(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】撹拌子及び撹拌方法
(51)【国際特許分類】
B01F 33/452 20220101AFI20230808BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20230808BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B01F33/452
G01N35/02 D
G01N35/10 A
(21)【出願番号】P 2019562918
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044867
(87)【国際公開番号】W WO2019131039
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017249188
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】川辺 俊樹
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-033967(JP,A)
【文献】特開2002-011342(JP,A)
【文献】特開2005-262013(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第02017472(DE,A)
【文献】特開2009-183831(JP,A)
【文献】米国特許第05911503(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 33/45 - 33/453
B01F 27/00 - 27/96
B01L 1/00 - 99/00
B01J 19/18
G01N 35/02
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有する磁性部材と該磁性部材を内蔵した本体部とを有し、
開口した口部の内径が胴部の内径よりも小さく、撹拌位置に着脱可能に配置される容器に投入されて、前記容器が前記
撹拌位置に配置されたときに、前記容器の外部に配置され
た磁力を有する回転子からの磁力伝達により、前記容器内で物理的に支持又はガイドされることなく自由に回転して、前記容器内の被収容液体を撹拌する撹拌子であって、
前記本体部に、開口した領域である開口領域を有し、前記容器の内部に下降してきたノズルを前記開口領域で受入れる凹部が形成され、
前記本体部は、前記容器の前記口部を通過させる際に通過方向に向けられる長手方向の長辺部と、前記長手方向と交差する方向に延びる短手方向の短辺部とを有しており、前記短辺部の長さは前記口部内径よりも小さく、前記長辺部は前記容器の底部の内径よりも小さく、
前記凹部は貫通孔部であり、該貫通孔部は前記長辺部と前記短辺部に囲まれて、該長辺部と該短辺部のそれぞれ対応する長辺と該長辺より短い短辺を有しており、
前記磁性部材は、前記本体部の前記貫通孔部を挟んで対向する前記短辺部のそれぞれに内蔵されており、
回転中には、前記貫通孔部の中央部分に形成された前記貫通孔部の前記短辺を直径とする円状の中央領域で前記ノズルを受入れることを特徴とする撹拌子。
【請求項2】
前記短辺部のそれぞれに内蔵されている前記磁性部材は磁石であり、互いに磁性が逆になるように対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の
撹拌子。
【請求項3】
前記本体部は矩形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の
撹拌子。
【請求項4】
撹拌子を口部から容器内に投入し、前記容器の外部に配置された磁力を有する回転子からの磁力伝達により前記容器内部に投入された前記
撹拌子を回転させて前記容器内の被収容液体を撹拌する撹拌方法において、
吸引ノズルの進入を受入れ可能な短辺と長辺を有する貫通孔部と、該貫通孔部を囲みそれぞれ対向する長辺部と短辺部とを備えており、該対向する各短辺部にそれぞれ磁性部材を内蔵している撹拌子であって、前記短辺部が前記容器の口部よりも小さく、前記長辺部が前記容器内部の底面の内径よりも小さい撹拌子を、前記長辺部が進入方向となる方向に向けて前記口部から前記容器内に投入し、
前記容器の下方に設けられた前記回転子を回転させることにより、前記容器内に投入された前記撹拌子を前記回転子により回転させて容器内部の液体を
撹拌し、
前記回転中は、前記撹拌子の前記
貫通孔部の前記短辺の回転半径内の領域において、前記吸引ノズルを受入れ可能とする
ことを特徴とする容器に収容された液体の
撹拌方法。
【請求項5】
前記
撹拌子の前記短辺部のそれぞれに内蔵されている前記磁性部材は磁石であり、互い
に磁性が逆になるように対向して配置されていることを特徴とする請求項4に記載の液体の
撹拌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内で回転して液体等の被収容液体を撹拌する撹拌子、及び、この撹拌子を用いた撹拌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、後掲の特許文献1に開示されているような撹拌方法が知られている。特許文献1の撹拌方法では、段落0009、0014、
図1、
図4等に記載されているように、容器ホルダ(11)にセットされた容器(2)の外部直下面域にマグネット回転体(3)が配置され、ステッピングモータ(12)が駆動されて、マグネット回転体(3)が回転する。容器(2)にはステンレス製の撹拌子(4)が投入されており、マグネット回転体(3)にはマグネット(32)が備えられている。
【0003】
そして、マグネット(32)の磁力が撹拌子(4)に伝達(磁力伝達)され、マグネット回転体(3)が回転すると、撹拌子(4)が水平回転して容器(2)内の液体を撹拌する。このような撹拌方法により液体の撹拌が行われた後には、分注用ニードル(5)が、容器(2)内に下降し、所定の高さで停止して容器(2)内の液体を所定量吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようなニードル(5)を最大限下降させ、容器(2)における底面部の直前にニードル(5)の先端が達した状態で吸引を行うことができれば、液体を殆ど残すことなく使い切ることができる。上述の特許文献1に記載された撹拌方法では、容器(2)の底面部に凸状部(21)を設け、回転停止後に撹拌子(4)が位置ズレするようにしている。そして、撹拌子(4)が、ニードル(5)の昇降線上から外れるようにして、ニードル(5)の先端を、容器(2)における底面部に接近させることができるようにしている。
【0006】
しかし、引用文献1の撹拌方法では、底面部に凸状部(21)を備えた専用の容器(2)が必要であるとともに、凸状部(21)によってニードル(5)の下降も制約を受ける。つまり、凸状部(21)よりも低い高さまでニードル(5)を下げようとすると、ニードルが凸状部(21)に接触してしまうため、少なくとも、凸状部(21)の高さの分だけは、液体を吸引できない空間であるデッドスペースが生じ、デッドスペース内に液体が残存してしまうことになる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、容器内のデッドスペースを縮減し、容器内における被収容液体の有効利用を可能とする撹拌子及び撹拌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、所定の形状を有する磁性部材と、
前記磁性部材を内蔵した本体部と、を有し、
口部を開口した容器に投入され、前記容器の外部からの磁力伝達により回転して前記容器内の被収容液体を撹拌することが可能な撹拌子において、
前記本体部に、開口した領域である開口領域を有し、前記容器の内部に下降してきたノズルを前記開口領域で受入れ可能な凹部が形成され、
回転中には、前記開口領域の中央部分の開口幅を直径とし前記開口領域よりも狭めた円状の中央領域で前記ノズルの受入れを可能とすることを特徴とする撹拌子にある。ここで、「凹部」は、底を閉じた形状のほか、底を開放して本体部を貫通する形状のものも含む概念である。
【0009】
また、上記目的を達成するために他の発明は、前記本体部には、前記容器への投入の際に落下方向に向けられる長手方向と、前記長手方向と交差する方向に延びる短手方向とがあり、前記短手方向の長さは前記開口の幅よりも小さく、前記長手方向の長さは前記開口の幅よりも大きいことを特徴とする撹拌子にある。
【0010】
また、上記目的を達成するために他の発明は、前記凹部は、前記本体部を貫通していることを特徴とする撹拌子にある。
【0011】
また、上記目的を達成するために他の発明は、磁性部材を内蔵した撹拌子を、口部を開口した容器内に投入し、前記容器の外部からの磁力伝達により回転させて前記容器内の被収容液体を撹拌する撹拌方法において、
前記撹拌子が、
前記磁性部材を内蔵した本体部に、開口した領域である開口領域を有し、前記容器の内部に下降してきたノズルを前記開口領域で受入れ可能な凹部が形成され、
回転中には、前記開口領域の中央部分の開口幅を直径とし前記開口領域よりも狭めた円状の中央領域で前記ノズルの受入れを可能とすることを特徴とする撹拌方法にある。
【0012】
また、上記目的を達成するために他の発明は、前記凹部は、前記本体部を貫通していることを特徴とする撹拌方法にある。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、容器内のデッドスペースを縮減し、容器内における被収容液体の有効利用を可能とする撹拌子及び撹拌方法を提供することができる。以下、液体の試薬を収容した容器(試薬瓶)の中から試薬を吸引する試薬ノズルを例にして説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る撹拌子の斜視図、(b)は撹拌子の平面図、(c)は撹拌子の内部の磁石を破線で示す斜視図である。
【
図2】(a)は撹拌子が投入された試薬瓶内に試薬ノズルが下降した状態を模式的に示す説明図、(b)は試薬瓶内で回転する撹拌子を上方から見た状態を模式的に示す説明図、(c)は試薬瓶の内底部における撹拌子の一部を側方から見た状態を拡大して示す説明図である。
【
図3】(a)は試薬瓶の要部の寸法を記号により示す説明図、(b)は撹拌子を試薬瓶に投入する状態を示す説明図、(c)は撹拌子が試薬瓶内で静止した状態を示す説明図、(d)は試薬瓶の内底部で中心から外れて静止している撹拌子を上方から見た状態を示す説明図である。
【
図4】(a)は第1実施形態の撹拌子に係る変形例を示す説明図、(b)は他の変形例を示す説明図、(c)は他の変形例を示す説明図である。
【
図5】(a)は第1実施形態の撹拌子の他の変形例を示す説明図、(b)は他の変形例を示す説明図である。
【
図6】(a)は第2実施形態の撹拌子を示す説明図、(b)は同じく第2実施形態の撹拌子に係る変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の撹拌子に係る各実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)~(c)には、本発明における第1実施形態の撹拌子1を示している。この撹拌子1は、合成樹脂を矩形枠状(片仮名のロの字状)に成形して得られた本体部2を備えており、本体部2の材質としてはテフロン(登録商標)が用いられている。
【0016】
本体部2は4つの辺により構成されており、互いに平行な2つの長辺部3と、同じく互いに平行な2つの短辺部4とを有している。長辺部3と短辺部4は、断面が矩形な四角柱状に形成されており、長辺部3と短辺部4の端部は隣接した辺と一体に結合している。本実施形態において長辺部3と短辺部4は互いに直交する方向に延びているが、これに限らず、例えば90度以外の角度を介して延びるように長辺部3と短辺部4を形成してもよい。また、長辺部3と短辺部4の交わる部位の形態は、例えば角部が面取りされたようなものであってもよい。
【0017】
図1(b)に示すように、長辺部3の外側面5における長手方向の長さをAとし、短辺部4の外側面6における長手方向の長さをBとした場合、両者の間にはA>Bの関係が成立している。ここで、長辺部3の外側面5における長手方向の長さAを、以下では「外側長辺の長さA」などと称する。また、短辺部4の外側面6における長手方向の長さBを、以下では「外側短辺の長さB」などと称する。
【0018】
本体部2の中央部には、本体部2の厚み方向に貫通し、矩形に開口した開口領域7aを有する凹部としての貫通孔部7が形成されている。この貫通孔部7は、長辺部3の内側面8と、短辺部4の内側面9によって四方を囲われた直方体状の空間となっている。長辺部3の内側面8における長手方向の長さをaとし、短辺部4の内側面9における長手方向の長さをbとした場合、両者の間にはa>bの関係が成立している。
【0019】
ここで、長辺部3の内側面8における(長手方向の)長さaは、互いに平行な2つの短辺部4における内側面9の間隔であり、貫通孔部7の開口長さであるということもできる。さらに、短辺部4の内側面9における(長手方向の)長さbは、互いに平行な2つの長辺部3における内側面8の間隔であり、貫通孔部7の開口幅であるということもできる。そして、以下では、長さaを「内側長辺の長さa」などと称し、長さbを「内側短辺の長さb」などと称する場合がある。
【0020】
各長辺部3の内部は、素材である合成樹脂によって均質に構成されている。これに対し各短辺部4には、
図1(c)に透視して示すように、磁性部材としての棒磁石(以下では「磁石」と称する)10が内蔵されている。そして、短辺部4の内部は、外側部の素材である合成樹脂と、この合成樹脂よりも比重の大きい磁石10によって構成されている。磁石10は、図中に記号で示すように、軸方向の一端をN極とし他端をS極としており、軸方向を短辺部4の長手方向に一致させている。さらに、2つの磁石10の向きは、互いに極性が逆になるように決められている。
【0021】
このような構造を有する撹拌子1は、例えば撹拌子を使用する者により、
図2(a)に示すような容器としての試薬瓶21に投入される。本実施形態において、試薬瓶21はガラス製であり、無色透明なもの(或いは有色透明なものでもよい)となっている。試薬瓶21は、相対的に太径な胴部22と、胴部22よりも細径な首部23とを有する段付の円筒状に形成されている。さらに、試薬瓶21は、例えば、血液凝固分析装置などの自動分析装置(以下「分析装置」と称する)に対し、蓋(図示略)を外され、口部24を真上に向けた起立状態で、試薬トレイ(図示略)に装着(セット)される。
【0022】
図2(a)は、試薬瓶21を分析装置30にセットした状態を、概略的に示している。分析装置において、試薬瓶21がセットされる試薬トレイの直下に、回転駆動部31が位置するように動作が行われる。この回転駆動部31は、図示は省略するが、試薬瓶21内の撹拌子1に磁力を作用させる磁力伝達用磁石や、この磁力伝達用磁石を回転させる回転機構部を備えている。そして、回転駆動部31を作動させ、磁力伝達用磁石(図示略)を回転させると、非接触で行われる磁力伝達により、試薬瓶21内の撹拌子1が同期した回転動作を行う。
【0023】
分析装置には、分注用の試薬ノズル(以下では「ノズル」と称する)32が備えられている。このノズル32は、円管状に形成されており、その直径Pは、例えば1mm程度である。さらに、ノズル32は、図示は省略するが、水平方向や高さ方向への移動を可能にする移動機構により支持されるとともに、被収容液体としての試薬の吸引及び吐出を可能にする吸引吐出機構に繋がっている。ここで、本実施形態の分析装置はヒータ内蔵型試薬加温部流路を備えたものであり、
図2(a)中に符号33で示すのは、上述の移動機構に備えられた試薬加温ヒータ部である。そして、移動機構や吸引吐出機構の駆動は、分析装置30の操作部34に備えられた制御部35の制御の下で、ノズル駆動部36により行われる。
【0024】
上述のようなノズル32は、試薬瓶21の中へ進入し、所定の高さで停止して、試薬を所定量吸引しサンプリングする。また、図示は省略するが、ノズル32は、上昇して先端部(下端部)が試薬瓶21から抜け出た状態となり、この上昇状態のまま水平移動する。そして、ノズル32は、例えば検体が吐出された目的の反応容器等の上方に達してから下降し、当該反応容器等に試薬を吐出する。さらに、分析装置30の分析部37により、所定の検査のための分析が自動的に行われる。
【0025】
ここで、分析装置に備えられる前述の移動機構、吸引吐出機構、回転駆動部31、ノズル32、ホルダ33等としては、一般的な種々のタイプのものを採用することが可能である。また、ノズル32は、例えば複数本(2本など)のノズル体を互いに平行に装着したものであってもよい。
【0026】
撹拌子1は、試薬瓶21に投入されると、例えば自然落下して液体である試薬中に沈み、試薬瓶21の内底部25に到達して静止する。前述したように撹拌子1の形状は矩形枠状であり、互いに離れた2つの短辺部4の各々に磁石10を内蔵している。このため撹拌子1は、2つの長辺部3(及び2つの短辺部4)が互いに向い合う水平姿勢となって静止する。
【0027】
この状況で分析装置の回転駆動部31が駆動されると、撹拌子1は、倒伏した姿勢のまま水平面内で回転し、試薬瓶21内の試薬を撹拌する。
図2(b)は、試薬瓶21の内底部25で回転する撹拌子1の上方から見た状態を概略的に示している。そして、図中では、回転角度が30度毎の断続的なタイミングにおける撹拌子1を破線で表すとともに合成して示している。
【0028】
撹拌子1の回転前に関しては、多くの場合撹拌子1は、試薬瓶21における内底部25の中心Kから位置ズレ(偏倚)した状態にある。後に説明する
図3(d)には、位置ズレしている状態の一例を示している。そして、
図3(d)中の記号Tは、試薬瓶21における内底部25の中心Kと、撹拌子1における貫通孔部7の中心Jとの偏倚量を表している。
【0029】
図3(d)を援用して示すような回転前の状態から、撹拌子1が回転を開始すると、回転に伴う調心作用により、撹拌子1は、
図2(b)に示すように、試薬瓶21の内底部25の中央部で回転する。前述のように、撹拌子1には貫通孔部7が設けられている。このため、撹拌子1の回転中には、貫通孔部7の中心Jから所定の範囲に及ぶ真円状の領域(以下では「貫通孔部7の中央領域」と称する)11を通して、常に内底部25の中心Kが見える状態となる。そして、この中央領域11を上方から見た場合の大きさは、撹拌子1が例えば静止した状況で貫通孔部7の全体を上方から見た場合の大きさよりも、小さく絞られたものとなっている。
【0030】
このため、撹拌子1の回転中に、
図2(a)に示すように分析装置のノズル32を、内底部25の中央に向かうよう試薬瓶21の中に下降させたとしても、ノズル32の先端は、撹拌子1における上面12の高さレベルを通り過ぎ、貫通孔部7の中央領域11内に進入する。そして、ノズル32を更に下降させ、ノズル32の先端を試薬瓶21の内底部25に最大限接近させることができる。このように撹拌子1に、回転時に中央領域11を生じる貫通孔部7を設けることにより、ノズル32を試薬瓶21の内底部25まで最大限下降させることが可能となる。
【0031】
これに対して、
図2(b)に示すように、貫通孔部7の中央領域11よりも外側の領域(以下では「内底部25における外周領域」と称する)26においては、撹拌子1の回転変位に伴い、短辺部4や長辺部3が通過するタイミングが生じる。このため撹拌子1の回転中に、内底部25の外周領域26に向けてノズル32を下降させ、ノズル32が撹拌子1における上面12の高さレベルに達すると、ノズル32の下端部が撹拌子1に接触し干渉することになる。したがって、撹拌子1の回転時に試薬の吸引を行う場合には、ノズル32を中央領域11内に収まる位置へ下降させることにより、前述したように、ノズル32を撹拌子1に接触させずに貫通孔部7へ進入させることが可能である。
【0032】
また、ノズル32の下降位置が、内底部25の中心Kに対して偏倚していたとしても、貫通孔部7における中央領域11の範囲内であれば、回転中の撹拌子1における貫通孔部7へノズル32を進入させることが可能である。ここで、
図2(a)中に符号27を付して二点鎖線で示すのは、撹拌中の遠心力により中央部分で下がり、外周部分で上がった試薬の液面である。
【0033】
一方、撹拌子1の回転を止めた後には、撹拌子1が、試薬瓶21の内底部25における中央で停止し、貫通孔部7の全体から内底部25が露出する。このため、回転を停止している際には、貫通孔部7から、試薬瓶21の内底部25における中心Kが見える状態となる。そして、ノズル32を内底部25の中心Kに向けて下降させることで、ノズル32の先端を貫通孔部7内に進入させることができる。このように、撹拌を停止してからノズル32を下降させて、試薬のサンプリングを行うことも可能である。
【0034】
このような撹拌子1の停止時については、分析装置の磁力伝達用磁石(図示略)により撹拌子1の位置をある程度保つことが可能であるが、場合によっては、撹拌子1の中心Jと内底部25の中心Kの位置が一致していない状況も想定することができる(一例を
図3(d)に示している)。このような状況であっても、内底部25の中心Kが貫通孔部7内に在れば、ノズル32を内底部25の中心Kに向けて下降させることで、ノズル32を内底部25に接近させることができる。
【0035】
上述の機能を発揮する撹拌子1については、以下のように説明することも可能である。例えば、撹拌子1の貫通孔部7における中央領域11の大きさは、前述の長さbにより表すことができる。前述の長さbは、互いに平行な2つの長辺部3の内側面8の間隔(開口幅)である。本実施形態においては、貫通孔部7の開口形状が矩形状であることから、長手方向の中央部においても、それ以外の部分においても、内側面8の間隔(開口幅)は一定である。そして、撹拌子1の回転時においては、中央領域11は上方から見て真円形状の領域となり、その直径rは、
図2(b)に示すように、内側面8の間隔b(前述した貫通孔部7の開口幅)に一致したものとなる。
【0036】
図3(a)~(d)は、試薬瓶21及び撹拌子1における要部の寸法関係や、撹拌子1が試薬瓶21に投入される際の状態を模式的に示している。なお、
図3(a)~(d)では、図面が煩雑になるのを防ぐため、試薬瓶21の断面部分を示すハッチング記載は省略している。
【0037】
図3(a)では、試薬瓶21の要部の寸法を記号Dや記号dにより示している。これらのうちの記号Dは、試薬瓶21における胴部22の内径(以下では「胴部内径」と称する)の寸法を示している。また、記号dは、口部24の内径(以下では「口部内径」と称する)を示している。そして、胴部内径Dと口部内径dとの大小関係は、D>dとなっている。
【0038】
ここで、本実施形態において、胴部内径Dは、内底部25の直径(以下では「内底部直径」と称する)に一致するものとしている。また、本実施形態における口部内径dは、首部23の内径(以下では「首部内径」と称する)と同じとされている。しかし、これに限らず、例えば胴部内径と内底部直径は幾分異なっていてもよい。また、口部内径dを首部内径より小さくしてもよい。
【0039】
撹拌子1を試薬瓶21に投入する際には、撹拌子1は、
図3(b)に示すように、2つの短辺部4が鉛直方向に並ぶ向きで口部24に挿入される。撹拌子1は、前述したように自然落下するが、撹拌子1は、試薬瓶21の内部で、その姿勢を倒伏した状態に変化させて内底部25で静止する。
【0040】
図3(c)には、水平な姿勢となった撹拌子1の要部の寸法を示しており、図中の記号Eは、撹拌子1の、一方の短辺部4における外側面6の上端(或いは下端)から、他方の短辺部4における外側面6の下端(或いは上端)までの対角長さ(以下では「短辺外側対角長さ」と称する)を示している。また、図中の記号Hは撹拌子1の厚みを示しており、この厚みHは、長辺部3及び短辺部4の両方に共通となっている。また、撹拌子1の厚みHは、長辺部3と短辺部4とで異なっていてもよい。
【0041】
これまでに説明した撹拌子1、試薬瓶21、及び、ノズル32における各部の寸法をまとめて示すと以下のようになり、これらの大きさの間には後掲の(1)~(3)のような関係が成立している。
A:撹拌子1の外側長辺の長さ
a:撹拌子1の内側長辺の長さ
B:撹拌子1の外側短辺の長さ
b:撹拌子1の内側短辺の長さ
D:試薬瓶21の胴部内径D
d:試薬瓶21の口部内径
E:撹拌子1の短辺外側対角長さ
【0042】
(1)B<d<A
(2)E<D
(3)b>P
【0043】
これらの関係のうち、(1)の関係(B<d<A)は、撹拌子1の外側短辺長さBが試薬瓶21の口部内径dより小さく、口部内径dが撹拌子1の外側長辺長さAよりも小さいことを表している。また、(2)の関係(E<D)は、撹拌子1の短辺外側対角長さEが、試薬瓶21の胴部内径Dより小さいことを表している。
【0044】
さらに、(3)の関係(b>P)は、ノズル32の占有領域(通過領域)より撹拌子1の内側短辺長さbが大きいことを表している。ここで、「ノズル32の占有領域(通過領域)」は、ノズル32の直径Pと水平面内での所謂"遊び(位置バラツキ)"により計算される断面積で表すことができるものであるため、例えば「ノズル32の占有長さ(通過長さ)」などと言い換えることも可能である。
【0045】
以上説明したような撹拌子1は以下のような作用効果を奏する。すなわち、撹拌子1の中央部に貫通孔部7による空間が設けられ、この空間寸法がノズル32の通過領域より広くなっている。そして、撹拌子1の回転時、及び、回転後の停止時の何れにおいても、貫通孔部7の中央部を利用してノズル32の進入領域を確保できるようにしている。このため、水平な姿勢にある撹拌子1の貫通孔部7を介して、ノズル32の下端を撹拌子1の上面12よりも下方に到達させることができる。そして、ノズル32を試薬瓶21の内底部25に最大限に接近させた状態で、ノズル32による試薬の吸引を行うことができる。
【0046】
この結果、ノズル32が届かない領域であるデッドスペースの大きさを最小限度に縮減できる。さらに、撹拌子1の外側にあった試薬を含め、試薬瓶21内におけるほとんどの試薬を使い切ることができ、試薬を無駄なく利用することが可能となる。そして、デッドスペースが比較的多く生じていた従来に比べ、試薬瓶21内の試薬量を予め減らしておくことや、試薬瓶21の交換頻度を下げることができるようになり、試薬に係るコストを低減することが可能となる。
【0047】
従来は、試薬瓶21に開封前から収容されている例えば10mLの試薬のうち、1.7mL程度を使用できないまま、試薬瓶21を交換するような場合もあった。しかし、本実施形態の撹拌子1を用いることにより、交換時における試薬の残量を1mL程度に削減することができる。そして、廃棄される試薬の量を減らすことができ、コストの低減に加えて、環境の保護にも寄与する。
【0048】
また、本実施形態の撹拌子1によれば、ノズル32を、試薬瓶21における内底部25の中心Kに向けて下降させることにより、撹拌子1の回転時及び停止時のいずれの場合であっても、貫通孔部7内にノズル32を進入させることができる。そして、試薬瓶21や分析装置30としては従来のものを利用したまま、試薬瓶21のデッドボリュームを縮減することができる。
【0049】
さらに、本実施形態の撹拌子1は全体として矩形状に形成されており、長辺部3の長さ(外側長辺の長さA)よりも短辺部4の長さ(外側短辺の長さB)が短い。このため、撹拌子1を使用する者が、長辺部3の長手方向が上下に向くようにして撹拌子1を摘むことで狭幅化できる。このため、撹拌子1を大型化し、長辺部3の長さ(外側長辺長さA)を試薬瓶21における口部24の内径(口部内径d)より大としても、撹拌子1を試薬瓶21に投入することが可能である。さらに、長辺部3の長さ(外側長辺長さA)を大とすることで、試薬瓶21の底部において、より広い領域を撹拌子1によって占めることができ、回転時における撹拌の効率を高めることが可能である。また、本体部2を貫通する貫通孔部7を設けていることから、試薬瓶21に投入した際に、表裏の区別なく使用することができ利便性が高い。
【0050】
また、各長辺部3や各短辺部4の形状が四角柱状であることから、例えば
図2(c)中に二点鎖線Rで示す曲線により仮想して示すように、各辺部3、4を円柱状(断面形状を円状)とし、且つ、外形寸法を本実施形態の撹拌子と同じ程度とした場合に比べて、角部13が存在することにより試薬との接触面積を多く確保することができる。このため、撹拌子1の回転時に、試薬に対して動きを与え易く、短時間で効率良く撹拌を行うことが可能である。
【0051】
さらに、
図2(c)に示すように、試薬瓶21の内底部25において、短辺部4の角部13(長辺部3の端部の角部でもある)を、試薬瓶21の隅部28に入り込ませる(近付ける)ことができる。このため、試薬瓶21の隅部28においても撹拌子1を試薬に接触させることが可能であり、隅部28においても試薬に動きを与え易く、隅部28に淀み(滞留)が生じ難くなる。
【0052】
さらに、本実施形態の撹拌子1によれば、本体部2の基材として耐薬品性や自己潤滑性に優れたテフロン(登録商標)が用いられているため、撹拌子1が試薬の特性に影響を与えてしまうことを防止できる。なお、同様な特性が得られるのであれば、本体部2の基材としてテフロン(登録商標)以外の素材を用いることも可能である。そして、テフロン(登録商標)以外の素材としては、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等を採用することが考えられる。
【0053】
また、一般に試薬が使用される態様は様々であり、例えば、1本の試薬瓶21に収容された試薬を、1日や数日などで使い切る場合もあれば、2週間や30日などの長期間に渡って使用する場合もある。そして、このような1本の試薬瓶21に係る使用期間の終盤では、使用開始時に比べて、試薬瓶21内の試薬の量は少なくなる。このため、一般に使用期間の終盤では、短い回転時間で十分な撹拌を行うことが可能である。そして、本実施形態の撹拌子1によれば、試薬が徐々に減り、試薬の液面が撹拌子1の高さを下回る程度に達しても、未だ試薬を使用し続けることが可能である。
【0054】
さらに、試薬に対する撹拌の要否に関しては、同じ項目の検査を同じ試薬を用いて行うような場合であっても、例えば企業や研究機関など相違によって、撹拌を必要とする場合や、必要としない場合がある。また、試薬の種類や組成によって、配合物の沈降が生じ難く均一系が保たれ易いものや、沈降が生じ易く均一系が保たれにくいもの(不均一系となり易いもの)などがある。さらに、試薬の使用中に、常に撹拌し続ける必要がある場合や、撹拌を定期的に行えばそれ以外の時間は撹拌を行う必要がないという場合などもある。また、回転数が低く弱い撹拌であっても、撹拌し続けることが必要とされる場合などもある。そのような、本実施形態の撹拌子1によれば、効率よく撹拌を行えることから、各種の要求に対して応えることが可能である。さらに、例えば従来は撹拌しても混合物が直ぐに沈降してしまい、試薬として使用できなかったような組成物であっても、試薬として使用できるようになる場合があると考えられる。
【0055】
また、撹拌子1に係る、重量、各部の寸法、磁石10の配置、磁石10の磁力の強さ等といった特性については、使用が想定される試薬瓶の各部寸法や、試薬の量、粘性、配合物の不均一性等といった使用環境や磁力伝達用磁石の仕様を考慮して最適化を図ることが望ましい。例えば、試薬の沈降物が多く、強い撹拌が必要な場合は、撹拌子1の重量を相対的に重くすることが考えられる。そして、本実施形態の撹拌子1によれば、比較的簡単な構造により撹拌の効率を高めることができるため、最適化のための各部の形状や寸法に係る設計変更が容易である。
【0056】
さらに、本実施形態においては、長辺部3や短辺部4の形状を四角柱状としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば三角柱状、円柱状、多角柱状といった種々の形状を採用することが可能である。そして、その場合の長辺部3や短辺部4の断面形状は、正三角状、二等辺三角状、円状、楕円状、多角形状などとすることが可能である。また、磁石10についてもその形状として、三角柱状、四角柱状、多角柱状などの種々の形状を採用することが可能である。そして、断面形状についても、正三角状、二等辺三角状、円状、楕円状、多角形状などとすることが可能である。
【0057】
撹拌子1による撹拌の特性は、分析装置の機能によっても向上させることが可能である。例えば、試薬の沈降物が多く、強い撹拌や長時間の撹拌が必要な場合に、分析装置において、回転駆動部31の回転数が相対的に高くなるように制御することが可能である。また、撹拌時間に関しても、混合物が比較的沈降し難い試薬の場合には、分析装置における制御条件の設定により、撹拌子1に、相対的に短時間の回転を行い、比較的沈降し易い試薬の場合には長時間の回転を行わせる、といったことも考えられる。
【0058】
分析装置におけるこのような回転数の制御は、例えば検査項目の違いに応じて、予め初期設定として(デフォルトで)行っておく。また、撹拌中に回転数の調整を行い、撹拌子1の回転速度を変化させることも可能である。回転数の調整は、試薬瓶21内における試薬の残存液量(液面高さ)に応じて行うことも可能である。液面高さの検出方式としては、試薬ノズルが液面に接触したときのノズル先端部の静電容量変化を検出する方式を採用が考えられる。
【0059】
回転数の調整は、例えば泡の発生を考慮して行うことが考えられる。泡は、試薬の液量が少ない場合や、試薬の粘性が高い場合などに発生し易いといえる。さらに、試薬の特性に対して撹拌子の回転数が高過ぎた場合などにも泡が発生することがある。そして、例えば上述のような液面検知を行う場合に、泡の上面を液面として検出してしまうことがあり、泡は液面検知の精度に影響を与え得る。このため、分析装置において泡の検出を行い、検出結果を高精度な試薬管理に活用することが可能である。泡の検出方式としては、例えば、分析装置の制御部(図示略)が、試薬の吸引を行う度に液面高さの検出を併せて行い、検出結果の履歴に基づき、液面高さが上昇していれば泡が発生していると判定するものなどを例示できる。さらに、撹拌中に試薬の液面が上下に変動する液面揺動が生じないよう、回転数を調整することも可能である。
【0060】
また、撹拌子1の形状に関しては、一旦使用した撹拌子1を再利用する場合のことを想定し、例えば、撹拌子1を容易に洗浄できるように可能な限り凹凸や、鋭角な隅部などを有する形状を避け、洗浄時に付着物の除去を容易にするといったことが可能である。さらに、通常、試薬瓶21のサイズはある程度標準化されているため、本実施形態のような撹拌子1は大量生産が可能なものである。
【0061】
なお、本発明に係る撹拌子の構成は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々に変形することが可能である。なお、以下の説明では、
図1~
図3に示す実施形態(以下では「第1実施形態」と称する)と同一の部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0062】
例えば、
図4(a)には、第1実施形態に係る発明の第1変形例を示している。前述のように第1実施形態に係る撹拌子1は、2つの短辺部4のそれぞれに磁石10を内蔵していたが、この第1変形例の撹拌子41のように、何れか一方の短辺部4のみに磁石10を備えるようにしてもよい。ただし、この場合には、重量バランスが変化し、撹拌子41の回転時に、回転が安定し難くなることも考えられる。しかし、磁石10が内蔵されていない側の短辺部4の外形寸法を拡大するなどして重量バランスを整えることで、回転の安定性を維持することが可能である。また、図示は省略するが、短辺部4ではなく、長辺部3の両方又は一方に磁石10を内蔵することも可能である。
【0063】
さらに、
図4(b)に示す第2変形例の撹拌子46のように、円板状の磁石47を本体部2の四隅にそれぞれ配置するようにしてもよい。磁石47は、N極及びS極を本体部2の厚み方向に向けており、その極性の向きは、磁力が相互に打ち消し合わないように決められている。このようにすることで、全体の重量バランスを調整し易くなる。
【0064】
また、
図4(c)に示す第3変形例の撹拌子51のように、凹部52を形成してもよい。つまり、前述した第1実施形態に係る撹拌子1は、厚み方向に貫通する貫通孔部7を備えていたが、
図4(c)に示す撹拌子51のように、本体部53に、貫通せず底部54で閉じた凹部52を設けるようにしてもよい。この場合であっても、ノズル32の先端部を、撹拌子51における上面12の高さよりも低く下降させることができ、凹部52内に溜まった試薬を利用することが可能である。このように貫通していない凹部52を有する撹拌子51は、貫通孔部7を有する撹拌子1に比べて製作が容易である。また、磁石(図示略)の配置や大きさを、凹部52の底部内に少なくとも一部が達しているようにしてもよい。
【0065】
また、
図5(a)に示す第4変形例の撹拌子56のように、外向きの凸部57を複数(ここでは4つ)設けることも可能である。この凸部57は、短辺部4の外側面6における両端部において、半円状に突出するよう形成されている。さらに、凸部57の突出方向は、長辺部3の長手方向に一致しており、凸部57は曲面58を外側に向けている。このような凸部57を設けることで、撹拌子56の外形を拡大でき、撹拌子56の最外側面(ここでは曲面58)を試薬瓶21の内壁面22aに近づけることができる。そして、撹拌子56の静止時において、撹拌子56の中心Jと、試薬瓶21の中心Kとを一致させ易く、撹拌子56の調心(センタリング)が容易になる。また、凸部57が設けられていることから、撹拌子56の回転時に、凸部57の周囲に試薬の動き(流れ)を発生させ易くなり、撹拌の効率を高めることができる。
【0066】
また、
図5(b)に示す第5変形例のように、撹拌子61の形状をU字状とし、長辺部63の間を曲線部64で繋ぐことも可能である。このようにすることで、試薬瓶21への投入時に、2つの長辺部63を手指の間に挟んで圧縮し、全体としての幅Mを狭めながら口部24に進入させるといったことが可能となる。なお、この第4変形例においては、磁石10を長辺部63に内蔵し、曲線部64の内部には磁石10が存在しないようにしている。
【0067】
さらに、図示は省略するが、撹拌子に折り畳み構造を採用し、例えば投入時には折り畳まれて小型化され、試薬瓶21への投入後に形状を復元して拡がるようなものとすることも可能である。さらに、試薬への影響が無ければ、試薬に浸かることで膨潤して拡がるといった構造や材質を採用することも可能である。また、貫通孔部7を備えた各種の撹拌子1、41、46、56の上面12や下面(符号省略)に、試薬を撹拌子1、41、46、56の外側から貫通孔部7内に流通させるような溝を設けてもよい。この場合の溝の形態としては、例えば、貫通孔部7の中心Jを中央にした放射状(直線や曲線の放射状を含む)などを例示することができる。
【0068】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図6(a)は、本発明の第2実施形態に係る撹拌子71を水平姿勢として上方から見た状態を概略的に示している。この撹拌子71は、第1実施形態の撹拌子1における長辺部3を、角柱状のものではなく細線状のものとしている。細線状の長辺部73は、断面が円柱状のものであり、その直径Nは例えば2mm以下程度となっている。
【0069】
ここで、長辺部73の材質としては、十分な剛性を有するものであれば合成樹脂やステンレス鋼材などのように種々のものを採用することが可能である。また、長辺部73の材質が磁性を帯びている場合であっても、短辺部74に内蔵された磁石(図示略)に比べて長辺部73の磁性を十分に弱くしておくことで、長辺部73の磁気により撹拌子71の回転に影響が及ぶことを防止できる。
【0070】
また、
図6(a)に示す第2実施形態は、第1実施形態の短辺部4に対し、試薬瓶21に投入された際に水平方向に突出するような変形が加えられている。すなわち、撹拌子71においては、
図6(a)に示すように水平姿勢となった状態を平面視した場合に、短辺部74の形状が平行四辺形状となる。そして、短辺部74が長辺部73の軸線Fに対して角度αで傾斜している。また、短辺部74の軸方向の端面74aが、短辺部74の中心軸線Gに対して所定の角度βで傾斜している。本実施形態においては、角度αと角度βの関係はα>βとなっている。
【0071】
このような第2実施形態の撹拌子71によれば、長辺部73が細線により構成されているため、長辺部73が試薬の動き(流れ)に与える影響を抑制することができる。そして、試薬の泡立ちを防止でき、液面検知の精度が泡の影響を受けるのを抑制することができる。さらに、撹拌中に液面検知を行うような場合でも、液面検知の精度が液面揺動の影響を受けるのを抑制することができる。ここで、細線からなる長辺部73の断面形状としては、円状のほか、楕円状、三角形状、菱形状など、種々の形状を採用できる。そして、断面の鋭角な部分が、試薬瓶21内で水平方向の外側を向くようにして、回転時における試薬への抵抗を少なくすることが考えられる。
【0072】
さらに、この第2実施形態の撹拌子71によれば、長辺部73の直径Nが2mmであるため、長辺部73による占有領域が小さくなり、長辺部73とノズル32とが干渉し難い。さらに、短辺部74の各部が長辺部73に対し、角度α、βで傾斜して設けられていることから、短辺部74に鋭角な部分を形成でき、回転時に流動する試薬の抵抗を低減し、泡立ちや液面揺動を防止することができる。
【0073】
また、
図6(b)に示す撹拌子76のように、短辺部74にフィン77を設けて、試薬の流れへの影響を調整してもよい。このようなフィン77による流れの調整は、フィン77の形状、枚数、角度、表面粗さ等の変更により最適化を図ることが可能である。なお、このフィン77は、第1実施形態として例示した各種の撹拌子1、41、46、51、56、61等にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 撹拌子
2 本体部
3 長辺部
4 短辺部
7 貫通孔部(凹部)
7a 開口領域
10 磁石(磁性部材)
11 中央領域
21 試薬瓶(容器)
32 ノズル
b 内側短辺の長さ(開口幅)
d 試薬瓶の口部内径