IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】噛み合いクラッチ制御システム
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20230808BHJP
   F16D 11/14 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F16D48/06 101B
F16D11/14
F16D48/06 101C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020167776
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059894
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 光宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 優介
(72)【発明者】
【氏名】小松 新始
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 孝範
(72)【発明者】
【氏名】公森 俊之
(72)【発明者】
【氏名】原 哲也
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-35234(JP,U)
【文献】特開2004-211717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-39/00
F16D 48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線(AL1)を中心に回転し、前記軸線を中心に回転するときの回転方向の全周にわたって複数の第1ギヤ歯(13)が形成された第1係合部材(11)と、前記軸線を中心に前記第1係合部材と同じ方向に回転し、前記複数の第1ギヤ歯と噛み合う複数の第2ギヤ歯(14)が前記回転方向の全周にわたって形成された第2係合部材(12)と、の少なくとも一方が前記軸線に平行な軸線方向(D1)に移動することで、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯とが噛み合って前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合する係合状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが離間する解放状態との切り替えが可能である噛み合いクラッチ(10)の作動を制御する、噛み合いクラッチ制御システムであって、
前記複数の第1ギヤ歯および前記複数の第2ギヤ歯に対して前記軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15)と、を備え、
前記磁束角度センサは、
同じ極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯に対して前記径方向で対向する第1端面(53b)を有し、前記2つの磁極部のうち一方の磁極部(51a)と前記第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
前記解放状態のときの前記複数の第2ギヤ歯に対して前記径方向で対向する第2端面(54b)を有し、前記2つの磁極部のうち他方の磁極部(52a)と前記第2端面との間に磁束を通過させ、前記第1ヨークに対して間を空けて前記軸線方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に配置され、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間を通過する磁束が前記径方向に対して前記軸線方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、前記噛み合い時期を決定し、
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、前記噛み合い完了の状態を検出する、噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項2】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との一方の係合部材の回転数を検出する回転数センサ(40)と、
前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S2)と、を備え、
前記一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯が、前記複数の第1ギヤ歯または前記複数の第2ギヤ歯であり、
前記一方の係合部材が回転するときに前記複数のギヤ歯のそれぞれが通過する1つの位置を基準位置として、前記複数のギヤ歯のうち1つのギヤ歯が前記基準位置を通過してから、前記複数のギヤ歯のうち前記1つのギヤ歯の隣りに位置する別の1つのギヤ歯が前記基準位置を通過するまでの時間を1周期としたときの周波数がギヤ歯通過周波数であり、
前記周波数解析手段は、前記回転数センサの検出結果と前記複数のギヤ歯の数とに基づいて前記ギヤ歯通過周波数を算出するとともに、前記ギヤ歯通過周波数を有する正弦波の振幅である基本波振幅を前記時系列データから算出し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記基本波振幅の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する、請求項1に記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項3】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との一方の係合部材の回転数を検出する回転数センサ(40)と、
前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S2)と、を備え、
前記一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯が、前記複数の第1ギヤ歯または前記複数の第2ギヤ歯であり、
前記一方の係合部材が回転するときに前記複数のギヤ歯のそれぞれが通過する1つの位置を基準位置として、前記複数のギヤ歯のうち1つのギヤ歯が前記基準位置を通過してから、前記複数のギヤ歯のうち前記1つのギヤ歯の隣りに位置する別の1つのギヤ歯が前記基準位置を通過するまでの時間を1周期としたときの周波数がギヤ歯通過周波数であり、
前記周波数解析手段は、前記回転数センサの検出結果と複数のギヤ歯の数とに基づいて前記ギヤ歯通過周波数を算出するとともに、前記ギヤ歯通過周波数の2倍周波数の正弦波の振幅である二次高調波振幅に対する、前記ギヤ歯通過周波数の正弦波の振幅である基本波振幅の比率を、前記時系列データから算出し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記比率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する、請求項1に記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項4】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S2)を備え、
前記周波数解析手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対してウェーブレット変換を行うことで、前記センサ信号の時系列データにおける振幅が極大となる時点にピークを持って周期的に経時変化する波形データを算出し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記波形データに基づいて、前記噛み合い時期を決定する、請求項1に記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項5】
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データにおいて、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続した場合に、前記噛み合い完了の状態であることを決定する、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項6】
軸線(AL1)を中心に回転し、前記軸線を中心に回転するときの回転方向の全周にわたって複数の第1ギヤ歯(13)が形成された第1係合部材(11)と、前記軸線を中心に前記第1係合部材と同じ方向に回転し、前記複数の第1ギヤ歯と噛み合う複数の第2ギヤ歯(14)が前記回転方向の全周にわたって形成された第2係合部材(12)と、の少なくとも一方が前記軸線に平行な軸線方向(D1)に移動することで、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯とが噛み合って前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合する係合状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが離間する解放状態との切り替えが可能である噛み合いクラッチ(10)の作動を制御する、噛み合いクラッチ制御システムであって、
前記複数の第1ギヤ歯および前記複数の第2ギヤ歯に対して前記軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
前記磁束角度センサは、
同じ極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯、前記複数の第2ギヤ歯、および、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との前記軸線方向での間の空間のそれぞれに対して前記径方向で対向する第1端面(53b)を有し、前記2つの磁極部の一方の磁極部(51a)と前記第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯、前記複数の第2ギヤ歯、および、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との前記軸線方向での間の空間のそれぞれに対して前記径方向で対向する第2端面(54b)を有し、前記2つの磁極部の他方の磁極部(52a)と前記第2端面との間に磁束を通過させ、前記第1ヨークに対して間を空けて前記回転方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に配置され、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間を通過する磁束が前記径方向に対して前記回転方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する、噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項7】
軸線(AL1)を中心に回転し、前記軸線を中心に回転するときの回転方向の全周にわたって複数の第1ギヤ歯(13)が形成された第1係合部材(11)と、前記軸線を中心に前記第1係合部材と同じ方向に回転し、前記複数の第1ギヤ歯と噛み合う複数の第2ギヤ歯(14)が前記回転方向の全周にわたって形成された第2係合部材(12)と、の少なくとも一方が前記軸線に平行な軸線方向(D1)に移動することで、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯とが噛み合って前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合する係合状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが離間する解放状態との切り替えが可能である噛み合いクラッチ(10)の作動を制御する、噛み合いクラッチ制御システムであって、
前記複数の第1ギヤ歯および前記複数の第2ギヤ歯に対して前記軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
前記磁束角度センサは、
異なる極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯に対して前記径方向で対向する第1端面(53b)を有し、前記2つの磁極部のうち一方の磁極部(51a)と前記第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
前記解放状態のときの前記複数の第2ギヤ歯に対して前記径方向で対向する第2端面(54b)を有し、前記2つの磁極部のうち他方の磁極部(52a)と前記第2端面との間に磁束を通過させ、前記第1ヨークに対して間を空けて前記軸線方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に配置され、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間を通過する磁束が前記径方向に対して前記軸線方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、前記噛み合い時期を決定し、
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、前記噛み合い完了の状態を検出する、噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項8】
軸線(AL1)を中心に回転し、前記軸線を中心に回転するときの回転方向の全周にわたって複数の第1ギヤ歯(13)が形成された第1係合部材(11)と、前記軸線を中心に前記第1係合部材と同じ方向に回転し、前記複数の第1ギヤ歯と噛み合う複数の第2ギヤ歯(14)が前記回転方向の全周にわたって形成された第2係合部材(12)と、の少なくとも一方が前記軸線に平行な軸線方向(D1)に移動することで、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯とが噛み合って前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合する係合状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが離間する解放状態との切り替えが可能である噛み合いクラッチ(10)の作動を制御する、噛み合いクラッチ制御システムであって、
前記複数の第1ギヤ歯および前記複数の第2ギヤ歯に対して前記軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
前記磁束角度センサは、
異なる極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯、前記複数の第2ギヤ歯、および、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との前記軸線方向での間の空間のそれぞれに対して前記径方向で対向する第1端面(53b)を有し、前記2つの磁極部の一方の磁極部(51a)と前記第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
前記解放状態のときの前記複数の第1ギヤ歯、前記複数の第2ギヤ歯、および、前記複数の第1ギヤ歯と前記複数の第2ギヤ歯との前記軸線方向での間の空間のそれぞれに対して前記径方向で対向する第2端面(54b)を有し、前記2つの磁極部の他方の磁極部(52a)と前記第2端面との間に磁束を通過させ、前記第1ヨークに対して間を空けて前記回転方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間に配置され、前記第1ヨークと前記第2ヨークとの間を通過する磁束が前記径方向に対して前記回転方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する、噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項9】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との一方の係合部材の回転数を検出する回転数センサ(40)と、
前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S2)と、を備え、
前記一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯が、前記複数の第1ギヤ歯または前記複数の第2ギヤ歯であり、
前記一方の係合部材が回転するときに前記複数のギヤ歯のそれぞれが通過する1つの位置を基準位置として、前記複数のギヤ歯のうち1つのギヤ歯が前記基準位置を通過してから、前記複数のギヤ歯のうち前記1つのギヤ歯の隣りに位置する別の1つのギヤ歯が前記基準位置を通過するまでの時間を1周期としたときの周波数がギヤ歯通過周波数であり、
前記周波数解析手段は、前記回転数センサの検出結果と前記複数のギヤ歯の数とに基づいて前記ギヤ歯通過周波数を算出するとともに、前記ギヤ歯通過周波数の正弦波の振幅である基本波振幅に対する、前記ギヤ歯通過周波数の2倍周波数の正弦波の振幅である二次高調波振幅の比率である歪率を、前記時系列データから算出し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記歪率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項10】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S2)を備え、
前記周波数解析手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対してウェーブレット変換を行うことで、前記センサ信号の時系列データにおける振幅が極小となる時点にピークを持って周期的に経時変化する波形データを算出し、
前記噛み合い時期決定手段は、前記波形データに基づいて、前記噛み合い時期を決定する、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項11】
前記噛み合いクラッチ制御システムは、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との一方の係合部材の回転数を検出する回転数センサ(40)と、
前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに対して周波数解析を行う周波数解析手段(S22)と、を備え、
前記一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯が、前記複数の第1ギヤ歯または前記複数の第2ギヤ歯であり、
前記一方の係合部材が回転するときに前記複数のギヤ歯のそれぞれが通過する1つの位置を基準位置として、前記複数のギヤ歯のうち1つのギヤ歯が前記基準位置を通過してから、前記複数のギヤ歯のうち前記1つのギヤ歯の隣りに位置する別の1つのギヤ歯が前記基準位置を通過するまでの時間を1周期としたときの周波数がギヤ歯通過周波数であり、
前記周波数解析手段は、前記回転数センサの検出結果と前記複数のギヤ歯の数とに基づいて前記ギヤ歯通過周波数を算出するとともに、前記ギヤ歯通過周波数の2倍周波数の正弦波の振幅である二次高調波振幅または前記二次高調波振幅の逆数を、前記時系列データから算出し、
前記噛み合い状態検出手段(S23、S24)は、前記二次高調波振幅または前記逆数の時間変化に基づいて、噛み合い完了の状態を検出する、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【請求項12】
前記噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データにおいて、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続した場合に、前記噛み合い完了の状態であることを決定する、請求項6ないし10のいずれか1つに記載の噛み合いクラッチ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛み合いクラッチ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
第1クラッチ部材と第2クラッチ部材との噛み合い開始の時期の決定を、磁気センサの出力信号に基づいて行う噛み合いクラッチ装置が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-513766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
噛み合いクラッチの制御では、噛み合いクラッチの係合不具合を防止するため、噛み合い開始の時期の決定と、噛み合い動作後の噛み合いが完了した状態(すなわち、噛み合い完了の状態)の検出とが必要である。しかしながら、上記の特許文献1には、噛み合い完了の状態の検出については、何ら述べられていない。噛み合い完了の状態の検出のために、噛み合い開始の時期の決定のために設置されたセンサとは、別のセンサを設置することは、クラッチ制御システムのコストが増大するため、好ましくない。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能な噛み合いクラッチ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、噛み合いクラッチ制御システムは、
複数の第1ギヤ歯および複数の第2ギヤ歯に対して軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15)と、を備え、
磁束角度センサは、
同じ極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯に対して径方向で対向する第1端面(53b)を有し、2つの磁極部のうち一方の磁極部(51a)と第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
解放状態のときの複数の第2ギヤ歯に対して径方向で対向する第2端面(54b)を有し、2つの磁極部の他方の磁極部(52a)と第2端面との間に磁束を通過させ、第1ヨークに対して間を空けて軸線方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
第1ヨークと第2ヨークとの間に配置され、第1ヨークと第2ヨークとの間を通過する磁束が径方向に対して軸線方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
噛み合い時期決定手段は、磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0007】
請求項1に記載のように磁束角度センサが構成され、請求項1に記載のように第1ヨークと第2ヨークとの並び方向が軸線方向に沿う方向となるように磁束角度センサが設置される場合、磁束角度センサのセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。
【0008】
請求項6に記載の発明によれば、噛み合いクラッチ制御システムは、
複数の第1ギヤ歯および複数の第2ギヤ歯に対して軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
磁束角度センサは、
同じ極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯、複数の第2ギヤ歯、および、複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との軸線方向での間の空間のそれぞれに対して径方向で対向する第1端面(53b)を有し、2つの磁極部の一方の磁極部(51a)と第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯、複数の第2ギヤ歯、および、複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との軸線方向での間の空間のそれぞれに対して径方向で対向する第2端面(54b)を有し、2つの磁極部の他方の磁極部(52a)と第2端面との間に磁束を通過させ、第1ヨークに対して間を空けて回転方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
第1ヨークと第2ヨークとの間に配置され、第1ヨークと第2ヨークとの間を通過する磁束が径方向に対して回転方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
噛み合い時期決定手段は、磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0009】
請求項6に記載のように磁束角度センサが構成され、請求項6に記載のように第1ヨークと第2ヨークとの並び方向が回転方向に沿う方向になるように磁束角度センサが設置される場合、磁束角度センサのセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。
【0010】
請求項7に記載の発明によれば、噛み合いクラッチ制御システムは、
複数の第1ギヤ歯および複数の第2ギヤ歯に対して軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
磁束角度センサは、
異なる極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯に対して径方向で対向する第1端面(53b)を有し、2つの磁極部のうち一方の磁極部(51a)と第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
解放状態のときの複数の第2ギヤ歯に対して径方向で対向する第2端面(54b)を有し、2つの磁極部のうち他方の磁極部(52a)と第2端面との間に磁束を通過させ、第1ヨークに対して間を空けて軸線方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
第1ヨークと第2ヨークとの間に配置され、第1ヨークと第2ヨークとの間を通過する磁束が径方向に対して軸線方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
噛み合い時期決定手段は、磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0011】
請求項7に記載のように磁束角度センサが構成され、請求項7に記載のように第1ヨークと第2ヨークとの並び方向が回転方向に沿う方向になるように磁束角度センサが設置される場合、磁束角度センサのセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。
【0012】
請求項8に記載の発明によれば、噛み合いクラッチ制御システムは、
複数の第1ギヤ歯および複数の第2ギヤ歯に対して軸線を中心とする径方向外側に設置される磁束角度センサ(50)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する噛み合い時期決定手段(S3)と、
複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との噛み合い完了の状態を検出する噛み合い状態検出手段(S13、S14、S15、S23、S24)と、を備え、
磁束角度センサは、
異なる極性の2つの磁極部(51a、52a)を有する磁界発生部(51、52)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯、複数の第2ギヤ歯、および、複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との軸線方向での間の空間のそれぞれに対して径方向で対向する第1端面(53b)を有し、2つの磁極部のうち一方の磁極部(51a)と第1端面との間に磁束を通過させる第1ヨーク(53)と、
解放状態のときの複数の第1ギヤ歯、複数の第2ギヤ歯、および、複数の第1ギヤ歯と複数の第2ギヤ歯との軸線方向での間の空間のそれぞれに対して径方向で対向する第2端面(54b)を有し、2つの磁極部のうち他方の磁極部(52a)と第2端面との間に磁束を通過させ、第1ヨークに対して間を空けて回転方向に沿う方向に並んで配置される第2ヨーク(54)と、
第1ヨークと第2ヨークとの間に配置され、第1ヨークと第2ヨークとの間を通過する磁束が径方向に対して回転方向の一方側または他方側になす角度(θ)を示すセンサ信号を出力する磁束検出部(56)とを有し、
噛み合い時期決定手段は、磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定し、
噛み合い状態検出手段は、前記磁束角度センサから出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0013】
請求項8に記載のように磁束角度センサが構成され、請求項8に記載のように第1ヨークと第2ヨークとの並び方向が回転方向に沿う方向になるように磁束角度センサが設置される場合、磁束角度センサのセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の動力伝達システムの構成を示す図である。
図2図1中の磁束角度センサの正面図である。
図3図2の磁束角度センサのIII矢視図である。
図4】磁束角度センサが図1に示す向きで設置された場合において、係合NGのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図5】磁束角度センサが図1に示す向きで設置された場合において、係合OKのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図6】(a)は図1中の磁束角度センサのセンサ信号の時系列データを示す波形であり、(b)は(a)の波形に含まれる基本波振幅の時間変化を示す波形である。
図7】第1実施形態において、制御装置が実行する係合可能時期を決定する処理のフローチャートである。
図8】第1実施形態において、クラッチ動作と磁束角度センサの出力とその出力の振幅との関係を示す図である。
図9】第1実施形態において、制御装置が実行する噛み合い完了を検出する処理のフローチャートである。
図10】磁束角度センサが図1に示す向きで設置された場合において、係合NGのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図11】(a)は図1中の磁束角度センサのセンサ信号の時系列データを示す波形であり、(b)は(a)の波形に含まれる基本波振幅の時間変化を示す波形であり、(c)は第2実施形態で用いる二次高調波振幅に対する基本波振幅の比率の時間変化を示す波形である。
図12】第3実施形態の周波数解析を説明するための図であり、(a)は磁束角度センサのセンサ信号の時系列データを示す波形であり、(b)は(a)に示す波形に対してウェーブレット変換を行った後の波形である。
図13】ウェーブレット変換を説明するための図である。
図14】第4実施形態の動力伝達システムの構成を示す図である。
図15図14中の第1係合部材と磁束角度センサのXV矢視図である。
図16】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、第1の係合NGのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図17】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、係合OKのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図18】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、第2の係合NGのときの磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図19】第4実施形態において、クラッチ動作と磁束角度センサの出力と歪率との関係を示す図である。
図20】第4実施形態において、クラッチ動作と磁束角度センサの出力とその出力の振幅との関係を示す図である。
図21】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、嵌合開始時の磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図22】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、嵌合途中の磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図23】磁束角度センサが図14に示す向きで設置された場合において、最大嵌合時の磁束角度センサの位置と出力との関係を示す図である。
図24】第5実施形態において、クラッチ動作と磁束角度センサの出力と二次高調波振幅の逆数との関係を示す図である。
図25】第5実施形態において、制御装置が実行する噛み合い完了を検出する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
図1に示す動力伝達システム1に本発明の噛み合いクラッチ制御システムが適用されている。動力伝達システム1は、車両に搭載され、電動モータ30の動力を駆動輪に伝達したり遮断したりする。具体的には、動力伝達システム1は、噛み合いクラッチ10と、アクチュエータ20と、電動モータ30と、回転数センサ40と、磁束角度センサ50と、制御装置60とを備える。
【0018】
噛み合いクラッチ10は、第1係合部材11と、第2係合部材12とを有する。第1係合部材11は、軸線AL1を中心に回転する。軸線AL1に平行な方向が軸線方向D1である。第1係合部材11の軸線方向D1の端面には、軸線AL1を中心に回転するときの回転方向の全周にわたって複数の第1ギヤ歯13が形成されている。第2係合部材12は、第1係合部材11と同じ軸線AL1を中心に、第1係合部材11と同じ方向に回転する。第2係合部材12の軸線方向D1の第1係合部材11側の端面には、複数の第1ギヤ歯13と噛み合う複数の第2ギヤ歯14が、回転方向の全周にわたって形成されている。第2係合部材12は、タイヤの回転軸につながっている。複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合う(すなわち、嵌合する)ことで、第1係合部材11と第2係合部材12とが係合する(すなわち、つながった状態となる)。
【0019】
第1係合部材11と、第2係合部材12とのそれぞれは、磁性材料によって構成されている。したがって、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とのそれぞれは、磁性体である。
【0020】
アクチュエータ20は、第1係合部材11を軸線方向D1の一方側と他方側とに移動させる。第1係合部材11が軸線方向D1に移動することで、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合って第1係合部材11と第2係合部材12とが係合する係合状態と、第1係合部材11と第2係合部材12とが離間する解放状態との切り替えが可能である。図1は、解放状態を示している。アクチュエータ20としては、電動モータや電磁ソレノイドが用いられる。
【0021】
電動モータ30は、第1係合部材11が回転する回転力を第1係合部材11に与える駆動源である。すなわち、電動モータ30は、第1係合部材11を回転させる。
【0022】
回転数センサ40は、電動モータ30の回転数を検出することで、第1係合部材11の回転数を検出する。第1係合部材11の回転数は、単位時間あたりに第1係合部材11が回転する回数のことであり、第1係合部材11の回転速度ともいわれる。回転数センサ40は、第1係合部材11の回転数に応じたセンサ信号を出力する。
【0023】
磁束角度センサ50は、第1係合部材11と第2係合部材12との噛み合い(すなわち、係合)が可能な噛み合い時期を決定するため、および、第1係合部材11と第2係合部材12との噛み合い完了の状態を検出するために用いられる。磁束角度センサ50は、センサ自体が磁界を発生させて、磁気回路を形成する自励式のセンサである。磁束角度センサ50は、磁束角度センサ50が形成する磁気回路に対して第1ギヤ歯13と第2ギヤ歯14との両方が入る位置に、設置される。具体的には、磁束角度センサ50は、複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14の両方に対して軸線AL1を中心とする径方向外側に設置される。軸線AL1を中心とする径方向は、軸線AL1に直交する方向と同じである。径方向外側は、径方向における中心から離れる側である。磁束角度センサ50は、検出範囲内の磁性体(すなわち、第1ギヤ歯13および第2ギヤ歯14)の位置に応じたセンサ信号を出力する。磁束角度センサ50の構成については、後述する。
【0024】
制御装置60の入力側には、回転数センサ40と磁束角度センサ50とが接続されている。制御装置60の出力側には、アクチュエータ20と電動モータ30とが接続されている。制御装置60は、電動モータ30の作動を制御する。制御装置60は、磁束角度センサ50のセンサ信号と、回転数センサ40のセンサ信号とに基づいて、アクチュエータ20の作動を制御する。
【0025】
制御装置60は、プロセッサ、メモリを含むマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。メモリには、電動モータ30、アクチュエータ20の作動を制御するための制御プログラムおよび制御データ等が記憶されている。プロセッサが制御プログラムを実行することで、各種処理が実行される。
【0026】
噛み合いクラッチ10の作動においては、アクチュエータ20の通電遅れや作動時の摩擦などによる、係合指示から実際に動いて係合するまでの作動遅れを保証するため、係合タイミングを検出する必要がある。そこで、制御装置60は、磁束角度センサ50のセンサ信号に基づいて、第1係合部材11の複数の第1ギヤ歯13と第2係合部材12の複数の第2ギヤ歯14との噛み合いが可能な噛み合い時期を決定する。
【0027】
また、制御装置60は、第1係合部材11の複数の第1ギヤ歯13と第2係合部材12の複数の第2ギヤ歯14との噛み合いの完了後に、アクチュエータ20を停止させる。噛み合いの完了を知るために、制御装置60は、磁束角度センサ50のセンサ信号に基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0028】
図2図3に示すように、磁束角度センサ50は、第1磁石51と、第2磁石52と、第1ヨーク53と、第2ヨーク54と、第3ヨーク55と、磁束検出部56と、これらを保持する図示しないケースとを有する。
【0029】
第1磁石51および第2磁石52は、磁界を発生させる磁界発生部である。第1磁石51は、第1磁極部51a、および、第1磁極部51aと異なる極性である第2磁極部51bを有する。第2磁石52は、第1磁極部51aと同じ極性である第3磁極部52a、および、第3磁極部52aと異なる極性である第4磁極部52bを有する。第1磁極部51aおよび第3磁極部52aは、N極である。第2磁極部51bおよび第4磁極部52bは、S極である。第1磁石51および第2磁石52として、永久磁石が用いられる。第1磁極部51aおよび第3磁極部52aが、磁界発生部が有する同じ極性の2つの磁極部に相当する。
【0030】
第1磁石51と第2磁石52とは、間を空けて、並列に配置されている。具体的には、第1磁石51の向きは、第1磁極部51aと第2磁極部51bとが磁束角度センサ50のセンサ中心線CL1に沿う方向に並ぶ向きである。第2磁石52の向きは、第3磁極部52aと第4磁極部52bとがセンサ中心線CL1に沿う方向に並ぶ向きである。これらの向きで、第1磁石51と第2磁石52とは、磁束角度センサ50のセンサ中心線CL1を挟んだ両側に配置されている。
【0031】
第1ヨーク53は、第1磁石51の第1磁極部51aに接続されている。より具体的には、第1ヨーク53は、センサ中心線CL1に沿う方向に延びている。第1ヨーク53は、その方向の一方側に位置する一方側端面53aと、その方向の他方側に位置する他方側端面53bとを有する。一方側端面53aは、第1磁石51の第1磁極部51aに対向し、第1磁極部51aに接続されている。このため、他方側端面53bは、第1ヨーク53のうち第1磁極部51aから離れた側に位置する。第1ヨーク53は、第1磁極部51aと他方側端面53bとの間に磁束を通過させる部材である。本実施形態では、第1磁極部51aから他方側端面53bに向かう方向に、磁束が第1ヨーク53を通過する。他方側端面53bが、第1ヨーク53が有する第1端面に相当する。なお、第1磁極部51aと他方側端面53bとの間に磁束を通過させることができれば、一方側端面53aと第1磁極部51aとが離れていてもよい。
【0032】
第2ヨーク54は、第2磁石52の第3磁極部52aに接続されている。より具体的には、第2ヨーク54は、第1ヨーク53に対してセンサ中心線CL1に対して直交する方向に、間を空けて配置されている。第2ヨーク54は、センサ中心線CL1に沿う方向に延びている。第2ヨーク54は、その方向の一方側に位置する一方側端面54aと、その方向の他方側に位置する他方側端面54bとを有する。一方側端面54aは、第2磁石52の第3磁極部52aに対向し、第3磁極部52aに接続されている。このため、他方側端面54bは、第2ヨーク54のうち第3磁極部52aから離れた側に位置する。第2ヨーク54は、第3磁極部52aと他方側端面54bとの間に磁束を通過させる部材である。本実施形態では、第3磁極部52aから他方側端面54bに向かう方向に、磁束が第2ヨーク54を通過する。他方側端面54bが、第2ヨーク54が有する第2端面に相当する。なお、第3磁極部52aと他方側端面54bとの間に磁束を通過させることができれば、一方側端面54aと第3磁極部52aとが離れていてもよい。
【0033】
第3ヨーク55は、U字形状である。第3ヨーク55の一端は、第1磁石51の第2磁極部51bに接続されている。第3ヨーク55の他端は、第2磁石52の第4磁極部52bに接続されている。第3ヨーク55は、第2磁極部51b、第4磁極部52bを通過する磁束を通過させる部材である。なお、第3ヨーク55は、第2磁極部51b、第4磁極部52bを通過する磁束を通過させることができれば、第1磁石51および第2磁石52に対して離れていてもよい。
【0034】
第1磁石51、第2磁石52、第1ヨーク53、第2ヨーク54および第3ヨーク55は、磁気回路を構成する。この磁気回路により、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間に、センサ中心線CL1に沿う方向で、第1磁石51および第2磁石52から離れる側に向かう磁束が発生する。
【0035】
磁束検出部56は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間に配置される。第1ヨーク53と第2ヨーク54との間を通過する磁束は、第1ヨーク53の他方側端面53bと第2ヨーク54の他方側端面54bとのそれぞれに対向する磁性体の位置、形状によって向きが変わる。磁束検出部56は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間を通る磁束の向きを示すセンサ信号を出力する。より具体的には、磁束検出部56は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間のセンサ中心線CL1に対して、磁束検出部56を通過する磁束が、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向D2の一方側または他方側へなす磁束角度θを示すセンサ信号を出力する。
【0036】
このようなセンサ信号を出力するために、磁束検出部56には、一方向を検出方向として検出方向の磁束の強度を検出する2つのホール素子が用いられる。2つのホール素子のうち一方のホール素子は、センサ中心線CL1に沿う方向を検出方向とする。2つのホール素子のうち他方のホール素子は、センサ中心線CL1に直交する並び方向D2に沿う方向を検出方向とする。2つのホール素子が検出した磁束強度から磁束角度が信号処理回路で演算され、演算された磁束角度を示すセンサ信号が磁束検出部56から出力される。
【0037】
図1に示すように、磁束角度センサ50は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向D2が軸線方向D1に沿う方向であり、第1ヨーク53と第2ヨーク54とが複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14に対して軸線AL1を中心とする径方向外側に位置するように設置される。このとき、第1ヨーク53の他方側端面53bは、解放状態のときの複数の第1ギヤ歯13に対して軸線AL1を中心とする径方向で対向する。第2ヨーク54の他方側端面54bは、解放状態のときの複数の第2ギヤ歯14に対して軸線AL1を中心とする径方向で対向する。第2ヨーク54は、第1ヨーク53に対して間を空けて軸線方向D1に沿う方向に並んでいる。センサ中心線CL1は、軸線AL1を中心とする径方向に沿っている。
【0038】
このため、磁束検出部56は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間を通過する磁束が、磁束検出部56を通る軸線AL1を中心とする径方向に対して、軸線方向D1の一方側または他方側になす磁束角度θを示すセンサ信号を出力する。換言すると、このように設置された磁束角度センサ50では、軸線方向D1の磁束角度θの変化に応じて、センサ信号が変化する。本実施形態では、磁束角度θは、磁束検出部56を通って軸線AL1に直交する線と、軸線AL1と、を含む平面内で、磁束検出部56を通る軸線AL1を中心とする径方向に対して磁束がなす角度である。
【0039】
図4(a)は、図1の複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14のIV矢視図であって、係合NG(すなわち、噛み合いが不可能な状態)のときの複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14のそれぞれと磁束検出部56との相対的な位置関係を示す図である。図4(b)は、図4(a)中の磁束検出部56の各位置での磁束検出部56のセンサ出力(すなわち、センサ信号)の大きさを示す図である。
【0040】
図5(a)は、図1の複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14のV矢視図であって、係合OK(すなわち、噛み合いが可能な状態)のときの複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14のそれぞれと磁束検出部56との相対的な位置関係を示す図である。図5(b)は、図5(a)中の磁束検出部56の各位置での磁束検出部56のセンサ出力の大きさを示す図である。
【0041】
図4(a)、図5(a)の紙面奥側は、図2の上下方向の下側に対応している。図4(a)、図5(a)において、磁束検出部56からの矢印は、磁束検出部56を通る磁束の向きを示している。磁束検出部56を通る磁束は、磁束検出部56から近い位置にある歯に向かう。本実施形態では、磁束検出部56の磁束角度の検出方向は、軸線方向D1である。
【0042】
図4(a)に示すように、係合NGのときである第1ギヤ歯13と第2ギヤ歯14とが向かい合うときでは、磁束検出部56の位置に関わらず、磁束検出部56から第1ギヤ歯13と第2ギヤ歯14とのそれぞれまでの距離が等しい。このため、磁束検出部56から第1ギヤ歯13に向かう磁束と、磁束検出部56から第2ギヤ歯14に向かう磁束とは、軸線方向D1で互いに異なる側に傾くため、互いに打ち消し合う。よって、図4(b)に示すように、係合NGのときでは、磁束検出部56の位置に関係なく、磁束角度センサ50の出力値(すなわち、センサ信号の大きさ)は0である。
【0043】
一方、図5(a)に示すように、係合OKのときである第1ギヤ歯13と第2ギヤ歯14とが向かい合わないときでは、磁束検出部56が軸線方向D1で第1ギヤ歯13に対向する位置のとき、磁束は軸線方向D1の第1係合部材11側に傾く。また、磁束検出部56が軸線方向D1で第2ギヤ歯14に対向する位置のとき、磁束は軸線方向D1の第2係合部材12側に傾く。このため、図5(b)に示すように、係合OKのときでは、磁束検出部56の位置によって、磁束角度センサ50の出力値が極大、極小となる。
【0044】
図6(a)に示す波形は、タイヤとモータとのそれぞれの回転数が一定であり、モータの回転数の方がタイヤの回転数よりも小さい場合の磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データを示す波形である。また、図6(b)に示す波形は、図6(a)のセンサ信号の時系列データに含まれる基本波から算出した振幅(以下、基本波振幅と言う)の時間変化を示す波形である。
【0045】
基本波は、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データのうちギヤ歯通過周波数を有する正弦波の成分である。ギヤ歯通過周波数は、複数の第1ギヤ歯13のうち1つの第1ギヤ歯13が基準位置を通過するのにかかる時間を1周期としたときの周波数である。基準位置は、第1係合部材が回転するときに複数の第1ギヤ歯13のそれぞれが通過する一つの位置である。基準位置は、例えば、第1ヨーク53の他方側端面53bに対して径方向で対向する領域の一点である。複数の第1ギヤ歯13のうち1つの第1ギヤ歯13が基準位置を通過するのにかかる時間とは、複数の第1ギヤ歯13のうち1つの第1ギヤ歯13が基準位置を通過してから、複数の第1ギヤ歯13のうちその1つの第1ギヤ歯133の隣に位置する別の1つの第1ギヤ歯13が基準位置を通過するまでの時間である。本実施形態では、第1係合部材11が、第1係合部材と第2係合部材との一方の係合部材に相当する。複数の第1ギヤ歯13が、一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯に相当する。図4(b)、図5(b)は、センサ信号のうち基本波の成分を示している。
【0046】
図6(a)、(b)に示すように、図4に示す係合NGのときに、基本波振幅は極小となり、図5に示す係合OKのときに、基本波振幅は極大となる。このことを活用することで、磁束角度センサ50のセンサ信号に基づいて、係合可能時期を決定することができる。
【0047】
そこで、制御装置60は、センサ信号の時系列データから基本波振幅を抽出する。制御装置60は、基本波振幅の時間変化に基づいて、係合可能時期を決定する。このとき、制御装置60は、複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14の位置関係と基本波との関係を用いる。この関係は、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが係合可能な位置関係のとき、基本波振幅は極大になるという関係である。
【0048】
具体的には、制御装置60は、図7のフローチャートに従って、係合可能時期を決定する処理を行う。この処理は、第1係合部材11と第2係合部材12との係合が必要なときに実行される。なお、各図中に示したステップは、各種機能を実現する機能部、手段に対応するものである。このことは、他のフローチャートにおいても同様である。
【0049】
図7に示すように、ステップS1では、制御装置60は、各種センサ信号の読み込みを行う。制御装置60は、回転数センサ40のセンサ信号を読み込む。また、制御装置60は、磁束角度センサ50の所定期間のセンサ信号を読み込む。これにより、周波数解析に必要なデータ数である磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データを取得する。
【0050】
続いて、ステップS2では、制御装置60は、ステップS1で取得したセンサ信号の時系列データに対して、周波数解析を行う。この周波数解析では、制御装置60は、回転数センサ40の検出結果と複数の第1ギヤ歯13の数とに基づいて、ギヤ歯通過周波数を算出する。回転数センサ40の検出結果は、第1係合部材11の回転数を示す。そして、制御装置60は、FFTを用いて、ステップS1で取得したセンサ信号の時系列データから基本波振幅を算出する。FFTは、Fast Fourier Transform(すなわち、高速フーリエ変換)の略称である。振幅としては、例えば、ピークピーク値の1/2の値が算出される。ピークピーク値は、時間的に直近の極大値と極小値との差である。これにより、図6(a)に示すセンサ信号の時系列データから、図6(b)に示す基本波振幅の時間変化のデータが得られる。
【0051】
続いて、ステップS3では、制御装置60は、基本波振幅の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。具体的には、制御装置60は、図6(b)に示すように、各時点の基本波振幅と、閾値とを比較する。閾値は、基本波振幅が極大となる時点を特定するために設定される。制御装置60は、基本波振幅が閾値を超えた時点を検知することで、係合可能な時期を決定する。すなわち、閾値を超えていない状態から閾値を超えた状態に切り替わった時点を、係合可能な時点に決定する。このようにして、制御装置60は、過去の検出結果から未来の係合可能な時期を決定する。
【0052】
続いて、ステップS4では、制御装置60は、クラッチの係合動作を開始させる。すなわち、制御装置60は、磁束角度センサ50の現在のセンサ信号と、ステップS3で決定された噛み合い時期とに基づいて、アクチュエータ20を作動させる。これにより、第1係合部材11と第2係合部材12との噛み合いが開始される。
【0053】
次に、クラッチ噛み合い前後の磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データの波形について説明する。図8(a)は、クラッチの作動状態を示すクラッチストロークの時間変化を示す。クラッチストロークの時間変化は、軸線方向D1における第1係合部材11の位置変化を示している。図8(b)は、図8(a)のクラッチの作動状態に対応する磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データの波形を示す。
【0054】
噛み合い前は、第1係合部材11と第2係合部材12とが異なる回転数で回転していることから、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合えるタイミングは周期的に訪れる。このため、図8(b)に示すように、噛み合い始めよりも前では、センサ信号の時系列データに周期的な出力変動が見られる。一方、噛み合い後は、第1係合部材11と第2係合部材12の回転数が同期する。このため、図8(b)に示すように、噛み合い完了後では、センサ信号に若干の出力変動が見られるものの、センサ信号の変動レベルは一定値以下に収束する。
【0055】
したがって、このことを活用することで、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出することができる。
【0056】
図8(c)は、図8(b)に示す波形から算出した出力振幅(すなわち、センサ信号の振幅)の時間変化を示す。図8(c)に示すように、噛み合い完了後では、出力振幅が規定値α以下である状態が継続する。このことから、出力振幅が規定値α以下になった時点を検出することで、噛み合い完了の状態を検出することが考えられる。
【0057】
しかし、図8(c)に示す波形において、噛み合い完了前にも規定値α以下になる部分が周期的に現れる。このため、出力振幅が規定値α以下であることのみに基づいて、噛み合いが完了した状態を検出すると、誤検出してしまう。ただし、噛み合い完了前における出力振幅が規定値α以下である状態の継続時間は、噛み合い完了後よりも短い。このことから、出力振幅が規定値α以下である状態が規定時間β以上継続した状態が、噛み合い完了の状態であるというロジックを採用することで、誤検出を回避することができる。
【0058】
そこで、クラッチ作動の開始後、制御装置60は、図9のフローチャートに従って、噛み合い完了の状態を検出する処理を行う。
【0059】
図9に示すように、ステップS11では、制御装置60は、磁束角度センサ50のセンサ信号を読み込む。これにより、制御装置60は、現時点の磁束角度センサ50のセンサ信号を取得する。取得したセンサ信号は、メモリに一時的に記憶される。
【0060】
続いて、ステップS12では、制御装置60は、ステップS11で取得したセンサ信号からセンサ信号の振幅A1を算出する。このとき、制御装置60は、今回取得したセンサ信号および今回よりも前に取得したセンサ信号を用いて、センサ信号の振幅A1として、ピークピーク値の1/2の値を算出する。
【0061】
続いて、ステップS13では、制御装置60は、ステップS12で算出した振幅A1と規定値αとを比較して、振幅A1が規定値α以下であるか否かを判定する。振幅A1が規定値αよりも大きい場合、制御装置60はNO判定し、ステップS11に戻る。振幅A1が規定値α以下である場合、制御装置60はYES判定し、ステップS14に進む。
【0062】
ステップS14では、制御装置60は、振幅A1が規定値α以下である状態の継続時間T1が、規定時間β以上であるか否かを判定する。規定時間β未満である場合、制御装置60はNO判定し、ステップS11に戻る。規定時間β以上である場合、制御装置60はYES判定し、ステップS15に進む。
【0063】
ステップS15では、制御装置60は、現在の状態が噛み合い完了の状態であることを決定する。これにより、噛み合い完了の状態が検出される。ステップS15の実行後に、制御装置60は、本処理を終了する。その後、制御装置60は、アクチュエータ20を停止させる。
【0064】
なお、噛み合い完了後のセンサ信号の振幅の大きさは、ギヤ歯同士のクリアランスやノイズの影響を受けることが予想される。このため、ステップS13で用いる規定値αは、噛み合いクラッチ10の係合と開放とを数回実施する間に、学習補正されることが望ましい。また、ステップS14で用いる規定時間βは、第1、第2係合部材11、12の回転数によって適切な時間が異なる。そこで、噛み合い完了前に規定値α以下になる時間履歴に応じて、規定時間βは、学習補正されることが望ましい。また、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データとして、生波形が用いられる場合に限らず、内部演算によりバンドパスフィルタを掛けた波形が用いられてもよい。
【0065】
以上の説明の通り、本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムは、磁束角度センサ50と、制御装置60とを備える。磁束角度センサ50は、図2に示すように構成され、図1に示す向きで設置される。すなわち、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向D2が軸線方向D1に沿う方向となるように設置される。制御装置60は、ステップS3で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定する。制御装置60は、ステップS13、S14、S15で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。ステップS3が噛み合い時期決定手段に相当し、ステップS13、S14、S15が噛み合い状態検出手段に相当する。
【0066】
図2に示す構成の磁束角度センサ50が図1に示す向きで設置される場合、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。また、本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムによれば、下記の効果を奏する。
【0067】
(1)本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムは、回転数センサ40を備える。制御装置60は、係合可能時期を決定する処理において、ステップS2で、センサ信号の時系列データに対して、周波数解析を行う。この周波数解析では、制御装置60は、回転数センサ40の検出結果と複数の第1ギヤ歯13の数とに基づいて、ギヤ歯通過周波数を算出する。制御装置60は、センサ信号の時系列データからギヤ歯通過周波数を有する正弦波の振幅である基本波振幅を算出する。そして、ステップS3で、制御装置60は、基本波振幅の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。
【0068】
磁束角度センサ50が本実施形態のように構成され、本実施形態のように設置される場合、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合い可能な状態のときに、基本波振幅は極大になる。このため、センサ信号の時系列データから抽出した基本波振幅の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定することができる。
【0069】
(2)制御装置60は、噛み合い完了の状態を検出する際では、ステップS12で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データから、センサ信号の振幅を算出する。ステップS12は、センサ信号の振幅を算出する振幅算出手段に相当する。制御装置60は、ステップS13、S14、S15で、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続した場合に、噛み合い完了の状態であることを決定する。
【0070】
本実施形態のように磁束角度センサ50が設置される場合、噛み合い完了前の状態のとき、磁束角度センサ50のセンサ信号の振幅は、周期的に一定値よりも大きくなったり小さくなったりと変動する。一方、噛み合い完了後の状態のとき、磁束角度センサ50のセンサ信号の振幅は、一定値以下に収束する。このことから、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続したことを検出することで、噛み合い完了の状態を検出することができる。なお、本実施形態では、センサ信号の振幅として、ピークピーク値の1/2の値を算出したが、他の方法で振幅を算出してもよい。
【0071】
(第2実施形態)
図4(a)が第1の係合NGのときを示している。図10(a)が第1ギヤ歯13の一部と第2ギヤ歯14の一部とが軸線方向D1で向かい合うときである第2の係合NGのときを示している。第2の係合NGのときでは、図10(a)中の磁束検出部56の各位置での磁束検出部56の出力の大きさは、図10(b)に示すようになる。図10(b)に示す波形では、ギヤ歯通過周波数の2倍周波数の正弦波の振幅である二次高調波振幅が、図4(a)の第1の係合NGのとき、および、図5(a)の係合OKのときに比べて大きい。
【0072】
図11(a)は、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データを示す波形である。図11(b)は、図11(a)の波形の基本波振幅と二次高調波振幅のそれぞれの経時変化を示す波形である。図11(b)に示すように、基本波振幅は、第1の係合NGのとき、第2の係合NGのとき、係合OKのときの順に大きい。二次高調波振幅は、第1の係合NGおよび係合OKのときに小さく、第2の係合NGのときに大きい。このため、図11(c)に示すように、二次高調波振幅に対する基本波振幅の比率は、係合OKのときに大きく、第1の係合NGおよび第2の係合NGのときに小さい。
【0073】
そこで、本実施形態では、図7のステップS2の周波数解析において、第1実施形態と同様に、制御装置60は、ギヤ歯通過周波数を算出する。そして、制御装置60は、FFTを用いて、ステップS1で取得したセンサ信号の時系列データから基本波振幅と、二次高調波振幅とを算出する。さらに、制御装置60は、二次高調波振幅に対する基本波振幅の比率を算出する。これにより、制御装置60は、この比率の時系列データ(すなわち、比率の時間変化)を取得する。
【0074】
図7のステップS3において、制御装置60は、この比率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。具体的には、制御装置60は、図11(c)に示すように、各時点の比率と、閾値とを比較する。閾値は、比率が極大となる時点を特定するために設定される。制御装置60は、比率が閾値を超えた時点を検知することで、係合可能な時期を決定する。すなわち、比率が閾値を超えていない状態から閾値を超えた状態に切り替わった時点を、係合可能な時点に決定する。図7のフローチャートの他のステップは、第1実施形態と同じである。
【0075】
上記の通り、係合OKのタイミングでは、基本波振幅が極大となり、二次高調波振幅が極小となる。このため、二次高調波振幅に対する基本波振幅の比率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定することができる。この場合、図11(b)の基本波振幅のピークと比較して、図11(c)のピークの頂部の幅が狭くなるので、噛み合い時期の決定の精度を向上させることができる。なお、図11(c)において、閾値を越えている期間の中間点を、係合可能な時点に決定してもよい。
【0076】
(第3実施形態)
本実施形態では、図7のステップS2、S3が第1実施形態と異なる。他の構成は、第1実施形態と同じである。ステップS2では、制御装置60は、図12(a)に示すセンサ信号の時系列データの波形に対して、周波数解析の手法の一つであるウェーブレット変換を行う。これにより、制御装置60は、図12(b)に示すように、図12(a)のセンサ信号の時系列データの波形の腹部に対応する時点に上に凸のピークを持つように縦軸の値が周期的に経時変化する波形データを得る。腹部は、振幅が極大となる部分である。
【0077】
磁束角度センサ50は、第1実施形態と同様に、図1に示す向きで設置される。この場合、図5(a)、(b)に示すように、係合OKのときでは、磁束検出部56の位置によって、磁束角度センサ50のセンサ信号が極大または極小となる。このため、図12(a)に示す波形において、腹部の時点が係合OKの時期である。
【0078】
このことから、図12(a)に示す実波形において、腹部の時点を検出することで、係合OKのタイミングを決定することができる。しかし、図12(a)に示す実波形は、DCトレンド変動が大きいため、腹部を検出するために、単一の閾値を設定することができない。そこで、本実施形態では、DCトレンドを小さくするために、図12(a)に示す波形に対して、ウェーブレット変換を行う。
【0079】
ここで、「ウェーブレット」は、「小さな波」のことである。ウェーブレット変換は、対象とする波形から小さな波を切り出すことである。例えば、図13に示す波形X0には、マザーウェーブレットX1、X2が何割かひそんでいる。この場合において、ウェーブレット変換は、対象とする波形X0からマザーウェーブレットX1またはマザーウェーブレットX2と相似な波形のみを抽出することである。
【0080】
ウェーブレット変換の参照波形となるマザーウェーブレットは、検出したい特徴波形に対して様々なタイプが提案されている。最適なマザーウェーブレットは、ギヤ歯の形状、センサ特性、位置関係等で異なると考えられる。このため、マザーウェーブレットとしては、歯の形状、センサの構成、センサの置き方に応じて、変換後の波形がセンサ信号の時系列データの波形の腹部に対応する時点にピークを持ち、変換後の波形における各ピークの頂点の強度が単一の所定値を超えるように、予め定められたものが用いられる。マザーウェーブレットの例としては、図13中のマザーウェーブレットX1、X2のように、中央が振幅最大であり、両端に向かって振幅が減少するウェーブレットが挙げられる。
【0081】
制御装置60は、ウェーブレット変換において、このマザーウェーブレットと、センサ出力交流成分(すなわち、センサ信号の時系列データ)の相関性を算出することで、図12(b)に示す波形の信号処理結果を得る。ウェーブレット変換は、時間方向にマザーウェーブレットを拡大または縮小することで、検出周波数を調整することができる。あらかじめ検出したい周波数が、別途設けた回転数検出手段等から分かっていれば、周波数分析の帯域を限定して計算負荷を軽減することができる。そこで、制御装置60は、回転数センサ40が検出した第1係合部材11の回転数と、第1係合部材11が有する複数の第1ギヤ歯13の歯数とに基づいて、検出したい周波数を求める。制御装置60は、求めた周波数を用いて、ウェーブレット変換を行うことが好ましい。
【0082】
図12(b)に示す波形は、マザーウェーブレットとしてMorseを用いてのウェーブレット変換を行い、ピークとなる周波数成分強度の時間変化を抽出した結果である。図12(b)に示す波形より、生データの腹部に対応してピークを持ち、また、DCトレンド変化の小さい計算結果が得られていることが確認できる。
【0083】
そして、図7のステップS3において、制御装置60は、ウェーブレット変換後の波形データに基づいて、噛み合い時期を決定する。具体的には、制御装置60は、図12(b)に示すような計算結果と、予め設定された閾値とを比較し、閾値越え区間の中間点を抽出することで、係合可能な時期を決定する。この中間点は、図12(a)に示す波形の腹部に対応する。
【0084】
以上の説明の通り、本実施形態によれば、制御装置60は、係合可能時期を決定する処理において、ステップS2で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データに対してウェーブレット変換を行うことで、センサ信号の時系列データにおける腹部に対応する時点(すなわち、振幅が極大となる時点)にピークを持って周期的に経時変化する波形データを算出する。そして、ステップS3で、制御装置60は、ステップS2で算出した波形データに基づいて、噛み合い時期を決定する。これによれば、噛み合い可能な時期を精度よく決定することができる。
【0085】
(第4実施形態)
図14図15に示すように、本実施形態では、磁束角度センサ50の設置の向きが第1実施形態と異なる。図7のステップS2、S3が第1実施形態と異なる。他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0086】
図14図15に示すように、磁束角度センサ50は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向D2が第1係合部材11および第2係合部材12の回転方向D3に沿う方向となり、第1ヨーク53と第2ヨーク54とが、複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14の径方向外側に位置するように、設置される。回転方向D3は、複数の第1ギヤ歯13の並び方向、複数の第2ギヤ歯14の並び方向、第1係合部材11の周方向、および、第2係合部材12の周方向と同じである。このとき、第1ヨーク53の他方側端面53bは、解放状態のときの複数の第1ギヤ歯13、複数の第2ギヤ歯14、および、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14との軸線方向D1での間の空間のそれぞれに対して、軸線AL1を中心とする径方向で対向する。同様に、第2ヨーク54の他方側端面54bは、解放状態のときの複数の第1ギヤ歯13、複数の第2ギヤ歯14、および、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14との軸線方向D1での間の空間のそれぞれに対して、軸線AL1を中心とする径方向で対向する。第2ヨーク54は、第1ヨーク53に対して間を空けて回転方向D3に沿う方向に並んでいる。センサ中心線CL1は、軸線AL1を中心とする径方向に沿っている。
【0087】
このため、磁束検出部56は、第1ヨーク53と第2ヨーク54との間を通過する磁束が、磁束検出部56を通る軸線AL1を中心とする径方向に対して、回転方向D3の一方側または他方側になす磁束角度θに応じたセンサ信号を出力する。換言すると、このように設置された磁束角度センサ50では、回転方向D3の磁束角度θの変化に応じて、センサ信号が変化する。本実施形態では、磁束角度θは、磁束検出部56を通る軸線AL1に直交する平面内で、磁束検出部56を通る軸線AL1を中心とする径方向に対して磁束がなす角度である。
【0088】
図16(a)、図17(a)および図18(a)は、図14の複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14を図中の上側からみた図である。図16(a)、図17(a)および図18(a)では、第1の係合NG、係合OK、第2の係合NGのそれぞれの状態で、第1係合部材11および第2係合部材12が回転しているときの複数の第1ギヤ歯13、複数の第2ギヤ歯14、磁束検出部56の位置関係を示している。図16(b)、図17(b)および図18(b)のそれぞれは、図16(a)、図17(a)および図18(a)のそれぞれの磁束検出部56の各位置での磁束検出部56のセンサ出力(すなわち、センサ信号)の大きさを示す図である。
【0089】
図16(a)に示す第1の係合NGのときでは、図16(a)に示す磁束検出部56の位置によっては、磁束検出部56を通過する磁束は、第1ギヤ歯13および第2ギヤ歯14に引き寄せられて、回転方向D3の一方側または他方側へ傾く。このため、図16(b)に示すように、図16(a)に示す磁束検出部56の位置によっては、基本波振幅は大きい。このときでは、二次高調波振幅は0である(すなわち、二次高調波振幅は小さい)。
【0090】
図17(a)に示す係合OKのときでは、図17(a)中の白丸で示される磁束検出部56の位置でのセンサ出力である基本波振幅は0である(すなわち、基本波振幅は小さい)。このときでは、図17(a)中の白丸と黒丸の両方で示される磁束検出部56の位置でのセンサ出力である二次高調波振幅は大きい。
【0091】
図18(a)に示す第2の係合NGのときでは、図18(b)に示すように、基本波振幅は、第1の係合NGのときと係合OKのときの間の「中」の大きさである。このときでは、二次高調波振幅は、第1の係合NGのときと係合OKのときの間の「中」の大きさである。
【0092】
図19(a)は、クラッチの作動状態を表すクラッチストロークの時間変化を示す。図19(b)は、図19(a)のクラッチの作動状態に対応する磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データを示す波形である。図19(c)は、図19(b)の時系列データにおける歪率の時間変化を示す波形である。歪率は、基本波振幅に対する二次高調波振幅の比率である。
【0093】
図17(b)に示すように、係合OKのとき、基本波振幅が最小となる。このため、図19(b)に示す波形の節部分(すなわち、振幅が極小となる部分)の時点が、係合可能状態となるタイミングである。また、図17(b)に示すように、係合OKのとき、二次高調波振幅が最大となる。このため、図19(c)に示す波形は、係合OKのときに、極大となる。本実施形態では、図19(b)に示す波形の節部分の時点を特定するために、歪率を用いる。
【0094】
そこで、本実施形態では、図7のステップS2の周波数解析において、第1実施形態と同様に、制御装置60は、ギヤ歯通過周波数を算出する。そして、制御装置60は、FFTを用いて、ステップS1で取得したセンサ信号の時系列データから基本波振幅と、二次高調波振幅とを算出する。さらに、制御装置60は、基本波振幅に対する二次高調波振幅の比率である歪率を算出する。これにより、制御装置60は、歪率の時系列データ(すなわち、歪率の時間変化)を取得する。
【0095】
図7のステップS3において、制御装置60は、この歪率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。具体的には、制御装置60は、図19(c)に示すように、各時点の歪率と、閾値とを比較する。閾値は、歪率が極大となる時点を特定するために設定される。制御装置60は、歪率が閾値を超えた時点を検知することで、係合可能な時期を決定する。すなわち、歪率が閾値を超えていない状態から閾値を超えた状態に切り替わった時点を、係合可能な時点に決定する。閾値を越えている期間の中間点を、係合可能な時点に決定してもよい。図7のフローチャートの他のステップは、第1実施形態と同じである。
【0096】
次に、クラッチ噛み合い前後の磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データの波形について説明する。図20(a)は、クラッチの作動状態を示すクラッチストロークの時間変化を示す。図20(b)は、図20(a)のクラッチの作動状態に対応する磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データの波形を示す。図20(c)は、図20(b)に示す波形から算出した出力振幅(すなわち、センサ信号の振幅)の時間変化を示す。
【0097】
図20(b)に示す波形においても、第1実施形態で説明した図8(b)に示す波形と同様に、噛み合い始めよりも前に、センサ信号の時系列データに周期的な出力変動が見られるが、噛み合い完了後に、センサ信号の振幅は一定値以下に収束する。このため、図20(c)に示すように、噛み合い完了後では、出力振幅が規定値α以下の状態が規定時間β以上継続する。そこで、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、制御装置60は、図9のフローチャートに従って、噛み合い完了の状態を検出する処理を行う。
【0098】
以上の説明の通り、本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムは、磁束角度センサ50と、制御装置60とを備える。磁束角度センサ50は、図2に示すように構成され、図14、15に示す向きで設置される。すなわち、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向D2が第1係合部材11および第2係合部材12の回転方向D3に沿う方向となるように設置される。制御装置60は、ステップS3で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い時期を決定する。制御装置60は、ステップS13、S14、S15で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。
【0099】
図2に示す構成の磁束角度センサ50が図14、15に示す向きで設置される場合においても、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データは、噛み合い可能な状態、噛み合い完了の状態のそれぞれのときに、特異となる。このため、同じセンサから出力されたセンサ信号を用いて、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。また、本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムによれば、下記の効果を奏する。
【0100】
(1)本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムは、回転数センサ40を備える。制御装置60は、係合可能時期を決定する処理において、ステップS2で、センサ信号の時系列データに対して、周波数解析を行う。この周波数解析では、制御装置60は、回転数センサ40の検出結果と複数の第1ギヤ歯13の数とに基づいて、ギヤ歯通過周波数を算出する。制御装置60は、センサ信号の時系列データから基本波振幅と二次高調波振幅とを算出し、基本波振幅に対する二次高調波振幅の比率である歪率を算出する。そして、ステップS3で、制御装置60は、この歪率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。
【0101】
本実施形態のように磁束角度センサ50が設置される場合、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合い可能な状態のときに、歪率は極大になる。このため、歪率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定することができる。
【0102】
(2)制御装置60は、噛み合い完了の状態を検出する際では、ステップS12で、磁束角度センサ50から出力されたセンサ信号の時系列データから、センサ信号の振幅を算出する。制御装置60は、ステップS13、S14、S15で、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続した場合に、噛み合い完了の状態を検出する。
【0103】
本実施形態のように磁束角度センサ50が設置される場合においても、噛み合い完了前の状態のとき、磁束角度センサ50のセンサ信号の振幅は、周期的に一定値よりも大きくなったり小さくなったりと変動する。一方、噛み合い完了後の状態のとき、磁束角度センサ50のセンサ信号の振幅は、一定値以下に収束する。このことから、センサ信号の振幅が規定値以下の状態が規定時間以上継続したことを検出することで、噛み合い完了の状態を検出することができる。
【0104】
(第5実施形態)
本実施形態では、制御装置60が行う噛み合い完了の状態を検出する処理が第4実施形態と異なる。他の構成は、第4実施形態と同じである。
【0105】
図21(a)、図22(a)および図23(a)は、図14の複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14を図中の上側からみた図である。図21(a)、図22(a)および図23(a)では、図21(a)、図22(a)および図23(a)のそれぞれの状態で、第1係合部材11と第2係合部材12とが回転するときの複数の第1ギヤ歯13および複数の第2ギヤ歯14のそれぞれと磁束検出部56との相対的な位置関係が示されている。図21(a)は嵌合開始時の状態を示し、図22(a)は嵌合途中の状態を示し、図23(a)は最大嵌合時の状態を示している。図21(b)、図22(b)および図23(b)のそれぞれは、図21(a)、図22(a)および図23(a)のそれぞれの磁束検出部56の各位置での磁束検出部56のセンサ出力の大きさを示す図である。図24(a)は、クラッチの作動状態を示すクラッチストロークの時間変化を示す。図20(b)は、図24(a)のクラッチの作動状態に対応する磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データの波形および二次高調波振幅の逆数の時間変化の波形を示す。
【0106】
第4実施形態での説明の通り、磁束角度センサ50が図14に示す向きで設置される場合において、第1係合部材11と第2係合部材12とが係合可能な位置関係のとき、基本波振幅が最小となり、二次高調波振幅が最大となる。そして、第1係合部材11と第2係合部材12とが係合可能な位置で、第1係合部材11のストローク動作(すなわち軸線方向D1の第2係合部材12側への第1係合部材11の移動)が開始される。この場合、図21(b)、22(b)、23(b)に示すように、基本波振幅は最小のまま変化せず、二次高調波振幅はストロークの増加にともなって小さくなる。最大嵌合時に、二次高調波振幅は、最も0に近づく。このため、図24(b)に示すように、二次高調波振幅の逆数の波形は、最大嵌合時に最も強度が大きなピークを持つ。このことを活用することで、磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データに基づいて、噛み合い完了の状態を検出することができる。
【0107】
そこで、本実施形態では、制御装置60は、センサ信号の時系列データから二次高調波振幅の逆数を抽出し、この逆数の時間変化に基づいて、噛み合い完了の状態を検出する。具体的には、クラッチ作動の開始後、制御装置60は、図25に示すフローチャートに従って、噛み合い完了の状態を検出する処理を行う。
【0108】
ステップS21では、制御装置60は、各種センサ信号の読み込みを行う。制御装置60は、回転数センサ40のセンサ信号を読み込む。また、制御装置60は、磁束角度センサ50の所定期間のセンサ信号を読み込む。これにより、周波数解析に必要なデータ数である磁束角度センサ50のセンサ信号の時系列データを取得する。
【0109】
続いて、ステップS22では、制御装置60は、ステップS21で取得したセンサ信号の時系列データに対して、周波数解析を行う。この周波数解析では、制御装置60は、回転数センサ40の検出結果と複数の第1ギヤ歯13の数とに基づいて、ギヤ歯通過周波数を算出する。そして、制御装置60は、FFTを用いて、ステップS21で取得したセンサ信号の時系列データから二次高調波振幅の逆数を算出する。これにより、図24(b)に示すセンサ信号の時系列データから二次高調波振幅の逆数の時間変化のデータが得られる。
【0110】
続いて、ステップS23では、制御装置60は、各時点の二次高調波振幅の逆数と、閾値とを比較して、二次高調波振幅の逆数が閾値を越えたか否かを判定する。閾値は、二次高調波振幅の逆数が最大となる時点を特定するために設定される。閾値を越えていない場合、制御装置60は、NO判定し、ステップS21に戻る。閾値を越えている場合、制御装置60は、YES判定し、ステップS24に進む。
【0111】
ステップS24では、制御装置60は、現在の状態が噛み合い完了の状態であることを決定する。ステップS24の実行後に、制御装置60は、本処理を終了する。その後、制御装置60は、アクチュエータ20を停止させる。
【0112】
以上の説明の通り、本実施形態の噛み合いクラッチ制御システムでは、噛み合い完了の状態を検出する処理において、ステップS22の周波数解析で、制御装置60は、ギヤ歯通過周波数を算出し、二次高調波振幅の逆数を算出する。そして、ステップS23、S24で、制御装置60は、二次高調波振幅の逆数が閾値を越えたことを検出することで、噛み合い完了の状態を検出する。ステップS22が周波数解析手段に相当し、ステップS23、S24が噛み合い状態検出手段に相当する。
【0113】
図14図15に示す向きで磁束角度センサ50が設置される場合、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14との噛み合い開始から噛み合い完了まで噛み合いが進むにつれて二次高調波振幅が減少するという、噛み合い状態と二次高調波振幅との関係がある。この関係では、噛み合い完了の状態のとき二次高調波振幅の逆数が最大になる。このため、二次高調波振幅の逆数が閾値を越えたことを検出することで、噛み合い完了の状態を検出することができる。
【0114】
なお、本実施形態では、二次高調波振幅の逆数を算出したが、二次高調波振幅を算出してもよい。この場合、噛み合い状態と二次高調波振幅との関係より、二次高調波振幅と閾値とを比較し、二次高調波振幅が閾値を下回ることを検出することで、噛み合い完了の状態を検出する。これらのように、制御装置60は、二次高調波振幅またはその逆数の算出結果と、噛み合い状態と二次高調波振幅との関係とに基づいて、噛み合い完了の状態を検出することができる。
【0115】
(他の実施形態)
(1)上記した各実施形態では、第1係合部材11と第2係合部材12とのうち第1係合部材11のみが軸線方向D1に移動することで、係合状態と解放状態との切り替えが行われる。しかしながら、第1係合部材11と第2係合部材12とのうち第2係合部材のみが軸線方向D1で移動することで、係合状態と解放状態との切り替えが行われてもよい。また、第1係合部材11と第2係合部材12との両方が軸線方向D1で移動することで、係合状態と解放状態との切り替えが行われてもよい。
【0116】
(2)第4実施形態では、係合可能時期を決定する処理において、制御装置60は、ステップS2の周波数解析で、基本波振幅に対する二次高調波振幅の比率である歪率を算出し、ステップS3で、歪率の時間変化に基づいて、噛み合い時期を決定する。しかしながら、制御装置60は、ステップS2の周波数解析で、第3実施形態のように、センサ信号の時系列データの波形に対してウェーブレット変換を行ってもよい。
【0117】
第4実施形態の説明の通り、第1ヨーク53と第2ヨーク54との並び方向が第1係合部材11の回転方向D3に沿う方向に磁束角度センサ50が設置される場合、図19(b)に示す波形の節部分の時点が、係合可能状態となるタイミングである。そこで、制御装置60は、ウェーブレット変換を行うことで、センサ信号の時系列データにおける振幅が極小となる時点にピークを持って周期的に経時変化する波形データを算出する。そして、ステップS3で、制御装置60は、ステップS2で算出した波形データに基づいて、噛み合い時期を決定する。例えば、ウェーブレット変換を行うことで、センサ信号の時系列データにおける振幅が極小となる時点に下に凸のピークを持って周期的に経時変化する波形データを算出する。この場合、制御装置60は、波形データと、予め設定された閾値とを比較し、閾値を下回る区間の中間点を抽出することで、係合可能な時期を決定する。これによれば、噛み合い可能な時期を精度よく決定することができる。
【0118】
(3)第1、第2、第4、第5実施形態等では、ギヤ歯通過周波数は、第1係合部材11の複数の第1ギヤ歯13を用いて定められている。しかしながら、ギヤ歯通過周波数は、第2係合部材12の複数の第2ギヤ歯14を用いて定められてもよい。この場合、ギヤ歯通過周波数は、複数の第2ギヤ歯14のうち1つの第2ギヤ歯14が基準位置を通過してから、複数の第2ギヤ歯14のうちその1つの第2ギヤ歯14の隣に位置する別の1つの第2ギヤ歯14が基準位置を通過するまでの時間を1周期としたときの周波数である。基準位置は、例えば、第2ヨーク54の他方側端面54bに対して径方向で対向する領域の一点である。また、回転数センサ40は、第2係合部材12の回転数を検出する。ギヤ歯通過周波数は、回転数センサ40の検出結果と複数の第2ギヤ歯14の数とに基づいて算出される。この場合、第2係合部材12が、第1係合部材と第2係合部材との一方の係合部材に相当する。複数の第2ギヤ歯14が、一方の係合部材に形成された複数のギヤ歯に相当する。
【0119】
(4)第1-第5実施形態では、磁束角度センサ50において、第1磁極部51aおよび第3磁極部52aは同じN極であるが、第1磁極部51aおよび第3磁極部52aは同じS極でもよい。この場合においても、制御装置60は、第1-第5実施形態で説明した処理によって、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。
【0120】
(5)第1-第5実施形態では、図2に示す構成の磁束角度センサ50において、第1磁極部51aと第3磁極部52aのそれぞれの極性は、同じであるが、異なってもよい。すなわち、磁界発生部が有する2つの磁極部の極性は異なってもよい。このように構成される磁束角度センサ50が第1実施形態と同じ図1に示す向きで設置される場合、第4実施形態と同様に、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合い可能な状態のときに、基本波振幅が最小となり、二次高調波振幅が最大となる。このため、制御装置60は、第4、第5実施形態と同様の処理によって、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。また、他の実施形態に記載のように、制御装置60は、第4実施形態のステップS2の周波数解析で、センサ信号の時系列データの波形に対してウェーブレット変換を行ってもよい。
【0121】
また、磁界発生部が有する2つの磁極部の極性が異なっており、このように構成される磁束角度センサ50が第4実施形態と同じ図14に示す向きで設置される場合、第4実施形態と同様に、複数の第1ギヤ歯13と複数の第2ギヤ歯14とが噛み合い可能な状態のときに、基本波振幅が最小となり、二次高調波振幅が最大となる。このため、制御装置60は、第4、第5実施形態と同様の処理によって、噛み合い時期の決定と噛み合い完了の状態の検出とが可能である。また、他の実施形態に記載のように、制御装置60は、第4実施形態のステップS2の周波数解析で、センサ信号の時系列データの波形に対してウェーブレット変換を行ってもよい。
【0122】
また、磁束角度センサ50は、磁界発生部として、異なる極性である2つの磁極部を有する1つの磁石のみを有していてもよい。この場合、2つの磁極部のうち一方の磁極部に、第1ヨーク53の一方側端面53aが対向し、2つの磁極部のうち他方の磁極部に、第2ヨーク54の一方側端面54aが対向する。
【0123】
(6)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0124】
(7)本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0125】
11 第1係合部材
12 第2係合部材
13 複数の第1ギヤ歯
14 複数の第2ギヤ歯
50 磁束角度センサ
51 第1磁石
52 第2磁石
53 第1ヨーク
54 第2ヨーク
60 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25