(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/17 20060101AFI20230808BHJP
H02K 1/2788 20220101ALI20230808BHJP
H02K 23/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H02K1/17
H02K1/2788
H02K23/04
(21)【出願番号】P 2019031507
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】ニデックプレシジョン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀信
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-074887(JP,A)
【文献】特開2003-032922(JP,A)
【文献】特開2010-130724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/17
H02K 1/27
H02K 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータを囲む環状の駆動マグネットと、を有し、
前記駆動マグネットは、全周を等角度間隔で2の倍数に分割した複数の着磁領域を備えるとともに、前記全周を前記着磁領域の数と同数で等角度間隔に分割した複数の分割領域を備え、
隣り合う2つの前記着磁領域は、互いに異なる極であり、
各分割領域における前記駆動マグネットの内周面は、周方向の中央から両端
の前記分割領域の境界に向かって前記ロータの回転中心線からの距離が長くなり、
隣り合う2つの前記着磁領域の着磁分極線と、隣り合う2つの前記分割領域の境界とは、前記周方向でずれていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記駆動マグネットの外周面は、円形であることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
各分割領域は、径方向の厚みが、周方向の中央部分から周方向の両端に向かって薄くなることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記ロータは、等角度間隔で径方向に延びる3の倍数の突極を備えるコアと、各突極に巻き回された駆動コイルと、を備えることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記コアは、6つの突極を備え、
前記駆動マグネットは、4つの前記着磁領域を備えることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
環状の永久磁石と、永久磁石の内側に配置された電機子とを備える電動機は特許文献1に記載されている。永久磁石は、回転子の回転半径方向に磁化された複数の磁極部を回転軸線の周りに有する。回転子の回転方向に隣り合う磁極部は、互いに異なる極である。永久磁石の着磁は、回転軸線に対して、回転方向に傾斜するスキュー着磁である。特許文献1では、永久磁石の着磁を傾斜させることにより、電動機のコギングトルクを減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータを精度良く駆動するためにはコギングトルクを低減させることが必要である。しかし、スキュー着磁された永久磁石の製造は、着磁が回転軸に平行な永久磁石の製造と比較して、困難である。従って、コギングトルクを低減させるために永久磁石にスキュー着磁を施したモータは、量産化に適さないという問題がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、コギングトルクを低減させながら、永久磁石の製造が容易なモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモータは、ロータと、前記ロータを囲む環状の駆動マグネットと、を有し、前記駆動マグネットは、全周を等角度間隔で2の倍数に分割した複数の着磁領域を備えるとともに、前記全周を前記着磁領域の数と同数で等角度間隔に分割した複数の分割領域を備え、隣り合う2つの前記着磁領域は、互いに異なる極であり、各分割領域における前記駆動マグネットの内周面は、周方向の中央から両端の前記分割領域の境界に向かって前記ロータの回転中心線からの距離が長くなり、隣り合う2つの前記着磁領域の着磁分極線と、隣り合う2つの前記分割領域の境界とは、前記周方向でずれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環状の駆動マグネットにおける各分割領域の内周面が、周方向の中央から両端に向かってロータの回転中心線からの距離が長くなる面形状を備え、かつ、隣り合う2つの着磁領域の着磁分極線と隣り合う2つの分割領域の境界とが周方向でずれている。かかる構成によれば、各分割領域における周方向の磁束密度の変化と、各分割領域とロータとの間の周方向におけるギャップの変化とのずれに起因して、モータのコギングトルクを低減できる。また、かかる構成によれば、スキュー着磁を施す必要がないので、環状の駆動マグネットに対する着磁が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、モータを回転軸に沿って切断した断面図である。
【
図3】
図3は、モータを回転軸と垂直に切断した断面図である。
【
図5】
図5は、駆動マグネットの着磁波形の説明図である。
【
図6】
図6は、着磁領域の着磁分極線と分割領域の境界とのずれ角とモータのコギングトルクとの関係の説明図である。
【
図7】
図7は、本発明のモータのコギングトルクを、通常のモータのコギングトルクを比較した試験結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したモータの実施の形態を説明する。
【0010】
図1は、モータの外観斜視図である。
図1では、モータを回転軸が突出する出力側から見た場合である。
図2は、モータを回転軸に沿って切断した断面図である。
図3は、モータを回転軸と垂直に切断した断面図である。
図3は、モータの切断面を反出力側から見た場合である。
図4は、駆動マグネットの説明図である。
【0011】
本発明のモータ1は、ブラシ付きモータである。
図1に示すように、モータ1は、円柱形状のモータハウジング3と、モータハウジング3から一方側に突出する回転軸4と、モータハウジング3から他方側に突出する2本の端子ピン5と、を備える。2本の端子ピン5には、それぞれリード線6が接続されている。以下の説明では、回転軸4の軸線Lに沿った方向を軸線方向Xとする。また、モータハウジング3から回転軸4が突出する方向を軸線方向Xの第1方向X1、2本の端子ピン5が突出する方向を軸線方向Xの第2方向X2とする。第1方向X1は、モータ1の出力側であり、第2方向X2は、モータ1の反出力側である。また、以下の説明において、周方向は軸線L回りの方向であり、径方向は軸線Lを中心とする方向である。
【0012】
図2に示すように、モータハウジング3は、軸線Lと同軸に延びる筒部7と、筒部7の第1方向X1の端から内周側に延びる環状の板部8とを有するハウジング部材9を備える。板部8の中心穴には、出力側軸受10が取り付けられている。出力側軸受10は回転軸4の軸線方向Xの中央部分を回転可能に支持する。
【0013】
また、モータハウジング3は、筒部7の第2方向X2の開口を封鎖する封鎖部材11を備える。封鎖部材11は、筒部7の内側に挿入された円盤部12と、円盤部12の第2方向X2の端部分から外周側に突出する環状フランジ部13と、を備える。円盤部12は、第1方向X1の中央に円形の凹部14を備える。凹部14は、第1方向X1の側から第2方向X2の側に向かって、大径凹部15と大径凹部15よりも内径寸法が小さい中径凹部16と、中径凹部16よりも内径寸法が小さい小径凹部17とを備える。
【0014】
小径凹部17の内側には、反出力側軸受18が配置されている。反出力側軸受18は、出力側軸受10と同軸に位置する。反出力側軸受18は、回転軸4の第2方向X2の端部分を回転可能に支持する。円盤部12において凹部14の外周側に位置する外周側部分12aには、2本の端子ピン5が固定されている。2本の端子ピン5は凹部14を挟んだ両側に位置する。環状フランジ部13は、筒部7の第2方向X2の環状端面に当接する。
【0015】
モータハウジング3の内側には、ロータ本体21、整流子ユニット22、一対のブラシ23、および駆動マグネット24が収容されている。ロータ本体21および整流子ユニット22は回転軸4に固定されている。従って、ロータ本体21および整流子ユニット22は、回転軸4と一体に回転する。回転軸4、ロータ本体21、および整流子ユニット22は、モータ1のロータ25である。
【0016】
ロータ本体21は、ロータコア27と、ロータコア27に巻き回された駆動コイル28
と、を備える。ロータコア27は、磁性材料からなる複数枚の板部材を軸線方向Xに積み重ねた積層コアである。
図3に示すように、ロータコア27は、回転軸4が貫通する中心穴を備える環状部29と、環状部29から径方向の外側に突出する6本の突極部30と、を備える。ロータコア27は、環状部29の中心穴に回転軸4を貫通させて、回転軸4に固定されている。
【0017】
各突極部30は、外周側の端に周方向の一方側および他方側に延びる一対の張出部31を備える。突極部30の外周面および一対の張出部31において径方向外側を向く外周面は、周方向に段差なく連続する円弧面である。突極部30および一対の張出部31の外周面を軸線方向Xから見た場合の形状は、軸線Lを中心とする円弧形状である。駆動コイル28は、各突極部30に巻回された6つのコイル33を備える。各コイル33は、環状部29と一対の張出部31との間に巻き回されている。
【0018】
図2に示すように、整流子ユニット22は、ロータ本体21の第2方向X2に配置されて、回転軸4に固定されている。整流子ユニット22は、回転軸4に固定される環状のホルダ35と、ホルダ35の外周面に固定された6つの整流子36と、を備える。6つの整流子36は、軸線L回りで等角度間隔に配置されている。より詳細には、各整流子36は、隣り合う2つの突極部30の周方向の中心が位置する角度位置に配置されている。各整流子36を軸線方向Xから見た場合の形状は、軸線Lを中心とする円弧形状である。各整流子36には、周方向で隣り合う2つのコイル33が接続されている。すなわち、各整流子36には、隣り合う2つのコイル33のうちの一方のコイル33のコイル線の端と、他方のコイル33のコイル線の端とが接続されている。
【0019】
一対のブラシ23は、封鎖部材11に支持されている。一対のブラシ23は、凹部14を挟んだ両側に位置する。各ブラシ23は、円盤部12における凹部14の外周側部分12aに固定されて各端子ピン5に電気的に接続されている固定部41と、外周側部分12aから大径凹部15の内側に突出する突出部42と、を備える。突出部42は、大径凹部15の内側を、内周側に向かって径方向と交差する方向に延びる。突出部42は外周側に撓むことが可能な弾性を備える。一方のブラシ23の突出部42と、他方のブラシ23の突出部42とは、軸線方向Xから見た場合に、直交する方向に延びる。
【0020】
ここで、ロータ本体21および整流子ユニット22が固定された回転軸4が出力側軸受10および反出力側軸受18に支持されたときに、整流子36は、封鎖部材11の大径凹部15の内周側に位置する。また、各ブラシ23の突出部42の内周側の端部分は、弾性をもって、整流子36に接触する。
【0021】
駆動マグネット24は、ハウジング部材9の筒部7の内周面に固定されている。駆動マグネット24は、環状であり、ロータ本体21を外周側から囲む。
図3に示すように、駆動マグネット24は周方向の一部分に、第2方向X2に突出する矩形の突起44を備える。突起44は、駆動マグネット24を周方向で位置決めする際などに用いられる。
図4に示すように、駆動マグネット24は、全周を等角度間隔で2の倍数に分割した複数の着磁領域45を備える。本例では、4つの着磁領域45を備える。隣り合う2つの着磁領域45は、互いに異なる極である。本例において、駆動マグネット24の外周面24aは円形である。
【0022】
モータ1には、2つの端子ピン5を介してして直流の電力が供給される。電力が供給されるとロータ25は回転を開始する。また、モータ1は、回転する整流子36とブラシ23との接触により、回転位相に応じて駆動コイル28に流れる電流の向きを変化させて、ロータ25の回転を継続する。
【0023】
(駆動マグネットの詳細)
次に、
図4を参照して駆動マグネッットを詳細に説明する。
図4では、駆動マグネット24の形状を分かりやすくするために、形状の特徴を誇張して示す。
図5は、駆動マグネット24の着磁波形の説明図である。
図6は、着磁領域45の着磁分極線と分割領域の境界とのずれ角とモータ1のコギングトルクとの関係の説明図である。
【0024】
駆動マグネット24は、全周を等角度間隔で2の倍数に分割した複数の着磁領域45を備えるとともに、全周を着磁領域45の数と同数で等角度間隔に分割した複数の分割領域47を備える。本例では、4つの着磁領域45と4つの分割領域47を備える。
図4に示すように、分割領域47における駆動マグネット24の外周面47aは、軸線Lを中心とする円弧形状である。各分割領域47における駆動マグネット24の内周面47bは、周方向の中央から両端に向かってロータ25の軸線L(回転中心線)からの距離Dが長くなる。従って、各分割領域47は、径方向の厚みWが、周方向の中央部分から周方向の両端に向かって薄くなる。駆動マグネット24の着磁波形は、
図5に示すように、各着磁領域45の周方向の中央で最も磁束密度が高く、両端に向かって磁束密度が低下する。
【0025】
ここで、
図4に示すように、隣り合う2つの着磁領域45の着磁分極線45aと、隣り合う2つの分割領域47の境界47cとは、周方向でずれている。本例では、第2方向X2の側(反出力側)から見た場合に、分割領域47の境界47cに対して着磁分極線45aが時計回りCWに85°ずれている。着磁領域45の着磁分極線45aと分割領域47の境界47cとがずれるずれ角θは、実験に基づいて設定したものである。すなわち、ずれ角θの異なる駆動マグネット24を備える複数のモータ1を製造して、各モータ1についてコギングトルクを測定する実験を行った。そして、測定されたコギングトルクに基づいて、ずれ角θを設定した。
図6に示すように、モータ1では、ずれ角θが85°の場合に、コギングトルクが最も低い。
【0026】
図7は、本発明のモータ1のコギングトルクを、通常のモータのコギングトルクと比較した試験結果の説明図である。通常のモータとは、駆動マグネット24に替えて、円環状で厚みが一定の駆動マグネットを備えるモータである。通常のモータの駆動マグネットは4つの着磁領域を備える。試験では、本発明のモータ1を20台用意して、各モータ1のコギングトルクを測定した。また、通常のモータを20台用意して、各モータのコギングトルクを測定した。
図7に示すように、本発明のモータ1によれば、通常のモータと比較して、コギングトルクの低下が明らかである。
【0027】
すなわち、本発明のモータ1では、環状の駆動マグネット24における各分割領域47の内周面47bが、周方向の中央から両端に向かってロータ25の回転中心線からの距離が長くなる面形状を備え、かつ、隣り合う2つの着磁領域45の着磁分極線45aと隣り合う2つの分割領域47の境界47cとが周方向でずれている。かかる構成によれば、各分割領域47における周方向の磁束密度の変化と、各分割領域47とロータ25との間の周方向におけるギャップの変化とのずれに起因して、コギングトルクが低減する。また、かかる構成によれば、スキュー着磁を施す必要がないので、環状の駆動マグネット24に対する着磁が容易である。従って、モータ1は、量産化に適する。
【0028】
(変形例)
上記の例では、モータ1は、ブラシ付きモータであるが、ブラシレスモータに本発明を適用できることは勿論である。
【0029】
なお、駆動マグネット24の着磁領域45および分割領域47の数は、4に限られるものではなく、2の倍数とすることができる。また、ロータ25の突極部30の数、すなわち、コイル33の数は、3に限られるものではなく、3の倍数とすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…モータ、3…モータハウジング、4…回転軸、5…端子ピン、6…リード線、7…筒部、8…板部、9…ハウジング部材、10…出力側軸受、11…封鎖部材、12…円盤部、12a…外周側部分、13…環状フランジ部、14…凹部、15…大径凹部、16…中径凹部、17…小径凹部、18…反出力側軸受、21…ロータ本体、22…整流子ユニット、23…ブラシ、24…駆動マグネット、24a…駆動マグネットの外周面、25…ロータ、27…ロータコア、28…駆動コイル、29…環状部、30…突極部、31…張出部、33…コイル、35…ホルダ、36…整流子、41…固定部、42…突出部、44…突起、45…着磁領域、45a…着磁分極線、47…分割領域、47a…分割領域の外周面、47b…分割領域の内周面、47c…境界、L…軸線、X…軸線方向、X1…第1方向、X2…第2方向