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  • 特許-吸振機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】吸振機構
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/10 20060101AFI20230808BHJP
   B60K 17/22 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F16F15/10 B
B60K17/22 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020000269
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021110340
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100187034
【弁理士】
【氏名又は名称】夏目 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100198971
【弁理士】
【氏名又は名称】木地本 浩和
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-027238(JP,U)
【文献】特開2018-204712(JP,A)
【文献】特開2007-139041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/10
B60K 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の軸部材の内周側において当該軸部材の中心軸の方向の相異なる位置に設置される第1ダイナミックダンパおよび第2ダイナミックダンパを具備する吸振機構であって、
前記第1ダイナミックダンパおよび前記第2ダイナミックダンパの各々は、
前記軸部材の内周側に取付けられる環状の取付部と、
前記取付部の内周側において前記取付部の中心軸に対して偏芯する質量体と、
前記取付部の内周側において前記取付部と前記質量体とを連結する複数の弾性体と
を含み、
前記第1ダイナミックダンパの前記質量体の第1中心軸と、前記第2ダイナミックダンパの前記質量体の第2中心軸とは、前記軸部材の中心軸を挟んで相互に反対側に位置する
吸振機構。
【請求項2】
前記第1ダイナミックダンパおよび前記第2ダイナミックダンパの各々は、
前記取付部の内周側に設置され、前記質量体の外周面に間隔をあけて対向する複数のストッパを具備し、
前記第1ダイナミックダンパにおける前記複数のストッパの中心軸は前記第1中心軸に一致し、前記第2ダイナミックダンパにおける前記複数のストッパの中心軸は前記第2中心軸に一致する
請求項1の吸振機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラシャフト等の軸部材に発生する振動を抑制する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌における中空のプロペラシャフトの内周側に設置されるシャフト内挿型のダイナミックダンパが、従来から提案されている。ダイナミックダンパは、環状の取付部と、当該取付部の内周側に位置する質量体とを、複数の弾性体により連結した構造体である。特許文献1には、質量体の径方向の移動を規制する複数のストッパを、取付部と質量体との間に設置した構造のダイナミックダンパが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-139041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸部材が高速に回転する環境では特に、軸部材の回転による質量体の偏芯が顕著となる可能性がある。したがって、軸部材のアンバランス量や曲げ共振による軸部材の振動を充分に低減できない場合がある。以上の事情を考慮して、本発明の好適な態様は、軸部材の振動を効果的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る吸振機構は、中空の軸部材の内周側において当該軸部材の中心軸の方向の相異なる位置に設置される第1ダイナミックダンパおよび第2ダイナミックダンパを具備する吸振機構であって、前記第1ダイナミックダンパおよび前記第2ダイナミックダンパの各々は、前記軸部材の内周側に取付けられる環状の取付部と、前記取付部の内周側において前記取付部の中心軸に対して偏芯する質量体と、前記取付部の内周側において前記取付部と前記質量体とを連結する複数の弾性体とを含み、前記第1ダイナミックダンパの前記質量体の第1中心軸と、前記第2ダイナミックダンパの前記質量体の第2中心軸とは、前記軸部材の中心軸を挟んで相互に反対側に位置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軸部材のアンバランス量の悪化を抑制しながら、曲げ共振による軸部材の振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】吸振機構の構成を例示する断面図である。
図2】ダイナミックダンパの正面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の好適な形態について図面を参照しながら以下に説明する。なお、各図面における各要素の寸法および縮尺は実際の製品とは適宜に相違する。
【0009】
A:実施形態
図1は、本発明の好適な形態に係る吸振機構100の断面図である。本実施形態の吸振機構100は、軸部材10に発生する振動を低減するための機構である。軸部材10は、例えば自動車等の車輌に設置されて原動機からの動力を伝達するプロペラシャフトである。軸部材10は、円筒状に形成された中空の長尺部材であり、中心軸(以下「回転軸」という)Cを中心として回転する。図1には、回転軸Cを含む縦断面の構造が図示されている。
【0010】
吸振機構100は、第1ダイナミックダンパ20aと第2ダイナミックダンパ20bとを具備する。第1ダイナミックダンパ20aおよび第2ダイナミックダンパ20bの各々は、軸部材10の内周側(すなわち内部空間)に設置されるシャフト内挿型の動吸振器であり、曲げ共振による軸部材10の振動を低減する。
【0011】
具体的には、第1ダイナミックダンパ20aおよび第2ダイナミックダンパ20bは、回転軸Cの方向に相互に間隔をあけて軸部材10の内周側に並設される。すなわち、第1ダイナミックダンパ20aと第2ダイナミックダンパ20bとは、回転軸Cの方向における相異なる位置に設置される。
【0012】
なお、第1ダイナミックダンパ20aの構造と、第2ダイナミックダンパ20bの構造とは共通する。したがって、以下の説明においては、第1ダイナミックダンパ20aと第2ダイナミックダンパ20bとを「ダイナミックダンパ20」と総称して各々の個別的な説明を適宜に省略する。
【0013】
図2は、ダイナミックダンパ20の構造を例示する正面図および断面図である。図2の正面図(左図)は、ダイナミックダンパ20を中心軸Xの方向からみた正面図である。図2の断面図(右図)は、中心軸Xを含む縦断面(a-a線の断面)の構造を例示する断面図である。図2に例示される通り、本実施形態のダイナミックダンパ20は、取付部21と質量体22と複数の弾性体23と複数の規制部24とを具備する。
【0014】
取付部21は、軸部材10の内周側に取付けられる環状の部分であり、例えばゴム等の弾性材料で形成される。取付部21の外周面が軸部材10の内周面に密着した状態でダイナミックダンパ20は軸部材10に嵌合される。取付部21には筒状のアウターパイプ25が埋設される。アウターパイプ25は、軸部材10に対する取付部21の嵌合力を確保するための補強環であり、例えば金属等の高剛性の材料により形成される。取付部21の中心軸がダイナミックダンパ20の中心軸Xに相当する。
【0015】
質量体22は、取付部21の内周側に位置するダンパマスである。本実施形態の質量体22は、金属等の高剛性の材料により形成された円柱状の構造体である。質量体22の外周面は、例えばゴム等の弾性材料で形成された被覆膜26により被覆される。被覆膜26の外周面は取付部21の内周面に間隔をあけて対向する。
【0016】
複数の弾性体23は、取付部21の内周側において取付部21と質量体22とを連結するダンパバネ(いわゆるゴム足)であり、例えばゴム等の弾性材料により形成される。複数の弾性体23は、中心軸Xを中心とした周方向に相互に間隔をあけて並設される。具体的には、各弾性体23は、取付部21の内周面と、質量体22を被覆する被覆膜26とにわたり径方向に延在する。以上の説明から理解される通り、取付部21の内周側に複数の弾性体23を介して質量体22が連結される。
【0017】
複数の規制部24は、取付部21の内周側に設置される。例えばゴム等の弾性材料により各規制部24は形成される。具体的には、各規制部24は、周方向に相互に隣合う2個の弾性体23の間隔内において取付部21の内周面から突出する突起である。したがって、複数の規制部24は、中心軸Xの方向からみて質量体22の周囲に位置する。
【0018】
各規制部24の頂面は、被覆膜26の表面に間隔をあけて対向する。以上の構成において、軸部材10の回転により質量体22が偏芯すると、質量体22を被覆する被覆膜26の表面が規制部24に接触し、径方向における質量体22の変位が停止する。以上のように質量体22の変位を規制することで、各弾性体23の破損の可能性が低減される。すなわち、各規制部24は、質量体22の径方向の移動を制限するストッパである。
【0019】
なお、本実施形態においては、取付部21と複数の弾性体23と複数の規制部24と被覆膜26とが一体に形成される。ただし、各要素を別体で形成したうえで相互に接合してもよい。
【0020】
図2に例示される通り、質量体22の中心軸Yは、取付部21の中心軸Xに対して所定の偏芯量δだけ偏芯(すなわちオフセット)した状態にある。すなわち、ダイナミックダンパ20が軸部材10に設置されていない初期的な状態において、質量体22は取付部21に対して偏芯している。図2に例示される通り、質量体22の中心軸Yは、中心軸Xに対して偏芯量δの間隔をあけて当該中心軸Xに平行に延在する軸線である。以上の説明から理解される通り、複数の弾性体23は、取付部21の中心軸Xに対して中心軸Yが偏芯した状態で質量体22を支持する。
【0021】
また、本実施形態における質量体22の中心軸Yは、複数の規制部24の中心軸にも相当する。すなわち、複数の規制部24は、取付部21の中心軸Xに対して偏芯量δだけ偏芯した状態にある。複数の規制部24が質量体22と同芯に設置されると換言してもよい。
【0022】
図1には、第1ダイナミックダンパ20aにおける質量体22の中心軸Y(以下「第1中心軸Y1」という)と、第2ダイナミックダンパ20bにおける質量体22の中心軸Y(以下「第2中心軸Y2」という)とが図示されている。第1中心軸Y1は、第1ダイナミックダンパ20aにおける複数の規制部24の中心軸に一致し、第2中心軸Y2は、第2ダイナミックダンパ20bにおける複数の規制部24の中心軸に一致する。
【0023】
図1に例示される通り、第1ダイナミックダンパ20aと第2ダイナミックダンパ20bとは、軸部材10の内周側に同芯に設置される。すなわち、第1ダイナミックダンパ20aにおける取付部21の中心軸Xと、第2ダイナミックダンパ20bにおける取付部21の中心軸Xとは、軸部材10の回転軸Cに一致する。
【0024】
他方、第1ダイナミックダンパ20aにおける質量体22の第1中心軸Y1と、第2ダイナミックダンパ20bにおける質量体22の第2中心軸Y2とは、軸部材10の回転軸Cに一致しない。具体的には、第1中心軸Y1と第2中心軸Y2とは、軸部材10の回転軸Cを挟んで相互に反対側に位置する。例えば、第1ダイナミックダンパ20aおよび第2ダイナミックダンパ20bを軸部材10に圧入する工程において、第1ダイナミックダンパ20aおよび第2ダイナミックダンパ20bの各々の方向(具体的には、中心軸Xを中心とした周方向の角度)が調整される。
【0025】
例えば、図1に例示される通り回転軸Cに垂直なZ軸を想定する。第1中心軸Y1は、Z軸に沿う第1方向z1に回転軸Cから偏芯量δだけ離間した軸線である。他方、第2中心軸Y2は、第1方向z1とは反対の第2方向z2に回転軸Cから偏芯量δだけ離間した軸線である。以上の説明から理解される通り、回転軸Cは、第1中心軸Y1と第2中心軸Y2とから等距離にある軸線とも換言される。
【0026】
ところで、回転軸Cに直交する方向におけるダイナミックダンパ20の固有振動数は、近年の車輌の軽量化等により低下する傾向にある。したがって、複数の規制部24を設置しない構成では、通常領域の回転数のもとで質量体22が過度に偏芯し、結果的に各弾性体23の破損が発生する可能性がある。本実施形態においては、前述の通り質量体22の径方向の移動が規制部24により制限されるから、各弾性体23の破損を有効に防止できる。
【0027】
他方、ダイナミックダンパ20による充分な吸振作用を実現するためには、質量体22(被覆膜26)と各規制部24との間隔を充分に確保する必要がある。しかし、質量体22と各規制部24との間隔が大きい構成では、軸部材10が高速に回転する状況において、軸部材10の全体的なアンバランス量の悪化が顕著となる。本実施形態においては、前述の通り、第1中心軸Y1と第2中心軸Y2とが回転軸Cを挟んで相互に反対側に位置する。以上の構成によれば、高速回転時に特に顕著となる軸部材10のアンバランス量が、第1ダイナミックダンパ20aと第2ダイナミックダンパ20bとにより相殺される。したがって、軸部材10のアンバランス量の悪化を抑制しながら、曲げ共振による軸部材10の振動を低減できる。
【0028】
B:変形例
以上に例示した形態に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0029】
(1)前述の形態においては、質量体22が被覆膜26により被覆された構成を例示したが、被覆膜26を省略してもよい。被覆膜26が省略された構成においては、質量体22が偏芯した場合に当該質量体22の外周面が規制部24に接触する。
【0030】
(2)前述の形態においては、第1ダイナミックダンパ20aの構造と、第2ダイナミックダンパ20bの構造とが共通する構成を例示したが、第1ダイナミックダンパ20aの構造と、第2ダイナミックダンパ20bの構造とが厳密に一致する必要まではない。軸部材10のアンバランス量の悪化を抑制しながら曲げ共振による軸部材10の振動を低減するという前述の効果が実現される範囲内であれば、第1ダイナミックダンパ20aの構造と、第2ダイナミックダンパ20bの構造とが僅かに相違してもよい。
【0031】
また、回転軸Cに対する第1中心軸Y1の偏芯量δと、第2中心軸Y2の偏芯量δとが一致する前述の形態が基本的には好適であるが、前述の効果が実現される範囲内であれば、第1中心軸Y1の偏芯量δと、第2中心軸Y2の偏芯量δとが僅かに相違してもよい。
【0032】
(3)前述の形態においては、本発明の吸振機構が適用される軸部材10として自動車等の車輌のプロペラシャフトを例示したが、本発明が適用される機構は以上の例示に限定されない。中空の軸部材を回転させる任意の機構に本発明の吸振機構が適用される。
【符号の説明】
【0033】
100…吸振機構、
10…軸部材、
20…ダイナミックダンパ、
20a…第1ダイナミックダンパ、
20b…第2ダイナミックダンパ、
21…取付部、
22…質量体、
23…弾性体、
24…規制部、
25…アウターパイプ、
26…被覆膜、
C…回転軸、
X…中心軸、
Y…中心軸、
Y1…第1中心軸、
Y2…第2中心軸。
図1
図2