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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】筒状焼結部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/10 20060101AFI20230808BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B22F5/10
B22F3/24 101Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019234826
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102803
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】高田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】魚住 真人
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162105(JP,A)
【文献】特開2015-206062(JP,A)
【文献】特開2017-187173(JP,A)
【文献】特開昭53-026208(JP,A)
【文献】特開2019-073759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 5/10
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の焼結部材を準備する工程と、
前記焼結部材をサイジングする工程とを備え、
前記焼結部材は、内周面と、外周面と、前記内周面と前記外周面とをつなぐ第一端面及び第二端面とを備え、
前記準備する工程
粉末を加圧成形して筒状の粉末成形体を作製する工程と、
前記粉末成形体を焼結して、前記内周面及び前記外周面の少なくとも一方に、前記第一端面側から前記第二端面側に向かって漸次的に径方向内側となる傾斜面を有する前記焼結部材を作製する工程とを備え、
前記粉末成形体を作製する工程では、前記粉末成形体の内周面及び外周面の少なくとも一方に、前記焼結部材における前記傾斜面となる面を構成し、
前記サイジングする工程では、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間に前記第一端面が前記下パンチに向き合うように前記焼結部材を収納し、前記第二端面を上パンチで加圧する、
筒状焼結部材の製造方法。
【請求項2】
前記焼結部材を作製する工程では、複数の前記粉末成形体を積み重ねて焼結する請求項に記載の筒状焼結部材の製造方法。
【請求項3】
前記焼結部材は、内接歯車ポンプ用ロータを構成するインナーロータ又はアウターロータである請求項1又は請求項2に記載の筒状焼結部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筒状焼結部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内接歯車ポンプ用ロータの製造方法を開示する。内接歯車ポンプ用ロータは、インナーロータとアウターロータとを組み合わせて構成される。インナーロータ及びアウターロータは、互いに円滑に噛み合うために、高い寸法精度が求められる。そのため、インナーロータ及びアウターロータは、所定の形状の焼結部材にサイジングが施されて構成される。
【0003】
サイジングは、ダイと、上下のパンチと、コアロッドとを備える金型を用いて行われる。サイジングは、一般的に、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間に筒状の焼結部材を収納し、上パンチで焼結部材を加圧することで、寸法精度を高める。上パンチによる加圧の場合、焼結部材における上パンチ側の領域と下パンチ側の領域とで付与される応力に差が生じ得る。この差によって、金型から抜き出した後の焼結部材のスプリングバック量にも差が生じ得る。よって、金型から抜き出した後の焼結部材には、下パンチ側の領域から上パンチ側の領域に向かって径方向外側に広がるような外周面が構成され得る。つまり、サイジング後の焼結部材は、特許文献1の図6に示すように、端面に対する側面の直角度が悪化し易い。
【0004】
そこで、特許文献1は、同一の焼結部材に対して2回サイジングすることを開示する。1回目のサイジングと2回目のサイジングとで、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間へ焼結部材を収納する向きを反転させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-162105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示する技術は、焼結部材の端面に対する側面の直角度を向上できるが、サイジングの作業が煩雑であり、生産性に劣る。
【0007】
そこで、本開示は、焼結部材の端面に対する側面の直角度に関し、効率的に高精度な直角度が得られる筒状焼結部材の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の筒状焼結部材の製造方法は、
筒状の焼結部材を準備する工程と、
前記焼結部材をサイジングする工程とを備え、
前記焼結部材は、内周面と、外周面と、前記内周面と前記外周面とをつなぐ第一端面及び第二端面とを備え、
前記準備する工程では、前記内周面及び前記外周面の少なくとも一方に、前記第一端面側から前記第二端面側に向かって漸次的に径方向内側となる傾斜面を有する前記焼結部材を準備し、
前記サイジングする工程では、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間に前記第一端面が前記下パンチに向き合うように前記焼結部材を収納し、前記第二端面を上パンチで加圧する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の筒状焼結部材の製造方法は、焼結部材の端面に対する側面の直角度に関し、効率的に高精度な直角度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法におけるサイジング工程を説明する説明図である。
図2図2は、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法におけるサイジング工程によって得られる筒状焼結部材の直角度に関する説明図である。
図3図3は、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法における成形工程を説明する説明図である。
図4図4は、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法における焼結工程を説明する説明図である。
図5図5は、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法における焼結工程の別の形態を説明する説明図である。
図6図6は、実施形態2の筒状焼結部材の製造方法における成形工程を説明する説明図である。
図7図7は、一般的な内接歯車ポンプ用ロータを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る筒状焼結部材の製造方法は、
筒状の焼結部材を準備する工程と、
前記焼結部材をサイジングする工程とを備え、
前記焼結部材は、内周面と、外周面と、前記内周面と前記外周面とをつなぐ第一端面及び第二端面とを備え、
前記準備する工程では、前記内周面及び前記外周面の少なくとも一方に、前記第一端面側から前記第二端面側に向かって漸次的に径方向内側となる傾斜面を有する前記焼結部材を準備し、
前記サイジングする工程では、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間に前記第一端面が前記下パンチに向き合うように前記焼結部材を収納し、前記第二端面を上パンチで加圧する。
【0013】
サイジングは、上述したように、ダイと下パンチとコアロッドとで構成される空間に焼結部材を収納し、上パンチで焼結部材を加圧する。本開示の筒状焼結部材の製造方法は、内周面及び外周面の少なくとも一方に傾斜面を有する焼結部材を準備し、この焼結部材を上記空間に特定の向きで収納して、サイジングを行う。具体的には、焼結部材における傾斜面の径方向外側に広がる側に位置する第一端面が下パンチに向き合うように焼結部材を上記空間に収納する。この向きで焼結部材を上記空間に収納すると、焼結部材における傾斜面の径方向内側に狭まる側に位置する第二端面が上パンチで加圧されることになる。
【0014】
焼結部材における上パンチで加圧される第二端面側の領域は、下パンチに向き合う第一端面側の領域に比較して、サイジングによって付与される応力が大きく、金型から抜き出した後に径方向外側に広がるスプリングバック量が大きくなる。つまり、サイジング後の焼結部材は、端面に対する側面の直角度が悪化し易い。本開示の筒状焼結部材の製造方法では、第一端面側から第二端面側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面を有する焼結部材に対してサイジングしている。そのため、焼結部材における第二端面側の領域がスプリングバックによって径方向外側に広がったとしても、傾斜面の傾斜角度が緩和されることになり、サイジング後の上記直角度の悪化を抑制できる。本開示の筒状焼結部材の製造方法は、傾斜面を有する焼結部材を準備し、この焼結部材を上記空間に特定の向きで収納してサイジングするだけで、サイジング後の上記直角度の悪化を抑制できる。つまり、本開示の筒状焼結部材の製造方法は、1回のサイジングで効率的に高精度な上記直角度を有する筒状の焼結部材が得られる。
【0015】
(2)本開示の筒状焼結部材の製造方法の一例として、
前記準備する工程は、
粉末を加圧成形して筒状の粉末成形体を作製する工程と、
前記粉末成形体を焼結して前記焼結部材を作製する工程とを備え、
前記粉末成形体を作製する工程では、前記粉末成形体の内周面及び外周面の少なくとも一方に、前記焼結部材における前記傾斜面となる面を構成する形態が挙げられる。
【0016】
加圧成形は、焼結部材における傾斜面となる面を有する粉末成形体を容易に作製できる。この粉末成形体を焼結することで、上記傾斜面を有する焼結部材を容易に準備できる。
【0017】
(3)本開示の筒状焼結部材の製造方法の一例として、
前記焼結部材を作製する工程では、複数の前記粉末成形体を積み重ねて焼結する形態が挙げられる。
【0018】
上記形態は、複数の粉末成形体を同時に焼結できるため、生産性に優れる。焼結して得られる焼結部材は、焼結時の焼き締まりによって、粉末成形体に対して寸法が変化し得る。複数の粉末成形体を積み重ねて焼結すると、焼結部材の寸法変化にばらつきが生じ得る。例えば、三つの粉末成形体を積み重ねて焼結すると、上段に位置する焼結部材と、中段に位置する焼結部材と、下段に位置する焼結部材とで、焼き締まる領域や量が異なり、寸法変化にばらつきが生じ得る。本開示の筒状焼結部材の製造方法は、上述したように、粉末成形体に傾斜面を構成している。よって、焼結時に寸法変化にばらつきが生じたとしても、得られる焼結部材において、第二端面側の領域が径方向外方に広がることを抑制し易い。つまり、段積みした場合であっても、第一端面側から第二端面側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面を有する焼結部材を得ることができる。
【0019】
(4)本開示の筒状焼結部材の製造方法の一例として、
前記焼結部材は、内接歯車ポンプ用ロータを構成するインナーロータ又はアウターロータである形態が挙げられる。
【0020】
内接歯車ポンプ用ロータは、インナーロータとアウターロータとを組み合わせて構成される。インナーロータ及びアウターロータは、互いに円滑に噛み合うために、高い寸法精度が求められる。具体的には、端面に対する側面の直角度に関し、高精度な直角度が求められる。本開示の筒状焼結部材の製造方法は、サイジング後の上記直角度の悪化を抑制できるため、高精度な直角度が求められるインナーロータやアウターロータを得るのに好適である。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。図面における各部の寸法比も実際と異なる場合がある。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
<実施形態1>
図1から図4を参照して、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法を説明する。筒状焼結部材の製造方法は、準備工程とサイジング工程とを備える。準備工程では、筒状の焼結部材を準備する。サイジング工程では、準備した焼結部材をサイジングする。
【0023】
≪準備工程≫
準備工程では、筒状の焼結部材を準備する。焼結部材は、内周面と、外周面と、内周面と外周面とをつなぐ第一端面及び第二端面とを備える。準備工程では、内周面及び外周面の少なくとも一方に、第一端面側から第二端面側に向かって漸次的に径方向内側となる傾斜面を有する焼結部材を準備する。本例では、外周面に傾斜面を有する焼結部材を準備する。準備工程は、成形工程と焼結工程とを備える。筒状の焼結部材は、成形工程と焼結工程とによって得られる。
【0024】
〈成形工程〉
成形工程では、図3に示すように、成形金型7を用いて、原料粉末4を加圧成形して筒状の粉末成形体3(図4)を作製する。
【0025】
〔成形金型〕
成形金型7は、ダイ71と、下パンチ72と、上パンチ73と、コアロッド74とを備える。下パンチ72及び上パンチ73は、ダイ71に下側及び上側から嵌め込まれる。コアロッド74は、ダイ71の中心に挿入される。本例では、ダイ71は円筒状で、コアロッド74は円柱状である。ダイ71、下パンチ72、及びコアロッド74が組み合わされることで、ダイ71の内周面、下パンチ72の上面、及びコアロッド74の外周面によって、円筒状の空間70が構成される。この空間70には、原料粉末4が充填される。空間70の形状及び寸法は、製造する粉末成形体3(図4)の形状及び寸法に合わせて適宜設定できる。
【0026】
ダイ71の内周面は、傾斜面710とストレート面711、712とで構成される。ストレート面711、712は、下パンチ72及び上パンチ73が嵌め込まれる領域に設けられている。ストレート面711は下パンチ72の外周面と擦れ合う面であり、ストレート面712は上パンチ73の外周面と擦れ合う面である。ダイ71にストレート面711、712を備えることで、傾斜面710に下パンチ72又は上パンチ73が干渉することを抑制でき、下パンチ72及び上パンチ73による圧縮代を良好に確保できる。また、ダイ71にストレート面711、712を備えることで、ダイ71と下パンチ72との間、及びダイ71と上パンチ73との間に原料粉末4が噛み込むことを防止できたり、得られる粉末成形体3(図4)にバリが形成されることを防止できたりする。下パンチ72側に位置するストレート面711は、上パンチ73側に位置するストレート面712よりも径方向内側に位置する。
【0027】
傾斜面710は、ストレート面711、712をつなぐように設けられている。つまり、傾斜面710は、上パンチ73側から下パンチ72側に向かって漸次的に径方向内側となるように傾斜している。傾斜面710における軸方向の長さは、各ストレート面711、712における軸方向の長さの3倍以上、更に5倍以上であることが挙げられる。傾斜面710における傾斜角度については、後述するサイジング工程にて詳述する。
【0028】
なお、ここで言う「傾斜」及び「ストレート」は、対象物、例えばダイ71の軸方向に平行な平面で切断した断面で示される輪郭線であり、三次元的な面の形状を示すものではない。つまり、傾斜面は、円錐台状の周面のことであり、平坦な傾斜面ではない。また、ストレート面は、円筒状の面のことであり、平坦な垂直面ではない。円錐台状や円筒状は、その軸方向と直交する平面で切断した断面形状が真円形状以外に、楕円形状等も含む。また、円錐台状や円筒状は、周面に複数の歯部を有する形状も含む。
【0029】
本例では、コアロッド74の外周面は、軸方向の全長にわたってストレート面で構成されている。また、下パンチ72の上面、及び上パンチ73の下面は、全面にわたって平坦な面で構成されている。
【0030】
〔加圧成形〕
上記空間70に原料粉末4を充填し、原料粉末4を上パンチ73と下パンチ72とで上下方向から圧縮することで、粉末成形体3(図4)を成形する。成形圧力は、例えば400MPa以上800MPa以下とすることが挙げられる。粉末成形体3の成形後、上パンチ73を上昇させると共に、ダイ71及びコアロッド74を下パンチ72に対して相対的に下降させることで、成形金型7から粉末成形体3を抜き出す。
【0031】
成形金型7で加圧成形して得られた粉末成形体3(図4)は、円筒状の形状を有する。図4は、三つの粉末成形体3が積み重ねられた状態を示す。図4に示す各粉末成形体3は、図3に示す空間70内の原料粉末4の成形体と上下が逆向きである。
【0032】
粉末成形体3は、図4に示すように、内周面33と、外周面34と、内周面33と外周面34とをつなぐ第一端面31及び第二端面32とを備える。そして、外周面34は、傾斜面35とストレート面36、37とで構成される。ストレート面36は第二端面32側に位置し、ストレート面37は第一端面31側に位置する。第二端面32側に位置するストレート面36は、第一端面31側に位置するストレート面37よりも径方向内側に位置する。傾斜面35は、ストレート面36、37をつなぐように設けられている。つまり、傾斜面35は、第一端面31側から第二端面32側に向かって漸次的に径方向内側となるように傾斜している。粉末成形体3における傾斜面35及びストレート面36、37はそれぞれ、成形金型7の傾斜面710及びストレート面711、712に対応している。
【0033】
〈焼結工程〉
焼結工程では、図4に示すように、成形工程で得られた粉末成形体3を焼結して焼結部材2(図1)を作製する。
【0034】
焼結は、粉末成形体3を載置台8上に載置して行う。載置台8は、耐火網や耐火板で構成される。焼結は、複数の粉末成形体3を積み重ねて行うことができる。複数の粉末成形体3を積み重ねることで、複数の粉末成形体3を同時に焼結できるため、生産性に優れる。本例では、三つの粉末成形体3を積み重ねている。
【0035】
nを2以上の整数とし、n個の粉末成形体3を積み重ねて焼結する場合、最上段となるn段目の粉末成形体3は、第二端面32が上方となるように積み重ねることが好ましい。最下段の1段目から(n-1)段目までの粉末成形体3は、上下方向の向きを問わない。本例では、全ての粉末成形体3の上下方向の向きが同じである。
【0036】
焼結して得られる焼結部材2は、焼結時の焼き締まりによって、粉末成形体3に対して寸法が変化し得る。複数の粉末成形体3を積み重ねて焼結すると、焼結部材2の寸法変化にばらつきが生じ得る。例えば、最上段となるn段目の焼結部材2は、下方側の領域に比較して上方側の領域で寸法が小さくなり易い。最上段となるn段目の粉末成形体3では、下方側の領域は、その下の(n-1)段目の粉末成形体3との接触抵抗によって寸法変化が生じ難く、上方側の領域は、自由であるため寸法変化が生じ易いからである。最下段の1段目から(n-1)段目までの粉末成形体3は、上方側の領域及び下方側の領域ともに隣り合う粉末成形体3又は載置台8に接するため、最上段となるn段目の粉末成形体3とは異なる寸法変化をし得る。
【0037】
各粉末成形体3は、上述したように、傾斜面35を備える。よって、焼結時に寸法変化にばらつきが生じたとしても、得られる焼結部材2において、第二端面22側の領域が径方向外方に広がることを抑制し易い。つまり、段積みした場合であっても、第一端面21側から第二端面22側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面25を有する焼結部材2(図1)を得ることができる。
【0038】
複数の粉末成形体3を積み重ねるにあたり、図5に示すように、上下に隣り合う各粉末成形体3の上下方向の向きを交互に変えてもよい。この場合、上下に隣り合う各粉末成形体3は、第一端面31同士又は第二端面32同士が当接することになる。
【0039】
焼結して得られた焼結部材2(図1)は、円筒状の形状を有する。焼結部材2は、図1に示すように、内周面23と、外周面24と、内周面23と外周面24とをつなぐ第一端面21及び第二端面22とを備える。そして、外周面24は、傾斜面25とストレート面26、27とで構成される。ストレート面26は第二端面22側に位置し、ストレート面27は第一端面21側に位置する。第二端面22側に位置するストレート面26は、第一端面21側に位置するストレート面27よりも径方向内側に位置する。傾斜面25は、ストレート面26、27をつなぐように設けられている。つまり、傾斜面25は、第一端面21側から第二端面22側に向かって漸次的に径方向内側となるように傾斜している。焼結部材2における傾斜面25及びストレート面26、27はそれぞれ、粉末成形体3(図4)の傾斜面35及びストレート面36、37に対応している。
【0040】
≪サイジング工程≫
サイジング工程では、図1に示すように、サイジング金型6を用いて、焼結工程で得られた焼結部材2をサイジングする。
【0041】
〔サイジング金型〕
サイジング金型6は、ダイ61と、下パンチ62と、上パンチ63と、コアロッド64とを備える。下パンチ62及び上パンチ63は、ダイ61に下側及び上側から嵌め込まれる。コアロッド64は、ダイ61の中心に挿入される。本例では、ダイ61は円筒状で、コアロッド64は円柱状である。ダイ61、下パンチ62、及びコアロッド64が組み合わされることで、ダイ61の内周面、下パンチ62の上面、及びコアロッド64の外周面によって、円筒状の空間60が構成される。この空間60には、焼結部材2が収納される。空間60の形状及び寸法は、サイジングによって寸法矯正する焼結部材1(図2)の形状及び寸法に合わせて適宜設定できる。
【0042】
本例では、ダイ61の内周面、及びコアロッド64の外周面は、軸方向の全長にわたってストレート面で構成されている。また、下パンチ62の上面、及び上パンチ63の下面は、全面にわたって平坦な面で構成されている。
【0043】
サイジング金型6は、一般的に、下パンチ62を固定した状態で、上パンチ63で下方向に加圧することで、対象物、本例では焼結部材2の寸法矯正を行う。
【0044】
〔サイジング〕
まず、焼結部材2を上記空間60に収納する。このとき、焼結部材2の第一端面21が下パンチ62に向き合うように焼結部材2を上記空間60に収納する。そうすると、焼結部材2の第二端面22を上パンチ63で加圧することになる。加圧する圧力は、例えば500MPa以上1100MPa以下とすることが挙げられる。加圧後、上パンチ63を上昇させると共に、ダイ61及びコアロッド64を下パンチ62に対して相対的に下降させることで、サイジング金型6から焼結部材を抜き出す。
【0045】
下パンチ62を固定して上パンチ63で焼結部材2を加圧すると、上パンチ63で加圧される第二端面22側の領域は、下パンチ62に向き合う第一端面21側の領域に比較して、サイジングによって付与される応力が大きくなる。よって、焼結部材2をサイジング金型6から抜き出すと、焼結部材2における第二端面22側の領域において、径方向外側に広がるスプリングバック量が第一端面21側の領域と比較して大きくなる。サイジングする焼結部材2は、傾斜面25を備える。そのため、焼結部材2における第二端面22側の領域がスプリングバックによって径方向外側に広がると、この広がりは、傾斜面25の傾斜角度を緩和することになる。
【0046】
サイジングして得られた焼結部材1(図2)は、円筒状の形状を有する。焼結部材1は、図2に示すように、内周面13と、外周面14と、内周面13と外周面14とをつなぐ第一端面11及び第二端面12とを備える。図2に示す焼結部材1は、説明の便宜上、第二端面12の外径を第一端面11の外径よりも大きく図示している。実際は、第一端面11の外径と第二端面12の外径との径差は、図2に示す径差よりも十分に小さい。また、実際は、第一端面11と外周面14とで構成される角部と、第二端面12と外周面14とで構成される角部との角度差は、図2に示す角度差よりも十分に小さい。
【0047】
サイジングして得られた焼結部材1における外周面14は、第一端面11又は第二端面12に対して小さい直角度を有する。直角度は、第一端面11又は第二端面12を基準として、焼結部材1の長手方向と直交する方向への変位量δで求められる。直角度は、10μm以下、更に8μm以下、特に5μm以下、0μmであることが挙げられる。
【0048】
上述した粉末成形体3に付与する傾斜面35の傾斜角度、すなわち成形金型7におけるダイ71の傾斜面710の傾斜角度は、サイジング後のスプリングバック量を考慮して、サイジング後の直角度が10μm以下、更に8μm以下、特に5μm以下、好ましくは0μmとなるように設定すればよい。
【0049】
≪効果≫
実施形態1の筒状焼結部材の製造方法は、図1に示すように、焼結部材2にサイジングを行うにあたり、外周面24に傾斜面25を備える焼結部材2を用いている。また、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法は、図1に示すように、傾斜面25の径方向内側に狭まる側に位置する第二端面22を上パンチ63で加圧する。第二端面22を上パンチ63で加圧すると、焼結部材2をサイジング金型6から抜き出した際、第二端面22側の領域は、第一端面21側の領域に比較して、径方向外側に広がるスプリングバック量が大きくなる。第二端面22側の領域は、第一端面21側の領域よりも径方向内側に位置するため、スプリングバックによって径方向外側に広がったとしても、傾斜面25の傾斜角度が緩和されることになり、焼結部材1(図2)の直角度の悪化を抑制できる。
【0050】
実施形態1の筒状焼結部材の製造方法は、傾斜面25を有する焼結部材2を準備し、この焼結部材2をサイジング金型6の空間60に特定の向きで収納してサイジングするだけで、上記直角度の悪化を抑制できる。つまり、実施形態1の筒状焼結部材の製造方法は、1回のサイジングで効率的に高精度な上記直角度を有する筒状の焼結部材2(図2)が得られる。
【0051】
<実施形態2>
図6を参照して、実施形態2の筒状焼結部材の製造方法を説明する。実施形態2では、準備工程において、内周面及び外周面の双方に傾斜面を有する焼結部材を準備する。内周面及び外周面の双方に傾斜面を有する焼結部材は、図6に示す成形金型7を用いて粉末成形体を作製し、この粉末成形体を焼結することで得られる。以下の説明では、上述した実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0052】
〔成形金型〕
成形金型7は、ダイ71と、下パンチ72と、上パンチ73と、コアロッド74、75とを備える。ダイ71、下パンチ72、及び上パンチ73の基本的な構成は、実施形態1と同様である。コアロッド74は、ダイ71に下方向から嵌め込まれ、ダイ71とで凹部を構成する。コアロッド75は、ダイ71に上方向から嵌め込まれ、下端部が上記凹部に嵌め込まれる。コアロッド75は、その一端部が先端側に向かって先細るテーパー状の円柱状体である。この成形金型7では、ダイ71、下パンチ72、及びコアロッド74、75が組み合わされることで、ダイ71の内周面、下パンチ72の上面、及びコアロッド75の外周面によって、円筒状の空間が構成される。この空間には、原料粉末4が充填される。
【0053】
ダイ71の内周面は、実施形態1と同様に、傾斜面710とストレート面711、712とで構成される。
【0054】
コアロッド75の外周面は、傾斜面750とストレート面751、752とで構成される。ストレート面751、752は、下パンチ72及び上パンチ73が嵌め込まれる領域に設けられている。ストレート面751は下パンチ72の外周面と擦れ合う面であり、ストレート面752は上パンチ73の外周面と擦れ合う面である。下パンチ72側に位置するストレート面751は、上パンチ73側に位置するストレート面752よりも径方向内側に位置する。傾斜面750は、ストレート面751、752をつなぐように設けられている。つまり、傾斜面750は、上パンチ73側から下パンチ72側に向かって漸次的に径方向内側となるように傾斜している。本例では、コアロッド75における傾斜面750の傾斜角度と、ダイ71における傾斜面710の傾斜角度とは、同じである。コアロッド75における傾斜面750の傾斜角度と、ダイ71における傾斜面710の傾斜角度とは、異なっていてもよい。また、コアロッド75における傾斜面750及びストレート面751、752における軸方向の長さは、ダイ71における傾斜面710及びストレート面711、712における軸方向の長さと実質的に同じである。
【0055】
下パンチ72の上面、及び上パンチ73の下面は、全面にわたって平坦な面で構成されている。
【0056】
〔加圧成形〕
上記空間に原料粉末4を充填し、原料粉末4を上パンチ73と下パンチ72とで上下方向から圧縮することで、粉末成形体を成形する。成形金型7で加圧成形して得られた粉末成形体は、円筒状で構成され、内周面と、外周面と、内周面と外周面とをつなぐ第一端面及び第二端面とを備える。そして、内周面及び外周面のそれぞれは、傾斜面とストレート面とで構成される。粉末成形体における外周面の傾斜面及びストレート面はそれぞれ、成形金型7におけるダイ71の傾斜面710及びストレート面711、712に対応している。また、粉末成形体における内周面の傾斜面及びストレート面はそれぞれ、成形金型7におけるコアロッド75の傾斜面750及びストレート面751、752に対応している。
【0057】
上記粉末成形体を焼結して得られた焼結部材は、粉末成形体と同様に、内周面及び外周面のそれぞれに傾斜面とストレート面とを備える。
【0058】
実施形態2の筒状焼結部材の製造方法のように、内周面及び外周面の双方に傾斜面を有する焼結部材に対してサイジングする場合も、実施形態1と同様に、傾斜面の径方向内側に狭まる側に位置する第二端面を上パンチで加圧する。第二端面を上パンチで加圧することで、焼結部材をサイジング金型から抜き出した際のスプリングバックによって傾斜面の傾斜角度が緩和され、第一端面又は第二端面に対する外周面の直角度の悪化を抑制できる。
【0059】
実施形態1及び実施形態2で説明した筒状焼結部材の製造方法は、内接歯車ポンプ用ロータ9(図7)を構成するインナーロータ91又はアウターロータ92を得るのに好適である。
【0060】
内接歯車ポンプ用ロータ9は、図7に示すように、インナーロータ91とアウターロータ92とを備える。インナーロータ91とアウターロータ92とは、偏心して配置される。インナーロータ91及びアウターロータ92は、鉄系材料からなる焼結部材で構成される。インナーロータ91は、外周に複数の外歯を備える。アウターロータ92は、内周に複数の内歯を備える。内歯の歯数は、外歯の歯数よりも1つ多く設けられている。そのため、インナーロータ91とアウターロータ92とを組み合わせると、外歯と内歯の各歯先によって密閉された空間90が作られる。
【0061】
インナーロータ91の中心には、シャフト孔91hが設けられている。このシャフト孔91hには軸(図示せず)が挿入され、この軸によってインナーロータ91は回転駆動する。この回転駆動によって、アウターロータ92は、内歯が回転する外歯に噛み合うことで回転力を受け、インナーロータ91に従動して同じ方向に回転する。
【0062】
インナーロータ91及びアウターロータ92は、互いに円滑に噛み合うために、高い寸法精度が求められる。具体的には、端面に対する側面の直角度に関し、高精度な直角度が求められる。よって、実施形態1及び実施形態2で説明した筒状焼結部材の製造方法によれば、高精度な直角度を有するインナーロータ91又はアウターロータ92を得ることができる。特に、インナーロータ91は、外周面側でアウターロータ92と噛み合うため、サイジング後のスプリングバックによる外周面側の直角度の悪化が問題となる。よって、実施形態1及び実施形態2で説明した筒状焼結部材の製造方法によって、高精度な直角度を有するインナーロータ91を効率的に得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 焼結部材
11 第一端面、12 第二端面、13 内周面、14 外周面
δ 変位量
2 焼結部材
21 第一端面、22 第二端面、23 内周面、24 外周面
25 傾斜面、26、27 ストレート面
3 粉末成形体
31 第一端面、32 第二端面、33 内周面、34 外周面
35 傾斜面、36、37 ストレート面
4 原料粉末
6 サイジング金型
60 空間
61 ダイ、 62 下パンチ、63 上パンチ、64 コアロッド
7 成形金型
70 空間
71 ダイ、710 傾斜面、711、712 ストレート面
72 下パンチ、73 上パンチ
74、75 コアロッド、750 傾斜面、751、752 ストレート面
8 載置台
9 内接歯車ポンプ用ロータ
90 空間
91 インナーロータ、91h シャフト孔、92 アウターロータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7