(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ヒ化ガリウム単結晶基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/42 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
C30B29/42
(21)【出願番号】P 2023526994
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2022034768
【審査請求日】2023-05-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木山 誠
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 吉広
(72)【発明者】
【氏名】星名 豊
(72)【発明者】
【氏名】中山 陽次郎
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-300747(JP,A)
【文献】特開平10-12577(JP,A)
【文献】特開2006-352075(JP,A)
【文献】特開平6-45318(JP,A)
【文献】特表2016-519033(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216440(WO,A1)
【文献】特開2021-15999(JP,A)
【文献】特開平11-278979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/00-21/98
H01L 33/00-33/64
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の積分強度比または第2の積分強度比を有し、
前記第1の積分強度比および前記第2の積分強度比のそれぞれは、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°の条件の下で前記主表面の中心に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られ、
前記第1の積分強度比は、ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、12以下であり、
前記第2の積分強度比は、五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、前記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と前記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、1.2以下であり、
前記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、前記主表面1cm
2当たり2以下である、ヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項2】
前記第1の積分強度比は、10.5以下であり、
前記第2の積分強度比は、1.05以下である、請求項1に記載のヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項3】
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上の直径を有し、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第3の積分強度比または第4の積分強度比を有し、
前記第3の積分強度比および前記第4の積分強度比のそれぞれは、前記条件の下で前記主表面上の5つの測定点に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られ、
前記第3の積分強度比は、前記ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、前記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と前記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率の平均値であって、13.7以下であり、
前記第4の積分強度比は、前記五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、前記三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、前記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と前記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率の平均値であって、1.23以下であり、
前記5つの測定点にて測定される前記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、前記主表面1cm
2当たり1.6以下であり、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記直径をDとし、前記主表面の中心を通り、前記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、前記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、前記Dおよび前記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmである、請求項1または請求項2に記載のヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項4】
円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の解析値または第2の解析値を有し、
前記第1の解析値および前記第2の解析値のそれぞれは、下記の5通りの条件の下で前記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、前記スペクトルを数学的な解析手法である最大平滑性法に適用することにより得られ、
前記第1の解析値は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウムおよび三酸化二ガリウムとして存在するガリウム酸化物の含有量を表す値であって、0.6nm以下であり、
前記第2の解析値は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素および三酸化二ヒ素として存在するヒ素酸化物の含有量に対する前記ガリウム酸化物の含有量の比率を表す値であって、1.4以下であり、
前記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、前記主表面1cm
2当たり2以下であり、
前記5通りの条件は、下記の条件1、条件2、条件3、条件4および条件5である、ヒ化ガリウム単結晶基板。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°
【請求項5】
前記第1の解析値は、0.48nm以下であり、
前記第2の解析値は、1.2以下である、請求項4に記載のヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項6】
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上の直径を有し、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第3の解析値または第4の解析値を有し、
前記第3の解析値および前記第4の解析値のそれぞれは、前記5通りの条件の下で前記主表面上の5つの測定点に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、前記スペクトルを前記最大平滑性法に適用することにより得られ、
前記第3の解析値は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記主表面から2nmの深さまでの領域において前記一酸化二ガリウムおよび前記三酸化二ガリウムとして存在する前記ガリウム酸化物の含有量の平均値を表す値であって、0.57nm以下であり、
前記第4の解析値は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記主表面から2nmの深さまでの領域において前記五酸化二ヒ素および前記三酸化二ヒ素として存在する前記ヒ素酸化物の含有量に対する前記ガリウム酸化物の含有量の比率の平均値を表す値であって、1.37以下であり、
前記5つの測定点にて測定される前記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、前記主表面1cm
2当たり1.6以下であり、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板の前記直径をDとし、前記主表面の中心を通り、前記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、前記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、前記Dおよび前記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmである、請求項4または請求項5に記載のヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項7】
前記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上205mm以下の直径を有する、
請求項1または請求項4に記載のヒ化ガリウム単結晶基板。
【請求項8】
円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
前記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、前記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、
前記洗浄工程は、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の前記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、前記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、
前記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、前記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、
前記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、前記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、
前記酸洗浄面を乾燥することによって前記主表面を得る工程と、を含み、
前記アルカリ洗浄面を前記酸化処理面とする工程は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、
前記酸洗浄液における酸濃度は、0.5質量%以上2質量%未満である、ヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項9】
円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
前記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、前記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、
前記洗浄工程は、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の前記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、前記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、
前記アルカリ洗浄面を酸洗浄液で洗浄することにより、前記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とする工程と、
前記酸洗浄面を乾燥することによって前記主表面を得る工程と、を含み、
前記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、
前記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、
前記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、
前記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である、ヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項10】
円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
前記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、前記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、
前記洗浄工程は、
前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の前記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、前記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、
前記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、前記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、
前記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、前記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、
前記酸洗浄面を乾燥することによって前記主表面を得る工程と、を含み、
前記アルカリ洗浄面を前記酸化処理面とする工程は、前記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、
前記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、
前記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、
前記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、
前記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である、ヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒ化ガリウム単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの作製過程において、ヒ化ガリウム単結晶基板(以下、「GaAs単結晶基板」とも記す)上にエピタキシャル層を成長させる前に、上記基板の表面に形成された酸化膜を除去する目的で、エピタキシャル成長炉内にてサーマルクリーニングを行うことが公知である。特開平07-165499号公報(特許文献1)は、上記サーマルクリーニングによって上記酸化膜中のガリウム酸化物を容易に除去することが可能な結晶表面を有するGaAs単結晶基板を製造する方法を開示している。国際公開第2014/124980号(特許文献2)は、所定の処理方法を用いて上記酸化膜を均質化すれば、当該酸化膜を上記サーマルクリーニングによって有利に除去できることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-165499号公報
【文献】国際公開第2014/124980号
【発明の概要】
【0004】
本開示に係るヒ化ガリウム単結晶基板は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の積分強度比または第2の積分強度比を有し、上記第1の積分強度比および上記第2の積分強度比のそれぞれは、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°の条件の下で上記主表面の中心に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られ、上記第1の積分強度比は、ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、12以下であり、上記第2の積分強度比は、五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、上記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と上記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、1.2以下であり、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。
【0005】
本開示に係るヒ化ガリウム単結晶基板は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の解析値または第2の解析値を有し、上記第1の解析値および上記第2の解析値のそれぞれは、下記の5通りの条件の下で上記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルを数学的な解析手法である最大平滑性法に適用することにより得られ、上記第1の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウムおよび三酸化二ガリウムとして存在するガリウム酸化物の含有量を表す値であって、0.6nm以下であり、上記第2の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素および三酸化二ヒ素として存在するヒ素酸化物の含有量に対する上記ガリウム酸化物の含有量の比率を表す値であって、1.4以下であり、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下であり、上記5通りの条件は、下記の条件1、条件2、条件3、条件4および条件5である。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°。
【0006】
本開示に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、上記酸洗浄液における酸濃度は、0.5質量%以上2質量%未満である。
【0007】
本開示に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【0008】
本開示に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の中心に対して行う放射光を用いたX線光電子分光法から得られるバックグラウンド補正後のGa3dスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図1B】
図1Bは、第1実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の中心に対して行う放射光を用いたX線光電子分光法から得られるバックグラウンド補正後のAs3dスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、X線光電子分光法を用いた分析システムの構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態において、ヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の均一性を評価する目的で、主表面上に設定される5つの測定点を示す説明図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板における五酸化二ヒ素、三酸化二ヒ素、一酸化二ガリウム、三酸化二ガリウムおよびヒ化ガリウムの相対濃度(縦軸)を、主表面からの深さ(nm)(横軸)に対応させて示すデプスプロファイルの一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、放射光を用いたX線光電子分光法において入射X線と、ヒ化ガリウム単結晶基板内の各層から発生する各光電子信号との間の関係を示した模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る第1のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る第2のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る第3のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
エピタキシャル膜の表面欠陥を評価する一つの指標としてLPD(Light Point Defect)があり、その個数が増大することとデバイス特性が低下することとが相関することが知られる。LPDとは、エピタキシャル膜に表面欠陥がある場合において、上記エピタキシャル膜に対し光を照射することにより生じる光散乱を計測することにより検出される表面欠陥を意味する。LPDが発生する原因として、ヒ化ガリウム単結晶基板に起因する要因(表面パーティクル等)と、それ以外の要因(エピタキシャル成長炉内環境、成長投入前環境等)とが知られる。これらの要因によって、エピタキシャル成長で局所的な異常(転位等による結晶欠陥等)が発生し、もってエピタキシャル層の表面に生じた微小凹凸が光散乱として検出される。LPDは、結晶欠陥を伴うためデバイス特性を悪化させる原因となる。
【0011】
本技術分野においては、これまでGaAs単結晶基板の主表面に存在するパーティクルの個数を少なくすることにより、上記主表面上に積層したエピタキシャル膜の表面のLPDの個数を低減させるという試みがなされている。ここで上記主表面に存在する「パーティクル」とは、微小な欠陥、異物等を意味する。しかしながら、上記パーティクルの個数を少なくしたヒ化ガリウム単結晶基板であっても、その主表面上に積層したエピタキシャル膜の表面のLPDの個数が十分に低減しない場合があった。上記主表面に存する酸化膜が影響していると考えられるが、特許文献1および2等に開示された技術を適用しても、主表面に存する酸化膜がサーマルクリーニング等で十分に除去されないと上記LPDの個数が十分に低減しない場合があり、新たな開発が切望されている。
【0012】
以上の点に鑑み、本開示は、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成可能とすることにより、デバイス特性を向上させることができるヒ化ガリウム単結晶基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
[本開示の効果]
本開示によれば、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成可能とすることにより、デバイス特性を向上させることができるヒ化ガリウム単結晶基板およびその製造方法を提供することができる。
【0014】
[実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本開示を完成させた。すなわち本発明者らは、エピタキシャル膜を成長させた場合に、エピタキシャル膜の表面のLPDをより少なくすることができるヒ化ガリウム単結晶基板の主表面を得ることに注目した。具体的には、上記LPDが発生するヒ化ガリウム単結晶基板側の要因の一つである主表面に存する酸化膜、とりわけガリウム酸化物からなる酸化膜を少なくすることを着想し、ヒ化ガリウム単結晶から切り出したヒ化ガリウム単結晶基板前駆体に対して適用する新規な洗浄方法を開発した。ここでアルカリ洗浄液を用いたアルカリ洗浄は、主表面上のパーティクルを減らすのに有効である。一方、酸洗浄液による酸洗浄は、主表面上の上記酸化膜を減らすのに有効である。しかしながら上記酸化膜を減らす目的で、上記酸洗浄液における酸濃度を増加させた場合、パーティクルが増加する傾向がある。
【0015】
これらの知見に鑑み、本発明者らは、アルカリ洗浄液によるアルカリ洗浄工程および酸洗浄液による酸洗浄工程の間に、ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の表面を強制酸化する酸化処理工程を新たに実行した。あるいは上記酸化処理工程およびその後の酸洗浄工程に代えて、界面活性剤等の添加物を添加した酸性溶液による新たな酸洗浄工程を実行した。その結果、上記の新規な洗浄方法を適用することにより得られるヒ化ガリウム単結晶基板は、その主表面における上記パーティクルの個数が少ないことに加え、上記主表面に形成される0.5~2nm程度の厚みの酸化膜においてガリウム酸化物の含有量が少なくなることを知見した。上記ガリウム酸化物の含有量が少ない酸化膜であるほど、これをサーマルクリーニングによって容易に除去することができることが知られる。このため上記パーティクルの個数が少ないことに加え、サーマルクリーニングによって上記酸化膜を効果的に除去することによってLPDの個数が十分に低減したエピタキシャル膜を形成可能なGaAs単結晶基板に到達し、本開示を完成させた。
【0016】
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム単結晶基板は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の積分強度比または第2の積分強度比を有し、上記第1の積分強度比および上記第2の積分強度比のそれぞれは、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°の条件の下で上記主表面の中心に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られ、上記第1の積分強度比は、ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、12以下であり、上記第2の積分強度比は、五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、上記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と上記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であって、1.2以下であり、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。このような特徴を備えるヒ化ガリウム単結晶基板は、パーティクルの個数が少ないことに加え、サーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができるため、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0017】
[2]上記第1の積分強度比は、10.5以下であり、上記第2の積分強度比は、1.05以下であることが好ましい。これにより、LPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0018】
[3]上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上の直径を有し、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第3の積分強度比または第4の積分強度比を有し、上記第3の積分強度比および上記第4の積分強度比のそれぞれは、上記条件の下で上記主表面上の5つの測定点に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られ、上記第3の積分強度比は、上記ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、上記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と上記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率の平均値であって、13.7以下であり、上記第4の積分強度比は、上記五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、上記三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、上記一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と上記三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率の平均値であって、1.23以下であり、上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記主表面1cm2当たり1.6以下であり、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記直径をDとし、上記主表面の中心を通り、上記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、上記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、上記Dおよび上記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmであることが好ましい。これにより上記ヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の面内において均質的に、LPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0019】
[4]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム単結晶基板は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板であって、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第1の解析値または第2の解析値を有し、上記第1の解析値および上記第2の解析値のそれぞれは、下記の5通りの条件の下で上記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルを数学的な解析手法である最大平滑性法に適用することにより得られ、上記第1の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウムおよび三酸化二ガリウムとして存在するガリウム酸化物の含有量を表す値であって、0.6nm以下であり、上記第2の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素および三酸化二ヒ素として存在するヒ素酸化物の含有量に対する上記ガリウム酸化物の含有量の比率を表す値であって、1.4以下であり、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下であり、上記5通りの条件は、下記の条件1、条件2、条件3、条件4および条件5である。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°。
【0020】
このような特徴を備えるヒ化ガリウム単結晶基板は、パーティクルの個数が少ないことに加え、サーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができるため、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0021】
[5]上記第1の解析値は、0.48nm以下であり、上記第2の解析値は、1.2以下であることが好ましい。これにより、LPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0022】
[6]上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上の直径を有し、上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、第3の解析値または第4の解析値を有し、上記第3の解析値および上記第4の解析値のそれぞれは、上記5通りの条件の下で上記主表面上の5つの測定点に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素およびガリウムの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルを上記最大平滑性法に適用することにより得られ、上記第3の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において上記一酸化二ガリウムおよび上記三酸化二ガリウムとして存在する上記ガリウム酸化物の含有量の平均値を表す値であって、0.57nm以下であり、上記第4の解析値は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において上記五酸化二ヒ素および上記三酸化二ヒ素として存在する上記ヒ素酸化物の含有量に対する上記ガリウム酸化物の含有量の比率の平均値を表す値であって、1.37以下であり、上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記主表面1cm2当たり1.6以下であり、上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記直径をDとし、上記主表面の中心を通り、上記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、上記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、上記Dおよび上記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmであることが好ましい。これにより上記ヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の面内において均質的に、LPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0023】
[7]上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上205mm以下の直径を有することが好ましい。これにより75mm以上205mm以下の直径を有するヒ化ガリウム単結晶基板に対し、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0024】
[8]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、上記酸洗浄液における酸濃度は、0.5質量%以上2質量%未満である。このような特徴を備える製造方法により、パーティクルの個数が少なく、かつサーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができる主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板を得ることができる。
【0025】
[9]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。このような特徴を備える製造方法により、パーティクルの個数が少なく、かつサーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができる主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板を得ることができる。
【0026】
[10]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を準備する工程と、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体から、上記ヒ化ガリウム単結晶基板を得るための洗浄工程とを含み、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程と、を含み、上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程であり、上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含み、上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下であり、上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかであり、上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールであり、上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。このような特徴を備える製造方法により、パーティクルの個数が少なく、かつサーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができる主表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板を得ることができる。
【0027】
[実施形態の詳細]
以下、本開示に係る一実施形態についてさらに詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。以下では図面を参照しながら説明する場合があるが、本明細書および図面において同一または対応する要素に同一の符号を付すものとし、それらについて同じ説明は繰り返さない。また図面においては、各構成要素を理解しやすくするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0028】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0029】
本明細書において、ヒ化ガリウム単結晶基板の「主表面」とは、上記基板における円形状の2つの面の両方を意味する。ヒ化ガリウム単結晶基板においては、この2つの面の少なくともどちらかが本開示に係る請求の範囲を満たす場合、本発明の範囲に属する。このヒ化ガリウム単結晶基板の「主表面」には、エピタキシャル膜が配置される場合がある。また本明細書において「面内」という用語にて用いられる「面」とは、「主表面」を意味する。さらにヒ化ガリウム単結晶基板の直径が「75mm」であると記す場合、上記直径は75mm前後(75~76.5mm程度)であることを意味し、あるいは3インチであることを意味する。上記直径が「100mm」であると記す場合、上記直径は100mm前後(95~105mm程度)であることを意味し、あるいは4インチであることを意味する。上記直径が「150mm」であると記す場合、上記直径は150mm前後(145~155mm程度)であることを意味し、あるいは6インチであることを意味する。上記直径が「200mm」であると記す場合、上記直径は200mm前後(195~205mm程度)であることを意味し、あるいは8インチであることを意味する。なお上記直径は、ノギス等の従来公知の外径測定器を用いることにより測定することができる。
【0030】
本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、“-(バー)”を数字の上に付すことによって表現されるが、これを本明細書において表記する場合、数字の前に負の符号を付するものとする。
【0031】
〔ヒ化ガリウム単結晶基板:第1実施形態〕
第1実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板(GaAs単結晶基板)は、円形状の主表面を有するGaAs単結晶基板である。上記GaAs単結晶基板は、第1の積分強度比または第2の積分強度比を有する。上記第1の積分強度比および上記第2の積分強度比のそれぞれは、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°の条件の下で上記主表面の中心に対してX線を照射するX線光電子分光法に基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素(As)およびガリウム(Ga)の3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られる。上記第1の積分強度比は、ヒ化ガリウム(GaAs)として存在するGa元素(以下、これを便宜的に「Ga-As」と記す場合がある)の積分強度に対する、一酸化二ガリウム(Ga2O)として存在するGa元素(以下、これを便宜的に「Ga+」と記す場合がある)の積分強度と三酸化二ガリウム(Ga2O3)として存在するGa元素(以下、これを便宜的に「Ga3+」と記す場合がある)の積分強度との和の比率であって、12以下である。上記第2の積分強度比は、五酸化二ヒ素(As2O5)として存在するAs元素(以下、これを便宜的に「As5+」と記す場合がある)の積分強度と、三酸化二ヒ素(As2O3)として存在するAs元素(以下、これを便宜的に「As3+」と記す場合がある)の積分強度との和に対する、上記Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の積分強度と上記Ga2O3として存在するGa元素(Ga3+)の積分強度との和の比率であって、1.2以下である。上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。このような特徴を備えるGaAs単結晶基板は、パーティクルの個数が少ないことに加え、サーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができるため、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0032】
<主表面>
上記GaAs単結晶基板は、上述のように円形状の主表面を有する。本明細書において当該主表面の形状を表す「円形状」には、幾何学的な円形状が含まれるほか、ノッチ、オリエンテーションフラット(以下、「OF」とも記す)またはインデックスフラット(以下、「IF」とも記す)の少なくともいずれかが形成されることにより、主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状が含まれる。つまり「主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状」とは、主表面の外周上の任意の点から上記主表面の中心まで延びる線分のうち、上記ノッチ、OFおよびIF上の任意の点から主表面の中心まで延びる線分において長さが短くなる場合の形状を意味する。換言すれば、本明細書において主表面は、上記ノッチ、OFおよびIFが形成される前の形状に基づいて、その形状が「円形状」であるというものとする。このため当該主表面の中心および上記基板の直径については、上記ノッチ、OFおよびIF等が形成される前の円形状に基づいて、その位置および大きさ(長さ)を求めるものとする。なお「主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状」には、主表面の外周上の任意の点から上記主表面の中心まで延びる線分すべての長さが、ヒ化ガリウム単結晶基板として切り出される前のヒ化ガリウム単結晶の形状に起因して、同一になるとは限らない場合の形状も含まれる。この場合、主表面の中心については重心の位置をいい、上記基板の直径については、上記基板の外周上の任意の点から上記主表面の上記中心を通過し上記外周上の他の点まで延びる線分のうち、最長となる線分の長さをいうものとする。
【0033】
<放射光を用いたX線光電子分光法(XPS)>
本発明者らは、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なGaAs単結晶基板の開発を進める中で、GaAs単結晶基板における主表面の状態をより精度良く分析することができる放射光を用いたX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy(XPS))に注目した。具体的には、放射光を用いたXPSを実行することにより、GaAs単結晶基板において主表面の特性を悪化させている原因を特定し、かつ上記原因を解消することによってLPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なGaAs単結晶基板に到達することを試みた。ここでXPSとは、試料に対してX線を照射し、上記試料から放出される光電子の運動エネルギーの分布を測定することにより、上記試料の表面に存在する元素の種類、存在量、化学結合状態などについての知見を得る分析手法をいう。
【0034】
一般に、GaAs単結晶基板の主表面をXPSにより分析する場合、エネルギーが1.487keV付近に固定されたX線を用いて実行されることが多い。しかし入射エネルギーを1.487keV付近に固定したX線を用い、光電子の取り出し角度を30°とした場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約5nmまでの領域を平均化した状態として得られる。上記領域は、原子層に換算すれば約20原子層に相当する。このため上記のXPSは、GaAs単結晶基板の主表面の状態を精度良く分析することが困難となっていた。さらにXPSにおいて入射エネルギーが1.487keV付近に固定されたX線を用い、光電子の取り出し角度をずらしてGaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見を得ようとすれば、角度に対する測定誤差が大きくなり過ぎ、かつ光電子強度のイオン化効率が小さいことによっても測定誤差が大きくなるため、やはり精度の良い分析を行うことは困難であった。
【0035】
これに対し第1実施形態に係るGaAs単結晶基板に対しては、X線入射エネルギーが150eVであるX線を用い、かつ光電子の取り出し角度を85°に設定した条件の下でXPSを実行することにより、上記基板の主表面の状態を分析する。この場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約1.75nmまでの領域を平均化した状態として得られる。
【0036】
GaAs単結晶基板については、従来より洗浄工程によって洗浄された後に主表面上に0.5~2nm程度の厚みの酸化膜が形成されることが公知である。このため当該酸化物をサーマルクリーニングで除去した後に上記主表面上にエピタキシャル膜を形成することによって、上記エピタキシャル膜の表面のLPDの個数を低減させることが試みられている。しかしながら、上記サーマルクリーニング後も上記主表面に酸化膜の一部が残存すること等によって上記エピタキシャル膜の表面におけるLPDの個数は、一定程度大きくなっていた。これに対し本発明者らは、上記GaAs単結晶基板における主表面上の上記酸化膜と、当該酸化膜直下のGaおよびAsからなる層(以下、GaAs単結晶基板の「主層」とも記す)との界面(つまり、GaAs単結晶基板の主表面から深さ約0.5~2nmの領域)付近を、上述した放射光を用いたXPSにより詳細に分析することに注目した。その結果、上記GaAs単結晶基板は、当該界面付近の上記酸化膜の組成において酸化ガリウム(Ga2OおよびGa2O3)の含有量が少ないほど、上記酸化膜をサーマルクリーニングによって上記主層から効果的に除去できることを知見した。つまり上記酸化膜の上記界面付近における組成を適切に制御することによって、サーマルクリーニングを用いて主表面上の酸化膜を完全に除去することができるようにし、もって上記主表面上にエピタキシャル膜を成長させた場合に当該エピタキシャル膜の表面のLPDを少なくできることを想到した。
【0037】
<第1の積分強度比および第2の積分強度比>
第1実施形態に係るGaAs単結晶基板は、第1の積分強度比または第2の積分強度比を有する。上記第1の積分強度比および上記第2の積分強度比のそれぞれは、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°の条件の下で上記主表面の中心に対してX線を照射するXPSに基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するAsおよびGaの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られる。第1実施形態に係るGaAs単結晶基板は、第1の積分強度比および第2の積分強度比の両者を有することが好ましい。
【0038】
上記第1の積分強度比は、GaAsとして存在するGa元素(Ga-As)の積分強度に対する、Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の積分強度とGa2O3として存在するGa元素(Ga3+)の積分強度との和の比率であって、12以下である。上記第2の積分強度比は、As2O5として存在するAs元素(As5+)の積分強度と、As2O3として存在するAs元素(As3+)の積分強度との和に対する、上記Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の積分強度と上記Ga2O3として存在するGa元素(Ga3+)の積分強度との和の比率であって、1.2以下である。
【0039】
上記第1の積分強度比をR1、上記第2の積分強度比をR2で表す場合、上記第1の積分強度比(R1)および第1の積分強度比(R2)は、それぞれ次のような数式で示すことができる。
【0040】
【0041】
【0042】
上記第1の積分強度比が12以下であることは、主表面から深さ約0.5~2nmに位置する上記酸化膜と上記主層との界面付近における上記酸化膜の組成において酸化ガリウム(GaXO:Ga2OおよびGa2O3)の含有量が少ないことを意味する。上記第2の積分強度比が1.2以下であることは、主表面から深さ約0.5~2nmに位置する上記酸化膜と上記主層との界面付近における上記酸化膜の組成において酸化ガリウム(GaXO)の含有量が、酸化ヒ素(AsXO:As2O5およびAs2O3)と比べて同程度、または少ないことを意味する。これらの場合、上記酸化膜は、酸化ガリウム(GaXO)の含有量が少ないことによって、脱離温度が低くなるので、サーマルクリーニングによって効果的に除去されると推定される。とりわけ上記第1の積分強度比は10.5以下であることが好ましく、上記第2の積分強度比は1.05以下であることが好ましい。上記第1の積分強度比は2.7以下であることがより好ましく、上記第2の積分強度比は0.65以下であることがより好ましい。
【0043】
これにより第1実施形態に係るGaAs単結晶基板は、サーマルクリーニング後に主表面上にエピタキシャル膜を成長させたとき、エピタキシャル膜の表面のLPDの個数を従来に比べて小さくすることができる。
【0044】
これに対し従来のGaAs単結晶基板においては、上記第1の積分強度比は12を超え、あるいは上記第2の積分強度比は1.2を超える。このようなGaAs単結晶基板においては、上記酸化膜の一部がサーマルクリーニング後も主表面上に残存する恐れがある。このためサーマルクリーニング後に上記GaAs単結晶基板の主表面上にエピタキシャル膜を形成したとき、その表面に段差が生じてLPDの個数が多くなる可能性がある。
【0045】
以上のように本発明者らは、GaAs単結晶基板の主表面上に形成されるエピタキシャル膜の表面のLPDの個数が、上記酸化膜および主層との界面付近(主表面から深さ約0.5~2nmの領域)における酸化ガリウム(GaXO)の含有量の多寡に依存することを初めて見出した。とりわけ、このような上記酸化膜における酸化ガリウム(GaXO)の含有量に基づいたLPDの個数を低減するための技術は、後述する〔ヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法〕の項目にて説明するように、パーティクルの個数を抑える技術と両立させることができる。
【0046】
図1Aは、第1実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の中心に対して行う放射光を用いたX線光電子分光法から得られるバックグラウンド補正後のGa3dスペクトルの一例を示すグラフである。
図1Bは、第1実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の中心に対して行う放射光を用いたX線光電子分光法から得られるバックグラウンド補正後のAs3dスペクトルの一例を示すグラフである。なお、上記バックグラウンド補正後のGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを得るための、放射光を用いたX線光電子分光法(XPS)による具体的な分析方法については後述する。
【0047】
図1Aおよび
図1Bに示すように、Ga3dスペクトルLGをピーク分離することにより、Ga
2O
3として存在するGa元素(Ga
3+)のGa
3+スペクトルL1、Ga
2Oとして存在するGa元素(Ga
+)のGa
+スペクトルL2、およびGaAsとして存在するGa元素(つまり、Asと結合したGa元素:Ga-As)のGa-AsスペクトルL3をそれぞれ表すことができる。同様に、As3dスペクトルLAをピーク分離することにより、As
2O
5として存在するAs元素(As
5+)のAs
5+スペクトルL4、As
2O
3として存在するAs元素(As
3+)のAs
3+スペクトルL5、金属Asとして存在するAs元素(金属As)の金属AsスペクトルL6およびGaAsとして存在するAs元素(つまり、Gaと結合したAs元素:As-Ga)のAs-GaスペクトルL7をそれぞれ表すことができる。ここで金属Asは、2GaAs+As
2O
3→Ga
2O
3+4Asの反応により酸化膜、および上記主層から生成される。なお、「ピーク分離」については後述する。
【0048】
図1Aにおいて、Ga
3+スペクトルL1と横軸(X軸)との間の面積は、Ga
3+の3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってGa
3+の積分強度を意味する。Ga
+スペクトルL2と横軸(X軸)との間の面積は、Ga
+の3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってGa
+の積分強度を意味する。Ga-AsスペクトルL3と横軸(X軸)との間の面積は、Ga-Asの3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってGa-Asの積分強度を意味する。
【0049】
図1Bにおいて、As
5+スペクトルL4と横軸(X軸)との間の面積は、As
5+の3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってAs
5+の積分強度を意味する。As
3+スペクトルL5と横軸(X軸)との間の面積は、As
3+の3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってAs
3+の積分強度を意味する。金属AsスペクトルL6と横軸(X軸)との間の面積は、金属Asの3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もって金属Asの積分強度を意味する。As-GaスペクトルL7と横軸(X軸)との間の面積は、As-Gaの3d軌道から放出された光電子の個数に対応し、もってAs-Gaの積分強度を意味する。
【0050】
したがって、上述した各スペクトルと横軸とから得られる各面積に基づき、Ga-Asの積分強度に対する、Ga+の積分強度とGa3+の積分強度との和の比率を第1の積分強度比として求めることができる。またAs5+の積分強度と、As3+の積分強度との和に対する、Ga+の積分強度とGa3+の積分強度との和の比率を第2の積分強度比として求めることができる。
【0051】
<長径が0.16μm以上のパーティクル>
第1実施形態に係るGaAs単結晶基板において、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。これにより酸化膜における酸化ガリウムの含有量が少ないことによる効果と併せ、主表面上に形成したエピタキシャル膜のLPDの個数をより低減することができる。上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の下限値は、主表面1cm2当たり0であることが理想的であるが、主表面1cm2当たり0.1以上であることが現実的である。
【0052】
上記パーティクルは、表面検査装置(商品名:「サーフスキャン6220」、KLA-テンコール社製)を用いることにより観察することができ、かつこれらの個数を求めることができる。具体的な観察方法は、次のとおりである。まず上記表面検査装置を用い、GaAs単結晶基板の全面に対しレーザーで走査することにより、異物などの凸部の総数を求める。次に、上記凸部の総数をGaAs単結晶基板における測定対象領域の面積で除することにより、主表面に存する1cm2当たりのパーティクルの個数を求める。この場合において、GaAs単結晶基板の全面には、該基板の外縁から5mm内側までの範囲を含まないものとする。当該範囲は、通常デバイスの基板として用いられない領域となるからである。
【0053】
上記表面検査装置においては、上述した凸部は、その長径が0.16μm以上であるもののみが、その数に含められるように調整される。長径が0.16μm以上のパーティクルの個数が、LPDの多寡と相関するからである。さらに長径が0.16μm未満であると測定されたパーティクルは、本測定条件において真にパーティクルであるか否かの信頼性に乏しいことから、カウントしないことが適切である。ここでパーティクルの「長径」とは、上記凸部の外周において最も離れた2点間の距離を指す。凸部の長径の最大値は、特に制限されるべきではないが、5μmとすればよい。半導体を製造するクリーンルームは、その清浄度が規制され、クラス100のクリーンルームへ5μmを超える異物が混入することが実質的にあり得ず、もってGaAs単結晶基板の主表面に5μmを超える異物が存在することは実質的にあり得ないからである。
【0054】
<直径>
上記GaAs単結晶基板は、75mm以上205mm以下の直径を有することが好ましい。換言すれば、上記GaAs単結晶基板の直径は、3~8インチであることが好ましい。これにより75mm以上205mm以下の直径を有するGaAs単結晶基板において、サーマルクリーニングを用いて酸化膜を効果的に除去することができる。ここで上記直径については、上記基板がOF、IF等の影響によって幾何学的な円形状とはならない場合の形状であっても、当該基板は上記OF、IF等が形成される前の円形状を有するとみなして、その大きさ(直径)を求めるものとする。
【0055】
<放射光を用いたXPSの具体的な分析方法>
以下、放射光を用いたXPSの具体的な分析方法について更に詳述する。
【0056】
(分析システム)
図2は、X線光電子分光法を用いた分析システムの構成を模式的に示す説明図である。
図2に示すように、分析システム100は、X線発生設備10と、真空容器20と、電子分光器30とを含む。X線発生設備10、真空容器20および電子分光器30は、この順に連結される。X線発生設備10、真空容器20および電子分光器30の内部空間は、超高真空に維持される。X線発生設備10、真空容器20および電子分光器30の内部空間の圧力は、例えば4×10
-7Paである。
【0057】
X線発生設備10は、放射光と呼ばれるX線を発生させる。X線発生設備10として、例えば佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター内のビームライン「BL17」を用いることができる。
【0058】
X線発生設備10は、たとえば上記ビームライン「BL17」では50eVから2000eVの任意のエネルギーのX線を発生させ、真空容器20内に設置されたGaAs単結晶基板1にX線を照射する。
図2に例示されるX線発生設備10は、X線源11と、スリット12,14と、グレーティング13とを有する。スリット12,14は、グレーティング(分光器)13の上流側および下流側にそれぞれ配置される。スリット12,14は、例えば4象限スリットである。
【0059】
X線源11は、円形加速器内において高エネルギー電子を偏向電磁石による磁場によって進行方向を曲げることにより、進行方向の接線に沿った方向に放射される放射光(X線)を出力する。
【0060】
X線源11から発せられるX線は、高輝度である。具体的には、X線源11から1秒間に発せられるX線の光子数は、109photons/sである。ただし、X線源11から発せられるX線の輝度(強度)は、時間とともに減衰する。例えば、X線源11を起動してから11時間経過後に発せられるX線の輝度は、起動直後に発せられるX線の輝度の1/3である。
【0061】
X線源11から発せられたX線は、図示しない平行化ミラー等で平行化される。スリット12は、平行化されたX線の一部を通過させる。スリット12を通過したX線は、グレーティング13によって単色化される。スリット14は、単色化されたX線の広がりを制限する。
【0062】
X線発生設備10から照射されるX線のエネルギーは、スリット12,14のスリット幅およびグレーティング13の刻線密度によって決定される。例えば、スリット12,14のスリット幅を30μmとし、中心の刻線密度が400l/mmのグレーティング13を用い、グレーティングの出射角を調整することで、150eVまたは600eVのX線がX線発生設備10から照射される。
【0063】
X線発生設備10からのX線が真空容器20内に設置されたGaAs単結晶基板1に照射されると、GaAs単結晶基板1から光電子が放出される。
【0064】
電子分光器30は、GaAs単結晶基板1から放出された光電子の運動エネルギー分布を測定する。電子分光器30は、半球型アナライザーと検出器とを有する。半球型アナライザーは、光電子を分光する。検出器は、各エネルギーの光電子の数をカウントする。
【0065】
X線発生設備10からGaAs単結晶基板1に入射するX線の進行方向とGaAs単結晶基板1の主表面1mとのなす角度θ1は可変である。また、GaAs単結晶基板1から放出された光電子のうち電子分光器30に捕捉される光電子の進行方向とGaAs単結晶基板1の主表面1mとのなす角度(以下、「取り出し角度θ2」と記す)も可変である。第1実施形態では、取り出し角度θ2は85°に設定される。角度θ1は、特に限定されないが、例えば5°に設定される。
【0066】
電子分光器30として、例えばScienta Omicron社製の高分解能XPS分析装置「R3000」を用いることができる。
【0067】
(分析対象となる主表面からの深さ)
X線の照射によってGaAs単結晶基板1の外部に放出された光電子の一部は、非弾性散乱によってエネルギーを失う。そのため、GaAs単結晶基板1中に発生した光電子のうちの一部分だけが、発生したときのエネルギーを保ったまま真空中に脱出し、電子分光器30に到達する。表面から脱出される光電子は、光電子の非弾性平均自由行程(Inelastic Mean Free Path(IMFP))の3倍程度に相当する深さにおいて発生される。そのため分析対象となるGaAs単結晶基板の主表面からの深さd(nm)は、以下の数式で表される。以下の数式において、λ(nm)は、IMFP値であり、θ2は、取り出し角度である。
【0068】
【0069】
さらに「「Tpp-2M式による電子の非弾性平均自由行程の推定法」、Journal of Surface Analysis、Vol.1、No.2、1995」に示されるように、λ(Å)は、以下の各数式で表される。
【0070】
【0071】
上記の各数式において、AWは原子量または分子量、Nvは1原子または1分子当たりの価電子数、Epは自由電子のプラズモンエネルギー(eV)、ρは密度(g/cm3)、Egはバンドギャップエネルギー(eV)を示す。Eは、光電子の運動エネルギー(eV)を示し、照射されるX線のエネルギー(eV)と、電子と原子核との束縛エネルギー(eV)とから算出される。
【0072】
上記の各数式を用いることにより、分析対象となるGaAs単結晶基板の主表面からの深さd(nm)を求めることができる。つまりGaAs単結晶基板の主表面から深さdは、上記の各数式と、GaAs、Ga2OおよびGa2O3におけるGa元素の3d電子に関する各種のパラメータ値と、AsGa、金属As、As2O5およびAs2O3におけるAs元素の3d電子に関する各種のパラメータ値と、X線のエネルギーとを用いて計算される。第1実施形態において、X線入射エネルギーは150eVであり、かつ光電子の取り出し角度は85°であるので、たとえばGaAs中の上記深さdは約1.75nmである。
【0073】
(第1の積分強度比および第2の積分強度比の算出方法)
以下、上述した放射光を用いたXPSに基づいて上記主表面における第1の積分強度比および第2の積分強度比を算出する方法を説明する。本実施形態では、まずGaAs単結晶基板における主表面の中心に対し、エネルギーが150eVであるX線を用いてXPSを実行する。これにより、GaAs単結晶基板から放出される光電子の運動エネルギー分布が得られる。
【0074】
GaAs単結晶基板から放出される光電子の運動エネルギーEは、照射されたX線のエネルギーhν(eV)と、GaAs単結晶基板内における光電子の束縛エネルギーEB(eV)と、仕事関数φ(eV)とを用いて以下の数式で表される。
E=hν-EB-φ。
【0075】
上記の数式を用い、GaAs単結晶基板より放出される光電子の運動エネルギー分布から、光電子の束縛エネルギー分布を示すスペクトルを生成する。本実施形態では、上述したGaAs単結晶基板の主表面から深さd(nm)の位置から放出される光電子の運動エネルギー分布に基づき、光電子の束縛エネルギー分布を示すGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルをそれぞれ生成する。ここで本明細書において「Ga3dスペクトル」とは、Ga元素(Ga2O、Ga2O3およびGaAsに含まれるGa)の3d軌道から放出された光電子の検出強度を表すスペクトルをいう。「As3dスペクトル」とは、As元素(As2O5、As2O3、金属AsおよびGaAsに含まれるAs)の3d軌道から放出された光電子の検出強度を表すスペクトルをいう。
【0076】
とりわけ上記XPSに従った分析では、精度良く測定する観点から、所定の束縛エネルギーの範囲をナロースキャンすることによりGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを得る。具体的には、束縛エネルギーが16~26eVである範囲をナロースキャンすることにより、上記範囲を横軸とし、縦軸を検出強度としたグラフにGa3dスペクトルを表すことができる。束縛エネルギーが39~49eVである範囲をナロースキャンすることにより、上記範囲を横軸とし、縦軸を検出強度としたグラフにAs3dスペクトルを表すことができる。
【0077】
ナロースキャンは、エネルギー間隔を0.05eVとし、各エネルギー値における積算時間を100msとし、積算回数を2~5回とする条件に従って実行される。また、エネルギー分解能E/ΔEは3480である。
【0078】
以上により
図1Aおよび
図1Bに示すようなGa3dスペクトルLGおよびAs3dスペクトルLAを得ることができる。ここで上述したよう
図1Aおよび
図1Bにおいては、バックグラウンド補正後のGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルの一例が示されている。つまり上記Ga3dスペクトルLGおよびAs3dスペクトルLAを得るに際しては、Shirley法を用いることによりバックグラウンドの補正を行う(参考文献:吉原一紘:Journal of the Vacuum Society of Japan、2013年56巻6号、p.243-247)。これにより、実測に基づいて得たGa3dスペクトルとバックグラウンドとの差分に基づき、バックグラウンド補正後のGa3dスペクトルLGを決定することができる。また実測に基づいて得たAs3dスペクトルとバックグラウンドとの差分に基づき、バックグラウンド補正後のAs3dスペクトルLAを決定することができる。
【0079】
上記Ga3dスペクトルLGを得るに際しては、Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の検出強度のピークを、束縛エネルギーが19.9eVである位置に固定するものとし、Ga2O3として存在するGa元素(Ga3+)の検出強度のピーク位置を、束縛エネルギーが20.7eVである位置に固定するものとする。さらにGaAsとして存在するGa元素(Ga-As)の検出強度のピークを、束縛エネルギーが約19.2~19.7eVである位置として幅を持たせる。なぜならGaAs単結晶を対象として上記X線光電子分光法を実行する場合、帯電シフトが発生し、上記Ga3dスペクトルが高エネルギー側に最大で1eV程度シフトし得る可能性があるからである。またGa-Asの検出強度のピークは、GaAsからなる主層の影響を受けるため、1つの値に固定することが困難であるので、上述のようにピーク位置に0.5eVの幅を持たせるものとする。
【0080】
上記As3dスペクトルLAを得るに際しては、As2O5として存在するAs元素(As5+)の検出強度のピークを、束縛エネルギーが45.57eVである位置に固定するものとし、As2O3として存在するAs元素(As3+)の検出強度のピーク位置を、束縛エネルギーが44.07eVである位置に固定するものとする。さらに金属Asとして存在するAs元素(金属As)の検出強度のピークを、束縛エネルギーが約41.62~42.12eVである位置として幅を持たせ、GaAsとして存在するAs元素(As-Ga)の検出強度のピークを、束縛エネルギーが約40.77~41.27eVである位置として幅を持たせる。なぜならGaAs単結晶を対象として上記X線光電子分光法を実行する場合、帯電シフトが発生し、上記As3dスペクトルが高エネルギー側に最大で1eV程度シフトし得る可能性があるからである。また金属AsおよびAs-Gaの各ピークは、GaAsからなる主層の影響を受けるため、1つの値に固定することが困難であるので、上述のようにピーク位置に0.5eVの幅を持たせるものとする。
【0081】
次に、上述のようにして得たバックグラウンド補正後のGa3dスペクトルLGを、以下の3つのガウス関数Y1,Y2およびY3に分離して表す(以下、本操作を「ピーク分離」とも記す)。これにより、束縛エネルギーが16~26eVである範囲においてピーク分離によってGa2Oとして存在するGa元素(Ga+)、Ga2O3として存在するGa元素(Ga3+)、およびGaAsとして存在するGa元素(Ga-As)の3つスペクトルを得ることができる。
Y1=a1*exp{(-(X-b1)2)/c12}
Y2=a2*exp{(-(X-b2)2)/c22}
Y3=a3*exp{(-(X-b3)2)/c32}
上記ガウス関数Y1、Y2およびY3の単位は無次元であり、上記ガウス関数Y1、Y2およびY3においてX、b1、b2、b3、c1、c2およびc3の単位は、eVであり、a1、a2およびa3の単位は無次元である。
【0082】
上記ガウス関数Y1~Y3は、Ga3dのi番目の成分は、ガウス関数Gi=Ai*exp{(-(E-E1)2)/Wi2}で表されることを前提とし、実測との差の2乗([実測-ΣGi]2)が最小となるように各変数(a1,a2,a3,b1,b2,b3,c1,c2,c3)を最適化することにより求められる。このうちb1~b3には、それぞれ上述したGa+、Ga3+およびGa-Asの検出強度のピークにおける束縛エネルギーの値が代入される。
【0083】
すなわち各変数(a1,a2,a3,b1,b2,b3,c1,c2,c3)は、次のとおりである。
a1,a2,a3は0以上の実数である。
b1=19.9eV
b2=20.7eV
19.2eV≦b3≦19.7eV
0.2eV≦c1≦0.95eV
0.2eV≦c2≦0.95eV
0.2eV≦c3≦0.95eV。
【0084】
これによりガウス関数Y1,Y2およびY3は、たとえば
図1AのGa3dスペクトルLGからピーク分離されたGa
+スペクトルL2、Ga
3+スペクトルL1およびGa-AsスペクトルL3としてそれぞれ表すことができる。
【0085】
さらに上述のようにして得たバックグラウンド補正後のAs3dスペクトルLAについては、以下の4つのガウス関数Y4,Y5,Y6,およびY7にピーク分離して表すことができる。これにより、束縛エネルギーが39~49eVである範囲においてピーク分離によってAs2O5として存在するAs元素(As5+)、As2O3として存在するAs元素(As3+)、金属Asとして存在するAs元素(金属As)、およびGaAsとして存在するAs元素(As-Ga)の4つスペクトルを得ることができる。
Y4=a4*exp{(-(X-b4)2)/c42}
Y5=a5*exp{(-(X-b5)2)/c52}
Y6=a6*exp{(-(X-b6)2)/c62}
Y7=a7*exp{(-(X-b7)2)/c72}
上記ガウス関数Y4、Y5、Y6およびY7の単位は無次元であり、上記ガウス関数Y4、Y5、Y6およびY7においてX、b4、b5、b6、b7、c4、c5、c6およびc7の単位は、eVであり、a4、a5、a6およびa7の単位は無次元である。
【0086】
上記ガウス関数Y4~Y7は、As3dのi番目の成分は、ガウス関数Gi=Ai*exp{(-(E-E1)2)/Wi2}で表されることを前提とし、実測との差の2乗([実測-ΣGi]2)が最小となるように各変数(a4,a5,a6,a7,b4,b5,b6,b7,c4,c5,c6,c7)を最適化することにより求められる。このうちb4~b7には、それぞれ上述したAs5+、As3+、金属AsおよびAs-Gaの信号強度のピークにおける束縛エネルギーの値が代入される。
【0087】
すなわち各変数(a4,a5,a6,a7,b4,b5,b6,b7,c4,c5,c6,c7)は、次のとおりである。
a4,a5,a6,a7は0以上の実数である。
b4=45.57eV
b5=44.07eV
41.62eV≦b6≦42.12eV
40.77eV≦b7≦41.27eV
0.2eV≦c4≦0.95eV
0.2eV≦c5≦0.95eV
0.2eV≦c6≦0.95eV
0.2eV≦c7≦1.2eV。
【0088】
これによりガウス関数Y4,Y5,Y6およびY7は、たとえば
図1BのAs3dスペクトルLAからピーク分離されたAs
5+スペクトルL4,As
3+スペクトルL5、金属AsスペクトルL6およびAs-GaスペクトルL7としてそれぞれ表すことができる。
【0089】
なお、各ガウス関数Y1~Y7のピーク位置を定めるために、次のような補正を行っている。まず光イオン化効率(η)と呼ばれるX線によって光電子が発生する確率は、元素およびX線エネルギー等によって可変であるとされるため、上記ηの値としては以下のWebサイトに掲載されたデータを用いる。具体的には、入射エネルギー150eVのX線の光イオン化効率(η)をGa3dでは5.79とし、As3dでは6.63とする。入射エネルギー600eVのX線の光イオン化効率(η)をGa3dでは0.28とし、As3dでは0.42とする。
【0090】
https://vuo.elettra.eu/services/elements/WebElements.html(なおデータの根拠となる文献は、J.J. Yeh, Atomic Calculation of Photoionization Cross-Sections and Asymmetry Parameters, Gordon and Breach Science Publishers, Langhorne, PE(USA), 1993 and J.J. Yeh and I.Lindau, Atomic Data and Nuclear Data Tables, 32, 1-155(1985))。
【0091】
また上記放射光施設にて用いるX線の照射強度は、経時的に減衰するため、一定時間毎に金(Au)の標準試料を測定することによってAu4f光電子強度の減衰比率を求め、当該比率に基づいてX線照射量を補正することとしている。
【0092】
<GaAs単結晶基板の主表面の均一性>
第1実施形態に係るGaAs単結晶基板の特性は、主表面の面内において均一であることが好ましい。つまり第1実施形態に係るGaAs単結晶基板は、主表面の面内位置に依らず、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成可能であることが好ましい。そのような好ましいGaAs単結晶基板の具体的態様としては、次の態様を例示することができる。
【0093】
すなわち上記ヒ化ガリウム単結晶基板は、75mm以上の直径を有する。さらに上記GaAs単結晶基板は、第3の積分強度比または第4の積分強度比を有する。上記第3の積分強度比および上記第4の積分強度比のそれぞれは、上記条件(すなわちX線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°)の下で上記主表面上の5つの測定点に対してX線を照射するXPSに基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するAsおよびGaの3d電子の検出強度のスペクトルを求めることにより得られる。上記第3の積分強度比は、GaAsとして存在するGa元素(Ga-As)の積分強度に対する、Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の積分強度とGa2O3として存在するGa元素(Ga3+)の積分強度との和の比率の平均値であって、13.7以下である。上記第4の積分強度比は、As2O5として存在するAs元素(As5+)の積分強度と、As2O3として存在するAs元素(As3+)の積分強度との和に対する、Ga2Oとして存在するGa元素(Ga+)の積分強度とGa2O3として存在するGa元素(Ga3+)の積分強度との和の比率の平均値であって、1.23以下である。さらに上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記主表面1cm2当たり1.6以下である。とりわけ上記第3の積分強度比は、4.0以下であることがより好ましく、上記第4の積分強度比は、0.75以下であることがより好ましい。上記第3の積分強度比は、2.7以下であることがもっとも好ましく、上記第4の積分強度比は、0.68以下であることがもっとも好ましい。
【0094】
上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記直径をDとし、上記主表面の中心を通り、上記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、上記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、上記Dおよび上記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmである。このような特徴を備える上記GaAs単結晶基板の主表面は、その面内において均質的にLPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0095】
ここで上記GaAs単結晶基板に関し、第3の積分強度比および第4の積分強度比を求めるための具体的な分析方法は、測定対象を主表面の中心から上記5つの測定点に変更すること以外、上記の<放射光を用いたXPSの具体的な分析方法>の項目にて説明した方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。つまり上記方法に基づいて上記5つの測定点から、Ga-Asの積分強度に対する、Ga+の積分強度とGa3+の積分強度との和の比率である第3の積分強度比を5つ求めることができる。また当該5つの第3の積分強度比から、その平均値を求めることができる。さらに上記5つの測定点から、As5+の積分強度とAs3+の積分強度との和に対する、Ga+の積分強度とGa3+の積分強度との和の比率である第4の積分強度比を5つ求めることができ、かつ当該5つ第4の積分強度比から、その平均値を求めることができる。
【0096】
上記GaAs単結晶基板においては、次のように5つの測定点が設定される。すなわち上記第3の積分強度比および第4の積分強度比の面内分布が均一であることに基づくエピタキシャル膜のLPDの個数の低減効果は、互いの距離がなるべく大きくなるように5つの測定点を設定し、当該5つの測定点の各々の近傍領域に成長させたエピタキシャル膜に発生する上記LPDの個数を計測することにより評価することができる。このとき、LPDの個数は直径20mm以上の領域に対して計測されることが好ましいとされる。そのため、GaAs単結晶基板の主表面において、互いの距離がなるべく大きくなるように直径20mmの円形の5つの測定領域の位置が設定される。そして各測定領域の中心が測定点として設定される。
【0097】
まず主表面の中心を通り、主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、5つの測定点のうちの第1測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)に設定される。なおX軸およびY軸は、GaAs単結晶基板に形成されたノッチがXY座標平面の第3象限に位置し、原点からX軸の正方向に延びる半直線に対してノッチを通る半直線の一般角が225°となるように設定される。
【0098】
さらに5つの測定点のうちの第2測定点、第3測定点、第4測定点および第5測定点は、GaAs単結晶基板の外周から15mm内側となる点の集合からなる円周上に等間隔に配置される。具体的には、第2測定点の座標(X,Y)は、(D/2-15,0)に設定される。第3測定点の座標(X,Y)は、(0,D/2-15)に設定される。第4測定点の座標(X,Y)は、(-(D/2-15),0)に設定される。第5測定点の座標(X,Y)は、(0,-(D/2-15))に設定される。
【0099】
図3は、第1実施形態において、ヒ化ガリウム単結晶基板の主表面の均一性を評価する目的で、主表面上に設定される5つの測定点を示す説明図である。
図3に示すように上記GaAs単結晶基板においては、原点からX軸の正方向に延びる半直線に対してノッチ50を通る半直線の一般角が225°となるように、X軸およびY軸が設定される。次いでGaAs単結晶基板の中心である原点(0,0)に第1測定点P1が設定され、かつ当該第1測定点P1を中心とする直径20mmの円形領域である測定領域A1が設定される。
【0100】
次にGaAs単結晶基板の外周から15mm内側となる点の集合からなる円周上に第2測定点P2、第3測定点P3、第4測定点P4および第5測定点P5が設定される。さらに上記第2測定点P2、第3測定点P3、第4測定点P4および第5測定点P5をそれぞれ中心とする直径20mmの円形領域である測定領域A2,測定領域A3,測定領域A4および測定領域A5が設定される。
【0101】
たとえば
図3に示す例が直径100mmのGaAs単結晶基板である場合、第2測定点P2、第3測定点P3、第4測定点P4および第5測定点P5の座標(X,Y)(X,Yの単位はともにmmである)は、(35,0)、(0,35)、(-35,0)および(0,-35)にそれぞれ設定される。
【0102】
さらに好ましいGaAs単結晶基板の具体的態様において、上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記主表面1cm2当たり1.6以下である。ここで上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記の<長径が0.16μm以上のパーティクル>の項目にて説明した測定方法に従って上記基板の全面測定を行った後、上記5つの測定点(第1測定点P1~第5測定点P5)を中心とする直径20mmの円形領域(測定領域A1~測定領域A5)を対象としてデータ解析することにより求めることができる。
【0103】
<GaAs単結晶基板のオフ角>
第1実施形態に係るGaAs単結晶基板の主表面は、(100)面に対して0°以上15°以下のオフ角を有する面であることが好ましい。上記主表面が(100)面に対して0°以上15°以下のオフ角を有する面である場合、電気的特性および光学的特性に優れるエピタキシャル膜を形成することができ、デバイス特性の向上に有効に生かすことができる。
【0104】
GaAs単結晶基板の主表面の(100)面に対するオフ角については、従来公知の単結晶方位測定装置(たとえば商品名:「X‘Pert PRO MRD」、Malvern Panalytical社製)を用いることにより測定することができる。
【0105】
〔ヒ化ガリウム単結晶基板:第2実施形態〕
第2実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板(GaAs単結晶基板)は、円形状の主表面を有するGaAs単結晶基板である。上記GaAs単結晶基板は、第1の解析値または第2の解析値を有する。上記第1の解析値および上記第2の解析値のそれぞれは、下記の5通りの条件の下で上記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するX線光電子分光法に基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するヒ素(As)およびガリウム(Ga)の3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルを数学的な解析手法である最大平滑性法に適用することにより得られる。上記第1の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウム(Ga2O)および三酸化二ガリウム(Ga2O3)として存在するガリウム酸化物(GaXO)の含有量を表す値であって、0.6nm以下である。上記第2の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素(As2O5)および三酸化二ヒ素(As2O3)として存在するヒ素酸化物(AsXO)の含有量に対する上記ガリウム酸化物(GaXO)の含有量の比率を表す値であって、1.4以下である。上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。上記5通りの条件は、下記の条件1、条件2、条件3、条件4および条件5である。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°。
【0106】
このような特徴を備えるGaAs単結晶基板は、パーティクルの個数が少ないことに加え、サーマルクリーニングによって酸化膜を効果的に除去することができるため、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。上記第1の解析値は、相対濃度と微小な深さとの乗数を、深さ方向に積分したものであって、その単位はnmである。なお上記第1の解析値には、物理的な長さの意味が含まれるものではない。
【0107】
第2実施形態に係るGaAs単結晶基板は、上述のように円形状の主表面を有する。上記GaAs単結晶基板において、上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、上記主表面1cm2当たり2以下である。上記GaAs単結晶基板は、75mm以上205mm以下の直径を有することが好ましい。このように第2実施形態に係るGaAs単結晶基板において主表面の形状、上記基板の直径、ならびに上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの個数に関する特徴については、第1実施形態に係るGaAs単結晶基板と同一であるので、重複する説明は繰り返さない。主表面の「円形状」の定義、上記基板の直径の測定方法、ならびに上記主表面に存する「長径が0.16μm以上のパーティクル」の個数の測定方法も第1実施形態と同一であるので、重複する説明は繰り返さない。さらに第2実施形態に係るGaAs単結晶基板のオフ角の特徴についても、第1実施形態に係るGaAs単結晶基板と同一であるので、重複する説明は繰り返さない。
【0108】
<放射光を用いたXPSおよび最大平滑性法(MSM解析)>
第2実施形態に係るGaAs単結晶基板に対しては、次の5通りの条件(条件1~条件5)に示すように、X線入射エネルギーが150eVまたは600eVあるX線を用い、かつ光電子の取り出し角度を30°、45°または85°に設定した条件の下で放射光を用いたXPSを実行することにより、主表面の状態を精度良く分析することができる。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°。
【0109】
第2実施形態において、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°(条件1)とした場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約1nmまでの領域を平均化した状態として得られる。X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°(条件2)とした場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約1.5nmまでの領域を平均化した状態として得られる。X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°(条件3)とした場合、上述のようにGaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約1.75nmまでの領域を平均化した状態として得られる。
【0110】
X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°(条件4)とした場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約3nmまでの領域を平均化した状態として得られる。X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°(条件5)とした場合、GaAs単結晶基板の主表面の状態に関する知見は、上記主表面から深さ約5nmまでの領域を平均化した状態として得られる。これにより上記主表面の状態を、従来に比してより一層精度良く分析することができる。
【0111】
さらに第2実施形態に係るGaAs単結晶基板に対しては、上述した5通りの条件の下で放射光を用いたXPSを実行することにより求めた上記主表面の状態を表すスペクトルを、後述する数学的な解析手法である最大平滑性法(Maximum Smootheness Method、以下、「MSM解析」とも記す)に適用することにより、上記主表面から内部へ向かう方向(以下、「深さ方向」とも記す)に沿ってGaAs単結晶基板に含まれる各元素の比率がどのように変化するのかを示すプロファイル(以下、本明細書において「デプスプロファイル」とも記す)として求めることができる。上記各元素は、それぞれ一酸化二ガリウム(Ga2O)として存在するGa元素(Ga+)、三酸化二ガリウム(Ga2O3)として存在するGa元素(Ga3+)およびヒ化ガリウム(GaAs)として存在するGa元素(Ga-As)、ならびに五酸化二ヒ素(As2O5)として存在するAs元素(As5+)および三酸化二ヒ素(As2O3)として存在するAs元素(As3+)である。
【0112】
これにより第2実施形態に係るGaAs単結晶基板については、主表面上に形成された0.5~2nm程度の厚みの酸化膜の深さ方向に沿った組成分布を分析することができ、もってサーマルクリーニングによって効果的に除去される上記酸化膜の組成分布を知見することができる。つまり本発明者らは、上記酸化膜の組成分布を適切に制御することによって、当該酸化膜をサーマルクリーニングによって容易に脱離可能となる主表面を得ることを想到した。
【0113】
<第1の解析値および第2の解析値>
第1の解析値および第2の解析値のそれぞれは、上記5通りの条件の下で上記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するXPSに基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するAsおよびGaの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルに上記MSM解析を適用することにより得られる。
【0114】
上記第1の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウム(Ga2O)および三酸化二ガリウム(Ga2O3)として存在するガリウム酸化物(GaXO)の含有量を表す値であって、0.6nm以下である。上記第2の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素(As2O5)および三酸化二ヒ素(As2O3)として存在するヒ素酸化物(AsXO)の含有量に対する上記ガリウム酸化物(GaXO)の含有量の比率を表す値であって、1.4以下である。
【0115】
上記第1の解析値が0.6nm以下であることは、主表面から内部へ向かう方向(深さ方向)に0.5~2nmの厚みを有する酸化膜の組成分布において、酸化ガリウム(GaXO:Ga2OおよびGa2O3)の含有量が少ないことを意味する。上記第2の解析値が1.4以下であることは、上記深さ方向に0.5~2nmの厚みを有する上記酸化膜の組成分布において、酸化ガリウム(GaXO)の含有量が酸化ヒ素(AsXO)と比べて同程度、または少ないことを意味する。これらの場合、上記酸化膜は、酸化ガリウム(GaXO)の含有量が少ないことによって脱離温度が低くなるので、サーマルクリーニングによって効果的に除去されると推定される。とりわけ上記第1の解析値は0.48nm以下であることが好ましく、上記第2の解析値は1.2以下であることが好ましい。上記第1の解析値は0.32nm以下であることがより好ましく、上記第2の解析値は0.94以下であることがより好ましい。
【0116】
これに対し従来のGaAs単結晶基板においては、上記第1の解析値は0.6nmを超え、あるいは上記第2の解析値は1.4を超える。このようなGaAs単結晶基板においては、上記酸化膜の組成分布において相対的に酸化ガリウムの含有量が多くなるため、サーマルクリーニング後も主表面上に残存する恐れがある。このためサーマルクリーニング後に上記GaAs単結晶基板の主表面上にエピタキシャル膜を形成したとき、成長不良が発生しLPDの個数が多くなる可能性がある。
【0117】
図4は、第2実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板における五酸化二ヒ素、三酸化二ヒ素、一酸化二ガリウム、三酸化二ガリウムおよびヒ化ガリウムの相対濃度(縦軸)を、主表面からの深さ(nm)(横軸)に対応させて示すデプスプロファイルの一例を示すグラフである。つまり
図4においては、主表面の深さ方向に沿って上記GaAs単結晶基板に含まれる各元素の比率がどのように変化するのかを示すデプスプロファイルの一例が表されている。
【0118】
図4によれば、Ga
2O
3およびAs
2O
5は主表面から0.5nmを超えた深さ位置で、これらの相対濃度が最大となり、それよりも主表面から深くなるにつれて上記相対濃度が減少する。Ga
2OおよびAs
2O
3は主表面近傍にてこれらの相対濃度が最大となり、それよりも主表面から深くなるにつれて上記相対濃度が減少する。一方、GaAsは、主表面から0.5nmを超えた深さ位置でGaAsが認識できるようになり、それよりも主表面から深くなるにつれてGaAsの相対濃度が増加する。さらにGaAsの相対濃度は、主表面から1.5nm程度の深さ位置で最大を迎え、それよりも深い位置において約0.5で一定となる(なお
図4においては、Gaの3d電子の検出強度のスペクトルに基づいてGaAsの相対濃度を表したため、約0.5で一定となる。Asの3d電子の検出強度のスペクトルに基づくGaAsの相対濃度のプロファイルについては、
図4と同様のプロファイルを示すため、図示を省略した)。
【0119】
図4において、Ga
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびGa
2Oの相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和が、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるGa
XO(Ga
2OおよびGa
2O
3)の含有量を表し、もって第1の解析値に相当する。またAs
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびAs
2O
5の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和に対する、Ga
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびGa
2Oの相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和の比率が、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるAs
XO(As
2O
5およびAs
2O
3)の含有量に対するGa
XOの含有量の比率を表し、もって第2の解析値に相当する。以下、第1の解析値および第2の解析値を得るための放射光を用いたXPS分析の具体的方法、およびMSM解析について具体的に説明する。
【0120】
<放射光を用いたXPSの具体的な分析方法>
第2実施形態に係るGaAs単結晶基板に対する放射光を用いたXPSの具体的な分析方法は、放射光を用いたXPSを実行する条件が、X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°である場合を含む5通りの条件(上記条件1~条件5)であること以外、上述した第1実施形態に係るGaAs単結晶基板における<放射光を用いたXPSの具体的な分析方法>の項目にて説明した方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。つまり第2実施形態に係るGaAs単結晶基板に対しては、上述した5通りの条件(条件1~条件5)の下で放射光を用いたXPSを実行することにより、当該条件1~条件5に対応する5通りのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルをそれぞれ得ることができる。
【0121】
なお放射光を用いたXPSの具体的な分析方法に関し、第2実施形態に係るGaAs単結晶基板に対して分析システムは、X線発生設備10からGaAs単結晶基板1に入射するX線の進行方向とGaAs単結晶基板1の主表面1mとのなす角度θ1が例えば60°、45°または5°に設定され、かつ取り出し角度θ2が30°、45°または85°に設定される。
【0122】
また第2実施形態に係るGaAs単結晶基板における分析対象となる主表面からの深さd(nm)については、条件1~条件5に対応する取り出し角度θ2と、上述した各数式とを用いることにより求めることができる。上記分析対象となる主表面からの深さd(nm)は、それぞれ以下のとおりである。すなわちX線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°(条件1)の場合、上記深さdは約1nmである。X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°(条件2)の場合、上記深さdは約1.5nmである。X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°(条件3)の場合、上記深さdは約1.75nmである。X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°(条件4)の場合、上記深さdは約3nmである。X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°(条件5)の場合、上記深さdは約5nmである。
【0123】
<最大平滑性法(MSM解析)>
(第1の解析値および第2の解析値の算出方法)
上述のように第1の解析値および第2の解析値のそれぞれは、上記5通りの条件の下で上記主表面の中心に対してX線をそれぞれ照射するXPSに基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するAsおよびGaの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルにMSM解析を適用することにより得られる。したがって第1の解析値および第2の解析値の算出するためには、上記条件1~条件5に対応する5通りのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルをそれぞれMSM解析に適用する。これにより、上記MSM解析から
図4に示すようなGaAs単結晶基板におけるAs
2O
5、As
2O
3、Ga
2O、Ga
2O
3およびGaAsの相対濃度(縦軸)を、主表面からの深さ(横軸)に対応させて示すデプスプロファイルを作成することができ、もって当該デプスプロファイルから第1の解析値および第2の解析値を求めることができる。以下、MSM解析について説明する。
【0124】
MSM解析の詳細は、たとえば2021年に発表された論文(Y. Hoshina et al., "Non-destructive initial-profile-free depth profile evaluation of thin-film sample using angle-resolved X-ray photoelectron spectroscopy and profile smoothing regularization",Japanese Journal of Applied Physics,Vol.60,101003(2021))、および2022年に発表された論文(星名ら、「非破壊XPS深さ分析を実現する最大平滑性法」、住友電工テクニカルレビュー、第200号、2022年1月号、pp.102-107)にそれぞれ記載されている。
【0125】
1.Ga3dスペクトルおよびAs3dスペクトルに関するデータの理論式
上記MSM解析において最初に必要なのは、上記デプスプロファイルに、条件1~条件5に対応する5通りのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを結びつけるための理論式である。
【0126】
図5は、放射光を用いたX線光電子分光法において入射X線と、ヒ化ガリウム単結晶基板内の各層から発生する各光電子信号との間の関係を示した模式図である。
図5に示すように、GaAs単結晶基板の主表面および上記主表面から内部へ向かう領域を、K個の薄い層の積み重ねであるとみなす。各層の厚みはtである。
【0127】
上記GaAs単結晶基板に対し、ある取り出し角度θjで放射光を用いたXPSを実行するという状況を仮定する。取り出し角度θjは全部でJ水準とする。このとき、第k層で発生して試料表面に到達する、化学種iに関する光電子信号Iki(θj)は、以下の式(1)によって表わされる。ここで化学種iの数は全部でIである。
【0128】
【0129】
上記式(1)において、cikは、第k層における化学種iの相対濃度を表わす。化学種iの相対濃度の総和は1である(Σicik=1)。λliは、第l層において化学種iから生じる光電子の非弾性平均自由工程を表わす。σiは、化学種iの光電子の、X線に対する相対イオン化断面積を表わす。k=1のときの信号、つまり最表面層の信号について、総乗Πを1とみなす。
【0130】
ここで層の厚みtは、λliに比べて極めて小さい(t<<λli)と仮定する。したがって式(1)においては、光電子が発生した層における、光電子の減衰を線形関数で近似することができる(∵x<<1のとき、e-x~1-x)。
【0131】
上述した放射光を用いたXPSでは、全K個の層から発生した信号の合計が観測される。したがって化学種iに関する取り出し角度θjにおける信号強度の理論値d’ijは、以下の式(2)で表わされる。
【0132】
【0133】
上記式(1)および式(2)をまとめると、相対濃度とXPS理論強度と間の関係は、以下の式(3)のように、行列Sとベクトルd’,cで表すことができる。
【0134】
【0135】
ベクトルd’およびcは、式(4)および式(5)で表わされる。
【0136】
【0137】
【0138】
上記式(4)に示されるように、ベクトルd’は、全化学種および全角度のXPS理論強度を1列に並べた(I×J)行ベクトルである。上記式(5)に示されるように、ベクトルcは、全化学種および全深さの相対濃度を1列に並べた(I×K)行ベクトルである。行列Sは、以下の式(6)で表わされる(I×J)行(I×K)列の行列である。以下ではI×Jを「IJ」と表記し、I×Kを「IK」と表記する。
【0139】
【0140】
s(i)
jkは、式(7)に従って表わされる。
【0141】
【0142】
ここで定数rijは、上記式(1)および式(2)には現れない。定数rijは、MSM解析における重要な要素であるので、後に詳細に説明する。
【0143】
当該MSM解析では、放射光を用いたXPSを実行することにより得られる実際の測定データと理論値との間の偏差2乗和を、デプスプロファイル評価の指標に用いる。上記式(4)に倣い、測定データをベクトルd(成分はdij)と表すと、偏差2乗和は、式(8)にしたがって表わされる。なお式(8)において、定数1/2は、表記の都合上設けられたものである。
【0144】
【0145】
2.デプスプロファイルの決定に関する課題
IK個の相対濃度cikを変数として上記式(8)を最小化することにより、上記測定データを最もよく再現するデプスプロファイルを得ることができる。しかしながら、上記式(8)を最小化することは、数学的に極めて不安定という課題がある。
【0146】
上記式(1)および式(2)は、放射光を用いたXPSにおいて発生する光電子信号の強度が、上記GaAs単結晶基板の各層から発生した光電子信号を足し合わせたもの、すなわち重みづけ平均値であることを意味する。求めたいIK個の相対濃度cikに対してフィッティングの対象となる測定データは、I個の深さ方向重みづけ平均値のみである。このため、式(8)の最小化問題に対して、大きく異なる複数のプロファイルが解の候補となる。このことは測定データの変動がわずかであっても、解が大きく異なる可能性がある(解が不安定になる)ことを意味する。
【0147】
放射光を用いたXPSを実行することにより得られた測定データから、IK個の相対濃度cikを推定することは、いわゆる逆問題(inverse problem)に該当する。アダマール(Jacques Salomon Hadamard)によれば、一般に提起された問題が適切(well-posed)であるとは、(1)解の存在性、(2)解の一意性、および(3)解の連続性あるいは安定性の3つの要件がすべて満足されていることを表す。これらの要件のうちの1つでも失われている問題は、不適切な問題(ill-posed)に該当する。
【0148】
上記式(8)の最小化問題の解が一意に決まらないことは、アダマールの意味で「不適切な問題」に該当する。測定データを最もよく再現するデプスプロファイルを得るためには、上記式(8)の最小化問題に対する無数の解の候補の中から1つの解を選ぶための制約が必要となる。
【0149】
図5に示された系に対しては、ある程度妥当な考え方(言い換えると「一般常識」)が存在する。したがって、その「一般常識」を数式で表し、その数式を(8)に加えたものを最小化することによって、無数の解の候補に対する制約を課すことができる。
【0150】
3.最大エントロピー法およびその課題
従来の最大エントロピー法(以下、「MEM解析」とも記す)は、「系のエントロピーが最大であること」を「一般常識」として要請する。IK個の相対濃度cikの最適化の場合、以下の式(9)で表される量を考える。式(9)は、相対濃度cik
(0)の相対濃度cikに対する相対エントロピーを表す(cik
(0)は相対濃度の初期値を表す)。
【0151】
【0152】
上記式(9)は、「相対濃度cik
(0)に対する相対濃度cikの類似度」あるいは、「放射光を用いたXPSを実行することによって相対濃度の推定状態がcik
(0)からcikに変化したときに、その分析によって得られる情報量」と解釈することができる。
【0153】
上記式(9)で表される相対エントロピーを最大化することは、結果として「相対濃度の初期値cik
(0)に近い範囲で最適な相対濃度cikを探す」ということになる。したがって、初期値cik
(0)の決定が、相対濃度cikの決定に直接影響する。しかしながら、たとえば半導体デバイスに未知の不良モードが発生したためにXPSを実行する場合、分析対象の試料について、相対濃度の初期値cik
(0)が推定できない可能性がある。この場合、上記MEM解析では、精度の良い評価結果を得ることが難しい可能性がある。
【0154】
4.最大平滑性法(MSM解析)
上記MEM解析に代わる新しい手法を、本明細書では、上述のように最大平滑性法(MSM解析)と呼ぶ。以下、XPSから得られたデータのMSM解析への適用について具体的に説明する。
【0155】
以下の式(10)で表される量の最小化を考える。
【0156】
【0157】
ここでQsは、式(11)で表されるIK行IK列の行列である。
【0158】
【0159】
上記式(10)は、隣り合う2つの層の間での相対濃度の差の2乗和を表す。この2乗和が小さいことは、層の間での相対濃度の変化が滑らかであることを意味する。すなわちMSM解析は、各化学種について深さプロファイルが滑らかであるという制約を上記式(8)に追加で課したものである。
【0160】
上記MSM解析の基本的な思想は上記式(10)によって表現される。より尤もらしい解を得るために、さらなる一般常識として「電荷中性条件」を考慮する。上記式(8)および式(10)のみを最小化の対象とすると、実際の試料には存在しえない層がデプスプロファイルに現れる可能性があるためである。このような問題を避けて尤もらしい解を得るために、以下の式(12)で表される量の最小化を考える。式(12)において、eiは、化学種iの存在比率を拘束する定数を表す。
【0161】
【0162】
ここでQENは以下の式(13)で表されるIK行IK列の行列である。また、式(13)内のEは、K行K列の単位行列である。
【0163】
【0164】
たとえば試料中に化学種i′と化学種i″とが1:3の割合で存在することが一般常識から妥当である場合、上記式(12)では、ei′=3、ei″=-1とし、他のeiを0とする。なお、ei′およびei″の符号は上記した符号と逆であってもよい。
【0165】
つまり、この場合の上記式(12)は、K個の層のすべてにおいて、化学種i′と化学種i″との濃度比が1:3からずれることに対するペナルティを課していることを意味する。
【0166】
上記式(8)、式(10)および式(12)の和を式(14)によって表わす。上記MSM解析では、上記式(14)のベクトルcを変数として最小化する。上記式(8)の1/2dTdは、ベクトルcに依存しない定数項であるので、以下の議論において無視することができる。
【0167】
【0168】
パラメータλおよびλENは、それぞれプロファイルが滑らかであること、および電荷が中性であることを偏差2乗和に比較してどのくらい強く要請するかを表す。これらのパラメータλおよびλENに依存して、得られる解の滑らかさおよび電荷中性の度合いが変化する。絶対的な正解はないので、尤もらしい解が得られるようにパラメータが調整される。
【0169】
上記式(14)の最小化は、2次計画問題に該当する。なおかつ2次の項の係数行列STS,QS,QENはすべて半正定値行列である。これにより上記式(14)の最小化は、単なる2次計画問題ではなく、大域最適解(実行可能領域全体で最も良いことが保証された解)が得られる凸2次計画問題に該当する。
【0170】
MSM解析は、従来のMEM解析の弱点である「初期値の入力が必要」という課題を克服する手法である。特に注目すべきは、上記MSM解析は、デプスプロファイルの決定を凸2次計画問題に落とし込むことによって、初期プロファイルの必要性を徹底的に排除しているという点である。
【0171】
5.相対濃度を簡便に扱う方法
一般に、XPSにて発生する信号強度の絶対値および化学種の絶対濃度を扱うことは困難である。このため、信号強度および化学種の濃度ともに相対値のみを扱うことが一般的である。したがって上記式(8)の計算において、XPSにて発生する信号強度の理論値d’と上記測定データとを比較する際には、理論値d’を相対値に変換する必要がある。
【0172】
上記式(3)より、理論値d’は相対濃度cに対して線形である。しかし、理論値d’を相対値に変換するために、d’の各成分をd’の成分合計値で割って得られる値は、相対濃度cに対して非線形である。したがって上記式(14)の最適化問題が凸2次計画問題の範疇を超える。
【0173】
この問題を解決するために、MSM解析では、上記式(6)に表わされるように、定数rjを用いる。定数rjは角度jごとに別個の値であり、装置の絶対感度などの未知の要素が反映された「装置定数」とみなすことができる。つまり定数rjは、相対濃度cから仮想的に、絶対値としての信号強度の理論値d’を求めるためのパラメータとみなすことができる。当然ながら定数rjの値は未知であるが、上記式(14)の最小化と並行して定数rjの値を最適化することができる。
【0174】
解析のある時点において定数rjの暫定値が得られているとする。定数rjのそれぞれに別個の定数rj’を乗じて、それぞれの定数rjを「更新」することを考える。定数rjの更新のポリシーは明確であり、上記式(8)を最小化する。このことは装置定数rjを最適化することによって、測定データに近いもっとも理論値を導出することを意味する。
【0175】
上記式(6)に表わされる行列Sの部分行列S(i)を以下の式(15)により表わす。
【0176】
【0177】
各定数rjは、実験値および理論値の角度j成分のみに寄与する。したがって、上記式(8)の偏差2乗和をrj’で偏微分した結果が0であるとする。これにより、式(16)で表わされる更新式を得ることができる。
【0178】
【0179】
なお、相対濃度cと定数rjとを同時に最適化することは、凸2次計画法の範疇を超えて、初期値が必要な問題になる。しかしMSM解析では上記式(14)の最適化と上記式(16)の更新とを交互に実施する。上記式(14)の最適化は凸2次計画問題であり、上記式(16)の更新は単純な四則演算である。したがって、デプスプロファイルの構築は、初期値が不要な問題になる。
【0180】
6.MSM解析の実行プロセス
以上をまとめると、MSM解析は、以下に記載したステップで実行される。
【0181】
(1) 測定データ(たとえばXPS測定データ)を取得して、そのデータを相対値に変換する。
(2) 上記式(1)のσi(相対イオン化断面積)を設定する。
(3) 上記式(12)の電荷中性条件を設定する。
(4) 上記式(14)のパラメータλおよびλENの値を設定する。
(5) 定数rj=1として、上記式(16)でrjを更新し、初期値を決定する。
(6) 上記式(14)の最適化(凸2次計画法での最適化)と上記式(16)の定数rjの更新とを、結果が収束するまで繰り返す。
【0182】
上記ステップ(2)においてσiを全ての化学種について定数倍した場合、ステップ(5)における1回目のrjの更新において、σiを定数倍した効果はキャンセルされる。つまりσiについては、正確な相対値だけを入力すればよく、詳細を知ることが一般に困難な絶対値を入力する必要はない。
【0183】
7.分析装置および分析方法
以上よりMSM解析は、公知のコンピュータにおいて上述のステップ(1)~(6)を実行することにより、GaAs単結晶基板の主表面に対する測定データから、たとえば
図4に示すようなデプスプロファイルを作成することができる。
図4を参照すれば、デプスプロファイルに現れたGa
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびGa
2Oの相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるGa
XO(Ga
2OおよびGa
2O
3)の含有量を表し、もって第1の解析値に相当する。またAs
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびAs
2O
5の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和に対する、Ga
2O
3の相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積、およびGa
2Oの相対濃度を示す曲線と横軸(X軸)との間の面積の和の比率は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるAs
XO(As
2O
5およびAs
2O
3)の含有量に対するGa
XOの含有量の比率を表し、もって第2の解析値に相当する。以上より、条件1~条件5に対応する5通りのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルから、これらをMSM解析に適用することによって、上記第1の解析値および第2解析値を求めることができる。
【0184】
<GaAs単結晶基板の主表面の均一性>
第2実施形態に係るGaAs単結晶基板の特性は、主表面の面内において均一であることが好ましい。つまり第2実施形態に係るGaAs単結晶基板は、主表面の面内位置に依らず、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成可能であることが好ましい。そのような好ましいGaAs単結晶基板の具体的態様としては、次の態様を例示することができる。
【0185】
すなわち上記GaAs単結晶基板は、75mm以上の直径を有する。上記GaAs単結晶基板は、第3の解析値または第4の解析値を有する。上記第3の解析値または第4の解析値のそれぞれは、上記5通りの条件(すなわち条件1~条件5)の下で上記主表面上の5つの測定点に対してX線を照射するXPSに基づき、上記GaAs単結晶基板の外部に放出された光電子の束縛エネルギーに対するAsおよびGaの3d電子の検出強度のスペクトルを求めるとともに、上記スペクトルを上記MSM解析に適用することにより得られる。上記第3の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において一酸化二ガリウム(Ga2O)および三酸化二ガリウム(Ga2O3)として存在するガリウム酸化物(GaXO)の含有量の平均値を表す値であって、0.57nm以下である。上記第4の解析値は、上記GaAs単結晶基板の上記主表面から2nmの深さまでの領域において五酸化二ヒ素(As2O5)および三酸化二ヒ素(As2O3)として存在するヒ素酸化物(AsXO)の含有量に対する上記ガリウム酸化物(GaXO)の含有量の比率の平均値を表す値であって、1.37以下である。さらに上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記主表面1cm2当たり1.6以下である。とりわけ上記第3の解析値は0.37nm以下であることが好ましく、上記第4の解析値は1.06以下であることがより好ましい。上記第3の解析値は、0.34nm以下であることがもっとも好ましく、上記第4の解析値は、1.00以下であることがもっとも好ましい。上記第3の解析値は、相対濃度と微小な深さとの乗数を、深さ方向に積分したものであって、その単位はnmである。なお上記第3の解析値には、物理的な長さの意味が含まれるものではない。
【0186】
上記ヒ化ガリウム単結晶基板の上記直径をDとし、上記主表面の中心を通り、上記主表面上の互いに直交する2軸をX軸およびY軸とするとき、上記5つの測定点のX軸およびY軸の座標(X、Y)は、(0,0)、(D/2-15,0)、(0,D/2-15)、(-(D/2-15),0)、(0,-(D/2-15))であり、上記Dおよび上記座標(X、Y)中のXおよびYの単位はmmである。このような特徴を備える上記GaAs単結晶基板の主表面は、その面内において均質的にLPDの個数がより低減したエピタキシャル膜を形成することができる。
【0187】
上記GaAs単結晶基板に関し、第3の解析値および第4の解析値を求めるための具体的な分析方法は、測定対象を主表面の中心から上記5つの測定点に変更すること以外、上述した第1の解析値および第2の解析値を求めるための<放射光を用いたXPSの具体的な分析方法>および<最大平滑性法(MSM解析)>の項目にて説明した方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。つまり上記方法に基づいて上記5つの測定点から、上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるGaXOの含有量を5つ求め、もって当該5つのGaXOの含有量の平均値として第3の解析値を求めることができる。さらに上記5つの測定点から、上記主表面から2nmの深さまでの領域におけるAsXOの含有量に対するGaXOの含有量の比率を5つ求め、もって当該5つの比率の平均値として第4の解析値を求めることができる。第2実施形態に係るGaAs単結晶基板における5つの測定点の設定方法については、第1実施形態に係るGaAs単結晶基板における5つの測定点の設定方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0188】
さらに上記GaAs単結晶基板に関し、上記5つの測定点にて測定される上記長径が0.16μm以上のパーティクルの個数の平均値は、上記の<長径が0.16μm以上のパーティクル>の項目にて説明した測定方法に従って上記基板の全面測定を行った後、上記5つの測定点(第1測定点P1~第5測定点P5)を中心とする直径20mmの円形領域(測定領域A1~測定領域A5)を対象としてデータ解析することにより求めることができる。
【0189】
〔ヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法〕
本実施形態に係るヒ化ガリウム単結晶基板(GaAs単結晶基板)の製造方法は、上記したGaAs単結晶基板を得るための製造方法であることが好ましい。上記GaAs単結晶基板を得るための製造方法としては、たとえば後述する第1のGaAs単結晶基板の製造方法、第2のGaAs単結晶基板の製造方法および第3のGaAs単結晶基板の製造方法を挙げることができる。
【0190】
第1のGaAs単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するGaAs単結晶基板の製造方法である。上記製造方法は、円形状の表面を有するヒ化ガリウム単結晶基板前駆体(以下、「GaAs単結晶基板前駆体」とも記す)を準備する工程(準備工程)と、上記GaAs単結晶基板前駆体から、上記GaAs単結晶基板を得るための洗浄工程とを含む。上記洗浄工程は、上記GaAs単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程(アルカリ洗浄工程)と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程(酸化処理工程)と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程(酸洗浄工程)と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程(乾燥工程)と、を含む。上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程(酸化処理工程)は、上記GaAs単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程である。上記酸洗浄液における酸濃度は、0.5質量%以上2質量%未満である。
【0191】
第2のGaAs単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するGaAs単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するGaAs単結晶基板前駆体を準備する工程(準備工程)と、上記GaAs単結晶基板前駆体から、上記GaAs単結晶基板を得るための洗浄工程とを含む。上記洗浄工程は、上記GaAs単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程(アルカリ洗浄工程)と、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とする工程(第2酸洗浄工程)と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程(乾燥工程)と、を含む。上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含む。上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下である。上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかである。上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールである。上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【0192】
第3のGaAs単結晶基板の製造方法は、円形状の主表面を有するGaAs単結晶基板の製造方法であって、上記製造方法は、円形状の表面を有するGaAs単結晶基板前駆体を準備する工程(準備工程)と、上記GaAs単結晶基板前駆体から、上記GaAs単結晶基板を得るための洗浄工程とを含む。上記洗浄工程は、上記GaAs単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程(アルカリ洗浄工程)と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程(酸化処理工程)と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程(第3酸洗浄工程)と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程(乾燥工程)と、を含む。上記アルカリ洗浄面を上記酸化処理面とする工程は、上記GaAs単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程である。上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含む。上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下である。上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかである。上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールである。上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【0193】
本明細書において「ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体(GaAs単結晶基板前駆体)」とは、たとえば所謂縦型ボート法等の従来公知の製造方法を用いて製造されたヒ化ガリウム単結晶(以下、「GaAs単結晶」とも記す)から切り出された円形状の表面を有するGaAs単結晶基板をいい、とりわけ上記洗浄工程に含まれる各工程が実行される対象物となるGaAs単結晶基板をいう。
【0194】
本発明者らは、上述した放射光を用いたXPSによる分析に基づいて得られた知見に基づき、上記GaAs単結晶基板を得るための従来公知の洗浄工程を改良することに注目した。とりわけ上記GaAs単結晶基板の酸化膜中のガリウム酸化物の含有量が少なくなるような処理を施すことに着目した。具体的には、GaAs単結晶基板前駆体の表面を強制酸化する酸化処理工程を新たに実行した。あるいは酸洗浄工程において酸洗浄液における酸濃度を増加させた。この場合、上記表面においてパーティクルが増加しやすいため、パーティクルを減少させるために、上記酸洗浄液に界面活性剤、アルコール等の添加物を添加した。このような洗浄工程を実行した場合、酸化膜中のガリウム酸化物の含有量が少なく、もって脱離温度が低くなることによって、サーマルクリーニングを用いて上記酸化膜を効果的に除去することが可能となることを知見した。さらに上記表面のパーティクルも低減することができるため、パーティクルを起因したエピタキシャル膜の表面のLPDも低減することも知見した。以上により本発明者らは、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成可能なGaAs単結晶基板に到達した。
【0195】
以下、第1のGaAs単結晶基板の製造方法、第2のGaAs単結晶基板の製造方法および第3のGaAs単結晶基板の製造方法にそれぞれ含まれる各工程について、
図6~
図8に基づいて具体的に説明する。
図6は、本実施形態に係る第1のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
図7は、本実施形態に係る第2のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
図8は、本実施形態に係る第3のヒ化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0196】
<第1のGaAs単結晶基板の製造方法>
(準備工程S100)
上記GaAs単結晶基板の製造方法は、円形状の表面を有するGaAs単結晶基板前駆体)を準備する工程(準備工程S100)を含む。準備工程S100においては、上記洗浄工程を実行するために必要となるGaAs単結晶基板前駆体を準備する。準備工程S100は、従来公知のGaAs単結晶基板前駆体の製造方法を実行する工程を含むことができる。すなわち準備工程S100は、たとえば縦型ボート法等の製造方法を用いてヒ化ガリウム単結晶(以下、「GaAs単結晶」とも記す)を製造し、上記GaAs単結晶から円形状の表面を有するGaAs単結晶基板前駆体を準備する工程を含むことができる。準備工程S100は、GaAs単結晶から準備したGaAs単結晶基板前駆体に対し所望のサイズ(例えば、直径3~8インチ、厚み約500~800μmの円盤状)に加工する工程を含むこともできる。加工方法としては、スライス加工、面取り加工、平面研削および研磨などの従来公知の方法を用いることができる。またGaAs単結晶基板前駆体の表面に対する研磨方法としては、従来公知の機械的研磨、化学機械的研磨など各種の研磨方法を用いることができる。
【0197】
(洗浄工程S200)
第1のGaAs単結晶基板の製造方法は、上記GaAs単結晶基板前駆体から、上記GaAs単結晶基板を得るための洗浄工程S200を含む。この洗浄工程S200により、上記GaAs単結晶基板前駆体から、サーマルクリーニングを用いて効果的に除去することができる酸化膜を主表面に有するGaAs単結晶基板を得ることができる。第1のGaAs単結晶基板の製造方法において洗浄工程S200は、上記GaAs単結晶基板前駆体の上記表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程(アルカリ洗浄工程S210)と、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程(酸化処理工程S220)と、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程(酸洗浄工程S230)と、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程(乾燥工程S240)とを含むことが好ましい。以下、洗浄工程S200に含まれる各工程について詳述する。
【0198】
2.アルカリ洗浄工程S210
アルカリ洗浄工程S210は、上記GaAs単結晶基板前駆体の表面をアルカリ洗浄液で洗浄することにより、上記表面をアルカリ洗浄面とする工程である。アルカリ洗浄工程S210により、上記GaAs単結晶基板前駆体の表面に付着した異物、不純物等を、アルカリ洗浄液を用いて除去することができる。アルカリ洗浄液としては、特に制限はないが、電気特性に影響を与える金属元素を含まない有機アルカリ化合物、たとえばコリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などの第4級アンモニウム水酸化物、第4級ピリジニウム水酸化物などを0.1~10質量%含む水溶液が好ましく用いられる。
【0199】
3.酸化処理工程S220
酸化処理工程S220は、上記アルカリ洗浄面を酸化処理することにより、上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とする工程である。とりわけ酸化処理工程S220は、上記ヒ化ガリウム単結晶基板前駆体を過酸化水素水溶液およびオゾン水の両方またはいずれか一方の室温以上の温度とした液体に1分以上20分以下浸漬する工程である。酸化処理工程S220においては、上記アルカリ洗浄面が強制的に酸化されることにより、上記アルカリ洗浄面に付着したアルカリ洗浄液中の不純物が膜内に含まれる酸化膜を、均一な厚みにて上記アルカリ洗浄面上に形成することができる。これにより後述する酸洗浄工程において、不純物が少なく、面内の均一性が良く、かつ酸化ガリウムの含有量が少ない酸化膜の形成を促進することができる。
【0200】
上記液体に含まれる過酸化水素の濃度は、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。上記液体に含まれるオゾンの濃度は、5質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましい。上記GaAs単結晶基板前駆体を浸漬させる上記液体の温度は、室温以上80℃以下であることが好ましい。上記液体に上記GaAs単結晶基板前駆体を浸漬させる時間は、2分以上15分以下であることが好ましい。これによりGaAs単結晶基板の主表面にて適切な厚みの酸化膜を形成することができる。上記液体に上記GaAs単結晶基板前駆体を浸漬させる時間が1分未満である場合、酸化膜の形成が不十分となり、上記時間が20分を超える場合、酸化膜が厚くなりすぎる恐れがある。
【0201】
4.酸洗浄工程S230
酸洗浄工程S230は、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程である。酸洗浄工程S230により、上記酸化処理面における上記酸化膜を、酸化ガリウムの含有量が少ない酸化膜に改質することができる。酸洗浄液としては、たとえば0.5質量%以上2質量%未満の第1の酸を含むことが好ましい。上記酸洗浄液中の第1の酸の酸濃度が0.5質量%より小さい場合、上記酸化処理面における改質作用が小さくなる。上記酸洗浄液の第1の酸の酸濃度が2質量%以上となる場合、第1の酸の作用によって酸洗浄面の化学組成がばらつく原因となり、パーティクルを除去する能力が低下する恐れがある。
【0202】
上記酸洗浄液に含まれる第1の酸については、特に制限はないが、洗浄力が高く電気特性に影響を与える元素(たとえば、金属元素、イオウなど)を含まず、かつ液滴が設備内に飛散した場合に、水分とともに酸成分も蒸発することで深刻な二次汚染・設備劣化を生じさせにくい酸成分であることが好ましい。たとえば第1の酸は、フッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)および亜硝酸(HNO2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機酸を含むことが好ましい。第1の酸としては酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸も好ましく用いることができる。また、これらの酸の2種類以上を組み合わせ、たとえば塩酸および硝酸を組み合わせて用いることもできる。
【0203】
酸洗浄工程S230における洗浄方法は、GaAs単結晶基板前駆体の上記酸化処理面を酸洗浄液に浸漬する公知の洗浄方法を用いることができる。さらに上記GaAs単結晶基板前駆体を、その主表面が水平になるように保持して100~800rpmで回転させながら、上記酸化処理面に対して上記酸洗浄液を供給することもできる。これにより、酸化処理面に酸洗浄液の膜を形成させて上記酸化処理面の過剰な酸化を抑制しながら、効率的な酸洗浄を行うことができる。GaAs単結晶基板前駆体の回転数が100rpmより低い場合、洗浄効率が高めることができない恐れがあり、上記回転数が800rpmより高い場合、酸洗浄液の膜を形成することができずに酸化を抑制する効果が低減する恐れがある。
【0204】
酸洗浄工程S230の後、好ましくは酸洗浄工程S230の直後に、上記GaAs単結晶基板前駆体の酸洗浄面を、純水を用いて洗浄することが好ましい。この純水を用いた洗浄方法については、特に制限はないが、GaAs単結晶基板前駆体の酸洗浄面を溶存酸素濃度(DO)が100ppb以下の純水で5分間以下の時間で洗浄することが好ましい。これにより、上記酸洗浄面の過剰な酸化の進行を抑制することができる。ここで上記純水の溶存酸素濃度は、より過剰な酸化の進行を抑制するという観点から、50ppb以下であることがより好ましい。不純物が少ないという観点から、上記純水の全有機炭素(TOC)は、40ppb以下であることが好ましい。上記純水を用いた洗浄方法については、GaAs単結晶基板前駆体を、その主表面が水平になるように保持して100~800rpmで回転させながら、上記酸洗浄面に対し上述した純水を供給することにより行うこともできる。
【0205】
5.乾燥工程S240
乾燥工程S240は、上記酸洗浄面を乾燥することによって上記主表面を得る工程である。乾燥工程S240における乾燥方法は、従来公知の方法を用いることができる。
【0206】
(エピタキシャル膜形成工程S300)
以上により、第1のGaAs単結晶基板の製造方法においては、酸化ガリウムの含有量が些少である酸化膜を主表面に形成したGaAs単結晶基板を得ることができる。本実施形態においては、上述した第1のGaAs単結晶基板の製造方法に引き続き、上記主表面にエピタキシャル膜を形成する工程(エピタキシャル膜形成工程S300)を行うことができる。エピタキシャル膜形成工程S300は、サーマルクリーニング工程S310およびエピタキシャル膜成長工程S320を含むことができる。エピタキシャル膜形成工程S300により、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を主表面に形成したGaAs単結晶基板を得ることができる。
【0207】
1.サーマルクリーニング工程S310
まず上記GaAs単結晶基板に対しては、サーマルクリーニング工程S310を行うことができる。サーマルクリーニング工程S310は、たとえば、600℃および10分間の加熱処理という従来公知の条件にてサーマルクリーニングをする工程である。このような条件であっても、第1のGaAs単結晶基板においては上記酸化膜の脱離温度が低いため、サーマルクリーニングを用いて上記酸化膜を効果的に除去することが可能となる。
【0208】
2.エピタキシャル膜成長工程S320
さらに上記サーマルクリーニング工程S310を経たGaAs単結晶基板に対し、上記主表面にエピタキシャル膜を成長させる工程(エピタキシャル膜成長工程S320)を実行することができる。本工程により、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を主表面に形成したGaAs単結晶基板を得ることができる。たとえば上記エピタキシャル膜の表面に存在する長径が18μm以上のLPDの個数については、主表面1cm2当たり5以下とすることができ、好ましくは主表面1cm2当たり2以下とすることができる。上記長径が18μm以上のLPDの個数の下限値は、主表面1cm2当たり0である。もって上記GaAs単結晶基板は、デバイス特性を向上させることができる。
【0209】
上記エピタキシャル膜形成工程S300において、GaAs単結晶基板の主表面上にエピタキシャル膜を形成する方法は、従来公知の方法を用いることができる。エピタキシャル膜は、たとえばAl1-y-zGayInzAsからなる化合物膜であり、上記yは、0以上1以下であり、上記zは、0以上1以下であり、上記yと上記zとの和は、0以上1以下である場合がある。すなわち本実施形態は、GaAs単結晶基板の主表面に形成するエピタキシャル膜として、Al1-y-zGayInzAs(0≦y≦1、0≦z≦1、0≦y+z≦1)からなる化合物膜を適用することができる。さらにエピタキシャル膜は、AlxGa1-xAs(0≦x≦1)またはAl1-y-zGayInzP(0≦y≦1、0≦z≦1、0≦y+z≦1)の化合物膜であることもできる。
【0210】
エピタキシャル膜は、例えば0.5~10μmの厚みを有するように形成される。エピタキシャル膜の厚みが上述の範囲である場合、エピタキシャル基板は広範囲の用途に適用可能となる。
【0211】
上記GaAs単結晶基板の主表面上に配置したエピタキシャル膜の長径が18μm以上のLPDの個数は、上述したパーティクルの個数の測定方法と同じように、従来公知の表面異物検査装置(たとえば商品名:「サーフスキャン6220」、KLA-テンコール社製)により求めることができる。具体的な測定方法については、上述したパーティクルの個数の測定方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0212】
<第2のGaAs単結晶基板の製造方法>
第2のGaAs単結晶基板の製造方法は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法における上記酸化処理工程およびその後の酸洗浄工程に代えて、界面活性剤等の添加物を添加した酸性溶液を用いる新たな酸洗浄工程(以下、「第2酸洗浄工程」とも記す)を実行することにより、GaAs単結晶基板を製造する方法である。以下、
図7を参照し、上記第2酸洗浄工程について説明する。第2のGaAs単結晶基板の製造方法に関し、洗浄工程S200における第2酸洗浄工程S231(第1のGaAs単結晶基板の製造方法における酸化処理工程S220およびその後の酸洗浄工程S230に代わるもの)以外の工程は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0213】
(第2酸洗浄工程S231)
第2酸洗浄工程S231は、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とする工程である。とりわけ上記酸洗浄液は、アルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含む。第2酸洗浄工程S231により、上記GaAs単結晶基板前駆体のアルカリ洗浄面に付着したアルカリ洗浄液中の不純物およびガリウム酸化膜を上記酸洗浄液による酸化反応(アルカリ洗浄面のエッチング)によって除去することができる。さらに上記酸洗浄液がアルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含むことにより、上記アルカリ洗浄面においてパーティクルをより除去することができ、かつ後述する酸洗浄後の純水洗浄時に有機成分の除去を促進することができる。上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%以下である。上記酸洗浄液に含まれる酸(以下、「第2の酸」とも記す)は、塩酸、フッ酸または硝酸のいずれかである。上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールである。上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【0214】
上記酸洗浄液中の第2の酸の酸濃度が2質量%未満である場合、上記アルカリ洗浄面に対する改質作用が小さくなる。上記酸洗浄液の第2の酸の酸濃度が5質量%を超える場合、第2の酸の作用によって酸洗浄面(あるいは主表面)の化学組成がばらつく原因となる傾向がある。上記酸洗浄液に含まれる第2の酸は、塩酸(HCl)、フッ酸(HF)または硝酸(HNO3)のいずれかである。これにより洗浄力が高く、電気特性に影響を与える元素(たとえば、金属元素など)を含まず、かつ液滴が設備内に飛散した場合に、水分とともに酸成分も蒸発することで深刻な二次汚染・設備劣化を生じさせにくくすることができる。
【0215】
上記酸洗浄液に含まれる界面活性剤の濃度は、1質量ppm以上1000質量ppm以下であることが好ましい。上記酸洗浄液に含まれるアルコールの濃度は、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0216】
界面活性剤を添加する効果としては、表面張力が低下し、パーティクルと上記GaAs単結晶基板前駆体の表面との間の液浸透性が増すことにより、パーティクルが付着しにくくなることが期待される。とりわけアニオン性界面活性剤は、親水基がアニオン(負イオン)であって、上記GaAs単結晶基板前駆体の表面のパーティクルの多くは負に帯電しているため(ゼータ電位が負)、上記表面の電位を負の方向に制御することによって、更に表面にパーティクルが付着しにくくなることが期待される。アルコールを添加する効果としても、表面張力が低下し、パーティクルと上記GaAs単結晶基板前駆体の表面との間の液浸透性が増すことにより、パーティクルが付着しにくくなることが期待される。アルコールは一般に純度が高いため、上記表面の不純物濃度を容易に低減できるという利点もある。
【0217】
第2酸洗浄工程S231においては、第1のGaAs単結晶基板の製造方法における酸洗浄工程S230と同様に、GaAs単結晶基板前駆体を、その主表面が水平になるように保持して100~800rpmで回転させながら、上記アルカリ洗浄面に対して上記酸洗浄液を供給することができる。さらに第2酸洗浄工程S231の後、好ましくは第2酸洗浄工程S231の直後に、GaAs単結晶基板前駆体の酸洗浄面を、純水を用いて洗浄することも好ましい。上記純水の特性は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法において酸洗浄工程S230の後に用いる純水と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0218】
<第3のGaAs単結晶基板の製造方法>
第3のGaAs単結晶基板の製造方法は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法における酸洗浄工程に代えて、界面活性剤等の添加物を添加した酸性溶液を用いる新たな酸洗浄工程(以下、「第3酸洗浄工程」とも記す)を実行することにより、酸洗浄工程で用いる酸洗浄液の酸濃度を高めることを可能としたGaAs単結晶基板を製造する方法である。以下、
図8を参照し、上記第3酸洗浄工程について説明する。第3のGaAs単結晶基板の製造方法に関し、洗浄工程S200における第3酸洗浄工程S232(第1のGaAs単結晶基板の製造方法における酸洗浄工程S230に代わるもの)以外の工程は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0219】
(第3酸洗浄工程S232)
第3酸洗浄工程S232は、上記酸化処理面を酸洗浄液で洗浄することにより、上記酸化処理面を酸洗浄面とする工程である。第3酸洗浄工程S232により、上記酸化処理面における上記酸化膜を、酸化ガリウムの含有量が少ない酸化膜に改質することができる。とりわけ第3酸洗浄工程S232においては、上記酸洗浄液がアルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含むことにより、上記酸化処理面に残存する不純物およびパーティクルをより除去することができ、かつ後述する酸洗浄後の純水洗浄時に有機成分の除去を促進することができる。上記酸洗浄液における酸濃度は、2質量%以上5質量%である。上記アルコールは、イソプロピルアルコールまたはエタノールである。上記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤である。
【0220】
上記酸洗浄液中の酸の酸濃度が2質量%未満である場合、除去すべきパーティクルの数自体が少ないために、上記酸洗浄液がアルコールおよび界面活性剤の両方またはいずれか一方を含むことによる効果を十分に得ることができない恐れがある。上記酸洗浄液の酸の酸濃度が5質量%を超える場合、酸の作用によって酸洗浄面(あるいは主表面)の化学組成がばらつく原因となる傾向がある。上記酸洗浄液に含まれる酸は、塩酸(HCl)、フッ酸(HF)または硝酸(HNO3)のいずれかである。これにより洗浄力が高く、電気特性に影響を与える元素(たとえば、金属元素など)を含まず、かつ液滴が設備内に飛散した場合に、水分とともに酸成分も蒸発することで深刻な二次汚染・設備劣化を生じさせにくくすることができる。
【0221】
上記酸洗浄液に含まれる界面活性剤の濃度は、1質量ppm以上1000質量ppm以下であることが好ましい。上記酸洗浄液に含まれるアルコールの濃度は、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0222】
界面活性剤を添加する効果およびアルコールを添加する効果としては、第2のGaAs単結晶基板の製造方法における第2酸洗浄工程S231に関して述べた界面活性剤を添加する効果およびアルコールを添加する効果と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0223】
第3酸洗浄工程S232においては、第1のGaAs単結晶基板の製造方法における酸洗浄工程S230と同様に、GaAs単結晶基板前駆体を、その主表面が水平になるように保持して100~800rpmで回転させながら、上記酸化処理面に対して上記酸洗浄液を供給することができる。さらに第3酸洗浄工程S232の後、好ましくは第3酸洗浄工程S232の直後に、GaAs単結晶基板前駆体の酸洗浄面を、純水を用いて洗浄することも好ましい。上記純水の特性は、第1のGaAs単結晶基板の製造方法において酸洗浄工程S230の後に用いる純水と同じであるので、重複する説明は繰り返さない。
【0224】
<作用効果>
本実施形態に係るGaAs単結晶基板の製造方法(第1のGaAs単結晶基板の製造方法、第2のGaAs単結晶基板の製造方法および第3のGaAs単結晶基板の製造方法)により、酸化ガリウムの含有量が少ない酸化膜を主表面に形成することができ、かつ主表面のパーティクルの個数も少ないGaAs単結晶基板を得ることができる。このようなGaAs単結晶基板においては、上記酸化膜の脱離温度が低いため、サーマルクリーニングを用いて上記酸化膜を効果的に除去することが可能となり、かつ上記パーティクルを起因としたエピタキシャル膜不良も低減できるので、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜が形成可能となる。
【実施例】
【0225】
以下、実施例を挙げて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。以下に説明する試料1~試料18のGaAs単結晶基板のうち、試料4、試料7~試料10および試料12~試料18が実施例であり、試料1~試料3、試料5、試料6および試料11が比較例である。
【0226】
〔GaAs単結晶基板の製造〕
〔試料1〕
<準備工程>
垂直ブリッジマン(VB)法で成長させたシリコン(Si)原子添加の導電性GaAs単結晶を、ワイヤーソーでスライスし、さらにエッジ部を研削することによりGaAs単結晶基板前駆体を準備した。当該GaAs単結晶基板前駆体に対し、その主表面を平研研削機で研削し、その後、クリーンルーム内で上記主表面を塩素系研磨剤およびシリカパウダーの混合物を含む硬質研磨布により研磨した。続いて、上記主表面をINSEC NIB研磨剤(株式会社フジミインコーポレーテッド製)で研磨することにより鏡面化した。さらに、イソプロピルアルコール(IPA)を用いた超音波洗浄を行うことにより上記主表面を粗洗浄した。以上により、直径が6インチ(150mm)、厚み680μmのGaAs単結晶基板前駆体を必要枚数準備した。
【0227】
<洗浄工程>
(アルカリ洗浄工程)
上記GaAs単結晶基板前駆体をバーティカル-バッチ方式で、1質量%のコリン水溶液に浸漬した。同時に、上記水溶液中のGaAs単結晶基板前駆体の全面に対し、超音波を周波数500kHzで付与し、かつ音圧10mVの条件で5分間印加した。これにより、GaAs単結晶基板前駆体の表面をアルカリ洗浄した。次に、GaAs単結晶基板前駆体のアルカリ洗浄されたアルカリ洗浄面を溶存酸素濃度(DO)が1質量ppbである純水を用いて5分間洗浄した。この純水の全有機炭素(TOC)は、0.5質量ppbであった。
【0228】
(酸洗浄工程)
上記GaAs単結晶基板前駆体を枚葉方式洗浄装置内に配置することにより、回転数500rpmで回転させながら、フッ酸を0.05質量%含む酸洗浄液を用いて上記アルカリ洗浄面の酸洗浄を行った。上記酸洗浄では室温(25℃)下で、上記酸洗浄液をGaAs単結晶基板前駆体のアルカリ洗浄面に1分間で1リットル供給した。さらに上記アルカリ洗浄工程で用いた超純水と同じ超純水により、上記GaAs単結晶基板前駆体を3分間、1L/分の量でリンスした。これにより上記アルカリ洗浄面を酸洗浄面とした。
【0229】
(乾燥工程)
上記GaAs単結晶基板前駆体の酸洗浄面を2500rpmで15~30秒間回転させることによって乾燥させ、円形状の主表面を有する試料1のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。
【0230】
<エピタキシャル膜形成工程>
上記GaAs単結晶基板を有機金属気相エピタキシャル成長炉内において、水素ガスにアルシンガスを添加した雰囲気中、600℃および10分間という条件でサーマルクリーニングを実行した(サーマルクリーニング工程)。さらに上記サーマルクリーニング工程に続けて、上記GaAs単結晶基板の主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE法)により成長させた(エピタキシャル膜成長工程、なお、主表面上にエピタキシャル層を成長させたGaAs単結晶基板を以下、「エピタキシャル基板」とも記す)。これにより試料1のエピタキシャル基板を得た。上記エピタキシャル層を成長させる際、GaAs単結晶基板を550℃に加熱した。
【0231】
〔試料2〕
上記洗浄工程において、アルカリ洗浄工程および酸洗浄工程の間に、以下の酸化処理工程を実行したこと以外、試料1と同じ要領により、試料2のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0232】
(酸化処理工程)
上記GaAs単結晶基板前駆体のアルカリ洗浄面を、バーティカル-バッチ方式にて過酸化水素を3質量%含む過酸化水素水溶液に10分間浸漬することにより酸化処理を行った。上記酸化処理は、室温(25℃)で行った。さらに上記アルカリ洗浄工程で用いた超純水と同じ超純水により、上記GaAs単結晶基板前駆体を3分間、1L/分の量でリンスした。これにより上記アルカリ洗浄面を酸化処理面とした。
【0233】
〔試料3〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を0.5質量%としたこと以外、試料1と同じ要領により、試料3のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0234】
〔試料4〕薄めの酸濃度なので、アルコール不要。酸化工程のみでよい。
上記洗浄工程において、アルカリ洗浄工程および酸洗浄工程の間に、試料2と同じ要領によって酸化処理工程を実行したこと以外、試料3と同じ要領により、試料4のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0235】
〔試料5〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を2質量%としたこと以外、試料1と同じ要領により、試料5のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0236】
〔試料6〕
上記洗浄工程において、アルカリ洗浄工程および酸洗浄工程の間に、試料2と同じ要領によって酸化処理工程を実行したこと以外、試料5と同じ要領により、試料6のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0237】
〔試料7〕
上記洗浄工程において、酸洗浄工程で用いる酸洗浄液に10質量ppm濃度となるようにフッ素系アニオン界面活性剤(商品名:「サーフロンS-211」、AGCセイミケミカル社製)を添加したこと以外、試料5と同じ要領により、試料7のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0238】
〔試料8〕
上記洗浄工程において、アルカリ洗浄工程および酸洗浄工程の間に、試料2と同じ要領によって酸化処理工程を実行し、かつ試料7と同じ要領によって酸洗浄工実行したこと以外、試料5と同じ要領により、試料8のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0239】
〔試料9〕
上記準備工程において、垂直ブリッジマン(VB)法で成長させたSi原子添加の導電性GaAs単結晶から直径が8インチ(200mm)、厚み680μmのGaAs単結晶基板前駆体を複数枚準備したこと以外、試料4と同じ要領により、試料9のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0240】
〔試料10〕
上記準備工程において、垂直ブリッジマン(VB)法で成長させたSi原子添加の導電性GaAs単結晶から直径が8インチ(200mm)、厚み680μmのGaAs単結晶基板前駆体を複数枚準備したこと以外、試料8と同じ要領により、試料10のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0241】
〔試料11〕
試料1と同じ要領により製造した上記GaAs単結晶基板前駆体に対し、次のような洗浄工程を実行することにより、試料11のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。すなわち上記洗浄工程において、上記GaAs単結晶基板前駆体の表面に向けて高圧水銀ランプ(波長200~450nm)を照射した。照射条件は、強度20mWで1分間であり、面内をゆっくり回転させながら波長200~450nmの光を照射した。次に、上記GaAs単結晶基板前駆体を0.5質量%アンモニア水溶液に浸漬し、かつ1MHz近傍の極超音波(所謂メガソニック)下で洗浄した。その後、水洗し乾燥させた。続いて上記GaAs単結晶基板前駆体を0.2質量%のフッ化水素水溶液で洗浄し、水洗後に乾燥させた。乾燥は、イソプロピルアルコールを使用したマランゴニ乾燥により行った。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0242】
〔試料12〕
上記洗浄工程において、酸洗浄工程で用いる酸洗浄液に0.1質量%濃度となるようにイソプロピルアルコールを添加したこと以外、試料5と同じ要領により、試料12のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0243】
〔試料13〕
上記洗浄工程において、アルカリ洗浄工程および酸洗浄工程の間に、試料2と同じ要領によって酸化処理工程を実行し、かつ酸洗浄工程で用いる酸洗浄液に0.1質量%となるようにイソプロピルアルコールを添加したこと以外、試料5と同じ要領により、試料13のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0244】
〔試料14〕
上記準備工程において、垂直ブリッジマン(VB)法で成長させたSi原子添加の導電性GaAs単結晶から直径が8インチ(200mm)、厚み680μmのGaAs単結晶基板前駆体を複数枚準備したこと以外、試料13と同じ要領により、試料14のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0245】
〔試料15〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を5質量%としたこと以外、試料8と同じ要領により、試料15のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0246】
〔試料16〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を5質量%としたこと以外、試料13と同じ要領により、試料16のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0247】
〔試料17〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を5質量%としたこと以外、試料10と同じ要領により、試料17のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0248】
〔試料18〕
上記洗浄工程において、酸洗浄液に含まれるフッ酸の濃度を5質量%としたこと以外、試料14と同じ要領により、試料18のGaAs単結晶基板を必要枚数得た。さらに上記GaAs単結晶基板のうち1枚に対し、試料1と同じ要領により、その主表面上に、エピタキシャル層として厚さ4μmのAl0.4Ga0.6As層を成長させた。
【0249】
〔第1試験〕
<GaAs単結晶基板に対する放射光を用いたXPSによる分析およびMSM解析>
佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター内の住友電気工業株式会社専用ビームラインの一つである「BL17」を利用することにより、エネルギーが150eVおよび600eVであるX線をそれぞれ準備した。このX線を試料1~試料18のGaAs単結晶基板における主表面の中心に対してそれぞれ照射することにより、X線光電子分光法を用いた分析を行なった。なお、試料1~試料18のGaAs単結晶基板については、その全体を試料台に設置することができないため、試料1~試料18のGaAs単結晶基板の中心部を切り出して試験片とし、当該試験片について分析した。
【0250】
分析条件は、以下の通りである。
条件1:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度30°
条件2:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度45°
条件3:X線入射エネルギー150eV、および光電子の取り出し角度85°
条件4:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度45°
条件5:X線入射エネルギー600eV、および光電子の取り出し角度85°
各条件における試験片のサイズ:10mm×10mm
各条件における試験片周囲の圧力:4×10-7Pa
各条件において使用した高分解能XPS分析装置(商品名:「R3000」、Scienta Omicron社製)
エネルギー分解能E/ΔE:3480
結合エネルギーのプロット間隔:0.02eV
各エネルギー値における積算時間および積算回数:100ms,50回。
【0251】
次に、試料1~試料18のGaAs単結晶基板に対応する各試験片に対し、上記条件3の下で実行された分析より得られたGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルに基づき、GaAsとして存在するGa元素の積分強度に対する、Ga2Oとして存在するGa元素の積分強度とGa2O3として存在するGa元素の積分強度との和の比率である第1の積分強度比(GaXO/GaAs)を求めた。As2O5として存在するAs元素の積分強度と、As2O3として存在するAs元素の積分強度との和に対する、上記Ga2Oとして存在するGa元素の積分強度と上記Ga2O3として存在するGa元素の積分強度との和の比率である第2の積分強度比(GaXO/AsXO)も求めた。結果を表1に示す。
【0252】
さらに、試料1~試料18のGaAs単結晶基板に対応する各試験片に対し、上記各条件(条件1乃至条件5)の下で実行された分析より得られたGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを、上述したMSM解析に適用した。これにより上記GaAs単結晶基板の主表面から2nmの深さまでの領域においてGa2OおよびGa2O3として存在するガリウム酸化物(GaXO)の含有量である第1の解析値を求めた。上記GaAs単結晶基板の主表面から2nmの深さまでの領域においてAs2O5およびAs2O3として存在するヒ素酸化物(AsXO)の含有量に対するガリウム酸化物(GaXO)の含有量の比率である第2の解析値(GaXO/AsXO)も求めた。結果を表1に示す。
【0253】
<長径が0.16μm以上のパーティクル>
試料1~試料18のGaAs単結晶基板の主表面に対し、上述した表面検査装置(商品名:「サーフスキャン6220」、KLA-テンコール社製)を用いた観察を行った。観察は上記XPSによる分析およびMSM解析で使用したGaAs単結晶基板とは異なるが、同時に処理した上記基板を対象とした。上記基板の全面を観察し、そのうち基板中央部(第1測定点P1を含む20mmφの領域、つまり測定領域A1)を対象として上記主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの1cm2当たりの個数を求めた。結果を表1に示す。
【0254】
<エピタキシャル膜の表面の長径が18μm以上のLPDの個数>
まず上記のように長径が0.16μm以上のパーティクルの1cm2当たりの個数を求めたGaAs単結晶基板に対しエピタキシャル成長を行うことにより、試料1~試料18のエピタキシャル基板を得た。次に当該エピタキシャル基板におけるエピタキシャル膜の表面に対し、上述した表面検査装置(商品名:「サーフスキャン6220」、KLA-テンコール社製)を用いた観察を行った。測定はエピタキシャル基板全面を観察し、そのうちエピタキシャル基板中央部(第1測定点P1に対応するエピタキシャル膜の表面上の測定点を含む20mmφの領域、つまり測定領域A1に対応するエピタキシャル膜の表面上の領域)を対象として上記表面に存する長径が18μm以上のLPDの1cm2当たりの個数を求めた。結果を表1に示す。LPDが存在する箇所はデバイス特性を悪化させるため、上記LPDは、GaAs単結晶基板の酸化膜またはパーティクルに起因する成膜不良であると推定される。上記LPDの1cm2当たり個数が5以下である場合、デバイス歩留まりが良好であり、このような基板を使用すると高いデバイス歩留まりを得ることができる。
【0255】
【0256】
<考察>
上記表1によれば、試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも第1の積分強度比が12以下であり、かつ第2の積分強度比が1.2以下であった。上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも第1の解析値が0.6nm以下であり、かつ第2の解析値が1.4以下であった。さらに上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの1cm2当たりの個数が2以下であった。その場合、上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のエピタキシャル基板は、その表面に存する長径が18μm以上のLPDの1cm2当たりの個数が5以下であった。したがって試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、高いデバイス歩留まりを実現できることが示唆された。
【0257】
〔第2試験〕
<GaAs単結晶基板の主表面の均一性分析>
第2試験については、第1試験において基板中央部(測定領域A1に対応する領域)のエピタキシャル膜のLPDの個数が良好(5個以下)であると評価された試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板を対象とした。上記基板の各主表面の外周部から切り出した4つの試験片を、上記第1試験の<GaAs単結晶基板に対する放射光を用いたXPSによる分析およびMSM解析>の項目にて記載した方法と同じ要領により分析した。具体的には、まず上記<GaAs単結晶基板に対する放射光を用いたXPSによる分析およびMSM解析>の項目の試験に用いたGaAs単結晶基板から、
図3に示す第2測定点P2、第3測定点P3、第4測定点P4および第5測定点P5を中心に10mm×10mmサイズの試験片を切り出した。
【0258】
次に各試験片それぞれにおいて、上記条件3の下で実行された分析より得られた上記5つの試験片に対応する5つのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルに基づき、GaAsとして存在するGa元素の積分強度に対する、Ga2Oとして存在するGa元素の積分強度とGa2O3として存在するGa元素の積分強度との和の比率の平均値である第3の積分強度比(GaXO/GaAs)を求めた。As2O5として存在するAs元素の積分強度と、As2O3として存在するAs元素の積分強度との和に対する、上記Ga2Oとして存在するGa元素の積分強度と上記Ga2O3として存在するGa元素の積分強度との和の比率の平均値である第4の積分強度比(GaXO/AsXO)も求めた。結果を表2~表4に示す。表2~表4においては、各試料の項目「Ave」の行と、項目「第3の積分強度比(GaXO/GaAs)」の列とが重なる箇所に「第3の積分強度比」を示している。また各試料の項目「Ave」の行と、項目「第4の積分強度比(GaXO/AsXO)」の列とが重なる箇所に「第4の積分強度比」を示している。
【0259】
さらに各試験片それぞれにおいて、上記各条件(条件1乃至条件5)の下で実行された分析より得られた上記5つの試験片に対応する5つのGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを、上述したMSM解析に適用した。これにより上記GaAs単結晶基板の主表面から2nmの深さまでの領域においてGa2OおよびGa2O3として存在するガリウム酸化物(GaXO)の含有量の平均値である第3の解析値を求めた。上記GaAs単結晶基板の主表面から2nmの深さまでの領域においてAs2O5およびAs2O3として存在するヒ素酸化物(AsXO)の含有量に対する上記ガリウム酸化物(GaXO)の含有量の比率の平均値である第4の解析値(GaXO/AsXO)も求めた。結果を表2~表4に示す。表2~表4においては、各試料の項目「Ave」の行と、項目「第3の解析値[nm](GaXO)」の列とが重なる箇所に「第3の解析値」を示している。また各試料の項目「Ave」の行と、項目「第4の解析値(GaXO/AsXO)」の列とが重なる箇所に「第4の解析値」を示している。
【0260】
上記第1試験における<長径が0.16μm以上のパーティクル>の項目の試験から得た上記GaAs単結晶基板全面のパーティクルに関する観察データを使用し、上記基板の外周部の測定点(すなわち
図3に示す第2測定点P2、第3測定点P3、第4測定点P4および第5測定点P5)における長径が0.16μm以上のパーティクルの1cm
2当たりの個数の平均値を求めた。さらに、第1試験における<エピタキシャル膜の表面の長径が18μm以上のLPDの個数>の項目の試験から得た上記エピタキシャル基板全面のLPDに関する観察データを使用し、上記エピタキシャル基板の外周部の測定点におけるエピタキシャル膜表面の長径が18μm以上のLPDの1cm
2当たりの個数の平均値を求めた。結果をそれぞれ表2~表4に示す。表2~表4においては、各試料の項目「Ave」の行と、項目「パーティクル[個/cm
2]」の列とが重なる箇所に「パーティクルの1cm
2当たりの個数の平均値」を示している。また各試料の項目「Ave」の行と、項目「LPD数[個/cm
2]」の列とが重なる箇所に「LPD数の平均値」を示している。
【0261】
【0262】
【0263】
【0264】
<考察>
表2~表4によれば、試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも第3の積分強度比が13.7以下であり、かつ第2の積分強度比が1.23以下であった。上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも第3の解析値が0.57nm以下であり、かつ第2の解析値が1.37以下であった。さらに上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板は、いずれも主表面に存する長径が0.16μm以上のパーティクルの1cm2当たりの個数の平均値が1.6以下であった。その場合、上記試料4、試料7~試料10および試料12~試料14のエピタキシャル基板は、その表面に存する長径が18μm以上のLPDの1cm2当たりの個数の平均値が5以下であった。したがって試料4、試料7~試料10および試料12~試料18のGaAs単結晶基板のそれぞれの主表面は、その全面において酸化膜およびパーティクルの両者に起因するLPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成できることが示唆された。
【0265】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0266】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0267】
1 GaAs単結晶基板、1m 主表面、10 X線発生設備、11 X線源、12,14 スリット、13 グレーティング、20 真空容器、30 電子分光器、50 ノッチ、100 分析システム、LA As3dスペクトル、LG Ga3dスペクトル、L1 Ga3+スペクトル、L2 Ga+スペクトル、L3 Ga-Asスペクトル、L4 As5+スペクトル、L5 As3+スペクトル、L6 金属Asスペクトル、L7 As-Gaスペクトル P1~P5 測定点、A1~A5 測定領域、S100 準備工程、S200 洗浄工程、S210 アルカリ洗浄工程、S220 酸化処理工程、S230 酸洗浄工程、S231 第2酸洗浄工程、S240 加熱処理工程、S300 エピタキシャル膜形成工程、S310 サーマルクリーニング工程、S320 エピタキシャル膜成長工程。
【要約】
ヒ化ガリウム単結晶基板は、円形状の主表面を有し、かつ第1の積分強度比または第2の積分強度比を有する。第1の積分強度比および第2の積分強度比は、所定のX線光電子分光法に基づくヒ素およびガリウムのスペクトルより求めることができる。第1の積分強度比は、ヒ化ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度に対する、一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であり、12以下である。第2の積分強度比は、五酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度と、三酸化二ヒ素として存在するヒ素元素の積分強度との和に対する、一酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度と三酸化二ガリウムとして存在するガリウム元素の積分強度との和の比率であり、1.2以下である。長径が0.16μm以上のパーティクルの個数は、主表面1cm2当たり2以下である。