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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】運搬装置、運搬方法、及び、運搬構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/16 20060101AFI20230808BHJP
   E06C 1/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
E04G21/16
E06C1/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019228701
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021095788
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100203460
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】川村 裕一
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-021362(JP,A)
【文献】特開2002-046986(JP,A)
【文献】特開平10-088950(JP,A)
【文献】特開平10-152288(JP,A)
【文献】特開平11-159270(JP,A)
【文献】特開2001-322799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0098769(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/14-21/22
E06C1/00 - 9/14
E04B1/00
F24F1/60
B66D3/04
B66C1/00 - 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に仮設され且つ使用後に撤去可能な配置手段と共に用いられ、建物の壁面の所定位置まで運搬対象物を吊り上げて移動させるための運搬装置であって、
前記配置手段に取り付けられて使用され、前記建物の立地面から離間した上方において、前記壁面と対向して左右方向に延びる軌道を有するレール部と、
前記レール部に沿って移動可能な移動体と、
前記移動体に設けられ、前記運搬対象物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、
前記レール部の一端側に設けられ、前記運搬対象物が前記移動体に吊られた状態で前記移動体が前記レール部の前記配置手段よりも他端側に位置する場合に、前記配置手段を支点として前記一端側に下方に向けて力を付与可能な維持手段と、を備える運搬装置。
【請求項2】
前記レール部は、前記支点からの前記一端側の長さと、前記支点からの前記他端側の長さが等しく、
前記維持手段は、前記運搬対象物の重量以上の力を付与可能である、請求項1に記載の運搬装置。
【請求項3】
前記維持手段は、前記運搬対象物の重量以上の重量を有する錘を備える、請求項1又は2に記載の運搬装置。
【請求項4】
前記維持手段は、一端が前記レール部の一端側に取り付けられ、他端が前記錘に取り付けられるラッシングベルトを備える、請求項3に記載の運搬装置。
【請求項5】
前記レール部は、前記移動体の前記支点よりも前記一端側への移動を抑制する抑制手段を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の運搬装置。
【請求項6】
前記移動体は、前記レール部に沿った移動を抑制可能なブレーキ手段を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の運搬装置。
【請求項7】
前記配置手段は梯子である、請求項1~6のいずれか1項に記載の運搬装置。
【請求項8】
前記レール部は、前記梯子の踏ざんに取り付け可能なベース台を有する、請求項7に記載の運搬装置
【請求項9】
前記吊り上げ手段は滑車を備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の運搬装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の運搬装置を用いて運搬対象物を所定位置に運搬する運搬方法であって、
前記配置手段に前記運搬装置を取り付け、前記所定位置の上方に前記レール部の前記他端側を位置させるステップと、
前記移動体を前記配置手段と対向させ、前記吊り上げ手段により前記運搬対象物を上方へ吊り上げるステップと、
前記移動体を前記レール部に沿って移動させ、前記運搬対象物を前記所定位置上に運搬するステップと、を実行する、運搬方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の運搬装置を用いて運搬対象物を所定位置に運搬する運搬方法であって、
前記配置手段に前記運搬装置を取り付け、前記所定位置の上方に前記レール部の中間部を位置させるステップと、
前記レール部の前記他端側に前記移動体が位置した状態で、前記吊り上げ手段により前記運搬対象物を上方へ吊り上げるステップと、
前記移動体を前記レール部に沿って移動させ、前記運搬対象物を前記所定位置上に運搬するステップと、を実行する、運搬方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の運搬装置と、
使用時に仮設され且つ使用後に撤去可能な配置手段と、
運搬対象物と、を備え、
前記配置手段に前記レール部が取り付けられ、建物の立地面から離間した上方に位置しており、
前記吊り上げ手段により前記運搬対象物が吊り上げられている、運搬構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時に仮設され且つ使用後に撤去可能な梯子等の配置手段と共に用いられ、建物の壁面の据付位置まで運ばれたり、建物内に運び込まれたりする運搬対象物を吊り上げるための運搬装置、その運搬装置と配置手段とを用いる運搬方法、及び、その運搬装置と配置手段とを備える運搬構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁面の所定位置まで運搬対象物を運搬する場合、運搬対象物が重いほど、運搬が困難である。この課題を解決するものとして、特許文献1に記載の運搬装置がある。特許文献1に記載の運搬装置では所定位置の正面に運搬装置を配置し、上方の所定位置まで運搬対象物を運搬可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-21362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の運搬装置では、所定位置まで運搬することはできるものの、運搬装置が所定位置の正面からずれた位置に配置された場合には、所定位置まで運搬対象物を運搬することは困難である。また、所定位置が建物の壁面から出っ張った位置である場合、その出っ張った位置よりも上方に運搬対象物を運搬することは困難である。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、建物の壁面の所定位置まで運搬対象物を吊り上げて移動させるうえで、利便性を向上させた運搬装置を提供することにある。
【0006】
第1の構成は、使用時に仮設され且つ使用後に撤去可能な配置手段と共に用いられ、建物の壁面の所定位置まで運搬対象物を吊り上げて移動させるための運搬装置であって、配置手段に取り付けられて使用され、建物の立地面から離間した上方において、壁面と対向して左右方向に延びる軌道を有するレール部と、レール部に沿って移動可能な移動体と、移動体に設けられ、運搬対象物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、レール部の一端側に設けられ、運搬対象物が移動体に吊られた状態で移動体がレール部の配置手段よりも他端側に位置する場合に、配置手段を支点として一端側に下方に向けて力を付与可能な維持手段と、を備える。
【0007】
第1の構成では、維持手段が一端側に下方へ向けて力を付与可能であるため、移動体を支点近傍に配置した状態で運搬対象物を吊り上げ、他端側へ移動させる場合、及び、移動体を他端側に配置した状態で運搬対象物を吊り上げ、支点近傍に移動させる場合のいずれの場合でも、維持手段が付与した力により、レール部の傾きを抑制することができる。したがって、運搬対象物を吊り上げた後で左右方向への移動が可能となり、運搬対象物の運搬時の作業効率を向上させることができる。
【0008】
第2の構成は、第1の構成に加えて、レール部は、支点からの一端側の長さと、支点からの他端側の長さが等しく、維持手段は、運搬対象物の重量以上の力を付与可能である。
【0009】
レール部の支点よりも一端側の長さを他端側の長さよりも長くした場合、維持手段が付与する力を運搬対象物の重量よりも小さくすることができるが、移動体を移動させることが可能な距離が短くなる。一方、レール部の支点よりも他端側の長さを一端側の長さよりも長くした場合、移動体を移動させることが可能な距離が大きくなるものの、維持手段がより大きな力を付与する必要が生ずる。第2の構成では、レール部の支点からの一端側の長さと他端側の長さとを等しくしているため、維持手段が付与することが必要な力を過剰に大きくすることなく、移動体を移動させることが可能な距離を得ることができる。
【0010】
第3の構成は、第1又は第2の構成に加えて、維持手段は、運搬対象物の重量以上の重量を有する錘を備える。
【0011】
第3の構成では、下方へ向けて力を付与可能な装置等を用意することなく維持手段の機能を得ることができるため、構成を簡素化することができる。
【0012】
第4の構成は、第3の構成に加えて、維持手段は、一端がレール部の一端側に取り付けられ、他端が錘に取り付けられるラッシングベルトを備える。
【0013】
レール部と錘とを接続するうえで、運搬対象物の荷重が掛かっていない場合に錘の荷重がレール部に掛かれば、レール部が傾くおそれがある。一方、レール部が水平な状態を維持した状態でレール部と錘とを接続する部材が撓んでいた場合、運搬対象物を吊り上げれば、その接続する部材にテンションが掛かるまでにレール部が傾くおそれがある。この点、第4の構成では、長さを調節可能なラッシングベルトを用いてレール部の一端側と錘とを繋いでいるため、運搬対象物を吊り上げていない状態でラッシングベルトを撓まず且つテンションが掛かっていない状態とすることができ、レール部の傾きを抑制することができる。
【0014】
第5の構成は、第1~第4のいずれかの構成に加えて、レール部は、移動体の支点よりも一端側への移動を抑制する抑制手段を備える
【0015】
移動体がレール部に沿って移動する場合に、支点よりも一端側へと移動した場合、その一端側には維持手段により下方への荷重に加えて、運搬対象物による下方への荷重も印加され、レール部が大きく傾くおそれがある。この点、第5の構成ではレール部に抑制手段が設けられているため、移動体の一端側への移動によるレール部の傾きを抑制することができる。
【0016】
第6の構成は、第1~第5のいずれかの構成に加えて、移動体は、レール部に沿った移動を抑制可能なブレーキ手段を備える。
【0017】
第6の構成では、吊り上げ手段により運搬対象物を上下方向へ移動させている場合等において、移動体の左右方向への移動を抑制することができ、運搬対象物の吊り上げ動作を安定させることができる。
【0018】
第7の構成は、第1~第6のいずれかの構成に加えて、配置手段は梯子である。
【0019】
梯子は壁面に立て掛ける角度が調節可能であるため、第7の構成では、配置手段として梯子を採用することで、運搬装置を取り付ける位置を所定位置に合わせて調節しやすくすることができる。
【0020】
第8の構成は、第7の構成に加えて、レール部は、梯子の踏ざんに取り付け可能なベース台を有する
【0021】
梯子は、一般的には支柱が平行に設けられており踏ざんの間隔も一定であるため、第8の構成ではレール部を取り付ける高さをより調節しやすくすることができる。
【0022】
第9の構成は、第1~第8のいずれかの構成に加えて、引き上げ手段は滑車を備える。
【0023】
第9の構成では、運搬対象物の重量が重い場合でも、人力で運搬対象物を吊り上げることができる。
【0024】
第10の構成は、第1~第9のいずれかの構成の運搬装置を用いて運搬対象物を所定位置に運搬する運搬方法であって、前記配置手段に前記運搬装置を取り付け、所定位置の上方にレール部の他端側を位置させるステップと、移動体を配置手段と対向させ、吊り上げ手段により運搬対象物を上方へ吊り上げるステップと、移動体をレール部に沿って移動させ、運搬対象物を所定位置上に運搬するステップと、を実行する。
【0025】
第10の構成では、所定位置の脇に配置した配置手段の位置から運搬対象物を他端側へ移動させたとしても、維持手段によりレール部の一端側に付与される力により運搬対象物の重量が相殺されるため、レール部が傾くことなく運搬対象物を所定位置まで移動させることができる。
【0026】
第11の構成は、第1~第9のいずれかの構成の運搬装置を用いて運搬対象物を所定位置に運搬する運搬方法であって、前記配置手段に前記運搬装置を取り付け、前記所定位置の上方に前記レール部の中間部を位置させるステップと、レール部の他端側に移動体が位置した状態で、吊り上げ手段により運搬対象物を上方へ吊り上げるステップと、移動体をレール部に沿って移動させ、運搬対象物を所定位置上に運搬するステップと、を実行する。
【0027】
第11の構成では運搬対象物を吊り上げたとしても、維持手段によりレール部の一端側に付与される力により運搬対象物の重量が相殺されるため、レール部が傾くことなく運搬対象物を吊り上げることができる。加えて、一端側へ掛かる荷重が不足している状況等に、運搬対象物を吊り上げようとした場合又は若干吊り上げた場合に、運搬装置及び配置手段は、運搬対象物側(他端側)に傾くことになる。したがって、運搬対象物を据付位置よりも上方に位置させる前に、一端側に十分な荷重が掛かる状態に修正することができる。
【0028】
第12の構成は、第1~第9のいずれか構成の運搬装置と、使用時に仮設され且つ使用後に撤去可能な配置手段と、運搬対象物と、を備える運搬構造であって、配置手段にレール部が取り付けられ、建物の立地面から離間した上方に位置しており、吊り上げ手段により運搬対象物が吊り上げられている。
【0029】
第12の構成により、運搬装置と配置手段とを用いて運搬対象物を運搬する運搬構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】運搬装置を備える運搬構造全体を示す斜視図である。
図2】運搬装置の斜視図である。
図3】ベース台の斜視図である。
図4】ベース台の正面図である。
図5】ベース台の左側面図である。
図6】移動体の正面図である。
図7】移動体の左側面図である。
図8】レール部にベース台及び移動体と取り付けた状態を示す正面図である。
図9】運搬装置の使用方法を示す図である。
図10】第2実施形態に係る運搬装置の使用方法を示す図である。
図11】第2実施形態に係る運搬装置の使用方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本実施形態に係る運搬装置10の全体の構成について、図1を参照して説明する。本実施形態に係る運搬装置10は、運搬対象物100を建物の壁面200の所定位置、具体的には運搬対象物100を据え付ける位置である据付位置201まで運搬する際に、梯子300と共に使用されるものである。運搬対象物100は、形状や材質、重量等について特に制限は無いが、一例を挙げるとすれば、建物200の壁面の据付位置201に据え付けられる、空調設備用の室外機が挙げられる。梯子300は、例えばアルミニウムで形成されており、互いに平行に設けられた一対の支柱301と、その支柱301間を繋ぐ、上下方向に等間隔で設けられた複数の踏ざん302とにより構成されている。なお、以下の運搬装置10の説明において、図1のように建物の壁面200と対向するようにして用いられる場合に建物と対向する側を背面とし、その反対側の梯子100と対向する側を正面と称し、正面から背面へと向かう方向及びその逆方向を、前後方向と称する。また、以下の説明において特に断りの無い限りは、各構成要素は、アルミニウムやステンレス等の金属、又は、硬質の樹脂で形成されている。
【0032】
運搬装置10は、図2及び図8に示すように、レール部20を備えている。このレール部20は、左右方向の断面形状が略一定であり、上下対象且つ前後対称の形状の長尺状である。レール部20は上下方向に間隔を空けて設けられた対称な形状の上部21及び下部22を備えている。上部21及び下部22は、前後方向及び上下方向に所定の幅を有している。この上部21と下部22とは、前後方向に一定の厚みを有する板状の中間部23により繋がれている。
【0033】
レール部20の下部22の右端側には、下方へ向けて突出する円環状の右端連結部24が取り付けられている。レール部20の左端側には、側面視にて上方から下方へ向けて凹んだ凹形状であり、上方から嵌まり込んだレール部20の下部22を前後方向で挟持し且つ、中間部23の一部の前後方向を遮蔽する左端規制部25が固定されて取り付けられている。
【0034】
レール部20には、図8に示すように、梯子300に取り付け可能なベース台30が設けられている。このベース台30は、図3~5に示すように、レール部20に取り付けられる基部31を備えている。この基部31は左右対称な形状であり、レール部20の上部21の左右方向の中央に設けられた開口(図示略)に対して、ボルト32及びナット(図示略)により固定されている。基部31の左右の両端には、それぞれ、上側挟持部33が設けられている。この上側挟持部33は、下端側は直線状の円筒形状であり、上端側は半円弧状に湾曲した筒状であり、下端が開口している。上側挟持部33の下端から円弧状の部分の内周面までの長さは、取り付けが想定される梯子300の踏ざん302の間隔よりも小さい。また上側挟持部33どうしの間隔は、取り付けが想定される梯子300の支柱301の間隔と略等しい。
【0035】
上側挟持部33の下端の開口には、上端側は直線状であり、下端側は半円弧状に湾曲した筒状である下側挟持部34が挿入されている。下側挟持部34の外径は、上側挟持部33の内径よりも若干小さくなっている。下側挟持部34が上側挟持部33の下端から挿入された状態で、上側挟持部33の側面に設けられた開口(図示せず)にネジ35が挿入され、そのネジ35の先端が下側挟持部34の外周面に当接することで、下側挟持部34が固定される。
【0036】
レール部20には、図2及び図8に示すように、レール部20に沿って左右方向に移動可能な移動体40が取り付けられている。移動体40は、図6及び図7に示すように、後述する各部材を取り付け可能な基部41を備えている。この基部41には、前後方向で対向する一対の走行車輪42が、左右方向に間隔を開けて2対、前後方向に延びる軸回りに回転可能に取り付けられている。この走行車輪42の外径は、レール部20の上部21の下端面と、下部22の上端面との間隔と略等しく、前後方向で対向する走行車輪42の間隔は、レール部20の中間部23の厚みよりも大きい。
【0037】
基部41の下方には、さらに、前後方向で対向する一対の補助車輪43が、左右方向に間隔を開けて2対、上下方向に延びる軸回りに回転可能に取り付けられている。この補助車輪43の上下方向の位置は、走行車輪42がレール部20の上部21と下部22との間に位置した場合に、下部22を前後方向で挟持可能な位置であり、この補助車輪43どうしの間隔は、レール部20の下部22の前後幅と略等しい。移動体40がこのようにして走行車輪42及び補助車輪43を備えており、レール部20に沿って左右方向(水平方向)に走行可能であるため、レール部20は移動体40が移動可能な左右方向(水平方向)に延びる軌道を備えているということができる
【0038】
基部41の下端には、円環状の連結部44が取り付けられている。この連結部44には、滑車45の上側に設けられたフック46が取り付けられることで、その滑車45が吊り下げられる。また、滑車45の下側にもフック47が設けられている。この滑車45は取り付けられているワイヤーやチェーン等の操作手段(図示略)を操作することで、下側のフック47に取り付けられた物体を上下方向へ移動させることができる。このとき、下側のフック47のみが上下方向に移動するものであってもよいし、滑車45と共に下側のフック47が上下方向へ移動するものであってもよい。
【0039】
レール部20における移動体40の右側方には、図8に示すように、側面視にて上方から下方へ向けて凹んだ凹形状であり、上方から嵌まり込んだレール部20の下部22を前後方向で挟持し且つ、中間部23の一部の前後方向を遮蔽する右側規制部51が取り付けられている。この右側規制部51は、ネジ52によりレール部20に対して取り付けられている。一方、レール部20における移動体40の左側方には、右側規制部51と略同形状の左側規制部53が取り付けられている。この左側規制部53は、右側規制部51と同様に、ネジ54によりレール部20に対して取り付けられている。
【0040】
これら右側規制部51及び左側規制部53は、ネジ52,54を緩めることにより、レール部20に沿って左右方向に移動可能である。すなわち、右側規制部51及び左側規制部53の一方のネジ52,54を緩めれば、移動体40は、レール部20に沿って一方向にのみ移動可能となる。また、右側規制部51及び左側規制部53はネジ52,54を緩めてレール部の端部まで移動させることにより、レール部20から取り外すことができる。
【0041】
以上説明した運搬装置10を用いて運搬対象物100を吊り上げ、建物の壁面200の据付位置201まで運搬する方法について、図1及び図9を参照して説明する。まず、梯子300に運搬装置10を取り付ける。具体的には、上下方向で隣接する一対の踏ざん302を、ベース台30の上側挟持部33及び下側挟持部34を利用し上下方向で挟持して固定する。このとき、梯子300が建物の壁面200に立て掛けられた場合に、運搬装置10により吊り上げられた運搬対象物100の下端が据付位置201の上端よりも上方に位置するように、運搬装置10が取り付けられる踏ざん302が選択される。一方、梯子300を建物の壁面200に立て掛けた後に、運搬装置10を梯子300の上方まで運び、運搬装置10を踏ざん302に取り付けることもできる。なお、梯子300は運搬装置10の配置に用いられるため、配置手段と称することができる。
【0042】
続いて、レール部20の右端側に設けられた右端連結部24にラッシングベルト60を取り付け、梯子300を建物の壁面200の据付位置201から左右方向にずれた位置に立て掛ける。このラッシングベルト60は繊維で形成され伸縮性を有しておらず、中間に設けられた金具を操作することにより、長さを調節することができる。ラッシングベルト60の下端には、錘70が取り付けられる。錘70の重量は、運搬対象物100重量に移動体40や滑車45等の重量を加えたものよりも重ければよい。さらに、それらを合計したものよりも一定程度重いものとすれば、風等により運搬対象物100が揺れた場合において安定性を向上させることができるし、さらに運搬を補助する人の体重を加えたものよりも重くすれば、運搬対象物100に人の体重が載った場合における安定性を向上させることができる。
【0043】
この錘70としては、例えば、土嚢等の運搬可能な重量物や、車両等の自走可能な重量物を利用することができる。また、建物や柵等の建造物を錘70として用いてもよく、壁面200の据付位置200よりも下方にベランダ等のような突出した部分が設けられていれば、その部分にラッシングベルトを取り付け、壁面200の質量を錘70としてもよい。さらに、地面に対してアンカー等を打ち込み、地面すなわち地球の質量を錘として用いてもよい。また、ラッシングベルト60の長さは、錘70が接地した状態で撓みなく延びるように調節されており、且つ、運搬装置10に対して、概ねラッシングベルト60の自重のみが印加される状態となっている。
【0044】
続いて、繊維で形成され伸縮性を有さないベルト71を運搬対象物100に巻き付け、そのベルト71を滑車45の下側のフック47に取り付ける。この状態で、滑車45を操作して、図9に示すように、運搬対象物100を吊り上げる。運搬対象物100の下端が据付位置201の上端よりも上方に位置する状態となれば、左側規制部53の移動を規制しているネジ54を緩め、移動体40を左方向へと移動させる。左側規制部53については、レール部20から取り外してもよく、具体的には、ネジ54を緩めてレール部20の左端から離脱させるものであってもよいし、ネジ54を緩めてレール部20の下方から離脱させるものであってもよい。このとき、右側規制部51の移動を規制しているネジ52は緩めず、移動体40の右側への移動が規制されている状態を維持する。運搬対象物100が左方向へ移動すれば、その移動に伴いレール部20の左側に下方への荷重が印加され、その荷重と釣り合う荷重がレール部20の右端に印加されるように、ラッシングベルト60にテンションが掛かる。
【0045】
なお、滑車45は運搬対象物100の吊り上げに用いられるため吊り上げ手段と称することができ、ラッシングベルト60及び錘70によりレール部20の水平状態が維持されるため、これらを纏めて維持手段と称することができる。加えて、右側規制部51は常に移動体40の移動を抑制することから抑制手段と称することができ、左側規制部53は移動体の移動を一時的に抑制することからブレーキ手段と称することができる。
【0046】
図1に示すように、運搬対象物100が据付位置201の上方に位置するまで移動体40を移動させた後、滑車45を操作し、運搬対象物100を下降させ、据付位置201に設置させる。このとき、運搬対象物100による下方への荷重がレール部20の左端側に掛からなくなり、それに伴い、レール部20の右端側に係る荷重も掛からなくなり、ラッシングベルト60のテンションが抜ける。そして、運搬対象物100に巻き付けられているベルト71を滑車45の下側のフック47から外すことで、運搬対象物100の据付位置201への運搬が終了する。
【0047】
上記構成により、本実施形態に係る運搬装置10、運搬方法、及び、運搬構造は、以下の効果を有する。
【0048】
・レール部20の右端(一端側)に下方へ向けて力を付与可能であるため、移動体40を支点近傍に配置した状態で運搬対象物100を吊り上げ他端側へ移動させる場合に、レール部20の傾きを抑制することができる。したがって、運搬対象物100を吊り上げた後に左右方向への移動が可能となり、運搬対象物100の運搬時の作業効率を向上させることができる。
【0049】
・レール部20の支点よりも右側(一端側)の長さを左側(他端側)の長さよりも長くした場合、錘70の重量を運搬対象物100の重量よりも軽くすることができるが、移動体40を移動させることが可能な距離が短くなる。一方、レール部20の支点よりも左側(他端側)の長さを右側(一端側)の長さよりも長くした場合、移動体40を移動させることが可能な距離が大きくなるものの、錘70の重さをより重くする必要が生ずる。この点、本実施形態では、レール部20の支点からの右側(一端側)の長さと左側(他端側)の長さとを等しくしているため、錘70の重さを過剰に重くすることなく、移動体40を移動させることが可能な距離を得ることができる。
【0050】
・レール部20の右側に下方への力を付与する維持手段としてラッシングベルト60と錘70とを用いているため、下方へ向けて力を付与可能な装置等を用意することなく維持手段の機能を得ることができ、構成を簡素化することができる。
【0051】
・レール部20と錘70とを接続するうえで、運搬対象物100の荷重が掛かっていない場合に錘70の荷重がレール部20に掛かれば、レール部が傾くおそれがある。一方、レール部20が水平な状態を維持した状態でレール部20と錘70とを接続する部材が撓んでいた場合、運搬対象物100を吊り上げれば、その接続する部材にテンションが掛かるまでにレール部20が傾くおそれがある。この点、本実施形態では、長さが調節可能なラッシングベルト60を用いてレール部20と錘70とを繋いでいるため、運搬対象物100を吊り上げていない状態でラッシングベルト60を撓まず且つテンションが掛かっていない状態とすることができ、レール部20の傾きを抑制することができる。
【0052】
・移動体40がレール部20に沿って移動する場合に、支点よりも右側(一端側)へと移動した場合、他端側には下方への荷重が掛からないため、運搬対象物による下方への荷重により、レール部が大きく傾くおそれがある。この点、本実施形態ではレール部20に右側規制部51が設けられているため、移動体40の右側(一端側)への移動によるレール部20の傾きを抑制することができる。
【0053】
・左側規制部53を備えているため、運搬対象物100を上下方向への移動させている場合等において、移動体40の左右方向への移動を抑制することができ、運搬対象物100の吊り上げ動作を安定させることができる。
【0054】
・梯子300は壁面200に立て掛ける角度が調節可能であるため、運搬装置10を取り付ける位置を据付位置201に合わせて調節しやすくすることができる。
【0055】
・梯子300は、支柱301が平行に設けられており踏ざん302の間隔も一定であるため、レール部20を取り付ける高さを調節することができる。
【0056】
<第2実施形態>
本実施形態では、運搬装置10の構成は第1実施形態と同様であり、使用方法の一部が異なっている。本実施形態における運搬装置10の使用方法について、図10及び図11を参照して説明する。なお、梯子300に対する運搬装置10の取り付け方法は第1実施形態と同様であるため、説明を援用する。
【0057】
本実施形態では、梯子300を建物の壁面200の据付位置201の正面に配置する。そして、移動体40をレール部20の左端に位置させておき、運搬対象物100を移動体40の直下に位置させておく。この状態で、図10に示すように運搬対象物100の吊り上げを開始すれば、レール部20の左端側に運搬対象物100の重量に基づく荷重が印加され、それに伴い、レール部20の右端側に取り付けられたラッシングベルト60にテンションが掛かり、レール部20の左端側に印加されている荷重と同等の荷重が右端側にも印加される
【0058】
続いて、移動体40をレール部20の中央側、すなわち梯子300及び据付位置201に対向する側へと移動させる。このとき、運搬対象物100の荷重が掛かる位置が中央側へ移動するのに伴い、ラッシングベルト60のテンションが低下し、レール部20の右端側に係る荷重が低下する。そして、図11に示すように、移動体40が梯子300及び据付位置201に対向する位置となれば、運搬対象物100の重量は梯子300により支持されることとなり、ラッシングベルト60は概ねテンションが掛かっていない状態となる。そして、滑車45を操作することで運搬対象物100を下降させ、据付位置201に据え置き、運搬対象物100に巻き付けられているベルト71を滑車45の下側のフック47から外すことで、運搬対象物100の据付位置201への運搬が終了する。
【0059】
上記構成により、本実施形態に係る運搬方法は、第1実施形態に係る運搬方法が奏する効果に加えて、以下の効果を有する。
【0060】
・据付位置201と対向するように梯子300を配置しているため、梯子300に登って作業を行う際に据付位置201により近い位置で作業を行うことができ、作業の利便性及び効率を向上させることができる。
【0061】
・錘70の重量が不足していたり、ラッシングベルト60が緩んでいたりすれば、運搬対象物100を吊り上げようとした場合又は若干吊り上げた場合に、運搬装置10及び梯子300は、運搬対象物100側に傾くことになる。したがって、運搬対象物100を据付位置201よりも上方に位置させる前に、錘70の重量の不足やラッシングベルト60の緩みを解消することができる。
【0062】
<変形例>
・実施形態では、レール部20の中央にベース台30を設けるものとしているが、レール部20の中央からずれた位置にベース台30を設けるものとしてもよい。この場合、ベース台30を右側(一端側)に寄せれば、左側(他端側)が長くなり、移動体40の移動可能な距離を長くすることができる。一方、ベース台30を左側(他端側)に寄せれば、右側(一端側)が長くなり、錘70の重さを運搬対象物100の重さよりも軽くすることができる。
【0063】
・レール部20と錘70とを繋ぐ部材は、必ずしもラッシングベルト60でなくてもよい。すなわち、レール部20と錘70とを繋いだ際に、撓みなく且つテンションが掛かっていない状態を維持できるように長さを調節可能なものであればよい。また、長さが調節できないものであったとしても、錘70の位置を変更する等して撓みなく且つテンションが掛かっていない状態を維持してもよい。
【0064】
・実施形態では、維持手段として錘70を採用しているが、ウインチ等の力を付与可能な装置を維持手段として用いてもよい。
【0065】
・実施形態では、運搬対象物100を吊り上げる吊り上げ手段として滑車55を用いているが、吊り上げ手段は運搬対象物を吊り上げ可能なものであればよく、ホイスト等の他の公知の様々な吊り上げ手段を採用することができる。また、吊り上げ手段により運搬対象物を吊り上げる際に、人力で釣りあげてもよいし、電動機や発動機等を用いて吊り上げるものとしてもよい。
【0066】
・実施形態では、運搬対象物100を建物の壁面200の据付位置201まで移動させるものとしたが、運搬対象物を建物の壁面200に設けられた窓の正面まで移動させ、その窓から運搬対象物100を搬入する場合にも用いることができる。また、運搬対象物100を窓から搬出する場合に用いてもよい。この場合には、窓の位置を所定位置と称することができる。
【0067】
・実施形態では、配置手段として梯子300を用いるものとしたが、配置手段は、レール部20を建物の立地面から離間した上方に配置可能であり、且つ、使用時に仮設され使用後に撤去されるものであればよい。例えば、脚立や仮設の足場等を配置手段として用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
運搬装置…10、レール部…20、ベース台…30、移動体…40、滑車…45、右側規制部…51、左側規制部…53、ラッシングベルト…60、錘…70、運搬対象物…100、壁面…200、据付位置…201、梯子…300、踏ざん…302
図1
図2
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図5
図6
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図10
図11