(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】副室式内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 19/18 20060101AFI20230808BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20230808BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F02B19/18 B
F02B19/12 B
F02B23/10 P
(21)【出願番号】P 2021509276
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012153
(87)【国際公開番号】W WO2020196203
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2019061132
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】野中 一成
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-247420(JP,A)
【文献】特許第4561522(JP,B2)
【文献】特開2007-113534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ軸方向に対し傾斜した複数の斜面を有するシリンダヘッドと、ピストンと、で画定された主室と、
前記シリンダヘッドから前記主室に向けて突出し、前記主室と隔てて設けられる副室と、
前記主室と前記副室とを連通する複数の連通路と、
前記複数の連通路を介して前記主室から前記副室に導入された混合気に点火する点火部と、
を備え、
前記副室の中心は、前記シリンダ軸方向からみて、前記主室の中心からオフセットして配置され、
前記複数の連通路は、
点火により前記副室内で生じた火炎を前記主室に噴射する第1噴射口を有する第1連通路と、
前記シリンダ軸方向に垂直な方向からみて前記第1連通路よりも前記ピストンに向いた方向に延び、前記火炎を前記主室に噴射する第2噴射口を有する第2連通路と
を含み、
前記第1噴射口は、前記第1
連通路の中心軸線が前記副室の中心のオフセット方向から離れる方向に傾き、前記シリンダヘッドの前記複数の斜面が交差する稜線に沿って、かつ前記主室のクランク軸方向の空間領域に、前記第2噴射口から噴射される火炎よりも前記シリンダヘッド側となるように前記火炎が伝播するように構成される、
副室式内燃機関。
【請求項2】
前記シリンダヘッドの前記複数の斜面は、ペントルーフ形状を形成する2つの斜面を有し、
前記第1噴射口は、前記2つの斜面が交差する前記稜線に沿いながら前記オフセット方向から離れる方向に傾いている、請求項1に記載の副室式内燃機関。
【請求項3】
前記第2噴射口は、前記稜線の延在方向からみて、前記斜面に沿った方向を向いている、請求項1または2に記載の副室式内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主室(主燃焼室)およびその主室に連通路を介して連結された副室(副燃焼室)を備えた副室式内燃機関が提案されている(例えば、日本国特許第4561522号公報参照)。このような副室式内燃機関では、主室に噴射された燃料から混合気が形成される。形成された混合気は、圧縮時に連通路を介して副室内に供給され、副室内で点火プラグによって点火される。これにより、火炎が形成される。副室内で形成された火炎は、連通路を介して主室に噴射され、主室の混合気を着火する。このように、副室で形成された火炎を主室に噴射することによって、主室の燃焼速度が高まる。これにより、より希薄な空燃比での運転が可能となり、燃費が向上する。
【0003】
日本国特許第4561522号公報には、主室と副室とを連結する複数の連通路(噴射口)の指向方向を燃焼室形状に応じて最適化することで主室の火炎伝搬距離を短縮し、より熱効率を向上させる技術が開示されている。そして、ピストン冠面にボウルを備える燃焼室形状において、噴射口の中心軸線がシリンダ内壁面を指向する第1の噴射口と、ピストンが圧縮上死点近傍に配置されている場合に噴射口の中心軸線がピストン冠面のボウルの底面外周部を指向する第2の噴射口とを設けることで、複雑な燃焼室構造であっても燃焼室全体に渡って火炎伝播距離の短縮を可能としている。
【0004】
しかし、日本国特許第4561522号公報には、第1の噴射口および第2の噴射口が副室の中心軸回りに均等間隔に配設され、互いが円周方向に交互に配列されることが提案されている。このような場合に、主室のクランク軸方向の領域(
図2に示す空間領域S)における混合気の燃焼が他の領域よりも遅くなる。主室における燃焼の遅れによって未燃ガスが残ると、HC(HydroCarbon)やすすの発生量が多くなる可能性があり、主室の燃焼状態にばらつきが生じるおそれがある。特にいわゆるペントルーフ形状の燃焼室のような、燃焼室の天井に稜線が形成されている燃焼室では顕著である。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、主室の燃焼状態が均質化された副室式内燃機関に関する。
【0006】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関は、主室と、副室と、複数の連通路と、点火部と、を備える。主室は、シリンダと、シリンダ軸方向に対し傾斜した複数の斜面を有するシリンダヘッドと、ピストンと、で画定される。副室は、シリンダヘッドから主室に向けて突出し、主室と隔てて設けられる。複数の連通路は、主室と副室とを連通する。点火部は、複数の連通路を介して主室から副室に導入された混合気に点火する。複数の連通路は、第1連通路と、第2連通路と、を含む。第1連通路は、点火により副室内で生じた火炎を主室に噴射する第1噴射口を有する。第2連通路は、シリンダ軸方向に垂直な方向からみて第1連通路よりもピストンに向いた方向に延び、点火により副室内で生じた火炎を主室に噴射する第2噴射口を有する。第1噴射口は、シリンダヘッドの複数の斜面が交差する稜線に沿って火炎が伝播するように構成される。
【0007】
この副室式内燃機関では、第1連通路の第1噴射口は、シリンダヘッドの複数の斜面が交差する稜線に沿って火炎が伝播するように構成される。これにより、主室における稜線方向の空間領域に火炎が行き届くようになり、この空間領域の燃焼が促進される。また、第2連通路は、シリンダ軸方向に垂直な方向からみて第1連通路よりもピストンに向いた方向に延びる。これにより、第1連通路は、他の領域よりもシリンダ軸方向の距離が大きい空間領域の上方に火炎を送り出す一方、第2連通路は、他の領域に火炎を送り出す。このため、主室全体の燃焼状態が均質化される。
【0008】
シリンダヘッドの複数の斜面は、ペントルーフ形状を形成する2つの斜面を有してもよく、第1噴射口は、2つの斜面が交差する稜線に沿った方向を向いてもよい。
【0009】
この構成によれば、主室がペントルーフ型燃焼室である場合にも、シリンダヘッドとピストンによって形成される空間が最も大きくなる領域に、第1連通路が確実に火炎を送り出す。また、第1連通路から送り出された直後の火炎がシリンダヘッドに直接当たることが回避されるので、熱損失の発生が防止される。この結果、主室におけるクランク軸方向の空間領域の燃焼効率が高まる。
【0010】
第2噴射口は、稜線の延在方向からみて、斜面に沿った方向を向いてもよい。
【0011】
この構成によれば、第2連通路においても同様に、第2連通路から送り出された直後の火炎がシリンダヘッドに直接当たることが回避されるので、熱損失の発生が防止される。この結果、主室における他の空間領域の燃焼効率が高まり、主室の燃焼状態が満遍なく均質化される。
【0012】
副室の中心は、シリンダ軸方向からみて、主室の中心からオフセットされて配置されてもよく、第1噴射口は、副室の中心のオフセット方向から離れる方向に向いてもよい。
【0013】
この構成によれば、副室の配置が主室の中心からずれていても、第1連通路から主室に送り出す火炎は主室におけるクランク軸方向の空間領域に届く。この結果、この空間領域の燃焼が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態による副室式内燃機関の概略構成を示す縦断面図。
【
図2】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部を示す横断面図。
【
図3A】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部および火炎の噴射状態を示す横断面図。
【
図3B】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部および火炎の噴射状態を示す、クランク軸方向に垂直な縦断面図。
【
図3C】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部および火炎の噴射状態を示す、左右方向に垂直な縦断面図。
【
図4A】本開示の他の実施形態の副室式内燃機関の、副室が排気ポート側にオフセットされた場合の連通路の形成部を示す横断面図。
【
図4B】本開示の他の実施形態の副室式内燃機関の、副室が吸気ポート側にオフセットされた場合の連通路の形成部を示す横断面図。
【
図5A】本開示の他の実施形態の副室式内燃機関の第2連通路を示す横断面図。
【
図5B】本開示の他の実施形態の副室式内燃機関の第2連通路を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、シリンダ軸方向Qとは、シリンダに沿ってピストンの摺動する方向を示す。上下方向と記す場合は、シリンダ軸方向Qで示し、シリンダヘッド側を「上」、ピストン側を「下」とする。また、左右方向Rとは、シリンダ軸方向Qに直交し、吸気ポートおよび排気ポートが配置される方向を示す。また、クランク軸方向Pとは、シリンダ軸方向Qに直交し、気筒が配置される方向を示す。
【0016】
図1に示すように、副室式内燃機関1は、主室4と、主室4と隣接する副室6と、主室4と副室6とを連通する複数の連通路8と、点火プラグ(点火部の一例)10と、燃料噴射弁12と、を備える。本実施形態では、副室式内燃機関1は、主室4および副室6を含む気筒Nが、直列に複数配列された直列型内燃機関である。すなわち、主室4、副室6、複数の連通路8、点火プラグ10、および、燃料噴射弁12は、各気筒Nに備えられる。しかし、気筒Nの配列についてはこれに限定されず、V型であっても水平対向型であってもよい。
【0017】
主室4は、シリンダブロック101のシリンダ101a、シリンダヘッド102、およびピストン103で画定された空間である。本実施形態では、主室4は、ペントルーフ形状であり、シリンダヘッド102の吸気ポート105側および排気ポート110側に向けて2つの斜面を有する。主室4は、吸気カム(図示せず)によって駆動される吸気バルブ104を介して吸気ポート105に接続される。吸気ポート105は、図示しない吸気通路、スロットルバルブ、および、エアクリーナに接続される。また、主室4は、排気カム(図示せず)によって駆動される排気バルブ109を介して、排気ポート110、排気通路(図示せず)、および、排気浄化触媒(図示せず)に接続される。ピストン103は、図示しないコンロッドを介してクランク軸を駆動する。
【0018】
副室6は、主室4のペントルーフ形状の頂上部に設けられ、主室4と隣接する。副室6は、副室壁61で画定された空間である。副室6は、シリンダヘッド102から主室4に向かって突出し、副室壁61によって主室4と隔てられる。本実施形態では、副室6は、主室4のペントルーフ形状の2つの斜面の交線(稜線L)の略中央に設けられる。本実施形態では、副室6は主室4と同じ中心X1を有する。副室壁61は、断面が円形に形成され、底部61aが半球状に形成される。副室6の容積は、主室4よりも小さく、点火プラグ10によって点火された混合気の火炎が副室6内に素早く伝播する。
【0019】
連通路8は、副室壁61の底部61aに複数設けられる。連通路8は、主室4の混合気を副室6に導く。また、副室6に導入された混合気が点火プラグ10により点火されると、連通路8は、副室6内の混合気の火炎を主室4に送り出す。
図2に示すように、連通路8は、主室4に臨む噴射口8aを副室壁61の外周面に有し、副室6に臨む導入口8bを副室壁61の内周面に有する。本実施形態の連通路8は、クランク軸方向Pに設けられる2つの第1連通路81と、2つの第1連通路81の間に設けられる4つの第2連通路82とを有する。
【0020】
図3Aに示すように、上下方向(シリンダ軸方向Qのピストン103側)からみたときに、噴射口(第1噴射口)81aから噴射される火炎G1が、シリンダヘッド102の下面(ピストン103と対向する面)に形成される稜線L(主室4のペントルーフ形状の2つの斜面の交線)に重なるように、すなわち、火炎G1が稜線Lに沿って伝播するように、第1連通路81は配設される。また、
図3Bおよび
図3Cに示すように、左右方向Rもしくはクランク軸方向Pからみたときに、第2連通路82の噴射口(第2噴射口)82aから噴射される火炎G2よりも上下方向において高い位置に向けて火炎G1が送り出されるように、第1連通路81は配設される。
【0021】
このような副室式内燃機関1の主室4において、例えば副室6から主室4に均等に火炎が送り出される場合には、クランク軸方向Pの空間領域S(
図2参照)における混合気の燃焼が他の領域よりも遅い。すなわち、シリンダヘッド102の下面がペントルーフ形状の場合に、主室4の左右方向Rは、中心X1から外周に向かって下り勾配を有する。一方、主室4のクランク軸方向Pは、そのような勾配を有しない。このため、シリンダヘッド102とピストン103によって形成される上下方向の空間容積に大きな差ができる。すなわち、上下方向に高さがある空間領域Sは他の領域よりも空間容積が大きい。このため、空間領域Sにおいて混合気が燃焼しつくすまでの時間が、相対的に長くなる。このような燃焼の遅れによって未燃ガスが残ると、HC(HydroCarbon)やすすの発生量が多くなる可能性がある。HCやすすの発生量が多くなると、主室4の燃焼状態にばらつきが生じるおそれあるとともに、熱効率の低下を招くおそれがある。
【0022】
図2に示すように、本実施形態の第1連通路81は、噴射口81aと、導入口81bとを有する。噴射口81aと、導入口81bとは、主室4および副室6の中心X1から放射状に延びる線上に対向して設けられる。また、噴射口81aから導入口81bまでの開口面積は一定である。また、噴射口81aおよび導入口81bは同じ高さに設けられる。これにより、第1連通路81の中心軸線C1は、中心X1を通るクランク軸方向Pであって、上下方向に直交する方向に延びる。なお、中心軸線C1は、上下方向において主室4内で稜線Lと離間する(交差しない)ほうが好ましい。本実施形態では上下方向(シリンダ軸方向Qのピストン103側)からみたとき、稜線Lと中心軸線C1は重なっており、噴射口81aは、稜線Lに沿った方向を向いている。
図3Aおよび
図3Cに示すように、第1連通路81は中心軸線C1に沿った方向に火炎G1を噴射する。したがって、火炎G1は、主室4のクランク軸方向P、すなわち空間容積が大きい空間領域Sに向かって噴射される。さらに、火炎G1は、上下方向において空間領域Sの上方(他の領域にはない空間)に向けて噴射される。第1連通路81は2つ設けられ、2つの第1連通路81は、主室4の略中央にある副室6をクランク軸方向Pに沿って挟むように配置される。
【0023】
図3Aに示すように、上下方向(シリンダ軸方向Qのピストン103側)からみたときに、噴射口82aから噴射される火炎G2が、少なくとも第1連通路81とは異なる方向に送り出されるよう、第2連通路82は配設される。また、
図3Bおよび
図3Cに示すように、左右方向Rもしくはクランク軸方向Pからみたときに、第1連通路81の噴射口81aから噴射される火炎G1よりも上下方向において低い位置に向けて火炎G2が送り出されるよう、すなわち、第1連通路81よりもピストン103に向いた方向に延びるように、第2連通路82は配設される。
【0024】
本実施形態の第2連通路82は、
図2に示すように、噴射口82aと、導入口82bとを有する。噴射口82aと、導入口82bとは、主室4および副室6の中心X1から放射状に延びる線上に対向して設けられる。また、
図3Bおよび
図3Cに示すように、噴射口82aから導入口82bまでの開口面積は一定である。また、噴射口82aが導入口82bよりも上下方向において低い位置に設けられる。これにより、第2連通路82の中心軸線C2は、中心X1を通り、上下方向に直交する方向に対して所定の角度傾いた方向に延びる。なお、中心軸線C2は、上下方向において、主室4内でシリンダヘッド102の下面(すなわちペントルーフ形状の斜面)と離間する(交差しない)ほうが好ましい。換言すれば、
図3Bに示すように、稜線Lの延在方向からみて、噴射口82aは、ペントルーフ形状の斜面に沿った方向を向いているほうが好ましい。
図2に示すように、第2連通路82は4つ設けられ、4つの第2連通路82は、主室4の略中央にある副室6を中心とした同一円周上を6等分した位置であって、2つの第1連通路81が配置されるクランク軸方向P以外の位置に配置される。
図3Aから
図3Cに示すように、第2連通路82は中心軸線C2に沿った方向に火炎G2を噴射する。したがって、火炎G2は、主室4の左右方向Rに向かって、すなわち空間領域Sとは異なる領域に向かって均等に噴射される。なお、第2連通路82は、さらに第1連通路81の下に配設されてもよい。この場合に、空間容積が大きい空間領域Sに対して火炎G1が上方領域の燃焼を促進させるのに対し、火炎G2が下方領域の燃焼を促進させる。
【0025】
点火プラグ10は、副室6の中心X1に配置される。点火プラグ10は、副室6の混合気に点火する。
【0026】
図1に示すように、燃料噴射弁12は、主室4に向けて設けられる。また、燃料噴射弁12は、副室6の外に設けられる。本実施形態では、燃料噴射弁12は、主室4に直接燃料を噴射する。すなわち、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関である。燃料噴射弁12は、図示しない制御部によって、噴射量と噴射時期が制御される。また、燃料噴射弁12は、図示しない燃料噴射ポンプ、および、燃料タンクに接続される。燃料噴射弁12は、シリンダヘッド102の吸気バルブ104側に配置される。本実施形態では、目標空燃比は、理論空燃比よりもリーンな値に設定される。すなわち、副室式内燃機関1は、希薄燃焼で運転される。これにより、燃費性能が向上する。
【0027】
このように構成された副室式内燃機関1では、吸気行程では、吸気バルブ104が開弁するとともに、ピストン103が下降し、吸気が主室4および副室6に流入する。本実施形態では、吸気は、図示しない過給機によって加圧される。これにより、主室4および副室6の圧力は、吸気の圧力と同じになる。吸気行程では、主として主室4に燃料を供給するための燃料噴射を行うように、燃料噴射弁12が制御される。噴射された燃料は、主室4内で吸気と混じり混合気を形成する。ピストン103が下がるとともに、混合気が主室4全体に供給される。
【0028】
圧縮行程では、吸気バルブ104が閉弁するとともにピストン103が上昇し、主室4の混合気が圧縮される。このとき、主室4の圧力は上昇する。圧縮行程で、ピストン103が上昇すると、主室4から連通路8を介して混合気が副室6に導入される。このとき、連通路8によって混合気は、副室6に導入される。
【0029】
ピストン103が上昇し、さらに圧縮が進むと、点火プラグ10によって副室6の混合気が着火される。副室6内の燃焼に伴い、連通路8(第1連通路81、第2連通路82)を介して火炎G(火炎G1、火炎G2)が主室4内に噴射される。そして、主室4の混合気が燃焼し、燃焼によって発生する燃焼ガスで圧力が上昇する。これにより、ピストン103が押し下げられ、膨張行程に進む。
【0030】
本実施形態では、第1連通路81は、最も上下方向の空間容積が大きく燃焼が不均衡になりやすい空間領域Sに向かって確実に火炎G1を送り出す。また、第1連通路81は、噴射直後の火炎G1がシリンダヘッド102に当たって熱損失を生じることがないように設けられ、空間領域Sの上方に向かって火炎G1を噴射する。さらに第2連通路82は、第1連通路81と同様に噴射直後の火炎G2がシリンダヘッド102に当たって熱損失を生じることがないように設けられ、他の領域に対して火炎G2を噴射する。この結果、主室4は、均質に燃焼する。
【0031】
排気行程では、排気バルブ109が開弁するとともに、ピストン103が下死点から上昇し、シリンダ内の燃焼ガス(排気)が排気ポート110に排出される。そして、ピストン103が上死点に達すると、再び吸気行程が始まる。このようにピストン103が2往復すると4つの行程が完了する。
【0032】
以上説明した通り、本実施形態の副室式内燃機関1では、第1連通路81から主室4に噴射される火炎G1が、シリンダヘッド102の下面(ピストン103と対向する面)に形成される稜線Lに沿って伝播するように、第1連通路81が構成される。これにより、主室4におけるシリンダ101aのクランク軸方向Pの空間領域Sに火炎G1が行き届き、この空間領域Sの燃焼が促進される。また、第2連通路82は、シリンダ軸方向Qにおいて第1連通路81よりも下方(ピストン103に向けた方向)であって、シリンダ軸方向Qからみて第1連通路81とは異なる方向に向いて延びる。これにより、第1連通路81は、他の領域よりもシリンダ軸方向Qの距離が大きい空間領域Sに火炎G1を送り出す一方、第2連通路82は、他の領域に火炎G2を送り出す。このため、主室4の燃焼状態が均質化される。
【0033】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0034】
上記実施形態では、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関であるが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、吸気ポート105に設けられる吸気ポートインジェクタを備える副室式内燃機関であってもよい。
【0035】
上記実施形態では、副室6は、主室4と同じ中心X1に設けられるが、本開示はこれに限定されない。例えば、
図4Aおよび
図4Bに拡大して示すように、副室6は、主室4の中心X1からシリンダ101aの内壁面に向けて稜線Lと交差する方向にオフセットした中心X2に設けられてもよい。
図4Aおよび
図4Bに示すように、このような場合、上下方向からみたときに、中心X2から延びる第1連通路81の中心軸線C1が、中心X1を通る稜線Lに近づくように、噴射口81aおよび導入口81bが配置される。具体的には、上下方向からみたときに、第1連通路81の中心軸線C1は、中心X1から稜線Lと交差する方向にオフセットした中心X2を通って稜線Lと平行に延びる直線LLに対し、稜線L側に傾く。中心軸線C1の傾き角度は、オフセット量に応じて変化する。
図4Aに示すように、副室6が排気ポート110側にオフセットされた場合(
図4A拡大図参照)は、第1連通路81の中心軸線C1は、中心X2を通る直線LLに対して吸気ポート105側に傾く。この場合は、噴射口81aは、導入口81bよりも吸気側に設けられる。
【0036】
図4Bに示すように、副室6が吸気ポート105側にオフセットされた場合(
図4B拡大図参照)は、第1連通路81の中心軸線C1は、中心X2を通る直線LLに対して排気ポート110側に傾く。この場合は、噴射口81aは、導入口81bよりも排気ポート110側に設けられる。この構成によれば、副室6の配置が主室4の中心からずれていても、第1連通路81から主室4に送り出される火炎G1は、主室4におけるクランク軸方向Pの空間領域Sの中心に届く。この結果、この空間領域Sの燃焼が促進される。
【0037】
上記実施形態では、第2連通路82は4つ設けられるが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、第2連通路82は、
図5A及び
図5Bに示すように6つでもよい。
図5Aに示すように、第2連通路82は、主室4の略中央にある副室6を中心とした同一円周上を8等分した位置であって、2つの第1連通路81が配置されるクランク軸方向P以外の位置に配置されてもよい。また、
図5Bに示すように、上記実施形態において、左側に並ぶ2つの第2連通路82の間、および右側に並ぶ2つの第2連通路82の間に、さらに1つずつ第2連通路82が追加されてもよい。この構成によれば、さらに主室4の燃焼が促進される。
【0038】
上記実施形態では、副室の形状はシリンダ軸方向に垂直な面による断面が円形となる形状(半球や円筒形状など)を例にしている。しかしながら、副室の形状はこれに限られない。断面が楕円や正多角形となる形状であってもよい。火炎伝播の観点からは、対称性のある形状が好ましいが、これに限られない。なお、本開示における「直径方向」「径方向」「接線」などの幾何学的表現は、断面が円形以外の場合であっても、当業者であれば適宜理解することができるであろう。つまり、副室の断面が円形以外になる実施態様であっても、当業者であれば本開示と同様の効果が奏されるように本開示の特徴を適宜適用できるであろう。
【0039】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関(1)は、
シリンダ(101a)と、シリンダ軸方向(Q)に対し傾斜した複数の斜面を有するシリンダヘッド(102)と、ピストン(103)と、で画定された主室(4)と、
前記シリンダヘッド(102)から前記主室(4)に向けて突出し、前記主室(4)と隔てて設けられる副室(6)と、
前記主室(4)と前記副室(6)とを連通する複数の連通路(8)と、
前記複数の連通路(8)を介して前記主室(4)から前記副室(6)に導入された混合気に点火する点火部(10)と、
を備え、
前記複数の連通路(8)は、
点火により前記副室(6)内で生じた火炎を前記主室(4)に噴射する第1噴射口(81a)を有する第1連通路(81)と、
前記シリンダ軸方向(Q)に垂直な方向からみて前記第1連通路(81)よりも前記ピストン(103)に向いた方向に延び、前記火炎を前記主室(4)に噴射する第2噴射口(82a)を有する第2連通路(82)と、
を含み、
前記第1噴射口(81a)は、前記シリンダヘッド(102)の前記複数の斜面が交差する稜線(L)に沿って前記火炎が伝播するように構成されている。
【0040】
前記シリンダヘッド(102)の前記複数の斜面は、ペントルーフ形状を形成する2つの斜面を有してもよく、
前記第1噴射口(81a)は、前記2つの斜面が交差する前記稜線(L)に沿った方向を向いてもよい。
【0041】
前記第2噴射口(82a)は、前記稜線(L)の延在方向からみて、前記斜面に沿った方向を向いてもよい。
【0042】
前記副室の中心(X2)は、前記シリンダ軸方向(Q)からみて、前記主室の中心(X1)からオフセットして配置されてもよく、
前記第1噴射口(81a)は、前記副室の中心(X2)のオフセット方向から離れる方向に向いてもよい。
【0043】
本出願は、2019年3月27日出願の日本特許出願特願2019-061132に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0044】
1:副室式内燃機関
4:主室
6:副室
8:連通路
81:第1連通路
81a:噴射口
82:第2連通路
82a:噴射口
10:点火プラグ(点火部)
61:副室壁
101a:シリンダ
102:シリンダヘッド
103:ピストン
C1:中心軸線
C2:中心軸線
X1:主室の中心
X2:副室の中心
L:稜線
Q:シリンダ軸方向