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<図1>
  • 特許-電動機の制御装置 図1
  • 特許-電動機の制御装置 図2
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  • 特許-電動機の制御装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/26 20160101AFI20230808BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20230808BHJP
   H02P 3/18 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H02P21/26
H02P21/18
H02P3/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020067198
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021164376
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118217(JP,A)
【文献】特開2000-312499(JP,A)
【文献】特開昭62-81990(JP,A)
【文献】特開2008-220069(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/26
H02P 21/18
H02P 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転数と回転数指令値との差によりトルク指令値を算出するトルク制御部と、
前記トルク指令値をd軸電流指令値及びq軸電流指令値に変換する第1の変換部と、
前記電動機の回転子の位置により前記電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する第2の変換部と、
前記d軸電流と前記d軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記トルク指令値がゼロ以上である力行制御により前記電動機を駆動させている場合、第1の時定数をもつフィルタによりノイズが除去された前記d軸電流、前記q軸電流、前記d軸電圧指令値、及び前記q軸電圧指令値により前記位置を推定し、前記トルク指令値がゼロより小さい回生制御により前記電動機を駆動させている場合、前記第1の時定数より小さい第2の時定数をもつフィルタによりノイズが除去された前記d軸電流、前記q軸電流、前記d軸電圧指令値、及び前記q軸電圧指令値により前記回転数及び前記位置を推定する推定部と、
前記位置により前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を前記電動機の各相に対応する電圧指令値に変換する第3の変換部と、
搬送波と前記電動機の各相に対応する電圧指令値との比較結果により前記電動機を駆動させるドライブ回路と、
を備える電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記第3の変換部は、前記トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、前記回転数が第1の閾値以下である場合、前記電動機の各相に対応する電圧指令値をゼロにする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動機の制御装置であって、
前記推定部は、
前記トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、前記回転数が第2の閾値以下である場合、前記第2の時定数をもつフィルタによりノイズが除去された前記d軸電流、前記q軸電流、前記d軸電圧指令値、及び前記q軸電圧指令値により前記回転数及び前記位置を推定し、
前記トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、前記回転数が前記第2の閾値より大きい場合、前記第1の時定数より小さく、かつ、前記第2の時定数より大きい第3の時定数をもつフィルタによりノイズが除去された前記d軸電流、前記q軸電流、前記d軸電圧指令値、及び前記q軸電圧指令値により前記回転数及び前記位置を推定する
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機の停止時に電動機に負のトルクをかけて電動機の回転数を比較的早く低下させるものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、電動機に流れる電流や電圧指令値に含まれるノイズをフィルタにより除去した後、その電流や電圧指令値を用いて電動機の回転数を推定する場合、フィルタの時定数により回転数の推定が遅れ、推定された回転数が実際の回転数と異なるおそれがある。
【0004】
そのため、上記制御装置では、フィルタによりノイズが除去された電流や電圧指令値を用いて電動機の回転数を推定する場合で、かつ、電動機の停止時に電動機に負のトルクをかける場合、実際の回転数がすでにゼロになっているにもかかわらず推定された回転数がまだゼロになっていないために電動機に負のトルクをかけ続けて実際の回転数が負の値になる可能性、すなわち、電動機を逆回転させてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-284610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、電動機の制御装置において、電動機の停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機が逆回転することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、電動機の回転数と回転数指令値との差によりトルク指令値を算出するトルク制御部と、トルク指令値をd軸電流指令値及びq軸電流指令値に変換する第1の変換部と、電動機の回転子の位置により電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する第2の変換部と、d軸電流とd軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともにq軸電流とq軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、トルク指令値がゼロ以上である場合、第1の時定数をもつフィルタによりノイズが除去されたd軸電流、q軸電流、d軸電圧指令値、及びq軸電圧指令値により回転子の位置を推定し、トルク指令値がゼロより小さい場合、第1の時定数より小さい第2の時定数をもつフィルタによりノイズが除去されたd軸電流、q軸電流、d軸電圧指令値、及びq軸電圧指令値により電動機の回転数及び回転子の位置を推定する推定部と、回転子の位置によりd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を電動機の各相に対応する電圧指令値に変換する第3の変換部と、搬送波と電動機の各相に対応する電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるドライブ回路とを備える。
【0008】
これにより、電動機の停止時に電動機に負のトルクをかけつつ、回転数の推定が遅延することを抑制することができるため、電動機の停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機が逆回転することを抑制することができる。
【0009】
また、第3の変換部は、トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、回転数が第1の閾値以下である場合、電動機の各相に対応する電圧指令値をゼロにするように構成してもよい。
【0010】
これにより、電動機の停止時に電動機に負のトルクをかけつつ、回転数が第1の閾値まで低下した後、電動機にトルクをかけることを止めて回転子にかかる摩擦力などで回転数をゼロまで低下させることができるため、電動機の停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機が逆回転することを防止することができる。
【0011】
また、位置推定部は、トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、回転数が第2の閾値以下である場合、第2の時定数をもつフィルタによりノイズが除去されたd軸電流、q軸電流、d軸電圧指令値、及びq軸電圧指令値により電動機の回転数及び回転子の位置を推定し、トルク指令値がゼロより小さい場合で、かつ、回転数が第2の閾値より大きい場合、第1の時定数より小さく、かつ、第2の時定数より大きい第3の時定数をもつフィルタによりノイズが除去されたd軸電流、q軸電流、d軸電圧指令値、及びq軸電圧指令値により電動機の回転数及び回転子の位置を推定するように構成してもよい。
【0012】
これにより、電動機の停止時に電動機に負のトルクをかけつつ、回転数の推定遅延やd軸電流、q軸電流、d軸電圧指令値、及びq軸電圧指令値の信頼性低下を抑制することができるため、電動機の停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機が逆回転することをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動機の制御装置において、電動機の停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機が逆回転することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】推定部の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】回転数とトルク指令値との関係を示す図である。
図4】変形例1における座標変換部及び推定部の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】変形例2における座標変換部及び推定部の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0016】
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示す制御装置1は、例えば、車両(電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車など)に搭載される電動機M(永久磁石同期電動機など)を駆動するための制御装置であって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。
【0018】
インバータ回路2は、電源Pから供給される直流電力を交流電力に変換して電動機Mを駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など)と、電流センサSi1、Si2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSi1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSi2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0019】
コンデンサCは、電源Pからインバータ回路2に出力される電圧を平滑する。
【0020】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S1がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S1がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S2がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S2がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S3がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S3がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S4がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S4がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S5がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S5がローレベルであるときオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力されるパルス幅変調信号S6がハイレベルであるときオンし、パルス幅変調信号S6がローレベルであるときオフする。
【0021】
スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン、オフすることで、電源Pから出力される直流の電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる交流電圧Vu、Vv、Vwに変換される。そして、交流電圧Vuが電動機MのU相の入力端子に印加され、交流電圧Vvが電動機MのV相の入力端子に印加され、交流電圧Vwが電動機MのW相の入力端子に印加されることで、電動機Mに互いに位相が120度ずつ異なる交流電流Iu、Iv、Iwが流れ、電動機Mの回転子が回転する。
【0022】
電流センサSi1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れる交流電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSi2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れる交流電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0023】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。
【0024】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する第1の閾値や第2の閾値などを記憶する。
【0025】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部6から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と搬送波とを比較し、その比較結果に応じたパルス幅変調信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。なお、搬送波は、三角波、ノコギリ波(鋸歯状波)、逆ノコギリ波などとする。
【0026】
例えば、ドライブ回路5は、U相電圧指令値Vu*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S1を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S1を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、V相電圧指令値Vv*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S3を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S3を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、W相電圧指令値Vw*が搬送波以上である場合、ハイレベルのパルス幅変調信号S5を出力するとともにローレベルのパルス幅変調信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波より小さい場合、ローレベルのパルス幅変調信号S5を出力するとともにハイレベルのパルス幅変調信号S6を出力する。
【0027】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、減算部7と、トルク制御部8と、トルク/電流指令値変換部9(第1の変換部)と、座標変換部10(第2の変換部)と、減算部11と、減算部12と、電流制御部13と、座標変換部14(第3の変換部)と、推定部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、減算部7、トルク制御部8、トルク/電流指令値変換部9、座標変換部10、減算部11、減算部12、電流制御部13、座標変換部14、推定部15、及び後述する推定部15内のフィルタが実現される。
【0028】
減算部7は、外部から入力される回転数指令値ω*と推定部15から出力される回転数ωとの差Δωを算出する。
【0029】
トルク制御部8は、減算部7から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部8は、記憶部4に記憶されている、電動機Mの回転数と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報を参照して、差Δωに相当する回転数に対応するトルクをトルク指令値T*として求める。
【0030】
トルク/電流指令値変換部9は、トルク制御部8から出力されるトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部9は、記憶部4に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0031】
座標変換部10は、電流センサSi1により検出される交流電流Iu及び電流センサSi2により検出される交流電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを求める。なお、電流センサSi1、Si2により検出される電流は、交流電流Iu、Ivの組み合わせに限定されず、交流電流Iv、Iwの組み合わせ、または、交流電流Iu、Iwの組み合わせでもよい。電流センサSi1、Si2により交流電流Iv、Iwが検出される場合、座標変換部10は、交流電流Iv、Iwを用いて、交流電流Iuを求める。また、電流センサSi1、Si2により交流電流Iu、Iwが検出される場合、座標変換部10は、交流電流Iu、Iwを用いて、交流電流Ivを求める。
【0032】
また、座標変換部10は、推定部15により推定される位置θ(回転子の基準位置から現在の位置までの位相)を用いて、交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。例えば、座標変換部10は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、交流電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0033】
【数1】
【0034】
また、インバータ回路2において、電流センサSi1、Si2の他に、電動機MのW相に流れる交流電流Iwを検出する電流センサSi3をさらに備える場合、座標変換部10は、推定部15から出力される位置θを用いて、電流センサSi1~Si3により検出される交流電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0035】
減算部11は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるd軸電流指令値Id*と、座標変換部10から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0036】
減算部12は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部10から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0037】
電流制御部13は、減算部11から出力される差ΔId及び減算部12から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御によりd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部13は、下記式2を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式3を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは推定部15から出力される回転数とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0038】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+Ki×∫(差ΔId)-ωLqIq・・・式2
【0039】
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+Ki×∫(差ΔIq)+ωLdId+ωKe・・・式3
【0040】
すなわち、電流制御部13は、d軸電流Idとd軸電流指令値Id*との差ΔIdが小さくなるようにd軸電圧指令値Vd*を算出するとともにq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との差ΔIqが小さくなるようにq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0041】
座標変換部14は、推定部15から出力される位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、座標変換部14は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
【0042】
【数2】
【0043】
推定部15は、トルク制御部T*から出力されるトルク指令値T*、座標変換部10から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iq、並びに、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する。例えば、推定部15は、下記式5に示す電圧方程式を用いて回転数ωを求め、その求めた回転数ωに所定時間(演算部6の動作クロックなど)を乗算することにより位置θを求める。なお、Rは電動機Mを構成するコイルの抵抗成分とし、pは微分演算子とする。
【0044】
【数3】
【0045】
図2は、推定部15の動作の一例を示すフローチャートである。
【0046】
まず、推定部15は、トルク指令値T*がゼロ以上である場合(ステップS1:No)、時定数τ1(第1の時定数)をもつフィルタによりd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS2)、ステップS2でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS3)。
【0047】
一方、推定部15は、トルク指令値T*がゼロより小さい場合、すなわち、回生制御により電動機Mが駆動している場合(ステップS1:Yes)、時定数τ1より小さい時定数τ2(第2の時定数)をもつフィルタによりd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS4)、ステップS4でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS5)。
【0048】
すなわち、推定部15は、力行制御により電動機Mを駆動させている場合、カットオフ周波数が比較的低いフィルタを用いてd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去する。これにより、電動機Mの制御性を向上させることができる。
【0049】
一方、推定部15は、回生制御により電動機Mを駆動させている場合、遅延が比較的小さいフィルタを用いてd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去する。これにより、電動機Mの停止時において、回転数ω及び位置θの推定遅延を抑制することができる。
【0050】
図3は、回転数ωとトルク指令値T*との関係を示す図である。なお、図3に示す2次元座標の横軸は回転数ωを示し、縦軸はトルク指令値T*を示している。また、+ωは回転数ωの正の最大値を示し、+T*はトルク指令値T*の正の最大値を示し、-T*はトルク指令値T*の負の最大値を示している。また、回転数ω及びトルク指令値T*は+ω、+T*、及び-T*を通る破線枠内において変化するものとする。
【0051】
例えば、回転数ω及びトルク指令値T*がそれぞれ正の値である状態(力行制御により電動機Mが駆動している状態)から回転数指令値ω*が急峻にゼロに変化して電動機Mが停止する状態に遷移する場合を想定する。
【0052】
この場合、トルク制御部8は、図3に示す実線の矢印のように、トルク指令値T*を負の最大値に変化させる。これにより、電動機Mに負のトルクをかけることができるため、すなわち、回生制御により電動機Mを駆動させることができるため、電動機Mに負のトルクをかけずに回転子にかかる摩擦力などで電動機Mを停止させる場合に比べて、実際の回転数を早く低下させることができる。
【0053】
一般に、フィルタによりノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ωが推定される場合、フィルタがもつ時定数により回転数ωの推定が遅れる。特に、回転数ωが比較的小さいとき、回転数ωの推定が遅れ易くなる。そのため、推定された回転数ωがゼロに近づくに従ってトルク指令値T*が負の最大値からゼロに変化していく場合では、実際の回転数がすでにゼロになっているにもかかわらず、推定された回転数ωがまだゼロになっていないと、電動機Mに負のトルクをかけ続けてしまい、図3に示す破線の矢印のように、実際の回転数が負の値になる可能性、すなわち、電動機Mが逆回転する可能性がある。
【0054】
そこで、本実施形態の制御装置1では、トルク指令値T*がゼロより小さくなると、推定部15内のフィルタの時定数を小さくする。これにより、電動機Mの停止時にトルク指令値T*がゼロより小さくなる場合、回転数ωの推定遅延を抑制することができ、推定された回転数ωを実際の回転数に追従させることができるため、電動機Mを停止させる場合に電動機Mが逆回転することを抑制することができる。すなわち、本実施形態の制御装置1によれば、電動機Mの停止時に電動機Mに負のトルクをかけつつ、回転数ωの推定が遅延することを抑制することができるため、電動機Mの停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機Mが逆回転することを抑制することができる。
【0055】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0056】
<変形例1>
図4は、変形例1における座標変換部14及び推定部15の動作の一例を示すフローチャートである。なお、変形例1における制御装置1の構成は、図1に示す制御装置1の構成と同様である。
【0057】
まず、推定部15は、トルク指令値T*がゼロ以上である場合(ステップS1:No)、時定数τ1をもつフィルタにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS2)、ステップS2でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS3)。
【0058】
次に、座標変換部14は、ステップS3で推定された位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する(ステップS6)。
【0059】
一方、推定部15は、トルク指令値T*がゼロより小さい場合(ステップS1:Yes)、時定数τ2をもつフィルタにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS4)、ステップS4でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS5)。
【0060】
次に、座標変換部14は、ステップS5で推定された回転数ωが第1の閾値より大きい場合(ステップS7:No)、ステップS5で推定された位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する(ステップS8)。なお、第1の閾値は、例えば、回転数ωの正の最大値の1%未満の回転数とする。
【0061】
一方、座標変換部14は、ステップS5で推定された回転数ωが第1の閾値以下である場合(ステップS7:Yes)、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*をゼロにする(ステップS9)。これにより、パルス幅変調信号S1~S6のそれぞれのデューティ比をゼロにすることができるため、インバータ回路2を停止させることができ、電動機Mにトルクがかからないようにすることができる。
【0062】
このように、変形例1の制御装置1では、トルク指令値T*がゼロより小さい場合で、かつ、回転数ωが第1の閾値以下である場合、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*をゼロにする構成である。これにより、電動機Mの停止時に電動機Mに負のトルクをかけて回転数ωが比較的小さくなった後、電動機Mに負のトルクがかからないようにするとともに、回転子にかかる摩擦力などで回転数ωをゼロにさせることができるため、電動機Mを停止させる場合に電動機Mが逆回転することを防止することができる。
【0063】
<変形例2>
図5は、変形例2における座標変換部14及び推定部15の動作の一例を示すフローチャートである。なお、変形例2における制御装置1の構成は、図1に示す制御装置1の構成と同様とする。
【0064】
まず、推定部15は、トルク指令値T*がゼロ以上である場合(ステップS1:No)、時定数τ1をもつフィルタにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS2)、ステップS2でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS3)。
【0065】
次に、座標変換部14は、ステップS3で推定された位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する(ステップS6)。
【0066】
一方、推定部15は、トルク指令値T*がゼロより小さい場合(ステップS1:Yes)で、かつ、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性が高いと判断する場合(ステップS10:Yes)、時定数τ2をもつフィルタにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS4)、ステップS4でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS5)。例えば、推定部15は、回転数ωが第2の閾値以下である場合、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性が高いと判断する。一般に、回転数ωが小さくなるほど、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズが少なくなり、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性が高くなる。そのため、時定数τ2をもつフィルタ(カットオフ周波数が比較的高いフィルタ)によりd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズが除去されたとしても、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性の低下を抑えることができる。なお、第2の閾値は、第1の閾値と互いに異なる値でもよいし、互いに同じ値でもよい。
【0067】
また、推定部15は、トルク指令値T*がゼロより小さい場合(ステップS1:Yes)で、かつ、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性が低いと判断する場合(ステップS10:No)、時定数τ1より小さく、かつ、時定数τ2より大きい時定数τ3(第3の時定数)をもつフィルタにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去し(ステップS11)、ステップS11でノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を用いて、回転数ω及び位置θを推定する(ステップS12)。例えば、推定部15は、回転数ωが第2の閾値より大きい場合、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性が低いと判断する。一般に、回転数ωが大きくなるほど、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズが多くなり、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vqの信頼性が低くなる。そのため、時定数τ3をもつフィルタ(カットオフ周波数が比較的低いフィルタ)によりd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に含まれるノイズを除去することにより、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性の低下を抑えることができる。
【0068】
次に、座標変換部14は、ステップS5で推定された回転数ωが第1の閾値より大きい場合(ステップS7:No)、ステップS5で推定された位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する(ステップS8)。
【0069】
一方、座標変換部14は、ステップS5で推定された回転数ωが第1の閾値以下である場合(ステップS7:Yes)、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*をゼロにする(ステップS9)。
【0070】
なお、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS6~S9を省略してもよい。すなわち、座標変換部14は、推定部15から出力される位置θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する構成のみでもよい。
【0071】
このように、変形例2の制御装置1では、トルク指令値T*がゼロより小さい場合で、かつ、回転数ωが第2の閾値より大きい場合、時定数τ1より小さく、かつ、時定数τ2より大きい時定数τ3をもつフィルタによりノイズが除去されたd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*により回転数ω及び位置θを推定する構成である。これにより、電動機Mの停止時に電動機Mに負のトルクをかけつつ、回転数ωの推定遅延やd軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*の信頼性低下を抑制することができるため、電動機Mの停止にかかる時間の短縮化を図りつつ、電動機Mが逆回転することをさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 減算部
8 トルク制御部
9 トルク/電流指令値変換部
10 座標変換部
11 減算部
12 減算部
13 電流制御部
14 座標変換部
15 推定部
図1
図2
図3
図4
図5