(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】チャック機構、爪装着アダプタ、及び切粉・粉塵防止カバー
(51)【国際特許分類】
B23B 31/00 20060101AFI20230808BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20230808BHJP
B23B 31/16 20060101ALN20230808BHJP
【FI】
B23B31/00 B
B23Q11/08 Z
B23B31/16 Z
(21)【出願番号】P 2018195378
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】509033099
【氏名又は名称】有限会社 シンセテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎章
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092797(WO,A1)
【文献】実開平01-129006(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-33/00;
B23Q 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック端面に設置される切粉・粉塵防止カバーであって、
放射状に配置されたマスタージョーの前記チャック端面の中心側の所定領域を覆う板面部と、
前記板面部から、前記マスタージョーの前記チャック端面の前記中心側とは反対側の外側まで、前記マスタージョーの両側において、前記マスタージョーの側面に沿って配置される一対のマスタージョー側部側延伸部と、
前記マスタージョーと当該マスタージョーに設置され当該マスタージョーと一体化された部材とを含むマスタージョー等移動部材に対して、当該マスタージョー等移動部材の前記中心側の端部に密接する密接部と、
前記一対のマスタージョー側部側延伸部それぞれの前記外側の端部から、他方側の前記マスタージョー側部側延伸部の側に突出し、前記マスタージョーの前記外側の面に係止し、前記マスタージョー等移動部材の前記チャック端面の径方向の所定の移動に対して、前記密接した状態を維持して当該切粉・粉塵防止カバーを追従させる係止部と
を有することを特徴とする切粉・粉塵防止カバー。
【請求項2】
前記マスタージョー側部側延伸部に形成され、前記マスタージョーのセレーション面に気流を噴出するエアー噴出口と、
所定の箇所から供給される気流を前記エアー噴出口に供給する切粉・粉塵防止カバー空気溝と
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の切粉・粉塵防止カバー。
【請求項3】
所定の数の請求項1又は2に記載の切粉・粉塵防止カバー、及び
チャック端面に設置されるトッププレートであって、前記切粉・粉塵防止カバーを、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着可能な切粉・粉塵防止カバー設置案内部が前記所定の数形成されたトッププレート、
を有することを特徴とする切粉・粉塵防止カバーセット。
【請求項4】
前記トッププレートは、チャック本体に設置されたパイプを介して供給される気流を、前記切粉・粉塵防止カバーの前記切粉・粉塵防止カバー空気溝に供給するトッププレート空気溝をさらに有することを特徴とする請求項2を引用する請求項
3に記載の切粉・粉塵防止カバーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械により効率よくワークの加工等を行うことができるチャック機構、爪装着アダプタ及び切粉・粉塵防止カバーに関し、特に、従来のマスタージョーやチャック機構に対して異なる形態のセレーションを有する生爪を装着可能にする爪装着アダプタ等、及び、チャック端面に生じる隙間を適切に閉塞する切粉・粉塵防止カバー等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークをチャック機構に固定して加工する旋盤やフライス盤等の工作機械あるいはマシニングセンターにおいては、効率よくワークの加工を行うことが重要であり、そのためには、いわゆる段取り時間を短縮すること重要である。
【0003】
段取り時間が長くなる要因としては、ワークの芯出しに時間がかかること、特に、一度取り外したワークを再度取り付ける際に再現性よくワークの芯出しを行うことが難しいことが挙げられる。また、切削加工により発生した切粉が爪、マスタージョー、チャックのマスタージョー挿入溝、あるいはこれらのボルト穴等に付着したり堆積したりする場合があり、付着、堆積した切粉を除去する時間が必要となることも挙げられる。
【0004】
一度取り外したワークを再現性よく取り付けワークの芯出しに要する時間を短縮し効率よくワークの加工する技術としては、マスタージョーと爪(生爪)の当接する面に、異なる方向に延在する複数のセレーションを形成しておき、これらを係合させることにより、爪とマスタージョーとの当接面の面方向のずれを防止するチャック機構が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、切粉を除去する時間を短縮化し効率よくワークの加工する技術としては、切粉が侵入、堆積しない構成のチャック機構が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
一方、効率よくワークの加工を行うこれらの技術に対しては、改善が要望されている点がある。具体的には、爪とマスタージョーとの面方向のずれを防止する技術に関しては、特許文献1に記載の技術では、従来とは異なるマスタージョーやチャック機構を用意する必要があり負担が大きい。そのため、既存のマスタージョー等を使用して同様の性能を得たいとの要望がある。また、切粉の侵入や堆積を防ぐ技術に関しては、チャック(爪)の開閉に対してより簡単な構成で追従できる切粉・粉塵防止カバーの類が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4273218号公報
【文献】国際公開WO2018/092797公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、既存のマスタージョーやチャック機構を使用しながら、一度取り外したワークを再現性よく取り付け、ワークの芯出しに係る時間を短縮し、もって効率よくワークの加工を行うことができるチャック機構、爪装着アダプタ、及び工作機械を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、簡単な構成により、切粉がチャック機構内に侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、チャック機構内に侵入あるいは堆積した切粉を除去し清掃する時間を短縮化し、効率よくワークの加工を行うことができる切粉・粉塵防止カバー、チャック端面プレート、チャック機構及び工作機械を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、これらのいわゆる段取り時間を短縮することにより、ワークの所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、ひいては、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり生産性及び機械稼働率の向上を達成することのできる上記のチャック機構、爪装着アダプタ、切粉・粉塵防止カバー、チャック端面プレート、及び工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るチャック機構は、ワークを把握するチャック機構であって、
チャック本体と、
前記チャック本体の端面に設置され、所定のセレーションが形成された第1係合面を有する複数のマスタージョーと、
前記マスタージョーの各々に設置され、前記第1係合面とは異なる所定のセレーションが形成された第2係合面を有する複数の生爪と、
前記第1係合面に係合可能な第1対向係合面を一方の面に有し、前記第2係合面に係合可能な第2対向係合面を前記一方の面とは反対側の他方の面に有する複数の爪装着アダプタとを有する。
【0011】
特定的には、前記第1係合面及び前記第1対向係合面の少なくともいずれか一方には、所定の1方向に延在するセレーションが形成されており、
前記第2係合面及び前記第2対向係合面の少なくともいずれか一方には、異なる所定の2方向に延在するセレーションが形成されている。
【0012】
また、本発明に係る爪装着アダプタは、マスタージョーに形成された第1係合面に係合可能な第1対向係合面を一方の面に有し、生爪に形成された第2係合面に係合可能な第2対向係合面を前記一方の面とは反対側の他方の面に有する。
【0013】
また、本発明に係る切粉・粉塵防止カバーは、チャック端面に設置される切粉・粉塵防止カバーであって、
放射状に配置されたマスタージョーの前記チャック端面の中心側の所定領域を覆う板面部と、
前記板面部から、前記マスタージョーの前記チャック端面の前記中心側とは反対側の外側まで、前記マスタージョーの両側において、前記マスタージョーの側面に沿って配置されるマスタージョー側部側延伸部と、
前記マスタージョーと当該マスタージョーに設置され当該マスタージョーと一体化された部材とを含むマスタージョー等移動部材に対して、当該マスタージョー等移動部材の前記中心側の端部に密接する密接部と、
前記マスタージョーの前記外側の面に係止し、前記マスタージョー等移動部材の前記チャック端面の径方向の所定の移動に対して、前記密接した状態を維持して当該切粉・粉塵防止カバーを追従させる係止部とを有する。
【0014】
ここで、板面部が覆う「チャック端面の中心側の所定領域」とは、例えば、マスタージョーの径方向内側の端面とチャック中心部のチャックカバーとの間の間隙等の、チャック端面に生じた隙間を含む領域であり、好ましくはその隙間を包含する領域である。
【0015】
また、「マスタージョー等移動部材」とは、例えば、マスタージョーと、マスタージョーに設置された爪、及び、マスタージョーに爪を設置するためのTナットと等を含む概念である。これらは、チャックにワークを把握するときには、マスタージョーに対して固設されマスタージョーと一体にチャックの径方向に移動可能な状態とされる。
【0016】
また、マスタージョー等移動部材のチャック端面の径方向の「所定の移動」とは、ワークをチャック本体の端面の中央部に嵌め込むために、マスタージョー等移動部材をャック本体の端面の径方向外側に動かしてチャックを開いた状態とする場合の最も外側の位置と、爪でワークを把握するために、マスタージョー等移動部材をャック本体の端面の径方向内側に動かしてチャックを閉じた状態とする場合の最も中心側の位置との間の、チャック本体の端面に対するマスタージョー等移動部材の移動である。
【0017】
好ましくは、本発明に係る切粉・粉塵防止カバーは、前記マスタージョー側部側延伸部に形成され、マスタージョーのセレーション面に気流を噴出するエアー噴出口と、
所定の箇所から供給される気流を前記エアー噴出口に供給する切粉・粉塵防止カバー空気溝とをさらに有する。
【0018】
また、本発明に係るチャック端面プレートは、チャック端面に設置されるチャック端面プレートであって、
上述した本発明に係る切粉・粉塵防止カバーを、前記チャック端面の径方向に移動自在に装着可能な切粉・粉塵防止カバー設置案内部と、
チャック本体に設置されたパイプを介して供給される気流を、前記切粉・粉塵防止カバーの前記切粉・粉塵防止カバー空気溝に供給するトッププレート空気溝とを有する。
【0019】
また、本発明に係るチャック機構は、本発明に係る前記切粉・粉塵防止カバー、又は、本発明に係る前記チャック端面プレートのいずれかを有する。
また、本発明の工作機械は、本発明に係る前記チャック機構のいずれかを有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既存のマスタージョーやチャック機構を使用しながら、一度取り外したワークを再現性よく取り付け、ワークの芯出しに係る時間を短縮し、もって効率よくワークの加工を行うことができるチャック機構、爪装着アダプタ、及び工作機械を提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、簡単な構成により、切粉がチャック機構内に侵入あるいは堆積することを防ぐことができ、チャック機構内に侵入あるいは堆積した切粉を除去し清掃する時間を短縮化し、効率よくワークの加工を行うことができる切粉・粉塵防止カバー、チャック端面プレート、チャック機構及び工作機械を提供することができる。
【0022】
すなわち、本発明によれば、これらのいわゆる段取り時間を短縮することにより、ワークの所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、ひいては、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり生産性及び機械稼働率の向上を達成することのできるチャック機構、爪装着アダプタ、切粉・粉塵防止カバー、チャック端面プレート、及び工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るチャック機構の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すチャック機構のマスタージョーの構成を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すチャック機構のアダプタの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すチャック機構の生爪の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すチャック機構の爪用Tナットの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すチャック機構のアダプタ用Tナットの構成を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1に示すチャック機構において、アダプタを介してマスタージョーに生爪を装着した状態を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構のチャック本体の端面の状態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構のステア付爪の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構のリアグリップ及びフロントグリップの構成を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構において、ステア付爪をマスタージョーに設置する手順を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構のトッププレートの構成を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構のトップカバーの構成を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の第2実施形態に係るチャック機構において、マスタージョーのセレーション面にエアブローを行う状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1実施形態
本発明の第1実施形態について
図1~
図7を参照して説明する。
本実施形態においては、本発明に係るアダプタ(爪装着アダプタ)を適用したチャック機構について説明する。本実施形態に係るチャック機構は、旋盤やフライス盤等の工作機械、マシニングセンター、ローダ等に適用することができる。
【0025】
本実施形態のチャック機構10は、
図1に示すように、円筒型のチャック本体110、チャック本体110に取り付けられる3つのマスタージョー120、マスタージョー120に設置される3つのアダプタ130、アダプタ130に設置される3つの生爪160、生爪160をアダプタ130を介してマスタージョー120に固定するための爪用Tナット180、及び、アダプタ130をマスタージョー120に固定するための一対のアダプタ用Tナット191,192を有する。
【0026】
チャック本体110の端面112には、マスタージョー120を取り付けるためのマスタージョー挿入溝115が形成されている。マスタージョー挿入溝115は、幅広の底部115aと、底部115aより幅狭の上部115bとを有するT字形状の断面を有し、チャック本体の端面112の径方向に所定の長さで延在する。
【0027】
マスタージョー120は、生爪160をアダプタ130を介してチャック本体110に取り付ける受け台である。マスタージョー120は、平面形状が長方形の金属製部材であり、
図2に示すように、幅広の基部121と、基部121より幅狭の上部122とを有するT字形状の断面を有する。基部121は、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115の底部115aに内接し収容される形状及びサイズであり、上部122は、マスタージョー挿入溝115の上部115bに内接する幅である。上部122の高さは、マスタージョー挿入溝115の上部115bの高さよりも若干高い。従って、マスタージョー120をチャック本体110に設置すると、マスタージョー120の最上部は、チャック本体110の端面112から若干突出した状態となる。
【0028】
マスタージョー120には、アダプタ130及び生爪160を取り付けるための爪設置溝123が形成されている。爪設置溝123は、マスタージョー120の長手方向に沿って延在するように形成されており、幅広の底部123aと底部123aより幅狭の上部123bとを有するT字形状の断面を有する。爪設置溝123は上部123bに対して底部123aの方が幅広のため、上部123bと底部123aとの境界には下向きの段差面(肩部)123cが形成される。
【0029】
マスタージョー120の上面の爪設置溝123の両側には、本発明の第1係合面としてのセレーション面124,124が形成されている。各セレーション面124には、断面が略正三角形で、爪設置溝123の延伸方向に垂直な方向に延伸する鋸歯124aが、爪設置溝123の延伸方向に所定のピッチで多数配列されたセレーションが形成されている。なお、本実施形態において、鋸歯124aのピッチは3mmである。
【0030】
このような構成のマスタージョー120は、チャック本体110の外周面からマスタージョー挿入溝115に挿入され、チャック本体110に設置される。例えば、チャック本体110の中心部には楔形溝を有する図示せぬシフタが組み込まれており、これがマスタージョー120の下部に係合することによりマスタージョー120はチャック本体110に取り付けられる。シフタがチャック本体110の軸方向にスライドするとマスタージョー120はチャック本体110の径方向にスライドするように構成されており、これにより、ワークの交換等の際にマスタージョー120は開いた状態あるいは閉じた状態に移動される。
【0031】
アダプタ130は、
図1に示すように、マスタージョー120と生爪160との間に介在され、マスタージョー120とは異なる種類のセレーションを有する生爪160をマスタージョー120に設置するための部材である。アダプタ130は、
図3(A)及び
図3(B)に示すように、扁平な略直方体形状の金属製基材131の表裏両側に、溝132,133を形成し、断面H状に形成した部材である。アダプタ130の材質は、例えばS45C鋼のような炭素鋼鋼材である。なお、
図3(A)はアダプタ130を一方の面側から見た図であり、
図3(B)はアダプタ130を他方の面側から見た図である。
【0032】
下面溝132及び上面溝133は、アダプタ130の下面及び上面の短手方向の中央部に、アダプタ130の長手方向に沿ってそれぞれ形成されている断面長方形の溝である。本実施形態においては、下面溝132の方が上面溝133より若干深く形成されている。下面溝132には、アダプタ130をマスタージョー120に設置する際に、爪用Tナット180及びアダプタ用Tナット191,192の頭部が嵌合される。
【0033】
アダプタ130の下面の下面溝132の両側には、本発明の第1対向係合面としての下側セレーション面134,134が形成されている。
図3(B)に示すように、各下側セレーション面134には、断面が略正三角形でアダプタ130の短手方向に延伸する鋸歯134aが、アダプタ130の長手方向に所定のピッチで配列されたセレーションが形成されている。各鋸歯134aの形状及びピッチはマスタージョー120のセレーション面124の鋸歯124aの形状及びピッチと同一である。
【0034】
アダプタ130をマスタージョー120に設置する際には、このセレーション面134のセレーションがマスタージョー120のセレーション面124のセレーションと係合される。その結果、アダプタ130は、セレーション面134の配列方向には移動不能となり、マスタージョー120に対して径方向の位置が高精度に規定される。
【0035】
アダプタ130の上面の上面溝133の両側には、本発明の第2対向係合面としての上側セレーション面135が形成されている。
図3(A)に示すように、各上側セレーション面135には、それぞれ、四角錘状のスパイク135aが多数配列されている。各スパイク135aの断面形状は略三角形であって、各スパイク135aは、面取り加工が施された先端部と、先端部から傾斜する4つの斜面とを有する。
【0036】
スパイク135aは、アダプタ130の長手方向及び短手方向に各々所定のピッチで配列されている。本実施形態においてスパイク135aのピッチは、アダプタ130の長手方向及び短手方向のいずれにおいても3mmであるが、これに限られるものではなく、例えば1.5mm等任意の長さに設定してよい。
【0037】
生爪160をアダプタ130に設置する際には、後述する生爪160の第1セレーション面165及び第2セレーション面166のセレーションが、それぞれアダプタ130の上側セレーション面135,135のスパイク135aと係合される。その結果、アダプタ130は、スパイク135aの配列方向、すなわちアダプタ130の長手方向及び短手方向の両方向において移動不能となり、生爪160の幅方向及び長手方向の両方において高精度に位置決めがなされる。
【0038】
アダプタ130の溝部分132,133の両端部には、アダプタ130をボルト(図示しない)で固定するためのボルト穴138が2か所形成されている。アダプタ130を固定するための各アダプタ2本のボルトは、それぞれ、アダプタ130の上面溝133側からボルト穴138に挿入され、アダプタ130を貫通し、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入されたアダプタ用Tナット191,192のネジ穴193,194にネジ込まれる。
【0039】
生爪160は、
図4Aに示すように、略直方体の金属製部材である。本実施形態において生爪160の材質は、例えばS45C鋼のような炭素鋼鋼材である。生爪160の先端部は、ワークを把握するワーク把握面を形成するためのワーク把握部161に形成されている。本実施形態においてワーク把握部161は平坦面であるが、山形の端面でもよいし、より傾斜面が長く先端が狭い尖った形状の端面でもよい。
【0040】
生爪160の下面162には、溝164が形成されている。溝164は、生爪160の短手方向の中央部に、生爪160の長手方向に沿って形成されている断面長方形の溝である。溝164は、生爪160を、アダプタ130を介さず直接マスタージョー120に設置する場合に、爪用Tナット180の頭部が嵌合される溝である。
【0041】
生爪160の下面162の溝164の両側には、本発明としての第2係合面としての第1セレーション面165及び第2セレーション面166が形成されている。
図4(B)に示すように、第1セレーション面165には、断面が略正三角形で生爪160の短手方向に延伸する鋸歯165aが、生爪160の長手方向に所定のピッチで配列されたセレーションが形成されている。また、
図4(C)に示すように、第2セレーション面166には、断面が略正三角形で生爪160の長手方向に延伸する鋸歯166aが、生爪160の短手方向に所定のピッチで配列されたセレーションが形成されている。本実施形態において、各セレーション面165,166の鋸歯165a,166aのピッチは、ともに3mmである。
【0042】
生爪160をアダプタ130に設置すると、生爪160の第1セレーション面165及び第2セレーション面166がともにアダプタ130の上側セレーション面135,135と係合する。その結果、マスタージョー130上に生爪160を配置するのみで、生爪160の幅方向及び長手方向の両方の位置が高精度に規定される。
【0043】
生爪160の上面163には、生爪160をボルト(図示しない)で固定するためのボルト穴167が2か所形成されている。生爪160を固定するための各生爪2本のボルトは、それぞれ、生爪160の上面163からボルト穴167に挿入され、生爪160を高さ方向に貫通し、アダプタ130の爪設置ボルト通過孔136を通過して、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された爪用Tナット180のネジ穴184にネジ込まれる。
【0044】
爪用Tナット180は、
図5に示すように、基部181と、基部より幅狭な頭部182とを有する略T字形状の断面を有する金属製部材である。爪用Tナット180の基部181及び頭部182は、それぞれマスタージョー120の爪設置溝123の底部123a及び上部123bに略内接する形状であり、爪用Tナット180の基部181と頭部182との間の段差面183は、爪設置溝123の段差面123cに当接する。したがって、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された爪用Tナット180は、チャック本体110の端面112側から脱落することはない。
【0045】
爪用Tナット180の頭部182には、生爪160をボルトで固定するためのネジ穴184が形成されている。なお、爪用Tナット180を爪設置溝123に挿入したとき、爪用Tナット180の頭部182の上面はマスタージョー120のセレーション面124よりも突出する。
【0046】
アダプタ用Tナット191,192は、
図6(A)及び
図6(B)に示すように、それぞれ、基部191a,192aと、基部より幅狭な頭部191b,192bとを有する略T字形状の断面を有する金属製部材である。アダプタ用Tナット191,192の基部191a,192a及び頭部191b、192bは、それぞれマスタージョー120の爪設置溝123の底部123a及び上部123bに略内接する形状であり、アダプタ用Tナット191,192の基部191a,192aと頭部191b、192bとの間の段差面191c,192cは、爪設置溝123の段差面123cに当接する。したがって、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入されたアダプタ用Tナット191,192は、チャック本体110の端面112側から脱落することはない。
【0047】
アダプタ用Tナット191,192の頭部191b,192bには、アダプタ130をボルトで固定するためのネジ穴193,194が形成されている。なお、アダプタ用Tナット191,192を爪設置溝123に挿入したとき、アダプタ用Tナット191,192の頭部191b,192b182の上面はマスタージョー120のセレーション面124よりも突出する。
【0048】
また、内径側に配置されるアダプタ用Tナット192の内径側の端部は、マスタージョー120の爪設置溝223に挿入された場合に爪設置溝123の内径側の隅部と干渉しないように、図示のごとく面取り状態に切り欠かれた傾斜面に形成されている。
【0049】
このような構成のチャック機構10において、ワークを加工するために生爪160を設置する手順について説明する。
まず、
図1に示すように、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115にマスタージョー50を挿入して、図示せぬボルトで固定する。次に、マスタージョー120に形成された爪設置溝123に、アダプタ用Tナット191、マスタージョー120、アダプタ用Tナット192をこの順序で挿入する。
【0050】
次に、マスタージョー120のセレーション面124にアダプタ130の下側セレーション面134を係合させ、図示せぬボルトによりアダプタ130をアダプタ用Tナット191,192と連結する。アダプタ130の連結は、ボルトをアダプタ130の上面溝133側からボルト穴138,138に挿入し、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入されたアダプタ用Tナット191,192のネジ穴193,194にネジ込むことにより行う。その結果、アダプタ130はマスタージョー120の所定の位置に高精度に設置される。また、爪用Tナット180は、2つのアダプタ用Tナット191,192の間に挟持された状態となる。
【0051】
次に、アダプタ130の上側セレーション面135に生爪160のセレーション面165,166を係合させ、図示せぬボルトにより生爪160を爪用Tナット180と連結する。生爪160の連結は、ボルトを生爪160の上面163に形成されたボルト穴167に挿入し、アダプタ130のアダプタ設置ボルト通過孔137を通過させ、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入された爪用Tナット180のネジ穴184にネジ込むことにより行う。その結果、
図7(A)及び
図7(B)に示すように、生爪160はアダプタ130を介してマスタージョー120の所定の位置に高精度に設置される。
【0052】
このように、本実施形態のチャック機構10においては、アダプタ130を介して、異なる複数方向のセレーションを有する生爪160を、広く汎用されている従来のマスタージョーやチャック機構に装着することができる。したがって、既存のマスタージョーやチャック機構を使用しながら、ワークの芯出し、あるいは一度取り外したワークを再現性よく取り付けの時間を短縮し、効率よくワークの加工を行うことができる。
【0053】
そしてこのように、異なる複数方向のセレーションを有する生爪160を使用することにより、生爪160の径方向及び接線方向の位置決めが容易かつ高精度に行える。したがって、経験の浅い作業者でも、また、爪をチャック機構10から取り外して再度設置するような場合でも、効率よく正確に爪の設置、位置決めを行うことができる。そしてその結果、ワークの把握や芯出しも効率よく正確に行うことができ、ワークの効率よく迅速かつ高精度な加工が可能となる。
【0054】
第2実施形態
本発明の第2実施形態について
図8~
図14を参照して説明する。
本実施形態においては、本発明に係る切粉・粉塵防止カバー及びチャック端面プレートを適用したチャック機構について説明する。本実施形態に係るチャック機構は、旋盤やフライス盤等の工作機械、マシニングセンター、マシニングセンター等に用いられるローダ等に適用することができるものである。
【0055】
本実施形態のチャック機構20は、
図8に示すように、円筒型のチャック本体210、チャック本体210に取り付けられる3つのマスタージョー220、トッププレート610及び
図8では図示しない3つのトップカバー660を有する。
【0056】
チャック本体210の端面212には、マスタージョー220を取り付けるためのマスタージョー挿入溝215が形成されている。マスタージョー挿入溝215は、幅広の底部215aと、底部215aより幅狭の上部215bとを有するT字形状の断面を有し、チャック本体の端面212の径方向に所定の長さで延在する。
【0057】
マスタージョー220は、生爪260をチャック本体210に取り付ける受け台である。マスタージョー220は、平面形状が長方形の金属製部材であり、幅広の基部221と、基部221より幅狭の上部222とを有するT字形状の断面を有する。基部221は、チャック本体210のマスタージョー挿入溝215の底部215aに内接し収容される形状及びサイズであり、上部222は、マスタージョー挿入溝215の上部215bに内接する幅である。上部222の高さは、マスタージョー挿入溝215の上部125bの高さよりも若干高い。従って、マスタージョー220をチャック本体210に設置すると、マスタージョー220の最上部は、チャック本体210の端面212から若干突出した状態となる。
【0058】
マスタージョー220には、後述するステア付爪260を取り付けるための爪設置溝223が形成されている。爪設置溝223は、マスタージョー220の長手方向に沿って延在するように形成されており、幅広の底部223aと底部223aより幅狭の上部223bとを有するT字形状の断面を有する。爪設置溝223は上部223bに対して底部123aの方が幅広のため、上部223bと底部223aとの境界には下向きの段差面(肩部)223cが形成される。この段差面223cは、ステア付爪260を下方に引き込む際の引き込み支持面になる。
【0059】
マスタージョー220の上面の爪設置溝223の両側には、各々、セレーション面224が形成されている。セレーション面224には、
図3(A)を参照して前述した第1実施形態のアダプタ130の上側セレーション面135と同様に、四角錘状のスパイク224aが多数配列されている。各スパイク224aの断面形状は略三角形であって、各スパイク224aは、面取り加工が施された先端部と、先端部から傾斜する4つの斜面とを有する。
【0060】
スパイク224aは、マスタージョー220の長手方向及び短手方向に各々所定のピッチで配列されている。本実施形態においてスパイク224aのピッチは、マスタージョー220の長手方向及び短手方向のいずれにおいても3mmであるが、これに限られるものではなく、例えば1.5mm等任意の長さに設定してよい。
【0061】
図9(A)~
図9(C)は、ステア付爪260の構造を示す図であり、
図9(A)は部分切断斜視図であり、
図9(B)は横セレーション面273の鋸歯273aを示す図であり、
図9(C)は縦セレーション面274の鋸歯274aを示す図である。ステア付爪260は、
図9(A)に示すように、ワークを把握する爪270と、爪270をマスタージョー220に設置するためのステア280とが一体に形成された部材である。
【0062】
爪270の先端部は、ワークに接触しワークを把握するワーク把握面を形成するためのワーク把握部271に形成されている。本実施形態の爪270は生爪(ソフトジョー)である。
【0063】
爪270の下面の両側には、横セレーション面273及び縦セレーション面274が形成されている。横セレーション面273及び縦セレーション面274は、各々、断面が略正三角形の鋸歯が所定のピッチで多数配列された構造である。横セレーション面273は、爪270の幅方向(短手方向)に延伸する鋸歯273aが爪270の長手方向に所定のピッチで配列された構造であり、マスタージョー220のセレーション面224(
図8参照)の一方に係合するセレーション面である。また、縦セレーション面274は、爪270の長手方向に延伸する鋸歯が爪217の幅方向(短手方向)に所定のピッチで配列された構造であり、マスタージョー220のセレーション面224(
図8参照)の他方に係合するセレーション面である。
【0064】
ステア280は、爪270をマスタージョー220に設置するための金属製部材である。ステア280のリア側端面285及びフロント側端面286は、各々、波形係合面に形成されている。この波形係合面は、対向する形状の対向波形係合面を有する後述するグリップ510,540によりステア280が挟持され締め付けられることにより、グリップ510,540に対して下方向に引き込まれる形状に形成されている。
【0065】
その結果、爪270のセレーション面273,274のセレーションとマスタージョー220のセレーション面224のセレーションとが確実に係合され、爪270がマスタージョー220の所定の位置に正確に設置される。そのために、ステア280には、リア側端面285とフロント側端面286との間を貫通するように、ステア280とグリップ510,540とを連結するためのクランプボルト570(
図7(C)参照)を通過させるためのクランプボルト通過孔283が形成されている。
【0066】
図10は、チャック機構20のリアグリップ510及びフロントグリップ540の構成を示す図である。リアグリップ510及びフロントグリップ540は、マスタージョー220の爪設置溝123に挿入され、ステア付爪260のステア280(
図9参照)を両側から挟み込むことにより、ステア付爪260をマスタージョー220に固定する。そのため、グリップ510,540は、各々、マスタージョー220の爪設置溝223に内接し収容される形状の断面、すなわち爪設置溝223と同じT字形状の断面を有する金属製部材である。
【0067】
リアグリップ510は、マスタージョー220の爪設置溝223に挿入された状態において外径側となる端面513が、ステア付爪260のステア280のリア側端面285に対向し接面する対向波形係合面513に形成されている。また、フロントグリップ540は、マスタージョー220の爪設置溝223に挿入された状態において内径側となる端面が、ステア付爪260のステア280のフロント側端面286に対向し説明する対向波形係合面543に形成されている。
【0068】
リアグリップ510及びフロントグリップ540には、爪設置溝223に挿入された場合に幅方向となる方向の両側に、マスタージョー220の爪設置溝223の肩部223cと対向し当接する段差面512,542が形成されている。段差面512,542は、後述するように、ステア付爪260のステア280を締め付けてステア付爪260を引き込む際の引き込み支持面となる。また、リアグリップ510の段差面512の内径側の端部は、マスタージョー220の爪設置溝223に挿入された場合に、爪設置溝223の内径側の隅部と干渉しないように、面取り状態に切り欠かれた傾斜面に形成されている。
【0069】
また、グリップ510,540には、これらをマスタージョー120の爪設置溝123に挿入した際に爪設置溝123の延伸方向となる方向に、クランプボルト用孔530,560が形成されている。リアグリップ510のクランプボルト用孔530には、クランプボルトの先端の螺子部分がねじ込まれる螺子溝が形成されている。また、フロントグリップ540に形成されたクランプボルト用孔560の外径側端面544側には、クランプボルト用孔560と同軸に、クランプボルトの頭部が収容される座ぐり561が形成されている。
【0070】
リアグリップ510及びフロントグリップ540により、ステア付爪260をマスタージョー220に設置する方法について、
図11を参照して説明する。
図11(A)~
図11(C)は、各々、ステア付爪260をマスタージョー220に設置する手順を説明するための図である。なお、チャック本体210のマスタージョー挿入溝215には、マスタージョー220が設置されているものとする。
【0071】
まず、
図11(A)に示すように、マスタージョー220の爪設置溝223にグリップ510,540を挿入する。まず、リアグリップ510を、外径側端面(対向波形係合面)513が外径側となる向きで爪設置溝123に挿入し、その後、フロントグリップ540を、外径側端面544が外径側となる向きで爪設置溝223に挿入する。その結果、マスタージョー220の爪設置溝223には、
図11(A)に示すような形態でグリップ510,540が設置される。
【0072】
次に、ステア付爪260をマスタージョー220に対して設置する。ステア付爪260を、
図11(A)に示すように、マスタージョー220の爪設置溝223の上側からマスタージョー220の爪設置溝223方向に移動させ、ステア280を爪設置溝223に挿入し、
図11(B)に示すように、爪270がマスタージョー220上に接触した状態に配置する。このとき、ステア付爪260の爪270の下面のセレーション面273,274のセレーションと、マスタージョー220のセレーション面224,224のセレーションとを所定の位置で係合させる。これにより、ステア付爪260は、径方向及び周方向にマスタージョー220上の所定の位置に配置されることとなる。
【0073】
ステア付爪260のステア280を爪設置溝223に挿入したら、
図11(C)に示すように、チャック本体210の外周面のマスタージョー220の端部からに、クランプボルト570を挿入する。クランプボルト570は、フロントグリップ540の外径側端面544(
図10参照)のクランプボルト用座ぐり561の部分からクランプボルト用孔560に挿入され、ステア280のフロント側端面286からリア側端面285までクランプボルト通過孔263を通過し、ねじ穴に形成されているリアグリップ510のクランプボルト用孔530にねじ込まれる。
【0074】
この状態でクランプボルト570を締め付けていくことにより、リアグリップ510とフロントグリップ540との間隔が狭くなり、ステア付爪260のステア280の波形係合面285,286とグリップ510,540の対向波形係合面513,543とが係合し噛み合い、ステア付爪260はグリップ510,540に対して相対的に下方向に引き込まれる。
【0075】
このとき、グリップ510,540の段差面512,542(
図10参照)は、マスタージョー220の段差面(引き込み支持面)223cに当接し支持されているのでチャック本体210の端面212方向に移動することができない。そのため、ステア付爪260はマスタージョー220に対して爪設置溝223の深さ方向に引き込まれることとなり、ステア付爪260の下面のセレーション面273,274のセレーション(筋状の鋸歯)と、マスタージョー220のセレーション面224,224のセレーション(スパイク)とが深く係合することとなる。その結果、これらのセレーションの中心が精密に位置合わせされることとなり、ステア付爪260の爪270の位置も高精度に位置決めされることとなる。
【0076】
次に、本発明に係るトッププレート610及びトップカバー660について、
図12~
図14を参照して説明する。なお、トッププレート610と3枚のトップカバー660とを備えた一式を、トップカバーセット(切粉・粉塵防止カバーセット)600と称する。
【0077】
図12は、トッププレート610の構成を示す図である。
図12(A)は平面図であり、
図12(B)は
図12(A)のG-Gにおける断面図である。トッププレート610は、チャック本体210の端面212の略全体を覆うように、チャック本体210に装着される。
【0078】
トッププレート610は、チャック本体210の端面212と略同じ大きさの円形の板状部材である。トッププレート610には、トッププレート610の周方向に沿って3箇所、等配に、マスタージョー進入用切り欠き620が形成されている。マスタージョー進入用切り欠き620は、トッププレート610をチャック本体210の端面212に設置した際に、
図8に示すように、チャック本体210のマスタージョー挿入溝215に重なる切り欠きである。
【0079】
マスタージョー進入用切り欠き620の奥行きは、チャックが閉じた状態、すなわちマスタージョー220の中心側の端部が最も中心側に移動したときに、マスタージョー220とトッププレート610とが干渉しない長さである。
【0080】
マスタージョー進入用切り欠き620の周囲には、トップカバー案内凹部630が形成されている。トップカバー案内凹部630は、トッププレート610の下面側(チャック本体210の端面212に接する側)に形成され、その内部をトップカバー660がマスタージョー220の移動に合わせて径方向に移動可能に構成されている。
【0081】
トップカバー案内凹部630の幅は、後述するトップカバー660の幅と略同じであって、トップカバー660がトップカバー案内凹部630内を容易に移動可能な長さである。また、トップカバー案内凹部630の奥行きは、チャックが閉じた状態、すなわちマスタージョー220の中心側の端部が最も中心側に移動したときに、マスタージョー220に追従して中心側方向に移動するトップカバー660の中心側端部がトッププレート610に干渉しない長さである。
【0082】
トッププレート610の中央部の下面(チャック本体210の端面212に接する面)には、
図12(B)に示すように、中心円形孔651及び3箇所の接続溝652からなるトッププレート空気溝650が形成されている。中心円形孔651は、チャック本体210の主軸内部パイプ214を通って送られてきたエアーを受ける凹部であり、接続溝652は、中心円形孔651とトップカバー案内凹部630とを各々接続する溝である。このような構造のトッププレート空気溝650により、チャック本体210の主軸内部パイプ214を介して送られたエアーは、中心円形孔651及び接続溝652を介して、トップカバー案内凹部630に送られる。
【0083】
【0084】
トップカバー
660は、
図13(A)に示すように、略矩形の平面形状を有するマスタージョー先端側被覆部661と、マスタージョー先端側被覆部661の両側から延在するマスタージョー側部側延伸部665とを有する板状部在である。トップカバー
660は、マスタージョー先端側被覆部661側を内径側にしてトッププレート310のトップカバー案内凹部330に各々嵌入され、トップカバー案内凹部330に案内されてチャック本体110の端面112を径方向に移動する。
【0085】
マスタージョー先端側被覆部661は、マスタージョーセレーション面嵌合部670及びグリップ当接部675を有する。マスタージョーセレーション面嵌合部670はマスタージョー220のセレーション面224,224に嵌合し、グリップ当接部675はリアグリップ510の内径側端面514に当接する。これによりトップカバー660のマスタージョー先端側被覆部661は、マスタージョー220の内径側の全ての面に当接(密接)する。
【0086】
マスタージョー側部側延伸部665は、マスタージョー先端側被覆部661の両側の外側部分が、マスタージョー120が配置される方向に沿って長く延伸した構成である。2本のマスタージョー側部側延伸部665は、トップカバー660がマスタージョー220に嵌合された場合に、マスタージョー220の2つのセレーション面224,224の各外側に沿って、セレーション面224,224の全域にわたり密接に配置される。
【0087】
マスタージョー側部側延伸部665のマスタージョー先端側被覆部661とは反対側の端部には、内側に突出した係止部678が形成されている。係止部678は、トップカバー660がマスタージョー220に装着されたとき、マスタージョー220の外径側の端面に係合する。そのため、マスタージョー220が外径方向に移動したとき、トップカバー660はマスタージョー220に追従して移動する。すなわち、係止部678の構成によりトップカバー660は、マスタージョー220の周囲に常に一体に係合した状態となり、マスタージョー220の移動にともなって、マスタージョー220とともに移動する。
【0088】
なお、マスタージョー220がチャック本体210端面212の内径方向に移動したときは、トップカバー660のマスタージョー先端側被覆部661がマスタージョー220の内径側に当接しているので、トップカバー660は当然にマスタージョー220と一体的に移動する。
【0089】
トップカバー660には、マスタージョーのセレーション面にエアを噴出するために、接続溝691及び延伸部空気溝692からなるトップカバー空気溝(切粉・粉塵防止カバー空気溝)690と、エアー噴出口695とが形成されている。接続溝691の一端は、トップカバー660の内径側側端面に開口しており、トッププレート空気溝650を介してトッププレート610のトップカバー案内凹部630に送られたエアが流入する。接続溝691に流入したエアーは延伸部空気溝692に送られる。
【0090】
延伸部空気溝692は、マスタージョー側部側延伸部665の内側(マスタージョー220のセレーション面224,224に近接する側に沿って形成される溝でる。
【0091】
エアー噴出口695は、
図13(B)、
図13(C)及び
図13(E)に示すように、延伸部空気溝692に流されたエアーを、マスタージョーのセレーション面に噴出させるための開口部である。エアー噴出口695は、
図13(D)に示すようにマスタージョー側部側延伸部665の内側端面に開口が形成されるように延伸部空気溝692とマスタージョー側部側延伸部665の内側端面とを連通する構造であり、
図13(B)及び
図13(C)に示すようにマスタージョー側部側延伸部665の延伸方向に沿って所定間隔に整列して形成されている。
【0092】
このような構成の第2実施形態のトップカバーセット(トッププレート610、トップカバー660)により、マスタージョーのセレーション面にエアブローを行うことについて、
図14を参照して説明する。
図14は、チャック本体210に、トッププレート610及びトップカバー660、及び、マスタージョー220を設置した状態を模式的に示す図であって、3箇所のうち1箇所のみを示す図であり、
図14(A)は平面図、
図14(B)は
図14(A)におけるMの部分の断面図(
図14(C)のR-Rにおける断面図)、
図14(C)は
図14(A)のMの部分を
図14(A)のNの方向から見た側面図、
図14(D)は、
図14(A)のMの部分の
図14(B)のP-P及び
図14(C)のQ-Qにおける断面図である。
【0093】
図14(A)に示すように、トッププレート610を装着した旋盤等において、主軸内部パイプ214を介して送られてきたエアーは、トッププレート610の中心円形孔651、接続溝652を流れてトップカバー案内凹部630に送られる。トッププレート610のトップカバー案内凹部630に送られたエアーは、トップカバー660の接続溝691及び延伸部空気溝692を流れ、
図14(B)に示すように、延伸部空気溝692に対して形成されたエアー噴出口695から、マスタージョー220のセレーション面224,224及び爪のセレーション面273,274方向に噴出される。
【0094】
このとき、エアー噴出口695とマスタージョー220及び爪のセレーション面125,126との位置関係は、
図14(C)及び
図14(D)に示すように、エアー噴出口695から噴出したエアーがマスタージョー220のセレーション面224,224の鋸歯224aの間(溝)に噴出する位置関係とされている。したがって、マスタージョー220のセレーション面224,224に適切にエアーが噴出され、仮に、セレーションの溝に切粉やごみ等が存在していた場合でも、その切粉等を吹き飛ばして除外することができる。
【0095】
このように、本実施形態のトッププレート610及びトップカバー660を用いれば、旋盤等の工作機械において、切粉が、爪、マスタージョー、マスタージョー挿入溝あるいはチャック本体に付着したり堆積したりすることを適切に防ぐことができ、チャッキング不良やワークの把握精度(クランプ精度)の低下等が生じる危険性を無くすことができる。その結果、特に、旋盤等の工作機械の自動運転、無人運転、メンテナンスフリーな稼働等が可能となり、それら自動運転等により所望の切削加工を精度よく効率よく行うことができ、生産性及び機械稼働率の向上を達成することができる。
【0096】
また、特に本実施形態のトップカバー660においては、マスタージョー側部側延伸部665の端部に突出するように形成された係止部678により、トップカバー660はマスタージョー220に係合装着している。その結果、マスタージョー220がチャック本体210端面212の外径方向に移動したときも、トップカバー660はマスタージョー220に追従して、マスタージョー220と一体的に外径方向に移動する。したがって、例えばスプリング等の付勢手段によりマスタージョー220の外径方向への移動に対してトップカバー660を追従させる方法と比較して、トッププレート610及びトップカバー660の構成を簡単にすることができる。
【0097】
変形例
なお、本発明は前述した実施形態に限られるものではなく、任意好適な種々の改変が可能である。
【0098】
例えば、第2実施形態に係るトップカバー660は、前述した実施形態においては、
図13(A)に示すように、マスタージョー先端側被覆部661とマスタージョー側部側延伸部665とが一体に形成された構成であった。しかし、トップカバー660の構造は任意でよく、例えば
図15に示すように、1つの板状部在であるマスタージョー先端側被覆部661aと、マスタージョー先端側被覆部661aとは別の板状部在である2つのマスタージョー側部側延伸部665aとを組み立ててトップカバー660を形成するようにしてもよい。
【0099】
図15において、
図15(A)はマスタージョー側部側延伸部665aの平面図であり、
図15(B)はマスタージョー側部側延伸部665aの側面図であり、
図15(C)はマスタージョー先端側被覆部661aの平面図であり、
図15(D)はマスタージョー先端側被覆部661aの側面図である。
【0100】
このようなマスタージョー先端側被覆部661a及びマスタージョー側部側延伸部665aにおいて、マスタージョー先端側被覆部661aの両側に形成された凹部661bと、マスタージョー側部側延伸部665aの一方の端部付近に形成された凹部665bとを嵌合させ接着することにより、
図13(A)に示したのと同じトップカバー660が形成される。トップカバー660をこのような構成にすれば、その製造が極めて容易になる。
【0101】
また、第2実施形態のトップカバーセットをチャック機構に適用する場合、チャック本体210の端面212とトッププレート610との間にエアーの漏洩を防止するためのシート状部材を設置するようにしてもよい。シート状部材の材質は任意の材料でよく、ゴム等の樹脂、金属、セラミック等の任意の材料でよいが、好ましくは、パッキンあるいはガスケット等として通常用いられる材料が好適である。
【0102】
このようなシート状部材を設置することにより、本実施形態として前述した意図した流路以外へエアーが流れること、すなわち、エアーの漏洩を防止することができ、エアーにより切粉等を吹き飛ばして除外するという前述した本実施形態のトップカバーセットの作用効果を一層高めることができる。
【符号の説明】
【0103】
10,20…チャック機構
110,210…チャック本体
120,220…マスタージョー
130…アダプタ(爪装着アダプタ)
160…生爪
180…爪用Tナット
191,192…アダプタ用Tナット
260…ステア付爪
270…爪(生爪、ソフトジョー)
280…ステア
510、540…グリップ
600…トップカバーセット(切粉・粉塵防止カバーセット)
610…トッププレート
660…トップカバー(切粉・粉塵防止カバー)