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  • 特許-膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/48 20060101AFI20230808BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230808BHJP
   C02F 3/12 20230101ALI20230808BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20230808BHJP
   D21H 15/10 20060101ALI20230808BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20230808BHJP
【FI】
B01D71/48
B01D69/10
C02F3/12 S
D21H13/24
D21H15/10
D04H1/435
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019174445
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021049501
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野上 由理
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034304(JP,A)
【文献】特開2010-194478(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0006301(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C02F 3/12
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、該半透膜用支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有し、バインダー繊維として結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有し、主体繊維として含まれる延伸ポリエステル繊維とバインダー繊維の含有比率が、質量基準で、50:50~80:20であり、結晶性の共重合ポリエステル繊維を鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維の配合率が全繊維に対して5質量%以上であり、示差走査熱量計による半透膜用支持体単位質量当たりの芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークにおけるエンタルピー変化ΔHが0.2J/g以上5J/g以下であることを特徴とする膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【請求項2】
該芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークの温度が70℃~110℃である請求項1に記載の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【請求項3】
該膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が、バインダー繊維として、未延伸バインダー繊維を含有する請求項1又は2に記載の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で、半透膜が広く用いられている。半透膜の分離機能層としては、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等の多孔質性樹脂で構成されている。しかし、これら多孔質性樹脂単体では機械的強度に劣るため、不織布や織布などの繊維基材からなる半透膜用支持体の片面に半透膜が設けられた複合体の形態である濾過膜が使用されている。半透膜用支持体において、半透膜が設けられる面を「塗布面」と称し、塗布面と反対の面を「非塗布面」と称す。
【0003】
これら半透膜や濾過膜の使用形態の一つに、膜分離活性汚泥処理法(Membrane Bioreactor、MBR)が挙げられる。膜分離活性汚泥処理法は、有機性汚水の処理に際し、処理水質が安定していることや、維持管理が容易なことから、広く普及している。膜分離活性汚泥処理法では、汚水中の夾雑物を除去した後、生物処理槽(曝気槽)で活性汚泥により汚水中の有機物質を分解除去し、生物処理槽に浸漬設置した浸漬型膜分離装置で混合液を固液分離し、透過した濾過液を処理水として放流する。こうした膜分離装置中の膜分離部は、使用中に砂のような無機物や汚泥、その他の固形物が激しく衝突したり、活性汚泥への酸素の供給や目詰まり防止のために行うエアレーション操作による気泡が膜面に激しく衝突したりするので、そのような衝撃にも十分に耐える強度を備えていることが要求される。
【0004】
加えて、濾過膜はモジュール化されて使用される。シート状の濾過膜における代表的なモジュールは、平膜型モジュールとスパイラル型モジュールである。管状の濾過膜における代表的なモジュールは、中空糸型モジュールや管型/チューブラー型モジュールである。平膜型モジュールでは、ポリプロピレンやアクリロニトリル(Acrylonitrile)・ブタジエン(Butadiene)・スチレン(Styrene)共重合合成樹脂(ABS樹脂)等の樹脂からなるフレーム材に、濾過膜を接着・固定して用いられる。フレーム材への接着・固定には加熱融着処理、超音波融着処理等が行われるのが一般的である。
【0005】
すべてのモジュールにおいて、使用中に膜表面が汚れた場合には、「逆洗(逆洗浄)」と呼ばれる膜表面を洗浄する処理が行われる。逆洗では、通常の通水方向の逆方向からアルカリ性の洗浄液や酸性の洗浄液を加圧しながら通水して洗浄される。そのため、半透膜用支持体には耐アルカリ性、耐酸性が必要であると共に、逆洗に耐えうるために半透膜用支持体と半透膜の界面の接着強度が高いことが必要となる。また、半透膜溶液の溶媒に対する耐溶剤性が必要となる。
【0006】
一般的な半透膜用支持体として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン繊維を含有する半透膜用支持体が挙げられる。例えば、ポリプロピレンを芯材、ポリエチレンを鞘材とした複合繊維を熱処理した半透膜用支持体(例えば、特許文献1参照)や、該オレフィン複合繊維とビニルアルコール等の湿熱接着性繊維から形成された半透膜用支持体(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。これら、オレフィン繊維を含有する半透膜用支持体は、引張強度が弱く、耐圧性が不足していた。
【0007】
また、管型/チューブラー型モジュールでは、管状基体やマンドレルを使用して、側縁部を相互に一部重ね合わせて、テープ状半透膜用支持体を螺旋状に巻き、重ね合わせた部分を加熱融着処理、超音波融着処理等によって融着して、管状半透膜用支持体を製造し、この管状半透膜用支持体の外部又は内部に半透膜が設けられた濾過膜を、複数本束ねてモジュール化している。テープ状半透膜用支持体を螺旋状に巻くため、重ね合わせた部分では、半透膜用支持体の塗布面と、塗布面の反対面である非塗布面とが融着されている。オレフィン繊維を含有する半透膜用支持体は融着しやすいため、半透膜用支持体の塗布面と非塗布面との接着強度に優れ、管状半透膜用支持体を製造しやすい。しかし、半透膜用支持体が重ね合って融着された部分が皮膜化するため、皮膜化された部分へ半透膜が食い込みにくくなり、半透膜と半透膜用支持体との接着性が不十分となって、半透膜が剥離する場合があった。
【0008】
別の一般的な半透膜用支持体として、延伸ポリエステル繊維とバインダーポリエステル繊維を含有する半透膜用支持体が挙げられる。例えば、延伸ポリエステル繊維と芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有する半透膜用支持体(例えば、特許文献3参照)、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維と鞘部の融点が125℃以上160℃以下である芯鞘型ポリエステル複合繊維とを含有する半透膜用支持体(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0009】
特許文献3で提案されている半透膜用支持体は、延伸ポリエステル繊維と芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有することによって、強度と地合が良くなるという効果を達成しているが、耐溶剤性、半透膜との接着強度については何ら検討されていなかった。
【0010】
特許文献4の半透膜用支持体では、鞘部の融点が125℃以上160℃以下である芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有することによって、十分な強度を保ちつつ、不織布の通気度を特定範囲にすることが可能となり、製膜時における幅の収縮及び皺の発生が抑制できるという効果を達成している。また、未延伸ポリエステル繊維を併用することによって、強度を向上させるという効果を達成している。しかし、本発明の発明者が検討したところ、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維と鞘部の融点が125℃以上160℃以下である芯鞘型ポリエステル複合繊維とを含有する半透膜用支持体において、耐溶剤性が不十分になる場合があった。
【0011】
また、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とガラス転移点が40~80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維とを含有することにより、フレーム材との接着強度及び半透膜用支持体の塗布面と非塗布面との接着強度に優れ、半透膜との接着強度にも優れる膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が開示されている(例えば、特許文献5、6及び7参照)。しかしながら、特許文献5、6及び7の半透膜用支持体では、半透膜用支持体上に半透膜を形成するための塗布液が塗布された際に、半透膜用支持体中の芯鞘型ポリエステル複合繊維が塗布液の溶剤により溶出し、半透膜用支持体の強度が低下する場合や、半透膜の塗布性が低下する場合があった。また、特許文献7の半透膜用支持体では、半透膜用支持体の坪量が100g/m以上であっても、芯鞘型ポリエステル複合繊維の配合率が高いために、半透膜用支持体の原紙である不織布を熱カレンダー加工する際に溶融した芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部が熱ロールに貼りつき、徐々に加熱した金属ロールを汚す場合があった。
【0012】
特許文献8では、ポリアクリロニトリル系合成繊維を10重量%以上含み、熱圧加工後の半透膜用支持体の嵩密度を、不織布を構成している繊維の加重平均密度に対して40~75%とすることによって、半透膜との接着強度にも優れ、均一な半透膜を形成できる半透膜用支持体が提案されている。特許文献9では、熱可塑性連続フィラメントから構成された長繊維不織布であり、部分的熱圧着により形成された高密度部分と、部分的熱圧着されていない低密度部分を含み、該高密度部分の繊維密度が0.6~1.0であって、該低密度部分の繊維密度が0.1~0.5であることによって、優れた性膜製及び機械的強度を有する半透膜用支持体が提案されている。しかしながら、特許文献8及び9の半透膜用支持体では、本発明の発明者が検討したところ、半透膜との接着強度が不十分になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2001-17842号公報
【文献】特開2012-250223号公報
【文献】特開2010-194478号公報
【文献】特開2013-220382号公報
【文献】特許第6038369号公報
【文献】特許第6038370号公報
【文献】特開2017-121606号公報
【文献】特許第4499852号公報
【文献】特開2011-5455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、耐溶剤性に優れ、半透膜用支持体上に半透膜を形成するための塗布液が塗布された際に半透膜用支持体と半透膜の接着強度が高く、熱カレンダー加工する際にロールが汚れにくい膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記発明を見出した。
【0016】
(1)膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、該半透膜用支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有し、バインダー繊維として結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有し、主体繊維として含まれる延伸ポリエステル繊維とバインダー繊維の含有比率が、質量基準で、50:50~80:20であり、結晶性の共重合ポリエステル繊維を鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維の配合率が全繊維に対して5質量%以上であり、示差走査熱量計(DSC)による半透膜用支持体単位質量当たりの芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークにおけるエンタルピー変化ΔHが0.2J/g以上5J/g以下であることを特徴とする膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【0017】
(2)該芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークの温度が70℃~110℃である上記(1)に記載の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【0018】
(3)該膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が、バインダー繊維として、未延伸バインダー繊維を含有する上記(1)又は(2)に記載の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体は、耐溶剤性に優れ、半透膜用支持体上に半透膜を形成するための塗布液が塗布された際に半透膜用支持体と半透膜の接着強度が高く、熱カレンダー加工する際にロールが汚れにくいという効果を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークにおけるエンタルピー変化ΔHを測定した際の、冷結晶化ピーク形状とピーク面積及びΔHを示した図である。
図2】半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークにおけるエンタルピー変化ΔHを測定した際の、冷結晶化ピーク形状とピーク面積及びΔHを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、濾過膜とは、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の片面である塗布面に、分離機能層の原料となる塗布液(半透膜液)が塗布され、水処理用の半透膜が形成され、半透膜用支持体の片面に半透膜が設けられた複合体の形態を有する。分離機能層の原料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)系、ポリスルホン(PS)系、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系、ポリエチレン(PE)系、酢酸セルロース(CA)系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ポリビニルアルコール(PVA)系、ポリイミド(PI)系等の種々の高分子材料が用いられる。特に、膜分離活性汚泥処理用半透膜では、PVC系、PVDF系が利用されるようになってきている。半透膜用支持体上に、原料となる高分子材料を溶かした溶液である塗布液を塗布し、ゲル化させて微多孔膜を形成させる。このように半透膜用支持体上に分離機能層を塗布形成する処理は「製膜」と称される。
【0022】
濾過膜はモジュール化されて使用される。管状の濾過膜における代表的なモジュールは、管型/チューブラー型モジュールである。シート状の濾過膜における代表的なモジュールは、平膜型モジュールとスパイラル型モジュールである。
【0023】
平膜型モジュールでは、半透膜用支持体における塗布面と反対の非塗布面をフレーム材接着面として、ポリプロピレンやアクリロニトリル(Acrylonitrile)・ブタジエン(Butadiene)・スチレン(Styrene)共重合合成樹脂(ABS樹脂)等の樹脂からなるフレーム材に、濾過膜を接着・固定して用いられる。フレーム材への接着・固定には加熱融着処理、超音波融着処理等が行われるのが一般的である。
【0024】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有し、バインダー繊維として結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有し、DSCによる半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔHが0.2J/g以上であることを特徴とする。本明細書では、「結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維」を「結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維」と称する場合がある。
【0025】
本発明に係わる結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部は、結晶性の共重合ポリエステルであり、半透膜溶液に用いるメチルエチルケトンやジメチルホルムアミド等の溶剤に浸漬しても、溶出し難く、半透膜用支持体の強度低下を招かない。また、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を含むことにより、不織布(原紙)の製造及びその後の熱カレンダー処理を終えた後でも、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の芯部が溶融せずに、繊維形状を維持し、空隙を確保することができることから、半透膜を塗布する際に半透膜が半透膜用支持体内部に浸透する。そして、半透膜用支持体と半透膜との接着強度に優れた半透膜用支持体を得ることが可能となる。
【0026】
ただし、本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体は、示差走査熱量計(DSC)による半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔHが0.2J/g以上であることを特徴とする。ΔHは0.25J/g以上であることがより好ましく、0.3J/g以上であることが更に好ましい。また、ΔHは5J/g以下であることが好ましく、4.5J/g以下であることがより好ましい。本発明の発明者が検討したところ、該半透膜用支持体が半透膜との優れた接着強度を発現するためには、半透膜用支持体製造過程で鞘部が溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維が一定量以上含有している必要があることを見出した。また、製造時に与えられた熱によって鞘部が溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の量を特定する手段として、DSCによる半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔHが有効であり、ΔHが0.2J/g以上の時に、該半透膜用支持体は半透膜との良好な接着性が発現することを見出した。結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部が溶融することによって、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が向上する理由は、明らかではないが、鞘部が溶融することにより、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の表面構造が変化し比表面積が増えることによって、半透膜のアンカー効果が向上したためと考えられる。ΔHが0.2J/g未満の場合、半透膜用支持体製造過程で鞘部が溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維が少なく、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する。ΔHが5J/gを超えると、熱カレンダー加工する際に鞘部が溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の量が過剰となり、ロールを汚してしまう場合がある。
【0027】
本発明において、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークの温度(冷結晶化温度)が70~110℃であることが好ましく、80~100℃がより好ましい。冷結晶化温度が70℃未満の場合、半透膜用支持体の原紙である不織布を熱カレンダー加工する際に溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部が熱ロールに貼りつきやすくなり、徐々に加熱した金属ロールを汚す場合がある。冷結晶化温度が110℃を超える場合、熱カレンダー加工する際の金属ロール温度や不織布に与える熱量が十分でなく、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が低下する場合がある。
【0028】
図1は、半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔHを測定した際の、冷結晶化ピーク形状とピーク面積及びΔHを示した図である。ΔHは1.30J/gであり、半透膜用支持体と半透膜との接着強度は、半透膜用支持体と半透膜の界面で剥離しないほど、非常に良好なレベルであった。
【0029】
図2は、半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔHを測定した際の、冷結晶化ピーク形状とピーク面積及びΔHを示した図である。ΔHは0.31J/gであり、半透膜用支持体と半透膜との接着強度は使用可能レベルであった。図1及び図2において、ΔHがマイナス値であるが、このマイナスは、発熱ピークであることを示している。
【0030】
本発明において、「結晶性」とは、繊維の温度を溶解状態の温度まで高めた後に、温度を下げていった場合、溶融状態では分子運動しながら絡み合っているが、温度をゆっくり下げていく(徐冷する)ことで分子運動がゆっくり収まりながら、結晶化温度にて部分的に整列し、結晶化する特性を有することをいう。また、繊維の温度を溶解状態の温度まで高めた後に、温度を速く下げていく(急冷する)と、繊維が結晶性を有していても結晶状態が少なくなり、非晶部分が多くなる。
【0031】
本発明において、「冷結晶化」とは、非晶部分を多く含む繊維の温度を高めていく過程で、ガラス転移温度を超えて分子が少し動けるようになり、非晶部分が結晶化し始める現象をいう。つまり、繊維中に含まれる非晶部分が多いほど、ΔHは高くなる。非晶部分は、繊維の温度を融解状態の温度を超えて高めた後に、急冷することで繊維内に多く含有することから、DSCによる半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHを測定することで、製造時に与えられた熱によって鞘部が溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の量を推定できる。
【0032】
結晶性の有無を確認する方法としては、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、半透膜用支持体(試料量:約12mg)を昇温速度10℃/分で、0℃から230℃まで昇温した後に、連続して冷却速度10℃/分で、0℃まで冷却し、結晶化による発熱ピークの有無を確認し、発熱ピークが観察された場合、結晶性であると判断する。
【0033】
半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHを測定する方法としては、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体(試料量:約12mg)を昇温速度10℃/分で、0℃から300℃まで昇温することで、冷結晶化ピークが確認でき、冷結晶化ピーク面積を実測の試料の質量で除して求められるΔH(J/g)の5回平均値である。
【0034】
本発明において、主体合成繊維とバインダー繊維の含有比率は、質量基準で、50:50~80:20であることが好ましく、55:45~75:25であることがより好ましく、60:40~70:30であることが更に好ましい。バインダー繊維の含有比率が20質量%未満の場合、繊維間の接着強度が不十分となり易く、半透膜用支持体の表面が毛羽立ち易くなり、半透膜の塗布性が損なわれる場合がある。一方、バインダー繊維の含有比率が50質量%を超えると、バインダー繊維の溶融によって半透膜用支持体の表面が皮膜化し易く、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する場合がある。
【0035】
本発明において、バインダー繊維として用いられる結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分を含有し、且つ、イソフタル酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、1,4-ブタンジオール成分、テトラエチレングリコール成分、ε-カプロラクトン成分及び脂肪族ラクトン成分の群から選ばれる少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルが挙げられる。
【0036】
本発明において、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の配合率は、全繊維に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であっても良い。結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の配合率が5質量%未満の場合、ΔHが0.2J/g未満となり易く、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が低下する場合がある。一方、50質量%を超えると、半透膜用支持体の表面が皮膜化し易く、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する場合や、ΔHが5J/gを超え易く、熱カレンダー加工する際にロールを汚してしまう場合がある。
【0037】
本発明において、バインダー繊維の一部として未延伸ポリエステル繊維を含有することが好ましい。結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維は、バインダー繊維として単独で使用すると、半透膜用支持体の原紙である不織布を熱カレンダー加工する際に溶融した結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部が熱ロールに貼りつきやすくなり、徐々に加熱した金属ロールを汚す場合がある。本発明では、バインダー繊維として未延伸ポリエステル繊維を併用することにより、熱カレンダー加工する際に金属ロールの汚れを抑制する効果があることを見出した。
【0038】
未延伸ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びそれを主体とした共重合体などのポリエステルを紡糸速度800~1,200m/分で紡糸した未延伸繊維が挙げられる。これらの未延伸ポリエステル繊維が熱カレンダー処理によって熱圧融着されることにより、強度の高い半透膜用支持体を得ることができる。
【0039】
未延伸ポリエステル繊維の配合率は、全繊維に対して0~30質量%であることが好ましく、より好ましくは0~25質量%である。30質量%を超えると、半透膜用支持体の表面が皮膜化しやすく、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する場合がある。
【0040】
本発明において、バインダー繊維の繊維径は2~30μmが好ましく、5~27μmがより好ましく、7~25μmが更に好ましい。繊維径が2μm未満のバインダー繊維を使用した場合には、半透膜用支持体の強度が不十分となる場合がある。一方、繊維径が30μmを超えるバインダー繊維を使用した場合には、抄紙の際の繊維分散が悪くなり、半透膜用支持体の地合が不均一となりやすく、半透膜の製膜性を損なう場合がある。
【0041】
本発明において、バインダー繊維の繊維長は、好ましくは1~15mmであり、より好ましくは3~12mmであり、更に好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の場合には、半透膜用支持体の強度が低下する場合があり、15mmを超える場合には、繊維分散性が低下しやすく、半透膜用支持体の地合が不均一となりやすく、半透膜の製膜性を損なう場合がある。
【0042】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有する。不織布がバインダー繊維を含有している場合、バインダー繊維の軟化点又は溶融温度(融点)以上まで温度を上げる工程を、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の製造方法に組み入れることで、バインダー繊維が膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の機械的強度を向上させる。この温度を上げる工程において、延伸ポリエステル繊維は軟化又は溶融せず、主体繊維として、半透膜用支持体の骨格を形成する。該延伸ポリエステル繊維としては、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであるポリエステルが挙げられるが、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。また、繊維の断面形状は円形が好ましい。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止や、塗布面平滑性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0043】
延伸ポリエステル繊維の繊維径は、2~30μmが好ましく、5~27μmがより好ましく、7~25μmが更に好ましい。繊維径が2μm未満の繊維を使用した場合には、半透膜用支持体の強度が不十分となる場合がある。一方、繊維径が30μmを超える繊維を使用した場合には、抄紙の際の繊維分散が悪くなり、半透膜用支持体の地合が不均一となりやすく、半透膜の製膜性を損なう場合がある。
【0044】
延伸ポリエステル繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~15mmであり、より好ましく3~12mmであり、更に好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の場合には、半透膜用支持体の強度が低下する場合があり、15mmを超える場合には、繊維分散性が低下しやすく、半透膜用支持体の地合が不均一となりやすく、半透膜の製膜性を損なう場合がある。
【0045】
本発明において、繊維径とは、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体断面の走査型電子顕微鏡観察により、不織布基材を形成する繊維の中から無作為に選んだ50本の繊維断面の面積を計測し、真円に換算した繊維の直径である。
【0046】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体においては、必要に応じて、前記した延伸ポリエステル繊維及びバインダー繊維以外の繊維を加えても良い。具体的には、合成繊維としては、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ベンゾエート、ポリクラール(polychlal)、フェノール系などの繊維が挙げられる。天然繊維としては、皮膜の少ない麻パルプ、コットンリンター、リント;再生繊維としては、リヨセル繊維、レーヨン、キュプラ;半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス(promix);無機繊維としては、アルミナ繊維、アルミナ・シリカ繊維、ロックウール、ガラス繊維、マイクロガラス繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナウィスカ、ホウ酸アルミウィスカなどの繊維が挙げられる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ、藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類や草本類を使用することもできる。また、上記の繊維は、通液性、通気性を阻害しない範囲であれば、フィブリル化されていてもなんら差し支えない。更に、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も使用することができる。また、断面形状がT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も含有できる。
【0047】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の坪量は、30~250g/mが好ましく、40~230g/mがより好ましく、50~200g/mが更に好ましい。30g/m未満の場合には、半透膜用支持体の強度が不十分となる場合がある。また、250g/mを超えた場合には、通液抵抗が高くなる場合や、半透膜用支持体の厚みが増して、規定量の半透膜を収納するには、モジュールを大型化する必要が発生する。
【0048】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の厚みは、50~300μmであることが好ましく、70~270μmであることがより好ましく、80~250μmであることが更に好ましい。厚みが300μmを超えると、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜のライフが短くなってしまうことがある。一方、厚みが50μm未満の場合には、十分な強度が得られない場合がある。
【0049】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体の密度は、0.30~1.00g/cmであることが好ましく、0.35~0.98g/cmがより好ましく、0.40~0.95g/cmが更に好ましい。密度が0.30g/cm未満の場合には、半透膜を半透膜用支持体上に設ける際に、塗布液の半透膜用支持体への染み込みが大きくなってしまい、半透膜の均一性を損なう場合がある。一方、密度が1.00g/cmよりも大きい場合には、半透膜用支持体の空隙が少なく、半透膜溶液の塗布時に浸透不足によって、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が低下する場合がある。
【0050】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体に係わる不織布は、乾式法、又は湿式抄造法により製造することができる。本発明では、湿式抄造法により形成された湿式不織布であることが好ましい。
【0051】
湿式抄造法では、まず、主体繊維とバインダー繊維を均一に水中に分散させ、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を通り、最終の繊維濃度を0.01~0.50質量%に調整されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0052】
抄紙機としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー等の抄紙網が単独で設置されている抄紙機、同種又は異種の2種以上の抄紙網がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機等を使用することができる。また、本発明の半透膜用支持体が2層以上の多層構造の場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する抄き合わせ法や、一方の層を形成した後に、該層上に繊維を分散したスラリーを流延して積層とする方法のいずれでも良い。繊維を分散したスラリーを流延する際に、先に形成した層は湿紙状態であっても、乾燥状態であってもいずれでも良い。また、2枚以上の層を熱融着させて、多層構造の不織布とすることもできる。
【0053】
本発明の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、不織布が多層構造である場合、各層の繊維配合が同一である多層構造であっても良く、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体内の厚さ方向での液体の浸透性を制御する目的で、各層の繊維配合が異なっている多層構造であっても良い。多層構造の場合、各層の坪量が下がることにより、スラリーの繊維濃度を下げることができるため、不織布の地合が良くなり、その結果、塗布面の平滑性や均一性が向上する。また、各層の地合が不均一であった場合でも、積層することで補填できる。更に、抄紙速度を上げることができ、操業性が向上する。
【0054】
抄紙網で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することにより、シート(原紙)を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることをいう。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、105~170℃がより好ましく、110~160℃が更に好ましい。圧力は、好ましくは5~100kN/m、より好ましくは10~80kN/mである。
【0055】
本発明において不織布(原紙)には、熱カレンダー処理(熱圧加工処理)が更に施されていることが好ましい。熱カレンダー処理においては、金属ロール-金属ロール、金属ロール-弾性(樹脂)ロール、金属ロール-コットンロール、金属ロール-シリコンロールなどのロール構成のカレンダーユニットを単独、又は組み合わせて用いることができる。カレンダーユニットの少なくとも一方の金属ロールが加熱される。本発明においては、不織布に充分な熱量を付与させることができて、強度の高い半透膜用支持体を得ることができるため、金属ロール-弾性ロールのカレンダーユニットを用いることが好ましい。
【0056】
熱カレンダー処理時の金属ロール温度は、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点に対して、好ましくは+10~+100℃であり、より好ましくは+20~+90℃である。金属ロールの温度が、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点に対して+10℃未満の場合、半透膜用支持体の強度が充分に得られない場合や、DSCによる半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHが0.2J/g未満となる場合があり、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が低下する場合がある。金属ロールの温度が、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点に対して+100℃を超えると、金属ロールが汚れやすくなる場合がある。
【0057】
熱カレンダー処理時のニップのニップ圧力は、好ましくは19~180kN/mであり、より好ましくは39~150kN/mである。19kN/m未満の場合、半透膜用支持体の強度が低下する場合や、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。180kN/mを超えた場合、半透膜用支持体の表面が皮膜化しやすく、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する場合がある。加工速度は、好ましくは5~150m/minであり、より好ましくは10~80m/minである。5m/min未満の場合、半透膜用支持体の表面が皮膜化しやすく、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が低下する場合がある。150m/minを超えた場合、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合や、DSCによる半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHが0.2J/g未満となる場合があり、半透膜用支持体と半透膜との接着強度が低下する場合がある。
【実施例
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は断りのない限り、すべて質量によるものである。
【0059】
≪主体繊維≫
<延伸PET繊維1>
ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径10μm、繊維長5mmの延伸ポリエステル繊維を延伸PET繊維1とした。
【0060】
≪バインダー繊維≫
<芯鞘PET繊維1>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が220℃、冷結晶化温度が115℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維1とした。
【0061】
<芯鞘PET繊維2>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が180℃、冷結晶化温度が98℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維2とした。
【0062】
<芯鞘PET繊維3>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が159℃、冷結晶化温度が84℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維3とした。
【0063】
<芯鞘PET繊維4>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が153℃、冷結晶化温度が89℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維4とした。
【0064】
<芯鞘PET繊維5>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が137℃、冷結晶化温度が67℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維5とした。
【0065】
<芯鞘PET繊維6>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、軟化温度が75℃である非晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径15μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維6とした。
【0066】
<芯鞘PET繊維7>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、融点が130℃であるポリエチレン(PE)を鞘部とする、繊維径13μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維7とした。
【0067】
<未延伸PET繊維1>
ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径11μm、繊維長5mmの未延伸ポリエステル繊維(融点:260℃)を未延伸PET繊維1とした。
【0068】
実施例1~12、比較例1~6の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を、以下の条件で製造した。
【0069】
(原紙の製造1)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す原料配合比率(%)で配合し、分散濃度0.2質量%で5分間分散して、傾斜/円網複合式抄紙機を用い、傾斜ワイヤー上で第二表面層の湿紙を形成し、円網ワイヤー上で第一表面層の湿紙を形成して、両湿紙を乾燥させる前に積層させた後に、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、表1に示す坪量を目標にして、幅1000mmの実施例1~10、比較例1~6の湿式不織布(原紙)を得た。
【0070】
(原紙の製造2)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す原料配合比率(%)で配合し、分散濃度0.2質量%で5分間分散して、円網式抄紙機を用い、湿式抄造法を用いて抄造し、130℃に設定されたヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、表1に示す坪量を目標にして、幅1000mmの実施例11の湿式不織布(原紙)を得た。
【0071】
(原紙の製造3)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す原料配合比率(%)で配合し、分散濃度0.2質量%で5分間分散して、傾斜ワイヤー式抄紙機を用い、湿式抄造法を用いて抄造し、130℃に設定されたヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、表1に示す坪量を目標にして、幅1000mmの実施例12の湿式不織布(原紙)を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
(熱カレンダー処理1)
得られた実施例1~9、比較例1~6の原紙に対して、表2に記載する条件で熱カレンダー処理を行い、実施例1~9、比較例1~6の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得た。なお、1回目の処理で傾斜層表面が金属ロール(JR)に当たり、2回目の処理で円網層表面が金属ロールに当たるように処理し、傾斜層を塗布面層、円網層を非塗布面層とした。
【0074】
(熱カレンダー処理2)
得られた実施例10の原紙に対して、表2に記載する条件で熱カレンダー処理を行い、実施例10の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得た。なお、1回目の処理で円網層表面が金属ロールに当たり、2回目の処理で傾斜層表面が金属ロールに当たるように処理し、円網層を塗布面層、傾斜層を非塗布面層とした。
【0075】
(熱カレンダー処理3)
得られた実施例11の原紙に対して、表2に記載する条件で熱カレンダー処理を行い、実施例11の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得た。なお、1回目の処理でワイヤー面表面が金属ロールに当たり、2回目の処理でフェルト面表面が金属ロールに当たるように処理し、ワイヤー面を塗布面層、フェルト面を非塗布面層とした。
【0076】
(熱カレンダー処理4)
得られた実施例12の原紙に対して、表2に記載する条件で熱カレンダー処理を行い、実施例12の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得た。なお、1回目の処理でフェルト面表面が金属ロールに当たり、2回目の処理でワイヤー面表面が金属ロールに当たるように処理し、フェルト面を塗布面層、ワイヤー面を非塗布面層とした。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例及び比較例で得られた半透膜用支持体に対して、以下の測定及び評価を行い、結果を表3に示した。
【0079】
測定1(密度)
JIS P8118:2014「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準じて、密度を測定した。単位は、g/cmである。
【0080】
測定2(ΔHの測定)
半透膜用支持体(試料の質量:約12mg)を示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)にセットし、昇温速度10℃/分で、0℃から300℃まで昇温した時の結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークのエンタルピー変化ΔH(J/g)を算出した。なお、ΔHは冷結晶化ピーク面積を試料の質量の実測値で除した値の5回平均値である。
【0081】
評価1(熱カレンダー処理時の金属ロール汚れ)
半透膜用支持体の熱カレンダー処理工程において、金属ロールの汚れの状態を以下の指標で評価した。実用上、使用可能なレベルは、「B」以上である。
【0082】
A:金属ロールに全く汚れは見られない。
B:金属ロール表面にうっすら転写汚れが見られるが、製造上問題なくロングラン操業できる。
C:金属ロール表面への酷い転写汚れや、半透膜用支持体の金属ロールへの貼り付きにより、ロングラン操業できない。
【0083】
評価2(半透膜用支持体の耐溶剤性)
半透膜用支持体を、N-メチル-2-ピロリドン(溶剤、純正化学社製、特級)に10秒間浸漬した後、純水にて洗浄し、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で24時間乾燥し、溶剤処理後の半透膜用支持体とした。溶剤処理前後の半透膜用支持体のMD方向(縦方向、流れ方向)及びCD方向(横方向、幅方向)について、卓上型材料試験機(商品名:STA-1150、(株)オリエンテック製)を用いて、つかみ間隔100mm、引張速度100mm/分の条件で半透膜用支持体が破断するまで上チャックを引き上げた時の最大荷重を測定し、MD方向とCD方向それぞれの最大荷重の合計を半透膜用支持体の強度として、耐溶剤性を以下の指標で評価した。
【0084】
(溶剤処理後の半透膜用支持体の強度/溶剤処理前の半透膜用支持体の強度)×100
【0085】
A:80%以上。
B:80%未満、70%以上。
C:70%未満。
【0086】
評価3(半透膜用支持体と半透膜との接着強度(膜接着強度))
【0087】
(1)半透膜液の調製
ポリビニリデンフルオライド(商品名:SOLEF(登録商標) 6010/0001、ソルベイ社製)をN-メチル-2-ピロリドン(純正化学社製、特級)に、80℃で加温しながら濃度16%になるように溶解後、温度設定25℃にて半日撹拌して、半透膜液を調製した。
【0088】
(2)濾過膜の作製
定速塗工装置(商品名:Automatic Film Applicator、安田精機社製)上に、台紙をセットし、セットした台紙の上に、塗布幅100mm×塗布長さ180mmとなるようにカットした半透膜用支持体を、塗布面を上にしてOPPテープ(3M社製、商品名:BK-24N)で留めた。半透膜液5~6gを、一定のクリアランスに調整できるベーカー式アプリケーター(安田精機社製、塗布幅100mm)を使用して、塗布量(乾燥質量)28±3g/mとなるように、塗布速度250mm/secにて塗布し、塗布開始後15秒後に20℃の水道水に浸漬して凝固した。3時間水洗した後、乾燥して濾過膜を作製した。
【0089】
(3)半透膜用支持体と半透膜の剥離強度測定
濾過膜作製1日後、幅25mm(塗布方向に対してクロス方向)×長さ100mm(塗布方向)に断裁して試料とする。断裁した半透膜用支持体の塗布面に幅25mm、長さ100mmに切った両面テープ(ニチバン社製、商品名:ナイスタック(登録商標)NW-25)を塗布面全面に貼り付け、半透膜用支持体とテープが貼られた半透膜の界面で長さ30mmのみを剥離して残りの長さ70mmは剥がさずに残して試料とする(この時に両面テープの剥離紙は剥がさずに残しておく)。
【0090】
卓上型材料試験機(商品名:STA-1150、オリエンテック社製)を用いて、試料の剥離した部分の半透膜用支持体と半透膜が貼り付いている両面テープ(剥離紙含む)をそれぞれチャックに固定して、つかみ長さ各25mm、引張速度100mm/分の条件で、未だ剥がしていない部分が剥離する時の荷重を60mm移動する間を連続で測定し、その間の平均荷重の2回平均値を半透膜用支持体と半透膜の接着強度として評価した。接着強度はN/25mmの単位であり、以下の評価基準で「半透膜用支持体と半透膜との接着強度」を評価した。
【0091】
A:2回とも、半透膜と半透膜用支持体との界面以外で剥離せず、両面テープ又は半透膜用支持体が破損した。非常に良好なレベル。
B:2回中1回のみ半透膜と半透膜用支持体との界面以外で剥離せず、両面テープ又は半透膜用支持体が破損し、半透膜と半透膜用支持体との界面以外で剥離した試料の接着強度が9N/25mm以上であった。良好なレベル。
C:2回とも、半透膜と半透膜用支持体との界面で剥離し、剥離した試料の接着強度の平均値が6N/25mm以上であった。使用可能なレベル。
D:2回とも、半透膜と半透膜用支持体との界面で剥離し、剥離した試料の接着強度の平均値が4N/25mm以上6N/25mm未満であった。使用可能なレベル。
E:2回とも、半透膜と半透膜用支持体との界面で剥離し、剥離した試料の接着強度の平均値が4N/25mm未満であった。実用不可レベル。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示す通り、実施例1~実施例12の膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有し、バインダー繊維として結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有し、示差走査熱量計による半透膜用支持体単位質量当たりの結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHが0.2J/g以上であることから、耐溶剤性に優れ、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が高かった。
【0094】
実施例1~12、比較例2~4の比較から、半透膜用支持体単位質量当たりの芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部のΔHが0.2J/g以上の実施例1~12の半透膜用支持体は、ΔHが0.2J/g未満の比較例2~4の半透膜用支持体よりも、半透膜との接着強度が高かった。また、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維が含まれない比較例1、比較例5及び比較例6では、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が不十分であった。
【0095】
実施例1、3及び4の比較から、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の冷結晶化ピークの温度(冷結晶化温度)が70℃以上である実施例1及び3の半透膜用支持体は、該冷結晶化温度が70℃未満である実施例4の半透膜用支持体よりも、金属ロールが汚れにくかった。また、実施例5及び6の比較から、該冷結晶化温度が110℃以下である実施例6の半透膜用支持体は、該冷結晶化温度が110℃超えである実施例5の半透膜用支持体と比較して、半透膜用支持体と半透膜の接着強度が優れていた。
【0096】
実施例2と実施例6の比較から、バインダー繊維として、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維と未延伸バインダー繊維を併用している実施例2の半透膜用支持体は、バインダー繊維として、結晶性芯鞘型ポリエステル複合繊維のみを使用している実施例6の半透膜用支持体よりも、金属ロールが汚れにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で利用可能である。
図1
図2