌道の光電子スペクトルPTを、アルバック・ファイ株式会社製のソフトウェア(商品名:PHI MultiPak(商標))を用いてシャーリー法によって、バックグラウンドの除去を行い、上述の複数のC1s軌道の光電子スペクトルP1~P5それぞれに分解する。
【0070】
次に、上記C1s軌道の光電子スペクトルPTを分解することで得られた光電子スペクトルP1~P5それぞれのピークの位置を特定する。特定したピークの位置に基づいて、対応する炭素原子の帰属を行う。このときの炭素原子の帰属は、Haight,R.;White,R.C.;Silverman,B.D.;Ho,P.S.Complex Formation and Growth at the Cr- and Cu-PI Interface. J.Vac.Sci.Technol.A 1988,6,2188-2199(非特許文献2)、及びHo,P.S.;Hahn,P.O.;Bartha,J.W.;Rubloff,G.W.;LeGouses,F.K.;Silverman,B.D.Chemical Bonding and Reaction at Metal/Polymer Interfaces. J.Vac.Sci.Technol.A 1985,3,739-745(非特許文献3)に基づいて行うものとする。例えば、光電子スペクトルP1~P4は、ポリイミドを構成している炭素原子であって、アルミニウム含有層と共有結合を形成していない炭素原子のそれぞれに対応している(
図6、
図7参照)。なお、
図6の上部におけるポリイミドの構造式において、各炭素原子に付されている符号が、対応する光電子スペクトル(
図6の下部)の符号が付されている。本実施形態において、上記光電子スペクトルP1は、288.8eV以上289.3eV以下の範囲に極大値を有するピークである。上記光電子スペクトルP2は、285.7eV以上286.1eV以下の範囲に極大値を有するピークである。上記光電子スペクトルP3は、285.2eV以上285.7eV以下の範囲に極大値を有するピークである。上記光電子スペクトルP4は、284.5eV以上284.9eV以下の範囲に極大値を有するピークである。ここで、上記極大値は、対応する光電子スペクトルにおける最大値であると把握することもできる。後述する光電子スペクトルP5についても同様である。
【0071】
ここで、
図7における光電子スペクトルP5は、「第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピーク」に対応する。上記光電子スペクトルP5は、ポリイミド層とアルミニウム含有層との間で形成されているC-O-Al結合に由来する光電子スペクトルである。そのため、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体(PT)の積分強度を基準としたとき、上記電子線スペクトルP5の積分強度の割合が高いということは、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との間で形成される共有結合の数が増大していることを意味しており、両層間の密着性が向上していると本発明者らは考えている。
【0072】
すなわち、上記第1領域において、286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピークの積分強度の割合は、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体の積分強度に対して、5%以上であり、5%以上20%以下であることが好ましく、15%以上20%以下であることがより好ましい。本実施形態において、上述の光電子スペクトルそれぞれの積分強度は、アルバック・ファイ株式会社製の解析ソフトウエア(商品名:PHI MultiPak(商標))を用いて求めるものとする。
【0073】
《Al2O4Hフラグメント》
本実施形態に係る回路基板用積層体は、TOF-SIMS分析を行った場合に、ポリイミド層とアルミニウム含有層との界面を含む第2領域において、Al2O4Hフラグメントのカウント数が5000以下である。上記第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数は、4500以下であることがより好ましく、4000以下であることがさらに好ましい。上記第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数の下限値は、特に制限されないが例えば、0以上であってもよい。
本実施形態の一側面において、上記飛行時間型二次イオン質量分析法による分析を行った場合に、上記第2領域において、上記Al2O4Hフラグメントのカウント数が3000以上5000以下であることが好ましく、3000以上4500以下であることがより好ましい。
【0074】
TOF-SIMS分析は次のようにして実施される。まず、回路基板用積層体のうち、アルミニウム含有層の表面側からTOF-SIMS分析を実施する。具体的には、露出するアルミニウム含有層の表面をセシウムでスパッタしながら、二次イオンを測定する。測定される二次イオンに関し、Al
3フラグメントのカウント数が、その最大値の1/2にまで低下した位置を界面とみなす(例えば、
図8、
図10)。同法はJIS K 0146:2002(ISO 146:2000)に従う。
なお、上述のAl
3フラグメントのカウント数に基づいて特定された界面の位置が実際の界面の位置と一致しない場合であっても、上記第2領域を特定する際の界面は、上述のAl
3フラグメントのカウント数に基づいて特定するものとする。
【0075】
上記の通り界面を特定した後、界面からアルミニウム含有層の厚さ方向(界面の法線方向であって、界面からアルミニウム含有層に向かう方向)に10nm離れた位置を一方端とし、界面からポリイミド層の厚さ方向(界面の法線方向であって、界面からポリイミド層に向かう方向)に30nm離れた位置を他方端とする。上記一方端と上記他方端とで挟まれた領域を第2領域とする。当該第2領域に対してTOF-SIMS分析を実施する。そして、第2領域内において検出されたAl2O4Hフラグメントのカウント数の総数を算出し、これを「第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数」とする。すなわち本明細書において、各領域におけるカウント数とは、各領域におけるカウント数の総数を意味する。
【0076】
本実施形態の一側面において、アルミニウム含有層の厚さは20nm以上であることが好ましい。アルミニウム含有層の厚さが20nm未満である場合、アルミニウム含有層の露出する表面(ポリイミド層と接していない側の面)に存在するアルミニウム水酸化物と、第2領域に存在するアルミニウム水酸化物とが区別しにくい傾向がある。またアルミニウム含有層の厚さが20nmを超える場合、上記第2領域以外に該当するアルミニウム含有層を予め除去した後に、TOF-SIMS分析を実施してもよい。アルミニウム含有層の除去方法は特に制限されず、Arイオンスパッタリング等により除去することができる。TOF-SIMS分析条件は以下のとおりである。
【0077】
測定装置 :TOF-SIMS質量分析計
一次イオン源 :ビスマス(Bi)
スパッタイオン源 :セシウム(Cs)
深さ方向ピッチ :1nm
一次イオン加速電圧 :25kV
スパッタイオン加速電圧:1kV
測定対象面領域 :500nm×500μm
なお、TOF-SIMS分析の深さ方向に関し、深さの値(nm)(グラフにおける横軸)は、Cu標準試料(純度99質量%以上)の測定結果をもとに校正される。
【0078】
《C3Nフラグメント》
本実施形態に係る回路基板用積層体は、TOF-SIMS分析を行った場合に、ポリイミド層とアルミニウム含有層との界面を含む第3領域におけるC3Nフラグメントのカウント数が15×105以下であることが好ましい。上記第3領域におけるC3Nフラグメントのカウント数の下限値は、特に制限されないが後述する理由から、13×105以上であってもよい。第3領域は、以下のように決定される。なお、TOF-SIMS分析の条件は、上記と同様である。
【0079】
まず、上記と同様の方法により界面を特定した後、界面を一方端とし、界面からポリイミド層の厚さ方向に30nm離れた位置を他方端とする。上記一方端と上記他方端とで挟まれた領域を第3領域とする。
【0080】
本実施形態において、上記C3Nフラグメントは、ポリイミドの分解物に由来するフラグメントである。上記C3Nフラグメントが少ないことにより、第3領域におけるポリイミドの分解物の量が十分に低減されているとみなすことができる。なお、ポリイミド自体に対してTOF-SIMS分析を行った場合に、ポリイミドの表面と、該表面から内部方向に30nm離れた位置とに挟まれる領域におけるC3Nフラグメントのカウント数が13×105であったことから、本積層体に関し、第3領域におけるC3Nフラグメントのカウント数の下限値は、これと同等とすることができる。
【0081】
ポリイミドの分解物は、アルミニウム水酸化物と同様に、アルミニウム含有層とポリイミド層との密着性の低下を引き起こす因子である。したがって、第3領域におけるC3Nフラグメントのカウント数が15×105以下であることにより、本積層体はさらに密着性に優れることができる。なお、スパッタめっき法により製造される回路基板用積層体においては、第3領域におけるC3Nフラグメントのカウント数は、20×105を超えることが確認されている。
【0082】
《O2フラグメント》
本実施形態に係る回路基板用積層体は、TOF-SIMS分析を行った場合に、ポリイミド層とアルミニウム含有層との界面を含む第4領域におけるO2フラグメントのカウント数が10000以下であることが好ましい。上記第4領域におけるO2フラグメントのカウント数の下限値は、特に制限されないが5000以上であってもよい。第4領域は、以下のように決定される。なお、TOF-SIMS分析の条件は、上記と同様である。
【0083】
まず、上記と同様の方法により界面を特定した後、界面からアルミニウム含有層の厚さ方向に10nm離れた位置を一方端とし、界面からポリイミド層の厚さ方向に40nm離れた位置を他方端とする。上記一方端と上記他方端とで挟まれた領域を第4領域とする。
【0084】
本実施形態において、O2フラグメントは、アルミニウム水酸化物に由来するフラグメントであると考えられる。上記第4領域におけるO2フラグメントのカウント数が10000以下である場合、第4領域におけるアルミニウム水酸化物の量が十分低いため、これによる密着性の低減が十分に抑制されることとなる。
【0085】
《作用効果》
本実施形態に係る回路基板用積層体(以下、「本積層体」とも言う。)によれば、ポリイミド層とアルミニウム含有層との密着性に優れることができる。ポリイミド層とアルミニウム含有層との間のアルミニウム水酸化物の量が従来と比して十分に低いためである。アルミニウム水酸化物の量が十分に低いことは、TOF-SIMS分析を行った場合に、第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数が5000以下であることから確認される。Al2O4Hフラグメントは、アルミニウム水酸化物、具体的にはAlOOH、Al(OH)3等に由来するフラグメントだからである。なお、スパッタめっき法により製造される回路基板用積層体においては、第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数は、5000を超えることが確認されている。
【0086】
また本回路基板用積層体においては、アルミニウム含有層のうち、ポリイミド層と接する面の算術平均表面粗さ(Ra)が10nm以下であっても、十分に高い密着性を発揮することができる。その理由は、本製造方法にて詳述したように、過酷な熱処理を経ることによって、アルミニウム含有層とポリイミド層とが化学的に結合している部分が、従来品、たとえば従来のキャスティング法によって製造されたものよりも多くなっているためである。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0088】
〈回路基板用積層体の製造〉
《実施例1》
以下の手順により、ポリイミド層と、ポリイミド層上に積層されたアルミニウム含有層とを備える回路基板用積層体を製造した。
【0089】
まず、算術平均表面粗さ(Ra)が0.01nmであるGaAs基板を準備した。そして、プラズマCVD法により、GaAs基板の一方の表面に、40nmの厚さを有するSiO2層を形成した。これにより、一方の表面(主面)に保護層であるSiO2層が設けられたGaAs基板が準備された(基板と、上記基板上に設けられている保護層とを準備する工程)。次に、抵抗加熱蒸着法により、SiO2層上に、20nmの厚さを有するアルミニウム含有層を形成した(保護層上にアルミニウム含有層を形成する工程)。上記アルミニウム含有層は、アルミニウムのみからなる層であった。次に、形成されたアルミニウム含有層上に、ポリイミド前駆体液を塗布して硬化処理することによりポリイミド層を形成して、中間積層体を得た(アルミニウム含有層上にポリイミド層を形成して、中間積層体を得る工程)。具体的な手順は以下のとおりである。
【0090】
(ポリイミド前駆体液の調製)
4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(94.3g)をN-メチル-2-ピロリドン(803g)に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(102.7g)を加えることにより、溶液を調製した。次に、窒素雰囲気下、25℃で上記溶液を1時間攪拌した後、60℃に昇温してさらに20時間攪拌した。攪拌後、上記溶液を室温まで冷却し、さらに1時間攪拌した。以上により、ポリアミック酸を含むポリイミド前駆体液が調製された。
【0091】
(ポリイミド層の形成)
アルミニウム含有層の露出する表面に、ドクターブレードを用いてポリイミド前駆体液を塗布によって供給し、アルミニウム含有層上に塗膜を形成した。次に、窒素雰囲気下において120℃で60分間塗膜を予備乾燥させた。次に、窒素雰囲気下において300℃で3時間の熱処理(硬化処理)を、上述の予備乾燥させた塗膜に対して実施した。その結果、10μmの厚さを有するポリイミド層が形成された。以上により、GaAs基板、SiO2層(保護層)、アルミニウム含有層、およびポリイミド層を含む中間積層体が作製された。
【0092】
次に、上記中間積層体からGaAs基板を剥離した。当該剥離は、作業者の手で行われた。次に、GaAs基板を剥離することにより露出したSiO2層に対し、リアクティブイオンエッチングを実施した。エッチング装置には、多目的ドライエッチング装置(サコム株式会社製、RIE-200NL)を用いた。反応性ガスにはフルオロホルムを用いた。以上により、中間積層体から、GaAs基板およびSiO2層(保護層)が除去され、アルミニウム含有層およびポリイミド層からなる回路基板用積層体を得た(中間積層体から基板および保護層を除去して、回路基板用積層体を得る工程)。
【0093】
《比較例1》
従来のスパッタめっき法により、ポリイミド層と、ポリイミド層上に積層されたアルミニウム含有層とを備える回路基板用積層体を製造した。具体的には、10μmの厚さを有するポリイミドフィルムの一方の表面上に、スパッタめっき法を用いて、20nmの厚さを有するアルミニウム含有層を形成した。上記アルミニウム含有層は、アルミニウムのみからなる層であった。
【0094】
〈HAXPESによる分析〉
実施例1および比較例1の各回路基板用積層体に対し、上述のHAXPESによる分析を実施した。当該分析は、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL16XU及びBL46XUにおいて行った。いずれのビームラインにおいても、Si(111)2結晶分光器及びSi(444)チャネルカット結晶分光器で単色化を行った。
【0095】
HAXPESの分析条件は以下の通りである。
X線エネルギー:8keV
エネルギー幅 :250meV
パスエネルギー:200eV
ビームサイズ:約150μm×35μm(ベンドシリンドリカルミラー(横集光+縦集光)を使用)
測定時間:200ms/1点あたり
測定間隔:50meV
測定スペクトル:C(炭素)1s
取り出し角度:80°
アナライザー:VG Scienta株式会社製、商品名:R4000
【0096】
HAXPESによる分析によって得られたC1s軌道の光電子スペクトル(PT)を
図7に示す。
図7において、縦軸は規格化された光電子強度を示し、横軸は結合エネルギーを示している。当該光電子スペクトルPTは、ポリイミド層とアルミニウム含有層との界面を含む第1領域において求められた光電子スペクトルである。ここで、上記第1領域は、上記硬X線光電子分光法においてX線エネルギーが8keVでありかつ取り出し角度が80°である条件で測定される領域である。アルバック・ファイ(株)製のソフトウェア、PHI MultiPak(商標)を用いて以下の解析を実施した。まず、シャーリー法に基づいたバックグラウンド除去及びスペクトル分解を実施した。次に、複数のC1s軌道の光電子スペクトルP1~P5それぞれに分解した(
図7)。その後、光電子スペクトルP1~P5それぞれの積分強度を求めた。このうち、光電子スペクトルP5(286.3eV以上286.6eV以下の範囲に極大値を有するピーク)に着目して、上記C1s軌道の光電子スペクトル全体(PT)の積分強度に対する積分強度の割合を求めた。結果を表1に示す。表1の結果から、実施例1では、当該積分強度の割合が7%であった。一方比較例1では、当該積分強度の割合が0%であった。上記光電子スペクトルP5は、ポリイミド層とアルミニウム含有層との間で形成されているC-O-Al結合に由来する光電子スペクトルである。そのため、上記結果から、実施例1の回路基板用積層体は、比較例1の回路基板用積層体と比べて、上記ポリイミド層と上記アルミニウム含有層との間で形成される共有結合の数が増大し、両層間の密着性が向上していることが示唆された。
【0097】
〈TOF-SIMS分析〉
実施例1および比較例1の各回路基板用積層体に対し、上述のTOF-SIMS分析を実施した。TOF-SIMS質量分析計としては、IONTOF社製の「TOF.SIMS 5」(商品名)を用いた。その結果を
図8~
図11の各グラフに示す。
【0098】
図8~
図11おいて、各フラグメントの二次イオン強度(カウント数)を縦軸とし、アルミニウム含有層の表面からの深さ(アルミニウム含有層の露出する表面から、該表面の法線方向における距離)を横軸とする。
図8及び
図9において実施例1の結果を実線で示し、
図10及び
図11において比較例1の結果を点線で示す。またアルミニウム含有層とポリイミド層との界面の位置を一点鎖線で示す。なお、TOF-SIMS分析におけるAl
3フラグメントのカウント数がその最大値の1/2にまで低下した位置を、TOF-SIMS分析における上記界面の位置とした(
図8~
図11)。
【0099】
図9及び
図11は、Al
2O
4Hフラグメントのカウント数を示すグラフである。
図9で示されるグラフが実施例1に対応し、
図11で示されるグラフが比較例1に対応する。
図9及び
図11において、2つの白矢印で挟まれる領域、すなわち一点破線で示される界面の位置からアルミニウム含有層の厚さ方向に10nm離れた位置と、界面の位置からポリイミド層の厚さ方向に30nm離れた位置とに挟まれる領域が、第2領域に該当する。
【0100】
Al
2O
4Hの第2領域におけるカウント数を表1に示す。なお、言うまでもないが、表1に示されるフラグメントのカウント数は、
図9及び
図11で示されるグラフに基づいて算出した。
【0101】
【0102】
実施例1において、第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数は3667であり、5000以下であった。一方、比較例1において、第2領域におけるAl2O4Hフラグメントのカウント数は6956であり、5000を超えていた。
【0103】
図9及び
図11に示すAl
2O
4Hフラグメントは、アルミニウム水酸化物由来のフラグメントである。したがって、上記結果から、実施例1において界面近傍に存在するアルミニウム水酸化物の量が、比較例1と比して十分に少ないことがわかった。
【0104】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1 基板
2 保護層
3 アルミニウム含有層
4 ポリイミド層
5 中間積層体
6 回路基板用積層体