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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20230808BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/316 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020002772
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021111698
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】平崎 貴英
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204901(JP,A)
【文献】特開2019-135745(JP,A)
【文献】特開2001-168092(JP,A)
【文献】特開2002-203917(JP,A)
【文献】特開2006-041337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の表面上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層を貫通する開口を介して前記表面に接触する金属電極と、
を備え、
前記絶縁層は、
1×1020[atoms/cm]以上の塩素(Cl)の濃度と30nm以下の厚さとを有する第1SiN膜、及び、
1×1019[atoms/cm]以下の塩素(Cl)の濃度を有する第2SiN膜を含む、半導体装置。
【請求項2】
前記第1SiN膜は、前記第2SiN膜より、前記窒化物半導体層の表面近くに位置する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
CVD法を用いて、第1SiN膜及び前記第1SiN膜上の第2SiN膜を含む絶縁層を窒化物半導体層の表面上に形成する工程と、
フッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、前記表面を露出させる開口を前記絶縁層に形成する工程と、
前記開口を介して前記表面に接触する金属電極を形成する工程と、
を備え、
前記絶縁層を前記表面上に形成する工程では、
前記第1SiN膜及び前記第2SiN膜の形成に、シリコン(Si)及び塩素(Cl)を含む化合物ガスと、及びアンモニア(NH)とを含む原料ガスを用い、
前記第1SiN膜を形成する際、前記化合物ガスの流量(F1)と前記アンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)を1/4以上且つ10以下とし、
前記第2SiN膜を形成する際、前記流量比(F1/F2)を1/10以下とする、半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記開口を前記絶縁層に形成する工程では、
前記フッ素系ガスを六フッ化硫黄(SF)又は四フッ化メタン(CF)とする、請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体装置の製造方法を開示する。この製造方法では、GaN走行層、GaN電子供給層、及びGaNキャップ層を基板上に順に成長し、PECVD法(プラズマ化学気相成長法)を用いて第1窒化シリコン膜及び第2窒化シリコン膜をGaNキャップ層上に順に形成する。そして、露光法及びエッチング法を用いてGaNキャップ層を露出させ、露出させたGaNキャップ層上にソース電極及びドレイン電極を形成し、ソース電極とドレイン電極との間のGaNキャップ層上にゲート電極を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-200306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えばGaN系半導体等の窒化物半導体を用いた半導体装置が開発されている。窒化物半導体を用いた半導体装置を製造する際、窒化物半導体層の表面上にSiN(窒化シリコン)膜を形成し、ゲート電極を形成するための開口をSiN膜に形成することがある。この開口は、例えば、高い異方性を有するドライエッチングを用いて形成される。このドライエッチングは、エッチングガスのプラズマに対して窒化物半導体層の積層方向にバイアス電圧を印加することによって、実施される。
【0005】
しかしながら、このようなドライエッチングを用いてSiN膜に開口を形成する場合、エッチングガスのプラズマが、バイアス電圧による加速によって高いエネルギー状態で窒化物半導体層の表面に衝突するので、当該表面の平坦性が損なわれてしまう。当該表面の平坦性が損なわれると、当該表面上のゲート電極との間に形成されるショットキ障壁が理想とは異なる状態となってしまう。その結果、リーク電流が増大する可能性がある。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、窒化物半導体層の表面の平坦性の低下を抑制することにより、半導体装置のリーク電流の増大を抑制できる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の表面上に設けられた絶縁層と、絶縁層を貫通する開口を介して表面に接触する金属電極と、を備え、絶縁層は、1×1020[atoms/cm]以上の塩素(Cl)の濃度と30nm以下の厚さとを有する第1SiN膜、及び、1×1019[atoms/cm]以下の塩素(Cl)の濃度を有する第2SiN膜を含む。
【0008】
本開示の半導体装置の製造方法は、CVD法を用いて、第1SiN膜及び第1SiN膜上の第2SiN膜を含む絶縁層を窒化物半導体層の表面上に形成する工程と、フッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、表面を露出させる開口を絶縁層に形成する工程と、開口を介して表面に接触する金属電極を形成する工程と、を備え、絶縁層を表面上に形成する工程では、第1SiN膜及び第2SiN膜の形成に、シリコン(Si)及び塩素(Cl)を含む化合物ガスと、及びアンモニア(NH)とを含む原料ガスを用い、第1SiN膜を形成する際、化合物ガスの流量(F1)とアンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)を1/4以上且つ10以下とし、第2SiN膜を形成する際、流量比(F1/F2)を1/10以下とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、窒化物半導体層の表面の平坦性の低下を抑制することにより、半導体装置のリーク電流の増大の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る半導体装置の一例として、電界効果トランジスタを示す断面図である。
図2図2(a)、図2(b)、及び図2(c)は、図1に示す電界効果トランジスタの各製造工程を示す断面図である。
図3図3(a)、図3(b)、及び図3(c)は、図1に示す電界効果トランジスタの各製造工程を示す断面図である。
図4図4は、LPCVD法を用いた絶縁層の形成方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5(a)は、絶縁層を形成する際の炉内温度及び供給ガスの手順を示す図である。図5(b)は、絶縁層を形成する際の炉内圧力を示す図である。
図6図6は、絶縁層を形成する際の原料ガスの流量比を示す図である。
図7図7は、原料ガスの流量比と塩素濃度との関係を示す図である。
図8図8(a)は、図1に示す電界効果トランジスタにおける窒化物半導体層の表面画像である。図8(b)は、従来の電界効果トランジスタにおける窒化物半導体層の表面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一実施形態に係る半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の表面上に設けられた絶縁層と、絶縁層を貫通する開口を介して表面に接触する金属電極と、を備え、絶縁層は、1×1020[atoms/cm]以上の塩素(Cl)の濃度と30nm以下の厚さとを有する第1SiN膜、及び、1×1019[atoms/cm]以下の塩素(Cl)の濃度を有する第2SiN膜を含む。
【0012】
この半導体装置では、窒化物半導体層の表面上に絶縁層が設けられており、絶縁層には、該絶縁層を貫通する開口が形成されている。半導体装置を製造する際、この開口は、例えばドライエッチングにより絶縁層に形成される。ここで、絶縁層は、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜を含んでいる。1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜にドライエッチングが達すると、第1SiN膜から微量の塩素が当該開口内に放出される。放出された塩素は、当該開口から露出する窒化物半導体層の表面と化学反応を起こし、当該表面に対して塩素による化学エッチングが進行する。化学エッチングは、当該表面の荒れた部分(凹凸部分)と優先的に反応する。この化学エッチングの進行によって、原子レベルで当該表面を平坦にすることができる。このため、ドライエッチングに起因する当該表面の平坦性の低下を、化学エッチングによって抑制できる。当該表面の平坦性の低下を抑制することにより、当該表面上の金属電極との間に形成されるショットキ障壁を理想の状態に近づけることができる。その結果、リーク電流の増大を抑制することができる。また、絶縁層が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜を含むことにより、不純物としての塩素が絶縁層に過剰に含まれる事態を抑制できる。これにより、絶縁層の絶縁性の低下を抑制でき、絶縁層を介したリーク電流の増大を抑制できる。
【0013】
第1SiN膜は、第2SiN膜より、窒化物半導体層の表面近くに位置してもよい。この場合、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜に対して窒化物半導体層の表面側に位置する。これにより、第1SiN膜から放出される塩素をより確実に当該表面に作用させることができ、当該表面の平坦性の低下を抑制するという上述した効果を維持できる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、CVD法を用いて、第1SiN膜及び第1SiN膜上の第2SiN膜を含む絶縁層を窒化物半導体層の表面上に形成する工程と、フッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、表面を露出させる開口を絶縁層に形成する工程と、開口を介して表面に接触する金属電極を形成する工程と、を備え、絶縁層を表面上に形成する工程では、第1SiN膜及び第2SiN膜の形成に、シリコン(Si)及び塩素(Cl)を含む化合物ガスと、及びアンモニア(NH)とを含む原料ガスを用い、第1SiN膜を形成する際、化合物ガスの流量(F1)とアンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)を1/4以上且つ10以下とし、第2SiN膜を形成する際、流量比(F1/F2)を1/10以下とする。
【0015】
この半導体装置の製造方法では、第1SiN膜を形成する際、化合物ガスの流量(F1)とアンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)を1/4以上且つ10以下としている。この場合、塩素を含む化合物ガスの流量(F1)を多くすることで、原料ガスに含まれる塩素量を多くすることができる。これにより、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜を形成することができる。この第1SiN膜を窒化物半導体層の表面上に形成することにより、上述したように当該表面の平坦性の低下を抑制できる。その結果、リーク電流の増大を抑制できる。また、絶縁層を表面上に形成する工程では、第1SiN膜を表面上に形成した後に第2SiN膜を第1SiN膜上に形成する際、塩素を含む化合物ガスの流量(F1)を少なくすることで、原料ガスに含まれる塩素量を少なくすることができる。これにより、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜を形成することができる。1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜を絶縁層が含むことにより、不純物としての塩素が絶縁層に過剰に含まれる事態を抑制できる。これにより、絶縁層の絶縁性の低下を抑制でき、絶縁層を介したリーク電流の増大を抑制できる。また、第2SiN膜が第1SiN膜上に形成されるので、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜に対して窒化物半導体層の表面側に位置する。これにより、第1SiN膜から放出される塩素をより確実に当該表面に作用させることができ、当該表面の平坦性の低下を抑制するという上述した効果を維持できる。
【0016】
開口を絶縁層に形成する工程では、フッ素系ガスを六フッ化硫黄(SF)又は四フッ化メタン(CF)としてもよい。この場合、絶縁層に開口を好適に形成することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る半導体装置及び半導体装置の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る半導体装置の一例として、電界効果トランジスタ(以下、単に「トランジスタ」という)1を示す断面図である。本実施形態に係るトランジスタ1は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。図1に示すように、トランジスタ1は、基板2、窒化物半導体層10、絶縁層20及び25、ソース電極31、ドレイン電極32、並びにゲート電極33を備えている。窒化物半導体層10は、基板2上に形成されたエピタキシャル層であり、窒化物半導体を主に含んでいる。窒化物半導体層10は、基板2側から順に、チャネル層11、バリア層12、及びキャップ層13を含んでいる。チャネル層11内であってチャネル層11とバリア層12との界面近傍には、2次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)が生じる。これにより、チャネル層11内にチャネル領域が形成される。
【0019】
基板2は、結晶成長用の基板である。基板2として、例えばSiC基板、GaN基板、又はサファイア(Al)基板が挙げられる。一実施例では、基板2はSiC基板である。チャネル層11は、基板2上にエピタキシャル成長した半導体層である。チャネル層11は、窒化物半導体から構成され、例えばGaN層である。チャネル層11の厚さは、例えば400nm以上且つ2000nm以下である。バリア層12は、チャネル層11上にエピタキシャル成長した半導体層である。バリア層12は、チャネル層11よりも電子親和力が大きい窒化物半導体から構成される。バリア層12は、例えばAlGaN層、InAlN層、又はInAlGaN層である。バリア層12は、n型の導電性を示してもよい。バリア層12の厚さは、例えば5nm以上且つ30nm以下である。
【0020】
キャップ層13は、バリア層12上にエピタキシャル成長した半導体層である。キャップ層13は、窒化物半導体から構成され、例えばGaN層である。キャップ層13は不純物を含んでもよい。例えば、キャップ層13はn型GaN層であってもよい。キャップ層13の厚さは、例えば1nm以上且つ5nm以下である。キャップ層13の表面は、窒化物半導体層10の表面10aを構成する。表面10aは、窒化物半導体層10の積層方向における絶縁層20側(すなわち、基板2とは反対側)に位置する面である。
【0021】
絶縁層20は、窒化物半導体層10の表面10a上に設けられた絶縁性の保護層である。絶縁層20は、後述するように、例えば減圧CVD法(LPCVD:Low Pressure Chemical Vapor Deposition)を用いて形成される。LPCVD法は、成膜圧力を下げると共に成膜温度を高くすることによって緻密な膜を形成する方法である。絶縁層20は、プラズマCVD法を用いて形成されてもよい。
【0022】
絶縁層20は、窒化物半導体層10の表面10a上に設けられた第1SiN膜21と、第1SiN膜21上に設けられた第2SiN膜22とを含んでいる。第1SiN膜21は、表面10aに接しており、表面10aを覆っている。第1SiN膜21は、不純物として塩素(Cl)を多く含む塩素リッチな膜である。第1SiN膜21は、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有している。第1SiN膜21の塩素濃度は、例えば、1×1020[atoms/cm]以上且つ1×1021[atoms/cm]以下であってもよい。一実施例では、第1SiN膜21の塩素濃度は1×1021[atoms/cm]である。第1SiN膜21の屈折率は、波長632nmに対して例えば2.3以上且つ2.4以下である。第1SiN膜21の屈折率は、波長632nmに対して例えば2.25以上且つ2.5以下であってもよい。また、第1SiN膜21の厚さは、例えば5nm以上且つ20nm以下である。第1SiN膜21の厚さは、例えば1nm以上且つ30nm以下であってもよい。
【0023】
第2SiN膜22は、第1SiN膜21を介して窒化物半導体層10の表面10a上に設けられている。すなわち、第2SiN膜22は、窒化物半導体層10の積層方向において第1SiN膜21に対して窒化物半導体層10とは反対側に設けられている。第2SiN膜22は、第1SiN膜21に接しており、第1SiN膜21を覆っている。第2SiN膜22の塩素濃度は、第1SiN膜21の塩素濃度よりも低い。具体的には、第2SiN膜22の塩素濃度は、1×1019[atoms/cm]以下である。第2SiN膜22の塩素濃度は、例えば、1×1015[atoms/cm]以上且つ1×1019[atoms/cm]以下であってもよい。一実施例では、第2SiN膜22の塩素濃度は、1×1019[atoms/cm]である。本実施形態において、塩素濃度は、例えば二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法により測定される。SIMS法による塩素の濃度測定の検出限界値は、1×1015[atoms/cm]である。
【0024】
第2SiN膜22の屈折率は、第1SiN膜21の屈折率よりも低い。具体的には、第2SiN膜22の屈折率は、波長632nmに対して例えば2.0以上且つ2.2未満である。波長632nmに対して第2SiN膜22の屈折率は、例えば、2.0以下であってもよいし、1.8以上且つ2.25未満であってもよい。また、第2SiN膜22の厚さは、第1SiN膜21の厚さよりも厚い。第2SiN膜22の厚さは、例えば20nm以上且つ100nm以下である。第2SiN膜22の厚さは、例えば10nm以上且つ150nm以下であってもよい。第2SiN膜22の厚さ(T2)と第1SiN膜21の厚さ(T1)との比(T2/T1)は、例えば1以上且つ5以下である。比(T2/T1)は、例えば1以上且つ20以下であってもよい。
【0025】
絶縁層20には、ソース開口20a、ドレイン開口20b、及びゲート開口20cが形成されている。各開口20a,20b,及び20cは、窒化物半導体層10の積層方向において絶縁層20を貫通している。各開口20a,20b,及び20c内では、窒化物半導体層10の表面10aが露出する。ソース開口20a及びドレイン開口20bは、表面10aに沿った一方向に沿って並んでいる。ゲート開口20cは、ソース開口20aとドレイン開口20bとの間に設けられている。各開口20a,20b,及び20cは、例えば、フッ素(F)原子を含む反応性ガス(フッ素系ガス)を用いた反応性イオンエッチング(RIE)により形成される。
【0026】
ソース電極31は、窒化物半導体層10の表面10a上に設けられており、ソース開口20aを塞いでいる。ソース電極31は、ソース開口20aを介して表面10aとオーミック接触を形成している。ドレイン電極32は、表面10a上に設けられており、ドレイン開口20bを塞いでいる。ドレイン電極32は、ドレイン開口20bを介して表面10aとオーミック接触を形成している。ソース電極31及びドレイン電極32のそれぞれは、オーミック電極であり、例えば、互いに重なるタンタル(Ta)層、アルミニウム(Al)層及びモリブデン(Mo)層との合金である。Ta層に代えてチタン(Ti)層を採用してもよい。
【0027】
ゲート電極33は、本実施形態における金属電極の例である。ゲート電極33は、窒化物半導体層10の表面10a上に設けられており、ソース電極31とドレイン電極32との間に位置している。ゲート電極33は、ゲート開口20cを塞いでおり、ゲート開口20cを介して表面10aと接触している。ゲート電極33は、表面10aとショットキ接触する材料を含み、例えばニッケル(Ni)層と金(Au)層との積層構造を有する。この場合、Ni層が窒化物半導体層10の表面10a(具体的にはキャップ層13の表面)にショットキ接触する。
【0028】
絶縁層25は、絶縁層20上に設けられている。絶縁層25は、ゲート電極33を覆う保護膜であり、絶縁層20の第2SiN膜22と接触している。絶縁層25は、Siを含む絶縁性材料からなり、一例ではSiN膜、SiO膜、或いはSiON膜である。絶縁層25は、例えばLPCVD法又はプラズマCVD法を用いて、絶縁層20上に形成される。絶縁層25には、ソース開口25a及びドレイン開口25bが形成されている。各開口25a及び25bは、窒化物半導体層10の積層方向において絶縁層25を貫通している。
【0029】
ソース開口25aは、絶縁層25におけるソース電極31を覆う部分に形成されている。ソース開口25a内では、ソース電極31が露出する。ソース電極31は、ソース開口25aを介して、図示しないソース電極パッドと接する。ドレイン開口25bは、絶縁層25におけるドレイン電極32を覆う部分に形成されている。ドレイン開口25b内では、ドレイン電極32が露出する。ドレイン電極32は、ドレイン開口25bを介して、図示しないドレイン電極パッドと接する。各開口25a及び25bは、例えば、フッ素系ガスを用いたRIEにより形成される。
【0030】
次に、本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法の一例を説明する。図2(a)、図2(b)、図2(c)、図3(a)、図3(b)、及び図3(c)は、トランジスタ1の各製造工程を示す断面図である。トランジスタ1を製造する際には、まず、図2(a)に示すように、チャネル層11、バリア層12、及びキャップ層13を含む窒化物半導体層10を基板2上に形成する。具体的には、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて、チャネル層11、バリア層12、及びキャップ層13を基板2上に順にエピタキシャル成長する。
【0031】
続いて、LPCVD法を用いて、絶縁層20を窒化物半導体層10の表面10a上に形成する。具体的には、図2(b)に示すように、絶縁層20の第1SiN膜21を窒化物半導体層10の表面10a上に形成する。このとき、第1SiN膜21の成膜時間を制御することにより、第1SiN膜21の厚さ(T1)を、例えば5nm以上且つ20nm以下とする。その後、図2(c)に示すように、絶縁層20の第2SiN膜22を第1SiN膜21上に形成する。このとき、第2SiN膜22の成膜時間を制御することにより、第2SiN膜22の厚さ(T2)を、例えば20nm以上且つ100nm以下とする。このようにして、表面10a上に絶縁層20が形成される。LPCVD法を用いた絶縁層20(第1SiN膜21及び第2SiN膜22)の形成方法の詳細については後述する。
【0032】
続いて、絶縁層20の一部を選択的にエッチングすることにより、絶縁層20にソース開口20a及びドレイン開口20b(図1参照)を形成する。具体的には、絶縁層20上にレジストを塗布し、ソース開口20a及びドレイン開口20bと同一の平面形状を有する開口パターンを該レジストに形成する。そして、絶縁層20のドライエッチングを当該開口パターンを介して行う。本実施形態では、ドライエッチングは、フッ素系ガスを用いたRIEである。
【0033】
フッ素系ガスは、例えば四フッ化メタン(CF)であるが、六フッ化硫黄(SF)であってもよい。フッ素系ガスがCFである場合、フッ素系ガスの流量は例えば50sccm、高周波パワー(RFパワー)は例えば100W、バイアスパワーは例えば10W、反応圧力は例えば0.4Paに設定される。なお、1sccmは、1atm、0℃における1cm/分を表す。絶縁層20のエッチング時間は、絶縁層20の厚さ、及びバイアスパワーに応じて設定される。実際には、そのエッチング時間にオーバーエッチング時間を追加する。オーバーエッチング時間は、計算上のエッチング時間に対して100%以下に設定される。本工程によって、絶縁層20を貫通するソース開口20a及びドレイン開口20bが形成され、各開口20a及び20bから表面10aが露出する。
【0034】
続いて、ソース開口20a内にソース電極31を形成し、ドレイン開口20b内にドレイン電極32を形成する。この工程では、ソース電極31及びドレイン電極32のための金属電極(例えば、Ta層、Al層及びMo層)を、リソグラフィ及びリフトオフを用いて形成する。その後、ソース電極31及びドレイン電極32をオーミック電極とするため、熱処理によってソース電極31及びドレイン電極32のそれぞれを合金化する。この熱処理の温度は、例えば500℃以上且つ600℃以下である。
【0035】
続いて、図3(a)に示すように、開口Raを有するレジストRを絶縁層20上に形成する。レジストRの開口Raは、リソグラフィを用いて、ゲート開口20c(図1参照)が形成される領域上に形成される。その後、レジストRをマスクとするRIEを絶縁層20に行う。このRIEにより、図3(b)に示すように、ゲート開口20cを絶縁層20に形成する。
【0036】
RIEに用いるフッ素系ガスは、例えばCFであるが、SFであってもよい。フッ素系ガスがCFである場合、フッ素系ガスの流量は例えば50sccm、高周波パワーは例えば100W、バイアスパワーは例えば10W、反応圧力は例えば0.4Paに設定される。絶縁層20のエッチング時間は、絶縁層20の厚さ、及びバイアスパワーに応じて設定される。実際には、そのエッチング時間にオーバーエッチング時間を追加する。オーバーエッチング時間は、計算上のエッチング時間に対して100%以下に設定される。本工程によって、絶縁層20を貫通するゲート開口20cが形成され、ゲート開口20cから表面10aが露出する。その後、レジストRを除去する。
【0037】
続いて、図3(c)に示すように、ゲート開口20cを塞ぐゲート電極33を形成する。具体的には、絶縁層20上にレジストを塗布し、リソグラフィにより該レジストの開口をゲート開口20c上に形成する。その後、当該レジストの開口を介して、ゲート開口20c内及びゲート開口20cの周辺に、金属電極を堆積する。金属電極の堆積は、蒸着法によって実施される。その後、当該レジストを除去することにより、当該レジスト上に堆積した金属材料のリフトオフを行う。これにより、ゲート電極33が形成される。
【0038】
続いて、例えばLPCVD法又はプラズマCVD法を用いて第2SiN膜22上に絶縁層25(図1参照)を形成し、この絶縁層25によりゲート電極33を覆う。このとき、原料ガスとしては、例えばモノシラン(SiH)、ジクロロシラン(SiHCl)、及びアンモニア(NH)を用いる。その後、例えばフッ素系ガスを用いたRIEにより絶縁層25に各開口25a及び25bを形成し、各開口25a及び25bから各電極31及び32を露出させる。以上の工程を経て、図1に示すトランジスタ1が作製される。
【0039】
ここで、LPCVD法を用いた絶縁層20の形成方法の詳細について説明する。図4は、LPCVD法を用いた絶縁層20の形成方法の一例を示すフローチャートである。図5(a)は、絶縁層20を形成する際の反応炉内の温度(以下、「炉内温度」という)及び供給ガスの手順を示す図である。図5(b)は、絶縁層20を形成する際の反応炉内の圧力(以下、「炉内圧力」という)を示す図である。図5(a)において、縦軸は、炉内温度(単位:℃)を示しており、横軸は、時間を示している。図5(b)において、縦軸は、炉内圧力(単位:Pa)を示しており、横軸は、時間を示している。
【0040】
まず、窒化物半導体層10を含むウェハを、大気雰囲気にて減圧CVD装置の反応炉内に導入する(工程S1)。このとき、図5(a)に示すように、炉内温度を温度H1に設定する。温度H1は、例えば、室温(25℃)以上且つ600℃以下としてよい。一実施例では、温度H1は600℃である。次に、反応炉内の雰囲気を置換する(工程S2)。具体的には、反応炉内の真空引きと窒素(N)の導入とを繰り返し行うことにより(サイクルパージ)、反応炉内の雰囲気を窒素雰囲気に置換する。このとき、図5(b)に示すように、炉内圧力を大気圧力P1から圧力P2に減圧する。圧力P2は、例えば20Pa以下としてよい。一実施例では、圧力P2は20Paである。
【0041】
続いて、炉内圧力を圧力P2に維持しつつ、図5(a)に示すように炉内温度を温度H1から温度H2に昇温する(工程S3)。温度H2は、例えば800℃以上としてよい。一実施例では、温度H2は800℃である。続いて、炉内温度を温度H2に安定させた後(工程S4)、反応炉内の雰囲気を窒素からアンモニアに置換する(工程S5)。具体的には、反応炉内の真空引きとアンモニアの導入とを繰り返し行うことにより、反応炉内の雰囲気を窒素雰囲気からアンモニア雰囲気に置換する。
【0042】
続いて、シリコン(Si)及び塩素を含む化合物ガスとアンモニアとを含む原料ガスを反応炉内に供給する。化合物ガスは、例えば、ジクロロシラン(SiHCl)である。しかし、化合物ガスは、Si及びClを含んでいればよく、ジクロロシラン以外のガスであってもよい。本実施形態では、ジクロロシラン及びアンモニアを含む原料ガスを用いたLPCVD法により、絶縁層20を形成する。具体的には、当該原料ガスを用いて絶縁層20の第1SiN膜21を表面10a上に形成した後(工程S6)、引き続き当該原料ガスを用いて絶縁層20の第2SiN膜22を第1SiN膜21上に形成する(工程S7)。
【0043】
各工程S6及びS7では、ジクロロシランの流量(F1)及びアンモニアの流量(F2)の合計(F1+F2)に占めるジクロロシランの流量(F1)の割合[F1/(F1+F2)]を調整する。図6は、絶縁層20を形成する際の割合[F1/(F1+F2)]を示している。工程S6における割合[F1/(F1+F2)]を割合R1と表し、工程S7における割合[F1/(F1+F2)]を割合R2と表している。図6において、工程S6及びS7の前後の工程では、ジクロロシランが供給されないので、割合[F1/(F1+F2)]は0となる。
【0044】
工程S6では、ジクロロシラン及びアンモニアが供給されるので、割合R1は、0よりも大きい値となる。本実施形態では、割合R1は、1/5以上且つ10/11以下である。割合R1が1/5以上且つ10/11以下であるとき、ジクロロシランの流量(F1)とアンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)は1/4以上且つ10以下である。工程S6では、ジクロロシランの流量(F1)は例えば50sccm以上且つ150sccm以下であり、アンモニアの流量(F2)は例えば10sccm以上且つ50sccm以下である。
【0045】
一方、工程S7では、割合R2は、0よりも大きく且つ割合R1よりも小さい値となる。本実施形態では、割合R2は、0よりも大きく且つ1/11以下である。割合R2が0よりも大きく且つ1/11以下であるとき、流量比(F1/F2)は0よりも大きく且つ1/10以下である。工程S7では、ジクロロシランの流量(F1)は例えば10sccm以上且つ100sccm以下であってもよく、アンモニアの流量(F2)は例えば100sccm以上且つ500sccm以下であってもよい。
【0046】
このように、各工程S6及びS7において割合[F1/(F1+F2)]をそれぞれ調整する。この調整によって、各SiN膜21及び22の塩素濃度を調整することができる。図7は、割合[F1/(F1+F2)]と塩素濃度との関係を示す図である。図7において、横軸は、割合[F1/(F1+F2)]を対数表示で示しており、縦軸は、SiN膜の塩素濃度(単位:atoms/cm)を示している。
【0047】
図7に示すように、割合[F1/(F1+F2)]が大きくなると、これに応じて塩素濃度が大きくなる。割合R1の範囲では、塩素を含むジクロロシランの流量(F1)を多くすることで、原料ガスに含まれる塩素量を多くすることができる。原料ガスに含まれる塩素量が多くなると、第1SiN膜21に取り込まれる塩素量が多くなり、第1SiN膜21の塩素濃度が高くなる。従って、工程S6では、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21が形成される。
【0048】
一方、割合R2の範囲では、塩素を含むジクロロシランの流量(F1)を少なくすることで、原料ガスに含まれる塩素量を少なくすることができる。原料ガスに含まれる塩素量が少なくなると、第2SiN膜22に取り込まれる塩素量が少なくなるので、第2SiN膜22の塩素濃度が低くなる。従って、工程S7では、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22が形成される。なお、工程S7では、塩素を含まない原料ガスを用いて第2SiN膜22を形成してもよい。例えば、原料ガスは、ジクロロシランに代えて、モノシランを含んでもよく、その場合、割合R2は任意の原料比を選択できる。
【0049】
このように、原料ガスにおける割合[F1/(F1+F2)]を制御することによって、各SiN膜21及び22の塩素濃度を調整することができる。各SiN膜21及び22の塩素濃度が変化すると、各SiN膜21及び22に含まれる不純物としての塩素量が変化し、各SiN膜21及び22の屈折率が変化する。割合R1にて形成される第1SiN膜21の屈折率は、例えば2.3以上且つ2.4以下となる。一方、割合R2にて形成される第2SiN膜22の屈折率は、例えば2.2以下となる。なお、これらの屈折率は、632nmの波長に対する屈折率を示している。
【0050】
Siを含むジクロロシランの流量が、Nを含むアンモニアの流量に対して多くなると、原料ガスにおいてSiの量がNの量に対して多くなる。この場合、割合R1にて形成される第1SiN膜21のNの量が不足する懸念がある。しかし、上記の波長に対するSiの屈折率は3.4程度であるのに対し、第1SiN膜21の屈折率は、実際に作製したところ、2.4以下であった。この屈折率の大きさから、第1SiN膜21のNの量が充足している(Si膜ではなくSiN膜となっている)ことが分かる。同様に、割合R2にて形成される第2SiN膜22も、Si膜ではなくSiN膜として形成される。
【0051】
各SiN膜21及び22を形成した後、図5(a)に示すように、反応炉内を窒素雰囲気に置換する(工程S8)。工程S8では、窒素ガスによるサイクルパージを行い、ジクロロシランが分解して生成された塩素ガスを検出限界まで希釈する。このとき、炉内温度を温度H2から温度H1に降温する。その後、炉内圧力を圧力P2から大気圧力P1に戻し、反応炉からウェハを取り出す(工程S9)。以上の工程により、窒化物半導体層10の表面10a上に絶縁層20が形成される。
【0052】
以上に説明した本実施形態に係るトランジスタ1及びトランジスタ1の製造方法によって得られる効果について、従来の課題とともに説明する。窒化物半導体を用いたトランジスタを製造する際、窒化物半導体層の表面上に絶縁層を形成し、ゲート電極を形成するためのゲート開口を絶縁層に形成することがある。ゲート開口は、例えば、高い異方性を有するRIEによって形成される。このRIEは、エッチングガスのプラズマに対してバイアス電圧を積層方向に印加することによって、実施される。
【0053】
このRIEを用いて絶縁層にゲート開口を形成する場合、エッチングガスのプラズマが、バイアス電圧による加速によって高いエネルギー状態で窒化物半導体層の表面に衝突するので、当該表面の平坦性が損なわれてしまう。当該表面の平坦性が損なわれると、当該表面上のゲート電極との間に形成されるショットキ障壁が理想とは異なる状態となる。これにより、リーク電流が増大する。その結果、トランジスタの動作時の消費電力が増大し得る。従って、このようなトランジスタのリーク電流の増加を抑制するためには、ゲート開口から露出する当該表面が、原子層ステップを視認可能な程度に高い平坦性を有していることが望ましい。
【0054】
また、ゲート開口の形成に化学エッチングを用いることも考えられる。化学エッチングとして、例えばHF溶液を用いた液相エッチング、又は、腐食性ガス(例えば塩素系ガス)を用いた気相エッチングが考えられる。このような化学エッチングによれば、窒化物半導体層の表面を原子レベルで平坦にすることができる。しかし、ゲート開口の開口幅はサブミクロンの寸法精度が求められるので、等方性エッチングである液相エッチングを用いてその開口幅の寸法精度を実現することは困難である。また、気相エッチングでは、窒化物半導体層の最外層(例えばGaN層)に対して、腐食性ガスによるエッチングのレートが速いので、エッチング深さ、すなわちゲート開口の深さを精度良く制御することが困難である。
【0055】
上記課題に対し、本実施形態に係るトランジスタ1では、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21が表面10a上に設けられており、第1SiN膜21を含む絶縁層20を貫通するゲート開口20cがRIEにより形成される。1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21にエッチングが達すると、第1SiN膜21から微量の塩素がゲート開口20c内に放出される。放出された塩素は、ゲート開口20cから露出する表面10aと化学反応を起こし、表面10aに対して塩素による化学エッチングが進行する。
【0056】
窒化物半導体層10の最外層のキャップ層13がGaN層である場合、上記の化学反応は、下記の化学反応式(1)又は(2)で表される。
2GaN+2Cl→2GaCl+N (1)
2GaN+6Cl→2GaCl+N (2)
この化学反応は、表面10aにおける構造的に不安定な部分、すなわち、表面10aの荒れた部分(凹凸部分)にて優先的に起こる。この化学反応が表面10aに作用することによって、表面10aを原子レベルで平坦にすることができる。このように、絶縁層20にゲート開口20cを形成するRIEと並行して、ゲート開口20cから露出する表面10aに対して化学エッチングが進行することによって、RIEによって生じる表面10aの平坦性の低下を、化学エッチングによって抑制することができる。また、第1SiN膜21から放出される塩素はSiN膜のエッチングには寄与しないので、ゲート開口20cの開口幅及び深さの寸法精度の低下には影響を与えない。
【0057】
図8(a)は、本実施形態に係るトランジスタ1において、RIEにより絶縁層20にゲート開口20cを形成した後、AFM(原子間力顕微鏡)により得られた窒化物半導体層10の表面10aの画像である。一方、図8(b)は、従来のトランジスタにおいて、RIEにより絶縁層にゲート開口を形成した後、AFMにより得られた窒化物半導体層の表面100aの画像である。従来のトランジスタでは、本実施形態に係るトランジスタ1とは異なり、絶縁層が、SIMS法による濃度測定の検出限界値以下である1×1015[atoms/cm]以下の塩素濃度を有するSiN膜のみから構成されている。
【0058】
図8(a)及び図8(b)に示すように、本実施形態に係るトランジスタ1における表面10aは、従来のトランジスタにおける表面100aと比べて、殆ど荒れていないことが分かる。トランジスタ1における表面10aでは、複数のテラスとそれらを結ぶ原子層ステップとによって形成されるステップいわゆるテラス構造が確認された。図8(a)及び図8(b)に示す各表面の粗さを表す二乗平均平方根粗さ(RMS:Root Mean Square)値を測定すると、図8(a)に示す表面10aのRMS値は0.215nmとなり、図8(b)に示す表面100aのRMS値は0.425nmとなった。このように、本実施形態に係るトランジスタ1によれば、図8(a)に示すような殆ど荒れていない表面10aを得ることができ、表面10aのRMS値を0.3nm以下に収めることができる。
【0059】
このように表面10aの平坦性を確保することで、表面10a上のゲート電極33との間に形成されるショットキ障壁を理想の状態に近づけることができる。これにより、リーク電流の増大を抑制することができる。本発明者は、図8(a)に示す本実施形態に係るトランジスタ1を用いた場合、図8(b)に示す従来のトランジスタを用いた場合と比べてリーク電流が二桁減少することを確認した。このように、本実施形態に係るトランジスタ1によれば、リーク電流の増大を抑制することができる。これにより、トランジスタ1の動作時の消費電力の増大を抑制できる。
【0060】
また、絶縁層20は、第1SiN膜21上に設けられた第2SiN膜22を含み、第2SiN膜22は、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有している。このように、絶縁層20が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22を含むことにより、不純物としての塩素が絶縁層20に過剰に含まれる事態を抑制できる。これにより、絶縁層20の絶縁性の低下を抑制でき、絶縁層20を介したリーク電流の増大を抑制できる。
【0061】
また、本実施形態のように、第1SiN膜21は、第2SiN膜22より、窒化物半導体層10の表面10a近くに位置してもよい。この場合、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22に対して表面10a側に位置する。これにより、第1SiN膜21から放出される塩素をより確実に表面10aに作用させることができ、表面10aの平坦性の低下を抑制するという上述した効果を維持できる。
【0062】
本実施形態に係るトランジスタ1では、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21が窒化物半導体層10の表面10aに形成される例を示した。しかし、上述のとおり、第1SiN膜21から放出される塩素を窒化物半導体層10の表面10aに作用させることが出来るのであれば、第1SiN膜21と窒化物半導体層10との間に、第1SiN膜21よりも塩素濃度の低い第3SiN膜が形成される構造であっても、同様な効果は期待できる。
【0063】
また、本実施形態のように、第2SiN膜22の厚さ(T2)と第1SiN膜21の厚さ(T1)との比(T2/T1)は、1以上且つ5以下であってもよい。この場合、絶縁層20において第2SiN膜22が占める割合を大きくすることができるので、不純物としての塩素が絶縁層20に過剰に含まれる事態を更に抑制できる。これにより、絶縁層20の絶縁性の低下を更に抑制でき、絶縁層20を介したリーク電流の増大を更に抑制できる。
【0064】
また、本実施形態のように、第1SiN膜21の屈折率は、2.3以上且つ2.4以下であり、第2SiN膜22の屈折率は、2.2以下であってもよい。SiN膜の屈折率は、SiN膜の塩素濃度の変化に応じて変化する。第1SiN膜21の屈折率が2.3以上且つ2.4以下であるとき、第1SiN膜21は1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する。一方、第2SiN膜22の屈折率が2.2以下であるとき、第2SiN膜22は1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する。この構成によれば、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22が、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21上に設けられる構成を実現できる。よって、上述した効果と同様の効果が得られる。
【0065】
本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法では、第1SiN膜21を形成する際、化合物ガスの流量(F1)とアンモニアの流量(F2)との流量比(F1/F2)を1/4以上且つ10以下としている。塩素を含むジクロロシランの流量(F1)を多くすることで、原料ガスに含まれる塩素量を多くすることができる。これにより、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21を形成することができる。この第1SiN膜21を表面10a上に形成することにより、上述したように表面10aの平坦性の低下を抑制できる。その結果、リーク電流の増大を抑制でき、トランジスタ1の消費電力を抑制できる。
【0066】
また、第1SiN膜21を表面10a上に形成した後に第1SiN膜21上に第2SiN膜22を形成する際、流量比(F1/F2)を1/10以下としている。このように、塩素を含むジクロロシランの流量(F1)を少なくすることで、原料ガスに含まれる塩素量を少なくすることができる。これにより、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22を形成することができる。1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22を絶縁層20が含むことにより、不純物としての塩素が絶縁層20に過剰に含まれる事態を抑制できる。これにより、絶縁層20の絶縁性の低下を抑制でき、絶縁層20を介したリーク電流の増大を抑制できる。また、第2SiN膜22が第1SiN膜21上に形成されるので、1×1020[atoms/cm]以上の塩素濃度を有する第1SiN膜21が、1×1019[atoms/cm]以下の塩素濃度を有する第2SiN膜22に対して窒化物半導体層10の表面10a側に位置する。これにより、第1SiN膜21から放出される塩素をより確実に表面10aに作用させることができ、表面10aの平坦性の低下を抑制するという上述した効果を維持できる。
【0067】
また、本実施形態のように、絶縁層20を表面10a上に形成する工程では、第2SiN膜22の厚さ(T2)と第1SiN膜21の厚さ(T1)との比(T2/T1)を1以上且つ5以下としてもよい。この場合、絶縁層20において第2SiN膜22が占める割合を大きくすることができるので、不純物としての塩素が絶縁層20に過剰に含まれる事態を更に抑制できる。これにより、絶縁層20の絶縁性の低下を更に抑制でき、絶縁層20を介したリーク電流の増大を更に抑制できる。
【0068】
また、本実施形態のように、ゲート開口20cを絶縁層20に形成する工程では、フッ素系ガスをSF又はCFとしてもよい。この場合、絶縁層20にゲート開口20cを好適に形成することができる。
【0069】
本開示による半導体装置及び半導体装置の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、絶縁層25は、第1SiN膜21及び第2SiN膜22を含んでいる。しかし、絶縁層は、第1SiN膜のみを含んでいてもよい。この場合、第1SiN膜が絶縁層の全体を構成してもよい。また、絶縁層は、第1SiN膜及び第2SiN膜に加えて、他のSiN膜を含んでいてもよい。
【0070】
また、第1SiN膜は、窒化物半導体層の表面に接していなくてもよく、当該表面から離間していてもよい。この場合、第1SiN膜は、他の膜を介して当該表面上に設けられていてもよい。同様に、第2SiN膜は、第1SiN膜に接していなくてもよく、第1SiN膜から離間していてもよい。この場合、第2SiN膜は、他の膜を介して第1SiN膜上に設けられていてもよい。また、第2SiN膜は、塩素を含まない膜であってもよい。また、上述した実施形態では、HEMTに本開示を適用した例を示している。しかし、本開示は、HEMT以外のトランジスタに適用されてもよく、トランジスタ以外の半導体装置(特に、窒化物半導体装置)に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…トランジスタ(半導体装置)、2…基板、10…窒化物半導体層、10a…表面、11…チャネル層、12…バリア層、13…キャップ層、20…絶縁層、20a,25a…ソース開口、20b,25b…ドレイン開口、20c…ゲート開口、21…第1SiN膜、22…第2SiN膜、25…絶縁層、31…ソース電極、32…ドレイン電極、33…ゲート電極(金属電極)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8