(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】X線を良く透過させて散乱を低減する医療用テーブル
(51)【国際特許分類】
A61B 6/04 20060101AFI20230808BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61B6/04 331A
A61B6/04 331B
D04B1/14
(21)【出願番号】P 2022123002
(22)【出願日】2022-08-01
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2022018334
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】721004927
【氏名又は名称】和田 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆太郎
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-500049(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0128843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
G21F 1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用のX線透過装置の患者人体を上載するテーブルで、
一次X線が照射される照射野の部位では、
天板の段
の天板に原子番号が14以下の元素の単体または化合物により構成される網を設置し、X線はその網を透過させることで
天板によるX線の吸収と散乱を抑制することを特徴とするテーブル
【請求項2】
医療用のアンダーチューブ型のX線透過装置の患者人体を上載するテーブルで、天板の段の下部に底板
の段かつまたは中間の段を設け、
一次X線が照射される照射野の部位
では、
底板かつまたは中間の段では切り欠きを設けて中空の自由空間を透過させ、
天板の段
の天板では
原子番号が14以下の元素の単体または化合物により構成される網を透過させることで
テーブルによるX線の吸収と散乱を抑制することを特徴とするテーブル
【請求項3】
請求項2のテーブルにおいて、
中間の段には軸線方向に長い直方体の板で、中空の貫通面を有するスライドテーブルを設置し、
底板の段には軸線方向に複数の中実の切り平板である開閉板を設置し、
前記開閉板は1または複数を軸線の垂直方向に開
き、
前記スライドテーブルの中空の貫通面を開けた
前記開閉板の開口位置の上部に移動させ
て、
前記開閉板と
前記スライドテーブルの中空の貫通面との切り欠きの位置を合わせることにより、
手術中でも照射野を医療上の目的から必要な位置に調整できることを特徴とするテーブル
【請求項4】
請求項3のテーブルにおいて、
底板の段では
多数設けられた開閉板のうち、照射野の部位の開閉板は開とすることで一次X線がそのまま透過し、
中間の段では
絞り板は前記スライドテーブルの中空の切り欠きを跨いで設置し、照射野の軸線方向の開口寸法を自在に調整でき、
一次X線およびその散乱線に起因する散乱X線の発生を低減し、
中間の段では照射野を必要最低限の開口寸法に絞り、
天板の段では上載する患者人体で発生する散乱X線を減弱・吸収することにより、X線受像機の画質を鮮明にし、かつ、診療室内等の空間の放射線量率を低減することを特徴とするテーブル
【請求項5】
請求項1
に記載する
テーブルの網は、
原子番号が14以下のX線を吸収し難い元素の単体または化合物により構成された線材を交差させて配置またはメリヤス編み等で編み込みし、
10センチメートル以下の間隔で線材を格子状に配置した構造体であることを特徴とするテーブル
【請求項6】
請求項2に記載する
テーブルの網は、
原子番号が14以下のX線を吸収し難い元素の単体または化合物により構成された線材を交差させて配置またはメリヤス編み等で編み込みし、
10センチメートル以下の間隔で線材を格子状に配置した構造体であることを特徴とするテーブル
【請求項7】
請求項5に記載する
テーブルの網を構成する線材は、
原子番号が14以下のX線を吸収し難い元素の単体または化合物により構成され、
直径が2ミリメートル以上であり、引張強度が50メガパスカル以上であることを特徴とするテーブル
【請求項8】
請求項6に記載する
テーブルの網を構成する線材は、
原子番号が14以下のX線を吸収し難い元素の単体または化合物により構成され、直径が2ミリメートル以上であり、引張強度が50メガパスカル以上であることを特徴とするテーブル
【請求項9】
請求項1に記載するテーブルの網において、テーブルの前記網は線材を格子状に配置した構造体であり、前記構造体は線材または網と患者人体の体重を支える矩形の板状のフレームを組み合わせた中空の切り平板状の構造体またはこれらを一体化した成型品であることを特徴とするテーブル
【請求項10】
請求項2に記載するテーブルの網において、テーブルの前記網は線材を格子状に配置した構造体であり、前記構造体は線材または網と患者人体の体重を支える矩形の板状のフレームを組み合わせた中空の切り平板状の構造体またはこれらを一体化した成型品であることを特徴とするテーブル
【請求項11】
請求項
9または請求項10に記載するテーブルの線材を格子状に配置する構造体は、
照射野にある天板の軸線中央部の貫通した切り欠きに剰余の空間なく収納することができ、
切り欠きに面一となる高さに調整する部材を有することにより、
天板の段の網面が自在に嵌め込みと取り外しができるメッシュ透過板ユニットであることを特徴とするテーブル
【請求項12】
請求項11に記載する
テーブルのメッシュ透過板ユニットの一部または全部は、
メッシュ透過板ユニットと同じ外形寸法と形状の中実の切り平板である吸収板を準備し、
メッシュ透過板ユニットと入れ替えて設置することにより、
照射野とする軸線方向の開口寸法を医療上の目的から必要な最大幅に設定して調整できることを特徴とするテーブル
【請求項13】
請求項11に記載する
テーブルのメッシュ透過板ユニット
は、
天板の上面にある1つのメッシュ透過板ユニットの表面の軸線の垂直方向の両端は、両端面から2枚の中実の切り平板のスペーサにより内側に向けて覆い、
スペーサで覆われずに露出した網面の軸線の直角方向の幅の寸法を変えることにより、
照射野の軸線の直角方向の幅を医療上の目的から必要な幅に調整できることを特徴とするテーブル
【請求項14】
請求項3または請求項4に記載するテーブルの開閉板において、
天板の段の下部に底板の段を設け、
底板の段のヒンジ機構またはスライド機構で開閉する1または複数の開閉板を配置し、
1ないし複数の開閉板を開けて、一次X線を入射させることにより、
医療上の目的から必要な照射野の位置を変更できることを特徴とするテーブル
【請求項15】
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載するテーブルの天板において、
照射野以外でX線の照射を受ける表面
の材料は、
照射されるX線の種類またはエネルギーに応じて表面の材質を変えることで、
テーブルからの散乱X線の発生を低減することを特徴とするテーブル
【請求項16】
請求項15に記載するテーブルの天板において、
一次X線とその散乱線が照射される下向きの表面の材料には低反射材料を配置し、
かつまたは、患者人体からの散乱X線が照射される上向きの表面の材料には複合吸収材料を配置することを特徴とするテーブル
【請求項17】
請求項12に記載するテーブルの吸収板を構成する材料は、
患者人体からの散乱X線が照射される上面の表面の材料には複合吸収材料を配置
し、
かつまたは、一次X線とその散乱線が照射される下面の表面の材料には低反射材料を配置することを特徴とするテーブル
【請求項18】
請求項13に記載するテーブルのスペーサを構成する材料は、
患者人体からの散乱X線が照射される上面の表面の材料には複合吸収材料を配置し、
かつまたは、一次X線とその散乱線が照射される下面の表面の材料には低反射材料を配置することを特徴とするテーブル
【請求項19】
請求項4に記載するテーブルの前記開閉板かつまたは前記絞り板において、
一次X線とその散乱線が照射される下向きの表面の材料には低反射材料を配置し、
かつまたは、患者人体からの散乱X線が照射される上向きの表面の材料には複合吸収材料を配置することを特徴とするテーブル
【請求項20】
請求項16に記載するテーブルの天板において、
患者人体により遮へい
されていて一次X線には曝露されず
に散乱X線が照射される部位には、複合吸収材料を配置することを特徴とするテーブル
【請求項21】
請求項3または請求項4に記載するテーブルのスライドテーブルにおいて、
前記スライドテーブルの中空の貫通面の上に一対で2枚の中実の切り平板である絞り板を配置し、
一方または両方の前記絞り板を軸線方向に移動させることで、
手術中でも医療上の目的から必要な軸線方向の照射野の開口寸法を調整できることを特徴とするテーブル
【請求項22】
請求項3に記載するテーブルの下部に設置する開閉板において、
前記開閉板は一対で2枚の中実の角切り平板とし、
ヒンジ機構で軸線と垂直方向に任意の開角度で開けることで、
手術中でも医療上の目的から必要な軸線と垂直方向の照射野の開口寸法を調整できることを特徴とするテーブル
【請求項23】
請求項4に記載するテーブルにおいて、
中間の段の前記スライドテーブルの
散乱X線が入射する表面に、
複合吸収材料を配置したスライド吸収板を設けることにより、
照射野以外の部位で発生する散乱X線を低減することを特徴とするテーブル
【請求項24】
請求項9または請求項10に記載するテーブルの網の材料は、
炭素繊維補強プラスチック、ガラス繊維補強プラスチック、金属アルミニウムまたは金属マグネシウムであることを特徴とするテーブル
【請求項25】
請求項11に記載するテーブルの網の線材を格子状に配置した構造体の材料は、
炭素繊維補強プラスチック、ガラス繊維補強プラスチック、金属アルミニウムまたは金属マグネシウムであることを特徴とするテーブル
【請求項26】
請求項3または請求項4に記載する散乱X線が照射されるテーブルの上側の表面の材料は、
低反射材料とすることを特徴とするテーブル
【請求項27】
請求項3または請求項4に記載するテーブルの一次X線が照射される下側の表面の材料は、
複合吸収材料とすることを特徴とするテーブル
【請求項28】
請求項16に記載するテーブルの天板を構成する材料は、
低反射材料は、X線源からの一次X線またはその散乱線が照射される表面に設置して原子番号が20以上の元素の単体または化合物により構成され、かつ、線減衰係数が10(1/cm)以上での材料であり、
複合吸収材料は、上載する患者人体からの散乱X線が照射される表面に設置して第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた材料
であることを特徴とするテーブル
【請求項29】
請求項17に記載するテーブルの吸収板を構成する材料は、
低反射材料は、X線源からの一次X線またはその散乱線が照射される表面に設置して原子番号が20以上の元素の単体または化合物により構成され、かつ、線減衰係数が10(1/cm)以上での材料であり、
複合吸収材料は、上載する患者人体からの散乱X線が照射される表面に設置して第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた材料
であることを特徴とするテーブル
【請求項30】
請求項18に記載するテーブルのスペーサを構成する材料は、
低反射材料は、X線源からの一次X線またはその散乱線が照射される表面に設置して原子番号が20以上の元素の単体または化合物により構成され、かつ、線減衰係数が10(1/cm)以上での材料であり、
複合吸収材料は、上載する患者人体からの散乱X線が照射される表面に設置して第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた材料
であることを特徴とするテーブル
【請求項31】
請求項19に記載するテーブルの開閉板かつまたは絞り板を構成する材料は、
低反射材料は、X線源からの一次X線またはその散乱線が照射される表面に設置して原子番号が20以上の元素の単体または化合物により構成され、かつ、線減衰係数が10(1/cm)以上での材料であり、
複合吸収材料は、上載する患者人体からの散乱X線が照射される表面に設置して第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた材料
であることを特徴とするテーブル
【請求項32】
請求項20に記載するテーブルの天板の複合吸収材料は、
上載する患者人体からの散乱X線が照射され
る表面の材料は、
第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた複合吸収材料を配置することにより、
散乱X線を減衰して吸収することでX線の再散乱を低減することを特徴とするテーブル
【請求項33】
請求項23に記載するテーブルのスライド吸収板の複合吸収材料は、
上載する患者人体からの散乱X線が照射される表面の材料は、
第一層が低反射減弱層で第二層以下が拡散吸収体と電子吸収体の対より成る多層吸収層の3層以上を密着して多層に重ねた複合吸収材料を配置することにより、
散乱X線を減衰して吸収することでX線の再散乱を低減することを特徴とするテーブル
【請求項34】
医療用のX線透過装置の患者人体を上載するテーブルで、
一次X線が照射される照射野の部位では、
天板の段に原子番号が14以下の元素の単体または化合物により構成される薄板シートを設置し、X線はその薄板シートを透過させることで
天板によるX線の吸収と散乱を抑制することを特徴とするテーブル
【請求項35】
医療用のアンダーチューブ型のX線透過装置の患者人体を上載するテーブルで、
天板の段の下部に底板かつまたは中間の段を設け、
一次X線が照射される照射野の部位でX線は、
底板かつまたは中間の段では切り欠きを設けて中空の自由空間を透過させ、
天板の段では原子番号が14以下の元素の単体または化合物により構成される薄板シートを透過させることで
テーブルによるX線の吸収と散乱を抑制することを特徴とするテーブル
【請求項36】
請求項34または請求項35に記載する
テーブルの薄板シートは、
照射野に設置される部材が帯状のフィルムまたは平面状の板材であることを特徴とするテーブル
【請求項37】
請求項34または請求項35に記載する
テーブルの薄板シートは、
上載する患者人体の体重を薄板シート自体の引張強度で支え、その反力は別途に準備する矩形で中空の強度部材により支える構造とすることで
照射野に設置される部位の薄板シートの厚みを小さくできることを特徴とするテーブル
【請求項38】
請求項34または請求項35に記載する
テーブルの薄板シートは、
厚さが0.5ミリメートル以下であり、引張強度が100メガパスカル以上の材料を用いることを特徴とするテーブル
【請求項39】
請求項34または請求項35に記載する
テーブルの薄板シートは、
材料が炭素繊維強化プラスチックまたはガラス繊維強化プラスチックであることを特徴とするテーブル
【請求項40】
請求項34または請求項35に記載するテーブルの薄板シートを配置する構造体は、
患者人体の体重を支える矩形の板状のフレームを組み合わせた中空の切り平板状の構造体またはこれらを一体化した成型品であることを特徴とするテーブル
【請求項41】
請求項40に記載するテーブルの薄板シートを配置する構造体は、
照射野にある天板の軸線中央部の貫通した切り欠きに剰余の空間なく収納することができ、
切り欠きに面一となる高さに調整する部材を有することにより、
天板の段の薄板シート面が自在に嵌め込みと取り外しができるシート透過板ユニットであることを特徴とするテーブル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エックス線(以下、「X線」と記載する)透視装置を利用する医療分野において、X線受像機の画質を鮮明にし、かつ、被ばく線量と放射線防護に係る負荷を低減できる医療用X線透視装置のテーブル(寝台)を提供する。
【背景技術】
【0002】
医療分野での放射線利用は普及が進んでおり、日本での放射線検査・診断装置と血管連続撮影装置の合計数は2017年時点で既に1万7千台を超えている。
今日では臨床的処置として数多くの手術を行う各診療科の専門医(以下、「術者」という)が、X線透視装置を使用している。放射線を使用した診療は着実に増加しており、患者と医療従事者の被ばくを伴う処置も頻繁に実施されている。最近では、パルス透視や選択的血管造影等の技術がさらに進歩しているが、利用機会の増加に伴いX線照射による被ばく時間が長くなる傾向にあり、患者の医療被ばくや医療従事者の職業被ばくの増加をもたらしている。また、場合によっては放射線防護上の対応が立ち遅れている部分もあり、そのため医療従事者と患者の放射線障害のリスクが高まっている。
【0003】
医療従事者と患者の放射線防護のために、非特許文献1では、鉛エプロン、天井懸架型遮へい(移動式天井懸架スクリーン、その他吊り下げ式鉛フラップ等)、搭載型遮へい、甲状腺保護具、眼の保護具等の放射線防護具が提案されている。しかし、これらの放射線防護具は、特定の方向に向けて平面的に散乱するX線、すなわち意図した方位からのX線を防護することを想定している。入射したX線源からのX線(以下、「一次X線」という)がテーブルや患者の身体組織で散乱し、散乱X線が全方向から照射される中では、十分に医療従事者を被ばく防護できない。これらの放射線防護具による被ばく低減の効果は、特定の方向に限られた限定的なものになる。すなわち、これらの放射線防護具は、幾分かでも医療従事者の被ばくを低減することを目的とするものであり、散乱X線による被ばく低減の根本的な解決策にはならない。
【0004】
一般に医療用のX線透視装置はX線管球の管電圧が50~150キロボルト(kV)で使用される場合が多いが、これに対応するX線エネルギーは50~150キロ電子ボルト(KeV)の領域である。アルミニウム(Al)は50KeV以上では光電効果が主要な相互作用である領域(以下、「光電領域」という)にはなく、コンプトン散乱が主要な相互作用である領域(以下、「散乱領域」という)にある。すなわち、AlはX線をあまり吸収せずに、散乱している。Alより原子番号が小さい元素、すなわち炭素(C)-水素(H)-酸素(O)等の元素で構成されるプラスチック等の高分子化合物は、同様に散乱領域にあり、X線を殆ど吸収しない。そのため、一次X線が照射されてこれらの軽元素の物質と相互作用した際には、支配的に多くが吸収されずに散乱されて散乱X線となる。これらの背景技術は特許文献4に詳細が説明されている。
【0005】
X線透視装置は患者が横たわる寝台(以下、「テーブル」という)の上下どちらかにX線管球を設置し、反対方向に設置したX線受像機にて患者を透過したX線を受光する。従来、テーブルの素材にはX線の吸収を避けるため、炭素繊維補強プラスチック(以下、「CFRP」という)、ガラス繊維補強プラスチック(以下、「GFRP」という)、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が使用されてきた。また、金属ではAl等が使用されてきた。従来のテーブルはいずれも一次X線の吸収が少ない軽元素から成る材料により構成されている。これらは一次X線の吸収は少ないが、散乱により散乱X線を発生する。
【0006】
他方、一次X線は主にC-H-O等の軽元素で構成される患者の人体組織でも散乱され、その体厚がテーブルに比べて厚いため、より多くの散乱X線が発生することが知られている。患者人体で発生した散乱X線は、前方、側方、後方に散乱する。X線源がテーブルの下方にあるアンダーチューブ型では、患者人体で発生した後方への散乱X線は、患者人体の下方にあるテーブル面に照射される。アンダーチューブ型の場合は、後方である下方(床面の方向)への散乱X線が最も光子数が多く、これが発生する散乱X線の半分程度と言われている。前項で述べた従来のテーブルの材料はこれらを吸収することなく更に散乱するので、テーブルからは再散乱した散乱X線が発生する。
【0007】
最近では患者人体から一次X線の入射方向に後方散乱する散乱X線を軽減するために遮へい材料としてテーブル上に市販の含鉛(Pb)シート等の敷布を敷く例もある。このPbシートにより、ある程度の散乱X線は減弱され、吸収される。しかし、Pbだけでは50KeVの中程度のエネルギー領域での散乱X線の吸収能力に優れているとは言い難い。また、Pbシートは一次X線の照射野を塞がないように照射野付近には敷かず、患者人体の限られた一部の部位だけに敷かれるため、その効果は限定的である。すなわち、敷布では最も散乱が多い照射野の人体組織やテーブルからの散乱X線に対して有効ではない。さらにテーブル上に設置した敷布ではテーブルで発生した下方(床面の方向)への散乱X線は吸収することができない。そのため、この方法では医療従事者の被ばく防護には十分な措置ではない。
【0008】
敷布以外に部分的な遮へい材料をテーブルの付属品として設置する例も考案されている。特許文献1のX線防護プレートは、X線透視下で治療や検査を行う際に患者の近傍に設置するテーブルの甲板(天板)に装着し、医療器具が前記底部の周縁から脱落するのを防止する側壁部と側壁部外周側にねじ止めするL字金具を有することを特徴としている。特許文献1では材料は特定されていないが、金属の鉛などの重金属元素は遮蔽効果が高いので望ましいとしている。
特許文献1は設置する部位が明確ではないが、これは患者に部分的な遮へいを提供するものである。少なくとも一次X線の透過に関与するものではない。また、照射野の近傍に設置し、照射野を最小限にするために手術の目的(患部の位置)に合わせてその位置や開口寸法の調整を目指したものではない。また、散乱X線の吸収やX線受像機の画質を鮮明にすること等には言及していない。
特許文献1は敷布と同様に照射野を避けて設置し、患者人体の限られた一部の部位にテーブルに付属させる補足的な追加遮へい体を設置するものであり、テーブルの全体の構造を対象にしたものではない。また、特許文献1ではテーブルにより散乱X線を低減する上で重要な照射野を必要最低限の面積に制限し、患者人体から発生する散乱X線を吸収するものではない。
【0009】
特許文献2のX線防護具は患者人体の腕の部分に付加的な遮へい材料をテーブルに付属させたものである。遮へい機能を分担する側板の材料は鉛、金、銅等の重金属を含有するアクリルとされている。
しかし、腕の部分は体表の面積が小さい上に照射野からも遠いため、腕の部分だけで患者人体から発生する散乱X線を低減することは難しい。同様にこれは患者に部分的な追加遮へい体を提供するものであり、照射野の近傍でその位置や開口寸法の調整を目指したものではない。少なくとも一次X線の透過に関与するものではない。さらにX線受像機の画質を鮮明にすることには言及していない。
特許文献2は腕等を対象にテーブルに付属させる補足的な追加遮へい体を設置するものであり、テーブルの全体の構造を対象にしていない。また、前項と同様に特許文献2ではテーブルにより照射野を必要最低限の面積に制限し、患者人体から発生する散乱X線を吸収するものではない。
【0010】
他方、X線受像機の画質を鮮明にするには、X線源からの一次X線を散乱や吸収で損なうことなく患者身体に照射し、テーブルや患者人体からの散乱X線がX線受像機に入射させないことが良い。また、発生した散乱X線を吸収により除去することも重要である。
現状は、X線受像機のX線受像面の前にAl薄板等を組んだ直線グリッド、平行グリッド、集束グリッドまたはクロスグリッド等を設置して入射する散乱X線の量を減少させる対応が行われている。これはX線受像機の前置フィルタのような位置付けのものである。
従来のテーブルではCFRPやAl等の材料を用いて一次X線の吸収を低減して透過量を減らさないことが図られているが、テーブル自身が散乱X線をなるべく発生せないことを狙ったテーブルは見当たらない。また、患者人体からX線受像機へ至る散乱X線を低減することを狙ったテーブルは見当たらない。
さらに、画像処理ソフトウェアでの仮想グリッドにより、X線受像機の散乱X線により画質が不鮮明になるのを防いでいる。しかし、これは画像処理の手法の1つであり、散乱X線が減少している訳ではない。
そのため、従来のテーブルでは、診療室等内の散乱X線による空間線量率を低減して、X線受像機の画質を鮮明にすることには限界がある。
【0011】
X線受像機の画質を鮮明にするための考え方の1つに、照射野は必要最低限の狭い範囲としてその面積を制限することにより、患者人体による散乱X線の発生が抑制されることが知られている。X線源のX線可動絞りにその役割の一部があるが、テーブルからやや離れた場所での照射野の調整となるため、医療用の目的から必要最低限の面積に制限することは難しい。また、X線源からテーブルに至る間に、一次X線の小角散乱等の散乱線が発生して、X線ビームがやや拡がってしまい、照射野以外の部位を高いX線エネルギーで照射してしまう。なお、現状では、テーブル自体に照射野の位置や開口寸法(面積)を調整する機能があるものは見当たらない。
一方で、テーブルの付属品により、照射野の開口寸法(面積)を調整しようとしたものは既存の知見の範囲でもある。これはオーバ―チューブ型のX線透過装置で、患者身体の上に卓上用のX軸とY軸の2方向ゴニオメーターを設置し、Pbやタングステン(W)等の絞り板を2方向に動作させるものである。この照射野は最初に設定した大きな面積を手技の途中で必要最低限の小さな面積に絞っている。
【0012】
特許文献3ではX軸とY軸の2方向で照射野の寸法を調整する考えを発展させ、回転させることで円形の陰影をつくるサイズ調整装置により、円盤状の高減弱係数の物質により照射野の面積を変化させることが考案されている。高減弱係数の物質の遮蔽の材料は例えば鉛の円板とし、グラファイト製の回転円板である遮蔽板の中央に取付けられている。
しかしながら、これは2方向に動作する可変式の絞りの変形例であり、照射野の寸法を変更できるが、透過する一次X線は陰影により低減する。また、陰影により照射野の寸法を変更できるものの、手術の目的(患部の位置)に合わせてその位置や開口寸法の調整をすることは出来ずない。そのため、照射野の位置は陰影の場所の画一的なものであり、照射野の寸法を変更する範囲は限定的である。さらに、テーブルや患者人体で発生する散乱X線の減弱・吸収を考慮したものではない。
特許文献3は回転円板の陰影による照射野を限定した可変絞りであり、テーブルの全体の構造を対象にしていない。また、同一の照射野の位置でその面積を変化させることは出来るが、手術の目的に合わせて照射野の位置を変更できない。さらに、照射野の面積を小さくする際には、透過する一次X線が低減する。特許文献3ではX線源からの一次X線を相互作用なく透過させることや、患者人体から発生する散乱X線を吸収することは考慮されていない。
【0013】
上述の通り、現状で考案されているテーブルは、殆どは一次X線が透過する部分(照射野)にもテーブルの材料が存在しているものであり、照射野の面積に相当する切り欠きがあるテーブルは見当たらない。
また、同様に、X線防護プレートやX線防護具はテーブルに付属させる部分的な追加遮へい体であるが、テーブル自体で照射野外の一次X線とその散乱線を遮へい(後述の線減衰)することを狙ったテーブルは見当たらない。
さらに、同様に、回転円板による可変式の絞りはテーブルに付属させて陰影により部分的にある一定の範囲で照射野の面積の調整ができるが、照射野の位置の変更や開口寸法の調整はできない。テーブル自体で開口寸法に相当する切り欠きを設けることや、切り欠きの位置と開口寸法を手術中で調整することを狙ったテーブルは見当たらない。
その上、同様に、一次X線が照射されたテーブルが軽元素で構成されているためX線を殆ど吸収することなしに散乱するものが多く、テーブル自体で散乱X線を発生させないことを狙ったテーブルは見当たらない。
また、上述の一次X線とその散乱線の遮へい(同上)に加えて、テーブル自体で上載する患者人体から発生した散乱X線を減弱して吸収(後述の線エネルギー吸収)することを狙ったテーブルは見当たらない。
従って、必要十分な照射野の位置と開口寸法を調整し、切り欠きにより一次X線を相互作用なく透過させ、自身は散乱X線をなるべく発生せず、発生した散乱X線は減弱して吸収することを狙ったテーブルは見当たらない。
そのため、従来のテーブルでは、診療室等内の散乱X線による空間線量率を低減することで、医療従事者の放射線防護に係る負荷を低減することが難しい。
【0014】
発明者が同じ特許文献4では、散乱体(患者人体やテーブル)からの散乱X線を良く減弱して吸収する複合吸収材料が考案されている。複合吸収材料は、主に鉛(Pb)の低反射減弱層(初層)と多層吸収層(拡散吸収体、電子吸収体)より構成される。1~3対の拡散吸収体と電子吸収体の対を隙間なく重ね合わせて配置することで、入射した散乱X線を最大限に効率的に線減衰した上で線エネルギー吸収する。X線はそのエネルギーを光電子等の運動エネルギー等に変換させることで消滅する。これにより診療室内等の空間の放射線量率を低減でき、患者等・医療従事者の被ばくを必要かつ最小に低減できる。すなわち、複合吸収材料は散乱体からの散乱X線を、異なった役割を持った3層以上を密着して多層に重ねた材料により減弱させて吸収する役割である。複合吸収材料は、本発明の構造物を構成する1つの主要な材料となる。線減衰と線エネルギー吸収は後述の実施例の表1とその本文記述にて説明する。複合吸収材料の詳細は後述の実施例5にて説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】国際放射線防護委員会、「画像診断部門以外で行われるX線透視ガイド下手技における放射線防護」、ICRP Pub.117、公益社団法人日本アイソト-プ協会訳、2017年3月31日
【文献】Hubbell,J.H. and Seltzer,S.M.,”Tables of X-Ray Mass Attenuation Coefficients and Mass Energy-Absorption Coefficients 1 keV to 20 MeV for Elements Z=1 to 92 and 48 Additional Substances of Dosimetric Interest”, NSTIR 5632, (1995)(以下、「NISTデータベース」という)
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2004-301563公報
【文献】特開2002-253547公報
【文献】特開2004-4049849公報
【文献】特願2022-161788公報(国内優先出願、先の出願は特願2022-1336公報)
【文献】特開平4-2876公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の医療用のX線透過装置のテーブルは主に天板とその支持台で構成され、天板はCFRPやAl系金属等の材料による切り欠きのない構造物であり、照射された一次X線はこれら軽元素から成る材料と相互作用した上でX線受像機に透過している。しかし、軽元素による吸収は少ないものの、テーブルにより散乱した一次X線は散乱X線となる。また、上載する患者人体でかなり多くの散乱X線が発生するが、従来のテーブルはこれを吸収せずに更にあちこちの方位に散乱する。そのため、診療室等内の散乱X線による空間線量率が高くなる。このように生じた空間の散乱X線が全方位から照射されることにより、X線受像機の画質が不鮮明になり、かつ、医療従事者と患者を被ばくさせている。空間の散乱X線量を下げるには、テーブルが関与する散乱X線の発生を低減しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
医療用X線透視装置のテーブルは、検査や治療中に患者人体の体重を支えることが基本的な役割である。本発明では前項の課題を解決するために、以下の4つの追加要件を満足するテーブルを考案した。
要件1は、照射野に照射される一次X線は可能な限り物質との相互作用なく透過させること(「一次X線の透過」と略す)である。
要件2は、テーブル自体が散乱X線をなるべく発生しないこと(同「散乱X線の発生抑制」)である。
要件3は、上載する患者人体で発生した散乱X線を減弱して吸収すること(同「散乱X線の減弱と吸収」)である。
要件4は、簡易な位置・寸法調整機構により照射野を適切な位置とした上で医療上の目的から必要最低限の開口寸法(面積)に調整できること(同「照射野の位置と寸法調整」)である。
要件4ではX線源のX線可動絞りによる調整に係わらず、手術の途中で必要に応じてテーブル側で照射野の寸法を変更できるものとする。なお、手技の途中に術者以外の医療従事者も操作できるものとする。
課題を解決するための手段には、テーブルに使用する材料を各部位に照射されるX線の特性毎に変更することを含んでいる。本発明は、このように上述した4つの要件の幾つか、または、全てを複合して満足させるテーブルに関する。
【0019】
ここではアンダーチューブ型のテーブルを例に説明する。
一次X線を相互作用なく透過させ、かつ、散乱X線を減弱・吸収できるテーブルの構造は、天板、中間、底板の3つの段により構成される。まず冒頭にテーブルの各段の構造と構成および個々の部材の名称を説明する。なお、軸線とは部材の長手方向の図心を通る線のことであり、本発明のテーブルでは横たわった患者人体の身長方向の図心を通る線を指す。
天板の段は、天板、吸収板、メッシュ透過板ユニットおよび支持レールと補強梁で構成される。天板は患者が横たわり、上載する患者人体の体重を支持する。天板の軸線中心部には軸線方向に長い開口部があり、吸収板とメッシュ透過板ユニットはそこの支持レール上に嵌め込んで設置する。吸収板は中実の角切り平板である。メッシュ透過板ユニットは中央部が網状の中空の角切り平板である。天板が支持した荷重は支持レールと補強梁で支持し、最終的にはテーブル支持台で支持する。
中間の段は、スライドテーブルおよびそのサイドローラ、スライド吸収板、絞り板およびその駆動機構で構成される。スライドテーブルは軸線方向に長い平板であり、軸線中心の一部の位置に開口部があり、他の部位にはスライド吸収板がその上に固定される。絞り板は中実の角切り平板であり、ボールねじ等の駆動機構はスライドテーブルの中に取り付ける。一対(2枚)の絞り板はスライドテーブルの開口部の上を軸線方向に滑って移動して開口寸法を自在に調整できる。サイドローラ上に設置したスライドテーブルは軸線方向にスライドして移動し、開口部の位置を調整できる。スライドテーブルと絞り板により照射野の軸線方向の開口の位置と寸法を調整できる。スライドテーブルと絞り板は機械的な駆動機構が設置される場合がある。
底板の段は、底板と低反射散乱開閉板(以下、「開閉板」という)とその固定・駆動機構で構成される。開閉板は中実の角切り平板であり、ヒンジ機構またはスライド機構により開閉できる。手術中には照射野の位置の開閉板が開かれる。アンダーチューブ型の場合、開閉板には一次X線とその散乱線の照射を受ける表面にPb・Wまたはバリウム(Ba)・スズ(Sn)・モリブデン(Mo)・ニオブ(Nb)等の低反射元素を被覆する。開閉板には機械的な駆動機構が設置される場合がある。
以下では各要件での対策は、各々の段に区分して説明する。
【0020】
要件1(一次X線の透過)を解決するための最も良い対策は、照射野の部位にはX線源と患者人体の間に何ら物体を存在させないことである。すなわち、テーブルの照射野の部位は、一次X線が自由空間をそのまま透過する人工的な開口(以下、「切り欠き」という)とするのが良い。また、軸線中心の照射野となる可能性がある部位には、支持レール、サイドローラおよびその駆動装置等は配置しない。これらは軸線中心を避けて配置される。すなわち、天板と中間版と底板の3つの段の照射野は一次X線がそのまま透過する切り欠きとなる構造とする。
天板に関しては照射野の面積が小さい場合は切り欠きが開口として残ったままでも良いが、その面積が大きい場合は切り欠きのままでは天板の患者人体の体重を支える機能に支障が生じる。照射野となる可能性がある部位には、テーブルの天板の軸線中心部の一部または全部の吸収板を取外してメッシュ透過板ユニットを設置する。メッシュ透過板ユニットの中空の中央部は、引張強度が高く一次X線を吸収し難い線材を網状に編んだ構造体またはその網(メッシュ)である。線材または網の材料は比較的高いエネルギーのX線を吸収し難い、例えばCFRP、GFRP、Al線またはMg線等である。線材または網で構造的な強度が不足する場合は同じ材料の矩形のフレームを設置する。また、これらを一体化させた一体成型品を用いても良い。切り欠きとの高さの調整にはアジャスタを準備する。これらにより、天板の段は、上載する患者人体の体重を支え、殆どの一次X線をそのまま透過させることができる。
中間の段は、スライドテーブルに付属した絞り板は、照射野の軸線方向の寸法になるように開いて切り欠きとすることで、一次X線がそのまま透過する。
底板の段は、照射野の部位の低反射散乱開閉板は開とすることで、一次X線がそのまま透過する。
要件1の対策の詳細は実施例1で説明する。
【0021】
要件2(散乱X線の発生抑制)を解決するための対策は、照射を受ける部位のテーブルに使用する材料の表層には、CFRPやAl系金属ではなく、X線の反射と散乱が少ない低反射元素を存在させることである。一次X線とその散乱線は比較的高いエネルギー領域にあるため、低反射元素を被覆した材料(以下、「低反射材料」という)の被覆の材料はPb・WまたはBa・Sn・Mo・Nbの単体または化合物が良い。
アンダーチューブ型の場合の底板の段の低反射散乱開閉板(開閉板)はヒンジ機構またはスライド機構により開閉できる。一次X線およびその散乱線の照射を受ける部位の開閉板の表層の材料は、低反射材料である。より良くは実施例5の複合吸収材料である。この部位は開閉板の外側に加え、内側も散乱X線を減衰して吸収する材料を被覆する場合もある。
また、オーバーチューブ型の場合のテーブルの天板は、比較的高いエネルギーの一次X線の照射を受ける部位に使用する材料の表層は低反射材料である。より良くは実施例5の複合吸収材料である。
中間の段の一次X線が透過する可能性がある部位には、透過の障害になる物体は配置しない。
要件2の対策の詳細は実施例2で説明する。
【0022】
要件3(散乱X線の減弱と吸収)を解決するための対策は、主に天板の段で対応し、中間の段で副次的に対応する。底板の段での対応はあまり多くはない。X線を減弱・吸収する材料を適用するのは、要件1の照射野の部位は除外する。
天板の段では、天板と吸収板およびメッシュ透過板ユニットのスペーサの患者側の表層の材料は散乱X線を良く減弱して吸収する複合吸収材料とする。次善の策として低反射材料を用いる場合もある。
中間の段では、スライド吸収板の患者側の表面および絞り板の上下両側の平面部の表面は低反射材料または複合吸収材料(以下、「吸収材」という)とする。
要件3の対策の詳細は実施例3で説明する。
【0023】
要件4(照射野の位置と寸法調整)を解決するための対策は、手術中は主に中間の段で対応し、底板の段で副次的に対応する。天板の段では主に手術前に対応する。天板の段で手術中の調整も可能であるが、よほどの必要が生じない限り行わない。
中間の段では、スライドテーブルと絞り板により照射野の位置と寸法調整を行う。照射野は、軸線方向の概略の位置をスライドテーブルで調整(「照射野の位置調整」と略す)を行う。その上で切り欠きを一対の絞り板により開口寸法の調整(「照射野の寸法調整」と略す)を行う。絞り板はボールねじで駆動して軸線方向の開口寸法を自在に調整して軸線方向の照射野の寸法を変更できる。
底板の段では、低反射散乱開閉板をヒンジ機構またはスライド機構で開閉することで照射野の位置を寸法調整できる。ヒンジ機構の場合は照射野の軸線の垂直方向の幅も寸法調整できる。
天板の段では、手術の最初にメッシュ透過板ユニットの設置数により軸線方向の照射野の調整可能な幅を設定できる。また、同様にメッシュ透過板ユニットの中空の中央部を覆うスペーサの幅を選択することで、軸線の垂直方向の照射野の幅を変更できる。
要件4の対策の詳細は実施例4で説明する。
【0024】
上述の要件1から要件4の説明を以下に纏めて整理する。
医療用テーブルは患者等の体重を支持し、照射野への一次X線の透過を確保(要件1)し、自身は散乱線をなるべく発生せず(要件2)、散乱体からの散乱X線を減弱して吸収(要件3)し、照射野の位置と開口寸法(面積)を調節できる(要件4)ものが良い。これら要件の一部でも発明の効果はあるが、より良くは全部が満たされるのが良い。
本発明は表面を低反射材料または複合吸収材料で構成された天板と中間と底板の3つの段の一部または全部から成る医療用テーブルである。
すなわち、底板と中間の段の中空の自由空間(以下、「切り欠き」という)を透過した一次X線は、X線を殆ど吸収しない材料より成る天板の段の網(メッシュ)面を透過するため、物質との相互作用は殆ど起こらないので反射や散乱で線減衰することはない。主に底板の段の照射野以外では低反射材料により一次X線およびその散乱線に起因する散乱X線の発生を低減する。主にメッシュ部以外の天板の段と中間の段では、複合吸収材料により患者人体からの散乱X線を減弱して吸収する。主に中間と底板の段では照射野の位置を調整し、医療上の目的からの必要最低限の開口寸法(面積)に調整することで、照射野付近で発生する散乱X線を低減する。
手術の目的毎に変更される照射野の位置と開口寸法を調整する機構の部材として、天板の段にはめ込み式のメッシュ透過板ユニット、底板の段にはヒンジ開閉式の開閉板、中間の段にはスライドテーブル上の絞り板等がある。部材の表面には低反射材料または複合吸収材料が被覆されるが、部材全体をこれらの材料としても構わない。
【発明の効果】
【0025】
本発明のテーブルは物質との相互作用することなく一次X線を照射野へ透過させ、照射野を必要最低限の開口寸法(面積)に制限してさらなる散乱X線の発生を抑制し、上載する患者人体で発生する散乱X線を減弱・吸収して低減することにより、X線受像機の画質を鮮明にし、かつ、診療室内等の空間の放射線量率を低減できる。これにより医療従事者の被ばく線量と放射線防護に係る負荷を低減できる。以って、当該技術の産業分野への利用に多大な寄与をなしうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のテーブルの天板の段の構造の説明図である。
【
図2】天板の段の吸収板の構造の説明図である。aは全体図、bは部分断面拡大図の図である。
【
図3】天板の段のメッシュ透過板ユニットの構造の説明図である。aは線材、bは網(メッシュ)、cは一体成型品の場合の図である。
【
図4】天板の段のメッシュ透過板ユニットのスペーサによる軸線の垂直方向の照射野寸法の調整方法の説明図である。aは幅広、bは幅狭の場合の図である。
【
図5】本発明のテーブルの底板の段の説明図である。
【
図6】底板の段の低反射散乱開閉板の構造の説明図である。aは全体図、bは部分断面拡大図(外側のみに被覆する場合)、cは部分断面拡大図(内側と外側の両面に被覆する場合)の図である。
【
図7】本発明のテーブルの中間の段の説明図である。
【
図8】中間の段の絞り板の構造の説明図である。aは全体図、bは部分断面拡大図の図である。
【
図9】中間の段のスライドテーブルの構造の説明図である。
【
図10】中間の段のスライドテーブルと絞り板による照射野の開口寸法の調整方法の説明図である。
【
図11】底板の段の低反射散乱開閉板による照射野の開口寸法の調整方法の説明図である。aは開角度90、bは開角度60°、cは開角度45°の図である。
【
図13】本発明のテーブル全体の鳥瞰図である。aは天板の段、bは中間の段、cは底板の段の図である。
【
図14】天板の段の薄板シートの場合のシート透過板ユニットの構造の説明図である。dは薄板シートの帯状フィルム、eは薄板シートの弾性平板、fは一体成型品の場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
医療用X線透視装置のテーブルは、検査や治療中に患者人体の体重を支えることが基本的な役割である。この機能は主に天板とその支持構造が担っている。この基本的な役割に加え、診療室等内の空間線量率を低減させるテーブルとするためには前述の4つの追加要件が必要となる。すなわち、要件1は「一次X線の透過」、要件2は「散乱X線の発生抑制」、要件3は「散乱X線の減弱と吸収」、要件4は「照射野の位置と寸法調整」である。ここでは、これら要件の解決方法となる発明を実施するための形態を説明する。また、本明細書の以降では、テーブルは天板の段、中間の段、底板の段の3段構造のものを前提に説明する。
なお、ここに示すテーブルとその構成部材は単なる例示であって、本発明を限定することを意図するものではない。
【0028】
本明細書の以降の部分では、特に断りがない限り、以下の用語を用いる。
放射線の一次線源はX線管球であるが、この一次X線ビームを「一次X線」と呼ぶ。X線管球の管電圧が100kVの場合、発生する一次X線は連続エネルギーとなり、概ね100KeVが最大エネルギーとなる。また、X線発生装置の状態にも依存するが、そのエネルギーの平均値(以下、「実効エネルギー」という)は最大エネルギーの60~70%程度の場合が多いため、ここでは65%で一定と仮定する。本明細書の以降の部分では、特に断りがない限り、実効エネルギーを示すものとする。
一次X線が患者・被検者、装置の一部等に当たり散乱した放射線を総称して「散乱X線」と呼ぶ。これに対して、一次X線があまり散乱や吸収されることなく、一次X線のエネルギーを殆ど維持したまま入射角そのままで透過するか、あるいは、小角度な散乱(以下、「小角散乱」という)をして透過したX線を「直接線」と呼ぶ。
さらに、診察用撮影室、検査室、治療室、エックス線診療室等を総称して「診療室内等」と呼ぶ。本明細書の以降の部分では、特に断りがない限り、X線管球の位置はテーブルの下部に配置するアンダーチューブ型のX線透視装置を例として記載する。
【0029】
本明細書の以降の部分では、材料では以下の用語を用いる。
低反射材料とは、Pb・WまたはBa・Sn・Mo・Nb等の低反射元素を被覆した材料である。低反射元素とは80KeV以上のエネルギー領域でも光電効果が主要な領域(光電領域)にある原子番号が20以上の元素で、かつ、80KeVの単色のエネルギーにおける線減衰係数μが10(1/cm)以上の元素である。低反射材料は実施例6でより詳しく説明する。
複合吸収材料とは、第一層のPbが低反射減弱層となり、第二層以下がSn・Mo等の拡散吸収体とNb・Cu等の電子吸収体の対が1~3対で成る多層吸収層となり、異なった役割を持った3層以上を密着して多層に重ねることにより散乱X線を内部で減弱させて吸収する材料である。第一層のPbは低反射材料と同じとなる。50または20KeV等の単色のエネルギーにおいて拡散吸収体は電子吸収割合(μen/μ)が70%未満の元素である。また、電子吸収体はμen/μが70%以上で、μen が10(1/cm)以上の元素である。
複合吸収材料は実施例5でより詳しく説明し、更に詳しくは発明者が同じ特許文献4に示す。
また、低反射材料と複合吸収材料を総称して「吸収材」という。金属材料ではAl-Mg系(5000系合金)やAl-Mg-Si系(6000系合金)等の高比強度Al合金をAl系と呼ぶ。Ti-6Al-4V等の高比強度Ti合金をTi系と呼ぶ。
加えて、本明細書の以降の部分では、元素と記載した部分は特に断りがない限りその元素を含む材料を意味し、材料は特に断りがない限り金属元素単体の材料を意味する。
【0030】
テーブルで使用する候補材料について説明する。ここでは本明細書の以降の部分で登場する元素を一覧して示し、部材毎で使用する各元素をその単体または化合物の各材料の内容は後述の各々の実施例を説明する。
まず、非特許文献2のNISTデータベースを引用して、一次X線と相互作用してX線を吸収し難い元素を摘出した。
表1には非吸収元素(軽元素)としてH、C、O、Mg、Al、Siおよび相互作用の吸収元素(低反射元素)としてTi、Fe、銅(Cu)、Nb、Mo、Sn、Ba、W、Pbの線減衰係数(μ)と線エネルギー吸収係数(μen)を調査した結果を示す。表1では1より小さい数値は指数表示した。
X線による物質の透過現象では、I/I0=Exp(-μt)で線減衰係数μ(1/cm)が定義される。なお、Iは出射側、I0は入射側の強度(例えば光子数や線量率)であり、tは物質の厚さである。線減衰係数(μ)の数値が大きい物質は散乱や吸収等により減衰、すなわち遮へいする能力が大きい。線エネルギー吸収係数(μen)は制動X線等の別途の光子としてエネルギーが再放出されずに電子に吸収されて残るエネルギー分、すなわち電子吸収分のみを示している。表1には線減衰のうちの線エネルギー吸収の割合、すなわちX線の相互作用により別の光子(特性X線、オージェ電子、制動X線)を発生せずに電子に吸収される割合を示す電子吸収割合(μen/μ)も付記した。
【0031】
表1において、非吸収元素(軽元素)のH、C、Oは10~150KeVの全てのエネルギー領域でμとμenが小さい。Mg、Al、Siは50KeV以上ではかなり小さいが、50KeV未満ではμとμenがやや大きくなって電子吸収割合が大きくなる。一方、Ti以外の吸収元素(Fe、Cu、Nb、Mo、Sn、Ba、W、Pb)では、80KeV未満ではμとμenがかなり大きくなって電子吸収割合が大きくなる。吸収元素のNb、Mo、Sn、Ba、W、Pbは80KeV以上でもμは大きく、特にW、Pbは100KeV以上となってもμは大きい。μenは各元素のK吸収端(Kab)よりやや高いエネルギー帯で小さい数字となり、そこでは電子吸収割合(μen/μ)も小さい。吸収元素のTiは、50KeV以上ではμとμenが比較的小さい数値である。
【0032】
【実施例1】
【0033】
(要件1「一次X線の透過」の解決方法)
実施例1では、要件1(一次X線の透過)の解決方法の具体例を示す。一次X線を良く透過させるには、照射野の部位にはX線源と患者人体の間に何ら物体を存在させないのが最も良い。
天板の段10では、天板11の軸線中心部には吸収板14またはメッシュ透過板ユニット15をはめ込む中空の部位を設けている。照射野となる可能性がある部位には、テーブルの天板の軸線中心部の一部または全部の吸収板14を取外してメッシュ透過板ユニット15を設置する。このメッシュ透過板ユニット15とした部位が、一次X線が良く透過する照射野の候補位置となる。また、天板11より下の位置にある支持レール12、補強梁13等の支持構造体は照射野を避けて設置する。天板11と吸収板14とメッシュ透過板ユニット15およびこれらを取り付ける天板部のはめ込み構造を
図1に示す。
図1では、上側に天板11の平面図と、矢視A-Aにテーブル全体の軸線方向の中心線位置での縦断面図を示している。天板の段10は、天板11、吸収板14、メッシュ透過板ユニット15および支持レール12と補強梁13で構成される。
毎回の手術や患者の体形で照射野の位置と寸法は異なるが、その回の手術で必要とする照射野の候補位置には吸収板14に代わり、メッシュ透過板ユニット15を設置する。メッシュ透過板ユニット15は手術中に交換することは容易ではないので、使用する可能性がある照射野の位置(候補位置)には、事前にメッシュ透過板ユニット15を設置しておく。
【0034】
図1の天板の段10の構成を更に詳細に説明する。
天板11は患者が横たわり、上載する患者人体の体重を支持する。上側の天板11の平面図では、天板の軸線中心部の中央よりも左側(患者の頭部側)には軸線方向に長い開口部があり、吸収板14とメッシュ透過板ユニット15はそこの支持レール12上にはめ込んで設置する。吸収板14は中実の角切り平板である。メッシュ透過板ユニット15は中央部が網状の中空の角切り平板である。支持レール12と補強梁13は天板の裏側に位置するので、破線(隠れ線)で示されている。
矢視A-Aの縦断面図では、中間層の後ろ側に支持レール12が見えている。支持レール12の後ろ側に位置する補強梁13は支持レールと同じ高さであり、図では左端の破線(隠れ線)以外は見えていない。一対(2本)の支持レール12の内側に中間の段30が設置される。支持レール12と補強梁13の右端付近はテーブル1を支持するテーブル支持台2に固縛される。支持レール12と補強梁13の中央から左端までの間は下側に底板21等が設置される。
【0035】
天板の段10の吸収板14の構造と材料について説明する。吸収板14は中実の角切り平板である。吸収板14の構造を
図2に示す。
吸収板14は天板11の軸線方向の中心軸近傍に配置される中空部分に入りされ、支持レール12上に設置される。支持レール12はH型またはI型の形材であり、上端面で天板11と吸収板14の両方を支持する。天板11下部の吸収板14をはめ込むと天板11の表面との高さの差はほぼ無くなり、ほぼ面一になる。天板11と吸収板14の要件は、患者人体の体重を支持し、患者の人体組織で発生した散乱X線を吸収することである。吸収板14はメッシュ透過板ユニット15と取り換えできることが特徴である。そのため、天板11と吸収板14はAl系母材の表層を複合吸収材料とする等の材料の構成となるが、材料詳細は後述の実施例3(散乱X線の減弱と吸収)に示す。
【0036】
次に天板の段10のメッシュ透過板ユニット15の構造と材料について説明する。メッシュ透過板ユニット15は中央部が網状の中空の角切り平板である。天板の段10におけるメッシュ透過板ユニット15の構造の説明図を
図3に示す。
図3のaは網面を線材41で構成する場合、bは網面を網(メッシュ)42で構成する場合、cは網面を一体成型品45で製造する構成を示す。aとbは線材を格子状に配置する構造体であり、cは一体成型品である。
メッシュ透過板ユニット15の網面は、バラ部品の場合は、線材41または網(メッシュ)42(以下、「網面等」という)と、フレーム43およびスペーサ44により、線材を格子状に配置する構造体16が構成される。メッシュ透過板ユニット15にも患者人体の荷重を支える機能が必要なため、中央部の網面も一定の強度を有する必要がある。網面等は、引張強度が高く、一次X線を吸収し難いCFRPやAl系等の材料で形成する。また、患者人体の体重は、フレーム43を介して下部の支持レール12に伝えるため、フレーム43も一定の強度を有する必要がある。構造的な強度を得る目的と高さを調整する目的で、
図3のaとbでは矩形のフレーム43を設置する。フレーム43は、網面等と同様の材料の板材である。
一方、メッシュ透過板ユニット15は、一体成型品45の場合がある。
図3のcの一体成型品45は網面とフレームをCFRP等で一体成型したものである。これは後述の通り十分な強度があるため矩形のフレーム43を使用しなくて良い。連続繊維補強材等の市販品を一体成型品45として利用する場合、その高さが天板11の軸線中央部の貫通した切り欠きの厚みとは異なっている場合があるため、高さを調整する部材は別途に必要な場合がある。
メッシュ透過板ユニット15の高さを調整する場合は、部材としてアジャスタ46を使用する。アジャスタ46は上述の線材を格子状に配置する構造体16や一体成型品45と同じ材料である。一体成型品45の場合は2本の直方体等のアジャスタ46を市販品等に取付けて使用する。線材を格子状に配置する構造体や一体成型品は、天板の軸線中央部の貫通した切り欠きに剰余の空間なく収納される。これにより、一体成型品45とアジャスタ46も患者人体の体重を支持することができる。
メッシュ透過板ユニット15をはめ込むと天板11の表面との高さの差はほぼ無くなり、ほぼ面一になり、患者人体の体重の一部を支持できる。患者人体の体重の残りの一部は、天板11を介して支持レール12と補強梁13で支持される。支持レール12と補強梁13は
図1の通りテーブル全体を支持するテーブル支持台2に接続される。
【0037】
メッシュ透過板ユニット15のスペーサ44による軸線の垂直方向の照射野寸法調整の説明を
図4に示す。
図4は一体成型品45で製造する場合の例であるが、aは支持レール12の面間全てを照射野の軸線の垂直方向の寸法とした幅広の場合のメッシュ透過板ユニットである。同様にbは支持レール12の面間の寸法の一部をスペーサ44で覆って、照射野の軸線の垂直方向の寸法を任意に制約した幅狭の場合のメッシュ透過板ユニットである。
スペーサ44は、天板11の表層と同じ材料とする。それが複合吸収材料80の場合、スペーサ44の厚みは、概ね1.5mm未満である。
なお、上述では天板の段の吸収板とメッシュ透過板ユニットははめ込み式の例を説明したが、吸収板とメッシュ透過板ユニットははめ込み式ではなく、支柱ガイド上をスライドして収納できるスライド式であっても構わない。
【0038】
メッシュ透過板ユニットの網面等の材料は、一次X線を吸収し難いことと、強度が高いことが要件となる。網面等の材料の強度がなるべく高い方が網の線材の数を減らし、厚みを薄くすることで、透過する一次X線をさらに増やすことができる。また、網面等の材料は細い方が、X線受像機の画質はより鮮明になる。但し、材料がCFRP等の場合は一次X線を吸収し難いため、そもそも網面等の形状はX線受像機には表示されない。
本発明のメッシュ透過板ユニットの網面等の材料は、一次X線の50KeV以上の比較的高いエネルギー領域で、μとμenが小さい数値である元素が良い。
上述の考え方の下で表1の非吸収元素(軽元素)を見れば、炭素(C)-水素(H)-酸素(O)等の元素で構成されるプラスチック等の高分子化合物やAl、Mg等の金属、Si等の元素で構成されるガラスやセラミックは、比較的高いエネルギー領域でX線の吸収が少ないことが判る。この結果から、メッシュ透過板ユニットの網面等用の候補材料としてCFRP、GFRP、Al系、Mg合金等を摘出した。但し、Si系セラミック(SiC、Si3C4等)は、引張弾性率が低いため候補材料とはしなかった。
【0039】
次に機械的強度の観点から網面等の材料を抽出した。網面等には強度がなるべく高い材料が良い。前項で摘出したメッシュ透過板ユニットの網面等用の候補材料について、その強度を調査した結果を表2に示す。
表2では前項で一次X線を吸収し難いとされたメッシュ透過板ユニットの網面等用の候補材料とされたもの範囲で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のポリアクリロニトリル(PAN)系繊維とピッチ系繊維、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のEガラス、Al合金(A5052)、Mg合金(AZ31)を摘出し、その密度(g/cm3)、引張弾性率(GPa)、引張強度(MPa)を示した。表2のCFRPとGFRPでは、一般に開示されている特性値が大きくばらついているため、文献等で報告されていた特性値の最小と最大の幅として記載した。また、強度の比較材としてTi合金(6Al-4V)、炭素鋼(S45C)、ステンレス鋼(SUS304)を付記した。
【0040】
表2に示した一次X線を吸収し難い網面の候補材料の引張強度は、いずれも200MPa以上である。例えば引張方向の荷重であれば、体重が仮に400キログラム(Kg)の場合でも、直径がφ5mm(断面積約20mm2)の線材は1本あれば耐えることができる。直径がφ2mm(断面積約3.1mm2)の線材1本だと、60Kgの荷重に耐えることができる。直径φ5mmの場合は患者人体の体重が100kgの場合に必要な候補材料の引張強度は50MPaである。すなわち、標準的な体重(60Kg)の患者を支持するのに必要な仕様は、引張強度が200MPaの場合は直径がφ2mmの線材、引張強度が50MPaの場合は直径がφ5mmの線材となる。但し、患者の皮膚への食い込みを防止するために線材の直径はより良くはφ5mm程度が必要である。また、皮膚表面の鬱血や皮膚が網目をすり抜けて部分的に落ちて挟まるのを防ぐために網面の線材の本数は多い方が良く、その網目の間隔は少なくとも100mm以下、より良くは50mm以下が良い。引張方向の荷重であれば、直径がφ2mmで引張強度は50MPaの線材でも、網目の間隔からの要求により網面の線材が4本あれば、標準的な体重の患者を支持できることになる。すなわち、曲げ強度を含めた機械的強度の要件を十分に満足するものとして、網面には直径φ2mm以上でより良くはφ5mm程度の複数本の線材を100mm以下、より良くは50mm以下の間隔で配置する。
一方、網面等ではなくメッシュ透過板ユニットに利用可能な市販の一体成型品もある。コンクリート構造物の補強材料である特許文献5の補強用炭素繊維メッシュや市販の連続繊維補強材には網目の間隔が50mm以下の市販品がある。例えば、旭硝子マテックス社製のネフマックのType-C/G/Hや日鉄ケミカル&アテリアル社製のトウグリッドFTG-CR6等が市販されている。メッシュ透過板ユニットの網面にこれらを適用しても良い。また、これらは曲げモーメントに対する自立の強度がかなり高いためフレームが不要となり、切断したものをそのまま網(メッシュ)とフレームの一体成型品として使用しても構わない。
【0041】
【0042】
天板の段の支持レール、補強梁は、各々2本の軸線方向に長い梁であり、テーブル等の上載される荷重を支持する。この材料は、一次X線を吸収し難いこと、強度が高いこと、かつ、曲げによる撓みが小さいことが要件となる。表1のμの数値からは表2の候補材(CFRP、GFRP、Mg合金、Al合金)は一次X線を吸収し難い。比較材とした金属のうち、Ti系も利用可能な範囲にある。
曲げによる撓みを小さくするには、梁の断面は断面二次モーメントが大きくなるH型・I型・L型・チャンネル(コ)型・中空角管(□)型・中空丸管(〇)型等の形状であることが好ましい。上述した候補材で形材が市販されているものが支持レール、補強梁として好ましい。
【0043】
GFRPの構造材はJIS K 7011に、引抜材はJIS K 7015に規定されており、I型、L型、コ型、□型、〇型等の形材が市販されている。連続引抜成形で製造しているため、やや複雑な断面形状でも成形できる。
CFRPではコンクリート構造物の補強材料である一方向炭素繊維強化プラスチック帯板材がJIS K 7097に規格化されている。しかし、CFRPは材料としてJISに規格化されていないものが多い。これは含浸処理等での製造もあるため形状の自由度が高いことも一因である。そのため、JIS等には種々の機械的特性の試験方法を規定している。これに基づきCFRPは既に航空機の翼や宇宙船の構造部材に利用されている。GFRPと同様にコ型、□型、〇型等の形材も市販されている。
押出形材のJIS規格は、Mg合金(JIS H 4204)、Al合金(JIS H 4100)にあり、H型、I型、L型、コ型、□型、〇型等の形材が市販されている。Ti系合金にはJIS規格がないが、L型、コ型等の形材が市販されている。
そのため、梁の材料としては、CFRP、GFRP、Mg合金、Al系等が適当である。ネジや締結金具等の靭性が求められる用途の場合は、金属で強度の高いTi系も、板の厚みを薄くできる可能性があるため候補材料の範囲となる。
そのため、本発明の図面では支持レールにAl系またはTi系で加工が可能で、機械仕上げが施されたH型材、補強梁に同様のI型材を用いて検討した。図面検討はH型材とI型材で行ったが、L型・チャンネル(コ)型でも構わない。
【0044】
中間の段は、スライドテーブルおよびそのサイドローラ、絞り板およびその駆動機構で構成される。中間の段では、スライドテーブルの軸線中心部には予め照射野の候補位置に相当する軸方向に大きな中空の切り欠きがある。スライドテーブルに付属させた絞り板は、照射野の軸線方向の寸法になるように開角度を調整できる。手術を開始する際に絞り板の開角度を一次X線の照射野の軸線方向の寸法に開くことで、一次X線は相互作用せずにそのまま透過する。中間の段の構造の詳細は実施例3の説明を参照とする。
【0045】
底板の段は、底板と低反射散乱開閉板とその固定・駆動機構で構成されている。底板の段は何らかの物質を支持する強度は必要なく、照射野以外の一次X線とその散乱線を防ぐカバーのようなものである。底板の段では、始業時は全ての低反射散乱開閉板が開閉用の開閉金具により閉の状態である。手術を開始する際にその時に必要な照射野の部位の低反射散乱開閉板は開閉金具による閉状態の固定を外して開くことで、一次X線がそのまま透過する。底板の段の構造の詳細は実施例2の説明を参照とする。
【実施例2】
【0046】
(要件2「散乱X線の発生抑制」の解決方法)
実施例2では、要件2(散乱X線の発生抑制)の解決方法の具体例を示す。テーブル自体で一次X線の照射に伴い散乱X線が発生するのは、アンダーチューブ型での底板またはオーバーチューブ型での天板である。
前述の実施例1の通り、一次X線を透過させるために、底板の段の照射野の部位の低反射散乱開閉板(以下、「開閉板」という)はヒンジ機構またはスライド機構により開となる。しかし、照射野に近接する開閉板の外側の表面は、X線源で小角散乱した比較的高いエネルギーのX線(以下、「小角散乱線」という)の照射を受けるため、X線の反射・散乱が少ない材料とする必要がある。そのため、アンダーチューブ型では表層部には低反射元素を被覆した低反射材料を設置した開閉板を設置する。開閉板は開閉時の応力を自立して支持するため一定の強度が必要である。そのため、開閉板の母材には強度の高いAl系、Ti系またはCFRP等の板材を使用する。底板は医療用X線透過装置のテーブルに一般に使用される材質で良く、Al板やCFRP板等が使われる。
【0047】
表1により開閉板の外側の表面に被覆する低反射元素を摘出する。表1では吸収元素としてTi、Fe、Cu、Nb、Mo、Sn、Ba、W、Pbを摘出し、その線減衰係数(μ)、線エネルギー吸収係数(μen)および電子吸収割合(μen/μ)を示した。一次X線とその散乱線の50KeV以上の比較的高いエネルギー領域で散乱が少なく、吸収が多い元素は、表1で線エネルギー吸収係数(μen)の数値が大きく、かつ、電子吸収割合(μen/μ)の数値が大きいものである。50KeV以上でμenが大きく、かつ、μen/μが大きい元素はPb・Wであり、次いでBa・Sn・Mo・Nbである。そのため、低反射材料はPb・WまたはBa・Sn・Mo・Nbの単体または化合物が良い。より良くは実施例5の複合吸収材料の通り、低反射減弱層(初層)にPb等を被覆する開閉板には、その内側の多層吸収層にZr、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Mg等を使用するのが良い。これは特許文献4の剛性の複合吸収材料に相当する。また、開閉板は上述の低反射材料や複合吸収材料で被覆するのではなく、開閉板自体をW等の低反射材料や剛性の複合吸収材料で製造しても構わない。
【0048】
図5では、アンダーチューブ型でヒンジ機構により低反射散乱開閉板(開閉板)22を開閉する場合の底板の段20の例を示す。底板の段20は、
図5の通り、底板21と開閉板22とその開閉用の開閉金具で構成される。
図5は上側の矢視A-Aにテーブル全体の軸線方向の中心線位置での縦断面図を示し、下側の矢視C-Cに底板の段20の横断面図を示している。
底板21は支持レール12と補強梁13の下に取付ける。底板21の中央から左側(患者の頭部側)の端までの間には照射野位置を開くことができる開閉板22がある。
図5では、開閉板は左右一対(2枚)で8組を配置した例を示す。3番目と4番目の2対の開閉板が開いた状態である。開閉板の数は8組より多くても少なくても構わない。開閉板22は中実の角切り平板であり、ヒンジ機構の場合は支持レール12の下側や側面に取りけられた開閉金具により開閉できる。
図5では開閉用の開閉金具として折り畳みヒンジ53を使用した例を示す。
底板の段20は、照射野以外の一次X線とその散乱線の照射による散乱X線の発生を防ぐカバーのようなものであり、その構造の要件としては自立の強度以外の何らかの物質を支持する強度は必要ない。開閉の動作に伴い局所的に一次X線やその散乱線の照射を受ける部位の表面は、部分的に低反射材料で被覆する。
【0049】
図6では、アンダーチューブ型でヒンジ機構により開閉する低反射散乱開閉板(開閉板)22のさらに詳細な例を示す。
図6のaは全体図、bはB部断面拡大図(外側のみの場合)、cはB部断面拡大図(内側と外側の場合)の図である。
図6のaでは、開閉板(左)54と開閉板(右)55の一対で2枚の低反射散乱開閉板22を示す。テーブル1の底板の段20には1つ以上の対が設置されるが、必要に応じて多数の対を設けても構わない。支持レール12と底板21の側面に折り畳み式ヒンジ53が取り付けられ、開閉板22はここを支持点かつ支点として開閉する。
図6のaでは全開と全閉の開角度90°の開閉例を示しているが、左右の開閉板はそれぞれ途中の開角度(例えば45°や30°)で止めることもできる。折り畳み式ヒンジ53により閉じられる一対の開閉板22は中央部で板の先端の取手カバー56で勘合する構造となっているため、軸心中央部に開閉板を支持または駆動する部材はない。
図6のaは手動で開閉できる構造のものを示しているが、低反射散乱開閉板の全部または一部の開閉に際してカム機構等の機械的な駆動機構を設置しても構わない。
【0050】
図6のbとcでは開閉板22の材料構成を模式的に示す。低反射散乱開閉板22では、アンダーチューブ型の場合は一次X線やその散乱線の照射を受ける外側の表面に低反射材料80で被覆する。また、開閉に伴い局所的に一次X線やその散乱線の照射を受ける部位の表面には、部分的に低反射材料80で被覆する。一方、開閉板の内側の一次X線またはその散乱線が照射される表面、または、照射野内での患者人体からの散乱X線が照射される内側の表面には複合吸収材料70を被覆するのが良い。更により良くは、開閉板の内側と外側の全両表面には低反射材料80または複合吸収材料70を被覆するのが良い。開閉板自体をW等の低反射材料や剛性の複合吸収材料で製作しても構わない。
図6のbでは、外側のみに複合吸収材料70を配置する場合の部分断面拡大図(B部)を示す。
図6のcでは、内側と外側の両方に複合吸収材料70を配置する場合の部分断面拡大図(B部)を示す。
一次X線が透過する可能性がある部位には、透過の障害になる物体は配置しない。そのため、照射野となる部位には開閉板およびその支持または駆動機構は配置してはならない。
【0051】
底板の段では、始業時は全ての開閉板が開閉金具により閉の状態である。開閉金具は棚の蓋板に良く使われる市販の折り畳み式ヒンジを応用したもので、手動または機械動力等の弱い力で動作でき、蓋を閉状態と開状態に固定して保持できる。開閉金具は同様に市販の棚用のヒンジステーや折りたたみL型ブラケットまたは扉用のフリッパー金具でも構わない。手動または機械動力等の弱い力で開閉金具を動作すれば、蓋は閉状態から開状態となる。全開から全閉の途中で止めることもできる。手術を開始する際にその時に必要な照射野の部位の開閉板は開とすることで、一次X線がそのまま透過する。
開閉板には開閉のための駆動機構が設置される場合がある。その場合は手術中に照射野の位置を中間層で調整できる範囲を超えて、拡大することができる。
【0052】
次に、スライド機構の方式による開閉板の開閉方法を説明する。この方法では開閉板はテーブルの中空部を軸線の垂直方向に横断する長い板であり、一辺が長い中実の角切り平板である。一対(2本)の支持レールの下側に設置されたプレート支持金具のガイド材に長板を通し、プレート支持金具の両端の懸垂式で片開きのガイド材で長板を案内して支持することにより開閉板を閉とすることができる。ガイド材は市販のAl合金を押し出して製造したパネル用ジョイント材(アルミジョイナー)を応用できる。また、市販のミニサイドローラを長手方向に半割りして利用しても構わない。この長板をガイド材から引き抜くことにより、開閉板を開とすることができる。
【0053】
オーバーチューブ型の天板での要件2(散乱X線の発生抑制)の考え方を説明する。オーバーチューブ型では、理論上は、天板の一次X線とその散乱線に曝露される部位には低反射材料を配置されるべきである。また、患者人体により遮へいされて曝露されず散乱X線が照射される部位には、実施例3の通り、複合吸収材料を配置される。但し、前記の通り、一次X線とその散乱線に曝露される部位に使用する材料は低反射材料よりも複合吸収材料で被覆する方が、より良いとされている。そのため、オーバーチューブ型の天板に対して実施例3が実施されて複合吸収材料が被覆される場合、要件2に対して特段の対応は必要ない。
【実施例3】
【0054】
(要件3「散乱X線の減弱と吸収」の解決方法)
実施例3では、要件3(散乱X線の減弱と吸収)の解決方法の具体例を示す。要件3には天板の段が主体的に関与し、中間の段が副次的に関与する。底板の段は関与しない。
一次X線の照射を受けた患者人体からは、多くの散乱X線が発生する。アンダーチューブ型の場合は、発生した散乱X線のうち4割以上が後方すなわちテーブル方向への散乱X線となる。従来のAlやCFRP製のテーブルは、ほぼ全て散乱X線を吸収することなく散乱したため、診療室等内の空間線量率が高くなっている。そのため、ここでは患者人体に接するテーブルの天板の材料を変更し、散乱X線を良く減弱させて吸収させる方法を説明する。
天板の段での解決方法は、テーブルの天板そのものと軸方向の中心線付近の吸収板の材料を、散乱X線を良く減弱させて吸収させる材料とすることである。X線を減弱する材料は一般にはPb・W・Ba等と理解されており、一次X線に近い比較的高いエネルギー領域であればこれらは有用である。しかし、患者人体からの散乱X線は一次X線よりも実効エネルギーや光子数が低くなる。中・低エネルギー領域となればPb・W・Ba等も散乱X線を良く減弱させて吸収させる材料であるが、多層吸収層(拡散吸収体・電子吸収体の対)を有する実施例5の複合吸収材料がさらに有効である。但し、X線を減弱・吸収する材料の適用は、要件1の照射野の部位は除くものとする。
【0055】
天板の段10の患者人体からの散乱X線を受ける面は
図1に示した通り天板11・吸収板14・メッシュ透過板ユニット15で構成される。天板11・吸収14板・メッシュ透過板ユニットのスペーサ44の表層には散乱X線を減弱・吸収できる実施例5の複合吸収材料を使用する。散乱X線を低減する効果は低減するが、次善の策として実施例6の低反射材料を用いても構わない。
メッシュ透過板ユニットのスペーサ44以外の部位すなわち網目からは、患者人体で発生した散乱X線はそのまま下方へ透過する。この散乱X線を放置すると診療室等内の空間線量率が高くなるので、中間の段30による特段の対応が必要である。
また、天板11・吸収板14・メッシュ透過板ユニットのスペーサ44は上述の複合吸収材料等で被覆するのではなく、それ自体を低反射材料や複合吸収材料で製造しても構わない。
【0056】
中間の段30の概要図を
図7に示す。中間の段30は、
図7の通り、スライドテーブル32およびそのサイドローラ34、スライド吸収板33、絞り板35とその駆動機構で構成される。
図7では上側の矢視A-Aにテーブル全体の軸線方向の中心線位置での縦断面図を示し、下側の矢視B-Bに中間の段30の横断面図を示している。
【0057】
図7の中間の段30の構成を更に詳細に説明する。
中間の段30のスライドテーブル32は軸線方向に長い平板状である。スライドテーブル32は支持レール12内側に左右1対で設置されたサイドローラ34のローラー軸受上を軸線方向に移動する。スライド吸収板33はスライドテーブル32上面の散乱X線の照射を受ける可能性がある部位に貼り付けて簡易に固定して設置する。スライド吸収板33は厚さ1.5mm未満の複合吸収材料であり、手術の目的に応じて寸法・面積を変更する場合がある。また、手術中に移動させる場合もあり、固定方法はネジ等で固定するよりも吸盤や接着テープの方が良い。
スライドテーブル32には予め照射野の候補位置に相当する位置に軸方向の長手に大きな中空の切り欠きを設ける。絞り板35は中空の切り欠きを跨いで設置し、スライドテーブル32上を滑ることで軸線方向にスライドして移動できる。スライドテーブル32上をスライドする絞り板35は、照射野の軸線方向の開口寸法を自在に調整できる一対(2枚)の中実の角切り平板である。手術を開始する際に絞り板35の開角度を一次X線の照射野の軸線方向の寸法に開くことで、一次X線は相互作用により減弱・吸収せずにそのまま透過する。
【0058】
中間の段を構成するスライドテーブル32とスライド吸収板33および絞り板35に適切な材料を説明する。スライドテーブル32には一次X線とその散乱線および散乱X線等が照射される訳ではない。そのため、軽量で一定の自立する高い強度が必要なので従来のテーブルの材料であるAl系やCFRP等に加え、Ti系を適用する。
スライド吸収板33と絞り板35には天板の段10のメッシュ透過板ユニット15の網面を透過した散乱X線が照射されるので、上面は散乱X線を減弱して吸収する実施例5の複合吸収材料とするのが良い。また、絞り板の下面は一次X線とその散乱線が照射される場合があるため、下面は低反射材料または複合吸収材料とするのが良い。上述の複合吸収材料は、散乱X線を低減する効果は低減するが、次善の策として実施例6の低反射材料を用いても構わない。
【0059】
中間の段30の絞り板35の構造を
図8に示す。絞り板35は軸線方向の絞り板とその駆動機構はスライドテーブル32の軸線中心の開口部に取り付ける。照射野となる開口部の両側に一対で2本のボールねじ61が設置される。2本のボールねじ61を手動または機械動力等で同時に同じ回転角だけ回転させることにより片方の絞り板35(例えば、絞り板(左)62)を軸線方向に移動させることができる。絞り板35の下面の軸線の垂直方向の両端は、スライドテーブル32上を滑って移動するため、加工精度の高い滑り面とする。この部位に滑り性の良い材料を貼付けまたは塗布しても構わない。
図8では絞り板35は表面が正方形の中実の角切り平板としたが、照射野を調節する幅が広い場合は、例えば絞り板(左)62を軸線方向に長い表面が長方形の中実の角切り平板としても構わない。また、手術の途中で追加の角切り平板を接続して長い長方形の絞り板(左)62としても構わない。
左側(患者の頭側)の絞り板(左)62の下側にはボールねじの回転を軸方向の移動に変えるナットブランケット64が設置される。右側の絞り板(右)63は、手術を開始する前に、スライドテーブル32の開口部の右側(患者の足側)の端の位置、または、患部の位置を勘案してスライドテーブル32の開口部の任意の位置に位置決めして、簡易に固定される。簡易な固定方法は簡単に移動しなければ良いので、スライドテーブル上への埋め込みボスの差し込み等のピン止めで構わない。絞り板35の位置調整の結果、散乱X線が透過するスライドテーブル32の開口部が残るようであれば、スライド吸収板33で塞ぐ。
2本のボールねじ61には、例えばサーボモータ等の電動回転機やロータリーアクチュエーター等の空圧回転機(アクチュエーター)68等の、2つが同期して同じ速さでボールねじを回転する機械的な駆動機構が設置されて駆動させる場合がある。また、1台の回転機がギヤボックスを利用して2本を同期して駆動させる場合がある。その場合は絞り板(左)62の可動域の範囲で手術中に照射野の位置を拡大したり縮小したりすることができる。
【0060】
中間の段30のスライドテーブル32の構造を
図9に示す。スライドテーブル32やその長手の開口部の長さは製作時に任意に設定可能であり、長さは長いものでも短いものでも構わない。長さは装置の目的によって製作時に設定される。
スライドテーブル32の下側には、小型のローラーコンベア等の多数のローラー軸受によるサイドローラ34が設置される。サイドローラ34上に設置したスライドテーブル32は軸線方向に自在にスライドして移動できる。必要な場合は手術中に移動したり抜き出すことができる。スライドテーブル32を移動させる電動ピストンやボールねじ機構または油圧シリンダ等の機械的な駆動機構が設置される場合がある。その場合は絞り板35の駆動機構と合わせ、手術中に機側または遠隔操作により照射野の位置や開口寸法を変更することもできる。
スライドテーブル32の裏側の軸線と垂直方向の両端の近傍には、軸線方向にボールねじ61を収納してガイドする溝66がある。溝66はスライドテーブル32をくり抜き加工しても、外端から成形加工したガイドカバーをねじ止めして取付けても構わない。また、軸線方向の両端面にはボールねじ61を支持する軸受けとなるサポートユニット65が設置される。スライドテーブル32の右側(患者の足側)の端部でボールねじを回転させる手動またはアクチュエーター68等の機械動力による駆動機構を設置する。
【0061】
ボールねじ機構は多く種類が既に市販されており、ボールねじによる遠隔操作での位置調整は既往の知見である。ボールねじ機構は概括的には回転を移動体に伝えるボールねじと、回転を軸方向の変位に位相する移動側ボールねじナットブラケットと、ボールねじを軸受けとして支持する固定側と支持側のサポートユニットで構成されている。サポートユニットにより、ボールねじ軸方向に対して垂直の固定面に取付け、ナットブラケットにテーブル等の移動部品を取付け可能できる。ボールねじ61はスライドテーブル32の内部または側部の溝66で支持され、移動側ナットブラケット64は左側(患者の頭側)の絞り板35の下側の底部に設置される。サポートユニット65はスライドテーブル32の両端に設置され、固定側が左側(患者の頭側)に、支持側が右側(患者の足側)に設置される。
【0062】
ボールねじ機構の製品の組み合わせの例は、MISUMI社製の場合はボールねじがBSS1510-500、移動側ボールねじナットブラケットがNFB1510S-20、固定側サポートユニットがBSW12、支持側サポートユニットがBUN12である。これらの製品は一例であり、他の部材や他社の製品でも同様の機能のものを構築できる。また、機械動力で2本のボールねじを回転させてリフトを垂直方向に動作させる例はMISUMI社のinCAD Library中の搬送コンベヤの活用事例No.244(2本のボールねじ同時駆動)にある。これはギヤボックスを利用し、1台のモータ等の機械動力による回転を2本のボールねじに同期させて分岐伝達し、リフタの上下動作を行うものである。モータ等の機械動力は同期して回転する2台でも構わない。
【実施例4】
【0063】
(要件4「照射野の位置と寸法調整」の解決方法)
実施例4では、要件4(照射野の位置と寸法調整)の解決方法の具体例を示す。ここではアンダーチューブ型のX線透過装置のテーブルを事例として示す。
照射野の必要最低限の小さな面積とすれば、医療用のX線透過装置のX線源の出力を低減し、出力を絞ることで散乱線を低減することができる。すなわち、自明に診療室等の空間線量率を低減することができ、X線受像機の画質を鮮明にすることができ、患者と医療従事者の被ばくを低減することができる。特に、X線源の出力を88KeV未満にできれば、その効果は大きい。
照射野の面積はX線源のX線可動絞りにより概略の寸法幅に調整できるが、ここではX線可動絞り以外のテーブルに付属する装置により照射野の位置と寸法、すなわち面積を調整する方法について説明する。
照射野の位置と寸法調整は、手術中は主に中間の段で対応し、底板の段で副次的に対応する。また、手術を開始する際の設定を含めると、天板の段を含めて全ての段の機能を利用する。
ここでは、照射野の位置と寸法調整のための操作、すなわち(1)手術を開始する際の照射野の寸法の設定と、(2)手術中の照射野の寸法の調整を、実施例1~3で前述した内容を含めて一概に説明する。
【0064】
まず、(1)手術を開始する際の照射野の位置と寸法の設定について説明する。
天板の段10では手術の冒頭での対応となるが、メッシュ透過板ユニット15を設置する数量により軸線方向の照射野の調整可能な幅、すなわち絞り板35や開閉板22により手術中に選択できる照射野の軸線方向の最大幅を設定できる。メッシュ透過板ユニット15のスペーサ44は種々あるものから適切な幅のものを選択することにより、照射野の軸線と直角方向の開口寸法を設定することができる。天板の段10でのこれらの対応は、最初の段階で行い、原則的にはよほどの必要が生じない限り手術の途中での調整はしない。
中間の段30では、患部の位置に合わせてスライドテーブル32の軸線方向の位置を移動して調節し、ボールねじ61で絞り板35の軸線方向の開口寸法を調節することにより、その手術の目的に対して必要十分な位置と面積に一次X線の照射野を設定することができる。
底板の段20では、その手術の目的に必要な照射野の部位の開閉板22は、閉状態のものをヒンジ機構またはスライド機能により開き、必要十分な一次X線の照射野の位置に設定することができる。ヒンジ機構の場合は照射野の軸線の垂直方向の幅も調節できる。
【0065】
次に、(2)必要に応じて行う手術中の照射野の寸法の調整について説明する。
テーブル位置での調整は、要件2で述べた中間の段30でのスライドテーブル32と絞り板35による照射野の寸法の変更(「照射野の調整」)と、要件1で述べたテーブル1の底板の段20での開閉板22による一次X線の透過させる切り欠きの位置の変更(同「透過面の調整」)とが必要である。これらは各種材料の位置の調整機能を有する3段構造としたテーブル1の機能により対応する。
なお、天板の段10では前項の通り手術の最初での対応で、メッシュ透過板ユニット15の設置数とスペーサの幅を選択し、手術の途中では積極的に変更しない。
【0066】
中間の段における手術中の照射野の寸法の調整について説明する。
中間の段30では、照射野の調整は、軸線方向の大まかな位置をスライドテーブル32で調整し、詳細な軸線方向の開口寸法をスライドテーブル32に取り付けた一対の絞り板35で調整する。スライドテーブル32は軸線方向にスライドすることで軸線方向の照射野の寸法を変更する。絞り板35はボールねじ61で駆動して2枚の絞り板の軸線方向の開口寸法を自在に調整する。
スライドテーブル32と絞り板35は手術中でもスライドさせて調整可能である。また、これらのスライドは手動でも出来るが、実施例3に前述した機械的な駆動機構が設置される場合がある。その場合は手術中に遠隔操作により照射野の位置を変更したり、軸線方向の開口寸法を拡大したり縮小したりすることができる。中間の段30のスライドテーブル32と絞り板35による照射野の位置と寸法調整の説明図を
図10に示す。
図10では、患者の心臓付近に照射野を設定した場合の例を示す。開閉板22と絞り板35により、軸線方向の照射野の幅が設定され、それ以外の部位には一次X線とその散乱線が患者人体に照射されない。患者人体からの散乱X線は主に天板11と吸収板14が減弱して吸収する。照射野以外のメッシュ透過板ユニット15の部分の散乱X線は下方にある絞り板35とスライドテーブル上のスライド吸収板33が減弱して吸収する。スライド吸収板33はスライドテーブル32上に簡易に張り付けた薄い板であり、散乱X線の照射位置に応じて位置を変えたり、軸線方向の長さを長くしたり、面積を大きくしたりすることができる。
図10では、メッシュ透過板ユニット15は手術前に吸収板14に変えて4枚を設置している。これにより、患者と医療従事者の被ばくを低減した状態のままで、患者の上半身の全ての範囲を手術中の操作により照射野に変更して設定できる。
図10では、メッシュ透過板ユニット15は最大8枚まで設置できる。
図10では説明のためにメッシュ透過板ユニット15は8枚の構成で示したが、これらの数量はもっと多くても構わない。メッシュ透過板ユニット15の設置数量が多いほど、手術中に照射野を選択できる最大幅は広がる。しかし、診療室等の空間線量率をなるべく低減する視点からは、手術前にメッシュ透過板ユニットを設置する数量は少なければ少ない方が良い。
【0067】
続いて底板の段における手術中の照射野の寸法の調整について説明する。
底板の段20では、低反射散乱開閉板(開閉板)22をヒンジ機構またはスライド機構で開閉することで一次X線を透過させる切り欠きを変更することで照射野の位置の調整を行う。ヒンジ機構の場合は照射野の軸線の垂直方向の開口寸法も調整できる。
図10では説明のために開閉板22の数量は8対構成で示したが、これらの数量はもっと多くても構わない。底板の段20のヒンジ機構を用いた開閉板22による照射野の位置と寸法調整の説明図を
図11に示す。
図11は
図10の矢視D-Dの位置を示している。
図11のaは開角度90°(全開)、bは開角度60°(2/3開)、cは開角度45°(1/2開)の図である。
図11では、得られる照射野の軸線の垂直方向の開口幅の大きさは、開角度90°のa(全開)>60°のb(2/3開)>45°のc(1/2開)となる。
図11では説明のためにこの3つの開角度を示したが、開角度の設定はもっと多くても構わない。
図11では開角度90°のaが最大の照射野の軸線の垂直方向の開口寸法となったが、中間の段30のスライドテーブル32による干渉で、通常の方法ではここで示す照射野の最大幅を得ることはできない。患者の胸囲や腹囲の全域を透視する手術は多くないと予想されるが、必要であれば開閉板22の開角度を90°とし、スライドテーブル32は抜き出すことにより、軸線の垂直方向に最大の照射野の幅を得ることができる。
開閉板22の開閉は手動でも出来るが、カム機構等の機械動力による数対または全ての対の開閉板の駆動機構が設置される場合がある。その場合は手術中に遠隔操作により開閉板22の開閉や開角度の変更ができ、照射野の位置を変更したり、軸線の垂直方向の開口寸法を拡大したり縮小したりすることができる。
【実施例5】
【0068】
(特許文献4の複合吸収材料)
発明者が同じ特許文献4では、散乱X線を良く減弱して吸収する複合吸収材料が考案されている。複合吸収材料は患者人体からの散乱X線が照射される表面に配置され、入射した散乱X線を最大限に効率的に線減衰した上で線エネルギー吸収することで、散乱X線の再散乱を低減することが目的である。複合吸収材料による減衰・吸収により、X線はそのエネルギーを光電子等の運動エネルギー等に変換させることで消滅する。複合吸収材料は、主に鉛(Pb)等の低反射減弱層(初層)と多層吸収層(拡散吸収体と電子吸収体の対が1~3対)より構成される。すなわち、複合吸収材料は、人体組織やテーブル等の散乱体からの散乱X線を、異なった役割を持った3層以上を密着して多層に重ねた材料により減弱させて吸収する。
【0069】
複合吸収材料の原理を説明する。複合吸収材料が主に対象とする入射X線は一次X線ではなく、物質により1回以上は散乱した散乱X線である。エネルギーは88KeV未満を対象としている。
X線が光電領域で物質と相互作用した場合、入射したX線の多くが光電効果により線エネルギー吸収される。入射X線のエネルギーが吸収端を超えると、光電効果に伴い光電子と特性X線とオージェ電子を放出する。また、これらの電子の制動放射により制動X線が発生する。吸収端付近のやや高い側のエネルギー領域では著しく光電吸収するという特異吸収が起こる。
初層の低反射減弱層のPbは、入射したX線の多くを良く線減衰し、良く線エネルギー吸収する。PbのK吸収端は88KeVであり、L吸収端が約13~16Keである。すなわち医療用X線装置の場合でもPbの表面からはL吸収端による特性X線(L-X線)約10.5~14.8KeVが放出されている。
PbのK吸収端とL吸収端の間のエネルギー領域(17~87KeV)では、原子番号が37以上で81未満の元素で特異吸収が起こり、その元素のK吸収端よりやや高いエネルギー領域からK吸収端の間で著しく光電吸収する。
多層吸収層は特異吸収を利用して、拡散吸収体と電子吸収体の対で効率良くX線の消滅を狙ったものである。このエネルギー範囲のある単色のエネルギー(例えば60/50/40/30/20KeV)で電子吸収割合が70%未満の元素が拡散吸収体として摘出される。なお、単色のエネルギーでの線減衰係数μと線エネルギー吸収係数μenおよび電子吸収割合(μen/μ)は表1を参照とする。
拡散吸収体はK吸収端の特異吸収により著しく線減衰し、著しく線エネルギー吸収もするが、電子吸収割合が70%未満の元素のため、同時に一定の二次X線(特性X線、制動X線)も再放出する。つまり、吸収に加えてあちこちの方向への二次X線の再放出により、周囲の層に減弱させた光子を拡散押戻しする(すなわち、薄い材料の層内を一層ジグザグに長い距離を移動させる)役割もある。
電子吸収体は二次X線等を吸収する原子番号が11以上で82以下の元素であり、拡散吸収体を摘出した特定のエネルギーでX線を良く線エネルギー吸収する、すなわち電子吸収割合が70%以上で良く電子吸収する元素である。
すなわち、拡散吸収体と電子吸収体の対として共存させることで、薄い材料の層の中でX線を拡散押戻して何度も行き交いさせながら電子吸収する。
多層吸収層では1~3対の拡散吸収体と電子吸収体の対を隙間なく重ね合わせて配置することで、薄い多層の材料内を何度も行き交いする中で効率的にX線を消滅させ、光電子等の運動エネルギー等に変換させる。
【0070】
複合吸収材料に用いる材料を説明する。
低反射減弱層(初層)は、0.1~0.3mmのPbを設定する。
多層吸収層の対は、K吸収端以外に設定した任意の単色エネルギーでの線エネルギー吸収係数μenの数値と電子吸収割合(μen/μ)を見て、拡散吸収体と電子吸収体の対となる元素(材質)を設定する。
拡散吸収体を設定する単色のエネルギーが50KeVの場合は、表1の50KeVの電子吸収割合μen/μが70%未満で拡散吸収体とする元素の単体または化合物は、SnまたはBaとする。同・70%以上でその対となる電子吸収体とする元素の単体または化合物はFe、Cu、NbまたはMoとする。電子吸収体にはWまたはPbを配置することも、近接する層に配置されたものがあれば他の役割で設置したこれらを兼務して統合することもできる。
拡散吸収体を設定する単色のエネルギーが30KeVの場合は、表1の30KeVの電子吸収割合μen/μが70%未満で拡散吸収体とする元素の単体または化合物はNb、MoまたはSnとする。同・70%以上でその対となる電子吸収体とする元素の単体または化合物はTi、FeまたはCuとする。電子吸収体にはBa、WまたはPbを配置することも、近接する層に配置されたものがあれば他の役割で設置したこれらを兼務して統合することもできる。
【0071】
次に多層吸収層全体での拡散吸収体・電子吸収体の組合せの設定の操作(多層吸収層の設計方法)を説明する。なお、電子吸収域とは各元素の電子吸収割合(μen/μ)が70%以上となるX線エネルギー領域である。別途光子放出域とはこれが70%未満となる領域である。これらは表1のNISTデータベースに示す単色のX線エネルギーに対して設定している。
散乱体(身体組織、テーブル、濾過フィルタ等)より88KeV未満の散乱X線の照射を受ける初層には、このエネルギー領域での散乱が小さいPbを用いる。
例えば2層目の1つ目の拡散吸収体には、40~60KeV(中央値:50KeV)を意図的に狙い、この領域で別途光子放出域にある元素である例えばSn等を用いる。
2層目に対なる3層目の電子吸収体には、50KeVの領域で電子吸収域にある元素である例えばMoまたはNb等を用いる。厚みが増えるがCu、Feでも構わない。
例えば4層目の2つ目の拡散吸収体には、20~40KeV(中央値:30KeV)を意図的に狙い、この領域で別途光子放出域にある元素である例えばNbまたはMo等を用いる。
4層目に対なる5層目の電子吸収体には、30KeVの領域で電子吸収域にある元素である例えばCuまたはFeを用いる。条件によってはAl、Si、Tiでも構わない。TiのK吸収端は4.96KeVであるため、必然的に多層吸収層の拡散吸収体を構成する元素のK吸収端は5KeV以上となる。
上記の構成により、88KeV未満の散乱X線を消滅させ、電子の運動エネルギーに変換することができる。
【0072】
複合吸収材料は、本発明の構造物を構成する1つの主要な材料となる。複合吸収材料を利用することにより、診療室内等の空間の放射線量率を低減できる。これにより、X線受像機の画質を鮮明にし、かつ、患者等・医療従事者の被ばくを正当に最小化できる。複合吸収材料の基本ケースの構成を
図12で説明する。
図12は多層吸収層90の最外層を蛍光収率が低く、発生する特性X線のエネルギーが低いAl、Si、Mg等とした場合のPbの低反射減弱層(初層)3081と多層吸収層90(1~3対)のみからなる基本ケースの構成を示した。
図12のa.は構成の説明図、b.は多層吸収層90が拡散吸収体91と電子吸収体92が2対で全5層となる複合吸収材料71、c.は多層吸収層90が拡散吸収体91と電子吸収体92が3対で全7層となる複合吸収材料72、d.は多層吸収層90が拡散吸収体91と電子吸収体92が1対で全3層となる複合吸収材料73を示す。
ここでの材質の組合せの例は、全5層の場合でPb-Sn-Nb-Cu-Al、全7層の場合でPb-Ba-Sn-Nb-Cu-Fe-Al、全3層の場合でPb-Nb-Siである。特性の近い元素の組合せであるFeとCuを統合し、この全7層の場合はPb-Ba-Sn-Nb-Cu-Alと全6層としても良い。
複合吸収材料を使用する部位には、散乱X線を低減する効果は低減するが、次善の策として実施例6の低反射材料を用いても構わない。
【実施例6】
【0073】
(低反射材料)
低反射材料は一次X線とその散乱線が照射される表面に配置し、反射や散乱による散乱X線の発生を低減する目的で設置する。
低反射材料とは、Pb・WまたはBa・Sn・Mo・Nb等の低反射元素を被覆した材料である。低反射元素とは80KeV以上のエネルギー領域でも光電効果が主要な領域(光電領域)にある原子番号が20以上の元素で、かつ、80KeVの単色のエネルギーにおけるμが10(1/cm)以上の元素である。より良くは80KeVでμenも10(1/cm)以上の元素であることが望ましい。
なお、μは線減衰係数、μenは線エネルギー吸収係数、μen/μは電子吸収割合であり、詳細は非特許文献2のNISTデータベースを引用した実施例の表1とその本文説明を参照とする。
【0074】
低反射材料に用いる材料を説明する。
医療用のX線透視装置の一次X線のエネルギーは50~150KeVの領域であるが、低反射材料にはコンプトン散乱による反射を避けるため、一次X線のエネルギー領域では光電領域にある元素を使用する必要がある。特許文献4の説明を引用すると80KeV以上の領域でも光電領域にあるのは、原子番号20以上の元素である。
一方、表1によれば、Ti以外の吸収元素(Fe、Cu、Nb、Mo、Sn、Ba、W、Pb)では、80KeV未満ではμとμenは共にかなり大きい。しかし、Fe、Cuは80KeVになるとμとμenが10(1/cm)以下になる。
吸収元素のNb、Mo、Sn、Ba、W、Pbは80KeV以上でもμは大きく、特にW、Pbは100KeV以上となってもμは10(1/cm)以上と大きい。さらにW、Pbは100KeVとなってもμenが10(1/cm)以上と大きい。Nb、Mo、Sn、Baのμenは60KeVでは10(1/cm)以上であるが、80KeVでは10(1/cm)以下となる。
線減衰係数μが大きいことは線減衰能力(すなわち遮へい能力)が高いことを意味する。線エネルギー吸収係数が大きいことは線エネルギー吸収能力(すなわち、電子吸収能力)が高いことを意味し、X線との相互作用により反射や散乱が少なく吸収が大きい。
そのため、好ましい低反射元素はW、Pbであり、80KeVではやや低反射性は劣るが一定の効果を期待できる元素はBa・Sn・Mo・Nbである。
【0075】
複合吸収材料には初層に低反射減弱層があり、主にPbを使用する。Pbの他には、Bi、U,Thが提案されている。すなわち、初層のPbは低反射材料として提案されているものと同じである。複合吸収材料は、低反射減弱層に加えて多層吸収層(拡散吸収体と電子吸収体の対が1~3対)より構成される。すなわち、複合吸収材料は、初層のPbで減弱する際に発生した散乱X線を多層吸収層により減弱させて吸収することができる。そのため、低反射材料を使用する表面の被覆等は、より良くは実施例5の複合吸収材料に置き換えて使用する方が良い。
【実施例7】
【0076】
実施例7では
図13に示す鳥瞰図を説明する。
図13の鳥瞰図は天板・中間・底板の3つの段に分けて構造を示している。但し、具現的に見易くするために支持レール12と補強梁13は天板の段10ではなく、底板の段20にテーブル支持台2と共に示している。
天板の段は、天板11、吸収板14、メッシュ透過板ユニット15および支持レール12と補強梁13で構成される。天板11は患者が横たわり、上載する患者人体の体重を支持する。天板11の軸線中心部には軸線方向に長い開口部があり、吸収板14はそこの支持レール上にはめ込んで設置する。照射野となる可能性がある位置の吸収板14を取外し、メッシュ透過板ユニット15を設置する。メッシュ透過板ユニット15の網面はCFPRやAl系等の高強度でX線を吸収し難い材料とする。アンダーチューブ型の場合、天板11と吸収板14の上側の表面は複合吸収材料で被覆する。メッシュ透過板ユニット15の軸線と垂直方向の端部はスペーサ44で覆うことで、軸線と垂直方向の照射野の開口寸法を調整できる。(a)は幅広の場合、(b)は幅狭の場合のメッシュ透過板ユニット15を示す。天板11が支持した荷重は支持レール12と補強梁13で支持し、最終的にはテーブル支持台2で支持する。
中間の段30は、スライドテーブル32およびそのサイドローラ34、スライド吸収板33、絞り板35およびその駆動機構で構成される。スライドテーブル32は軸線方向に長い平板であり、軸線中心の一部の位置に開口部があり、他の部位にはスライド吸収板33がその上に簡易に固定される。絞り板35のボールねじ61等の駆動機構はスライドテーブル32の中に取り付ける。一対(2枚)の絞り板35はスライドテーブル32の開口部の上をスライド移動して軸線方向の開口の寸法を自在に調整できる。サイドローラ34上に設置したスライドテーブル32は軸線方向にスライドして移動し、開口部の位置を自在に調整できる。スライドテーブル32と絞り板35により照射野の軸線方向の開口の位置と寸法を調整できる。スライドテーブル33と絞り板35は機械的な駆動機構が設置される場合がある。アンダーチューブ型の場合、絞り板35の上側は複合吸収材料70で、下側は低反射材料80で被覆する。スライド吸収板33はスライドテーブル22の開口部を除く局所に簡易に設置され、上側は複合吸収材料70で被覆する。
底板の段20は、底板21と低反射散乱開閉板(開閉板)22とその固定・駆動機構で構成される。開閉板22はヒンジ機構等で開角度を制御して開閉できる。手術中には照射野の位置の開閉板22は開かれる。アンダーチューブ型の場合、開閉板22の外側は低反射材料を、内側は複合吸収材料70を被覆する。開閉板22には機械的な駆動機構が設置される場合がある。
【実施例8】
【0077】
要件1(一次X線の透過)の解決方法は実施例1に示したが、実施例2ではもう1つの具体例である変形例を示す。実施例1に記載した天板の段10のメッシュ透過板ユニット15に設置した線材や網は一次X線を良く透過させるが、重い患者人体の体重を支持する直径が大きな線材や網の場合はX線受像機の画像に方眼紙のような薄くて白い影が入る可能性がある。そのため、ここでは、原子番号が14以下のX線を吸収し難い元素の単体または化合物により構成されて照射野に設置される薄い均一な厚さの帯状のフィルムまたは平面状の板材(以下、「薄板シート」という)をシート透過板ユニット60に使用した場合を説明する。
【0078】
例えば、CFRP製の厚さt=5cmの未開口テーブルとそこに仮定として幅10cm×長さ10cmの透過板ユニット用の開口があるテーブルにおいて全幅で均一な60KeVの単色で一次X線の透過率を比較する。開口状態のテーブルの透過率I0を仮に1000とすると、表1から炭素(C)のμ=0.18(1/cm)であるため、I/I0=Exp(-μt)の関係式から未開口なテーブルの場合の透過量Iは約400となり、透過率I/I0は40%となる。ここで直径5mmの線材による網は10cm間隔に1本が必要なので縦と横で2本使うと概算であるが相当平均厚さは0.25mmなのでメッシュ透過板ユニット15の場合の透過量Iは約996となり、透過率I/I0は99.6%となる。また、厚さ0.5mmの薄板シートを一面に使ったシート透過板ユニット60の場合の透過率Iは約991となり、透過率I/I0は99.1%となる。前述の通り、この試算例では線材や網および薄板シートは未開口テーブルと比べて透過率は2倍以上であり、開口状態のテーブルとほぼ等しい。しかし、線材や網に比べて薄板シートの方が0.5%ほど、透過率が低下してしまう。しかし、薄板シートはX線受像機の画像に線材や網による方眼紙のような薄くて白い影が全く入らないという利点がある。
【0079】
薄板シート(帯状フィルムと板または一体成型品)を使用したシート透過板ユニット60の構造の説明図を
図5に示す。
図5は天板の段の薄板シートの場合の透過板ユニットの構造の説明図である。
図5のdは薄板シートの帯状フィルム49で構成する場合、eは薄板シート(弾性平板)50で構成する場合、fは一体成型品の場合を示す。
【0080】
実施例1の線材や網の場合と同様に、実施例8の薄板シートの場合も厚みを薄くすることで透過する一次X線をさらに増やすことができる。そのため、薄板シートの照射野に設置される部位の厚みを薄くする第1の方法は、薄板シート自体の材料の強度を可能な限り高くすることである。ここでは薄板シートの縦断面積(厚み×短辺の幅)から算出した引張強度の結果より必要な厚さを類推する。短辺の幅が仮に10cmと短い場合で厚さが0.1mmの薄板シートとすれば小さい側の縦断面積は0.1cm2である。縦断面積が0.1cm2のCFRPやGFRPであれば、表2の引張強度の幅から200~4,000kg程度の耐引張強度を有することになる。すなわち、患者人体の体重が100kgである場合でも、機械的強度の要件を十分に満足している。仮に、候補材料の引張強度が100MPa(1,019kg/cm2)であっても、実際の薄板シートには大きい側の縦断面積をもたらす長辺の幅もある。また、テーブル上で横たわる患者が10cm幅の領域に全体重を上載することも考え難いため、大きな支障は生じることなく、引張強度が100MPaの場合でも100kgの体重を支持可能と思われる。また、薄板シートの場合は患者の皮膚への食い込みを考慮する必要はない。さらに、薄板シートは患者人体やテーブルよりはるかに厚みが小さいため、一次X線の吸収や散乱は少ない。加えて、線材や網と薄板シートを共存させて両方を使用しても構わない。但し、極めて薄い膜が入手できない場合は、その分だけ一次X線の透過量が減少してX線受像機の画質が悪化するため、厚みには注意が必要である。薄板シートの厚みは、強度上の問題がなければ薄ければ薄い方が良い。なお、一般に患者人体の体厚は部位により150~300mm程度あるに対して、テーブルの厚さは50mm程度である。X線受像機の画質を改善するために、薄板シートの厚みはテーブルの厚さの5分の1以下、より良くは10分の1以下にすることが望ましい。確実にテーブルの厚みの10分の1以下とするには、薄板シートの厚みは0.5mm以下としなければならない。
【0081】
特にCFRPやGFRP場合は、製造時の炭素繊維やガラス繊維が設置される一方向には、引張強度が極めて高い。また、CFRPやGFRPの幅が狭い平板材を直交させる織り方を工夫することにより二方向の引張強度を極めて高くすることができる。しかし、曲げ強度に基づく自立強度は高くないため、特に別途の支持材がなければ薄いCFRPやGFRPはぐらぐらとした弾性のある平板となる。この傾向は金属のAlやMgの薄膜材でも同様である。
薄板シートの照射野に設置される部位の厚みを薄くする第2の方法は、薄板シートを設置する構造を工夫して薄板シートの高い引張強度を可能な限り有効に使うことである。すなわち、これはテーブル上で患者人体の体重を支持する面は剛体である必要はなく、寸法的に多少は体に沿って弾性的に凹んで支持しても構わないことを利用することである。
但し、薄板シートが凹んで支持した力は、別の強度部材で支持して、テーブルの支持レール12に伝える必要がある。この強度部材は照射野から外れた場所に設置する矩形で中空の構造物とするべきである。実施例2では、この矩形で中空の構造物はフレーム43を考案した。フレーム43は厚みがテーブルより若干小さい角型の材料を四角に組み合わせた形状であり、梁として高い強度を有する。フレーム43の材料は多くの場合はCFRPやGFRPの成型物であり、Al系やMg系の金属の柱材や型材でも構わない。照射野から十分に外れた部位に設置する場合はフレーム43の材料はTi系等の他の金属でも構わない。一方で薄板シートの方は、引張強度は極めて高いが、自立せずにぐらぐらしている帯状フィルム49と弾性平板50が考えられる。
上述の通り、上載する患者人体の体重を薄板シート自体の引張強度で支え、その反力はフレーム43の強度により支えることで、照射野に設置される部位の薄板シート厚みをより小さくすることができる。
【0082】
CFRPの成形方法には、オートクレーブ成形、樹脂注入(RTM:レジン・トランスファー・モールディング)成形、ホットプレス成形、シート・モールディング・コンパウンド(SMC)、シートワインディング成形、引抜き成形、射出成形といった様々な成形方法がある。オートクレーブ成形、ホットプレス成形、SMC、シートワインディング成形では、炭素繊維に前もって樹脂を含浸させる処理を行ったプリプレグと呼ばれるシート状の中間材料を製造する。成形方法によって得られる製品の形状・寸法は違い、得られる製品の性能は成形方法によって大きく異なる。樹脂の種類や中間材料、形状、コスト、数量、品質など、製品に求められる要求特性によって、最適な成形方法を選定する必要がある。
以下で説明する薄板シート(帯状フィルム)49はシートワインディング成形法等で製造される場合が多く、この製品に期待する厚さは0.1mm以下である。薄板シート(弾性平板)50はホットプレス成形法やSMC等で製造される場合が多く、この製品に期待する厚さは0.5mm以下である。CFRPの一体成型品は、RTM成形法等で製造される場合が多く、薄板シート部の厚さは帯状フィルム49と同様に0.5mm以下である。なお、フィラメントワインディング成形法はCFRPの線材を成形する方法であり、アクリル繊維を約1000°Cの特殊な条件で焼いて作った直径5マイクロメートル(μm)の炭素繊維の糸を束ね、樹脂とともに重ねたものを焼き固めて製造する。炭素繊維トウは、直径5~15μmの細いフィラメント(単糸)が集合した無撚の束状の繊維である。中間製品として利用される場合が多く、様々な形態に加工される。一般に、1,000~30,000フィラメント(直径約0.1~3mm)の細い束をスモールトウ、48,000フィラメント以上(直径約4.8mm以上)の太い束をラージトウと呼んでいる。CFRPの線材の製品例としては三菱ケミカル社製の炭素繊維トウ(長繊維)がある。直径が5mm程度の線材の型番は、TRW40-50Lであり、その引張強度は4,120MPaである。
【0083】
図5のdは薄板シート(帯状フィルム)49でシート透過板ユニット60等を構成する場合であり、これはフレーム43の周囲を端部がない薄板シート(帯状フィルム)49を覆って二重の帯として支持レール12上に置いた構造体である。
図5のdー1は部分説明図である。すなわち、帯状フィルム49はCFRP、GFRP等のエンドレステープ状であり、事前にテープの円周長さを調整することにより矩形で中空のフレーム43に余空間なくきっちりとはめ込む。これにより患者人体の体重が載荷すると円周方向に引張方向の力が加わり、帯状フィルム49は多少凹んで変形しつつもその引張強度で上載する患者人体の体重を支持して、さらにこれを矩形で中空のフレーム43が支持する。長さが精度良く調整された帯状フィルム49が準備できる場合は安価で取り扱いが容易である。帯状フィルム49を組み込んだフレーム43は、アジャスタ46上に置いてテーブル面と同一の高さになるように調整する。
【0084】
図5のeは薄板シート(弾性平板)50でシート透過板ユニット60等を構成する場合であり、フレーム43の上端面に一枚の弾性平板50を置き、接着剤やネジ等により矩形で中空のフレーム43に固定した構造体である。
図5のeー1は部分説明図である。弾性平板50は一次X線を通常のテーブルよりも良く透過させるために、厚みは0.5mm以下にしなければならない。0.5mm以下の平面状の弾性平板50は引張強度が高いが自立強度はなくてぐらぐらしているため、強度部材であるフレーム43に固定する。弾性平板50の短辺側(または長辺側)の長さを大きめとし、その端部をバー57に巻き付けて接着またはおよびピン58等で止めたものをフレーム43に差し込む。これにより弾性平板50は多少凹んで変形しつつもその引張強度で上載する患者人体の体重を支持して、さらにこれを矩形で中空のフレーム43が支持する。平面状の弾性平板50を固定したフレーム43は、アジャスタ46上に置いてテーブル面と同一の高さになるように調整している。
【0085】
図5のfは一体成型品45でシート透過板ユニット60等を構成する場合であり、薄板シートの弾性平板50がアジャスタ46と一体で成型された製品の場合を示す。一般にCFRP、GFRP等の成型品は、RTM成形法等で製造される。すなわち、炭素繊維やガラス繊維を鋳型の中に並べてから熱可塑性樹脂等の注入により固化する。上述したフレーム43もこの工程で製造される場合が多い。この製造の工程において、アジャスタ46に必要とされる高さの情報が既知であれば、
図5のeにある弾性平板とフレームとアジャスタの3つを合わせた形状に相当する鋳型を準備することで一体成型品45を製造できる。一体成型品45は組立の必要がないので現場の手間が省けることが利点である。
【0086】
CFRPの薄板シート(帯状フィルム)49に相当する市中の候補製品を調査した。例として三菱樹脂社製の炭素繊維シートであるが、製品名は商標登録されている。この炭素繊維シートのもともとの目的は接着して使うコンクリート構造物補修・補強用であり、高強度・高弾性炭素繊維を一方向に引き揃えたシート状の補修・補強材料とされている。比重が鉄の5分の1で、鋼材の10倍以上の引張強度があり、鋼材の3倍以上の弾性がある。耐久性は紫外線による強度劣化がなく耐薬品性にも優れるとされている。
高強度炭素繊維を二方向に引き揃えたとする織りがクロスタイプの製品も存在しており、例えば20タイプ(MRK-2D2-20)の厚みは約0.06mmと薄い。その引張強度は2900N/mm2(=2900MPa)、引張弾性率は230KN/mm2とされている。すなわち、薄板シートの帯状フィルム49でシート透過板ユニット60等を構成するのには、薄い厚みと高い強度はこの製品の仕様で十分である。但し、ロール状で製品が供給されるため、帯状のエンドレステープ状とするには接着剤等による接着が必要である。なお、エポキシ樹脂等の接着樹脂の標準使用量は含浸の場合は0.6kg/m2とされている。
【0087】
CFRPの薄板シート(弾性平板)50に相当する市中の候補製品を調査した。CFRPの薄板シートの製品は製造方法や引張強度が厳密に表示されてない場合がある。これは、成形方法はもとより含浸させる樹脂の種類や中間材料、さらには硬化条件や織り方により引張強度等の値が大幅に異なるためである。
1つ目の例としてNEWS COMPANY社製のカーボンプレート(3K、平織)がある。この製品の材料組成はカーボンファイバーが約60%、エポキシ樹脂が約40%であり、比重は1.52kg/cm3である。製品の形状は、有効サイズが幅49cm×長さ49cm、厚みが0.2~5mmのものが市販されている。この製品はプリプレグの積層後にホットプレス成形法により成型されている。積層方法は平織で数層を積層したものである。しかしながら、引張強度の記載はない。この場合でも、表2の最も低い数値は満足していると予想されるが、引張強度が200MPaあれば厚みが0.5mmのものでも100kg以上の患者人体の体重を支持することは可能である。
2つ目の例として帝人社製の熱可塑性樹脂積層板TPCLがある。この製品の材料組成はファイバーが炭素繊維であり、マトリックスがPEEK樹脂である。比重は両者の割合により、1.30~1.76kg/cm3となる。製品の形状は、一例として幅80cm×長さ120cm、厚み0.31mmである。この製品は加熱後、数分以内にプレス内の金型に押し付けてプレス成形している。代表的な引張強度は60,000MPaとされているため、厚みが0.31mmでも100kg以上の患者人体の体重を支持することは可能である。
【符号の説明】
【0088】
1.テーブル(寝台)
2.テーブル支持台
3.患者人体
4.切り欠き
5.照射野
6.照射野の幅
7.術中に照射野を選択できる最大幅
8.X線源からの一次X線
9.患者人体からの散乱X線
10.天板の段
20.底板の段
30.中間の段
11.天板
12.支持レール
13.補強梁
14.吸収板
15.メッシュ透過板ユニット
16.線材を格子状に配置する構造体
21.底板
22.低反射散乱開閉板(開閉板)
23.母材
24.母材(Al系)
25.母材(Ti系)
31.中間
32.スライドテーブル
33.スライド吸収板
34.サイドローラ
35.絞り板
41.線材
42.網(メッシュ)
43.フレーム
44.スペーサ
45.一体成型品
46.アジャスタ
47.幅広
48.幅狭
49.薄板シート(帯状フィルム)
50.薄板シート(弾性平板)
51.開閉板(閉)
52.開閉板(開)
53.折り畳み式ヒンジ
54.開閉板(左)
55.開閉板(右)
56.取手カバー
57.バー
58.ピン
60.シート透過板ユニット
61.ボールねじ
62.絞り板(左)
63.絞り板(右)
64.ナットブランケット
65.サポートユニット
66.溝
67.下板
68.アクチュエーター
70.複合吸収材料
71.2対で全5層となる複合吸収材料
72.3対で全7層となる複合吸収材料
73.1対で全3層となる複合吸収材料
80.低反射材料
81.低反射減弱層(初層)
90.多層吸収層
91.拡散吸収体
92.電子吸収体
【要約】 (修正有)
【課題】従来、医療用のX線透視装置の患者等のテーブルは多くが炭素繊維製であり、入射する一次X線を吸収しないが散乱している。患者身体による散乱X線は同様にテーブルで散乱する。これにより診療室内等の空間の放射線量率が高くなり、X線受像機の画質が不鮮明になり、かつ、医療従事者と患者を被ばくさせている。
【解決手段】医療用テーブルは患者等の体重を支持し、一次X線は天板の段10の網42を透過して相互作用なく照射野に至る。照射されるX線の種類またはエネルギーに応じて表面の材質を変えることで、底板21での散乱X線の発生を低減し、天板11で人体組織からの散乱X線を減弱して吸収する。また、天板の段10のメッシュ透過板ユニット15、中間の段30のスライドテーブル32・絞り板62および底板の段20の開閉板51により照射野の位置と医療の目的から必要最低限な開口寸法に調節する。
【選択図】
図13