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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
B66B31/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022040828
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149563(JP,A)
【文献】特開2003-306288(JP,A)
【文献】特開2009-202980(JP,A)
【文献】特開2008-303001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 27/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の大きさが搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係であって、搬送部の速度が上がるにつれて報知音が大きくなっていくように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベア。
【請求項2】
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の高さが搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベア。
【請求項3】
対応関係は、搬送部の速度が上がるにつれて報知音が高くなっていくように規定されるものである
請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の音色が搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベア。
【請求項5】
対応関係は、搬送部の速度が上がるにつれて基本音に合成される倍音の数が増えていくように規定されるものである
請求項4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
報知制御部は、一連の処理を搬送部の運転中継続的に行う
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
無端搬送体は、複数の踏段が無端状に連結されて構成され、
報知制御部は、所定の報知音に係る信号を生成する処理、及び、当該所定の報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該所定の報知音を発生させる処理を追加的かつ各踏段がフロアプレートの先端から出現する又はフロアプレート下に入り込もうとするタイミングの間隔で断続的に行う
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
無端搬送体は、複数の踏段が無端状に連結されて構成され、
報知制御部は、一連の処理を各踏段がフロアプレートの先端から出現する又はフロアプレート下に入り込もうとするタイミングの間隔で断続的に行う
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項9】
搬送部は、乗客待機中は停止し又は低速運転となり、乗客が乗り口に進入すると、所定の速度まで加速して定速運転となり、定速運転後、乗客がいなくなると、減速して再び停止する又は低速運転となるように構成される
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といった乗客コンベアは、乗降口と搬送部とを備える。乗降口は、フロアプレートを備え、通路の始端部と終端部とに位置する(乗り口及び降り口)。搬送部は、無端状に連結されて循環移動する複数の踏段からなる無端搬送体を備え、無端搬送体が通路に沿って循環移動することにより、乗客を搬送する。乗客は、乗り口から搬送部の始端部(乗客受け入れ部)まで移動し、フロアプレートの先端から出現する踏段に乗り込むと、搬送部により搬送され、しかる後、搬送部の終端部(乗客送り出し部)に到達すると、降り口まで移動し、そのまま移動して乗客コンベアを後にする。
【0003】
しかし、乗降口は静止し、搬送部はもちろん移動しており、両者間に速度差が生じる。このため、乗降口及び搬送部間の移動タイミングをうまく図ることができない乗客がいる。そこで、この移動タイミングを報知する報知装置を備える乗客コンベアが提案されている(特許文献1,2)。これは、乗降口において、フロアプレートの先端から出現する又はフロアプレート下に入り込もうとする踏段の移動に同期して音を発生させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-125586号公報
【文献】特開平2-291390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、乗客コンベアの中には、乗客待機中は搬送部が停止し又は低速運転となり、乗客が乗り口に進入すると、搬送部が定格速度まで加速して定格運転となり、定格運転後、乗客がいなくなると、搬送部が減速して再び停止する又は低速運転となる、自動運転機能付きの乗客コンベアがある。
【0006】
自動運転機能付きの乗客コンベアにおいて、搬送部が加速すると、踏段の速度は次第に速くなり、逆に、搬送部が減速すると、踏段の速度は次第に遅くなる。このため、上記特許文献1,2の報知装置を自動運転機能付きの乗客コンベアに適用した場合、音の間隔は、必ずしも一定ではなく変化するときがある。そして、音の間隔が変化するときは、乗客がタイミングを取るのは困難となる。特に、子供を抱きかかえたり、大きなキャリーケースを携えることにより、下方の視界が遮られる場合や、視覚障害者にとっては、搬送部の速度を視覚的に把握することができないために、タイミングを取るのがより困難となる。
【0007】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであっても、円滑かつ安全に乗り降りすることができることができる乗客コンベアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明に係る乗客コンベアは、
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の大きさが搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係であって、搬送部の速度が上がるにつれて報知音が大きくなっていくように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベアである。
第2の本発明に係る乗客コンベアは、
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の高さが搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベアである。
第3の本発明に係る乗客コンベアは、
乗り口及び降り口の乗降口と、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する搬送部とを備え、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであって、
乗降口付近に設けられる報知部と、
報知部を制御する報知制御部とを備え、
報知制御部は、
報知音の高さ、大きさ又は音色のうち少なくとも報知音の音色が搬送部の速度に応じて変化するように規定される対応関係を記憶する記憶部と、
搬送部の速度に関する情報を取得し、対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理を行う信号生成部と、
当該報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該報知音を発生させる処理を行う指令部とを備える
乗客コンベアである。
第2の本発明に係る乗客コンベアにおいては、
対応関係は、搬送部の速度が上がるにつれて報知音が高くなっていくように規定されるものである
との構成を採用することができる。
第3の本発明に係る乗客コンベアにおいては、
対応関係は、搬送部の速度が上がるにつれて基本音に合成される倍音の数が増えていくように規定されるものである
との構成を採用することができる。
【0009】
ここで、本発明に係る乗客コンベアの一態様として、
報知制御部は、一連の処理を搬送部の運転中継続的に行う
との構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明に係る乗客コンベアの他態様として、
無端搬送体は、複数の踏段が無端状に連結されて構成され、
報知制御部は、所定の報知音に係る信号を生成する処理、及び、当該所定の報知音に係る信号を報知部に送信して報知部から当該所定の報知音を発生させる処理を追加的かつ各踏段がフロアプレートの先端から出現する又はフロアプレート下に入り込もうとするタイミングの間隔で断続的に行う
との構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明に係る乗客コンベアの別の態様として、
無端搬送体は、複数の踏段が無端状に連結されて構成され、
報知制御部は、一連の処理を各踏段がフロアプレートの先端から出現する又はフロアプレート下に入り込もうとするタイミングの間隔で断続的に行う
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係る乗客コンベアのさらに別の態様として、
搬送部は、乗客待機中は停止し又は低速運転となり、乗客が乗り口に進入すると、所定の速度まで加速して定速運転となり、定速運転後、乗客がいなくなると、減速して再び停止する又は低速運転となるように構成される
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乗降口付近に設けられる報知部から、音の高さ、大きさ又は音色の少なくとも1つが搬送部の速度に応じて変化するように報知音が発せられる。これにより、乗客は、搬送部の速度を聴覚的に把握することができる。このため、本発明によれば、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであっても、乗降口及び搬送部間の移動タイミングを図ることができ、円滑かつ安全に乗り降りすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、エスカレータの一部断面側面図である。
図2図2は、エスカレータが備える報知装置の一構成例の説明図であって、エスカレータの乗り口付近の一部断面側面図である。
図3図3(a)は、搬送部の速度及び報知音の高さの対応関係の説明図である。図3(b)~(d)は、報知音の高さの変化形態の説明図である。
図4図4(a)は、搬送部の速度及び報知音の大きさの対応関係の説明図である。図4(b)~(d)は、報知音の大きさの変化形態の説明図である。
図5図5(a)は、搬送部の速度及び報知音の音色の対応関係の説明図である。図5(b)~(d)は、報知音の音色の変化形態の説明図である。
図6図6(a)は、乗客待機中は搬送部が停止するエスカレータである場合の、報知形態1のタイミングチャートである。図6(b)は、乗客待機中は搬送部が低速運転となるエスカレータである場合の、報知形態1のタイミングチャートである。
図7図7(a)は、乗客待機中は搬送部が停止するエスカレータである場合の、報知形態2のタイミングチャートである。図7(b)は、乗客待機中は搬送部が低速運転となるエスカレータである場合の、報知形態2のタイミングチャートである。
図8図8(a)は、乗客待機中は搬送部が停止するエスカレータである場合の、報知形態3のタイミングチャートである。図8(b)は、乗客待機中は搬送部が低速運転となるエスカレータである場合の、報知形態3のタイミングチャートである。
図9図9(a)は、搬送部の速度及び報知音の高さの対応関係の別例の説明図である。図9(b)は、搬送部の速度及び報知音の大きさの対応関係の別例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<全体構成>
以下、本発明に係る実施形態として、乗客コンベアの一つであるエスカレータの各実施形態について説明するが、まずはこれに先立ち、エスカレータの全体構成について説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、エスカレータ1は、トラス2と、乗降口3と、搬送部4と、ハンドレール部5と、制御部6とを備える。トラス2は、エスカレータ1の自重及び積載荷重を支える構造体である。乗降口3は、トラス2の両端部の上部に設けられ、通路の端部(始端部、終端部)に位置する。搬送部4は、トラス2に支持され、踏面が通路に沿って移動することにより、乗客をその位置に立たせたまま歩かせることなく搬送する。ハンドレール部5も、トラス2に支持され、通路の両側に通路に沿って設けられる。制御部6は、エスカレータ1の各部に対する制御を行い、エスカレータ1の円滑な運行を制御する。制御部6は、制御盤の形態で設けられる。
【0017】
なお、本実施形態においては、エスカレータ1は、乗客を左から右(階下から階上)に搬送する上りの設定となっている。このため、エスカレータ1は、左から右に、乗り口3A、搬送部4、降り口3Bを備える。制御部6により設定が逆に切り替えられると、乗り口3Aは降り口に、降り口3Bは乗り口に切り替わり、乗客を右から左(階上から階下)に搬送する下りの設定となる。
【0018】
乗降口3は、トラス2の水平端部2aの上部に設けられる。乗降口3は、フロアプレート30を備える。フロアプレート30は、乗降口3の床を構成し、通路の端部(始端部、終端部)に設置される。フロアプレート30の先端部には、櫛歯状のコム31が取り付けられる。コム31は、左右方向において複数に分割され、それぞれが矩形状(長方形状)を有する。複数のコム31,…は、左右方向に並んで配置されることにより、フロアプレート30の先端部に沿った左右方向に長い帯状となる。フロアプレート30の先端(コム31の先端)は、乗降口3と搬送部4との境界を画する。
【0019】
搬送部4は、無端搬送体40を備える。無端搬送体40は、複数の踏段(ステップ)41,…が無端状に連結されたものである。無端搬送体40は、トラス2内にトラス2の長手方向に沿って循環移動可能に配置される。搬送部4の駆動機構は、駆動モータ42と、減速機43と、一対のスプロケット44,44と、踏段チェーン45とを備える。駆動モータ42及び減速機43は、トラス2の上端部側の水平端部2aに設けられる。一方のスプロケット44も、トラス2の上端部側の水平端部2aに設けられ、減速機43及びチェーンやベルト等の伝達手段を介して駆動モータ42の駆動が伝達される。他方のスプロケット44は、トラス2の下端部側の水平端部2aに設けられる。踏段チェーン45は、複数の踏段41,…を無端状に連結する手段であって、一対のスプロケット44,44に巻き掛けられる。無端搬送体40は、駆動モータ42の駆動に伴って踏段チェーン45が循環移動することにより、一方向又は反対方向に循環移動する。なお、踏段チェーン45の2つの折返し端部のうち、従動側の折返し端部(図1においては、左側)の折返し手段は、スプロケット44ではなく、半円弧状のガイドレールであってもよい。
【0020】
ハンドレール部5は、ハンドレール50と、欄干51とを備える。ハンドレール50は、移動手摺とも呼ばれ、可撓性を有する無端状である。ハンドレール50は、無端搬送体40と連動して循環移動する。欄干51は、無端搬送体40の側方に無端搬送体40の長手方向に沿って配置される。欄干51は、下辺部がトラス2に支持され、ハンドレール50を循環移動可能に支持する。ハンドレール50及び欄干51は、通路の両側に通路に沿って一対設けられる。
【0021】
図2に示すように、乗降口3は、人検知部32を備える。人検知部32は、乗り口3Aに進入した乗客を検知し、また、降り口3Bから退出する乗客を検知する。人検知部32は、欄干51の端部に配置される。あるいは、人検知部32は、乗降口3に立設されるポール(図示しない)に配置される。一例として、人検知部32は、エリアセンサやラインセンサ等の人検知センサである。人検知部32は、電源線ないし信号線を介して制御部6に電気的に接続される。
【0022】
エスカレータ1は、乗り口3Aの人検知部32により乗客が検知されない状態(乗客がいない状態)では、すなわち、乗客待機中は、搬送部4が停止し又は低速運転となり、乗り口3Aの人検知部32により乗客が検知されると(乗客が乗り口3Aに進入すると)、搬送部4が定格速度(たとえば分速30m)まで加速して定格運転となり、定格運転後、乗り口3Aの人検知部32により乗客が検知されない状態が一定時間継続すると(乗客がいなくなると)、搬送部4が減速して再び停止する又は低速運転となる、いわゆる自動エスカレータである。本実施形態においては、エスカレータ1の運転制御(搬送部4の速度制御)として、駆動モータ42のインバータ制御が採用される。そして、制御部6には予め搬送部4の加速度に関する値(たとえば、搬送部4の加速度自体、駆動モータ42の回転速度の変化率など)が設定され、この設定値に基づいて搬送部4の加減速制御が行われる。
【0023】
エスカレータ1は、報知装置を備える。報知装置は、乗り降りしようとする乗客に向けて、乗降口3及び搬送部4間の移動タイミングを図るためのサポートとなる報知を行う装置である。報知装置は、報知部70と、報知制御部とを備える。
【0024】
報知部70は、乗降口3付近に設けられる。報知部70は、欄干51の通路に面する構成(欄干パネル52、スカートガード53、デッキカバー54及びハンドレールガイド55)のうち、スカートガード53に配置される。あるいは、報知部70は、欄干パネル52、デッキカバー54又はハンドレールガイド55に配置されるものであってもよい。あるいは、報知部70は、乗降口3に立設されるポール(図示しない)に配置されるものであってもよい。一例として、報知部70は、スピーカ等の音響装置である。報知部70は、電源線ないし信号線を介して報知制御部に電気的に接続される。これにより、報知部70は、報知制御部により制御される。
【0025】
報知制御部は、エスカレータ1の制御部6がその機能を実行する。報知制御部は、記憶部と、演算部と、信号生成部と、指令部(送信部)とを備える。
【0026】
記憶部は、報知音が搬送部4の速度に応じて変化するように規定される“搬送部4の速度及び報知音の対応関係”を記憶する。一例として、搬送部4の速度及び報知音の対応関係は、テーブルの形で記憶される。
【0027】
演算部は、所定の時間間隔(たとえば200msec間隔)で、搬送部4の速度(無端搬送体40の速度)を算出する処理(速度算出処理)を行う。搬送部4の速度は、搬送部4の駆動モータ42の回転速度に基づいて算出することができる。また、演算部は、速度算出処理と同じ時間間隔で、踏段41の移動のタイミング、より詳しくは、踏段41(の先端)がフロアプレート30の先端から出現する又はフロアプレート30下に入り込もうとするタイミングを算出する処理(タイミング算出処理)を行う。タイミングは、算出された搬送部4の速度と、制御部6が無端搬送体40の原点位置を把握していることと、踏段41の奥行寸法(一般的には約40cm)とに基づいて算出することができる。
【0028】
信号生成部は、搬送部4の速度及び報知音の対応関係から該当する報知音を特定して当該報知音に係る信号を生成する処理(信号生成処理)を行う。指令部は、当該報知音に係る信号を報知部70に送信して報知部70から当該報知音を発生させる処理(報知指令処理)を行う。
【0029】
搬送部4の速度及び報知音の対応関係は、1つのパターンとして、図3に示すように、音の3要素のうち、音の高さ(音の周波数)が搬送部4の速度に応じて変化するように規定されるものである。搬送部4の速度は、たとえば、0<V≦V1(たとえば分速10m)、V1<V≦V2(たとえば分速20m)、V2<V≦Vr(定格速度、たとえば分速30m)、の3つの速度区分に分けられ、第1の速度区分には、周波数f1の報知音が割り当てられ、第2の速度区分には、第1の速度区分の報知音よりも音が高い周波数f2の報知音が割り当てられ、第3の速度区分には、第2の速度区分の報知音よりも音が高い周波数f3の報知音が割り当てられる。なお、速度区分の数は、2つでもよく、あるいは、4つ以上でもよい(以下、同様)。
【0030】
搬送部4の速度及び報知音の対応関係は、別のパターンとして、図4に示すように、音の3要素のうち、音の大きさ(音の振幅)が搬送部4の速度に応じて変化するように規定されるものである。第1の速度区分には、振幅A1の報知音が割り当てられ、第2の速度区分には、第1の速度区分の報知音よりも音が大きい振幅A2の報知音が割り当てられ、第3の速度区分には、第2の速度区分の報知音よりも音が大きい振幅A3の報知音が割り当てられる。
【0031】
搬送部4の速度及び報知音の対応関係は、さらに別のパターンとして、図5に示すように、音の3要素のうち、音の音色(音の波形)が搬送部4の速度に応じて変化するように規定されるものである。第1の速度区分には、基本音のみの音色t1の報知音が割り当てられ、第2の速度区分には、基本音に1つの倍音が合成される音色t2の報知音が割り当てられ、第3の速度区分には、第2速度区分の報知音よりも合成される倍音の数が多い音色t3の報知音が割り当てられる。
【0032】
<報知装置の報知形態1>
報知装置の報知形態1は、そのタイミングチャートが図6(a)及び(b)に示される。なお、図6(a)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が停止するタイプのエスカレータに適用される例であり、図6(b)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が低速運転となるタイプのエスカレータに適用される例である。
【0033】
図6(a)の例であれば、乗客待機中の状態から乗客が乗り口3Aに進入すると(人検知部32により乗り口3Aに進入した乗客が検知されると)、それまで停止していた搬送部4が定格速度Vrまで加速して定格運転となる。図6(b)の例であれば、乗客待機中の状態から乗客が乗り口3Aに進入すると、それまで速度V1で低速運転していた搬送部4が定格速度Vrまで加速して定格運転となる。なお、加速時間(及び減速時間)は、数秒(3~5秒)である。
【0034】
報知装置の報知形態1では、報知制御部は、速度算出処理、信号生成処理及び報知指令処理の一連の処理を上記所定の時間間隔(微小時間間隔)で搬送部4の運転中継続的に行う。報知音のパターンは、下記パターン1~7の中から1つが選択される。報知制御部は、選択されたパターンに基づき、報知音に係る信号を生成し、報知部70に報知指令を行う。この結果、たとえば、パターン1であれば、搬送部4の速度が上がるにつれて音が段階的に高くなっていくように報知部70から報知音が発せられる。パターン2であれば、搬送部4の速度が上がるにつれて音が段階的に大きくなっていくように報知部70から報知音が発せられる。
【表1】
【0035】
このように、報知装置の報知形態1によれば、乗り口3A付近に設けられる報知部70から、音の高さ、大きさ又は音色の少なくとも1つが搬送部4の速度に応じて変化するように報知音が発せられる。報知音の変化は、搬送部4の速度の遅速を観念的に認識させる音の変化である。これにより、乗客は、搬送部4の速度を聴覚的に把握することができる。このため、報知装置の報知形態1によれば、搬送部4が加速又は減速することがある自動エスカレータであっても、乗降口3及び搬送部4間の移動タイミングを図ることができ、円滑かつ安全に乗り降りすることができる。
【0036】
<報知装置の報知形態2>
報知装置の報知形態2は、そのタイミングチャートが図7(a)及び(b)に示される。なお、図7(a)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が停止するタイプのエスカレータに適用される例であり、図7(b)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が低速運転となるタイプのエスカレータに適用される例である。
【0037】
報知装置の報知形態2では、報知制御部(の信号生成部)は、上記信号生成処理(第1の信号生成処理)に加え、上記タイミング算出処理により算出されたタイミングに合わせて、所定の報知音に係る信号を生成する処理(第2の信号生成処理)を行う。また、報知制御部(の指令部)は、上記報知指令処理(第1の報知指令処理)に加え、上記タイミング算出処理により算出されたタイミングに合わせて、当該所定の報知音に係る信号を報知部70に送信して報知部70から当該所定の報知音を発生させる処理(第2の報知指令処理)を行う。
【0038】
すなわち、報知装置の報知形態2では、報知制御部は、速度算出処理、タイミング算出処理、第1の信号生成処理及び第1の報知指令処理の一連の処理を上記所定の時間間隔(微小時間間隔)で搬送部4の運転中継続的に行うとともに、第2の信号生成処理及び第2の報知指令処理を踏段41の移動に同期した間隔で断続的に行う。報知音(第1の報知音)のパターンの選択性は、報知装置の報知形態1と同様である。また、所定の報知音(第2の報知音)のパターンは、下記パターンA~Dの中から1つが選択される。報知制御部は、選択されたパターンに基づき、第1及び第2の報知音に係る信号を生成し、報知部70に報知指令を行う。
【表2】
【0039】
このように、報知装置の報知形態2によれば、乗り口3A付近に設けられる報知部70から、音の高さ、大きさ又は音色の少なくとも1つが搬送部4の速度に応じて変化するように報知音(第1の報知音)が発せられるとともに、踏段41の移動に同期した間隔で報知音(第2の報知音)が発せられる。これにより、乗客は、搬送部4の速度を聴覚的に把握することができる。このため、報知装置の報知形態2によれば、搬送部4が加速又は減速することがある自動エスカレータであっても、乗降口3及び搬送部4間の移動タイミングを図ることができ、円滑かつ安全に乗り降りすることができる。
【0040】
<報知装置の報知形態3>
報知装置の報知形態3は、そのタイミングチャートが図8(a)及び(b)に示される。なお、図8(a)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が停止するタイプのエスカレータに適用される例であり、図8(b)は、自動エスカレータのうち、乗客待機中は搬送部4が低速運転となるタイプのエスカレータに適用される例である。
【0041】
報知装置の報知形態3では、報知制御部は、速度算出処理及びタイミング算出処理の一連の処理を上記所定の時間間隔(微小時間間隔)で搬送部4の運転中継続的に行うとともに、信号生成処理及び報知指令処理を踏段41の移動に同期した間隔で断続的に行う。報知音のパターンの選択性は、報知装置の報知形態1と同様である。報知制御部は、選択されたパターンに基づき、報知音に係る信号を生成し、報知部70に報知指令を行う。
【0042】
このように、報知装置の報知形態3によれば、乗り口3A付近に設けられる報知部70から、音の高さ、大きさ又は音色の少なくとも1つが搬送部4の速度に応じて変化するように、かつ、踏段41の移動に同期した間隔で、報知音が発せられる。これにより、乗客は、搬送部4の速度を聴覚的に把握することができる。このため、報知装置の報知形態3によれば、搬送部4が加速又は減速することがある自動エスカレータであっても、乗降口3及び搬送部4間の移動タイミングを図ることができ、円滑かつ安全に乗り降りすることができる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0044】
上記実施形態においては、搬送部4の速度が複数の速度区分に分けられ、速度区分ごとに音の内容が異なることにより、報知音が段階的に変化する。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。図9に示すように、報知音は、搬送部の速度に応じて線形的に変化するものであってもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、搬送部4の速度は、駆動モータ42の回転速度に基づいて算出される。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、搬送部4の駆動機構にエンコーダが設けられ、このエンコーダの情報に基づいて搬送部4の速度が算出されるようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、報知制御部は、報知音が搬送部4の速度に応じて変化するように規定される対応関係として、“搬送部4の速度及び報知音の対応関係”を用い、そして、搬送部4の速度に関する情報として、搬送部4の速度情報を用いる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、搬送部4の駆動モータ42の回転速度と搬送部4の速度とは比例関係にあることから、報知制御部は、報知音が搬送部4の速度に応じて変化するように規定される対応関係として、“駆動モータ42の回転速度及び報知音の対応関係”を用い、そして、搬送部4の速度に関する情報として、駆動モータ42の回転速度情報を用いるようにしてもよい。あるいは、インバータ制御において駆動モータ42に入力する周波数と搬送部4の速度とは比例関係にあることから、報知制御部は、報知音が搬送部4の速度に応じて変化するように規定される対応関係として、“インバータ制御において駆動モータ42に入力する周波数及び報知音の対応関係”を用い、そして、搬送部4の速度に関する情報として、駆動モータ42に入力する周波数情報を用いるようにしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態においては、主として、乗り口3Aにおける報知形態について説明した。しかし、上述のとおり、降り口にも適用可能な発明であることは言うまでもない。
【0048】
また、上記実施形態においては、自動エスカレータにおける適用について説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、搬送部上に乗客が滞留していることを検知した場合に搬送部を減速する又は停止する滞留検知や、搬送部上で乗客が転倒したことを検知した場合に搬送部を減速する又は停止する転倒検知といった、搬送部の速度変化が生じる形態に適用することもできる。
【0049】
また、上記実施形態においては、乗客コンベアは、エスカレータである。しかし、本発明は、動く歩道にも適用できることは言うまでもない。なお、動く歩道には、踏段式の無端搬送体を備えるものと、ベルト式の無端搬送体を備えるものとがある。
【0050】
また、物理的に干渉するものでない限り、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に適用すること、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に係る技術要素と置換すること、以上に記載した技術要素同士を組み合わせること等は、当然に可能であり、これは、本発明が当然に意図するところである。
【符号の説明】
【0051】
1…エスカレータ、2…トラス、2a…水平端部、3…乗降口、3A…乗り口、3B…降り口、30…フロアプレート、31…コム、32…人検知部、4…搬送部、40…無端搬送体、41…踏段、42…駆動モータ、43…減速機、44…スプロケット、45…踏段チェーン、5…ハンドレール部、50…ハンドレール、51…欄干、52…欄干パネル、53…スカートガード、54…デッキカバー、55…ハンドレールガイド、6…制御部、70…報知部
【要約】
【課題】搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであっても、円滑かつ安全に乗り降りすることができることができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】乗降口付近に設けられる報知部から、音の高さ、大きさ又は音色の少なくとも1つが搬送部の速度に応じて変化するように報知音が発せられる。これにより、乗客は、搬送部の速度を聴覚的に把握することができる。このため、搬送部が加速又は減速することがある乗客コンベアであっても、乗降口及び搬送部間の移動タイミングを図ることができ、円滑かつ安全に乗り降りすることができる。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9