(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20230808BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20230808BHJP
C09B 67/08 20060101ALI20230808BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20230808BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20230808BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C09D11/17
C09D11/18
C09B67/08 C
C09B67/20 F
C09B67/20 L
B43K7/01
B43K8/02
(21)【出願番号】P 2019106668
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-083688(JP,A)
【文献】特開2000-191974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00 - 13/00
B43K 1/00 - 1/12
B43K 5/00 - 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及びシナジストを少なくとも含む着色樹脂粒子を含有
し、かつ前記着色樹脂粒子の樹脂成分がウレタン系樹脂であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
シナジスト/顔料の質量比が0.01~0.2
であることを特徴する請求項1記載の筆記具用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を内包した着色樹脂粒子を含有する筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具用インクの色剤として、顔料を内包した樹脂粒子を用いることはこれまで数多くの試みがなされてきている。
従来において、この顔料を内包した着色樹脂粒子としては、例えば、筆記具用インク組成物の着色剤が、球状樹脂粒子と顔料との複合体粒子であるもの(例えば、特許文献1参照)、樹脂で被覆された顔料を含有する筆記具用インク組成物(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また、顔料を内包した着色樹脂粒子の製造方法としては、例えば、粗顔料又は粗顔料を乾式粉砕して得た粉砕粗顔料、カルボキシル基含有アクリル樹脂のアルカリ塩及び水及び/又は水性溶媒を混合する第1工程、該第1工程で得た混合物を機械的に分散させる第2工程、該第2工程で得た分散物に酸を加えて、顔料に樹脂を析出させる第3工程、及び該第3工程で得た析出物にアルカリを加えて再中和する第4工程から成る顔料組成物(着色樹脂粒子)の製造方法(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、このような顔料を内包した着色樹脂粒子から構成される色剤は、筆記具インク組成物中や、それを搭載した筆記具の使用中乃至保管中等で、しばしば顔料の脱落が発生することがあった。この脱落した顔料は、インク流路での詰まりを発生させたり、書き味が徐々に低下するなどの課題を生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-218778号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2003-268287号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開平9-217019号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、顔料の脱落が発生しにくい顔料を内包する着色樹脂粒子を含有することにより、インク流路での詰まりがなく、書き味も良好となる筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、顔料を内包する着色樹脂粒子中にシナジスト(顔料誘導体)を含有することで、上記目的の筆記具用用水性インク組成物等が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、顔料及びシナジストを少なくとも含む着色樹脂粒子を含有することを特徴とする。
前記シナジスト/顔料の質量比を0.01~0.2とすることが好ましい。
前記着色樹脂粒子の樹脂成分がウレタン系であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク流路での詰まりがなく、書き味も良好となる筆記具用水性インク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、顔料及びシナジストを少なくとも含む着色樹脂粒子を含有することを特徴とするものである。
【0011】
<顔料>
用いることができる顔料としては、その種類については特に制限はなく、筆記具用水性インク組成物等に慣用されている無機系及び有機系顔料の中から任意のものを使用することができる。
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラックや、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、群青などが挙げられる。
また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
これらの顔料の着色樹脂粒子中における含有量は、5~40質量%であることが好ましく、更に好ましくは、10~35質量%、特に好ましくは15~25質量%が望ましい。
この顔料の含有量が、5質量%未満であると、着色力が不足して、筆記描線の視認性が低下することがあり、一方、40質量%を超えると、顔料量が過多となり、色再現性が悪化することがある。
【0013】
<シナジスト>
本発明に用いるシナジスト(顔料誘導体)は、着色樹脂粒子の形成の際に顔料が樹脂粒子中に入りやすくするために、また、着色樹脂粒子中では顔料の脱落をしにくくするために用いるものであり、顔料と同様の構造をもつ誘導体であり、顔料と強い相互作用を有する化合物である。また、着色樹脂粒子の作製の際に、好ましく用いる後述の分散剤とも強い相互作用を有するものである。
着色樹脂粒子中に顔料及びシナジストを少なくとも含むことで、シナジストは顔料と同様の構造(共通の骨格)をもつため顔料表面に吸着すると共に、該シナジストは着色樹脂粒子の樹脂に吸着することになり、顔料が樹脂粒子中に入りやすくなり、また、脱落しにくくなる作用を有するものとなる。
このようなシナジストの相互作用は、ファンデルワールス力とされているが、色素骨格のフラットで広い面全体で作用するため強固で実用的な吸着が達成できるものと推測される。なお、通常シナジストは液体媒体中での顔料の分散補助剤として用いられているが、本発明では形成する着色樹脂粒子内に顔料と共に含有せしめることにより、初めて本発明の効果を発揮せしめるものである。
【0014】
用いることができるシナジストとしては、用いる顔料により最適のシナジストを用いることができ、顔料の色、具体的には、カーボンブラック、イエロー顔料用、アゾ顔料用、フタロシアニン顔料用のシナジストの市販品を用いることができ、該市販品としては、酸性官能基を有するものとして、ルーブリゾール社製のソルスパース5000(フタロシアニン顔料誘導体)、ソルスパース12000(フタロシアニン顔料誘導体)、ソルスパース22000(アゾ顔料誘導体)や、ビックケミー・ジャパン社製のBYK-SYNERGIST2100(フタロシアニン顔料誘導体)、BYK-SYNERGIST2105(イエロー顔料誘導体)や、BASFジャパン株式会社製のEFKA6745(フタロシアニン顔料誘導体)、EFKA6750(アゾ顔料誘導体)、分散材料研究所社製のSynergist Yello-8020,8404,9043,4827(イエロー顔料誘導体);Synergist Red-3953,4327,4474,4858,4966,5507,5525,5909,6006,6547(アゾ顔料誘導体);Synergist Blue-6831,7215,7438,7854,0785,0785A(フタロシアニン顔料誘導体);Synergist Violet-6965,7349,7572,7988(フタロシアニン顔料誘導体)等が挙げられ、これらは、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用しでもよい。
【0015】
これらのシナジストの着色樹脂粒子中における含有量は、用いる顔料種及びその使用量により変動するものであり、シナジストの含有効果、本発明の効果を好適に発揮せしめる点から、用いる顔料とシナジストは一定の配合割合となることが好ましく、シナジスト/顔料の質量比を0.01~0.2とすることが望ましく、更に好ましくは、0.05~0.15とすることが望ましい。このシナジスト/顔料の質量比が0.01未満であると着色樹脂粒子中での顔料の脱落をしにくくする作用が弱くなることがあり、一方、この質量比が0.2を超えると着色樹脂粒子中での顔料の凝集が生じ、書き味が悪くなることがある。
【0016】
<着色樹脂粒子>
本発明の着色樹脂粒子は、少なくとも、上述の顔料及びシナジストを内包したマイクロカプセル顔料から構成することができ、例えば、少なくとも上記顔料とシナジストとを含むものを、所定の粒子径となるように、マイクロカプセル化、具体的には、壁膜形成物質(壁材)から構成されるシェル層(殻体)に内包することにより製造することができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができる。
【0017】
好ましくは、作製のしやすさの点、品質の点から、マイクロカプセルを構成する樹脂成分(シェル成分)がエポキシ樹脂、ウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンなどの熱硬化型樹脂が好ましく、特に好ましくは、内包する成分量を多くすることが可能であること、また内包成分の種類の制限が少ない、再分散性に優れるという理由からウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンなどのウレタン系樹脂が好ましい。
このシェル層の形成に用いられるウレタン(ポリウレタン樹脂)、ウレア(ポリウレア樹脂)、ウレアウレタン(ポリウレア樹脂/ポリウレタン樹脂)は、イソシアネート成分とアミン成分またはアルコール成分などと反応して形成されるものである。また、シェル層の形成に用いられるエポキシ樹脂は、アミン成分などの硬化剤などと反応して形成されるものである。
【0018】
用いることができるイソシアネート成分としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートカプロン酸、テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチル-p-キシリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、イソシアネートアルキル2,6-ジイソシアネートカプロネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどが挙げられる。
また、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4-ビフェニル-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、トルエン-2,4,6-トリイソシアネート等のトリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等のテトライソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物等のイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。これらのイソシアネート成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。
【0019】
用いることができるアミン成分としては、具体的には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタンミン、イミノビスプロピルアミン、ジアミノエチルエーテル、1,4-ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-ヒドロキシトリメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、ジアミノプロパン、2-メチルペンタメチレンジアミン、キシレンジアミン等の脂肪族系アミン、m-フェニレンジアミン、トリアミノベンゼン、3,5-トリレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン、ジアミノナフタレン、t-ブチルトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノフェノール等が挙げられる。中でもフェニレンジアミン、ジアミノフェノール、トリアミノベンゼンなどの芳香族系アミンが好ましい。
【0020】
用いることができるアルコール成分としては、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどの水酸基を2つ以上有するポリオール等が挙げられる。これらのアルコール成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。またアルコール成分とアミン成分とを混合して用いても良い。
【0021】
これらのウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンによるウレタン系によるシェル層の形成としては、例えば、1)ウレタン、ウレア及びウレタンウレアのうち少なくとも1つのモノマー成分と、顔料成分を分散させて界面重合でシェル層を形成したり、あるいは、2)イソシアネート成分とを含む油状成分(油性相)を、水系溶媒(水性相)中に分散させて乳化液を調整する乳化工程と、乳化液にアミン成分及びアルコール成分のうち少なくとも1つを添加して界面重合を行う界面重合工程とを含む製造方法により形成することができる。
【0022】
上記2)の製造方法において、乳化液の調整に際しては、溶剤が用いることができる。例えば、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、酢酸エチル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、液状のキシレン樹脂等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
一方、上記油性相を乳化させるために使用する水性相には、予め保護コロイドを含有させてもよい。保護コロイドとしては、水溶性高分子が使用でき、公知のアニオン性高分子、ノニオン性高分子、両性高分子の中から適宜選択することができるが、ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびセルロース系高分子化合物を含ませるのが特に好ましい。
また、水性相には、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤の中から、上記保護コロイドと作用して沈殿や凝集を起こさないものを適宜選択して使用することができる。好ましい界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、スルホコハク酸ジオ
クチルナトリウム塩、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)等を挙げることができる。
上記のようにして作製された油性相を水性相に加え、機械力を用いて乳化した後、必要に応じて系の温度を上昇させることにより油性液滴界面で界面重合を起こし、粒子化することができる。また、同時あるいは界面重合反応終了後、脱溶媒を行うことができる。カプセル粒子は、界面重合反応および脱溶媒を行った後、粒子を水性相から分離、洗浄した後、乾燥することなどにより得られる。
【0023】
また、シェル層の形成に用いられるエポキシ樹脂は、アミン成分などの硬化剤などと反応して形成されるものであり、上記の各マイクロカプセル化法を用いて、例えば、界面重合法により形成することができる。
用いることができるエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂で、分子量、分子構造等に制限されることなく一般的に用いられているものを用いることができ、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂のようなビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の芳香族系エポキシ樹脂、ナフタレン型多官能型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、同グリシジルエステル型エポキシ樹脂、および、シクロヘキサンポリエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂のようなシクロヘキサン誘導体等のエポキシ化によって得られる脂環族系エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の脂環族系エポキシ樹脂が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0024】
本発明では、上記着色樹脂粒子の形成の際に、上記顔料、シナジストと共に、分散剤を用いることが好ましい。
用いることができる分散剤としては、例えば、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB711(いずれも、味の素ファインテクノ株式会社製)、ディスパロンDA-705、ディスパロンDA-325、ディスパロンDA-725、ディスパロンDA-703-50、ディスパロンDA-234(楠本化成株式会社製)DISPERBYK-111、DISPERBYK-2000、DISPERBYK-2001、DISPERBYK-2020、DISPERBYK-2050、DISPERBYK-2150(ビックケミー・ジャパン社製)、EFKA4010、EFKA4009、EFKA4015、EFKA4047、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060、EFKA4080、EFKA4520(BASFジャパン社製)、TEGO Dispers 655、TEGO Dispers 685、TEGO Dispers 690(エボニックジャパン社製)などが挙げられ、その他、分散剤として従来公知の一般に市販されているものを使用することもでき、上記例示に限定されるものではない。
これらの分散剤の着色樹脂粒子中における含有量は、用いる顔料、シナジストの種類等により変動するものであり、顔料とシナジストの相乗作用、本発明の効果を好適に発揮せしめる点から、2~20質量%であることが好ましく、更に好ましくは、3~15質量%が望ましい。
【0025】
本発明では、上記各形成手段でシェル層を形成することにより、少なくとも顔料と、シナジストを内包したマイクロカプセル顔料からなる着色樹脂粒子が得られるものである。
本発明において、少なくとも顔料、シナジストの含有量は、分散性、比重、粒子径を任意にコントロールとする点、発色性などから変動するものであるが、製造の際に用いる上記水相成分(水、PVA)、油相成分(溶剤)などは着色樹脂粒子とした場合には実質的に残存しないものとなるので、着色樹脂粒子の製造の際に用いる各原料(顔料、シナジスト、分散剤、樹脂成分など)を、上述の顔料、シナジスト、分散剤、樹脂成分(残部)を好適な範囲で調整して重合することなどにより、各成分が上記所定の好ましい範囲となる着色樹脂粒子が得られることとなる。
また、本発明において、上記顔料、シナジストを少なくとも内包したマイクロカプセル顔料から構成される着色樹脂粒子は、筆記具(ボールペン、マーキングペン)の用途により、所定の平均粒子径、例えば、平均粒子径0.1~30μmになるように調整することができ、好ましくは、0.5~20μmの範囲が上記各用途の実用性を満たすものとなる。
本発明(後述する実施例を含む)において、「平均粒子径」とは、レーザー回折法で測定される体積基準により算出された粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)の値である。ここで、レーザー回折法による平均粒子径の測定は、例えば、日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いて行うことができる。
【0026】
<筆記具用水性インク組成物>
本発明の筆記具用水性インク組成物には、少なくとも、上記構成の着色樹脂粒子、すなわち、顔料及びシナジストを少なくとも含む着色樹脂粒子を含有することを特徴とするものであり、例えば、水性のボールペン、マーキングペンなどの筆記具用インク組成物として使用に供される。
本発明において、上記特性の着色樹脂粒子の含有量は、筆記具用水性インク組成物中(全量)に対して、好ましくは、3~24質量%、更に好ましくは、10~20質量%とすることが望ましい。
この着色樹脂粒子の含有量が3質量%未満では、着色力が不足して、筆記描線の視認性が低下することとなり、一方、24質量%を超えると、粘度が高くなるため、インクの流動性が低下することがあるので好ましくない。
【0027】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性の着色樹脂粒子の他、少なくとも上記特性の着色樹脂粒子以外の汎用の着色剤、水溶性溶剤が含有される。
用いることができる着色剤としては、水溶性染料、本発明の効果を損なわない範囲で顔料、例えば、無機顔料、有機顔料、プラスチックピグメント、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる塩基性染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も適宜量使用できる。
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも本発明の効果を損なわない範囲で適宜量用いることができる。
【0028】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、筆記具用水性インク組成物全量中、5~40質量%とすることが望ましい。
【0029】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性の着色樹脂粒子、該着色樹脂粒子以外の着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0030】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
高分子分散剤としては、特に限定はなく、公知のものが用いられ、また、公知の材料・方法で得られるものを用いることができる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、チアゾリン系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる
【0032】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記特性の着色樹脂粒子、水溶性溶剤、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を調製することができる。
【0033】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
本発明におけるボールペンとしては、上記組成の筆記具用水性インク組成物をボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられ、例えば、該筆記具用水性インク組成物を、直径が0.18~2.0mmのボールを有するボールペンチップを備えた水性ボールペン体に充填することにより作製することができる。
なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0034】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0035】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物にあっては、用いる着色樹脂粒子中には、シナジストが含有されることで樹脂に対する顔料の親和性が高くなり、顔料の脱落が発生しにくくなり、インク流路での詰まりがなく、書き味も良好となる筆記具用用水性インク組成物及びそれを搭載した筆記具が得られることとなる。これにより、本発明の着色樹脂粒子は、筆記具用水性インク組成物に用いる色剤として好適に用いることができ、ボールペン用、マーキングペン用などの各配合成分を好適に組み合わせ、調製等することにより、目的の筆記具用水性インク組成物を得ることができる。
【実施例】
【0036】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。なお、下記製造例の「部」は「質量部」を意味する。
次に、用いる着色樹脂粒子の製造例1~8、筆記具用水性インク組成物の実施例1~4及び比較例1~4により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
また、製造例1~8で得た着色樹脂粒子などの平均粒子径(D50:μm)は、日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いて測定した。なお、下記製造例1~4の「部」は「質量部」を意味する。
【0037】
〔製造例1:着色樹脂粒子1〕
油相溶液として、エチレングリコールモノベンジルエーテル11.6部と分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部とを60℃に加温しながら、顔料(カーボンブラック、Cabot Mogul L、キャボット社製)2.0部と、シナジスト(フタロシアニン顔料誘導体、ソルスパース5000、ルーブリゾール社製)0.2部とを加えて十分分散させた。次いで、ここにプレポリマーとしてのキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(タケネート D110N、三井化学社製)9.0質量部を加えて、油相溶液を作製した。
水相溶液としては、蒸留水600質量部を60℃に加温しながら、ここに分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15質量部を溶解して、水相溶液を作製した。
60℃の水相溶液に油相溶液を投入し、ホモジナイザーで6時間撹拌することにより乳化混合して重合を完了した。
得られた分散体を遠心処理することで着色樹脂粒子を得た。この着色樹脂粒子の平均粒子径(D50)は、2.1μmであった。なお、水、溶剤、PVAは粒子成分として実質的に残存しないこととなる(以下の製造例も同様)。
【0038】
〔製造例2:着色樹脂粒子2〕
上記製造例1の顔料をPV Fast Blue L6472(クラリアントジャパン社製)2.0部に、分散剤をTEGO Dispers 685(エボニックジャパン社製)1.0部に、シナジストをフタロシアニン顔料誘導体(ソルスパース12000、ルーブリゾール社製)0.2部に代えて、上記製造例1と同様にして、着色樹脂粒子2を得た。
この着色樹脂粒子の平均粒子径(D50)は、2.7μmであった
【0039】
〔製造例3:着色樹脂粒子3〕
上記製造例1の顔料をYellow 4G-PT VP2669(クラリアントジャパン社製)2.5部に、分散剤をアジスパー821(味の素ファインテクノ社製)0.5部に、シナジストをアゾ顔料誘導体(EFKA6750、BASFジャパン社製)0.15部に代えて、上記製造例1と同様にして、着色樹脂粒子3を得た。
この着色樹脂粒子の平均粒子径(D50)は、3.2μmであった。
【0040】
〔製造例4:着色樹脂粒子4〕
上記製造例1の顔料をNovoperm Orange HL70(クラリアントジャパン社製)2.0部に、分散剤をEFKA PX4340(BASFジャパン社製)0.4部に、シナジストをイエロー顔料誘導体(BYK-SYNERGIST 2105、ビックケミー・ジャパン社製)0.14部に代えて、上記製造例1と同様にして、着色樹脂粒子4を得た。
この着色樹脂粒子の平均粒子径(D50)は、1.3μmであった。
【0041】
〔製造例5~8:着色樹脂粒子5~8〕
上記製造例1~4において、シナジスト抜きで(シナジストを除いて)、それぞれの製造例1~4と同様にして、着色樹脂粒子5~8を得た。この着色樹脂粒子5~8の平均粒子径(D50)は、順次、1.9μm、2.4m、3.4μm、1.5μmであった。
【0042】
〔実施例1~4及び比較例1~4〕
製造例1~8の各着色性樹脂粒子1~8を用いると共に、下記表1に示す配合組成などにより、常法により、各筆記具用水性インク組成物を調製した。
上記実施例1~4及び比較例1~4で得られた各筆記具用水性インク組成物について、下記方法により筆記具(水性ボールペンおよび水性マーキングペン)を作製して、下記評価方法にてインク消費量安定性、書き味について評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0043】
(水性ボールペンを作製;実施例1~3、比較例1~3)
上記で得られた実施例1~3、比較例1~3の各インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM-151〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容管とボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径0.38mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各インクを充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填し、遠心処理(500G、5分)にて脱泡し、水性ボールペン(各5本)を作製した。
【0044】
(水性マーキングペンを作製;実施例4、比較例4)
上記で得られた実施例4、比較例4のインク組成物を用いて水性マーキングペンを作製した。具体的には、筆記部としてプラスチックチップを有したマーキングペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:PEM-SY〕を使用し、内蔵したインク吸蔵体に上記各インクを充填し、水性マーキングペン(各5本)を作製した。
【0045】
<インク消費量安定性の評価方法;ボールペン>
下記筆記条件による機械筆記試験にて終筆まで螺旋筆記させ、下記評価基準にて評価した。筆記条件:100gf、筆記角度75度、筆記速度4.5m/min
評価基準:
A:インクが全て消費されるまで筆記することができ、インク消費量も安定していた。
B:インク消費量にバラツキが認められた。
C:著しいインク消費量の低下が認められた。
【0046】
<インク消費量安定性の評価方法;サインペン>
下記筆記条件による機械筆記試験にて終筆まで螺旋筆記させ、下記評価基準にて評価した。筆記条件:50gf、筆記角度65度、筆記速度4.2m/min
評価基準:
A:インクが全て消費されるまで筆記することができ、インク消費量も安定していた。
B:インク消費量にバラツキが認められた。
C:著しいインク消費量の低下が認められた。
【0047】
<書き味の評価方法;ボールペン>
下記筆記条件による機械筆記試験にて400m螺旋筆記させ、筆記前後の書き味の変化について下記評価基準にて評価した。筆記条件:100gf、筆記角度75度、筆記速度4.5m/min
評価基準:
A:書き味が変わらない。
B:やや書き味が低下した。
C:著しく書き味が低下した。
【0048】
<書き味の評価方法;マーキングペン>
下記筆記条件による機械筆記試験にて400m螺旋筆記させ、筆記前後の書き味の変化について下記評価基準にて評価した。筆記条件:50gf、筆記角度65度、筆記速度4.2m/min
評価基準:
A:書き味が変わらない。
B:やや書き味が低下した。
C:著しく書き味が低下した。
【0049】
【0050】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~4の筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~4に較べ、インク消費量安定性、書き味に優れる筆記具用水性インク組成物及びそれを搭載した筆記具(水性ボールペン、マーキングペン)となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
水性ボールペン、マーキングペンなどに好適な筆記具用水性インク組成物が得られる。