IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧

特許7327815極性オレフィン系重合体からなる成形品とその物性
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】極性オレフィン系重合体からなる成形品とその物性
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/14 20060101AFI20230808BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20230808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230808BHJP
   C09D 123/08 20060101ALI20230808BHJP
   C09D 125/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08F12/14
C08F10/00
C08J5/18 CES
C09D123/08
C09D125/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020506652
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010592
(87)【国際公開番号】W WO2019177110
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018046829
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 J.Am.Chem.Soc 2019,141,7,3249-3257 発行日 平成31年2月6日 ウェブサイトのアドレス https://www.riken.jp/press/2019/20190207_2/ ウェブサイトの掲載日 平成31年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 号兵
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 漾
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正芳
(72)【発明者】
【氏名】侯 召民
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-241930(JP,A)
【文献】特開2011-231291(JP,A)
【文献】特開2011-231292(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第01570541(DE,A)
【文献】Doo-Jin Byun et al,Synthesis of Phenol Group Containing Polyethylenes via Metallocene Catalyzed Ethylene-Allylanisole C,Macromolecular Chemistry and Physics,2001年,Vol.202, No.7,992-997頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/14
C08F 10/00
C08J 5/18
C09D 123/08
C09D 125/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含み、前記重合体中の全構造単位に対する極性オレフィンモノマーの構造単位の割合が20mol%以上である、オレフィン系成形品。
【化1】
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数であり、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基であり、Rはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して縮合環を形成していてもよく、mは0~4の整数である。)
【請求項2】
前記重合体が、さらに少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む共重合体である、請求項1に記載のオレフィン系成形品。
【請求項3】
前共重合体が、前記少なくとも1種の一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位と前記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位との交互配列と、前記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位の重合配列とを含む、請求項2に記載のオレフィン系成形品。
【請求項4】
前記重合体の数平均分子量が、2.0×10以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項5】
前記重合体が、下記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を少なくとも含む共重合体である、請求項2~4のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【化2】
(式中、R、R、R、Z、m及びnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり、x及びyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。)
【請求項6】
極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、タフネス値が0.5MJm-3以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項7】
極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、引張強度が0.5MPa以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項8】
極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、破断伸びが100%超である、請求項1~5のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項9】
フィルムである、請求項1~のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項10】
自己修復材料として用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【請求項11】
形状記憶材料として用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載のオレフィン系成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性オレフィン系重合体を含むオレフィン系成形品に関する。より詳細には、本発明は、種々の用途に有用な、自己修復性等の性質を有する極性オレフィン系重合体を含むオレフィン系成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィンフィルム等のオレフィン系成形品は、包装資材等として種々利用されているが、特殊な機能(例えば、自己修復性及び形状記憶性)を付加した高機能成形体としての利用は、一部の用途に限られている。
高性能な自己修復材料を開発することにより、廃棄物が削減され持続可能性が得られるだけでなく、より安全性が高く信頼性に優れた製品を創出することが可能になる(非特許文献1)。自己修復材料は、損傷を検出するのが困難な応用分野や、修復が高コストまたは不可能な応用分野(人体における医療移植片、海底パイプライン、宇宙空間における装置など)で特に魅力がある。Woolは、De Gennesのレプテーション動力学と絡み合いパーコレーションモデルに基づく統一理論を構築した。この統一理論では、非晶質ポリマーの2つの破断部分を5つのステップ(表面再配列、ポリマー鎖同士の接近、湿潤、拡散、鎖のランダム化)を通じて接合すると、この非晶質ポリマーのガラス転移温度(T)より高い温度で再修復し得る。しかしながら、最後の2ステップの速度が遅いため、高分子量ポリマーの場合、破断部分を結合するための修復時間が長くなる。したがって、ほとんどの場合、効率の良い拡散に依存する修復が発生するのは高温時(120℃以上)である(非特許文献1)。共有結合に基づく外因性の自己修復特性を備えた、入念に設計された材料がいくつか報告されている。しかしながら、これらの戦略のほとんどは、触媒/モノマーまたは外部エネルギーの入力を必要とする。内因性の自律的な自己修復特性を持つ材料を追求した、明解な動的超分子アプローチ(金属-リガンド相互作用、多価水素結合など)がいくつか構築されている(非特許文献2)。しかしながら、今のところ、改良は軟質エラストマーに限定されており、これまでの改良は、精巧に設計された複雑な巨大分子構造を含む。
ごく最近では、Aidaらが、特定圧力下で容易な修復性と堅牢な機械特性を示す、一連の水素結合を包含した非晶質ポリマーを報告した(非特許文献3)。このように、自律的な自己修復作用と強力な機械特性の両方を有する材料を開発することは、困難な課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】B. J. Blaiszik, S. L. B. Kramer, S. C. Olugebefola, J. S. Moore, N. R. Sottos, S. R. White, Self-healing polymers and composites. Annu. Rev. Mater. Res. 40, 179-211 (2010).
【文献】S. Kim, Superior Toughness and Fast Self-Healing at Room Temperature Engineered by Transparent Elastomers. Adv. Mater. 29, 1705145 (2017).
【文献】Y. Yanagisawa, Y. Nan, K. Okuro, T. Aida, Mechanically robust, readily repairable polymers via tailored noncovalent cross-linking. Science 10.1126/science.aam7588 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、種々の用途に有用な新規なオレフィン系成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。本発明者等は、希土類金属錯体を用いて、極性オレフィンモノマーを重合して得られる極性オレフィン系重合体が、フィルム等の成形品の原料として利用可能であること、及び当該重合体を用いて製造されるフィルム等の成形品が、自律的自己修復性、形状記憶性等の種々の機能性を有することを知見した。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0007】
[1] 少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含む、オレフィン系成形品。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数であり、Rは置換又は無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である。)
[2] 前記重合体が、さらに少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む共重合体である、[1]に記載のオレフィン系成形品。
[3]前共重合体が、前記少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位と前記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位との交互配列と、前記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの重合配列とを含む、[2]のオレフィン系成形品。
前記共重合体を含有する[3]のオレフィン系成形品の一実施形態は、前記重合配列が凝集することによって形成される結晶性のナノドメイン由来のX線回折ピークを示す。
[4] 前記極性オレフィンモノマーが、一般式(II)で表される極性オレフィンモノマーである、[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン系成形品。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数であり、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基であり、Rはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して縮合環を形成していてもよく、mは0~4の整数である。)
[5] 前記重合体中の全構造単位に対する極性オレフィンモノマーの構造単位の割合が20mol%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のオレフィン系成形品。
[6] 前記重合体の数平均分子量が、2.0×10以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン系成形品。
[7]前記重合体が、下記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を少なくとも含む共重合体である、[]~[6]のいずれかのオレフィン成形品。


【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R、R、R、Z、m及びnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり、x及びyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。)
[8] 極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、タフネス値が0.5MJm-3以上であるオレフィン系成形品。
なお、前記極性オレフィンモノマーが有する極性基の例には、前記式(I)中の-Z(Rが含まれる。下記[9]及び[10]においても同様である。本態様の成形品に用いられる重合体の例には、前記[1]~[7]に記載の(共)重合体が含まれる。中でも、[7]に記載の共重合体が好ましい。前記成形品は、前記範囲のタフネス値を、成形品の使用温度(例えば室温である場合は25℃)で示すことが好ましい。また、前記成形品は、引張強度が0.5MPa以上及び/又は破断伸びが100%超え、であるのが好ましい。
[9] 極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、引張強度が0.5MPa以上であるオレフィン系成形品。
本態様の成形品に用いられる重合体の例には、前記[1]~[7]に記載の(共)重合体が含まれる。中でも、[7]に記載の共重合体が好ましい。前記成形品は、前記範囲の引張強度を、成形品の使用温度(例えば室温である場合は25℃)で示すことが好ましい。また、前記成形品は、引張強度が前記範囲であるとともに、破断伸びが100%超え、及び/又はタフネス値が0.5MJm-3以上であるのが好ましい。
[10] 極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含有し、破断伸びが100%超であるオレフィン系成形品。
本態様の成形品に用いられる重合体の例には、前記[1]~[7]に記載の(共)重合体が含まれる。中でも、[7]に記載の共重合体が好ましい。前記成形品は、前記範囲の破断伸びを、成形品の使用温度(例えば室温である場合は25℃)で示すことが好ましい。また、前記成形品は、破断伸びが前記範囲であるとともに、タフネス値が0.5MJm-3以上、及び/又は引張強度が0.5MPa以上であるのが好ましい。
[11] フィルムである、[1]~[10]のいずれかのオレフィン系成形品
[12] 自己修復材料として用いられる、[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品。また、本発明の一態様は、前記[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品からなる、あるいは、オレフィン系成形品を含む、自己修復材料である。別の一態様は、前記[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品からなる、あるいは、オレフィン系成形品を含む、自己修復性成形品である。
自己修復性成形品の一態様は、室温(25℃)未満のガラス転移点を示す前記重合体を含有する。
自己修復性成形品の一態様は、5日以内で80%以上の自己修復率を示す。
[13] 形状記憶材料として用いられる、[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品。また、本発明の一態様は、前記[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品からなる、あるいは、オレフィン系成形品を含む、形状記憶材料である。別の一態様は、前記[1]~[11]のいずれかのオレフィン系成形品からなる、あるいは、オレフィン系成形品を含む、形状記憶性成形品である。
形状記憶性成形品の一態様は、室温程度(例えば15℃~35℃)ないし室温を超えるガラス転移点を示す前記重合体を含有する。例えば、前記形状記憶性成形品は、それが使用される温度(例えば室温)Tuで一定の形状S1を維持し、Tg(Tu<Tg)を超える温度(且つ融点を有する場合は融点未満の温度)Tdにおいて変形して、使用温度Tuまで冷却することでその形状S2を維持し、且つTgを超える温度(且つ融点を有する場合は融点未満の温度)Tf(TfはTdと同一でも異なっていてもよい)において、元の形状S1に戻る性質を有する。
形状記憶性成形品の一態様は、形状固定率及び形状回復率が80%以上である。
[14][1]~[7]のいずれかに記載の重合体。
[15][1]~[7]のいずれかに記載の重合体の少なくとも1種を含む塗布組成物。
前記組成物は、前記重合体とともに、液体ないし固体媒体を含んでいてもよい。前記重合体は、前記媒体に溶解していても、非溶解(例えば分散)していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、種々の用途に有用な新規なオレフィン系成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例に使用したメタロセン錯体の構造を示す図である。
図2図2は、実施例に使用した極性オレフィンモノマーの構造を示す図である。
図3図3は、表1のRun 3で得られたポリマーP2の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図4図4は、表1のRun 3で得られたポリマーP2の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図5図5は、表1のRun 3で得られたポリマーP2の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図6図6は、表1のRun 3で得られたポリマーP2のDSCカーブを示す図である。
図7図7は、共重合体P2の0.5 mm厚のフィルムサンプルの透過スペクトラムを示す図である。内側は、ロゴの上に置かれたフィルムの図(写真)である。
図8図8は、共重合体P1-P5の機械的特性を示す図である。Aは、速度200 mm min-1における応力-ひずみ曲線である。Bは、共重合体P5の引張強度/ヒステリシス曲線である。10サイクルの1000%伸長を行った。内側は、10サイクルの1000%伸長及び回復後(上)、及びその原形(下)の図(写真)。Cは、共重合体P5の元のサンプル、及び1000%伸長及び3時間解放後のサンプルの引張強度/ヒステリシス曲線(第1サイクル)である。
図9図9は、表3のRun 5で得られたポリマーP6の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図10図10は、表3のRun 5で得られたポリマーP6の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図11図11は、表3のRun 5で得られたポリマーP6の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図12図12は、表3のRun 5で得られたポリマーP6のDSCカーブを示す図である。
図13図13は、表3のRun 7で得られたポリマーP7の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図14図14は、表3のRun 7で得られたポリマーP7の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図15図15は、表3のRun 7で得られたポリマーP7の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図16図16は、表3のRun 7で得られたポリマーP7のDSCカーブを示す図である。
図17図17は、表3のRun 9で得られたポリマーの分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図18図18は、表3のRun 9で得られたポリマーの13C NMRスペクトラムを示す図である。
図19図19は、表3のRun 9で得られたポリマーの分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図20図20は、表3のRun 9で得られたポリマーのDSCカーブを示す図である。
図21図21は、表3のRun 11で得られたポリマーP8の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図22図22は、表3のRun 11で得られたポリマーP8の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図23図23は、表3のRun 11で得られたポリマーP8の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図24図24は、表3のRun 11で得られたポリマーP8のDSCカーブを示す図である。
図25図25は、表3のRun 13で得られたポリマーP9の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図26図26は、表3のRun 13で得られたポリマーP9の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図27図27は、表3のRun 13で得られたポリマーP9の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図28図28は、表3のRun 13で得られたポリマーP9のDSCカーブを示す図である。
図29図29は、表3のRun 15で得られたポリマーP10の分析値及び1H NMRスペクトラムを示す図である。
図30図30は、表3のRun 15で得られたポリマーP10の13C NMRスペクトラムを示す図である。
図31図31は、表3のRun 15で得られたポリマーP10の分析値及び13C NMRスペクトラムの部分拡大図を示す図である。
図32図32は、表3のRun 15で得られたポリマーP10のDSCカーブを示す図である。
図33図33は、共重合体P6-P10の機械的特性を示す図である。Aは、共重合体P6-P10の速度200 mm min-1における応力-ひずみ曲線である。Bは、共重合体P6の引張強度/ヒステリシス曲線である。10サイクルの1000%伸長を行った。Cは、共重合体P7の引張強度/ヒステリシス曲線である。Dは、表3のRun 9の共重合体の引張強度/ヒステリシス曲線である。Eは、共重合体P8の引張強度/ヒステリシス曲線である。
図34図34は、交互AP-E共重合体のフィルムの自己修復性を示す図である。Aは、共重合体P2のフィルムサンプルの破断状態(下)、及び25℃、5分間の回復の後の伸長状態(上)の光学画像(写真)である。破断サンプルは、カミソリの刃を用いてフィルムを2つの別々の部分に完全に切断して準備した。修復サンプルは、切断面を互いに合わせ、軽く15秒圧着した後、空気中で25℃、5分間回復させた。Bは、共重合体P2の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Cは、共重合体P5の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Dは、共重合体P5の空気中25℃の損傷(左)及び修復(右)サンプルの光学顕微鏡観察像(写真)である。共重合体P5のフィルムは、カミソリの刃で割れ目を入れ、空気中で5分間回復させた。Eは、共重合体P2の水中25℃の損傷(左)及び修復(右)サンプルの光学顕微鏡観察像(写真)である。共重合体P2のフィルムは、カミソリの刃で割れ目を入れ、水中で5分間回復させた。Fは、共重合体P2の水中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Gは、共重合体P2の水中37℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Hは、共重合体P2の36時間の25℃(ii)水中、(iii)1M HCl、(iv)1M NaOHの自己修復性の比較試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Iは、共重合体P6の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Jは、共重合体P7の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Kは、共重合体P8の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。Lは、表3のRun 9の共重合体の空気中25℃の自己修復性の試験結果を示す応力-ひずみ曲線である。
図35図35は、共重合体P10の形状記憶性を示す図(写真)である。左は、共重合体P10の成形サンプルの原形である。中央は、80℃のウォーターバスで伸長された成形共重合体P10のサンプルである。P10のサンプルの形状は、室温で力を開放して固定された。右は、80℃のウォーターバス中2分間で原形に回復した成形共重合体P10のサンプルである。
図36図36は、本発明の成形品の一例に含有される所定の重合体の状態を示す図である。AはTEM画像を示す(写真)。Bは模式図であり、図中、曲線は、アニシルプロピレン等の極性オレフィン系モノマー(A)とエチレン等の非極性オレフィン系モノマー(B)との交互配列鎖-(A)-alt-(B)-を示し、丸は、エチレン等の非極性オレフィン系モノマー(B)のホモ重合配列-(B)-(B)-の凝集によって生じる結晶性ナノドメインを示す。
図37図37は、実施例で製造したポリマーP5のフィルムのWAXD測定結果である。
図38図38は、実施例で製造したポリマーP5のフィルムのSAXS測定結果である。
図39図39は、実施例で製造した共重合体P9のフィルムサンプルの形状記憶性を示す図(写真)である。aは、共重合体P9の成形サンプルの原形である。bは、50℃で伸長された成形共重合体P9のサンプルの変形である。cはbのサンプルが20℃において変形形状を維持している様子を示す。dは50℃のウォーターバス中5秒間で原形に回復した成形共重合体P9のサンプルである。
図40図40は、実施例で製造した共重合体P9のフィルムサンプルの50℃におけるデュアル形状記憶サイクルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明者等は、所定の式で表される極性オレフィンモノマー(例えば、アニシルプロピ
レン(誘導体))のスカンジウム錯体を用いた一工程(one-step)重合により得られる、新種のオレフィン系(olefin-based)材料を見出した。この新規材料は、成形品(例えばフィルム)の原料として有用である。特に、非極性オレフィンモノマー(例えばエチレン)との共重合体は、主として交互非極性オレフィンモノマー(例えばエチレン)-極性オレフィンモノマー(例えばアニシルプロピレン(誘導体))配列を有し、各モノマーの重合比率、分子量、モノマー種等のうち1以上を調整することで、幅広いガラス転移温度範囲を有し、多様な機械的特性(硬質プラスチック、軟質プラスチック、エラストマー及び応力軟化材料)を示す。前記材料の一実施形態は、エラストマーであり、自己修復材料である。具体的には、前記材料の内、エラストマーは、優れた伸縮性、弾性回復を示し、自律的自己修復エラストマーにおいては、高い引張強度及びタフネスを示した。自律的自己修復性エラスマーは、空気中のみでなく、水中、酸、アルカリ溶液中で、外的エネルギー又は刺激の必要なしに自己修復が可能である。さらに驚くべきことに、修復された材料は、優れた引張強度と伸びを示し、これまで報告された自己修復後の自己修復材料及び自己修復前の自己修復材料よりも高い値を示す。
また、前記材料の他の一実施形態は、硬質プラスチックであり、顕著な形状記憶性を示した。


【0015】
本発明は、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体を含む、オレフィン系成形品に関する。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
【0016】
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数であり、Rは置換又は無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である。)
【0017】
<極性オレフィン系重合体の製造方法>
以下、本発明のオレフィン系成形品に含まれる、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む重合体、すなわち、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの重合体(以下、「極性オレフィン系重合体」とも言う)の製造方法について説明する。なお、本明細書において、単に「重合体」と表記する場合は、特に断りのない限り、単独重合体及び共重合体を含む意味で用いるものとする。
【0018】
(触媒組成物)
前記極性オレフィン系重合体は、例えば、メタロセン錯体とイオン性化合物を含む触媒組成物により、一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの少なくとも1種を重合することにより得られる。一般式(I)で表される極性オレフィンモノマー以外の他のモノマーと共重合させてもよく、特に非極性オレフィンモノマーの少なくとも1種と共重合させた極性オレフィン系重合体が好ましい。
【0019】
(メタロセン錯体)
メタロセン錯体としては、限定されないが、例えば、実施例に記載のスカンジウム錯体(C5Me4SiMe3)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2等を挙げることができる。
【0020】
メタロセン錯体は、既述の方法、例えば(1) X. Li, M. Nishiura, K. Mori, T. Mashiko, Z. Hou, Chem. Commun. 4137-4139 (2007)、(2) M. Nishiura, J. Baldamus, T. Shima, K. Mori, Z. Hou, Chem. Eur. J. 17, 5033-5044 (2011).、(3) F. Guo, M. Nishiura, H. Koshino, Z. Hou, Macromolecules. 44, 6335-6344 (2011).、(4) 参考文献:Tardif, O.; Nishiura, M.; Hou, Z. M. Organometallics 22, 1171, (2003).、(5) 参考文献:Hultzsch, K. C.; Spaniol, T. P.; Okuda, J. Angew. Chem. Int. Ed, 38, 227, (1999).、(6)参考文献:国際公開第WO2006/004068号パンフレット、(7)参考文献:日本国公開特許公報 特開2008-222780号や、(8)参考文献:日本国公開特許公報 特開2008-095008号に記載された方法に従って合成することができる。
【0021】
(イオン性化合物)
イオン性化合物は、前記したメタロセン錯体と組み合わされることにより、前記メタロセン錯体に重合触媒としての活性を発揮させる。そのメカニズムとして、イオン性化合物が、メタロセン錯体と反応し、カチオン性の錯体(活性種)を生成させると考えることができる。
【0022】
前記触媒組成物に含まれるイオン性化合物は、限定されないが、非配位性アニオンおよびカチオンからそれぞれ選ばれるものを組み合わせたものが挙げられる。
好ましくは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1’-ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが例示される。イオン性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
これらのイオン性化合物のうち、特に好ましいものは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0024】
前記触媒組成物において、イオン性化合物のメタロセン錯体に対するモル比率は、錯体とイオン性化合物の種類によって異なり、適宜設定可能である。
前記モル比率は、例えば、イオン性化合物がカルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるもの(例えば[PhC][B(C])である場合は、メタロセン錯体の中心金属に対して0.5~1であることが好ましく、メチルアルミノキサンなどのアルキルアルミ化合物である場合は、メタロセン錯体の中心金属に対して10~4000程度であることが好ましい。
イオン性化合物は、メタロセン錯体をイオン化、即ちカチオン化させて、触媒活性種とすると考えられ、上記した比率の範囲内であれば、十分にメタロセン錯体を活性化することができ、かつ、カルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるイオン性化合物が過剰にならず、重合反応させるべきモノマーとの所望しない反応を起こす恐れを低減できる。
【0025】
(重合体の製造方法)
上記の触媒組成物を重合触媒組成物として用いて、極性オレフィンモノマーを重合(付加重合)させ、好ましくは、非極性オレフィンモノマーと極性オレフィンモノマーを重合(付加重合)させ、オレフィン系重合体を製造することができる。
例えば、1)各構成成分(メタロセン錯体およびイオン性化合物など)を含む組成物を重合反応系中に提供する、あるいは2)各構成成分を別個に重合反応系中に提供し、反応系中において組成物を構成させることにより、重合触媒組成物として用いることができる。
上記1)において、「組成物として提供する」とは、イオン性化合物との反応により活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することを含む。
【0026】
重合体の製造方法は、具体的には、例えば以下の手順により行うことができる。
1.重合体の製造方法に用いる触媒組成物を含む系(好ましくは液相)中に、重合性モノマーを供給して重合させる。ここでモノマーが液体であれば滴下することで供給することができ、気体であればガス管を通して供給(液相反応系であればバブリングなど)すればよい。
2.重合性モノマーを含む系(好ましくは液相)中に、重合体の製造方法に用いる触媒組成物を添加する、または触媒組成物の構成成分を別個に添加することで重合させる。添加される触媒組成物は、予め調製され(好ましくは液相中で調製され)、活性化されていてもよい(この場合は外気に触れないように、添加することが好ましい)。
【0027】
また、該製造方法は、気相重合法、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、固相重合法などの任意の方法であり得る。溶液重合法による場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であり、モノマー及び触媒を溶解させ得、触媒と相互作用をしない溶媒であれば特に限定されない。例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロルベンゼン、ブロムベンゼン、クロルトルエン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
また、生体に対する毒性を有さない溶媒が好ましい。具体的には、芳香族炭化水素、特にトルエンが好ましい。溶媒は1種を単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせた混合溶媒を用いてもよい。
また、用いられる溶媒の量は任意であるが、例えば、重合触媒に含まれる錯体の濃度を1.0×10-5~1.0×10-1mol/Lとする量であることが好ましい。
【0028】
重合反応に供するモノマーの量としては、製造する目的の重合体に応じて適宜設定できるが、例えば、モノマーは、重合触媒組成物を構成するメタロセン錯体に対してモル比で100倍以上、200倍以上、500倍以上にすることが好ましい。
【0029】
重合を溶液重合で行う場合の重合温度は、任意の温度、例えば-90~100℃の範囲で行いうる。重合させるモノマーの種類などに応じて適宜選択すればよいが、通常は、室温近辺、すなわち約25℃で行うことができる。
重合時間は数秒~数日程度であり、重合させるモノマーの種類などに応じて適宜選択すればよい。1時間以下、場合によっては1分以下であってもよい。
もっとも、これらの反応条件は、重合反応温度、モノマーの種類やモル量、触媒組成物の種類や量などに応じて、適宜選択することが可能であり、上記に例示した範囲に限定されることはない。
【0030】
また、前記重合体を共重合体として製造する態様では、
1) ランダム共重合体または交互共重合体であれば、2種類以上のモノマーの混合物を触媒組成物存在下で重合反応させることにより製造することができ、
2) ブロック共重合体であれば、各モノマーを、触媒組成物を含む反応系中に順番に供給することにより製造することができる。
【0031】
また、重合工程後に、例えば、精製工程、極性基におけるRの脱離工程といった極性基の誘導工程などの任意の工程を行うことも可能である。
【0032】
(極性オレフィンモノマー)
前記重合体の製造方法に用いられる極性オレフィンモノマーは、極性基を含有する極性オレフィンモノマーである。好ましくは、以下の一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーである。
CH=CH-R-Z(R・・・(I)
一般式(I)におけるZは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数である。
【0033】
前記重合体の製造方法において、極性オレフィンモノマーにおけるヘテロ原子と触媒の中心金属とが相互作用し、分子内キレートを形成することにより、触媒とオレフィンユニットとの相互作用を促進し、極性オレフィンモノマーの重合活性を促進し、また、独自の立体選択性を発揮するものと考えられる。
【0034】
上記一般式(I)におけるRは、極性オレフィンモノマーの極性基におけるヘテロ原子とオレフィンユニット、及び、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用が形成される限り、限定されない。通常、Rは、置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、好ましくは炭素数1~20、炭素数1~10、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基、直鎖状、分岐鎖状アルケニル基、又は、直鎖状、分岐鎖状アルキニル基;炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基で置換された環状アルキル基(ここで置換基であるアルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基の数及び環状アルキル基における置換位置は特に限定されない);アリール基;炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基で置換されたアリール基(ここで置換基であるアルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基の数及びアリール基における置換位置は特に限定されない)である。ここで、環状アルキル基又はアリール基は、飽和又は不飽和の縮合環を形成していてもよい。
【0035】
前記置換ヒドロカルビル基におけるヒドロカルビル基は、前記したヒドロカルビル基と同様である。置換ヒドロカルビル基とは、ヒドロカルビル基の少なくとも1の水素原子が、ハロゲン原子などで置換されたヒドロカルビル基である。
【0036】
は上記極性オレフィンモノマーにおいて、極性基とオレフィン部とをつなぐスペーサーの役割を果たす。Rは、極性オレフィンモノマーの極性基におけるヘテロ原子とオレフィンユニット、及び、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用が形成される限り、限定されない。分子内相互作用形成の観点から、Rは炭素数2~20であることが好ましい。また、Rの炭素数はZが示すヘテロ原子の種類、Rが示す置換基の種類などに応じて、重合活性等を指標とし、ヘテロ原子とオレフィンユニット、及び、触媒の中心金属との重合反応における分子内相互作用の形成に適した炭素数を選択することができる。通常、Rは、炭素数2~11のヒドロカルビレン基である。より好ましくは、炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状アルキレン基;炭素数3~11の環状アルキレン基;炭素数6~11のアリーレン基;炭素数7~11のアラルキレン基である。Rの置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基又は、炭素数1~10のアルコキシ基等が挙げられる。
【0037】
一般式(I)で表される化合物の一形態は、一般式(II)で表される化合物である。
【0038】
【化3】
【0039】
一般式(II)におけるZ、R、nは、一般式(I)において説明された定義と同義である。一般式(II)におけるZは、好ましくは酸素である。一般式(II)におけるRは、好ましくは炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基である。
芳香環における-Z(Rの結合位置は限定されないが、好ましくはo位である。
【0040】
通常、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基である。より好ましくは、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状アルキレン基;炭素数3~5の環状アルキレン基である。
【0041】
芳香環の置換基であるRはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基又は、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して、飽和、不飽和又はヘテロ縮合環を形成していてもよい。芳香環におけるRの置換位置は限定されないが、好ましくはm位である。mは0~4の整数である。より好ましくは、mは0~2である。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~10のヒドロカルビル基として、より好ましくは、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状アルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。炭素数1~10のアルキルチオ基として、より好ましくは、炭素数1~6のアルキルチオ基であり、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基などが挙げられる。炭素数1~10のアルキルアミノ基として、より好ましくは、炭素数1~6のアルキルアミノ基である。アルキルアミノ基はジアルキルアミノ基がよく、アミノ基を置換するアルキルは同一又は異なるアルキルであってよい。アルキルアミノ基として、さらに好ましくは、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジsec-ブチルアミノ基、ジtert-ブチルアミノ基などのジアルキルアミノ基が挙げられる。炭素数1~10のアルコキシ基として、より好ましくは、炭素数1~3のアルコキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。Rが互いに結合し、Rが置換する芳香環と縮合し形成される飽和縮合環としては、ナフタレン環などが挙げられる。Rが互いに結合し、Rが置換する芳香環と縮合し形成されるヘテロ縮合環としては、インドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、ベンゾフラン環、ベンゾピラン環、ベンゾチオフェン環などが挙げられる。縮合環は1~6個の置換基を有していてもよく、置換基としては上記Rと同様である。
【0042】
一般式(II)で表される化合物の具体例には、2-アリル-4-フルオロアニソール、2-アリル-4,5-ジフルオロアニソール、2-アリル-4-メチルアニソール、2-アリル-4-tert-ブチルアニソール、2-アリル-4-へキシルアニソール、2-アリル-4-メトキシアニソール、3- (2-メトキシ-1-ナフチル)-1-プロピレンなどの置換2-アリルアニソール(以下、「AP」とも称する);無置換の2-アリルアニソール(3-(2-アニシル)-1-プロピレン)(以下、「AP」とも称する);などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
重合反応に用いられる極性オレフィンモノマーは単独でもよく、2種類以上を用いてもよい。


【0044】
(非極性オレフィンモノマー)
前記極性オレフィンモノマーを、他のモノマー(好ましくは非極性オレフィンモノマー)と共重合させてもよい。非極性オレフィンモノマーは、付加重合性があり、極性オレフィンモノマーと共重合可能なものであれば、特に制限されず、例えばエチレン、α-オレフィン、置換および無置換スチレン、ジエン、炭素数3~20の環状オレフィン(2-ノルボルネンやジシクロペンタジエンなどのノルボルネン類やシクロヘキサジエンを含む)などが挙げられる。
α-オレフィンとして具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンのような炭素数3~20の直鎖状α-オレフィンや、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンのような炭素数4~20の分岐鎖状α-オレフィンなどが挙げられる。
オレフィン系モノマーであるジエンの例には、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-
ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエンのような炭素数3~20の直鎖状ジエン、2-メチ
ル-1,3-ブタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエンのような炭素数4~20の分岐鎖状ジエン、シクロヘキサジエンのような炭素数4~20の環状ジエンなどが含まれる。


【0045】
共重合反応に用いられる非極性オレフィンモノマーは単独でもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0046】
極性オレフィンモノマー、非極性オレフィンモノマーは、有機化学分野における常法に基づき、合成したものを使用できる。また、市販されているものを使用してもよい。
【0047】
<極性オレフィン系重合体>
本発明のオレフィン系成形品は、少なくとも1種の一般式(I)で表される極性オレフ
ィンモノマーの構造単位を含む重合体である極性オレフィン系重合体を含む。
本発明のオレフィン系成形品の原料として用いられる極性オレフィン重合体は、極性オレフィンモノマーの構造単位の割合が、モル比率で、20mol%以上であるのが好ましく、より好ましくは30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、又は80mol%以上含む。
また、重合体の分子量分布は任意であるが、重合体の分子量分布が比較的狭い重合体も好ましく用いることができる。ここで分子量分布は、GPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2-ジクロロベンゼンを溶出液として、145℃で測定)などにより測定される値(Mw/Mn)であってよく、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8321 GPC/HT)を用いて測定することができる。
重合体の分子量分布は、通常は、その指標であるMw/Mnが5.0以下、好ましくは4.0以下、3.0以下である。


【0048】
重合体の数平均分子量は任意であるが、重合体の数平均分子量が比較的高い重合体も好ましく用いることができる。数平均分子量(g/mol)は極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率などにより変化するが、上記の様な高度な機械特性、自律的な自己修復作用、形状記憶性等の特性を達成するといった観点から、通常2.0×10以上、好ましくは3.0×10以上、10×10以上、50×10以上、80×10以上、100×10以上、150×10以上、200×10以上、250×10以上、300×10以上、350×10以上、400×10以上、450×10以上、500×10以上、1000×10以上である。
【0049】
重合体のガラス転移点(Tg)は極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造などによって変化し得る。ガラス転移点は特に制限されないが、通常-40~100℃程度である。ガラス転移点は示差走査熱量測定(DSC)法などにより測定することができる。自己修復性の成形品とするためには、原料として用いる前記重合体のTgは、室温(一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)以下であるのが好ましい。また形状記憶性の成形品とするためには、原料として用いる前記重合体のTgは、室温(一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)を超えているのが好ましい。
【0050】
重合体が融点を有する場合は、極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率、その他によって変化するが、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、120℃以上、130℃以上である。融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。
【0051】
前記極性オレフィン系重合体の一実施形態として、前記極性オレフィンモノマーと、エチレン(非極性オレフィンモノマー)との共重合体を例に説明する。同共重合体は、下記式(A)で表される極性オレフィンモノマー由来の構造単位、及び式(B)で表されるエチレン由来の構造単位を有する共重合体である。
【0052】
ここで式(A)におけるZ、R、R、nは、一般式(I)において上記したZ、R、R、nと同様である。
【0053】
【化4】
【0054】
共重合体において、上記式(A)及び式(B)で表される構造単位は、任意の順序に配列していればよい。すなわち、両者がランダムに配列してしてもよいし、何らかの規則性を持って配列(例えば、(A)および(B)の構造単位が交互に配列している、それぞれがある程度連続して配列している、その他の決まった順序に配列している)していてもよい。従って、共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体であってもよい。共重合体は、好ましくは交互共重合体である。
【0055】
ここで、交互共重合体は、主配列として(A)および(B)の構造単位が交互に配置された配列(以下、「交互(A)-(B)配列」又は「(A)-alt-(B)配列」とも称する)からなるが、副配列として、それぞれが2個~ある程度連続して配置された配列などを含む場合がある。共重合体は交互共重合体であって、共重合体の全配列中における交互(A)-(B)配列の割合(2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位及び2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、極性オレフィンモノマーの構造単位と非極性オレフィンモノマーの構造単位とからなる交互配列の合計の割合)がモル比率で、通常30mol%以上、好ましくは40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上含むものである。
より具体的には、交互重合体の態様では、交互配列-(A)-alt-(B)-とともに、(A)及び(B)それぞれの重合配列が含まれていてもよく、交互配列-(A)-alt-(B)-とともに、(B)の重合配列-(B)-(B)-が含まれていることが、後述する通り、本発明の成形品の機能性発現に寄与すると考えらえる。共重合体の全配列中における(B)の重合配列-(B)-(B)-(2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、2種以上の非極性オレフィンモノマーの構造単位からなるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体を含む)の割合がモル比率で、通常60mol%以下、好ましくは50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、又は20mol%以下である。なお、共重合体の全配列中における(A)の重合配列-(A)-(A)-(2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位を含む場合、2種以上の極性オレフィンモノマーの構造単位からなるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体を含む)の割合がモル比率で、20mol%以下、10mol%以下、5mol%以下、又は3mol%以下であることが好ましく、0mol%であってもよい。
【0056】
該配列の割合は、例えばH-NMR、13C-NMRなどにより測定することができる。具体的には、H-NMRにより、1.0-1.5ppmのピークの積分比を比較することにより求めることができる。
【0057】
共重合体に含まれる、式(A)の構造単位及び式(B)の構造単位の含有率は任意である。例えば、全構造単位のうち、式(A)の構造単位の割合をモル比率で、1~99mol%にすることができる。なお、上記製造方法によれば、共重合体における極性オレフィンモノマーの構造単位の割合が比較的高い共重合体とすることもできる。
ここで、本発明のオレフィン系成形品においては、オレフィン系成形品に含まれる共重合体が、十分に高い式(A)の構造単位の割合を有することで、十分に高い交互(A)-(B)配列の割合を有することができ、このことで自律的な自己修復作用や優れた機械特性、形状記憶性といった特性を有すると考えられる。共重合体のこの様な特性により、本発明のオレフィン系成形品は、自律的な自己修復作用とより高度なタフネスを有すると考えられる。また、この高度なタフネスといった機械特性は、十分に高度な引張強度と十分に高度な破断伸びの値とをよりバランスよく有するものであるとも言える。上記の様な高度な機械特性、自律的な自己修復作用、形状記憶性等の特性を達成するといった観点から、共重合体における極性オレフィンモノマーの構造単位の割合は、式(A)の構造単位をモル比率で、通常20mol%以上、好ましくは30mol%以上、40mol%以上、
50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上含む。
該構造単位の割合は、例えばH-NMR、13C-NMRなどにより測定することができる。具体的には、H-NMRにより、ヘテロ原子に隣接したメチレンまたはメチル水素と1-1.8ppmにある炭化水素との積分比を比較することにより求めることができ
る。該構造単位の割合は、共重合体の製造において、原料である各モノマーの比を調整することで制御される。
また、式(A)の構造単位の含有率が高くなると、極性オレフィンモノマーの極性基による特長である、極性材料との接着性、相溶性などが有効に発揮され得る。また、共重合体は高分子量化が可能であるため、絡み合い点が増加し、相溶性や接着性の向上が期待できる点で有利である。


【0058】
共重合体の分子量分布は任意であるが、共重合体の分子量分布が比較的狭い共重合体も好ましく用いることができる。ここで分子量分布は、GPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2-ジクロロベンゼンを溶出液として、145℃で測定)などにより測定される値(Mw/Mn)であってよく、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8121 GPC/HT)を用いて測定することができる。
共重合体の分子量分布は、通常は、その指標であるMw/Mnが5.0以下、好ましくは4.0以下、3.0以下である。
【0059】
共重合体の数平均分子量は任意であるが、共重合体の数平均分子量が比較的高い共重合体も好ましく用いることができる。数平均分子量(g/mol)は(非)極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位と非極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率などにより変化するが、上記の様な高度な機械特性、自律的な自己修復作用、形状記憶性等の特性を達成するといった観点から、通常2.0×10以上、好ましくは3.0×10以上、10×10以上、50×10以上、80×10以上、100×10以上、150×10以上、200×10以上、250×10以上、300×10以上、350×10以上、400×10以上、450×10以上、500×10以上、1000×10以上である。
【0060】
共重合体のガラス転移点(Tg)は極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造などによって変化し得る。ガラス転移点は特に制限されないが、通常-40~100℃程度である。ガラス転移点は示差走査熱量測定(DSC)法などにより測定することができる。自己修復性の成形品とするためには、原料として用いる前記共重合体のTgは、使用温度(例えば、室温が使用温度の場合は、一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)以下であるのが好ましい。また、形状記憶性の成形品とするためには、原料として用いる前記共重合体のTgは、使用温度(例えば、室温が使用温度の場合は、一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)を超えているのが好ましい。
【0061】
共重合体が融点を有する場合は、(非)極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造、極性オレフィンモノマー由来の構造単位と非極性オレフィンモノマー由来の構造単位の比率、その他によって変化するが、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、120℃以上、130℃以上である。融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。
【0062】
本発明に係る前記共重合体の一態様は、下記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を含む。式中、x及びyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示す。
【0063】
【化5】
【0064】
式中、R、R、R、Z、m及びnは、前記式(II)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。x及びyは、各構造単位の割合を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%を満足する正の数である。x+yは、好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、又は97%以上である。
【0065】
<オレフィン系成形品>
本発明のオレフィン系成形品は、一般式(I)で表される極性オレフィンモノマーの重合体を少なくとも1種含む、オレフィン系成形品である。
本発明のオレフィン系成形品の一実施形態は、交互エチレン-(置換)アニシルプロピレン配列を有し、自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有する。自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有するメカニズムは、極性オレフィン共重合体が交互エチレン-(置換)アニシルプロピレン配列を有し、交互エチレン-プロピレン共重合体の骨格における側鎖としての(置換)アニシル基が規則的に分布していることが考えられる。これにより、水、酸、塩基による深刻な影響を受けることなく、損傷面間およびポリマー鎖間において分子の絡み合いが増強された可能性がある。本発明のオレフィン系成形品の一態様では、空気中のみでなく、水中、酸、アルカリ溶液中で、外的エネルギー又は刺激(圧力、温度等)の必要なしに自己修復(すなわち、自律的自己修復)が可能である。本発明のオレフィン系成形品の自己修復作用には、外的エネルギー又は刺激(圧力、温度等)は特に必要はないが、これらを加えることも可能である。外的エネルギー又は刺激(圧力、温度等)を加えることにより、自己修復速度が向上する等の利点が考えられる。
【0066】
ここで「自己修復」とは、成形品等の傷あるいは切断面どうし等の損傷を接触させることで共重合体連鎖の絡み合いが再び起こり、損傷前の成形品等の形状、物性等に戻ることをいう。
自己修復作用は、例えば、損傷を接触させ、所定温度で所定環境下、所定時間放置し、損傷後の形状、物性等を損傷前と比較することにより確認することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法等により確認することができる。本発明のオレフィン系成形品の自己修復効率は、用いる共重合体の種類等により変化し、限定されないが、例えば後記実施例に記載の方法により測定する自己修復性試験において、オレフィン系成形品における損傷を接触させ、室温(例えば25℃)で空気中での放置により、自律的に自己修復し、損傷後の破断伸びが損傷前の破断伸びの通常50%以上、好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、100%である。
【0067】
自己修復性成形品の一態様は、前記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体であって、そのTgが使用温度(例えば、使用温度が室温である場合は、一般的には25℃)以下である前記共重合体を含有する成形品である。
自己修復材料として用いられる本発明の成形品の一態様では、80%以上の自己修復率を達成可能である。
上記自己修復率を達成する時間については特に制限はなく、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、及びx及びyの範囲、及び分子量)等により、調整可能である。一例では、5日間で80%以上の自己修復率を達成可能である。
【0068】
また、本発明のオレフィン系成形品の一形態は、形状記憶作用を有するオレフィン系成形品である。
ここで「形状記憶作用」とは、一次賦形されたオレフィン系成形品を、一次賦形された温度未満ガラス転移温度以上の温度において外力によって変形、ガラス転移温度以下の温度において固定(二次賦形)させたときに、オレフィン系成形品が、二次賦形の形状をガラス転移温度以下の温度においては保持し、無荷重下でガラス転移温度以上の温度に加熱されたときに一次賦形の形状に戻る(回復する)性質を意味する。
形状記憶作用は、例えば、オレフィン系成形品を、所定温度で変形、変形状態に保持した後に、回復させ、回復後の形状等を変形前と比較することにより確認することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法等により確認することができる。形状記憶性能を示す形状固定率及び形状回復率は、熱機械分析(TMA)による伸び率の変化で算出することができ、前者については、Tg以上の温度での変形直後の伸び率E2と、Tg未満の温度で固定された時の伸び率E2’との割合(E2’/E2)として算出でき、形状回復率は、元々の形状までに戻る伸び率E1と、上記変形及び固定を経て、再び、Tg以上の温度で回復させた時の伸び率E1’との割合(E1’/E1)として算出できる。具体的には、熱分析結果から算出できる値である。例えば、後述する図40は、サンプルを50℃に加熱し、100%サンプルを伸張させ、その後、0℃まで冷やして、その状態でサンプルが固定され、形状固定率が99.5%であったことを示す。さらに、引っ張りの負荷をゼロにして、50℃に加熱するとサンプルは回復し、形状回復率が99.1%であったことを示す。
【0069】
前記形状記憶性成形品の一態様は、それが使用される温度(例えば室温)Tuで一定の形状S1を維持し、Tg(Tu<Tg)を超える温度(且つ融点を有する場合は融点未満の温度)Tdにおいて外力を加えることで形状S2に変形でき、形状S2の状態で使用温度Tuまで冷却されると、形状S2を維持しその形状での使用に供され、且つTgを超える温度(且つ融点を有する場合は融点未満の温度)Tr(TrはTdと同一でも異なっていてもよい)において、元の形状S1に戻る性質を有する。即ち、前記態様の形状記憶性成形品は、Tg(Tu<Tg)を超える温度Tdにおいて外力を加えることでオリジナルの形状S1とは異なる形状S2に容易に変形でき、しかもTuまで冷却すれば、その形状S2を維持するという形状固定性(R)と、なんら外力を加えずに、Tg(Tu<Tg)を超える温度Trまで加熱すると、オリジナルの形状S1に再び戻るという形状回復性(R)を併せ持つ。形状記憶性を有する成形品の一実施形態は、前記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体であって、そのTgが使用温度(例えば、使用温度が室温である場合は室温程度(例えば15℃~35℃))ないし使用温度を超える前記共重合体を含有する成形品である。
形状記憶材料として用いられる本発明の成形品の一態様では、形状固定率および形状回復率がそれぞれ50%以上を達成可能であり、好ましくはそれぞれ80%以上を達成可能である。
【0070】
本発明のオレフィン系成形品に含まれる極性オレフィン系重合体は、幅広いガラス転移温度範囲を有し、室温(例えば25℃)でガラス転移温度に応じて、多様な機械的特性(硬質プラスチック、軟質プラスチック、エラストマー及び応力軟化材料)を示す。例えば、後記実施例に記載の通り、ガラス転移温度6℃のP5、4℃のP7、11℃のP8は、室温でエラストマーである(図33のA)。このエラストマーは、優れた機械的特性を示し、特にタフネス、引張強度及び破断伸びに優れる。
【0071】
オレフィン系成形品のタフネス値は、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、及びx及びyの範囲、及び分子量)等により変化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、分子量(Mn)の大きい極性オレフィン系重合体を用いると、得られる成形品のタフネス値が高くなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、通常0.25MJ/mを超え、0.5MJ/m以上を達成可能である。自己修復性の成形品とするためには、好ましくは、1MJ/m以上、5MJ/m以上、10MJ/m以上、20MJ/m以上、又は30MJ/m以上である。室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲のタフネスを示す態様であってもよい。
オレフィン系成形品の引張強度は、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(
III)中のベンゼン環の置換基の種類、及びx及びyの範囲、及び分子量)等により変
化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、ガラス転移点の高い重合体を用いると、成形品の引張強度が高くなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、0.1MPa程度以上を達成可能である。好ましくは、0.4MPa超え、0.5MPa以上、1MPa以上、10.0MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、40Mpa以上、又は50MPa以上である。室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲の引張強度を示す態様であってもよい。
オレフィン系成形品の破断伸びは、用いる重合体の種類(より具体的には、上記式(III)及び(IV)でそれぞれ表される構造単位を有する共重合体を含む態様では、式(III)中のベンゼン環の置換基の種類、及びx及びyの範囲、及び分子量)等により変
化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、ガラス転移点が高い重合体を用いると、成形品の破断伸びが小さくなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、10%程度以上を達成可能である。自己修復性の成形品とするためには、00%超、500%以上、1000%以上、1200%以上、1500%以上、又は2000%以上が好ましい。自己修復性を安定的に得る
ためには、上限値は、10000%程度である。なお、室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲の破断伸びを示す態様であってもよい。


【0072】
極性オレフィン系重合体の機械的特性は、常法の引張試験により測定することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法(JIS K-6251-7に基づいたダンベル形状試験片(幅: 2 mm; 長さ: 12 mm; 厚さ: 1 mm)を用い、ASTM 882-09の試験方法により行う。破断応力-破断ひずみ試験は、ひずみ率200 mm/minで一軸引張試験を用いた破壊により決定する。タフネス値は、応力-ひずみ曲線の面積を計算することにより算出することができる。


【0073】
本発明のオレフィン系成形品は、極性オレフィン系重合体を主成分(50質量%以上)として含むオレフィン系成形品であってよく、また副成分(50質量%未満)として含むオレフィン系成形品であってもよい。極性オレフィン系重合体以外の(共)重合体等の高分子材料、並びに通常成形品に用いられる各種添加剤、例えば、賦形剤、滑剤、紫外線吸収剤、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、流動改良剤、着色剤等を含んでもよい。
【0074】
本発明のオレフィン系成形品は、極性オレフィン系重合体を溶融成形したものが好ましい。溶融成形は、公知の方法により行うことができる。このような溶融成形品は、限定されないが、例えば、射出成形品、真空、圧空成形品、押出成形品、ブロー成形品、熱プレス(溶融プレス)成形品及びキャスト成形品等であり、具体的には、ペレット、繊維及び布、フィルム、シート、不織布等が挙げられる。その他、成形品は、レーザ加工、3Dプリンター技術等を利用して、製造することもできる。
【0075】
(フィルム)
本発明は、前記極性オレフィン系重合体を含むフィルムにも関する。前記フィルムの一実施形態は、透明フィルムである。本発明のオレフィン系成形品であるフィルムは公知の方法により成形することができる。例えば、押出成形、熱プレス成形、キャスト成形等の成形手法を用いることができる。押出成形であれば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、溶融フィルム材料を押し出し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
熱プレス成形であれば、熱板プレス機等を用いて、溶融フィルム材料をプレス、冷却し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
【0076】
また、フィルム材料の共溶媒を用いて、溶解、キャスト、乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
【0077】
成形された未延伸のフィルムはそのまま使用することもできる。フィルム材料として、極性オレフィン系重合体及び前記各種添加剤を予め溶融混錬した材料を用いることもでき、成形時に溶融混錬を経て成形することもできる。
【0078】
未延伸フィルムを機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直する方向に横一軸延伸することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって延伸すること等により二軸延伸フィルムを製造することができる。さらに該フィルムは、熱収縮性等の抑制のため延伸後、通常熱固定処理を行うことができる。得られたフィルムには、所望により公知の方法で、表面活性化処理等を行ってもよい。また、長尺状フィルムとして成形された後、ロール状に巻かれた状態で、保管・搬送されてもよい。


【0079】
本発明のフィルムはそのままで成形品として用いてもよく、また他の種類のフィルム等と組み合わせて用いることもできる。組み合わせの形態としては、他の種類のフィルムとの組み合わせ、例えば、積層体、ラミネート体等が挙げられる。又は、被覆等による他の成形品との組み合わせ等が例示できる。
【0080】
本発明の成形品(例えばフィルム)中の前記重合体の状態を模式的に図36のBに示す。図中、曲線は、アニシルプロピレン等の極性オレフィン系モノマー(A)とエチレン等の非極性オレフィン系モノマー(B)との交互配列鎖-(A)-alt-(B)-を示し、丸は、エチレン等の非極性オレフィン系モノマー(B)のホモ重合配列-(B)-(B)-により形成される結晶性ナノドメインを示す。本発明に係る共重合体中に存在する短鎖の-(B)-(B)-セグメントは、成形品(例えばフィルム)中で凝集して、結晶性ナノドメインを多数形成しているものと考えられる。このことは、WAXDの測定により、斜方晶系結晶(110)面に帰属されるX線回折ピークが生じることから理解できる。本発明の成形品が特異な自己修復性を示す機構としては、以下の通り推測される。本発明の成形品中では、フレキシブルな交互配列鎖(-(A)-alt-(B)-)のマトリックスに、結晶性ナノドメインが分布した状態になっていて、当該結晶性ナノドメインが、フレキシブルな交互配列鎖(-(A)-alt-(B)-)を連結する物理的架橋点として機能しているものと考えられる。成形品に機械的ダメージが加わると、亀裂等が生じ、交互配列鎖のマトリックスが一部破壊されるが、結晶性ナノドメインが再凝集することにより、交互配列鎖(-(A)-alt-(B)-)のネットワーク構造の再構築を容易にし、ダメージ部分の修復が進行しているものと考えられる。
【0081】
また、本発明は、本発明に係る前記(共)重合体の少なくとも1種を含む塗布組成物にも関する。前記塗布組成物は、種々の表面に膜を形成するために用いることができる。前記塗布組成物は、前記重合体とともに、液体(水系、有機溶媒系のいずれであってもよい)ないし固体媒体を含んでいてもよい。媒体を含む態様では、前記重合体は、前記媒体に溶解していても、非溶解(例えば分散)状態であってもよい。前記塗布組成物を、物品の表面の少なくとも一部に塗布して、必要であれば乾燥して媒体を除去して、膜を形成することにより、物品の表面の一部又は全部に自己修復性等の前記重合体由来の性能を付与することができる。
【実施例
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0083】
以下、本発明を、実施例を参照してさらに詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されることはない。
【0084】
<メタロセン錯体>
実施例に使用したメタロセン錯体は、以下に示す文献に記載された方法に準じて合成した。
(1) X. Li, M. Nishiura, K. Mori, T. Mashiko, Z. Hou, Chem. Commun. 4137-4139 (2007)
(2) F. Guo, M. Nishiura, H. Koshino, Z. Hou, Macromolecules. 44, 6335-6344 (2011).
【0085】
実施例に使用したメタロセン錯体は以下のとおりである。
錯体1 : (C5H5)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2
錯体2 : (C5Me4SiMe3)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2
実施例に使用したメタロセン錯体の構造を、図1に示す。
【0086】
<イオン性化合物>
[Ph3C][B(C6F5)4] (97%)は、Strem Chemical Corporationより購入し、精製せずに用いた。
【0087】
<モノマー>
すべてのモノマーは、使用前に、Al(octyl)3(25 wt.% ヘキサン中)及びNaからの蒸留により又はヘキサンからの再結晶により精製した。実施例に使用した極性オレフィンモノマーの構造を、図2に示す。


【0088】
<測定方法>
(NMR)
ポリマーのNMRデータは、Bruker AVANCE III HD 500 NMR (FT, 500 MHz: 1H; 125 MHz: 13C)スペクトロメーターにより、CD2Cl2 (26.8℃)又は1,1,2,2-C2D2Cl4 (120℃)を溶媒として使用し、測定した。1H NMR測定は、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて行い、各種溶媒のケミカルシフトは次の通りである(7.26 ppm : CDCl3, 7.16 ppm : C6D6, 5.32 ppm : CD2Cl2, 6.0 ppm : 1,1,2,2-C2D2Cl4)。13C NMRのケミカルシフトは、各種溶媒のピーク(CDCl3 (77.16 ppm), CD2Cl2(53.84 ppm), 1,1,2,2-C2D2Cl4 (73.78 ppm)又はC6D6 (128.06 ppm))を基準として報告した。カップリングコンスタント(J)はHzで示され、分離したピークの重複を示す。略語s, d, t, q及びmは、各オーダーにおける一重、二重、三重、四重、多重線を示す。
【0089】
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定)
コポリマーの分子量及び分子量分布は、HLC-8321GPC/HT装置(Tosoh Corporation)上で、145℃で高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HT-GPC)により、決定された。1,2-Dichlorobenzene (DCB)を溶出溶媒として流速1.0 mL/minとした。キャリブレーションは、ポリスチレンスタンダード(Tosoh Corporation)を用いて行った。
【0090】
(示差走査熱量測定(DSC))
DSC測定は、DSC 6220 (SII Corporation)にて、速度10℃/minにて行った(特記しない
限り)。ポリマーにおける熱履歴誤差は、試料を、初回150℃に加熱、10℃/min-100℃
まで冷却、2回目のDSCスキャンを記録することで除去された(特記しない限り)。


【0091】
<フィルムの作製>
共重合体フィルムは、30 MPaの圧力下、5分間、160℃で溶融プレスし、10℃/時で22℃まで冷却して作製した。
【0092】
<引張試験>
機械的引張応力試験は、Instron 3342装置(Instron)を用いて行った。各重合体組成
物に対し、3つのサンプルを試験した。引張試験は室温(25±1℃)で、JIS K-6251-7に基
づいたダンベル形状試験片(幅: 2 mm; 長さ: 12 mm; 厚さ: 1 mm)を用いたASTM 882-09の試験方法により行った(伸縮性を評価する場合には、異なるサンプルサイズ及びひずみ率で行った)。破断応力-破断ひずみ試験は、ひずみ率200 mm/minで一軸引張試験を用いた破壊により決定した。ヤング率は、公称応力-公ひずみ曲線における直線領域(0 < ε<
0.05)における初期傾斜とし、3つの単調曲線の平均より算出した。タフネス値は、応力-ひずみ曲線の面積を計算することにより算出した。応力-ひずみサイクル試験は、ひずみ率200 mm/min及び解放率20 mm/minで行った。ひずみ回復は、式:100(εa - εr)/εa
、ここでεa = 適用したひずみ、εr = 10サイクル後の負荷無しのひずみとして、1000%ひずみサイクル試験により決定した。


【0093】
<自己修復試験>
自己修復試験として、サンプルはカミソリの刃を用いて完全に別々の部位に切断した。フィルムの破断表面を空気中、水中、HCl及びNaOH水溶液中で、異なる持続時間で接合させた。すなわち、切断面をそれぞれ合わせ、およそ15秒間軽く圧着した後、25℃で各時間、修復させた。修復された共重合体フィルムについて、上記方法で応力-ひずみ曲線を得た。機械的修復効率ηは、原破壊ひずみに対する修復破壊ひずみの比として決定した。
【0094】
[実施例1]2-アリルアニソール(AP)とエチレンとの共重合(表1 Run 3)
グローブボックス内で、10 mLガラス管中で、[Ph3C][B(C6F5)4] (9.3 mg, 10 μmol)のトルエン溶液(1.0 mL)を、(C5Me4SiMe3)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2(錯体2, 5.1 mg, 10 μmol)のトルエン溶液(1.0 mL)に、マグネチックスターラー攪拌下で、ゆっくりと添加した。三口フラスコ中に、AP(0.74 g, 150 mLトルエン中5.0 mmol)をチャージした。フラスコを外に取り出し、水浴(25℃)に設置し、よくパージしたエチレンシュレンクラインと水銀封入栓とに、三方向コックを使い接続した。エチレンをシステムに導入し、1分間攪拌し、溶液中に飽和させた。触媒溶液を、強攪拌下、封入シリンジで添加した。反応液の粘性が上がった段階で(5分間)、メタノール(50 mL)添加により、重合反応を停止した。ポリマーを濾過により回収し、メタノールで洗浄し、60℃減圧下、24時間乾燥させ、無色のゴム状物質を得た(0.91 g)。得られたポリマーの物性の測定結果を表1に示す。
【0095】
表1に記載したように錯体、モノマーと触媒の比率、反応時間などを変更し、上記APとエチレンとの共重合と同様に重合反応を行った。得られたポリマーの物性の測定結果を表1及び図3~6に示す。
錯体1では共重合体が得られず、高シンジオタクチックホモポリマーが得られた。これは立体的に小さな配位子をもつ触媒を用いたことにより、APモノマーが優先的に錯体1に配位し、重合が進行したためと推測される。立体的に嵩高い錯体2を用いた場合、エチレン-2-アリルアニソール(E-AP)共重合体産物(P1)が排他的に得られた(表1, run 2)。Eを1 atm下、[O]/[M]比を200/1から500/1, 1000/1, 2000/1及び5000/1に上げると、得られる共重合体(P1-P5)の数平均分子量(Mn)は、著しく向上したのに対し、共重合体中のAPモノマー導入率は若干の増加とともに維持された(表1, run 2-6)。
13C{1H} NMR分析により、共重合体(P1-P5)は、主に交互AP-E配列(67-76%)を有し、若干のAP-(E)n-AP配列(n≧2, 19-33%)及びE-AP-AP-E配列(0-5%)を有することが示された。以下の式では、主な配列である交互AP-E配列のみで各共重合体を模式的に示した。また、共重合体(P1-P5)は、非晶体でガラス転移温度を有していた。
なお、錯体2によって、上記特異な構造を有する共重合体を得られた理由については、以下のスキームに従って、共重合が進行したことによるものと推測できる。なお、以下のスキーム中、カウンターアニオンの[B(Cは省略した。
【0096】
【化6】
【0097】
【表1】
【0098】
[実施例2]E-AP共重合体(P1-P5)の物性
共重合体P1-P5を用いて、フィルムを作製した。得られたフィルムの物性の測定結果を表2及び図7~8に示す。
E-AP共重合体P1-P5は、溶融加圧により、無色で可視領域において最大85%の透明性の高いフィルムに加工可能であった(図7)。各共重合体の分子量は、機械的特性に有意に影響を与えた(表2および図8のA)。共重合体P1は、比較的小さな数平均分子量を有し、速度200 mm min-1において600%伸長後、応力軟化を示し、軟粘弾性物質の挙動を示した(図8のA)。これに対し、より長鎖の共重合体P2-P5の静的応力-ひずみ曲線(static stress-strain curve)は、典型的な熱可塑性エラストマーの特性を示した(表2および図8のA)。引張強度(tensile strength)は、分子量の増加につれて増加し、P5では、引張強度10.2 MPa、>2000%のひずみ(strain)に達した。タフネス(toughness;靱性)値は、P2-P5で31.4-68.2 MJ m-3にそれぞれ達し、これらの値は、室温で自己修復性を有する重合体で、これまで最大と考えられる。共重合体の引張強度、ヤング率(Young’s module)および弾性ひずみ回復(elastic strain recovery)は、分子量に応じて増加した(表2)。共重合体P5は、1000%伸長の応力-ひずみ試験で6%の残留ひずみを第1サイクルで示し、第10サイクルで9%の残留ひずみを示し、優れた疲労耐性を示した(図8のB)。共重合体P5をサンプルとして、1000%伸長と解放の1サイクル後、3時間静止した後、完全に回復した応力-ひずみ曲線が得られた(図8のC)。
【0099】
【表2】
【0100】
[実施例3]APRとエチレンとの共重合
置換2-アリルアニソールは、以下に示す文献に記載された方法に準じて合成した。
(1) P. Anbarasan, H. Neumann, M. Beller, Chem. Eur. J. 17, 4217-4222 (2011).
(2) H. Jiang, W. Yang, H. Chen, J. Li, W. Wu, Chem. Commun. 50, 7202-7204 (2014).
【0101】
表3に記載したようにモノマー、錯体、モノマーと触媒の比率、反応時間などを変更し、上記実施例1と同様に重合反応を行った。得られたポリマーの物性の測定結果を表3及び図9~32に示す。
【0102】
APRをモノマーとして、交互エチレン-置換2-アリルアニソール(E-APR)共重合体産物が得られた。2000当量または5000当量のアニシルプロピレンを用いて、高分子量の共重合体P6~P11を得た。共重合体P6~P11は、アニシル部分の様々な置換成分に応じて、広範囲のガラス転移温度を示した。モノマー錯体比及び反応時間を増やすことで、収率及び分子量の向上が確認された。また、P5等と同様、13C{1H} NMR分析により、共重合体(P6-P11)は、主に交互APR-E配列(約57-78%)を有し、若干のAPR-(E)n-APR配列(n≧2, 約20-43%)及びE-APR-APR-E配列(0-4%)を有することが示された。以下の式では、主な配列である交互APR-E配列のみで各共重合体を模式的に示した。
【0103】
【表3】
【0104】
[実施例4]E-APR共重合体(P6-P11)の物性
共重合体P6-P11を用いて、フィルムを作製した。得られたフィルムの物性の測定結果を表4及び図33~35に示す。
共重合体P6~P11のフィルムは、共重合体P6~P10のTgの幅が広いことから、様々な機械特性を示した(図33のA)。n-ヘキシル共重合体P6は、応力軟化材料であり、破断なく10000%まで伸長することができた。フルオロ共重合体、メチル共重合体P7、P8は、典型
的なエラストマーである。P7とP8は、P1~P5と比べて、有意に高い初期弾性率と引張強度を示した(表2,4,図33のA)。P7、P8の破断伸びはP5より短い(表4)が、これら2つのエラストマーはP5よりタフネスが高く、P7、P8が剛性、タフネスの両方を備えていることを示した。これに対して、t-ブチル共重合体P9は軟質プラスチックであり、室温にて引張速度200mm min-1で引っ張ると、延性とひずみ硬化を示した(表4)。ナフチル共
重合体P10は、室温において硬質プラスチックである。P10は、破断点ひずみの著しい低下(7~9%)、高い引張応力(50MPa以上)、並外れて高い初期弾性率(1000MPa以上)を示した。これは、室温でガラス化するからである(Tg=49~53℃)。クロロ置換共重合体P11(Tg=18℃)は、軟質プラスチックであり、高い初期弾性率(218MPa以上)、中間的な破断伸び(954%)、高い引張強度(22.7MPa)、及びタフネス(117MJm-3)を示した


【0105】
E-AP(APR)共重合体は、優れた弾性に加えて、優れた自己修復特性を示した(図34)。P2フィルムサンプルの破損表面同士を室温で接合すると、2つの破損部分が急速に修復された(図34のA)。わずか5分後でも、修復したサンプルは1000%(元の値の50%)まで伸長することができた(図34のB、ii)。修復時間が長いほど修復状態が良好であった。120時間後、破損部分は完全に修復された(図34のB、v)。このことは、別の場所(修復箇所でない場所)を破断させることに加えて、初期状態のサンプルの伸びに相当する伸びを観察することにより立証される。修復サンプルの応力-ひずみ曲線は、初期状態の材料の応力-ひずみ曲線とほぼ重なった。ほとんどの場合、唯一の違いは破断伸びであった(図34のB、C)。より分子量が高いポリマーであるP5は、より長い修復時間を要し、室温で120時間後、元の伸度の90%の回復に達した(図34のC)。修復サンプルP5は、1520%の伸びで6.7MPaもの高い引張強度を示した(図34のC、v)。
【0106】
フィルム状のP5にカミソリの刃で割れ目を入れ、25℃の空気中に放置したところ、5分後には、視認できる損傷は観察されなかった(図34のDを参照)。さらに注目すべきことには、この急速な自己修復は水中でも発生した(図34のEを参照)。あらかじめ完全に切断してから96時間かけて25℃の水中で修復したフィルム状のP2は、1670%(元の値の約80%)まで伸長することができた(図34のF、iv)。P2サンプルを切断し37℃(ヒトの体温)の水中で24時間かけて修復させた場合、完全に回復するのが観察された(図34のG、iv)。さらに、この破損サンプルは、酸性溶液や塩基性溶液(1M HCl、1M NaOHなど)の中でも自己修復できた(図34のH)。イオン凝集や水素結合に基づく既存の自己修復材料は、水中、酸性条件、塩基性条件で機能するのが困難であったが(非特許文献2)、上記特性は、このような既存の材料と際立って対照的である。
【0107】
応力軟化材料であるP6は、粘着性が高いことから高速の自己修復特性を示した(図34のI)。注目すべきことには、P5と比べて、フルオロ共重合体、メチル共重合体P7、P8の方が室温時に良好な修復効率を示した(図34のJ、K)。修復時間が5日の場合、破断伸びの回復率は86%、87%となった。さらに注目すべきことには、再修復後のP7サンプルとP8サンプルは、11.9MPA、12.6MPaの引張応力を示した。これらの値は、自律的修復材料として今までに報告されている中で最も高く、既存のあらゆる初期状態の自己修復材料と比べても高い(非特許文献2)。
【0108】
t-ブチル共重合体P9は室温で軟質プラスチックであり、ナフチル共重合体P10は室温で硬質プラスチックであるが、両方とも、高温時に良好な弾性特性を示した(データは示さず)。熱的に特異な可塑性と弾性を有しているので、形状操作の際に柔軟性がある。図35に示すように、所定の形状のP10のフィルムサンプルは80℃で外力を加えると伸長し、変形形状となり、それを室温まで冷却すると、変形形状が固定化されたが、なんら外力を加えずに、80℃まで再び加熱すると、オリジナルの形状がほぼ完全に回復するのが観察された。また、図39に示すように、P9のフィルムサンプルは、50℃で外力を加えると伸長し、変形形状となり、それを20℃まで冷却すると、変形形状が固定化されたが、なんら外力を加えずに、50℃の水中に置いて加熱すると、5秒でオリジナルの形状がほぼ完全に回復するのが観察された。
また、別途、P9のフィルムサンプルについて、温度50℃における2つの形状記憶サイクル(熱機械分析(TMA))を測定した結果を図40に示す。図40に示すグラフから、P9のフィルムサンプルは、温度制御によって形状記憶材料として機能し、形状固定率および形状回復率は99%と優れた特性を示した。このような、制御可能な形状変化挙動を有する熱応答性の材料も、実世界のデバイス応用で非常に望ましい材料である。
【0109】
【表4】
【0110】
上記実施例で製造した共重合体が、エラストマー物性や自己修復性および形状記憶特性を発現する理由の一つとして、アニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットが柔らかい成分として働き、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットが物理的な架橋点として働くことができるネットワーク構造の構築が重要な鍵となっていることが考えられる。水素結合やイオン結合などを活用する従来の自己修復性材料は、水中ではそれらの相互作用が弱められるため、うまく機能しないことがある(非特許文献2)。しかし、上記実施例のE-AP(APR)共重合体におけるエチレン-エチレン連鎖の結晶ユニットやアニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットは、水の影響を受けないため、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中でも自己修復性や形状記憶特性を発現できる点に大きな特徴がある。AP含有量が25mol%(P2’)、12.5mol%(P2”)という「交互性」を低減した2つのE-AP共重合体を合成した。共重合体P2’はP2と比べて修復効率が有意に低く、P2”は完全に修復特性を失っていた(但し、透明フィルム等として他の用途(例えば、極性フィルムと非極性フィルムとの間に配置される中間層用フィルム等)として有用である。)。
【0111】
上記で製造したP5のフィルム成形品(厚み1mm)について、異なる温度条件下(25℃、60℃、90℃、120℃、150℃)で、広角X線回折(WAXD)を測定した。結果を図37に示す。図37に示す通り、斜方晶系結晶(110)面に帰属されるX線回折ピークが15.26nm-1に観測された。これは、フィルム中に含まれるエチレンのホモ重合配列が凝集することによって形成された結晶性ナノドメインに由来すると考えられる。この回折ピークは、150℃の条件では観測されなかった。このことは、前記結晶性ナノドメインが融解したことにより、結晶性が失われたことを示唆する。
【0112】
また、P5のフィルム成形品(厚み1mm)について、室温(25℃)で、小角X線散乱(SAXS)を測定した。結果を図38に示す。図38に示す通り、ピークトップが約0.283nm-1にある、ブロード散乱ピークが観察された。この散乱ピークは、結晶性ナノドメインに由来すると考えらえる。等式d=2π/qに従って、平均のドメインサイズを算出したところ、22nmであった。
【0113】
WAXDおよびSAXSの測定はSPring-8(日本シンクロトロン放射線研究所、兵庫、日本)のBL05XUビームラインで行った。X線波長は0.1nmに設定した。2D WAXDおよび2D SAXSパターンは、X線検出器として172×172μmのピクセルサイズを有する941×1043ピクセルのPILATUS 1M(DECTRIS、スイス)によって記録した。サンプルから検出器までの距離は、WAXDでは106 mm、SAXSでは3906 mmとした。ブロックヒーターを備えた試料室を用いて精密な温度制御下で測定を行った。散乱ベクトルはq =(4π/λ)sinθとして定義される(2θは散乱角)。散乱ベクトルは、WAXDについてはCeO2、SAXSについてはコラーゲンのピーク位置を用いて較正した。 TGAはEXSTAR TG / DTA - 6200サーモ天秤(日立ハイテクサイエンスコーポレーション、東京、日本)で記録した。昇温速度10℃min-1とした。
【0114】
400メッシュの炭素被覆銅グリッド上で、P5のCHCl溶液(0.5mg /mL)を溶媒揮発させることによって、超薄フィルムを形成し、これをTEM測定の試料とした。TEMは、200kVの加速電圧で操作されたJEOLモデルJEM - 2100F / SPを用いて測定した。連続的なマトリックス中に分散したナノスケールの結晶性ドメインが存在する分離構造が観察された(図36のA)。
【0115】
上記と同様にして製造したP5のフィルムを袋状に加工した。袋の開口部に紐を通して、吊るした状態にし、水を半分の高さまで注入した。袋の底(水が充填されている底)から裁縫用針を上部(開口部)に向けて突き刺し、袋に充填されている水中に針が入ったことを確認した後、針を反対方向に袋から引き抜いた。この間、約3秒であった。針を完全に引き抜いたが、針によって開けられた袋の底の孔は、修復により直ぐに消失し、袋からの漏水は全く生じなかった。このことから、本件発明の成形品は、液体と気体との界面に配置される部材として用いた場合も、自己修復性を示すことが理解できる。この結果から、本発明の成形品は、例えば、複数のウェルが配置されたマイクロプレートのウェルを閉塞する部材として利用可能であり、本発明の成形品を用いることで、ウェル内を密封した状態でウェルに試料(液体試料を含む)であっても注入、及び取り出すことが可能になることが理解できる。
【0116】
P5重合体を、縦横2cm、厚さ5mmの正方形柱形状に真空加熱プレスで加工成形した。この成形品サンプルを、端部から長さ1cm(中間点)付近で、カッターで完全に切断した(厚さ及び縦の長さはそのままで横の長さが半分の2つのパーツとした)。室温で、2つのパーツの切断面を、互いに手で押しつけたところ、接着して一体となった。この一体となったサンプルの上部及び下部をそれぞれクリップで挟み、上部のクリップを保持し、接着面を床面と略平行にして、吊るした状態にした。下部のクリップに、重さ1.2kgの重りを吊るして、1分程度観察した。接着した成形品は分離することなく、一体性を維持した。
【0117】
P5重合体をトルエンに溶解した溶液を金属表面に塗布し、乾燥してトルエンを除去する。金属表面に膜が形成できる。この膜の表面に、カッターで切れ目を入れると、成形したフィルムと同様、自己修復し、切れ目が閉じて、一様な膜として修復される。
【0118】
本発明によれば、原料となる極性オレフィン系重合体の分子量、モノマー種、共重合体においては重合比率等を調整することで、高透明度、高弾性、自己修復特性、形状記憶特性等の1以上の機能を付加した成形品を得られる。本発明によれば、種々の将来の応用分野(人体用の自己修復可能な移植片など)に有用な成形品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のオレフィン系成形品は、限定されないが、各種産業(例えば医療、建築、輸送、電子・電気等)用材料・表面被覆材料・機器・部品・製品等の用途に利用可能である。特に、損傷を検出することが困難又は修復が高コスト又は不可能な分野、例えば海底における装置、宇宙空間における装置・医療材料、機器等に特に好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40