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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】床構造及び床構造に用いられる粘弾性体
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/18 20060101AFI20230808BHJP
   E04F 15/20 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
E04F15/18 601K
E04F15/18 601D
E04F15/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019178763
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055370
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】城本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 道雄
(72)【発明者】
【氏名】玄 春夫
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048624(JP,A)
【文献】特開2007-254959(JP,A)
【文献】特開2005-097902(JP,A)
【文献】特開平09-125669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00-15/22
E04B 1/62- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床材及び該床材の下面に配設される根太を有する床躯体と、
前記根太を下方から支持するように、該根太の長さ方向と交差する方向に延びる梁と、
前記根太と前記梁との間に配設され、振動絶縁性を有する粘弾性体とを備えた床構造において、
前記粘弾性体を上方から見たときの当該粘弾性体の形状は、一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状であり、
前記粘弾性体の厚みが5mm以上15mm以下であり、
前記粘弾性体は25%以下の反発弾性率を有するとともに、ゴム硬度(タイプAデュロメータ)が50以上60以下であり、
前記粘弾性体は、前記梁側に位置する梁側層と、前記根太側に位置する根太側層とを備えており、前記梁側層及び前記根太側層は積層されて一体化され、
前記梁側層の色は、前記根太側層の色よりも明度が高いことを特徴とする床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の床構造において、
前記床材は、前記根太の上面に載置される第1パーティクルボード、該第1パーティクルボードの上面に載置される第2パーティクルボード及び該第2パーティクルボードの上面に載置されるフローリングを備えた石膏ボード抜き構造とされていることを特徴とする床構造。
【請求項3】
請求項2に記載の床構造において、
前記フローリングに対して60kg/mの荷重が作用した状態で75年経過したときの前記粘弾性体の上面の推定変形量が2mm以下に設定されていることを特徴とする床構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の床構造において、
前記粘弾性体にはアクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルが含有されていることを特徴とする床構造。
【請求項5】
請求項4に記載の床構造において、
前記粘弾性体のアクリロニトリル・ブタジエンゴムの含有量は、ポリ塩化ビニルの含有量よりも多く設定されていることを特徴とする床構造。
【請求項6】
請求項に記載の床構造において、
前記根太側層の厚みは、前記梁側層よりも厚く設定され、
前記根太側層にはカーボンブラックが含有されていることを特徴とする床構造。
【請求項7】
根太と床材とを有する床躯体と、
前記根太を下方から支持するように、該根太の長さ方向と交差する方向に延びる一対の梁とを備えた床構造に用いられる振動絶縁性を有する粘弾性体において、
前記粘弾性体を上方から見たときの当該粘弾性体の形状は、一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状であり、
前記粘弾性体の厚みが5mm以上15mm以下であり、
前記粘弾性体は25%以下の反発弾性率を有するとともに、ゴム硬度(タイプAデュロメータ)が50以上60以下であり、
前記粘弾性体は、前記梁側に位置する梁側層と、前記根太側に位置する根太側層とを備えており、前記梁側層及び前記根太側層は積層されて一体化され、
前記梁側層の色は、前記根太側層の色よりも明度が高いことを特徴とする粘弾性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物における梁と床躯体との間に粘弾性体を配設した床構造及び梁と床躯体との間に配設される粘弾性体に関し、特に、床躯体の振動を梁に伝達させ難くする技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ALC(軽量気泡コンクリート)の床板と梁との間に粘弾性体を配設する床構造が知られている。特許文献1では、長さが900mm程度の帯状の粘弾性体の上面に複数の突条や突起を形成することが開示されている。そして、粘弾性体の長手方向が梁の長手方向と一致するように該粘弾性体を梁の上面に置き、この粘弾性体の上に床板を置いて粘弾性体を介して床板を梁で支持するようにしている。
【0003】
また、特許文献2では、床板の下側に根太を設けた床構造において、根太を床板の幅方向両端部の下面にそれぞれ配置しておき、根太と梁との間に粘弾性体を配設し、粘弾性体を介して根太を梁に支持するようにしている。特許文献2では、粘弾性体における梁との当接面に低摩擦抵抗層を設けることが開示されている。さらに、特許文献2には、粘弾性体の上面に、梁の長さ方向に延びる形状の3つの山を形成し、中央の山の高さを6mmとし、両側の山の高さを7.5mmに設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-16103号公報
【文献】特許第4312769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、日常生活において、例えば上部階の居住者が物を落下させたりすることによって床板に衝撃が作用することがあり、このときに発生する音は一般的に床衝撃音と呼ばれている。床衝撃音が問題となるのは階下に対してであり、通常、床衝撃音を低減しようとする場合には、防振材となる前記粘弾性体の厚みを厚くするとともに柔らかくするか、フローリング等の床仕上げの下地材としてパーティクルボード及び石膏ボードを積層することで床材の重量と剛性を向上させる手段が採用される場合が多い。
【0006】
特に石膏ボードは床衝撃音レベルを低減させるのに有効であるとともに、それ自体が安価で切断加工性がよいので床下地材としてよく使用されているが、床の歩行時に「ミシミシ」という床鳴りが発生しやすいことが本発明者の試験により明らかとなった。
【0007】
また、石膏ボードを床下地材として使用することで、石膏ボード上に直にフローリングを釘施工できないこともあり、石膏ボードの上層(石膏ボードとフローリングとの間)にパーティクルボードまたは合板が必要になる。そのため、施工の手間がかかるともに、材料費が高くなってしまう。つまり、石膏ボードは、床衝撃音レベルの改善には効果を期待できるが、床鳴りや施工性、材料費の面で問題があった。
【0008】
そこで、石膏ボードを廃止して根太と梁との間に厚みが厚く、かつ、柔らかい粘弾性体を設けることで床衝撃音レベルを低減させることが考えられる。しかしながら、粘弾性体の厚みが厚く柔らかいと、床にかかる静荷重が大きくなった場合に粘弾性体の圧縮変形量が大きくなって床が沈みやすくなるので、床の耐荷重を大きくすることができないという問題が発生する。また、歩行時に床の沈みが大きいと歩行感が悪くなるとともに、床鳴りの原因にもなり得る。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、階下に伝わる床衝撃音を低減できるようにし、しかも、静荷重がかかった際の床の変位量を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、第1の発明は、床材及び該床材の下面に配設される根太を有する床躯体と、前記根太を下方から支持するように、該根太の長さ方向と交差する方向に延びる梁と、前記根太と前記梁との間に配設され、振動絶縁性を有する粘弾性体とを備えた床構造において、前記粘弾性体を上方から見たときの当該粘弾性体の形状は、一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状であり、前記粘弾性体の厚みが5mm以上15mm以下であり、前記粘弾性体は25%以下の反発弾性率を有するとともに、ゴム硬度(タイプAデュロメータ)が50以上60以下であり、前記粘弾性体は、前記梁側に位置する梁側層と、前記根太側に位置する根太側層とを備えており、前記梁側層及び前記根太側層は積層されて一体化され、前記梁側層の色は、前記根太側層の色よりも明度が高いことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、粘弾性体を上方から見たときに一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状の粘弾性体とされているので、粘弾性体の大きさが小さくなり、材料の使用量を少なくて済む。そして、粘弾性体の厚みを5mm以上15mm以下とした上で、25%以下の反発弾性率及び50以上60以下のゴム硬度を有するものとしたので、十分な床衝撃音の低減効果が得られる粘弾性体の厚みを薄くしながら、静荷重が作用したときの床の沈み込み量を少なくすることが可能になる。尚、根太は鋼製根太であってもよいし、木製根太であってもよい。
【0012】
また、粘弾性体を梁と根太との間に設置する際、梁を組み上げた後に、粘弾性体が取り付けられた床躯体を吊り上げて梁の上に置く場合があり、このときに粘弾性体が脱落してしまったり、正規の位置からずれてしまうことが考えられる。本発明では、粘弾性体の下に位置する梁側層の色が根太側層の色よりも明るくなるので、粘弾性体の有無や粘弾性体が正規の位置にあるか否かを下方からの目視によって容易に確認することができる。
【0013】
第2の発明は、前記床材は、前記根太の上面に載置される第1パーティクルボード、該第1パーティクルボードの上面に載置される第2パーティクルボード及び該第2パーティクルボードの上面に載置されるフローリングを備えた石膏ボード抜き構造とされていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、石膏ボードが無いので、歩行時の床鳴りが抑制される。石膏ボード抜き構造とは、床躯体に石膏ボードが設けられていない構造のことである。
【0015】
第3の発明は、前記フローリングに対して60kg/mの荷重が作用した状態で75年経過したときの前記粘弾性体の上面の推定変形量が2mm以下に設定されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、生活荷重として60kg/mの静荷重が鉛直下向きに長期間作用したときの床の沈み込み量が少なくなる。また、歩行時の床の沈みが小さくなり、歩行感が良好になる。
【0017】
第4の発明は、前記粘弾性体にはアクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルが含有されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)及びポリ塩化ビニル(PVC)を含有していることで、振動絶縁性が高まり、床衝撃音の低減効果が高くなる。
【0019】
第5の発明は、前記粘弾性体のアクリロニトリル・ブタジエンゴムの含有量は、ポリ塩化ビニルの含有量よりも多く設定されていることを特徴とする
【0020】
の発明は、前記根太側層の厚みは、前記梁側層よりも厚く設定され、前記根太側層にはカーボンブラックが含有されていることを特徴とする。
【0021】
すなわち、粘弾性体の梁側層の色を明るくする場合には、補強効果を期待できるカーボンブラックを梁側層に含有させるのは困難であるが、根太側層の色は暗くてもよいので、この根太側層にカーボンブラックを含有させることで、根太側層の強度が高まり、その結果、粘弾性体の耐久性を全体として高めることができる。
【0022】
また、根太側層の厚みは、粘弾性体の厚みの70%以上とすることができ、より好ましいのは80%以上、さらに好ましいのは85%以上である。粘弾性体は、梁側層及び根太側層の2層構造とすることができる。
【0023】
の発明は、根太と床材とを有する床躯体と、前記根太を下方から支持するように、該根太の長さ方向と交差する方向に延びる一対の梁とを備えた床構造に用いられる振動絶縁性を有する粘弾性体において、前記粘弾性体を上方から見たときの当該粘弾性体の形状は、一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状であり、前記粘弾性体の厚みが5mm以上15mm以下であり、前記粘弾性体は25%以下の反発弾性率を有するとともに、ゴム硬度(タイプAデュロメータ)が50以上60以下であり、前記粘弾性体は、前記梁側に位置する梁側層と、前記根太側に位置する根太側層とを備えており、前記梁側層及び前記根太側層は積層されて一体化され、前記梁側層の色は、前記根太側層の色よりも明度が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、根太と梁との間に振動絶縁性を有する粘弾性体を配設したので、階下に伝わる床衝撃音を低減できるとともに、静荷重がかかった際の床の変位量を小さくすることができる。
【0025】
また、生活荷重が長期間作用したときの床の変位量を小さくすることができるとともに、歩行時の床の沈みも小さくなり、歩行感を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る床構造の平面図である。
図2】床構造の根太の長さ方向から見た側面図である。
図3図2におけるIII-III線に相当する拡大断面図である。
図4】粘弾性体の平面図である。
図5】粘弾性体の斜視図である。
図6】実施例1~5の床構成、床衝撃音レベル測定結果、評価結果を示す表である。
図7】比較例1~7の床構成、床衝撃音レベル測定結果、評価結果を示す表である。
図8】実施例及び比較例の床衝撃音レベルを示すグラフである。
図9】載荷荷重に対するクリープ性能試験の解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る床構造1の平面図であり、図2は側面図である。この実施形態に係る床構造1は、床躯体10と、一対の梁20、20と、複数の粘弾性体30、30、…とを備えており、例えば2階や3階等、上階の床構造として用いられる構造である。床躯体10は、複数の水平な床材11と、各床材11の下面において幅方向両側にそれぞれ配設される根太12、12と有している。図2に示すように、この実施形態では、根太12が鋼製の角パイプである場合について説明するが、根太12は、例えば木製の角材等であってもよい。好ましいのは剛性を得やすい鋼製の角パイプである。根太12は、床材11の長手方向に延びており、根太12の長手方向両端部が床材11の長手方向の両端部にそれぞれ位置している。根太12の高さ寸法は75mmに設定されている。この実施形態では、1枚の床材11の下面に2本の根太12、12が床材11の幅方向に互いに間隔をあけて水平に配設されており、これら根太12、12は互いに平行に延びている。尚、1枚の床材11の下面に3本以上の根太12を配設することもできる。床材11は、根太12に固定されている。
【0029】
図2及び図3に示すように、床材11は、根太12、12の上面に載置される第1パーティクルボード13、該第1パーティクルボード13の上面に載置される第2パーティクルボード14及び該第2パーティクルボード14の上面に載置されるフローリング15を備えた石膏ボード抜き構造とされている。つまり、床材11は、石膏ボードを備えていないものである。第1パーティクルボード13の厚みは、25mmに設定されている。第2パーティクルボード14の厚みは、15mmに設定されている。フローリング15の厚みは、12mmに設定されている。第1パーティクルボード13と第2パーティクルボード14は接着されていてもよい。また、第2パーティクルボード14とフローリング15は接着されていてもよい。
【0030】
梁20、20は、根太12の長さ方向両端部を下方から支持するように、根太12の長さ方向と交差する方向(直交方向)に水平に延びている。この実施形態では、各梁20はH型鋼で構成されているが、これに限られるものではない。図3に示すように、梁20は、水平に延びる上板部21と、上板部21の幅方向中央部の下面から下方へ略鉛直に延びる中間板部22と、中間板部22の下縁部に連なり上板部21と略平行に延びる下板部22とを有している。梁20は、図示しないが、建築物の柱に接続されて支持されている。
【0031】
図3に示すように、床躯体10の根太12の下面と、梁20の上板部21の上面との間には、上記粘弾性体30が配設される。そして、床躯体10は、固定部材40によって梁20に固定されている。すなわち、固定部材40は、上下方向に延びるボルト41と、水平方向に延びる板材42とを有している。ボルト41は頭部を下にした状態で配置されており、軸部が板材42及び根太12を上下方向に挿通している。ボルト41の軸部には、根太12の上面に形成された凹部12aに収容されたナット等の締結部材43が螺合するようになっている。板材42は、梁20の上板部21の下面に下方から係合するようになっている。板材42と梁20の上板部21の下面との間には、ゴム等の弾性材からなるクッション材44が配設されている。
【0032】
ボルト41を締結部材43に螺合させて締め付けることにより、床躯体10が梁20に固定される。この固定状態では、クッション材44が圧縮されるとともに、粘弾性体30が上下方向に圧縮されて図4に示すようになる。床躯体10の梁20に対する固定構造は、上述した構成に限られるものではない。
【0033】
粘弾性体30は、振動絶縁性を有する材料で構成されており、上面及び下面は平坦で互いに平行である。粘弾性体30を構成する材料としては、低反発性を有する材料が特に好ましく、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ポリ塩化ビニル、ブチルゴム、再生ゴム等からなる群より選ばれる1種を用いることができるし、任意の2種以上を混合して用いることもでき、また、上記群より選ばれる少なくとも1種と、カーボンブラック、願料、老化防止剤、粘着付与樹脂、アスファルト、粉末ゴム等を混合して用いてもよいし、その他、各種エラストマー等を用いることもできる。粘弾性体30の最適な組成は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルを含有したものである。粘弾性体30のアクリロニトリル・ブタジエンゴムの含有量は、ポリ塩化ビニルの含有量よりも多く設定されていることが好ましく、例えば、重量比でアクリロニトリル・ブタジエンゴム:ポリ塩化ビニルが7:3の材料を用いることができる。また、重量比でアクリロニトリル・ブタジエンゴム:ポリ塩化ビニルが8:2の材料、重量比でアクリロニトリル・ブタジエンゴム:ポリ塩化ビニルが6:4の材料を用いてもよく、これら両数値範囲に含まれる重量比の材料を用いることができる。
【0034】
上記した材料を用いることで、25%以下の反発弾性率を有する粘弾性体30とすることができる。反発弾性率のより好ましい値は、15%以下であり、反発弾性率が低い方が好ましい。反発弾性率は、ISO 4662に準じて測定した値である。反発弾性率は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルの含有量や、他の添加剤の含有量によって上記範囲に調整することができる。
【0035】
図4に示すように、粘弾性体30の平面視において、当該粘弾性体30のある一辺の長さAと、この辺に交差する他の辺の長さBとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。この実施形態では、長さAと長さBとは同じであり、例えば約40mmである。よって、粘弾性体30は正方形の板状をなしている。また、長さAと長さBとは例えば30mm以上50mm以下の範囲で設定することができる。また、粘弾性体30の形状は、一辺の長さが50mm以下の長方形であってもよい。また、粘弾性体30の形状は、平面視で、一辺の長さが50mm以下の正方形内に入る形状であればよく、例えば円形であってもよいし、四角形以外の多角形であってもよい。
【0036】
粘弾性体30のゴム硬度は、デュロメータ硬さ試験機により23℃で測定したゴム硬度で、50以上60以下に設定されている。ゴム硬度は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルの含有量や、他の添加剤の含有量によって上記範囲に調整することができる。デュロメータ硬さ試験機はtypeA(アスカーゴム硬度計A型)である。すなわち、ゴム硬度の測定方法は、JIS K 6523「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム ―硬さの求め方― 第1部:通則」に準じている。
【0037】
図5に示すように、粘弾性体30は、梁20側(下側)に位置する梁側層31と、根太12側(上側)に位置する根太側層32とを備えている。梁20が粘弾性体30の下に位置しているので梁側層31は下層であり、根太12が粘弾性体30の上に位置しているので根太側層32は上層である。梁側層31及び根太側層32は積層された状態で固着され、一体化されている。このような粘弾性体30は2層の押出成形により得ることができる。尚、粘弾性体30は、単層であってもよいし、3層以上の構造であってもよい。
【0038】
梁側層31の色は、根太側層32の色よりも明度が高く設定されている。明度が高いということは、梁側層31の色が根太側層32の色より明るいということであり、例えば根太側層32の色を黒としたとき、梁側層31の色は緑、青、黄、赤、白等の黒よりも明るい色にすることができる。すなわち、粘弾性体30を梁20と根太12との間に設置する際、梁20を組み上げた後に、粘弾性体30が取り付けられた床躯体10をクレーン等によって吊り上げて梁20の上に置く場合がある。このとき、粘弾性体30は根太12の下面に対して両面テープや接着剤、粘着剤等によって取り付けておくのであるが、何らかの原因によって粘弾性体30が根太12から脱落してしまったり、粘弾性体30が正規の取付位置からずれてしまうことが考えられる。この実施形態では、粘弾性体30の下に位置する梁側層31の色が根太側層32の色よりも明るくなるので、粘弾性体30の有無や正規の位置にあるか否かを下方からの目視によって確認することができる。
【0039】
根太側層32の色を黒にする場合、根太側層32にカーボンブラックを含有させればよい。カーボンブラックを含有させることにより、根太側層32の強度を高めることができる。梁側層31には各種顔料を含有させることができ、これにより、所望の色に着色することができる。すなわち、粘弾性体30の梁側層31の色を明るくする場合には、補強効果の期待できるカーボンブラックを梁側層31に含有させるのは困難であるが、根太側層32の色は暗くてもよいので、この根太側層32にカーボンブラックを含有させることで、根太側層32の強度が高まり、その結果、粘弾性体30の耐久性を高めることができる。
【0040】
図5に示すように、根太側層32の厚みC1は、梁側層31の厚みC2よりも厚く設定されている。粘弾性体30の総厚みCは、根太側層32の厚みC1と梁側層31の厚みC2とを加えたものであり、例えば5mm以上15mm以下の範囲に設定されている。粘弾性体30の総厚みCは、12mm以下が好ましく、より好ましくは10mm以下である。また、根太側層32の厚みC1は、粘弾性体30の総厚みCの70%以上とすることができ、より好ましいのは80%以上、さらに好ましいのは85%以上である。
【0041】
また、フローリング15に対して60kg/mの荷重が作用した状態で75年経過したときの粘弾性体30の上面の推定変形量が2mm以下に設定されている。60kg/mの荷重は、生活荷重である。推定変位量を2mm以下にすることで、生活荷重として60kg/mの静荷重が鉛直下向きに長期間作用したときの床の沈み込み量が少なくなる。また、歩行時の床の沈みが小さくなり、歩行感が良好になる。推定変位量の求め方については後述する。
【0042】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、本発明の実施例1~5の含有成分を示すものである。単位はphrである。
【0045】
表1中、「NBR/PVC(70/30)」は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム及びポリ塩化ビニルの混合材料であり、アクリロニトリル・ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルが重量比で70:30である材料である。この材料は、例えばJSR株式会社や日本ゼオン株式会社が製造ないし販売している。実施例1のゴム硬度は55、実施例2のゴム硬度は50、実施例3のゴム硬度は60、実施例4のゴム硬度は50、実施例5のゴム硬度は50である。実施例4、5の配合は実施例2と同じである。実施例1~5は、粘弾性体30が単層であり、梁側層31と根太側層32とを有しない構造である。
【0046】
【表2】
【0047】
一方、表2の実施例6は、図5に示すように粘弾性体30が梁側層31と根太側層32とを有する構造である。根太側層32の厚みC1は、粘弾性体30の総厚みCの80%である。梁側層31には、顔料を加えることで梁側層31よりも明るい色にするとともに、水酸化アルミニウムを加えている。梁側層31と根太側層32の硬度は共に55である。また、引張試験結果、引裂試験結果、圧縮永久ひずみ(C-set)は表2に示す通りである。
【0048】
図6は、実施例の床構成、床衝撃音レベル測定結果、評価結果を示す表であり、また、図7は、比較例の床構成、床衝撃音レベル測定結果、評価結果を示す表である。また、図8は、実施例及び比較例の床衝撃音レベルを示すグラフである。図6に示す表中、実施例1~5は表1の実施例1~5の粘弾性体30をそれぞれ使用した例である。材質の「IIR」はブチルゴムである。また、形状の「凹凸」は表面に凹凸形状を設けたものである。尚、表2に示す実施例6と、表1に示す実施例1とは、床衝撃音レベル、その他の評価項目について殆ど同じである。
【0049】
(重量床衝撃音性能試験)
床衝撃音の測定方法は、JIS A 1418-2「標準重量衝撃源による方法」に準じており、評価方法は、JIS A 1419-2「建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法 ―第2部:床衝撃音遮断性能―」に準じている。すなわち、音源室の直下階の室を受音室としてマイクロフォンを受音室に床面より1.2mの高さに位置するように設置した。音源点は、音源室の床構造1において対角線上に5点とし、各音源点に重量床衝撃音発生器によって衝撃を与えた。受音点は、受音室の対角線上に5点とした。重量床衝撃音発生器は、リオン社製のバングマシンを使用した。受音装置は、B&K社製のリアルタイム周波数分析器 PULSE 15.1と、B&K社製のマイクロフォン Type4189を使用した。測定条件は、5ch同時測定、周波数分析帯域1/3オクターブ、動特性FAST、補正回路F特性とした。重量床衝撃音発生器による5回の衝撃音発生のうち、最大音圧を測定結果とした。尚、受音室の気温は22℃、湿度は69%であり、音源室の気温は22℃、湿度は86%であった。
【0050】
図8に床衝撃音レベルを示すように、比較例4、5では、反発弾性率が高いことにより、床衝撃音レベルが判定基準値であるLH72.4を超えていた。これに対し、実施例1~5では、床衝撃音レベルが判定基準値よりも低く、十分な床衝撃音低減効果を得ることが分かる。尚、表には示していないが、軽量床衝撃音レベルに関しても、上述した重量床衝撃音レベルと同様な傾向となる。
【0051】
(75年経過後の推定変位量)
75年経過後の推定変位量を得るための試験方法について説明する。まず、400mm角のパーティクルボード(25mm厚)を根太の上に置き、床躯体とする。根太と梁との間に粘弾性体30を配置する。パーティクルボードの上には、当該パーティクルボードと略同じ形状の測定用鋼板を載せ、この状態を基準(変位量=0mm)とし、4角を測定点としてレーザー変位計を設置する。図3に示すような固定金具を締め付けトルク8N・mで締め付けて、2時間経過後、錘を測定用鋼板の上に積載する。錘の重量は、粘弾性体30に作用する荷重が、フローリング15に対して60kg/mの荷重が作用した場合と等価となるように設定する。測定点4点の変位量の平均値を測定結果とした。変位測定は、測定用鋼板を載せた時点から約3ヶ月間とした。
【0052】
測定結果を使用し、一般財団法人ベターリビングの「載荷荷重に対するクリープ性能試験」に準じて75年後の推定変位量を算出する。図9は、載荷荷重に対するクリープ性能試験の解説図である。錘を載せてから9日後までに生じた変位を弾性変位量Eyとし、9日後からt年後(本試験は75年後)の変位をクリープ変位量Cy(t)、EyにCy(t)を加えたものを全変位量Dy(t)とする。この変位量は、粘弾性体30の上面の変位量に相当する。クリープによる変位量の推定は、載荷完了9日後から載荷約3ヶ月後までの測定値から、最小二乗法によって下記式(1)に示す全変位量Dy(t)の係数を定め、Dy(t)からEyを除き、Cy(t)の推定値を求めた。
【0053】
Dy(t)=S×Log(t)+T (1)
Dy(t):載荷t年後の全変位量の推定値(mm)
t :載荷期間(年)
S、T :試験結果から定まる係数
【0054】
図6及び図7に示す表では、75年経過後の粘弾性体30の上面の推定変位量が2mm以下、即ち入居後75年経過した時点の床の沈み込み量が2mm以下であれば「○」とし、2mmを超えた場合に「×」とした。比較例7は、熱可塑性エラストマーからなるものであり、硬度が低いため、推定変位量が2mmを超えた。
【0055】
図6及び図7に示す表中の歩行感は、人が歩行した際に床が沈み込むような感じを受けた場合に「×」、床がわずかに沈み込むような感じを受けた場合に「△」、床が沈み込むような感じを受けなかった場合に「○」としている。歩行感についても比較例7が悪い評価結果となっている。
【0056】
図6及び図7に示す表中の施工性は、主に石膏ボードの有無によって決定されており、石膏ボードが無いことにより、部材数が減り、施工性が良好になる。
【0057】
図6及び図7に示す表中の床鳴りも主に石膏ボードの有無によって決定されており、石膏ボードが無いことにより、「ミシミシ」といった床鳴りが無くなる。比較例6、7のように、石膏ボードが無くても、粘弾性体の硬度が低いと、歩行時に床の撓みや沈み込みが大きくなり、その結果、床鳴りが発生し易くなる。
【0058】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、床材11が石膏ボード抜き構造とされているので、歩行時の床鳴りを抑制することができる。そして、粘弾性体30を上方から見たときに一辺の長さが50mm以下の四角形であるので、粘弾性体30の大きさが小さくなり、材料の使用量を少なくて済む。そして、粘弾性体30の厚みを5mm以上15mm以下とした上で、25%以下の反発弾性率及び50以上60以下のゴム硬度を有するものとしたので、十分な床衝撃音の低減効果が得られる粘弾性体30の厚みを薄くしながら、静荷重が作用したときの床の沈み込み量を少なくすることができる。
【0059】
また、生活荷重が長期間作用したときの床の変位量を小さくすることができるとともに、歩行時の床の沈みも小さくなり、歩行感を良好にすることができる。
【0060】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。なお、床材が石膏ボードを備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、建築物の上部階の床構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 床構造
10 床躯体
11 床材
12 根太
13 第1パーティクルボード
14 第2パーティクルボード
15 フローリング
20 梁
30 粘弾性体
31 梁側層
32 根太側層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9