IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコンの特許一覧

特許7327728高効率低温コーティングを行うコーティング装置
<>
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図1
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図2
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図3
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図4
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図5a
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図5b
  • 特許-高効率低温コーティングを行うコーティング装置 図5c
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】高効率低温コーティングを行うコーティング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230808BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C23C14/24 L
C23C14/54 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020505180
(86)(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 EP2018071028
(87)【国際公開番号】W WO2019025559
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】00993/17
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ギモンド,セバスチャン
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503749(JP,A)
【文献】国際公開第2016/116383(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0057087(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空コーティング処理を行うための真空コーティングのチャンバを備えるコーティング装置であって、
前記真空コーティングのチャンバは、
内側(1b)及び冷却側(1a)を有する1つ又は複数の冷却チャンバ壁(1)と、
前記チャンバの内部に1つ又は複数の取り外し可能な遮蔽板(2)として配置される保護シールドであって、前記取り外し可能な遮蔽板(2)が前記1つ又は複数の冷却チャンバ壁(1)の前記内側(1b)の表面の少なくとも一部を覆う保護シールドと、
を備え、
少なくとも1つの前記取り外し可能な遮蔽板(2)は、前記取り外し可能な遮蔽板(2)によって覆われた前記冷却チャンバ壁(1)の前記内側(1b)の前記表面に対して間隙(8)を形成して配置され、
熱伝導手段(9)が、前記冷却チャンバ壁(1)の前記内側(1b)の前記表面の全体のうち前記取り外し可能な遮蔽板(2)によって覆われた前記内側(1b)の少なくとも一部に対応する領域の間隙(8)を埋めるように配置され、
前記熱伝導手段(9)は、前記取り外し可能な遮蔽板(2)とそれぞれ覆われた前記冷却チャンバ壁(1)との間の伝導熱伝達を可能にし、
前記熱伝導手段(9)は、
それぞれ覆われた前記冷却チャンバ壁(1)の前記内側(1b)に面する前記遮蔽板(2)の側の遮蔽接触面(A)に配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面(9a)、及び/又は
それぞれ覆われた前記冷却チャンバ壁(1)の前記内側(1b)の壁接触面(B)に配置された少なくとも1つの壁隆起面(9b)と、 前記遮蔽接触面(A)と前記壁接触面(B)の間の前記間隙(8)の残りを埋めるように配置された熱橋材料(9c)と、を備え、
前記間隙(8)の残りは前記遮蔽隆起面(9a)及び/又は前記壁隆起面(9b)で占有されず、
前記熱橋材料(9c)は、前記遮蔽接触面(A)と前記壁接触面(B)の間の伝導熱伝達のための熱界面を形成し、
前記熱橋材料(9c)は炭素箔であることを特徴とする、コーティング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング装置であって、
前記冷却チャンバ壁(1)の1つ又は複数がチャンバ横壁であって、
1つ又は複数のコーティング源が前記チャンバ横壁の1つに配置されることを特徴とする、コーティング装置。
【請求項3】
少なくとも1つの前記取り外し可能な遮蔽板(2)及び前記冷却チャンバ壁(1)の覆われた各部分の両方が、対応物として設計された熱伝導手段を備えた接触領域を含み、
前記対応物は、前記対応物を一時的に固定可能なクランプ手段を備え、
前記対応物の一時的な固定中に、前記対応物は熱的に接続されることを特徴とする、請求項2に記載のコーティング装置。
【請求項4】
前記炭素箔は自己接着性炭素箔であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコーティング装置。
【請求項5】
前記遮蔽隆起面(9a)は前記遮蔽板(2)の一部であり、且つ/又は、
壁隆起面(9b)は冷却チャンバ壁(1)の一部であること特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティング装置。
【請求項6】
前記遮蔽隆起面(9a、9b)は前記遮蔽板の一部として設計可能であること特徴とする、請求項4から5のいずれか一項に記載のコーティング装置。
【請求項7】
冷却流体が前記冷却チャンバ壁を冷却するために使用されること特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティング装置。
【請求項8】
前記間隙(8)は約5mm~約20mmの範囲にあること特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティング装置。
【請求項9】
少なくとも1つの基板がコーティングされるステップを含み、
コーティング処理は、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置において行われること特徴とする、方法。
【請求項10】
コーティング処理中、コーティングされる前記基板は200℃未満の温度に維持されること特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率低温コーティング処理を行うことができるように、コーティングチャンバの内部から外部への熱放散を増加させることができる構成を有するコーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空コーティング処理を行うための真空コーティングチャンバとして使用される真空チャンバには、通常、取り外し可能な保護シールドが設けられており、保護シールドは真空コーティングチャンバの壁の内面を覆うように配置されているため、覆われた内面がコーティング処理中に意図せずコーティングされることを防ぐことができる。
【0003】
コーティング処理中にコーティングチャンバの壁の内面がやむを得ずコーティングされると、コーティング層の蓄積が生じ、このような条件下で製造される被膜製品のコーティング品質に影響を与える可能性がある。これは、例えば、堆積されたコーティング層の制御不能な剥離によって生じるコーティング汚染により引き起こされる可能性がある。また、コーティング処理中の条件の望ましくない変更から、コーティング特性が不十分なものとなる可能性がある。これは、例えば、非導電性材料からなるコーティング層の蓄積に起因するアークにより生じる可能性がある。
【0004】
この種の保護シールドの使用には明らかな利点がある。主な利点は、コーティングチャンバの壁の内面の代わりに保護シールドの表面がコーティングされることである。そうすることで、1つ又は複数のコーティング処理の後に、コーティングチャンバから保護シールドを取り出し、保護シールド表面に堆積したコーティング層を簡単な方法で、例えばサンドブラストなどの公知の化学的又は機械的剥離処理を用いて除去することができる。
【0005】
図1は従来の真空チャンバ(1)を示し、真空チャンバ(1)は、このような保護シールドを備え、コーティング処理を行うために設計された真空コーティングチャンバとして使用される。
【0006】
コーティング処理を行うために用いられる典型的な真空コーティング技術は、例えば物理蒸着(PVD)技術(例えばマグネトロンスパッタリング(MS)、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)(大電力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)とも言う)、アーク蒸発(ARC))及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)技術(プラズマ支援化学蒸着(PACVD)技術とも言う)(最も一般的に用いられる真空コーティング技術の一部のみ)である。この種の技術は、通常、コーティングする基板に所定の熱負荷を与える。この所定の熱負荷は、基本的にプラズマ特性と堆積速度に依存する。
【0007】
上記全ての真空コーティング技術は、通常0.1Paから10Paの圧力範囲で行われるため、コーティングされる1つ又は複数の基板からチャンバ内に配置された他の面又は物体への熱放散の主なメカニズムは熱放射によって制限される。
【0008】
図1の真空コーティングチャンバは、処理温度を調整するために水冷される外側を有するチャンバ壁1を備える。この真空コーティングチャンバは、チャンバ壁1の内側1bの表面を覆うために真空コーティングチャンバの内部に設けられる遮蔽板2として構成された保護シールドをさらに備える。遮蔽板2は、それらをチャンバから取り出し、コーティング処理中に遮蔽板2に堆積したコーティング層を除去するサンドブラスト処理を行うことを可能にするため、取り外し可能にチャンバ内に配置される。
【0009】
遮蔽板2は、チャンバ壁1の内面1bに対して間隙8を形成するように配置される。
【0010】
この間隙内に含まれる空間はコーティング処理中に真空下にある。これにより、圧力は、通常、非常に高い真空(<1×10-10Pa)から10Paの間で変化する可能性がある。したがって、熱交換はほとんど放射によって可能である。このため、この空間内の熱交換に関する主な役割は、関連する放射面の放射率特性によって果たされる。
【0011】
図1に放射ヒーターは描かれていないが、真空コーティングチャンバは、コーティングされる基板3を加熱するためにチャンバ内に熱を導入するための熱源として使用できる1つ又は複数の放射ヒーターを備えてもよい。
【0012】
図1のコーティングチャンバは、例えば、1つ又は複数のコーティング源4を備えてもよい。コーティング源は、例えば、アーク蒸発源、マグネトロンスパッタリング源、又はコーティングの形成に使用される他の種類の材料源であってもよい。この材料は、通常、材料のイオンを含む又は材料の少なくとも一部の成分のイオンを含むプラズマが生成されるコーティング処理を行うような方法で、蒸発、スパッタリング、又は活性化される。そうすることで、熱が生成され、コーティングチャンバに放散される。
【0013】
このようにして生成された熱は、チャンバに配置されたコーティングされる基板だけでなく、遮蔽板2にも直接伝達できることを考慮することが重要である。
【0014】
コーティング源4及び加熱ラジエーターによって生成される上記の熱流とは別に、バイアス電圧源5を使用することで、いわゆるバイアス電圧の印加によってさらなる熱流を生成してもよい。
【0015】
バイアス電圧は、通常、上記のコーティング源のプラズマとコーティングされる基板との間の電位差を増大させるため、コーティングされる基板に通常印加される少なくとも主に負の電圧であり、これにより、プラズマに含まれる正に帯電したイオンのコーティングされる基板表面への加速が生じる。
【0016】
このバイアス電圧は、例えば、電源によって提供される一定のDC電圧信号、パルスDC電圧信号、又はバイポーラパルスDC電圧信号として基板に印加されてもよい。
【0017】
上記の場合、コーティングチャンバの内部と外部の間の熱平衡を分析するには、基本的に少なくとも以下の側面を考慮する必要がある。
-いずれの場合においても、コーティングチャンバ内のプラズマから引き出された電流にバイアス電圧を乗じたものが、基板表面で直接熱として放散される。定常状態において、熱流の入力と熱流の出力の間の平衡が達成される。
・入力は熱平衡領域に入る熱流に対応する(この場合:熱平衡領域=コーティングチャンバ)。例えば、
・1つ又は複数のコーティング源によって生成された1つ又は複数のプラズマによって放散される熱流
・コーティングされる1つ又は複数の基板にバイアス電圧を印加することで生成される熱流
・1つ又は複数のヒーター(例えば、放射ヒーター)によって生成される熱流
・出力は熱平衡領域から出る熱流に対応する。例えば、
・コーティングチャンバの内部から冷却水に放散される熱流
【0018】
さらに、コーティングチャンバ内の熱平衡を分析するために、例えばコーティングチャンバの壁1に伝達される熱流を計算するため、熱交換、特にコーティングチャンバ内に配置された異なる物体間の放射熱も考慮する必要があるだろう。この場合、物体は基本的にコーティング源、放射ヒーター、コーティングされる基板、遮蔽板2及び水冷壁1である。
【0019】
温度感受性材料を含む又は温度感受性材料からなる基板は、特に低い処理温度でコーティングする必要がある。このような場合、処理中の基板温度を限界温度未満に維持する必要があり、限界温度を超えると基板材料特性が損なわれる可能性がある。
【0020】
同様に、所望のコーティング材料特性及び必要なコーティング品質を得るために、コーティングされる基板表面で特に低い処理温度で合成される必要があるコーティング材料がある。また、このような場合、処理中の基板温度を限界温度未満に維持する必要があり、限界温度を超えると、必要な特性又は必要な品質を示すコーティング材料を合成することができない。
【0021】
上記のように、本発明の文脈における低温コーティング処理という用語は、温度感受性基板又は温度感受性コーティングが損なわれることを回避するためにコーティング処理中に超えてはならない温度に関連する。
【0022】
本発明の文脈において、そのような低温コーティング処理は、例えば、以下のステップのうちの1つ又は複数を含むコーティング処理であることが理解されるべきである。
・1つ又は複数のプラスチック材料(例えばPEEK、PC、ABS、PC/ABS)を含むプラスチック基板上の膜堆積
・180℃の温度を超えてはならない1つ又は複数の鋼材料(例えば100Cr6)を含む鋼基板上の膜堆積
・DLC膜(例えばタイプa-C:H又はTA-Cの膜)、特に200℃以下又は180C以下のコーティング処理温度で堆積される必要があるようなDLC膜の堆積
【0023】
これに関して、上記のステップの2つに関連する1つの典型的な低温コーティング処理は、例えば、低再結晶温度を有する鋼材料からなるコンポーネント上に200℃未満のコーティング処理温度を必要とするDLC膜の堆積であろう。
【0024】
Krassnitzerらは国際公開WO20161166384A1公報及び国際公開WO201616383A1公報において、コーティングチャンバの内部から外部への熱放散を増加できるように保護シールドを提供することを提案している。上記文献における提案の保護シールドの配置をそれぞれ図2及び図3に概略的に示す。
【0025】
国際公開WO2016116384A1公報では、真空チャンバを使用することでチャンバの内部から外部への熱放散を調整することが提案されている。真空チャンバ内において、チャンバ壁20とコーティングされる基板を配置するためのコーティングチャンバの領域(以下、この領域をコーティング領域とも言う)との間に遮蔽板30が配置されている。遮蔽板30は、第1及び第2の面を備え、第1の面がこの領域から離れて内側チャンバ壁側に面するように配置される。遮蔽板のこの第1の面には、コーティング処理中にε≧0.65に相当する放射率を有する第1の層31が少なくとも部分的に、好ましくは大きく提供される(図2参照)。
【0026】
国際公開WO2016116383A1公報では、コーティングチャンバの内部に熱シールド30’を設けることで処理温度を制御することが提案されている。熱シールド30’は温度制御可能なチャンバ壁20’に配置され、熱シールド30’はチャンバ壁20’の内側に直接隣接する少なくとも1つの交換可能な放熱シールド31’を備える。チャンバ壁20’に向けられた放熱シールド31’の第1の放射面311’は所定の第1の熱交換係数εD1を有し、チャンバ壁20’から離れる方向に向けられた放熱シールド31’の第2の放射面312’は所定の第2の熱交換係数εD2を有し、第1の交換係数εD1は第2の熱交換係数εD2よりも大きい(図3参照)。
【0027】
上記2つの提案は、コーティングチャンバの内部から外部への熱放散の増加を調整するのに役立ち、このような方法で低温コーティング処理の実施を可能にする。しかし、低温コーティング処理では特に膜堆積速度の点でより高い効率が依然として要求されている。
【0028】
これに関して、Heらは国際公開WO2000056127A1公報において、低温コーティング処理を行う方法、詳細には、低い基板温度を維持することでDLCを製造する方法を提案している。ここでは、高周波誘導結合プラズマ源が膜堆積に使用され、基板温度は水冷基板ホルダを使用することで調整される。水冷基板ホルダでは、負のパルス電圧信号を使用してバイアス電圧が印加される。しかし、ほとんどの場合、Heらによって提案される冷却基板ホルダの使用は、大きな回転カルーセルが基板ホルダとして使用されるバッチコーティングシステムに適した解決方法ではない。
【発明の概要】
【0029】
本発明の主な目的は、冷却された基板ホルダを使用する必要なく低温コーティング処理を行うことができるコーティング装置を提供することである。
【0030】
本発明のコーティング装置は、低温コーティング処理が行われるとき、堆積速度の増加の点で高効率を達成できることが好ましい可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の目的は、高効率低温コーティング処理を行うことができるように、コーティングチャンバの内部から外部への熱放散を増加させることが可能な本発明の構成を備える本発明のコーティング装置を提供することで達成されてもよい。
【0032】
本発明のコーティング装置は、真空コーティング処理を行うための真空コーティングチャンバを備え、真空コーティングチャンバは図4に概略的に示される。真空コーティングチャンバは以下を備える。
・内側1b及び冷却側1aを有する1つ又は複数の冷却チャンバ壁1
・チャンバの内部に1つ又は複数の取り外し可能な遮蔽板2として配置される保護シールドであって、遮蔽板2が1つ又は複数の冷却チャンバ壁1の内側1bの表面の少なくとも一部を覆うもの
ここで、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2は、取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた冷却チャンバ壁1の内側1bの表面に対して間隙8を形成して配置され、
熱伝導手段9は、冷却チャンバ壁1の内側1bの表面全体のうち取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた少なくとも一部に対応する延長部の間隙8を埋めるように配置され、
熱伝導手段9は、取り外し可能な遮蔽板2とそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1との間の伝導熱伝達を可能にする。
【0033】
間隙は、例えば約5mm~20mmの範囲にあってもよいが、この範囲に限定されない。
【0034】
本発明の好適な一実施形態によれば、熱伝導手段9は以下を備える。
・それぞれ覆われた冷却チャンバ壁1aの内側1bに面する遮蔽板2の側の遮蔽接触面Aに配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面9a及び/又はそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1の内側1bの壁接触面Bに配置された少なくとも1つの壁隆起面9b
・遮蔽接触面Aと壁接触面Bの間の間隙8の残りを埋めるように配置された熱橋材料9cであって、間隙8の残りは遮蔽隆起面9a及び/又は壁隆起面9bで占有されず、遮蔽接触面Aと壁接触面Bの間の伝導熱伝達のため熱界面を形成するもの
【0035】
本発明の別の好適な一実施形態によれば、熱伝導手段9は以下を備える。
・それぞれ覆われた冷却室壁1aの内側1bに面する遮蔽板2の側の遮蔽接触面Aに配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面9a及びそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1の内側1bの壁接触面Bに配置された少なくとも1つの壁隆起面9b
【0036】
すぐ上で説明したこの実施形態では、熱橋材料9cの使用は任意であってもよく、少なくとも1つの遮蔽隆起面9aと少なくとも1つの壁隆起面9bが互いに密接して配置される場合、遮蔽接触面Aと壁接触面Bとの間の伝導熱伝達のため熱界面が形成され、このようにして熱橋材料9cの有無に関わらず伝導熱伝達が可能になる。
【0037】
本発明の別の好適な一実施形態によれば、熱橋材料9cは炭素箔として設けられる。
【0038】
好ましくは、炭素箔は自己接着性炭素箔である。
【0039】
遮蔽板表面、詳細には熱伝導手段9(遮蔽隆起面9a又は熱橋材料)と直接接触する遮蔽接触面Aを通る高伝導熱伝達を可能にするため、遮蔽板の材料と厚さを慎重に選択することが非常に重要である。
【0040】
これに関して、発明者らは、遮蔽板2及び隆起面9a、9bが、良好な交差熱伝導性を有するため、高熱伝導材料からなり、適切な厚さを有することを提案する。
【0041】
本発明の好適な一実施形態によれば、遮蔽板2及び隆起面9a、9bは100W/mKを越える熱伝導率を有する熱伝導材料からなる。
【0042】
本発明の文脈において、熱伝達としての非常に良好な伝導は、遮蔽板2とアルミニウム合金からなる隆起面9a、9bを使用することで達成される。
【0043】
本発明の文脈において、遮蔽板及び隆起面9a、9bを製造するのに非常に適した高熱伝導材料である別の1つの材料はアルミニウムである。
【0044】
遮蔽板2の厚さ及び遮蔽隆起面9a、9bの厚さは、例えば3mm~12mm、より好ましくは6mm~10mmであってもよい。
【0045】
しかし、上記厚さ範囲は提案する範囲であり、本発明を限定するものではない。
【0046】
遮蔽隆起面は遮蔽板の一部として設計されてもよい。そのような場合、遮蔽板の厚さは、例えば約9mmになるように選択されてもよく、遮蔽板の接触領域は、3mmのさらなる厚さを有する遮蔽隆起面として設計されてもよい。
【0047】
壁隆起面は冷却真空チャンバ壁の一部として設計されてもよい。
【0048】
遮蔽隆起面9aを備えた遮蔽板はセグメントとして設けられてもよく、各セグメントが冷却チャンバ壁の表面を覆うように設けられてもよい。
【0049】
このようにして、複数の熱伝導界面を介して、冷却チャンバ壁の選択された接触表面領域を介した伝導による熱伝達を増加させ最適化することができる。
【0050】
本発明のチャンバ壁を冷却するために使用することができる好ましい冷却流体は、例えば冷水であり、例えば周囲空気の露点よりも高い温度を有するべきである。
【0051】
本発明の好適な実施形態によれば、1つ又は複数の熱伝導界面は、熱架橋材料9cとは別に、遮蔽隆起面9aと壁隆起面9bの両方を含む。
【0052】
保守を容易にするため、遮蔽隆起面9a及び遮蔽隆起面9bは、クランプ機構によって共に密接して保持することができる対応物として設計されてもよく、各対応物が対応する対応物に固定されてもよい。熱伝導率を向上させるため、熱橋材料9cが2つの対応物の間に設けられる必要がある。この場合において、また他の場合においても、熱橋材料9cは自己接着性炭素箔であってもよい。この自己接着性炭素箔は、例えば、Kunze社によって製造されたKU-CB1205-AVタイプの自己接着性炭素箔であってもよい。
【0053】
クランプ機構は、例えば1つ又は複数のリリーススクリューを備えたファーストロックからなるものであってもよい。このようにして、隆起面9a、9bはクランプ解除可能であり、定期的なサンドブラスト及び洗浄を可能にするため、遮蔽板が非常に簡単な方法で取り外し可能であってもよい。
【0054】
図5は、本発明の真空コーティングチャンバで使用可能な遮蔽板の2つの例を示す。図5a及び図5bに概略的に示す遮蔽板は、例えば、コーティング源又は加熱素子が配置されていない冷却チャンバ壁を覆うために使用されてもよい。図5aは保守を受けることが必要な遮蔽板の後ろ側2aを示し、図5bは該遮蔽板の前側2cを示す。
【0055】
一方、図5cに概略的に示す遮蔽板は、例えば、3つの円形部品が配置される冷却チャンバ壁を覆うために使用されてもよい。図5cは遮蔽板の後ろ側2aを示す。
【0056】
上記のとおり、遮蔽隆起面9aは、チャンバ壁の内側1bに面する遮蔽板の後ろ側2aに設けられるべきである。
【0057】
例示として、遮蔽板の接触面Aを図5に示す。この例では、このような接触面Aは遮蔽隆起面9aとして設計され、遮蔽板の一部である。
【0058】
しかし、接触面Aに隆起面9aを別個に設けることも可能である。
【0059】
本発明のコーティング装置は、コーティングされる基板の間接冷却を可能にし、このようにして、温度感受性基板材料のコーティング中に低い処理温度、つまり、低い基板温度を維持することができる。
【0060】
本発明により、温度感受性コーティングを高い堆積速度で合成可能なコーティング処理を行うことがさらに可能になる。
【0061】
これは、本発明によれば、ヒートシンクとして機能するように保護シールドを遮蔽板として設けることで、コーティングされる基板から保護シールドへの正味放射熱流束を増加させることにより達成される。
【0062】
発明者らは、熱伝導手段が遮蔽板と冷却チャンバ壁との間の効率的な伝導熱交換を可能にするように、遮蔽板と冷却チャンバ壁との間に熱伝導手段9を設けることにより、遮蔽板がヒートシンクとして機能することを実現した。
【0063】
遮蔽板と冷却チャンバ壁との間の伝導熱交換を可能にする一つの好適な方法は、保護シールドと冷却チャンバ壁との間に接触領域を設けることを含む。好ましくは、熱伝導手段は、上記のような接触領域を備えるように設計され、冷却チャンバ壁に対する保護シールドの取り外し可能な固定を可能にする。
【0064】
本発明の文脈における用語「取り外し可能な固定」とは、詳細には、第1の対応物とみなされる保護シールドの領域及び第2の対応物とみなされるチャンバ壁の領域に、各チャンバ壁に保護シールドを一時的に固定可能なクランプ手段が設けられることを意味する。固定中、第1及び第2の対応物が共に密接して保持され、第1及び第2の対応物を熱的に接続することができる。熱橋材料の使用は必須ではないが、詳細には熱橋材料として自己接着性炭素箔を使用することにより、伝導熱伝達の向上に役立つ。
【0065】
本発明のコーティングされる基板から保護シールドへの放射熱流束の適切な増加を実現するため、ヒートシンクとして機能する保護シールドは、冷却チャンバ壁1の内側1bの表面の50%超を覆うことがさらに推奨される。
【0066】
発明者らは、本発明のコーティング装置を使用して幾つかの実験を実施し、本発明のコーティング装置が、基板温度を50℃~250℃の範囲に維持する必要がある低温コーティング処理を行うのに最適であると判断した。
【0067】
詳細には、発明者らは低温コーティング処理を行い、DLC膜及びta-C膜が基板上に堆積され、基板の温度は80℃~180℃の温度範囲に維持された。
【0068】
しかし、本発明のコーティング装置の使用は、250℃の基板温度を超えてはならないコーティング処理に限定されない。
【0069】
本発明のコーティング装置は、次のようなコーティング処理を行うのに特に適している。
・基板温度が300℃を超えない
・PECVD技術を用いてDLC膜を堆積させるため
・PVD ARC技術を用いてta-C膜を堆積させるため
・PVD ARC技術を用いてMoN膜を堆積させるため
・マグネトロンスパッタリング、HiPIMS又は同様の技術を用いて硬質炭素膜を堆積するため
【0070】
本発明のコーティング装置を使用する技術的利点を、図1に示すような従来技術のコーティング装置を使用することで得られる結果と、図2に示すような本発明のコーティング装置を使用することで得られる結果とを比較することにより、より詳細に説明する。コーティング装置は両方とも直径650mm×700mmの真空チャンバサイズを有する。
【0071】
例1
この例では、発明者らは、本発明の熱伝導手段を使用した場合と熱伝導手段を使用しない場合とで実施したコーティング処理の熱伝達シミュレーションを比較する。
【0072】
シミュレーションは、様々な冷却条件の関数として、どのような種類の入力電力により150℃の基板温度が与えられるかを予測する。
【0073】
膜堆積速度の増加は、コーティング源の電力の増加に対応する。 比較結果を以下の表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
例2
この例では、第1の実験は、本発明の熱伝導手段を備えない従来技術のコーティング装置で実施された。第2の実験は、本発明の熱伝導手段を備えるコーティング装置で実施された。両方の場合において、DLC膜は同じHiPIMS技術を用いることで堆積された。
【0076】
2つの実験において、冷却水の温度は40℃に維持され、冷却水の流量は一定に保たれた。第2の実験を実施するため、コーティング源とバイアス電圧によって真空チャンバに入力される電力が増加された。他の全てのコーティングのパラメータは一定に保たれた。
【0077】
驚くべきことに、発明者らは、以下の表2に示すように、本発明のコーティング装置を使用することで、従来技術を用いる場合と比較して、基板温度の低下だけでなく堆積速度の大幅な上昇も達成されることを発見した。
【0078】
【表2】
【0079】
例3
この例でも、第1の実験は、本発明の熱伝導手段を備えない従来技術のコーティング装置で実施された。第2の実験は、本発明の熱伝導手段を備えるコーティング装置で実施された。
【0080】
両方の場合において、CrN膜は同じHiPIMS技術を用いることで堆積された。
【0081】
2つの実験において、冷却水の温度は40℃に維持され、冷却水の流量は一定に保たれた。他の全てのコーティングのパラメータは一定に保たれた。
【0082】
この例において、驚くべきことに、発明者らは、以下の表3に示すように、本発明のコーティング装置を使用することで、堆積速度に影響を与えることなく基板温度の大幅な低下が達成されることを発見した。
【0083】
【表3】
【0084】
本発明のさらなる可能な変形例を以下の段落で説明する。
【0085】
コーティング装置は、好ましくは、真空コーティング処理を行うための真空コーティングチャンバを備え、真空コーティングチャンバは以下を備える。
・内側1b及び冷却側1aを有する1つ又は複数の冷却チャンバ壁1
・チャンバの内部に1つ又は複数の取り外し可能な遮蔽板2として配置される保護シールドであって、遮蔽板2が1つ又は複数の冷却チャンバ壁1の内側1bの表面の少なくとも一部を覆うもの
ここで、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2は、取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた冷却チャンバ壁1の内側1bの表面に対して間隙8を形成して配置され、
熱伝導手段9は、冷却チャンバ壁1の内側1bの表面全体のうち取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた少なくとも一部に対応する延長部の間隙8を埋めるように配置され、熱伝導手段9は、取り外し可能な遮蔽板2とそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1との間の伝導熱伝達を可能にする。
【0086】
コーティング装置は、好ましくは、真空コーティング処理を行うための真空コーティングチャンバを備え、真空コーティングチャンバは、チャンバ横壁、チャンバの内部に配置された保護シールド及びチャンバ横壁の1つに配置された1つ又は複数のコーティング源を備える。
・横壁の1つ又は複数は内側1b及び冷却側1aを有する冷却チャンバ壁1であり、保護シールドの1つ又は複数は、1つ又は複数のコーティング源が配置された冷却チャンバ横壁1の1つの内側1bの表面の少なくとも一部を覆う取り外し可能な遮蔽板2として配置される。
ここで、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2は、取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた冷却チャンバ横壁1の内側1bの表面に対して間隙8を形成して配置され、
熱伝導手段9は、冷却チャンバ横壁1の内側1bの表面全体のうち少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2によって覆われた少なくとも一部に対応する延長部の間隙8を埋めるように配置され、熱伝導手段9は、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2と冷却チャンバ横壁1の覆われた各部分との間の伝導熱伝達を可能にする。
【0087】
好ましくは、1つ又は複数のコーティング源4がチャンバ横壁1に取り付けられる。好ましくは、コーティングされる基板3はチャンバ壁1に平行に配置される。チャンバ横壁1に加えて、コーティングチャンバは好ましくは、上部及び下部にチャンバ壁1を備える。本発明の意味において、一般的に設置されたコーティングチャンバでは、横方向は垂直方向として理解されてもよい。この意味で、これに応じて横壁は水平方向に直交する。
【0088】
好ましくは、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2及び冷却チャンバ横壁1の覆われた各部分の両方が、対応物として設計された熱伝導手段を備えた接触領域を含み、対応物は、対応物を一時的に固定可能なクランプ手段を備え、対応物の一時的な固定中に、対応物は熱的に接続される。
【0089】
好ましくは、熱伝導手段9は以下を備える。
・それぞれ覆われた冷却チャンバ壁1aの内側1bに面する遮蔽板2の側の遮蔽接触面Aに配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面9a及び/又はそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1の内側1bの壁接触面Bに配置された少なくとも1つの壁隆起面9b
【0090】
好ましくは、熱伝導手段9は以下を備える。
・遮蔽接触面Aと壁接触面Bの間の間隙8の残りを埋めるように配置された熱橋材料9cであって、間隙8の残りは遮蔽隆起面9a及び/又は壁隆起面9bで占有されず、遮蔽接触面Aと壁接触面Bの間の伝導熱伝達のための熱界面を形成するもの
【0091】
好ましくは、熱伝導手段9は以下を備える。
・互いに密接して配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面9a及び少なくとも1つの壁隆起面9bであって、取り外し可能な遮蔽板2とそれぞれ覆われた冷却チャンバ壁1との間の伝導熱伝達を可能にする熱界面を形成するもの
【0092】
好ましくは、熱伝導手段9は以下を備える。
・密接に配置された少なくとも1つの遮蔽隆起面9aと少なくとも1つの壁隆起面9bの間の接触面に配置された熱橋材料9cであって、熱界面を形成するもの
【0093】
好ましくは、熱橋材料9cは炭素箔である。
【0094】
好ましくは、炭素箔は自己接着性炭素箔である。
【0095】
好ましくは、遮蔽隆起面9aは遮蔽板2の一部であり、且つ/又は、壁隆起面9bは冷却チャンバ壁1の一部である。
【0096】
好ましくは、間隙8は約5mm~約20mmの範囲にある。
【0097】
好ましくは、遮蔽板2の厚さ及び遮蔽隆起面9a、9bの厚さは、約3mm~約12mm、好ましくは6mm~10mmである。
【0098】
好ましくは、遮蔽隆起面9a、9bは遮蔽板の一部として設計されてもよい。
【0099】
好ましくは、遮蔽板の厚さは約9mmである。好ましくは、遮蔽板2の接触領域は、3mmのさらなる厚さを有する遮蔽隆起面9a、9bとして設計される。
【0100】
好ましくは、遮蔽隆起面9aを備えた遮蔽板はセグメントとして設けられてもよく、各セグメントが冷却チャンバ壁の表面を覆うように設けられてもよい。
【0101】
好ましくは、冷却流体がチャンバ壁を冷却するために使用される。好ましくは、冷却流体は水である。好ましくは、水の温度は周囲空気の露点よりも高い。
【0102】
好ましくは、遮蔽隆起面は冷却真空チャンバ壁1の一部である。
【0103】
好ましくは、遮蔽隆起面9a、9bは遮蔽板2の端部の近くに配置される。この場合、熱冷却が非常に向上する。さらに、熱応力に起因して遮蔽板2が折れ曲がることが少なくなる。
【0104】
好ましくは、少なくとも1つの取り外し可能な遮蔽板2は各冷却チャンバ壁1に配置される。
【0105】
好ましくは、各チャンバ壁1は冷却される。
【0106】
好ましくは、方法は、少なくとも1つの基板がコーティングされるステップを含み、コーティングステップは、前段落のいずれかの装置において行われることを特徴とする。
【0107】
好ましくは、コーティング処理中、コーティングされる基板は200℃未満の温度に維持される。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c