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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び積層造形物
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230808BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20230808BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20230808BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20230808BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230808BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230808BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230808BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B22F3/105
B22F3/16
B22F3/11 A
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019091596
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020185590
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/070033(WO,A1)
【文献】特表2011-525593(JP,A)
【文献】特開2018-183815(JP,A)
【文献】特開2015-160217(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 3/11
B23K 9/032
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤアークで溶融及び凝固させた複数の線状の溶着ビードを、基部に積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
鉛直面、又は前記溶着ビードの積層方向から傾斜する面からなる前記基部に、支持ビードを形成し、当該支持ビードの側方に、さらに複数の支持ビードを一方向に連結させて形成して支持層を造形する支持層形成工程と、
前記支持層上に、前記支持ビードより幅広の幅広ビードを前記支持ビードの形成方向と直交する方向に沿って形成する積層工程と、
を含み、
前記支持層形成工程では、前記支持ビードの高さHと幅Wとの比(H/W)を0.35以上とする、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記積層造形物は、互いに対向する内側面を有する壁部を有し、
前記支持層を、該支持層の始端及び終端が前記壁部の対向する前記内側面に連結するように形成し、前記壁部と、天井壁となる前記支持層とで空洞部を形成する、
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記溶着ビードを積層して複数の独立した前記壁部を形成する工程を含み、
複数の前記壁部同士を接続するように前記支持層を形成する
請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
溶接ワイヤアークで溶融及び凝固させた複数の線状の溶着ビードが、基部に積層された積層造形物であって、
鉛直面又は前記溶着ビードの積層方向から傾斜する面からなる前記基部に支持ビードが形成され、当該支持ビードの側方に、さらに複数の支持ビードが一方向に連結して形成された支持層と、
前記支持層上に、前記支持ビードの形成方向と直交する方向に沿って形成され、前記支持ビードより幅広な幅広ビードと、
を含み、
前記支持ビードの高さHと幅Wとの比(H/W)は、0.35以上である、
積層造形物。
【請求項5】
互いに対向する内側面を有する壁部を有し、
前記支持層は、該支持層の始端及び終端が前記壁部の対向する前記内側面に連結され、
前記壁部と、天井壁となる前記支持層とで空洞部が形成されている、
請求項4に記載の積層造形物。
【請求項6】
前記溶着ビードが積層された複数の独立した前記壁部を有し、
複数の前記壁部同士を接続するように前記支持層が形成されている、
請求項5に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このような造形物を造形する技術として、トーチ走査工程において、水平面または傾斜面に沿ってトーチを走査させて肉盛りを進行させて三次元形状物を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-266174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶着ビードを基板や下層の溶着ビードの基部に形成する場合、その基部が鉛直面や傾斜面であると、重力の影響による垂れが生じるおそれがある。また、溶着ビードが垂れないように溶接トーチの移動速度を速めると、溶着ビードが途切れるハンピングが生じるおそれがある。このため、溶着ビードを形成する基部の状態に影響されることなく、垂れやハンピングなどの不具合なく円滑に溶着ビードを形成して造形物を製造する技術が要求されている。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、垂れやハンピングなどの不具合なく溶着ビードを効率よく形成して積層造形物を造形することが可能な積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを、基部に積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記基部に支持ビードを形成する支持ビード形成工程と、
前記支持ビードに溶着ビードを積層させる積層工程と、
を含み、
前記支持ビード形成工程において、前記支持ビードの高さHと幅Wとの比(H/W)を0.35以上とする
積層造形物の製造方法。
(2) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードが、基部に積層された積層造形物であって、
前記基部に形成された支持ビードと、
前記支持ビードに積層された溶着ビードと、
を有し、
前記支持ビードは、高さHと幅Wとの比(H/W)が0.35以上である
積層造形物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、垂れやハンピングなどの不具合なく溶着ビードを効率よく形成して積層造形物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】積層造形物の製造に用いる製造システムの構成図である。
図2A】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略側面図である。
図2B】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略側面図である。
図2C】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略側面図である。
図2D】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略側面図である。
図3】基部に形成した支持ビードの状態を示す概略側面図である。
図4A】一例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図4B】一例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図4C】一例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図4D】一例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図5】他の例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図6A】試験例1における溶着ビードの形成状態を示す斜視図である。
図6B】試験例5における溶着ビードの形成状態を示す斜視図である。
図7】溶着ビードの高さと幅との比に対する溶着断面積の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ16と、を備える。
【0011】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0012】
コントローラ16は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0013】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0014】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0015】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート10に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0016】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0017】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物の形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0018】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。
【0019】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ16からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。なお、図1においては、鉛直に設置された鋼板からなるベースプレート10に複数の溶着ビードBを積層させて積層造形物W1を造形する様子を示している。
【0020】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベースプレート10上に供給する。これにより、例えば、鉛直に設置されたベースプレート10の基部13に複数の線状の溶着ビードBが水平方向に積層された積層造形物W1が造形される。
【0021】
ところで、鉛直面または傾斜面からなる基部に溶着ビードBを積層させてオーバーハング形状部分を有する積層造形物W1を造形する場合、積層する溶着ビードBに、重力の影響による垂れが生じるおそれがある。このように、形成する溶着ビードBが重力の影響を大きく受ける場合、トーチ17の移動速度を速めることで垂れを抑制できるが、溶着ビードBが途切れるハンピングが生じるおそれがある。
【0022】
このため、本実施形態では、以下のように、溶着ビードBにおける垂れ及びハンピングを抑制しつつ積層造形物W1を造形する。なお、ここでは、鉛直面とされたベースプレート10の基部13に水平の軌道方向へ溶着ビードBを形成して積層造形物W1を造形する場合について説明する。
図2A~2Dは、積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略側面図である。
【0023】
(支持ビード形成工程)
図2Aに示すように、表面からなる基部13を鉛直面としたベースプレート10の基部13に対して溶着ビードBからなる支持ビードBsを形成する。具体的には、ベースプレート10の基部13に対してトーチ17の溶加材Mが突出した先端を向けて配置し、アークによって溶加材Mを溶融させながらトーチ17を軌道方向である水平方向へ移動させる。これにより、鉛直面からなる基部13に、水平方向に沿って支持ビードBsを形成する。このとき、形成する支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する。
【0024】
ここで、基部13に形成した支持ビードBsの状態について説明する。
図3は基部に形成した支持ビードの状態を示す概略側面図である。
【0025】
図3に示すように、鉛直面からなる基部13に対して支持ビードBsを水平方向に沿って形成する場合、この支持ビードBsには、重力Gが作用する。また、トーチ17の鉛直方向に対する傾き角γによって、アーク圧力Faにおける下方へ向かう分力Fa・cosγが鉛直方向の下方へ作用する。すると、形成する支持ビードBsの見かけの粘性力である表面張力Fstは、次式(1)となる。
【0026】
Fst=G+Fa・cosγ…(1)
【0027】
そして、基部13に溶着ビードBを形成する場合、溶着ビードBは、アークの電流値が大きくなると、アーク圧力Fa全体が大きくなって扁平形状となる。しかも、アークの電流値が大きくなると、アーク圧力Faの下向き分力Fa・cosγが大きくなって垂れやすくなる。また、トーチ17の鉛直に対する傾き角γが小さい場合も、アーク圧力Faの下向きの分力Fa・cosγが大きくなり垂れやすくなる。さらに、基部13への溶着量が多くなると、重力Gの影響が大きくなり、溶着ビードBは、垂れやすくなる。
【0028】
本例では、例えば、支持ビードBsを形成する際に、アークの電流値、アークの電圧値、トーチ17の移動速度、トーチ17の角度等を調整する。これにより、支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する。すると、基部13に形成される支持ビードBsは、重力Gの影響によって垂れ落ちるようなことなく基部13に形成される。
【0029】
(支持層造形工程)
図2Bに示すように、基部13に形成した支持ビードBsに対して、さらに、その側方に複数の支持ビードBsを順に積層させる。これにより、基部13から側方へ向かって複数の支持ビードBsが積層された支持層15を造形する。
【0030】
このときも、支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する。すると、順に積層される支持ビードBsは、重力Gの影響によって垂れ落ちるようなことなく形成される。
【0031】
(積層工程)
図2Cに示すように、支持ビードBsによって形成された支持層15上に、支持ビードBsよりも幅広の溶着ビードBwを形成する。この幅広の溶着ビードBwは、支持層15を構成する支持ビードBsの形成方向と直交する積層方向に沿って形成する。このとき、溶着ビードBwを支持層15上に形成するので、溶着ビードBwは、重力Gの影響によって垂れ落ちすることなく円滑に形成されることとなる。これにより、支持層15の造形以降において幅広の溶着ビードBwを形成して形成パスを削減でき、生産効率を向上させることができる。なお、図2Dに示すように、支持ビードBsの形成方向と同一方向に形成してもよい。
【0032】
このように、本実施形態に係る積層造形物の製造方法及び積層造形物によれば、基部13に支持ビードBsを形成する際に、支持ビードBsの高さHと幅Wとの比を0.35以上とする。これにより、支持ビードBsを、重力Gの影響を抑えて基部13に対して垂れることなく形成することができる。したがって、この支持ビードBsに積層させる溶着ビードBwが重力Gの影響を受けて垂れるのを抑制でき、また、垂れを抑えるためにトーチ17の移動速度を速めることで生じるおそれがあるハンピングの発生を抑制できる。これにより、基部13から側方へ張り出すオーバーハング形状の部分を有する積層造形物W1を、タクトタイムを抑えつつ高品質に製造できる。
【0033】
また、基部13から側方へ向かって支持ビードBsを積層させて支持層15を形成し、この支持層15の上部に、幅広な溶着ビードBwを形成して積層造形物W1を造形する。つまり、垂れ落ちなく形成された支持ビードBsによって支持層15を造形し、この支持層15に支持ビードBsよりも幅広の溶着ビードBwを積層させる。したがって、支持層15上に形成する幅広の溶着ビードBwは、重力Gの影響によって垂れ落ちすることなく円滑に形成して積層させることができる。これにより、支持層15の造形以降において幅広の溶着ビードBwを形成して形成パスを削減でき、生産効率を向上させることができる。
【0034】
そして、基部13から側方へ向かって支持ビードBsを積層させることで形成した支持層15は、垂れ落ちなく形成されるので、例えば、流路等となる空洞部の天井などの壁の一部とすることで、安定した形状の空洞部を有する積層造形物W1を得ることができる。
【0035】
次に、上記実施形態に係る製造方法による積層造形物の製造例について説明する。
図4A~4Dは、一例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
【0036】
図4Aに示すように、まず、板状の母材20に溶着ビードBを積層し、延伸方向を変えながら溶着ビードを積層することで湾曲した壁部(外枠部)40を形成する。本例では、平面視略C字状の壁部40を造形する。
【0037】
次に、図4Bに示すように、壁部40における内面側の一部を基部43とし、この基部43の上縁部に支持ビードBsを形成する(支持ビード形成工程)。このとき、形成する支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する(図2A参照)。
【0038】
そして、この支持ビードBsに対して、さらに、その側方に複数の支持ビードBsを順に積層させる。このときも、支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する。これにより、図4Cに示すように、基部43から側方へ向かって複数の支持ビードBsが積層された支持層45を造形する(支持層造形工程)。このとき、支持ビードBsは、その始端及び終端を壁部40の互いに対向する内側に連結させる。
【0039】
その後、図4Dに示すように、溶着ビードBによって形成された壁部40及び支持ビードBsによって形成された支持層45上に、支持ビードBsよりも幅広の溶着ビードBwを、支持ビードBsの形成方向と直交する方向に沿って形成して積層させる(積層工程)。この幅広の溶着ビードBwを形成する際には、トーチ17を溶着ビードBwの形成方向に交差する方向へ変位させるウィービングを行って形成してもよい。
【0040】
このようにして造形された積層造形物W2は、支持層45が天井壁とされた空洞部Sを有し、例えば、この空洞部Sを流路等とすることができる。
【0041】
また、支持層45を造形する際には、支持ビードBsの始端及び終端を壁部40の互いに対向する内面に連結させるので、支持ビードBsの垂れをより抑えることができる。また、壁部40の内側に支持ビードBsを積層して支持層を形成することにより、各支持ビードBsの長さを短くでき、支持ビードBs1本当たりの垂れ量を抑えることができる。
【0042】
次に、他の積層造形物の製造例について説明する。
図5は、他の例に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の斜視図である。
図5に示すように、まず、板状の母材20に溶着ビードBを積層し、複数の独立した壁部(外枠部)40を造形する。なお、これらの壁部40は、垂直に立設させる場合に限らず、溶着ビードBの積層方向である上方へ向かって互いに近接するように傾斜させてもよい。
【0043】
次に、一方の壁部40における内面側の一部を基部43とし、この基部43の上縁部に支持ビードBsを形成する(支持ビード形成工程)。このとき、形成する支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する(図2A参照)。
【0044】
そして、この支持ビードBsに対して、さらに、その側方に複数の支持ビードBsを順に積層させる。このときも、支持ビードBsを、高さHと幅Wとの比が0.35以上(H/W≧0.35)となるように形成する。これにより、基部43から側方へ向かって複数の支持ビードBsが積層された支持層45を造形する(支持層造形工程)。そして、この支持層45が他方の壁部40の内面側の上縁部に接続するように、支持ビードBsを積層させる。
【0045】
このとき、支持ビードBsは、その始端及び終端が制限されないため、各支持ビードBsの長さを長くすることができる。これにより、支持ビードBsを積層して支持層45を形成する際の支持ビードBsのパス数を減らして効率よく造形することができる。
【0046】
なお、支持層45を造形する際には、それぞれの壁部40の互いに対向する内面側の一部をそれぞれ基部43とし、これらの基部43に支持層45を積層させて中間位置で連結させてもよい。
【0047】
その後、溶着ビードBによって形成された壁部40及び支持ビードBsによって形成された支持層45上に、支持ビードBsよりも幅広の溶着ビードBwを、支持ビードBsの形成方向と直交する方向または形成方向に沿って形成して積層させる(積層工程)。この場合も、幅広の溶着ビードBwを形成する際に、トーチ17を溶着ビードBwの形成方向に交差する方向へ変位させるウィービングを行って形成してもよい。
【0048】
このようにして造形された積層造形物W2は、支持層45が天井壁とされて両端が開放された空洞部Sを有し、例えば、この空洞部Sを流路等とすることができる。
【実施例
【0049】
ベースプレート10の鉛直面からなる基部13に対して、溶接条件(電圧、入熱量)を変更して高さ及び幅(高さ/幅)が異なる溶着ビードBを積層し、その形状評価を行った。なお、溶着ビードBの積層は、試験例1~5の5回行った。
【0050】
<溶接条件及び評価結果>
溶接条件、溶着ビードの形状及び評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
試験例1(高さ/幅=0.61)及び試験例2,3(高さ/幅=0.44)では、いずれも合格(表1における〇評価)であった。図6Aは、試験例1における溶着ビードBの形成状態を示す図である。図6Aに示すように、溶着ビードBは、基部13に対して垂れ落ちなく形成され、水平方向に均一に積層された。
【0053】
これに対して、試験例4(高さ/幅=0.29)及び試験例5(高さ/幅=0.28)では、いずれも不合格(表1における×評価)であった。図6Bは、試験例5における溶着ビードBの形成状態を示す図である。図6Bに示すように、溶着ビードBは、基部13からの垂れ落ちがあり、水平方向への積層状態が不均一となった。
【0054】
また、形成した溶着ビードBの高さと幅の比に対する溶着断面積の関係を図7に示す。図7に示すように、高さと幅の比(高さ/幅)を0.35以上とすることで、溶着断面積に関わらず、溶着ビードBを垂れ落ち等の不具合なく、しかも均等に水平方向へ形成することができ、特に、高さと幅の比(高さ/幅)を0.44以上とするのが好ましいことがわかった。つまり、溶着ビードBの高さと幅の比(高さ/幅)を0.35以上とすることで、基部13から側方へ積層造形物を造形する際の支持ビードBsとして好適にできることがわかった。
【0055】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0056】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを、基部に積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記基部に支持ビードを形成する支持ビード形成工程と、
前記支持ビードに溶着ビードを積層させる積層工程と、
を含み、
前記支持ビード形成工程において、前記支持ビードの高さHと幅Wとの比(H/W)を0.35以上とする、積層造形物の製造方法。
上記(1)の構成の積層造形物の製造方法によれば、基部に支持ビードを形成し、この支持ビードに溶着ビードを積層させて造形物を造形する。基部に支持ビードを形成する際に、支持ビードの高さと幅との比を0.35以上とする。これにより、支持ビードを、重力の影響を抑えて基部に対して垂れることなく形成することができる。したがって、この支持ビードに積層させる溶着ビードが重力の影響を受けて垂れるのを抑制でき、また、垂れを抑えるためにトーチの移動速度を速めることで生じるおそれがあるハンピングの発生を抑制できる。これにより、基部から側方へ張り出すオーバーハング形状の部分を有する積層造形物を、タクトタイムを抑えつつ高品質に製造できる。
【0057】
(2) 前記支持ビードを一方向に連結するように積層して支持層を造形する支持層造形工程を含み、
前記積層工程において、前記支持層上に、前記支持ビードよりも幅広な溶着ビードを形成する、(1)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(2)の構成の積層造形物の製造方法によれば、支持ビードを一方向に連結するように積層して支持層を形成し、この支持層の上部に、幅広な溶着ビードを形成して積層造形物を造形する。つまり、垂れ落ちなく形成された支持ビードによって支持層を造形し、この支持層に支持ビードよりも幅広の溶着ビードを積層させる。したがって、支持層上に形成する幅広の溶着ビードは、重力の影響によって垂れ落ちすることなく円滑に形成して積層させることができる。これにより、支持層の造形以降において幅広の溶着ビードを形成して形成パスを削減でき、生産効率を向上させることができる。
【0058】
(3) 前記支持層造形工程によって造形した支持層を、空洞部を形成する壁部とする、(2)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(3)の構成の積層造形物の製造方法によれば、支持ビードを一方向に連結するように積層させることで形成した支持層は、垂れ落ちなく形成されるので、例えば、流路等となる空洞部の天井などの壁の一部とすることで、安定した形状の空洞部を有する積層造形物を得ることができる。
【0059】
(4) 延伸方向を変えながら溶着ビードを積層することで湾曲した外枠部を形成する工程を含み、
前記外枠部に対して前記支持ビードの始端および終端を各々定めて前記外枠部の内側に前記支持ビードを積層し、前記支持層を形成する、(2)または(3)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(4)の構成の積層造形物の製造方法によれば、支持ビードの始端及び終端が外枠部に連結されるので、支持ビードの垂れをより抑えることができる。また、外枠部の内側に支持ビードを積層して支持層を形成することにより、各支持ビードの長さを短くでき、支持ビード1本当たりの垂れ量を抑えることができる。
【0060】
(5) 溶着ビードを積層して複数の独立した外枠部を形成する工程を含み、
前記複数の外枠部を接続するように前記支持層を形成する、(2)または(3)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(5)の構成の積層造形物の製造方法によれば、支持ビードの始端及び終端が制限されないため、各支持ビードの長さを長くすることができる。これにより、支持ビードを積層して支持層を形成する際の支持ビードのパス数を減らして効率よく造形することができる。
【0061】
(6) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードが、基部に積層された積層造形物であって、
前記基部に形成された支持ビードと、
前記支持ビードに積層された溶着ビードと、
を有し、
前記支持ビードは、高さHと幅Wとの比(H/W)が0.35以上である、積層造形物。
上記(6)の構成の積層造形物によれば、基部に支持ビードが形成され、この支持ビードに溶着ビードが積層されている。基部に形成された支持ビードは、高さと幅との比が0.35以上である。これにより、積層造形物を造形する際に、支持ビードを、重力の影響を抑えて基部に対して垂れることなく形成することができる。また、支持ビードに積層させる溶着ビードが重力の影響を受けて垂れるのを抑制でき、しかも、垂れを抑えるためにトーチの移動速度を速めることで生じるおそれがあるハンピングの発生を抑制できる。これにより、タクトタイムを抑えつつ造形された高品質なオーバーハング形状を有する積層造形物とすることができる。
【0062】
(7) 前記支持ビードが一方向に連結するように積層された支持層を有し、
前記支持層上に、前記支持ビードよりも幅広な溶着ビードが形成されている、(4)に記載の積層造形物。
上記(7)の構成の積層造形物によれば、支持ビードが一方向に連結するように積層された支持層の上部に、幅広な溶着ビードが形成されている。つまり、垂れ落ちなく形成された支持ビードによって支持層が造形され、この支持層に支持ビードよりも幅広の溶着ビードが積層されている。したがって、幅広の溶着ビードを、重力の影響によって垂れ落ちすることなく支持層上に円滑に形成して積層させることができる。これにより、支持層の造形以降において幅広の溶着ビードを形成して形成パスを削減でき、生産効率を向上させることができる。
【0063】
(8) 前記支持層が、空洞部を形成する壁部とされている、(5)に記載の積層造形物。
上記(8)の構成の積層造形物によれば、支持ビードが一方向に連結するように積層された支持層は、垂れ落ちなく形成されているので、例えば、流路等となる空洞部の天井などの壁の一部とすることで、安定した形状の空洞部を有する積層造形物とすることができる。
【0064】
(9) 延伸方向が変えられて積層された溶着ビードからなる湾曲された外枠部を有し、
前記外枠部の内側に、両端が前記外枠部の内面に連結されて積層された前記支持ビードからなる前記支持層が形成されている、(7)または(8)に記載の積層造形物。
上記(9)の構成の積層造形物によれば、支持ビードの両端が外枠部に連結されているので、支持ビードの垂れがより抑えられた積層造形物とすることができる。また、外枠部の内側に支持ビードが連結されて支持層が形成された構造であるので、製造する際には、各支持ビードの長さを短くでき、支持ビード1本当たりの垂れ量を抑えることができる。
【0065】
(10) 溶着ビードが積層された複数の独立した外枠部を有し、
前記複数の外枠部を接続するように前記支持層が形成されている、(7)または(8)に記載の積層造形物。
上記(10)の構成の積層造形物によれば、支持ビードの始端及び終端が制限されないため、各支持ビードの長さが長い積層造形物とすることができる。これにより、支持ビードを積層して支持層を形成する際の支持ビードのパス数を減らして効率よく造形することができる。
【符号の説明】
【0066】
13,43 基部
15,45 支持層
40 壁部(外枠部)
B,Bw 溶着ビード
Bs 支持ビード
H 支持ビードの高さ
M 溶加材
S 空洞部
W 支持ビードの幅
W1,W2 積層造形物
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7