(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】修飾抗体、および、放射性金属標識抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20230808BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20230808BHJP
C07D 257/02 20060101ALI20230808BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20230808BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230808BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230808BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K7/08
C07D257/02
A61K51/10 200
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2020514375
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016156
(87)【国際公開番号】W WO2019203191
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018078487
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】香本 祥汰
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐
(72)【発明者】
【氏名】正山 祥生
(72)【発明者】
【氏名】波多野 正
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐二
(72)【発明者】
【氏名】荒野 泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博元
(72)【発明者】
【氏名】上原 知也
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065774(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217347(WO,A1)
【文献】特開2015-086213(JP,A)
【文献】特表2017-518957(JP,A)
【文献】日本薬学会年会要旨集,2018年03月,Vol.138th,一般口頭発表 28W-am01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
C07K 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgG抗体と、前記IgG抗体に結合したIgG結合ペプチドとを含む修飾抗体であって、
前記IgG結合ペプチドは、
下記のアミノ酸配列
GPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号2)
(上記アミノ酸配列中、2つのシステイン残基は互いにジスルフィド結合していてもよく、C末端はアミド化されていてもよい。)からなり、
前記IgG結合ペプチドのN末端には、修飾リンカーを介して、下記式(II-1):
【化1】
(式(II-1)中、nは0または1である。)
で表される化合物がそのリシン残基の箇所で連結されてなる、修飾抗体。
【請求項2】
前記式(II-1)で表される化合物のリシン残基と前記修飾リンカーとの結合部位がDBCO(ジベンゾシクロオクチル)基とアジド基とがクリック反応することで形成されている、請求項1に記載の修飾抗体。
【請求項3】
前記修飾リンカーは、下記の式(III):
L
1-L
2-L
3 (III)
(L
1は、前記IgG結合ペプチドのN末端に結合するポリエチレングリコールリンカーであり、
L
2は、0以上5以下のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、
L
3は、末端にDBCO(ジベンゾシクロオクチル)基を有する基である。)
で表されるものであり、
前記式(II
-1)で表される化合物のリシン残基に、炭素数1~10のアルキルアジド基が導入されることにより、前記リシン残基と前記修飾リンカーとの結合部位がクリック反応により形成されている、請求項2に記載の修飾抗体。
【請求項4】
前記式(III)において、L
2は、システイン残基を有し、L
3は、下記式(IV):
【化2】
で表されるDBCO-マレイミドが、L
2のシステイン残基と反応することで形成されたものである、請求項3に記載の修飾抗体。
【請求項5】
放射性金属が配位した請求項1~4何れか1項に記載の修飾抗体からなる放射性金属標識抗体。
【請求項6】
請求項5に記載の放射性金属標識抗体を含有する、放射性医薬。
【請求項7】
下記式(II):
【化3】
(式(II)中、nは0または1であり、R
1
及びR
2
は、両方が水素原子、若しくは一方が水素原子で他方がCO(CH
2
)
m
N
3
(mは1~10の整数である。)で表される基であるか、または、両者が窒素原子と一緒にマレイミド基またはイソチオシアナート基を形成する。)
で表される化合物に、標的分子に結合するポリぺプチドを結合させてなるポリペプチド含有化合物、またはその塩であって、
前記ポリペプチドが、
下記の式(I):
(X
1-3
)-C-(X
2
)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X
1-3
) (I)
(式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基であり、
2つのシステイン残基は互いにジスルフィド結合又はリンカーを介して結合していてもよく、C末端はアミド化されていてもよい。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むIgG結合ペプチドと、
前記IgG結合ペプチドのN末端に結合した、下記式(III):
L
1
-L
2
-L
3
(III)
(式(III)中、
L
1
は、前記IgG結合ペプチドのN末端に結合するポリエチレングリコールリンカーであり、
L
2
は、0以上5以下のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、
L
3
は、末端にDBCO(ジベンゾシクロオクチル)基を有する基である。)
で表される修飾リンカーとを含む、修飾IgG結合ペプチド、
または、
前記修飾IgG結合ペプチドが結合したIgG抗体である、
前記ポリペプチド含有化合物、またはその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgG抗体の修飾および放射性金属標識に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、その標的分子に対する特異性から、各種の研究・開発において、標的分子の検出に利用されており、医療の分野では、癌などの患部に特異的に結合する抗体を放射性核種で標識して体内に投与することにより単一光子放射断層撮影(SPECT)や陽電子放射断層撮影(PET)による診断が行われており、また、放射性核種で標識した抗体は疾患の治療のための医薬品としても注目されている。
【0003】
抗体を放射性核種で標識する方法としては、抗体にキレート化合物を結合し、該キレート化合物に放射性金属元素を担持させる方法が用いられている(非特許文献1)。かかるキレート化合物の結合は、これまで主に抗体に含まれるリシンのアミノ基やシステインのチオール基、及び活性化されたカルボキシル基等を介して行われているが、官能基について特異的だとしても、部位特異的ではないため、抗体の抗原結合部位への修飾等により抗体の活性を低下させるといった問題や、結合する化合物の数をコントロールすることが難しい等の問題があった。
【0004】
このような問題を克服するため、特定の官能基を部位特異的に導入した抗体を使って、抗体を修飾することが行われている。例えば、非天然アミノ酸(非特許文献2~4)やフリーのシステイン(非特許文献5~6)を、特定の部位に遺伝子工学的改変により導入することで、特定の部位での修飾が可能になった。このように部位特異的な抗体修飾技術は開発されつつあるが、多くの場合、抗体そのものを抗体工学的に改変する必要があり、その改変に伴う抗体の機能低下や開発のコスト高を考えると必ずしも有利な方法とはいえない。
【0005】
そこで、特異的かつ簡便に抗体を修飾することができる方法として、IgG抗体のFcドメインの特定の部位に結合性を有するIgG結合ペプチドにリガンドを連結し、該IgG結合ペプチドを抗体に結合させることにより、抗体分子の配列を改変する必要なく、したがって、抗体分子の遺伝子改変に伴う機能低下を招くことなく、放射性金属核種によってIgGを標識する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【0006】
一方、放射性金属核種によって標識された低分子ポリペプチドは、生体に投与した際、投与早期から長時間にわたり腎臓に放射活性が観察されるため、放射性金属標識抗体を生体内に投与した際、腎臓の被曝および腎障害のおそれがあるが、特定の低分子ポリペプチドを用いることにより非特異的腎集積を低減させた放射性標識化合物が提案されている(特許文献3及び4、非特許文献7及び8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/217347パンフレット
【文献】国際公開第WO2016/186206パンフレット
【文献】国際公開第WO2013/081091パンフレット
【文献】国際公開第2017/150549パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Rodwell, J. D. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 1986, 83, pp.2632-2636
【文献】Axup, J. Y. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2012, 109, pp. 16101-16106
【文献】Tian, F. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2014, 111, pp. 1766-1771
【文献】Zimmerman, E. S. et al., Bioconjugate chemistry, 2014, 25, pp. 351-361
【文献】Shen, B. Q. et al., Nature biotechnology, 2012, 30, pp. 184-189
【文献】Bernardes, G. J. et al., Nature protocols, 2013, 8, pp. 2079-2089
【文献】Arano, Yasushi, et al. "Chemical design of radiolabeled antibody fragments for low renal radioactivity levels." Cancer research59.1 (1999): 128-134.
【文献】Uehara, Tomoya, et al. "Design, synthesis, and evaluation of [188Re] organorhenium-labeled antibody fragments with renal enzyme-cleavable linkage for low renal radioactivity levels." Bioconjugate chemistry 18.1 (2007): 190-198.
【発明の概要】
【0009】
しかし、従来、放射性金属標識抗体を生体内に投与した際、肝臓や脾臓などの細網内皮系が発達している臓器への高い集積が認められ、患者の正常臓器に不要な被ばくを与えることも懸念されていた。特許文献3及び4の技術では腎集積が低減されているが、Fab断片に結合することによる抗体の機能低下の懸念があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、抗体の機能を低下させることなく患者への投与後に肝臓内で容易に代謝されて、肝臓などの臓器への放射性核種の集積を低減できる標識技術を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様は、IgG抗体と、前記IgG抗体に結合したIgG結合ペプチドとを含む修飾抗体であって、前記IgG結合ペプチドは、下記の式(I)によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、前記IgG結合ペプチドのN末端には、修飾リンカーを介して、下記式(II-1)で表される化合物がそのリシン残基の箇所で連結されてなる、修飾抗体を提供する。
【0012】
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
式(I)中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基であり、
2つのシステイン残基は互いにジスルフィド結合又はリンカーを介して結合していてもよく、C末端はアミド化されていてもよい。
【0013】
【化1】
式(II-1)中、nは0または1である。
【0014】
本発明の他の態様は、放射性金属が配位した上記の修飾抗体からなる放射性金属標識抗体および、これを含む放射性医薬を提供する。
【0015】
本発明の他の態様は、上記式(I)によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むIgG結合ペプチドと、前記IgG結合ペプチドのN末端に結合した、下記式(III)で表される修飾リンカーとを含む、修飾IgG結合ペプチド、及び、この修飾IgG結合ペプチドが結合したIgG抗体を提供する。
【0016】
L1-L2-L3 (III)
式(III)中、
L1は、前記IgG結合ペプチドのN末端に結合するポリエチレングリコールリンカーであり、
L2は、0以上5以下のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、
L3は、末端にDBCO(ジベンゾシクロオクチル)基を有する基である。
【0017】
この修飾IgG結合ペプチド、および、これが結合したIgG抗体によれば、DBCOとクリック反応して結合することができるアジド基を備えたリガンドを用意することで、このリガンドを修飾IgG結合ペプチドまたはIgG抗体にクリック反応で連結することが可能になる。
【0018】
また、本発明の他の態様は、下記式(II)で表される化合物、またはその塩を提供する。
【化2】
式(II)中、nは0または1であり、R
1及びR
2は、両方が水素原子、若しくは一方が水素原子で他方がCO(CH
2)
mN
3(mは1~10の整数である、)で表される基であるか、または、両者が窒素原子と一緒にマレイミド基またはイソチオシアナート基を形成する。
【0019】
上記式(II)の化合物は、リシンの側鎖の末端のNR1R2で表される基を介してIgG抗体、IgG結合ペプチド等のタンパク質の官能基と結合できるので、IgG抗体を含む各種標的分子の放射性金属標識に用いることができる。したがって、本発明の他の態様は、上記式(II)の化合物に、標的分子に結合するポリぺプチドを結合させてなる化合物、またはその塩を提供する。
【0020】
本発明によれば、抗体のFc領域にフェニルアラニン残基およびリシン残基を有する排泄促進リンカーを備えるので、肝臓で代謝されることにより、放射性金属の体内からの排泄が促進され、体内動態に優れた放射性金属標識抗体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの投与後1時間点における放射能分布(%injected dose(ID))の平均値および標準偏差を示す図である。
【
図1B】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの投与後6時間点における放射能分布(%injected dose(ID))の平均値および標準偏差を示す図である。
【
図1C】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの投与後24時間点における放射能分布(%injected dose(ID))の平均値および標準偏差を示す図である。
【
図2A】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの肝臓における放射能分布(%ID)の経時変化を示す図である。
【
図2B】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの腎臓における放射能分布(%ID)の経時変化を示す図である。
【
図2C】[
111In]H-FGK-DOTAおよび[
111In]H-DOTAの排泄系における放射能分布(%ID)の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<修飾IgG結合ペプチド>
本発明の一態様において、修飾IgG結合ペプチドは、上記式(I)によって表される、13~17のアミノ酸残基からなるIgG結合ペプチドを含み、かつ当該IgG結合ペプチドのN末端が、上記式(III)で表されるDBCOリンカーで修飾されたものである。
【0023】
式(I)のIgG結合ペプチドは、IgGに結合するものであれば特に限定されないが、WO2017/217347に記載のものが好ましい。
【0024】
本発明で用いるIgG結合ペプチドについて、以下に詳細に説明する。
本明細書中で使用する「IgG」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG、好ましくはヒトのIgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)を指すものとする。本明細書におけるIgGは、さらに好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4、又はウサギIgGであり、特に好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4である。
【0025】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、上記式(I)によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能である。
【0026】
上記式(I)で、N末端又はC末端のX1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1~3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個すべてが同じ残基でない配列からなる。同様に、X2もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが2個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは当該2個連続しているアミノ酸残基は同じ残基でない配列からなる。
【0027】
式(I)の2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式(I)のIgG結合ペプチドにおいて、(Xaa1がシステイン残基である場合、Xaa1ではない)外側の2つのシステイン残基はジスルフィド結合している。或いは、式(I)のペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基は、以下の式:
【化3】
で表されるリンカーにより連結されていてもよい。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。したがって、当該リンカーは、例えばジルコニウム等のジスルフィド結合を不安定化させ得る放射性金属核種を用いる際に好ましく用いられる。
【0028】
上記の式(I)のIgG結合ペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなる。
【0029】
本明細書で使用する「17アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸番号で呼ぶときに、式(I)のIgG結合ペプチドについて最長のアミノ酸長である17残基のN末端から順番に1番目から17番目まで番号づけするために便宜的に表現した用語である。
【0030】
さらに、上記の式(I)のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~3、5、6、15~17番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である:
1番目のアミノ酸残基= S、G、F、R又は、なし
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は、なし
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
5番目のアミノ酸残基= A又はT、
6番目のアミノ酸残基= Y又はW、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は、なし、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、なし。
【0031】
式(I)のIgG結合ペプチドの好ましい具体例として、
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号3)、及び
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号4)が挙げられ、
特に好ましい例として、2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)が挙げられる(式中、Xaa1はリシン残基であり、Xaa2はホモシステインであり、好ましくはシステイン同士及び/又はホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している)。
【0032】
前述の通り、本発明に関わる上記式(I)のIgG結合ペプチドは、各アミノ酸配列の中に離間した少なくとも2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基間でジスルフィド結合を形成しうるようにシステイン残基が配置されていることを特徴としており、好ましいペプチドは、2つのシステイン残基がジスルフィド結合して環状ペプチドを形成し、各システイン残基のN末端側及びC末端側には1~3個のシステイン以外の任意のアミノ酸残基を有していても良い。各システイン残基のN末端側及びC末端側に1~3個のアミノ酸残基を有する場合において、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~2、16~17番目の各アミノ酸残基は、上記例示のものである。
【0033】
上記の通り、本発明で用いるIgG結合ペプチドにおいて、Xaa1は、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、及びグルタミン酸残基等のタンパク質構成アミノ酸、並びにジアミノプロピオン酸及び2-アミノスベリン酸等の非タンパク質構成アミノ酸、好ましくはリシン残基である。Xaa1は、後述する架橋剤によって修飾可能であることが好ましい。本明細書において「非タンパク質構成アミノ酸」とは、生体においてタンパク質を構成するのに用いられないアミノ酸を指す。本発明で用いるIgG結合ペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、本発明で用いるIgG結合ペプチドは、その配列中にXaa1と同じ残基を、全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましい。例えば、Xaa1がリシン残基である場合には、本発明で用いるIgG結合ペプチドは、その配列中にXaa1以外の場所にリシン残基を全く有さないか、ほとんど有さないことが好ましい。
【0034】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、ヒトIgGとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgA、IgE、IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明で用いるIgG結合ペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-1M~1×10-3M未満、好ましくは1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満である。
【0035】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、IgG抗体のFcドメインに結合する。本発明で用いるIgG結合ペプチドは、WO2017/217347の実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわち、ヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248残基(以下、本明細書では単に「Lys248」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号5)の18番目の残基に相当する)又はLys246残基(以下、本明細書では単に「Lys246」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号5)の16番目の残基に相当する)、好ましくはLys248と近接する。
【0036】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、例えばWO2017/217347に記載の方法により得ることができる。具体的には、慣用の液相合成法、固相合成法等のペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成等(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;Stewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132;「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人)によって製造することができる。あるいは、本発明で用いるIgG結合ペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法等によって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明で用いるIgG結合ペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0037】
ペプチド合成では、例えば、各アミノ酸(天然であるか非天然であるかを問わない)の、結合しようとするα-アミノ基とα-カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。このようにして得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα-カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0038】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む方法によりなされ得る。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられ得る。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等を含む。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。本発明で用いるIgG結合ペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。
【0039】
それゆえに、本発明はさらに、本発明で用いるペプチドをコードする核酸にも関する。ここで、核酸は、DNA又はRNA(例えばmRNA)を含む。
【0040】
本発明で用いるIgG結合ペプチドと他のタンパク質を融合させる場合、IgG結合ペプチドと他のタンパク質を別々に調製した後に、必要に応じてリンカーを用いてIgG結合ペプチドとタンパク質を融合させても良いし、遺伝子組換え法によって、必要に応じて適当なリンカーを加えて融合タンパク質として作製してもよい。この場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製することが好ましい。
【0041】
本発明で使用する上記IgG結合ペプチドは、架橋剤により修飾されていることが好ましい。上記の通り、本発明で用いるIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわちヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248又はLys246、好ましくはLys248と近接する。したがって、本発明で用いるIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、IgG結合ペプチドのXaa1とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に架橋構造を形成させることができる。上記の様に、本発明で用いるIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤及び種々の化合物で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、種々の化合物を、特異的かつ簡便にIgGに導入することができる。また、本発明によれば、IgG結合ペプチドを介して上記式(I)の化合物やその他の化合物を導入することができるため、様々な構造の化合物をIgGに導入することができる。さらに本発明は、得られる産物の収率が高く、また、抗体そのもの改変を伴わないため、抗体の機能を低下させる可能性が低いという利点も有する。
【0042】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、ヒト以外の動物、好ましくは哺乳動物のIgGに対して用いることもできる。この場合、本発明で用いるIgG結合ペプチドが結合するIgG中の部位は、本明細書を読んだ当業者であれば、例えばヒトIgGの配列と他の動物のIgGの配列をアライメントすることにより、容易に特定することができる。
【0043】
本発明において、「架橋剤」とは、本発明で用いるIgG結合ペプチドと、IgG Fcを、共有結合により連結させるための化学物質である。本発明の架橋剤は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、所望のアミノ酸(例えば、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸、及びアルギニン等)と結合可能な部位を少なくとも2箇所有する化合物とすることができる。その例として、限定するものではないが、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl、アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(dimethyl pimelimidate・2HCl、ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDMS(dimethyl suberimidate・2HCl、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む架橋剤、並びにDTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)及びDSP(dithiobis(succinimidyl propionate)、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)等のSS結合を有する架橋剤が挙げられる。
【0044】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、WO2017/217437に記載の方法によって製造することができる。
【0045】
また、本発明で用いるIgG結合ペプチドは、その安定性の向上等のため、C末端のアミド化等により修飾されていても良い。
【0046】
本発明で用いるIgG結合ペプチドは、N末端に修飾リンカーが導入されている。修飾リンカーとして、例えば、上記式(III)で表されるものが挙げられる。
【0047】
L1のポリエチレングリコール(PEG)リンカーのPEGの分子数は特に限定されず、例えば、1~50分子、1~20分子、2~10分子、2~6分子とすることができる。
【0048】
L2は、0~5以下のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であるが、少なくともシステインを含むことが好ましい。
【0049】
L3は、少なくともDBCO(ジベンゾシクロオクチン)基を含む基であればよく、市販されている種々のDBCO試薬(例えば、DBCO-C6-Acid、Dibenzylcyclooctyne-Amine、Dibenzylcyclooctyne-Maleimide、DBCO-PEG acid、DBCO-PEG-NHS ester、DBCO-PEG-Alcohol、DBCO-PEG-amine、DBCO-PEG-NH-Boc、Carboxyrhodamine-PEG-DBCO、Sulforhodamine-PEG-DBCO、TAMRA-PEG-DBCO、DBCO-PEG-Biotin、DBCO-PEG-DBCO、DBCO-PEG-Maleimide、TCO-PEG-DBCO、DBCO-mPEGなど)がL1またはL2と結合して形成したものを選択できるが、一例として、上記式(IV)で表されるDBCO-マレイミドが、L2のシステイン残基と反応することで形成されたものが挙げられる。
【0050】
式(III)の修飾リンカーは、クリック反応の基質となるDBCOを備えているので、アジド基を備えたリガンドとクリック反応により結合することできる。クリック反応は、公知の条件を用いることができるが、反応溶媒中で温度25~50℃で時間20~40分維持すればよい。反応溶媒としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液の他、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が少量緩衝液に混合した、混合溶媒が使用できる。
【0051】
<IgG抗体>
一態様において、本発明は、本発明の修飾IgG結合ペプチドが結合したIgG抗体に関する。該IgG抗体は、修飾IgG結合ペプチドをIgG抗体と混合して、修飾IgG結合ペプチドとIgGとの間で架橋反応を発生させることによって形成され得る。架橋反応は、好ましくは、上記式(I)で表されるIgG結合ペプチドの上記Xaa1のアミノ酸残基とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248とが部位特異的に生じ得る。この架橋反応は、WO2017/217437に記載の方法によって実行することができる。
本発明が適用されるIgG抗体は、少なくとも1つの重鎖を含むものであれば特に限定されない。重鎖は分子量約50kDaであり、少なくとも抗原結合領域及びFc領域を含む。重鎖には、分子量約25kDaの軽鎖がジスルフィド結合を介して結合していてもよい。本発明のIgG抗体の分子量は上記構成を満たすものであれば特に限定されないが、好ましくは約100~170kDa程度であり、より好ましくは約120~170kDaである。
本発明において「約」とは、±10%の数値範囲を示す。
【0052】
本発明のIgG抗体は、Fc領域に部位特異的な架橋反応によって形成されることから、該架橋反応が、IgGの活性に負の影響を与える可能性が少ない。また、修飾IgG結合ペプチドをIgGに連結することによって、IgGに新たな機能性を付加することができる。IgGとして種々の抗体医薬を用いることも可能である。
【0053】
<リガンド>
本発明の他の態様において、上記式(II)で示されるペプチド系リガンドが提供される。
上記式(II)の化合物は、リシンの側鎖の末端のNR1R2で表される基を介して、IgG結合ペプチド、修飾IgG結合ペプチド、IgG抗体、抗体断片等のポリペプチド、その他標的分子に結合するリガンドなどの標的分子素子と結合できるので、各種標的分子素子の放射性金属標識に用いることができる。また、上記式(II)の化合物は、フェニルアラニン残基およびリシン残基を有するペプチド鎖を主鎖として備え、該主鎖が肝臓で代謝されるので、放射性金属の肝臓への蓄積が抑制され、尿中への排泄が促進され、体内動態に優れている。これにより、短半減期放射性金属核種だけでなく細胞殺傷性のα線やβ線を放出する放射性金属核種を用いた放射線治療薬への応用も可能であり、また、放射性画像診断において腹部のバックグラウンドとなる放射能が少ないため、腹部の病巣部位の検出・診断が容易となる。
【0054】
上記式(II)でR
1及びR
2が結合して窒素原子と一緒にマレイミド基を形成する場合は、システインのSH基に結合することができ、R
1及びR
2の一方が水素原子で他方がCO(CH
2)
4N
3で表される基である場合は、DBCOなどのアルキンとクリック反応して結合することができる。したがって、上記式(III)で表される修飾リンカーを用い、かつ、下記式(II-2)で表される化合物をリガンドとして用いることで、上記修飾IgG結合ペプチド、または、これが結合したIgG抗体に、下記式(II-2)で表されるリガンドを結合させることが可能になる。
【化4】
(式(II-2)中、nは0または1である。)
【0055】
本発明のリガンドは、薬理学的に許容される塩を形成していてもよい。塩としては、例えば、酸付加塩、塩基付加塩が挙げられる。
酸付加塩としては、無機酸塩、有機酸塩のいずれであってもよい。
無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
有機酸塩としては、例えば、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等が挙げられる。
塩基付加塩としては、無機塩基塩、有機塩基塩のいずれであってもよい。
無機塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基塩としては、例えば、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0056】
<修飾抗体>
本発明の他の態様において、IgG抗体と、前記IgG抗体に結合したIgG結合ペプチドとを含む修飾抗体であって、当該IgG結合ペプチドが、上記の式(I)によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、該IgG結合ペプチドのN末端には、修飾リンカーを介して、上記式(II-1)で表される化合物がそのリシン残基の箇所で連結されてなる、修飾抗体が提供される。
【0057】
この発明の修飾抗体では、上記式(II-1)で表される化合物のリシン残基と修飾リンカーとの結合部位がDBCO基とアジド基とがクリック反応することで形成されていることが好ましい。より好ましくは、上記式(II-1)で表される化合物のリシン残基に、炭素数1~10のアルキルアジド基が導入されたものを用いることができ、さらに好ましくは、上記式(II-2)で表される化合物を用いる。また、このとき、修飾リンカーが、上記式(III)で表されるものであることが好ましい。クリック反応は、公知の条件を用いることができるが、反応溶媒中で温度25~50℃で時間20~40分維持すればよい。反応溶媒としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液の他、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が少量緩衝液に混合した、混合溶媒が使用できる。
【0058】
<放射性金属標識抗体>
本発明の他の態様において、上記修飾抗体に放射性金属が配位した放射性金属標識抗体が提供される。
【0059】
放射性金属核種の例としては、111In(インジウム)、89Zr(ジルコニウム)、67/68Ga(ガリウム)、64Cu(銅)、90Y(イットリウム)、213Bi(ビスマス)、225Ac(アクチニウム)、177Lu(ルテチウム)が挙げられる。IgG結合ペプチドに結合させる放射性金属核種は、本発明の放射性金属表域抗体の用途に応じて選択することができる。例えば、癌の検出・診断には111In、89Zr、64Cu及び67/68Gaを用いることができ、例えばPET(Positron Emission Tomography)には89Zr及び64Cuを、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)には111Inを用いることができる。治療用としては225Ac及び177Luを用いることが出来る。
【0060】
本発明の修飾抗体に放射性金属を配位させるためには、例えば、反応溶媒中で両者を温度25~120℃で時間30~180分維持すればよい。反応溶媒としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、HEPES緩衝液等が使用できる。
【0061】
<放射性医薬>
本発明の他の態様において、上記放射性金属標識抗体を含有する放射性医薬が提供される。
【0062】
本発明の放射性医薬は、例えば、核医学画像診断剤又は癌の診断剤として用いることができる。この場合、IgG抗体は癌種に応じて適宜選択することができ、例えば乳癌であればトラスツズマブ、大腸癌であればセツキシマブを用いることができる。核医学画像診断剤又は癌の診断剤は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国を参照されたい)。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0064】
実施例1:DBCO含有IgG抗体の作製
下記に示す、DBCO修飾IgG結合ペプチドが結合したIgG抗体を作製した。
【化5】
【0065】
1)DBCO修飾IgG結合ペプチドの作製
N末端のアミノ基をアセチル基で修飾したアミノPEG5化IgG結合ペプチドGPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号2、分子内の2つのCysはジクロロアセトンで架橋、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。脱保護後、精製したIgG結合ペプチド9.1mgを0.5%ピリジン含有DMSO100μL(33.3mM)に溶解し、これに100mM DBCO-maleimideを含む0.5%ピリジン含有DMSOを50μL(ペプチドのモル比で1.5倍量)加えて室温で30分反応させた。次に、このペプチド溶液へアセトニトリルに溶解したDSG(500mM)200μL(最終濃度286 mM、ペプチドに対して30倍モル当量)を加え、50℃で3時間反応させた。全量(350μL)を2つに分け、0.1%TFAを含む10%アセトニトリル5mLに希釈し、遠心後の上静を、Inert Sustain(登録商標)C18カラム(7.6mm 1×250mm, GL Science)にインジェクションし、0.1%TFAを含む10%アセトニトリルから0.1%TFAを含む60%アセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物のDBCO修飾IgG結合ペプチドを回収後、有機溶媒を除去し、その後凍結乾燥した。
【0066】
2)DBCO含有IgG抗体の作製
上記1)で調製した修飾IgG結合ペプチドを4mMの濃度でDMSOに溶解した溶液25.2μLと、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した20μMの抗HER2ヒト抗体(Trastuzumab)(中外製薬)16.8mLを混合し、37℃で3時間反応(ペプチドと抗体のモル比=3:1)させた。このようにして調製したDBCO含有抗体は、陽イオン交換カラムCIM multus SO3-8(8 mL, BIA separation)にて、10 mM 酢酸緩衝液(pH 5.5)中0から0.35 M NaClのグラジエント溶出で精製した。未反応の抗体以外に、ペプチドが1つ結合した1価抗体とペプチドが2つ結合した2価抗体の生成が確認された。そこで1価抗体のピークを分取後、Vivaspin(10000Daカットオフ、GE Healthcare)上で、3000gで遠心することによって脱塩濃縮を行った。
【0067】
実施例2:DO3ABn-Phe-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OHの合成
DO3ABn-Phe-Lys((CH
2)
4-N
3)-OH(式(II-2)において、nが0の化合物)は、以下のスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物が化合物(4b)であり、ステップ(b)の生成物が化合物(5b))により、合成した。なお、
1H-NMRによる分析はJEOL ECS-400 spectrometer(日本電子株式会社)を使用し、ESI-MSによる分析はHPLC1200 series-6130 quadrupole LC/MS mass spectrometer(アジレント・テクノロジー株式会社)を使用した。
【化6】
【0068】
エチル5-アジドバレラート(Ethyl 5-azidovalerate)(化合物(1))の合成
エチル5-ブロモバレラート(Ethyl 5-bromovalerate) (1 g, 4.78 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide) (DMF, 3 mL)に溶解し、NaN3 (0.5 g, 7.7 mmol)を加え、85 ℃で一晩撹拌した。懸濁液を水(40 mL)で希釈し、ジエチルエーテル(diethyl ether) (40 mL×3)で抽出した。溶液を減圧濃縮した溶液をそのまま次の反応に用いた。
【0069】
5-アジド吉草酸(5-Azidovaleric acid)(化合物(2))の合成
化合物(1)の溶液に1 N NaOH水溶液(8.2 mL)を加えた後、混合液が均一となるまで、メタノール(methanol)を加えた。室温で4時間撹拌後、反応液を減圧濃縮して得られた水溶液をジエチルエーテル(diethyl ether)(5 mL)で洗浄した。次いで、5%クエン酸水溶液を加え、溶液を酸性とした後、ジエチルエーテル(diethyl ether)(5 mL×3)で抽出した。有機層にNa2SO4を加えて乾燥した後、溶媒を減圧留去することで化合物(2) (360 mg, 52.6%)を得た。
1H NMR (CDCl3): δ 1.62-1.77 (4H, m, CH2), 2.39-2.43 (2H, t, CH2), 3.29-3.33 (2H, t, CH2)
【0070】
2,3,5,6-テトラフルオロフェニル5-アジドバレラート(2,3,5,6-tetrafluorophenyl 5-azidovalerate)(化合物(3))の合成
化合物(2) (17.9 mg, 0.125 μmol)、2,3,5,6-テトラフルオロフェノール(2,3,5,6-tetrafluorophenol) (44.0 mg, 0.250 μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(N,N-diisopropylethylamine)(DIEA, 53.2 μL, 0.312 μmol)をCH2Cl2 (2.0 mL)に溶解した後、氷冷下1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)(EDC, 48.0 mg, 0.250 μmol)を加えた。溶液を室温に戻し、1.5時間撹拌後、酢酸エチル(ethyl acetate)(10 mL)を加え、飽和塩化アンモニウム溶液(3 mL×3)で洗浄した。有機層にNa2SO4を加えて乾燥した後、溶媒を減圧留去することで化合物(3) (39.9 mg)を得た。得られた粗生成物は2,3,5,6-テトラフルオロフェノール(2,3,5,6-tetrafluorophenol)を含むが、このまま次の反応に用いた。
【0071】
DO3ABn-Phe-Lys-OH (化合物(4b))の合成
Cl-Trt(2-Cl)-Reisn(渡辺化学工業、製品番号:A00187)にペプチド伸長反応によりPhe-Lysを結合させ、(tBu)3DO3ABn-COOH (16-20 mg)に対して、1.3等量のPhe-Lysが結合した樹脂、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU,2.5等量)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt, 2.5等量)、DIEA (5.0等量)を加え、DMF (200 μL)中室温で一晩撹拌した。DMFで8回、次いでCH2Cl2で4回洗浄した後、樹脂を減圧乾燥した。乾燥後の樹脂にトリフルオロ酢酸(TFA)/トリイソプロピルシラン(triisopropylsilane)/水 = 95/2.5/2.5の混合液を加え、室温で3時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、ジエチルエーテル(diethyl ether)(5 mL)を加えることで結晶化させた。結晶をろ取し、ジエチルエーテル(diethyl ether)で洗浄した後、減圧乾燥することで化合物(4b)のTFA塩7.7 mg (25.7%)を白色結晶として得た。
【0072】
DO3ABn-Phe-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OH (化合物(5b))の合成
化合物(4b)をDMF (0.5 mL)に溶解し、化合物(3) (7.5等量)、DIEA (4.0等量)を加え、室温で3時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、水(5 mL)に再溶解した。得られた水溶液をCHCl3 (3 mL×3)で洗浄した後、減圧濃縮し、分取用HPLCにて精製することで、化合物(5b)のTFA塩1.7 mg (20.0%)を白色結晶として得た。ESI-MS (M+H)+: m/z 881, found: 881
なお、分取用HPLCによる精製では、カラムとしてImtakt Cadenza C18 (20 mm x 150 mm)を使用し、A相に0.1%TFA/水、B相に0.1%TFA/メタノール(methanol)を用いて、0-45分でB相が10-50%、45-55分で50-100%まで上がるグラジエントシステムにより、流速5 mL/minで、保持時間38.0分のピークを分取して行った。
また、質量分析は、カラムとしてImtakt US-C18 (4.6 mm x 150 mm)を使用し、A相に0.1%TFA/水、B相に0.1%TFA/アセトニトリル(acetonitrile)を用いて、0-30分でB相が0-45%、30-40分で45-100%まで上がるグラジエントシステムにより、流速1 mL/minで、保持時間25.0分のピークを分析することにより行った。
【0073】
実施例3:DO3ABn-Phe-Gly-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OHの合成
DO3ABn-Phe-Lys((CH2)4-N3)-OH(式(II-2)において、nが1の化合物)は、実施例2で示すスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物が化合物(4c)であり、ステップ(b)の生成物が化合物(5c))により、合成した。
【0074】
DO3ABn-Phe-Gly-Lys-OH (化合物(4c))の合成
Phe-Lysに代えてPhe-Gly-Lysが結合した樹脂を用いた以外は、実施例2の化合物(4b)と同様な操作を行い、化合物(4c)のTFA塩30.0 mg (76.8%)を白色結晶として得た。
【0075】
DO3ABn-Phe-Gly-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OH (化合物(5c))の合成
化合物(4b)に代えて化合物(4c)を用いた以外は、実施例2の化合物(5b)と同様な操作を行い、化合物(5c)のTFA塩4.6 mg (14.0%)を白色結晶として得た。ESI-MS (M+H)+: m/z 938, found: 938
なお、HPLCによる精製では、実施例2とは異なり、カラムとしてImtakt Cadenza C18 (20 mm x 150 mm)を使用し、A相に0.1%TFA/水、B相に0.1%TFA/アセトニトリル(acetonitrile)を用いて、0-45分でB相が10-50%、45-55分で50-100%まで上がるグラジエントシステムにより、流速5 mL/minで、保持時間33.9分のピークを分取して行った。
また、質量分析の条件は実施例2と同じであるが、保持時間は、24.7分であった。
【0076】
比較例1:DO3ABn-Gly-Lys((CH
2
)4-N
3
)-OHの合成
DO3ABn-Gly-Lys((CH2)4-N3)-OH(式(II-2)において、nが1で、フェニル残基を有しないもの)は、実施例2で示すスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物が化合物(4a)であり、ステップ(b)の生成物が化合物(5a))により、合成した。
【0077】
DO3ABn-Gly-Lys-OH (化合物(4a))の合成
Phe-Lysに代えてGly-Lysが結合した樹脂を用いた以外は実施例2の化合物(4b)と同様な操作を行い、化合物(4a)のTFA塩8.3 mg (25.3%)を白色結晶として得た。
【0078】
DO3ABn-Gly-Lys((CH2)4-N
3
)-OH (化合物(5a))の合成
化合物(4b)に代えて化合物(4a)を用いた以外は、実施例2の化合物(5b)と同様な操作を行い、化合物(5a)のTFA塩1.5 mg (16.3%)を白色結晶として得た。ESI-MS (M+H)+: m/z 791, found: 791
ただし、HPLC精製における保持時間は22.6分であり、質量分析における保持時間は、19.3分であった。
【0079】
製造例1:DBCO-NGAの調製
Journal of Medicinal Chemistry 1997, 40, 2643-2652と同様の手法を用いて、2-イミノチオラン(2-iminothiolane)によりチオール基を導入したNGA溶液 10 mg/mLを調製した。本溶液100 μLに、ガラクトース結合アルブミン(NGA)に対して50等量のDBCO-マレイミド(maleimide) (Aldrich社より購入)を溶解したDMSO溶液2 μLを添加し、37 ℃で1.5時間反応を行った。反応終了後、溶液をD-PBS(-)で平衡化したsephadex G-50を担体とするスピンカラムで精製することで、DBCOが平均結合数2.1で結合したDBCO-NGAを作製した。
【0080】
製造例2:
111
In-DO3ABn-Phe-Lys-NGAの作製
DO3ABn-Phe-Lys((CH
2)
4-N
3)-OHの
111In標識およびDBCO-NGAとのクリック反応は、以下のスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物は化合物(6b)、ステップ(b)の生成物は化合物(7b)
)に従い合成した。
【化7】
【0081】
111
In-DO3ABn-Phe-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OH (化合物(6b))の作製
111InCl3溶液(1.48 MBq/60 μL)に1 M酢酸緩衝液(pH 5.5, 20 μL)を添加し、室温で5分静置した溶液に、5×10-4 Mの濃度で0.1 M酢酸緩衝液(pH 5.5, 20 μL)に溶解した化合物(5b)を添加した。溶液を95℃で5分間反応した後、室温に戻し、0.2 M DTPA溶液10 μLを加え、室温で5分静置した。反応液を分析用HPLCにより精製した。目的物を含む画分をSep-pakによりメタノールに溶媒置換して得られた溶液にD-PBS(-)を30 μL加え、溶媒を減圧濃縮した。A相に0.05 M 酢酸緩衝液(pH 5.5)、B相にメタノール(methanol)を用いて、0-30分でB相が20-60%、30-35分で60-100%まで上がるグラジエントシステムにより、流速1 mL/minで、保持時間20.2分のピークを分取することで精製し、化合物(6b)を放射化学的収率>99%で得た。
【0082】
111
In-DO3ABn-Phe-Lys-NGA (7b)の作製
化合物(6b)のD-PBS(-)溶液30 μLをDBCO-NGA溶液10 μLに添加し、室温で14時間反応を行った。反応後の溶液を、D-PBS(-)で平衡化したsephadex G-50を担体とするスピンカラムで精製することで、目的とする111In標識NGA(化合物7(b))を放射化学的収率 43.0%で得た。
【0083】
製造例3:
111
In-DO3ABn-Phe-Gly-Lys-NGAの作製
DO3ABn-Phe-Gly-Lys((CH2)4-N3)-OHの111In標識およびDBCO-NGAとのクリック反応は、製造例2に示すスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物は化合物(6c)、ステップ(b)の生成物は化合物(7c))に従い合成した。
【0084】
111
In-DO3ABn-Phe-Gly-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OH (化合物(6c))の作製
化合物(5b)に代えて化合物(5c)を用いた以外は、製造例2の化合物(6b)と同様な操作を行い、化合物(6c)を放射化学的収率98.7%で得た。
ただし、HPLC精製における保持時間は、18.7分であった。
【0085】
111
In-DO3ABn-Phe-Gly-Lys-NGA (7c)の作製
化合物(6b)に代えて化合物(6c)を用いた以外は、製造例2の化合物(6b)と同様な操作を行い、化合物(7c)を放射化学的収率50.0%で得た。
【0086】
製造例4:
111
In-DO3ABn-Gly-Lys-NGAの作製
DO3ABn-Gly-Lys((CH2)4-N3)-OHの111In標識およびDBCO-NGAとのクリック反応は、製造例2に示すスキーム(ただし、ステップ(a)の生成物は化合物(6a)、ステップ(b)の生成物は化合物(7a))に従い合成した。
【0087】
111
In-DO3ABn-Gly-Lys((CH
2
)
4
-N
3
)-OH (化合物(6a))の作製
化合物(5b)に代えて化合物(5a)を用いた以外は、製造例2の化合物(6b)と同様な操作を行い、化合物(6a)を放射化学的収率93.2%で得た。
ただし、分析用HPLCによる精製では、カラムとしてImtakt US-C18 (4.6 mm x 150 mm)を使用し、A相に0.05 M 酢酸緩衝液(pH 5.5)、B相にメタノール(methanol)を用いて、0-30分でB相が0-40%、30-35分で40-100%まで上がるグラジエントシステムにより、流速1 mL/minで保持時間は、19.1分のピークを分取することにより精製した。
【0088】
化合物(6b)に代えて化合物(6a)を用いた以外は、製造例2の化合物(6b)と同様な操作を行い、化合物(7a)を放射化学的収率38.0%で得た。
【0089】
製造例5:CHX-A’’-DTPA-NGA作製
NGAを0.1 Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)に溶解して、NGA溶液(250 μg/50 μL)を調製した。また、p-SCN-CHX-A’’-DTPA ((R)-2-Amino-3-(4-isothiocyanatophenyl)propyl]-trans-(S,S)-cyclohexane-1,2-diamine-pentaacetic acid, Aldrich社より購入)を0.1 Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)に溶解し(6 mg/mL)、0.1 N NaOHを加えて、pHを8-9に調整した後、0.1 Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)で希釈することで、p-SCN-CHX-A’’-DTPA溶液(5 mg/mL)を調製した。20等量のp-SCN-CHX-A’’-DTPA溶液をNGA溶液に加え、室温で一晩反応した。
反応終了後、溶液を0.25 M酢酸緩衝液(pH 5.5)で平衡化したsephadex G-50を担体とするスピンカラムで精製することで、目的とするCHX-A’’-DTPA-NGA溶液を得た。
【0090】
製造例6:
111
In-CHX-A’’-DTPA-NGAの作製
111InCl3溶液(1.48 MBq/20 μL)に1 M酢酸緩衝液(pH 5.5, 5 μL)を添加し、室温で5分静置した溶液に、CHX-A’’-DTPA-NGA溶液(30 μg/15 μL)を添加した。溶液を37℃で1.5時間反応した後、室温に戻し、0.2 M DTPA溶液10 μLを加え、室温で5分静置した。反応後の溶液を、D-PBS(-)で平衡化したsephadex G-50を担体とするスピンカラムで精製することで、目的とする111In-CHX-A’’-DTPA-NGAを得た。
【0091】
実施例4:放射性金属標識IgG抗体[
111
In]H-FGK-DOTAの作製
実施例1で得られたDBCO含有IgG抗体1.4mg(1.5nmol)及び実施例3で得られたDO3ABn-Phe-Gly-Lys((CH2)4-N3)-OH 0.1mg (75nmol)を10mM 酢酸緩衝液167.5μL中、室温下でクリック反応させた。反応終了後、限外濾過によって精製を行うことで、DBCO修飾IgG結合ペプチドを介してトラスツズマブ(Trastuzumab)にDOTA-FGKが結合した修飾抗体(以下、「H-FGK-DOTA」)を作製した。得られたH-FGK-DOTAを111InCl3溶液200μL(19.7MBq、pH6.5)と100mM HEPES緩衝液50μL中で混合した。なお、[111In]に対するH-FGK-DOTAのモル数が20-100倍になるように調製した。これを45℃で2時間反応させることで錯体形成反応を進行させ、錯体形成後、限外濾過によって精製を行った。放射能量をラジオアイソトープ・ドーズ・キャリブレータで測定した結果、得られた[111In]H-FGK-DOTAの放射能量は、2.33MBqであり、減衰補正をして算出した放射化学的収率が14.0 %であった。
また、[111In]H-FGK-DOTAをろ紙に滴下後、100mMクエン酸ナトリウム緩衝液によって展開した。展開終了後、TLCスキャナー(Gita Star、raytest社)で測定した結果、放射化学純度は97.1 %であった。
【0092】
実施例5:放射性金属標識IgG抗体[
111
In]H-DOTAの作製
実施例1で得られたDBCO含有IgG抗体及び1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7-tris(acetic acid)-10-(azidopropyl ethylacetamide)(Azide-mono-amide-DOTA、Macrocyclics社)0.04mg(75nmol)を酢酸緩衝液167.5μL中、室温下でクリック反応させた。反応終了後、限外濾過によって精製を行うことで、DBCO修飾IgG結合ペプチドを介してTrastuzumabにDOTAが結合したIgG抗体(以下、「H-DOTA」)を作製した。得られたH-DOTAを111InCl3溶液200μL(21.3MBq、pH6.5)と100mM HEPES緩衝液50μL中で混合することで錯体形成反応を進行させ、錯体形成後、限外濾過によって精製を行うことで[111In]H-DOTA2.99MBqを得た。実施例3と同様に放射化学的収率および放射化学的純度を算出した結果、放射化学的収率は19.5%、放射化学的純度は、99.6 %であった。
【0093】
評価1:動物実験(1)
製造例2~4及び6で得た各111In標識NGA溶液を(11.1 kBq/8 μg protein/100 μL/mouse)の濃度になるようにD-PBS(-)で希釈・調整し、ddY、6週齢の雄性マウスの尾静脈より投与した。投与5分、または1時間後に1群5匹のマウスを屠殺し、血液および関心臓器を回収し、臓器重量を測定後、オートウェルガンマカウンターにより、放射能を測定した。
【0094】
【0095】
【0096】
表1に投与5分後の各臓器放射能(%ID)を示す。表2に投与1時間後の各臓器放射能(%ID)を示す。Gly-Lysは、製造例4で作製した111In-DO3ABn-Gly-Lys-NGAを投与した結果を示し、Phe-Lysは、製造例2で作製した111In-DO3ABn-Phe-Lys-NGAを投与した結果を示し、Phe-Gly-Lysは、製造例3で作製した111In-DO3ABn-Phe-Gly-Lys-NGAを投与した結果を示し、SCNは、製造例6で作製した111In-CHX-A’’-DTPA-NGAの結果を示す。
表1で示すように投与5分では、肝臓に放射能集積が認められたが、Phe-LysおよびPhe-Gly-Lysのアミノ酸配列を含めることで、肝臓からの排泄が認められた。
【0097】
評価2:動物実験(2)
実施例4で得た[
111In]H-FGK-DOTAおよび実施例5で得た[
111In]H-DOTAを用いてFGK配列の有効性を調べることを目的としてin vivo実験を行った。
溶媒をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に置換した[
111In]H-FGK-DOTA及び[
111In]H-DOTAを100μLあたり200kBqとなるように調整後、イソフルラン麻酔下、6週齢の雄性マウス(ddY)3匹に対して、100μLずつ尾静脈投与し、投与後、1時間、6時間、24時間目に放血死することによって屠殺した。臓器(心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、胃、小腸、大腸、下肢骨、筋肉、膀胱)を摘出して、血液、尿、糞、残全身とともに重量を計量後、放射能量を測定した。各時間点における放射能分布(%injected dose(ID))の平均値及び標準偏差を
図1に示す。また、
図2には、注目臓器の体内動態(%ID)を示す。統計解析は、Student’s t-testを用いて行った。また、有意差の判定はP<0.05とした。
【0098】
図1Aが投与後1時間の結果を示す図であり、
図1Bが投与後6時間の結果を示す図であり、
図1Cが投与後24時間の結果を示す図である。
図2Aは、肝臓における放射能分布(%ID)の経時変化を示す図であり、
図2Bが腎臓における放射能分布(%ID)の経時変化を示す図である。
図2Cにおいて、「腎尿路系」は、腎臓、膀胱および尿における放射能分布(%ID)の合算の経時変化を示し、「肝胆道系」は、肝臓、小腸、大腸及び糞中における放射能分布(%ID)の合算の経時変化を示す。
投与後,6時間点において[
111In]H-DOTAと[
111In]H-FGK-DOTAの肝臓への取り込みに差があった点及び,投与後24時間点において[
111In]H-FGK-DOTAでは尿中への排泄が著しく上昇していた点から,FGK配列によって放射性核種の排泄を促進し,肝臓への集積を低減させることに成功したことが示された。
【0099】
この出願は、2018年4月16日に出願された日本出願特願2018-78487号を基礎とする優先権を主張し、その開示の総てをここに取り込む。
【配列表】