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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】HER2陽性がんの処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/517 20060101AFI20230808BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230808BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20230808BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20230808BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20230808BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20230808BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230808BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230808BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K31/517
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7068
A61K31/505
A61K31/7072
A61K31/513
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 66
(21)【出願番号】P 2019558369
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 US2018029899
(87)【国際公開番号】W WO2018201016
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】62/491,872
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507154181
【氏名又は名称】シージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン スコット
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー ルーク
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Research,2017年,Vol.77,No.4,Supp. Supplement 1.,Abstract Number: P4-21-01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 39/395
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるHER2陽性がんを置するための医薬であって、
(a)抗HER2抗体とツカチニブとを組み合わせてなる;
(b)抗HER2抗体を含み、ツカチニブと組み合わせて用いられる;または
(c)ツカチニブを含み、抗HER2抗体と組み合わせて用いられ、かつ
前記HER2陽性がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される
前記医薬。
【請求項2】
化学療法剤とさらに組み合わせて用いられる、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
化学療法剤が代謝拮抗物質である、請求項2記載の医薬。
【請求項4】
代謝拮抗物質が、カペシタビン、カルモフール、ドキシフルリジン(doxifluridine)、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項3記載の医薬。
【請求項5】
代謝拮抗物質がカペシタビンである、請求項4記載の医薬。
【請求項6】
がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、および胆道がんからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の医薬。
【請求項7】
HER2陽性がんが、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである、請求項1~6のいずれか一項記載の医薬。
【請求項8】
対象がトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた、請求項1~7のいずれか一項記載の医薬。
【請求項9】
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン(ado-trastuzumab emtansine)、マルゲツキシマブ(margetuximab)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項1~7のいずれか一項記載の医薬。
【請求項10】
抗HER2抗体がトラスツズマブである、請求項1~9のいずれか一項記載の医薬。
【請求項11】
抗HER2抗体が、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである、請求項1~9のいずれか一項記載の医薬。
【請求項12】
代謝拮抗物質がカペシタビンである、請求項911のいずれか一項記載の医薬。
【請求項13】
抗HER2抗体が、ツカチニブ投与の前、ツカチニブ投与の間、またはツカチニブ投与の後に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項記載の医薬。
【請求項14】
がんが、野生型KRASエキソン2遺伝子型を有する細胞を含む、請求項1~13のいずれか一項記載の医薬。
【請求項15】
がんが、野生型NRAS遺伝子型を有する細胞を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の医薬。
【請求項16】
がんが、野生型BRAF遺伝子型を有する細胞を含む、請求項1~15のいずれか一項記載の医薬。
【請求項17】
対象が、再発性のがん、または標準治療に対して難治性のがんを有する、請求項1~16のいずれか一項記載の医薬。
【請求項18】
前記医薬での処置が、少なくとも約85%の腫瘍増殖抑制(TGI)率をもたらす、請求項1~17のいずれか一項記載の医薬。
【請求項19】
前記医薬での処置が、約100%のTGI率をもたらす、請求項1~18のいずれか一項記載の医薬。
【請求項20】
抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせが相乗的である、請求項1~19のいずれか一項記載の医薬。
【請求項21】
前記医薬での処置が、抗HER2抗体を単独でまたはツカチニブを単独で用いた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす、請求項1~20のいずれか一項記載の医薬。
【請求項22】
ツカチニブの投与が、対象の体重1kgあたり約3~7mgを1日2回であるように用いられることを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項記載の医薬。
【請求項23】
ツカチニブの投与が、約300mgを1日2回であるように用いられることを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項記載の医薬。
【請求項24】
抗HER2抗体の投与が、対象の体重1kgあたり約6mg~8mgを3週間に1回であるように用いられることを特徴とする、請求項1~23のいずれか一項記載の医薬。
【請求項25】
抗HER2抗体の投与が、約600mgを3週間に1回であるように用いられることを特徴とする、請求項1~23のいずれか一項記載の医薬。
【請求項26】
ツカチニブまたは抗HER2抗体が経口投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~25のいずれか一項記載の医薬。
【請求項27】
代謝拮抗物質が経口投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~26のいずれか一項記載の医薬。
【請求項28】
代謝拮抗物質の投与が、対象の体表面積1m2あたり約1,000mgを1日2回であるように用いられることを特徴とする、請求項27記載の医薬。
【請求項29】
抗HER2抗体が静脈内投与または皮下投与されるように用いられることを特徴とする、請求項27または28記載の医薬。
【請求項30】
対象における1つまたは複数の治療効果が、ベースラインと比べて、前記医薬の投与後に改善される、請求項1~29のいずれか一項記載の医薬。
【請求項31】
前記1つまたは複数の治療効果が、がんに由来する腫瘍のサイズ、客観的奏効率、奏効持続期間、奏効までの期間、無増悪生存期間、および全生存期間からなる群より選択される、請求項30記載の医薬。
【請求項32】
がんに由来する腫瘍のサイズが、前記医薬の投与前の該がんに由来する該腫瘍のサイズと比べて少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%減少する、請求項31記載の医薬。
【請求項33】
客観的奏効率が、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%である、請求項31記載の医薬。
【請求項34】
対象が、前記医薬の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年の無増悪生存期間を示す、請求項31記載の医薬。
【請求項35】
対象が、前記医薬の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年の全生存期間を示す、請求項31記載の医薬。
【請求項36】
抗体-薬物コンジュゲートに対する奏効持続期間が、前記医薬の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年である、請求項31記載の医薬。
【請求項37】
対象が1つまたは複数の有害事象を有し、かつ
医薬が、該1つもしくは複数の有害事象を無くすまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤と組み合わせて用いられる、
請求項1~36のいずれか一項記載の医薬。
【請求項38】
対象が、1つまたは複数の有害事象を発症するリスクがあり、かつ
医薬が、該1つもしくは複数の有害事象を予防するまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤と組み合わせて用いられる、
請求項1~37のいずれか一項記載の医薬。
【請求項39】
1つまたは複数の有害事象が、グレード2以上の有害事象である、請求項37または38記載の医薬。
【請求項40】
1つまたは複数の有害事象が、グレード3以上の有害事象である、請求項39記載の医薬。
【請求項41】
1つまたは複数の有害事象が、重篤有害事象である、請求項3740のいずれか一項記載の医薬。
【請求項42】
対象がヒトである、請求項1~41のいずれか一項記載の医薬。
【請求項43】
初回投与量レベルの抗HER2抗体とツカチニブとを組み合わせてなる第1の医薬による処置の開始後に1つまたは複数の有害事象を示した対象におけるHER2陽性がんを処置するための医薬であって、低下した投与量レベルの抗HER2抗体とツカチニブとを組み合わせてなり、かつ
前記HER2陽性がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、
前記医薬。
【請求項44】
前記第1の医薬と前記医薬が化学療法剤とさらに組み合わせて用いられる、請求項43記載の医薬。
【請求項45】
化学療法剤が代謝拮抗物質である、請求項44記載の医薬。
【請求項46】
代謝拮抗物質が、カペシタビン、カルモフール、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項45記載の医薬。
【請求項47】
代謝拮抗物質がカペシタビンである、請求項46記載の医薬。
【請求項48】
1つまたは複数の有害事象が、グレード2以上の有害事象である、請求項4347のいずれか一項記載の医薬。
【請求項49】
1つまたは複数の有害事象が、グレード3以上の有害事象である、請求項48記載の医薬。
【請求項50】
有害事象が肝毒性である、請求項4349のいずれか一項記載の医薬。
【請求項51】
有害事象が左室機能不全である、請求項4349のいずれか一項記載の医薬。
【請求項52】
有害事象がQTc間隔延長である、請求項4349のいずれか一項記載の医薬。
【請求項53】
がんが、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである、請求項4352のいずれか一項記載の医薬。
【請求項54】
対象がトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた、請求項4253のいずれか一項記載の医薬。
【請求項55】
ツカチニブの初回投与量レベルが、約300mgを1日2回である、請求項4354のいずれか一項記載の医薬。
【請求項56】
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約250mgを1日2回である、請求項4355のいずれか一項記載の医薬。
【請求項57】
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約200mgを1日2回である、請求項4355のいずれか一項記載の医薬。
【請求項58】
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約150mgを1日2回である、請求項4355のいずれか一項記載の医薬。
【請求項59】
抗HER2抗体、ツカチニブ、化学療法剤、および薬学的に許容される担体を含む、対象におけるHER2陽性がんを処置するための薬学的組成物であって、前記HER2陽性がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、前記薬学的組成物
【請求項60】
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項59記載の薬学的組成物。
【請求項61】
抗HER2抗体がトラスツズマブである、請求項59または60記載の薬学的組成物。
【請求項62】
抗HER2抗体が、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである、請求項59または60記載の薬学的組成物。
【請求項63】
化学療法剤がカペシタビンである、請求項5962のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項64】
対象におけるHER2陽性がんを処置するためのキットであって、請求項59~63のいずれか一項記載の薬学的組成物を含み、かつ
前記HER2陽性がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、
前記キット。
【請求項65】
使用説明書をさらに含む、請求項64記載のキット。
【請求項66】
1種類または複数種類の試薬をさらに含む、請求項64または65記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、(2017年4月28日に出願された)米国仮出願第62/491,872号の恩典を主張する。これらの優先権書類および本明細書において開示される他の全ての参考文献の内容は、全ての目的のために、その全体が組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
がんは、かなりの医療負担を課し、かつ米国および世界中の社会に大きな影響を及ぼす疾患である。米国だけで、2016年に160万人超が、がんの新規症例と診断され、約600,000人が、がんで死亡したと見積もられている。がんは極めて不均一な疾患であり、体内のほぼ全ての細胞タイプから腫瘍が生じ、広範囲にわたる環境危険因子および遺伝的危険因子と関連付けられている。さらに、がんは全年齢の人、ならびに全ての民族集団、文化集団、および社会経済集団の人に罹患する。
【0003】
がんは、広範囲にわたる細胞プロセスにおいて役割を果たす多数の遺伝子において起こり得る変異の結果であることが多い。多くの場合、がん細胞には、細胞増殖、分裂、分化、または細胞外環境との相互作用などのプロセスを制御する遺伝子に変異がある。一例として、細胞増殖および分裂を促進する細胞表面受容体であるHER2の活性を高める変異が多くのがんに結び付けられている。
【0004】
多くの場合、腫瘍は、ある特定のがん療法に対して抵抗性があるか、初めは、ある特定の療法に対して感受性があるが、その後で抵抗性になる。抵抗性の発生は、細胞成分の活性を変える変異(例えば、シグナル伝達分子を構成的に活性にする変異)、または遺伝子の発現を変える変異(例えば、HER2などの細胞シグナル伝達受容体の発現を高める変異)の結果であることが多い。場合によっては、抵抗性は、がんを、より高悪性度の(例えば、転移)形態に変える変異の発生と同時に起こるか、またはその変異の発生に起因する。転移がんは、典型的に、非転移がんと比較して予後の悪化と相関関係にある。
【0005】
MOUNTAINEER臨床試験(ClinicalTrials.gov Identifier #NCT03043313)では、HER2陽性転移性CRC患者を処置するためのツカチニブとトラスツズマブの組み合わせの有効性を調べている。
【0006】
HER2過剰発現を特徴とするがん(HER2陽性がんと呼ばれる)は予後不良と相関関係があることが多いか、または多くの標準療法に対して抵抗性である。従って、HER2陽性がんまたは転移性HER2陽性がんなどのがんの処置に有効な新たな療法が必要とされている。本発明は、この必要性を満たし、他の利点も提供する。
【発明の概要】
【0007】
発明の簡単な概要
一部の局面において、本発明は、対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するための方法であって、抗HER2抗体をツカチニブおよび化学療法剤と組み合わせて投与し、それによってHER2陽性がんを処置する段階を含む、方法を提供する。一部の態様において、がんは、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一部の態様において、がんは乳がんである。一部の態様において、がんは転移がんである。一部の態様において、がんは、切除不能局所進行がんである。
【0008】
一部の態様において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン(ado-trastuzumab emtansine)、マルゲツキシマブ(margetuximab)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。場合によっては、抗HER2抗体はトラスツズマブである。場合によっては、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。一部の態様において、抗HER2抗体の投与は、ツカチニブ投与の前、ツカチニブ投与の間、またはツカチニブ投与の後である。
【0009】
一部の態様において、がんは、野生型KRASエキソン2遺伝子型を有する細胞を含む。一部の態様において、がんは、野生型NRAS遺伝子型を有する細胞を含む。一部の態様において、がんは、野生型BRAF遺伝子型を有する細胞を含む。さらに一部の態様において、対象は、セツキシマブまたはパニツムマブを含む標準治療に対して難治性のがんを有する。
【0010】
一部の態様において、対象を処置することで、少なくとも約85%の腫瘍増殖抑制(TGI)率が得られる。場合によっては、対象を処置することで約100%のTGI率が得られる。一部の態様において、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせは相乗的である。一部の態様において、対象を処置することで、抗HER2抗体を単独でまたはツカチニブを単独で用いた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率が得られる。
【0011】
一部の態様において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約3~7mgを1日2回である。一部の態様において、ツカチニブの用量は、約300mgを1日2回である。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、対象の体重1kgあたり約6mg~8mgを3週間に1回である。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、約600mgを3週間に1回である。一部の態様において、ツカチニブまたは抗HER2抗体は経口投与されるか、静脈内投与されるか、または皮下投与される。
【0012】
一部の態様において、前記方法は、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)を投与する段階をさらに含む。一部の態様において、代謝拮抗物質は、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン(doxidluridine)、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。一部の態様において、代謝拮抗物質はカペシタビンである。一部の態様において、カペシタビンの用量は、対象の体表面積1m2あたり約1,000mgを1日2回である。一部の態様において、化学療法剤は経口投与される。一部の態様において、カペシタビンは150mgまたは500mgの錠剤にして投与される。
【0013】
他の局面において、本発明は、抗HER2抗体、ツカチニブ、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。一部の態様において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。場合によっては、抗HER2抗体はトラスツズマブである。場合によっては、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。一部の態様において、薬学的組成物は化学療法剤をさらに含む。一部の態様において、化学療法剤は代謝拮抗物質である。一部の態様において、代謝拮抗物質はカペシタビンである。
【0014】
さらに他の局面において、本発明は、対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するためのキットであって、本発明の薬学的組成物を含む、キットを提供する。一部の態様において、キットは使用説明書をさらに含む。一部の態様において、キットは1種類または複数種類の試薬を含む。
【0015】
[本発明1001]
対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するための方法であって、
抗HER2抗体とツカチニブとを含む併用療法を投与し、それによってHER2陽性がんを処置する段階
を含む、方法。
[本発明1002]
前記併用療法が化学療法剤をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
化学療法剤が代謝拮抗物質である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
代謝拮抗物質が、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン(doxidluridine)、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、本発明1003の方法。
[本発明1005]
代謝拮抗物質がカペシタビンである、本発明1004の方法。
[本発明1006]
がんが、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
がんが、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
がんが、乳がんである、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
対象がトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン(ado-trastuzumab emtansine)、マルゲツキシマブ(margetuximab)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1011]
抗HER2抗体がトラスツズマブである、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
抗HER2抗体が、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1013]
代謝拮抗物質がカペシタビンである、本発明1010~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
抗HER2抗体が、ツカチニブ投与の前、ツカチニブ投与の間、またはツカチニブ投与の後に投与される、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
がんが、野生型KRASエキソン2遺伝子型を有する細胞を含む、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
がんが、野生型NRAS遺伝子型を有する細胞を含む、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
がんが、野生型BRAF遺伝子型を有する細胞を含む、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
対象が、再発性のがん、または標準治療に対して難治性のがんを有する、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
対象の処置が、少なくとも約85%の腫瘍増殖抑制(TGI)率をもたらす、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
対象の処置が、約100%のTGI率をもたらす、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせが相乗的である、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
対象の処置が、抗HER2抗体を単独でまたはツカチニブを単独で用いた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
ツカチニブの投与が、対象の体重1kgあたり約3~7mgを1日2回である、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
ツカチニブの投与が、約300mgを1日2回である、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1025]
抗HER2抗体の投与が、対象の体重1kgあたり約6mg~8mgを3週間に1回である、本発明1001~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
抗HER2抗体の投与が、約600mgを3週間に1回である、本発明1001~1024のいずれかの方法。
[本発明1027]
ツカチニブまたは抗HER2抗体が経口投与される、本発明1001~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
代謝拮抗物質が経口投与される、本発明1001~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
代謝拮抗物質の投与が、対象の体表面積1m 2 あたり約1,000mgを1日2回である、本発明1028の方法。
[本発明1030]
抗HER2抗体が静脈内投与または皮下投与される、本発明1028または1029の方法。
[本発明1031]
対象における1つまたは複数の治療効果が、ベースラインと比べて、前記併用療法の投与後に改善される、本発明1001~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記1つまたは複数の治療効果が、がんに由来する腫瘍のサイズ、客観的奏効率、奏効持続期間、奏効までの期間、無増悪生存期間、および全生存期間からなる群より選択される、本発明1031の方法。
[本発明1033]
がんに由来する腫瘍のサイズが、前記併用療法の投与前の該がんに由来する該腫瘍のサイズと比べて少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%減少する、本発明1032の方法。
[本発明1034]
客観的奏効率が、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%である、本発明1032の方法。
[本発明1035]
対象が、前記併用療法の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年の無増悪生存期間を示す、本発明1032の方法。
[本発明1036]
対象が、前記併用療法の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年の全生存期間を示す、本発明1032の方法。
[本発明1037]
抗体-薬物コンジュゲートに対する奏効持続期間が、前記併用療法の投与後、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年である、本発明1032の方法。
[本発明1038]
対象が1つまたは複数の有害事象を有し、かつ
該1つもしくは複数の有害事象を無くすまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤が該対象にさらに投与される、
本発明1001~1037のいずれかの方法。
[本発明1039]
対象が、1つまたは複数の有害事象を発症するリスクがあり、かつ
該1つもしくは複数の有害事象を予防するまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤が該対象にさらに投与される、
本発明1001~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
1つまたは複数の有害事象が、グレード2以上の有害事象である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1041]
1つまたは複数の有害事象が、グレード3以上の有害事象である、本発明1040の方法。
[本発明1042]
1つまたは複数の有害事象が、重篤有害事象である、本発明1038~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
対象がヒトである、本発明1001~1042のいずれかの方法。
[本発明1044]
抗HER2抗体とツカチニブとを含む初回投与量レベルの併用療法による処置の開始後に有害事象を示した対象におけるHER2陽性がんを処置するための方法であって、低下した投与量レベルの該併用療法を該対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1045]
前記併用療法が化学療法剤をさらに含む、本発明1044の方法。
[本発明1046]
化学療法剤が代謝拮抗物質である、本発明1045の方法。
[本発明1047]
代謝拮抗物質が、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、本発明1046の方法。
[本発明1048]
代謝拮抗物質がカペシタビンである、本発明1047の方法。
[本発明1049]
1つまたは複数の有害事象が、グレード2以上の有害事象である、本発明1044~1048のいずれかの方法。
[本発明1050]
1つまたは複数の有害事象が、グレード3以上の有害事象である、本発明1049の方法。
[本発明1051]
有害事象が肝毒性である、本発明1044~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
有害事象が左室機能不全である、本発明1044~1050のいずれかの方法。
[本発明1053]
有害事象がQTc間隔延長である、本発明1044~1050のいずれかの方法。
[本発明1054]
がんが、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである、本発明1044~1053のいずれかの方法。
[本発明1055]
がんが、乳がんである、本発明1044~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
対象がトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた、本発明1044~1055のいずれかの方法。
[本発明1057]
ツカチニブの初回投与量レベルが、約300mgを1日2回である、本発明1044~1056のいずれかの方法。
[本発明1058]
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約250mgを1日2回である、本発明1044~1057のいずれかの方法。
[本発明1059]
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約200mgを1日2回である、本発明1044~1057のいずれかの方法。
[本発明1060]
ツカチニブの低下した投与量レベルが、約150mgを1日2回である、本発明1044~1057のいずれかの方法。
[本発明1061]
抗HER2抗体、ツカチニブ、化学療法剤、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
[本発明1062]
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、本発明1061の薬学的組成物。
[本発明1063]
抗HER2抗体がトラスツズマブである、本発明1061または1062の薬学的組成物。
[本発明1064]
抗HER2抗体が、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである、本発明1061または1062の薬学的組成物。
[本発明1065]
化学療法剤がカペシタビンである、本発明1061~1064のいずれかの薬学的組成物。
[本発明1066]
対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するためのキットであって、本発明1061~1065のいずれかの薬学的組成物を含む、キット。
[本発明1067]
使用説明書をさらに含む、本発明1066のキット。
[本発明1068]
1種類または複数種類の試薬をさらに含む、本発明1066または1067のキット。
本発明の他の目的、特徴、利点は、以下の詳細な説明および図面から当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】HER2増幅が複数のがん腫にわたって生じることを示す(Yan et al. Cancer Metastasis Rev.(2015) 34:157-164)。
図2】非小細胞肺がん(NSCLC)におけるHER2状態と生存との間の関係を示す(Journal of Thoracic Oncology. Vol. 3, Number 5, May 2008)。図2Aは、全生存期間(OS)に対するHER2状態の影響を示す。図2Bは、無増悪生存期間(PFS)に対するHER2状態の影響を示す。
図3A】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2増幅結腸直腸がん(CRC)患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.E.Mとして示した。図3Aは、CTG-0121 CRC PDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図3B】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2増幅結腸直腸がん(CRC)患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.E.Mとして示した。図3Bは、CTG-0784 CRC PDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図3C】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2増幅結腸直腸がん(CRC)患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.E.Mとして示した。図3Cは、CTG-0383 CRC PDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図4】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2増幅食道がん患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.E.Mとして示した。図4Aは、CTG-0137食道がんPDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。図4Bは、CTG-0138食道がんPDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図5A】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2陽性胃がん患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.Dとして示した。図5Aは、GXA3038胃がんPDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図5B】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2陽性胃がん患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.Dとして示した。図5Bは、GXA3039胃がんPDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図5C】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2陽性胃がん患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.Dとして示した。図5Cは、GXA3054胃がんPDXモデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
図6】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがCTG-0927 HER2陽性胆管がん患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて活性があったことを示す。データを平均+/-S.E.Mとして示した。
図7】ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせがHER2陽性非小細胞肺がん(NSCLC)モデルにおいて活性があったことを示す。データを群平均+/-S.E.Mとして示した。図7Aは、Calu-3 NSCLC異種移植片モデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。図7Bは、NCI-H2170 NSCLC異種移植片モデルにおける腫瘍増殖に対するツカチニブ単独およびトラスツズマブ単独ならびにこれらの組み合わせの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
I.序論
HER2遺伝子増幅は多くの異なるがん腫において生じる。例えば、図1は、37,992個の試料を分析した試験におけるHER2陽性がんの有病率をまとめたものである(Yan et al. Cancer Metastasis Rev.(2015) 34:157-164)。この試験では試料が中央検査室で評価され、腫瘍HER2状態が免疫組織化学(IHC)を用いて確かめられた。試料は、IHCスコアが3+の場合にHER2陽性だと確かめられた。図1に示したがんのいくつかは試験責任者主導試験においてツカチニブに応答するか、または抗HER2療法を用いた治療が認められている。
【0018】
毎年、約130,000人の患者が診断される結腸直腸がん(CRC)では、HER2増幅は症例全体の約3.5%で発見され、腫瘍がKRAS、NRAS、およびBRAFの野生型遺伝子型を有する症例の約6~10%で発見される。治療アプローチとして、CRC処置のためにHER2を標的とすることが、例えば、抗HER2抗体トラスツズマブとチロシンキナーゼインヒビターラパチニブの組み合わせの有効度を評価したHERACLES試験の結果によって検証されている。HERACLES試験では、914人の転移性CRC患者(エキソン2(コドン12および13)に野生型KRAS遺伝子型を有する)をスクリーニングした。これらの患者のうち48人(5%)にHER2陽性腫瘍があった。この試験では、30%の客観的奏効率(ORR)が観察された(1人の患者が完全奏効、27人の患者が部分奏効であった)。さらに、27人の患者(44%)のうち12日に安定病態があった。患者全員が抗体セツキシマブまたはパニツムマブによって以前に処置されたことがあり、ORRは0%であった。さらに、抗HER2抗体トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせが、この患者集団において活性があることが示された。38%のORRと54%の臨床的有用率が観察され、患者全員にわたる無増悪期間の中央値は5.6ヶ月であった。
【0019】
毎年診断される約16,980件の食道がんの新規症例のうち(特に、この割合は中国では約20~30倍になる)、HER2陽性腫瘍の発生率は約20%である。CRCと同様に、胃がんおよび食道がんにおけるHER2を標的とすることが治療アプローチとして検証されている。化学療法単独と比較して、トラスツズマブとシスプラチンまたはフルオロピリミジンの組み合わせの有効度を評価したTOGA試験では、併用療法によって全生存期間が2.7ヶ月延長した(13.8ヶ月対11.1ヶ月、0.74のハザード比(95%C.I.0.60~0.91,p=0.0046))。さらに、GATSBY試験では、第一選択フルオロピリミジン+白金療法(HER2標的薬剤を伴う、または伴わない)の間または後に疾患進行を示した患者においてアドトラスツズマブエムタンシン(T-DM1とも知られる)対タキサンを評価した。
【0020】
2017年には約200,000件の新規症例が診断されると予測された非小細胞肺がん(NSCLC)では、この腫瘍の約3%にHER2増幅が生じる。標準化学療法で処置したHER2陽性NSCLC患者では全生存期間と無増悪生存期間が短くなる傾向が観察されたが(図2)。今までHER2 3+/FISH+患者に焦点を当てた臨床試験は無く、HER2陽性NSCLCを特異的に処置するためのアルゴリズムは実施されていなかった(Cancer (2004) 104:2149-2155; Annals of Oncology (2004) 15:19-27)。さらに、HER2増幅は上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼインヒビター(TKI)に対する獲得耐性機構として働くことがある。12%までのEGFR変異NSCLC腫瘍に、(EGFR T790M変異とは無関係に生じる)HER2増幅がある。この患者集団はHER2選択的療法に応答する可能性が低い。
【0021】
本発明は、低分子TKIツカチニブと抗HER2抗体トラスツズマブの組み合わせがBT-474 HER2増幅乳腺腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍退縮をもたらし、HER2増幅が前記のように多くのがんに存在するという観察に一部基づいている。非臨床データは、HER2陽性転移乳がんを処置するためのONT-380-005二重(doublet)試験において観察されたツカチニブおよびトラスツズマブの活性によって検証されている。本発明はまた、ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせが、CRC、食道がん、胃がん、胆管がん、およびNSCLCを含む他のいくつかのHER2陽性腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍増殖を抑制するのに有効だという発見に一部基づいている。
【0022】
II.定義
具体的に特に明記してあるものを除いて、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。さらに、本明細書に記載の方法または材料と同様または等価な任意の方法または材料を本発明の実施において使用することができる。本発明の目的のために、以下の用語を定義する。
【0023】
本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、または「その(the)」という用語は1つのメンバーを用いた局面を含むだけでなく、複数のメンバーを用いた局面も含む。例えば、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特に文脈によってはっきりと規定されていない限り複数の指示物を含む。従って、例えば、「1個の細胞」についての言及は複数のこのような細胞を含み、「その薬剤」についての言及は、当業者に公知の1個または複数の薬剤などについての言及を含む。
【0024】
本明細書で使用する「約(about)」および「約(approximately)」という用語は、一般的に、測定値の内容または精度が与えられている場合、測定された量の許容可能な誤差の程度を意味するものとする。代表的で例示的な誤差の程度は、ある特定の値または値の範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。「約X」についての言及は、具体的には、少なくとも、値X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1.01X、1.02X、1.03X、1.04X、および1.05Xを示している。従って、「約X」は、例えば、「0.98X」のクレーム制限(claim limitation)のために書面による説明の裏付けを開示および提供することが意図される。
【0025】
または、生物学的系では「約(about)」および「約(approximately)」という用語は、ある特定の値の1桁以内の値、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内の値を意味する場合がある。本明細書において示される数量は、特に明記してあるものを除いて概算値であり、「約(about)」または「約(approximately)」という用語は明記されていない時は推測できることを意味する。
【0026】
「約」が数値範囲の最初に適用される場合、この範囲の両端に適用される。従って、「約5~20%」は「約5%~約20%」と等価である。「約」が一組の値の最初の値に適用された時、この組の中の全ての値に適用される。従って、「約7mg/kg、9mg/kg、または11mg/kg」は「約7mg/kg、約9mg/kg、または約11mg/kg」と等価である。
【0027】
本明細書で使用する「または」という用語は、一般的に、排他的でないと解釈すべきである。例えば、「AまたはBを含む組成物」というクレームは、典型的には、一局面に、AとBを両方とも含む組成物を与えるだろう。しかしながら、「または」は、矛盾無しでは組み合わせることができない、示された局面を除外すると解釈すべきである(例えば、9~10または7~8の組成物pH)。
【0028】
「AまたはB」という句は、典型的に、「AおよびBからなる群より選択される」という句と同等である。
【0029】
本明細書で使用する「含む(comprising)」という用語は、一般的に、追加の要素を除外しないと解釈すべきである。例えば、「Aを含む組成物」というクレームは、AおよびB;A、B、およびC;A、B、C、およびD;A、B、C、D、およびEなどを含む組成物を含む。
【0030】
本明細書で使用する「対象」、「個体」、および「患者」という用語は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指すために本明細書において同義に用いられる。哺乳動物には、マウス、ラット、サル、ヒト、家畜、スポーツ動物、およびペットが含まれるが、これに限定されない。インビボで得られたか、またはインビトロで培養された生物学的実体の組織、細胞、およびその子孫も含まれる。
【0031】
本明細書で使用する「治療有効量」という用語は、示された障害、状態、または精神状態に関して望ましい結果を生じるのに十分な投与量を含む。望ましい結果は投薬のレシピエントの主観的改善を含んでもよく客観的改善を含んでもよい。例えば、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせの有効量は、がん(例えば、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、または胆道がん)の徴候、症状、影響、または原因を軽減するのに十分な量を含む。別の例として、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせの有効量は、転移がんまたはHER2陽性がんの徴候、症状、影響、または原因を軽減するのに十分な量を含む。別の例として、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせの有効量は、がんの発症を予防するのに十分な量を含む。
【0032】
従って、治療有効量は、腫瘍増殖を遅らせる、逆転させる、もしくは阻止するか、生存期間を延ばすか、または腫瘍進行もしくは転移を抑制する量であり得る。また、例えば、抗HER2抗体とツカチニブの有効量は対象に投与された時に、がんを有する対象において大幅な改善を引き起こすのに十分な量を含む。有効量は、処置されているがんのタイプおよびステージ、投与される1種類または複数種類の組成物(例えば、抗HER2抗体とツカチニブを含む)のタイプおよび濃度、ならびに同様に投与される他の薬物の量によって変化する場合がある。
【0033】
本明細書における目的のために、治療有効量は、当技術分野において公知であり得るような考慮すべき事項によって決定される。この量は、がんに罹患している対象において望ましい治療効果を実現するのに有効な量でなければならない。治療有効量は、とりわけ、処置しようとする疾患のタイプおよび重篤度ならびに処置レジメンに左右される。治療有効量は、典型的には、適切に設計された臨床試験(例えば、用量範囲試験)において求められ、当業者は、治療有効量を求めるために、このような試験を正しく行うやり方を知っている。一般に知られているように、治療有効量は、体内の治療剤(例えば、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせ)または組成物の分布プロファイル、様々な薬理学的パラメータ(例えば、体内での半減期)と望ましくない副作用との間の関係、ならびに他の要因、例えば、年齢および性別などを含む様々な要因に左右される。
【0034】
「生存」または「生存期間」という用語は、疾患診断後の時間の長さ、または疾患(例えば、がん)に対する療法のある特定の経過の開始、もしくは疾患(例えば、がん)に対する療法のある特定の経過の完了を指す。「全生存期間」という用語は、がんなどの疾患と診断された後、またはがんなどの疾患に対して処置された後、規定の期間にわたって生存している患者を表した臨床エンドポイントを含む。「無病生存期間」という用語は、特定の疾患(例えば、がん)に対する処置後、疾患の兆候無く(例えば、既知の再発無く)患者が生存している時間の長さを含む。ある特定の態様において、無病生存期間は、ある特定の療法の有効性を評価するのに用いられる臨床パラメータであり、通常、1年または5年の単位で測定される。「無増悪生存期間(PFS)」という用語は、特定の疾患(例えば、がん)のさらなる症状無く、患者が疾患を持って生きている、特定の疾患(例えば、がん)に対する処置中および処置後の時間の長さを含む。一部の態様において、PFSは中枢神経系(CNS)PFSまたは非CNS PFSとして評価される。一部の態様において、生存は中央値または平均値で表される。
【0035】
本明細書で使用する「処置する」という用語は、レシピエントの健康状態(例えば、患者のがん状態)に有益な変化を生じるための方法および操作を含むが、これに限定されない。この変化は主観的でも客観的でもよく、処置されているがんの症状または徴候などの特徴と関連することがある。例えば、患者が疼痛の減少に気付けば、疼痛の処置が成功したことになる。例えば、腫脹の量が減少したら有益な炎症処置が生じたことになる。同様に、臨床家が、がん細胞数、がん細胞の増殖、がん腫瘍のサイズ、または別のがん薬物に対するがん細胞の耐性の低下などの客観的変化に気付けば、がんの処置も有益だったことになる。この用語には、レシピエントの状態の悪化の予防も含まれる。本明細書で使用する、処置する、はまた、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせを、がん(例えば、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、または胆道がん)を有する患者に投与することも含む。
【0036】
「投与する」および「投与」という用語は、対象への経口投与、局部接触、坐剤としての投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、腫瘍内投与、くも膜下腔内投与、鼻腔内投与(例えば、吸入、鼻用ミスト(nasal mist)もしくは点鼻剤)、または皮下投与、または徐放性装置、例えば、ミニ浸透圧ポンプ(mini-osmotic pump)の移植を含む。投与は、非経口経路および経粘膜経路(例えば、頬経路、舌下経路、口蓋経路、歯肉経路、鼻経路、膣経路、直腸経路、または経皮経路)を含む任意の経路によるものである。非経口投与には、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、小動脈内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、室内投与、および頭蓋内投与が含まれる。他の送達方法には、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチなどの使用が含まれるが、これに限定されない。当業者は、がんに関連する1つまたは複数の症状を予防または緩和するために、本発明の方法に従って、治療的有効量の、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせを投与するための、さらなる方法のことを知っている。
【0037】
本明細書で使用する「共投与する」という用語は、2種類以上の構造的に異なる化合物を連続して、または同時に投与することを含む。例えば、2種類以上の構造的に異なる薬学的に活性化合物は、2種類以上の構造的に異なる、活性な、薬学的に活性な化合物を含有する、経口投与に合わせられた薬学的組成物を投与することによって共投与することができる。別の例として、2種類以上の構造的に異なる化合物は、ある化合物を投与し、次いで、他の化合物を投与することによって共投与することができる。2種類以上の構造的に異なる化合物は抗HER2抗体とツカチニブで構成されてもよい。場合によっては、共投与される化合物は同じ経路によって投与される。他の場合では、共投与される化合物は異なる経路によって投与される。例えば、ある化合物は経口投与されてもよく、他の化合物は、例えば、連続して、または同時に、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または腹腔内注射を介して投与されてもよい。同時に、または連続して投与される化合物または組成物は、抗HER2抗体とツカチニブが対象または細胞において有効な濃度で同時に存在するように投与されてもよい。
【0038】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」という用語は、細胞、生物、または対象への活性薬剤の投与を助ける物質を指す。「薬学的に許容される担体」は、本発明の組成物に含めることができき、対象に対して著しい毒物学的有害作用を引き起こさない担体または賦形剤を指す。薬学的に許容される担体の非限定的な例には、水、NaCl、生理食塩水、乳酸加リンゲル、正常スクロース(normal sucrose)、正常グルコース(normal glucose)、結合剤、増量剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング、甘味料、着香剤および顔料、リポソーム、分散媒、マイクロカプセル、カチオン性脂質担体、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。担体はまた、製剤に安定性、無菌性、および等張性をもたらすための物質(例えば、抗菌性防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、および緩衝剤)、微生物の働きを防ぐための物質(例えば、抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など)、または製剤に食品フレーバーなどをもたらすための物質でもよい。場合によっては、担体は、標的細胞または標的組織への低分子薬物または抗体の送達を容易にする薬剤である。当業者は、他の薬学的担体が本発明において有用なことを認める。
【0039】
本明細書で使用する「がん」という用語は、異常細胞の制御されてない増殖を特徴とする疾患クラスのメンバーを含むことが意図される。この用語は、進行がん、再発がん、転移前がん、および転移後がんを含む全てのステージおよびグレードのがんを含む。この用語はまたHER2陽性がんも含む。薬剤耐性および多剤耐性のがんも含まれる。本発明の方法に従う処置に適したがんには、結腸直腸がん、胃がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC))、胆道がん(例えば、胆管がん、胆嚢がん)、膀胱がん、食道がん、黒色腫、卵巣がん、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん、小腸がん、頭頚部がん、子宮がん、乳がん、および子宮頚部がんが含まれる。場合によっては、原発不明がんが、特に、HER2陽性の場合に適している。一部の態様において、がんは(例えば、脳に)転移している。本明細書で使用する「腫瘍」は1つまたは複数のがん細胞を含む。この用語によってがんの組み合わせは除外されない。
【0040】
がんという面に関して「ステージ」という用語はがんの程度の分類を指す。がんを病期分類する時に考慮される要因には、腫瘍サイズ、近くの組織への腫瘍浸潤、および腫瘍が他の部位に転移したかどうかが含まれるが、これに限定されない。がんのタイプに応じて、あるステージを別のステージと区別するための特定の基準およびパラメータは変化することがある。がん病期分類は、例えば、予後の決定または最も適した処置選択肢の特定を助けるために用いられる。
【0041】
がん病期分類の非限定的な一例は「TNM」病期分類と呼ばれる。TNM病期分類では、「T」は主な腫瘍のサイズおよび程度を指し、「N」は、がんが広がった近くのリンパ節の数を指し、「M」は、がんが転移したかどうかを指す。「TX」は、主な腫瘍を測定できないことを示し、「T0」は、主な腫瘍を発見できないことを示し、「T1」、「T2」、「T3」、および「T4」は、主な腫瘍のサイズまたは程度を示し、数が大きいことは、腫瘍が大きいこと、または近くの組織まで増殖した腫瘍と対応する。「NX」は、近くのリンパ節においてがんを測定できないことを示し、「N0」は、近くのリンパ節にがんが無いことを示し、「N1」、「N2」、「N3」、および「N4」は、がんが広がったリンパ節の数および位置を示し、数が大きいことは、がんがあるリンパ節の数が多いことと対応する。「MX」は、転移を測定できないことを示し、「M0」は、転移が発生していなかったことを示し、「M1」は、がんが他の身体部分に転移したことを示す。
【0042】
がん病期分類の別の非限定的な例として、がんは、5つのステージ:「ステージ0」、「ステージI」、「ステージII」、「ステージIII」、または「ステージIV」のうちの1つを有すると分類または段階分けされる。ステージ0は異常細胞が存在することを示すが、近くの組織に広がっていない。これはまた一般に上皮内がん(CIS)とも呼ばれる。CISはがんではないが、後でがんになることがある。ステージI、II、およびIIIはがんが存在することを示す。数が大きいことは、腫瘍サイズ、または近くの組織に広がった腫瘍が大きいことと対応する。ステージIVは、がんが転移していることを示す。当業者は様々ながん病期分類に精通しており、それらを容易に適用できるか、または読み取ることができる。
【0043】
「HER2」(HER2/neu、ERBB2、CD340、受容体チロシン-プロテインキナーゼerbB-2、がん原遺伝子Neu、およびヒト上皮増殖因子受容体2とも知られる)という用語は、受容体型チロシンキナーゼのヒト上皮増殖因子受容体(HER/EGFR/ERBB)ファミリーのメンバーを指す。HER2の増幅または過剰発現は、結腸直腸がん、胃がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC))、胆道がん(例えば、胆管がん、胆嚢がん)、膀胱がん、食道がん、黒色腫、卵巣がん、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん、小腸がん、頭頚部がん、子宮がん、子宮頚部がん、および乳がんを含む、ある特定の高悪性度タイプのがんの発生および進行において大きな役割を果たしている。HER2ヌクレオチド配列の非限定的な例を、GenBank参照番号NP_001005862、NP_001289936、NP_001289937、NP_001289938、およびNP_004448に示した。HER2ペプチド配列の非限定的な例を、GenBank参照番号NP_001005862、NP_001276865、NP_001276866、NP_001276867、およびNP_004439に示した。
【0044】
HER2が細胞内または細胞表面で増幅または過剰発現している場合、この細胞は「HER2陽性」と呼ばれる。HER2陽性細胞におけるHER2増幅または過剰発現のレベルは、通常、0~3のスコア(すなわち、HER2 0、HER2 1+、HER2 2+、またはHER2 3+)で表され、スコアが大きいことは発現の程度が大きいことと対応する。
【0045】
ONT-380およびARRY-380とも知られる「ツカチニブ」という用語は、HER2活性化を抑止またはブロックする低分子チロシンキナーゼインヒビターを指す。ツカチニブは、以下の構造
を有する。
【0046】
「抗HER2抗体」という用語は、HER2タンパク質に結合する抗体を指す。がんの処置に用いられる抗HER2抗体は典型的にはモノクローナルであるが、この用語によってポリクローナル抗体は除外されない。抗HER2抗体は様々な機構によってHER2活性化または下流シグナル伝達を阻害する。非限定的な例として、抗HER2抗体は、リガンド結合、受容体活性化、もしくは受容体シグナル伝達を阻止することができるか、HER2発現もしくは細胞表面への局在化を減らすことができるか、HER2切断を阻害することができるか、または抗体媒介性細胞傷害を誘導することができる。本発明の方法および組成物における使用に適した抗HER2抗体の非限定的な例には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン(T-DM1とも知られる)、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0047】
「化学療法剤」という用語は、がんまたはその症状の処置または改善に有用な化合物グループを指す。一部の態様において、化学療法剤には、抗腫瘍性アルキル化薬(例えば、ナイトロジェンマスタード、例えば、メクロラタミン(mechlorathamine)、イスフォスファミド(isfosfamide)、メルファラン、クロランブシル、およびシクロホスファミド;アルキルスルホナート、例えば、ブスルファン;ニトロソ尿素、例えば、ストレプトゾシン、カルムスチン、およびロムスチン;トリアジン、例えば、ダカルバジンおよびテモゾロミド;ならびにエチレンイミン、例えば、チオテパおよびアルトレタミン)、代謝拮抗物質(下記を参照されたい)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、アントラサイシン(anthracycin)、例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、およびバルルビシン;ブレオマイシン;マイトマイシンC、ミトキサントロン、およびアクチノマイシン)、アロマターゼインヒビター(例えば、ステロイド性インヒビター、例えば、エキセメスタン;ならびに非ステロイド性インヒビター、例えば、アナストロゾールおよびレトロゾール)、キナーゼインヒビター(例えば、チロシンキナーゼインヒビター、例えば、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、スニチブニブ(sunitibnib)、およびソラフェニブ;ならびに、例えば、ボスニチニブ(bosunitinib)、ネラチニブ、バタラニブ、およびトセラニブ(toceranib))、mTorインヒビター(例えば、ラパマイシンおよびその類似体、例えば、テムシロリムス、エベロリムス、およびリダフォロリムス;二重PIcK/mTORインヒビター;ならびにATP競合性mTORインヒビター、例えば、サパニセルチブ(sapanisertib))、レチノイド(例えば、トレチノイン、アリトレチノイン、ベキサロテン、およびイソトレチノイン)、トポイソメラーゼインヒビター(例えば、ドキソルビシン、エトポシド、テニポシド、ミトキサントロン、ノボビオシン、メルバロン、アクラツブシン(aclatubicin)、カンプトテシン、およびカンプトテシンプロドラッグまたは誘導体、例えば、イリノテカンおよびトポテカン(topothecan))、ならびに植物アルカロイド(例えば、ビンカアルカロイドであるビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン、およびビンデシン;タキサン、例えば、ドセタキセルおよびパクリタキセル)が含まれる。
【0048】
「代謝拮抗物質」という用語は、がんの処置において有用な化合物グループを指す。代謝拮抗物質は、典型的には、通常代謝される化合物、例えば、葉酸、プリン、またはピリミジンと構造が似ており、そのため、構造的に似ている化合物を組み込んだ代謝プロセスを妨害するのを可能にする。例えば、代謝拮抗物質5-フルオロウラシル(「フルオロウラシル」)は、化合物ウラシルを組み込んだ代謝経路を妨害する。一部の態様において、代謝拮抗物質には、ピリミジンアンタゴニスト、例えば、カペシタビン、シタラビン、デシタビン、フルオロウラシル、およびゲムシタビン;プリンアンタゴニスト、例えば、フルダラビンおよび6-メルカプトプリン;ならびに葉酸アンタゴニスト、例えば、メトトレキセートおよびペルメトレキセド(permetrexed)が含まれる。一部の態様において、代謝拮抗物質には、カルモフール、シタラビン、ドキシフルリジン、フロクスウリジン、フルオロウラシル、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、ペルメトレキセド、およびテガフールが含まれる。一部の態様において、代謝拮抗物質(例えば、フルオロピリミジン)には、カペシタビン、カルモフール、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、およびテガフール(好ましくは、カペシタビン)が含まれる。
【0049】
「カペシタビン」という用語は、以下の構造
を有するフルオロウラシルプロドラッグを指す。カペシタビンは肝臓および組織の中で加水分解されて、活性部分であるフルオロウラシルを形成する。フルオロウラシルは、チミジル酸合成酵素を阻害する、デオキシウリジル酸からチミジル酸のメチル化をブロックする、DNAを妨害する、それより少ない程度でRNA合成を妨害するフッ化ピリミジン代謝拮抗物質である。
【0050】
「腫瘍増殖抑制(TGI)率」という用語は、未処置対照と比較した時に、薬剤(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、またはそれらの組み合わせ)が腫瘍増殖を抑制する程度を表すために用いられる値を指す。TGI率は、ある特定の時点(実験的試験または臨床試験の特定の日数)については、以下の式
に従って計算される。式中、「Tx0日目」は、処置が投与される初めての日(すなわち、実験的療法または対照療法(例えば、ビヒクルのみ)が投与された初めての日)を示し、「TxX日目」は、0日目の後、X日経った日を示す。典型的には、処置群および対照群の平均体積を使用した。非限定的な例として、試験0日目が「Tx0日目」に対応し、TGI率が試験28日目(すなわち、「Tx28日目」)に計算される実験では、試験0日目における両群の平均腫瘍量が250mm3であり、実験群および対照群の平均腫瘍量が、それぞれ、125mm3および750mm3であれば、28日目におけるTGI率は125%である。
【0051】
本明細書で使用する「相乗的な」または「相乗作用」という用語は、成分または薬剤の組み合わせ(例えば、ツカチニブと抗HER2抗体の組み合わせ)の投与が、個々の成分の相加的な特性または効果に基づいて予想される効果よりも大きな効果(例えば、腫瘍増殖の抑制、生存期間の延長)を生じる時に観察された結果を指す。一部の態様において、相乗作用はブリス(Bliss)分析を行うことによって確かめられる(例えば、Foucquier et al. Pharmacol. Res. Perspect. (2015) 3(3):e00149を参照されたい; 全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。Bliss Independenceモデルは、薬物効果が確率的なプロセスのアウトカムだと仮定し、薬物が完全に独立して作用すると仮定する(すなわち、薬物は互いに干渉しない(例えば、薬物の作用部位が異なる)が、それぞれが、共通の結果に寄与する)。Bliss Independenceモデルによれば、2種類の薬物の組み合わせの予測された効果は、以下の式:
EAB=EA+EB-EA×EB
を用いて計算される。式中、EAおよびEBは、それぞれ、薬物AおよびBの効果を表し、EABは薬物AおよびBの組み合わせの効果を表す。組み合わせの観察された効果が、予測された効果EABより大きい時、2種類の薬物の組み合わせは相乗的だとみなされる。組み合わせの観察された効果がEABに等しい時、2種類の薬物の組み合わせの効果は相加的だとみなされる。または、組み合わせの観察された効果がEABより小さい時、2種類の薬物の組み合わせは拮抗的だとみなされる。
【0052】
薬物の組み合わせの観察された効果は、例えば、TGI率、腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)、2つ以上の時点間での(例えば、処置が投与される初めての日と、最初に処置が投与されて、ある特定の日数が経った後の日との間での)腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)の絶対的変化、2つ以上の時点間での(例えば、処置が投与される初めての日と、最初に処置が投与されて、ある特定の日数が経った後の日との間での)腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)の変化の速度、または対象もしくは対象の集団の生存期間に基づいてもよい。TGI率が、薬物の組み合わせの観察された効果の尺度とみなされる場合、TGI率は1つまたは複数の時点で求めることができる。TGI率が2つ以上の時点で求められる時、場合によっては、複数のTGI率の平均または中央値を、観察された効果の尺度として使用することができる。さらに、TGI率は1人の対象または対象の集団において求めることができる。TGI率が集団において求められる場合、(例えば、1つまたは複数の時点での)集団におけるTGI率の平均または中央値を、観察された効果の尺度として使用することができる。腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度を、観察された効果の尺度として使用する場合、腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度は対象または対象の集団において測定することができる。場合によっては、腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度の平均または中央値は、1人の対象については2つ以上の時点で、または対象の集団間では1つもしくは複数の時点で求められる。生存期間が集団において測定される時、生存期間の平均または中央値は、観察された効果の尺度として使用することができる。
【0053】
予測された組み合わせ効果EABは、単一用量または複数用量いずれかの、組み合わせを構成する薬物(例えば、ツカチニブおよび抗HER2抗体)を用いて計算することができる。一部の態様では、予測された組み合わせ効果EABは、それぞれの薬物AおよびB(例えば、ツカチニブおよび抗HER2抗体)の単一用量だけを用いて計算され、値EAおよびEBは、単一薬剤として投与された時の、それぞれの薬物の観察された効果に基づいている。EAおよびEBの値が、薬物AおよびBを単一薬剤として投与した観察された効果に基づいている時、EAおよびEBは、例えば、各処置群における対象もしくは対象の集団のTGI率、1つもしくは複数の時点で測定された腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)、2つ以上の時点間での(例えば、処置が投与される初めての日と、最初に処置が投与されて、ある特定の日数が経った後の日との間での)腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)の絶対的な変化、2つ以上の時点間での(例えば、処置が投与される初めての日と、最初に処置が投与されて、ある特定の日数が経った後の日との間での)腫瘍サイズ(例えば、体積、かさ)の変化の速度、または生存期間に基づいていてもよい。
【0054】
TGI率が、観察された効果の尺度とみなされる時、TGI率は1つまたは複数の時点で求めることができる。TGI率が2つ以上の時点で求められる時、場合によっては、平均または中央値は、観察された効果の尺度として使用することができる。さらに、TGI率は、各処置群における1人の対象もしくは対象の集団において求めることができる。TGI率が対象の集団において求められる時、(例えば、1つまたは複数の時点での)各集団におけるTGI率の平均または中央値は、観察された効果の尺度として使用することができる。腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度が、観察された効果の尺度として用いられる時、腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度は、各処置群中の対象または対象の集団において測定することができる。場合によっては、対象について2つ以上の時点で、または対象の集団の中で1つもしくは複数の時点で、腫瘍サイズまたは腫瘍増殖速度の平均または中央値が求められる。生存期間が集団において測定される時、生存期間の平均または中央値は、観察された効果の尺度として使用することができる。
【0055】
一部の態様において、予測された組み合わせ効果EABは、ある範囲の用量を用いて計算される(すなわち、単一薬剤として投与された時の各薬物の効果が複数の用量で観察され、特定の用量での予測された組み合わせ効果を求めるために、複数の用量で観察された効果が用いられる)。非限定的な例として、EABは、以下の式
に従って計算されたEAおよびEBの値を用いて計算することができる。式中、EAmaxおよびEBmaxは、それぞれ、薬物AおよびBの最大効果であり、A50およびB50は、それぞれ、薬物AおよびBの有効用量の最大半量であり、aおよびbは、それぞれ、薬物AおよびBの投与される用量であり、pおよびqは、それぞれ、薬物AおよびBの用量反応曲線の形から導き出された係数である(例えば、Foucquier et al. Pharmacol. Res. Perspect. (2015) 3(3):e00149を参照されたい)。
【0056】
一部の態様において、2種類以上の薬物の組み合わせは、薬物の組み合わせについて予測されたTGI率よりも大きな、観察されたTGI率を生じる時に(例えば、予測されたTGI率は、これらの薬物が相加的な併用効果を生じるという前提に基づく時に)相乗的だとみなされる。場合によっては、観察されたTGI率が、薬物の組み合わせについて予測されたTGI率よりも少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%大きくなる時に、組み合わせは相乗的だとみなされる。
【0057】
一部の態様において、薬物の組み合わせが相乗的かどうか確かめるために、腫瘍増殖速度(例えば、腫瘍のサイズ(例えば、体積、かさ)の変化の速度)が用いられる(例えば、薬物の組み合わせが相加効果を生じる場合に予想されるものよりも腫瘍増殖速度が遅くなる時に、薬物の組み合わせは相乗的である)。一部の態様において、薬物の組み合わせが相乗的かどうか確かめるために生存期間が用いられる(例えば、薬物の組み合わせが相加効果を生じる場合に予想されるものよりも対象または対象の集団の生存期間が長くなる時に、薬物の組み合わせは相乗的である)。
【0058】
「KRAS」という用語は、KRAS GTPアーゼをコードする遺伝子を指す。KRAS遺伝子はV-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルスがん遺伝子ホモログ、K-Ras、C-Ki-RAS、K-Ras2、KRAS2、およびトランスフォーミングタンパク質p21とも知られる。ヒトでは、KRASは第12番染色体に位置し、4つのコーディングエキソンおよび5’ノンコーディングエキソンを含有する。KRASはGTPアーゼのRasサブファミリーのメンバーであり、主として細胞増殖および分裂の調節に関与する。特に、KRASは、RAS/MAPK経路を介してシグナルを細胞表面から(例えば、活性化HER2受容体から)細胞核に中継する。KRASの変異、特に、活性化変異(例えば、構成的に活性なGTP結合状態および下流の増殖性シグナル伝達経路の活性化をもたらす変異)が特定されており、場合によっては、抗HER2療法に対する不十分な応答と相関関係にある。KRASの変異はヒトではCRCの約35%~45%において見出され、特に、(エキソン2の中に見出される)コドン12および13は変異ホットスポットであり、KRAS変異の約95%は、これらの2つのコドンの1つに位置する。CRCにおいて見出される、よくあるKRAS変異には、G12D、G12A、G12R、G12C、G12S、G12V、およびG13Dが含まれる。KRAS mRNA配列の非限定的な例を、GenBank参照番号NM_004985→NP_004976およびNM_033360→NP_203524に示した。
【0059】
「NRAS」という用語は、NRAS GTPアーゼをコードする遺伝子を指す。NRAS遺伝子は、神経芽細胞腫Rasウイルスがん遺伝子ホモログ、N-Ras、NRAS1、CMNS、およびALPS4とも知られる。ヒトでは、KRASは第1番染色体に位置し、7つのエキソンを保存する。NRASは、GTPアーゼのRasサブファミリーのメンバーであり、細胞増殖および分裂の調節に関与する。特に、NRASは、RAS/MAPK経路を介してシグナルを細胞表面から(例えば、活性化HER2受容体から)細胞核に中継する。NRAS活性化変異(例えば、構成的に活性なGTP結合状態および下流の増殖性シグナル伝達経路の活性化をもたらす変異)は、場合によっては、抗HER2療法に対する不十分な応答と相関関係にある。結腸直腸がんにおいて特定されている変異には、I263T、S310F、A466T、R678Q、L755S、V777L、V842I、R868W、およびN1219Sが含まれる。NRAS mRNA配列の非限定的な例をGenBank参照番号NM_002524→NP_002515に示した。
【0060】
「BRAF」という用語は、B-Rafセリン/スレオニンキナーゼをコードする遺伝子を指す。BRAF遺伝子は、がん原遺伝子B-Raf、v-Rafマウス肉腫ウイルスがん遺伝子ホモログB、B-RAF1、BRAF1、NS7、B-Raf、およびRAFB1とも知られる。ヒトでは、BRAFは第7番染色体に位置する。B-RafはRafキナーゼファミリーのメンバーであり、細胞増殖および分裂の調節に関与する。特に、B-RafはRAS/MAPK経路を介してシグナルを細胞表面から(例えば、活性化HER2受容体から)細胞核に中継する。BRAFの変異は、ある特定のがんの発生に結び付けられ、場合によっては、抗HER2療法に対する不十分な応答と関連付けられる。V600E BRAF変異は結腸直腸がんにおいて特定されている。特定されている、さらなるBRAF変異には、R461I、I462S、G463E、G463V、G465A、G465E、G465V、G468A、G468E、N580S、E585K、D593V、F594L、G595R、L596V、T598I、V599D、V599E、V599K、V599R、V600K、およびA727Vが含まれる。NRAS mRNA配列の非限定的な例をGenBank参照番号NM_004333→NP_004324に示した。
【0061】
III.態様の説明
A.がんを処置および改善するための方法
一局面において、本発明は、対象におけるがん(例えば、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、またはそれらの組み合わせ)の影響を処置または改善するための方法であって、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせを対象に投与する段階を含む、方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、前記方法は、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)を投与する段階をさらに含む。いくつかの好ましい態様では、がんはHER2陽性(例えば、HER21+、2+、または3+)がんである。一部の態様において、がんは転移がんである。場合によっては、がんはHER2陽性転移がんである。一部の態様において、がんは切除不能局所進行がんである。
【0062】
本発明の方法に従うがんの処置または改善に適した抗HER2抗体には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これに限定されない。一部の態様において、抗HER2抗体はトラスツズマブを含む。一部の態様において、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせを含む。
【0063】
本発明の方法は、様々な固形腫瘍、特にHER2陽性転移がんを含む任意の数のがんを予防または処置するのに適している。一部の態様において、処置または改善されるがんのタイプは、結腸直腸がん、胃がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC))、胆道がん(例えば、胆管がん、胆嚢がん)、膀胱がん、食道がん、黒色腫、卵巣がん、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん、小腸がん、頭頚部がん、子宮がん、乳がん、および子宮頚部がんからなる群より選択される。場合によっては、前記方法は、原発不明タイプのHER2陽性がんを処置するのに適している。一部の態様において、処置または改善されるがんは、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、および胆道がんからなる群より選択される。いくつかの好ましい態様では、がんは乳がんである。
【0064】
一部の態様において、がんは進行がんである。一部の態様において、がんは薬剤耐性がんである(例えば、がんはセツキシマブまたはパニツムマブに対して抵抗性である)。場合によっては、がんは多剤耐性がんである。一部の態様において、対象は、再発性であるか、処置されているがんの標準治療である1種類または複数種類の薬物または療法に対して難治性であるか、または抵抗性であるがんを有する。場合によっては、対象は、再発性であるか、セツキシマブまたはパニツムマブを含む標準治療に対して難治性であるか、または抵抗性であるがんを有する。一部の態様において、患者は、フルオロピリミジン(例えば、5-フルオロウラシル、カペシタビン)、オキサプラチン(oxalaplatin)、イリノテカン、もしくは抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ、ラムシルマブ、ziv-アフリベルセプト)で以前に処置されたことがあるか、またはこのような処置は対象において禁忌である。
【0065】
一部の態様において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約0.1mg~10mg(例えば、対象の体重1kgあたり約0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、8mg、8.5mg、9mg、9.5mg、または10mg)である。一部の態様において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約2~8mg(例えば、約3~7mg;約4~7mg;約2.5~6mg;約2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、または8mg)である。一部の態様において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約10mg~100mg(例えば、対象の体重1kgあたり約10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg)である。特定の態様において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約1mg~50mg(例えば、対象の体重1kgあたり約1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、または50mg)である。場合によっては、ツカチニブの用量は対象の体重1kgあたり約50mgである。
【0066】
一部の態様において、ツカチニブの用量は、約1mg~100mg(例えば、約1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg)のツカチニブを含む。一部の態様において、ツカチニブの用量は、約100mg~1,000mg(例えば、約100mg、105mg、110mg、115mg、120mg、125mg、130mg、135mg、140mg、145mg、150mg、155mg、160mg、165mg、170mg、175mg、180mg、185mg、190mg、195mg、200mg、205mg、210mg、215mg、220mg、225mg、250mg、275mg、300mg、325mg、350mg、375mg、400mg、425mg、450mg、475mg、500mg、525mg、550mg、575mg、600mg、625mg、650mg、675mg、700mg、725mg、750mg、775mg、800mg、825mg、850mg、875mg、900mg、925mg、950mg、975mg、または1,000mg)のツカチニブを含む。一部の態様において、ツカチニブの用量は(例えば、1日2回投与される時)約150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、または500mgである。特定の態様において、ツカチニブの用量は(例えば、1日2回投与される時)約300mgである。
【0067】
一部の態様において、ツカチニブの用量は、少なくとも約1,000mg~10,000mg(例えば、少なくとも約1,000mg、1,100mg、1,200mg、1,300mg、1,400mg、1,500mg、1,600mg、1,700mg、1,800mg、1,900mg、2,000mg、2,100mg、2,200mg、2,300mg、2,400mg、2,500mg、2,600mg、2,700mg、2,800mg、2,900mg、3,000mg、3,100mg、3,200mg、3,300mg、3,400mg、3,500mg、3,600mg、3,700mg、3,800mg、3,900mg、4,000mg、4,100mg、4,200mg、4,300mg、4,400mg、4,500mg、4,600mg、4,700mg、4,800mg、4,900mg、5,000mg、5,100mg、5,200mg、5,300mg、5,400mg、5,500mg、5,600mg、5,700mg、5,800mg、5,900mg、6,000mg、6,100mg、6,200mg、6,300mg、6,400mg、6,500mg、6,600mg、6,700mg、6,800mg、6,900mg、7,000mg、7,100mg、7,200mg、7,300mg、7,400mg、7,500mg、7,600mg、7,700mg、7,800mg、7,900mg、8,000mg、8,100mg、8,200mg、8,300mg、8,400mg、8,500mg、8,600mg、8,700mg、8,800mg、8,900mg、9,000mg、9,100mg、9,200mg、9,300mg、9,400mg、9,500mg、9,600mg、9,700mg、9,800mg、9,900mg、10,000mgの、またはそれより多い)ツカチニブを含む。
【0068】
一部の態様において、ツカチニブの用量は治療的有効量のツカチニブを含有する。一部の態様において、ツカチニブの用量は、(例えば、望ましい臨床効果または治療効果を実現するために複数の用量が与えられる時)治療的有効量未満のツカチニブを含有する。
【0069】
一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、対象の体重1kgあたり約0.1mg~10mg(例えば、対象の体重1kgあたり約0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、8mg、8.5mg、9mg、9.5mg、または10mg)である。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、対象の体重1kgあたり約10mg~100mg(例えば、対象の体重1kgあたり約10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg)である。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、対象の体重1kgあたり少なくとも約100mg~500mg(例えば、対象の体重1kgあたり少なくとも約100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mg、275mg、300mg、325mg、350mg、375mg、400mg、425mg、450mg、475mg、500mg、またはそれより多い)である。場合によっては、抗HER2抗体の用量は対象の体重1kgあたり約6mgである。他の場合では、抗HER2抗体の用量は対象の体重1kgあたり約8mgである。場合によっては、抗HER2抗体の用量は対象の体重1kgあたり約2mgである。他のいくつかの場合では、抗HER2抗体の用量は対象の体重1kgあたり約20mgである。一部の態様において、8mg/kgの初期負荷投与量が投与され、次いで、6mg/kgの後の用量が投与される。
【0070】
一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、約1mg~100mg(例えば、約1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、または100mg)の抗HER2抗体を含む。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、約100mg~1,000mg(例えば、約100mg、105mg、110mg、115mg、120mg、125mg、130mg、135mg、140mg、145mg、150mg、155mg、160mg、165mg、170mg、175mg、180mg、185mg、190mg、195mg、200mg、205mg、210mg、215mg、220mg、225mg、250mg、275mg、300mg、325mg、350mg、375mg、400mg、425mg、450mg、475mg、500mg、525mg、550mg、575mg、600mg、625mg、650mg、675mg、700mg、725mg、750mg、775mg、800mg、825mg、850mg、875mg、900mg、925mg、950mg、975mg、または1,000mg)の抗HER2抗体を含む。
【0071】
特定の態様において、抗HER2抗体の用量は、約100mg~400mg(例えば、約100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mg、275mg、300mg、325mg、350mg、375mg、または400mg)の抗HER2抗体を含む。非限定的な例として、6mg/kgの用量を使用する時、50kg対象の用量は約300mgである。別の非限定的な例として、8mg/kgの用量を使用する時、50kg対象の用量は約400mgである。
【0072】
一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、少なくとも約1,000mg~10,000mg(例えば、少なくとも約1,000mg、1,100mg、1,200mg、1,300mg、1,400mg、1,500mg、1,600mg、1,700mg、1,800mg、1,900mg、2,000mg、2,100mg、2,200mg、2,300mg、2,400mg、2,500mg、2,600mg、2,700mg、2,800mg、2,900mg、3,000mg、3,100mg、3,200mg、3,300mg、3,400mg、3,500mg、3,600mg、3,700mg、3,800mg、3,900mg、4,000mg、4,100mg、4,200mg、4,300mg、4,400mg、4,500mg、4,600mg、4,700mg、4,800mg、4,900mg、5,000mg、5,100mg、5,200mg、5,300mg、5,400mg、5,500mg、5,600mg、5,700mg、5,800mg、5,900mg、6,000mg、6,100mg、6,200mg、6,300mg、6,400mg、6,500mg、6,600mg、6,700mg、6,800mg、6,900mg、7,000mg、7,100mg、7,200mg、7,300mg、7,400mg、7,500mg、7,600mg、7,700mg、7,800mg、7,900mg、8,000mg、8,100mg、8,200mg、8,300mg、8,400mg、8,500mg、8,600mg、8,700mg、8,800mg、8,900mg、9,000mg、9,100mg、9,200mg、9,300mg、9,400mg、9,500mg、9,600mg、9,700mg、9,800mg、9,900mg、10,000mg、またはそれより多い)の抗HER2抗体を含む。
【0073】
一部の態様において、抗HER2抗体の用量は治療的有効量の抗HER2抗体を含有する。一部の態様において、抗HER2抗体の用量は、(例えば、望ましい臨床効果または治療効果を実現するために複数の用量が与えられる時)治療的有効量未満の抗HER2抗体を含有する。
【0074】
一部の態様において、代謝拮抗物質(例えば、カペシタビン)の用量は、対象の体表面積1mm2あたり約100mg~2,000mg(例えば、対象の体表面積1mm2あたり約100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1,000mg、1,050mg、1,100mg、1,150mg、1,200mg、1,250mg、1,300mg、1,350mg、1,400mg、1,450mg、1,500mg、1,550mg、1,600mg、1,650mg、1,700mg、1,750mg、1,800mg、1,850mg、1,900mg、1,950mg、または2,000mg)である。場合によっては、代謝拮抗物質の用量は、対象の体表面積1mm2あたり約1,000mgである。場合によっては、代謝拮抗物質の用量は、対象の体表面積1mm2あたり約1,250mgである。
【0075】
一部の態様において、代謝拮抗物質(例えば、カペシタビン)の用量は、約100mg~4.000mg(例えば、約100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1,000mg、1,100mg、1,200mg、1,300mg、1,400mg、1,500mg、1,600mg、1,700mg、1,800mg、1,900mg、2,000mg、2,100mg、2,200mg、2,300mg、2,400mg、2,500mg、2,600mg、2,700mg、2,800mg、2,900mg、3,000mg、3,100mg、3,200mg、3,300mg、3,400mg、3,500mg、3,600mg、3,700mg、3,800mg、3,900mg、または4,000mg)のカペシタビンを含む。一部の態様において、代謝拮抗物質の用量は、約150mg、300mg、450mg、500mg、600mg、650mg、750mg、800mg、900mg、950mg、1000mg、または1100mgである。一部の態様において、カペシタビンの用量は150mgまたは500mgの錠剤の中にある。
【0076】
一部の態様において、代謝拮抗物質(例えば、カペシタビン)の用量は治療的有効量の代謝拮抗物質を含有する。一部の態様において、代謝拮抗物質の用量は、(例えば、望ましい臨床効果または治療効果を実現するために複数の用量が与えられる時)治療的有効量未満の代謝拮抗物質を含有する。
【0077】
例えば、動物試験(例えば、げっ歯類およびサル)から得られたデータを用いて、ヒトでの使用のための投与量範囲を処方することができる。本発明の化合物の投与量は、好ましくは、ED50を含む循環濃度の範囲内にあり、毒性がほとんどないか、または全くない。投与量は、使用される剤形および投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。本発明の方法における使用のために、どんな組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、またはカペシタビンの組み合わせを含む組成物)についても、治療的に有効な用量は、最初、細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、細胞培養物において確かめられたようなIC50 (症状の最大半量阻害を実現する試験化合物濃度)を含む血漿中循環濃度範囲に達するように動物モデルにおいて処方することができる。このような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に求めることができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。
【0078】
さらに、(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、またはカペシタビンの組み合わせを含む)組成物の適切な用量は、実現しようとする望ましい効果に関して前記組成物の効能に左右されることが理解される。これらの組成物のうち1つまたは複数が哺乳動物に投与される場合、医師、獣医師、または研究者は、例えば、最初、比較的低い用量を処方し、その後に、適切な応答が得られるまで、この用量を増やすことがある。さらに、特定の哺乳動物対象に特異的な用量レベルが、使用される特定の組成物の活性;対象の年齢、体重、身体全体の健康、性別、および食事;投与時間;投与経路;排泄の速度および方法;任意の薬物組み合わせの効果;ならびに調整しようとする発現または活性の程度を含む様々な要因に左右されることが理解される。
【0079】
ある特定の態様において、ツカチニブ、抗HER抗体、または代謝拮抗物質(例えば、カペシタビン)の組み合わせが対象に投与される。ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質が対象に共投与される場合、ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質は同時投与されてもよく、連続投与されてもよい。一部の態様において、抗HER2抗体または代謝拮抗物質はツカチニブ投与中に投与される。一部の態様において、抗HER2抗体または代謝拮抗物質はツカチニブ投与前に投与される。一部の態様において、抗HER2抗体または代謝拮抗物質はツカチニブ投与後に投与される。ツカチニブおよびカペシタビンは一緒に投与されてもよく、連続投与されてもよい(例えば、ツカチニブはカペシタビン前に投与されてもよく、カペシタビン後に投与されてもよい)。
【0080】
一部の態様において、ツカチニブと抗HER2抗体または代謝拮抗物質は同時に投与される。一部の態様において、ツカチニブと抗HER2抗体または代謝拮抗物質は同時に投与されないが、1日あたり同じ回数で投与されるか、1週間あたり同じ回数で投与されるか、または1ヶ月あたり同じ回数で投与される(例えば、全てが1日1回で、1日2回で、週1回で、週2回でなどで投与される)。一部の態様において、ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質は異なる投与計画で投与される。非限定的な例として、ツカチニブは1日1回投与され、抗HER2抗体は1日2回投与されるか、逆もまた同じである。別の非限定的な例として、ツカチニブは1日1回投与され、抗HER2抗体は、2日、3日、4日、5日、6日、またはそれより長い日数につき1回投与されるか、または逆もまた同じである。当業者はまた、疾患または悪性状態の重篤度、以前の処置、対象の身体全体の健康または年齢、および存在する他の疾患を含むが、これに限定されない、ある特定の要因が、対象を効果的に処置するのに必要な投与量とタイミングに影響を及ぼすことがあることも理解する。さらに、(例えば、ツカチニブと抗HER2抗体の組み合わせを含む)治療的有効量の組成物を用いた対象の処置は1回の処置を含んでもよく、好ましくは、一連の処置を含んでもよい。
【0081】
本発明の方法に従って投与される組成物(例えば、ツカチニブと抗HER2抗体の組み合わせを含む)の最適な投与量、毒性、および治療有効性は、投与された組成物の相対的な効能に応じて変化することがあり、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50(集団の50%を死亡させる用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を求めることによって確かめることができる。毒性効果と治療効果との用量比は治療指数であり、比LD50/ED50で表すことができる。大きな治療指数を示す薬剤が好ましい。毒性副作用を示す薬剤を使用することができるが、正常細胞への潜在的な損傷を最小にし、それによって副作用を低減させるために、このような薬剤を患部組織部位に標的指向させる送達系を設計するように注意する。
【0082】
最適な投与計画は、対象の体内の活性成分蓄積の測定値から計算することができる。一般的に、投与量は体重1kgにつき約1ng~約1,000mgであり、毎日、毎週、毎月、または毎年1回以上与えられてもよい。当業者は、最適な投与量、投薬方法、および反復速度を容易に決定することができる。当業者は、当技術分野において公知の確立したプロトコールおよび本明細書中の開示に従って、ツカチニブ、抗HER2抗体、またはカペシタビンの組み合わせをヒトに投与するために最適な投薬を決定することができる。
【0083】
ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質が同時投与または連続投与される時、ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質の用量は本明細書に記載の任意の用量でよい。一部の態様において、ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質の用量は治療有効量である。一部の態様において、ツカチニブの用量は治療有効量であり、抗HER2抗体または代謝拮抗物質の用量は治療有効量より少ない(すなわち、治療有効量を対象に送達するために、抗HER2抗体または代謝拮抗物質の1つまたは複数の後の用量が投与される)。一部の態様において、抗HER2抗体または代謝拮抗物質の用量は治療有効量であり、ツカチニブの用量は治療有効量より少ない(すなわち、治療有効量を対象に送達するためにツカチニブの1つまたは複数の後の用量が投与される)。場合によっては、ツカチニブの用量は、(例えば、1日2回投与される時)約150mg、200mg、250mg、または300mgであり、抗HER2抗体の用量は、(例えば、1日1回、または2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、もしくはそれより長い日ごとに1回投与される時に)対象の体重1kgあたり約2mg、6mg、または8mgである。または、代謝拮抗物質の用量は、(例えば、1日2回投与される時)対象の体表面積1mm2あたり約1,000mgである。他の場合では、ツカチニブの用量は(例えば、1日2回投与される時)約150mg、200mg、250mg、または300mgであり、抗HER2抗体の用量は、(例えば、1日1回、または2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、もしくはそれより長い日ごとに1回投与される時に)約600mgである。または、代謝拮抗物質の用量は、(例えば、1日2回投与される時)対象の体表面積1mm2あたり約1,000mgである。
【0084】
ツカチニブ、抗HER2抗体、または代謝拮抗物質が対象に同時に共投与される時、同じ経路によって投与されてもよく、異なる経路によって投与されてもよい。非限定的な例として、ツカチニブまたは代謝拮抗物質は経口投与されてもよく、抗HER2抗体は同時に静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内に投与されてもよい。
【0085】
連続共投与の場合、ツカチニブは、抗HER2抗体または代謝拮抗物質の前に投与されてもよく、逆もまた同じである。一部の態様において、ツカチニブと抗HER2抗体または代謝拮抗物質は同じ経路によって投与されるが、ツカチニブと抗HER2抗体またはカペシタビンの投与は、ある時間分だけ隔てられる。一部の態様において、ツカチニブと抗HER2抗体または代謝拮抗物質は異なる経路によって投与され、ツカチニブとHER2抗体または代謝拮抗物質の投与は、ある時間分だけ隔てられる。非限定的な例として、ツカチニブは経口投与され、その後にしばらくして、抗HER2抗体は別の経路によって(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、もしくは腹腔内に)投与されるか、または逆もまた同じである。さらに、代謝拮抗物質はツカチニブもしくは抗HER2抗体の前に経口投与されてもよく、ツカチニブもしくは抗HER2抗体の後に経口投与されてもよい。
【0086】
連続共投与の場合、当業者は、ツカチニブの投与から他の薬剤(すなわち、抗HER2抗体または代謝拮抗物質)の投与までの適切な時間を容易に求めることができる。一部の態様において、ツカチニブの投与と他の薬剤の投与は、約1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、21分、22分、23分、24分、25分、26分、27分、28分、29分、30分、31分、32分、33分、34分、35分、36分、37分、38分、39分、40分、41分、42分、43分、44分、45分、46分、47分、48分、49分、50分、51分、52分、53分、54分、55分、56分、57分、58分、59分、60分、またはそれより長く隔てられる。一部の態様において、ツカチニブの投与と他の薬剤の投与は、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、またはそれより長く隔てられる。一部の態様において、ツカチニブの投与と他の薬剤の投与は約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、またはそれより長く隔てられる。一部の態様において、ツカチニブの投与と他の薬剤の投与は、約1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、またはそれより長く隔てられる。一部の態様において、ツカチニブの投与と他の薬剤の投与は、約1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、13ヶ月、14ヶ月、15ヶ月、16ヶ月、17ヶ月、18ヶ月、19ヶ月、20ヶ月、21ヶ月、22ヶ月、23ヶ月、24ヶ月、またはそれより長く隔てられる。
【0087】
一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤(すなわち、抗HER2抗体または代謝拮抗物質)は、1日に1回、2回、3回、4回、5回、またはそれより多く投与される。一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤(例えば、抗HER2抗体および化学療法剤)は、1週間に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、またはそれより多く投与される。一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤は、1ヶ月に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、21回、22回、23回、24回、25回、26回、27回、28回、29回、30回、またはそれより多く投与される。
【0088】
一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤は、ほぼ1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、またはそれより長い日ごとに1回投与される。一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤は、ほぼ1週間、2週間、3週間、4週間、またはそれより長い週ごとに1回投与される。一部の態様において、ツカチニブと他の薬剤は、ほぼ1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、またはそれより長い月ごとに1回投与される。
【0089】
処置が成功した後に、がん(例えば、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、またはそれらの組み合わせ)の再発を阻止するために、対象に維持療法を受けさせることが望ましい場合がある。
【0090】
治療有効量の決定は、本明細書において提供される詳細な開示を特に考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。一般的に、組成物(例えば、ツカチニブと他の薬剤の組み合わせを含む)の効き目のある量または治療有効量は、最初に、低用量または少量の前記組成物を投与し、次いで、処置された対象において最低限の毒性副作用で、または毒性副作用が無く、望ましい効果が観察されるまで、投与された用量または投与量を徐々に増加させることによって決定される。
【0091】
組成物(例えば、ツカチニブと他の薬剤の組み合わせを含む)の単回投与または複数回投与が、患者によって必要とされ、かつ許容される投与量および頻度に応じて投与される。どんな事象でも、前記組成物は、患者を効果的に処置するのに十分な量の組成物を提供しなければならない。一般的に、用量は、患者に対して許容できない毒性を生じることなく疾患の影響、症状、または徴候を予防する、処置する、または改善するのに十分な用量である。
【0092】
一部の態様において、対象の処置は、がん(例えば、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、もしくはそれらの組み合わせ)細胞増殖を抑制する段階、がん細胞の増殖を抑制する段階、がん細胞の移動を抑制する段階、がん細胞の浸潤を抑制する段階、がんの1つもしくは複数の徴候もしくは症状を少なくするか、または無くす段階、がん腫瘍のサイズ(例えば、体積)を減らす段階、がん腫瘍の数を減らす段階、がん細胞の数を減らす段階、がん細胞の壊死、ピロトーシス、オンコーシス(oncosis)、アポトーシス、オートファジー、もしくは他の細胞死を誘導する段階、対象の生存期間を延ばす段階、または別の薬物もしくは療法の治療効果を増大させる段階を含む。特定の場合では、対象はがんを有さない。
【0093】
腫瘍サイズ(例えば、体積)は、X線画像化、造影剤を用いた、または造影剤を用いないコンピュータ断層撮影法(CT)、造影剤を用いた、または造影剤を用いない磁気共鳴画像法(MRI)、ポジトロン放出断層撮影(PET)、超音波、およびそれらの組み合わせを含むが、これに限定されない技法を用いて測定することができる。一部の態様において、(例えば、胸部、腹部、骨盤、または脳の内部への)腫瘍転移の存在またはサイズが測定される。腫瘍部位はまた、写真撮影(例えば、皮膚写真撮影)、生検、骨画像化、腹腔鏡検査、および内視鏡検査などの方法を用いてモニタリングすることもできる。
【0094】
一部の態様において、対象の処置は、約10%~70%(例えば、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、または70%)の腫瘍増殖抑制(TGI)率をもたらす。好ましくは、対象の処置は、少なくとも約70%(例えば、約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)のTGI率をもたらす。より好ましくは、対象の処置は、少なくとも約85%(例えば、約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)のTGI率をもたらす。さらにより好ましくは、対象の処置は、少なくとも約95%(例えば、約95%、96%、97%、98%、99%、または100%)のTGI率をもたらす。最も好ましくは、対象の処置は、約100%以上(例えば、約100%、101%、102%、103%、104%、105%、106%、107%、108%、109%、110%、111%、112%、113%、114%、115%、116%、117%、118%、119%、120%、125%、130%、135%、140%、145%、150%、またはそれより大きな)TGI率をもたらす。
【0095】
特定の態様において、対象の処置は、ツカチニブおよび他の薬剤が単独で用いられた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。場合によっては、対象の処置は、ツカチニブが単独で用いられた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。他の場合では、対象の処置は、抗HER2抗体が単独で用いられた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。一部の態様において、対象の処置は、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペクタビン(capectabine))が単独で用いられた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。一部の態様において、対象の処置は、ツカチニブ、抗HER2抗体、または化学療法剤が単独で用いられた時に観察されるTGI率よりも少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%大きなTGI率をもたらす。
【0096】
一部の態様において、抗HER2抗体、ツカチニブ、および化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペクタビン)の組み合わせは相乗的である。特定の態様では、相乗的な組み合わせに関して、対象の処置は、ツカチニブ、抗HER2抗体、および化学療法剤の組み合わせが相加効果を生じる場合に予想されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。場合によっては、抗HER2抗体、ツカチニブ、および化学療法剤の組み合わせが投与された時に観察されるTGI率は、ツカチニブ、抗HER2抗体、および代謝拮抗物質の組み合わせが相加効果を生じる場合に予想されるTGI率よりも少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%大きい。
【0097】
一部の態様において、試料細胞のHER2状態が確かめられる。処置(すなわち、ツカチニブ、抗HER2抗体、および化学療法剤の投与)が開始する前に確かめられてもよく、処置中に確かめられてもよく、処置が完了した後に確かめられてもよい。場合によっては、HER2状態が確かめられたら、療法を変える(例えば、異なる抗HER2抗体に切り替える、別の抗HER2抗体を処置レジメンに加える、抗HER2抗体、ツカチニブ、もしくは化学療法剤の使用を終了する、療法全体を終了する、または別の処置方法から本発明の方法に切り替える)ことが決められる。
【0098】
一部の態様において、試料細胞はHER2を過剰発現している、またはHER2を過剰発現していないと確かめられる。特定の態様において、前記細胞はHER2 3+、HER2 2+、HER2 1+、またはHER2 0(すなわち、HERは過剰発現していない)だと確かめられる。
【0099】
一部の態様において、試料細胞はがん細胞である。場合によっては、試料細胞は、がんを有する対象から得られる。試料細胞は生検標本として得られてもよく、外科的切除によって得られてもよく、穿刺吸引液(FNA)として得られてもよい。一部の態様において、試料細胞は循環腫瘍細胞(CTC)である。
【0100】
HER2発現は参照細胞と比較することができる。一部の態様において、参照細胞は、試料細胞と同じ対象から得られた非がん細胞である。一部の態様において、参照細胞は、異なる対象または対象の集団から得られた非がん細胞である。一部の態様において、HER2発現の測定は、例えば、HER2遺伝子コピー数もしくは増幅の決定、核酸配列決定(例えば、ゲノムDNAもしくはcDNAの配列決定)、mRNA発現の測定、タンパク質の存在量の測定、またはそれらの組み合わせを含む。HER2試験方法には、免疫組織化学(IHC)、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、発色インサイチューハイブリダイゼーション(chromogenic in situ hybridization)(CISH)、ELISA、ならびにRT-PCRおよびマイクロアレイ分析などの技法を用いたRNA定量(例えば、HER2発現のRNA定量)が含まれる。
【0101】
一部の態様において、試料細胞中でHER2が参照細胞と比較して高レベルで発現している時に、試料細胞はHER2陽性だと確かめられる。一部の態様において、HER2が参照細胞と比較して少なくとも約1.5倍(例えば、約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、75倍、80倍、85倍、90倍、95倍、100倍、またはそれより多く)過剰発現している時に、前記細胞はHER2陽性だと確かめられる。特定の態様において、HER2が参照細胞と比較して少なくとも約1.5倍過剰発現している時に、前記細胞はHER2陽性だと確かめられる。
【0102】
一部の態様において、FISHまたはCISHシグナル比が2より大きな時に、試料細胞はHER2陽性だと確かめられる。一部の態様において、HER2遺伝子コピー数が6より大きな時に、試料細胞はHER2陽性だと確かめられる。
【0103】
一部の態様において、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子型は試料細胞において決定される。場合によっては、KRAS、NRAS、またはBRAFの遺伝子型または配列が決定される。遺伝子全体を遺伝子型同定してもよく、遺伝子の一部だけを遺伝子型同定してもよい。特定の場合ではエキソンだけが遺伝子型同定される。遺伝子型同定は、処置(すなわち、ツカチニブ、抗HER2抗体、および化学療法剤の投与)が開始する前に行われてもよく、処置プログラム中に行われてもよく、処置が完了した後に行われてもよい。場合によっては、遺伝子型同定されたら、療法を変える(例えば、異なる抗HER2抗体に切り替える、別の抗HER2抗体を処置レジメンに加える、抗HER2抗体、ツカチニブ、もしくは化学療法剤の使用を終了する、療法全体を終了する、または別の処置方法から本発明の方法に切り替える)ことが決定される。
【0104】
一部の態様において、がんが、野生型KRAS遺伝子型を有する細胞を含む時に、処置は投与される。場合によっては、がんは、KRASのエキソン2に野生型遺伝子型を有する細胞を含む。特定の場合において、がんは、KRASのコドン12またはコドン13に野生型遺伝子型を有する細胞を含む。一部の態様において、がんが、野生型NRAS遺伝子型を有する細胞を含む時に、処置は投与される。一部の態様において、がんが、野生型BRAF遺伝子型を有する細胞を含む時に、処置は投与される。特定の態様において、がんが、KRAS、NRAS、またはBRAFの組み合わせで野生型遺伝子型を有する細胞を含む時に、処置は投与される。がん細胞は生検標本として得られてもよく、外科的切除によって得られてもよく、穿刺吸引液(FNA)として得られてもよい。一部の態様において、がん細胞は循環腫瘍細胞(CTC)である。
【0105】
一部の局面において、本発明は、対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するための方法であって、抗HER2抗体を含む併用療法と、ツカチニブおよび代謝拮抗物質の組み合わせを投与し、それによってHER2陽性がんを処置する段階を含む、方法を説明する。
【0106】
一部の局面において、併用療法は化学療法剤をさらに含む。一部の局面において、化学療法剤は代謝拮抗物質である。一部の局面において、代謝拮抗物質は、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせより選択されるメンバーである。一部の局面において、代謝拮抗物質はカペシタビンである。
【0107】
一部の局面において、がんは、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、胆道がん、乳がん、およびそれらの組み合わせより選択される。一部の局面において、がんは、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである。一部の局面において、がんは乳がんである。
【0108】
一部の局面において、代謝拮抗物質は、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせより選択されるメンバーであり、対象はトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた。一部の局面において、代謝拮抗物質はカペシタビンである。
【0109】
一部の局面において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせより選択されるメンバーである。一部の局面において、抗HER2抗体はトラスツズマブである。一部の局面において、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。
【0110】
一部の局面において、抗HER2抗体の投与は、ツカチニブ投与の前、ツカチニブ投与の間、またはツカチニブ投与の後である。
【0111】
一部の局面において、がんは、野生型KRASエキソン2遺伝子型を有する細胞を含む。一部の局面において、がんは、野生型NRAS遺伝子型を有する細胞を含む。一部の局面において、がんは、野生型BRAF遺伝子型を有する細胞を含む。
【0112】
一部の局面において、対象は、再発性であるか、または標準治療(例えば、セツキシマブもしくはパニツムマブを含む標準治療)に対して難治性であるがんを有する。
【0113】
一部の局面において、対象の処置は、少なくとも約85%の腫瘍増殖抑制(TGI)率をもたらす。一部の局面において、対象の処置は約100%のTGI率をもたらす。
【0114】
一部の局面において、抗HER2抗体とツカチニブの組み合わせは相乗的である。一部の局面において、対象の処置は、抗HER2抗体を単独でまたはツカチニブを単独で用いた時に観察されるTGI率よりも大きなTGI率をもたらす。
【0115】
一部の局面において、ツカチニブの用量は、対象の体重1kgあたり約3~7mgを1日2回である。一部の局面において、ツカチニブの用量は、約300mgを1日2回である。
【0116】
一部の局面において、抗HER2抗体の用量は、対象の体重1kgあたり約6mg~8mgを3週間に1回である。一部の局面において、抗HER2抗体の用量は、約600mgを3週間に1回である。
【0117】
一部の局面において、ツカチニブまたは抗HER2抗体は経口投与されるか、静脈内投与されるか、または皮下投与される(例えば、経口投与される)。
【0118】
一部の局面において、代謝拮抗物質は経口投与される。
【0119】
一部の局面において、代謝拮抗物質(例えば、カペシタビン)の用量は、対象の体表面積1m2あたり約1,000mgを1日2回である。
【0120】
一部の局面において、抗HER2抗体は静脈内投与されるか、または皮下投与される。
【0121】
一部の局面において、対象における1つまたは複数の治療効果は、併用療法の投与後にベースラインと比べて改善される。一部の局面において、1つまたは複数の治療効果は、がんに由来する腫瘍のサイズ、客観的奏効率、奏効持続期間、奏効までの期間、無増悪生存期間、および全生存期間からなる群より選択される。
【0122】
一部の局面において、がんに由来する腫瘍のサイズは少なくとも約10%減少する。一部の局面において、腫瘍のサイズは、併用療法投与前のがんに由来する腫瘍のサイズと比べて少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%減少する。
【0123】
一部の局面において、客観的奏効率は少なくとも約20%である。一部の局面において、客観的奏効率は、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%である。
【0124】
一部の局面において、対象は、併用療法投与後、少なくとも約1ヶ月の無増悪生存期間を示す。一部の局面において、対象は、併用療法投与後、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年を示す。
【0125】
一部の局面において、対象は、併用療法投与後、少なくとも約1ヶ月の全生存期間を示す。一部の局面において、対象は、併用療法投与後、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年を示す。
【0126】
一部の局面において、抗体-薬物コンジュゲートに対する奏効持続期間は、併用療法投与後少なくとも約1ヶ月である。一部の局面において、奏効持続期間は、併用療法投与後、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約5ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約7ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約9ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約11ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約2年、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または少なくとも約5年である。
【0127】
一部の局面において、対象は1つまたは複数の有害事象を有し、かつ該1つもしくは複数の有害事象を無くすまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤が該対象にさらに投与される。
【0128】
一部の局面において、対象は、1つまたは複数の有害事象を発症するリスクがあり、かつ該1つもしくは複数の有害事象を予防するまたは該1つもしくは複数の有害事象の重篤度を低減させるために、さらなる治療剤が該対象にさらに投与される。
【0129】
一部の局面において、1つまたは複数の有害事象はグレード2以上の有害事象である。一部の局面において、1つまたは複数の有害事象はグレード3以上の有害事象である。一部の局面において、1つまたは複数の有害事象は重篤有害事象である。
【0130】
一部の局面において、対象はヒトである。
【0131】
一部の局面において、本発明は、抗HER2抗体とツカチニブとを含む初回投与量レベルの併用療法による処置の開始後に有害事象を示した対象におけるHER2陽性がんを処置するための方法であって、低下した投与量レベルの該併用療法を該対象に投与する段階を含む、方法を提供する。
【0132】
一部の局面において、併用療法は化学療法剤をさらに含む。一部の局面において、化学療法剤は代謝拮抗物質である。一部の局面において、代謝拮抗物質は、カペシタビン、カルモフール、ドキシドルリジン、フルオロウラシル、テガフール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。一部の局面において、代謝拮抗物質はカペシタビンである。
【0133】
一部の局面において、1つまたは複数の有害事象はグレード2以上の有害事象である。一部の局面において、1つまたは複数の有害事象はグレード3以上の有害事象である。一部の局面において、有害事象は肝毒性である。一部の局面において、有害事象は左心室機能不全である。一部の局面において、有害事象はQTc間隔延長である。
【0134】
一部の局面において、がんは、切除不能局所進行がんであるか、または転移がんである。一部の局面において、がんは乳がんである。
【0135】
一部の局面において、対象はトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けた。
【0136】
一部の局面において、ツカチニブの初回投与量レベルは、約300mgを1日2回である。一部の局面において、ツカチニブの低下した投与量レベルは、約250mgを1日2回である。一部の局面において、ツカチニブの低下した投与量レベルは、約200mgを1日2回である。一部の局面において、ツカチニブの低下した投与量レベルは、約150mgを1日2回である。
【0137】
B.薬学的組成物
別の局面において、本発明は、ツカチニブ、抗HER2抗体、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。一部の態様において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。場合によっては、抗HER2抗体はトラスツズマブである。場合によっては、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。一部の態様において、薬学的組成物は化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)をさらに含む。
【0138】
一部の態様において、ツカチニブは、約0.1nM~10nMの濃度(例えば、約0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2nM、2.5nM、3nM、3.5nM、4nM、4.5nM、5nM、5.5nM、6nM、6.5nM、7nM、7.5nM、8nM、8.5nM、9nM、9.5nM、または10nM)で存在する。一部の態様において、ツカチニブは、約10nM~100nM(例えば、約10nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、または100nM)の濃度で存在する。一部の態様において、ツカチニブは、約100nM~1,000nM(例えば、約100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、650nM、700nM、750nM、800nM、850nM、900nM、950nM、または1,000nM)の濃度で存在する。一部の態様において、ツカチニブは、少なくとも約1,000nM~10,000nM(例えば、少なくとも約1,000nM、1,100nM、1,200nM、1,300nM、1,400nM、1,500nM、1,600nM、1,700nM、1,800nM、1,900nM、2,000nM、2,100nM、2,200nM、2,300nM、2,400nM、2,500nM、2,600nM、2,700nM、2,800nM、2,900nM、3,000nM、3,100nM、3,200nM、3,300nM、3,400nM、3,500nM、3,600nM、3,700nM、3,800nM、3,900nM、4,000nM、4,100nM、4,200nM、4,300nM、4,400nM、4,500nM、4,600nM、4,700nM、4,800nM、4,900nM、5,000nM、5,100nM、5,200nM、5,300nM、5,400nM、5,500nM、5,600nM、5,700nM、5,800nM、5,900nM、6,000nM、6,100nM、6,200nM、6,300nM、6,400nM、6,500nM、6,600nM、6,700nM、6,800nM、6,900nM、7,000nM、7,100nM、7,200nM、7,300nM、7,400nM、7,500nM、7,600nM、7,700nM、7,800nM、7,900nM、8,000nM、8,100nM、8,200nM、8,300nM、8,400nM、8,500nM、8,600nM、8,700nM、8,800nM、8,900nM、9,000nM、9,100nM、9,200nM、9,300nM、9,400nM、9,500nM、9,600nM、9,700nM、9,800nM、9,900nM、10,000nM、またはそれより大きなnM)の濃度で存在する。
【0139】
一部の態様において、抗HER2抗体は、約0.1nM~10nM(例えば、約0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2nM、2.5nM、3nM、3.5nM、4nM、4.5nM、5nM、5.5nM、6nM、6.5nM、7nM、7.5nM、8nM、8.5nM、9nM、9.5nM、または10nM)の濃度で存在する。一部の態様において、抗HER2抗体は、約10nM~100nM(例えば、約10nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、または100nM)の濃度で存在する。一部の態様において、抗HER2抗体は、約100nM~1,000nM(例えば、約100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、650nM、700nM、750nM、800nM、850nM、900nM、950nM、または1,000nM)の濃度で存在する。一部の態様において、抗HER2抗体は、少なくとも約1,000nM~10,000nM(例えば、少なくとも約1,000nM、1,100nM、1,200nM、1,300nM、1,400nM、1,500nM、1,600nM、1,700nM、1,800nM、1,900nM、2,000nM、2,100nM、2,200nM、2,300nM、2,400nM、2,500nM、2,600nM、2,700nM、2,800nM、2,900nM、3,000nM、3,100nM、3,200nM、3,300nM、3,400nM、3,500nM、3,600nM、3,700nM、3,800nM、3,900nM、4,000nM、4,100nM、4,200nM、4,300nM、4,400nM、4,500nM、4,600nM、4,700nM、4,800nM、4,900nM、5,000nM、5,100nM、5,200nM、5,300nM、5,400nM、5,500nM、5,600nM、5,700nM、5,800nM、5,900nM、6,000nM、6,100nM、6,200nM、6,300nM、6,400nM、6,500nM、6,600nM、6,700nM、6,800nM、6,900nM、7,000nM、7,100nM、7,200nM、7,300nM、7,400nM、7,500nM、7,600nM、7,700nM、7,800nM、7,900nM、8,000nM、8,100nM、8,200nM、8,300nM、8,400nM、8,500nM、8,600nM、8,700nM、8,800nM、8,900nM、9,000nM、9,100nM、9,200nM、9,300nM、9,400nM、9,500nM、9,600nM、9,700nM、9,800nM、9,900nM、10,000nM、またはそれより大きなnM)の濃度で存在する。
【0140】
一部の態様において、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)は、約0.1nM~10nMの濃度(例えば、約0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5 nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1.0nM、1.5nM、2nM、2.5nM、3nM、3.5nM、4nM、4.5nM、5nM、5.5nM、6nM、6.5nM、7nM、7.5nM、8nM、8.5nM、9nM、9.5nM、または10nM)の濃度で存在する。一部の態様において、代謝拮抗物質は、約10nM~100nMの濃度(例えば、約10nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nM、50nM、55nM、60nM、65nM、70nM、75nM、80nM、85nM、90nM、95nM、または100nM)の濃度で存在する。一部の態様において、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)は、約100nM~1,000nM(例えば、約100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、650nM、700nM、750nM、800nM、850nM、900nM、950nM、または1,000nM)の濃度で存在する。一部の態様において、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質、例えば、カペシタビン)は、少なくとも約1,000nM~10,000nM(例えば、少なくとも約1,000nM、1,100nM、1,200nM、1,300nM、1,400nM、1,500nM、1,600nM、1,700nM、1,800nM、1,900nM、2,000nM、2,100nM、2,200nM、2,300nM、2,400nM、2,500nM、2,600nM、2,700nM、2,800nM、2,900nM、3,000nM、3,100nM、3,200nM、3,300nM、3,400nM、3,500nM、3,600nM、3,700nM、3,800nM、3,900nM、4,000nM、4,100nM、4,200nM、4,300nM、4,400nM、4,500nM、4,600nM、4,700nM、4,800nM、4,900nM、5,000nM、5,100nM、5,200nM、5,300nM、5,400nM、5,500nM、5,600nM、5,700nM、5,800nM、5,900nM、6,000nM、6,100nM、6,200nM、6,300nM、6,400nM、6,500nM、6,600nM、6,700nM、6,800nM、6,900nM、7,000nM、7,100nM、7,200nM、7,300nM、7,400nM、7,500nM、7,600nM、7,700nM、7,800nM、7,900nM、8,000nM、8,100nM、8,200nM、8,300nM、8,400nM、8,500nM、8,600nM、8,700nM、8,800nM、8,900nM、9,000nM、9,100nM、9,200nM、9,300nM、9,400nM、9,500nM、9,600nM、9,700nM、9,800nM、9,900nM、10,000nM、またはそれより大きなnM)の濃度で存在する。
【0141】
本発明の薬学的組成物は、薬学の技術分野において周知の任意の方法によって調製することができる。本発明との使用に適した薬学的に許容される担体には、リン酸緩衝食塩水溶液、水、およびエマルジョン(例えば、油/水または水/油エマルジョン)を含む、任意の標準的な薬学的な担体、緩衝液、および賦形剤、ならびに様々なタイプの湿潤剤またはアジュバントが含まれる。適切な薬学的な担体およびその製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co., Easton, 19th ed. 1995)に記載されている。好ましい薬学的な担体は、活性薬剤の意図された投与方法によって決まる。
【0142】
本発明の薬学的組成物は、活性成分として、薬物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、もしくは化学療法剤)またはその任意の薬学的に許容される塩の組み合わせと、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤を含んでもよい。薬学的組成物は、任意で、他の治療成分を含有してもよい。
【0143】
前記組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせを含む)は、活性成分として、従来の薬学的配合法に従って、適切な薬学的な担体または賦形剤と密接に混合して組み合わせることができる。本明細書において開示される化合物との使用のために、投与に望ましい調製の形式に適した任意の担体または賦形剤が意図される。
【0144】
薬学的組成物には、経口投与、局部投与、非経口投与、肺投与、鼻投与、または直腸投与に適した薬学的組成物が含まれる。どんな場合でも、最も適した投与経路は、部分的に、がん状態がどういったものか、およびがん状態の重篤度に左右され、任意で、がんのHER2状態またはステージにも左右される。
【0145】
他の薬学的組成物には、全身(例えば、経腸または非経口)投与に適した薬学的組成物が含まれる。全身投与には、経口投与、直腸投与、舌下投与、または唇下投与が含まれる。非経口投与には、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、小動脈内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、室内投与、および頭蓋内投与が含まれる。他の送達方法には、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチなどの使用が含まれるが、これに限定されない。特定の態様において、本発明の薬学的組成物は腫瘍内投与されてもよい。
【0146】
肺投与用の組成物には、本明細書に記載の化合物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、もしくはそれらの組み合わせ)またはその塩の粉末と、適切な担体または潤滑剤の粉末からなるドライパウダー組成物が含まれるが、これに限定されない。肺投与用の組成物は、当業者に公知の任意の適切なドライパウダー吸入器装置から吸入することができる。
【0147】
全身投与用の組成物には、本明細書中に示された組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせ)と、適切な担体または賦形剤の粉末からなるドライパウダー組成物が含まれるが、これに限定されない。全身投与用の組成物は、錠剤、カプセル、丸剤、シロップ、溶液、および懸濁液によって表されてもよいが、これに限定されない。
【0148】
一部の態様において、前記組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせ)は薬学的な界面活性剤をさらに含む。一部の態様において、前記組成物は凍結防御物質をさらに含む。一部の態様において、凍結防御物質は、グルコース、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルタミン酸ナトリウム、PVP、HPβCD、CD、グリセロール、マルトース、マンニトール、およびサッカロースからなる群より選択される。
【0149】
本発明における使用のための薬学的組成物または医用薬剤は、1つまたは複数の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて標準技法によって処方することができる。適切な薬学的担体は、本明細書中に、およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., University of the Sciences in Philadelphia, Lippencott Williams & Wilkins (2005)において説明される。
【0150】
前記組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせ)の徐放非経口製剤は移植片、油性注射剤、または粒子系として作製することができる。送達系の大まかな概略については、参照により本明細書に組み入れられる、Banga, A.J., THERAPEUTIC PEPTIDES AND PROTEINS: FORMULATION, PROCESSING, AND DELIVERY SYSTEMS, Technomic Publishing Company, Inc., Lancaster, PA,(1995)を参照されたい。粒子系には、マイクロスフェア、微粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア、およびナノ粒子が含まれる。
【0151】
本発明の組成物のイオン制御放出にポリマーを使用することができる。制御された薬物送達において使用するための様々な分解性および非分解性のポリマーマトリックスが当技術分野において公知である(Langer R., Accounts Chem. Res., 26:537-542 (1993))。例えば、ブロック共重合体であるポラキサマー(polaxamer)407は、低温では粘性だが流動性のある液体として存在するが、体温では半固体ゲルを形成する。これは、組換えインターロイキン2およびウレアーゼを処方および持続的送達するための有効なビヒクルであることが示されている(Johnston et al., Pharm. Res., 9:425-434 (1992);およびPec et al., J. Parent. Sci. Tech., 44(2):58 65 (1990))。または、ヒドロキシアパタイトがタンパク質徐放用のマイクロキャリアとして用いられたことがある(Ijntema et al., Int. J. Pharm., 112:215-224 (1994))。さらに別の局面において、脂質カプセル化薬物の徐放ならびに薬物標的指向化のためにリポソームが用いられる(Betageri et al., LIPOSOME DRUG DELIVERY SYSTEMS, Technomic Publishing Co., Inc., Lancaster, PA (1993))。治療用タンパク質の制御された送達のための非常に多くのさらなる系が公知である。例えば、米国特許第5,055,303号、同第5,188,837号、同第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、同第4,957,735号、および同第5,019,369号、同第5,055,303号;同第5,514,670号;同第5,413,797号;同第5,268,164号;同第5,004,697号;同第4,902,505号;同第5,506,206号、同第5,271,961号;同第5,254,342号、および同第5,534,496号を参照されたい。これらはどれも参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
ツカチニブ、または抗HER2抗体、または化学療法剤の組み合わせを経口投与する場合、薬学的組成物または医用薬剤は、例えば、薬学的に許容される賦形剤を用いて従来の手段によって調製された錠剤またはカプセルの形をとってもよい。本発明は、(a)希釈剤または増量剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース(例えば、エチルセルロース、結晶セルロース)、グリシン、ペクチン、ポリアクリレートまたはリン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、(b)潤滑剤、例えば、シリカ、滑石、ステアリン酸、マグネシウム塩またはカルシウム塩、金属ステアリン酸(metallic stearate)、コロイド状二酸化ケイ素、硬化植物油、トウモロコシデンプン、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはポリエチレングリコール;錠剤の場合は、(c)結合剤、例えば、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、デンプンのり、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースも;所望であれば、(d)崩壊剤、例えば、デンプン(例えば、バレイショデンプンもしくはデンプンナトリウム(sodium starch))、グリコール酸塩、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩、または発泡性混合物;(e)湿潤剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、あるいは(f)吸収剤、着色剤、着香剤、および甘味料と共に、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、もしくはそれらの組み合わせを含む錠剤およびゼラチンカプセル、またはこれらの薬物の乾燥した固体粉末を提供する。
【0153】
錠剤は、当技術分野において公知の方法に従ってフィルムコーティングされてもよく、腸溶コーティングされてもよい。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、または懸濁液の形をとってもよく、使用前に水または他の適切なビヒクルを用いて構成するための乾燥製品として提示されてもよい。このような液体調製物は、薬学的に許容される添加物、例えば、懸濁剤、例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素添加した食用脂肪;乳化剤、例えば、レシチンまたはアラビアゴム;非水性ビヒクル、例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、または分留した植物油;および防腐剤、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピル、またはソルビン酸を用いて従来の手段によって調製されてもよい。調製物はまた、適宜、緩衝塩、着香料、着色剤、または甘味剤も含有してよい。所望であれば、経口投与用の調製物は、活性化合物を徐放するように適切に処方することができる。
【0154】
ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせの局部投与用の代表的な製剤には、クリーム、軟膏、スプレー、ローション、およびパッチが含まれる。しかしながら、薬学的組成物は、どのタイプの投与、例えば、注射器または他の装置を用いた、皮内注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、鼻腔内注射、脳内注射、気管内注射、動脈内注射、腹腔内注射、膀胱内注射、胸膜内注射、冠内注射、または腫瘍内注射にも処方することができる。吸入による投与のための製剤(例えば、エアロゾル)または経口投与もしくは直腸投与による投与のための製剤も意図される。
【0155】
経皮塗布に適した製剤は、有効量の本明細書に記載の1種類または複数種類の化合物を任意で担体と共に含む。好ましい担体には、宿主の皮膚の通過を助けるための、薬理学的に許容可能な吸収性の溶媒が含まれる。例えば、経皮装置は、裏当て部材、化合物と任意で担体とを共に含有するリザーバー、任意で、化合物を、長期間にわたって制御され、かつ予め決められた速度で宿主の皮膚に送達するための速度制御障壁、および装置を皮膚に固定するための手段を含む包帯の形をとる。マトリックス経皮製剤も用いられる場合がある。
【0156】
本明細書において示される組成物および製剤(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせ)は、注射による、例えば、大量瞬時投与または連続注入による非経口投与のために処方することができる。注射のための製剤は、単位剤形の形で、例えば、防腐剤を加えたアンプルまたはマルチドーズ容器に入れられて提示されてもよい。注射用組成物は、好ましくは、水性の等張溶液または等張懸濁液であり、坐剤は、好ましくは、脂肪性のエマルジョンまたは懸濁液から調製される。前記組成物は滅菌されてもよく、防腐剤、安定剤、湿潤剤または乳化剤、溶解促進剤(solution promoter)、浸透圧または緩衝液を調節するための塩などの補助剤を含有してもよい。または、活性成分は、適切なビヒクル、例えば、使用前に、発熱物質を含まない滅菌水を用いて構成するための粉末の形をとってもよい。さらに、活性成分はまた、治療上、価値のある他の物質も含有してよい。前記組成物は、それぞれ、従来の混合法、造粒法、またはコーティング法に従って調製される。
【0157】
吸入による投与の場合、前記組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせを含む)は、適切な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスを用いて、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレー提示の形で便利に送達され得る。加圧されたエアロゾルの場合、投与量単位は、定量送達のためにバルブを設けることによって決定することができる。例えば、化合物と、適切な粉末主剤、例えば、ラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含有する、吸入器または注入器の中で使用するためのゼラチンのカプセルおよびカートリッジを処方することができる。
【0158】
前記組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、化学療法剤、またはそれらの組み合わせを含む)はまた、直腸用組成物、例えば、坐剤または停留浣腸(retention enema)の形で、例えば、従来の坐剤主剤、例えば、カカオ脂または他のグリセリドを含有する坐剤または停留浣腸の形で処方されてもよい。
【0159】
さらに、活性成分はデポー調製物として処方することができる。このような長時間作用製剤は、(例えば、皮下または筋肉内への)移植によって投与されてもよく、筋肉内注射によって投与されてもよい。従って、例えば、本明細書に記載の化合物の1つまたは複数は、(例えば、許容される油に溶解したエマルジョンとして)適切なポリマー材料もしくは疎水性材料またはイオン交換樹脂と共に処方されてもよく、やや溶けにくい誘導体、例えば、やや溶けにくい塩として処方されてもよい。
【0160】
一部の局面において、本発明は、抗HER2抗体、ツカチニブ、化学療法剤(例えば、代謝拮抗物質)、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を説明する。
【0161】
一部の局面において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである。一部の局面において、抗HER2抗体はトラスツズマブである。一部の局面において、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。
【0162】
一部の局面において、化学療法剤はカペシタビンである。
【0163】
C.キット
別の局面において、本発明は、対象におけるがんの影響を処置するまたは改善するためのキットであって、本発明の薬学的組成物(例えば、ツカチニブ、抗HER2抗体、または化学療法剤の組み合わせを含む薬学的組成物)を含むキットを提供する。一部の態様において、抗HER2抗体は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、またはそれらの組み合わせである。場合によっては、抗HER2抗体はトラスツズマブである。場合によっては、抗HER2抗体は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせである。
【0164】
キットは任意の数のがん、特に、HER2陽性がんまたは転移がんの影響を処置または改善するのに適している。一部の態様において、処置または改善されるがんのタイプは、結腸直腸がん、胃がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC))、胆道がん(例えば、胆管がん、胆嚢がん)、膀胱がん、食道がん、黒色腫、卵巣がん、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん、小腸がん、頭頚部がん、子宮がん、乳がん、および子宮頚部がんからなる群より選択される。場合によっては、キットは、特に、原発不明タイプのがんがHER2陽性である場合、原発不明タイプのがんを処置するのに適している。特定の態様において、処置または改善されるがんは、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、胆管がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、および胆道がんからなる群より選択される。一部の態様において、がんは進行がんである。一部の態様において、がんは薬剤耐性がんである。場合によっては、がんは多剤耐性がんである。一部の態様において、がんは切除不能局所進行がんである。一部の態様において、がんは転移がんである。
【0165】
本発明の様々な方法を実施するための材料および試薬は、前記方法の実施を容易にするためにキットに入れて提供することができる。本明細書で使用する「キット」という用語は、プロセス、アッセイ、分析、または操作を容易にする物品の組み合わせを含む。特に、本発明のキットは、例えば、診断、予後予測、療法などを含む広範囲にわたる用途において有用である。
【0166】
キットは化学試薬ならびに他の成分を含んでいてもよい。さらに、本発明のキットには、キットの使用者への説明書、ツカチニブ、抗HER2抗体、代謝拮抗物質の組み合わせ、またはその薬学的組成物を投与するための装置および試薬、試料チューブ、ホルダー、トレー、ラック、ディッシュ、プレート、溶液、緩衝液、または他の化学試薬が含まれ得るが、それに限定されるわけではない。一部の態様において、キットは、遺伝子(例えば、KRAS、NRAS、BRAF)の遺伝子型を確かめるための、または試料中のHER2発現を確かめるための説明書、器具、または試薬を含む。本発明のキットはまた、例えば、蓋付きの箱に入れて、便利な保管および安全な発送のために包装することもできる。
【0167】
一部の局面において、本発明は、対象におけるHER2陽性がんの影響を処置または改善するためのキットであって、本明細書中で説明されるような薬学的組成物を含むキットを説明する。一部の局面において、キットは使用説明書をさらに含む。一部の局面において、キットは1種類または複数種類の試薬をさらに含む。
【実施例
【0168】
IV.実施例
本発明は、具体的な実施例によって、さらに詳細に説明される。以下の実施例は例示目的のためだけに提供され、いかなる方法によっても、本発明を限定することが意図されない。当業者は、本質的に同じ結果を生じるように変更または修正することができる重要でない様々なパラメータを容易に認識する。
【0169】
本明細書において提供される実施例は、ツカチニブおよびトラスツズマブが多数の患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて腫瘍増殖を抑制するのに有効だったことを証明する。特に、ツカチニブおよびトラスツズマブは、結腸直腸がん(CRC)、食道がん、胃がん、胆管がん、および非小細胞肺がん(NSCLC)を含むHER2陽性がんに由来する腫瘍を処置するのに有効であった。さらに、ツカチニブとトラスツズマブの組み合わせは、腫瘍増殖を抑制するのに、いずれかの薬物単独よりも有効であった。いくつかの腫瘍では2種類の薬物を併用した時に驚くべき相乗効果が観察された。
【0170】
実施例1:結腸直腸がんPDXモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせ
本実施例では、HER2陽性CRCのPDXモデルにおいてツカチニブおよびトラスツズマブの有効性を評価した。マウスにCTG-0121細胞、CTG-0784細胞、またはCTG-0383細胞を皮下接種し、その後に、ツカチニブ、トラスツズマブ、または2種類の薬物の組み合わせで処置した(n=10/群)。ツカチニブを28日間(試験0~27日目)にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを20mg/kgの用量で、3日に1回、腹腔内投与した。試験0日目から開始して、9用量のトラスツズマブを投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。
【0171】
図3A~3Cに示したように、ツカチニブとトラスツズマブは両方とも3つ全てのCRC PDXモデルにおいて腫瘍増殖を抑制した。さらに、2種類の薬物の組み合わせを投与した時の腫瘍増殖抑制は、いずれかの薬物を個々に使用した時より顕著であった。CTG-0121モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験29日目に、それぞれ、104%、109%、および124%の腫瘍増殖抑制(TGI)率を生じた(表1)。CTG-0784モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験29日目に、それぞれ、50%、36%、および103%のTGI率を生じた。CTG-0383モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験29日目に、それぞれ、117%、80%、および137%のTGI率を生じた。驚くべきことに、3つ全てのモデルにおいて2種類の薬物の組み合わせを投与した時に相乗効果が観察された。注目すべきことに、それぞれのHER2陽性CRC PDXモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせの活性は、HER2陽性乳がんモデル(BT-474)において観察された活性に匹敵した。
【0172】
実施例2:食道がんPDXモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせ
本実施例では、ツカチニブとトラスツズマブの有効性をHER2陽性食道がんのPDXモデルにおいて評価した。マウスにCTG-0137細胞またはCTG-0138細胞を皮下接種し、その後に、ツカチニブ、トラスツズマブ、または2種類の薬物の組み合わせで処置した(n=10/群)。ツカチニブを28日間(試験0~27日目)にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを20mg/kgの用量で、3日に1回、腹腔内投与した。9用量のトラスツズマブを試験0日目から開始して投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。
【0173】
CTG-0137モデルでは、ツカチニブとトラスツズマブは両方とも腫瘍増殖を抑制し、試験15日目に、それぞれ49%および55%のTGI率を示した(図4Aおよび表1)。さらに、2種類の薬物の組み合わせを投与した時に相乗効果が観察され、85%のTGI率を生じた。
【0174】
CTG-0138モデルでは、ツカチニブは単一薬剤として投与された時に腫瘍増殖を抑制し、試験30日目に69%のTGI率を生じた(図4B)。しかしながら、ツカチニブとトラスツズマブを併用投与した時に相乗効果が観察され、120%のTGI率を生じた(表1)。
【0175】
実施例3:胃がんPDXモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせ
本実施例では、ツカチニブとトラスツズマブの有効性をHER2陽性胃がんのPDXモデルにおいて評価した。マウスにGXA3038細胞、GXA3039細胞、またはGXA3054細胞を皮下接種し、その後に、ツカチニブ、トラスツズマブ、または2種類の薬物の組み合わせで処置した(n=10/群)。ツカチニブを28日間(試験0~27日目)にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを20mg/kgの用量で、3日に1回、腹腔内投与した。9用量のトラスツズマブを試験0日目から開始して投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。
【0176】
図5A~5Cに示したように、ツカチニブとトラスツズマブは両方とも3つ全ての胃がんPDXモデルにおいて腫瘍増殖を抑制した。さらに、2種類の薬物の組み合わせを投与した時の腫瘍増殖抑制は、いずれかの薬物を個々に使用した時より顕著であった。GXA-3038モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験28日目に、それぞれ、110%、50%、および116%のTGI率を生じた(表1)。GXA-3039モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験29日目に、それぞれ、48%、38%、および103%のTGI率を生じた。GXA-3054モデルでは、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験17日目に、それぞれ、65%、93%、および136%のTGI率を生じた。驚くべきことに、3つ全てのモデルにおいて2種類の薬物の組み合わせを投与した時に相乗効果が観察された。
【0177】
実施例4:胆管がんPDXモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせ
本実施例では、ツカチニブとトラスツズマブの有効性をHER2陽性胆管がんのPDXモデルにおいて評価した。マウスにCTG-0927細胞を皮下接種し、その後に、ツカチニブ、トラスツズマブ、または2種類の薬物の組み合わせで皮下に処置した(n=10/群)。ツカチニブを28日間(試験0~27日目)にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを20mg/kgの用量で、3日に1回、腹腔内投与した。9用量のトラスツズマブを試験0日目から開始して投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。
【0178】
図6および表1に示したように、ツカチニブとトラスツズマブは両方とも腫瘍増殖を抑制した。さらに、2種類の薬物の組み合わせを投与した時の腫瘍増殖抑制は、いずれかの薬物を個々に使用した時より顕著であった。試験28日目に、ツカチニブ、トラスツズマブ、および併用療法群のTGI率はそれぞれ48%、63%、および86%であった。
【0179】
実施例5:NSCLCモデルにおけるツカチニブとトラスツズマブの組み合わせ
本実施例では、ツカチニブおよびトラスツズマブの有効性をHER2陽性NSCLCの2つの異なるモデルにおいて評価した。これら2つの研究のためにCalu-3細胞およびNCI-H2170細胞を使用した。どちらの細胞も高レベルのHER2を発現し、BT-474乳がん細胞に匹敵する遺伝子増幅を有し、以前に、インビトロでツカチニブに対して良好な応答を示したことがある。
【0180】
マウスにCalu-3細胞またはNCI-H2170細胞を皮下接種し、その後に、ツカチニブ、トラスツズマブ、または2種類の薬物の組み合わせで処置した(n=10/群)。Calu-3試験の場合、ツカチニブを、試験7日目から21日間にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを試験7日目から20mg/kgの用量で、3日に1回、腹腔内投与した。7用量のトラスツズマブを投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。3匹の個々の動物に休薬期間を与えた(負の対照群では1匹、併用療法群では2匹)。
【0181】
NCI-H2170試験の場合、ツカチニブを試験18日目から21日間にわたって50mg/kgの用量で、1日2回、経口投与した。トラスツズマブを試験18日目から20mg/kgの用量で、週2回、腹腔内投与した。ビヒクルのみの群を負の対照として含めた。
【0182】
図7Aおよび図7Bならびに表1に示したように、ツカチニブとトラスツズマブは両NSCLCモデルにおいて腫瘍増殖を抑制した。さらに、2種類の薬物の組み合わせを投与した時の腫瘍増殖抑制は、いずれかの薬物を個々に使用した時より顕著であった。Calu-3モデルの場合、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験28日目に、それぞれ、63%、86%、および100%の腫瘍増殖抑制(TGI)率を生じた。驚くべきことに、併用療法群では相乗効果が観察された。NCI-2170モデルの場合、ツカチニブ、トラスツズマブ、および2種類の薬物の組み合わせは、試験39日目に、それぞれ、91%、61%、および98%のTGI率を生じた。
【0183】
(表1)TGI率の概略
【0184】
実施例6:前処置された、切除不能局所進行性のまたは転移性のHER2+乳がんを有する患者における、カペシタビンおよびトラスツズマブと組み合わせたツカチニブ対プラセボの第2相無作為化二重盲検比較対照試験
本実施例は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けたことがある、切除不能局所進行性のまたは転移性のHER2+乳がんを有する患者において行った、カペシタビンおよびトラスツズマブと組み合わせたツカチニブまたはプラセボの二重盲検試験について説明する。
【0185】
背景および論拠
HER2+乳がん
乳がんは、世界中で女性に最もよく見られるがんの形態であり(1)、米国において2番目に大きながん関連死因である(2)。乳がんの約20%はヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)を過剰発現する(3,4)。HER2は、細胞増殖、分化、および生存を媒介する膜貫通チロシンキナーゼ受容体である。HER2を過剰発現する腫瘍はHER2陰性がんと比較して悪性度が高く、歴史を通して、不十分な全生存期間(OS)と関連付けられてきた(5)。
【0186】
抗体に基づく療法または低分子チロシンキナーゼインヒビター(TKI)のいずれかを用いたHER2標的療法を導入すると、アジュバントおよび転移状況の両方で無病生存期間(DFS)、無増悪生存期間(PFS)、およびOSが有意に、かつ継続して改善した(6-9)。ヒト化抗HER2抗体であるトラスツズマブは、依然として、アジュバントおよび第一選択の転移状況における処置の根幹であり、通常、タキサンと組み合わされる。抗HER2療法と細胞傷害性化学療法を組み合わせると、2つの異なる作用機構を有する薬剤を用いた同時処置が可能になり、そのため、いずれかの薬剤を単独で用いた時より有効性が高くなる(6,10,11)。
【0187】
初期HER2+乳がんに対するアウトカムが改善するにもかかわらず、アジュバント状況では抗HER2療法で処置した全患者の1/4までが再発する。転移性HER2+乳がんに対する、ペルツズマブおよびT-DM1(アドトラスツズマブエムタンシンまたはトラスツズマブエムタンシン)などの新たなHER2標的療法が開発されたことで、これらの患者の生存期間の中央値が大幅に延びた。しかしながら、転移状況にある本質的に全ての患者が最終的には進行する。処置の失敗は、HER2遮断に対する一次耐性(primary resistance)または獲得耐性に起因することがある(12-15)。2つの異なるHER2標的抗体の組み合わせを介した、またはトラスツズマブおよびTKIなどの抗体療法を用いたHER2二重ターゲティングにより転移性疾患における有効性をさらに改善できるという証拠がある(8,16)。特に、低分子TKIと抗体療法の組み合わせは別の受容体阻害機構を利用して、抗体を介した阻害に対する耐性を克服するのに役立つ可能性があるので有効な可能性がある。二重上皮増殖因子受容体(EGFR)/HER2経口TKIであるラパチニブは、以前のトラスツズマブ療法時に以前に進行したことがある患者に与えられた時でさえ、トラスツズマブと併用した時にラパチニブ単独と比較して高い活性を有することが示されている(17,18)。しかしながら、ラパチニブの使用は、発疹、下痢、および疲労などの毒性の原因となる、この薬物の抗EGFR/ヒト上皮増殖因子受容体1(HER1)活性によって制限されてきた。従って、臨床アウトカムを改善するために、他の抗HER2療法と組み合わせることができる、さらに選択的なHER2低分子インヒビターが必要とされている。
【0188】
HER2+転移性疾患患者に対する現行の標準治療は、転移性疾患の第1選択治療としてペルツズマブ+トラスツズマブおよびタキサンを使用し、続いて第2選択ではT-DM1を用いた処置からなる(4,19)。ペルツズマブとT-DM1を両方とも用いた処置後に進行した患者に対する処置選択肢は比較的制限されたままである。患者は、一般的に、抗HER2療法(トラスツズマブまたはラパチニブの形をとる)の継続と、カペシタビンなどの細胞傷害性化学療法との組み合わせによって処置される。トラスツズマブおよびラパチニブと組み合わせたHER2療法も考慮することができる。しかしながら、単一レジメンは、この状況では標準治療として考慮されず、これらの患者のより良い選択肢が必要とされる。
【0189】
HER2+乳がんにおける脳転移
恐らく、ポストトラスツズマブ時代における未だ対処されていない最大の医学的必要性は脳転移の処置と予防である。最近のデータから、トラスツズマブに基づくアジュバント療法が与えられた患者では、脳において発生する初回再発の発生率は増加しており(20)、転移性疾患を有するHER2+患者の約30~50%は脳転移を発症する(20-22)ことが示唆される。HER2+乳がん患者における脳転移の増え続ける有病率は、いくつかの要因が原因である可能性がある。第1に、HER2+乳がんは脳に対して親和性を示すようにみえる。第2に、非CNS疾患が良好に管理されると患者はより長生きする可能性があり、そのため脳転移が重大な臨床問題の度合いを強めていく。最後に、トラスツズマブなどの大きな分子が血液脳関門を通過しないので、脳はHER2+疾患にとって安全な場所(sanctuary site)である可能性がある(23)。
【0190】
脳転移に対する処置選択肢は限られている。脳転移に対して認可された具体的な全身処置レジメンは無く、現在、処置は、全脳照射(WBRT)、定位放射線(SRS)、または外科手術などの局所療法の使用に大きく頼っている。患者には化学療法単独、またはカペシタビンとラパチニブまたはトラスツズマブのいずれかが与えられる可能性があるが、脳での奏効率は一般的に中程度である(24,25)。脳および疾患の非CNS部位において臨床利益を有するHER2標的全身療法が開発されたら、全PFSおよびOSが改善されることで、ならびに放射線療法の使用と、認知神経科学的機能低下を含む、その関連する毒性が回避または遅延されることで臨床アウトカムを改善できる可能性がある。
【0191】
試験デザイン
全ての適格基準を満たした後、ツカチニブまたはプラセボと、カペシタビンおよびトラスツズマブとの組み合わせを与えるために患者を2:1比で無作為化する。トラスツズマブの代わりとして、本試験では、認可されたトラスツズマブバイオシミラー(静脈内製剤または皮下製剤)も用いられる場合がある。
【0192】
動的階層的無作為化スキーマ(dynamic hierarchical randomization schema)を用いて、本試験のために患者を無作為化する。Rosenberger, William F., and John M. Lachin.「Chapter 7」. Randomization in Clinical Trials Theory and Practice. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 2016。層別因子には、処置済みの脳転移または未処置の脳転移の存在または病歴(はい/いいえ)、米国東海岸がん臨床試験グループパフォーマンスステータス(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)(ECOG PS)(0対1)、および世界の地域(region of world)(US対カナダ対その他の地域(Rest of World))が含まれる。脳転移の存在についての層別は、病歴と、スクリーニングコントラスト脳MRIの試験責任者評価に基づいている。以前の脳転移(処置済み、もしくは未処置)またはスクリーニングMRI時の脳転移のはっきりとした存在を有する患者は層別目的とその後の有効性評価では「はい」とみなされる。スクリーニングコントラスト脳MRI時に不確かな有意性の脳転移および病変部という前病歴がない患者も層別および経過観察の目的では「はい」とみなされる。
【0193】
処置を、それぞれ21日のサイクルで投与する。ツカチニブ(300mg)またはプラセボを経口(PO)で1日2回(BID)投与する。必要であれば、副作用を避けるために、ツカチニブまたはプラセボ用量を250mg、200mg、または150mg PO BIDにさえ減らす。
【0194】
それぞれ21日のサイクルの1~14日目にカペシタビンを1000mg/m2 PO BIDで与える。
【0195】
8mg/kg IVのトラスツズマブを負荷投与量として与える。処置計画の変更を補償するために毎週与える可能性がある特定の状況を除いて、トラスツズマブのIV負荷投与量後に6mg/kgのトラスツズマブを21日に1回投与する。試験の最初のサイクル開始の4週間以内にトラスツズマブを与えた患者には、トラスツズマブの負荷投与量を与えない。これらの患者には、サイクル1を含む、それぞれのサイクルで6mg/kgのトラスツズマブを与える。トラスツズマブはまた、毎週、2mg/kg IV q 7日で与えることがあるが、トラスツズマブ注入が遅れており、21日までのサイクル長を再同期するのに毎週注入が必要とされる場合だけである。
【0196】
または、トラスツズマブを、3週間ごとに1回、600mgの一定用量として与える皮下用量として投与する。皮下トラスツズマブは負荷投与量を必要とせず、静脈内製剤の場合は、毎週計画を利用できない。患者はIVトラスツズマブから皮下トラスツズマブにクロスオーバーすることが許可される。
【0197】
処置は、許容できない毒性、疾患進行、同意の撤回、または試験終了まで継続する。脳における孤立性進行と安定した全身疾患を有する患者では、脳に対する局所療法を投与する場合がある。
【0198】
試験全体を通して患者の安全性を評価する。試験処置全体を通して、理学的検査、AEの収集、および検査室評価を含む安全性評価を最低3週間に1回、および試験薬物の最後の投与の30日後に行う。心臓駆出率をスクリーニング時に、その後、12週間ごとに1回、MUGAスキャンまたはECHOによって評価する。
【0199】
検査室評価には、以下の検査:カルシウム、マグネシウム、無機リン、尿酸、総タンパク質量、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アルブミン、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、重炭酸イオン、グルコース、カリウム、塩化物、およびナトリウムが含まれる。肝機能検査(LFT)には、以下:AST/SGOT、ALT/SGPT、総ビリルビン、およびアルカリホスファターゼが含まれる。血液学パネルには、以下の検査:鑑別を伴う全血球数(CBC)、ヘモグロビン、ヘマトクリット(Hct)、および血小板が含まれる。凝固パネルには、以下の検査:INR、プロトロンビン時間(PT)、およびaPTTが含まれる。尿検査には、以下の検査:色、外観、pH、タンパク質、グルコース、ケトン、および血液が含まれる(が、それに限定されない)。
【0200】
脳転移の前病歴に関係なく、ベースライン時に患者全員にコントラスト脳MRIを行う。有効性評価には、ベースライン時、最初の24週間にわたって6週間ごと、次いで、その後、9週間ごとの、高品質スパイラルコントラストCT、PET/CT(高品質CTスキャンが含まれるのであれば)または適宜、MRIスキャン、ならびに他の任意の既知の疾患部位の適切な画像化(例えば、皮膚病変写真撮影、骨画像化)による転移性疾患または切除不能局所進行性疾患(最低でも胸部、腹部、および骨盤を含む)の全ての既知の部位の測定が含まれる。試験責任者の自由裁量で、核医学骨スキャンまたは他のスキャンなどの、さらなる画像化が行われる場合がある。試験責任者による放射線学的スキャン評価に基づいて処置を決定する。脳のコントラストMRIが30日以内に既に行われていなければ、または試験時に脳に進行があったと以前に文書化されていなければ、処置を終了して30日以内に患者全員が脳の追加コントラストMRIを受ける。疾患進行以外の理由で試験処置が終了するのであれば、進行性疾患があるかどうか患者を評価および追跡するために、あらゆる妥当な取り組みがなされる。試験処置が完了した後、試験の患者全員のOSを追跡し続ける。
【0201】
スクリーニングコントラスト脳MRI時に偶然発見された脳転移に対して局所療法を受け、次いで試験処置に続いた患者の場合、局所療法が完了した後の追加コントラストMRIの特性は以下の通りである。スクリーニング期間中に脳放射線療法を受けた患者の場合、最初のベースラインコントラスト脳MRIが、さらに応答を評価する目的で比較するためのベースラインとして役立つ。スクリーニング期間中に脳転移の外科的切除を受けた患者については、術後コントラスト脳MRIがベースラインとして役立つ。
【0202】
ツカチニブおよび代謝産物薬物レベルのピークおよびトラフレベルの薬物動態学的評価を行う。循環腫瘍DNA(ctDNA)を含む潜在的な応答バイオマーカーの可能性のある評価のためにも血液試料を採取する。各サンプリング時の個々の(患者)血漿中ツカチニブ濃度をリストにする。各サンプリング時の対応する要約統計量も計算する。各患者について血漿中ツカチニブ対時間プロファイル(濃度が対数目盛上と一様目盛上にある)をプロットする。対応する要約時間プロットも同様に作成する。代謝産物ONT-993と親薬物ツカチニブの比をリストにし、各サンプリング時間でまとめる。
【0203】
試験全体を通して安全性モニタリングを盲検方式で行う。死亡、終了、減量、AE、重篤有害事象(SAE)、ならびに治験登録(盲検および非盲検)6週間以内の進行性疾患の症例を含む(が、それに限定されない)全ての関連する安全性データおよび有効性データを定期的に調査する。
【0204】
健康に関連する生活の質および医療経済学を、EQ-5D-5L quality of life instrumentを使用し、医療資源利用データを収集することによって評価する。
【0205】
一次有効性エンドポイントは、無作為化から、どちらが先であっても、中央判定により文書化された疾患進行または何らかの理由による死亡までの時間と定義される無増悪生存期間(PFS)である。全体として、この試験における中央判定PFSの一次エンドポイントについては、ログランク検定を用いて2つの処置群を比較する。この試験のp値は、無作為化において用いられたダイナミックアロケーション(dynamic allocation)を反映するために再無作為化(rerandomization)手順:処置済み、または未処置の脳転移の既知の病歴(はい/いいえ);ECOG PS(0対1);および世界の地域を用いて計算する。無作為化された患者全員を一次分析に含める。患者を、最後の進行評価時に検閲されたように処置する。
【0206】
二次有効性エンドポイントは、脳転移があった患者における無増悪生存期間、全生存期間、客観的奏効率、臨床的有用率、および奏効持続期間(応答があった患者の場合)である。
【0207】
探索的有効性評価はまたバイコンパートメント腫瘍評価法を用いても行う。この分析では、非CNS疾患を伴う進行(独立中央判定)を固形がんの効果判定基準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)(RECIST)1.1基準に従って評価し、CNS疾患を神経学的腫瘍学的脳転移における奏効評価(Response Assessment in NeuroOncology-Brain Metastases)(RANO-BM)基準に従って評価する。HER2および他の変異を、可能性のある応答バイオマーカーとして、一次エンドポイントおよび二次エンドポイントの記述的サブグループ分析(descriptive subgroup analyses)を用いて探索する。
【0208】
PFSの経過観察は、最後の患者が無作為化された後、12ヶ月間にわたって継続する。OSの経過観察は、OSに対する処置の効果を検定するために検出力が90%になるように十分な数の事象が記録されるまで継続する。対照アームの生存期間の中央値は15~24ヶ月になる可能性があるので、OSの一次分析をPFSの一次分析の約1~2+年後に行う。
【0209】
エンドポイント
一次エンドポイント
PFSは、無作為化から、どちらが先であっても、独立中央判定により文書化された疾患進行(RECIST1.1に従う)または何らかの理由による死亡までの時間と定義される。
【0210】
二次エンドポイント
有効性エンドポイントには、ツカチニブ対プラセボの、独立中央判定に基づくRECIST1.1を用いたベースライン時に脳転移のある患者におけるPFS;OS;無作為化から、どちらが先であっても、試験責任者により評価され、文書化された疾患進行(RECIST1.1に従う)、または何らかの理由による死亡までの時間と定義するPFS;独立中央判定に基づくORR(RECIST1.1);独立中央判定に基づくDOR(RECIST1.1);独立中央判定に基づくCBR(RECIST1.1);および比較医療経済学が含まれる。
【0211】
安全性エンドポイントには、有害事象(AE);臨床検査室評価;バイタルサインおよび他の関連する安全性変数;カペシタビンの用量の一時休止、減量、および終了の頻度;ツカチニブの用量の一時休止、減量、および終了の頻度;ならびにトラスツズマブの用量の一時休止および終了の頻度が含まれる。
【0212】
薬物動態エンドポイントにはツカチニブおよび代謝産物の血漿中濃度が含まれる。
【0213】
医療経済学およびアウトカムエンドポイントには、処置時間、入院の長さ、入院、ED来診、計画された、および計画外の提供者の訪問、薬の使用、放射線学、ならびに他の処置および手順;ならびにEQ-5D-5L instrumentを用いた健康に関する生活の質/健康状態を含むが、これに限定されない医療資源利用の累積発生率が含まれる。
【0214】
探索的エンドポイント
探索的エンドポイントには、PFS(バイコンパートメント腫瘍評価法を用いたRANO-BMに従う(非脳疾患をRECIST1.1に従って評価し、CNS疾患をRANO-BMに従って評価する));最初のCNS進行の発生後および局所処置後の臨床利益のために試験処置に続く患者ではRECIST1.1に従う非CNS PFS;ORR(独立中央判定によるRANO-BMに従うバイコンパートメント腫瘍評価法を使用する);奏効持続期間(独立中央判定によるRANO-BMバイコンパートメント腫瘍評価法に従う);脳進行までの時間(独立中央判定によるRANO-BMに従う);CBR(独立中央判定によるRANO-BMバイコンパートメント腫瘍評価法に従う);潜在的な応答バイオマーカーとしてのHER2変異または他の変異の存在;ならびに脳転移に対する介入(外科手術または放射線)までの時間が含まれる。
【0215】
患者の選択および中止
組み入れ規準
試験に対する適格性があるようにするためには、患者は下記の基準を満たさなければならない。
【0216】
(1)患者には、組織学的に確認されたHER2+乳がんがなければならず、HER2+はISHまたはFISHまたはIHC法によって明らかにされる。無作為化の前に、治験依頼者により指定された中央検査室が(ISHまたはFISHを用いて)HER2陽性を確認するために組織ブロックまたはスライドを提出しなければならない。前の試験からの、中央検査室によって確認されたHER2結果(IHC、ISH、またはFISHのいずれか)を用いて、治験依頼者の許可を受けて、この試験を受ける適格性を確かめることができる。
【0217】
(2)患者は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、およびT-DM1による前処置を受けたことがなければならない。
【0218】
(3)患者には、最後の全身療法後、(試験責任者によって確認された時に)切除不能局所進行乳がんもしくは転移乳がんの進行がなければならないか、または最後の全身療法に不耐性でなければならない。
【0219】
(4)患者には、RECIST 1.1によって評価可能な測定可能または測定不可能な疾患がなければならない。
【0220】
(5)患者は同意の時点で少なくとも18才でなければならない。
【0221】
(6)患者はECOG PS 0または1でなければならない。
【0222】
(7)試験責任者の見解で、患者には少なくとも6ヶ月の平均余命がなければならない。
【0223】
(8)抱合型ビリルビンが≦1.5X ULNであり、トランスアミナーゼAST/SGOTおよびALT/SGPTが≦2.5X ULN(肝臓転移が存在する場合は≦5X ULN)である場合に登録し得る既知のジルベール病にかかっている患者を除いて、患者には、総ビリルビン≦1.5X ULNによって規定されるような十分な肝機能がなければならない。
【0224】
(9)患者には、ANC≧1.5x103/μL;血小板数≧100x103/μL(メディカルモニターからの許可を受けて、75~100x103/μLの安定した血小板数を有する患者が組み入れられてもよい);ヘモグロビン≧9g/dLによって規定されるような十分なベースライン血液学的パラメータがなければならない。治験登録前に輸血された患者では、輸血支援とは独立した十分な血液学的パラメータを確立するために、輸血は療法を開始する≧14日前に行わなければならない。
【0225】
(10)患者には、施設ガイドラインに従って計算された時に≧50mL/minのクレアチニンクリアランスがなければならない、または体重が≦45kgの患者では施設基準値範囲内の血清中クレアチニンがなければならない。
【0226】
(11)患者には、INRおよびaPTTを変えることが知られている薬を飲んでいる場合を除いて、≦1.5X ULNのINRおよびaPTTがなければならない。患者がワーファリンおよび他のクマリン誘導体を用いることを禁止する。
【0227】
(12)試験処置の初回投与前、4週間以内に文書化されたECHOまたはMUGAスキャンによって評価した時に、患者には≧50%のLVEFがなければならない。
【0228】
(13)患者が、妊娠の可能性がある女性であれば、患者には、試験処置の初回投与前、7日以内に行った血清妊娠検査の結果が陰性でなければならない。女性が永久不妊でない限り、初潮後から閉経後になるまで妊娠の可能性(すなわち、妊孕性)があるとみなされる。永久不妊法には、子宮摘出、両側卵管摘除術、および両側卵巣摘出術が含まれる。閉経後状態は、他の医学的原因なく、12ヶ月間、月経が無いことと定義される。
【0229】
(14)(上記で規定されたように)妊娠の可能性がある女性および妊娠の可能性があるパートナーをもつ男性は、極めて有効な受胎調節法、すなわち、一貫して、かつ正しく使用した時に失敗率が1年に1%未満になる方法を使用することに同意する。このような方法には、排卵抑制と関連する併用(エストロゲンとプロゲストゲンを含有する)ホルモン避妊(経口、膣内、もしくは経皮);排卵抑制と関連する、プロゲストゲンだけのホルモン避妊(経口、注射、もしくは移植);子宮内避妊具;子宮内ホルモン放出システム;両側管閉塞(bilateral tubal occlusion)/結紮;精管切除したパートナー;または禁欲が含まれる。妊娠の可能性があるパートナーをもつ男性患者はバリア避妊法を使用しなければならない。試験患者全員が、インフォームドコンセントの署名から、治験薬または治験用医薬品を最後に投与して7か月後まで、上記のように有効な避妊を行うように指導される。
【0230】
(15)患者は、患者の疾患の標準治療の一部ではない、試験に関連する検査または手順を開始する前に、IRB/IECによって承認されている同意文書に従って署名入りのインフォームドコンセントを提供しなければならない。
【0231】
(16)患者は喜んで試験手順を行う気があり、かつ試験手順に従うことができなければならない。
【0232】
(17)CNS組み入れの場合、スクリーニングコントラスト脳MRIに基づいて、患者には、以下:(i)脳転移の証拠がない;(ii)未処置の脳転移が即時局所療法を必要としない(スクリーニングコントラスト脳MRI時に>2.0cmの未処置のCNS病変部がある患者の場合、登録前にメディカルモニターとの議論およびメディカルモニターからの許可が必要である);または(iii)以前に処置された脳転移を有する、で説明される基準のうちの1つがなければならない。
【0233】
局所療法で以前に処置した脳転移は処置から安定していてもよく、試験責任者の見解で局所療法による即時再処置のための臨床適応症がなければ前の局所CNSから進行していてもよい。
【0234】
この試験のためにスクリーニング中に行ったコントラスト脳MRI時に発見した新たに特定した病変部に対してCNS局所療法で処置した患者は、以下の基準:WBRTからの時間が処置の初回投与前、≧21日であるか、SRSからの時間が処置の初回投与前、≧7日であるか、または外科的切除からの時間が≧28日であり、評価可能な他の疾患部位が存在する、の全てを満たしていれば登録に対する適格性がある可能性がある。
【0235】
標的病変部および非標的病変部を分類するために、あらゆるCNS処置の関連記録が利用できなければならない。
【0236】
除外基準
下記の理由により患者を試験から除外した。
【0237】
(1)患者は以前のどの時点でも、試験処置を開始する12ヶ月以内に、ラパチニブ(ラパチニブを≦21日間与え、疾患進行または重度毒性を除く理由により終了した場合を除く);あるいはネラチニブ、アファチニブ、または他の治験用HER2/EGFRもしくはHER2 TKIで以前に処置されたことがある。
【0238】
(2)患者は転移性疾患に対してカペシタビンで以前に処置されたことがある(カペシタビンを≦21日間与え、疾患進行または重度毒性を除く理由により終了した場合を除く)。少なくとも、試験処置を開始する12ヶ月前に、アジュバントまたはネオアジュバント処置のためにカペシタビンが与えられたことがある患者に適格性がある。
【0239】
(3)患者に、以下の累積用量のアントラサイクリン:ドキソルビシン(>360mg/m2)、エピルビシン(>720mg/m2)、ミトキサントロン(>120mg/m2)、イダルビシン(>90mg/m2)、またはリポソームドキソルビシン(例えば、Doxil、Caelyx、Myocet)>550mg/m2)に曝露された経歴がある。
【0240】
(4)患者には、首尾良く管理されたトラスツズマブに対するグレード1もしくは2の注入関連反応、または試験薬物中の賦形剤の1つに対する既知のアレルギーを除いて、トラスツズマブ、カペシタビン、またはツカチニブと化学的もしくは生物学的に類似する化合物に対するアレルギー反応の病歴がある。
【0241】
(5)患者は、試験処置の初回投与の≦3週間に、任意の全身抗がん療法(ホルモン療法を含む)、非CNS放射線、もしくは実験薬剤による処置を受けたことがあるか、または現在、別の介入性臨床試験に参加している。ホルモン療法の休薬の例外は、同時薬物療法が許可されている、閉経前女性での卵巣機能抑制に用いられるGnRHアゴニストである。
【0242】
(6)以下:脱毛症およびニューロパチー(≦グレード2まで回復していなければならない);ならびにCHF(発生時に重篤度が≦グレード1でなければならず、完全に回復していなければならない)を除いて、患者には、≦グレード1まで回復していない、前のがん療法と関連する任意の毒性がある。
【0243】
(7)患者には、臨床的に意義のある心肺疾患、例えば、療法を必要とする心室性不整脈;管理されていない高血圧(降圧薬の服用時に、持続的な収縮期血圧>150mmHgおよび/もしくは拡張期血圧>100mmHgと定義される);症候性CHFの任意の病歴;進行性悪性腫瘍の合併症もしくは補助酸素療法を必要とする低酸素による重度の安静時呼吸困難(CTCAEグレード3以上);またはQT間隔の薬物性延長もしくはトルサードドポアント、例えば、先天性もしくは後天性のQT延長症候群の潜在的な原因となる状態、突然死の家族歴、以前の薬物性QT延長の病歴、あるいは既知の、および一般に認められている関連するQT延長リスクのある薬物療法を現在使用していること(以下の表13にある横列「関連性が一般に認められている」を参照されたい)がある。
【0244】
(8)患者は試験処置の初回投与前、6ヶ月以内に既知の心筋梗塞または不安定狭心症にかかったことがある。
【0245】
(9)患者はB型肝炎もしくはC型肝炎の既知のキャリアであるか、または他の既知の慢性肝臓疾患にかかっている。
【0246】
(10)患者はHIV陽性であることが分かっている。
【0247】
(11)患者は妊娠しているか、授乳中であるか、または妊娠を計画している。
【0248】
(12)患者は、ワーファリンまたは他のクマリン誘導体(非クマリン血液凝固物質が許容される)を用いた療法を必要とする。
【0249】
(13)患者は丸剤を飲み込むことができないか、または薬の十分な経口吸収を妨げる重大な胃腸疾患を有する。
【0250】
(14)患者は、強力なCYP3A4インデューサーもしくはインヒビターまたは強力なCYP2C8インデューサーもしくはインヒビターを、試験処置の初回投与前、このインヒビターまたはインデューサーの3排出半減期以内に使用したことがある(本実施例の最後にある表10および表11を参照されたい)。
【0251】
(15)患者は既知のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠損症を有する。
【0252】
(16)患者は何らかの理由により脳のコントラストMRIを受けることができない。
【0253】
(17)患者には、試験責任者の見解で、安全性または試験手順の遵守に影響を及ぼす可能性がある他の任意の医学的要因、社会的要因、または心理社会的要因がある。
【0254】
(18)患者には、試験処置を開始して2年以内に、全身処置を必要とする別の悪性腫瘍の証拠がある。
【0255】
CNS除外の場合、スクリーニング脳MRIに基づいて患者には以下のどの基準もあってはならない。
【0256】
(19)登録のためにメディカルモニターとの議論と許可がなされない限り、患者には、サイズが>2.0cmの未処置の脳病変部が無い可能性がある。
【0257】
(20)患者には、脳転移症状を管理するために、全一日量>2mgのデキサメタゾン(または同等物)の継続した全身コルチコステロイド使用が無い可能性がある。しかしながら、メディカルモニターによる議論と許可があれば、全一日量≦2mgのデキサメタゾン(または同等物)の慢性安定用量を服用している患者に適格性がある可能性がある。
【0258】
(21)サイズの増加または可能性がある治療関連浮腫が患者にリスクを課す場合がある解剖学的部位(例えば、脳幹病変部)における病変部を含むが、これに限定されない、即時局所療法を必要とすると考えられている脳病変部が患者には無い可能性がある。スクリーニングコントラスト脳MRIによって特定した、このような病変部に対して局所処置を受ける患者には、上記のCNS組み入れ規準の下で説明された基準に基づいて依然として試験に対する適格性があり得る。
【0259】
(22)試験責任者によって文書化された時に、既知の、または同時のLMDが患者に無い可能性がある。
【0260】
(23)患者には、不十分に管理された(>1/週間)全般発作もしくは複雑部分発作が無い可能性があるか、または患者は、CNSに向けられた療法にもかかわらず脳転移により神経学的進行を示す可能性がある。
【0261】
試験処置を終了するための基準
試験を取りやめた対象を交換しない。患者が試験処置の参加を取りやめる理由は、以下:AE、進行性疾患、死亡、同意の撤回、追跡不能、臨床的進行による医師の決定、(他の要因による)医師の決定、患者の決定、プロトコール違反、治験依頼者による試験終了、妊娠、もしくは患者が試験中に授乳を開始する、または適宜、他の基準のいずれかが原因である可能性がある。
【0262】
試験処置の参加を取りやめる理由を患者のeCRFに記録しなければならない。患者が試験の同意を撤回しない限り、30日経過観察来診および長期経過観察来診のために予定されていた評価を完了する。患者はまた、少なくとも、確認されたPFS事象が観察されるまで進行性疾患についても追跡する。AEが試験処置の参加を取りやめる原因であれば、「有害事象」は医師の決定または患者の決定ではなく処置終了の理由と記録する。試験責任者の自由裁量により、または下記の用量変更の要件により患者がツカチニブを再開しない場合があるように(例えば、<150mg BIDツカチニブへの減量を必要とする、毒性のためにツカチニブを>6週間、一時休止する、またはツカチニブを再開するのに十分なグレードへのAEの回復を欠く)、患者にAEがある時はいつでも、AEによる処置終了が認められる。AEによって試験薬物が終了した場合、ツカチニブもしくはプラセボ、またはカペシタビンとトラスツズマブの両方を終了する患者は、処置終了の理由には「有害事象」と記録する。
【0263】
一次試験エンドポイントが中央放射線学的評価(central radiologic assessment)によって確かめられた時のPFSと定義されているので、可能ならいつでも疾患進行をX線撮影で確認するために、あらゆる取り組みがなされる。しかしながら、放射線学的評価を受けることが不可能であるか、または実行不可能である転移乳がんの進行性の症状および徴候が患者にあるように見える場合、試験責任者は「臨床的進行による医師の決定」のために試験処置から患者を除外することがある。これらの患者を一次エンドポイントの最終分析において検閲する。そのため、このような患者を試験処置から除外するために、この理由を使用することは、患者がさらなる放射線学的評価を受けることが臨床的に適していない場合、および放射線学的確認が無い中でがん進行が臨床的に確信される場合に制限される。可能性のある他の理由、特に、AEが、これらの症例における試験薬物終了の理由のより正確な説明とはならないことを確かなものにするために特別の配慮がなされる。
【0264】
試験処置を終了した後の長期経過観察は、患者が試験の参加を取りやめるまで継続する。患者が試験の参加を取りやめる理由は、以下:死亡、経過観察の同意の撤回、追跡不能、医師の決定、治験依頼者による試験終了、または適宜、他の理由のいずれかが原因である可能性がある。
【0265】
用量変更
表2~7は、ツカチニブまたはプラセボ、カペシタビン、およびトラスツズマブの用量変更ガイダンスを示す。
【0266】
全てのAEおよび検査値異常を、適宜、ツカチニブまたはプラセボ、カペシタビン、およびトラスツズマブと関係するかどうか試験責任者によって評価する。AEは、ツカチニブまたはプラセボ単独、カペシタビン単独、トラスツズマブ単独、3種類の薬物のうちの2つ、3種類全ての薬物と関連するとみなされてもよく、どれとも関連しないとみなされてもよい。関係がはっきりしていない事象では、どの試験薬物を一時休止および/または変更するか議論するために、メディカルモニターと議論する。投薬を下記の通り変更する(用量の一時休止、減量、または薬物の終了を含む)。
【0267】
治療関連毒性が原因で6週間を超える薬物の遅延が必要であれば、より長期の遅延がメディカルモニターによって許可されない限り、どの試験薬物も終了する。ツカチニブまたはプラセボを終了する患者は試験処置を終了する。
【0268】
患者は毒性が原因でカペシタビンまたはトラスツズマブのいずれかを終了し、適宜、ツカチニブまたはプラセボとカペシタビンまたはトラスツズマブのいずれかの組み合わせを継続することがある。カペシタビンとトラスツズマブを両方とも終了するのであれば、患者はツカチニブまたはプラセボの試験処置も終了する。
【0269】
プロトコールにより規定された来診は、21日サイクルの間、用量の一時休止または遅延の間でさえ計画通りに継続する。
【0270】
サイクルの1~14日目にはカペシタビンのみを服用する。サイクルの15日目~21日目には用量を与えない。
【0271】
下記の理由以外の理由で減量または処置中断が患者の安全性にとって一番の利益だと考えられれば、試験責任者によって行われる場合がある。
【0272】
毒性のために一時休止した用量を交換しない。
【0273】
局所CNS療法を可能にするために試験処置を6週間まで一時休止してもよい。計画されたCNSに向けられた療法の前に1週間にわたって、経口試験薬物(ツカチニブ/プラセボおよびカペシタビン)を一時休止しなければならない。必要であれば、CNSに向けられた放射線療法の前にツカチニブを一時休止することがある。カペシタビンは既知の放射線増感剤であり、従って、CNSに向けられた放射線療法の前に一時休止する必要がある。トラスツズマブは放射線を増強しないことが示されており、従って、放射線療法の間、プロトコール計画通りに継続することがある。SRS/SRTが完了して7日後またはそれより後に、WBRTの21日後またはそれより後に、および外科的切除の28日後またはそれより後に、経口試験薬物を再開することがある。局所療法前と後に試験薬物を一時休止および再開する計画は、メディカルモニターとの議論と、メディカルモニターからの文書化された許可を必要とする。
【0274】
ツカチニブまたはプラセボの減量
表2~7はツカチニブまたはプラセボの用量変更要件を示す。これらの表によって必要とされるものより多い減量が試験責任者の自由裁量で行われる場合がある。ツカチニブまたはプラセボの減量が3回まで許可されるが、150mg BIDより少ない減量は許可されない。試験責任者の意見で<150mg BIDまでの減量を必要とするか、または4回目の潜在的なツカチニブ減量を必要とする患者は試験処置を終了する。
【0275】
減量を行った後に、ツカチニブまたはプラセボの用量を再増加しない。
【0276】
(表2)推奨されるツカチニブまたはプラセボの減量計画
a.試験責任者によって臨床的に適切だとみなされれば、この表に列挙されたものよりも規模の大きい減量工程(すなわち、1回の減量につき50mg超)が行われる場合がある。しかしながら、ツカチニブまたはプラセボは、150mg BIDより下には減量されないことになっている。
【0277】
トラスツズマブの用量変更
トラスツズマブを減量しない。トラスツズマブはまた、メディカルモニターとの議論後に毎週、2mg/kg IV q 7日で与えることがあるが、トラスツズマブ注入が遅れており、21日までのサイクル長を再同期するのに毎週注入が必要な場合だけである。トラスツズマブの皮下用量(600mg)は3週間に1回しか投与されないので変更することができない。トラスツズマブをAEのために一時休止した後、同じ用量で再開できなければ終了しなければならない。トラスツズマブをIV注入として与えた時、注入関連反応(infusion-associated reaction)(IAR)が生じることがある。
【0278】
重大なIARが生じた場合、注入を中断し、適切な医学的療法を投与する(下記を参照されたい)。重度のIARがある患者では途中終了を考慮する。この臨床評価は、その有害反応のために投与された処置に対する前述の反応および応答の重篤度に基づいている。
【0279】
患者がIARを発症した場合、試験責任者の自由裁量で、以下のガイドラインに従って、または施設ガイドラインに従って:注入を止める、および医師に知らせる;バイタルサインを評価する;アセトアミノフェン650mg POを投与する;メペリジン50mg IM、ジフェンヒドラミン50mg IV、ラニチジン50mg IVもしくはシメチジン300mg IV、デキサメタゾン10mg IV、またはファモチジン20mg IVの投与を考える;ならびにバイタルサインが安定していればトラスツズマブ注入を再開する、患者を処置する。
【0280】
患者が注入症候群(infusion syndrome)を発症している場合、将来の処置のために標準的な前投薬は必要とされない。処置前に患者にアセトアミノフェンが与えられる場合がある。重篤な反応は、適応があれば、酸素、βアゴニスト、コルチコステロイドなどの支持療法、および試験薬剤の中止で処置されたことがある。
【0281】
(表3)ツカチニブもしくはプラセボおよび/またはトラスツズマブと関連する左心室機能不全以外のあるいは肝細胞毒性以外の臨床有害事象に対する、ツカチニブまたはプラセボおよびトラスツズマブの用量変更*
a.用量変更は脱毛症に必要ではない。
*問題となっているAEが、表に概説されるように治験薬を再開するのに必要なグレードまで回復しないのであれば、患者は薬物を完全に終了する必要がある場合があることに注意する。>6週間にわたってツカチニブの一時休止を必要とする患者は、より長期の遅延がメディカルモニターによって許可されなければ試験処置を終了しなければならない。
【0282】
カペシタビンの用量変更
下記の表4で説明するようにカペシタビン用量を変更する。
【0283】
カペシタビンまたは(試験責任者によって決定される)ツカチニブもしくはプラセボとカペシタビンおよび/もしくはトラスツズマブの組み合わせと関連するとみなされたグレード2以上のAEを経験した全ての患者について、カペシタビンを一時休止する。
【0284】
減量を行った後に、カペシタビン用量を再増加しない。
【0285】
(表4)カペシタビンと関連するとみなされた臨床有害事象に対するカペシタビンの用量変更
略語:Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE);該当なし(NA)。
a.用量変更の表はXELODA(登録商標)添付文書に基づいている;用量の丸めは施設ガイドラインに従って行われる。
b.無症候性または軽度症候性のグレード2検査値異常(例えば、貧血)のある特定の場合では、試験責任者はカペシタビン用量レベルを維持すること、および/またはグレード1に回復する前にカペシタビンを再開することを選択する場合がある。これは、カペシタビン用量の中断および/または減量からの患者に対するリスクが、有害事象からの患者に対するリスクよりまさっており、かつこの行為が通常かつ従来通りの診療と一致している時にのみ行われる。試験責任者が、これらの状況で他のカペシタビン用量変更計画に従いたいと思っているのであれば、メディカルモニターからの許可が必要である。
【0286】
肝毒性のための用量変更
肝機能異常の場合に用量変更が求められることがある。ツカチニブまたはプラセボとカペシタビンの用量変更については、以下の表5を参照されたい。トラスツズマブの用量変更は必要とされないが、試験責任者の自由裁量で投薬を一時休止ことができる。
【0287】
(表5)肝機能異常のためのツカチニブまたはプラセボとカペシタビンの用量変更
略語:アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT);アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST);基準値上限(upper limit of normal)(ULN)。
【0288】
左心室機能不全のための用量変更
左心室機能不全のためのツカチニブまたはプラセボとトラスツズマブの用量変更ガイドラインを表6に示した。
【0289】
(表6)左心室機能不全のための用量変更
略語:うっ血性心不全(CHF);左心室駆出率(LVEF)。
【0290】
持続的に(すなわち>4週間)LVEFを下げるために、または>3回にわたって投薬を中止してLVEFを下げるために、ツカチニブまたはプラセボとトラスツズマブを途中終了する。
【0291】
QTc間隔延長のための用量変更
QTc間隔延長のためのツカチニブまたはプラセボの用量変更ガイドラインを表7に示した。
【0292】
(表7)薬物との関連を問わないQTc間隔を延長するためのツカチニブまたはプラセボの用量変更
【0293】
安全性評価
安全性評価は、AEおよびSAEのモニタリングおよび記録;理学的検査およびバイタルサイン;ならびにプロトコールに明記された臨床検査、ECG、および試験薬物の安全性評価にとって重要だと思われるECHOまたはMUGAスキャンの測定からなる。これらのパラメータの臨床的に意義のある変化はAEとして収集されることがある。
【0294】
試験責任者は、この試験に参加した患者の適切な医療と安全性を担当している。試験責任者は全てのAEを文書化し、この試験に参加した患者が経験する、あらゆるSAEを治験依頼者に知らせなければならない。
【0295】
データモニタリング委員会
独立DMCは、定期的な、試験における患者の安全性モニタリングを担当している。DMCは、定期的に、死亡、終了、減量、AE、およびSAEを含む盲検データおよび非盲検データを調べる。DMCは、計画通りの、もしくはプロトコール改訂を伴う試験継続、または過度の毒性による試験の早期終了を含む、試験の実施に関する勧告を治験依頼者に行う。別個のDMC Charterは委員会の構成、メンバーの役割と責任を概説し、DMC手順について説明する。治験依頼者は各DMC勧告のコピーを試験責任者に提供する。
【0296】
臨床検査室での評価
全ての安全性検査を施設の地元の検査室が分析する。プレスクリーニングおよびスクリーニングの間、中央検査室をHER2確認検査のために使用する。
【0297】
化学パネルには、以下の検査:カルシウム、マグネシウム、無機リン、尿酸、総タンパク質量、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アルブミン、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、重炭酸イオン、グルコース、カリウム、塩化物、およびナトリウムが含まれる。
【0298】
肝機能検査(LFT)には、以下:AST/SGOT、ALT/SGPT、総ビリルビン、およびアルカリホスファターゼが含まれる。
【0299】
血液学パネルには、以下の検査:鑑別を伴う全血球数(CBC)、ヘモグロビン、ヘマトクリット(Hct)、および血小板が含まれる。
【0300】
凝固パネルには、以下の試験:INR、プロトロンビン時間(PT)、およびaPTTが含まれる。
【0301】
尿検査には、以下の検査:色、外観、pH、タンパク質、グルコース、ケトン、および血液が含まれるが、これに限定されない。
【0302】
心毒性に対する安全計画
トラスツズマブおよび他のHER2標的療法は、無症候性および症候性のLVEF低下が発生するリスクを高めることが知られている。トラスツズマブ単独と組み合わせて、またはカペシタビンと共にツカチニブを服用した患者では無症候性心不全のまれな報告があった。従って、心機能を綿密にモニタリングする。
【0303】
試験全体を通して、患者の他の任意の予想された毒性および/または予想外の毒性の発生を綿密にモニタリングする。(30日経過観察来診前、12週間以内に行わない限り)スクリーニング時に、その後、試験終了まで12週間に1回、そして最後の処置投与の30日後に心臓駆出率をMUGAまたはECHOによって評価する。
【0304】
ツカチニブによるQTc延長リスクはまだ十分に分かっていない。QTcを延長する可能性がある状態をもつ患者では、ツカチニブは注意を払って投与しなければならない。これら状態には、未治療の低カリウム血症または低マグネシウム血症に罹患しており、QTc間隔延長またはトルサードドポアント誘導との関連性が一般に認められている、または関連する可能性がある薬物療法を受けている患者が含まれる(本実施例の最後にある表13を参照されたい)。先天性もしくは後天性のQT延長症候群、突然死の家族歴、以前の薬物性QT延長の病歴がある、ならびにQT延長との関連性が既知であり、かつ一般に認められている薬物療法を現在使用している患者は、試験から除外される(本実施例の最後にある表13を参照されたい)。
【0305】
肝毒性に対する安全計画
ツカチニブを服用している患者において報告された、最もよく見られる有害反応の中にはないが、ツカチニブ試験を受けた何人かの患者においてグレード3および4のLFT上昇が認められている。ツカチニブを服用している全ての患者に肝機能検査のモニタリングが必要である。
【0306】
ツカチニブによる肝臓酵素上昇の既知のリスクがあるために、患者のLFT(ALT、AST、総ビリルビン、アルカリホスファターゼ)を綿密にモニタリングする。肝機能検査が上昇していれば、ツカチニブをプロトコールに従って一時休止し、試験薬物を再開する前にプロトコールに従って適切なレベルに正常化したかどうかモニタリングする。
【0307】
ツカチニブに対する潜在的な有害反応としての肝臓酵素異常の特定はツカチニブの予測された好ましいベネフィット-リスクプロファイルに影響を及ぼさず、従って、転移乳がん患者に対する他のがん療法で認められ得るAEのタイプおよび重篤度とかなり一致している。
【0308】
脳転移のある患者に対する安全計画
脳転移のある患者は、CNS病変部が存在し、疾患が進行しており、試験処置と関連する可能性のある毒性があるためにAE発生のリスクがある。時々、全身療法または放射線療法による脳転移の処置は、腫瘍の進行ではなく処置の影響によるものだと考えられた限局性浮腫と関連付けられてきた。既知の脳転移のある試験ONT-380-005の患者は、ツカチニブ、カペシタビン、およびトラスツズマブによる処置の開始直後に、視床にある既知の転移を取り囲む領域において脳浮腫を有することが見出された。患者の症状は全身コルチコステロイドに対して迅速かつ完全に応答した。この患者の症状が局所進行または処置関連毒性によるものかどうかは分からなかった。同様に、ツカチニブおよびトラスツズマブ単独で処置した、ある患者は、試験処置中に、以前に放射線照射されたCNS病変部の拡大を経験した。この患者は外科的切除に選ばれ、増殖可能な腫瘍が無いことが見出された。切除された病変部は治療関連壊死であることが考えられた。
【0309】
この試験において脳転移のある患者の症候性脳浮腫リスクを最小にするために、即時局所療法を必要とする患者、急速に進行する病変部を有する患者、CNS症状を管理するために試験開始時にコルチコステロイド(1日につき>2mgのデキサメタゾンまたは同等物)を必要とする患者、およびより大きな未処置病変部を有する患者を含む、高リスク転移のある患者を試験から除外する。しかしながら、これらの患者が、外科手術または放射線のいずれかによる、CNSに向けられた即時療法を受け入れられるのであれば、局所療法を受け、その次に試験の対象となる場合がある。選ばれた状況では、コントラスト脳MRIがCNS進行の明らかな証拠を示さない限り、症候性局所浮腫の急性管理のために患者にコルチコステロイド療法が与えられる場合がある。このような全ての事例が試験メディカルモニターからの許可を必要とする。
【0310】
避妊のための安全計画
胚-胎児発生に及ぼす潜在的な影響があるために、インフォームドコンセントの署名から、治験薬または治験用医薬品を最後に投与して7か月後まで、試験患者全員が上記のように有効な避妊法を行わなければならない。妊娠の可能性がある女性(すなわち、子宮摘出、両側卵管摘除術、および両側卵巣摘出術による外科的不妊手術を受けたことがない女性;ならびに≧12ヶ月の無月経と定義される閉経を経ていない女性)は試験開始前に妊娠検査が陰性でなければならず、試験中に有効な避妊法を行わなければならない。有効な避妊法には、排卵抑制と関連する併用(エストロゲンとプロゲストゲンを含有する)ホルモン避妊(経口、膣内、もしくは経皮);排卵抑制と関連する、プロゲストゲンだけのホルモン避妊(経口、注射、もしくは移植);子宮内避妊具;子宮内ホルモン放出システム;両側管閉塞/結紮;精管切除したパートナー;または禁欲が含まれる。妊娠の可能性があるパートナーをもつ男性患者はバリア避妊法を使用しなければならない。
【0311】
妊娠の可能性がある患者は、それぞれの処置サイクルの1日目に尿妊娠検査を受けなければならない。
【0312】
有害事象
定義
「有害事象(AE)」は、医薬品が投与された患者または臨床研究患者に発生した好ましくないあらゆる医療上の出来事であって、必ずしも本明細書に記載の処置方法との間に因果関係が存在するわけではない出来事と定義される。
【0313】
従って、AEは、医薬製品と関連するとみなされても、みなされていなくても、医薬製品の使用と時間的に関連付けられた、あらゆる好ましくなく、かつ意図的でない徴候(例えば、異常な検査所見)、症状、または疾患であり得る(International Conference on Harmonisation(ICH) E2A guideline; Definitions and Standards for Expedited Reporting; 21 CFR 312.32 IND Safety Reporting)。
【0314】
試験結果または医学的状態をAEとして記録するかどうか決定する時に以下の要因が考慮される。
【0315】
試験薬物による処置の間または後に発生した、あらゆる新たな望ましくない医療上の出来事、または既存の状態の好ましくない、もしくは意図的でない変化をAEと記録する。
【0316】
プロトコールにより強制された介入(例えば、生検などの侵襲的手法)の結果として発生した合併症をAEと記録する。
【0317】
待機的処置または定期的に計画されていた処置をAEとみなさない。しかしながら、予め計画されていた待機的処置の間に発生した好ましくない医学的事象をAEと記録する。
【0318】
ベースライン状態は試験薬物投与後に悪化しない限りAEとみなされない。ベースラインからの臨床的に意義のある疾患悪化と評価された、あらゆる変化をAEと記録に残さなければならない。同意の前に存在したベースライン状態を病歴と記録する。
【0319】
臨床的に意義のある臨床検査値異常またはバイタルサイン(例えば、介入を必要とするか、重篤基準を満たすか、試験処置の試験終了もしくは中断をもたらすか、または徴候および症状と関連する)をAEと記録する。可能であれば、AEの定義を満たす異常な検査結果を、異常値そのものではなく臨床診断(例えば、「血球数の減少」ではなく「貧血」)と報告する。
【0320】
「重篤有害事象(SAE)」は、以下の基準の1つを満たすAEと定義される。
【0321】
(表8)重篤有害事象の分類
【0322】
「過量」は、プロトコールに従って、1回の投与に与えられるか、または累積的に与えられる、最大用量を上回る量の治験用医薬品が投与されることと定義される。
【0323】
「投薬過誤」は、本実施例に記載のプロトコールに従わない、治験用医薬品の分配または投与における故意でない誤りを指す。
【0324】
「誤用」は、プロトコールに従わず、治験用医薬品が故意かつ不適切に用いられた、あらゆる状況と定義される。
【0325】
「乱用」は、有害な身体的影響または心理的影響を伴う治験用医薬品の持続的または偶発的な故意の過剰使用と定義される。
【0326】
過量、投薬過誤、乱用、および誤用に関する情報は、必要に応じて、治験用医薬品投薬情報の一部として、および/またはプロトコール違反として収集される。
【0327】
試験薬物の過量、投薬過誤、誤用、または乱用と関連する、あらゆるAEをAEと診断してAE eCRFに記録する。
【0328】
「特に注目すべき有害事象(AE)(adverse event(AE) of special interest)」は、治験依頼者によって定義され、プログラムに特有の、科学的または医学的に懸念すべき任意の重篤なAEまたは重篤でないAEであり得る。これについては、進行中のモニタリングおよび治験依頼者との迅速なコミュニケーションが適している場合がある。
【0329】
以下の特に注目すべきAEを、24時間以内に、規制当局の重篤性の基準または原因に関係なく治験依頼者に報告する。
【0330】
潜在的な薬剤性肝障害
Hyの法則(Hy’s Law)の検査基準によって評価した時の、あらゆる潜在的な薬剤性肝障害症例が、プロトコールにより規定された特に注目すべき事象だとみなされる。以下の臨床検査値異常:文書化されたジルベール症候群にかかっている患者以外は、ASTまたはALTの上昇が>3X ULNであり、同時に(ASTおよび/またはALTが上昇して21日以内に)総ビリルビンが>2X ULN上昇することは潜在的なHyの法則の症例を定義する。
【0331】
無症候性左心室収縮不全
一般的に、LVEFデータは別々にeCRFに収集されるので、無症候性のLVEF低下はAEと報告してはならない。しかしながら、試験処置の変更または試験処置の終了につながった無症候性のLVEF低下は特に注目すべき事象および重篤有害事象とみなされ、治験依頼者に報告しなければならない。
【0332】
脳浮腫
明らかに疾患進行に起因しない、あらゆる脳浮腫事象を特に注目すべき事象と報告する。
【0333】
AE重篤度を、National Cancer Institute’s Common Terminology Criteria for Adverse Events(NCI CTCAE),バージョン4.03を用いて段階分けした。これらの基準を本実施例の最後にある表12に示した。
【0334】
AEの重篤度および重篤性を独立して評価する。重篤度はAEの強さを特徴付ける。重篤性は、規制当局報告要件を規定するための治験依頼者への目安として役立つ(上記のSAEの定義を参照されたい)。
【0335】
AEと全ての試験薬物(ツカチニブ/プラセボ、カペシタビン、およびトラスツズマブ)との関係を、以下の表9に示したガイドラインを用いて評価する。因果関係が報告されなかったAEは、原因を確かめるために経過観察を必要とする。
【0336】
(表9)AE因果関係ガイドライン
【0337】
有害事象を聞き出し、記録するための手順
有害事象の聞き出し
試験責任者は、全ての予定されていた来診および予定外の来診においてAEの発生があったかどうか患者を評価する。来診毎にAEの発生を患者への非指示的質問によって調べる。AEはまた、来診中および来診間の患者が自発的に申し出た時に検出されてもよく、理学的検査もしくは他の評価を介して検出されてもよい。
【0338】
患者が報告した全てのAEを試験責任者が判定し、原資料および提供されるAE eCRFに記録しなければならない。
【0339】
有害事象の記録
試験薬物との関係にかかわらず、プロトコールにより規定された報告期間に発生した重篤なAEおよび重篤でないAEは全てeCRFに記録しなければならない。プレスクリーニングに対する同意と主要部に対する同意(main consent)との間に発生したSAEは試験手順(例えば、生検)が原因でない限り文書化される必要はない。
【0340】
それぞれのAEについて、以下の情報:AEの説明(発症日および回復日を含む)、重篤度(上記の定義を参照されたい)、それぞれの試験薬物との関係(上記の定義を参照されたい)、それぞれの事象のアウトカム、重篤性(上記の定義を参照されたい)、ならびにそれぞれの試験薬物に関してなされる措置を評価し、eCRFに記録する。
【0341】
診断対徴候または症状
可能な時には必ず、試験責任者は、1つの事象の用語に基づいて、1回の診断を構成する徴候または症状をグループ分けする。例えば、咳、鼻炎、およびくしゃみが「上気道感染」として一緒にグループ分けされることがある。要素を成す、それぞれの徴候または症状が、標準的な医学教科書によって証明されるような医学的に確認された診断要素である場合にのみ、症状が診断にグループ分けされる。徴候または症状のどんな局面でも古典的な診断パターンに適合しなければ、個々の症状が別個の事象として報告される。
【0342】
基礎悪性腫瘍(underlying malignancy)の進行
基礎悪性腫瘍の進行を有効性の変数として評価するので、AEまたはSAEと報告しない。試験責任者が決定する疾患進行による症候性の臨床悪化もAEまたはSAEと報告しない。
【0343】
しかしながら、進行の臨床症状が基礎悪性腫瘍の進行のみによるものだと確かめることができないか、または試験中の疾患について予想された進行パターンに合わなければAEまたはSAEと報告することがある。さらに、基礎悪性腫瘍の進行による合併症はAEまたはSAEと報告する。
【0344】
有害事象および重篤有害事象の報告期間および経過観察
臨床試験中に特定された全てのAEを、患者がインフォームドコンセントに署名した時から30日経過観察来診まで報告する(ツカチニブ/プラセボ、カペシタビン、またはトラスツズマブ)。
【0345】
試験責任者が試験薬物と関連するとみなした、試験処置を患者が終了した後に発生した、あらゆるSAEを治験依頼者に報告する。
【0346】
患者がSAE回復前に試験処置を終了した場合であっても、急性事象が回復または安定するまで、SAEと、特に注目すべきAEを全て追跡する。前記のように報告期間に従って、重篤でないAEを追跡する。
【0347】
重篤でないAEが30日経過観察来診時に継続していれば、AEは継続していると記録される。
【0348】
重篤有害事象および特に注目すべき事象の報告手順
試験薬物との関係にかかわらず試験薬物の最初の投与後に発生した全てのSAE/EOIを、事象を発見して24時間以内にSAE/EOIフォームで治験依頼者に報告しなければならない。インフォームドコンセント後であるが、試験薬物を投与する前に発生し、プロトコール手順と関連する可能性があるSAEも、事象を発見して24時間以内に治験依頼者に報告しなければならない。以前に報告されたSAE/EOIに関する、あらゆる新情報または経過観察情報を、新情報または経過観察情報に気付いて24時間以内に治験依頼者に報告する。
【0349】
最初のSAE/EOI報告の場合、利用可能な詳細な症例の内容をSAE/EOIフォームに記録しなければならない。最低でも、以下:患者数、AE事項(重篤の基準および発症日を含む)、試験処置、ならびに原因評価が含まれる。
【0350】
SAEおよびEOIを報告および文書化するためのプロセスを試験バインダー(study binder)に入れて提供する。試験責任者は、連邦および地方の組織の法律および規則に従ってIRBおよび/またはIECへの、これらの事象の報告を担当している。
【0351】
新情報または経過観察情報は治験依頼者の臨床安全性部門にファックスしなければならない。安全性に関する医学的関心事および問題はメディカルモニターに向けられる。
【0352】
SAEを記録する時に以下の要因を考慮する。
【0353】
死亡は、ある事象のアウトカムである。死亡の原因となった事象を記録し、SAE/EOIフォームおよびeCRFで報告する。
【0354】
入院、外科処置、または診断処置の場合、外科処置または診断処置につながる病気をSAEと記録し、処置そのものを記録しない。
【0355】
規制当局への治験依頼者の安全性報告
試験責任者は、全てのSAEを治験依頼者に報告することが求められる。治験依頼者は、地方規制当局の報告要件に従って求められるように規制当局、IRB、およびIECに対して安全性報告を行う。(IBに従って)ツカチニブ/プラセボと関連すると評価されたSAE、および予想外だと評価されたSAEを、試験処置を特定するために治験依頼者によって非盲検化し、地方規制当局の報告要件に従って報告する。試験責任者は全ての迅速報告(expedited report)を盲検方式で受け取る。
【0356】
妊娠報告
妊娠の症例を、試験薬物(ツカチニブ、カペシタビン、またはトラスツズマブのどちらが最後でも)の最後の投与後6ヶ月まで報告する。患者または男性患者の女性パートナーが試験参加中に妊娠したら、治験依頼者に知らせる。試験参加者が薬物投与中に妊娠したら、処置を終了する。
【0357】
試験責任者は、男性患者のパートナーを含めて、24時間以内に全ての妊娠を治験依頼者に報告する。治験依頼者は妊娠、胎児、および小児の経過観察評価を要求する。
【0358】
流産は事故による流産であっても治療による流産であっても自然流産であってもSAEと報告する。先天異常または出生時欠損も前記のようにSAEと報告する。全ての妊娠を期間全体にわたってモニタリングする。全ての周産期および新生児のアウトカムを報告する。乳児を最低8週間追跡する。妊娠を妊娠報告書に記載して治験依頼者の臨床安全性部門に報告する。
【0359】
(表10)選択された強力なCYP2C8インヒビターおよびインデューサーならびにその排出半減期
a. FDA.「Drug Development and Drug Interactions: Table of Substrates, Inhibitors and Inducers」(www.fda.gov/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/DevelopmentResources/DrugInteractionsLabeling/ucm093664.htm#potency).
b. EMA.「Guideline on the investigation of drug interactions」www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2012/07/WC500129606.pdf
【0360】
(表11)選択された強力~中等度のCYP3A4インヒビターまたはインデューサーならびにその排出半減期
a. FDA.「Drug Development and Drug Interactions: Table of Substrates, Inhibitors and Inducers」(http://www.fda.gov/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/DevelopmentResources/DrugInteractionsLabeling/ucm093664.htm#potency)
b. EMA.「Guideline on the investigation of drug interactions」www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2012/07/WC500129606.pdf
c.強力なCYP3Aインヒビターは、経口ミダゾラムまたは他のCYP3A基質のAUCを≧5倍増やす薬物と定義される。リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、アタザニビル、およびサキナビルも強力なCYP3A3インヒビターであるが、既知のHIVにかかっている患者は除外されるので、この試験では用いられない。
【0361】
(表12)有害事象重篤度分類尺度(Adverse Event Severity Grading Scale)(CTCAEバージョン4.03)
【0362】
(表13)QT延長もしくはトルサードドポアントのリスクがあると一般に認められているか、または該リスクと関連する可能性がある、薬物
Guidance for Industry, E14 Clinical Evaluation of QT/QTc Interval Prolongation and Proarrhythmic Potential for Non-Antiarrhythmic Drugs. U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), Center for Biologics Evaluation and Research (CBER) October 2005, ICH. Geoffrey K Isbister and Colin B Page. Drug induced QT prolongation: the measurement and assessment of the QT interval in clinical practice. Br J Clin Pharmacol. 2013 Jul; 76(1): 48-57.
【0363】
用語集および用語
【0364】
参考文献
【0365】
本明細書に記載の実施例および態様は例示目的にすぎず、本明細書に記載の実施例および態様を考慮して様々な修正または変更が当業者に示唆され、本願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の中に含まれることが理解される。本明細書において引用された、刊行物、特許、特許出願、および配列アクセッション番号は全て、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7