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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】触媒制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20230808BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230808BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20230808BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20230808BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F01N3/18 Z
F01N3/08 A ZAB
F01N3/20 B
F02D43/00 301E
F02D45/00 360A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020152906
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047158
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長岡 大治
(72)【発明者】
【氏名】猪股 浩典
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-090246(JP,A)
【文献】特開平11-210524(JP,A)
【文献】特開2019-127128(JP,A)
【文献】特開2009-036154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/18
F01N 3/08
F01N 3/20
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管に配置されたNO吸蔵還元型触媒に流入する排気ガスの空燃比を調節して、前記NO吸蔵還元型触媒におけるNOの吸蔵および還元を制御する触媒制御装置であって、
前記NO吸蔵還元型触媒の温度を取得する取得部と、
前記排気ガスの空燃比を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、前記取得部で取得される前記NO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、前記NO吸蔵還元型触媒の温度が前記所定の閾値を超える場合と比較して、前記排気ガスの空燃比が高くなるように制御する空燃比制御部とを備え
前記空燃比制御部は、前記リッチ制御期間を開始するときの前記NO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、前記NO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値を超えるまでの間にわたって前記排気ガスの空燃比が高くなるように制御する触媒制御装置。
【請求項2】
内燃機関の排気管に配置されたNO吸蔵還元型触媒に流入する排気ガスの空燃比を調節して、前記NO吸蔵還元型触媒におけるNOの吸蔵および還元を制御する触媒制御装置であって、
前記NO吸蔵還元型触媒の温度を取得する取得部と、
前記排気ガスの空燃比を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、前記取得部で取得される前記NO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、前記NO吸蔵還元型触媒の温度が前記所定の閾値を超える場合と比較して、前記排気ガスの空燃比が高くなるように制御する空燃比制御部とを備え
前記所定の閾値は、温度に対する前記NO 吸蔵還元型触媒の還元速度の変化に基づいて設定される触媒制御装置。
【請求項3】
前記空燃比制御部は、前記NO吸蔵還元型触媒の温度が低くなるほど前記排気ガスの空燃比が高くなるように制御する請求項1または2に記載の触媒制御装置。
【請求項4】
前記空燃比制御部は、前記NO吸蔵還元型触媒に流入する排気ガスの空燃比と前記NO吸蔵還元型触媒から流出する排気ガスの空燃比とが一致した場合に、前記リッチ制御期間を終了する請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒制御装置。
【請求項5】
前記空燃比制御部は、前記NO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、前記排気ガスの空燃比をストイキ空燃比、または、リーン空燃比においてストイキ空燃比近傍に制御し、前記NO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値を超える場合に、前記排気ガスの空燃比をリッチ空燃比に制御する請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば内燃機関を備える車両において、排気ガスに含まれるNO(窒素酸化物)を吸蔵および還元するNO吸蔵還元型触媒(LNT触媒、LNT:Lean NO Trap)が排気管に配置されており、このLNT触媒を制御する触媒制御装置が実用化されている。ここで、LNT触媒からスリップしたNOが排気管から外部に排出されるのを抑制することが求められている。
【0003】
そこで、NOの排出を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、内燃機関から排出されるNOxを低減するための内燃機関の排気ガス浄化システムが開示されている。このシステムは、LNT触媒と選択還元型触媒とを組み合わせることで、排気管から外部に排出されるNOの排出量を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-051402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装置は、LNT触媒からのNOのスリップ自体を抑制するものではないため、外部に排出されるNOの排出量を確実に抑制することが困難である。
【0006】
本開示は、外部に排出されるNOの排出量を確実に抑制する触媒制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る触媒制御装置は、内燃機関の排気管に配置されたNO吸蔵還元型触媒に流入する排気ガスの空燃比を調節して、NO吸蔵還元型触媒におけるNOの吸蔵および還元を制御する触媒制御装置であって、NO吸蔵還元型触媒の温度を取得する取得部と、排気ガスの空燃比を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、取得部で取得されるNO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、NO吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値を超える場合と比較して、排気ガスの空燃比が高くなるように制御する空燃比制御部とを備え、空燃比制御部は、リッチ制御期間を開始するときのNO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、NO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値を超えるまでの間にわたって排気ガスの空燃比が高くなるように制御するものである。
本開示に係る触媒制御装置は、内燃機関の排気管に配置されたNO 吸蔵還元型触媒に流入する排気ガスの空燃比を調節して、NO 吸蔵還元型触媒におけるNO の吸蔵および還元を制御する触媒制御装置であって、NO 吸蔵還元型触媒の温度を取得する取得部と、排気ガスの空燃比を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、取得部で取得されるNO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値以下の場合に、NO 吸蔵還元型触媒の温度が所定の閾値を超える場合と比較して、排気ガスの空燃比が高くなるように制御する空燃比制御部とを備え、所定の閾値は、温度に対するNO 吸蔵還元型触媒の還元速度の変化に基づいて設定されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、外部に排出されるNOの排出量を確実に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態に係る触媒制御装置を備えた車両の構成を示す図である。
図2】本実施の形態の動作を示すフローチャートである。
図3】LNT触媒の内部温度によらずに空燃比をリッチ制御した場合のNOおよび炭化水素のスリップ量を示すグラフである。
図4】LNT触媒の内部温度に応じて空燃比をリッチ制御した場合のNOおよび炭化水素のスリップ量を示すグラフである。
図5】LNT触媒の内部温度に応じた係数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1に、本開示の実施の形態に係る触媒制御装置を備えた車両の構成を示す。車両は、内燃機関1と、排気管2と、内燃機関制御部3と、浄化装置4とを有する。なお、車両としては、例えば、トラックなどの商用車が挙げられ、車両以外の適用としては移動体である船舶及び産業機械並びに定置式エンジン等が挙げられる。
【0012】
内燃機関1は、車両を駆動するためのもので、例えば、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程の4つの行程を繰り返す、いわゆる4ストローク機関から構成されている。内燃機関1としては、例えば、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。
【0013】
排気管2は、内燃機関1の排気口から外部に延びるように配置され、内燃機関1から排出される排気ガスを外部に排出する流路である。
【0014】
内燃機関制御部3は、内燃機関1を制御するもので、内燃機関1および浄化装置4の触媒制御装置8にそれぞれ接続されている。内燃機関制御部3は、例えば、吸気の流量、排気ガスの流量、燃料の供給およびエンジン回転数などを制御する。なお、燃料としては、例えば軽油が挙げられる。
【0015】
浄化装置4は、NO吸蔵還元型触媒(LNT触媒)5と、入口ラムダセンサ6aと、出口ラムダセンサ6bと、温度センサ7と、触媒制御装置8とを有する。入口ラムダセンサ6a、出口ラムダセンサ6bおよび温度センサ7は、それぞれ、触媒制御装置8の取得部9に接続されている。
【0016】
LNT触媒5は、排気管2内に配置され、排気ガスに含まれるNOを吸蔵および還元して浄化する。例えば、LNT触媒5は、白金などの貴金属触媒と、バリウムなどのアルカリ土類金属などで形成されるNO吸蔵材とを担体に担持させた成型体から構成することができる。これにより、LNT触媒5は、排気ガスがリーン空燃比、すなわちストイキ空燃比(空気過剰率=1)より燃料比率が低い空燃比のときに、排気ガスに含まれるNOをNO吸蔵材に吸蔵する。そして、LNT触媒5は、排気ガスがリッチ空燃比、すなわちストイキ空燃比より燃料比率が高い空燃比にされると、酸素濃度が減少すると共に一酸化炭素および炭化水素などの還元剤量が増加するため、貴金属触媒の三元機能により、NO吸蔵材に吸蔵されたNOを還元剤と反応させて窒素などに還元して浄化する。
なお、本開示において、空燃比は、空気過剰率で表すものとする。
【0017】
入口ラムダセンサ6aは、排気管2においてLNT触媒5の上流側に配置され、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比を検出する。すなわち、入口ラムダセンサ6aは、LNT触媒5がNOと反応する前の空燃比を検出する。
【0018】
出口ラムダセンサ6bは、排気管2においてLNT触媒5の下流側に配置され、LNT触媒5から流出する排気ガスの空燃比を検出する。すなわち、出口ラムダセンサ6bは、LNT触媒5がNOと反応した後の空燃比を検出する。
【0019】
温度センサ7は、排気管2においてLNT触媒5の上流側に配置され、LNT触媒5を流通する排気ガスの温度を検出する。
【0020】
触媒制御装置8は、取得部9と、空燃比制御部10とを有する。取得部9は、空燃比制御部10に接続されている。
【0021】
取得部9は、入口ラムダセンサ6aおよび出口ラムダセンサ6bで検出される排気ガスの空燃比を取得すると共に、温度センサ7で検出される排気ガスの温度を取得する。ここで、取得部9は、LNT触媒5を流通する排気ガスの温度に対するLNT触媒5の内部温度の変化を示す温度データが予め保存されており、温度センサ7で検出された排気ガスの温度に基づいて温度データを参照することにより、LNT触媒5の内部温度を取得する。
【0022】
空燃比制御部10は、入口ラムダセンサ6a、出口ラムダセンサ6bおよび温度センサ7で検出される検出値に基づいて、内燃機関制御部3を介してLNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比を調節し、LNT触媒5におけるNOの吸蔵および還元を制御する。
【0023】
ここで、空燃比制御部10は、排気ガスの空燃比を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、取得部9で取得されるLNT触媒5の内部温度が所定の閾値以下の場合に、LNT触媒5の内部温度が所定の閾値を超えている場合と比較して、排気ガスの空燃比が高くなるように制御する。
【0024】
このとき、所定の閾値は、LNT触媒5の内部温度に対する還元速度の変化に基づいて設定することができる。例えば、所定の閾値は、LNT触媒5の還元速度が急激に上昇するときの内部温度より小さな値に設定することができる。これにより、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度が所定の閾値以下の場合には、排気ガスの空燃比を比較的高い値に維持する。そして、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度が所定の閾値を超えた場合に、LNT触媒5の還元速度の上昇に応じて排気ガスの空燃比が低下するように制御することができる。例えば、空燃比制御部10は、排気ガスの空燃比を空気過剰率で1.3~0.8の範囲に制御することができる。
このようにして、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度が低くなるほど排気ガスの空燃比が高くなるように制御することができる。
【0025】
なお、内燃機関制御部3、取得部9および空燃比制御部10の機能は、コンピュータプログラムにより実現させることもできる。例えば、コンピュータの読取装置が、内燃機関制御部3、取得部9および空燃比制御部10の機能を実現するためのプログラムを記録した記録媒体からそのプログラムを読み取り、記憶装置に記憶させる。そして、CPUが、記憶装置に記憶されたプログラムをRAMにコピーし、そのプログラムに含まれる命令をRAMから順次読み出して実行することにより、内燃機関制御部3、取得部9および空燃比制御部10の機能を実現することができる。
【0026】
次に、本実施の形態の動作について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、内燃機関制御部3が内燃機関1を制御して車両が走行されると、内燃機関1で生じた排気ガスが排気管2を流通して外部に排出される。このとき、内燃機関1では、リーン空燃比の排気ガスが生成され、この排気ガスが排気管2に配置されたLNT触媒5を流通することにより、排気ガスに含まれるNOがLNT触媒5で順次吸蔵される。
【0028】
このとき、空燃比制御部10は、ステップS1で、LNT触媒5におけるNOの吸蔵量を算出する。空燃比制御部10は、例えば、内燃機関制御部3から順次出力される内燃機関1の吸気の流量などに基づいて、排気ガスにおけるNOの含有量を算出し、このNOの含有量に基づいてLNT触媒5におけるNOの吸蔵量を算出することができる。また、空燃比制御部10は、図示しないNOセンサでLNT触媒5に流入する排気ガスのNO量を検出し、そのNO量に基づいてLNT触媒5におけるNOの吸蔵量を算出することもできる。
【0029】
続いて、空燃比制御部10は、ステップS2で、NOの吸蔵量が所定の値を超えたか否かを判定する。なお、所定の値は、例えば、LNT触媒5に吸蔵可能なNOの容量に基づいて設定することができる。空燃比制御部10は、NOの吸蔵量が所定の値以下の場合には、NOの吸蔵量が所定の値を超えるまで判定を繰り返す。
【0030】
そして、空燃比制御部10は、NOの吸蔵量が所定の値を超えた場合には、ステップS3に進んで、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比を低下させると共にLNT触媒5の内部温度を上昇させてリッチ制御を開始する。このとき、空燃比制御部10は、ステップS4で、取得部9で取得されるLNT触媒5の内部温度が所定の閾値を超えているか否かを判定する。
【0031】
なお、空燃比制御部10は、内燃機関制御部3を介して内燃機関1の吸気系および燃料系のうち少なくとも一方を制御することにより、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比およびLNT触媒5の内部温度を変化させることができる。例えば、空燃比制御部10は、内燃機関1の吸気系および燃料系を制御して、内燃機関1への吸気の流量を減らすと共に燃料の噴射量を増やすことにより、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比を低下させることができる。
【0032】
ここで、内燃機関1の吸気系は、吸気の流量を調節するもので、例えば、吸気スロットル、排気スロットル、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブおよびターボチャージャなどが挙げられる。また、内燃機関1の燃料系は、燃料を噴射するもので、例えば、シリンダー内におけるアフター噴射および排気管2内への燃料噴射などが挙げられる。
【0033】
空燃比制御部10は、リッチ制御が開始される開始時点において、LNT触媒5の内部温度が所定の閾値を超えている場合には、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比をリッチ空燃比、例えば空気過剰率で0.95に低下させる。これにより、LNT触媒5の周囲において酸素濃度が減少すると共に一酸化炭素および炭化水素などの還元剤が増加し、LNT触媒5で吸蔵されたNOを放出および還元して窒素、水および二酸化炭素などの物質に浄化することができる。
【0034】
しかしながら、リッチ制御が開始される開始時点において、LNT触媒5の内部温度が所定の閾値以下と低い場合に、リーン空燃比からリッチ空燃比に排気ガスの空燃比を急激に低下させると、NOおよび炭化水素が大量にLNT触媒5からスリップするおそれがある。
【0035】
例えば、図3に示すように、リッチ制御が開始される開始時点T1の直前において、入口ラムダセンサ6aで検出される空燃比R1は、空気過剰率で約2.0以上の空燃比に制御されていたものとする。ここで、開始時点T1においてLNT触媒5の内部温度Dは所定の閾値以下、例えば約300℃以下と低く、この状態で空燃比R1をリッチ空燃比、具体的には空気過剰率で0.95に急激に低下させた。
なお、所定の閾値は、例えば、LNT触媒5の還元速度が急激に上昇するときの内部温度Dより小さな値に設定、すなわちLNT触媒5の還元速度が低い領域の温度に設定されている。
【0036】
このように、LNT触媒5の還元速度が低いときに空燃比R1をリッチ空燃比に低下させると、LNT触媒5に供給される炭化水素などの還元剤が、LNT触媒5でNOと充分に反応されずに、LNT触媒5から大量にスリップすることになる。また、空燃比R1の低下に応じてLNT触媒5から放出されたNOが、還元剤と充分に反応されずに、LNT触媒5からそのままスリップすることになる。
【0037】
このため、従来、LNT触媒5におけるNOの吸蔵量が所定の値を超えても、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合には、リッチ制御を開始せずに、空燃比R1は開始時点T1以前の高い状態で維持されていた。しかしながら、LNT触媒5に吸蔵されるNOの吸蔵量が低下して外部に流出するおそれがあり、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合にもリッチ制御を実施することが求められる。
【0038】
そこで、本発明では、空燃比制御部10は、排気ガスの空燃比R1を低下させるリッチ制御の開始時点T1において、取得部9で取得されるLNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に、ステップS5に進んで、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える場合と比較して、排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御する。例えば、空燃比制御部10は、リッチ制御の開始時点T1以前の空燃比R1より低く、且つ、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える場合に制御される空燃比R1より高くなるように制御する。
【0039】
このとき、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に、排気ガスの空燃比R1をストイキ空燃比、または、リーン空燃比においてストイキ空燃比近傍に低下するように制御することが好ましい。
【0040】
例えば、空燃比制御部10は、空気過剰率が1.0~1.2の範囲となるように排気ガスの空燃比R1を低下させることができる。図4に示すように、実際に、リッチ制御の開始時点T1からLNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える温度上昇時点T1aまでの間にわたって、空気過剰率が1.0~1.2の範囲となるように排気ガスの空燃比R1を低下させた。その結果、空気過剰率が1.0~1.2の範囲に空燃比R1を制御することで、その他の範囲に空燃比R1を制御した場合と比較して、LNT触媒5の内部温度Dが速やかに上昇することがわかった。また、排気ガスの空燃比R1をストイキ空燃比以上に制御することにより、LNT触媒5に供給されるNOおよび還元剤の量を抑制することもできる。このように、LNT触媒5に供給されるNOおよび還元剤の量を抑制しつつLNT触媒5の内部温度Dを速やかに上昇させることができ、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を大きく抑制することができる。
【0041】
このようにして、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える場合と比較して、排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御する。これにより、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を抑制することができ、排気管2から外部に排出されるNOおよび炭化水素の排出量を確実に抑制することができる。
このとき、空燃比制御部10は、排気ガスの空燃比R1をストイキ空燃比、または、リーン空燃比においてストイキ空燃比近傍に制御することにより、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を大きく抑制することができる。
【0042】
また、空燃比制御部10は、リッチ制御の開始時点T1からLNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える温度上昇時点T1aまでの間にわたって排気ガスの空燃比R1を高く制御するため、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を確実に抑制することができる。
さらに、所定の閾値は、温度に対するLNT触媒5の還元速度の変化に基づいて設定されている。このため、空燃比制御部10は、所定の閾値に基づいて排気ガスの空燃比R1を制御することにより、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を高精度に抑制することができる。
【0043】
続いて、空燃比制御部10は、ステップS4で、LNT触媒5の内部温度Dが温度上昇時点T1aで所定の閾値を超えた場合に、ステップS6に進んで、排気ガスの空燃比R1をリッチ空燃比に制御する。
このとき、空燃比制御部10は、図4に示すように、LNT触媒5の内部温度Dが高くなるのに従って排気ガスの空燃比R1が低くなるように制御することが好ましい。これにより、LNT触媒5の還元速度の上昇に応じてLNT触媒5への還元剤の供給量を増やすことができ、NOおよび炭化水素のスリップ量を抑制しつつLNT触媒5に吸蔵されたNOを還元処理することができる。
【0044】
このように、空燃比制御部10は、リッチ制御期間にわたって、LNT触媒5の内部温度Dに応じて排気ガスの空燃比R1を変化させる。具体的には、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが低くなるほど、排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御する。これにより、LNT触媒5からのNOおよび炭化水素のスリップ量を大きく抑制することができ、排気管2から外部に排出されるNOおよび炭化水素の排出量をより確実に抑制することができる。また、LNT触媒5の下流側に選択還元型触媒(Selective Catalytic Reduction)が配置されている場合には、選択還元型触媒に流入するNOの量が減少するため、選択還元型触媒の負担を大きく軽減することもできる。
【0045】
ここで、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dに応じて排気ガスの空燃比R1を制御するためのテーブルが予め設定され、このテーブルに基づいて空燃比R1を制御することが好ましい。
【0046】
例えば、図5に示すように、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dに応じた係数の変化を予め設定することができる。この係数は、空燃比R1の基準の目標値、例えば空気過剰率0.95に対して、LNT触媒5の内部温度Dに応じた係数を掛けることにより、排気ガスの空燃比R1を制御する目標値が算出されるように設定されている。このとき、係数の変化は、LNT触媒5の内部温度Dに応じた還元速度の変化に対応するように設定されている。このため、例えば、LNT触媒5の内部温度Dが300℃の場合には、係数が1.26となるため、この係数を基準の目標値(空気過剰率0.95)に掛けることにより、排気ガスの空燃比R1を制御する目標値を空気過剰率で1.2と算出することができる。
このようにして、空燃比制御部10は、予め設定されたテーブルに基づいて、排気ガスの空燃比R1を容易に制御することができる。
【0047】
なお、図5では、LNT触媒5の内部温度Dが300℃から450℃の間で係数が直線的に減少するように設定されているが、LNT触媒5の還元速度が急激に低下する場合には、その低下に応じて指数関数的に急激に減少するように設定してもよい。
【0048】
このようにして、LNT触媒5に吸蔵されたNOの還元が進むと、LNT触媒5におけるNOの吸蔵量の減少に応じて出口ラムダセンサ6bで検出される空燃比R2が低下する。そして、空燃比制御部10は、ステップS7で、LNT触媒5に流入する排気ガスの空燃比R1とLNT触媒5から流出する排気ガスの空燃比R2とが一致するか否かを判定する。
【0049】
空燃比制御部10は、空燃比R1と空燃比R2とが終了時点T2で一致したと判定した場合には、ステップS8に進んで、排気ガスの空燃比R1をリーン空燃比に上昇させてリッチ制御期間を終了する。
このように、空燃比制御部10は、空燃比R1と空燃比R2とが一致したか否かを判定することにより、リッチ制御を適切なタイミングで終了させることができる。
【0050】
本実施の形態によれば、空燃比制御部10は、排気ガスの空燃比R1を低下させてリッチ空燃比に制御するリッチ制御期間において、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える場合と比較して、排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御する。これにより、LNT触媒5からのNOのスリップ量を抑制して、排気管2から外部に排出されるNOの排出量を確実に抑制することができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、空燃比制御部10は、リッチ制御期間にわたって、LNT触媒5の内部温度Dが低くなるほど排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御したが、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に所定の閾値を超える場合と比較して排気ガスの空燃比R1が高くなるように制御すればよく、これに限られるものではない。
【0052】
例えば、空燃比制御部10は、リッチ制御の開始時点T1からLNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値を超える温度上昇時点T1aまでの間だけ、LNT触媒5の内部温度Dに応じて排気ガスの空燃比R1を制御し、温度上昇時点T1a以降はLNT触媒5の内部温度Dによらずに基準の空燃比R1、例えば空気過剰率0.95に維持してもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが温度上昇時点T1aで所定の閾値を超えた後は、排気ガスの空燃比R1を順次低下するように制御したが、これに限られるものではない。例えば、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが温度上昇時点T1aで所定の閾値を超えた後、再び、所定の閾値以下に低下した場合には、排気ガスの空燃比R1を高めるように制御することもできる。
【0054】
また、本実施の形態では、取得部9は、温度センサ7で検出された排気ガスの温度に基づいてLNT触媒5の内部温度Dを算出したが、LNT触媒5の内部温度Dを取得することができればよく、これに限られるものではない。
例えば、LNT触媒5の内部温度Dを直接検出するように温度センサ7を配置し、取得部9は温度センサ7からLNT触媒5の内部温度Dを取得することもできる。
【0055】
また、本実施の形態では、空燃比制御部10は、LNT触媒5の内部温度Dが所定の閾値以下の場合に排気ガスの空燃比R1を制御したが、LNT触媒5の温度が所定の閾値以下の場合に排気ガスの空燃比R1を制御すればよく、LNT触媒5の内部温度Dに限られるものではない。
【0056】
その他、上記の実施の形態は、何れも本発明の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、上記の実施の形態で説明した各部の形状や個数などについての開示はあくまで例示であり、適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示に係る触媒制御装置は、LNT触媒に流入する排気ガスの空燃比を調節してLNT触媒におけるNOの吸蔵および還元を制御する装置に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 内燃機関
2 排気管
3 内燃機関制御部
4 浄化装置
5 NO吸蔵還元型触媒
6a 入口ラムダセンサ
6b 出口ラムダセンサ
7 温度センサ
8 触媒制御装置
9 取得部
10 空燃比制御部
D 内部温度
R1,R2 空燃比
T1 開始時点
T1a 温度上昇時点
T2 終了時点
図1
図2
図3
図4
図5