(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】脈波信号の解析装置、脈波信号の解析方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20230808BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61B5/02 310Z
A61B5/02 C
A61B10/00 H
(21)【出願番号】P 2020530018
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020762
(87)【国際公開番号】W WO2020012793
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018131025
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南野 哲男
(72)【発明者】
【氏名】原 量宏
(72)【発明者】
【氏名】石澤 真
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202348(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159692(WO,A1)
【文献】特開2014-171660(JP,A)
【文献】特開2017-042386(JP,A)
【文献】特開2014-042547(JP,A)
【文献】特開2016-083367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03,9/00-10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の心拍に応じて脈波信号を非観血的に検出する信号検出手段と、
前記信号検出手段により検出された脈波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された周波数スペクトルに基づいて心房細動の状態を検出する解析手段と
を備え、
前記生成手段は、前記脈波信号の所定のフレーム時間のフーリエ変換を、0.005秒~0.02秒の範囲でずらしながら繰り返して演算する脈波信号の解析装置。
【請求項2】
前記信号検出手段により検出された脈波信号をフィルタ処理するフィルタをさらに備え、前記生成手段は前記フィルタから出力された前記脈波信号から周波数スペクトルを生成する請求項1に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項3】
前記解析手段は、前記周波数スペクトルにおいて前記心拍の周期に対応する周波数成分に複数のピークを有しない場合に心房細動の状態を検出する請求項1または2に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項4】
前記所定のフレーム時間は2秒から4秒である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項5】
前記信号検出手段は、圧脈波の脈波信号を検出する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項6】
前記解析手段は、周波数スペクトルの時間変化に基づいて心房細動の状態を検出する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項7】
前記解析手段は、所定の本数のピークが持続する時間に基づいて心房細動の状態を検出する請求項6に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項8】
前記解析手段は、前記ピークの周波数が変動する量にさらに基づいて心房細動の状態を検出する請求項7に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項9】
前記解析手段は、所定の周波数のピークが持続する時間、ピークの周波数の変動、および時間的に連続性のないピークが出現する回数、のうちの2つ以上に基づいて心房細動の状態を検出する請求項6ないし8のいずれか一項に記載の脈波信号の解析装置。
【請求項10】
生体の心拍に応じて脈波信号に基づいて心房細動の状態を検出する
脈波信号の解析方法であって、
コンピュータによって実行される前記解析方法は、
前記脈波信号を非観血的に検出するステップと、
検出された前記脈波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成するステップと、
生成された前記周波数スペクトルに基づいて心房細動の状態を検出するステップと
を備え、
前記生成するステップは、前記脈波信号の所定の期間のフーリエ変換を、0.005秒~0.02秒の範囲でずらしながら繰り返して演算するステップを含む脈波信号の解析方法。
【請求項11】
検出された前記脈波信号をフィルタ処理するステップをさらに備え、前記生成するステップは前記フィルタ処理された前記脈波信号から周波数スペクトルを生成するステップを含む請求項10に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項12】
前記心房細動の状態を検出するステップは、前記周波数スペクトルにおいて前記心拍の周期に対応する周波数成分に複数のピークを有しない場合に心房細動の状態を検出するステップを含む請求項10または11に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項13】
前記所定の期間は2秒から4秒である請求項10ないし12のいずれか一項に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項14】
前記心房細動の状態を検出するステップは、圧脈波の脈波信号を検出する請求項10ないし13のいずれか一項に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項15】
前記心房細動の状態を検出するステップは、周波数スペクトルの時間変化に基づいて心房細動の状態を検出する請求項10ないし14のいずれか一項に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項16】
前記心房細動の状態を検出するステップは、所定の本数のピークが持続する時間に基づいて心房細動の状態を検出する請求項15に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項17】
前記心房細動の状態を検出するステップは、前記ピークの周波数が変動する量にさらに基づいて心房細動の状態を検出する請求項16に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項18】
前記心房細動の状態を検出するステップは、所定の周波数のピークが持続する時間、ピークの周波数の変動、および時間的に連続性のないピークが出現する回数、のうちの2つ以上に基づいて心房細動の状態を検出する請求項15ないし17のいずれか一項に記載の脈波信号の解析方法。
【請求項19】
コンピュータに、請求項10ないし18のいずれか一項に記載の脈波信号の解析方法を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項20】
請求項19に記載のコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波信号の解析装置、脈波信号の解析方法およびコンピュータプログラムに関し、特に、自動血圧計等に付帯した脈波検出機能を用いた脈波信号の解析装置、脈波信号の解析方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は不整脈の一種であり、心房全体が非常に速く小刻みに興奮収縮し、その興奮が無秩序に心室に伝わることによって心臓の収縮および拡張が障害され、規則的な拍動が失われる状態をいう。
【0003】
心房細動が長期間続くと、心臓の機能が低下する可能性がある。また、心房細動になると血栓ができやすくなり、血栓が血流により脳内まで移動し、脳梗塞の発症リスクを増加させる。
【0004】
統計上、心房細動の患者のうち、年間3~5%の患者に脳梗塞が発生しているといわれている。さらに、心房細動の有病率は加齢とともに高くなるため、心房細動は心臓病の中でも重要な病気と考えられている。したがって、心房細動を早期に発見し適切な治療を開始することは、心原性脳梗塞の予防のために重要である。
【0005】
心房細動は心電図検査により発見することができる。例えば、特許文献1および2、ならびに非特許文献1には、心電図検査を、心房不整脈の検出及び分類に使用することが記載されている。心電図検査は、心拍数を、体内で心周期ごとに生成される電気パルスを計測する方法である。しかしながら、心電図検査は健康診断や人間ドック等で行わなければならず、時間がかかり、煩雑である。また、特許文献1に記載のような検査は観血的であるため、感染対策や安全性への配慮が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-504888号公報
【文献】特開2018-11948号公報
【文献】特開2014-42547号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】“Spectral characteristics of ventricular response to atrial fibrillation,” American Physiological Society,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3には、動脈の拍動、すなわち脈波信号を使用して心房細動を判定することが開示されている。脈波信号を平均した平均脈波RR間隔が算出され、このRR脈波間隔について周波数解析が行われる。しかしながら、この手法では、細かい変動を均す一方で、および平均脈波RR間隔に対するばらつきの度合を求める必要があり、長時間の測定と複雑な計算が必要とされる。このため、短時間で精度よく心房細動を判定する手法が求められている。
【0009】
また、心房細動の症状には個人差があり、心房細動に罹患している人のうち自覚症状のない人は40%と見積もられている。また、時々動悸がする程度で症状が気にならない人もいる。このように、心房細動の自覚症状がない場合、あるいは症状が気にならない場合、心房細動を見つけるために煩雑な検査を受ける機会を逃してしまうことがある。
【0010】
また、医療サービスの乏しい地域では、このような検査を受けること自体が難しい。このような事情の結果として、症状が放置され、早期の発見・治療の機会を逸してしまうという問題がある。
【0011】
さらに、心房細動の初期にみられる発作性心房細動の場合は、心房細動の状態にある期間が短いため、測定時に心房細動を発見できないことがある。したがって、繰り返し検査を行うことができる簡易な検査方法が望ましい。
【0012】
このため、心電図検査以外の簡易な方法を用いて心房細動を高い確率で判定する方法が望まれている。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な方法で精度よく心房細動の状態を判定することができる脈波信号の解析装置、脈波信号の解析方法およびコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、実施形態の一態様によれば、生体の心拍に応じて脈波信号を非観血的に検出する信号検出手段と、前記信号検出手段により検出された脈波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する生成手段と、前記生成手段により生成された周波数スペクトルに基づいて心房細動の状態を検出する解析手段とを備え、
前記生成手段は、前記脈波信号の所定のフレーム時間のフーリエ変換を、0.005秒~0.02秒の範囲でずらしながら繰り返して演算する脈波信号の解析装置を提供する。
【0015】
ここで、前記信号検出手段により検出された脈波信号をフィルタ処理するフィルタをさらに備え、前記生成手段は前記フィルタから出力された前記脈波信号から周波数スペクトルを生成するものとすることができる。
【0016】
また、前記解析手段は、前記周波数スペクトルにおいて前記心拍の周期に対応する周波数成分に複数のピークを有しない場合に心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0017】
また、前記所定のフレーム時間は2秒から4秒とすることができる。
【0018】
また、前記信号検出手段は、圧脈波の脈波信号を検出するものとすることができる。
【0019】
また、前記解析手段は、周波数スペクトルの時間変化に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0020】
ここで、前記解析手段は、所定の本数のピークが持続する時間に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0021】
ここで、前記解析手段は、前記ピークの周波数が変動する量にさらに基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0022】
ここで、前記解析手段は、所定の周波数のピークが持続する時間、ピークの周波数の変動、および時間的に連続性のないピークが出現する回数、のうちの2つ以上に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0023】
実施形態の別の態様によれば、生体の心拍に応じて脈波信号に基づいて心房細動の状態を検出する方法であって、前記脈波信号を非観血的に検出するステップと、検出された前記脈波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成するステップと、生成された前記周波数スペクトルに基づいて心房細動の状態を検出するステップとを備え、前記生成するステップは、前記脈波信号の所定の期間のフーリエ変換を、0.005秒~0.02秒の範囲でずらしながら繰り返して演算するステップを含む脈波信号の解析方法を提供する。
【0024】
ここで、検出された前記脈波信号をフィルタ処理するステップをさらに備え、前記生成するステップは前記フィルタ処理された前記脈波信号から周波数スペクトルを生成するステップを含むものとすることができる。
【0025】
また、前記心房細動の状態を検出するステップは、前記周波数スペクトルにおいて前記心拍の周期に対応する周波数成分に複数のピークを有しない場合に心房細動の状態を検出するステップを含むものとすることができる。
【0026】
また、前記所定の期間は2秒から4秒とすることができる。
【0027】
また、前記心房細動の状態を検出するステップは、圧脈波の脈波信号を検出するものとすることができる。
【0028】
また、前記心房細動の状態を検出するステップは、周波数スペクトルの時間変化に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0029】
ここで、前記心房細動の状態を検出するステップは、所定の本数のピークが持続する時間に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0030】
また、前記心房細動の状態を検出するステップは、前記ピークの周波数が変動する量にさらに基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0031】
また、前記心房細動の状態を検出するステップは、所定の周波数のピークが持続する時間、ピークの周波数の変動、および時間的に連続性のないピークが出現する回数、のうちの2つ以上に基づいて心房細動の状態を検出するものとすることができる。
【0032】
実施形態の他の態様によれば、コンピュータを、上記の脈波信号の解析装置として機能させるコンピュータプログラムを提供する。
【0033】
実施形態の他の態様によれば、上記のコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0034】
本開示によれば、脈波信号を非観血的に検出し、検出された脈波信号を、0.005秒~0.02秒の範囲でずらしながら繰り返して所定の期間フーリエ変換して周波数スペクトルを生成し、生成された周波数スペクトルに基づいて心房細動の状態を検出する。したがって、簡易に心房細動の状態を検出することができる。
【0035】
また、簡易な方法で心房細動の状態を検出することができるため、繰り返し検査を行うことにより、発作性心房細動を発見する確率が向上する。
【0036】
さらに、圧脈波を用いて脈波信号を検出することで、血圧計を用いて短時間で信頼度の高いデータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】一実施形態に係る脈波の解析装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】解析装置100により検出された値の例を示す図である。
【
図3】一実施形態に係る心房細動の検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】(a)は一実施例に係る計測結果脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図、(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す図である。
【
図5】フーリエ変換の結果の時間変化を示す図の作成方法を示す図であり、(a)は脈波波形、(b)は作成された図である。
【
図6】(a)は一実施例に係る計測結果の脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図である。
【
図7】(a)は一実施例に係る計測結果の脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図、(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す図である。
【
図8】(a)は一実施例に係る計測結果の脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図である。
【
図9】(a)は一実施例に係る計測結果の脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図、(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す図である。
【
図10】一実施形態に係る心房細動の判定方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において、脈波とは心臓の拍動によって生じる身体の部分の容積変化の波形のことを言う。脈波のうち、血圧の変化によるものを圧脈波、容積の変化によるものを容積脈波といい、本実施形態ではこれらのいずれをも含む。
【0039】
図1は、本発明の実施形態に係る脈波の解析装置の機能構成を示すブロック図である。解析装置100は心房細動の診断装置として機能するものであり、脈波検出部104と解析部101とが接続されて信号を通信することができるように構成される。この場合、通信手段は有線でもよく、あるいはBluetooth(登録商標)等の無線通信規格に準拠したものであってもよい。脈波検出部104と解析部101とは一体として1つの装置に組み込まれてもよく、別個に構成されてもよく、また互いに着脱可能に構成されてもよい。
【0040】
解析部101は、演算部102、記憶部114、入力部116、通知部118および電源120を含んで構成される。
【0041】
脈波検出部104は、生体の心拍に応じて脈波信号を非観血的に検出するものであり、接触型または非接触型の生体センサとして構成され得る。例えば解析装置100は血圧計として構成することができ、この場合、脈波検出部104は腕の所定部位に巻くカフを含むものとして構成される。カフには膨張可能な袋状部材が設けられる。血圧計には、腕等に巻かれたカフの内側に位置する動脈内の血流を遮断するための圧迫圧力が予め設定されている。脈波を検出する際には、この袋状部材内部の圧力を、当該圧迫圧力まで昇圧させた後に、所定の速度で徐々に降圧させることで血圧を測定する。カフで圧迫された血管は心臓の拍動に合わせて振動を起こすため、血圧測定における降圧の過程において、袋状部材内の圧力を逐次検出し、その圧力変化から脈波を検出する。
【0042】
脈波検出部104を血圧計とワイヤレス型の心電送信機の組み合わせとして構成し、解析装置100をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置として構成してもよい。この場合、脈波検出部104は血圧を計測する操作の実行を指示するボタン等の入力部、および計測結果を表示するための表示部を含むこととしてもよい。
【0043】
あるいはまた、脈波検出部104は触覚センサ等の圧力により脈波信号を計測する他の任意のセンサにより構成してもよい。
【0044】
代替として、解析装置100はレーザ光を用いて酸素飽和度を測定するパルスオキシメータ等を含む指尖脈波検出装置として構成してもよい。この場合、脈波検出部104は生体の手や足の指先に赤外線レーザを照射し、指先を流れる血液の容積の変化を測定することにより脈波を検出する。
【0045】
あるいはまた、解析装置100はカメラや携帯端末等の非接触型デバイスとして構成してもよい。この場合、脈波検出部104は撮像された画像に基づいて血流によって生じる輝度変化を計測することにより脈波を検出する。
【0046】
あるいはまた、解析装置100は他の光学式心拍計測装置として構成してもよい。この場合、脈波検出部104は光学式心拍センサを有して構成される。脈波検出部104はLEDを用いて腕等の所定の位置に対して光を照射し、血流によって反射される散乱光の量を測定することで、脈波を検出する。
【0047】
次に、解析部101が有する諸機能について説明する。演算部102は脈波検出部104から出力される脈波の電気信号に基づいて演算処理を行うものであり、1つまたは複数のプロセッサにより構成される。演算部102は、さらに記憶部114、入力部116、および通知部118に通信可能に接続される。記憶部114は、本実施形態に係る処理を実行するためのプログラムや演算処理に用いられるデータまたは演算結果のデータを記憶するように構成される。具体的には、記憶部114は、USBフラッシュドライブ、リムーバブルハードディスク、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気ディスクまたは光ディスク等として構成することができる。
【0048】
入力部116は、ユーザから情報処理のための命令や設定値の情報を入力するためのキーボード、ボタン、ダイヤルもしくはスイッチ、またはデータを入力するための入力インタフェース等として構成される。通知部118は、演算部102による演算結果に基づく通知情報を出力するための液晶ディスプレイ、ランプ、またはスピーカ等として構成される。加えて、解析装置100は、当該装置内の各構成要素へ電源を供給するための電源120を含んでいる。
【0049】
次に、演算部102に含まれる各構成要素について説明する。演算部102は、フィルタ105、スペクトル生成部108、および心房細動検出部113を含んでいる。
【0050】
フィルタ105は脈波に関連する周波数を通過させるためのものである。ここで通過させる周波数は、可聴周波数以下の周波数とすることができる。また、フィルタ105は心房粗動に関連すると考えられる高周波圧力信号を除去するように設計された低域フィルタとして構成してもよい。
【0051】
スペクトル生成部108はスペクトル解析を行うために脈波信号の時系列データに対してフーリエ変換を行う。フーリエ変換として、例えば高速フーリエ変換(FFT)を行うこととしてもよい。結果として、スペクトル生成部108は信号波形の周波数スペクトルを取得する。なお、高速フーリエ変換は一例であり、周波数スペクトルを生成するための他のフーリエ変換を用いることができる。
【0052】
心房細動検出部113は信号波形の解析を行うように構成されており、少なくとも、スペクトル生成部108により取得された周波数スペクトルから生体の心房細動の状態を検出する。
【0053】
なお、解析部101内の演算部102に含まれている機能のうちの1つまたは複数を脈波検出部104に実装することとしてもよい。例えば、脈波検出部104にフィルタ105の機能を設け、脈波検出部104においてフィルタ処理された脈波信号を演算部102に供給することとしてもよい。
【0054】
次に、心房細動の検出処理を具体的に説明する。一例として、脈波検出部104を心電送信機と自動血圧計との組み合わせとして構成し、心電図と血圧との同時測定を行う場合について説明する。
図2は解析装置100により検出された値の例を示す。同図において、横軸は時間(s)を示す。また、破線の曲線302は自動血圧計のカフ圧(mmHg)を示し、実線の曲線304は心電送信機から出力される圧脈波振幅(mmHg)を示す。血管内圧がカフ圧を上回る期間においては血管が拡張することにより、血管の容積変化がカフの内圧を上昇させる。オシロメトリック法では、カフを減圧していく過程で心臓の拍動に同調したカフ圧の変動を観測することで血圧を求める。ここで観測されるカフ圧の変動が圧脈波として計測される。
【0055】
患者から得られた脈波波形について、フィルタ処理を行う。次いで、フィルタ処理された波形をフーリエ変換する。ここで変換する区間は、略2~20秒間とすることが望ましい。この区間において、2~4秒のフレーム時間(間隔)のデータを、1秒間に50回から200回の頻度(0.005秒~0.02秒ずつ)で、時間軸をずらしながら取得する。
【0056】
心房細動検出部113は、スペクトル生成部108から出力された周波数スペクトルの値を解析する。例えば、
図4(b)に示すように、横軸に等間隔に2本または3本の明確なピークを有する場合、心房細動の状態にないこと(陰性)を検出する。ここで、周波数スペクトルの「ピーク」とは、圧脈波振幅のピークを指す。このピークは、具体的には生体の心拍の周期に対応する基本周波数および高調波の周波数成分の位置に存在する。他方、
図7(b)に示すように周波数スペクトルの値において心拍の周期に対応する周波数成分の位置に明確なピークを有しない場合、心房細動の状態にあること(陽性)を検出する。
【0057】
次に、
図3のフローチャートを参照し、本実施形態に係る解析装置によって実行される心房細動の検出方法について説明する。
【0058】
まず、ステップS202において、解析部101が、脈波検出部104から生体の脈波の信号を入力する。ステップS204において、フィルタ105が、脈波に関連する周波数を通過させるためのフィルタリングを行う。ステップS206において、スペクトル生成部108が、フィルタ105から入力される信号の時系列データを入力し、高速フーリエ変換を行い、周波数スペクトルを取得する。
【0059】
ステップS208において、心房細動検出部113が、スペクトル生成部108により取得された周波数スペクトルから、生体が心房細動の状態にあること(陽性)を検出する。具体的には、周波数スペクトルにおいて心拍の周期に対応する周波数成分に明確なピークを有しない場合、心房細動の状態にあること(陽性)を検出し、心拍の周期に対応する周波数成分に明確なピークを有する場合、心房細動の状態にないこと(陰性)を検出する。その後、心房細動の状態が検出された場合、解析部101は検出結果を記憶部114に記憶し、通知部118を通じて心房細動が発生した可能性があることを通知して処理を終了する。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、洞調律、持続性心房細動または期外収縮の患者を対象とした。脈波検出部104に相当する構成要素として、オムロンヘルスケア社製のヘルスパッチMD(心電送信機)、およびHEM-6310F/M6(自動血圧計)を使用した。また、解析部101に相当する構成としてパーソナルコンピュータを使用した。そして、
図2を参照して上述した心電図と血圧との同時測定を、合計280名(洞調律:197名、心房細動:40名、他の不整脈:43名)に対して行った。
【0061】
次に、患者から得られた脈波波形について高速フーリエ変換を行って、周波数スペクトルを取得した。上記自動血圧計は1回の血圧および脈拍数の計測に20~30秒ほどかかるため、20~30秒間全体を高速フーリエ変換の分析対象とした。
【0062】
図4は洞調律の患者に関して得られた計測結果を示す。(a)は脈波波形であり、横軸は時間(×0.01秒)、縦軸は圧脈波振幅である。また、(b)は高速フーリエ変換後の図を示し、横軸は心拍数(回/分)、縦軸は圧脈波振幅を示す。なお、自動血圧計で計測したデータはサンプリング回数が少なかったので、高速フーリエ変換の電子回路の特性に合わせるため、実際の横軸データの数を100倍程度に増やしている。
図4(b)に示す周波数スペクトルの図において、矢印401は基本波のピーク、矢印402および403は高調波帯域のピークを示している。同図に示すように、洞調律の患者では、心拍の周期に対応する約65(回/分)、ならびにその高調波帯域である約130(回/分)および約190(回/分)辺りに周波数の3峰性の鋭いピーク波形が認められる。
【0063】
図4(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す図である。この図の作成方法を、
図5を参照して説明する。
図5(a)は脈波波形であり、横軸は時間(秒/20)、縦軸はカフ圧(mmHg/2)である。脈波波形のうち20秒の範囲を指定し、この範囲でフレーム時間3秒のフーリエ変換を、0.01秒ずつずらしながら繰り返した。次いで、得られたフーリエ変換の結果のうちから17秒を切り出して、時間軸上に並べて、心拍情報のピークをマッピングし、
図5(b)に示すグラフを得た。
図5(b)において、横軸は時間を示し、1700個(17秒/0.01秒=1700)のデータが並べられている。縦軸は周波数を示す。フーリエ変換の結果におけるスペクトル強度は色の濃淡で表しており、最高の値を1として、0.8~0.9の範囲を淡色で表している。
【0064】
図6は洞調律の別の患者に関して得られた計測結果を示し、(a)は脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図を示す。
図6(b)に示す周波数スペクトルの図において、矢印501は基本波のピーク、矢印502および503は高調波帯域のピークを示している。同図においても、
図4と同様に、患者の心拍の周期に対応する約55(回/分)、ならびにその高調波帯域である約110(回/分)および約165(回/分)辺りに周波数の3峰性の鋭いピーク波形が認められる。
【0065】
図7は心房細動の患者に関して得られた計測結果を示し、(a)は脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図、(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す。
図7(b)に示す周波数スペクトルの図において、3峰性の鋭いピーク波形が消失していた。
【0066】
図8は心房細動の別の患者に関して得られた計測結果を示し、(a)は脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図を示す。
図8(b)に示す周波数スペクトルの図においても、
図7と同様に3峰性の鋭いピーク波形が消失していた。
【0067】
図9は期外収縮の患者に関して得られた計測結果を示し、(a)は脈波波形、(b)は高速フーリエ変換後の図、(c)は高速フーリエ変換の結果の時間変化を示す。
図9(b)に示す周波数スペクトルの図において、患者の心拍の周期に対応する約70(回/分)、およびその高調波帯域である約140(回/分)あたりに2本のピーク波形が認められる。
【0068】
以上の考察を他の患者の計測結果に対しても行ったところ、次のように判定できることが分かった。すなわち、心房細動の患者の計測結果によれば、周波数スペクトルにおいて患者の心拍の周期に対応する周波数成分に明確なピークを有しない。他方、心房細動でない患者の計測結果では複数の明確なピークを有する。これらのピークの位置は、患者の心拍の周期に対応する基本周波数および高調波の周波数成分に対応する。
【0069】
(実施例2)
上述した実施例により得られた
図4(c)、
図7(c)、および
図9(c)に示す画像を解析して、
図10に示すように心房細動の判定を行った。
【0070】
まず、所定の本数のピークが持続する時間と、ピークの周波数が変動する量とに基づいて判定を行った。すなわち、画像の中で3本の淡色線が画面横幅の3/4以上に亘って横に連続し、かつ上下変動が線の太さの2倍未満であるかを判定した(S902)。この条件に該当する場合は洞調律と判定した(S908)。
【0071】
ステップS902の条件に該当しない場合、所定の本数のピークが持続する時間に基づいて判定を行った。具体的には、淡色線の1本以上が、横幅の2/3以上に亘って連続するかを判定した(S904)。この条件に該当する場合は、心房細動以外の不整脈と判定した(S912)。
【0072】
次いで、ステップS904の条件に該当しない場合、所定の周波数のピークが持続する時間、ピークの周波数の変動、および時間的に連続性のないピークが出現する回数、のうちの2つ以上に基づいて判定を行った。具体的には、以下の3つの条件のうちの2つ以上を満たすかどうかを判定した(S906)。
【0073】
(1)淡色線の2本以上が、画面横幅の1/2以下の連続にとどまる、
(2)淡色線の2本以上が、線の太さの2倍を超えて上下に変動する、
(3)連続性のない島状の淡色域が、画面上に2個以上ある。
【0074】
S906の条件に該当した場合、心房細動と判定した。
【0075】
本実施例において280名の測定結果を観察し、3回計測中2回以上で心房細動と判定された場合を陽性と判定したところ、計測結果の全てについて上記の特徴が当てはまった。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本実施形態に係る装置、その構成要素、および上述した方法のステップは、ハードウェアによって、またはソフトウェアとハードウェアとの組合せによって実施することができる。装置またはその構成要素の諸機能がハードウェアによって実行されるかまたはソフトウェアによって実行されるかは本実施形態の設計における制約条件に従う。当業者は種々の方法を用いて特定の用途ごとに上述した構成要素の機能を実施することができるが、このような変更もまた、本発明の範囲内にある。
【0077】
本実施形態において説明される装置は例示にすぎず、他の方式でも実施可能である。例えば、上述した構成要素は機能を論理的に分割したものであり、実装において他の方式で構成要素を分割してもよい。また、上述した構成要素のうちの2つ以上が1つに統合されてもよく、構成要素の各々が物理的に単独で存在してもよい。
【0078】
本実施形態で説明される機能がソフトウェアの形態で実施されるとき、その機能を実現するためのコンピュータプログラムはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータを本実施形態において説明される構成要素の全てまたは一部として機能させるように指示するためのいくつかの命令を含む。