(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】電池の充電状態推定装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230808BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H02J7/00 M
(21)【出願番号】P 2020022364
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】栗田 大
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072677(JP,A)
【文献】特開2015-153696(JP,A)
【文献】特開2019-144039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の二次電池を積層して配置し前記複数個の二次電池を電気的に接続した電池における充放電電流を検出する電流センサと、
前記電流センサで検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態を推定する充電状態推定手段と、
前記複数個の二次電池における積層方向での膨張収縮状態を検出する膨張収縮状態検出手段と、
前記膨張収縮状態検出手段による前記膨張収縮状態の変化に基づいて前記充電状態推定手段による電池の充電状態を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする電池の充電状態推定装置。
【請求項2】
前記複数個の二次電池は、一対の端板間に挟持されており、
前記膨張収縮状態検出手段は、前記一対の端板を繋ぐ連結部材に加わる歪みを検出する歪みゲージである
ことを特徴とする請求項1に記載の電池の充電状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の充電状態推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電流センサで検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態を推定することが行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、
図7に示すごとく横軸に時間をとり、縦軸にSOC(充電率:state of charge)をとった場合に、L10で示す充放電電流を積分することにより推定したSOCは、例えば高稼働かつ満充電を待たずに充電を繰り返すと(継ぎ足し充電を繰り返し使用する場合)、L11で示す真のSOCと、L10で示す推定したSOCとの差ΔL10が大きくなっていく。つまり、電流センサの電流測定誤差がそのままSOCの誤差ΔL10となり、時間の経過に伴ったSOCの誤差ΔL10も大きくなっていく。
【0005】
本発明の目的は、充電状態を誤差が少なく推定することができる電池の充電状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための電池の充電状態推定装置は、複数個の二次電池を積層して配置し前記複数個の二次電池を電気的に接続した電池における充放電電流を検出する電流センサと、前記電流センサで検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態を推定する充電状態推定手段と、前記複数個の二次電池における積層方向での膨張収縮状態を検出する膨張収縮状態検出手段と、前記膨張収縮状態検出手段による前記膨張収縮状態の変化に基づいて前記充電状態推定手段による電池の充電状態を補正する補正手段と、を備えることを要旨とする。
【0007】
これによれば、複数個の二次電池が積層して配置され、複数個の二次電池を電気的に接続した電池における充放電電流が電流センサにより算出され、充電状態推定手段により、電流センサで検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態が推定される。膨張収縮状態検出手段により、複数個の二次電池における積層方向での膨張収縮状態が検出されて、補正手段により、膨張収縮状態の変化に基づいて充電状態推定手段による電池の充電状態が補正される。よって、充電状態を誤差が少なく推定することができる。
【0008】
また、電池の充電状態推定装置において、前記複数個の二次電池は、一対の端板間に挟持されており、前記膨張収縮状態検出手段は、前記一対の端板を繋ぐ連結部材に加わる歪みを検出する歪みゲージであるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充電状態を誤差が少なく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における電池システムの電気的構成図。
【
図2】(a)は電池パックの平面図、(b)は電池パックの正面図、(c)は電池パックの右側面図。
【
図6】実施形態におけるSOCの推移を示すタイムチャート。
【
図7】課題を説明するためのSOCの推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す電池システム9においては、電池パック10と、複数の負荷20,21と、マイコン31とを備える。本電池システム9は電動式フォークリフトに設けられ、電池パック10により走行モータ等を駆動することができる。
【0012】
電池パック10は、
図2(a),(b),(c)に示すように、複数個の電池セル11を積層して配置し、複数個の電池セル11を電気的に接続して構成されている。電池パック10(電池セル11)としてリチウムイオン二次電池を用いることができる。
【0013】
詳しくは、二次電池である電池セル11は、
図3に示すように、本体部12と、正負の電極13を有する。
本体部12は、箱形をなし、
図2(a)に示す平面視において長方形の上面及び下面を有し、
図2(b)に示す正面視において長方形の正面及び背面を有し、
図2(c)に示す側面視において長方形の左右の側面を有する。本体部12の上面において、正負の電極13が離間して配置されている。各電池セル11の本体部12は電池の充放電に伴い膨張収縮する。
【0014】
電池セル11は複数重ね合わせて配置され、複数の電池セル11は、隣接する電池セル11同士の電極13が導電体により電気的な結線状態として直列接続されている。
積層して配置される複数個の電池セル11は、積層方向において端板14,15に挟み込まれている。端板14,15は、
図2(b)に示すように、正面視において長方形状をなし、電池セル11の本体部12よりも大きな寸法を有する。長方形状の端板14,15における四隅にはそれぞれ通しボルト16が設けられている。通しボルト16は、ナット17とともに用いられる。通しボルト16が端板14,15を貫通している。通しボルト16の頭部16aが端板15の外側面に位置し、ナット17が端板14の外側面において通しボルト16のねじ部16bに螺入されている。
【0015】
通しボルト16により端板14と端板15との間の距離が一定に保持された状態で端板14と端板15との間に、積層された複数の電池セル11が圧縮固定された状態で挟持されている。
【0016】
図1に示すように、電池パック10の負極は接地され、正極に負荷20、負荷21等が並列接続されている。そして、電池パック10から負荷20、負荷21等に電力が供給される。
【0017】
図1に示すように、充電ステーションにおいて電池パック10の正極に対し充電器25を接続することができる。そして、フォークリフトを充電ステーションまで走行し、フォークリフトに搭載した電池パック10を充電器25を用いて充電することができる。
【0018】
図1に示すように、フォークリフトにはマイコン31、メモリ32、歪みゲージ33、SOC表示器34、電流センサ35が搭載されている。マイコン31にメモリ32、歪みゲージ33、SOC表示器34、電流センサ35が接続されている。
【0019】
本実施形態では、マイコン31と歪みゲージ33と電流センサ35により電池の充電状態推定装置30が構成されており、電流センサ35及び歪みゲージ33を用いてマイコン31で電池の充電状態としてのSOCを推定してメモリ32に保存するとともにSOC表示器34に表示するようになっている。
【0020】
電流センサ35により、複数個の電池セル11を積層して配置し複数個の電池セル11を電気的に接続した電池における充放電電流を検出することができる。
マイコン31により、電流センサ35で検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態であるSOCを推定することができる。
【0021】
歪みゲージ33は、
図2(a),(c)に示すように、通しボルト16に貼り付けられており、一対の端板14,15間において一定の距離を保持する通しボルト16に加わる歪みを検出する。これにより、複数個の電池セル11における積層方向での膨張収縮状態、即ち、膨張収縮量を検出するが可能となる。具体的には、マイコン31は、歪みゲージ33から、電池セルの体積膨張に伴う通しボルト16の伸縮量を検出する。詳しくは、歪みゲージ33で検出した通しボルト16に加わる歪み量に対応する応力を取り込むことができる。
【0022】
マイコン31により、膨張収縮状態の変化に基づいて電池の充電状態であるSOCを補正することができるようになっている。
図4は、電池セルの電池体積に関する特性を示しており、横軸にSOCをとり、縦軸に電池体積をとっている。この
図4において、特性線L20として、SOCが55%よりも小さいと電池体積が一定であり、SOCが55%よりも大きいと電池体積が徐々に大きくなる。つまり、電池セル11の充放電に伴い膨張収縮し、その度合いである電池体積はSOCに対応しており、SOCが55%付近において電池体積の傾きが急変する。
【0023】
次に、作用について説明する。
マイコン31は、電流センサ35で検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態を推定する。具体的には、次の式(1)にてSOCを推定する。Xは電池システム9のキーオンによる起動時のSOC(残量SOC)であり、Yは電池の全容量であり、Iは検出した充放電電流であり、tは時間である。
【0024】
【数1】
・・・(1)
マイコン31は、
図5に示すSOCリセット処理ルーチンを実行する。この処理ルーチンは一定時間ごとに起動される。
【0025】
図6は、SOCの推移を示す。
図6において横軸に時間をとり、縦軸にSOCをとっている。
図6において、L1で本実施形態における推定したSOCを示す。また、
図6において、L11で真のSOCを示す。さらに、
図6において、L10で従来方式における推定したSOC(
図7のL10と同じもの)を示す。
【0026】
図6においてL1,L10で示すように高稼働かつ満充電(SOC=100%)を待たずに充電が繰り返される。即ち、継ぎ足し充電が繰り返し使用される。その結果、SOCが100%未満かつ例えば10%以上の範囲で、充放電が繰り返されることになる。その結果、電流センサ35の電流測定誤差がそのままSOCの誤差ΔL10(
図7参照)に反映される。つまり、
図7において、L11で示す真のSOCとL10で示す従来のSOCとの差ΔL10が時間の経過とともに大きくなっていく。
【0027】
マイコン31は、
図5のステップS100において歪みゲージ33から、通しボルト16に加わる歪み量に対応する応力を取り込む。そして、マイコン31は、ステップS101において、通しボルト16に加わる歪み量に対応する応力の傾きが急変したか否か判定する。
【0028】
図4において充電時のSOCが上昇する方向においてSOCが0~55%付近までは電池体積(歪み)に変化がない。つまり、傾きがほぼゼロであり、傾きは急変していない。同様に、
図4において放電時のSOCが下降する方向においてSOCが100~55%付近までは電池体積(歪み)の変化量はほぼ一定である。つまり、SOC55%以上では単調増加であって、傾きはほぼ同じままであり、傾きは急変していない。
図4において電池体積(歪み)の変化である傾きが急変するのはSOCが55%付近のときである。したがって、
図5のステップS101では歪み量に対応する応力の傾きが急変したか否かを判定している。
【0029】
図5においてマイコン31は、歪み量に対応する応力の傾きの急変を検出すると、ステップS102においてSOCを55%に上書きすることにより補正する。
図6で説明すると、放電時にSOCが下降する方向で変化する場合には、
図6のt1のタイミングでSOCを55%に強制的に上書きする。同様に、
図6のt3のタイミングでSOCを55%に強制的に上書きする。
【0030】
また、充電時にSOCが上昇する方向で変化する場合には、
図6のt2のタイミングでSOCを55%に強制的に上書きする。同様に、
図6のt4のタイミングでSOCを55%に強制的に上書きする。
【0031】
なお、
図5においてステップS101からステップS102に移行する際に、ステップS101において歪み量に対応する応力の傾きが急変したことが複数回連続するとステップS102に移行してSOCを55%に上書きするようにしてもよい。
【0032】
このように、電池パックは本実施形態では、充放電に伴い膨張・収縮する電池である。加えて、
図4に示すように、横軸にSOC、縦軸に電池体積としてグラフ化したときに体積膨張・収縮の傾きが急変する箇所が一点以上ある電池である。
【0033】
そして、制御の際に、電池の体積が急変するSOCを予め求めておき、体積急変を検出したらSOCリセットを実行する。具体的には、
図4の特性を持つ電池では、体積急変を検出したらSOCを55%に上書きする。
【0034】
上述したように、電池セル11を複数枚重ね合わせ、端板14,15で挟み込み、通しボルト16で圧縮固定する。通しボルト16には歪みゲージ33が取り付けられ、電池セル11の体積膨張に伴う通しボルト16の伸縮量を検出する。電池体積とSOCとの関係から歪みゲージ33で検出した通しボルト16にかかる応力とSOCとの関係性を予め求めておく。
【0035】
従来、電流センサで検出した電流値を時間で積分(積算)しSOCの変動を算出するが、この方法のみでSOCを算出すると電流センサの検出誤差がそのままSOC誤差となる。また、時間が経過するほどSOC誤差が広がっていく。そこで、所定の充電シーケンスが完了したときにSOCを100%に上書きする方法やしばらく充放電せずに分極が落ち着いたタイミングでSOC-OCV曲線からSOCを上書きする方法を用いて電流センサ誤差によるSOC誤差をリセットする方法が取られる。
【0036】
本実施形態では、所定の条件を満たしたときにSOCを上書きするSOCリセットを行う。
利用者(例えばフォークリフトの乗員)が高稼働かつ満充電を待たずに継ぎ足し充電を繰り返し使用するような場合、SOCリセットされず、電流センサ誤差が蓄積されSOC誤差が大きくなり続ける。また、SOC-OCV曲線からSOCを上書きする方法の場合、例えば常時車両走行する場合、電池を連続使用することとなり、電池を分極するタイミングがなくSOCの上書きができずに、電流センサ誤差が蓄積されSOC誤差が大きくなり続ける。
【0037】
本実施形態では、SOCをリセットする機会を増やすことで、高稼働かつ継ぎ足し充電のような使い方でもSOCのリセットがされやすいようにし、電流センサ誤差が蓄積し続けることを抑制することができる。
【0038】
つまり、従来のSOCリセット(完全充電時、分極落着き時)ができない状況でも、複雑な制御なしにSOCリセットが可能となる。また、電池パック1つにつき1つの歪みゲージ33を追加するだけの構成で電池の充電状態を真のSOCに近づけて推定することができる。
【0039】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)電池の充電状態推定装置30の構成として、複数個の二次電池としての電池セル11を積層して配置し複数個の電池セル11を電気的に接続した電池における充放電電流を検出する電流センサ35と、マイコン31と、複数個の電池セル11における積層方向での膨張収縮状態を検出する膨張収縮状態検出手段としての歪みゲージ33と、を備える。充電状態推定手段としてのマイコン31は、電流センサ35で検出した充放電電流を積分することにより電池の充電状態としてのSOCを推定する。補正手段としてのマイコン31は、歪みゲージ33による膨張収縮状態の変化に基づいて電池のSOCを補正する。よって、膨張収縮状態の変化に基づいて電池のSOCが補正され、SOCを誤差が少なく推定することができる。
【0040】
(2)複数個の電池セル11は、一対の端板14,15間に挟持されており、膨張収縮状態検出手段は、一対の端板14,15を繋ぐ連結部材としての通しボルト16に加わる歪みを検出する歪みゲージ33である。よって、容易に、積層して配置した複数個の電池セル11における積層方向での膨張収縮状態を検出することができる。
【0041】
特に、電池体積の傾きが急変するところでSOCを上書きする方式を採用することにより、
図4の特性線が電池の劣化によりシフトする場合にも正確にSOCを上書き(補正)することができる。よって、電池の劣化の影響を受けにくくすることができる。
【0042】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
〇
図4ではSOCの変化に対し電池体積が急変する箇所は1箇所だけであったが、これに限らず電池体積が急変する箇所が複数あってもよく、傾きが急変する各箇所でSOCをリセットするようにしてもよい。
【0043】
○ 電池システムは電動式フォークリフトに設けられ、電池パック10により走行モータ等を駆動する場合に適用したが、他にも、例えば電動乗用車に設けられ、電池パックにより走行モータ等を駆動する場合に適用してもよい。特に、ハイブリッド車における電池はSOCが100%未満かつ所定SOC以上の範囲で充放電を繰り返しており、上述した高稼働かつ満充電を待たずに継ぎ足し充電を繰り返し使用する場合と同様な課題があるが、この場合において、電池の膨張収縮状態の変化に基づいて電池の充電状態を補正することにより、充電状態を誤差が少なく推定することができる。
【0044】
〇 電池システムは電動式車両に限るものではない。
○ 二次電池はリチウムイオン二次電池以外でもよく、二次電池の種類は問わない。
〇 SOCの上書きは、
図5に示した処理以外のやり方でもよく、
図4の関係が予め分かっている場合に電池体積の傾きが急変する点でSOCを上書き(補正)すればよい。
【0045】
〇 電池の充電状態として、上述した実施形態では満充電状態を基準に電池の残量の比率を表した状態変数であるSOC(充電率:state of charge)を用いたが、これに代わり、例えば、電池の充電状態として、放電深度DOD(depth of discharge:1-SOC)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…電池パック、11…電池セル(二次電池)、14…端板、15…端板、16…通しボルト(連結部材)、30…電池の充電状態推定装置、31…マイコン(充電状態推定手段、補正手段)、33…歪みゲージ(膨張収縮状態検出手段)、35…電流センサ。