(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】エマルジョン燃料用の分散剤
(51)【国際特許分類】
C10L 1/32 20060101AFI20230808BHJP
C09K 23/42 20220101ALI20230808BHJP
【FI】
C10L1/32 D
C09K23/42
(21)【出願番号】P 2019151201
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】519279546
【氏名又は名称】株式会社キノスラ・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】安藤 信郎
(72)【発明者】
【氏名】浜井 武志
(72)【発明者】
【氏名】矢野 徹
(72)【発明者】
【氏名】森岡 靖昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 竜太
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180075(JP,A)
【文献】特開2016-121250(JP,A)
【文献】特開平07-076692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/32
C09K 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料油と水との混合物に添加され、前記燃料油と前記水との乳化を促すエマルジョン燃料用の分散剤であって、
アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ金属
の無機塩
ならびにアルカリ土類金属の無機塩を含有する水溶液と、
有機系でありノニオン系の界面活性剤と、を含み、
前記混合物を100重量部としたとき、0.1~50重量部が添加されるエマルジョン燃料用の分散剤。
【請求項2】
前記水溶液に含まれる前記アルカリ金属の水酸化物および前記アルカリ金属
の無機塩
ならびに前記アルカリ土類金属の無機塩は、前記水溶液を構成する水を100重量部としたとき、総和で0.01~10重量部である請求項1記載のエマルジョン燃料用の分散剤。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ラウリルエーテル、またはポリオキシエチレン-オクチルフェニルエーテルであり、オキシエチレン基の繰り返し数をnとしたとき、n=2~14の界面活性剤である請求項1または2記載のエマルジョン燃料用の分散剤。
【請求項4】
前記界面活性剤の凝固を妨げ、前記水溶液と前記界面活性剤との親和性を高めるために添加される親和性向上剤をさらに含む請求項1から3のいずれか一項記載のエマルジョン燃料用の分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン燃料用の分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
重油のような粘度の低い油は、流動性が低いために燃料としての利用が困難である。そこで、流動化を促すために、水と油とを混合し、流動性を高めたエマルジョン燃料が公知である。一方、当然のことながら油と水とは混じり合わず、すぐに分離してしまうという性質を有している。そのため、燃料として用いるためには、油と水とを乳化させることが必須となる。
【0003】
従来、油と水とを乳化させる手段として、主に有機系の分散剤による乳化(例えば特許文献1など)、無機系の分散剤による乳化(例えば特許文献2)、および物理的な撹拌による乳化などが提案されている。有機系の分散剤は、例えば長鎖の炭化水素基の硫酸塩など、乳化剤として広く用いられている。また、無機系の分散剤は、アルカリ金属塩などが用いられている。物理的な撹拌による乳化は、ミキサーによる機械的な撹拌、あるいは超音波を用いた撹拌などが用いられている。
【0004】
しかしながら、有機系の分散剤は、高価であることから、大量の水と油との乳化には適していないという問題がある。また、無機系の分散剤は、安価ではあるものの、乳化した水と油との安定性が低く、短期間で分離するという問題がある。さらに、物理的な撹拌は、大量の水と油との処理には大型の機器が必要になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-180075号公報
【文献】特表2007-520573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、特別な機器を必要とせず、価格の上昇を招くことなく、安定性が高いエマルジョン燃料用の分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、一実施形態のエマルジョン燃料用の分散剤は、燃料油と水との混合物に添加され、前記燃料油と前記水との乳化を促すエマルジョン燃料用の分散剤である。この分散剤は、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ金属の無機塩ならびにアルカリ土類金属の無機塩を含有する水溶液と、有機系でありノニオン系の界面活性剤と、を含む。そして、分散剤は、前記混合物を100重量部としたとき、0.1~50重量部が添加される。
【0008】
このように一実施形態の分散剤は、無機系のアルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属の無機塩ならびにアルカリ土類金属の無機塩を含有する水溶液と、有機系でありノニオン系の界面活性剤とを含んでいる。このように、無機系および有機系の界面活性剤を含む一実施形態の分散剤は、双方の相互作用によって、高い乳化安定性を示す。また、一実施形態の分散剤は、無機系および有機系の界面活性剤を含むことから、物理的な乳化のための特別な機器を必要とせず、価格の低減を図ることができる。
【0009】
また、一実施形態による分散剤は、有機系の界面活性剤の凝固を妨げ、無機系の水溶液と界面活性剤との親和性を高めるために添加される親和性向上剤をさらに含んでもよい。
この親和性向上剤は、室温付近に融点がある有機系の界面活性剤の凝固を妨げる。これにより、親和性向上剤を添加することにより、有機系の界面活性剤と無機系の水溶液との分離が回避される。したがって、有機系の界面活性剤と無機系の水溶液との均一な混合を促進し、エマルジョンの乳化安定性のさらなる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】一実施形態による分散剤を用いた実施例および比較例による検証結果を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、エマルジョン燃料用の分散剤の実施形態について詳細に説明する。
(分散剤)
一実施形態によるエマルジョン燃料用の分散剤は、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ金属塩を含有する水溶液(以下、「アルカリ水溶液」という。)、および有機系の界面活性剤を含んでいる。アルカリ水溶液は、溶媒となる水100重量部に、総和で0.01~10重量部の溶質であるアルカリ金属の水酸化物およびアルカリ金属塩が溶解している。溶媒となる水は、例えばイオン交換水など精製水が用いられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムであることが好ましい。また、アルカリ金属塩としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムから選択される一種以上を用いることが好ましい。
【0012】
界面活性剤は、ノニオン系の界面活性剤を用いることが好ましい。ノニオン系の界面活性剤としては、鎖状のオキシエチレン基を有する界面活性剤であることがより好ましい。特に、界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ラウリルエーテルまたはポリオキシエチレン-オクチルフェニルエーテルであることがより好ましい。この場合、界面活性剤は、オキシエチレン基の繰り返し数をnとしたとき、n=2~14であることがより好ましい。このような界面活性剤として設定することにより、オキシエチレン基の親水性を適度に確保することができる。
【0013】
界面活性剤の添加量は、アルカリ水溶液に用いる水を100重量部として、0.1~100重量部に設定することが好ましい。界面活性剤の添加量が水100重量部に対して0.1重量部以下であると、エマルジョン燃料における水と油との十分な乳化効果が得られない。一方、界面活性剤の添加量が水100重量部に対して100重量部以上になると、エマルジョン燃料がゲル化して流動性が低下する。以上のことから、界面活性剤の添加量は、アルカリ水溶液に用いる水100重量部に対して、0.1~100重量部に設定することが好ましい。
【0014】
分散剤は、親和性向上剤を添加してもよい。親和性向上剤は、有機系の界面活性剤の凝固を妨げ、無機系のアルカリ水溶液と界面活性剤との親和性を向上する。有機系の界面活性剤は、融点が室温付近にある。そのため、界面活性剤は、室温付近で凝固を招きやすく、アルカリ水溶液と混合したときに分散性が低下したり、分離したりする。そこで、親和性向上剤を添加することにより、界面活性剤は、室温付近でも親和性向上剤に溶融し、分散性の低下およびアルカリ水溶液との分離が回避される。親和性向上剤は、分散剤による乳化機能を損なうことなく、界面活性剤の溶解性を高める。親和性向上剤は、例えばアルコール類あるいはケトン類などのように、水および油の双方に可溶性を有し、界面活性剤を溶解可能な物質である。一実施形態では、親和性向上剤として、イソプロピルアルコールを用いている。このように、親和性向上剤は、室温付近においても、有機系の界面活性剤と無機系のアルカリ水溶液との均一な混合を促進する。
【0015】
(分散剤の調製)
次に、一実施形態による分散剤の調製例について説明する。分散剤は、
図1に示すように「分散剤1」~「分散剤6」をそれぞれ調製した。「分散剤1」~「分散剤6」は、いずれも水であるイオン交換水、および親和性向上剤としてイソプロピルアルコールを含有している。「分散剤1」、「分散剤2」、「分散剤5」および「分散剤6」は、いずれもアルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウム、ならびにアルカリ金属塩として塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物および塩化ナトリウムを含有している。「分散剤3」および「分散剤4」は、アルカリ金属塩の水酸化物およびアルカリ金属塩を含有していない。
【0016】
「分散剤1」および「分散剤3」は、ノニオン系の界面活性剤として、ポリオキシエチレン-ラウリルエーテルを含有している。ここでは、日油株式会社製のノニオンK-204を用いている。「分散剤2」および「分散剤4」は、ノニオン系の界面活性剤として、ポリオキシエチレン-オクチルフェニルエーテルを含有している。「分散剤5」は、アニオン系の界面活性剤として、2-エチルヘキシル-硫酸エステルナトリウム塩を含有している。「分散剤6」は、カチオン系の界面活性剤として、テトラデシルアミン酢酸塩を含有している。
【0017】
これらの「分散剤1」~「分散剤6」は、水であるイオン交換水に所定量のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属塩、および親和性向上剤に溶解した界面活性剤を加え、攪拌機を用いて混合した。撹拌の条件は、38℃、200rpmで15分間に設定した。
【0018】
(実施例)
次に、調製した「分散剤1」~「分散剤6」を用いて水と油の乳化力について検証した。
「実施例1」は「分散剤1」を用いた。また、「実施例2」は「分散剤2」を用いた。さらに、「比較例1」~「比較例4」は、それぞれ「分散剤3」~「分散剤6」を用いた。乳化力の検証は、A重油とイオン交換水を70:30とした試料を用いた。この試料を100重量部に対し、それぞれ5重量部の「分散剤1」~「分散剤6」を添加して乳化力を検証した。分散剤が添加された試料は、ホモジナイザを用いて30秒間高速撹拌した後、72時間放置し、水と油との分離状況について確認した。
図2において、「◎」は水と油とが極めて均一に分散している状態を示す。また、「○」は水と油とがほぼ均一に分散した状態を示し、「△」は水と油とが一部分離した状態を示し、「×」は水と油とが完全に分離した状態を示す。
【0019】
図2から明らかなように、「分散剤1」を用いた「実施例1」および「分散剤2」を用いた「実施例2」は、いずれも72時間が経過した後においても、高い均一性を維持していた。つまり、単にノニオン系の界面活性剤を添加したに過ぎない「比較例1」および「比較例2」との対比において、アルカリ水溶液にノニオン系の界面活性剤を添加した「分散剤1」および「分散剤2」は高い乳化力および乳化安定性を有していることがわかる。また、「実施例1」および「実施例2」と「比較例3」および「比較例4」との対比において、アルカリ水溶液を添加する場合でも、ノニオン系の界面活性剤を用いる「分散剤1」および「分散剤2」はアニオン系またはカチオン系の界面活性剤の用いる場合よりも乳化力および乳化安定性が優れていることが分かる。
【0020】
以上説明したように、無機系のアルカリ水溶液と、有機系のアニオン系の界面活性剤とを含む一実施形態による分散剤は、双方の相互作用によって、高い乳化安定性を示す。また、一実施形態の分散剤は、物理的な乳化のための特別な機器を必要とせず、価格の低減を図ることができる。
さらに、一実施形態による分散剤は、親和性向上剤としてイソプロピルアルコールを含んでいる。このイソプロピルアルコールは、室温付近に融点がある有機系の界面活性剤の凝固を妨げる。したがって、有機系の界面活性剤と無機系の水溶液との均一な混合を促進し、エマルジョンの乳化安定性のさらなる向上を図ることができる。
【0021】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
上記の実施形態では、分散剤を水と油との混合燃料の乳化剤として用いる例について説明した。しかし、一実施形態による分散剤は、混合燃料の乳化に限らず、例えば水面に浮遊する油の処理などのように油などの処理にも適用することができる。