(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】シールド掘進機用テールシール組成物
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20230808BHJP
C09K 8/34 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
E21D11/00 B
C09K8/34
(21)【出願番号】P 2019231301
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 智紀
(72)【発明者】
【氏名】服部 鋭啓
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝
(72)【発明者】
【氏名】泉 徹
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065202(JP,A)
【文献】特開2016-084394(JP,A)
【文献】特開2019-000018(JP,A)
【文献】特開2010-022313(JP,A)
【文献】特開2019-187312(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063900(WO,A1)
【文献】泉 徹,裏込め注入材混入時硬化遅延型テールグリース「シールノックCR」の開発,ENEOS Technical Review,第58巻第3号,日本,2016年10月,23-27頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
C09K 8/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕基油としてのポリオールエステル30~80質量%、
〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷん5~50質量%、
〔C〕無機粉体5~50質量%、
〔D〕繊維質2~10質量%
〔E〕単糖類又は二糖類0.1~5質量%、及び
〔F〕
ラノリン由来の脂肪酸とペンタエリスリトールから得られるエステル0.1~5質量%を含むシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項2】
〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷんが、コーンスターチ粉末又は米粉である、請求項1に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項3】
前記〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷんが、でんぷん(米粉を除く)である請求項1に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項4】
前記〔E〕成分が、単糖類である請求項1~3のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項5】
〔C〕無機粉体が、炭酸カルシウム又はタルクである、請求項1
~4のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項6】
〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷんにおけるグルテニンとグリアジンとの両方又はいずれか一方の含有量が、グルテンフリー粉末状でんぷん基準で、1質量%以下である、請求項1~
5のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
【請求項7】
シールド掘進機の切刃を回転させて土砂を掘削し掘進するシールド掘進工法において、
前記シールド掘進機のテールシール部に配置された複数のブラシシール及び前記ブラシシール間に、請求項1~
6のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物を
充填するシールド掘進工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然環境への負担が少なく、止水性、硬化遅延性、及び水に対する安定性に優れるシールド掘進機用のテールシール組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機により、地中にトンネルを掘削する場合、シールド掘進機は、進行方向の地山を掘削しながら前進する。シールド掘進機の後方には、順次、トンネルの内壁となるセグメントが組み上げられている。この場合、掘削されるトンネルの外径(掘削開孔径)は、シールド掘進機の外径プラスシールド掘進機が前進するための余裕代(数センチ)となるが、セグメントはシールド掘進機内部で組み上げられるため、セグメントの外径はシールド掘進機の内径以下となる。このため、シールド掘進機の後方ではトンネル外径とセグメント外径との間に隙間が生じ、この隙間には、シールド掘進機の前進にともない、裏込材が充填される。
【0003】
一方、シールド掘進機の後端で、未だ裏込材が充填されていないトンネル内の空隙へは、地下水等が浸みだしている。この地下水のシールド掘進機内への浸入を防ぐため、シールド掘進機の末端にはシールド掘進機内のセグメントの外周とシールド掘進機の内周の間を止水するブラシシールが複数列、シールド掘進機の内周に設けられている。そして、その止水性を維持するために、これらのブラシシールの間にテールシール組成物が充填されている。シールド掘進機の進行に伴い、ブラシシールのテールシール組成物はセグメント外周面に貼り付いて地山へ放散する。そのため、ブラシシール部へのテールシール組成物の補充が必要となり、配管を通してテールシール組成物がポンプを用いて圧送される。
【0004】
近年では、テールシール組成物に対して、止水性、圧送性の特性に加えて環境への影響を低減したテールシール組成物が要求されている。この要求に対して、本発明者らは環境への影響を低減したテールシール組成物を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、環境への影響を低減したテールシール組成物に対して更なる鋭意検討を重ねた結果、特許文献1に記載のテールシール組成物では、水に不安定であり、水に接した際に相当量の吸水が生じることを発見した。
吸水が生じると、ちょう度等のテールシール組成物の物性に変化が生じてしまい、テールシール組成物に期待される所望の効果が得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するためにさらに鋭意研究を進めた結果、グルテンフリーの粉末状でんぷんを使用し、さらに単糖類及び鎖状カルボン酸と鎖状アルコールとのエステルを添加することで、前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
<1>〔A〕基油としてのポリオールエステル30~80質量%、
〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷん5~50質量%、
〔C〕無機粉体5~50質量%、
〔D〕繊維質2~10質量%
〔E〕単糖類又は二糖類0.1~5質量%、及び
〔F〕鎖状カルボン酸と鎖状アルコールとのエステル0.1~5質量%
を含むシールド掘進機用テールシール組成物。
なお、本願における質量%は全てテールシール組成物全量基準での質量%を示す。
<2>〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷんが、コーンスターチ粉末又は米粉である、<1>に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
<3>〔C〕無機粉体が、炭酸カルシウム又はタルクである、<1>又は<2>に記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
<4>〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷんにおけるグルテニンとグリアジンとの両方又はいずれか一方の含有量が、グルテンフリー粉末状でんぷん基準で、1質量%以下である、<1>~<3>のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物。
<5><1>~<4>のいずれかに記載のシールド掘進機用テールシール組成物をシールド掘進機に用いるシールド掘進工法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシールド掘進機用テールシール組成物は、良好な止水性、硬化遅延性を有し、さらに水への安定性に優れており、したがって、シールド掘進機による掘削を効率的に行うことが可能である。そして本発明のシールド掘進機用テールシール組成物は、組成物全体が生分解性に優れるため、環境への影響を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(シールド掘進機用テールシール組成物)
本発明のテールシール組成物は、圧送の容易性、止水性、水分混入時の安定性、及び高温時での油保持力を確保するため、不混和ちょう度が150~350のものが好ましく、180~310がより好ましい。なお、本発明にいう不混和ちょう度の測定は、JISK2220の不混和ちょう度試験による。
【0011】
〔A〕基油としてのポリオールエステル
本発明のテールシール組成物に含まれる基油は、ポリオールエステルを含むものである。ポリオールエステルとしては、2価~6価の多価アルコールと1価カルボン酸または多価カルボン酸とのエステルを用いることができる。多価アルコールとしては、脂肪族アルコールが好ましく、その炭素数は2~12、特には3~10が好ましい。具体的には、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)が挙げられる。1価カルボン酸としては、飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、炭素数は3~20、特には8~18が好ましい。また、基油として、2種以上のポリオールエステルを組み合わせて使用することもできる。
【0012】
このような基油は、合成された基油を用いることもでき、又は動植物油を用いることもできる。動植物油であるポリオールエステルとしては、例えば、牛乳脂、牛脂、ラード(豚脂)、羊脂、鯨油、鮭油、かつお油、にしん油、鱈油、大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、落花生油、とうもろこし油、綿実油、米ぬか油、ゴマ油、オリーブ油、アマニ油、ヒマシ油、カカオ脂、パーム油、ヤシ油、麻実油、米油、又は茶種油を用いることもできる。
【0013】
この基油の物性としては、40℃における動粘度が10~3,000mm2/sのものが好ましく、40~1,200mm2/sがさらに好ましい。さらに、流動点は-10℃以下が好ましく、安全性の観点から、引火点は150℃以上が好ましい。
【0014】
この基油の含有量は、テールシール組成物全量基準で、30~80質量%、好ましくは25~70質量%、より好ましくは30~60質量%である。ポリオールエステル以外の基油を含んでもよいが、その含有量は、テールシール組成物全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0015】
〔B〕グルテンフリー粉末状でんぷん
本明細書において、粉末状でんぷんとは、葉緑素を有する植物の炭酸固定により生産され、栄養貯蔵物質として、種子、根茎、塊茎、又は球根などに貯蔵される炭水化物を粉末状に加工したものを意味する。本明細書において、「グルテンフリー」とは、水を添加して捏ねた際に吸水してグルテンを形成するタンパク質であるグルテニンとグリアジンとの両方、又は一方を実質的に含まないことを意味する。「グルテンフリー粉末状でんぷん」とは、グルテニンとグリアジンの両方、又は一方を実質的に含まず、水を添加して捏ねてもグルテンを実質的に形成しない粉末状でんぷんを意味する。具体的には、「グルテンフリー粉末状でんぷん」とは、グルテニンとグリアジンの両方又は一方の含有量が、粉末状でんぷん基準で、例えば、3質量%以下、2.5質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下の粉末状でんぷんを意味する。
小麦粉には、一般的に8.5%以上のタンパク質が含まれており、中でも強力粉はタンパク質の割合が11.5~13質量%以上のものである。小麦粉に含まれているタンパク質のうち、85質量%以上がグルテニンとグリアジンである。グルテニンの割合が30~40質量%程度であり、グリアジンの割合が40~50質量%程度である。したがって、小麦粉には、一般的に7.2質量%以上(8.5×0.85)のグルテニンとグリアジンが含まれている。コーンスターチに含まれるタンパク質量は、一般的に0.1質量%程度である。
うるち米粉には、一般的に6.1%程度のタンパク質が含まれる。うるち米粉には、グルテニンは含まれるが、グリアジンは実質的に含まれず、水を添加して捏ねてもグルテンを形成しない。
本発明のテールシール組成物に含まれる粉末状でんぷんは、グルテンフリーである限り、ジャガイモ、小麦、大麦、トウモロコシ、サツマイモ、米、クズ、カタクリ、緑豆、さごやし、又はキャッサバなどの根、茎、種子又は果実などから得られた粉末を使用することができ、コーンスターチ粉末又は米粉が好ましく、コーンスターチ粉末がより好ましい。粉末状でんぷんは1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。グルテンフリー粉末状でんぷんは、市販のものを使用することもできる。グルテンフリー粉末状でんぷんは、自然界において分解され得る生分解性のものを使用することが好ましい。
【0016】
グルテンフリー粉末状でんぷんには、グルテンフリーの粉末状加工でんぷんが含まれる。ここで、加工でんぷんとは、でんぷんに物理的、酵素的または化学的処理を行ったものをいう。加工でんぷんの例としては、アルファー化でんぷん、酸化でんぷん、酵素処理でんぷん、でんぷん誘導体、又はデキストリン等が挙げられる。
【0017】
でんぷん誘導体の例としては、エーテル化でんぷん、エステル化でんぷん、又は架橋でんぷん等が挙げられる。エーテル化でんぷんの例としては、でんぷんグリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルでんぷん、又はカチオンでんぷん等が挙げられる。エステル化でんぷんの例としては、酢酸でんぷん、リン酸でんぷん、又はオクテニルコハク酸でんぷん等が挙げられる。架橋でんぷんの例としては、リン酸架橋でんぷん、アセチル化アジピン酸架橋でんぷん、アセチル化リン酸架橋でんぷん、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん、又はリン酸モノエステル化リン酸架橋でんぷん等が挙げられる。
【0018】
これらのグルテンフリー粉末状でんぷんの平均粒径は、好ましくは1~300μm、より好ましくは1~200μm、さらに好ましくは1~100μm、さらに好ましくは10~100μm、さらに好ましくは15~80μm、最も好ましくは15~60μmである。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により測定される粒径のメジアン径(50%粒径)を意味する。
【0019】
本発明のテールシール組成物におけるグルテンフリー粉末状でんぷんの含有量は、テールシール組成物全量基準で、5~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましく、15~40質量%がさらに好ましい。
【0020】
[C]無機粉体
無機粉体としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の粉体を用いることができる。さらにこれらの混合物、及び、天然に産するこれらの化合物を主成分とする鉱石の粉体等も用いることができる。具体的には、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルクの粉体を用いることができ、生分解性を高める観点から、炭酸カルシウム、又はタルクが好ましく、炭酸カルシウムがより好ましい。これらの無機粉体は、平均粒径が1~100μmのものが好ましい。
【0021】
この無機粉体の含有量は、テールシール組成物全量基準で、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。
【0022】
[D]繊維質
繊維質は、シールド掘進機のテールシール部にある金属網や金属線を束ねたブラシに絡みつき、止水性のある濾布層を形成するために用いられる。繊維質の含有量は、テールシール組成物全量基準で、好ましくは2~10質量%、より好ましくは2~8質量%である。
【0023】
この繊維質は、止水性と圧送性をバランスよく向上させるために、短繊維と長繊維とを含むことが好ましい。短繊維の平均長さが0.8~2.4mmであり、好ましくは1.0~2.2mmである。長繊維の平均長さは、使用する短繊維の平均長さの1.1~5倍であり、好ましくは1.1~3倍のものである。含有する長繊維と短繊維の質量比は1:4~4:1であり、好ましくは1:2~2:1である。短繊維の平均太さ(直径)は3~100μmのものが好ましく、10~75μmがより好ましい。長繊維の平均太さ(直径)は5~500μmが好ましく、5~200μmがより好ましい。
【0024】
これらの繊維質としては、天然物由来の繊維質を用いることができる。天然物由来の繊維質とは、自然界に存在する物質、例えば、植物組織又は動物組織に由来する繊維質であり、自然界において分解され得る生分解性の繊維質を意味する。このような繊維質としては、セルロース繊維、綿繊維、羊毛繊維、麻繊維、やし繊維、いぐさ、麦わら、絹繊維、又は羽毛などが挙げられる。天然物由来の繊維質の含有量は、テールシール組成物全量基準で、1.0~5.0質量%が好ましく、2.0~4.0質量%がより好ましい。
【0025】
天然由来以外の合成繊維又は無機繊維を含んでいてもよいが、天然由来以外の合成繊維又は無機繊維の総含有量は、天然由来の繊維質の総含有量より少ないことが好ましい。合成繊維又は無機繊維の含有量は、テールシール組成物全量基準で、0.5~3.0質量%以下が好ましく、0.5~1.5質量%がより好ましい。
【0026】
[E]単糖類又は二糖類
単糖類又は二糖類は、テールシール組成物に浸入した裏込剤の凝結時間を遅延させるために用いる。単糖類とは、それ以上加水分解されない糖類の構成単位を意味し、二糖類とは、単糖2つが結合してできた糖を意味する。単糖類としては、アルドースおよびケトースのいずれも用いることができ、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどが挙げられ、特にはグルコース(ブドウ糖)が好ましい。二糖類としては、マルトース、スクロース、セロビオース、ラクトースなどが使用できるが、スクロースが好ましい。これらの単糖類又は二糖類は、単独で用いても、二種類以上を混合して用いても良い。単糖類を使用することが好ましい。
この単糖類又は二糖類の含有量は、テールシール組成物全量基準で、0.1~5質量%が好ましく、0.5~5質量%がさらに好ましい。
【0027】
[F]エステル
本発明のテールシール組成物において使用されるエステルは、鎖状カルボン酸と鎖状アルコールとのエステルからなるものである。テールシール組成物に裏込剤が浸入した場合に、浸入部分を軟化させて硬化を遅らせることができる。
エステルを構成する鎖状カルボン酸は、炭素数8~40の一価カルボン酸(脂肪酸)が好ましい。この鎖状カルボン酸は飽和でも不飽和でもよく、直鎖でも分岐でもよい。その炭素数は10~35がより好ましい。また、単一の化合物でも複数の化合物の混合物でもよい。鎖状カルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸を含んでいてもよい。
エステルを構成する鎖状アルコール(脂肪族アルコール)は、炭素数4~10のものが好ましく、二価以上がより好ましく、四価のものがさらに好ましい。また、この鎖状アルコールは飽和でも不飽和でもよく、直鎖でも分岐でもよいし、単一の化合物でも複数の化合物の混合物でもよい。なお、ペンタエリスリトールがより好ましい。
エステルは、全ての水酸基がエステル結合を形成するフルエステルでも、一部の水酸基がエステル結合を形成していない部分エステルでもよいが、フルエステルが好ましい。
このエステルの含有量は、テールシール組成物全量基準で、0.1~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がさらに好ましい。
単糖類又は二糖類、及びエステルを本発明のテールシール組成物に添加することで、硬化遅延性を高めることができる。
【0028】
他の添加剤
本発明のテールシール組成物には、上記成分以外に、必要に応じて、一般に潤滑油やグリースなどに用いられている、清浄剤、分散剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、さび止め剤、及び腐食防止剤などを適宜添加することができる。これらの添加剤の含有量は、テールシール組成物全量基準で、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
また、本発明のテールシール組成物には、止水性と圧送性の向上目的で、ポリマー、より詳細にはポリブテン(例えば、例えば、日石ポリブテンHV300(製品名)又は日石ポリブテンHV1900)を添加することができる。
ポリブテンは、イソブテンを主成分として一部ノルマルブテンが反応した長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合物質である。ポリマー、より詳細にはポリブテンの含有量は、テールシール組成物全量基準で、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましい。
【0029】
(作用)
本発明のテールシール組成物が、水に対する安定性を発揮する理由は、完全に解明されているわけではないが、以下のように推論することができる。しかしながら、本発明は以下の説明によって限定されるものではない。
粉末状でんぷんにグルテニンとグリアジンとの両方が含まれる場合、水と接した際に吸水してグルテンを形成し、それによって吸水率が上昇したと考えられる。グルテニンとグリアジンの両方又は一方を含まない、グルテンフリー粉末状デンプンを使用した場合、グルテンを形成せず、吸水率が上昇しなかったと考えられる。
【実施例】
【0030】
実施例を用いて、以下に本発明を説明する。本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。なお、特に説明のない限り、%は質量%を示す。
【0031】
次に示す基油、粉末状でんぷん(グルテンを含む又はグルテンフリー)、無機粉体、繊維質、単糖類、及び鎖状カルボン酸と鎖状アルコールとのエステルを用いて、表1に示す割合(質量%)で混合してテールシール組成物を調製し、以下の項目を評価した。結果を表1及び2に示す。
〔評価項目〕
・水浸試験(吸水率、吸水時の不混和ちょう度:水浸開始から192時間後に判定)
・止水性(耐水圧試験)
・硬化遅延性
・生分解率(計算値)
【0032】
〔テールシール組成物の成分〕
A.基油
基油A1:ポリオールエステル(トリメチロールプロパンと脂肪酸とのフルエステル、15℃の密度1.02g/cm3、40℃の動粘度が500mm2/s) Oleon社のRADIALUB 7255(製品名)生分解率80%
基油A2:ポリオールエステル(トリメチロールプロパンと脂肪酸とのフルエステル、15℃の密度0.92g/cm3、40℃の動粘度が46.0mm2/s) BASF社のTMP05(製品名)生分解率86%
基油A3:鉱油(JXTGエネルギー社製、溶剤精製潤滑油基油、15℃の密度0.90g/cm3、40℃の動粘度が500mm2/s)
基油A4:ポリオールエステル(コンプレックスエステル、15℃の密度0.96g/cm3、40℃の動粘度が1200mm2/s) BASF社のTMP05/68(製品名)生分解率86%
基油A5:ポリオールエステル(トリメチロールプロパンと脂肪酸とのフルエステル、15℃の密度0.92g/cm3、40℃の動粘度が46.0mm2/s) BASF社のES1200(製品名)生分解率80%
【0033】
B.粉末状でんぷん
B1:コーンスターチ(グルテンフリー 平均粒径;20μm、密度1.5g/cm3)
B2:うるち米粉(グルテンフリー)
B3:小麦粉(グルテニンとグリアジンの両方を含む 平均粒径;50μm、強力粉、昭和産業株式会社製)
【0034】
C.無機粉体
無機粉体C1:炭酸カルシウム(平均粒径;1μm)
無機粉体C2:ベントナイト(ベントン)
無機粉体C3:タルク(平均粒径;20μm)
無機粉体C4:タルク(平均粒径;14μm)
【0035】
D.繊維質
繊維質D1:合成ポリエステル繊維(平均長さ;5mm、平均直径;20μm)
繊維質D2:レーヨンドライ(平均長さ;5mm、平均直径;15μm)
繊維質D3:木材パルプ繊維(平均長さ;2mm、平均直径;23μm)
繊維質D4:綿花(平均長さ;1.8mm、平均直径;40μm)
【0036】
E.単糖類又は二糖類
単糖類E1:ブドウ糖(日本食品化工株式会社製)
二糖類E2:砂糖(スクロース)
【0037】
F.鎖状カルボン酸と鎖状アルコールとのエステルF1:ラノリン由来の脂肪酸とペンタエリスリトールから得られるエステル
【0038】
G.ポリマー
ポリマーG1:日石ポリブテンHV300(製品名)
ポリマーG2:日石ポリブテンHV1900(製品名)
【0039】
〔止水性〕
次に示す条件で耐水圧試験を行い、流出水の有無を測定した。
底部中央部に、中心間隔5mmで縦横に4列、合計16個の開口(直径3mm)を有する内径50mmのステンレス製の圧力容器を用いた。開口上にステンレス製のメッシュ(20メッシュ、厚み0.85mm)を載せ、上記で調製したテールシール組成物100gを導入した。テールシール組成物上に水(10g)を置き、空気で3.5MPaの圧力で5分間加圧し、その際の底部開口からの流出水有無により止水性の評価を行った。
【0040】
硬化遅延性は、以下の方法で凝固抑制性及び混合初期軟化性を評価して、これらの2種類の特性を総合的に評価することにより決定した。
【0041】
〔凝固抑制性〕
上記で調製したテールシール組成物100gと、裏込剤の主成分である速乾セメント〔トーヨーマテラン製、商品名インスタントセメント(30分速乾性)〕、水15gを手で混合し、混合直後のちょう度と、30分後のちょう度の差を測定することで、凝固抑制性を評価した。
【0042】
〔混合初期軟化性〕
上記で調製したテールシール組成物100gと、裏込剤の主成分である速乾セメント〔トーヨーマテラン製、商品名インスタントセメント(30分速乾性)〕、水15gを手で混合し、混合前のテールシール組成物のちょう度と、混合直後のちょう度の差を測定することで、混合初期軟化性を評価した。
【0043】
〔水浸試験〕
吸水率は、試験前後のテールシール組成物重量の差から算出した。
蓋つきガラス容器にテールシール組成物60gと水道水60gを入れ放置させ、192時間経過後のテールシール組成物を金網でろ過し、ろ過残分の質量を計測し、水浸試験開始前のテールシール組成物の質量と比較した。
不混和ちょう度は、JISK2220に従って測定した。測定には、1/2ちょう度計を用いた。
【0044】
〔生分解性〕
各基油の生分解率×濃度+粉末状でんぷんを100%として算出した。鉱油の生分解率は0とした。
なお、比較例2及び3の生分解率は、第三者機関である日本食品分析センターにおいて、28日間実施した際の実測値である。微生物源として標準活性汚泥及び二次処理水を用い、検体の生物化学的酸素消費量(BOD)を閉鎖系酸素消費量自動測定装置で連続測定し、生分解度を算出した。
【0045】
【0046】
【0047】
水浸試験において、吸水率が23%以下のものを〇とし、10%より少ないものを◎とした。吸水率が30%以上のものは×とし、24~29%のものは△とした。なお、実施例1は吸水率は23%以下であったが、ちょう度が276と上昇したことから△と評価した。
【0048】
実施例1~7のテールシール組成物は、いずれも良好な水浸試験結果、耐水圧試験結果、硬化遅延性試験結果を示した。また、実施例1~7のテールシール組成物は計算上の生分解率が56~76%となり、いずれも良好な値であった。
【0049】
比較例1~4のテールシール組成物は、生分解性、水浸試験結果、耐水圧試験結果のいずれかが悪化した。特に、グルテンを含む粉末状でんぷんB3を含有する比較例4は、吸水率が高く、水に不安定な結果となった。一方で、グルテニンとグリアジンの両方、又は一方を実質的に含まない粉末状でんぷんB1又はB2を用いた実施例1~7では吸水が生じず、吸水率が上昇しなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、良好な止水性、生分解性、硬化遅延性を有し、さらに水への安定性に優れているシールド掘進機用テールシール組成物を提供することができる。