(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】RPEメラニンレベルの判定に基づいて網膜光線療法を安全に提供するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20230808BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61F9/008 120B
A61B3/10 100
A61F9/008 120D
A61F9/008 120Z
(21)【出願番号】P 2021520161
(86)(22)【出願日】2019-04-29
(86)【国際出願番号】 US2019029660
(87)【国際公開番号】W WO2020112164
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-01-31
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516120205
【氏名又は名称】オーハイ レチナル テクノロジー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,デイビッド ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ラトラル,ジェフリー ケイ.
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209385(JP,A)
【文献】特表2008-510529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0213693(US,A1)
【文献】特表2011-510694(JP,A)
【文献】国際公開第2009/092112(WO,A2)
【文献】Qiu-Xiang Zhang , et al.,In vivo Optical Coherence Tomography of Light-Driven Melanosome Translocation in Retinal Pigment Epithelium,SCIENTIFIC REPORTS,vol3・2644,ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3770963/pdf/srep02644.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜光線療法を安全に提供するためのシステムであって、前記システムは、
干渉信号または干渉パターンを生成するための手段であって、眼の網膜に適用するための近赤外光線を含む、手段と、
網膜から反射された干渉信号または干渉パターンを検出し、検出された干渉信号または干渉パターンを用いて、眼の網膜の網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度と比べて上昇しているかどうかを判定するための手段と、
眼の網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度をあらかじめ定められた量だけ超えた場合に、網膜光線療法の1つ以上の処置パラメータを調節するための手段と、
を含む、システム。
【請求項2】
近赤外光線は、600nm~1000nmの間の波長を有し、約3~10ミクロンの深さ分解能を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
近赤外光線は、参照ビームと、網膜に適用されるサンプルビームとに分割される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
近赤外光線を網膜に適用し、干渉信号または干渉パターンを検出する光干渉断層撮影装置をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
干渉信号または干渉パターンの変化が10%以上の場合に、1つ以上の処置パラメータは調節される、請求項1から4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度よりも少なくとも3倍大きい場合に、1つ以上の処置パラメータは調節される、請求項1から5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記光干渉断層撮影装置は、以下の計算に従って、異常な網膜色素上皮メラニンと正常な網膜色素上皮メラニンの密度との比率を計算し、
【数1】
ここで、
Nは近赤外光線を吸収および散乱させるメラニン凝集体の数密度であり、
σ
sは後方散乱のためのメラニン凝集体の断面積を示し、
σ
aは吸収のためのメラニン集合体の断面積を示し、および、
μ
back scatは、網膜の構造マトリックスからの後方散乱のための係数である、
請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記調節は、処置光線の網膜スポットサイズ、処置光線のパルス列持続時間、処置光線のデューティサイクル、または処置光線の出力の少なくとも1つを調節することを意味する、請求項1から7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記調節は、処置光線の網膜スポットサイズを増加させること、処置光線のパルス列持続時間を減少させること、処置光線のデューティサイクルを減少させること、または処置光線の出力を減少させることを意味する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
眼の網膜色素上皮中のメラニンの濃度が、あらかじめ定められた量を超過する場合に、網膜治療システムの1つ以上の処置パラメータを自動的に調節するための手段を含む、請求項1から9のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、網膜光線療法を安全に提供するためのプロセスに関する。とりわけ、本発明は、網膜色素上皮(RPE)のメラニン含有量の増加の判定に基づいて網膜光線療法の処置パラメータを調節することにより、網膜光線療法を安全に提供するためのプロセスを対象としている。
【背景技術】
【0002】
眼の健康に対する黄斑色素の重要性は、網膜におけるその密度または濃度を測定するための方法の発展と興味を促してきた。しかしながら、従来のシステムと方法は、現在市販されていない装置に基づいているか、時間を浪費するものであるか、あるいは複雑化して高価である。
【0003】
ここで
図1を参照すると、参照番号(10)で一般に参照される眼の概略図が示されている。眼(10)は、虹彩を覆う眼の透明な前面部分である角膜(12)と、眼に入る光の量を調節する虹彩の中央にあるサイズ可変の黒い円形またはスリット状の開口部である瞳孔(14)を含んでいる。水晶体(16)は、角膜(12)と一緒に、網膜(18)上に集中する光を屈折させるのを助ける眼内の透明な両凸構造である。網膜は、眼球の裏側にある神経細胞の薄い層であり、光をとらえて脳への電気信号に変換する。網膜には多くの血管(20)が張り巡らされ、栄養を供給している。参照番号(22)によって参照される中心窩/黄斑の領域は、色覚と細かい詳細な視覚のために使用される眼の一部である。網膜色素上皮(RPE)(24)は、網膜視細胞に栄養を与える網膜神経感覚上皮(18)のすぐ外側にある色素細胞層である。それは、網膜(18)と強膜との間にある眼(10)の血管板である、脈絡膜(26)の下層に密着している。脈絡膜(26)は、網膜(18)の外側層に酸素および栄養を供給する。
【0004】
眼の多くの疾患が網膜に関連しており、そのような疾患および疾病を処置するため方法論が開発されてきた。光刺激と光凝固などの光線療法のいくつかの形態は、それらの治療効果を作り出すために網膜組織の加熱に依存する。過度の加熱は、網膜組織を破損するか、さらには破壊する可能性があり、これは、ある処置方法論では意図的な場合もあるが、他の処置方法論では回避される場合もある。異常なレベルの色素沈着、特に、RPE内のメラニンのレベルまたは濃度により、そのような処置中に予期しない過度の熱が引き起こされ、潜在的に網膜組織を破損する可能性があることが分かっている。
【0005】
眼内のメラニンは、まだ完全には理解されていない多くの重要な機能を有する。眼内のメラニンは、有害な紫外線を吸収することによって眼を保護する。メラニンは、杆体および錐体から離れて迷光を散乱させ、眼の後部から反射された光を吸収することによって視力を向上させる。メラニンは、加齢黄斑変性症などの網膜疾患の予防を助ける抗酸化剤としても機能する。
【0006】
これらの特性の多くは、メラニンの吸収スペクトルが非常に広いという事実に起因する。この点で、メラニンは色素の中でもユニークである。このユニークな性質について多くのメカニズムが示唆されている。例として、広帯域吸収は、化学的不均質性、非晶質半導性、および散乱に起因している。しかし、散乱損失は、広帯域減衰の数パーセントしか占めていないことが示された。化学的不均質性および非晶質半導性の仮説に関する問題もある。重合体の電荷ホッピング(polymeric charge hopping)を提案している者もいる。水和作用とメラニンへの遊離基導入の重要性を指摘している者もいる。さらに、メラニン励起子がその広帯域吸収に役割を果たす可能性を示唆している者もいる。任意の特定な説明がメラニンの電気的性質および光学的性質のすべてを説明することができるという、普遍的な合意はないようである。
【0007】
上に示されるように、眼内のメラニンは多くの重要な機能を果たしている。眼内のメラニンのレベルまたは濃度の決定は、確認に重要であり得る。例えば、眼疾患の光線療法レーザー処置は、RPEの温度上昇を引き起こすことに基づくこともあり、これは眼の自然な修復機構を活性化する。近赤外線では、これは、RPE中のメラニン色素による赤外線の吸収に起因する。相当なメラニンがRPEの後ろにある脈絡膜にも存在するが、脈絡膜のメラニンによる吸収は、比較的短い処置時間中のRPEへの拡散性熱伝達の不足により、および、脈絡膜ならびに脈絡毛細管中の血管による対流冷却により、RPEの温度の上昇に重要な役割を果たさない。
【0008】
網膜損傷を回避する眼疾患のレーザーの真の閾値以下の損傷光線療法処置では、温度上昇が10℃程度を超えない限り、レーザー処置は有効である。この温度上昇の制限は、処置時間中にRPEによって吸収することができる最大のレーザーエネルギーを決定する。しかし、ほとんどの患者に適したレーザー出力では、患者のRPEメラニン含有量あるいは濃度が異常に高い場合、温度上昇が損傷の閾値を越える可能性があることが考慮され得る。
【0009】
したがって、眼内の、特に、眼のRPE中のメラニンのレベルまたは濃度を決定し、その結果、RPE中のメラニンの異常に高い含有量あるいは濃度を有する患者の眼を破損しないように必要に応じて、網膜光線療法処置の1つ以上の処置パラメータを調節することができる、単純で比較的安価なプロセスが引き続き必要とされている。本発明はこうした必要性を満たし、他の関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、眼のRPE中のメラニンの含有量または濃度が異常に過剰である場合に、網膜光線療法の1つ以上の処置パラメータを調節することにより、網膜光線を安全に提供するためのプロセスを対象としている。
【0011】
干渉信号または干渉パターンは、近赤外光線を眼の網膜に適用することによって生成される。好ましくは、近赤外光線は、600nm~1000nmの間の波長を有し、約3~10ミクロンの深さ分解能を有する。この近赤外光線は、参照ビームと、眼の網膜の網膜色素上皮に適用されるサンプルビームとに分割される。
【0012】
干渉信号または干渉パターンが検出される。これは、網膜から反射された光を検出するために光検出器を使用することを含んでもよい。光干渉断層撮影装置は、上記光線を網膜に適用し、干渉信号または干渉パターンを検出するために、使用されてもよい。
【0013】
検出された干渉信号または干渉パターンを用いて、眼の網膜の網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度と比べて上昇しているかどうかが判定される。これは、異常な網膜色素上皮のメラニンと正常な網膜色素上皮のメラニンの濃度の比を計算することによって行われてもよい。これは、以下の計算に従うことがある:
【0014】
【数1】
ここで、Nは上記光線を吸収および散乱させるメラニン凝集体の数密度であり;σ
sは後方散乱のためのメラニン凝集体の断面積を示し;σ
aは吸収のためのメラニン凝集体の断面積を示し;および、μ
back scatは、網膜の構造マトリックスからの後方散乱のための係数である。
【0015】
眼の網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度をあらかじめ定められた量だけ超えた場合に、網膜光線療法の1つ以上の処置パラメータが調節される。干渉信号または干渉パターンの変化が10%以上の場合に、1つ以上の処置パラメータが調節され得る。網膜色素上皮中のメラニンのレベルまたは濃度が、正常なレベルまたは濃度よりも少なくとも3倍大きい場合に、1つ以上の処置パラメータが調節され得る。
【0016】
調節する工程は、処置光線の網膜スポットサイズ、処置光線のパルス列持続時間、処置光線のデューティーサイクル、または処置光線の出力の少なくとも1つを調節することを含む。例えば、処置光線の網膜スポットサイズは増加することもある。代替的に、または、加えて、処置光線のパルス列持続時間は減少することがある。代替的に、または、加えて、処置光線のデューティーサイクルは減少することがある。代替的に、または、加えて、処置光線の出力は減少することがある。
【0017】
眼の網膜色素上皮のメラニン濃度があらかじめ定められた量を超えた場合に、網膜治療システムの1つ以上の処置パラメータが自動的に調節され得る。網膜の処置パラメータの1つ以上が自動的に調節されたという通知が提供されることもある。本発明の他の特徴と利点は、例として、本発明の原則を例証する添付の図面と共に、以下の詳細な記載から明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付の図面は本発明を例証する。そのような図面では:
【
図2】眼のRPE内のメラニンのレベルを判定するための、本発明に合わせて使用されるシステムの概略図である。
【
図3】本発明に従って使用されるOCTシステムの概略図である。
【
図4】OCT装置を使用して、眼の網膜層のマッピングの画像である。
【
図5】第1の眼の色素(primary ocular pigments)の吸収の波長依存を例示するグラフである。
【
図6】より狭い波長範囲の第1の眼の色素の吸収の波長依存を例示するグラフである。
【
図7】波長の関数としてのユーメラニンの吸光度を例示するグラフである。
【
図8】通常の濃度でのRPEメラニンを介する双方向の透過を描くグラフである。
【
図9】様々な波長でのRPEメラニンの透過の変動を例示するグラフである。
【
図10】RPEメラノソーム密度対標準密度の比率を表すOCTシグナルの変化率を描くグラフである。
【
図11】パルス光光線療法のパルス列持続時間と比較して、損傷が生じ得る正常なRPEメラニン含有量に対する異常なRPEメラニン含有量の損傷比率を示すグラフである。
【
図12】200ミリ秒~500ミリ秒の光光線療法パルス列持続時間の範囲での損傷比率を例示する、
図11に似たグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例示目的のために、本発明は、眼内、特に眼の網膜色素上皮(RPE)内のメラニンの濃度を判定することにより、網膜光線療法を安全に提供するためのプロセスを対象としている。眼のRPE内のメラニンの濃度を判定することは、眼疾患の処置を決定する上で重要となり得る。例えば、RPE内のメラニンの濃度またはレベルが異常に高い場合、これは、治療プロセスの一部として組織が加熱される、光凝固または光刺激などの網膜光線療法で使用されるような、赤外線または近赤外線レーザー光線などの光源を用いて、眼、特に網膜を処置する際に、予期せぬ加熱の上昇、ひいては組織の破壊を引き起こす可能性がある。光凝固療法または光刺激療法の間に網膜が光源にさらされると、メラニン層は過剰な加熱や損傷を引き起こす可能性がある層であるため、RPE内のメラニンのレベルまたは濃度を判定することがしばしば重要となる。
【0020】
眼のメラニンは主にユーメラニンであり、そのモノマーは化学式C18H10N2O4、分子量318.283、密度1.7g/cc、および屈折率1.772を備えている。RPEでは、メラニンはメラノソームと呼ばれるタンパク質でコード化された小器官に含まれている。メラノソームの中では、10オングストローム未満の大きさのメラニンモノマーが結合して凝集体を形成している。凝集体は数十オングストロームの大きさを有し、共有結合したモノマーのシートが重なってできており、そのシートの間隔は3.4オングストロームである。このシートは、より弱いπ-π結合力で結合している。
【0021】
RPEのメラニンは神経外胚葉に由来する。RPEでは、メラノソームは主にRPE細胞の頂端領域に位置し、杆体や錐体に密着するために長手寸法が頂端領域に沿った細長い形状をしている。すべての異物であるRPEメラノソームの典型的な幅は250~500nm、典型的な長さは640~800nmである。このことから、典型的なメラノソームの体積は6.5x10-14立方センチメートルとなる。メラニンはRPEメラノソームの中でかなり密に詰まっており、モノマーのメラニン密度は1.7g/ccである。
【0022】
RPEでは、前述の数値から、メラニンの数密度は3.38x1018cm-3、質量密度は1.8x10-3g/ccであり、メラニンはすべてメラノソームに含まれているため、RPE中のメラノソームの数密度は10x1010cm-3となる。これにより、RPE内のメラノソームの直線的な分離は3.68ミクロンとなる。
【0023】
ここで
図2を参照すると、本発明に従って使用することができるシステム(100)が示されている。レーザーコンソール(102)は、近赤外の波長を有する光線を生成する。その波長範囲は、600nm~1000nmの間、典型的には600nm~850nmの間であってよい。本発明の所定の波長範囲以下の波長は、他の色素からの光を吸収して散乱し始め、本発明の所定の波長範囲を超える波長は、水によってますます吸収される。しかしながら、本発明の所定の波長範囲である600nm~1000nmは、RPEのメラニンレベルの測定に理想的である。
【0024】
生成された光線は次に光学系(104)に通され、光学系(104)は、光線を集束するため、光線をフィルタリングするため、生成された第1の光線から複数の光線を生成するため、などに使用されてもよい。その後、光線は、眼(10)に投影するために、より詳細には、眼(10)のRPE(24)に第1の光線を適用するために、網膜カメラなどであり得るプロジェクタ(106)に通される。必要に応じて、追加の光学系(108)を使用して、光線を網膜のRPE(24)上に向けることができる。RPEからの反射は、検出器(110)によって検出される。特に好ましい実施形態における検出器(110)は、光干渉断層撮影(OCT)装置などの干渉計を検出する。
【0025】
光線によってRPEから反射された光の量が測定され、その後、光線からのRPEから反射された光の測定量を使用して、眼のRPE内のメラニンの濃度が判定される。RPE内の判定されたメラニンのレベルまたは濃度を、RPE内の通常の予想されるまたは平均的なメラニンのレベルと比較して、その眼のRPE内のメラニンのレベルが上昇しているか、または予想される範囲あるいはあらかじめ定められた量の外側にあるかどうかを判定することができる。
【0026】
図3を参照すると、特に好ましい実施形態では、RPE内のメラニンのレベルまたは濃度が危険なほど上昇しているかどうかを判定することができる干渉信号または干渉パターンが生成および検出される。これは、光源(LS)を用いて赤外光線を生成することを含む。本明細書でさらに詳細に記載されるように、光線は600nm~1000nmの間の波長を有し、より好ましくは600nm~850nmの間の波長を有する。ビームスプリッター(BS)は、光線を参照ビーム(REF)と、網膜、とりわけ、RPEに適用されるサンプルビーム(SMP)とに分割する。一般に、参照ビームは可動式ミラーまたは他の参照点に適用される。
【0027】
引き続き
図3を参照すると、光線、具体的には光線のサンプルビーム部分(SMP)は、RPEの厚さに対応する約3~10ミクロンの深さ分解能に集束される。RPEから反射された光は、光検出器(PD)などを用いて検出される干渉信号または干渉パターンを含む。マイクロコントローラーおよび/またはコンピューターを含む電子機器の形態のデジタル信号処理(DSP)が反射光を処理し、表示可能な画像(IMAGE)を作成し、および/または、眼の網膜のRPE内のメラニンのレベルまたは濃度が通常のレベルまたは濃度に比べて上昇しているかどうかの判定を提供する。
【0028】
近赤外光線を生成し、干渉信号または干渉パターンを検出する装置やシステムは通常、光干渉断層撮影(OCT)装置またはシステムである。OCTの原理は、光、すなわち、低コヒーレンスの干渉法である。光学装置は、低コヒーレンスの干渉計と光源からなる。光は、上記のように、それぞれサンプルアームの参照に分割され、再結合される。OCTでは、使用する光源の使用に起因して、干渉はマイクロメートルの距離になる。上記のように、OCTシステムの光は、2つのアーム、すなわち、対象アイテムを含むサンプルアームと、通常はミラーである参照アームとに分かれる。サンプルアームからの反射光と参照アームからの参照光の組み合わせは、両方のアームからの光がほぼ同じ光学的距離を移動した場合に、干渉パターンを生じさせる。参照アームのミラーを走査することによって、サンプルの反射率プロファイルを得ることができ、これがタイムドメインOCTである。多くの光を反射するサンプルの領域は、そうでない領域よりも大きな干渉を引き起こす。
図4に例示されるように、断面の断層撮影は、一連のこのような軸方向の前後走査(depth scans)を横方向に組み合わせることで、実現され得る。OCTは、低出力の顕微鏡と同等の解像度で、半透明または不透明な材料の表面下画像を得るために使用することができる。
図3に一般的に記載されるOCT装置は、必要に応じて、追加の光学系、カメラ、フィルタ、回折格子などの追加のコンポーネントを有し得ることが理解されるであろう。本発明に従ってOCT装置を使用することの利点は、それらが眼科分野で一般的に使用されており、そこから得られたデータを本発明に従って使用することができ、あるいは本発明を達成するために必要に応じてOCTシステムを変更することができることである。
【0029】
OCTは、網膜専門医が網膜を撮影するために日常的に使用されている。どのような処置を行うにしても、処置を開始する前に、一般的にOCTを使用して網膜の状態を評価する。
図4は、網膜層の2つのOCTによるマッピングを例示する。左側のOCT画像は、深さ分解能が10ミクロンであり、中心波長843nmのスーパールミネッセントダイオード(SLD)を用いて得られたものである。右側のOCT画像は、深さ分解能が3ミクロンであり、平均波長800nmのTI:Al
2O
3レーザーを用いて得られたものである。これらの画像では、RPEが一般的に最も明るい層となっている。
【0030】
引き続き
図4を参照すると、乳頭黄斑軸の~3mmに沿った中心窩における網膜層の組織分布的なインビボマッピングの一例が示されている。信号の対数は、図に示された偽のカラースケールで表される。(a)SLD:平均波長 λ=843、Δλ=30nm、深さ分解能10μm。(b)Ti:Al
2O
3レーザー:平均波長λ=800nm、Δλ
nm;3μmの深さ分解能。層は(上から):ILM/NFL=内境界膜/神経線維層;IPL=内網状層;OPL=外網状層;ONL=外顆粒レベル;ELM=外境界膜;PR-IS=光受容体内節;PR-OS=光受容体外節、RPE=網膜色素上皮;Ch=脈絡毛細管板および脈絡膜。
【0031】
前述のように、OCTは低コヒーレンス干渉法に基づいており、通常は近赤外光を使用する。その最も簡易な形態では、OCTシステムでは、この近赤外光を2つのアーム:対象の標的を含むサンプルアームと、可動ミラーを含む参照アームとに分割される。サンプルアームからの反射光と参照アームからの反射光と組み合わされると干渉パターンが発生するが、これは両方のアームからの光が同じ距離に近い距離を移動した場合に限られる。ここで「近い」とは、2つの経路が「放射線源のコヒーレンス長」以内でなければならないことを意味する。このことは、コヒーレンス長が短い場合には、参照アームのミラーを動かして参照アームの長さを調整するだけで、OCT装置を標的の特定の深さに「焦点を合わせる」ことができることを意味する。これにより、標的の他のすべての深さは、所望の信号への寄与から除外される。
【0032】
OCTについて、深さ分解能Δzは、以下のように与えられることが多い:
【0033】
【0034】
これは理想的なガウス振幅スペクトルを仮定する。この式は、波束のより一般的な不確定性関係の推定値の限定的なケースである:
【0035】
【0036】
ここで、k=2π/λであり、
【0037】
【0038】
これにより、以下が得られる。
【0039】
【0040】
例えば、
図7のλ=800nm、および、Δλ=260nmの場合には、方程式[23]により、深さ分解能
【0041】
【数6】
が与えられ、実際のTi:Al
2O
3 OCTシステムから得られた3μmの分解能とさほど変わらない。
【0042】
干渉計の検出器における全電界ET(t)をスカラーとして処理すると、参照アームからの電界ER(t+Δt)とサンプルアームからの電界ES(t)の和として書くことができる:
【0043】
【0044】
この式では、参照アームとサンプルアームの経路長の違いを考慮するために、参照信号に時間遅延Δtが導入されている。
【0045】
各電界E(t)に関連する強度I(t)は以下の通りである:
【0046】
【0047】
我々は、各電界が以下の形態を有していると考えることができる:
【0048】
【0049】
ここで、A(t)exp[Φ(t)]は電界のエンベロープであり、ωはE(t)の出力スペクトルの平均角周波数である。OCTの対象の電界について、エンベロープの時間変化率は、平均角周波数ωによって記載されるものに比べて小さくなっている。
【0050】
その後、干渉計の検出器における平均化された強度は次のとおりである:
【0051】
【0052】
ここで、角ブラケット(angular bracket)は集合平均を示す。平均強度がtに依存しないように、そのプロセスはエルゴード的であると見なすことができる。
【0053】
方程式[2.4]-[2.6]を方程式[2.7]へ挿入すると、以下の結果が得られる:
【0054】
【0055】
このとき、以下の通りである:
【0056】
【0057】
量GSR(Δt)は、標的に関する情報を与える望ましい干渉情報を含む。この式では、γSR(Δt)は2つの波の複素コヒーレンス度であり、δSR(Δt)は、Δt=Δz/cによって参照ビームとサンプルビームとの間の経路差Δzに関連付けられる時間遅延Δを伴う位相遅延である。量αSRは、標的に関する情報を判定するための何の意味もない一定の位相である。
【0058】
式[2.9]は、参照アームの可動式ミラーなどにより、参照アームとサンプルアームとの間で経路長の差が生じる単純なOCTのために開発された。式[2.9]は、参照アームと標的アームからの電界間の相関関数から生じるため、相関関数とスペクトル出力密度とに関連するウィーナー=ヒンチンの定理を応用して、周波数ドメインのOCT装置の式も簡単に求めることができる。しかし、OCTの根本にある基本的な物理は、参照アームからの信号とサンプルアームからの信号の低コヒーレンス干渉に過ぎない。
【0059】
以上の記載から、OCTは、コヒーレンスタイムが非常に短い光源から発生する参照アームとサンプルアームの信号間の干渉に基づいている。OCTには非常に短いコヒーレンス時間の光源が使われているため、この現象は2つの持続時間の短い波束の干渉に非常によく似ている。2つの経路間の差が、波束の持続時間よりも短い時間差に相当する場合にのみ、干渉信号が発生する。これは、コヒーレンス時間が非常に短い場合、干渉信号のピークは、サンプルの所定の深さからのみ発生するということを意味する。この深さは、参照アームの可動ミラーで判定され:この深さは、(ミラーへのおよびミラーからの)参照アームの光の経路長のちょうど半分になる。信号は、深さが式[2.3]の深さ分解能推定値分だけこの値から異なるときに、ゼロになる。
【0060】
RPEのメラニン含有量を測定する意義は、RPEのメラニン厚さ(6~8ミクロン)に匹敵する光源コヒーレンス距離を選択することによって、OCTを使用してOCT信号に対するRPEメラニンの寄与を分離することが可能であり、それによりRPEメラニン濃度が危険なほど高くなったときを判定することができることである。
【0061】
具体的には、約6~8ミクロンの光源コヒーレンス距離の場合、参照アーム信号と相互作用するRPEからの放射線から生じるOCT干渉信号の合計は、以下によって判定される:
○RPEからの後方散乱、および
○RPEと網膜前部とに広がる吸収と散乱による減衰。
【0062】
OCTの光源コヒーレンス距離は、RPEの厚さに匹敵する:時には短く、時には長くなる。例えば、
図4の2つのケースでは、コヒーレンス距離は3μmと10μmである。以下に展開される近似方程式は、RPEメラニン含有量に対する結果の依存性を示すのに十分なものであるはずである:特に、それらは、正常なメラニン含有量と危険なほど異常なメラニン含有量から予想される信号の相対的な大きさを推定するのに使用できるはずである。
【0063】
サンプルアーム内の近赤外放射は、吸収と散乱の両方を経験する(後者は干渉計の検出器への放射線の反射をもたらす)。
【0064】
ここで
図5に眼を向けると、グラフは、4つの主要な眼球色素、すなわち、メラニン、酸素化ヘモグロビン、ヘモグロビン、および水の吸収の、主に近赤外の波長依存性を示している。同様に、水晶体の吸収も示されている。メラニンの吸収スペクトルは非常に広いという点で、他のすべての色素の吸収スペクトルとは異なるということがわかる。しかし、RPEのメラニンは、放射線を吸収すると同時に散乱させる。
図5に示すように、600~800+nmの範囲では、メラニンの吸収は、眼球内の水の中の他のすべての色素の吸収よりも大きい。
【0065】
ここで
図6を参照すると、血液、メラニン、黄斑色素、水晶体、水、長波長感受性視覚色素(LWS)、および中波長感受性視覚色素(MWS)の主に可視波長範囲における吸収が例示されている。血液層の厚さは23ミクロン、酸素化は95%とされている。メラニンの密度は500nmで1.32であり、黄斑の密度は460nmで0.54である。水晶体の密度は420nmで0.54であり、水の密度は740nmで0.025である。視覚色素は両方ともピークで0.57である。眼では、
図6に示すように、メラニンは、一般的には550nm~1000nmの間、より具体的には600nm~850nmの間の波長範囲のレーザー光の吸収を支配している。
【0066】
人の眼の分光反射率の従来のモデルでは、RPEメラニンについて3.61~8.05mmol/Lの値が用いられた。RPEのメラニン層の厚さは10ミクロン未満であり、典型的には約6ミクロンである。RPEのメラニン含有量は通常、患者ごとにあまり変わらないことがわかっている。
【0067】
図6に見られるように、メラニンの吸収係数は、波長が長くなるにつれてかなり減少する。したがって、メラニンにより支配される吸収ウィンドウの下端600nmでは、RPEのメラニン吸収は、特に好ましい波長範囲の上端850nmでの吸収よりもはるかに大きくなる。しかし、メラニン吸収が波長によってどのように変化するかについては、普遍的な合意はない。
【0068】
図7は、特に250nm~700nmの間での波長の関数としてのユーメラニンの吸光度を示すグラフである。ユーメラニンは眼内のメラニンの中で圧倒的に多い成分である。波長による光学密度の変化について普遍的な合意はないが、本発明ではexp[-0.062λ(nm)]の指数関数的な依存性を仮定しており、これが
図7に反映されている。この結果が500nmでの光学密度が0.22であるという先行研究の結果と組み合わされると、RPEを介した双方向の透過率は以下のようになる:
【0069】
【0070】
他方では、500nmでの0.29の光学密度が使用される場合、以下の結果が得られる:
【0071】
【0072】
式[3.1]と[3.2]は
図8でプロットされており、これは通常の濃度におけるRPEメラニンを介した双方向の透過性(大きな吸収断面積によって決定される)を描いたグラフである。上の曲線は、500nmでの光学密度が0.22であると仮定しており、下の曲線は、500nmでの光学密度が0.29であると仮定している。メラニンにより支配される吸収ウィンドウの850nmの限界に向かって、RPEメラニンの吸収係数は小さくなり、脈絡膜からの反射信号を検出器(110)に通過させることができることがわかる。RPEメラニンのレベルが高く、危険なレベルになると、600nmでの脈絡膜からの反射信号は、RPEを通過する際に大幅に減少するが、800nmではほとんど減少しない。
【0073】
図9は、RPEメラニン濃度が正常(n=1)から正常の3倍の上昇した危険な閾値(n=3)まで変化するときの、750nm(上の曲線)と600nm(下の曲線)におけるRPEメラニン透過率(大きな吸収係数によって決まる)の変化を示すグラフである。
図9では、正常なRPE濃度の場合、500nmの光学密度が0.22であると仮定している。引き続き
図9を参照すると、このグラフは、濃度が正常(n=1)から正常の3倍の危険なレベル(n=3)まで変化するときの、600nmと750nmにおけるRPEメラニン透過率の挙動を示している。
図9のグラフを見ると、600nmでは透過信号が4倍近く減少しているのに対し、750nmでは約1.5倍しか減少していない。しかし、この大きな違いは、反射率の式において他の因子によって多少軽減される可能性がある。
【0074】
メラニンは、600nm~800nm+の波長範囲の放射線の支配的な吸収体であるだけでなく、放射線を散乱させる。メラニンはメラノソーム内で密集している。上記のように、RPEではメラノソームは細長い形状をしており、杆体と錐体に密着している。メラノソームは、基本的な散乱体と考えられている。メラノソームは、対象となる600nm~850nmの波長に匹敵する大きさを有する。典型的なRPEメラノソームは、幅250~400nm(平均300nm)×長さ640nm~800nm(平均720nm)の寸法を持つ。
【0075】
したがって、この波長範囲における散乱は、ミー散乱ドメインである。ミー散乱の場合、後方方向の漸近的な散乱断面積は、λ2にほぼ比例する。その結果、RPE内のメラノソームからの後方散乱の断面積は、以下の通りである:
【0076】
【0077】
ここで、λnmはナノメートルで表現された波長を表示する。
【0078】
600nm~800nm+の波長範囲ではメラニンによる吸収が支配的であるが、メラノソームが埋め込まれた構造的なマトリックスからも散乱が生じ得る。波長855nmのOCTスキャンによる網膜と脈絡膜の散乱特性は、以下の通りであると決定されている:
○散乱係数 1.64x10-4λnm
2
RPE=120cm-1
○異方性係数 gRPE=<cosθ>=0.97
【0079】
後方散乱係数は、散乱係数に(1-g)を乗じることで散乱係数から得られる。
【0080】
散乱は、細胞膜から細胞全体まで、様々な組織成分の屈折率の不一致によって生じる。細胞核とミトコンドリアは、最も重要な散乱体である。細胞核やミトコンドリアの大きさは100nm~6μmの範囲であり、したがって近赤外ウィンドウ内に含まれる。これらの細胞小器官の多くはミー領域に属し、高度に異方的な前方指向性散乱を示す。
【0081】
上記は網膜全体の散乱係数と異方性係数を与えているだけで、網膜の奥の層を形成するRPE層のための散乱係数と異方性係数を個別に与えているわけではない。ここでは、網膜全体の量を用いて、RPEの散乱係数と異方性係数を近似させることとする。
【0082】
式[3.3]のλ2係数を適用して、他の波長での散乱係数を求めることとし、その結果は以下の通りである:
【0083】
【0084】
これらは、正常なメラノソーム密度(NRPE=2x1010cm-3)についてメラニンの散乱係数と比較可能である。
【0085】
【0086】
RPEの構造的マトリックスからの散乱は、メラニンからの散乱よりも小さいことがわかる。さらに、散乱係数は、通常のメラニン密度での吸収係数よりも小さい:
【0087】
【0088】
メラノソームの数密度と散乱断面積は、600~800nm+の波長範囲の波長の放射線のRPEを通過する際にはあまり散乱が起こらないことを示している。これは、メラニンによる吸収の光学密度よりもはるかに小さい。網膜前部での散乱光学密度も小さい。
【0089】
メラノソームの密度が2x1010cm-3であるRPEでは、平均自由行程は以下の通りである:
【0090】
【0091】
これは、RPEの厚さ6~10ミクロンよりもはるかに大きいため、RPEを通過する際に光子が散乱する確率は非常に小さい。RPEでの散乱の光学密度は以下の通りである:
【0092】
【0093】
これは、メラニンによる吸収の光学密度よりもはるかに小さい。さらに、網膜前部での散乱光学密度も小さい。したがって、600~800nmの波長範囲において、RPEでは吸収が散乱よりも重要である。
【0094】
RPEにおける近赤外放射の散乱は非常に小さいため、Kubelka and Munk(1931)によって開発された輸送方程式を使用することにする。モンテカルロ数値計算法を用いれば、より厳密な処理が可能であるが[Preece and Claridge(2002)などを参照]、ここでは、OCTの結果が関連するパラメータに依存することを簡単に理解するために、単純なクベルカ・ムンク(Kubelka-Munk)方程式を使用する。
【0095】
処理は全反射率の計算に似ている。しかしながら、それが後者と異なるのは、RPE内の点に対応する時間遅延を持ち、RPEの厚さに匹敵する深さ分解能を持つ低コヒーレンス光源の干渉信号が、脈絡膜からは信号への寄与がまったく生じないことを意味しているからである。
【0096】
さらに、吸収のための断面積がRPEでのみ大きいことがわかったため、網膜前部を通る放射線の減衰を無視することにする。(これは、相対的な信号が、RPE中の正常なメラニン濃度と、RPE中の危険なほど高いメラニン濃度から、干渉計の検出器によってどのように受け取られるかを示すのに十分なはずである)。
【0097】
従って、短いコヒーレンス干渉計の信号は、RPE自体で反射(および減衰)された放射線からのみ生じると仮定する。定常状態における近似的な輸送方程式は以下の通りである:
【0098】
【0099】
【0100】
ここで、
○ I(+)は、入力された放射線がRPEを通過するときの強度である;
○ I(-)は、反射放射線がRPEを通過してRPEの前面に戻るときの強度である;
○ xは、RPEの前面から測定されたRPE内の距離である;
○ y=w-xであり、ここで、wはRPEのメラニン層の厚さである;
○ Nは放射線を吸収および散乱するメラニン凝集体の数密度である;
○ σsは後方散乱のためのメラニン凝集体の断面積を示す;
○ σaは、吸収のためのメラニン凝集体の断面積を示す;および、
○ μback scatは、構造的なマトリックスからの後方散乱のための係数である。
【0101】
σa/(σs+σa)は非常に大きく、紫外線範囲と光学範囲のすべての波長において、全光減衰量に対する散乱の寄与率は6%未満であることが実験的に示されている。N(σs+σa)wという量は、単純に2.303×RPEメラニン層の全減衰(吸収+散乱)光学密度となる。式[3.9]と[3.10]は、式[3.9]の項+NσsI(-)を無視することによってさらに簡略化可能であり、その理由は、反射信号I(-)は入力信号I(+)よりもはるかに小さいからである。そして、以下のことを要求する:
【0102】
【0103】
【0104】
この方程式を直接解くことで、x=0のときの出力強度I(-)を得ることができる。
【0105】
【0106】
【0107】
式[3.11]では、RPEに関する量であることを示すために、「RPE」という下付き文字が加えられている。
【0108】
方程式[2.9]から、OCT干渉信号は以下に比例する:
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
ここで、定数は、システムの効率と形状の仕様によって決定される。
【0113】
システムの仕様に関する質問を避けるために、異常なRPE密度と正常なRPE密度のOCT信号の比率に注目する:
【0114】
OCT信号(異常なRPEメラニン密度)/OCT信号(正常なRPEメラニン密度)=
【0115】
【0116】
【0117】
ここで、
図10を参照すると、RPEのメラノソーム密度が正常値である2x10
10cm
-3からn倍に増加したときの、方程式[3.12]と[3.13]で示されるOCT信号の変化率を示すプロットである。
図10は、nに対する方程式[3.12]のOCT信号の変化率を示し、ここで、nは、2x10
10cm
-3の正常な密度に対する異常なRPEメラノソーム密度の比率である。
図10は、OCT信号の20%の変化が、RPEメラノソーム密度からの約5倍の増加をもたらすことを示している。正常なRPEメラノソーム密度の3~8倍の危険閾値は、約10%のOCT信号の減少をもたらし、光電セルまたは他の同様の検出器によって確実に測定可能である。中心波長が600~900nmの波長範囲であり、深さ分解能が約3~10ミクロンである処理前の低コヒーレンス光干渉断層撮影(OCT)が、危険なレベルのRPEメラニン濃度を検出するために使用可能である。光電セルは、
図10に示すような種類の変化を十分に検出することができる。このことは、光検出器を使用して、明るさにおける危険閾値の変化率の信頼できる検出を得ることができることを示唆している。これは、OCT検出器の光電信号に直接アクセスすることによって、または、光電セルを使用してOCTビジュアルディスプレイの明るさを測定することによって、行うことができる。これは、正常な患者では約2x10
10cm
-3である、正常なメラニンRPEレベルの含有量と考えられるものと比較され得る。
【0118】
RPEメラニン濃度が眼内の横方向位置によって変化することに留意すべきである。それは、黄斑部の中心でピークに達し、その後、いずれかの側で約5°の範囲で減少して、いずれかの側で約10°の比較的一定の値になり、その後、赤道に向かって-20°と+15°で再び上昇する。一貫した結果を得るためには、濃度が比較的一定の領域、または、言い換えれば、黄斑部の中心から約10°離れた領域で検出器(110)を動作させるのが最適である。
【0119】
以下の表1は、RPEメラニン含有量が異なる値をとる場合に、HSP活性化のアレニウス積分を保守的な値である1(conservative value of unity)に維持する光線療法網膜処置のピークレーザー出力を示している。スポット半径、列持続時間、デューティーサイクル、および異常なRPEメラニン比率含有量の異なる値に対するピーク出力が示されている。この表は、処置パルス波長を810nmと仮定している。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
上記の表1に示すように、正常なRPEメラニン含有量に対する異常なRPEメラニン含有量の比率の範囲は、1から8の間の範囲にとられている。ピークのレーザー出力は、網膜におけるレーザースポット半径、マイクロパルス列の持続時間、およびデューティーサイクルに依存する。これらのケースのそれぞれについて、正常なRPEメラニン含有量に対する異常なRPEメラニン含有量の比率は、1、3、5、および8とされている。
【0126】
任意の異常なRPEメラニン含有量は、入射するレーザー放射線に対するRPEの吸収係数の変化を通じて現れる:この吸収係数は、RPEのメラニン含有量の合計に比例する。したがって、この表では、RPEメラニン含有量は、正常な吸収係数αに対する異常な吸収係数αの比率の4つの値で表されている:
【0127】
α/αnormal=1、3、5、8。
【0128】
ピークレーザー処置出力Psdmに対するメラニン含有量の影響は、レーザーの網膜スポット半径(R)、マイクロパルス列の持続時間(tF)、およびマイクロパルス列(tF)のデューティサイクル(dc)に依存する。表では、以下のすべての可能な組み合わせに対するPsdm(ワット)の例が示されている:
【0129】
R=100ミクロン、200ミクロン
【0130】
tF=0.2秒、0.3秒、0.4秒、および0.5秒
【0131】
dc=2%、3%、4%、5%
【0132】
上記は、比率α/αnormalの4つの値の各々についてのものである。
【0133】
表示されているλnmの値は、熱ショックタンパク質(HSP)活性化のアレニウス積分Ωhspを(保守的な)処理値である1(treatment value of unity)に保つためのピーク出力の値である:
【0134】
Ωhsp=1である。
【0135】
また、処置レーザーの波長は810nm-とし、αnormal=104cm-1であると仮定している。
【0136】
任意の近赤外波長(ナノメートル)λnmの場合、表中の処置出力に係数ξ(λnm)を乗じなければならない:
【0137】
【0138】
【0139】
以上のことから、α/αnormalが増加するにつれて、Psdmは減少することがわかる;スポット半径(R)が大きいほど、Psdmの値は大きくなる;列持続時間tFが小さいほど、Psdmの値は大きくなる;および、デューティサイクル(dc)が小さいほど、Psdmの値は大きくなる。
【0140】
図11と
図12は、損傷が発生しうる、正常なRPEメラニン含有量に対する異常なRPEメラニン含有量の比率r
damageを示すグラフである。これらのグラフは、HSP活性化のアレニウス積分と損傷のアレニウス積分の大まかな近似式に基づいており、これは、正確な式と驚くほどよく一致している。両方のグラフとも、r
damage対パルス列持続時間t
Fの比率をプロットしている。
図11のグラフは、0.01秒から1秒までのt
Fの範囲をカバーしている。
図12のグラフは、0.2~0.5秒のt
Fのより現実的な臨床的範囲をカバーしている。
【0141】
図11と
図12で見られるように、損傷が発生し得る、正常なRPEメラニン含有量に対する異常なRPEメラニン含有量の臨界比r
damageは、0.2秒から0.5秒の範囲のパルス列持続時間にわたって3~約8まで変化し得る。このように、1つ以上の処置パラメータは、上記のように、RPE中のメラニンの含有量が、RPEにおける正常なメラニンの含有量よりも少なくとも3倍大きいと判定された場合に、調節される。したがって、正常なRPE密度を2x10
10cm
-3と仮定すると、RPE中のメラニンの含有量が6x10
10cm
-3よりも大きいと判定されたときに、1つ以上の処置パラメータが調節される。
【0142】
この臨界比では、処置パラメータを正常な値から変更することで、損傷を回避し、効果的なHSPの活性化を保証することができる。例えば、ほとんどの所望の臨床処置パラメータでは:
【0143】
ピーク出力Pを、以下の範囲内に収まるようにその正常値Pnormalから減少させることができる;
【0144】
Pnormal/rdamage<P<Pnormal、
【0145】
ただし、デューティーサイクルと網膜スポット半径が正常値のままであるとする。
【0146】
デューティーサイクルdcを、以下の範囲内に収まるようにその正常値dcnormalから減少させることができる:
【0147】
dcnormal/rdamage<dc<dcnormal、
【0148】
ただし、レーザーピーク出力と網膜スポット半径が正常値のままであるとする。
【0149】
網膜スポット半径Rを、以下の範囲内に収まるようにその正常値Rnormalから増加させることができる:
【0150】
Rnormal<R<Rnormal rdamage、
【0151】
ただし、レーザーピーク出力とデューティーサイクルが正常値のままであるとする。
【0152】
単一のレーザー光線療法パラメータを調節することができるが、これらのパラメータのうち2つ以上を同時に調節することも可能であることが理解されるであろう。例えば、レーザースポット半径の直径を大きくし、出力を小さくすることができるが、出力のみを小さくした場合に必要とされる程度までは小さくすることはできない。同様に、すべてのパラメータをわずかに調節することができ、例えば、RPE中に異常に大きな濃度または量のメラニンを有する患者の網膜および眼への損傷を避けるために、アレニウス積分の1(unity in the Arrhenius integra)が達成されるように、処置光線の網膜スポットサイズをわずかに増加させ、処置光線のパルス列持続時間を減少させ、処置光線のデューティーサイクルを減少させ、および、処置光線の出力を減少させることができる。
【0153】
いくつかの実施形態は例示目的のために詳細に記載されているが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更を行ってもよい。これに応じて、本発明は添付の請求項による場合を除けば、限定されないものとする。