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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】液冷ジャケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 310
B23K20/12 344
B23K20/12 330
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020055678
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021154317
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-155415(JP,A)
【文献】特開2010-36230(JP,A)
【文献】特開2016-80385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、
前記本接合工程において、回転する前記攪拌ピンを前記設定移動ルートよりもさらに内側に設定した開始位置に挿入した後、前記回転ツールの回転中心軸線を前記設定移動ルートと重複する位置まで移動させつつ所定の深さとなるまで前記攪拌ピンを徐々に押入することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項2】
前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、
前記本接合工程において前記攪拌ピンを挿入するとき、前記所定の回転速度よりも高い速度で前記攪拌ピンを回転させた状態で挿入し、徐々に回転速度を下げながら前記設定移動ルートまで移動させることを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項3】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、
前記本接合工程において、前記設定移動ルート上に設定した開始位置から前記攪拌ピンを挿入し、進行方向に移動させつつ所定の深さとなるまで徐々に前記攪拌ピンを押入することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、
前記本接合工程において前記攪拌ピンを挿入するとき、前記所定の回転速度よりも高い速度で前記攪拌ピンを回転させた状態で挿入し、徐々に回転速度を下げながら前記設定移動ルートまで移動させることを特徴とする請求項3に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、
前記本接合工程において、前記設定移動ルートよりもさらに内側に終了位置を設定し、前記第一突合せ部に対する摩擦攪拌接合の後、前記回転ツールを前記終了位置に移動させつつ前記攪拌ピンを前記封止体から徐々に引き抜いて前記終了位置で前記封止体から前記回転ツールを離脱させることを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、
前記本接合工程において前記攪拌ピンを離脱させるとき、前記所定の回転速度よりも徐々に回転速度を上げながら前記終了位置まで移動させることを特徴とする請求項5に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項7】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、
前記本接合工程において、前記設定移動ルート上に終了位置を設定し、前記第一突合せ部に対する摩擦攪拌接合の後、前記回転ツールを前記終了位置に移動させつつ前記攪拌ピンを前記封止体から徐々に引き抜いて前記終了位置で前記封止体から前記回転ツールを離脱させることを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項8】
前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、
前記本接合工程において前記攪拌ピンを離脱させるとき、前記所定の回転速度よりも徐々に回転速度を上げながら前記終了位置まで移動させることを特徴とする請求項7に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合を利用した液冷ジャケットの製造方法が行われている。例えば、特許文献1には、液冷ジャケットの製造方法が開示されている。図13は、従来の液冷ジャケットの製造方法を示す断面図である。従来の液冷ジャケットの製造方法では、アルミニウム合金製のジャケット本体101の段差部に設けられた段差側面101cと、アルミニウム合金製の封止体102の側面102cとを突き合わせて形成された突合せ部J10に対して摩擦攪拌接合を行うというものである。また、従来の液冷ジャケットの製造方法では、回転ツールFDの攪拌ピンFD2のみを突合せ部J10に挿入して摩擦攪拌接合を行っている。また、従来の液冷ジャケットの製造方法では、回転ツールFDの回転中心軸線XAを突合せ部J10に重ねて相対移動させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-131321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ジャケット本体101は複雑な形状となりやすく、例えば、4000系アルミニウム合金の鋳造材で形成し、封止体102のように比較的単純な形状のものは、1000系アルミニウム合金の展伸材で形成するというような場合がある。このように、アルミニウム合金の材種の異なる部材同士を接合して、液冷ジャケットを製造する場合がある。このような場合は、ジャケット本体101の方が封止体102よりも硬度が高くなることが一般的であるため、図13のように摩擦攪拌接合を行うと、攪拌ピンFD2が封止体102側から受ける材料抵抗に比べて、ジャケット本体101側から受ける材料抵抗が大きくなる。そのため、回転ツールFDの攪拌ピンによって異なる材種をバランスよく攪拌することが困難となり、接合後の塑性化領域に空洞欠陥が発生し接合強度が低下するという問題がある。
【0005】
また、液冷ジャケットが完成した後に、例えば、超音波探傷検査を行うことにより液冷ジャケットの品質管理を行う場合ある。このとき、超音波探傷検査による接合不良の有無は把握することができるが、回転ツールがどの位置を通過したか把握することができないという問題がある。また、液冷ジャケットの接合強度のさらなる向上が望まれている。
【0006】
また、攪拌ピンFD2を突合せ部J10から離脱させる際、鉛直方向に攪拌ピンFD2を移動させるため、摩擦攪拌の開始位置における摩擦熱が過大となる。これにより、当該開始位置において、ジャケット本体101側の金属が封止体102側に混入しやすくなり、接合不良の一因となるという問題がある。
【0007】
また、攪拌ピンFD2を突合せ部J10から離脱させる際、鉛直方向に攪拌ピンFD2を移動させるため、摩擦攪拌の終了位置における摩擦熱が過大となる。これにより、当該終了位置において、ジャケット本体101側の金属が封止体102側に混入しやすくなり、接合不良の一因となるという問題がある。
【0008】
このような観点から、本発明は、材種の異なるアルミニウム合金を好適に接合することができるとともに、回転ツールの通過位置を把握することができる液冷ジャケットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、前記本接合工程において、回転する前記攪拌ピンを前記設定移動ルートよりもさらに内側に設定した開始位置に挿入した後、前記回転ツールの回転中心軸線を前記設定移動ルートと重複する位置まで移動させつつ所定の深さとなるまで前記攪拌ピンを徐々に押入することを特徴とする
【0010】
かかる製造方法によれば、封止体と攪拌ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、攪拌ピンのみをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。また、回転ツールを設定移動ルートと重複する位置まで移動させながら所定の深さとなるまで攪拌ピンを徐々に押入することにより、設定移動ルート上で摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。
【0011】
また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって攪拌ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、攪拌ピンの外周面及び段差側面を傾斜するように形成することで、攪拌ピンと段差側面とが大きく接触することを回避することができる。また、突起部の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面で押さえられるため、第二突合せ部の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第二突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0012】
また、本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、前記本接合工程において、前記設定移動ルート上に設定した開始位置から前記攪拌ピンを挿入し、進行方向に移動させつつ所定の深さとなるまで徐々に前記攪拌ピンを押入することを特徴とする。
【0013】
かかる製造方法によれば、封止体と攪拌ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、攪拌ピンのみをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。また、回転ツールを設定移動ルート上で移動させつつ、所定の深さとなるまで攪拌ピンを徐々に押入することにより、設定移動ルート上の一点で摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。
【0014】
また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって攪拌ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、攪拌ピンの外周面及び段差側面を傾斜するように形成することで、攪拌ピンと段差側面とが大きく接触することを回避することができる。また、突起部の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面で押さえられるため、第二突合せ部の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第二突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0015】
また、本発明は、前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、前記本接合工程において前記攪拌ピンを挿入するとき、前記所定の回転速度よりも高い速度で前記攪拌ピンを回転させた状態で挿入し、徐々に回転速度を下げながら前記設定移動ルートまで移動させることが好ましい。
【0016】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌をより好適に行うことができる。
【0017】
また、本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、前記本接合工程において、前記設定移動ルートよりもさらに内側に終了位置を設定し、前記第一突合せ部に対する摩擦攪拌接合の後、前記回転ツールを前記終了位置に移動させつつ前記攪拌ピンを前記封止体から徐々に引き抜いて前記終了位置で前記封止体から前記回転ツールを離脱させることを特徴とする。
【0018】
かかる製造方法によれば、封止体と攪拌ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、攪拌ピンのみをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。また、回転ツールを設定移動ルートよりも内側に設定された終了位置まで移動させつつ攪拌ピンを徐々に引き抜くことにより、設定移動ルート上で摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。
【0019】
また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって攪拌ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、攪拌ピンの外周面及び段差側面を傾斜するように形成することで、攪拌ピンと段差側面とが大きく接触することを回避することができる。また、突起部の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面で押さえられるため、第二突合せ部の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第二突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0020】
また、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を攪拌ピンを備える回転ツールを用いて接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、前記攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記攪拌ピンは、その先端に回転中心軸線に垂直な平坦面を有するとともに、前記平坦面から突出する突起部を備え、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記突起部の先端面を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部よりも前記封止体側に設定された設定移動ルートに沿って前記回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、を含み、前記本接合工程において、前記設定移動ルート上に終了位置を設定し、前記第一突合せ部に対する摩擦攪拌接合の後、前記回転ツールを前記終了位置に移動させつつ前記攪拌ピンを前記封止体から徐々に引き抜いて前記終了位置で前記封止体から前記回転ツールを離脱させることを特徴とする。
【0021】
かかる製造方法によれば、封止体と攪拌ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、攪拌ピンのみをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。また、回転ツールを設定移動ルート上で移動させつつ終了位置に向かって攪拌ピンを徐々に引き抜くことにより、設定移動ルート上の一点で摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。
【0022】
また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって攪拌ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、攪拌ピンの外周面及び段差側面を傾斜するように形成することで、攪拌ピンと段差側面とが大きく接触することを回避することができる。また、突起部の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面で押さえられるため、第二突合せ部の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第二突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0023】
前記本接合工程では、所定の回転速度で前記回転ツールを回転させて摩擦攪拌を行い、前記本接合工程において前記攪拌ピンを離脱させるとき、前記所定の回転速度よりも徐々に回転速度を上げながら前記終了位置まで移動させること好ましい。
【0024】
かかる接合方法によれば、摩擦攪拌をより好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法によれば、材種の異なる金属を好適に接合しつつ、回転ツールの通過位置を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る回転ツールを示す側面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の準備工程を示す斜視図である。
図3】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の載置工程を示す断面図である。
図4】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す斜視図である。
図5】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す断面図である。
図6】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す平面図である。
図7】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程後を示す断面図である。
図8】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の検査工程を示す平面図である。
図9】攪拌ピンの外周面を段差側面から離間させた例を示す図である。
図10】攪拌ピンの外周面を段差側面に大きく接触させた例を示す図である。
図11】本発明の第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す平面図である。
図12】第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す平面図である。
図13】従来の液冷ジャケットの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は、下記の実施形態のみに限定されるものではない。また、各実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。まずは、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法で用いる回転ツールについて説明する。回転ツールは、摩擦攪拌接合に用いられるツールである。図1に示すように、回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されており、連結部F1は、円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔(図示省略)が形成されている。
【0028】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。また、攪拌ピンF2は、平坦面F3と、突起部F4とを備えている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の先端には、回転中心軸線Xに対して垂直であり、かつ、平坦な平坦面F3が形成されている。突起部F4は、平坦面F3の中央から下方に突出した部位である。突起部F4の形状は特に限定されないが、例えば円柱状となっている。突起部F4の側面と、平坦面F3とで段差部が形成されている。
【0029】
つまり、攪拌ピンF2の外面は、先細りとなる外周面と、先端に形成された平坦面F3と、平坦面F3の中央部から下方に突出する突起部F4とで構成されている。側面視した場合において、回転中心軸線Xと攪拌ピンF2の外周面のなす傾斜角度αは、例えば5°~40°の範囲で適宜設定すればよい。
【0030】
攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝が刻設されている。本実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0031】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、後述する被接合金属部材(ジャケット本体2及び封止体3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0032】
回転ツールFは、摩擦攪拌装置の回転軸に取り付けられる。なお、回転ツールFは、例えば先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに取り付けてもよい。これにより、回転ツールFの回転中心軸線Xを自在に傾斜させることができる。
【0033】
[第一実施形態]
本発明の実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。図2に示すように、本発明の実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法は、ジャケット本体2と、封止体3とを摩擦攪拌接合して液冷ジャケット1を製造するものである。液冷ジャケット1は、封止体3の上に発熱体(図示省略)を設置するとともに、内部に流体を流して発熱体と熱交換を行う部材である。なお、以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面という意味である。
【0034】
本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法は、準備工程と、載置工程と、本接合工程と、検査工程と、を行う。準備工程は、ジャケット本体2と封止体3とを準備する工程である。ジャケット本体2は、底部10と、周壁部11とで主に構成されている。ジャケット本体2は、第一アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第一アルミニウム合金は、例えば、JISH5302 ADC12(Al-Si-Cu系)等のアルミニウム合金鋳造材を用いている。ジャケット本体2は、本実施形態ではアルミニウム合金を例示したが、摩擦攪拌可能な他の金属でもよい。
【0035】
図2に示すように、底部10は、平面視矩形を呈する板状部材である。周壁部11は、底部10の周縁部から矩形枠状に立ち上がる壁部である。周壁部11の内周縁には周壁段差部12が形成されている。周壁段差部12は、段差底面12aと、段差底面12aから立ち上がる段差側面12bとで構成されている。段差側面12bは、段差底面12aから開口部に向かって外側に広がるように傾斜している。段差側面12bの鉛直面に対する傾斜角度βは適宜設定すればよいが、例えば、鉛直面に対して3°~30°になっている。底部10及び周壁部11で凹部13が形成されている。ここで鉛直面とは、回転ツールFの進行方向ベクトルと鉛直方向ベクトルで構成される平面と定義する。
【0036】
封止体3は、ジャケット本体2の開口部を封止する板状部材である。封止体3は、周壁段差部12に載置される大きさになっている。封止体3の板厚は、段差側面12bの高さ寸法よりも大きくなっている。封止体3の板厚寸法は、後記する本接合工程の際に接合部が金属不足にならない程度に適宜設定する。封止体3は、第二アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第二アルミニウム合金は、第一アルミニウム合金よりも硬度の低い材料である。第二アルミニウム合金は、例えば、JIS A1050,A1100,A6063等のアルミニウム合金展伸材で形成されている。封止体3は、本実施形態ではアルミニウム合金を例示したが、摩擦攪拌可能な他の金属でもよい。なお、本明細書において硬度はブリネル硬さをいい、JIS Z 2243に準じた方法によって測定することができる。
【0037】
載置工程は、図3に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置する工程である。載置工程では、段差底面12aに封止体3の裏面3bを載置する。段差側面12bと封止体3の外周側面3cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。第一突合せ部J1は本実施形態のように断面略V字状の隙間をあけて突き合わされる場合も含み得る。また、段差底面12aと、封止体3の裏面3bとが重ね合わされて第二突合せ部J2が形成される。
【0038】
図4に示すように、第一突合せ部J1よりも内側に「設定移動ルートL1」(一点鎖線)を設定する。設定移動ルートL1は、後記するように、本実施形態では攪拌ピンF2の外周面の上側を周壁段差部12の段差側面12bの上部にわずかに接触させつつ、外周面の下側を周壁段差部12の段差側面12bに接触させないように設定するため、設定移動ルートL1は、封止体3の外周面よりも内側において、平面視矩形状に設定する。
【0039】
本接合工程では、押入区間と、本区間と、離脱区間とを連続して摩擦攪拌を行う。本接合工程の押入区間では、図4に示すように、封止体3の表面3aに設定された開始位置SP1から設定移動ルートL1上に設定された中間点S1までの摩擦攪拌を行う。押入区間では、開始位置SP1に回転ツールFの回転中心軸線Xが垂直となるように配置し、中間点S1に向けて相対移動させながら所定の深さとなるまで攪拌ピンF2を徐々に押入していく。
【0040】
この際、図5に示すように、少なくとも中間点S1に到達するまでに予め設定された所定の深さに達するように攪拌ピンF2を徐々に押し入れていく。つまり、回転ツールFを一ヵ所に留まらせることなく、回転ツールFを設定移動ルートL1に移動させながら徐々に下降させていく。回転ツールFが中間点S1に達したら、そのまま本区間に移行する。回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。
【0041】
なお、所定の深さとは、設定移動ルートL1上の中間点S1から設定移動ルートL1を一周して中間点S1を通過した後、設定移動ルートL1上に設定された中間点S2までの本区間において、攪拌ピンF2を差し込む深さをいう。本実施形態では、攪拌ピンF2の平坦面F3を封止体3のみに接触させつつ、突起部F4の先端面を周壁段差部12の段差底面12aよりもわずかに深い位置となるように挿入する。なお、攪拌ピンF2の平坦面F3を封止体3のみに接触させつつ、突起部F4の先端面を周壁段差部12の段差底面12aと同一の高さ位置となるように挿入してもよい。
【0042】
本区間では、図5に示すように、回転ツールFの回転中心軸線Xを鉛直線(鉛直面)と平行にした状態で摩擦攪拌を行う。攪拌ピンF2を所定の深さを維持した状態で、回転中心軸線Xと設定移動ルートL1とが重なるように回転ツールFを移動させる。段差側面12bの傾斜角度β(図3参照)は、攪拌ピンF2の外周面の傾斜角度αよりも小さく設定している。本接合工程では、回転ツールFの外周面の上側を周壁段差部12の段差側面12bの上部にわずかに接触させつつ、外周面の下側を周壁段差部12の段差側面12bに接触させないように設定する。
【0043】
図6に示すように本区間では、回転ツールFを封止体3の廻りに一周させたら、設定移動ルートL1上の塑性化領域W1の始端と末端とを重複させ、攪拌ピンF2が中間点S2に達したら、そのまま離脱工程に移行する。
【0044】
離脱区間では、中間点S2から終了位置EP1に向かうまでの間に攪拌ピンF2を徐々に上方に移動させて、終了位置EP1で、封止体3から攪拌ピンF2を離脱させる。つまり、回転ツールFを一ヵ所に留まらせることなく、回転ツールFを終了位置EP1に移動させながら徐々に引き抜いていく。
【0045】
図7に示すように、本接合工程を行うと、回転ツールFの移動軌跡に塑性化領域W1が形成されるとともに、塑性化領域W1の下部のうち段差側面12bの内側近傍に粗密部Zが形成される。粗密部Zは、塑性流動材の攪拌が不十分な領域であって、他の部位よりも塑性流動材が粗密になっている領域である。粗密部Zは、塑性化領域W1の長手方向において連続的又は断続的に形成されている。
【0046】
検査工程は、図8に示すように、液冷ジャケット1の探傷検査を行う工程である。検査工程では、超音波探傷装置(例えば、超音波映像装置(SAT)株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いる。図8中の検査結果画面Rのうち、液冷ジャケット1の中空部Uは色付きで表示されている。また、中空部Uの周囲に粗密部Zが色付きで、枠状かつ線状に表示されている。つまり、検査結果画面Rに粗密部Zが表示されることで、封止体3の全周に亘って回転ツールFが通過していることが特定できる。中空部Uと粗密部Zの間は塑性化領域W1に相当する部位である。
【0047】
ここで、粗密部Zの幅Zwは400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下に設定することが好ましい。粗密部Zの幅Zwが400μmを超えると第一突合せ部J1の接合強度が不十分になるおそれがある。換言すると、粗密部Zの幅Zwが400μm以下であれば十分な接合強度が得られる。一方、粗密部Zの幅Zwは100μm以上であることが好ましい。粗密部Zの幅Zwが100μm未満であると超音波探傷装置で、粗密部Z部分が検査結果画面Rに表示されないおそれがある。
【0048】
図5に示すように、本接合工程において、攪拌ピンF2の外周面と段差側面12bとが接触する領域と、接触しない領域との割合は本実施形態では、2:8くらいになっているが、ジャケット本体2と封止体3とが所望の強度で接合されつつ、前記した所定幅の粗密部Zが形成される範囲で適宜設定すればよい。換言すると、攪拌ピンF2の外周面の傾斜角度α、周壁段差部12の段差側面12bの傾斜角度β、攪拌ピンF2の回転中心軸線Xの位置(幅方向の位置)は、ジャケット本体2と封止体3とが所望の強度で接合されつつ、前記した所定幅の粗密部Zが形成される範囲で適宜設定すればよい。
【0049】
図9に示すように、攪拌ピンF2の外周面と段差側面12bとが離間していると接合できないか、若しくは接合強度が低下するおそれがあるため、少なくとも段差側面12bの上部に攪拌ピンF2を接触させることが好ましい。また、図10に示すように、攪拌ピンF2と段差側面12bとの接触代が大きくなると、硬度が高いジャケット本体2の金属が硬度の低い封止体3側に多く流入するため、ジャケット本体2と封止体3との攪拌のバランスが悪くなり、接合強度が低下するおそれがある。また、段差底面12a付近において、攪拌ピンF2の外周面と段差側面12bとが近接しすぎても、又は、離間しすぎても上記した所定幅の粗密部Zを形成することが困難となる。
【0050】
以上説明した本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、封止体3と攪拌ピンF2との摩擦熱によって第一突合せ部J1の主として封止体3側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部J1において段差側面12bと封止体3の外周側面3cとを接合することができる。また、攪拌ピンF2のみをジャケット本体2の段差側面12bの少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体2から封止体3への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部J1においては主として封止体3側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
【0051】
また、突起部F4の先端面を段差底面12aと同一かそれよりもわずかに深く挿入するため、第二突合せ部J2における接合強度を高めつつ、ジャケット本体2から封止体3への金属の混入を極力少なくすることができる。また、所定幅の粗密部Zをあえて形成することで、探傷検査によって攪拌ピンF2の通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、攪拌ピンF2の外周面及び段差側面12bを傾斜するように形成することで、攪拌ピンF2と段差側面12bとが大きく接触することを回避できるとともに、粗密部Zの幅Zw、大きさ等を容易に制御することができる。また、封止体3の厚さを大きくすることで接合部の金属不足を防ぐことができる。
【0052】
また、攪拌ピンF2においては、平坦面F3から突出する突起部F4が形成されている。つまり、攪拌ピンF2の平坦面F3と突起部F4とで段差部が形成されている。そのため、突起部F4の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面F3で押さえられるため、第二突合せ部J2の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第二突合せ部J2の接合強度を高めることができる。
【0053】
また、本接合工程の押入区間では、開始位置SP1から設定移動ルートL1と重複する位置まで回転ツールFを移動させつつ所定の深さとなるまで攪拌ピンF2を徐々に押入することにより、設定移動ルートL1上で回転ツールFの移動が停止して摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。同様に、本接合工程の離脱区間では、設定移動ルートL1から終了位置EP1まで回転ツールFを移動させつつ所定の深さから攪拌ピンF2を徐々に引き抜いて離脱させることにより、設定移動ルートL1上で回転ツールFの移動が停止して摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。
【0054】
これらにより、設定移動ルートL1上で摩擦熱が過大となり、封止体3からジャケット本体2へ第二アルミニウム合金が過剰に混入して接合不良となるのを防ぐことができる。
【0055】
また、本接合工程において、開始位置SP1及び終了位置EP1の位置は適宜設定すればよいが、開始位置SP1と設定移動ルートL1とのなす角度、終了位置EP1と設定移動ルートL1とのなす角度が鈍角となるように設定することにより、中間点S1,S2で回転ツールFの移動速度が低下することなくスムーズに本区間又は離脱区間に移行することができる。これにより、設定移動ルートL1上で回転ツールFが停止又は移動速度が低下することにより、摩擦熱が過大となることを防ぐことができる。なお、上方から見て回転ツールFの軌跡が曲線を描くように開始位置SP1から設定移動ルートL1に回転ツールFを移動させてもよい。同様に、上方から見て回転ツールFの軌跡が曲線を描くように設定移動ルートL1から終了位置EP1に回転ツールFを移動させてもよい。曲線とは、例えば、円弧状の軌跡であってもよい。
【0056】
また、本接合工程では、回転ツールFの回転方向及び進行方向は適宜設定すればよいが、本実施形態では回転ツールFの移動軌跡に形成される塑性化領域W1のうち、ジャケット本体2側がシアー側となり、封止体3側がフロー側となるように回転ツールFの回転方向及び進行方向を設定した。これにより、第一突合せ部J1の周囲における攪拌ピンF2による攪拌作用が高まり、第一突合せ部J1における温度上昇が期待でき、第一突合せ部J1において段差側面12bと封止体3の外周側面3cとをより確実に接合することができる。また、攪拌ピンF2の外周面及び段差側面12bを傾斜するように形成することで、攪拌ピンF2と段差側面12bとが大きく接触することを回避することができる。
【0057】
なお、シアー側(Advancing side)とは、被接合部に対する回転ツールの外周の相対速度が、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側を意味する。一方、フロー側(Retreating side)とは、回転ツールの移動方向の反対方向に回転ツールが回動することで、被接合部に対する回転ツールの相対速度が低速になる側を言う。
【0058】
また、ジャケット本体2の第一アルミニウム合金は、封止体3の第二アルミニウム合金よりも硬度の高い材料になっている。これにより、液冷ジャケット1の耐久性を高めることができる。また、ジャケット本体2の第一アルミニウム合金をアルミニウム合金鋳造材とし、封止体3の第二アルミニウム合金をアルミニウム合金展伸材とすることが好ましい。第一アルミニウム合金を例えば、JISH5302 ADC12等のAl-Si-Cu系アルミニウム合金鋳造材とすることにより、ジャケット本体2の鋳造性、強度、被削性等を高めることができる。また、第二アルミニウム合金を例えば、JIS A1000系又はA6000系とすることにより、加工性、熱伝導性を高めることができる。
【0059】
例えば、本実施形態では、封止体3の板厚を段差側面12bの高さ寸法よりも大きくしているが、両者を同一にしてもよい。また、段差側面12bは傾斜させずに、段差底面12aに対して垂直でもよい。
【0060】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。図11及び図12に示すように、第二実施形態では本接合工程による開始位置SP2及び終了位置EP2の位置が第一実施形態と相違する。第二実施形態では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0061】
第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、載置工程と、本接合工程と、検査工程と、を行う。準備工程、載置工程及び検査工程は第一実施形態と同一である。
【0062】
図11に示すように、本実施形態の本接合工程では、開始位置SP2を設定移動ルートL1上で中間点S1よりも上流側に設定する。また、終了位置EP2を設定移動ルートL1上で中間点S2よりも下流側に設定する。
【0063】
本接合工程では、開始位置SP2から中間点S1までの押入区間と、設定移動ルートL1上の中間点S1から一周廻って中間点S2までの本区間と、中間点S2から終了位置EP2までの離脱区間の三つの区間を連続して摩擦攪拌する。
【0064】
本接合工程の押入区間では、図11に示すように、開始位置SP2から中間点S1までの摩擦攪拌を行う。押入区間では、右回転させた攪拌ピンF2を開始位置SP2に挿入し、中間点S1まで移動させる。この際、少なくとも中間点S1に到達するまでに予め設定された所定の深さに達するように攪拌ピンF2を徐々に押し入れていく。
【0065】
中間点S1に達したらそのまま本区間の摩擦攪拌接合に移行する。図12に示すように、本区間では、攪拌ピンF2の回転中心軸線(図示せず)と設定移動ルートL1とが重なるように回転ツールFを移動させる。攪拌ピンF2と段差側面12bとの接触代、攪拌ピンF2の挿入深さは第一実施形態と同一である。
【0066】
攪拌ピンF2が中間点S2に到達したら、そのまま離脱区間に移行する。離脱区間では、中間点S2から終了位置EP2に向かうまでの間に攪拌ピンF2を徐々に上方に移動させて、設定移動ルートL1上に設定された終了位置EP2で封止体3から攪拌ピンF2を離脱させる。
【0067】
以上説明した第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によっても第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。さらに、第二実施形態に係る本接合工程の押入区間では、回転ツールFを設定移動ルートL1上で移動させつつ所定の深さとなるまで攪拌ピンF2を徐々に押入することにより、設定移動ルートL1上の一点で回転ツールFが停止して摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。また、第二実施形態に係る本接合工程の離脱区間では、回転ツールFを設定移動ルートL1上で移動させつつ攪拌ピンF2を徐々に離脱させることにより、設定移動ルートL1上の一点で回転ツールFが停止して摩擦熱が過大になるのを防ぐことができる。第二実施形態のように本接合工程における開始位置SP2、終了位置EP2は、設定移動ルートL1上に設定してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 液冷ジャケット
2 ジャケット本体
3 封止体
F 回転ツール
F1 連結部
F2 攪拌ピン
F3 平坦面
F4 突起部
J1 第一突合せ部
J2 第二突合せ部
W1 塑性化領域
Z 粗密部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13