(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】分化細胞の品質改善方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230808BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230808BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230808BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N5/10
C12N15/113 Z
(21)【出願番号】P 2019515736
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2018017416
(87)【国際公開番号】W WO2018203553
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2017091934
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517157879
【氏名又は名称】株式会社ペジィー・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 典正
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】藤井 美穂
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/100080(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/008301(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/008302(WO,A1)
【文献】特開2014-97059(JP,A)
【文献】特開2013-46616(JP,A)
【文献】特開2013-34479(JP,A)
【文献】Scientific Reports,2014年12月04日,Vol.4,No.3852,pp.1-14
【文献】三浦 典正, 研究課題/領域番号 15K14528,2015年度 実施状況報告書[online], 2017年1月6日, 科学研究費助成事業データベース, 国立情報学研究所, [令和5年3月7日検索],インターネット,<URL:https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15K14528/15K145282015hokoku/>
【文献】ISHIHARA Y. et al., NPJ Aging Mech. Dis., 2016, 2:16029
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12N1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞を間葉系
幹細胞へ分化誘導する工程において、培地に、配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含む分化細胞の変異を減少できる機能を有するポリヌクレオチドをコードするベクターを添加する工程を含む、分化細胞の変異の減少方法。
【請求項2】
前記分化細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多能性幹細胞を間葉系
幹細胞へ分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含む分化細胞の変異を減少できる機能を有するポリヌクレオチドを分化誘導中の細胞に導入する工程、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクターを含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の変異の減少方法。
【請求項4】
前記分化細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多能性幹細胞を間葉系
幹細胞へ分化誘導する工程において、培地に、配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含む分化細胞の変異を減少できる機能を有するポリヌクレオチドをコードするベクターを添加する工程を含む、分化細胞の生産方法。
【請求項6】
前記分化細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞である、請求項5に記載の生産方法。
【請求項7】
多能性幹細胞を間葉系
幹細胞へ分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含む分化細胞の変異を減少できる機能を有するポリヌクレオチドを分化誘導中の細胞に導入する工程、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクターを含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の生産方法。
【請求項8】
前記分化細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞である、請求項7に記載の生産方法。
【請求項9】
配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含む分化細胞の変異を減少できる機能を有するポリヌクレオチドをコードするベクターを含む、多能性幹細胞を間葉系
幹細胞へ分化誘導する工程において用いられる、分化細胞の変異の減少用組成物。
【請求項10】
前記分化細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞である、請求項9に記載の変異の減少用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分化細胞の品質改善方法、生産方法、品質改善用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞(以下「iPS細胞」と略すこともある)は、再生医療や、薬剤の有効性/副作用評価などへの応用が期待されている。代表的なiPS細胞の作製技術としては、特許文献1に記載の方法が挙げられる。この文献には、4つの遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Myc)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。また、他のiPS細胞の作製技術としては、特許文献2に、miR-520d-5pを細胞に導入することでiPS細胞を作製したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2007/069666号
【文献】特許第5099571号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後述の実施例に記載の通り、iPS細胞はゲノムに多数の突然変異を有する。これは、iPS細胞を分化して得られる分化細胞のがん化の要因となり得る。即ち、従来法によってiPS細胞から得られる分化細胞は、品質の点から改善の余地を有していた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、分化細胞の品質を改善すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、後述の実施例に記載の通り、iPS細胞を分化誘導中に、細胞内にmiR-520d-5pを導入した。その結果、驚くべきことに、分化細胞の変異が減少していた。そして、この結果に基づき、本願発明を完成させた。
【0007】
即ち本発明の一態様によれば、幹細胞を分化誘導する工程において、培地に、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含む、分化細胞の品質改善方法が提供される。この方法を用いれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【0008】
また本発明の一態様によれば、幹細胞を分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の品質改善方法が提供される。この方法を用いれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【0009】
また本発明の一態様によれば、幹細胞を分化誘導する工程において、培地に、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含む、分化細胞の生産方法が提供される。この方法を用いれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【0010】
また本発明の一態様によれば、幹細胞を分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の生産方法が提供される。この方法を用いれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【0011】
また本発明の一態様によれば、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含む、分化細胞の品質改善用組成物が提供される。この品質改善用組成物を用いれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、分化誘導から2日目の細胞の写真である。
【
図2】
図2は、分化誘導から14日目の細胞の写真である。
【
図3】
図3は、分化誘導から20日目の細胞の写真である。
【
図4】
図4は、ゲノム全体における一塩基変換の好発部位における頻度の比較結果を表した図である。
【
図5】
図5は、miR-520d-5pの導入によって変異が減少した割合を表した図である。
【
図6】
図6は、変異頻度の比較結果を表した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0015】
本発明の一実施形態は、新規の分化細胞の品質改善方法である。この方法は、例えば、幹細胞を分化誘導する工程において、培地に、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含む、分化細胞の品質改善方法を含む。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、分化細胞の変異を減少させることができる。そのため、この方法によれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。又は、品質が改善された分化細胞を得ることができる。
【0016】
上記品質改善方法は、例えば、幹細胞を分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の品質改善方法を含んでいてもよい。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、分化細胞の変異を減少させることができる。そのため、この方法によれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。又は、品質が改善された分化細胞を得ることができる。
【0017】
本発明の一実施形態は、新規の分化細胞の生産方法である。この方法は、例えば、幹細胞を分化誘導する工程において、培地に、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含む、分化細胞の生産方法を含む。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、変異が減少した分化細胞を得ることができる。そのため、この方法によれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。又は、品質が改善された分化細胞を得ることができる。
【0018】
上記分化細胞の生産方法は、例えば、幹細胞を分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の生産方法を含んでいてもよい。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、変異が減少した分化細胞を得ることができる。そのため、この方法によれば、品質の良い分化細胞を得ることができる。又は、品質が改善された分化細胞を得ることができる。
【0019】
本発明の一実施形態は、新規の分化細胞の品質改善用組成物である。この品質改善用組成物は、例えば、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含む、分化細胞の品質改善用組成物を含む。この品質改善用組成物を、幹細胞を分化誘導中に培地に添加することで、後述する実施例で実証されているように、分化細胞の変異を減少させることができる。そのため、この品質改善用組成物を用いることによって、品質の良い分化細胞を得ることができる。又は、品質が改善された分化細胞を得ることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において「配列番号1の塩基配列」は、miR-520d-5pの成熟miRNAの塩基配列(5'-CUACAAAGGGAAGCCCUUUC-3')を含む。
【0021】
本発明の一実施形態において「ポリヌクレオチド」は、例えば、RNA鎖、又はそのRNA鎖をコードするDNA鎖であってもよい。このRNA鎖は、翻訳抑制性RNA分子であってもよい。翻訳抑制性RNA分子は、遺伝子から蛋白質への翻訳を抑制する作用を有するRNA分子を含む。翻訳抑制性RNA分子は、例えば、miRNA関連分子、又はRNAi分子を含む。翻訳抑制作用の確認は、リアルタイムRT-PCRによるRNA鎖発現量の定量によって行なうことができる。または、ノザンブロットによるRNA鎖発現量の解析や、ウェスタンブロットによる蛋白量の解析・表現型の観察等の方法でも行うことができる。また、特定の遺伝子に対する翻訳抑制性RNA分子を生成するプラスミドは、例えば、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)から購入することができる。
【0022】
またポリヌクレオチドは、ヌクレオチドもしくは塩基、またはそれらの等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。ポリヌクレオチドは、例えば、化学修飾を受けたポリヌクレオチド、塩を形成したポリヌクレオチド、溶媒和物を形成したポリヌクレオチド、化学物質結合性のポリヌクレオチドを含む概念である。化学修飾は、例えば、メチル化を含む。化学物質は、細胞取込促進物質(例えば、PEG又はその誘導体)、標識タグ(例えば、蛍光標識タグ等)、又はリンカー(例えば、ヌクレオチドドリンカー等)を含む。ヌクレオチドは、例えば、非化学修飾もしくは化学修飾のRNA塩基又はDNA塩基を含む概念である。等価物は、ヌクレオチドアナログを含む。ヌクレオチドアナログは、非天然のヌクレオチドを含む。「RNA鎖」は、非化学修飾もしくは化学修飾のRNA塩基、又はその等価物が2個以上連結した形態を含む。ポリヌクレオチドは、1本鎖又は2本鎖ポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドは、ベクターにつながれた状態のポリヌクレオチドを含む。塩基配列は、例えば、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)、U(ウラシル)によって表すことができる。また、TとU(ウラシル)は、用途に合わせて互いに読み替えてもよい。このように表された塩基配列中の塩基は、非化学修飾又は化学修飾のA、G、C、T、Uを含む。
【0023】
ポリヌクレオチドの塩基数は、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、又は500であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。ポリヌクレオチドがプラスミドベクターのように塩基対の形態で存在する場合、その塩基対の数は、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、1000、5000,7544、8000、9000、又は10000bpであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。ポリヌクレオチドは、例えば、DNA/RNA合成装置を用いて合成可能である。その他、DNA塩基又はRNA塩基合成の受託会社(例えば、インビトロジェン社やタカラバイオ社等)から購入することもできる。また、ベクターの合成も各メーカーに委託することができる。
【0024】
ポリヌクレオチドは、配列番号1の塩基配列を含んでいてもよい。この塩基配列は、miR-520d-5pの成熟miRNAを含む。またポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列(5'-UCUCAAGCUGUGAGUCUACAAAGGGAAGCCCUUUCUGUUGUCUAAAAGAAAAGAAAGUGCUUCUCUUUGGUGGGUUACGGUUUGAGA-3')を含んでいてもよい。この塩基配列は、miR-520d-5pの全長配列を含む。またポリヌクレオチドは、配列番号3の塩基配列(5'-AAAGUGCUUCUCUUUGGUG-3')を含んでいてもよい。この塩基配列は、配列番号1の塩基配列に相補的に結合してもよい。またポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列(5'-UCUACAAAGGGAAGCCCUUUCUG -3')を含んでいてもよい。この塩基配列は、ガイド鎖として機能してもよい。またポリヌクレオチドは、配列番号5の塩基配列(5'-AAAGUGCUUCUCUUUGGUGGGU-3')を含んでいてもよい。この塩基配列は、パッセンジャー鎖として機能してもよい。これらの塩基配列は、両端又は片端にRNA塩基を有していてもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において「miRNA関連分子」は、例えば、miRNA、pri-miRNA、又はpre-miRNAを含む。miRNA関連分子は、標的RNA鎖の翻訳抑制に寄与することが知られている。また、miRNAは部分的にしか結合せずにミスマッチを含む不完全な相補鎖でも翻訳阻害を引きこすことが知られている。
【0026】
本発明の一実施形態において「RNAi分子」は、RNAi作用を有するRNA鎖であり、例えば、siRNA、shRNA、又はRNAi作用を有するsmall RNA等を挙げることができる。RNAi分子のデザインには、例えば、siDirect 2.0(Naito et al., BMC Bioinformatics. 2009 Nov 30;10:392.)等を使用できる。また、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)に委託してもよい。
【0027】
翻訳抑制性RNA分子は、翻訳抑制効率を上昇させる観点からは、5'末端又は3'末端に1~5塩基からなるオーバーハングを含んでいてもよい。この数は、例えば、5、4、3、2、または1塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また翻訳抑制性RNA分子が2本鎖のとき、各RNA鎖間にミスマッチRNAが存在していてもよい。その数は、例えば、1、2、3、4、5、又は10個以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また翻訳抑制性RNA分子は、ヘアピンループを含んでいてもよい、ヘアピンループの塩基数は、例えば、10、8、6、5、4、又は3塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。なお、各塩基配列の表記は、左側が5'末端、右側が3'末端である。
【0028】
翻訳抑制性RNA分子の長さは、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、又は500であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この数は、分化細胞の品質を高める観点からは、15以上、又は100以下が好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、配列番号1~5で示される塩基配列は、所望の効果を有する限り、(a)いずれかの塩基配列において、1又は複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加している塩基配列、及び(b)いずれかの塩基配列に対して、90%以上の相同性を有する塩基配列、からなる群から選ばれる1つ以上の塩基配列であってもよい。
【0030】
本発明の一実施形態において「複数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、又は2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。分化細胞の品質を高める観点からは、3個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。
【0031】
本発明の一実施形態において「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、又は100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。分化細胞の品質を高める観点からは、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間の塩基配列において相同な塩基数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較する塩基配列群の塩基配列を整列させ、同一塩基の割合を最大にするために必要である場合は塩基配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、及びそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。相同性(%)は、Blastnのデフォルト設定によって測定された値で表してもよい。又は相同性(%)は、(相同な塩基数/比較元の塩基配列の塩基数)×100で表してもよい。
【0032】
ポリヌクレオチドの細胞への導入は、例えば、ウイルスベクターを用いた感染導入、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、又はマイクロインジェクションなどを使用できる。また薬剤耐性やセルソーター等を利用して、導入された細胞のみを選択することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において「ベクター」は、ウイルス(例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、又はHIV等)ベクター、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110)、酵母由来プラスミド(例、pSH19)、λファージなどのバクテリオファージ、psiCHECK-2、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、pSUPER(OligoEngine社)、BLOCK-it Inducible H1 RNAi Entry Vector(インビトロジェン社)、pRNATin-H1.4/Lenti (GenScript, corp., NJ, USA)などを用いることができる。上記ベクターは、プロモーター、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、DNA鎖の発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。上記ベクターはいわゆる発現ベクターであってもよい。特定の塩基配列をコードするベクターは、その塩基配列に相補的な塩基配列を含んでいてもよい。相補的な塩基配列は、例えば、RNA-DNA間、RNA-RNA間、又はDNA-DNA間で相補的であってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態において「幹細胞」は、例えば、多能性幹細胞を含む。上記多能性幹細胞は、例えば、人工多能性幹細胞、ES細胞を含む。上記人工多能性幹細胞は、例えば、Oct3/4、Klf4、Sox2、もしくはc-Mycを細胞(例えば、体細胞)に導入して得られた細胞であってもよい。又は、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を細胞(例えば、体細胞)に導入して得られた細胞であってもよい。
【0035】
本発明の一実施形態において「分化誘導する工程」は、例えば、分化誘導剤を含む培地で細胞を培養する工程を含む。又は、分化誘導する工程は、例えば、分化誘導剤を含む培地で細胞を培養している間、又は状態を含む。又は、分化誘導する工程は、例えば、分化誘導開始から、培地中の幹細胞群から分化細胞への形質転換が実質的に完了した時点までを含む。上記分化誘導開始は、例えば、培地中の幹細胞群と分化誘導剤とが接した時点であってもよい。上記分化誘導開始は、分化誘導剤を含む培地に幹細胞を導入した時点、もしくは幹細胞を含む培地に分化誘導剤を導入した時点であってもよい。上記の実質的に完了は、例えば、分化誘導剤を含まない培地で細胞を培養した時点であってもよい。上記の実質的に完了は、培地中に存在する細胞のうち、例えば、分化細胞の割合が99、99.5、又は100%の状態であってもよく、それらいずれかの値以上の状態であってもよく、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の状態であってもよい。上記の実質的に完了は、培地中に存在する細胞のうち、例えば、多能性幹細胞の割合が1、0.5、又は0%の状態であってもよく、それらいずれかの値以下の状態であってもよく、又はそれらいずれか2つの値の範囲内の状態であってもよい。分化細胞の存在は、例えば、顕微鏡で細胞形態を観察することによって確認してもよい。多能性幹細胞の存在は、例えば、顕微鏡で細胞形態を観察することによって確認してもよい多能性幹細胞は特有の細胞形態をしていることが知られているため、当業者は多能性幹細胞及び分化細胞の存在を確認可能である。又は、分化細胞の存在は、分化細胞に特有の蛋白質マーカーを指標にすることによって確認してもよい。又は、多能性幹細胞の存在は、多能性幹細胞に特有の蛋白質マーカーを指標にすることによって確認してもよい。又は、分化誘導する工程は、例えば、幹性化の方向に働く力よりも分化の方向に働く力が強い状況を含む。又は、分化誘導する工程は、分化誘導中あってもよい。又は、分化誘導する工程は、例えば、分化誘導開始を0日とした場合に、そこから0.1、0.5、1、5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25日までの間であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の間であってもよい。分化細胞の変異をより抑制する観点からは、細胞にmiR-520d-5pを導入する時期は、分化誘導の過渡期が好ましい。過渡期は、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25日までの間であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の間であってもよい。分化細胞の変異をより抑制する観点からは、細胞にmiR-520d-5pを導入する時期は、14、17、20日が特に好ましい。
【0036】
細胞の分化誘導は、例えば、STEMdiffTM Mesenchymal Progenitor Kit(STEMCELL Technologies Inc.)、Cellartis(R) iPS Cell to Hepatocyte Differentiation System(TAKARA BIO INC.)、CnT-Prime iPS Epithelial Differentiation Medium(Funakoshi Co., Ltd.)、StemXVivoTM心筋細胞分化誘導キット(R&D Systems, Inc.)によって行ってもよい。分化誘導剤としては、例えば、KY03-I、KY02111、Am580、Ciglitazone、CKI-7 Dihydrochloride、SB431542、Y-27632、DAPT、Dexamethasone、Dorsomorphin、Dorsomorphin Dihydrochloride、DMH1、Forskolin、LY-294002、Purmorphamine、all-trans-Retinoic Acid、Spermine、Trichostatin A、TTNPB、TWS119、LDE225、LDN-193189、又はStemRegenin1を含む。分化細胞は、例えば、多能性幹細胞から分化した細胞を含む。多能性幹細胞から分化した細胞は、さらなる分化能を有していてもよく、例えば、体性幹細胞(例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞を含む)を含む。分化細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、間葉系前駆細胞(MPC)、肝細胞、肺細胞、心臓細胞、食道細胞、胃細胞、小腸細胞、大腸細胞、膵臓細胞、腎臓細胞、神経細胞、神経幹細胞、線維芽細胞、皮膚細胞、皮膚上皮細胞、心筋細胞、網膜細胞、網膜前駆細胞、角膜上皮細胞、骨芽細胞、血液細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄幹細胞、又はそれらの前駆細胞を含む。これらのキット、分化誘導剤を用いるときや、これらの分化細胞を作成するときに、上記(a)のポリヌクレオチド又は(b)のベクターを用いることで、分化細胞の品質を改善できる。
【0037】
本発明の一実施形態において「添加」は、対象の成分を特定の成分群に加えることを含む。添加する工程は、対象の成分を培地又は幹細胞に接触させる工程を含んでいてもよい。添加回数は、例えば、1、2、3、4、又は5回であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の間であってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態において「組成物」は、例えば、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む組成物であってもよい。組成物は、例えば、有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また担体の形状は、例えば、固体、半固体、又は液体であってもよい。組成物は、in vitro又はin vivoで使用してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態は、幹細胞を分化誘導する工程において、培地に、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含む、分化細胞の変異の減少方法を含む。また本発明の一実施形態は、幹細胞を分化誘導する工程において、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含有する培地を用いる工程を含む、分化細胞の変異の減少方法を含む。また本発明の一実施形態は、(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を含む、分化細胞の変異の減少用組成物を含む。上記減少は、抑制を含んでいてもよい。
【0040】
上記方法は、例えば、幹細胞を分化誘導培地で培養する工程、又は分化誘導培地に(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を添加する工程を含んでいてもよい。分化誘導培地は、分化誘導剤を含有する培地を含む。培地は、例えば、液体培地、又は固体培地を含む。
【0041】
上記方法は、例えば、細胞又は細胞群に(a)配列番号1の塩基配列、又はその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換、挿入、もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(b)前記(a)のポリヌクレオチドをコードするベクター、を接触、導入、又は感染させる工程を含んでいてもよい。上記導入は、例えば、対象の核酸をコードするベクターを細胞に感染させ、細胞内で対象の核酸を発現させる工程を含む。上記細胞は、例えば、多能性幹細胞、体性幹細胞、分化細胞の前駆細胞、又は分化細胞を含んでいてもよい。上記培地は、例えば、多能性幹細胞、体性幹細胞、分化細胞の前駆細胞、又は分化細胞を含有していてもよい。上記方法は、分化細胞を回収する工程を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において細胞は、幹細胞を含む。上記方法は、in vitroの方法を含む。
【0042】
本発明の一実施形態において「品質改善」は、変異を減少させることを含む。野生型の細胞のゲノムDNAと、iPS細胞由来の分化細胞のゲノムDNAとを比較したときに、塩基配列に差異があれば、後者の塩基が変異していると判断してもよい。野生型の細胞は、iPS細胞から得られた細胞を除く細胞、又はiPS細胞由来の細胞を除く細胞であってもよい。野生型の細胞のゲノムDNA(又は正常ゲノムDNA)は、例えば、human hg19、human hg18、human (1kg reference), b36のゲノムDNAであってもよい。
【0043】
本明細書において引用しているあらゆる刊行物、公報類(特許、又は特許出願)は、その全体を参照により援用する。
【0044】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。本明細書において「A~B」は、A以上B以下を意味するものとする。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>分化実験
iPS細胞からMSC(間葉系幹細胞)への分化実験を、STEMdiffTM Mesenchymal Progenitor Kit(STEMCELL Technologies Inc.)を使用して行った。手順はキットに附属のプロトコールを参照して行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0048】
1)分化誘導前
6ウェル培養プレートをレプロコート1ml(RCHEOT001: ReproCELL)でコーティングし、フィーダー細胞(SL10: RCHEFC001)の培養状態に、RIKENから購入したiPS細胞253G1株(riken cell bank、Resource NO.: RBRC-HPS0002、Resource name: 253G1、Lot No.: 024)を移した。培養液は、bFGF 5ng/mlの濃度にし、iPS細胞を増殖させた。1日後、フィーダー細胞を混じた細胞群を用いて、次のステップに進んだ。
【0049】
(1) マトリゲルを基礎培地で30倍希釈しコーティングして、室温で3時間静置した。
(2) MesenCultTM-ACF Basal MediumにMesenCultTM-ACF 5X Supplement 100 mlと200mM L-Glutamineを5 ml入れた。
(3) ReproXF、DMEM/F-12、Gentle Cell Dissociation Reagentを常温に置いておいた。
(4) ReproXFにY-27632 (Dihydrochloride)が10μMになるように入れた。
(5) 1 mlのD-PBS Without Ca2+ and Mg2+で1回洗った。
(6) 1 mlのGentle Cell Dissociation Reagentを入れ、37℃で8-10分インキュベートした。
(7) ゆっくりピペッティングして剥がし、2 mlのReproXFを入れた15 mlチューブに入れた。
(8) 300×gで5分間遠心した。
(9) 上清を吸引後、2 mlのReproXFを入れた。
(10) 上記(1)でコーティングしたプレートに全量入れ、37℃で24時間インキュベートした。
(11) 24時間後、常温に置いたReproXF 2 mlでメディウムチェンジした。
(12) 37℃で24時間インキュベートした。
【0050】
2)Day 0-2
(1) 室温にSTEMdiff
TM-ACF Mesenchymal induction Mediumを置いた。
(2) 1 mlのD-PBS Without Ca
2+ and Mg
2+で1回洗った。
(3) 3 mlのSTEMdiff
TM-ACF Mesenchymal induction Mediumでメディウムチェンジした。
(4) 37℃で48時間インキュベートした。2日目の細胞の写真を
図1に示す。
【0051】
3)Day 3-4
(1) 室温にMesenCultTM-ACF Basal Mediumを置いた。
(2) 1 mlのD-PBS Without Ca2+ and Mg2+で1回洗った。
(3) 2 mlのMesenCultTM-ACF Basal Mediumにメディウムチェンジした。
(4) 37℃で24時間インキュベートした。
(5) 室温にMesenCultTM-ACF Basal Mediumを置いた。
(6) 2 mlのMesenCultTM-ACF Basal Mediumでメディウムチェンジした。
(7) 37℃で24時間インキュベートした。
(8) MesenCultTM-ACF Attachment SubstrateをPBS Without Ca2+ and Mg2+で28倍希釈し、800μLでコーティングして、パラフィルムを巻き4℃でovernightした。
【0052】
4)Day 5
(1) 室温にMesenCultTM-ACF Basal Mediumを置き、Y-27632が10μM になるように加えた。
(2) 2.5 mlのPBS Without Ca2+ and Mg2+で1回洗った。
(3) 1 mlのAccutaseを入れ、37℃で8-10分インキュベートした。
(4) ゆっくりピペッティングして剥がし、2 mlのMesenCultTM-ACF Basal Mediumを入れた15 mlチューブに入れた。
(5) 300×gで7分間遠心した。
(6) 上清を吸引後、3 mlのMesenCultTM-ACF Basal Mediumを入れた。
(7) 前日にコーティングしたプレートに全量入れ、37℃で24時間インキュベートした。
【0053】
5)Day 6-10
(1) 細胞数に応じて半分だけメディウムチェンジした。
【0054】
6)Day 11
(1) 常温にMesenCultTM-ACF Basal Mediumを置き、Y-27632が10μM になるように加えた。
(2) 2.5 mlのPBS Without Ca2+ and Mg2+で1回洗った。
(3) 1 mlのAccutase(細胞剥離液)を入れ、37℃で8-10分インキュベートした。
(4) ゆっくりピペッティングして剥がしMesenCultTM-ACF Basal Mediumを入れ、継代した。
【0055】
7)Day 12-20
(1) 細胞数に応じて半分だけメディウムチェンジした。14日目、20日目の細胞の写真をそれぞれ
図2、3に示す。
(2) Day 14、17、20に半分メディウムチェンジ後、miR-520d-5pをコードするレンチウィルスベクター(pMIRNA1-miR-520d-5p/GFP,System Biosciences)を添加した。このレンチウィルスベクターは、miR-520d-5pをコードする塩基配列、及びその相補鎖を有するベクターである。この際、レンチウィルスベクターによって、培養細胞に1細胞1コピーの割合で感染導入するように行った。miR-520d-5pの成熟miRNAの塩基配列を配列番号1に示す。
【0056】
8)Day 21-
(1) 8割コンフルエントになったところでDNAを抽出し、NGS(次世代シークエンス)を行った。
【0057】
<実施例2>突然変異の評価
NGSの結果をもとに、ゲノム全体における一塩基変換の好発部位における頻度の比較を行った。結果を
図4に示す。正常ゲノム塩基配列(reference)と比べて、概してiPS細胞の一塩基変異(ALT1)の頻度が高くなっていた(青:最下部、iPSC)。一方で、miR-520d-5pが導入されることでその頻度が減少、改善し、正常なMSCの変異レベルに近づいていた(黒:中部、MSC induced from iPSC with 520d-5p)。なお、評価は、色の面積比で行った。
【0058】
次に、
図4全体をもとに、miR-520d-5pの導入によって変異が減少した割合を調べた。結果を
図5に示す。60.8%(301733)は、iPS細胞で見られた変異が、miR-520d-5pを導入した細胞において減少していた。この結果は、iPS細胞を分化誘導する過程で、miR-520d-5pを細胞に導入することで、変異を減少させ、野生型へ戻すことができることを示している。またこのことは、分化細胞の品質が改善されたことを示している。
【0059】
なお、
図5では変異の増加もわずかに見られているが、その大半がMSCの変異の部位と頻度に一致していることから、MSCへの分化の際に生じる変異と考えられる(
図6)。即ち、増加した変異は正常な分化誘導に因るものと考えられる。
【0060】
以上の結果、miR-520d-5pの導入によって、分化細胞の品質を改善できることが示された。
【0061】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【配列表】