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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020184647
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2021123793
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2020017456
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 雄二
(72)【発明者】
【氏名】鶴野 招弘
(72)【発明者】
【氏名】宮野 良和
(72)【発明者】
【氏名】杉戸 肇
(72)【発明者】
【氏名】山本 道泰
(72)【発明者】
【氏名】牧田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】内田 有寿
(72)【発明者】
【氏名】竹若 伸
(72)【発明者】
【氏名】寺本 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏一
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 稔英
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/078598(WO,A1)
【文献】特開2011-068933(JP,A)
【文献】特開2008-111143(JP,A)
【文献】特開2016-176112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
B23K 35/00 - 35/40
B32B 15/00 - 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、前記心材の一方の面に設けられた犠牲材と、前記心材の他方の面に設けられたろう材と、前記心材と前記ろう材との間に設けられた中間層と、を備えるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材は、Si:0.30質量%以上1.00質量%以下、Mn:0.50質量%以上2.00質量%以下、Cu:0.60質量%以上1.20質量%以下、Mg:0.30質量%以上0.80質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
前記犠牲材は、Si:0.10質量%以上1.20質量%以下、Zn:2.00質量%以上7.00質量%以下、Mn:0.40質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
前記中間層は、Si:0.05質量%以上0.83質量%以下、Mn:0.50質量%以上2.00質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.95質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
前記犠牲材のクラッド率は、5%以上25%以下であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記中間層は、Mg:0.20質量%以下、をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記中間層は、Ti:0.30質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.30質量%以下、のうちの1種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
前記心材は、Ti:0.30質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.30質量%以下、のうちの1種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
前記犠牲材は、Ti:0.30質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.30質量%以下、のうちの1種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項6】
前記ろう材は、Al-Si系合金又はAl-Si-Zn系合金からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記ろう材のクラッド率は、5%以上25%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
前記中間層のクラッド率は、5%以上25%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項9】
前記ブレージングシートの厚さが、0.35mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシートに関し、特に、自動車用熱交換器等に使用されるアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器は、通常、軽量で熱伝導性に優れるアルミニウム合金の板材を成形、組み付け、ろう付して製造される。そして、この板材としては、強度、ろう付性、耐食性を並立させるため、心材、ろう材、犠牲材からなるブレージングシートが用いられる。また、心材には、比較的強度の高いAl-Mn系合金が主に用いられるが、強度向上のために、心材に対してMg、Cu、Si等の合金元素が添加される。
【0003】
しかしながら、心材にMgを0.1質量%のような少量でも添加すると、ろう付時の加熱によってMgがろう材に拡散し、フラックスと反応してろう付性を著しく低下させるという問題がある。
そこで、心材にMgが添加されたブレージングシートのろう付性を向上させる方法として、例えば、特許文献1では、心材とろう材との間にMg拡散抑制層(中間層)を設けることでMgの拡散を抑制し、ろう付性を改善させたブレージングシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-131923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高強度化の観点に基づくと、心材にMg添加をさせる方法が非常に有効である。しかしながら、心材のMg添加量が多くなると、特許文献1に示される中間層を設けた構成であろうとも、ろう付性の低下を抑制することは不可能となり、その結果、強度とろう付性の両立は困難となる。特に、特許文献1に係る技術では、犠牲材面におけるろう付性は十分に検討されておらず、犠牲材とろう材との接合部におけるろう付け不良の発生を抑制するのは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、ろう付後強度とろう付性とを両立できるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記した課題を解決するために、犠牲材-心材-中間層-ろう材という4層構成のアルミニウム合金ブレージングシートの各成分に着目し、前記した課題に対する各成分の影響を鋭意検討した。
その結果、犠牲材のMnの含有量を所定値以下に規制することによって、強度向上のために心材に多量のMgを含有させようとも、ろう付性を向上させることができることを見出した。詳細には、犠牲材のMnの含有量を低減させることによって、ろう付時の犠牲材面における溶融ろうの流動性を大幅に向上させ、その結果、心材のMgに基づくろう付後強度の向上という効果を享受しつつも、ろう付性を向上させることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、心材と、前記心材の一方の面に設けられた犠牲材と、前記心材の他方の面に設けられたろう材と、前記心材と前記ろう材との間に設けられた中間層と、を備えるアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記心材は、Si:0.30質量%以上1.00質量%以下、Mn:0.50質量%以上2.00質量%以下、Cu:0.60質量%以上1.20質量%以下、Mg:0.05質量%以上0.80質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなり、前記犠牲材は、Si:0.10質量%以上1.20質量%以下、Zn:2.00質量%以上7.00質量%以下、Mn:0.40質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなり、前記中間層は、Si:0.05質量%以上1.20質量%以下、Mn:0.50質量%以上2.00質量%以下、Cu:0.10質量%以上1.20質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、優れたろう付後強度とろう付性とを発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの断面図である。
図2A】間隙充填試験を説明するための図であり、下板と上板とを組み合わせた状態の斜視図である。
図2B】間隙充填試験を説明するための図であり、下板と上板とを組み合わせた状態の側面図である。
図3A】ろう広がり試験を説明するための図であり、下板に上板を載置した状態の上面図である。なお、上側のステンレス板を外した状態の図である。
図3B】ろう広がり試験を説明するための図であり、下板に上板を載置した状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(以下、適宜、ブレージングシートという)を実施するための形態について説明する。
【0012】
[アルミニウム合金ブレージングシート]
本実施形態に係るブレージングシートは、図1に示すように、心材1と、心材1の一方の面に設けられた犠牲材2と、心材1の他方の面に設けられたろう材4と、心材1とろう材4との間に設けられた中間層3と、を備える。つまり、本実施形態に係るブレージングシート10は、4層構成である。
そして、本実施形態に係るブレージングシート10は、心材1、犠牲材2、中間層3の各成分の含有量が適宜特定されている。
以下、本実施形態に係るブレージングシートの心材、犠牲材、中間層の各成分について数値限定した理由を詳細に説明する。
【0013】
[心材]
本実施形態に係るブレージングシートの心材は、Si、Mn、Cu、Mgを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
また、本実施形態に係るブレージングシートの心材は、Ti、Cr、Zrのうちの1種以上をさらに含有してもよい。
【0014】
(心材のSi:0.30質量%以上1.00質量%以下)
Siは、母材に固溶することやMnとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによってろう付後強度を向上させる。また、Siは、Mgとともに、ろう付後強度を向上させる。Siの含有量が0.30質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Siの含有量が1.00質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融が生じる恐れがある。
したがって、Siの含有量は、0.30質量%以上1.00質量%以下である。
【0015】
Siの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.40質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましい。また、Siの含有量は、ろう付時の溶融の発生を回避する観点から、0.80質量%以下が好ましく、0.70質量%以下がより好ましい。
【0016】
(心材のMn:0.50質量%以上2.00質量%以下)
Mnは、母材に固溶することや、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによってろう付後強度を向上させる。Mnの含有量が0.50質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Mnの含有量が2.00質量%を超えると、金属間化合物が粗大に析出し、圧延性が低下しブレージングシートの製造が困難となる。
したがって、Mnの含有量は、0.50質量%以上2.00質量%以下である。
【0017】
Mnの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.80質量%以上が好ましく、1.20質量%以上がより好ましい。また、Mnの含有量は、圧延性の低下を抑制する観点から、1.80質量%以下が好ましく、1.60質量%以下がより好ましい。
【0018】
(心材のCu:0.60質量%以上1.20質量%以下)
Cuは、ろう付後に母相に固溶し、ろう付後強度を向上させる。Cuの含有量が0.60質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Cuの含有量が1.20質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する恐れがある。
したがって、Cuの含有量は、0.60質量%以上1.20質量%以下である。
【0019】
Cuの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.80質量%以上が好ましく、0.90質量%以上がより好ましい。また、Cuの含有量は、ろう付時の溶融の発生を回避する観点から、1.10質量%以下が好ましい。
【0020】
(心材のMg:0.05質量%以上0.80質量%以下)
Mgは、Siとの相互作用により、ろう付後強度を向上させる。Mgの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Mgの含有量が0.80質量%を超えると、ろう付に用いるフラックスと反応し、ろう付性を著しく低下させる。
したがって、Mgの含有量は、0.05質量%以上0.80質量%以下である。
【0021】
Mgの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.30質量%以上が好ましく、0.40質量%以上がより好ましい。また、Mgの含有量は、ろう付性の低下を回避する観点から、0.70質量%以下が好ましい。
【0022】
(心材のTi:0.30質量%以下)
Tiは、一般的に知られているように、アルミニウム合金中に層状に分布することによって、ブレージングシートの電位分布もTiの濃淡に対応した分布となることから、腐食形態が層状化し、板厚方向への腐食の進行速度を低減させることができるため、耐食性の向上に寄与する。ただし、Tiの含有量が0.30質量%を超えると、鋳造時に粗大なAlTi金属間化合物を形成し易くなり、加工性が低下するため、チューブ成形時に割れが発生し易くなる。
したがって、Tiを含有させる場合、Tiの含有量は、0.30質量%以下である。
【0023】
(心材のCr:0.30質量%以下)
Crは、一般的に知られているように、AlとAlCr分散粒子を形成して分散強化することによって、ろう付後強度を向上させる。ただし、Crの含有量が0.30質量%を超えると、粗大なAlCr金属間化合物を形成し、圧延性を低下させる。
したがって、Crを含有させる場合、Crの含有量は、0.30質量%以下である。
【0024】
(心材のZr:0.30質量%以下)
Zrは、一般的に知られているように、AlとAlZr分散粒子を形成して分散強化することによって、ろう付後強度を向上させる。ただし、Zrの含有量が0.30質量%を超えると、粗大なAlZr金属間化合物を形成し、加工性が低下することによって、チューブ成形時に割れが発生し易くなる。
したがって、Zrを含有させる場合、Zrの含有量は、0.30質量%以下である。
【0025】
前記したTi、Cr、Zrは、前記した上限値を超えなければ、心材に1種以上、つまり1種が含まれる場合だけでなく、2種以上が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げない。
【0026】
(心材の残部:Al及び不可避的不純物)
本実施形態に係るブレージングシートの心材の残部はAl及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、原料の溶解時に不可避的に混入する不純物であり、例えば、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、In等が本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。
詳細には、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、Inは、其々、0.05質量%以下の範囲であれば本発明の効果を阻害しない。そして、これらの各成分については、前記した所定の含有量を超えなければ、不可避的不純物として含有される場合だけではなく、積極的に添加される場合であっても、本発明の効果を妨げない。
また、前記したTi、Cr、Zrも不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の含有量は、例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
【0027】
[犠牲材]
本実施形態に係るブレージングシートの犠牲材は、Si、Zn、Mnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
また、本実施形態に係るブレージングシートの犠牲材は、Ti、Cr、Zrのうちの1種以上をさらに含有してもよい。
【0028】
(犠牲材のSi:0.10質量%以上1.20質量%以下)
Siは、犠牲材の強度を向上させる。Siの含有量が0.10質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Siの含有量が1.20質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融が生じる恐れがある。
したがって、Siの含有量は、0.10質量%以上1.20質量%以下である。
【0029】
Siの含有量は、強度を向上させる観点から、0.30質量%以上が好ましく、0.40質量%以上、0.60質量%以上がより好ましい。また、Siの含有量は、ろう付時の溶融の発生を回避する観点から、1.00質量%以下が好ましく、0.90質量%以下がより好ましい。
【0030】
(犠牲材のZn:2.00質量%以上7.00質量%以下)
Znは、母材の電位を卑にし、心材及び中間層に対して犠牲防食効果を高めることで、孔食や隙間腐食を防止する。Znの含有量が2.00質量%未満では、犠牲防食の効果が小さい。一方、Znの含有量が7.00質量%を超えると、犠牲材の自己腐食性が増加し過ぎて、ブレージングシート全体の耐食性を低下させてしまう。
したがって、Znの含有量は、2.00質量%以上7.00質量%以下である。
【0031】
Znの含有量は、犠牲防食効果を高める観点から、3.00質量%以上が好ましく、4.00質量%以上がより好ましい。また、Znの含有量は、耐食性の低下を回避する観点から、6.00質量%以下が好ましく、5.00質量%以下がより好ましい。
【0032】
(犠牲材のMn:0.40質量%以下)
Mnは、母材に固溶することや、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによってろう付後強度を向上させる。また、犠牲材面における溶融ろうの流動性に大きな影響を与える。詳細には、Mnの含有量が0.40質量%以下であると、ろう付時における犠牲材面の溶融ろうの流動性が大幅に高まり、ろう付性を大幅に向上させることができる。
したがって、Mnの含有量は0.40質量%以下である。
【0033】
Mnの含有量は、ろう付性を向上させる観点から、0.30質量%以下が好ましく、0.20質量%以下、0.10質量%以下、0.03質量%以下、0.01質量%以下がより好ましい。
一方、Mnの含有量の下限については、特に限定されず、0質量%でもよい。
【0034】
なお、本実施形態に係るブレージングシートの犠牲材は、Mnの含有量を所定値以下に規制していることから、犠牲材自体の強度は若干低下するものの、前記した心材のMgをはじめ、Si、Mn、Cuの含有量を其々所定範囲内に詳細に特定することによって、ブレージングシート全体としての強度を確保することができる。
【0035】
(犠牲材のTi、Cr、Zr:0.30質量%以下)
犠牲材におけるTi、Cr、Zrは、其々、前記した心材のTi、Cr、Zrと同様の挙動を示し、これらを犠牲材に含有させる場合、Ti、Cr、Zrの含有量は、其々、0.30質量%以下である。
そして、前記したTi、Cr、Zrは、前記した上限値を超えなければ、犠牲材に1種以上、つまり1種が含まれる場合だけでなく、2種以上が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げない。
【0036】
(犠牲材の残部:Al及び不可避的不純物)
本実施形態に係るブレージングシートの犠牲材の残部はAl及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、原料の溶解時に不可避的に混入する不純物であり、例えば、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、In等が本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。
詳細には、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、Inは、其々、0.05質量%以下の範囲であれば本発明の効果を阻害しない。そして、これらの各成分については、前記した所定の含有量を超えなければ、不可避的不純物として含有される場合だけではなく、積極的に添加される場合であっても、本発明の効果を妨げない。
また、前記したMn、Ti、Cr、Zrも不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の含有量は、例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
【0037】
[中間層]
本実施形態に係るブレージングシートの中間層は、Si、Mn、Cuを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
また、本実施形態に係るブレージングシートの中間層は、Mgを含有してもよく、Ti、Cr、Zrのうちの1種以上をさらに含有してもよい。
【0038】
(中間層のSi:0.05質量%以上1.20質量%以下)
Siは、母材に固溶することや、MnとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによってろう付後強度を向上させる。Siの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Siの含有量が1.20質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融が生じる恐れがある。
したがって、Siの含有量は、0.05質量%以上1.20質量%以下である。
【0039】
Siの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.30質量%以上が好ましく、0.50質量%以上、0.70質量%以上がより好ましい。また、Siの含有量は、ろう付時の溶融の発生を回避する観点から、1.10質量%以下が好ましく、1.00質量%以下が好ましい。
【0040】
(中間層のMn:0.50質量%以上2.00質量%以下)
Mnは、母材に固溶することや、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによってろう付後強度を向上させる。Mnの含有量が0.50質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Mnの含有量が2.00質量%を超えると、金属間化合物が粗大に析出し、圧延性が低下しブレージングシートの製造が困難となる。
したがって、Mnの含有量は、0.50質量%以上2.00質量%以下である。
【0041】
Mnの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.80質量%以上が好ましく、1.20質量%以上がより好ましい。また、Mnの含有量は、圧延性の低下を抑制する観点から、1.80質量%以下が好ましく、1.60質量%以下がより好ましい。
【0042】
(中間層のCu:0.10質量%以上1.20質量%以下)
Cuは、ろう付後に母相に固溶し、ろう付後強度を向上させる。Cuの含有量が0.10質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Cuの含有量が1.20質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する恐れがある。
したがって、Cuの含有量は、0.10質量%以上1.20質量%以下である。
【0043】
Cuの含有量は、ろう付後強度を向上させる観点から、0.60質量%以上が好ましく、0.80質量%以上、0.90質量%以上がより好ましい。また、Cuの含有量は、ろう付時の溶融の発生を回避する観点から、1.10質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましい。
【0044】
(中間層のMg:0.20質量%以下)
Mgは、Siとの相互作用により、ろう付後強度を向上させる。ただし、Mgの含有量が0.20質量%を超えると、ろう付加熱時における中間層からろう材へのMg拡散量が多くなり、ろう付に用いるフラックスとの反応が多量に生じ、ろう付性を著しく低下させる。
したがって、Mgを含有させる場合、Mgの含有量は、0.20質量%以下である。
【0045】
(中間層のTi、Cr、Zr:0.30質量%以下)
中間層におけるTi、Cr、Zrは、其々、前記した心材のTi、Cr、Zrと同様の挙動を示し、これらを中間層に含有させる場合、Ti、Cr、Zrの含有量は、其々、0.30質量%以下である。
そして、前記したTi、Cr、Zrは、前記した上限値を超えなければ、中間層に1種以上、つまり1種が含まれる場合だけでなく、2種以上が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げない。
【0046】
(中間層の残部:Al及び不可避的不純物)
本実施形態に係るブレージングシートの中間層の残部はAl及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、原料の溶解時に不可避的に混入する不純物であり、例えば、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、In等が本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。
詳細には、V、Ni、Ca、Na、Sr、Li、Mo、Zn、Sn、Inは、其々、0.05質量%以下の範囲であれば本発明の効果を阻害しない。そして、これらの各成分については、前記した所定の含有量を超えなければ、不可避的不純物として含有される場合だけではなく、積極的に添加される場合であっても、本発明の効果を妨げない。
また、前記したMg、Ti、Cr、Zrも不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の含有量は、例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
【0047】
[ろう材]
本実施形態に係るブレージングシートのろう材は、例えば、Al-Si系合金からなる。Al-Si系合金としては、例えば、一般的なJIS合金、例えば、JISZ3263:2002に規定されている4343、4045等が挙げられる。Al-Si系合金としては、例えば、Siを5質量%以上15質量%以下(好ましくは7質量%以上13質量%以下)含有したものを用いることができる。ただし、Si含有量はこの範囲に限られるものではない。また、ろう材は、ろう材としての機能を発揮できる公知の成分組成のものであればよく、Al-Si-Zn系合金等であってもよい。また、その他の元素を含むものであってもよい。
【0048】
[用途]
本実施形態に係るブレージングシートは、例えば、自動車用熱交換器の部材、例えば、ラジエータのチューブ材等に用いることができる。
【0049】
[厚さ、及び、クラッド率]
本実施形態に係るブレージングシートの厚さは特に限定されないが、自動車用熱交換器の部材に適用することを考慮すると、例えば、0.35mm以下(好ましくは0.1mm以上0.25mm以下)である。
また、本実施形態に係るブレージングシートの各部材のクラッド率(ブレージングシートの全厚を100%とした場合の各部材の厚さの割合)についても特に限定されないが、例えば、ろう材のクラッド率は5%以上25%以下(好ましくは10%以上20%以下)、中間層のクラッド率は5%以上25%以下(好ましくは7%以上20%以下)、犠牲材のクラッド率は5%以上25%以下(好ましくは10%以上20%以下)である。
【0050】
[ブレージングシートの製造方法]
本実施形態に係るブレージングシートの製造方法は特に限定されず、例えば公知のクラッド材の製造方法により製造される。以下にその一例を説明する。
まず、心材、犠牲材、ろう材、中間層のそれぞれの成分組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造し、さらに必要に応じて面削(鋳塊の表面平滑化処理)、均質化処理して、それぞれの鋳塊を得る。そして、犠牲材、ろう材、中間層の鋳塊については、所定厚さまで熱間圧延もしくは機械的にスライスを施し、心材の鋳塊と組み合わせて、常法にしたがって、熱間圧延によりクラッド材とする。その後、このクラッド材に対して、冷間圧延、必要に応じて中間焼鈍、さらに、最終冷間圧延を施し、必要に応じて最終焼鈍を施す。
なお、均質化処理は400~610℃で1~20時間、中間焼鈍は200~450℃で1~20時間実施するのが好ましい。また、最終焼鈍は150~450℃で1~20時間実施するのが好ましい。そして、最終焼鈍を実施する場合、中間焼鈍を省略することが可能である。また、調質は、H1n、H2n、H3n(JIS H0001:1998)のいずれでもよい。
本実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程において、明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各工程での処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【実施例
【0051】
次に、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートについて、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0052】
[供試材作製]
本実施形態として示した前記の製造方法によって、表1~4に示す成分組成のアルミニウム合金を鋳造、均質化処理、熱間圧延(又はスライス)を施し、ろう材-中間層-心材-犠牲材を重ね合わせて、熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍を施し、板厚0.2mmの供試材(ブレージングシート)を作製した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
[試験内容]
(ろう付後強度試験)
作製した供試材について、必要に応じた大きさに切断し、窒素雰囲気下で577℃以上の温度範囲で7~8分保持するろう付相当の加熱処理を行った後、室温で7日間保持した。この供試材について、JISZ2241:2011の13B号試験片を作製し、引張試験機を使用して引張強さを測定した。クロスヘッド速度は0.2%耐力に到達するまでは5mm/分で実施し、その後は20mm/分で試験片が破断するまで実施した。
そして、「ろう付後強度」については、190MPa以上を合格と判断した。
【0058】
(ろう付性:間隙充填試験)
作製した供試材について、25mm×55mmのサイズに切断して試験片とした。そして、試験片(供試材)のろう材表面にフッ化物系フラックスを塗布した後、図2A、2Bに示す状態となるように、試験片である下板21と上板22との間にφ2mmのステンレス製スペーサ23を挟み、一定のクリアランスを設けた状態でワイヤ24を用いて固定した。そして、この状態の試験片を、窒素雰囲気下において577℃以上の温度範囲で3~4分間、保持した後、間隙充填長さを測定した。なお、ろう付の最大到達温度は供試材の溶融温度以下とした。
なお、図2A、2Bの試験片である下板21は、ろう材側が上側となるように配置している。また、図2A、2Bの上板22は厚さ1mmのJISZ3263:2002に規定されている合金番号3003のアルミニウム合金板を使用した。
そして、間隙充填試験の結果が示す「ろう材面のろう付性」については、15mm以上を合格と判断した。
【0059】
(ろう付性:ろう広がり試験)
作成した供試材について、40mm×70mmのサイズに切断して試験片とした。そして、図3A、3Bに示す状態となるように、2枚のステンレス板33と固定具34(ボルト、ナット)を用いて試験片(供試材)である下板31と上板32とを固定し窒素雰囲気下で577℃以上の温度範囲で2~3分間、保持した後、ろうの広がり面積(=上面視において上板32の15mm×20mmの領域から広がったろうの面積)を測定した。なお、ろう付の最大到達温度は供試材の溶融温度以下とした。
詳細には、図3A、3Bの試験片である下板31は、犠牲材が上側となるように配置した。また、図3A、3Bの上板32はAl-Si系のろう材を備えるブレージングシートであり、上板32のろう材が下板31の犠牲材に接するように配置した。当然、各試験片のろう広がり試験で使用した上板32は、同じ構成のブレージングシートを用いた。
なお、図3Bにおける2枚のステンレス板33と固定具34とは、保持時における下板31と上板32との位置のズレを防止するためのものである。
【0060】
なお、前記した各試験における加熱状態での保持時間が所定時間以上となると、強度の数値に大きな変動は生じないとともに、溶融ろうの状態も大きく変化するような事態は考えられないことから、ろう付後強度試験、間隙充填試験、及び、ろう広がり試験における保持時間は2分以上であれば各結果に大きな影響は与えない。
そして、ろう広がり試験の結果が示す「犠牲材面のろう付性」については、130mm以上を合格と判断した。
【0061】
これらの結果を表5に示す。なお、表5において、本発明の要件を満たさないものにつては数値に下線を引いて示し、評価を行わなかったものは評価項目の欄において「-」で示す。
【0062】
【表5】
【0063】
[結果の検討]
表1~5に示すように、No.1~8、10~12、15~18は、本発明の規定する成分組成を満たす供試材である。
そして、No.1~7、10~12、15~18は、本発明の規定する成分組成を満たすことから、ろう付後強度が十分に高いレベルを示した。
なお、No.8は、ろう付後強度試験を実施しなかったが、No.5の心材、ろう材、犠牲材の組成が同じであるとともに中間層のMgの含有量が多かったことから、少なくともNo.5のろう付後強度よりも高い数値が得られると推察される。
【0064】
そして、No.1~8、10~12、15~18は、本発明の規定する成分組成を満たすことから、間隙充填試験において好ましい結果が得られた。
また、No.1、2、10~12、15、16は、本発明の規定する成分組成を満たすことから、ろう広がり試験において好ましい結果が得られた。
なお、No.3~8、17、18は、ろう広がり試験を実施しなかった。しかしながら、No.3~8は、No.1、2と同じ犠牲材、又は、略同じ犠牲材(Mn量がさらに低い犠牲材)を備え、No.17、18は、No.10と同じ犠牲材を備えていた。よって、No.3~8の犠牲材面における溶融ろうの流動性はNo.1、2と同程度となる結果、ろうの広がり面積もNo.1、2と同程度になると推察され、No.17、18の犠牲材面における溶融ろうの流動性はNo.10と同程度となる結果、ろうの広がり面積もNo.10と同程度になると推察される。
【0065】
これらの結果から、ブレージングシートが本発明の規定する成分組成を満たすことによって、「ろう付後強度」だけでなく、「ろう付性」(間隙充填試験の結果が示すろう材面のろう付性、及び、ろう広がり試験の結果が示す犠牲材面のろう付性)にも優れ、両者を高いレベルで両立できることが確認できた。
【0066】
一方、No.9、13、14は、犠牲材のMnの含有量が多かったため、犠牲材表面における溶融ろうが流動せず、ろう広がり試験では所望のレベルに達しなかった。つまり、No.9、13、14は、ろう付性に劣るとの評価が得られた。
【0067】
なお、「犠牲材のMn量(質量%)」を横軸とし、ろう広がり試験の結果である「ろうの広がり面積(mm)」を縦軸としたグラフに各供試材のデータをプロットしたところ、両者の間(縦軸と横軸の指標)に強い相関関係が存在することを確認できた。具体的には、グラフ上において「犠牲材のMn量(質量%)」が減少するに伴い、「ろうの広がり面積(mm)」が大きくなることが確認できた。
よって、この結果に基づくと、犠牲材のMn量を抑制することによって、ろう付性(犠牲材面のろう付性)を向上できるとの本発明者らの考えが正しいことが明確となった。
【符号の説明】
【0068】
1 心材
2 犠牲材
3 中間層
4 ろう材
10 ブレージングシート
図1
図2A
図2B
図3A
図3B