(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】自動車のドア構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/04 20060101AFI20230808BHJP
B60J 10/273 20160101ALN20230808BHJP
【FI】
B60J5/04 Z
B60J10/273
(21)【出願番号】P 2019009447
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(72)【発明者】
【氏名】宮田 尚周
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-059746(JP,A)
【文献】特開2002-104098(JP,A)
【文献】実開平02-002232(JP,U)
【文献】特開2003-220837(JP,A)
【文献】特開2003-159947(JP,A)
【文献】特開2013-129206(JP,A)
【文献】特開2005-199841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0153678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/04
B60J 10/273
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアドア前端部をフロントドア後端部の車室内側に配置して、前記両端部を車幅方向に所定の間隔で対向させた自動車用ドア構造において、
前記少なくとも一方の
ドア端部の一部または全部に、他方の
ドア端部に対向させるようにかつドア閉め力の力線が一方
のドアから他方
のドアに直線状に伝達するよう構成したドア閉め力伝達手段を配設し、前記フロントドアを閉じた際にドア閉め力が前記リアドアに
確実に伝達され、
リアドアのアウターパネルを振動させるように構成したことを特徴とする、
自動車用ドア構造。
【請求項2】
前記ドア閉め力伝達手段が、弾性部材で構成された
、中空円弧状シールで囲われていない単一もしくは複数の突起部であることを特徴とする、
請求項1に記載の自動車用ドア構造。
【請求項3】
前記ドア閉め力伝達手段が、パーティングシールの中空状またはリップ状のシール部
の外周部に、前記フロントドアを閉じた際にシール部の変形を妨げるような肉厚部を設けることであることを特徴とする、
請求項1に記載の自動車用ドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ドアに関し、ドアを閉じた瞬間に発生する音(以下、ドア閉め音)を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の商品性を高めるために、自動車用ドアにおいては、ドア閉め音に対して重厚感が求められており、一般的に、高周波音よりも低周波音の方が重厚さを感じることができ、好ましいとされている。そこで従来、ドア内部に高周波音を吸収するウレタンなどの吸音物質を内蔵させたり、ドアパネル内面に振動を抑制するシートを貼り付けることにより、高周波音の発生を抑制し低周波音を強調させることが行われている。
【0003】
具体的には
図2に示すようにアウターパネルに熱硬化シートや制振シートを貼り付けて低周波音がより強調されるようにしている。しかしこの方法を用いるとシートによる重量の増加を招くとともに、ドア内側からアウターパネルにシートを貼り付ける工程が発生するため作業性の悪化を招いてしまう。またアウターパネルに貼り付けたシートの端部に雨水がたまりアウターパネルの腐食を招く等の問題が発生する。
【0004】
また最近ボディー色を隠す、遮音性を向上させるなどの目的で、フロントドアとリアドアの重複部分にパーティングシールを配設したドア構造が増えている。たとえば特許第3784623号ではパーティングシールのシール部の形状を、ドア形状に追従させるようにして遮音性を確保できるよう工夫した発明が出願されている。しかしパーティングシールの形状をドア閉め音改善のために積極的に工夫した発明は出願されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようにドア閉め音改善に係る従来技術は、シートによる重量の増加や生産性の悪化を伴うなどの問題があり、より簡便な低音増加手段が求められていた。そこで、発明者が鋭意検討を重ねた結果、ドア閉め音の音源調査等から、低音発生源が主にドアアウターパネルにあることに着目し本発明に至った。
【0007】
具体的には、ドア閉め音の音源調査の結果、4ドア車においてリアドアを閉じた状態でフロントドアを閉めた際に発生するドア閉め音の低音発生源としては、フロントドアのアウターパネルの振動によって発生する音が支配的であり、一方リアドアのアウターパネルはほとんど振動していないことが判明した。
【0008】
そこでフロントドアを閉じる時の衝撃を積極的にリアドアに伝達することで、意図的にリアドアのアウターパネルを振動させ、リアドアのアウターパネルからも低音を発生させることで、フロントドアのドア閉め音の低音を強調させることに思い至った。
【0009】
本発明はこのような課題に注目してなされたものであり、重量増加や生産性の悪化を伴うことなしに、リアドアのアウターパネルを積極的に振動させることにより、フロントドアのドア閉め音の改善を行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、リアドア前端部をフロントドア後端部の車室内側に配置して、前記両端部を車幅方向に所定の間隔で対向させた自動車用ドア構造において、前記少なくとも一方の端部の一部または全部に、他方の端部に対向させるようにドア閉め力伝達手段を配設し、前記フロントドアを閉じた際にドア閉め力が前記リアドアに伝達されるように構成したことを特徴とする。
【0011】
フロントドアを閉じた際に、ドア閉め力伝達手段の作用によりドア閉め力がリアドアに伝達されてリアドアのアウターパネルが振動し低音を発生するので、この構成によればドア閉め音が向上する。
【0012】
請求項2の発明は請求項1の特徴に加えて、前記ドア閉め力伝達手段が、弾性部材で構成された単一もしくは複数の突起部または連続した突起部であることを特徴とする。
【0013】
閉め力伝達手段が、複数の突起部または連続したビード状の突起部で構成され、かつその突起部が弾性部材で構成されているので、適切なドア閉め力がリアドアに伝達されてリアドアのアウターパネルが振動し低音を発生するので、この構成によればドア閉め音が向上する。
【0014】
請求項3の発明は請求項1の特徴に加えて、前記ドア閉め力伝達手段が、パーティングシールの中空状またはリップ状のシール部に、前記フロントドアを閉じた際にシール部の変形を妨げるような突起部または肉厚部を設けることであることを特徴とする。
【0015】
パーティングシールは通常ゴム等の弾性部材で構成されているため、シール部の変形を妨げるような突起部または肉厚部を設けることにより、適切なドア閉め力がリアドアに伝達されてリアドアのアウターパネルが振動し低音を発生するので、この構成によればドア閉め音が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るドア構造では重量増加や生産性の悪化を伴うことなしに、リアドア前方の端部またはフロントドア後方の端部に単純な構造を付加するだけで、適切なドア閉め力がリアドアに伝達されてリアドアのアウターパネルが振動し低音を発生するので、ドア閉め音が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】実施形態1に係る突起部を設定したフロントドアとリアドア重複部分の断面詳細図。
【
図4】通常のパーティングシールを設定したフロントドアとリアドア重複部分の断面詳細図。
【
図5】実施形態2に係るパーティングシールを設定したフロントドアとリアドア重複部分の断面詳細図。
【
図6】実施形態3に係るパーティングシールを設定したフロントドアとリアドア重複部分の断面詳細図。
【
図7】パーティングシール無しの仕様と通常のパーティングシール有りの仕様のドア閉め音の大きさを比較したグラフ。
【
図8】パーティングシール無しの仕様と肉厚部を設けたパーティングシール有りの仕様のドア閉め音の大きさを比較したグラフ。
【
図9】パーティングシール無しの仕様とパーティングシール無しで突起部材のみ設けた仕様のドア閉め音の大きさを比較したグラフ。
【符号の説明】
【0018】
1 フロントドア
1a フロントドアアウターパネル
1b フロントドアインナーパネル
2 リアドア
2a リアドアアウターパネル
2b リアドアインナーパネル
3 フロントドア後端部
4 リアドア前端部
8 突起部材
10,20,30 パーティングシール
11、31 取付部
12、22.32 シール部
13 突起部
16 制振シート
23 厚肉部
15、25,35 リップ部
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の実施形態の説明は、本質的な例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を限定することを意図するものではない。
【0020】
図3、
図5、
図6は、実施形態1から実施形態3のフロントドア、リアドアの重複部分である、
図1に示す断面A-Aの詳細断面を示している。一方、
図4は一般的なパーティングシールの断面A-Aの詳細断面を示している。
【0021】
図3から
図6においては、左側にフロントドア後端部3が、右側にリアドア前端部4が図示されており、フロントドア後端部3がリアドア前端部4に対し車室外側に配置されるよう、前記両端部が車幅方向に所定の間隔で対向している。また両端部では周知の構造により、インナーパネルとアウターパネルがヘミング加工により結合されている。この部分の構造は実施形態1から実施形態3で共通である。
【0022】
(実施形態1の構造)
先ず実施形態1の詳細断面を
図3に示す。
図3ではリアドア前端部4にフロントドア後端部3に対向するように突起部材8が装着されている。突起部材8の材質は各種ゴム等の弾性を持つ材質である。硬度が柔らかすぎると単に衝撃吸収部材としてしか機能しなくなるため、衝撃を伝えられる程度の適度な硬度を選択する。
【0023】
ドア閉め力伝達手段は、必ずしもリアドアとフロントドアの重複部分全体に及ぶ必要はなく、リアドアパネルを効率よく振動させるポイントに絞って設けるだけでもよい。従って突起部材8の形状については、リアドア前端部全長に及んで連続した形状だけでなく、効率よく振動させるポイントに絞って単一または複数の独立した突起部材を設けるなど様々な態様が可能である。但し本実施形態では突起部材8をリアドアとフロントドアの重複部分全体に連続的に設けている。また突起部材8のリアドア前端部4への固定方法については接着材、接着シール、契合など周知の方法が適用できる。
【0024】
(実施形態1の作動)
本願においては、リアドア2が閉まった状態でフロントドア1を閉める際に発生するドア閉め音の改善を対象にする。
図3(A)はフロントドア1が閉まる直前の状態、
図3(B)は完全にドア閉の状態での静止状態(以下基準位置という)を示す。
【0025】
またドアの構造上、フロントドアを閉める際、基準位置でぴったり停止するわけではなく、フロントドア後端3は一旦基準位置よりも車内側に入り込んだ後に、基準位置に戻る挙動をとる。この基準位置よりも少し車内側に入り込んだ位置を
図3(C)に示す。
【0026】
通常のフロントドア閉動作を行なうと静止したリアドア前端部4に固定された突起部材8に向かってフロントドア後端部3が近接し、基準位置近傍でフロントドア後端部3が突起部材8に衝突し、ドア閉め力が突起部材8を通じてリアドアに伝達される。フロントドア後端3は慣性力で基準位置よりも車内側に僅かに入り込んだ後に、ドアの剛性により基準位置に押戻される。
【0027】
(実施形態1の効果)
突起部材8のドア閉め音に及ぼす効果を
図9に示す。このグラフはドア閉め音の強さを1000Hzまでの周波数領域に展開したものである。ドア閉め音は市販の量産車を用いて、リアドアを閉じた状態でフロントドアを1.4m/s(フロントドア後端部で測定)の速度で閉じたとき発生した音をマイクで測定してグラフ化した。
【0028】
図中の破線はリアドア前端部およびフロントドア後端部に何も無い状態のベースとなる仕様のドア閉め音を、実線はリアドア前端部に突起部材8を設けた仕様のドア閉め音を示す。
図9から解るように1000Hzまで全域にわたって突起部材8を設けた仕様はドア閉め音が大きくなっている。これは突起部材8を設けた仕様では、フロントドアのドア閉め力が突起部材8を通してリアドアに伝わり、リアドアのアウターパネルが振動しドア閉め音を増幅したためと判断される。
【0029】
すなわちリアドア前端部に弾性部材による突起部材を設けることにより、フロントドアのドア閉め力をリアドアに伝え低周波域のドア閉め音を増幅できることが確認できた。
【0030】
(実施形態2の構造)
次に実施形態2について説明する。実施形態1と共通の構成については説明を省略する。まず
図4に通常のパーティングシール30を用いた構成を示す。
図4に示すようにリアドア前端部4に、フロントドア後端部3と対向するようにパーティングシール30が装着されている。パーティングシール30は取付部31とシール部32から構成されている。取付部31はリアドア前端部4と接着テープ、接着または契合等で固定されており、本実施形態では接着材で固定されている。またパーティングシール30は本実施形態ではシール部32の延長線上にリップ部35を有し開いた構造となっているが、リップ部35が取付部31に繋がった閉じた構造のパーティングシールも用いられる(図示せず)。通常パーティングシールはEPDM等のゴム材料を用いて周知の加工方法である押し出し成型で均一断面形状の長尺品として成型される。但し断面形状の異なるパーティングシールをつなぎ合わせて、複数の断面形状を持ったパーティングシールも用いられる。本実施形態においては均一断面形状のパーティングシールを用いている。パーティングシール30のシール部32にフロントドア後端部3が当接することにより、所望の遮音性・機密性を発揮するようになっている。
【0031】
図5に示す実施形態2のパーティングシール20においては、前述のパーティングシール30における基本構成に加え、シール部22内側に肉厚部23が設けられている。この肉厚部23はフロントドア後端部3がパーティングシール20に当接したとき、パーティングシール20の変形を妨げるように作用する。
【0032】
(実施形態2の作動)
図5(A)はフロントドア1が閉まる直前の状態、
図5(B)は静止状態で完全にドア閉の状態、基準位置を示す。またドアの構造上、フロントドアを閉める際、基準位置でぴったり停止するわけではなく、フロントドア後端3は一旦基準位置よりも車内側に入り込んだ後に、基準位置に戻る挙動をとる。この基準位置よりも車内側に入り込んだ位置を
図5(C)に示す。
【0033】
通常のフロントドア閉動作を行なうと静止したリアドア前端部4に固定されたパーティングシール20に向かってフロントドア後端部3が近接し、基準位置少し手前でフロントドア後端部3がパーティングシール20のシール部22に接触し、その後シール部22を変形させながらフロントドア後端部3はさらにリアドア前端部4に向かって変移する。そして基準位置近傍で、シール部22内部の肉厚部23がその弾性力によってパーティングシール20の変形を妨げるように作用し、フロントドア閉め力が肉厚部23を通じてリアドア前端部4に伝達される。このようにシール部22内部に設けられた肉厚部23がシール部22の変形を妨げるように作用することで、フロントドア閉め力がリアドアに伝達される。この一連の作用によりフロントドア閉め力がパーティングシール20の肉厚部23を通じてリアドアアウターパネル2aに伝達される。
【0034】
(実施形態2の効果)
肉厚部23を設けたパーティングシール20の、ドア閉め音に及ぼす効果を
図7、
図8に示す。実験条件等については実施形態1の場合と同様である。
【0035】
先ず
図7中の破線はリアドア前端部にパーティングシールが無い状態のベースとなる仕様のドア閉め音を、実線はリアドア前端部に通常のパーティングシール30を設けた仕様のドア閉め音を示す。
図7から解るように400Hz以下の低周波域において音が強くなっており、通常のパーティングシール30においてもフロントドア閉め力がパーティングシール30を通じてリアドアに伝わり、低周波域のドア閉め音が増幅されているものと推測される。
【0036】
次に
図8においては、破線は
図7と同様リアドア前端部にパーティングシールが無い状態のベースとなる仕様のドア閉め音を示すが、実線はシール部22内面に肉厚部23を有するパーティングシール20設けた仕様のドア閉め音を示す。
図8から解るように肉厚部23を有するパーティングシール20設けた仕様では400Hz以下の低周波域において音が強くなっており、かつ通常のパーティングシール30を用いた
図7の場合に比べ、低周波域のドア閉め音がより増幅されていることがわかる。これはシール部22内面に肉厚部23の効果によってフロントドア閉め力がより効果的にリアドアに伝わり、低周波域のドア閉め音がより増幅されたためと推定される。これによりパーティングシールのシール部内面に肉厚部を付加することにより、フロントドアのドア閉め力が効果的にリアドアに伝わり、リアドアのアウターパネルが振動し低周波域のドア閉め音を増幅することが確認できた。
【0039】
通常のドア閉動作を行なうと、静止したリアドア前端部4に固定されたパーティングシール10に向かってフロントドア後端部3が近接し、基準位置手前でフロントドア後端部3がパーティングシール10のシール部12に接触し、その後シール部12を変形させながら基準位置を超えて車室内側にわずかに変移する。そのときシール部12の内面に形成された突起部13がシール部12の変形を妨げるように作用することで、フロントドア閉め力がリアドア前端部4に伝わる。この一連の動作によりフロントドア閉め力がパーティングシール10を通じてリアドアアウターパネルに伝達され実施形態2と同様の効果が期待できる。
【0040】
また図示はしていないが取付部11の内側にシール部12に向かって突起部を設けた構成も可能である。この場合も突起部がシール部12の変形を妨げるように作用することで、同様の効果が期待できる。