(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】反芻動物用飼料添加組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20230808BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20230808BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20230808BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20230808BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20230808BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K10/30
A23K10/20
A23K20/142
A23K20/158
(21)【出願番号】P 2020510997
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013667
(87)【国際公開番号】W WO2019189605
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018065682
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】米丸 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 耕二
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 由紀
(72)【発明者】
【氏名】柴原 進
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-312380(JP,A)
【文献】国際公開第2009/122750(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017236(WO,A1)
【文献】特開2005-000173(JP,A)
【文献】特開2006-141270(JP,A)
【文献】特開平05-023114(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030476(WO,A1)
【文献】特公昭49-045224(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/002594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/10
A23K 10/30
A23K 10/20
A23K 20/142
A23K 20/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.01重量%以上6重量%以下の界面活性剤、
(C)
40重量%以上72重量%以下の生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、
(D)1重量%以上40重量%以下のL-リジン又はその塩、
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項2】
前記L-リジン又はその塩が、L-リジン、L-リジン塩酸塩、L-リジン硫酸塩及びL-リジンと炭素数1~3のカルボン酸との塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記L-リジン又はその塩が、L-リジン塩酸塩である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記(D)が、4重量%以上10重量%以下のL-リジン塩酸塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤が、乳化剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記乳化剤が、レシチンである、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
0.1重量%以上6重量%未満の水を更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(E)0.01重量%以上0.8重量%以下の天然植物油を更に含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記(E)が、0.1重量%以上0.4重量%以下の天然植物油である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記天然植物油が、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油及びベニバナ油からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項8又は9記載の組成物。
【請求項11】
前記天然植物油が、炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して60~95重量%含有する、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記天然植物油が、オレイン酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して55~90重量%含有する、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記天然植物油が、オリーブ油である、請求項8~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記生物学的活性物質が、アミノ酸及びビタミンからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記生物学的活性物質が、アルギニン、アルギニン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、グルタミン酸ナトリウム、ビタミンB
12、葉酸及びナイアシンからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、分散型である、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、分散型のコアを被覆剤で被覆した被覆型である、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)界面活性剤、(C)生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、及び(D)L-リジン又はその塩を含有する溶融混合物を、水中で固化させることを含む、反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
【請求項19】
前記溶融混合物を水中で固化させた後に、当該混合物を被覆剤で被覆することを含む、請求項18の反芻動物用飼料添加物の製造方法。
【請求項20】
前記反芻動物用飼料添加組成物が、
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.01重量%以上6重量%以下の界面活性剤、
(C)16重量%以上72重量%以下の生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、
(D)1重量%以上40重量%以下のL-リジン又はその塩、
を含有する、請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記溶融混合物が、(E)天然植物油を更に含有する、請求項18~20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記反芻動物用飼料添加組成物が、(E)0.01重量%以上0.8重量%以下の天然植物油を含有する、請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
前記溶融混合物を水中で固化させた後に、当該混合物を加熱することを含む、請求項18~22のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項24】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)1重量%以上2重量%以下の界面活性剤、
(C)40重量%以上72重量%以下の、ヒスチジン塩酸塩、アルギニン、メチオニン又はバリン、
(D)1.5重量%以上35重量%以下のL-リジン塩酸塩、及び
0.1重量%以上6重量%未満の水
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項25】
前記(C)が、40重量%以上72重量%以下の、ヒスチジン塩酸塩、アルギニン又はバリンである、請求項24記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料添加組成物に関する。より詳細には、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物が飼料を摂取すると、第一胃(ルーメン)に生息する微生物が栄養源として飼料中の栄養素の一部を吸収する。この機能により、反芻動物は直接には消化できない物質を栄養素として吸収することができる。たとえば、微生物はセルロースを消化し生成した糖類で揮発性有機化合物を発酵生産する。その生産物を反芻動物は栄養として吸収する。一方で、反芻動物に直接吸収させたい栄養源があった場合でも、微生物が消化してしまうため、反芻動物は微生物が発酵して生産する物質しか吸収することができない。
【0003】
反芻動物の健康状態を向上させ、その生産物(例えば、牛乳、食肉等)の生産性を向上させるためには、通常の餌料を補完する栄養素を供与することが望ましい場合がある。
このような場合には、生物学的活性物質(栄養素)が微生物に摂取されずに、効果的に吸収されるよう、ルーメンにおいて栄養素が保護され、その後第四胃以降の消化管で栄養素が吸収されるような反芻動物用飼料添加製剤が用いられている。
【0004】
泌乳牛等の反芻動物の飼料製剤には、従来、栄養素である生物学的活性物質のルーメンでの保護性を向上させることを目的として、油脂等で生物学的活性物質を被覆することが行われてきた。そして、消化管における溶出性を向上させること等を目的として、溶出促進効果のある油脂が用いられることがある。例えば、低融点油脂は、リパーゼ等の腸の消化酵素によって分解され易いため、その添加によって消化管における生物学的活性物質の溶出性を向上させ得ることが報告されている(特許文献1)。また、油脂以外の物質も使用されることがあり、例えば、レシチンはその乳化剤としての作用から、反芻動物の消化管において、飼料製剤からの生物学的活性物質の溶出促進剤として使用されることもある。
【0005】
一方、反芻動物が飼料製剤を摂取すると、飼料製剤はルーメン(第一胃)に数時間から数十時間滞留するため、生物学的活性物質の一部がルーメンに常在するプロトゾア等の微生物に摂取されてしまうが、レシチン及び低融点油脂等の溶出促進剤は、ルーメンにおける生物学的活性物質の溶出を誘引し、その結果、飼料製剤のルーメンにおける保護性が低下するという問題があった。
【0006】
ルーメン保護製剤を製造する方法として、保護剤として硬化油脂を高温融解させ、これに主剤を略均一分散し粒状に冷却固化させる分散法(マトリックス型)が報告されている。分散法では融解した保護剤に主剤を加えて略均一混合することから、主剤一粒ずつの結晶粒子が完全に保護剤で覆われる。そのため、リジン塩酸塩のような水溶性の高い物質を用いた場合でも十分ルーメン保護性が得られる。また造粒物・ペレットにおいても下部消化管で溶出する性能を有する。
【0007】
ここで、非特許文献1には、ルーメン保護メチオニン製剤及びルーメン保護リジン製剤のいずれも、乳牛へ投与した場合に乳量を改善する効果があることが報告されている。しかしメチオニンよりも溶解度の高いリジンを用いてルーメン保護製剤を開発することは挑戦的であると記載されている。
【0008】
また、先の特許文献1では、高融点油脂のみでルーメン保護メチオニン製剤を製造した場合には、メチオニンが水中に容易に溶出して、当該製剤にメチオニンを20%以上含有させることは困難であることが記載されている。また、下記の特許文献2では、特許文献1記載の方法でメチオニンの代わりにリジン塩酸塩を用いた場合には、ルーメン保護性が低く、ルーメンにリジンが溶出することが開示されており、物性の異なる生物学的活性物質に対して同じ製造方法を適用することは容易ではない。
【0009】
特開2005-312380号公報(特許文献2)には、保護剤として硬化油を含み、更にレシチン及び炭素数12~22の飽和又は不飽和脂肪酸モノカルボン酸塩を含む混合物から、該保護剤の液状化温度(50~90℃)で空気中に噴射する噴射造粒法で、直径0.5~3mmの球状に固化した分散型のルーメンバイパス剤を製造する方法が記載されている。特許文献2には、レシチン及びステアリン酸を含有させることにより、第一胃での保護性と第四胃での放出性に優れたルーメンバイパス剤が得られることが開示されている。一方で、特許文献2には、当該製造方法により、生物学的活性物質(L-リジン塩酸塩)を40.0重量%含有したルーメンバイパス剤を製造できることが記載されているが、特許文献2に記載された製造方法では噴射ノズルを通過させるために低い粘度の混合物を用いる必要があり、生物学的活性物質を40重量%を越える高含有量で含有する製剤は得ることができない。特許文献2の実施例には、メチオニン、リジン、ビタミンB1を含む組成物、及びメチオニン、リジン、ニコチン酸、ベタイン、タウリンを含む組成物が開示されている。これらの組成物は、第一胃での溶出率が6~16%と高い保護率を示し、また第4胃での溶出率が81~92%と高い溶出率を示すものの、含まれる生物学的活性物質の量はすべて合わせても21%ほどに留まる。
【0010】
特許第5,040,919号公報(特許文献3)には、融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油又は硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、40重量%以上65重量%未満の塩基性アミノ酸及び0.01乃至6重量%の水を含有する、分散型の反芻動物用飼料添加組成物が記載されている。当該組成物は、塩基性アミノ酸を40重量%以上の高含量で含有する。また特許文献3には、当該組成物が、0.05乃至6重量%のレシチンによる保護率向上効果と、水分含量のコントロールによる保護率向上効果とを有することが記載され、また高いルーメン通過率を達成し得ることが記載されている。特許文献3の実施例には、リジン塩酸塩40%とメチオニン6%を含む組成物が開示されており、塩基性アミノ酸を40重量%以上の高含量で含有することが開示されている。
【0011】
米国特許出願公開第2012/244248号明細書(特許文献4)には、造粒したリジン硫酸塩(粒径0.3~3mm)を、硬化油とレシチン、ステアリン酸、オレイン酸及びパーム油のいずれかの改質剤(modifying agent)との混合物によって、2層以上(望ましくは4層以上)で被覆する反芻動物飼料添加物が記載されている。当該飼料添加物における生物学的活性物質(リジン硫酸塩の造粒物)の含有量は50%以上60%未満(リジン塩酸塩換算で37%以上45%未満)である。また当該飼料添加物は改質剤を0.5~10%含有しており、特許文献4の実施例では2~4%の改質剤が添加されている。改質剤を使用することでこの製剤の被覆層にある細かな傷や割れ目や小さな穴を減らすことができ、特許文献4には、上記飼料添加物のルーメンバイパス率は50%以上で、小腸消化率は70%以上であることが記載されている。
一方で、被覆型の飼料添加物は、反芻動物が飼料を咀嚼して割れた場合には著しくその性能が低下する。
【0012】
米国特許第8,137,719号明細書(特許文献5)には、脂肪酸塩と野菜油とリジン塩酸塩とを均一に混合した後、得られたペレットを成形することによって製造される製剤が記載されている。当該製剤は、生物学的活性物質(リジン)を15~25%含有しており、野菜油を1~5%含有している。当該製剤において、野菜油は液化調整剤(liquefiable conditioner)として用いられており、野菜油に限らず油、脂肪、遊離脂肪酸、脂質、レシチン、ワックス等を用いてもよい。特許文献5には、液化調整剤の明確な役割は記載されていないが、脂肪酸塩と液化調整剤とは均一な混合物を形成すると記載されている。特許文献5の実施例に記載された生物学的活性物質(リジン)の含有量は18.6~31%(リジン塩酸塩換算)であり、含量が高いとは言いがたい。
【0013】
米国特許第8,182,851号明細書(特許文献6)は、パーム油蒸留残渣(PFUD)のカルシウム塩及び脂肪酸カルシウムで、リジン塩酸塩を被覆した製剤が記載されている。当該製剤は、カルシウム塩がルーメン通過後の酸性条件で溶解することでコアに含まれる生物学的活性物質(リジン塩酸塩)が溶出する。特許文献6の実施例には、生物学的活性物質(リジン塩酸塩)の濃度が20%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特公昭49-45224号公報
【文献】特開2005-312380号公報
【文献】特許第5,040,919号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/244248号明細書
【文献】米国特許第8,137,719号明細書
【文献】米国特許第8,182,851号明細書
【非特許文献】
【0015】
【文献】K. Watanabe et al., Animal Science Journal, 77, p495-502 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、生物学的活性物質を高濃度で含有し、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、驚くべきことに少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することによって、ルーメンにおける高い保護性を保持したまま、消化管における溶出性を高め得ることを見出した。また本発明者らは、特定量の天然植物油をL-リジン又はその塩並びに界面活性剤と併用することによって、ルーメンにおける高い保護性を保持したまま、消化管における溶出性をより一層高め得ることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0018】
[1](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.01重量%以上6重量%以下の界面活性剤、
(C)16重量%以上72重量%以下の生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、
(D)1重量%以上40重量%以下のL-リジン又はその塩、
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
[2]前記L-リジン又はその塩が、L-リジン、L-リジン塩酸塩、L-リジン硫酸塩及びL-リジンと炭素数1~3のカルボン酸との塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]記載の組成物。
[3]前記L-リジン又はその塩が、L-リジン塩酸塩である、[1]又は[2]記載の組成物。
[4]前記(D)が、4重量%以上10重量%以下のL-リジン塩酸塩である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]前記界面活性剤が、乳化剤である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6]前記乳化剤が、レシチンである、[5]記載の組成物。
[7]0.1重量%以上6重量%未満の水を更に含有する、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[8](E)0.01重量%以上0.8重量%以下の天然植物油を更に含有する、[1]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9]前記(E)が、0.1重量%以上0.4重量%以下の天然植物油である、[8]記載の組成物。
[10]前記天然植物油が、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油及びベニバナ油からなる群より選択される少なくとも一つである、[8]又は[9]記載の組成物。
[11]前記天然植物油が、炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して60~95重量%含有する、[8]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[12]前記天然植物油が、オレイン酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して55~90重量%含有する、[8]~[11]のいずれか一つに記載の組成物。
[13]前記天然植物油が、オリーブ油である、[8]~[12]のいずれか一つに記載の組成物。
[14]前記生物学的活性物質が、アミノ酸及びビタミンからなる群から選択される少なくとも一つである、[1]~[13]のいずれか一つに記載の組成物。
[15]前記生物学的活性物質が、アルギニン、アルギニン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、グルタミン酸ナトリウム、ビタミンB12、葉酸及びナイアシンからなる群から選択される少なくとも一つである、[1]~[13]のいずれか一つに記載の組成物。
[16]前記組成物が、分散型である、[1]~[15]のいずれか一つに記載の組成物。
[17]前記組成物が、分散型のコアを被覆剤で被覆した被覆型である、[1]~[15]のいずれか一つに記載の組成物。
[18](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)界面活性剤、(C)生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、及び(D)L-リジン又はその塩を含有する溶融混合物を、水中で固化させることを含む、反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
[19]前記溶融混合物を水中で固化させた後に、当該混合物を被覆剤で被覆することを含む、[18]の反芻動物用飼料添加物の製造方法。
[20]前記反芻動物用飼料添加組成物が、
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.01重量%以上6重量%以下の界面活性剤、
(C)16重量%以上72重量%以下の生物学的活性物質(但し、L-リジン及びその塩を除く)、
(D)1重量%以上40重量%以下のL-リジン又はその塩、
を含有する、[18]又は[19]に記載の製造方法。
[21]前記溶融混合物が、(E)天然植物油を更に含有する、[18]~[20]のいずれか一つに記載の製造方法。
[22]前記反芻動物用飼料添加組成物が、(E)0.01重量%以上0.8重量%以下の天然植物油を含有する、[21]記載の製造方法。
[23]前記溶融混合物を水中で固化させた後に、当該混合物を加熱することを含む、[18]~[22]のいずれか一つに記載の製造方法。
[24](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)1重量%以上2重量%以下の界面活性剤、
(C)40重量%以上72重量%以下の、ヒスチジン塩酸塩、アルギニン、メチオニン又はバリン、
(D)1.5重量%以上35重量%以下のL-リジン塩酸塩、及び
0.1重量%以上6重量%未満の水
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
[25]前記(C)が、40重量%以上72重量%以下の、ヒスチジン塩酸塩、アルギニン又はバリンである、[24]記載の組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することができる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することにより、界面活性剤のみを含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、特定量の天然植物油をL-リジン又はその並びに界面活性剤と併用することにより、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより一層促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物によれば、多量の生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を泌乳牛の小腸まで効率よく運搬することができるため、泌乳牛が栄養素として生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を多量に吸収することができ、その結果、例えば、泌乳量生産を増大すること等を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1、2及びコントロールHの組成物(オリーブ油配合なし)の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。
【
図2】実施例3~5の組成物(オリーブ油の配合割合:0.2重量%)の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。
【
図3】実施例6~8の組成物(オリーブ油の配合割合:0.1重量%)の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。
【
図4】実施例1~8及びコントロールHの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物(以下において、「本発明の組成物」とも称する)は、(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ(以下において、「成分A」とも称する)、(B)界面活性剤(以下において、「成分B」とも称する)、(C)生物学的活性物質(以下において、「成分C」とも称する)及び(D)L-リジン又はその塩(以下において、「成分D」とも称する)を含有することを特徴の一つとする。
本発明の組成物は、成分A~D加えて、水を更に含有することが好ましい。
本発明の組成物は、成分A~D、あるいは成分A~D及び水に加えて、(E)天然植物油(以下において、「成分E」とも称する)を更に含有することが好ましい。
本発明において「反芻動物用飼料添加組成物」とは、通常、反芻動物用飼料に添加されて、反芻動物が当該飼料を摂取する際にあわせて摂取される組成物をいう。ただし、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0022】
[成分A]
本発明の組成物において、成分Aは保護剤として作用する。成分Aとして用いられる硬化植物油及び硬化動物油は、常温(25℃)で液状の植物油又は動物油に水素を添加して固化させたものであり、極度硬化油も包含する概念である。本発明において用いられる硬化植物油及び硬化動物油の融点は、通常50℃より高く、ルーメンにおける保護性に優れ得ることから、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。また、当該融点は、通常90℃より低く、消化管での溶出性に優れ得ることから、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。
【0023】
硬化植物油の具体例としては、大豆硬化油、パーム硬化油、菜種硬化油、キャノーラ硬化油、オリーブ硬化油、アーモンド硬化油、アボカド硬化油、落花生硬化油、綿実硬化油、コーン硬化油、サフラワー硬化油、ヒマワリ硬化油、紅花硬化油、米硬化油、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ミツロウ等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは大豆硬化油、大豆極度硬化油である。硬化動物油の具体例としては、牛脂、豚脂、鯨ロウ等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは牛硬化油、豚硬化油である。これらの硬化植物油及び硬化動物油は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の組成物における成分Aの含有量は、通常23重量%を超え、ルーメンにおける保護性に優れ得ることから、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは35重量%以上であり、特に好ましくは40重量%以上である。また当該含有量は、通常60重量%未満であり、生物学的活性物質を高濃度で含有させ得ることから、好ましくは55重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下である。
【0025】
[成分B]
成分Bとして用いられる界面活性剤は、生物学的活性物質の表面を改質して、当該活性物質を溶融された保護剤中で偏在させずに均一分散させると考えられる。
【0026】
界面活性剤の具体例としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれでもよいが、乳化効果をもつものが望ましい。本発明の組成物は反芻動物の飼料とあわせて摂取されるものであることから、乳化剤が好ましい界面活性剤の一つである。これらの界面活性剤は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
乳化剤の具体例としては、レシチン、サポニン、カゼインナトリウム、脂肪酸モノグリセリド(例、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド等)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられ、中でも産業上の入手が容易であることから、レシチンは好ましい乳化剤の一つである。これらの乳化剤は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
レシチンの具体例としては、大豆レシチン、アブラナレシチン、なたねレシチン、ひまわりレシチン、サフラワーレシチン、綿実レシチン、トウモロコシレシチン、アマニレシチン、ごまレシチン、米レシチン、ヤシレシチン、パームレシチン等の植物性レシチン;卵黄レシチン等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは植物性レシチンであり、より好ましくは大豆レシチンである。これらのレシチンは、例えば、水素添加物、酵素処理物、酵素分解物、レシチン分別物等であってよい。また、これらのレシチンは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の組成物における成分Bの含有量は、通常0.01重量%以上であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.5重量%以上であり、さらに好ましくは1重量%以上である。また当該含有量は、通常6重量%以下であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
【0030】
[成分C]
成分Cとして用いられる生物学的活性物質は、反芻動物に摂取され、その生体内において生理活性機能を示すことができる物質であれば特に制限されないが、例えば、アミノ酸、ビタミン、ビタミン様物質、酵素、タンパク、ペプチド等が挙げられ、プロバイオティクスの観点から、好ましくはアミノ酸、ビタミンである。
【0031】
アミノ酸は、遊離のアミノ酸であってよく、又は生理学的に許容される塩であってもよい。アミノ酸の生理学的に許容される塩としては、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩及び有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。アミノ酸は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用可能であるが、好ましくは、L-体、DL-体であり、さらに好ましくは、L-体である。
【0032】
アミノ酸の具体例としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、シトルリン等の塩基性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファン、5-ヒドロキシトリプトファン、シスチン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、フェニルアラニン、チロシン等の中性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩等が挙げられ、ルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性の観点から、好ましくはアルギニン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、グルタミン酸及びそれらの生理学的に許容される塩であり、より好ましくはアルギニン、ヒスチジン塩酸塩、バリン、メチオニンであり、特に好ましくはアルギニン、ヒスチジン塩酸塩、バリンである。これらのアミノ酸は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0033】
アミノ酸及びその生理学的に許容される塩は、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また市販品をそのまま又は粉砕して用いてもよい。アミノ酸を粉砕する場合、その粒径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは75μm以下である。
【0034】
ビタミンの具体例としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC等の水溶性ビタミン等が挙げられ、ルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性の観点から、好ましくはビタミンB12、葉酸、ナイアシンである。これらのビタミンは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよく、適切なものを選べばよい。
【0035】
成分Cは、ルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性の観点から、好ましくはアルギニン、アルギニン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、グルタミン酸ナトリウム、ビタミンB12、葉酸及びナイアシンからなる群から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはアルギニン、ヒスチジン塩酸塩及びバリンからなる群から選択される少なくとも一つである。
【0036】
本発明は、成分D(後述)として特定量のL-リジン又はその塩を用いるものであり、成分CはL-リジン及びその塩を除くものであることが好ましい。
【0037】
本発明の組成物における成分Cの含有量は、通常16重量%以上であり、多量の生物学的活性物質を効率的に供与し得ることから、好ましくは35重量%以上であり、より好ましくは38重量%以上であり、特に好ましくは40重量%以上である。また当該含有量は、通常72重量%以下であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは65重量%未満であり、より好ましくは60重量%以下であり、特に好ましくは50重量%以下である。成分Cとして、塩の形態の生物学的活性物質(例、アミノ酸の塩等)が用いられる場合、その量の計算は、全て遊離体に換算して行われる。
【0038】
[成分D]
成分Dは、遊離のL-リジンであってよく、またL-リジンの塩であってもよい。L-リジンの塩の形態としては、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩及び有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、炭素数1~3のカルボン酸(例、ギ酸、酢酸、プロピオン酸)、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。これらのL-リジンの塩は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
成分Dは、好ましくは、L-リジン、L-リジンの無機酸との塩及びL-リジンの有機酸との塩からなる群より選択される少なくとも一つであり、より好ましくは、L-リジン、L-リジン塩酸塩、L-リジン硫酸塩及びL-リジンと炭素数1~3のカルボン酸との塩からなる群より選択される少なくとも一つであり、特に好ましくは、L-リジン塩酸塩である。
【0039】
成分Dとして用いられるL-リジン又はその塩は、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また市販品をそのまま又は粉砕して用いてもよい。成分Dを粉砕する場合、その粒径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは75μm以下である。
【0040】
本発明の組成物における成分Dの含有量は、通常1重量%以上であり、成分Cのルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性の観点から、好ましくは1.5重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、特に好ましくは4重量%以上である。また当該含有量は、通常40重量%以下であり、成分Cのルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性の観点から、好ましくは35重量%以下であり、より好ましくは24重量%以下であり、より一層好ましくは16重量%以下であり、更に好ましくは12重量%以下であり、特に好ましくは8重量%以下である。成分Dとして、L-リジンの塩が用いられる場合、L-リジンの塩の量の計算は、全て遊離体(L-リジン)に換算して行われる。
【0041】
[成分E]
成分Eとして用いられる天然植物油は、常温(25℃)で液状である植物油をいい、成分Aに用いられ得る硬化植物油とは区別される概念である。
【0042】
天然植物油の具体例としては、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油、ベニバナ油、ヒマワリ油、コーン油、米油等が挙げられ、好ましくは、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油、ベニバナ油である。これらの天然植物油は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。また、これらの天然植物油は、常温で液状であれば、例えば、エステル交換、分別処理等の処理を施されていてもよい。
【0043】
成分Eを構成する脂肪酸(構成脂肪酸)の種類は特に制限されないが、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の炭素原子数12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられ、消化管への溶出性の観点から、成分Eは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素原子数18の不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。
【0044】
成分Eにおける飽和及び不飽和脂肪酸の構成比率は特に制限されないが、in vitro推定有効率に優れ得ることから、成分Eは炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、成分Eの構成脂肪酸に対して60~95重量%含有することが好ましく、80~95重量%含有することがより好ましい。
【0045】
成分Eは、オレイン酸を、成分Eの構成脂肪酸に対して55~90重量%含有することが好ましく、70~90重量%含有することがより好ましい。オレイン酸を構成脂肪酸に対して55~90重量%含有する成分Eの具体例としては、オリーブ油等が挙げられる。
【0046】
成分Eに含まれる炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率(炭素原子数18の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の総重量に対する、炭素原子数18の不飽和脂肪酸の重量の割合)は特に制限されないが、通常40%以上であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上である。当該不飽和比率の上限は特に制限されないが、通常100%である。
【0047】
本発明の組成物が成分Eを含有する場合、本発明の組成物における成分Eの含有量は、通常0.01重量%以上であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上である。また当該含有量は、通常0.8重量%以下であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは0.6重量%以下であり、より好ましくは0.4重量%以下である。
【0048】
本発明の組成物に含有される水は、本発明の組成物の保存安定性に影響し、ルーメンにおける保護性を改善すると考えられる。本発明の組成物に含有される水は、飼料添加組成物の製造に通常用いられ得るものであれば特に制限されず、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、精製水、水道水等が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物における水の含有量(水分含量)は、通常0.1重量%以上であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは2重量%以上である。また当該水分含量は、通常6重量%未満であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは4重量%以下である。
本発明の組成物における水分含量は、Kett水分分析計(infrared Moisture Balance FD-610)にて、105℃、20分加熱後の減量を測定することにより求められる。
【0050】
本発明の組成物は、成分A~D及び任意の成分E、水に加えて、それら以外の他の成分を含有してもよい。当該他の成分は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等の賦形剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等の滑沢剤;炭酸水素ナトリウム、クエン酸等のpH調整剤;ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム等の固化防止剤等が挙げられる。当該他の成分は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明の組成物は反芻動物が摂取しやすい形状として成形されることが好ましく、その形状は特に制限されないが、例えば、球状、顆粒状、ペレット状、ラグビーボール状、押し麦状、鶏卵状等が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物は球状又はそれに近い形状であることが好ましい。本発明の組成物の成形物の粒径は特に制限されないが、通常0.1~20mmであり、飼料との混合度の観点から、好ましくは0.3~10mmであり、より好ましくは0.5~5mmである。本発明の組成物の粒径は、日本工業規格のJIS Z 8801にて規定される標準篩によって篩分することで規定される。
【0053】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されず、本発明の組成物は自体公知の方法で製造すればよいが、例えば、国際公開第2008/041371号、米国特許出願公開第2009/0232933号明細書、国際公開第2009/122750号、米国特許出願公開第2011/0081444号明細書等に記載の方法又はこれに準ずる方法で製造し得る。具体的には、本発明の組成物は、成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させることを含む方法等によって製造し得る。
【0054】
溶融混合物における成分A~Dの各含有量は、製造する本発明の組成物における成分A~Dの各含有量に応じて適宜設定すればよいが、溶融混合物における成分Aの含有量は、通常23重量%を超え60重量%未満であり、好ましくは30重量%以上55重量%以下であり、より好ましくは30重量%以上50重量%以下であり、特に好ましくは35重量%以上50重量%以下であり;溶融混合物における成分Bの含有量は、通常0.01重量%以上6重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以上6重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上3重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以上2重量%以下であり;溶融混合物における成分Cの含有量は、通常16重量%以上72重量%以下であり、好ましくは35重量%以上72重量%以下であり、より好ましくは40重量%以上72重量%以下であり、更に好ましくは40重量%以上65重量%未満であり、特に好ましくは40重量%以上60重量%以下であり;溶融混合物における成分Dの含有量は、通常1重量%以上40重量%以下であり、好ましくは1.5重量%以上35重量%以下であり、より好ましくは2重量%以上30重量%以下であり、より一層好ましくは2重量%以上20重量%以下であり、更に好ましくは4重量%以上20重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以上10重量%以下である。
溶融混合物が成分Eを含有する場合、その含有量は、製造する本発明の組成物における成分Eの含有量に応じて適宜設定すればよいが、溶融混合物における成分Eの含有量は、通常0.01重量%以上0.8重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以上0.6重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以上0.4重量%以下である。
【0055】
成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物の調製方法は特に制限されず、例えば、市販のエクストルーダー(好ましくは、2軸エクストルーダー)等を用いて、成分A~D又は成分A~E(所望により他の成分を含んでよい)を加熱する方法等が挙げられる。エクストルーダーのシリンダーに成分A~D又は成分A~Eを添加する順序は特に制限されないが、成分Cの表面を成分Bで被覆するために、当該成分B及びCを予めナウターミキサー等で混合してから添加してよく、又は生産効率を上げるために、成分A~D又は成分A~Eをほぼ同時に添加してもよい。あるいは、成分A及びCを先に室温付近で混合した後、残りの成分を添加して加熱することによっても、溶融混合物を得ることができる。成分Cは粉砕して用いてよく、例えばパルペライザーを用いて、粒径が好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下となるまで粉砕し、必要に応じて篩分して用いてよい。
【0056】
成分A~D又は成分A~Eを加熱するときの温度は、成分Aの融点以上であれば特に制限されないが、成分Aの融点より5~15℃高いことが好ましい。例えば、成分Aとして大豆極度硬化油(融点:67~71℃)を用いる場合は、80~85℃で加熱すればよい。この際、成分A以外の成分は必ずしも溶融しなくてもよく、例えば、成分CとしてL-ヒスチジン塩酸塩(融点:254℃程度)を用いる場合、L-ヒスチジン塩酸塩が溶融せずに分散し、溶融混合物はスラリー状態であってもよい。また加熱当初から成分Aの融点以上の温度で加熱する必要はなく、例えば、まず成分Aの融点より5~10℃低い温度で予備加熱を行い、次いで、エクストルーダーのシリンダー内のスクリュウで原料を搬送した後、成分Aの融点以上の所定の温度で加熱すると、効率的に安定した溶融混合物が得られる。
【0057】
溶融混合物の調製に利用可能な機器は、エクストルーダーに限定されず、自然落下させたときに液滴となり得る溶融混合物を調製できるものであれば適宜用いてよい。
【0058】
成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させる方法は特に制限されないが、例えば、溶融混合物を、所定の径の孔(穴)を有する容器に貯留し、当該孔から水中に落下させる方法等が挙げられる。溶融混合物を所定の径の孔から落下(好ましくは、自然落下)させると、落下中に表面直力の作用で切断されて、個々に独立した液滴となる。当該液滴を、所定の温度の水槽中に落下させると、液滴は水中で瞬間的に冷却されて固化し、所定の形状の固形物が得られる。液滴が固化して固形物となる際、水槽中の水が固形物に取り込まれる。固形物に取り込まれた水は、固形物を加熱処理(後述)に供することにより減少させ得る。尚、溶融混合物を水中で固化させると、一部の生物学的活性物質が水中に溶出する場合があるが、その量は極僅かである。
【0059】
溶融混合物を貯留する容器が有する孔の直径は、最終的に得られる固形物(溶融混合物の液滴が固化したもの)の大きさに応じて適宜選択すればよい。例えば、粒径が3~5mm程度の小さい固形物を製造する場合には、孔の直径を0.5~3mmとすればよく、粒径が5~10mm程度の固形物を製造する場合には、孔の直径を3~5mmとすればよい。溶融混合物を貯留する容器が有する孔の直径は、通常0.5~5mmであり、好ましくは1~4mmである。
【0060】
溶融混合物を貯留する容器は、所定の径の孔を有すれば特に制限されないが、生産量を効率的に増加させ得ることから、多孔シューターを用いることが好ましい。ここで「多孔シューター」とは、底に複数穿孔された容器であって、溶融混合物を一時的に貯留する設備をいう。また溶融混合物を貯留する容器は、貯留する溶融混合物が冷えないように、加温設備を備えることが好ましい。
【0061】
溶融混合物の落下距離(例えば、多孔シューターの底面から水面までの距離)は特に制限されないが、通常10mm~1.5mであり、好ましくは30mm~1.0mである。溶融混合物の落下距離を調整することによって、最終的に得られる固形物の形状を変更できる。例えば、65℃程度に加熱された溶融混合物を水中に落下させる場合、落下距離を50~150mmにすると、球形からラグビーボールに近い形状の固形物が得られる。また、落下距離をより長くすると、水面との衝突エネルギーが大きくなるため、平坦な押し麦状の固形物が得られ、例えば、落下距離が0.5m程度であると、周辺が波打つ押し麦状の固形物が得られる。
【0062】
水中に落下させるときの溶融混合物の温度は特に制限されないが、通常60~90℃であり、成分A等の融点の観点から、好ましくは70~90℃である。
【0063】
溶融混合物を落下させる水の温度は、溶融混合物が瞬間的に固化すれば特に制限されないが、通常0~30℃である。
【0064】
水中で固化した混合物を捕集する方法は特に制限されないが、連続的に水を補充することによって水温を一定に保つ場合、固化した混合物(比重:約1.1)は網、網容器等を用いて集めればよい。
【0065】
本発明の組成物を、成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させることを含む方法によって製造する場合、当該方法は、固化した混合物を加熱することを更に含むことが好ましい。固化した混合物を加熱することにより、該混合物を乾燥させることができ、また本発明の組成物の水分含量を調節できる。固化した混合物の加熱は、例えば、固化した混合物に含まれる成分Aの融点より低い温度に設定された雰囲気(例えば、熱水、蒸気、熱風等)に、固化した混合物を概ね数分~数十分曝露すること等によって行い得る。加熱時間は、加熱温度、成分Aの種類及び固化した混合物の量等に基づいて、適宜設定すればよく、例えば、固化した混合物に含まれる成分Aの融点よりも低い温度に設定された雰囲気に、固化した混合物を長時間(例えば、0.5~2時間等)曝露してもよい。
【0066】
本発明の組成物を、成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させることを含む方法によって製造する場合、当該方法は、固化した混合物を被覆剤で被覆することを更に含んでよい。使用できる被覆剤としては、例えば、硬化油、界面活性剤、天然植物油、動物油、植物油、脂肪酸又はその塩、ワックス、ロウ、多糖類(キトサンやアルギン酸等)、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、セルロース類(カルボキシメチルセルロース等)、粘土、シリカ、pH感受性ポリビニル誘導体(ポリビニルピロリドン等)、アクリル樹脂(樹脂IV号等)等が挙げられる。固化した混合物を被覆する方法は特に制限されず、自体公知の方法で被覆すればよいが、例えば、米国特許第8,137,719号明細書、米国特許第8,182,851号明細書等に記載の方法又はこれらに準ずる方法で製造し得る。
【0067】
本発明の組成物は、一態様として、分散型であってよい。ここで「分散型」の反芻動物用飼料添加組成物とは、生物学的活性物質含む各成分を、当該各成分が略均一に分散した状態で含有する反芻動物用飼料添加組成物をいう。 また本発明の組成物は、他の一態様として、分散型のコアを被覆剤で被覆した被覆型であってよい。ここで「分散型のコアを被覆剤で被覆した被覆型」の反芻動物用飼料添加組成物とは、中心部(コア)が分散型(生物学的活性物質を含む各成分を、当該各成分が略均一に分散した状態で含有)であって、そのコアの表面が被覆剤によって被覆されている反芻動物用飼料添加組成物をいう。
【0068】
本発明の組成物は、その表層に生物学的活性物質を実質的に含有しない層を有することが好ましい。本発明の組成物は、生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有することによって、撥水性を有し得る。ここで「生物学的活性物質を実質的に含有しない層」とは、生物学的活性物質を全く含有しないか、又は、撥水性を阻害しない量(通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下)で生物学的活性物質を含有する層を意味する。
【0069】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層の厚さは、通常30~110μmであり、撥水性に優れ得ることから、好ましくは30~80μmである。
【0070】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有する本発明の組成物は、例えば、上述の製造方法、すなわち成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させること、及び、固化した混合物を加熱することを含む方法等によって製造できる。生物学的活性物質を実質的に含有しない層は、溶融混合物を水中で固化させた際に表面の生物学的活性物質が水中に溶出し、その後、固化した混合物の表面が加熱処理により平滑化することによって形成されると考えられる。また、生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有する本発明の組成物は、例えば、成分A~D又は成分A~Eを含有する溶融混合物を水中で固化させること、及び、固化した混合物を被覆剤で被覆することを含む方法等によっても製造できる。
【0071】
本発明の組成物の、ルーメンにおける保護性及び消化管における溶出性は、以下の方法で評価できる。
以下の方法において、試験液中の生物学的活性物質の濃度は液体クロマトグラフィー(日立社製)により測定する。
<保護率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、反芻動物(例、乳牛等)の体温に相当する温度(例、39℃)に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬工業社製)とパンクレアチン(和光純薬工業社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度B、単位:mg/dl)。
<生物学的活性物質の保護率及び溶出率の算出>
生物学的活性物質の保護率及び溶出率は次の式により算出する。
保護率[%]={1-(濃度A[mg/dl]×9.08)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
溶出率[%]={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9.02)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
【0072】
本発明の組成物のin vitro推定有効率は、下記の式より算出される。
in vitro推定有効率[%]=(溶出率[%])×(生物学的活性物質の含有量[重量%])/100
【0073】
本発明の組成物が用いられる反芻動物は特に制限されないが、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、キリン、ラクダ及びラマ等が挙げられ、好ましくはウシである。
【0074】
本発明の組成物の反芻動物用飼料に対する添加量は特に制限されず、生物学的活性物質の必要量等に応じて適宜調節し得る。本発明の組成物は、通常、飼料に添加されて、当該飼料とともに反芻動物に摂取されるように用いられるが、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0075】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
<試験例1、ヒスチジン塩酸塩一水和物>
[実施例1]
大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物(味の素株式会社製)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表1に示す配合で、2軸エクストルーダー(コスモテック社製)に連続的に投入した。
その後、シリンダー内で加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:2060個、孔の直径:2mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中で固化後、冷却されて瞬間的に固化した。これに室温送風し付着水を脱水した後、52℃に設定した流動層乾燥機(味の素株式会社製)にて7分間加熱乾燥処理を行い、造粒物(反芻動物用飼料添加組成物)を得た。以下において、当該造粒物を、実施例1の組成物と称する。
【0077】
[実施例2~8、コントロールH]
大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物(味の素株式会社製)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表1に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2~8及びコントロールHの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例2~8及びコントロールHの組成物と称する)を得た。
【0078】
実施例1~8及びコントロールHの組成物のL-ヒスチジン含量、L-リジン含量、水分含量、保護率及び溶出率を、それぞれ以下の手順で測定、算出した。
【0079】
[飼料添加組成物中のL-ヒスチジン含量及びL-リジン含量の測定]
各組成物のL-ヒスチジン含量及びL-リジン含量は、以下の手順で測定、算出した。
50mlのFALCON製コニカルチューブに、「飼料添加組成物中の水分含量」(下記)を測定した後の飼料添加組成物(乾物)4.00g及び純水20.0gを秤量し、密栓した後、これを85℃の恒温水槽に20分間浸し、大豆硬化油を溶融させて、硬化油とL-ヒスチジン及びL-リジンとを分離させることにより、L-ヒスチジン及びL-リジンを水溶液中に溶解させ、そのようにして回収されたL-ヒスチジン及びL-リジンを、通常の液体クロマトグラフィー(日立社製)にて分析し、飼料添加組成物(乾物)のL-ヒスチジン及びL-リジンの含量(重量%)をそれぞれ求めた。
【0080】
[飼料添加組成物中の水分含量の測定]
各組成物の水分含量は、Kett水分分析計(infrared Moisture Balance FD-610)にて、105℃、20分加熱後の減量を測定することにより求めた。
【0081】
[保護率及び溶出率の測定]
下記の試験液の生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の濃度は、液体クロマトグラフィー(日立社製)を用いて測定した。
<保護率算出のための生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、乳牛の体温に相当する39℃に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の濃度を測定した(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬工業社製)とパンクレアチン(和光純薬工業社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質(L-リジン)の濃度を測定した(濃度B、単位:mg/dl)。
<生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の保護率及び溶出率の算出>
生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の保護率及び溶出率は次の式により算出した。
保護率[%]={1-(濃度A[mg/dl]×9.08)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
溶出率[%]={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9.02)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
【0082】
実施例1~8、コントロールHの組成物のin vitro推定有効率を、下記の式から算出した。
in vitro推定有効率[%]=(溶出率[%])×(生物学的活性物質の含有量[重量%])/100
【0083】
実施例1~8、コントロールHの組成物のL-ヒスチジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を、下表1及び
図1~4に示す。
尚、溶融混合物中の大豆極度硬化油、大豆レシチン及びオリーブ油の含有量は、水中での造粒の前後で変わらない。
【0084】
【0085】
表1及び
図1~4に示される結果から明らかなように、実施例1及び2の組成物は、少量のL-リジン又はその塩(L-リジン塩酸塩)を界面活性剤(レシチン)と併用することにより、界面活性剤(レシチン)のみを含有するコントロールHの組成物と比較して、保護率を高く維持したまま、溶出率がより向上した。当該結果から、少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することにより、界面活性剤のみを含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより促進できることが確認された。
また実施例3~8の組成物は、特定量の天然植物油をL-リジン又はその塩(L-リジン塩酸塩)並びに界面活性剤(レシチン)と併用することにより、保護率を高く維持したまま、溶出率がより一層向上した。当該結果から、特定量の天然植物油をL-リジン又はその塩並びに界面活性剤と併用することにより、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより一層促進できることが確認された。
【0086】
<試験例2、アルギニン>
[実施例9、コントロールA]
大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-アルギニン(味の素株式会社製)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)を下表2に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例9及びコントロールAの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例9及びコントロールAの組成物と称する)を得た。
【0087】
実施例9及びコントロールAの組成物のL-アルギニン含量、L-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を、試験例1と同様の手順で測定、算出した。
【0088】
実施例9、コントロールAの組成物のL-アルギニン含量、L-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表2に示す。
尚、溶融混合物中の大豆極度硬化油及び大豆レシチンの含有量は、水中での造粒の前後で変わらない。
【0089】
【0090】
表2に示される結果から明らかなように、実施例9の組成物は、少量のL-リジン又はその塩(L-リジン塩酸塩)を界面活性剤(レシチン)と併用することにより、界面活性剤(レシチン)のみを含有するコントロールAの組成物と比較して、保護率を高く維持したまま、溶出率がより向上した。当該結果から、少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することにより、界面活性剤のみを含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより促進できることが確認された。
【0091】
<試験例3、メチオニン>
[実施例10及び11、コントロールM]
大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、DL-メチオニン(味の素株式会社製)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)を下表3に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例10及び11、並びにコントロールMの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例10及び11、並びにコントロールMの組成物と称する)を得た。
【0092】
実施例10及び11、並びにコントロールMの組成物のDL-メチオニン含量、L-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を、試験例1と同様の手順で測定、算出した。
【0093】
実施例10及び11、並びにコントロールMの組成物のDL-メチオニン含量、L-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表3に示す。
尚、溶融混合物中の大豆極度硬化油及び大豆レシチンの含有量は、水中での造粒の前後で変わらない。
【0094】
【0095】
表3に示される結果から明らかなように、実施例10及び11の組成物は、少量のL-リジン又はその塩(L-リジン塩酸塩)を界面活性剤(レシチン)と併用することにより、界面活性剤(レシチン)のみを含有するコントロールMの組成物と比較して、保護率を高く維持したまま、溶出率がより向上した。当該結果から、少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することにより、界面活性剤のみを含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより促進できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することができる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、少量のL-リジン又はその塩を界面活性剤と併用することにより、界面活性剤のみを含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、特定量の天然植物油をL-リジン又はその塩並びに界面活性剤と併用することにより、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性をより一層促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物によれば、多量の生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を泌乳牛の小腸まで効率よく運搬することができるため、泌乳牛が栄養素として生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を多量に吸収することができ、その結果、例えば、泌乳量生産を増大すること等を可能とする。
【0097】
本出願は、日本で出願された特願2018-065682(出願日:2018年3月29日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。