(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20230808BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2020123524
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/105321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室のフロントガラスの窓枠を構成しており、ルーフパネルを車幅方向両側で支持するフロントピラーと、サスペンション荷重を受ける左右のサスタワーと
、エンジンルームの側壁を構成しており、前記サスタワーの車幅方向における外側に配置された側壁部材と、
を備える車両の前部構造であって、
前記フロントピラーの根元部は、前記サスタワーと車両前後方向において同位置に配置されており、
前記フロントピラーの根元部と前記サスタワーの上部間には、荷重の伝達が可能な荷重伝達部材が設けられて
おり、
前記荷重伝達部材は、前記サスタワーの上部に連結された下側荷重伝達部材と、前記側壁部材に収納されており、前記下側荷重伝達部材と前記フロントピラーの根元部間で荷重の伝達が可能な上側荷重伝達部材とから構成されている車両の前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の前部構造であって、
前記下側荷重伝達部材と前記上側荷重伝達部材とは、軸心が縦方向に延びる筒状に形成されている車両の前部構造。
【請求項3】
車室のフロントガラスの窓枠を構成しており、ルーフパネルを車幅方向両側で支持するフロントピラーと、サスペンション荷重を受ける左右のサスタワーとを備え、
前記フロントピラーの根元部は、前記サスタワーと車両前後方向において同位置に配置されており、
前記フロントピラーの根元部と前記サスタワーの上部間には、荷重の伝達が可能な荷重伝達部材が設けられている車両の前部構造であって、
前記フロントピラーの後側に配置されて、上端部が前記フロントピラーの上端部に接続されており、フロントドア開口部の上側前縁部を構成するとともに、前記フロントピラーと共に車両ボディの側面窓枠を構成している後側フロントピラーと、
前記後側フロントピラーの根元部を支えた状態で、前記フロントドア開口部の下側前縁部を構成している下側支柱部と、
前記車両の前方衝突荷重を前記後側フロントピラーの根元部と前記下側支柱部との接続位置まで伝達するホイールハウス上側フレームとを有している車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室のフロントガラスの窓枠を構成しており、ルーフパネルを車幅方向両側で支持するフロントピラーと、サスペンション荷重を受ける左右のサスタワーとを備える車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部構造に関する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の車両はセダン型の車両である。前記車両のボディ100は、
図9に示すように、車室RとエンジンルームERとが縦壁状のダッシュパネル101によって仕切られている。ダッシュパネル101の前側のエンジンルームERには、左右両側にサスペンション荷重を受けるサスタワー103が設けられている。また、ダッシュパネル101の後側には、車室Rのフロントガラス104の窓枠を構成し、ルーフパネル(図示省略)を車幅方向両側で支持するフロントピラー106が設けられている。
【0003】
特許文献1に記載の車両の前部構造では、サスペンション荷重を受けるサスタワー103の上部の変形を抑えるために、サスタワー103の上部とフロントピラー106の根元部106kとを補強部材107で連結している。ここで、前記車両では、サスタワー103の上部とフロントピラー106の根元部106kとが車両前後方向に離れている。このため、補強部材107は、フロントピラー106の根元部106kから斜め直線的に延びる棒状に形成されている。これにより、前記補強部材107を介してサスタワー103の上部に加わるサスペンション荷重をフロントピラー106の根元部106kで受けられるようになる。同様に、フロントピラー106の根元部106kに加わる荷重をサスタワー103の上部で受けることも可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両はセダン型の車両であるため、
図9に示すように、フロントピラー106の根元部106kとサスタワー103の上部間の車両前後方向における距離が大きい。このため、フロントピラー106の根元部106kに加わる荷重を効率的にサスタワー103の上部に伝達するのが難しい。したがって、補強部材107の荷重伝達能力を向上させるためには、その補強部材107を大型化する必要がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、コンパクトな荷重伝達部材により、フロントピラーの根元部に加わる荷重をサスタワーの上部に効率的に伝達できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各発明によって解決される。第1の発明は、車室のフロントガラスの窓枠を構成しており、ルーフパネルを車幅方向両側で支持するフロントピラーと、サスペンション荷重を受ける左右のサスタワーと、エンジンルームの側壁を構成しており、前記サスタワーの車幅方向における外側に配置された側壁部材とを備える車両の前部構造であって、前記フロントピラーの根元部は、前記サスタワーと車両前後方向において同位置に配置されており、前記フロントピラーの根元部と前記サスタワーの上部間には、荷重の伝達が可能な荷重伝達部材が設けられており、前記荷重伝達部材は、前記サスタワーの上部に連結された下側荷重伝達部材と、前記側壁部材に収納されており、前記下側荷重伝達部材と前記フロントピラーの根元部間で荷重の伝達が可能な上側荷重伝達部材とから構成されている。
【0008】
本発明によると、フロントピラーの根元部とサスタワーの上部間には、荷重の伝達が可能な荷重伝達部材が設けられている。また、フロントピラーの根元部は、サスタワーと車両前後方向において同位置に配置されている。このため、フロントピラーの根元部とサスタワーの上部間の距離を従来と比較して小さくでき、荷重伝達部材をコンパクトにできるとともに、フロントピラーの根元部に加わる荷重をサスタワーの上部で効率的に受けられるようになる。
また、荷重伝達部材を構成する上側荷重伝達部材がエンジンルームの側壁を構成する側壁部材に収納されているため、荷重伝達部材の設置スペースをコンパクトにできる。
【0010】
第2の発明によると、下側荷重伝達部材と上側荷重伝達部材とは、軸心が縦方向に延びる筒状に形成されている。このため、荷重伝達部材の上下方向における荷重伝達能力が向上する。
【0011】
第3の発明は、車室のフロントガラスの窓枠を構成しており、ルーフパネルを車幅方向両側で支持するフロントピラーと、サスペンション荷重を受ける左右のサスタワーとを備え、前記フロントピラーの根元部は、前記サスタワーと車両前後方向において同位置に配置されており、前記フロントピラーの根元部と前記サスタワーの上部間には、荷重の伝達が可能な荷重伝達部材が設けられている車両の前部構造であって、フロントピラーの後側に配置されて、上端部が前記フロントピラーの上端部に接続されており、フロントドア開口部の上側前縁部を構成するとともに、前記フロントピラーと共に車両ボディの側面窓枠を構成している後側フロントピラーと、前記後側フロントピラーの根元部を支えた状態で、前記フロントドア開口部の下側前縁部を構成している下側支柱部と、前記車両の前方衝突荷重を前記後側フロントピラーの根元部と前記下側支柱部との接続位置まで伝達するホイールハウス上側フレームとを有している。
即ち、後側フロントピラーと下側支柱部とにより車両の前方衝突荷重を受ける構成のため、フロントピラーに対して前方衝突荷重が直接的に加わらなくなり、フロントピラーを従来よりも軽量化できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、荷重伝達部材をコンパクトにできるとともに、フロントピラーの根元部に加わる荷重をサスタワーの上部で効率的に受けられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係る前部構造を備える車両を右前方から見た斜視図である。
【
図2】車両の前部構造(フロントドア、フェンダパネル等を取り除いた状態)を右外側から見た側面図である。
【
図3】車両の前部構造をエンジンルーム側(左側)から見た側面図である。
【
図4】車両の前部構造を車両前方から見た縦断面図(
図3のIV-IV矢視断面図)である。
【
図5】車両の前部構造を車両前方から見た縦断面図(
図3のV-V矢視断面図)である。
【
図7】車両の前部構造を構成する上側荷重伝達部材の平断面図(
図6のVII-VII矢視断面図)である。
【
図8】車両の前部構造を構成する下側荷重伝達部材の平断面図(
図6のVIII-VIII矢視断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
以下、
図1から
図8に基づいて本発明の実施形態1に係る車両の前部構造の説明を行なう。本実施形態に係る車両の前部構造は、フロントピラー145と後側フロントピラー143とが側面窓枠を構成している車両におけるフロントピラー145の根元部145kの補強構造に関するものである。ここで、図中に示す前後左右、及び上下は、前記車両の前後左右、及び上下に対応している。
【0015】
<車両ボディ10の前部の概要について>
車両ボディ10の車室Rの左右両側には、
図1、
図2に示すように、フロントドア12により開閉されるフロントドア開口部13が設けられている。ここで、車両ボディ10は左右対称であり、
図1~
図6には、車両ボディ10の右側のみを記載し、左側は省略されている。車室Rの床部の左右両端には、
図2に示すように、車両前後方向に延びるロッカーレール11が設けられており、それらのロッカーレール11がフロントドア開口部13の下辺部を構成している。ロッカーレール11の前端部には、フロントドア開口部13の下側前縁部を構成するフロント下側支柱部140が立設されている。そして、フロント下側支柱部140の上端の後部にフロントドア開口部13の上側前縁部を構成する後側フロントピラー143の根元部143kが接続されている。また、フロント下側支柱部140の上端の前部には、フロントガラス18の窓枠を構成するフロントピラー145の根元部145kが接続されている。
【0016】
フロントピラー145の上端部と後側フロントピラー143の上端部とは、
図1、
図2に示すように、互いに接続されており、そのフロントピラー145と後側フロントピラー143とが車室Rの前部側面に固定される固定ガラス147の窓枠を構成している。また、左右のフロントピラー145、後側フロントピラー143によってルーフパネル16の前部が支持されている。フロントピラー145、及び後側フロントピラー143を支えるフロント下側支柱部140の車両前側には、
図2に示すように、前輪20f(
図4参照)を車幅方向に収納するホイールハウス20が形成されている。そして、ホイールハウス20の上側にエンジンルームERの側壁を構成するフレームであるアッパメンバ27が設けられている。アッパメンバ27は、
図2に示すように、車両前後方向に延びるように設けられており、そのアッパメンバ27の後端部が後側フロントピラー143の根元部とフロント下側支柱部140との接続位置に連結されている。
【0017】
フロントピラー145、後側フロントピラー143の根元部145k,143kと、フロント下側支柱部140と、アッパメンバ27とは、
図1に示すように、フェンダパネル15によって覆われている。そして、左右のフェンダパネル15の間には、車両のエンジンルームERを開閉可能に構成されたエンジンフード17が設けられている。また、エンジンフード17の後側でフロントピラー145とルーフパネル16とによって囲まれた位置には、フロントガラス18が設けられている。
【0018】
車両のエンジンルームER内には、
図4に示すように、左右両側位置に車両前後方向に延びるフロントサイドメンバ21が設けられている。そして、左右のフロントサイドメンバ21の車幅方向外側位置には、前輪20fを収納する上記したホイールハウス20が設けられている。ホイールハウス20は、
図2、
図3(
図2の反対側から見た側面図)、及び
図4に示すように、前側のエプロンパネル22と、そのエプロンパネル22の後側のサスタワー24とから構成されている。サスタワー24は、上端位置にショックアブソーバ24sの上端部が連結される天井部24tを備えており、ショックアブソーバ24sを介してサスペンション荷重を受けられるように構成されている。
【0019】
そして、サスタワー24の後端縁が、
図3等に示すように、エンジンルームERと車室Rとを仕切るダッシュパネル25に接続されている。
図3に示すように、サスタワー24の天井部24tとフロントピラー145の根元部145kとは、車両前後方向において同位置となるように位置決めされている。また、ホイールハウス20(エプロンパネル22、サスタワー24)の車幅方向外側には、
図4、
図5に示すように、エンジンルームER内の上部縦壁部を構成するアッパメンバ27が設けられている。そして、アッパメンバ27が上記したようにフェンダパネル15に覆われている。
【0020】
<アッパメンバ27について>
アッパメンバ27は、
図4に示すように、車幅方向外側のアウタパネル271と、車幅方向内側の上部インナパネル272、及び下部インナパネル273とから車両前後方向に延びる筒状に形成されている。即ち、アッパメンバ27には、アウタパネル271の上端フランジ部271uと上部インナパネル272の上端フランジ部272uが接続され、アウタパネル271の中央部と上部インナパネル272の下端フランジ部272dとが接続されることで、上部空間S1が形成される。また、アッパメンバ27には、アウタパネル271の下端フランジ部271dと下部インナパネル273の下端フランジ部273dが接続され、下部インナパネル273の上端フランジ部273uが上部インナパネル272の下部側面に接続されることで、下部空間S2が形成される。そして、前記下部空間S2が断面Z字形の補強パネル274によって上下に仕切られることで、アッパメンバ27の下部が補強されている。
【0021】
アッパメンバ27には、
図2、
図3に示すように、フロントピラー145の根元部145kの前下方で、サスタワー24の天井部24tの前上方に排水穴271hが形成されている。排水穴271hは、車幅方向に延びる溝状のカウルフロントパネル28(
図3等二点鎖線参照)に接続されている。これにより、フロントガラス18の表面に沿って流下する雨水がカウルフロントパネル28に受けられ、カウルフロントパネル28によって車両右側と車両左側とに導かれる。そして、カウルフロントパネル28によって車両両端部に導かれた雨水が前記排水穴271hによってアッパメンバ27の外側に排出される。
【0022】
<フロントピラー145の根元部145kの補強構造(車両の前部構造)について>
フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24tとは、上記したように、車両前後方向において同位置となるように配置されている。そして、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24tとの間には、
図3~
図6に示すように、アッパメンバ27の排水穴271hの後側位置に上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とが設置されている。上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とは、車両の前方衝突時にフロントピラー145の根元部145kに加わる荷重Ff(後記する)をサスタワー24の天井部24tに伝達するための部材である。ここで、
図3、
図6では、アッパメンバ27を構成する上部インナパネル272と下部インナパネル273等は省略されている。
【0023】
<上側荷重伝達部材60について>
上側荷重伝達部材60は、フロントピラー145の根元部145kから受けた荷重Ffをアッパメンバ27に伝達し、アッパメンバ27を介して下側荷重伝達部材50に伝える部材である。上側荷重伝達部材60は、
図4、
図5に示すように、アッパメンバ27の上部空間S1内に収納されている。上側荷重伝達部材60は、
図6等に示すように、上下方向に延びる突条状に形成されており、その上側荷重伝達部材60の上部がフロントピラー145の根元部145kに固定されている。上側荷重伝達部材60は、
図5に示すように、略山形に形成された前縦壁部63、及び後縦壁部64と、
図6、及び
図7(
図6の平断面図)に示すように、前後の縦壁部63,64をつなぐ傾斜壁部62とにより、平断面形状が略U字形に形成されている。
【0024】
上側荷重伝達部材60には、
図5、
図6に示すように、前後の縦壁部53,54の左端縁にそれぞれ縦フランジ部60fが折り曲げ形成されている。そして、上側荷重伝達部材60の縦フランジ部60fが、
図5に示すように、アッパメンバ27のアウタパネル271の内壁面に固定されている。また、上側荷重伝達部材60の傾斜壁部62は、
図4に示すように、前縦壁部63の形状に合わせて略山形に形成されており、その傾斜壁部62における山の頂部分(下部)がアッパメンバ27の上部インナパネル272の内壁面に固定されている。そして、上側荷重伝達部材60がアッパメンバ27のアウタパネル271の内壁面に固定された状態で、上側荷重伝達部材60は軸心が上下方向に延びる筒状に形成される。
【0025】
<下側荷重伝達部材50について>
下側荷重伝達部材50は、アッパメンバ27を介して上側荷重伝達部材60から受けた荷重をサスタワー24の天井部24tに伝達する部材である。下側荷重伝達部材50は、
図4、
図5に示すように、アッパメンバ27の上部インナパネル272、及び下部インナパネル273の縦壁面とサスタワー24の天井部24tとのコーナー部に設置されている。下側荷重伝達部材50は、
図5に示すように、台形状の前縦壁部53、及び後縦壁部54と、
図6、及び
図8に示すように、前後の縦壁部53,54をつなぐ傾斜壁部52とにより、平断面形状が略U字形に形成されている。そして、前後の縦壁部53,54と傾斜壁部52との上端に形成された上部開口が天井壁部55によって塞がれている。即ち、下側荷重伝達部材50は、前後の縦壁部53,54、傾斜壁部52、及び天井壁部55により略角錐台形に成形されている。
【0026】
下側荷重伝達部材50には、
図5、及び
図6に示すように、前後の縦壁部53,54の左端縁と天井壁部55の左端縁とに連続した周縁縦フランジ部50fが折り曲げ形成されている。そして、下側荷重伝達部材50の周縁縦フランジ部50fが、
図4、
図5に示すように、アッパメンバ27の上部インナパネル272、及び下部インナパネル273の縦壁面に固定される。下側荷重伝達部材50の周縁縦フランジ部50fがアッパメンバ27の上部インナパネル272、及び下部インナパネル273の縦壁面に固定された状態で、下側荷重伝達部材50は軸心が上下方向に延びる筒状に形成される。ここで、
図4、及び
図6に示すように、下側荷重伝達部材50の周縁縦フランジ部50fの上端部は、アッパメンバ27の上部インナパネル272を介して上側荷重伝達部材60の傾斜壁部62における山の頂部分と連結される。
【0027】
下側荷重伝達部材50には、
図5、及び
図6に示すように、前後の縦壁部53,54の下端縁に縦フランジ部53dが形成されており、傾斜壁部52の下端縁に水平フランジ部52fが形成されている。そして、下側荷重伝達部材50の縦フランジ部53dが、
図5に示すように、サスタワー24の天井部24tの側面に固定され、水平フランジ部52fがサスタワー24の天井部24tの上面に固定される。これにより、車両の前方衝突時にフロントピラー145の根元部145kに加わった荷重Ffを上側荷重伝達部材60、アッパメンバ27、及び下側荷重伝達部材50を介してサスタワー24の天井部24tで受けられるようになる。
【0028】
<フロントピラー145の根元部145kの補強構造の働きについて>
車両が前方衝突すると、
図2に示すように、衝突荷重Fb(黒矢印参照)は、フロントサイドメンバ21、及びロッカーレール11等で受けられて後方に伝達される。また、衝突荷重Fbは、アッパメンバ27等で受けられてフロント下側支柱部140と後側フロントピラー143の根元部143kとの接続部分から後側フロントピラー143によって後方に伝達される。また、車両が前方衝突することによる慣性力で車両後部が持ち上がり、前記慣性力に起因する荷重Ff(白矢印参照)がルーフパネル16等を介して前方のフロントピラー145に伝わる。これにより、フロントピラー145の根元部145kには、前記慣性力に起因する荷重Ffが集中的に加わるようになる。
【0029】
前述のように、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24tとは、車両前後方向において同位置となるように配置されている。そして、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24tとの間には、
図3~
図6に示すように、アッパメンバ27の排水穴271hの後側位置に上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とが設置されている。上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とは、車両の前方衝突時にフロントピラー145の根元部145kに加わる荷重Ffをサスタワー24の天井部24tに伝達できるように構成されている。即ち、フロントピラー145の根元部145kは、上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50を介してサスタワー24の天井部24tによって支えられている。これにより、フロントピラー145の根元部145kに対して荷重Ffが加わっても、フロントピラー145が変形し難くなる。この結果、後側フロントピラー143の根元部143kが前方に曲がるような変形を抑制できる。
【0030】
さらに、後側フロントピラー143とフロント下側支柱部140とにより車両の前方衝突荷重Fbを受ける構成のため、フロントピラー145に対して前方衝突荷重Fbが直接的に加わらなくなる。このため、フロントピラー145の軽量化が可能になる。
【0031】
<本実施形態で使用した用語と本発明の用語との対応>
本実施形態におけるサスタワー24の天井部24tが本発明のサスタワーの上部に相当する。また、アッパメンバ27が本発明の側壁部材、及びホイールハウス上側フレームに相当する。さらに、フロント下側支柱部140が本発明の下側支柱部に相当する。
【0032】
<本実施形態に係る車両の前部構造の長所について>
本実施形態に係る車両の前部構造によると、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24t(上部)間には、荷重の伝達が可能な上側荷重伝達部材60、下側荷重伝達部材50が設けられている。また、フロントピラー145の根元部145kは、サスタワー24と車両前後方向において同位置に配置されている。このため、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24t間の距離を従来と比較して小さくでき、上側荷重伝達部材60、下側荷重伝達部材50をコンパクトにできるとともに、フロントピラー145の根元部145kに加わる荷重Ffをサスタワー24の天井部24tで効率的に受けられるようになる。
【0033】
また、上側荷重伝達部材60がエンジンルームERの側壁を構成するアッパメンバ27(側壁部材)に収納されているため、上側荷重伝達部材60、下側荷重伝達部材50の設置スペースをコンパクト化できる。また、下側荷重伝達部材50と上側荷重伝達部材60とは、軸心が縦方向に延びる筒状に形成されているため、荷重伝達部材の上下方向における荷重伝達能力が向上する。また、後側フロントピラー143とフロント下側支柱部140(下側支柱部)とにより車両の前方衝突荷重Fbを受ける構成のため、フロントピラー145に対して前方衝突荷重Fbが直接的に加わらなくなり、フロントピラー145を従来よりも軽量化できる。
【0034】
<変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、フロントピラー145の根元部145kとサスタワー24の天井部24t(上部)間に上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とを設ける例を示した。しかし、上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とを一体化することも可能である。また、本実施形態では、上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とを平断面形状略U字形に形成し、アッパメンバ27に固定することで角筒状にする例を示した。しかし、上側荷重伝達部材60と下側荷重伝達部材50とを角筒状、あるいは箱形に成形することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
18・・・・フロントガラス
24・・・・サスタワー
24t・・・天井部(上部)
27・・・・アッパメンバ(側壁部材、ホイールハウス上側フレーム)
50・・・・下側荷重伝達部材
60・・・・上側荷重伝達部材
140・・・フロント下側支柱部(下側支柱部)
143・・・後側フロントピラー
143k・・根元部
145・・・フロントピラー
145k・・根元部
ER・・・・エンジンルーム