(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】コラーゲン結合タンパク質による治療剤の送達
(51)【国際特許分類】
A61K 38/29 20060101AFI20230808BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230808BHJP
A61P 5/20 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K38/29 ZNA
A61K47/64
A61P5/20
A61P43/00 111
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021172953
(22)【出願日】2021-10-22
(62)【分割の表示】P 2020000376の分割
【原出願日】2012-12-14
【審査請求日】2021-11-22
(32)【優先日】2011-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500467264
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アーカンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】315002645
【氏名又は名称】モンテフィオーレ メディカル センター
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】サコン ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】フィロミネイサン サガヤ テレサ レーナ
(72)【発明者】
【氏名】ポンナパッカム トゥラシ
(72)【発明者】
【氏名】カティカネニ ランジータ
(72)【発明者】
【氏名】小出 隆規
(72)【発明者】
【氏名】松下 治
(72)【発明者】
【氏名】ジェンシュア ロバート シー
(72)【発明者】
【氏名】西 望
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-511686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副甲状腺機能亢進の治療を必要とする被験者における副甲状腺機能亢進を治療するための医薬の調製における、PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含有する組成物の使用
であって、
前記PTH/PTHrP受容体アゴニストが、配列番号1の残基1-33、PTH(配列番号7)、又は配列番号7の残基1-34を含み、そして、前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントが、配列番号13~34のうちの1つ、配列番号1の残基34-158、及び配列番号1の残基34-158もしくは配列番号13~34と少なくとも90%同一であるペプチドからなる群から選択されるM9ペプチダーゼ由来のコラーゲン結合ポリペプチドを含むことを特徴とする使用。
【請求項2】
前記組成物が、筋肉内、皮内、静脈内、皮下、腹腔内、局所、経口、非経口又は鼻腔内投与されるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントのN末端が、該PTH/PTHrP受容体アゴニスト
のC末端に直接的に結合されるか、又はリンカーポリペプチドセグメントを介して結合されている、請求項1
又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメント及び前記PTH/PTHrP受容体アゴニストが、互いに化学的に架橋されているか、又は融合タンパク質のポリペプチド部分である、請求項1
又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が、前記被験者において、単独で投与されたPTH(1‐34)よりも少なくとも50%大きい活性を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記被験者が、ヒトである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記組成物が、5.0未満又は6.0を超えるpHの水溶液で投与されるものである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記PTH/PTHrP受容体アゴニストが、配列番号1の残基1‐33を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントが、配列番号1の残基34‐158を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記PTH/PTHrP受容体アゴニストに連結された前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントが、配列番号1を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを前記PTH/PTHrP受容体アゴニストと連結する多発性嚢胞腎疾患(PKD)領域を更に含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記PKD領域が、配列番号6の残基807‐901を含む、請求項
11に記載の使用。
【請求項13】
前記PTH/PTHrP受容体アゴニストに連結された前記細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントが、配列番号2を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国仮特許出願第1/570,620号(2011年12月14日出願)及び米国仮特許出願第61/596,869号(2012年2月9日出願)の優先権の利益を主張するものであり、それらは共にその全体が参照により本願に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)が交付した連邦政府による資金提供(助成金番号NCRR COBRE 8P30GM103450及びINBRE GM103429)を受けて行った。アメリカ合衆国は、本発明に一定の権利を有することができる。
【0003】
配列表
本願には配列表が添付されているが、それらは参照によりその全体が本願に組み込まれる。配列表は、本願と共に2012年12月14日にテキストファイルで提出された。
【背景技術】
【0004】
序論
特定の治療剤が効力を発揮するために必要な、被験者の体内部位への治療剤の送達は発展中の分野である。このようなデリバリーシステムは、一部の治療剤によって引き起こされる毒性を低減すると同時に、治療剤のより有効な使用を可能にする。特定の体内部位に治療剤を標的化するための、抗体などの標的化リポソーム又はポリペプチドの使用は好結果をもたらしているが、さらなる送達剤が求められている。
【0005】
脱毛症(脱毛)は、複数の原因による、心理学的及び感情的に苦痛を与える事象である。脱毛症は、通常、男性型脱毛症として発症し、35歳までの男性のおおよそ3分の2が冒されるが、多嚢胞性卵巣症候群の女性においても同様な脱毛パターンが認められる場合がある。これらの障害の両方において、脱毛はアンドロゲン媒介性である。脱毛症はまた、円形脱毛症と呼ばれる自己免疫疾患として発症する場合もあるが、これは人口の1.7%が発症する障害である。脱毛症は、内科的治療の副作用で発症する場合があり、特に化学療法においては、化学療法患者の65~85%がある程度の脱毛症を経験する。化学療法の現場において、脱毛の精神的影響はよく研究されている。化学療法誘発性脱毛症(CIA)は、不安、うつ病、否定的な身体イメージ、自尊感情の低下及び幸福感の低下をもたらす場合がある。実際、女性癌患者の47~58%が、脱毛が化学療法の最も心的外傷となる側面であると考えており、8%が、脱毛の恐れから治療を辞退すると考えられる。化学療法患者におけるこれらの研究に加えて、脱毛症の他の形態において、脱毛の精神的影響を減じるための治療を支える根拠が存在する。このように、脱毛を停止させるか、又は毛髪再生を促進する新規治療は有益と考えられる。
【0006】
軽度の抗アンドロゲン効果を有する薬物(すなわちスピロノラクトン)の脱毛症の治療の成功は限定的だったのに対し、脱毛症の最初の有効な薬物はミノキシジル(Rogaine)であった。この降圧薬は、発毛を引き起こす副作用が観察されており、現在、多くの形態の脱毛症の局所治療で用いられている。しかしながら、応答は不十分であり、被験者によっては、実際の再生よりはむしろ脱毛の減速のみを示したものもある。フィナステリド(Propecia)は、テストステロンのジヒドロテストステロンへの変換を遮断し、局所的全身性アンドロゲン遮断によってアンドロゲン性脱毛症の改善をもたらす新規薬剤である。しかしながら、長期(10年)治療での奏効率は、わずかにおよそ50%である。総合的に見て、この分野における多くの研究にもかかわらず、いまだに脱毛の適切な治療が存在しない。
【0007】
さらに、好ましくない発毛は、多くの人々が日頃から興味を有する美容上の問題である。顔面、下肢、腕、胸又は背中における好ましくない発毛は、増えつつある美容上の問題である。多くの人々は、好ましくない毛髪を除去するために、レーザー治療、ワキシング又は他の治療を用いる。現在、発毛を抑制する局所医薬品は存在しない。
【0008】
コラゲノパシー(collagenopathy)は、コラーゲンの構造又は形成が正常ではない多数の疾患を表す。この疾患群は、骨欠損、血管欠損及び皮膚欠損を含む広いスペクトルの症状を生じる。これらの疾患の多くは、利用可能な治療がないか又は効果のない治療しかない。
【0009】
例えば、骨形成不全症(OI)は、骨粗しょう症(brittle bone disease)とも呼ばれ、I型コラーゲンの先天性変異によって引き起こされる。おおよそ25,000~50,000人のアメリカ人がかかっており、この疾患の影響は、多くの個体が疾患に気づかない軽度なものから、骨折の再発によって個体が正常な生活を送ることができない重篤なものにまでわたっている。大部分のOI患者は、コラーゲンの3重らせん構造を破壊し不十分なねじれをもたらす、グリシンをより嵩高いアミノ酸に変えるコラーゲンのアミノ酸変化を引き起こす変異を有する。身体は、コラーゲンの加水分解で応答する場合があり、これによって、骨強度が減少する場合がある。現在、OIの治療法はほとんど存在しない。
【発明の概要】
【0010】
本明細書において、治療剤での治療を必要とする被験者に、治療剤に結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を投与することによって治療剤を送達する方法が提供される。これらの方法において、治療剤は、PTH/PTHrP受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)又は上皮増殖因子(EGF)ではなく、細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、部分的にねじれていない(partially untwisted)か又はねじれが不十分な(under-twisted)コラーゲン部位にこの薬剤を送達する。
【0011】
他の側面において、コラゲノパシーを治療するのに有効な量で、PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を被験者に投与することによって、骨形成不全症などのコラゲノパシーを有する被験者を治療する方法が提供される。細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、部分的にねじれていないか又はねじれが不十分なコラーゲン部位にこの薬剤を送達する。
【0012】
さらに他の側面において、PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を被験者に投与することによって副甲状腺機能亢進症を治療する方法が提供される。
【0013】
さらに他の側面において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を被験者に投与することによって、除去後に発毛又は再生を遅らせる方法が提供される。
【0014】
さらに他の側面において、PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を被験者に投与することによって、除去又は喪失後に、発毛又は毛髪再生速度を増進させる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】バチルス(Bacillus)及びクロストリジウム(Clostridium)ファミリーからのいくつかのM9B細菌性コラゲナーゼのアラインメントを示す配列のアラインメントである。青色で示した残基はコラーゲン結合活性に重要であり、緑色で示した残基は、構造又はタンパク質フォールディングの維持に重要である。これらは共に、上部と下部の配列に関しても下線が引かれている。赤色で示した残基はCa
2+結合に重要であり、オレンジ色で示した残基はCa
2+結合残基の位置決めに重要である。
【
図2】合成ペプチドの化学構造を示す1組の図面である。
【
図3A】
図3Aは、4℃で測定したコラーゲン性ペプチドの円二色性スペクトルを示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、種々のコラーゲン性ペプチドの熱変性プロフィールを示すグラフである。温度は0.3℃/分の速度で上昇させた。
【
図4】
図4Aは、散乱ベクターQに対してプロットした強度I(Q)での散乱プロフィールを示すグラフである。
図4Bは、GNOMを用いて得た、[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3:CBD複合体(赤色)、[PROXYL-(POG)
4POA(POG)
5]
3:CBD複合体(青色)、[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3:CBD複合体(緑色)、[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3:CBD複合体(オレンジ色)及び[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3:CBD複合体(シアン)の実空間における二体距離分布関数P(r)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、コラーゲン結合ドメイン(CBD)-コラーゲン性ペプチド相互作用を用いて得たHSQC NMRデータを示す1組のプロットである。
図5Aは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中に、V973、G975及びS979のアミド共鳴は存在する。
図5Bは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。V973、G975及びS979のアミド共鳴は、それらがスピンラベル基に近接するために消失した。
図5Cは、CBDの構造及び、[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3での滴定によってラインブロードニングを生じるCBD残基を示すイラストである。
【
図6】
図6は、CBD-コラーゲン性ペプチド相互作用を用いて得たHSQC NMRデータを示す1組のプロットである。
図6Aは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中にQ972、V973、G975及びS979のアミド共鳴は存在する。
図6Bは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、比1:1の[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。Q972、V973、G975及びS979のアミド共鳴は、PROXYL部分によってラインブロードニングを生じている。
図6Cは、[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3での滴定によって独自にラインブロードニングを生じるCBD残基を示すCBDの構造のイラストである。
図6Dは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトル、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中に、L946、Q972、V973、G975及びS979のアミド共鳴は存在する。
図6Eは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[PROXYL-(POG)
4POA(POG)
5]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。L946、Q972、V973、G975及びS979のアミド共鳴は、スピンラベルによって消失した。
図6Fは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、比1:1の[(POG)
4POA(POG)
5]
3:CBD(シアン)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。スピンラベルの非存在下では、L946、Q972、V973、G975及びS979のアミド共鳴はラインブロードニングを生じない。
図6Gは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中に、L946、G953、Q972、V973、D974、G975、N976、V978、S979のアミド共鳴は存在する。
図6Hは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、比1:1の[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。L946、G953、Q972、V973、D974、G975、N976、V978、S979のアミド共鳴は、PROXYL部分によってラインブロードニングを生じている。
図6Iは、[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3のスピンラベルによってラインブロードニングを生じているCBD残基を示すCBDの構造のイラストである。
【
図7】漸増濃度のミニコラーゲン、すなわち[(POG)
10]
3(黒色)、[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3(赤色)、[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3(青色)、[PROXYL-(POG)
4POA(POG)
5]
3(緑色)及び[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3(シアン)の関数として、CBD上の(A)Q972、(B)G975、(C)S979及び(D)L924の強度低下を示す1組のグラフである。
【
図8】
図8は、CBD-コラーゲン性ペプチド相互作用を用いて得たHSQC NMRデータを示す1組のプロットである。
図8Aは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中に、S906、S997及びG998のアミド共鳴は存在する。
図8Bは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、比1:1の[(POG)
4POA(POG)
5C-PROXYL]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。S906、S997及びG998のアミド共鳴は、PROXYL部分によってラインブロードニングを生じている。
図8Cは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
4POA(POG)
5C-カルバミドメチル]
3:CBD(シアン)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。スピンラベルの非存在下では、S906、S997及びG998のアミド共鳴はラインブロードニングを生じない。
図8Dは、[(POG)
4POA(POG)
5C-PROXYL]
3のスピンラベルによってラインブロードニングを生じているCBD残基を示すCBDの構造のイラストである。S906、S997及びG998のアミド共鳴(赤色)は、[(POG)
4POA(POG)
5-PROXYL]
3での滴定によって消失した。
図8Eは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
10]
3:CBD複合体(緑色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。この滴定中に、S906、Q972、V973、G975、S979、S997及びG998のアミド共鳴は存在する。
図8Fは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。S906、Q972、V973、G975、S979、S997及びG998のアミド共鳴は、スピンラベルによって消失した。
図8Gは、CBD(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、比1:1の[(POG)
3PCG(POG)
4]
3:CBD(シアン)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。S906、Q972、V973、G975、S979、S997及びG998の共鳴は、スピンラベルの非存在下では影響を受けていない。
図8Hは、[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3での滴定でラインブロードニングを生じている残基を示すCBDの構造のイラストである。0.2:1比では、S906、R929、S997及びG998(赤色)のアミド共鳴のみが消失した。ペプチド比を0.3:1に上げた場合に、V973、G975、S979(青色)のさらなる共鳴が消失した。
【
図9】
図9Aは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(A)[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3:CBD複合体の構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Bは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(B)[PROXYL-(POG)
4POA(POG)
5]
3:CBD複合体の構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Cは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(C)[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3:CBD複合体の構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Dは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(D)[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3:CBD複合体の構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Eは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(E)[(POG)
4POA(POG)
5C-PROXYL]
3:CBD複合体の構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Fは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた(F)[(POG)
4POA(POG)
5C-カルバミドメチル]
3:CBDの構造図面である。Gly→Ala変異部位は強調表示されている。
図9Gは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3::CBD複合体の構造図面である。
図9G及び9Hは2つの可能な結合様式を示す。
図9Hは、ab initioシミュレートアニーリング計算を用いたSAXS散乱プロフィールによって導かれた[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3::CBD複合体の構造図面である。
図9G及び9Hは2つの可能な結合様式を示す。
【
図10】
図10は、CBD-コラーゲン性ペプチド相互作用を用いて得たHSQC NMRデータを示す1組のプロットである。
図10Aは、[POGPO-
15N-G-(POG)
8]
3(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[POGPO-
15N-G-(POG)
8]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイである。
図10Bは、[POGPO-
15N-G-(POG)
2-POA-(POG)
5]
3(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[POGPO-
15N-G-(POG)
2-POA-(POG)
5]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
図10Cは、[(POG)
8-PO-
15N-G-POG]
3(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
8-PO-
15N-G-POG]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
図10Dは、[(POG)
4-POA-PO-
15N-G-POG]
3(黒色)の
1H-
15N HSQCスペクトルと、1:1比の[(POG)
4-POA-PO-
15N-G-POG]
3:CBD複合体(赤色)の
1H-
15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
【
図11】皮下注射後、1時間又は12時間でのS
35-PTH-CBDの組織分布を示す図である。皮膚の輪郭に注目のこと。
【
図12】脱毛後、36日目での、マウス背部の発毛を記録する1組の写真である。治療群は記載の通りである(アンタゴニスト=PTH(7‐33)-CBD、アゴニスト=PTH-CBD)。
【
図13】示された治療後、36日目での組織構造を示す1組の写真である。皮膚試料は背部から採取し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色用に処理した。示された治療群からの代表的切片を示す(アンタゴニスト=PTH(7‐33)-CBD、アゴニスト=PTH-CBD)。
【
図14】高倍率視野当たりの毛包数を示すグラフである。成長期VI毛包は、盲検方式で、2人の独立した観察者によって計数された。結果は平均+/-標準偏差で示してある。**=p<0.01(成長期VI毛包を受けなかった動物に対して、ANOVA followed by Dunnett’s testで)(アンタゴニスト=PTH(7‐33)-CBD、アゴニスト=PTH-CBD)。
【
図15】それぞれの示された治療後のマウス背部での発毛を示す1組の写真及び、注射後、経時的に行った注射部位での毛髪のグレースケール解析を示すグラフである。
【
図16】前除毛なしでの示された治療後のマウス背部での毛髪を示す1組の写真である。
【
図17】化学療法開始後とは対照的に、化学療法前に投与されたPTH-CBDでの示された治療と比較した、マウス背部での発毛のグレースケール解析を示す1組の写真及びグラフである。
【
図18】毛髪を除去するワキシング及びPTH-CBD、PTHアンタゴニスト-CBD又はビヒクル単独での治療後13日目の3匹のマウスの写真である。
【
図19】対照又はPTH-CBDでの治療後での、円形脱毛症モデルにおける毛髪再生を示すマウスの1組の写真である。
【
図20】屠殺前6ヶ月にヒトPTH-CBDの単回量を注射した卵巣切除加齢ラットにおける内因性副甲状腺ホルモンレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書において、治療剤での治療を必要とする被験者に、治療剤に結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を投与することによって治療剤を送達する方法が提供される。この実施形態において、治療剤はPTH/PTHrP受容体アゴニスト又はアンタゴニストではなく、bFGF又はEGFポリペプチドでもない。細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、部分的にねじれていないか又はねじれが不十分なコラーゲン部位に治療剤を送達する。
【0017】
さらに、コラゲノパシーの治療を必要とする被験者に、PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む組成物を投与することによる、骨形成不全症(OI)などのコラゲノパシーを治療する方法が提供される。コラゲノパシーは、限定するものではないが、骨形成不全症、スティックラー症候群、エーラス・ダンロス症候群、アルポート症候群、キャフェイ病及び限局性コラーゲン又は軟骨損傷を含む。これらの疾患の多くは、特定の組織において、ねじれが不十分であるか又は部分的にねじれていないコラーゲンを生じる遺伝的欠損によって引き起こされる。
【0018】
例えば、OIを有する個体は、コラーゲンの3重らせん構造を破壊し、コラーゲンの不十分なねじれをもたらす、グリシンをより嵩高いアミノ酸に変えるコラーゲンのアミノ酸変化を引き起こす変異を有する。本実施例において、我々は、本明細書に記載の細菌性コラーゲン結合ポリペプチドが、これらのねじれが不十分なコラーゲンを標的にし、それらに結合することを明らかにする。従って、ねじれが不十分なコラーゲン部位にOIを治療することが可能な治療剤を送達するための、本明細書に記載のコラーゲン結合ポリペプチドの使用によって、より有効な治療を可能にすることができる。
【0019】
コラーゲン結合ポリペプチドセグメント及び治療剤は、互いに化学的に架橋されていることもできるし、融合タンパク質のポリペプチド部分であることもできる。用語”融合タンパク質”及び”融合ポリペプチド”は、2つの機能性セグメント、例えば、コラーゲン結合ポリペプチドセグメント及びポリペプチドベース治療剤、例えばPTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントを含む単一ポリペプチドを指すために用いることができる。融合タンパク質は、任意のサイズであることができ、融合タンパク質の単一ポリペプチドは、その機能状態において、例えば、単一ポリペプチドの2つのモノマーのシステインジスルフィド結合によって、多量体で存在することができる。ポリペプチドセグメントは合成ポリペプチドであることもできるし、天然に存在するポリペプチドであることもできる。このようなポリペプチドはポリペプチドの一部であることもできるし、1以上の変異を含むこともできる。融合タンパク質の2つのポリペプチドセグメントは、直接的又は間接的に結合されることができる。例えば、2つのセグメントは、例えば、ペプチド結合又は化学架橋によって直接的に結合されることもできるし、例えば、リンカーセグメント又はリンカーポリペプチドによって間接的に結合されることもできる。ペプチドリンカーは任意の長さであることができ、従来のアミノ酸を含むこともできるし、従来とは異なるアミノ酸を含むこともできる。例えば、融合ポリペプチドのコラーゲン結合部分がコラーゲン結合を媒介することができ、治療剤が、その治療効果を有することができるように、ペプチドリンカーは、1~100アミノ酸長であることができ、適切には5、10、15、20、25以上のアミノ酸長であることができる。ペプチドリンカーは、限定するものではないが、コラゲナーゼ又は配列番号2などの他のタンパク質からのPKD(多発性嚢胞腎疾患)ドメイン、GSTもしくはHisタグ又はSerもしくはGlyリンカーを含むことができる。
【0020】
コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、コラーゲンに結合するポリペプチドであり、より大きな融合タンパク質、生物活性剤又は医薬剤の一部であることができる。組成物、ポリペプチドセグメント、融合タンパク質、医薬剤又は生物活性剤がコラーゲンに結合するかどうかの測定は、米国特許公開第2010/0129341号(参照によりその全体が本願に組み込まれる)の記載に従って行うことができる。簡潔に言えば、それは、結合バッファー中でコラーゲンと共にインキュベートされ、次いで、コラーゲンをブロックし、コラーゲンでなければ通過させ、それによってコラーゲンに結合する物質を引き止めるフィルターでこの混合物が濾過される。次いで、組成物、ポリペプチドセグメント、融合タンパク質、医薬剤又は生物活性剤の存在に関してこの濾液をアッセイする。このアッセイにおいて、濾過がコラーゲンなしで行われる場合と比較して、適切には、少なくとも80%、85%、90%、95%、98%又はより適切には少なくとも99%のコラーゲン結合組成物、ポリペプチドセグメント、融合タンパク質、医薬剤又は生物活性剤がフィルターによって保持される。
【0021】
コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、細菌性コラーゲン結合ポリペプチドセグメントであることができる。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、クロストリジウムコラーゲン結合ポリペプチドセグメントであることができる。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、コラゲナーゼ又は細菌性コラゲナーゼ、又はクロストリジウムコラゲナーゼであることができる。適切には、ポリペプチドセグメントはコラゲナーゼの一部のみであり、コラーゲン結合ポリペプチドセグメントはコラゲナーゼ活性を有さない。コラーゲン結合ポリペプチドは、細菌性M9B(バチルス種及びクロストリジウム種由来のものを含む)又はM9A(ビブリオ(Vibrio)種由来のコラーゲン結合タンパク質由来のものを含む)であることもでき、このようなタンパク質由来のコラーゲン結合ペプチドであることもできる。”由来の”とは、そのペプチドが、完全長タンパク質の断片、野生型タンパク質に対してアミノ酸変化を有するペプチド又はそれらの組み合わせであることを意味する。重要なことは、そのペプチドがコラーゲンに結合する能力を保持していることである。例えば、ペプチドは、コラーゲンに結合することができるタンパク質の領域を選択することによってタンパク質由来であることができる。コラーゲン結合ペプチドとして細菌性コラゲナーゼを含む組成物は、米国特許公開第2010/0129341号に記載されている(これによって参照によりその全体が本願に組み込まれる)。
【0022】
図1は、配列番号13~34として含まれるいくつかのM9B細菌性コラーゲン結合タンパク質のコラーゲン結合領域の配列のアラインメントを示す。配列のアラインメントからわかるように、これらのタンパク質は比較的わずかな配列同一性(約30%)しか有さないが、それらはすべて同様の方法でコラーゲンと結合し、実施例で説明するように、同様な配座を有すると考えられる。従って、
図1に示すペプチド又はそれらのコラーゲン結合フラグメントのいずれも、本明細書に記載の組成物及び方法に用いることができる。
図1において、ペプチドの配座及びコラーゲン結合活性に重要なアミノ酸残基には下線が引かれており、それぞれ緑色及び青色で示されている。コラーゲン結合に重要なアミノ酸残基は、ColGの位置970、配列番号1のColH配列の位置977(
図1の位置937)又は
図1に示した配列のうちの1つの同様な位置におけるチロシン又はフェニルアラニン;ColGの位置994、配列番号1のColH配列の位置1000(
図1の位置962)又は
図1に示した配列のうちの1つの同様な位置におけるチロシン;ColGの位置996、配列番号1のColH配列の位置1002(
図1の位置964)又は
図1に示した配列のうちの1つの同様な位置におけるチロシン、フェニルアラニン又はヒスチジンである。従って、比較的わずかな配列同一性を有するが、ColGタンパク質の構造及び機能を共有するペプチドもまた、本明細書においてコラーゲン結合ドメイン(CBD)として用いることができる。
【0023】
一実施形態において、コラゲナーゼは、ColH(配列番号6)である。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、配列番号6の残基901‐1021(配列番号1の残基34‐158)又は配列番号1の残基34‐158の、少なくとも長さ8、10、12、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110もしくは120アミノ酸残基の断片であることもできるし、それらを含むこともできる。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、配列番号1の残基34‐158と、少なくとも50%、60%、70%、80%同一であり、あるいは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、配列番号6の残基807‐1021(配列番号2の残基37‐251)又は配列番号6の残基807‐1021の、少なくとも長さ8、10、12、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110もしくは120アミノ酸残基の断片であることもできるし、それらを含むこともできる。残基807‐901は、コラーゲン結合タンパク質の多発性嚢胞腎疾患(PKD)ドメインを含む。上記で概説した治療剤にコラーゲン結合ペプチドを結合させるために他のリンカーを用いることができることは、当業者には明らかであろう。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、配列番号6の残基901‐1021の断片、例えば、配列番号6の残基901‐1021の少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30少なくとも40又は少なくとも50連続アミノ酸残基の断片であることもできるし、それらを含むこともできる。適切には、コラーゲン結合ポリペプチドは、配列番号6の残基894‐1008、894‐1021、901‐1021もしくは901‐1008又は
図9の配列のアラインメントによって示されるそれらのホモログからなることができる。
【0024】
コラーゲン結合セグメントが由来することができる他のタンパク質の1つに、クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)からのクラスIコラゲナーゼであるColG(Matsushita et al., (1999) J. Bacteriol. 181:923-933)がある。ColHはクラスIIコラゲナーゼである(Yoshihara et al., (1994) J. Bacteriol. 176: 6489-6496)。コラーゲン結合ポリペプチドセグメントは、クロストリジウム及びバチルスのメンバーからのコラーゲン結合ペプチドをアラインメントする
図1で提供されるタンパク質配列のいずれか1つからのポリペプチドセグメントであることもできる。このコラーゲン結合タンパク質ファミリーの他のメンバーは、本明細書に記載の方法に有用であることができることは、当業者には明らかであろう。
【0025】
コラーゲン結合ポリペプチドに結合した治療剤は、骨形成促進剤(osteogenic promoter)、抗菌剤、抗炎症薬、ポリペプチド、例えば組換えタンパク質、サイトカインもしくは抗体、小分子化学物質又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれに限定されない、任意の適切な医薬剤又は他の活性剤であることができる。適切には、治療剤は、骨成長を促進するか、炎症を抑制するか、コラーゲンの安定性を高めることができる。適切には、治療剤は、その治療効果がコラーゲン又は損傷を受けたコラーゲンの領域内におけるものである治療剤である。治療剤は、限定するものではないが、骨形成因子(BMP)、G-CSF、FGF、BMP-2、BMP-3、FGF-2、FGF-4、抗スクレロスチン抗体、成長ホルモン、IGF-1、VEGF、TGF-β、KGF、FGF-10、TGF-α、TGF-β1、TGF-β受容体、CT、GH、GM-CSF、EGF、PDGF、セリプロロール、アクチビン及び結合組織増殖因子を含むことができる。別の実施形態において、活性剤は、PTH/PTHrP受容体アゴニスト又はアンタゴニストであることができる。
【0026】
コラーゲン欠損によって骨折の高いリスクを個体に負わせる、骨形成不全症、スティックラー症候群などのコラゲノパシーによる骨量減少は、骨同化ペプチドの投与によって治療することができる。CBDは、コラーゲン形成異常を起こした部位に骨同化薬を標的化することができ、従って、骨折を予防することができる。
【0027】
血管破裂がコラーゲン形成の欠損による恐れがある場合の、エーラス・ダンロス症候群IV型、アルポート症候群又は他の疾患などの欠損による血管脆弱性には、血管新生又は修復を刺激するペプチドを投与することができる。CBDは、コラーゲン損傷を有する部位にこのペプチドを標的化すると考えられるが、これらの部位は、損傷を受けた血管を有すると推定される。この治療剤は、損傷部位において増殖及び修復を刺激し、血管破裂を予防すると考えられる。
【0028】
皮膚の脆弱化がコラーゲン欠損による場合、エーラス・ダンロス症候群、キャフェイ病又は他の疾患などの障害による皮膚脆弱性は、異常な伸展性、あざのできやすさ又は不十分な創傷治癒をもたらす。皮膚又は上皮増殖因子は、CBDに結合され、損傷を受けたコラーゲン部位に送達された場合に治療剤として役立つことができ、皮膚の増殖及び修復を刺激し、線条を予防し、治癒を向上させる。
【0029】
コラーゲン欠損は、軟骨形成異常又は不全をもたらす恐れもある。機能を修復し、復帰させるために、損傷を受けた軟骨部位に局所的に軟骨増殖因子を送達することができる。
【0030】
PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントは、合成ポリペプチドであることもできるし、天然に存在するポリペプチドであることもできる。このようなポリペプチドは、ポリペプチドの一部であることもできるし、1以上の変異を含むこともできる。変異によって、野生型PTH/PTHrPと比較して、PTH/PTHrP受容体アゴニストを優れたアゴニストにすることもできるし、劣ったアゴニストにすることもできる。PTH/PTHrP受容体に対するアゴニスト活性は、以下の実施例3の記載に従って、cAMP刺激アッセイによってアッセイすることができる。記載されたアッセイにおいて、アゴニストはcAMP合成を刺激する。適切には、アゴニストは、野生型PTH(1-34)と比較して、受容体活性を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%活性化することもできるし、さらには110%又は120%活性化することもできる。
【0031】
PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントは、PTH又はPTHrPポリペプチドセグメントである。PTHのヒトアイソフォームの1つに配列番号7がある。PTHrPのヒトアイソフォームの1つに配列番号8がある。ヒトアイソフォームが提供されているが、他の非ヒト由来のアイソフォームもまた用いることができることは、当業者には明らかであろう。このような非ヒト由来のアイソフォームはヒトPTH/PTHrP受容体と相互作用することができ、逆もまた同様である。PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントは、配列番号1の残基1‐33(PTH(配列番号7)の残基1‐33)であることもできるし、それを含むこともできる。PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントは、PTH(配列番号7)の残基1‐34であることもできるし、それを含むこともできる。他の実施形態において、それはPTH(配列番号7)の残基1‐34の断片である。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントは、PTH(配列番号7)の残基1‐84であることもできるし、それを含むこともできる。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アゴニストポリペプチドセグメントはPTH(配列番号7)の残基1‐14であることもできるし、それを含むこともできる。さらに他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アゴニストは、任意の他の種のPTH又はPTHrPポリペプチドセグメントであることができる。
【0032】
PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、一実施形態において、PTH(7‐34)、すなわち、PTH(配列番号7)の残基7‐34を含むことができる。他の実施形態において、それはPTH(配列番号7)の残基7‐33であるか、又はそれを含む。他の実施形態において、それは配列番号8の残基7‐34の断片である。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、PTH(7‐14)、すなわち、PTH(配列番号7)の残基7‐14を含む。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、PTH/PTHrPの((-1)-33)を含む。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、N末端伸長を有するPTHの残基1‐14を含む。PTH又はPTHの活性N末端断片へのN末端伸長の付加によって、PTHペプチドはアンタゴニストに変換される。N末端伸長は、長さ1、2、3、4又は5以上のアミノ酸であることができる。N末端伸長におけるアミノ酸の一致は、一般的には重要ではない。一実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、N末端にGly-Ser伸長を有するPTHの残基1‐33(配列番号11)を含む。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、PTHrP(7‐34)、すなわち、配列番号8の残基7‐34又は配列番号8の残基7‐34の断片を含む。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、マウスTIP(7‐39)を含む(Hoare S R, Usdin T B. 2002. Specificity and stability of a new PTH1 receptor antagonist, mouse TIP(7-39). Peptides 23:989-98. を参照のこと)。融合タンパク質に用いることができる他のPTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、Hoareらにおいても開示されている。PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、配列番号7の残基1‐34からの少なくとも8、10又は12以上のアミノ酸の断片であることができる。他の実施形態において、PTH/PTHrP受容体アンタゴニストは、他の種からのPTH/PTHrP受容体アンタゴニストポリペプチドであることができる。
【0033】
一実施形態において、治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストもしくはアンタゴニストポリペプチドセグメントは、融合タンパク質におけるコラーゲン結合ポリペプチドセグメントに対してN末端である。すなわち、2つのポリペプチドセグメントは、それぞれN末端及びC末端を有し、コラーゲン結合ポリペプチドセグメントのN末端は、直接的又は間接的に、例えばリンカーポリペプチドセグメント(例えばPKD、グリシン又はセリンリンカー)を介して治療剤又はPTH/PTHrPアゴニストもしくはアンタゴニストポリペプチドセグメントのC末端に結合される。
【0034】
(b)治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストもしくはアンタゴニストポリペプチドセグメントに結合した(a)コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む前述の融合タンパク質は、(b)治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストもしくは非ペプチド性PTH/PTHrP受容体アゴニストに結合した(a)コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む医薬剤によって置き換えることができる。非ペプチド性PTH/PTHrP受容体アゴニストの例には、化合物AH3960がある(Rickard et al., (2007) Bone 39:1361-1372)。
【0035】
AH3960は2つのアミノ基を含む。小さな化学分子、例えばAH3960におけるアミノ基は、架橋剤、例えばDSG(グルタル酸ジスクシンイミジル)又はSANH(スクシンイミジル-6-ヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン)及びSFB(スクシンイミジル-4-ホルミルベンゾエート)の組み合わせを介して、コラーゲン結合ポリペプチドセグメントのアミノ基に治療剤を架橋するために用いることができる。治療剤は、EDC(1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)によって、コラーゲン結合ポリペプチドセグメントのカルボキシル基に治療剤のアミノ基を介して架橋されることもでき、逆もまた同様である。これらの架橋剤は、Pierce社(piercenet.com、Thermo Fisher Scientific Inc., Rockford, Ill.)から入手できる。プロトコル及び反応条件は、Pierce社(piercenet.com)の製品資料からも入手可能である。
【0036】
(b)ポリペプチド治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストもしくはアンタゴニストポリペプチドセグメントに結合した(a)コラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む医薬剤の他の実施形態において、セグメント(a)及びセグメント(b)は別々のポリペプチドであり、2つのポリペプチドは化学架橋によって結合されている。2つのポリペプチドは、DSG(グルタル酸ジスクシンイミジル)又はグルタルアルデヒドを含む試薬によって、アミノ基を介して架橋されることができる。これらはまた、1つのポリペプチドをSANH(スクシンイミジル-6-ヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン)で誘導体化し、もう1つのアミノ基をSFB(スクシンイミジル-4-ホルミルベンゾエート)で誘導体化し、次いで2つの誘導体化ポリペプチドを混合することによって架橋することもできる。2つのポリペプチドは、1つのポリペプチドのアミノ基と、もう1つのポリペプチドのカルボキシルを、EDC(1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)との反応によって架橋することができる。2つのポリペプチドは、当業者に公知の任意の他の適切な方法によって架橋する(例えば、共有結合する)こともできる。これらの架橋試薬は、Pierce社(piercenet.com、Thermo Fisher Scientific Inc., Rockford、Ill.)から入手できる。プロトコル及び反応条件は、Pierce社(piercenet.com)の製品資料からも入手可能である。これら及び他の適用可能な架橋方法は、米国公開特許公報2006/0258569及び2007/0224119に記載されている。
【0037】
副甲状腺機能亢進症の治療を必要とする被験者にPTH-CBDを投与することによって副甲状腺機能亢進症を治療する方法もまた本明細書で提供される。一実施形態において、被験者に投与されるPTHは、異なる種からのPTHであることができる。実施例に示すように、卵巣切除した加齢ラットへのCBD-PTHの単回投与によって、その動物によって産生される内因性PTHの量を低下させることができた。このように、副甲状腺機能亢進症を患っている個体へのPTH-CBDの投与によって、副甲状腺機能亢進症と関連する症状を緩和し、PTH-CBDの投与後にPTHレベルを低下させることができる。
【0038】
発毛に関するPTHアゴニスト及びアンタゴニストの効果は、ほぼ15年にわたって研究されてきた。PTHは、PTH関連ペプチド(PTHrP)(通常は皮膚線維芽細胞によって産生される)と共通の受容体を有する。PTHrPは角化細胞の増殖/分化に影響を及ぼし、毛周期を調節する。発毛効果に関する試験の大部分はPTHアンタゴニストを用いて行われてきたが、これは、最初の試験の適応が、これらの薬剤が最も効果的な薬剤であったからである。化学療法誘発性脱毛症の動物モデル及びSKH-1無毛マウスにおいて、注射液製剤及び局所製剤の両方が試験された。発毛に対するPTHアンタゴニストの効果の一部は、毛包をジストロフィー性退行期(catagen stage)に移行させることであり、これによって毛包が化学療法薬による損傷から保護される。しかしながら、IGI Pharmaceuticalsによる化学療法誘発性脱毛症に対する局所PTHアンタゴニストの臨床試験は、効果が限定的であったため、第II相試験で中止された。このように、脱毛症を治療するための新規組成物が求められている。
【0039】
PTHの皮膚への送達及び保持の問題は、コラーゲン標的化PTHアナログを用いて克服することができる。このことを成し遂げるために、我々は、クロストリジウム・ヒストリチカムのColH1コラゲナーゼ由来のコラーゲン結合ドメインに結合した種々のPTHアゴニスト及びアンタゴニストのいくつかの融合タンパク質を合成した。実施例に記載した研究において、我々は、アゴニスト化合物PTH-CBDが毛包の成長期(anagen phase)への移行を促進し、強力な発毛効果を有することを見出した。アンタゴニスト化合物PTH(7‐33)-CBDは、化学療法モデルにおいて発毛にほとんど効果を示さず、脱毛後の毛髪再生に有害作用を示した。毛包の成長期移行を促進するPTH-CBDなどの化合物は、脱毛の様々な障害を治療するためのその潜在能力によって探索されてきたものである。PTH-CBDは、毛包の成長期への移行を同様に促進するシクロスポリンと類似した作用機構を有すると思われるが、その機構は、WNTシグナル伝達に対する直接効果の結果である可能性は低い。この目的のためのシクロスポリンの臨床用途は全身毒性によって制限される。PTH-CBDは、全身投与であっても毒性作用を示さなかった。
【0040】
従って、他の側面において、本明細書において、発毛を増進させる方法が提供される。本方法は、発毛を誘導するか、又は脱毛を停止させる治療を必要とする被験者に、アゴニストに結合したCBD PTH/PTHrP受容体を投与することを含む。本方法は、化学療法誘発性脱毛症ばかりでなく、円形脱毛症、男性型脱毛症によって引き起こされる脱毛症、多嚢胞性卵巣症候群又は他の脱毛を含む脱毛症を有する個体に適用可能である。脱毛を治療するために、組成物を局所又は限局性部位に投与することができる。
【0041】
他の側面において、被験者にPTH/PTHrP受容体アンタゴニストに結合したCBDを投与することによって、除毛処理後の発毛又は再生を遅らせる方法が提供される。一実施形態において、PTHアンタゴニスト組成物は局所、限局性部位に塗布される。毛髪再生を予防するか又は遅らせるために、除毛処理後にPTHアンタゴニストを塗布することができる。実施例の記載に従って、PTH-CBD又はビヒクル単独で治療した対照動物と比較して、CBD-PTHアンタゴニストで治療した動物において、ワキシング後に、毛髪再生が遅れることを我々は明らかにした。発毛を防ぐために、局所又は限局性部位に組成物を投与することができる。
【0042】
本明細書に記載の組成物は、限定するものではないが、経口、局所、鼻腔内、腹腔内、非経口、静脈内、筋肉内、皮内又は皮下を含む当業者に公知の任意の手段によって投与することができる。従って、本組成物は、経口摂取用製剤、注射用製剤、局所製剤又は座剤として製剤化することができる。本組成物は、全身投与又は局所投与をもたらす注射投与のために製剤化することができる。本組成物は、リポソームビヒクル又は徐放ビヒクルで送達することもできる。本組成物は、部位指向型送達ビヒクル、例えば限定するものではないが、標的化リポソーム又は吸収性コラーゲンスポンジ担体又は他のインプラントで送達することもできる。
【0043】
本発明者らは、CBDを含む組成物を皮下に投与する場合、その組成物が中性のpH緩衝液に溶解されているとき、その組成物は注射部位で局所に結合することを見出した。しかしながら、その組成物が、低いpH緩衝液、例えばpH5.0以下又はpH4.5以下を有する緩衝液に溶解されている場合、コラーゲン結合ドメインはコラーゲンに結合せず、その組成物には、全身に分散する時間があり、その後、体内の他の部位で中性pHでコラーゲンに結合する。従って、本組成物の全身投与は、pH約5.0以下又はpH4.5以下の緩衝液又は水溶液に溶解した本組成物の投与を含む。他の実施形態において、本組成物の全身投与は、pH約6.0以下の水溶液に溶解した融合タンパク質を投与することを含む。あるいはまた、皮膚の状態が限局性である場合、本明細書に記載の組成物は、皮膚の患部に本組成物の局所送達を可能にするために、pH6.0、6.5、7.0、7.5以上の緩衝液で投与することができる。
【0044】
局所投与のための医薬組成物は、例えば当業者に利用可能な方法及び組成物を用いて製剤化することもできる。例えば、ゲル、クリーム又はリポソーム製剤は、局所送達に適した製剤であることができる。これらの送達ビヒクルは、皮膚の下層への送達を媒介するために、あるいは塗布部位における医薬の徐放性を可能にするために製剤化することもできる。
【0045】
本組成物は、単回投与又は分割投与で投与することができる。例えば、本組成物は、4時間、6時間、8時間、12時間、1日間、2日間、3日間、4日間、1週間、2週間、又は3週間以上離して、2回以上投与することができる。場合により、このような治療は、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日毎、又は1週間、2週間、3週間、4週間及び5週間毎、又は1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月もしくは12ヶ月間毎に繰り返すことができる。本組成物は、コラーゲン結合タンパク質に結合していない治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストを含む比較組成物又は対照組成物よりも有効であることが予想される。一実施形態において、コラーゲン結合タンパク質に結合していない治療剤又はPTH/PTHrP受容体アゴニストを含む比較組成物よりも少量の組成物を用いることができるし、低頻度で投与することもできる。
【0046】
本明細書における投与量及び投与頻度は、治療上有効な又は予防的に有効なという用語に含まれる。治療剤に結合したコラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む医薬剤の個々の用量は、治療剤に用いられる用量とモルベースでおおよそ同じであることができる。治療剤に結合したコラーゲン結合ポリペプチドセグメントを含む医薬剤は、より低頻度で投与することができることが期待される。なぜなら、この薬剤をコラーゲン結合ポリペプチドセグメントに結合させることによって、in vivoでさらに高い、持続する効果が得られるからである。
【0047】
本発明に従って被験者に組成物を投与することによって、用量依存的に有益な効果が示されると考えられる。従って、おおまかな制限の範囲内で、より多量の組成物の投与は、より少量の投与よりも、より有益な生物学的作用を達成すると予想される。さらに、毒性が観察される用量よりも低い用量での有効性もまた考えられる。
【0048】
任意の所定の症例において投与される特定の用量は、当業者に公知のように、投与される組成物、治療又は予防される疾患、被験者の状態及び、この薬剤の活性又は被験者の応答をかえることができる他の関連性のある医学的要因に従って調整されることは明らかであろう。例えば、特定の被験者のための特定の用量は、年齢、体重、一般健康状態、食事、タイミング及び投与方法、排泄率、配合に用いられる医薬ならびに治療が適用される特定の障害の重症度によって決まる。所定の患者の用量は、通常の考察、例えば適切な従来の薬理学的プロトコル又は予防プロトコルによって、本発明の組成物と単独で投与された治療剤との示差活性の通例の比較によって決定することができる。
【0049】
被験者の最高用量は、望ましくない又は耐えられない副作用を引き起こさない最も高い用量である。個々の予防又は治療レジメンに関する変数の数は多く、かなりの範囲の用量が予想される。投与経路もまた必要用量に影響するであろう。治療前の症状又は治療せずに放置した症状と比較して、組成物の投与によって、治療される状態の症状が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%緩和されると考えられる。特に、製剤及び組成物は、治癒せずに、疾患の症状を緩和又は軽減することもできるし、いくつかの実施形態において、疾患又は障害を治癒するために用いることもできると考えられる。
【0050】
組成物を投与するための適切な有効投与量は、当業者によって決定されることができるが、一般的には、1週あたり体重1kgあたり約1マイクログラム~約10,000マイクログラムであるが、一般的には、1週あたり体重1kgあたり約1,000マイクログラム以下である。いくつかの実施形態において、有効投与量は、1週あたり体重1kgあたり約10~約10,000マイクログラムである。他の実施形態において、有効投与量は、1週あたり体重1kgあたり約50~約5,000マイクログラムである。他の実施形態において、有効投与量は、1週あたり体重1kgあたり約75~約1,000マイクログラムである。本明細書に記載の有効投与量は、投与総量を指す。すなわち、2以上の化合物が投与される場合、有効投与量は投与総量に相当する。
【0051】
本明細書に記載の組成物の有効性は、治療剤単独で治療した対照と比較して少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも100%高めることができる。任意の所定の症例における治療の有効性は、当業者に明らかなように、用いられる特定の組成物、治療される疾患のタイプ、被験者の状態、化合物の特定の製剤及び、この組成物の活性又は被験者の応答を変えることができる他の関連性のある医学的要因に応じてさまざまに高められることは明らかであろう。
【0052】
以下の実施例は、説明することを意図するものであって、本発明の範囲又は添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に引用したすべての参考文献は、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【実施例】
【0053】
実施例1
CBDは、コラーゲンの部分的にねじれていないか又はねじれが不十分な領域を標的とする クロストリジウム・ヒストリチカムのコラゲナーゼは、結合組織のコラーゲンを広範囲にわたって分解させ、ガス壊疽を引き起こす。これらの酵素のC末端コラーゲン結合ドメイン(CBD)は、コラーゲン細繊維に結合するのに必要な最小限のセグメントである。CBDは、3重らせんコラーゲンの部分的にねじれていないC末端に一方向性に結合する。CBDが、コラーゲン3重らせんの中央部であっても、ねじれが不十分な領域を標的とすることができるかどうかを試験した。部分的にねじれていないコラーゲン性ペプチドは、コラーゲン([(POG)xPOA(POG)y]3(式中x+y=9でありx>3である))にGly→Ala置換を導入することによって合成した。15N標識CBDを用いる1H-15N異核種単一量子コヒーレンス法核磁気共鳴(HSQC NMR)滴定研究によって、ねじれていないミニコラーゲンは、幅10Å、長さ25Åの溝(cleft)に結合することが明らかになった。次いで、それぞれニトロキシドラジカルで標識された6つのねじれていないコラーゲン性ペプチドを15N標識CBDで滴定した。常磁性核スピン緩和効果によって、CBDは、Gly→Ala置換部位又は各ミニコラーゲンのC末端のいずれかに近接して結合することが見出された。X線小角散乱(SAXS)測定によって、CBDは、C末端よりはむしろGly→Ala部位に選択的に結合することが明らかになった。15N標識ミニコラーゲン及びねじれていないミニコラーゲンのHSQC NMRスペクトルは、非標識CBDの滴定によって影響を受けなかった。CBDは部分的に巻き戻されたミニコラーゲンの領域に結合するが、この結果は3重らせんを強くは巻き戻さないことを意味する。
【0054】
材料及び方法
15N標識タンパク質の調製:クロストリジウム・ヒストリチカムクラスIコラゲナーゼ(ColG)由来のs3b(Gly893-Lys1008)ペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質として発現させた。以前記載したように、GSTタグをトロンビンで切除し、CBDを精製した(Matsushita, et al., (2001) J Biol Chem 276、8761-8770)。40 mM 15NH4Clを含むTanaka最小培地を用いて、均一な15N同位体標識化を行った。マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)によって、標識効率は99.6%であると算出された。
【0055】
ペプチド:(POG)
10(配列番号35)は、株式会社ペプチド研究所(大阪、日本)から購入した。他のペプチドは、リンクアミドレジン(Novabiochem社、ダルムシュタット、ドイツ)を用いる標準的なN-(9-フルオレニル)メトキシカルボニル(Fmoc)ベース戦略によって構築した。N末端スピンラベルは、樹脂上で、N,N-ジメチルホルムアミド中、室温で2時間、5当量の3-カルボキシ-PROXYL(Aldrich社)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、ジイソプロピルカルボジイミドで処理することによって行った。標準的なトリフルオロ酢酸(TFA)脱保護カクテル(TFA:m-クレゾール:チオアニソール:水:トリイソプロピルシラン=82.5:5:5:5:2.5、v/v)で処理することによってペプチドの切断及び脱保護ステップを行った。Cys残基におけるスピンラベルは、3-(2-ヨードアセトアミド)-PROXYL(IPSL、Sigma-Aldrich社)を用いて行った。簡潔に言えば、エタノールに溶解したIPSLの10モル過剰量を、0.1Mトリス-HCl(pH8.8)、5mMエチレンジアミン四酢酸に溶解した同じ容量の10mg/mlペプチドに加えた。室温で1時間反応させた後、過剰量のジチオスレイトールを加えることによって反応物をクエンチした。Cosmosil 5C
18 AR-IIカラム(ナカライテスク、京都、日本)を用いる逆相HPLCによってすべてのペプチドを精製し、MALDI-TOF-MSで特徴づけた。測定された質量は、すべて、予想される数値と一致した。合成されたペプチドの化学構造を
図2に示す。
【0056】
円二色性分光法:コラーゲン性ペプチドの3重らせん配座及び安定性はCD分光法を用いて確認した(
図3及び4参照)。ペルチェ温調器を備え、0.5mm石英キュベットを用い、信号加算平均のためにデータステーションに連結したJ-820 CD分光旋光計(ジャスコエンジニアリング、八王子、日本)でCDスペクトルを記録した。すべてのペプチド試料は水に溶解し(1mg/ml)、4℃で24時間保存した。スペクトルは、ペプチド残基1モル当たりの楕円率単位[θ]
mrwによって記録した。3重らせんの耐熱性は、0.3℃/分の速度の温度上昇での、各ペプチドの[θ]
225値によってモニターした。
【0057】
NMR分光法:cryoprobe(登録商標)を備えたBruker 700MHzスペクトロメータでNMR実験を行った。すべてのNMR滴定実験は16±0.5℃で行った。運転温度は、用いたすべての常磁性スピンラベルコラーゲン性ペプチドの融解温度(T
M)(表1)よりも低い。タンパク質の濃度は、100mM NaCl及び20mM CaCl
2を含む50mMトリス-HCl(pH7.5)中0.1mMであった。滴定過程に対する希釈効果は、高濃度(4mM)ペプチド原液の滴定によって最小化した。タンパク質にコラーゲン性ペプチドのアリコートを加え、
1H-
15N HSQCスペクトルを測定する前に5分間平衡化させた。滴定中にモニターしたNMR試料のpHは、有意なpHシフトを示さなかった(±0.2単位以内)。
表1:本明細書に記載のNMR滴定及び実験に用いた種々のミニコラーゲンペプチドの融解温度(Tm)
【0058】
動的光散乱実験:温度調整式マイクロサンプラーを備えたDynaPro-Eを用いて、100mM塩化ナトリウム及び20mM CaCl2を含む10mMトリス-HCl(pH7.5)中のCBD、コラーゲン性ペプチド及びCBD:ミニコラーゲン複合体の試料に関して動的光散乱(DLS)データを採取した。タンパク質試料を10,000rpmで10分間遠心分離し、0.02μm Whatmanシリンジを用いて50μL石英キュベットに直接濾過した。各実験に関して、20回の測定を行った。Dynamics V6(Protein Solutions社)を用いて、平均流体力学半径(RH)、標準偏差、多分散性及びピーク面積パーセントを解析した。流体力学半径及び分子量概算値は、記載に従って、ブラウン運動によって誘導される時間に依存した揺動から算出した。Proteau, et al. (2010) Curr Protoc Protein Sci Chapter 17, Unit 17 10。
【0059】
X線小角溶液散乱実験:DND-CATシンクロトロン研究センター、Advanced Photon Source、Argonne National Laboratory(アルゴンヌ、イリノイ州)の5-ID-Dビームラインに位置するSAXS/WAKSセットアップにおいて、10mMトリス-HCl(pH7.5)、100mM NaCl及び20mM CaCl2中のCBD、コラーゲン性ペプチド及びCBD-ミニコラーゲン複合体の溶液に関して、X線小角溶液散乱(SAXS)データを採取した。X線散乱の主な利点は、ほぼ生理的条件の溶液中でそれを行うことができることである。Petoukhov et al., (2007) Curr Opin Struct Biol 17, 562-571。Rhコートミラーからの1:1水平集束及び高い高調波排除を用い、ビーム制限スリットを垂直方向0.3mm、水平方向0.25mmにセットしたSi-111モノクロメーターを用いるAPS Undulator A挿入光源からの1.2398Å(10keV)放射線を選択した。直径1.6mmのキャピラリーフローセルを流速4μl/秒で用いて、暴露時間10秒で、4フレームを採取した。用いたSAXS検出器は、Mar165シンチレーター光ファイバーカップリングCCD検出器であり、q=4πsinθ/λ(2θは散乱角度である)で、運動量移行範囲0.005<q<0.198Å-1をカバーした。WAXS検出器は、注文製のRoperシンチレーター光ファイバーカップリングCCD検出器であった。これは0.191<q<1.8Å-1Sをカバーした。Weigand, et al. (2009) Advances in X-ray Analysis 52, 58-68。
【0060】
すべての散乱データは試料温度10℃で得た。各検出器からの4つの散乱パターンを平均し、特定範囲外のスキャンを排除してマージした。さらなる解析のために、プログラムIGOR Pro 5.5 A(WaveMetrics社)を用いた。タンパク質、ペプチド及びそれらの複合体の散乱プロフィールは、緩衝液のプロフィールを減算した後に得た。減算した散乱データを散乱強度I(Q)対Qとしてプロットした(
図4A)。回転半径R
gは、前方散乱強度I(0)が、タンパク質複合体の分子量に比例しているQR
g<1領域において、線形最小二乗フィッティングによるGuinier近似から得た。GNOMを用いてI(Q)データを間接フーリエ変換することによって、実空間における粒子分布関数P(r)を得た(
図4B)。Svergun, D. (1992) J Appl Crystallogr 25, 495-503。P(r)とx軸との交点は、全方向で平均した最大粒径D
maxを表す。プログラムGASBORでのab initio計算後に、SAXSデータに基づいて、すべての試料に関して分子のエンベロープを構築した。Svergun, et al. (2001) Biophys J 80, 2946-2953。I(Q)散乱データへのベストフィットを試験した後、ランダムに分散した疑似分子のシミュレートアニーリング最小化によってタンパク質構造に変換した。形状再構成には、いずれも対称拘束は用いなかった。複合体のそれぞれに関して、GASBORで10のab initioモデルを計算し、DAMAVERを用いて平均した。Svergun, D. (2003) J Appl Crystallog 36。直径D
maxを有するビーズのコンパクトな相互に連結した配置として表された原子模型は、誤差を最小限にするために実験データI
exp(s)にフィットするように調整した。プログラムSUBCOMBでab initioエンベロープに原子模型をドッキングさせた。Kozin, M. B., and Svergun, D. (2000) J Appl Crystallogr 33, 775-777。
【0061】
ドッキングモデル:タンパク質データバンクエントリーのColG s3b(1NQD)と部分的にねじれていないコラーゲン性ペプチド1CAG(位置15におけるAla変異)とからCBD-コラーゲン性ペプチド複合体を作成した。[(POG)10]3構造由来の断片(1K6F)を用いて1CAGを修飾することによって、他のねじれていないミニコラーゲン分子を作成した。複合体を得るために、ソフトドッキングアルゴリズムBiGGERを用いた。Palma, et al. (2000) Proteins 39, 372-384。NMR滴定データを用いて解をフィルターし、NMR及びSAXSの結果を満足する、スコアの最も高いモデルを選択した。MIFitを用いて、手動調節の手助けをした。McRee. (1999) J Struct Biol 125, 156-165。
【0062】
結果と考察:
1H-
15N HSQC NMR滴定-ねじれが不十分なコラーゲン部位のCBDによる標的化:N末端から21番目の位置にAlaを有するねじれていないコラーゲン性ペプチド[(POG)
6POA(POG)
3]
3(配列番号36)を合成した。N末端に常磁性スピンラベルを有するために、このペプチドをさらに修飾した。[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3(配列番号36)と
15N標識CBDを0.02:1~1.5:1の比率で用いて
1H-
15N HSQC NMR滴定を行った。以前明らかにされたように、合計11のコラーゲン結合面上の残基(S928、W956、G971、K995、Y996、L924、T957、Q972、D974、L991及びV993)が、HSQCスペクトルから消失するか、又は滴定の過程において元の位置からの著しい化学シフト摂動を示した。Philominathan,et al. (2009) J Biol Chem 284, 10868-10876。コラーゲン性ペプチドのN末端のPROXYL基は、滴定の過程において、CBDのNMRシグナルの距離に依存したラインブロードニングを引き起こすことができる。これらの11残基に加えて、さらなる3残基、V973、G975及びS979は、かなりのラインブロードニングを示し、これらの残基は、ついにはCBDの
1H-
15N HSQCスペクトルから消失した(
図5A及び5B)。[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3(配列番号36):CBD複合体がアスコルビン酸で還元された場合、3つの残基は
1H-
15N HSQCスペクトル中に再び現れた。これら3つの残基の消失は、我々の以前の発表における[PROXYL-G(POG)
7]
3(配列番号42)(C末端は、N末端PROXYLから22番目の位置である)滴定と矛盾しなかった。これら2つの滴定結果の比較によって、CBDがGly→Ala置換部位を標的としていることは明らかである。もし、CBDが、[PROXYL-(POG)
6POA(POG)
3]
3(配列番号36)のC末端のみに結合していたのであれば(C末端は、N末端PROXYLから30番目の位置である)、公表された[PROXYL-G(POG)
7(PRG)]
3(配列番号43)の滴定と同様に、精々ただ1つの残基(V973)の消失が観察されることが期待されるであろう。Ca
2+結合部位の遠位側に位置する残基(V973、G975及びS979)の消失(
図5C)によって、CBDが、ねじれていないコラーゲンにも一方向性に結合することが確定された。CBDにおけるコラーゲン結合表面は、幅10Åm、長さ25Åの溝である。CBDにおける結合溝の幅は3重らせんの直径にマッチし、その長さは[(POG)
3]
3(配列番号44)を収容することができる。NMR結果は、CBDが、コラーゲンのねじれが不十分な[(POG)
2POA]
3(配列番号45)領域に結合していることを示唆している。
【0063】
常磁性緩和促進は距離に依存する現象であるため、N末端PROXYL基により近い部位で行われたGly→Ala置換は、CBD上のより多くの残基の消失をもたらすはずである。PROXYL含有コラーゲン性ペプチド、[PROXYL-(POG)
5POA(POG)
4]
3(配列番号37)(N末端PROXYLから18番目の位置におけるAla)、[PROXYL-(POG)
4POA(POG)
5]
3(配列番号38)(PROXYLから15番目の位置におけるAla)及び[PROXYL-(POG)
3POA(POG)
6]
3(配列番号39)(PROXYLから12番目の位置におけるAla)を合成した。前の滴定と全く同様に、
1H-
15N HSQCスペクトルにおける変化から、CBDの残基に対するラインブロードニング効果を解析した。Gly→Ala置換部位とN末端PROXYLとの間の距離が短いほど、CBDにおける消失する残基は多かった(
図6及び表2)。4つの異なるミニコラーゲン分子の4つのアミド共鳴(Q972、G975、S979及びL924)の強度低下の大きさもまた距離の関数であった(
図7)。NMR結果は、4つのねじれが不十分なミニコラーゲンのそれぞれにおける[(POG)
2POA]
3(配列番号45)領域へのCBDの結合と一致している。すべてのNMR滴定から得られた結合定数は<100μMであったが、これは、CBDとねじれが不十分なミニコラーゲンとの間の中程度の結合親和性を示唆している。
表2:コラーゲン性ペプチド配列のN末端、C末端又は中央部のいずれかにおけるPROXYLの存在によって消失する残基
【0064】
[(POG)2POA]3(配列番号45)及びC末端[(POG)3]3(配列番号44)の両方におけるらせん配座は同様にねじれが不十分である。3重らせんの内部のねじれを説明する対称螺旋軸の周りの回転角度は、らせんねじれ値(helical twist value)κと定義される。[(POG)10]3(配列番号35)に関して、κ値は平均値-103°付近を揺れ動く。Bella (2010) J Struct Biol 170, 377-391。ミニコラーゲンのC末端はねじれが不十分であるが(κ値は-103°から-110°にシフトする)、N末端は、通例、ねじれが過剰である。ペプチド配列の中央部にGly→Ala置換を有するコラーゲンペプチドは、なお3重らせんを形成するが、置換部位では突然に不十分なねじれ(κは-103から-115°にシフトする)を生じ、次いで過剰なねじれから正常なねじれに変化する。[(POG)2POA]3(配列番号45)領域はC末端[(POG)3]3(配列番号44)よりもややねじれが不十分であるため、前者は後者よりもCBDによって選択的に標的化されることができる。しかしながら、CBDは、なおC末端に結合することができる。
【0065】
CBDは、ねじれが不十分なミニコラーゲンのC末端もまた標的とすることができる:CBDが、C末端(POG)
3(配列番号44)にも結合することを明らかにするために、コラーゲン性ペプチド[(POG)
4POA(POG)
5-PROXYL]
3(配列番号38)を合成した。[(POG)
4POA(POG)
5C-PROXYL]
3(配列番号41)を、比率0.02:1~1.5:1、増分0.02で、
15N標識CBDで滴定し、CBDのHSQCスペクトルの変化をモニターした。これらのミニコラーゲンが溝に結合したとき、前に述べたように、合計11のコラーゲン結合面上の残基が、ラインブロードニングを生じるか、又は化学シフト摂動を示した。Philominathan,et al. (2009) J Biol Chem 284, 10868-10876。PROXYLによって、HSQCスペクトルから、4つのさらなる残基S906、R929、S997及びG998が消失した(
図6A、B及びD)。これらのピークは、アスコルビン酸の添加によって再び現れた。この現象は、CBDがC末端に結合したときの、[GPRG(POG)
7C-PROXYL]
3(配列番号46)の我々の以前の滴定と同一である。もしCBDが部分的に巻き戻されたAla部位のみに結合するのであれば、我々はより少ない残基の消失を観察するであろう。このように、コラーゲン性ペプチドの(POG)
2POA(配列番号45)領域の標的化に加えて、CBDは、C末端(POG)
3(配列番号44)にも結合する。記載されているように、(POG)
2POA(配列番号45)領域及びC末端(POG)
3(配列番号44)のらせん配座は、両方とも、正常なものと比較して同様にねじれが不十分である。Bella. (2010) J Struct Biol 170, 377-391。CBDが、なぜねじれが不十分な領域を標的とするかについての我々の最新の説明は、主鎖カルボニル基の部分巻き戻し位置が、Tyr994のヒドロキシル基との水素結合相互作用に好都合であるというものである。Tyr994のPheへの変異は、ミニコラーゲンへの結合の12倍の低下をもたらし、Alaへの変異は結合能を消失させた。Wilson, et al. (2003) EMBO J 22, 1743-1752。
【0066】
(POG)
2POA(配列番号45)領域及びC末端(POG)
3(配列番号44)領域の両方を標的とするCBDの能力を明らかにするために、中央部(11番目の位置)にPROXYL基を収容するように修飾されたコラーゲン性ペプチド[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3(配列番号40)を合成した。PROXYL基はシステイン残基に共有結合される。嵩高いPROXYL基の存在によって、このペプチドは部分的にねじれていないと予想される。このペプチドに関して不十分なねじれの正確な角度は知られていないが、GPX反復配列を有するミニコラーゲンは、中程度に不十分なねじれを示す(κ=-105°)。Bella. (2010) J Struct Biol 170, 377-391。嵩高いPROXYL基は、κ=-105°よりも大きい非ねじれを誘導すると考えられる。11のアミド共鳴に加えて、ラインブロードニング又はシフトいずれかで、
1H-
15N HSQC NMR滴定は2つの異なる現象を示した。低めの比率(0.2:1)では、S906、R929、S997及びG998に対応するアミド共鳴はCBD(
図8E、F及びH)のHSQCスペクトルから消失した。次いで、高めの比率(0.3:1)では、V973、G975及びS979に対応する追加のアミド共鳴がCBDのHSQCスペクトルから消失した(
図8E、F及びH)。4つの残基(S906、R929、S997及びG998)の消失を引き起こすためには、CBDはN末端(POG)
3(配列番号44)に初めに結合しなければならない。共鳴V973、G975及びS979の消失は、CBDがミニコラーゲンのC末端(POG)
3(配列番号44)に結合する場合に説明することができる。しかしながら、最初の現象は、CBDが、C末端のねじれが不十分な中央部分に優先的に結合することを示している。
【0067】
PROXYLがラインブロードニングを引き起こし、Ala又はCys残基が引き起こさなかったことを立証するために、PROXYL基を欠く3つのさらなる対照ペプチド、[(POG)
4POA(POG)
5]
3(配列番号38)、[(POG)
4POA(POG)
5C-カルバミドメチル]
3(配列番号41)及び[(POG)
3PCG(POG)
4]
3(配列番号40)を合成し、NMR滴定を繰り返した(それぞれ、
図6F、8C及び8G)。滴定結果は、[(POG)
10]
3(配列番号35)の滴定結果とほぼ同じであった。1:1(ミニコラーゲン:CBD)比でさえも、11のアミド共鳴のみがラインブロードニング又はシフトのいずれかを引き起こした。これらの対照ペプチドは同じ溝に結合したが、PROXYLは、さらなる残基にラインブロードニングを引き起こした。
【0068】
CBDが、コラーゲンペプチドの中央部の部分的にねじれていない部位及び/又はミニコラーゲンのC末端にのみ結合するかどうかを明らかにするために、動的光散乱実験(DLS)を行った。DLS実験は、コラーゲン:CBD複合体の化学量論を提供した。[(POG)
4POA(POG)
5-PROXYL]
3(配列番号38):CBD及び[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3(配列番号40):CBDの流体力学半径は3nmであり、複合体の見かけの分子量は42±1kDaであったが、これは、[(POG)
10]
3(配列番号35):CBD複合体に関して観察されたものと同様である(表3)。他の複合体もまた、同様の値を示した。これまで、すべてのミニコラーゲンとCBDは、常に1:1複合体を形成した。CBDは、ミニコラーゲンの利用可能な部位のうちのいずれか1つに結合するが、両方の部位を占めて1:2複合体を形成することをしない。
表3:種々のCBD:コラーゲン性ペプチド複合体に関して動的光散乱(DLS)及びX線小角散乱(SAXS)から算出した流体力学半径(RH)、見かけの分子量(Mw)、回転半径(Rg)及び最大粒径(Dmax)。
【0069】
X線小角散乱実験(SAXS):CBD-コラーゲン性ペプチド複合体の三次元分子形状をSAXS測定を用いて構築した。SAXS測定の主な利点は、ほぼ生理的条件の溶液中でその実験を行うことができることである。我々の以前の研究において、CBDと、ミニコラーゲンのC末端(POG)
3(配列番号44)との非対称結合を明らかにするためにこれらの三次元分子エンベロープを用いた。CBDと、6つの異なるねじれていないミニコラーゲン分子との複合体に関して分子形状が構築された。すべての場合において、CBDは、C末端(POG)
3(配列番号44)よりも(POG)
2POA(配列番号45)領域に優先的に結合した(
図9A~F)。例えば、ねじれていないコラーゲン(pdbアクセッションコード1CAG)の(POG)
2POA(配列番号45)領域に相互作用するCBD(pdbアクセッションコード1NQD)の結晶構造を用いて構築されたCBD:[(POG)
4POA(POG)
5]
3(配列番号38)のドッキングモデルはエンベロープによくフィットする(
図9B)。NMR結果は、CBDが、[(POG)
4POA(POG)
5-PROXYL]
3(配列番号38)のC末端(POG)
3(配列番号44)にも結合することを明らかにしているが、CBDは、そのペプチドの(POG)
2POA(配列番号45)領域に主に結合する(
図9E及び9F)。
【0070】
[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3(配列番号40)に関するシミュレートアニーリング計算を用いるSAXSプロフィールによって導かれた構造(
図9G及び9H)は、PROXYL基に帰することができるさらなる密度を示した。SAXSによって導かれた[11PROXYL-(POG)
3PCG(POG)
4]
3(配列番号40):CBD複合体の三次元形状は、NMRによって導かれた複合体、すなわち、N末端(POG)
3(配列番号44)に結合したCBD又はC末端(POG)
3(配列番号44)に結合したCBDとよく重ね合わさる(
図9G及び9H)。
【0071】
CBD結合による
15N-ミニコラーゲンの小さな構造変化:これまでの研究は、CBDが、ねじれが不十分な領域に関してコラーゲン細繊維をスキャンすることを示唆している。あまり構造化されていない領域への結合によって、その結合は、コラーゲンを能動的に巻き戻さないだろうか?CBDによる能動的巻き戻しは、コラーゲン分解を容易にするであろう。[(POG)
10]
3(配列番号35)のN末端付近又はC末端付近を
15Nで選択的に標識された2つのコラーゲン性ペプチドを研究するために合成し(表4、ペプチドA、B)、
1H-
15N HSQC滴定を用いて、非標識CBDの結合による構造変化をモニターした。
【0072】
15N-Gly標識ペプチドは、
1H-
15N HSQCスペクトルにおいて、2つの異なるクロスピークを示した(
図10A及び10B)。これらのクロスピークは、以前のNMR研究において割り当てられた巻き戻されたモノマー及び3重らせん配座に対応する。Liu, et al.(1996) Biochemistry 35, 4306-4313 及びLi, et al. (1993) Biochemistry 32, 7377-7387。末端のトリプレットに近いGly残基は、HSQCスペクトルにおいてモノマーピーク及び三量体ピークの両方を示すが、3重らせんの中央部におけるGly残基は、強い三量体クロスピークを示す。もしCBDが結合によって3重らせんを曲げるか、又は何らかの巻き戻しを引き起こすのであれば、3重らせんに対応するクロスピークが、滴定過程においてラインブロードニングを起こすか又は消失し、一本鎖に対応するクロスピークが増強されると予想される。しかしながら、滴定の過程において、CBDは、コラーゲン性ペプチドの
1H-
15N HSQCスペクトルに何ら変化を誘発しなかった。従って、C末端(POG)
3(配列番号35)に結合するCBDは、3重らせんにほとんど構造変化を生じさせなかった。
【0073】
N末端又はC末端付近のいずれかで、
15N-Glyで選択的に標識されたねじれていないミニコラーゲン分子(表4C及びD)を非標識CBDで滴定した。HSQCスペクトル上でモノマー及び3重らせんに対応するクロスピークを同定した(
図10C及び10D)。非標識CBDの滴定によって、モノマー又は三量体クロスピークの強度にほとんど変化を生じなかった。部分的に巻き戻されたミニコラーゲンへの結合によってさえも、CBDは、なんらさらなる巻き戻しを開始しない。
【0074】
CBDは、3重らせんコラーゲンのねじれが不十分な部位に一方向性に結合する。CBDは、コラーゲン細繊維の解体に役立つことはできるが、3重らせんを巻き戻しはしない。トロポコラーゲンのねじれが不十分な領域の標的化によって、3重らせんの巻き戻しに必要なエネルギー障壁を回避することができる。CBDがドラッグデリバリー分子として用いられる場合、注入された分子は、主に椎間板のエンドプレート、脛骨及び腓骨の成長板に分布し、皮膚にも分布する。CBDは、リモデリングを受けており、従ってねじれが不十分な領域が豊富な、大部分の血液が到達しうるコラーゲンにそのペイロードを渡すことができる。
【0075】
実施例2
ColH及びColGコラーゲン結合ドメインの構造比較
コラゲナーゼのC末端コラーゲン結合ドメイン(CBD)は、不溶性コラーゲン細繊維への結合とその後のコラーゲン分解に必要である。ColG-CBD(s3b)及びColH-CBD(s3)の高分解能結晶構造において、配列同一性がわずか30%であるにもかかわらず、これらの分子は互いによく似ている(r.m.s.d. Cα = 1.5Å)。Ca2+をキレートする6つの残基のうち、5つが保存されている。s3における二重のCa2+結合部位は、機能的に同等なアスパラギン酸によって完結されている。s3bにおけるコラーゲン相互作用に最も重要な3つの残基は、s3において保存されている。結合ポケットの一般形状は、改変されたループ構造及び側鎖位置によって保持されている。X線小角散乱データによって、s3が、ミニコラーゲンに非対称に結合することもまた明らかにされた。カルシウム結合部位及びコラーゲン結合ポケット以外にも、cis-ペプチド結合の周りの構造的に重要な疎水性残基及び水素結合ネットワークは、メタロペプチダーゼサブファミリーM9Bにおいてよく保存されている。
【0076】
上記及びBauer et al. (2012) J Bacteriol November 9 (参照によりその全体が本願に組み込まれる)における共通の構造的特徴は、M9BサブファミリーにおけるCBDの配列のアラインメントをアップデートすることを我々に可能にした(
図1)。保存された残基は、4つの理由のうちの1つにとって重要である:カルシウムキレート化(赤色)、リンカーのシス-トランス異性化(黄色)、コラーゲン結合(青色)又はタンパク質フォールディング(緑色)。
図1は、図の上部に沿って、ストランド構造を示している。
【0077】
二重カルシウム結合部位は、N末端リンカー内の4つのキレート残基(Glu899、Glu901、Asn903及びAsp904)、β-ストランドCからの2つのキレート残基(Asp927及びAsp930)ならびに不変(invariant)のTyr1002水素結合及び配向Asp930によって形成される。このパラグラフに用いられる残基番号はs3bのものである。同様に、他の脇役、例えばGly921は、β-ストランドの中央部に保存され、Glu899の空間をあけるために戦略的に置かれている。二重カルシウムキレート化部位は、機能的に同等な残基によって変えられている場合もある。上記のように、s3のAsp897は、s3bのAsp927と等価に機能する。Asp897等価体は、B.ブレビス(B. brevis)のs3a及びs3b、C.ボツリナム(C. botulinum)のA3 s3aならびにC.ヒストリチクム(C. histolyticum)のColG s3aにおいて試験的に同定されている。三座配位及び二価のAsp及びGlu残基は、例外的に、C.ソルデリ(C. sordellii)s3aのみに保存されている。一座配位のAsp904残基は、Asnによって置換されている場合がある。これらの置換に関して、二重カルシウム部位の正味電荷は-1よりはむしろ中性である。
【0078】
s3b及びs3の両方に関して、holo状態で、残基901-902間のペプチドはシス立体配座を有する。他のCBD分子における位置902はPro、Asp又はAsnである。トランス-シス異性化を容易にするために、しばしば、Proがこのペプチド結合の後にくる。s3分子はProを有する。s3bにおいて、Asn902のODは、Asp904の主鎖Nと水素結合している。ペプチド異性化には水素結合は重要である。Spiriti and van der Vaart. (2010) Biochemistry 49:5314-5320(参照によりその全体が本願に組み込まれる)。Aspをその位置に有するCBD分子の残りに関して、AspのODは、Asn902のODと同じ役割を果たすことができる。移行状態の安定化に重要な、シミュレーション研究によって同定された他の水素結合は、よく保存されている。s3及びs3bにおけるこれらのドナー‐アクセプター対を表で示す(表5)。カルシウムイオンは、すべてのCBD分子において異性化を触媒することができ、それらの移行状態及び触媒機構は、大変類似しているとみることができる。
表5:s3bにおけるトランス-シスペプチド異性化に重要な水素結合とそれらのs3におけるカウンターパート
【0079】
フォールディング又は構造的安定性のいずれかに重要な非機能性残基は保存されている。β-シート間にパッキングされている疎水性残基は、それらが機能的に重要な残基の近くに位置する場合、よりよく保存されている。例えば、ストランドEの不変のTrp956は、β-シート間にパッキングされている。隣接する残基(Thr955及びThr957)は、ミニコラーゲンと相互作用する。Tyr932は該シート間にパッキングされ、Tyr1002の位置決めに役立つ。タイトターン(tight turn)における残基もまた保存されている。Gly975はよく保存されており、s3bにおけるII型ターンを可能にする。s3におけるGly942(Gly975等価体)は、Asp941側鎖に逆ターンを安定化させることを可能にする。残基986と991の間の高度に保存された6つの残基ストレッチはタイトターンを採用し、昨日的に重要なストランドHの前にくる。この領域は、低い温度因子での結晶構造中に高秩序であり、NMRに基づいて最も揺らぎが小さく、MALDI-TOF MSでは、限定されたタンパク質分解が観察される(25)。Philominathan, et al. (2009) J Biol Chem 284:10868-10876 and Sides et al. J Am Soc Mass Spectrom. (2012) 23(3):505-19 (これらは共に、参照によりその全体が本願に組み込まれる)。主鎖カルボニル及びArg985のアミノ基は、Tyr989のOHと水素結合してターンを安定化させる。Gly987のみが、嵩高いTyr989側鎖の場所をあけることができる。Tyr990は、不変のAla909及び保存された310へリックスに対してパッキングされる。Ala909は、α-へリックス→β-ストランド変換を受けるリンカーの基部にある。タイトターンは、Leu992、Tyr994、及びTyr996と相互作用するコラーゲンが正確に配置されることを確実にすることができる。コラーゲン性ペプチドとの相互作用において、Tyr994は最も重要な残基である。Wilson, et al. (2003) EMBO J 22:1743-1752。ストランドHに隣接したストランド、すなわちストランドC及びEは、大変よく保存されている。3つの逆平行ストランドは、コラーゲン結合ポケットを形づくる。両方のシートと相互作用することによって、ストランドFはβ-シートをつなぎとめる。β-ストランドは、最初に逆平行方向でストランドEと相互作用し、次いでGly971でその方向を脱してストランドGと相互作用する。そのストランドがその忠誠を交代する位置において、Gly971の代わりにAla又はProがみられる。ストランドの二重相互作用は、ミニコラーゲンと相互作用するためのTyr970の位置決めに役立つ。
【0080】
ミニコラーゲンと強く相互作用することが示されている3つの残基は保存されている。不変のTyr994はよく保存されており、Tyr970及びTyr996は”ホットスポット”を構成する。Y994A変異は結合能を消失させた。Y994Fはミニコラーゲンに対する結合の12倍の減少をもたらしたため、Tyr994のヒドロキシル基は、水素結合を介してコラーゲンと相互作用することができる。ミニコラーゲンとの結合における重要な残基であるTyr996は、あまりよく保存されていない。Y996Aは、ミニコラーゲンに対する結合の40倍の減少を引き起こした。s3bにおけるY996は、s3におけるPheで置き換えられるが、両方の側鎖は同一の方向を有する。他のCBD分子において、芳香族残基、例えばPhe又はHisは、その部位に見られることがある。Y970Aは、ミニコラーゲンに対する結合の12倍の減少をもたらす。Thr957は、15N-HSQC-NMR滴定によって、ミニコラーゲンと相互作用することが見出された。β-分枝鎖アミノ酸残基又はLeuは、CBDの大部分において、Thr957と等価な位置で見出される。
ミニコラーゲンと相互作用することが15N-HSQC-NMR滴定によって同定された他の6つの残基は、あまりよく保存されていない。互いに異なるCBD(s3及びs3b)が、同様のサドル型結合ポケットを採用していたため、他のCBDもまた、同様のコラーゲン結合戦略を採用している可能性がある。
【0081】
互いに異なるCBDは、異なるコラーゲン配列を標的とする可能性があり、恐らくは、異なるコラーゲンタイプを標的とする可能性があった。しかしながら、本構造研究は、それとは異なることを示唆している。むしろ、すべてのCBDドメインは、ねじれが不十分な領域、例えばコラーゲン細繊維のC末端に同様に結合することができる。X線繊維回折実験に基づいて、細繊維表面におけるI型コラーゲンのC末端が公表され、この部位が、細菌性コラゲナーゼが攻撃を開始するための最もアクセス可能な部位である。しかしながら、トロポコラーゲンのC末端領域においてだけは、CBD結合は見出されていない。I型コラーゲン細繊維に結合した金粒子で標識された金粒子標識タンデムColG-CBD(s3a-s3b)は、周期性を示さなかった。コラーゲン細繊維において、分子は、互いに約67nm離れて互い違いに配置されている。従ってCBDは、トロポコラーゲンの中央部における部分的にねじれが不十分な領域を標的にすることが可能であり、これらは攻撃に無防備でもある。
【0082】
s3bと同様に、s3は共にコンパクトであり、生理学的Ca2+の存在下で極めて安定である。従って、酵素は、長期間細胞外マトリックスを分解することができる。構造変換を誘導するリンカーはM9Bコラゲナーゼにおいて見られる共通の特徴である。このリンカーは、酵素活性化の手段としてドメイン再編成を引き起こすCa2+センサーとして機能することができる。細胞外マトリックスにおけるCa2+濃度は、細菌の内部よりも高い。s3及びs3bは、共にミニコラーゲンに同様に結合する。従って、M9Bコラゲナーゼ分子は、種々のコラーゲン細繊維における類似した構造的特徴からコラーゲン分解を開始することができる。M9Bコラゲナーゼ由来の任意のCBDと増殖因子との融合タンパク質は、類似の臨床結果をもたらすであろう。
【0083】
実施例3
CBD-PTHアゴニストは発毛を刺激し、CBD-PTHアンタゴニストは発毛を抑制する
CBDが結合したPTH化合物のin vitro解析:各ペプチドのコラーゲン結合は、米国特許公開第2010/0129341号(参照によりその全体が本願に組み込まれる)に記載されているようにして、フロースルーコラーゲン結合アッセイで立証した。コラーゲン結合ドメインに直接的に結合したPTHの最初の33アミノ酸からなるPTH-CBD(配列番号1)は最も強力なアゴニストであり、cAMP集積に関してPTH(1-34)(配列番号7)の効果と同様な効果を示した。Ponnapakkam et al. (2011) Calcif 88:511-520. Epub 2011 Apr 2022。アンタゴニストの中で、PTH(7-33)-CBD(配列番号10)は、発毛研究に用いたものを含め、他のPTHアンタゴニストにおいて見られたものと同様な、低い固有の活性と高い受容体遮断の最良の組み合わせを有していた(図示せず)。Peters, et al. (2001) J Invest Dermatol 117:173-178。
【0084】
PTH-CBDのin-vivo分布:
35S標識したPTH-CBDを皮下注射によって投与し、次いで全組織標本を凍結し、全身オートラジオグラフィーを行って組織分布を評価した。PTH(1-33)とCBDの間にリン酸化部位を有するPTH-CBDを精製し、活性化し、前述のように[ガンマ-35]ATPで標識した。Tamai et al. (2003) Infect Immun. 71:5371-5375。7週齢マウス(32~35g)におおよそ10.8mcgの
35S-PTH-CBD(122kcm/mcg)を皮下注射した。注射後、1時間又は12時間でマウスを屠殺し、次いでドライアイス-アセトンで凍結した。オートクライオトームで凍結切片(50μm)を作成し、-20℃で乾燥し、イメージプレートに4週間暴露した。注射部位周辺皮膚の広い領域に
35S-PTH-CBDの最初の分布がみられ、次いで、全動物の皮膚ならびにいくつかの他の組織(すなわち骨、腸、膀胱)への迅速な再分布がみられた(
図11)。このように、PTH-CBDは、皮下投与による分布及び皮膚への保持という所望の特性を示した。
【0085】
PTH-CBDは、マウスの化学療法誘発性脱毛症における脱毛を逆行させる:CBDが結合していないPTH化合物に関して、Petersらによって公表された実験計画を利用して、我々は、化学療法誘発性脱毛症において、CBDが結合したPTHアゴニストとアンタゴニストの有効性を比較した。Peters, et al. (2001) J Invest Dermatol 117:173-1781。C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories、バーハーバー、メイン州)を除毛して毛包を同調させ、化学療法誘発性損傷を最大化するために、9日目にシクロホスファミド(CYP、150mg/kg)を投与した。化学療法の2日前にアゴニスト(PTH-CBD)及びアンタゴニスト(PTH(7-33)-CBD)を投与し、皮膚に化合物が長期に保持されている場合は、Petersらによる研究におけるPTHアゴニスト及びアンタゴニストの複数の注射のタイミングを相殺するために、我々は、単回量のみを投与した。CBDが結合した化合物の投与量(320mcg/kg)は、マウスに認容性が良好である。Ponnapakkam et al. (2011) Calcif 88:511-520. Epub 2011 Apr 2022。
【0086】
写真ドキュメンテーション記録の結果は、アゴニストであるPTH-CBDが、アンタゴニストよりも発毛の刺激にずっと有効であったことを示している(
図12)。組織学的検査は、ジストロフィー性成長期及び退行期の特徴である、より表面上に位置し、毛球の周りに凝集したメラノサイトを示すCYP療法後の毛包における形態学的変化を明らかにした(
図13)。アンタゴニストPTH(7-33)-CBDは有益な効果を示さなかったが、アゴニストPTH-CBDでの治療は、より深部の発毛及びメラノサイト凝集の低下をもたらし、従って、ジストロフィー性変化を逆行させた。高倍率視野(HPF)当たりの成長期VI毛包数を群間で比較した。PTH-CBDで治療した動物は、より高い毛包数を有し、化学療法を受けなかった動物の毛包数に近づいたが(
図14)、アンタゴニストPTH(7-33)-CBDは有益な効果を示さなかった。
【0087】
重要なことには、PTH-CBD投与による副作用による証拠が観察されなかった。PTH注射は血中カルシウムを上昇させることが知られ、腎結石を引き起こす恐れがあるが、PTH-CBDは、血清カルシウムに影響を示さなかった。さらに、身体上で過剰な毛髪の長さを示す証拠がなく、フルコートが通常は存在しない耳及び尾に過剰な発毛を示す根拠がなかった。臨床プロトコルをより密接に模倣する、脱毛なしの化学療法誘発性脱毛症のモデルにおいて、発毛に対するPTH-CBDの効果が確定された。
【0088】
化学療法誘発性脱毛症におけるPTH-CBDの効果の定量:化学療法誘発性脱毛症におけるPTH-CBDの種々の用量の効果を比較することによって、我々はこれらの研究を行った。これらの研究において、背部のより遠位に注射を行うことによって、発毛量を定量するためのグレースケール解析を行った。背部のより遠位に注射することによって、PTH-CBD治療後の毛髪再生を、マウスにおいては、通常頭から尾まで進行する通常の毛髪再生から干渉をより少なくして比較することが可能になる。結果を
図15に示す。この図は、毛髪再生に関する、定性的かつ定量的な、用量依存的効果を示している。
【0089】
除毛なしの化学療法誘発性脱毛症:化学療法誘発性脱毛症の除毛モデルは、薬効の比較のための均一なモデルを提供するが、除毛プロセスは毛包損傷を引き起こすことが知られ、PTH-CBD投与に対する動物の応答を変える可能性がある。従って、我々は、癌患者が治療を受ける通常の方法と同様に、3コースのシクロホスファミド療法(50mg/kg/wk)を動物に行う、化学療法誘発性脱毛症のもう1つのモデルにおいてPTH-CBDの効果を試験した。このモデルにおいて、脱毛症を発症するのにより多くの期間(4~6ヶ月間)がかかる。
図16に示すように、第1サイクルの前にPTH-CBDの単回量(320mcg/kg皮下)を行った動物は脱毛を発症しなかった。
【0090】
次の研究において、我々は、化学療法の第1サイクル時に予防的に投与したPTH-CBDの効果と、脱毛を発症した後に治療的に投与したPTH-CBDの効果とを比較した。両例においてPTH-CBDは有効であったが、予防的に投与した場合に効果はより顕著であった。我々の用量反応研究に用いた同じグレースケール解析を用いれば、
図17において、このことは視覚的にも定量的にも明らかである。
【0091】
除毛脱毛症:アゴニストPTH-CBDは、成長期毛包数を増加させることによって発毛を増加させると考えられる。そのようなものとして、発毛効果が、化学療法モデルに限定されるべきであると信じる根拠はない。従って、我々は、ワキシングによってC57/BL6Jマウスから毛髪を除去した後、PTH-CBD及びアンタゴニスト化合物、PTH(7‐33)-CBDの両方を試験した(
図18)。結果は極めて興味深かった。アゴニスト(PTH-CBD)処置動物は、より早期の成長期の発生(ビヒクル対照9日目に対し7日目)を示し、試験の終わりまでには(18日目)、より完全な毛髪再生を示した。アンタゴニスト(PTH(7‐33)-CBD)処置動物もまた、より早期の成長期の発生を示したが、これに続く発毛は著しく減退し、この時点以後に毛周期は停止し、さらなる毛髪再生は観察されなかった。このように、アゴニスト治療は、成長期へのより迅速な移行を促進することによって、より迅速に毛髪再生を促進するように作用するのに対し、アンタゴニストは、この移行を遮断することによって毛髪再生を抑制すると考えられる。
【0092】
PTH-CBDは、副甲状腺ホルモン(PTH)の最初の33アミノ酸と細菌性コラーゲン結合ドメインとの融合タンパク質である。コラーゲン結合活性は、PTH-CBDが皮膚コラーゲンにおけるその作用部位に保持されるように作用し、有効性を最大化し、全身性副作用を低減する。PTH-CBDは、恐らく、WNTシグナル伝達を活性化し、βカテニン産生を増加させることによって、毛包を成長期VI又は成長期に誘導することによって発毛を刺激する。従って、我々は、この作用機構を確認し、WNTシグナル伝達が抑制された2つの異なる遺伝子マウスモデルにおいてPTH-CBDの効果を測定するための以下のさらなる研究を行うことを計画している。これらのデータは、脱毛症の治療としてのPTH-CBDの臨床試験の計画に利用されるであろう。
【0093】
円形脱毛症:円形脱毛症は、毛包の自己免疫破壊によるむらのある脱毛の疾患である。我々は、円形脱毛症の動物モデルである、移植したC3H/Hejマウスにおける、毛髪再生促進におけるPTH-CBDの有効性を試験した。このモデルにおいて、脱毛は、寿命の最初の2ヶ月間にわたって不定に発症する。
図19に、移植部位である、最大脱毛が存在する背部中央部に投与したPTH-CBD(320mcg/kg皮下)の単回投与の結果を示す。この部位において脱毛を続けたビヒクル対照動物と比較して、PTH-CBDを投与した動物は、次の1~4日間以内に毛髪再生を示し始める。重要なことに、実験過程の2ヶ月間にこの応答が持続したことが観察された。
【0094】
実施例4
CBD-PTHは、副甲状腺機能亢進症を予防し治療することができる
本実験において、ラットは、3ヶ月齢において外科的に卵巣を切除した。9ヶ月齢において、ラットに、PTH-CBDの単回量(320mcg/kg)又はビヒクル対照のいずれかを注射した。治療6ヶ月後(15ヶ月齢)に動物を屠殺した。PTH-CBDの血清レベルを評価するためにヒトインタクトPTHレベルを測定し、両群において検出されないことが見出された。血清カルシウムを測定したが、両群間に差異はなかった(ビヒクル:13.5+/-1.1、PTH-CBD:14.3+/-1.1mg/dl、NS)。内因性PTH産生を評価するためにラットインタクトPTHレベルを測定した。PTH-CBDは、加齢卵巣切除ラットにおいて通常見られる内因性PTHレベルの増加を抑制した。これらの発見は、PTH-CBDの1回の注射によって、内因性PTH産生の長期抑制を提供することができ、卵巣切除したラットモデルにおいて加齢とともにみられる通常の増加を抑制し、従って副甲状腺機能亢進症の治療として役立つことができることを示している。
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