(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】歯車部材
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
(21)【出願番号】P 2021554191
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036460
(87)【国際公開番号】W WO2021079685
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019192626
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥野 麗子
(72)【発明者】
【氏名】廣野 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小菅 敏行
(72)【発明者】
【氏名】小林 平典
(72)【発明者】
【氏名】栗原 親也
(72)【発明者】
【氏名】矢間 克彦
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-090847(JP,U)
【文献】特開2010-180918(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103821905(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部の歯幅方向と直交する断面において、
前記歯部は、前記歯面における歯先側の領域に、前記インボリュート曲線に対して窪んだ凹部を備え
、
前記凹部は、底面が凹面である、
歯車部材。
【請求項2】
前記凹部は、底面が丸められて構成されており、
前記底面の曲げ半径が0.1mm以上0.8mm以下である請求項1に記載の歯車部材。
【請求項3】
前記凹部は、歯先側に位置する開口縁を備え、
前記開口縁から前記歯先につながる領域が丸められて構成されており、
前記領域の曲げ半径が0.1mm以上1.0mm以下である請求項1又は請求項2に記載の歯車部材。
【請求項4】
前記歯先の歯厚が0.4mm以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の歯車部材。
【請求項5】
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部は、前記インボリュート曲線と歯先の延長面とで構成される仮想の第一角部に対して歯厚方向内側に位置する第二角部を備え、
前記歯先は、機械加工が施された加工面であり、
前記歯面は、機械加工が施されていない非加工面であ
り、
前記歯面と前記第二角部との間に、凹面を有する、
歯車部材。
【請求項6】
前記歯先の歯厚が0.4mm以上である請求項5に記載の歯車部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車部材に関する。
【0002】
本出願は、2019年10月23日出願の日本出願第2019-192626号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は、サンギヤに係合するシャフトが貫通する孔が設けられた複数のプレートを備えるプラネタリキャリアを開示する。また、特許文献1は、複数のプレートの一つであり、プレート部とボス部とを備えるフランジプレートを開示する。フランジプレートに備わるボス部は、ほぼ円筒状に形成されており、プレート部の孔の周囲に一体に設けられている。ボス部の外周面には、他部材と係合可能なギヤが形成されている。プラネタリキャリアは、特許文献2に開示されるように、焼結部材で構成されるものが多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-299895号公報
【文献】国際公開第2016/031500号
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る第一の歯車部材は、
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部の歯幅方向と直交する断面において、
前記歯部は、前記歯面における歯先側の領域に、前記インボリュート曲線に対して窪んだ凹部を備える。
【0006】
本開示に係る第二の歯車部材は、
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部は、前記インボリュート曲線と歯先の延長面とで構成される仮想の第一角部に対して歯厚方向内側に位置する第二角部を備え、
前記歯先は、機械加工が施された加工面であり、
前記歯面は、機械加工が施されていない非加工面である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の第二の歯車部材を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態の第二の歯車部材に備わる歯部を示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の第二の歯車部材に備わる歯部の歯先を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の第二の歯車部材に備わる歯部を示す拡大斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態の第一の歯車部材に備わる歯部を示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態の第一の歯車部材に備わる歯部の寸法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【本開示が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるボス部に形成されたギヤは、他部材と係合させるにあたり、他部材の歯底に当接するように、歯先に機械加工が施されることがある。以下、ボス部を含むプラネタリキャリアを歯車部材、ボス部に形成されたギヤを歯部と呼ぶ。また、ボス部に形成されたギヤに係合する他部材を相手部材と呼ぶ。
【0009】
機械加工を施した後の歯部は、相手部材と係合した状態において、歯先の両側の角部が相手部材の歯面に当たらないような形状であることが望まれる。つまり、歯部と相手部材とが係合した状態において、歯部における歯先の両側の角部と相手部材の歯面との間に十分な空間が構成されることが望まれる。上記空間を構成するにあたり、歯部の歯先に機械加工を施した後に、更に歯先の両側の角部を逃がすための形状に機械加工を施すことが考えられる。この場合、歯部に二回の機械加工を施す必要があり、製造工程が煩雑になる。
【0010】
そこで、本開示は、簡易な構成で生産性に優れる歯車部材を提供することを目的の一つとする。
【本開示の効果】
【0011】
本開示の第一の歯車部材及び第二の歯車部材は、簡易な構成で生産性に優れる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の実施形態に係る第一の歯車部材は、
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部の歯幅方向と直交する断面において、
前記歯部は、前記歯面における歯先側の領域に、前記インボリュート曲線に対して窪んだ凹部を備える。
【0014】
この明細書において、歯車部材とは、動力の伝達に利用される部材であって、相手部材と嵌合される歯部を有する部材のことをいう。歯車部材には、環状部材の外周又は内周の全周にわたって複数の歯部を有する部材は勿論、環状部材の外周又は内周の一部の周長にわたって複数の歯部を有する部材の他、直線状に複数の歯部が並列される部材も含む。
【0015】
第一の歯車部材において、歯部の歯幅方向とは、歯部の歯たけ方向及び歯部の並び方向の双方に直交する方向である。歯部の歯幅方向と直交する断面は、歯部の端面と平行な面である。例えば、第一の歯車部材が外歯車や内歯車等の環状歯車の場合、上記断面は、環状歯車の軸と直交する面である。また、第一の歯車部材がラック等の直線歯車の場合、上記断面は、歯部の歯たけ方向及び歯部の並び方向の双方を含む面である。
【0016】
第一の歯車部材は、歯部の歯先に機械加工を施す前の部材である。機械加工を施す前の第一の歯車部材は、歯面における歯先側の領域に凹部を備える。第一の歯車部材は、相手部材の歯底に当接するように、歯部の歯先に機械加工が施される。このとき、凹部における窪み部分の一部を残すように機械加工が施されると、歯先の両側の角部は、相手部材の歯面に当たらないような形状とできる。具体的には、機械加工を施した後の歯部に、インボリュート曲線と歯先の延長面とで構成される仮想の第一角部に対して歯厚方向内側に位置する第二角部を設けることができる。歯部に第二角部を備えることで、歯部と相手部材とが係合した状態において、歯部における歯先の両側の角部と相手部材の歯面との間に十分な空間を構成することができる。本開示の第一の歯車部材に一回の機械加工を施すことによって、歯部の歯先が相手部材の歯底に当接でき、かつ相手部材の歯面との間に十分な空間を構成できるような角部を備える歯車部材が得られる。本開示の第一の歯車部材は、歯部における歯先の両側の角部に凹部を備えるだけで、機械加工を施す回数を、従来の二回から一回に削減できる。よって、本開示の第一の歯車部材は、簡易な構成で生産性に優れる。
【0017】
(2)本開示の実施形態に係る第一の歯車部材の一例として、
前記凹部は、底面が丸められて構成されており、
前記底面の曲げ半径が0.1mm以上0.8mm以下である形態が挙げられる。
【0018】
凹部における底面の曲げ半径は、凹部における窪みの形状に寄与する。凹部における底面の曲げ半径が0.8mm以下であることで、凹部における窪みを深くし易い。凹部における窪みが深いことで、機械加工を施した後の歯部は、相手部材の歯面との間に十分な空間を構成できるような角部を備え易い。凹部における底面の曲げ半径が小さ過ぎると、凹部における窪みが鋭角を有することになり、歯車部材の製造が困難になる。よって、凹部における底面の曲げ半径が0.1mm以上であることで、歯車部材の製造性を向上できる。
【0019】
(3)本開示の実施形態に係る第一の歯車部材の一例として、
前記凹部は、歯先側に位置する開口縁を備え、
前記開口縁から前記歯先につながる領域が丸められて構成されており、
前記領域の曲げ半径が0.1mm以上1.0mm以下である形態が挙げられる。
【0020】
凹部における歯先側の開口縁から歯先につながる領域の曲げ半径は、歯部の歯先の形状や大きさに寄与する。上記領域の曲げ半径が0.1mm以上であることで、歯先に必要な歯厚を確保できる。歯先に必要な歯厚を確保できることで、歯車部材の製造性を向上し易い。例えば、歯車部材が焼結部材で構成される場合、歯先に必要な歯厚を確保できることで、歯車部材を構成する粉末の充填量が歯先まで十分に確保され易い。第一の歯車部材は、上述したように、歯部の歯先に機械加工が施される。よって、凹部における歯先側の開口縁から歯先につながる領域の曲げ半径は、機械加工を施した後の歯部の歯先の形状や大きさにも寄与する。上記領域の曲げ半径が0.1mm以上であることで、機械加工を施した後の歯部において、歯先に必要な歯厚を確保し易い。上記領域の曲げ半径が大きくなるほど、第一の歯車部材における機械加工の加工代が大きくなる。よって、上記領域の曲げ半径が1.0mm以下であることで、第一の歯車部材における機械加工の加工代が大きくなり過ぎることを抑制できる。
【0021】
(4)本開示の実施形態に係る第一の歯車部材の一例として、
前記歯先の歯厚が0.4mm以上である形態が挙げられる。
【0022】
歯先の歯厚が0.4mm以上であることで、歯車部材の製造性を向上し易い。例えば、歯車部材が焼結部材で構成される場合、歯先の歯厚が0.4mm以上であることで、歯車部材を構成する粉末の充填量を歯先まで十分に確保できる。
【0023】
(5)本開示の実施形態に係る第二の歯車部材は、
インボリュート曲線で構成される歯面を有する歯部を備え、
前記歯部は、前記インボリュート曲線と歯先の延長面とで構成される仮想の第一角部に対して歯厚方向内側に位置する第二角部を備え、
前記歯先は、機械加工が施された加工面であり、
前記歯面は、機械加工が施されていない非加工面である。
【0024】
第二の歯車部材は、第一の歯車部材における歯部の歯先に機械加工を施した部材である。よって、第二の歯車部材における歯先は、機械加工が施された加工面で構成される。第二の歯車部材は、歯部に第二角部を備える。第二角部は、第一の歯車部材における歯部の歯先に機械加工が施され、歯先側の一部が除去されたことで構成されたものである。よって、第二の歯車部材における歯面は、非加工面で構成される。ここでの加工面とは、切削、研削、研磨等の機械加工が施された面のことである。また、ここでの非加工面とは、機械加工が施される前の表面状態を有する面のことである。加工面は、機械加工の種類に応じた加工痕を有する。一方、非加工面は、加工痕を有さず、機械加工が施される直前の製造工程で得られた部材の表面性状を有する。例えば、歯車部材が焼結部材で構成され、機械加工が切削加工である場合、加工面は切削痕を有する切削面であり、非加工面は焼結による焼肌を有する焼結面である。よって、加工面と非加工面とは、明確に区別できる。
【0025】
第二角部は、インボリュート曲線と歯先の延長面とで構成される仮想の第一角部に対して歯厚方向内側に位置する。そのため、本開示の第二の歯車部材は、歯部と相手部材とが係合した状態において、歯部における歯先の両側の角部と相手部材の歯面との間に十分な空間を構成することができる。第二の歯車部材は、上述したように、第一の歯車部材における歯部の歯先に機械加工を施すことで得られる。よって、本開示の第二の歯車部材は、簡易な構成で生産性に優れる。
【0026】
(6)本開示の実施形態に係る第二の歯車部材の一例として、
前記歯先の歯厚が0.4mm以上である形態が挙げられる。
【0027】
歯先の歯厚が0.4mm以上であることで、相手部材の歯底に当接し易い。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0029】
<概要>
実施形態では、プラネタリキャリアを例に歯車部材を説明する。実施形態の歯車部材には、第一の歯車部材1と第二の歯車部材2とがある。第二の歯車部材2については、
図1から
図4を参照して説明し、第一の歯車部材1については、主に
図5を参照して説明する。第二の歯車部材2は、
図1に示すように、複数の歯部20を備える。第一の歯車部材1は、第二の歯車部材2と同様に、複数の歯部10を備える。第二の歯車部材2は、第一の歯車部材1における歯部10の歯先12に機械加工を施した部材である。つまり、第一の歯車部材1は、第二の歯車部材2の基となる部材であり、歯部10の歯先12に機械加工を施す前の部材である。第一の歯車部材1と第二の歯車部材2とは、歯部10,20の歯先12,22に機械加工が施されているか否かが異なる。また、第一の歯車部材1と第二の歯車部材2とは、歯部10,20の歯面11,21における歯先12,22側の領域の形状が異なる。以下では、まず第一の歯車部材1及び第二の歯車部材2の共通の構成について説明し、その後に第一の歯車部材1及び第二の歯車部材2のそれぞれの詳細な構成について説明する。
【0030】
<共通の構成>
第一の歯車部材1と第二の歯車部材2とは、歯部10,20の歯先12,22、及び歯面11,21における歯先12,22側の領域を除く大部分の構成が共通している。第一の歯車部材1及び第二の歯車部材2の共通の構成については、第二の歯車部材2を示す
図1に基づいて説明する。
【0031】
本例の第一の歯車部材1及び第二の歯車部材2は、プラネタリキャリアであり、第一プレート7と、第二プレート8と、連結部9とを備える。第一プレート7は、フランジ部71とボス部72とを備える。フランジ部71は、円盤状の部材で構成されている。ボス部72は、円筒状の部材で構成されている。ボス部72は、フランジ部71の中央の貫通孔の周囲に一体に設けられている。フランジ部71の貫通孔とボス部72の貫通孔とは、連続している。フランジ部71の貫通孔及びボス部72の貫通孔には、サンギヤに係合する図示しないシャフトが貫通する。第一の歯車部材1におけるボス部72の外周面には、
図5に示す歯部10が設けられている。第二の歯車部材2におけるボス部72の外周面には、
図1から
図4に示す歯部20が設けられている。第二の歯車部材2におけるボス部72には、後述するように、相手部材300が嵌め合わされる。相手部材300は、ボス部72が貫通する貫通孔300hを備えており、貫通孔300hの内周面に複数の歯部310が設けられている。第一の歯車部材1は、第二の歯車部材2の基となる部材であり、相手部材300は嵌め合わされない。第二プレート8は、第一プレート7におけるボス部72と反対側の面に対向して配置される。第二プレート8は、円盤状の部材で構成されている。第二プレート8の中央の貫通孔には、サンギヤに係合する上記シャフトが貫通する。連結部9は、第一プレート7と第二プレート8とを連結する。
【0032】
<第一の歯車部材>
第一の歯車部材1は、
図5に示すように、歯部10の歯先12側に機械加工が施される加工代18を備える。
図5では、加工代18をクロスハッチングで示す。この加工代18が除去されることで、
図2に示す第二の歯車部材2が得られる。
【0033】
第一の歯車部材1は、複数の歯部10を備える。
図5では、一つの歯部10を示しているが、他の歯部10も同様の構成となっている。歯部10は、インボリュート曲線110で構成される歯面11を備える。
図5では、インボリュート曲線110の一部を二点鎖線で示す。具体的には、歯面11は、
図6に示すように、第一領域11Aと第二領域11Bとを備える。第一領域11Aは、歯底16側の領域であり、インボリュート曲線110で構成される領域である。第二領域11Bは、歯先12側の領域である。第一の歯車部材1は、歯部10の歯幅方向と直交する断面において、第二領域11Bに凹部15を備える点を特徴の一つとする。凹部15は、インボリュート曲線110に対して窪んで構成されている。歯部10は、歯厚方向の中心線を挟んで左右対称の形状を備える。
【0034】
≪凹部の底面≫
凹部15は、
図6に示すように、底面151が丸められて構成されている。ここでの底面151は、インボリュート曲線110に対して最も窪みの大きい領域を含む。第一の歯車部材1は、歯部10の歯先12に機械加工が施される。このとき、凹部15における窪み部分の一部を残すように機械加工が施される。よって、凹部15の底面151が丸められていることで、機械加工を施して得られる第二の歯車部材2における角部23近傍の歯面21を、
図3に示すように滑らかにし易い。
【0035】
図6に示すように、凹部15における底面151の曲げ半径R1は、歯幅方向と直交する断面において、凹部15の底面151を構成する曲線の曲げ半径である。凹部15における底面151の曲げ半径R1は、0.1mm以上0.8mm以下であることが挙げられる。底面151の曲げ半径R1は、凹部15における窪みの形状に寄与する。底面151の曲げ半径R1が0.8mm以下であることで、凹部15における窪みを深くし易い。凹部15における窪みが深いことで、
図2に示す第二の歯車部材2の歯部20は、相手部材300の歯面311との間に十分な空間を構成できるような角部23を備え易い。底面151の曲げ半径R1が小さ過ぎると、凹部15における窪みが鋭角を有することになり、第一の歯車部材1の製造が困難になる。よって、底面151の曲げ半径R1が0.1mm以上であることで、第一の歯車部材1の製造性を向上できる。凹部15における底面151の曲げ半径R1は、更に0.1mm以上0.5mm以下、特に0.1mm以上0.3mm以下であることが挙げられる。
【0036】
≪凹部の開口縁≫
凹部15は、歯先12側に位置する開口縁152と、歯底16側に位置する開口縁153とを備える。歯先12側の開口縁152は、底面151を構成する曲線が凹から凸に変化する変曲点である。歯底16側の開口縁153は、第一領域11Aと第二領域11Bとの変曲点である。つまり、歯底16側の開口縁153は、第一領域11Aのインボリュート曲線110と凹部15を構成する線との変曲点である。
【0037】
〔歯先側の開口縁〕
凹部15における歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域は、丸められて構成されている。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域は、歯先12の両側の角部13を構成する。よって、歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域が丸められていることで、角部13を滑らかに構成し易い。
【0038】
図6に示すように、歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2は、歯幅方向と直交する断面において、底面151を構成する曲線に対して歯先12側につながる曲線の曲げ半径である。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2は、0.1mm以上1.0mm以下であることが挙げられる。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2は、歯部10の歯先12の形状や大きさに寄与する。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2が0.1mm以上であることで、歯先12に必要な歯厚を確保できる。歯先12に必要な歯厚を確保できることで、第一の歯車部材1の製造性を向上し易い。例えば、第一の歯車部材1が焼結部材で構成される場合、歯先12に必要な歯厚を確保できることで、第一の歯車部材1を構成する粉末の充填量が歯先12まで十分に確保され易い。また、歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2は、機械加工を施して得られる
図2に示す第二の歯車部材2の歯部20の歯先22の形状や大きさにも寄与する。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2が0.1mm以上であることで、機械加工を施して得られる
図2に示す第二の歯車部材2の歯部20の歯先22に必要な歯厚を確保し易い。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2(
図6)が大きくなるほど、第一の歯車部材1における機械加工の加工代18(
図5)が大きくなる。よって、歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2が1.0mm以下であることで、第一の歯車部材1における機械加工の加工代18が大きくなり過ぎることを抑制できる。歯先12側の開口縁152から歯先12につながる領域の曲げ半径R2は、更に0.1mm以上0.5mm以下であることが挙げられる。
【0039】
〔歯底側の開口縁〕
凹部15における歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域は、丸められて構成されている。歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域が丸められていることで、凹部15を構成し易い。
【0040】
歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域の曲げ半径R3は、歯幅方向と直交する断面において、インボリュート曲線110に対して凹部15の底面151につながる曲線の曲げ半径である。歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域の曲げ半径R3は、0.3mm以上2.0mm以下であることが挙げられる。歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域の曲げ半径R3が0.3mm以上であることで、第一領域11Aのインボリュート曲線110から凹部15の底面151につながる歯面11を滑らかにし易い。一方、歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域の曲げ半径R3が2.0mm以下であることで、必要なインボリュートスプラインを確保できる。歯底16側の開口縁153から第一領域11Aのインボリュート曲線110につながる領域の曲げ半径R3は、更に0.5mm以上1.5mm以下、特に0.9mm以上1.1mm以下であることが挙げられる。
【0041】
〔歯厚〕
歯部10は、上記凹部15を備える。そのため、第二領域11Bは、
図6に示すように、インボリュート曲線110で構成される場合に比較して、歯厚が小さい。ここでの歯先12の歯厚W1は、
図6に示すように、歯先12側に位置する開口縁152同士をつなぐ直線の長さである。歯先12の歯厚W1は、0.4mm以上であることが挙げられる。歯先12の歯厚W1が0.4mm以上であることで、第一の歯車部材1の製造性を向上し易い。例えば、第一の歯車部材1が焼結部材で構成される場合、歯先12の歯厚W1が0.4mm以上であることで、第一の歯車部材1を構成する粉末の充填量を歯先12まで十分に確保できる。歯先12の歯厚W1は、1.5mm以下、更に1.0mm以下であることが挙げられる。つまり、歯先12の歯厚W1は、0.4mm以上1.5mm以下、更に0.4mm以上1.0mm以下であることが挙げられる。
【0042】
<第二の歯車部材>
第二の歯車部材2は、
図1に示すように、複数の歯部20を備える。歯部20は、
図2及び
図3に示すように、インボリュート曲線210で構成される歯面21を備える。
図2では、一つの歯部20を示しているが、他の歯部20も同様の構成となっている。歯部20は、歯厚方向の中心線を挟んで左右対称の形状を備える。
【0043】
第二の歯車部材2における複数の歯部20は、
図1及び
図2に示す相手部材300の歯部310と係合する。第二の歯車部材2における歯部20の歯先22は、相手部材300における歯底312と当接する。
図2では、説明の便宜上、第二の歯車部材2における歯部20の歯先22と、相手部材300における歯底312とは、当接しない状態としている。第二の歯車部材2における歯部20の歯先22と、相手部材300における歯底312とが当接することによって、第二の歯車部材2の位置調整が行われる。例えば、第二の歯車部材2が環状歯車である場合、第二の歯車部材2の軸合わせが行われる。歯車部材は、成形による寸法公差がばらつくことがある。そこで、加工代18を備える第一の歯車部材1に機械加工を施して、第二の歯車部材2としている。機械加工としては、切削加工、研削加工、研磨加工等が挙げられる。
【0044】
第二の歯車部材2は、上述した第一の歯車部材1における歯部10の歯先12に機械加工を施した部材である。具体的には、第二の歯車部材2は、第一の歯車部材1における歯部10に対して、
図5に示す加工ライン19で機械加工を施し、加工代18を除去した部材である。第二の歯車部材2は、
図2及び
図3に示すように、歯部10に角部23を備える。角部23は、第一の歯車部材1における加工代18が除去されたことで構成されたものである。以上のことから、第二の歯車部材2は、歯先22が加工面であり、歯面21が非加工面である点を特徴の一つとする。ここでの加工面とは、切削、研削、研磨等の機械加工が施された面のことである。また、ここでの非加工面とは、機械加工が施される前の表面状態を有する面のことである。例えば、第一の歯車部材1が焼結部材で構成され、機械加工が切削加工である場合、歯先22は切削面であり、歯面21は焼結面である。また、第二の歯車部材2は、
図3に示すように、歯先22の両側の角部23が仮想角部24よりも歯厚方向内側に位置する点を特徴の一つとする。仮想角部24は、インボリュート曲線210と歯先22の延長面220とで構成される仮想の第一角部である。歯厚方向内側は、各歯部20における歯厚方向の中心線に近付く側である。また、歯厚方向外側は、各歯部20における歯厚方向の中心線と離れる側である。
【0045】
歯面21は、第一領域21Aと第二領域21Bとを備える。第一領域21Aは、インボリュート曲線210で構成される。第二領域21Bは、インボリュート曲線210よりも歯厚方向内側に位置する。第二領域21Bは、第一の歯車部材1における凹部15の窪み部分の一部で構成される。よって、第二の歯車部材2における歯部20と相手部材300とが係合した状態において、第二領域21Bと相手部材300の歯面311との間隔は、第一領域21Aと相手部材300の歯面311との間隔よりも大きい。第二領域21Bは、歯先22につながる。つまり、歯先22の両側の角部23は、仮想角部24よりも歯厚方向内側に位置することになる。そのため、第二の歯車部材2における歯部20と相手部材300とが係合した状態において、
図2に示すように、歯先22の両側の角部23と相手部材300との間に十分な空間を構成することができる。
【0046】
歯部20における歯先22側の先端部は、
図3に示すインボリュート曲線210で構成される場合に比較して、歯厚が小さい。ここでの歯先22の歯厚W2は、
図2に示すように、歯先22の両側の角部23同士をつなぐ直線の長さである。歯先22の歯厚W2は、0.4mm以上であることが挙げられる。歯先22の歯厚W2が0.4mm以上であることで、相手部材300の歯底312に当接し易い。歯先22の歯厚W2は、1.5mm以下、更に1.0mm以下であることが挙げられる。つまり、歯先22の歯厚W2は、更に0.4mm以上1.5mm以下、特に0.4mm以上1.0mm以下であることが挙げられる。
【0047】
本例では、
図4に示すように、歯部20のうち、フランジ部71近傍の歯先22は、機械加工が施されていない。よって、歯部20のうち、フランジ部71近傍の歯先22は、非加工面である。この非加工面の歯先22を有する歯部20には、相手部材300は嵌め合わされない。
【0048】
<作用・効果>
図2及び
図3に示す第二の歯車部材2は、
図5に示す第一の歯車部材1における歯部10の歯先12に機械加工を施して得られる。第一の歯車部材1は、
図5に示すように、歯部10における歯先12の両側の角部13近傍の歯面11に凹部15を備える。そこで、加工代18は、凹部15における窪み部分の一部を残すように設定される。この加工代18に機械加工を施すことで、得られる第二の歯車部材2において、
図3に示すように、インボリュート曲線210よりも歯厚方向内側に位置する第二領域21B及び角部23を構成することができる。つまり、
図5に示す第一の歯車部材1に一回の機械加工を施すことで、
図2に示す第二の歯車部材2が得られる。具体的には、第一の歯車部材1に一回の機械加工を施すことで、歯部20の歯先22が相手部材300の歯底312に当接でき、かつ相手部材300の歯面311との間に十分な空間を構成できるような角部23を備える第二の歯車部材2が得られる。
【0049】
なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0050】
上述した第一の歯車部材1における歯部10の構成、及び第二の歯車部材2の歯部20の構成は、各種歯車の歯部に適用することができる。具体的には、平歯車、はす歯歯車、内歯車、ラック、かさ歯車、楕円歯車、扇状歯車等が挙げられる。
【0051】
上述した第一の歯車部材1、及び第二の歯車部材2は、鉄系金属の粉末を焼き固めた焼結部材、鉄系金属の溶製材、ゴム材、又は樹脂材で構成されることが挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
1 第一の歯車部材
10 歯部
11 歯面、11A 第一領域、11B 第二領域
110 インボリュート曲線
12 歯先
13 角部
15 凹部、151 底面、152,153 開口縁
16 歯底
18 加工代、19 加工ライン
2 第二の歯車部材
20 歯部
21 歯面、21A 第一領域、21B 第二領域
210 インボリュート曲線
22 歯先、220 延長面
23 角部、24 仮想角部
7 第一プレート、71 フランジ部、72 ボス部
8 第二プレート
9 連結部
300 相手部材、300h 貫通孔
310 歯部、311 歯面、312 歯底
R1,R2,R3 曲げ半径
W1,W2 歯厚