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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】判別装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230808BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230808BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D119:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020142108
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037789
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元哉
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006806(JP,A)
【文献】特開2012-130543(JP,A)
【文献】特開2020-006844(JP,A)
【文献】特開2018-075849(JP,A)
【文献】特開2017-024512(JP,A)
【文献】特開2014-035279(JP,A)
【文献】特開2002-104223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワーステアリングのステアリングホイールに運転者が接触しているハンズオン状態と、当該ステアリングホイールに運転者が接触していないハンズオフ状態とを判別するための判別装置において、
前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクと当該操舵トルクを検出した検出時刻とを関連付けて取得し、前記ステアリングホイールの操舵角と、前記操舵角を検出した検出時刻とを関連付けて取得する取得部と、
前記操舵トルクと、当該操舵トルクの前記検出時刻に最も近い前記検出時刻に関連付けて前記取得部が取得した前記操舵角とに基づいて、運転者が前記ステアリングホイールに加えたドライバ入力トルクの暫定推定値を観測ノイズ及びシステムノイズに基づくイノベーションゲインを含む状態方程式により算出し、算出した前記暫定推定値に非線形な摩擦トルク損を加算又は減算することにより前記ドライバ入力トルクの推定値を決定する推定部と、
前記推定部が前記ドライバ入力トルクの推定に用いた前記操舵トルクの前記検出時刻に基づいて、所定の時間ごとの前記ドライバ入力トルクの前記推定値を含む複数の時系列データを生成する生成部と、
前記複数の時系列データを含む入力データを前記ハンズオン状態と前記ハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する判別部と、
を備える判別装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記ステアリングホイールの操舵角と、当該操舵角を検出した検出時刻と、を関連付けて取得し、
前記生成部は、前記取得部が取得した操舵トルクと、前記操舵トルクの前記検出時刻に最も近い前記検出時刻に関連付けられた前記操舵角と、当該操舵トルクの前記検出時刻とに基づいて、前記時系列データを生成する、
請求項1に記載の判別装置。
【請求項3】
前記判別部は、学習済みのサポートベクトルマシンに前記時系列データを入力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態に当該時系列データを分類したかを示す情報を当該サポートベクトルマシンに出力させ、当該サポートベクトルマシンが分類したとおりに、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であるか前記ハンズオフ状態であるかを判別する、
請求項1又は2に記載の判別装置。
【請求項4】
前記判別部は、学習済みのサポートベクトルマシンに前記入力データを入力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態に当該入力データを分類したかを示す情報を当該サポートベクトルマシンに出力させ、当該サポートベクトルマシンが分類したとおりに、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であるか前記ハンズオフ状態であるかを判別する、
請求項に記載の判別装置。
【請求項5】
前記判別部は、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを所定期間ごとに判別し、
前記判別部の判別結果に基づいて、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを示す情報を出力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であることを示す情報を出力している状態において前記判別部がハンズオフ状態であると所定回数を超えて繰り返し判別した場合に、前記ハンズオフ状態であることを示す情報を出力する出力部をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の判別装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリングホイールに運転者が接触しているハンズオン状態と、このステアリングホイールに運転者が接触していないハンズオフ状態とを判別するための判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動操舵機能を有する車両では、自動操舵機能のオンオフを切り替えるために、車両のステアリングホイールに運転者が接触しているハンズオン状態であるか、ステアリングホイールに運転者が接触していないハンズオフ状態であるかを判別することが行われている。例えば、特許文献1は、ステアリングホイールの操舵トルクの絶対値が閾値より大きな状態から閾値より小さい状態に遷移し、遷移後に所定時間を経過したときにハンズオフ状態に至ったと判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-104223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、操舵トルクが閾値以下であることを検出してから所定時間経過後にハンズオフ状態であると判別することから、ハンズオフ状態であると判別するまでに要する時間が長くなるというという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ハンズオフ状態であるかハンズオン状態であるかを判別するのに要する時間を短縮することができる判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の判別装置は、車両のパワーステアリングのステアリングホイールに運転者が接触しているハンズオン状態と、当該ステアリングホイールに運転者が接触していないハンズオフ状態とを判別するための判別装置において、前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクと当該操舵トルクを検出した検出時刻とを関連付けて取得する取得部と、前記取得部が取得した操舵トルク及び前記検出時刻に基づいて、所定の時間ごとの前記操舵トルクの値を含む複数の時系列データを生成する生成部と、前記複数の時系列データを前記ハンズオン状態と前記ハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する判別部と、を備える。
【0007】
前記取得部は、前記ステアリングホイールの操舵角と、当該操舵角を検出した検出時刻と、を関連付けて取得し、前記生成部は、前記取得部が取得した操舵トルクと、前記操舵トルクの前記検出時刻に最も近い前記検出時刻に関連付けられた前記操舵角と、当該操舵トルクの前記検出時刻とに基づいて、前記時系列データを生成してもよい。前記判別部は、学習済みのサポートベクトルマシンに前記時系列データを入力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態に当該時系列データを分類したかを示す情報を当該サポートベクトルマシンに出力させ、当該サポートベクトルマシンが分類したとおりに、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であるか前記ハンズオフ状態であるかを判別してもよい。
【0008】
本発明の第2の態様の判別装置は、車両のパワーステアリングのステアリングホイールに運転者が接触しているハンズオン状態と、当該ステアリングホイールに運転者が接触していないハンズオフ状態とを判別するための判別装置において、前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクと当該操舵トルクを検出した検出時刻とを関連付けて取得し、前記ステアリングホイールの操舵角と、前記操舵角を検出した検出時刻とを関連付けて取得する取得部と、前記操舵トルクと、当該操舵トルクの前記検出時刻に最も近い前記検出時刻に関連付けて前記取得部が取得した前記操舵角とに基づいて、運転者が前記ステアリングホイールに加えたドライバ入力トルクを推定する推定部と、前記推定部が推定した前記ドライバ入力トルク及び前記ドライバ入力トルクの推定に用いた前記操舵トルクの前記検出時刻に基づいて、所定の時間ごとの前記ドライバ入力トルクの値を含む複数の時系列データを生成する生成部と、前記複数の時系列データを含む入力データを前記ハンズオン状態と前記ハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する判別部と、を備える。
【0009】
前記判別部は、学習済みのサポートベクトルマシンに前記入力データを入力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態に当該入力データを分類したかを示す情報を当該サポートベクトルマシンに出力させ、当該サポートベクトルマシンが分類したとおりに、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であるか前記ハンズオフ状態であるかを判別してもよい。
【0010】
前記判別部は、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを所定期間ごとに判別し、前記判別部の判別結果に基づいて、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態及び前記ハンズオフ状態のどちらの状態であるかを示す情報を出力し、前記ステアリングホイールが前記ハンズオン状態であることを示す情報を出力している状態において前記判別部がハンズオフ状態であると所定回数を超えて繰り返し判別した場合に、前記ハンズオフ状態であることを示す情報を出力する出力部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハンズオフ状態であるかハンズオン状態であるかを判別するのに要する時間を短縮するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態にかかる自動操舵システムの構成例を示す。
図2】第1の実施形態にかかる判別装置の構成例を示す。
図3】ステアリングホイールがハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判別部141が判別するために用いるサポートベクトルマシンの例を示す図である。
図4】サポートベクトルマシンによる学習時の入力ベクトルの特徴空間の次元拡張の様子を示す。
図5】変形例による出力部の動作を示す図である。
図6】第1の実施形態の判別装置による自動操舵又は手動操舵の処理手順を示すフローチャートである。
図7】第3の実施形態の判別装置の構成を示す図である。
図8】第3の実施形態の判別装置による自動操舵又は手動操舵の処理手順を示すフローチャートである。
図9】変形例の判別装置と、従来の判別装置とが出力した出力情報の内容を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施形態>
[自動操舵システム10の構成例]
図1は、第1の実施形態にかかる自動操舵システム10の構成例を示す。自動操舵システム10は、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるシステムである。自動操舵システム10は、車両のパワーステアリング20と、判別装置100とを備える。
【0014】
パワーステアリング20は、運転者がステアリングホイールをスムーズに操舵できるように、ステアリングホイールの回転動作を補助する。これにより、運転者は、より小さい入力トルクでステアリングホイールを操舵することができる。パワーステアリング20は、ステアリングホイール21、モータ22、ウォーム23、ウォームホイール24、第1トーションバー25、第2トーションバー26、アクチュエータ27、車輪28、第1検出器31、及び第2検出器32を有する。
【0015】
運転者は、環状のステアリングホイール21を操作することにより車両の進行方向を調整する。ここで、ステアリングホイール21の角度を操舵角とする。また、車両のパワーステアリング20のステアリングホイール21に運転者が接触している状態をハンズオン状態とし、このステアリングホイール21に運転者が接触していない状態をハンズオフ状態とする。
【0016】
モータ22は、入力する駆動信号に応じてステアリングホイール21を駆動する。駆動信号は、例えば、モータ22に流す電流値を指定する信号である。モータ22は、ウォーム23を回転させ、ウォーム23とかみ合うウォームホイール24を回転させる。ウォームホイール24の軸の一方の端部は、第1トーションバー25を介してステアリングホイール21に接続されている。
【0017】
ウォームホイール24の軸の一方の端部とは反対側の端部は、第2トーションバー26を介してアクチュエータ27に接続されている。アクチュエータ27は、ウォームホイール24から伝わる力に応じて、車輪28の角度を変更する。アクチュエータ27は、一例として、油圧アクチュエータである。
【0018】
第1検出器31は、ステアリングホイール21にかかる操舵トルクを検出する。第1検出器31は、例えば、第1トーションバー25に設けられており、第1トーションバー25の復元力を操舵トルクとして検出する。第1検出器31は検出した操舵トルクと、この操舵トルクを検出した検出時刻とを判別装置100へ通知する。本実施形態において、第1検出器31が検出する操舵トルクをTとする。
【0019】
第2検出器32は、ステアリングホイール21の操舵角を検出する。第2検出器32は、例えば、ステアリングホイール21に設けられており、車両を直進させるステアリングホイール21の操舵角を基準とした角度を操舵角として検出する。一例として、基準の角度は0度である。これに代えて、第2検出器32は、モータ22に設けられていてもよい。この場合、第2検出器32は、例えば、モータ22がウォーム23を回転させている角度を検出し、検出された角度に対応するステアリングホイール21の角度を操舵角として出力する。第2検出器32は、検出した操舵角と、この操舵角を検出した検出時刻とを判別装置100へ通知する。本明細書中において、第2検出器32が検出する操舵角をθとする。
【0020】
判別装置100は、例えば、パワーステアリング20を制御するパワーステアリング制御装置である。判別装置100は、例えば、車両に搭載されているECU(Engine Control Unit)等から目標操舵角の情報を取得する。判別装置100は、ECUから取得する目標操舵角と、パワーステアリング20から取得する操舵トルクと、取得する操舵角とに基づき、モータ22を駆動させるための駆動信号をモータ22に供給する。
【0021】
判別装置100は、ステアリングホイール21のハンズオン状態とハンズオフ状態とを判別する。判別装置100は、パワーステアリング20から取得した操舵トルクと、この操舵トルクの検出時刻とを関連付けて取得する。判別装置100は、取得した操舵トルク及び検出時刻に基づいて、所定時間ごとの操舵トルクの値を含む複数の時系列データを生成する。詳細については後述するが、判別装置100は、生成した時系列データをハンズオン状態とハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する。このようにして、判別装置100は、例えば、操舵トルクが閾値以下であることを検出してから所定時間経過後にハンズオフ状態であると判別する判別装置(特許文献1参照)と比較して、ハンズオフ状態であると判別するのに要する時間を短縮することができる。
【0022】
[判別装置100の構成]
図2は、第1の実施形態にかかる判別装置100の構成例を示す。判別装置100は、ハンズオン状態において、運転者によるステアリングホイール21の操作を補助するようにパワーステアリング20を制御する。判別装置100は、ハンズオフ状態において、ステアリングホイール21の操舵角が目標操舵角となるようにパワーステアリング20を制御する。判別装置100は、取得部110と、記憶部120と、生成部130と、フィードバック部140と、制御部150とを備える。
【0023】
取得部110は、車両のステアリングホイール21にかかる操舵トルクを車両のパワーステアリング20から取得する。取得部110は、例えば、第1検出器31から操舵トルクを取得する。取得部110は、取得した操舵トルクに関連付けて、この操舵トルクを第1検出器31が検出した検出時刻を取得する。また、取得部110は、第1検出器31が検出してデータベース等に記憶した操舵トルクを、当該データベースから取得してもよい。この場合、取得部110は、ネットワークを介して操舵トルクの情報を取得してもよい。
【0024】
取得部110は、ステアリングホイール21の操舵角をパワーステアリング20から取得する。取得部110は、例えば、第2検出器32から操舵角と、この操舵角を第2検出器32が検出した検出時刻とを取得する。また、取得部110は、第2検出器32が検出してメモリ(例えば記憶部120)に記憶した操舵角を、当該メモリから取得してもよい。この場合、取得部110は、ネットワークを介して操舵角の情報を取得してもよい。
【0025】
記憶部120は、判別装置100が動作の過程で生成する(又は利用する)中間データ、算出結果、閾値、及びパラメータ等を記憶する。例えば、記憶部120は、取得部110が取得した操舵トルクと、操舵トルクの検出時刻とを関連付けて記憶する。記憶部120は、取得部110が取得した操舵角と、操舵角の検出時刻とを記憶する。また、記憶部120は、目標操舵角に関連付けて操舵トルク及び操舵角の値を記憶してもよい。記憶部120は、判別装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0026】
記憶部120は、コンピュータが判別装置100として動作する場合、判別装置100として機能するOS(Operating System)、及びプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部120は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部120に記憶されたプログラムを実行することによって、判別装置100として機能する。
【0027】
記憶部120は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、及び作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部120は、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等をさらに備えてもよい。
【0028】
生成部130は、取得部110が取得した操舵トルク、及びこの操舵トルクを第1検出器31が検出した検出時刻に基づいて、所定の時間ごとの操舵トルクの値を含む複数の時系列データを生成する。時系列データは、例えば、ベクトルやテンソルである。所定の時間は、例えば、第1検出器31が操舵トルクを検出する周期である。生成部130は、10分の1秒間~数秒間ごとに時系列データを生成する。生成部130は、生成した時系列データをフィードバック部140へ出力する。
【0029】
フィードバック部140は、取得部110が取得した操舵トルク及び操舵角に基づいて、フィードバック信号を生成する。フィードバック部140は、例えば、ステアリングホイールがハンズオン状態かハンズオフ状態であるかを判別し、判別結果に応じたフィードバック信号を生成する。フィードバック部140は、判別部141と、出力部142と、信号生成部143とを有する。
【0030】
[ハンズオン状態とハンズオフ状態との判別]
判別部141は、複数の時系列データをハンズオン状態とハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する。判別部141は、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを所定期間ごとに判別する。所定期間は、一例としては、生成部130が時系列データを生成する周期である。
【0031】
第1の実施形態では、判別部141は、学習済みのサポートベクトルマシンに生成部130が生成した時系列データを入力し、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態にこの時系列データを分類したかを示す情報をサポートベクトルマシンに出力させる。
【0032】
図3(a)及び図3(b)は、ステアリングホイール21がハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判別部141が判別するために用いるサポートベクトルマシンの例を示す図である。図3(a)は、サポートベクトルマシンの学習時の様子を示し、図3(b)は、学習済みのサポートベクトルマシンによる時系列データの分類の様子を示す。
【0033】
図3(a)は、学習用の時系列データの特徴空間上の分布の例を示す。特徴空間は、時系列データに含まれる複数の操舵トルクのそれぞれに対応する座標軸を有する。特徴空間は、後述する特徴空間の次元拡張が行われた場合には、時系列データに含まれる操舵トルクの数よりも多い座標軸を有する。図3の白丸は、ハンズオフ状態に対応する時系列データのベクトル(以下、入力ベクトルともいう)を示し、図3の黒丸は、ハンズオン状態に対応する入力ベクトルを示す。
【0034】
サポートベクトルマシンは、ハンズオフ状態に対応する入力ベクトルの集合と、ハンズオン状態に対応する入力ベクトルの集合とを線形分離する線形関数である超平面を特定する。サポートベクトルマシンは、特徴空間がn個の座標軸を有する場合に、n-1次元の超平面を特定する。サポートベクトルマシンが特定した超平面を平行四辺形で仮想的に示す。
【0035】
複数の入力ベクトルのうち、超平面に最も近い入力ベクトルをサポートベクトルとする。ハンズオン状態に対応するサポートベクトルと、ハンズオフ状態に対応するサポートベクトルとをそれぞれ示す。2つのサポートベクトルと超平面との距離をマージンとしてそれぞれ両矢印で示す。サポートベクトルマシンは、学習用の入力ベクトルを用いた学習においてマージンを最大化する超平面を特定する。
【0036】
学習済みのサポートベクトルマシンは、生成部130が生成した時系列データを学習時に特定した超平面により分類する。例えば、サポートベクトルマシンは、図3(b)において超平面の左側にプロットされる三角印の入力ベクトルを、ハンズオン状態を示しているベクトルに分類する。一方、学習済みのサポートベクトルマシンは、図3(b)において超平面の右側にプロットされる入力ベクトルを、ハンズオフ状態を示しているベクトルに分類する。なお、図3は超平面の一例であり、本形式に限定しない。例えば、多次元空間を線形分離する超平面でもよい。
【0037】
[特徴空間の次元拡張]
図4(a)及び図4(b)は、サポートベクトルマシンによる学習時の入力ベクトルの特徴空間の次元拡張の様子を示す。図4(a)は、次元拡張前の学習用の入力ベクトルの特徴空間上の分布を示し、図4(b)は、次元拡張後の入力ベクトルの特徴空間上の分布を示す。
【0038】
図4(a)の例では、ハンズオン状態に対応する入力ベクトル(黒丸)と、ハンズオフ状態に対応する入力ベクトル(白丸)とは、特徴空間において線形分離が困難な分布を示すものとする。このとき、サポートベクトルマシンは、入力ベクトルをより高次元の特徴空間に写像する。例えば、入力ベクトルがm個の操舵トルクの値をベクトル成分として含むm次元データであるものとする。サポートベクトルマシンは、入力ベクトルを(m+1)次元以上の特徴空間に写像する。図4(b)に示すように、次元拡張後の特徴空間では、ハンズオン状態に対応する入力ベクトル(黒丸)と、ハンズオフ状態に対応する入力ベクトル(白丸)とを超平面により線形分離することが可能になる。
【0039】
サポートベクトルマシンは、学習時にマージンを最大化する。このため、ハンズオン状態に対応する入力ベクトルが、特徴空間においてハンズオフ状態に対応する位置にプロットされる可能性は比較的小さい。このため、学習済みのサポートベクトルマシンは、ハンズオン状態に対応する時系列データと、ハンズオフ状態に対応する時系列データとを精度よく分類することができる。
【0040】
判別部141は、サポートベクトルマシンが分類したとおりに、ステアリングホイール21がハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判別する。判別部141は、判別結果を出力部142に通知する。なお、図2において、フィードバック部140が判別部141を有する例を示したが、フィードバック部140と判別部141とは判別装置100において独立に設けられていてもよい。また、判別部141は、ランダムフォレスト等のサポートベクトルマシン以外の機械学習の手法を用いて、ステアリングホイール21がハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判別してもよい。
【0041】
[判別結果を直ちに出力する例]
出力部142は、判別部141の判別結果に基づいて、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを示す出力情報を出力する。例えば、出力部142は、判別部141の判別結果を取得すると、この判別結果を出力情報として信号生成部143へ直ちに出力する。
【0042】
[判別回数が閾値を超えた場合に出力情報を出力する変形例1]
また、出力部142は、ステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す情報を出力している状態において判別部141がハンズオフ状態であると所定回数を超えて繰り返し判別した場合に、ハンズオフ状態であることを示す情報を信号生成部143へ出力してもよい。
【0043】
図5は、本変形例による出力部142の動作を示す図である。出力部142は、図5の動作1から動作4に示すいずれかの処理を行う。図5の破線に示すように、出力部142は、初期状態において動作1又は動作2の処理を開始する。
【0044】
初期状態において判別部141が動作2の処理を開始するものと仮定する。出力部142は、動作2においてハンズオン状態であることを示す出力情報を信号生成部143へ出力する。
【0045】
図5中のTは、カウント時間を示す。カウント時間の初期値は0である。出力部142は、動作2においてステアリングホイール21がハンズオフ状態であると判別部141が判別すると、動作2から動作4に遷移する。一方、出力部142は、動作2においてステアリングホイール21がハンズオン状態であると判別部141が判別すると、動作2にとどまる。出力部142は、動作4において動作2と同様に、ハンズオン状態であることを示す出力情報を信号生成部143へ出力する。
【0046】
動作4のTs1は、1制御周期中にカウント時間Tをどの程度加算するかを示す。出力部142は、動作4においてステアリングホイール21がハンズオフ状態であると判別部141が判定する度に、カウント時間TにTs1を加算する(T=T+Ts1)。
【0047】
一例としては、1制御周期が0.1秒であり、Ts1が2であるものとする。このとき、ステアリングホイール21がハンズオフ状態であるかハンズオフであるかの判定が1秒間に1/0.1=10回行われる。出力部142は、10回の判定においてステアリングホイール21がいずれもハンズオフ状態であると判別部141が判別した場合には、カウント時間Tに2×10=20を加算する。
【0048】
一方、出力部142は、動作4においてステアリングホイール21がハンズオン状態であると判別部141が判定すると、カウント時間Tを初期化して(T=0)、動作4から動作2に遷移する。出力部142は、動作4においてカウント時間Tcが閾値βより大きくなると(T>β)、動作1に移行する。例えば、閾値βは、運転者がステアリングホイール21を操作して操舵トルクが一時的に変動した場合に、ハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力部142が誤って出力することを抑制するための値である。出力部142は、動作1に移行する際にカウント時間Tを初期化する(T=0)。
【0049】
出力部142は、動作1及び動作3においてハンズオフ状態であることを示す出力情報を信号生成部143へ出力する。出力部142は、動作1においてステアリングホイール21がハンズオン状態であると判別部141が判別した場合に、動作1から動作3に遷移する。一方、出力部142は、動作1においてステアリングホイール21がハンズオフ状態であると判別部141が判別した場合に、動作1にとどまる。動作3のTs2は、1制御周期中にカウント時間Tをどの程度加算するかを示す。出力部142は、動作3においてステアリングホイール21がハンズオン状態であると判別部141が判定する度に、カウント時間TにTs2を加算する(T=T+Ts2)。
【0050】
一方、出力部142は、動作3においてステアリングホイール21がハンズオフ状態であると判別部141が判定すると、カウント時間Tを初期化し(T=0)、動作3から動作1に遷移する。出力部142は、動作3においてカウント時間Tが閾値γより大きくなると(T>γ)、動作2に移行する。例えば、閾値γは、ノイズ等の影響によりハンズオン状態であることを示す出力情報を出力部142が誤って出力することを抑制するための値である。
【0051】
出力部142は、判別部141がハンズオフ状態であると繰り返し判別することによりカウント時間Tが閾値βを超えた場合に、ハンズオフ状態であることを示す情報を出力する。このようにして、出力部142は、運転者がステアリングホイール21を操作すると操舵トルクが一時的に変動した等の理由により判別部141がハンズオフ状態であると誤って判別したとしても、ハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力することを抑制することができる。
【0052】
出力部142は、判別部141がハンズオン状態であると繰り返し判別することによりカウント時間Tが閾値γを超えた場合に、ハンズオン状態であることを示す出力情報を出力する。このようにして、出力部142は、ノイズ等の影響によりハンズオン状態であると判別部141が誤って判別したとしても、ハンズオン状態であることを示す出力情報を出力することを抑制することができる。
【0053】
信号生成部143は、出力部142が出力したステアリングホイール21の状態に対応するフィードバック信号を生成する。信号生成部143は、例えば、ステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す出力情報を出力部142が出力したことに応じて、フィードバック信号を生成する。信号生成部143は、例えば、取得部110が取得した操舵トルク及び操舵角に応じたフィードバック信号を生成する。フィードバック信号は、例えば、目標操舵角の修正値、パワーステアリング20の自動操舵の停止信号、及びパワーステアリング20の自動操舵の開始信号を含む。
【0054】
制御部150は、フィードバック信号とステアリングホイール21の目標操舵角とに基づき、パワーステアリング20のモータ22を制御する。制御部150は、例えば、目標操舵角に対応する駆動信号を生成してモータ22に供給する。制御部150には、パワーステアリング20から取得した操舵トルク及び操舵角の値がフィードバックされることが望ましい。この場合、制御部150は、目標操舵角、操舵トルク、及び操舵角に基づいて、モータ22を駆動する駆動信号を生成する。本明細書中において、このような制御部150の制御動作を自動操舵とする。
【0055】
また、制御部150は、フィードバック信号に基づき、このような自動操舵を開始、継続、又は停止する。制御部150は、自動操舵を停止した場合、フィードバック信号に基づいて目標操舵角を修正する。この場合、制御部150は、修正された目標操舵角に対応する駆動信号を生成してモータ22に供給する。制御部150は、修正された目標操舵角と、フィードバックされた操舵トルク及び操舵角とに基づいて、モータ22を駆動する駆動信号を生成することが望ましい。本明細書中において、このような制御部150の制御動作を手動操舵とする。
【0056】
[判別装置100による自動操舵又は手動操舵の処理手順]
図6は、第1の実施形態の判別装置100による自動操舵又は手動操舵の処理手順を示すフローチャートである。判別装置100は、図6のS101からS112の動作を実行することにより、パワーステアリング20を制御して、ステアリングホイール21を適切に操舵する。この処理手順は、例えば、判別装置100の操作受付部(不図示)が運転者によるイグニッションキーのオン操作を受け付けたときに開始する。
【0057】
まず、制御部150は、目標操舵角を取得する(S101)。制御部150は、例えば、ECUから供給される目標操舵角を取得する。次に、制御部150は、目標操舵角に応じたモータ22の駆動信号を生成して(S102)、パワーステアリング20に供給する。制御部150は、操舵トルク及び操舵角のフィードバックがある場合は、目標操舵角、操舵トルク、及び操舵角に基づく駆動信号を生成してもよい。
【0058】
次に、取得部110は、車両のステアリングホイール21にかかる操舵トルクと、この操舵トルクが検出された検出時刻とを第1検出器31から取得する(S103)。取得部110は、ステアリングホイール21の操舵角を第2検出器32から取得する(S104)。操舵トルク及び操舵角を検出する検出時刻及びサンプリング時間は、略同一であることが望ましい。生成部130は、取得部110が取得した操舵トルク及びこの操舵トルクの検出時刻に基づいて、所定の時間ごとの操舵トルクの値を含む複数の時系列データを生成する(S105)。
【0059】
判別部141は、学習済みのサポートベクトルマシン(SVM)に生成部130が生成した時系列データを入力し(S106)、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態にこの時系列データを分類したかを示す情報をサポートベクトルマシンに出力させる。
【0060】
次に、判別部141は、サポートベクトルマシンが時系列データをハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態に分類したかを判定する(S107)。判別部141は、サポートベクトルマシンが時系列データをハンズオフ状態であると分類したことを示す情報を出力した場合(S107のNo)、ステアリングホイール21がハンズオフ状態であると判別する。信号生成部143は、自動操舵のフィードバック信号を生成する(S108)。信号生成部143は、例えば、自動操舵の開始を指示する開始信号をフィードバック信号として生成する。また、信号生成部143は、前回のフィードバック信号が自動操舵の開始信号だった場合、自動操舵の継続を指示する継続信号をフィードバック信号として生成してもよい。信号生成部143は、生成したフィードバック信号を制御部150に供給する。
【0061】
制御部150は、自動操舵の開始信号又は継続信号を受け取ったことに応じて、パワーステアリング20を制御してステアリングホイール21を自動操舵する(S109)。制御部150は、例えば、目標操舵角と検出された操舵角との角度偏差に基づいて、ステアリングホイール21の操舵角を変更する変更角度を算出する。この場合、制御部150は、一例として、PID制御を実行して変更角度を算出する。そして、制御部150は、変更角度と操舵角とに基づいて、モータ22がステアリングホイール21を変更角度だけ回転させるための駆動信号を生成する。制御部150は、パワーステアリング20に、生成した駆動信号を供給する。
【0062】
そして、制御部150は、次の目標操舵角を取得して(S110)、S103に戻る。以上のように、第1の実施形態にかかる判別装置100は、運転者がステアリングホイール21に接触しない場合、S103からS110の動作を繰り返し、目標操舵角に応じた自動操舵を継続する。
【0063】
一方、判別部141は、S107の判定においてサポートベクトルマシンが時系列データをハンズオン状態であると分類したことを示す情報を出力した場合(S107のYes)、ステアリングホイール21がハンズオン状態であると判別する。信号生成部143は、手動操舵のフィードバック信号を生成する(S111)。信号生成部143は、例えば、自動操舵の停止を指示する停止信号をフィードバック信号として生成する。また、信号生成部143は、前回のフィードバック信号が自動操舵の停止信号だった場合、手動操舵の継続を指示する継続信号をフィードバック信号として生成してもよい。
【0064】
そして、信号生成部143は、操舵トルクの値に対応する目標操舵角の修正値をフィードバック信号として生成する。例えば、記憶部120には、操舵トルクの値と目標操舵角の修正値との対応テーブルが記憶されていてよく、信号生成部143は、このような対応テーブルを読み出して対応する目標操舵角の修正値をフィードバック信号とする。これに代えて、信号生成部143は、予め算出された関数等に操舵トルクの値を代入して、目標操舵角の修正値を算出してもよい。信号生成部143は、生成したフィードバック信号を制御部150に供給する。
【0065】
制御部150は、自動操舵の停止信号又は手動操舵の継続信号を受け取ったことに応じて、フィードバック信号を用いてパワーステアリング20を制御してステアリングホイール21を手動操舵する(S112)。制御部150は、例えば、目標操舵角を修正値だけ修正し、修正された目標操舵角と検出された操舵角との角度偏差に基づいて、ステアリングホイール21の操舵角を変更する変更角度を算出する。そして、制御部150は、変更角度と操舵角とに基づいて、モータ22がステアリングホイール21を変更角度だけ回転させるための駆動信号を生成する。制御部150は、パワーステアリング20に、生成した駆動信号を供給する。そして、制御部150は、次の目標操舵角を取得して(S110)、S103に戻る。
【0066】
[第1の実施形態の判別装置による効果]
判別部141は、生成した時系列データをハンズオン状態とハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する。このようにして、判別部141は、例えば、操舵トルクが閾値以下であることを検出してから所定時間経過後にハンズオフ状態であると判別する判別装置(特許文献1参照)と比較して、ハンズオフ状態であると判別するのに要する時間を短縮することができる。
【0067】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、生成部130は、操舵トルク及び操舵角に基づいて、時系列データを生成する場合の例について説明する。取得部110は、操舵トルクと、この操舵トルクを第1検出器31が検出した検出時刻とを関連付けて第1検出器31から取得する。取得部110は、取得した操舵トルクと検出時刻とを関連付けて記憶部120に記憶させる。
【0068】
取得部110は、ステアリングホイール21の操舵角と、この操舵角を第2検出器32が検出した検出時刻とを関連付けて第2検出器32から取得する。取得部110は、取得した操舵角と検出時刻とを関連付けて記憶部120に記憶させる。
【0069】
生成部130は、操舵トルクと、この操舵トルクの検出時刻に最も近い検出時刻に関連付けられた操舵角と、この操舵トルクの検出時刻とを記憶部120から読み出す。生成部130は、読み出した操舵トルク、操舵角及び操舵トルクの検出時刻に基づいて、所定の時系列データを生成する。所定の時系列データは、操舵トルクの所定時間ごとの値と、操舵トルクのそれぞれの値に対応する操舵角の値とを含む。
【0070】
判別部141は、学習済みのサポートベクトルマシンに生成部130が生成した時系列データを入力し、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態にこの時系列データを分類したかを示す情報をサポートベクトルマシンに出力させる。判別部141は、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のうち、サポートベクトルマシンが出力した情報が示す状態であると判別する。このようにして、判別部141は、操舵トルクと操舵角との両方の値を含む時系列データを学習済みのサポートベクトルマシンに入力するので、サポートベクトルマシンによる時系列データの分類の精度をより向上させることができる。
【0071】
<第3の実施形態>
第3の実施形態では、運転者がステアリングホイール21に加えたドライバ入力トルクを推定する場合の例について説明する。図7は、第3の実施形態の判別装置200の構成を示す図である。判別装置200は、図2の各機能ブロックに加えて、推定部210を備える点において第1の実施形態の判別装置100と異なる。図2と同じ機能ブロックには、図2と同じ符号を付して説明を省略する。
【0072】
推定部210は、操舵トルクと、この操舵トルクの検出時刻に最も近い検出時刻に関連付けて取得部110が取得した操舵角とに基づいて、運転者がステアリングホイールに加えたドライバ入力トルクを推定する。推定部210は、方程式算出部211及び推定値算出部212を備える。
【0073】
方程式算出部211は、ステアリングホイール21の運動方程式から変換された状態方程式に操舵トルク及び操舵角を適用した微分方程式を算出する。ステアリングホイール21の運動方程式は、一例として、次式のように示される。
【数1】
【0074】
ここで、ドライバ入力トルクをT、時間をtとした。また、(数1)式の左辺第1項は慣性項であり、Iを慣性係数とした。(数1)式の左辺第2項は粘性項であり、Cを粘性係数とした。(数1)式の左辺には、更に重力項等が加わってもよい。また、Tの符号が正負反転する場合がある。
【0075】
(数1)式に示すような運動方程式は、次式で示す状態方程式に変換することができる。ここで、Xは、Xの転置行列である。ただし、ドライバ入力トルクは定常値と仮定する。
【数2】
【0076】
なお、(数2)式において、wは観測ノイズを示し、vはシステムノイズを示す。観測ノイズ及びシステムノイズは、例えば、白色雑音等の時変の値として仮定される。もしくはイノベーションゲインM導出の設計要素として一定値としてもかまわない。
【0077】
(数2)式に示す状態方程式は、観測ノイズ及びシステムノイズに基づくイノベーションゲインMを含む状態方程式として次式のように表現できる。
【数3】
【0078】
方程式算出部211は、(数3)式のようにイノベーションゲインMを含む状態方程式に、車両を運転中に観測された操舵トルク及び操舵角を代入した方程式を算出する。方程式算出部211は、例えば、次式のリカッチ微分方程式を用いてイノベーションゲインMを算出する。
【数4】
【0079】
ここで、Qは観測ノイズWの共分散行列であり、Rはシステムノイズvの共分散行列である。また、Pは誤差の共分散行列である。Pが収束するのであれば、(A,D)が可制御、(A,C)が可観測、W及びvが正定となり、方程式算出部211は、次式を用いてPを算出することができ、結果として、次式のようにイノベーションゲインMを算出できる。第3の実施形態ではQとRをイノベーションゲインM導出の設計要素として、あらかじめ設計者が調整するパラメータとして扱う。
【数5】
【0080】
そして、方程式算出部211は、算出したイノベーションゲインMを(数3)式に代入して、状態xに対する方程式を算出する。
【0081】
推定値算出部212は、算出された方程式を解くことにより、ステアリングホイール21に加わったドライバ入力トルクの推定値を算出する。推定値算出部212は、例えば、オイラー法等の数値計算により、微分方程式の解を算出する。この場合、推定値算出部212は、操舵トルク及び操舵角のサンプリング時間ごとに微分方程式を離散化し、サンプリング時間ごとにドライバ入力トルクの推定値を算出することが望ましい。推定値算出部212は、状態xの解に含まれているドライバ入力トルクTの値を、ドライバ入力トルクの推定値として出力する。
【0082】
生成部130は、ドライバ入力トルクと、ドライバ入力トルクの推定に用いた操舵トルクの検出時刻とに基づいて、所定時間ごとのドライバ入力トルクの値を含む時系列データを生成する。生成部130は、生成した時系列データを判別部141へ出力する。
【0083】
判別部141は、生成部130が生成した複数の時系列データを含む入力データをハンズオン状態とハンズオフ状態とに統計的に分類することにより、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態であるかを判別する。入力データは、一例としては、所定時間ごとのドライバ入力トルクの値を含む複数の時系列データのみを含む。入力データは、所定時間ごとのドライバ入力トルクの値を含む複数の時系列データに加えて、所定時間ごとの操舵トルクの値を含む複数の時系列データを含んでもよい。判別部141は、学習済みのサポートベクトルマシンに入力データを入力し、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態にこの入力データを分類したかを示す情報をサポートベクトルマシンに出力させる。
【0084】
[第3の実施形態の判別装置による自動操舵又は手動操舵の処理手順]
図8は、第3の実施形態の判別装置200による自動操舵又は手動操舵の処理手順を示すフローチャートである。図8のS101からS104、及びS107からS112の処理手順は、図6のフローチャートと同じであるため、説明を省略する。
【0085】
方程式算出部211は、操舵トルク及び操舵角を適用した方程式を算出する(S201)。方程式算出部211は、上述のように、(数3)式の微分方程式を算出する。次に、推定値算出部212は、微分方程式の解を算出することにより、ドライバ入力トルクを推定する(S202)。生成部130は、推定値算出部212が推定したドライバ入力トルクに基づいて、時系列データを生成する。
【0086】
判別部141は、学習済みのサポートベクトルマシンに生成部130が生成した時系列データを入力し(S203)、ステアリングホイール21がハンズオン状態及びハンズオフ状態のどちらの状態にこの時系列データを分類したかを示す情報をサポートベクトルマシンに出力させる。
【0087】
<第3の実施形態の判別装置による効果>
ドライバ入力トルクは、運転者がステアリングホイール21に加えるトルクを示しているので、ハンズオン状態とハンズオフ状態との判別において特に有用である。判別部141は、所定時間ごとのドライバ入力トルクの値を含む時系列データを学習済みのサポートベクトルマシンに入力することにより、ステアリングホイール21がハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかの判別の精度をより向上させることができる。
【0088】
[イノベーションゲインの別の算出方法]
以上の第3の実施形態にかかる判別装置100は、イノベーションゲインMを(数5)式のリカッチ代数方程式から算出して、定常的な値として取り扱う例を説明したが、これに限定されることはない。方程式算出部211は、(数4)式のリカッチ微分方程式の解をサンプリング時間ごとに算出して、イノベーションゲインMを非定常的な値として算出してもよい。このように、誤差のある観測値を用いて、動的なシステムの状態をリカッチ代数方程式又はリカッチ微分方程式を用いて推定する手法は、定常カルマンフィルタ、非定常カルマンフィルタの範囲の技術であり、より詳細な計算処理については記載を省略する。
【0089】
また、以上の第3の実施形態に係る判別装置100において、(数1)式の左辺に重力トルクや摩擦トルク等の非線形な摩擦トルク損が存在する場合、(数3)式で計算した推定値から非線形な摩擦トルク損を加算もしくは減算した値をドライバ入力トルクの推定結果としてもよい。
【0090】
また、以上の第3の実施形態に係る判別装置100は、方程式算出部211がイノベーションゲインMを含む連続時間の微分方程式を算出してから、推定値算出部212が微分方程式を離散化して数値計算する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、方程式算出部211が離散時間の状態方程式を算出してから、推定値算出部212が離散化された方程式の解を数値計算で算出してもよい。このような判別装置100の例について、次に説明する。
【0091】
方程式算出部211は、例えば、運動方程式から操舵トルク及び操舵角のサンプリング時間毎に離散化した状態方程式を算出する。連続時間の状態方程式は、Zoh法、Tustin法等の既知の方法により、離散時間の状態方程式に変換できる。(数2)式に示す状態方程式を離散化した状態方程式に変換した例を次式に示す。
【数6】
【0092】
(数6)式に示す状態方程式は、観測ノイズ及びシステムノイズに基づくイノベーションゲインMを含む状態方程式として次式のように表現できる。ここで、P[k]は、状態x[k]の誤差分散を示す。方程式算出部211は、イノベーションゲインMを含む状態方程式に、運転者が車両を運転中に観測された操舵トルク及び操舵角を代入する。上記の連続時間の微分方程式からイノベーションゲインMを導出した例ではQとRをイノベーションゲインM導出の設計要素として、あらかじめ設計者が調整するパラメータとして扱ったが、次式の離散時間を用いた例ではQとRをあらかじめ設計者が調整するパラメータとしてもよいし、白色雑音等の時変するパラメータとして扱ってもよい。
【数7】
【0093】
推定値算出部212は、算出された方程式を解くことにより、ステアリングホイール21に加わったドライバ入力トルクの推定値を算出する。推定値算出部212は、1サンプリング後の状態予測値x[k+1]及び予測誤差P[k+1]を、次式を用いて算出する。
【数8】
【0094】
推定値算出部212は、状態予測値x[k+1]に含まれているドライバ入力トルクTの値を、ドライバ入力トルクの推定値として出力する。このようにして、推定値算出部212は、サンプリング時間毎にドライバ入力トルクの推定値を算出できる。以上のように、判別装置100は、運動方程式を離散時間の状態方程式に変換しても、ドライバ入力トルクを推定することができるので、この場合においても、上述したように、パワーステアリング20を適切に制御できる。
【0095】
また、上記の離散時間の状態方程式を使用した例ではイノベーションゲインMをサンプル時間ごとに逐次更新したが、A、B、C、Dが一定で過渡応答を無視してもよい場合にはイノベーションゲインMを一定値としてもよく、P=P及びP[k+1]=P[k]と置き換え、(数9)式の離散型リカッチ方程式の解としてイノベーションゲインをあらかじめ導出してもよい。
【数9】
【0096】
[判別回数が閾値を超えた場合に出力情報を出力する変形例2]
第3の実施形態では、出力部142は、ステアリングホイール21がハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかの判別部141の判別結果を出力情報として直ちに出力する場合の例について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されない。例えば、出力部142は、ステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す情報を出力している状態において判別部141がハンズオフ状態であると所定回数を超えて繰り返し判別した場合に、ハンズオフ状態であることを示す情報を信号生成部143へ出力してもよい。本変形例において出力部142の動作は図5と同様であるため、説明を省略する。
【0097】
図9(a)から図9(c)は、本変形例の判別装置と、従来の判別装置とが出力した出力情報の内容を比較した図である。図9(a)は、ステアリングホイール21がハンズオン状態である期間と、ステアリングホイール21がハンズオフ状態である期間とを示した図である。図9(b)は、従来の判別装置においてステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す出力情報を出力している期間と、ハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力している期間とを示す図である。図9(c)は、本変形例の出力装置がステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す出力情報を出力している期間と、ハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力している期間とを示す図である。
【0098】
ステアリングホイール21のハンズオン状態とハンズオフ状態とが図9(a)に示すタイミングにおいて切り替わったとする。従来の判別装置は、操舵トルクが閾値を超えた場合に、ステアリングホイール21がハンズオン状態であることを示す出力情報を出力し、操舵トルクが閾値以下である場合に、ステアリングホイール21がハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力するものとする。従来の判別装置では、図9(b)に示すとおり、運転者がステアリングホイール21を操作すると操舵トルクが一時的に変動することに起因して、図9(a)に示すハンズオン状態の期間においてもハンズオフ状態であることを示す出力情報を複数回にわたって出力している。一方、本変形例の出力装置では、出力部142は、図9(a)に示すハンドオン状態の期間とほぼ同じ期間においてハンズオン状態であることを示す出力情報を出力し、図9(a)に示すハンドオフ状態の期間とほぼ同じ期間においてハンズオフ状態であることを示す出力情報を出力している。
【0099】
また、上記の判別装置100は、ステアリングホイール21と車輪28とが機械的に接続されないステアバイワイヤ方式の車両にも適用可能である。
【0100】
また、上記の判別装置100は、ハンズオン状態を検知した場合に自動操舵システム10を停止してもよい。システム停止の例として、例えば、ハンズオン状態を検知した場合にモータへの指令値を0にする方法が挙げられる。
【0101】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0102】
10 自動操舵システム
20 パワーステアリング
21 ステアリングホイール
22 モータ
23 ウォーム
24 ウォームホイール
25 第1トーションバー
26 第2トーションバー
27 アクチュエータ
28 車輪
31 第1検出器
32 第2検出器
100 判別装置
110 取得部
120 記憶部
130 生成部
140 フィードバック部
141 判別部
142 出力部
143 信号生成部
150 制御部
200 判別装置
210 推定部
211 方程式算出部
212 推定値算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9