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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】化粧料保持用担体、及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   A45D 34/04 20060101AFI20230808BHJP
   A45D 33/34 20060101ALN20230808BHJP
【FI】
A45D34/04 535B
A45D34/04 535A
A45D34/04 535Z
A45D33/34 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021524812
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021343
(87)【国際公開番号】W WO2020246386
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019103543
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591254958
【氏名又は名称】株式会社タイキ
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】櫟 彰子
(72)【発明者】
【氏名】土居 元子
(72)【発明者】
【氏名】大平 寿彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 興司
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-116311(JP,A)
【文献】特開2000-000115(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0060577(KR,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0488529(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 34/04
A45D 33/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料を含浸させて保持するために用いられる化粧料保持用担体であって、
前記化粧料保持用担体は、複合繊維及びポリエステル繊維を構成繊維とし、
前記複合繊維は、溶融温度の異なる2種類の樹脂を用いた芯鞘型複合繊維であって、芯部分に用いられる溶融温度の高い樹脂が熱可塑性ポリエステルであり、鞘部分に用いられる溶融温度の低い樹脂がポリエステル又は熱可塑性ポリエステル系エラストマーであり、
前記化粧料保持用担体は、前記溶融温度の低い樹脂を溶融させることによって構成繊維同士の接触部を融着させた三次元立体構造体を有しており、且つ不溶出性の抗菌剤として4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が前記構成繊維の表面に固着されており、
前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする化粧料保持用担体。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の固着前における前記化粧料保持用担体の重量に対する、前記固着後における前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌成分の重量の割合である抗菌剤固着濃度が、0.5%以上である請求項1に記載の化粧料保持用担体。
【請求項3】
化粧料保持用担体に化粧料を含有させた化粧料含有担体と、
前記化粧料含有担体を収納する容器とを備える化粧品であって、
前記化粧料保持用担体は、複合繊維及びポリエステル繊維を構成繊維とし、
前記複合繊維は、溶融温度の異なる2種類の樹脂を用いた芯鞘型複合繊維であって、芯部分に用いられる溶融温度の高い樹脂が熱可塑性ポリエステルであり、鞘部分に用いられる溶融温度の低い樹脂がポリエステル又は熱可塑性ポリエステル系エラストマーであり、
前記化粧料保持用担体は、前記溶融温度の低い樹脂を溶融させることによって構成繊維同士の接触部を融着させた三次元立体構造体を有しており、且つ不溶出性の抗菌剤として4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が前記構成繊維の表面に固着されており、
前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする化粧品。
【請求項4】
前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の固着前における前記化粧料保持用担体の重量に対する、前記固着後における前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌成分の重量の割合である抗菌剤固着濃度が、0.5%以上である請求項3に記載の化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料を含浸させて保持するために用いられる化粧料保持用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ファンデーションなどの液状化粧料をコンパクトなどの化粧品容器内に収容した化粧品が、市販されている。上記の化粧品容器は、容器本体および蓋体を有し、容器本体内に、液状化粧料を含浸させた化粧料含有担体を収納している。この化粧料含有担体は、化粧料を保持するために用いられる化粧料保持用担体に、液状化粧料を含浸させたものである。化粧料保持用担体には、化粧料を含浸させたときの安定した化粧料の維持性、化粧料の含浸性、及び化粧料を取る際のクッション性を向上させる観点から、ポリウレタン系、ゴム系、不織布といった材料のスポンジが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-533196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のような液状化粧料を含浸させた化粧料含有担体をコンパクトなどの化粧品容器内に収容した化粧品では、液状化粧料を(そのまま)ビンやチューブ等の化粧品容器内に収容した化粧品と比較して、菌やかびといった汚染の危険性が高く、消費者も衛生面を懸念し始めている。しかしながら、従来の(液状化粧料を含浸させる前の)化粧料保持用担体の抗菌処理に使用されている、ZPT(ジンクピリチオン)等の有機亜鉛錯体の抗菌剤は、溶出するタイプの抗菌剤であるため、化粧料含有担体(化粧料保持用担体)から溶出した抗菌剤が化粧料と混ざって、化粧料をつけたユーザの肌に悪影響を及ぼす可能性があるし、抗菌効果が持続しない。従って、化粧料保持用担体から抗菌剤が溶出せず、抗菌効果(抗かび効果を含む)が持続する化粧料保持用担体が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、抗菌剤が溶出せず、抗菌効果が持続する化粧料保持用担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による化粧料保持用担体は、化粧料を含浸させて保持するために用いられる化粧料保持用担体であって、前記化粧料保持用担体は、複合繊維及びポリエステル繊維を構成繊維とし、前記複合繊維は、溶融温度の異なる2種類の樹脂を用いた芯鞘型複合繊維であって、芯部分に用いられる溶融温度の高い樹脂が熱可塑性ポリエステルであり、鞘部分に用いられる溶融温度の低い樹脂がポリエステル又は熱可塑性ポリエステル系エラストマーであり、前記化粧料保持用担体は、前記溶融温度の低い樹脂を溶融させることによって構成繊維同士の接触部を融着させた三次元立体構造体を有しており、且つ不溶出性の抗菌剤として4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が前記構成繊維の表面に固着されており、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とするものである。
【0007】
この化粧料保持用担体において、前記抗菌剤は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0008】
この化粧料保持用担体において、前記シランカップリング剤は、4級アンモニウム塩系シランカップリング剤であることが好ましい。
【0009】
この化粧料保持用担体において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤は、下記式(1)で表されるものであることが好ましい。
【化1】

(式(1)において、nは、1~4の整数を示す。mは、1~10の整数を示す。pは、10~22の整数を示す。qは、1~3の整数を示す。)
【0010】
この化粧料保持用担体において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤は、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることが好ましい。
【0011】
この化粧料保持用担体において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤のコーティング前における前記化粧料保持用担体の重量に対する、前記コーティング後における前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌成分の重量の割合である抗菌剤固着濃度が、0.5%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様による化粧品は、化粧料保持用担体に化粧料を含有させた化粧料含有担体と、前記化粧料含有担体を収納する容器とを備える化粧品であって、前記化粧料保持用担体は、複合繊維及びポリエステル繊維を構成繊維とし、前記複合繊維は、溶融温度の異なる2種類の樹脂を用いた芯鞘型複合繊維であって、芯部分に用いられる溶融温度の高い樹脂が熱可塑性ポリエステルであり、鞘部分に用いられる溶融温度の低い樹脂がポリエステル又は熱可塑性ポリエステル系エラストマーであり、前記化粧料保持用担体は、前記溶融温度の低い樹脂を溶融させることによって構成繊維同士の接触部を融着させた三次元立体構造体を有しており、且つ不溶出性の抗菌剤として4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が前記構成繊維の表面に固着されており、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とするものである。
【0013】
この化粧品において、前記抗菌剤は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0014】
この化粧品において、前記シランカップリング剤は、4級アンモニウム塩系シランカップリング剤であることが好ましい。
【0015】
この化粧品において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤は、上記式(1)で表されるものであることが好ましい。
【0016】
この化粧品において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤は、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであることが好ましい。
【0017】
この化粧品において、前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤のコーティング前における前記化粧料保持用担体の重量に対する、前記コーティング後における前記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌成分の重量の割合である抗菌剤固着濃度が、0.5%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様による化粧料保持用担体、及び第2の態様による化粧品によれば、化粧料保持用担体を、不溶出性の抗菌剤でコーティングするようにしたことにより、化粧料保持用担体から、抗菌剤が溶出しないようにすることができる。従って、溶出した抗菌剤が化粧料と混ざって、化粧料をつけたユーザの肌に悪影響を及ぼすことを防ぐことができ、また、この化粧料保持用担体における抗菌効果を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態による化粧料保持用担体の実施例4及び実施例5の試験片についてのハロー試験結果を示す図。
図2】同化粧料保持用担体の実施例1~5の試験片についての抗菌試験、抗かび性試験、及びハロー試験の結果をまとめた表。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態による化粧料保持用担体及び化粧品について説明する。
【0021】
本発明の化粧料保持用担体は、化粧料を含浸させて保持するために用いられるものである。この化粧料保持用担体には、不溶出性の抗菌剤がコーティングされている。
【0022】
(化粧料保持用担体)
本発明の化粧料保持用担体の材料(基材)には、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、ゴムフォーム等の発泡体や、各種の繊維(特に、化学繊維、合成繊維、及び複合繊維)から構成されるスポンジを用いることができる。ただし、本発明の化粧料保持用担体は、上記の例のみに限定されるものではない。
【0023】
上記の各種のスポンジのうち、内部に取り込まれた化粧料を効率良く外部に取り出すという観点からは、構成繊維がジャングルシムの様な構造になった「三次元立体構造体」と呼ばれるものを採用することが好ましい。この「三次元立体構造体」は、構成繊維として複合繊維を含有し、この複合繊維が溶融温度の異なる2種類の樹脂を含有して、これらの複数種類の樹脂のうち溶融温度の低い方の樹脂を溶融させることにより、構成繊維同士の接触部を融着するようにしたものである。
【0024】
上記の三次元立体構造体の構成繊維として用いる複合繊維には、例えば、芯鞘型複合繊維、サイド・バイ・サイド型複合繊維、海島型複合繊維等が挙げられる。これらの複合繊維の中では、構成繊維同士の接触部を効率良く一体化させる観点から、芯鞘型複合繊維が好ましく、加熱によって捲縮を発生させる場合には、サイド・バイ・サイド型複合繊維が好ましい。
【0025】
上記の芯鞘型複合繊維においては、構成繊維同士の接触部を、溶融温度の低い方の樹脂によって強固に一体化させる観点から、芯成分に、溶融温度の高い方の樹脂を用い、鞘成分には、溶融温度の低い方の樹脂を用いることが望ましい。
【0026】
上記の三次元立体構造体の複合繊維に含まれる2種類の樹脂のうち、溶融温度の低い方の樹脂には、例えば、ポリエステル、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。具体的には、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどが挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系エラストマーなどのポリエステル系エラストマー、ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテル-エステルブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0027】
また、上記の三次元立体構造体の複合繊維に含まれる2種類の樹脂のうち、溶融温度の高い方の樹脂には、例えば、熱可塑性ポリエステルなどが挙げられる。熱可塑性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0028】
(抗菌剤)
本発明の化粧料保持用担体にコーテイングされる抗菌剤は、不溶出性の抗菌剤である。この抗菌剤としては、例えば、シランカップリング剤を含有するものを用いることができる。ここで、シランカップリング剤とは、ケイ素を含み、有機物と無機物の双方に反応する(結合する)化合物(反応性シラン)の総称である。本発明の抗菌剤として用いられるシランカップリング剤は、通常の(接着の用途に用いられる)シランカップリング剤と、何らかの抗菌剤との化合物と考えることができる。シランカップリング剤を含有する抗菌剤を化粧料保持用担体にコーテイングすることにより、抗菌剤を化粧料保持用担体に安定して固着させることができるので、化粧料保持用担体から抗菌剤が溶出せず、抗菌効果を持続させるようにすることができる。また、溶出した抗菌剤が化粧料と混ざって、化粧料をつけたユーザの肌に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。本発明の抗菌剤に用いられるシランカップリング剤は、例えば、トリアルコキシシラン(主に、トリメトキシシラン)と何らかの抗菌剤との化合物である。
【0029】
本発明の抗菌剤に用いられるシランカップリング剤の具体例としては、4級アンモニウム塩系シランカップリング剤が挙げられる。この4級アンモニウム塩系シランカップリング剤は、4級アンモニウムカチオンと反応性のあるシリル基とが化学結合したものである。ここで、一般に、4級アンモニウム塩は、抗菌効果及び抗かび効果を併せ持った抗菌剤としての性質を有するので、4級アンモニウム塩系シランカップリング剤を化粧料保持用担体にコーテイングすることにより、抗菌効果及び抗かび効果を持続させることができる。
【0030】
上記の4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の具体例としては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【化2】

(式(1)において、nは、1~4の整数を示す。mは、1~10の整数を示す。pは、10~22の整数を示す。qは、1~3の整数を示す。)
【0031】
ここで、上記式(1)で表される化合物における抗菌メカニズムは、次の2つと推測される。一つ目は、上記の化合物に含まれる4級アンモニウムカチオンによって、細菌が、この化合物に引き寄せられて、この化合物に含まれる直鎖アルキル基(C2p+1)により細菌の細胞膜が破壊されるという抗菌メカニズムである。また、二つ目は、式(1)の化合物に含まれる4級アンモニウムカチオンによって、この化合物と接している細菌の細胞膜にマイナスイオンが集められ、これにより細胞膜の反対側が不安定になり、細菌の細胞膜が破棄されるという抗菌メカニズムである。
【0032】
また、上記の式(1)で表される化合物のうち、好ましい化合物を、式(2)に示す。この化合物は、上記式(1)の化合物において、n=1、m=3、p=18、q=1としたものである。この化合物は、3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドであり、抗菌性・抗かび性を有している。

【化3】
【0033】
詳細については後述するが、本発明の化粧料保持用担体において、上記の式(1)及び式(2)で表される4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌剤固着濃度は、0.5%以上であることが好ましく、0.7%以上であることがより好ましく、0.9%以上であることがさらに好ましい。ここで、上記の抗菌剤固着濃度とは、抗菌剤(この場合、式(1)及び式(2)で表される4級アンモニウム塩系シランカップリング剤)のコーティング前における化粧料保持用担体の重量に対する、コーティング後における上記4級アンモニウム塩系シランカップリング剤の抗菌成分の重量の割合である。
【0034】
(化粧料)
本発明の化粧料保持用担体に含浸される化粧料としては、例えば、ファンデーション、化粧下地、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、頬紅、おしろい、眉墨、クレンジングクリーム、クレンジングミルク、クレンジングリキッド、洗顔クリーム、洗顔フォーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、バニシングクリーム、スキンクリーム、スキンジェル、乳液、化粧水、美容液、各種ローション、日焼け止め料、ボディクリーム、ボディオイル、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアリキッド、ヘアトニックなどが挙げられる。
【0035】
(化粧料保持用担体、及び化粧料含有担体の製造方法)
次に、本発明の化粧料保持用担体の製造方法の例について説明する。先ず、上記の「三次元立体構造体」等の(化粧料保持用担体の)基材を、上記の4級アンモニウム塩系シランカップリング剤等の抗菌剤に浸漬させた後、絞り機で脱水させて、乾燥機等で乾燥させることにより、基材の表面に抗菌剤を固着させる(コーテイングする)。そして、上記の抗菌剤がコーテイングされた基材を、所望の大きさと形状になるように裁断することにより、化粧料保持用担体を得ることができる。また、この化粧料保持用担体に化粧料を含浸させることにより、化粧料含有担体を得ることができる。さらに、この化粧料含有担体を、コンパクト等の適切な大きさと形状の容器に収納することにより、化粧品を得ることができる。
【0036】
<実施例>
以下に、実施例に基づいて、本発明の化粧料保持用担体について、さらに詳細に説明する。
【0037】
(実施例1~5の化粧料保持用担体の製造方法)
実施例1~5の化粧料保持用担体の基材には、上記の「三次元立体構造体」を用いた。具体的には、芯鞘型複合繊維〔芯成分: ポリエチレンテレフタレート、鞘成分: 熱可塑性ポリエチレンテレフタレート、繊度: 6 デニール〕とポリエステル繊維( 樹脂: ポリエチレンテレフタレート、繊度: 3 デニール) とを4 0 : 6 0 の重量比で各繊維が並行となるように混紡したウェブを押圧した状態で鞘成分を加熱溶融させることにより、「三次元立体構造体」の化粧料保持用弾性体の基材を作製した。これに切削加工を施すことにより、縦340mm×横460mm×厚さ11mm、目付け(単位面積当たりの重さ)180g/mの三次元立体構造体のシートを得た。
【0038】
下記の表1に示す実施例1~5では、上記の三次元立体構造体のシートへの抗菌成分(抗菌剤原液中の有効成分)の固着率(固着濃度)(理論値)が、それぞれ、0.5%、0.7%、0.9%、1.0%、2.0%になるように、上記の各シートを、適切な(抗菌水溶液)濃度に調整した抗菌水溶液に浸漬させた後、このシートを絞り機(ロールプレス装置)で脱水させて、棚乾燥機により105℃の温度で30分間乾燥させることにより、実施例1~5の化粧料保持用担体のシートを得た。なお、絞り機のローラー間の隙間は、0mmであった。また、抗菌剤の原液には、AEM5700(Microban社製)を用いた。このAEM5700には、抗菌成分(有効成分)として、4級アンモニウム塩系シランカップリング剤である3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドを、40%含有している。上記の抗菌処理に用いた抗菌水溶液は、上記のAEM5700を蒸留水で薄めたものである。
【0039】
なお、下記の表1において、0.5%処理品、0.7%処理品、0.9%処理品、1.0%処理品、2.0%処理品は、それぞれ、抗菌成分の固着濃度が、0.5%、0.7%、0.9%、1.0%、2.0%の三次元立体構造体のシートを示し、未処理品は、上記の抗菌成分の固着処理を行っていない三次元立体構造体のシートを示す。
【0040】
【表1】
【0041】
また、上記表1において、「抗菌水溶液濃度(%)」とは、上記の抗菌剤原液(AEM5700)を蒸留水で薄めた抗菌水溶液全体における抗菌剤原液の割合である。すなわち、抗菌水溶液濃度(%)=(抗菌剤原液(g)/(抗菌剤原液(g)+蒸留水(g)))×100である。「シート前重量(g)」は、抗菌水溶液に浸漬させる前の各シートの重量を示す。「絞り後シート重量(g)」は、抗菌水溶液に浸漬させた各シートを絞り機で脱水させた後の各シートの重量を示す。「シートへの抗菌水溶液含浸量(g)」は、絞り機で脱水させた後の各シートに含まれる抗菌水溶液の重量であり、上記の「絞り後シート重量(g)」から「シート前重量(g)」を引いたものである。また、「抗菌水溶液含浸率(%)」は、下記の式で表される。すなわち、抗菌水溶液含浸率(%)=(絞り後シート重量(g)-シート前重量(g))÷シート前重量(g)×100である。また、「シートへの固着濃度(%)」は、実施例1~5の各シートへの抗菌成分の固着濃度であり、請求項における「抗菌剤固着濃度」に相当する。例えば、100gの(三次元立体構造体の)シートに抗菌成分0.5gを固着させた場合、「シートへの固着濃度(%)」は、0.5(g)÷100(g)=0.005=0.5(%)である。
【0042】
なお、上記のように、抗菌成分0.5gを固着させるのに必要な原液量(抗菌剤原液(AEM5700)の量)は、この抗菌剤原液の抗菌成分(有効成分)濃度が40%であることから、0.5g÷(40/100)=0.5g×(100/40)=1.25gである。
【0043】
次に、表1の「抗菌水溶液濃度(%)」及び「抗菌水溶液含浸率(%)」を用いた「シートへの固着濃度(%)」)の算出方法について、説明する。実施例1~5の各シートへの固着濃度は、表1の「抗菌水溶液濃度(%)」及び「抗菌水溶液含浸率(%)」と、抗菌成分濃度(抗菌剤原液(AEM5700)中の抗菌成分の濃度)とにより、決まる。つまり、「シートへの固着濃度(%)」=(1)「抗菌水溶液濃度(%)」×(2)「抗菌水溶液含浸率(%)」×(3)抗菌成分濃度(%)である。
【0044】
上記の各シートへの固着濃度の決定要素のうち、(1)「抗菌水溶液濃度(%)」は、絞り後のシートに残った抗菌剤原液(AEM5700)の量(原液量)と相関関係があり、「抗菌水溶液濃度(%)」=原液量÷「抗菌水溶液含浸率(%)」で求めることができる。例えば、固着濃度が0.5%のシート(0.5%処理品)の「抗菌水溶液濃度(%)」は、絞り後のシートに残った原液量が1.25(g)であったとすると、表1に示す0.5%処理品の抗菌水溶液含浸率(65%)から、1.25÷65×100=1.9(%)となる。また、上記の各シートへの固着濃度の決定要素のうち、(2)「抗菌水溶液含浸率(%)」は、上記の式(抗菌水溶液含浸率(%)=(絞り後シート重量(g)-シート前重量(g))÷シート前重量(g)×100)で求めることができる。例えば、表1における0.5%処理品の抗菌水溶液含浸率(%)=(49.02(g)-29.64(g))÷29.64(g)×100≒65(%)である。そして、上記の各シートへの固着濃度の決定要素のうち、(3)抗菌成分濃度(抗菌剤原液中の抗菌成分の濃度)は、一定(40%)である。
【0045】
例えば、表1に示す実施例1(0.5%処理品)のシートの場合、上記のように、(1)「抗菌水溶液濃度(%)」が1.9(%)(=0.019)、(2)「抗菌水溶液含浸率(%)」が65(%)(=0.65)、(3)抗菌成分濃度が40%(=0.4)であることから、このシートへの(抗菌成分の)固着濃度は、0.019×0.65×0.4≒0.0049≒0.5%になる。
【0046】
(比較例1)
比較例1の化粧料保持用担体の基材には、上記実施例1~5の化粧料保持用担体の基材と同じ基材を用いた。比較例1の化粧料保持用担体のシートも、実施例1~5のシートと同じ大きさにカットした。ただし、比較例1の化粧料保持用担体のシートには、上記の抗菌成分の固着処理を行っていない。
【0047】
(比較例2)
比較例2の化粧料保持用担体には、一般の繊維製品の抗菌性試験で使用される標準布(綿100%の白布)を用いた。比較例2の標準布も、比較例1のシートと同様に、実施例1~5のシートと同じ大きさにカットした。また、比較例2の標準布にも、上記の抗菌成分の固着処理を行っていない。
【0048】
(抗菌試験)
表1における実施例1(0.5%処理品)のシート、及び実施例4(1.0%処理品)のシートから切り取った試験片(0.4g)について、抗菌試験を行った。この抗菌試験は、「JIS L 1902:2015 繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」で規定されている試験方法のうち、菌液吸収法を用いて行った。試験に用いた細菌は、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)であった。
【0049】
この試験に用いた菌液吸収法は、繊維製品の抗菌性試験では、最も一般的な方法であり、試料に菌液を染み込ませ、一定時間後の菌数の変化を調べるものである。具体的には、下記の手順で、試験を行った。
1.試験片0.4gをバイアル瓶に入れ、試験菌液0.2mlを滴下後、バイアル瓶の蓋をした。
2.上記のバイアル瓶を37℃で18~24時間培養した。
3.洗い出し液20mlを加えて試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を混釈平板培養法又は発光測定法により測定した。ここで、混釈平板培養法(コロニー法)は、寒天培地上に形成されたコロニーを目視することにより、菌数を定量するものである。また、上記の発光測定法は、細菌の持つエネルギー(ATP(Adenosine triphosphate)(アデノシン三リン酸))を、化学的に発光させて、その光の強度に基づいて、菌数を定量するものである。
4.下記の式に従って、抗菌活性値を算出した。なお、対照試料には、比較例2の標準布(綿)0.4gを使用した。
抗菌活性値=(Mb-Ma)-(Mc-Mo)
【0050】
ただし、上記の式において、Maは、標準布(対照試料)の試験菌液接種直後の生菌数の常用対数値の平均値、Mbは、標準布の18時間培養後の生菌数の常用対数値の平均値、Moは、試験試料の試験菌液接種直後の生菌数の常用対数値の平均値、Mcは、試験試料の18時間培養後の生菌数の常用対数値の平均値を示す。
【0051】
実施例1のシートから切り取った試験片(以下、「実施例1の試験片」と略す)、及び実施例4のシートから切り取った試験片(以下、「実施例4の試験片」と略す)についての抗菌試験の結果を、下記の表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
「JIS L 1902」の規格では、抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌効果がある(抗菌防臭加工が施されている)とされているので、表2に示す抗菌試験の結果(抗菌活性値)から、実施例1(0.5%処理品)の試験片、及び実施例4(1.0%処理品)の試験片のいずれについても、抗菌効果があることを確認することができた。実施例1~5の試験片の中で最も固着濃度の低い実施例1(0.5%処理品)の試験片でも、抗菌効果があることから、実施例1よりも固着濃度が高い実施例2,3,5の試験片についても、当然、抗菌効果があると推測される。従って、実施例1~5のいずれの試験片についても、抗菌効果があることになる。また、上記表2に記載されている増殖値P(=2.5)は、制菌加工(が施されている)か否かを判定するための基準値として用いられる値である。一般に、抗菌活性値≧増殖値Pであれば、制菌加工が施されていると評価(判定)されるので、実施例1(0.5%処理品)の試験片、及び実施例4(1.0%処理品)のいずれについても、制菌加工が施されていると評価することができる。そして、実施例1~5の試験片の中で最も固着濃度の低い実施例1(0.5%処理品)の試験片でも、制菌加工が施されていると評価することができるので、実施例1~5のいずれの試験片についても、制菌加工が施されていると評価することができる。
【0054】
(抗かび性試験)
表1における実施例1~4のシートから採取した試験片(以下、「実施例1~4の試験片」と略す)と、比較例1のシートから採取した試験片(以下、「比較例1の試験片」と略す)とについて、抗かび性試験を行った。この試験は、「JIS L 1921」で規定されている抗かび性試験である吸収法を用いて行った。試験に用いたかびの種類は、クロコウジカビ(Aspergillus niger NBRC 105469)であった。
【0055】
この抗かび性試験では、はじめにかびの前培養を行った。具体的には、25℃の培養環境で、かびを8日以上放置した。次に、発育したかびから、胞子を採取し、かび試験胞子懸濁液を作製して、これを標準布(比較例2)と抗かび加工試料(実施例1~4の試験片)に接種した。そして、標準布(比較例2)及び抗かび加工試料(実施例1~4の試験片)の接種直後の試料と、かびを25℃で42 時間培養した後の試料とにおけるATP(アデノシン三リン酸:かび生細胞中に存在する多機能性ヌクレオチド)の量を測定する事で、「抗かび活性値」(抗かび性を表す指標)を算出した。具体的な、抗かび活性値の算出式は、下記の通りである。なお、上記の試験では、抗かび加工試料である実施例1~4の試験片に加えて、比較例1の試験片についても、抗かび性試験を行った。
抗かび活性値FS=(Fb-Fa)-(Fc-Fo)
【0056】
ただし、上記の式において、Fbは、標準布(比較例2の試験片)の42時間培養後のATP量の常用対数値の平均値、Faは、標準布のかび試験胞子懸濁液接種直後のATP量の常用対数値の平均値、Fcは、試験試料(実施例1~4の試験片)の42時間培養後のATP量の常用対数値の平均値、Foは、試験試料のかび試験胞子懸濁液接種直後のATP量の常用対数値の平均値を示す。
【0057】
上記の実施例1~4の試験片、及び比較例1の試験片についての抗かび性試験の結果を、下記の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示す抗かび効果の評価には、「JIS L 1921」に示される一般的な抗かび効果の評価基準(抗かび活性値が2.0以上であれば、抗かび効果があるとする評価基準)を用いた。この表3に示すように、比較例1の試験片(抗菌成分の固着処理を行っていない未処理品)では、抗かび効果がないが、実施例1の試験片(0.5%処理品)、及び実施例2の試験片(0.7%処理品)では、弱い抗かび効果があり、実施例3の試験片(0.9%処理品)、及び実施例4の試験片(1.0%処理品)では、強い抗かび効果があることを確認することができた。なお、実施例5の試験片(2.0%処理品)については、上記の抗かび性試験を実施していないが、実施例5の試験片よりも抗菌成分の固着濃度が低い実施例3及び実施例4の試験片が、強い抗かび効果を有していることから、実施例5の試験片についても、当然、強い抗かび効果があると判断できる。従って、実施例1~5のいずれの試験片についても、ある程度の抗かび効果があることになる。そして、上記の一般的な抗かび効果の評価基準(抗かび活性値が2.0以上)から見ると、抗菌成分の固着濃度が0.9%以上であれば、(強い)抗かび効果があると明言することができる。
【0060】
(ハロー試験(ハロー法を用いた抗菌剤の溶出性の試験))
表1における実施例4(1.0%処理品)のシート、及び実施例5(2.0%処理品)のシートから、図1に示す直径28mmの円形の試験片1を切り取り、この試験片1を、シャーレ2上の黄色ぶどう球菌又はクロコウジカビを含む寒天平板培地3の中央部に置き、37℃で24~48時間培養して、培養後の試験片1の周囲に、ハロー(発育阻止帯:細菌の発育がない透明な部分)が現れるか否かを確認する。このハロー試験は、通常は、抗菌剤の溶出性の高い抗菌加工が施された繊維製品を対象に行われ、培養後の試験片の周囲にハローが現れた場合は、この繊維製品(から溶出した抗菌剤)に、抗菌性があると評価する。しかしながら、実施例1~5の試験片に用いられている抗菌剤(3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド)は、不溶出性の抗菌剤であることから、ここでは、ハロー試験を、抗菌剤の抗菌性の評価のためではなく、試験片1から抗菌剤が溶出しないことを確認するために行った。
【0061】
そして、上記のハロー試験の結果、図1に示すように、実施例4及び実施例5のいずれの試験片1についても、培養する菌が、黄色ぶどう球菌及びクロコウジカビのいずれである場合にも、培養後の試験片1の周囲にハローが現われなかった(発育阻止帯の幅が0mmであった)。これらの結果から、実施例4及び実施例5のいずれの試験片1についても、抗菌剤(3-トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド)が溶出しないことを確認することができた。
【0062】
(抗菌試験・抗かび性試験・ハロー試験の試験結果についての総合的考察)
図2は、上記の実施例1~5の試験片についての抗菌試験、抗かび性試験、及びハロー試験(ハロー法を用いた抗菌剤の溶出性の試験)の試験結果をまとめた表である。なお、図2に含まれる試験結果には、実施例1~5の試験片についての実際の試験結果に加えて、これらの試験結果に基づいて当然に推測される試験結果も含まれる。図2において、「抗菌抗かび」の欄の△は、抗菌効果はある(抗菌活性値が基準値(2.0)より大きい)が、抗かび効果が弱い(抗かび活性値が基準値(2.0)より小さい)ということを示し、「抗菌抗かび」の欄の○は、抗菌効果もあり(抗菌活性値が基準値(2.0)より大きく)、抗かび効果も強い(抗かび活性値が基準値(2.0)より大きい)ということを示している。また、「ハロー試験」の欄の〇は、試験片から抗菌剤が溶出しなかったということを示している。
【0063】
上記図2の試験結果から、抗菌効果と抗菌剤の不溶出性の点だけを見ると、抗菌成分の固着濃度が0.5%以上であれば、十分な性能を得ることができるが、これらの点に加えて、抗かび効果も考慮すると、抗菌成分の固着濃度が、0.9%以上であることが望ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0064】
1 試験片(不溶出性の抗菌剤がコーティングされた化粧料保持用担体の試験片)
図1
図2