(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】黒鉛/ケイ素アノード用PVDFバインダー
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20230808BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230808BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230808BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230808BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20230808BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/36 E
H01M4/1395
(21)【出願番号】P 2020527806
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2018082151
(87)【国際公開番号】W WO2019101829
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-22
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ, リカルド リノ
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520378(JP,A)
【文献】特開2016-143552(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056404(WO,A1)
【文献】特開2015-064937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0187032(US,A1)
【文献】国際公開第2015/111193(WO,A1)
【文献】特開2017-027907(JP,A)
【文献】特表2017-515281(JP,A)
【文献】特表2016-534496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/62
H01M 4/133
H01M 4/36
H01M 4/1395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極形成組成物[組成物(C)]であって、
(i)
a)フッ化ビニリデン(VDF)モノマー由来の繰り返し単位、
b)ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モル量に対して、0.05モル%~2.5モル
%の量の、少なくとも1種の式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位:
(式中、
- 互いに等しいか若しくは異なる、R
1、R
2及びR
3は独立して、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から選択され、
- R
OHは、水素原子であるか少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
、及び
c)前記ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モル量に対して、0.1モル%~5.0モル
%の量の、少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)由来の繰り返し単位、
を含有する直鎖半結晶性VDFコポリマー[ポリマー(F)]であって、25℃のジメチルホルムアミド中で測定される0.25l/g
超の固有粘度を有する直鎖半結晶性VDFコポリマー[ポリマー(F)];
(ii)少なくとも1種のケイ素材料を含む粉末状電極材料;並びに
(iii)任意選択的な、導電性付与剤及び/又は粘度調整剤;
を含有する電極形成組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
前記式(I)の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が、アクリル酸(AA)、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
前記ペルハロゲン化モノマー(FM)が、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びテトラフルオロエチレン(TFE)からなる群から選択さ
れる、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項4】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が、式(II):
の親水性(メタ)アクリルモノマーであり
、前記ペルハロゲン化モノマー(FM)がHFPである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項5】
ポリマー(F)が、25℃でジメチルホルムアミド中で測定される0.70l/g未
満の固有粘度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
前記少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2
モル%~1.0モル%の量で含まれ、前記少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)が、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.5
モル%~3.0モル%の量で含まれる、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
少なくとも1種のケイ素材料を含む前記粉末状電極材料が、炭素系材料とケイ素系化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
前記炭素系材料が黒鉛であり、前記ケイ素系化合物が、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素、及び酸化ケイ素からなる群から選択さ
れる、請求項7に記載の組成物(C)。
【請求項9】
前記少なくとも1種のケイ素材料が、前記粉末状電極材料の総重量に対して1
重量%~30重量
%の範囲の量で前記粉末状電極材料中に含まれる、請求項7又は8に記載の組成物(C)。
【請求項10】
少なくとも1種のケイ素材料を含む前記粉末状電極材料が、少なくとも1種の導電性付与剤を更に含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項11】
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備すること;
(ii)請求項1~10のいずれか1項に記載の電極形成組成物[組成物(C)]を準備すること;
(iii)工程(i)で準備した前記金属基材の前記少なくとも1つの表面に工程(ii)で準備した前記組成物(C)を塗布し、それにより、前記少なくとも1つの表面上に前記組成物(C)がコーティングされた金属基材を含む組立体を
準備すること;
(iv)工程(iii)で得た前記組立体を乾燥
させること;
(v)工程(iv)で得た前記乾燥
させた組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ること;
を含む、ケイ素負極[電極(E)]の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られるケイ素負極[電極(E)]。
【請求項13】
- 75重量%~95重量
%の量の黒鉛;
- 3重量%~20重量
%の量の少なくとも1種のケイ素化合物;
- 0重量%~5重量
%の量の導電性付与剤;
- 1重量%~15重量
%の量のポリマー(F);
を含み、前記重量
%が前記電極(E)の総重量に対するものとして示されている、請求項12に記載の電極(E)。
【請求項14】
-
89重量%の量の黒鉛;
-
5重量%の量の酸化ケイ素;
-
1重量%の量の導電性付与剤;
-
5重量%の量のポリマー(F);
を含み、前記重量
%が前記電極(E)の総重量に対するものとして示されている、請求項13に記載の電極(E)。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の
電極(E)を含む電気化学デバイス。
【請求項16】
リチウム二次電池である、請求項15に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年11月24日出願の欧州特許出願公開第17203437.3号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の内容全体は、あらゆる目的のため、参照によって本明細書に包含される。
【0002】
本発明は、親水性(メタ)アクリルモノマー及びペルハロゲン化モノマー由来の繰り返し単位を含むフッ化ビニリデンコポリマー、並びにケイ素負電極用のバインダーとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)は、様々な携帯型電子デバイスにおいて利用されており、ハイブリッド電気自動車及び電気自動車の電源として追求されている。大規模用途の要件を満たすためには、エネルギー密度と電力容量が改善されたLIBが望まれる。
【0004】
最近のリチウム電池の傾向は、アノードにおけるリチウムの貯蔵を増やすことにより、それらのエネルギー容量を向上させることである。このため、ケイ素を多く含む従来の黒鉛アノードは、理論エネルギー容量がはるかに大きいため、非常に大きな関心を集めている。
【0005】
ケイ素(Si)は、大きい容量(室温のLi3.75Siで、3572mAhg-1の重量容量及び8322mAhcm-3の体積容量)及び低い充放電電位(約0.4Vの脱リチウム化電圧)を有する。残念なことに、ケイ素は、リチウムイオン合金化中に生じる非常に大きな体積変化(>400%)(異方性体積膨張)の問題も抱えている。
【0006】
体積変化は、数多くの欠点をもたらす。例えば、これは深刻な粉砕を引き起こし、Si粒子と炭素導電剤との間の電気的接触を破壊する場合がある。また、特に高い電流密度において、不安定な固体電解質界面(SEI)が形成され、電極の劣化及び急激な容量低下を引き起こす可能性もある。
【0007】
上述した理由のため、ケイ素アノード用の電極配合物は、最大20重量%のケイ素化合物を含み、残りは黒鉛である。特に、黒鉛と5重量%から20重量%までのケイ素化合物とを含有する電極配合物が研究されている。
【0008】
更に、特にケイ素アノードの深刻な体積変化を抑制できるバインダーを開発することが注目されてきた。電池に使用される最も一般的なバインダー(ポリ(フッ化ビニリデン)、「PVDF」と表される)は、弱いファンデルワールス力のみによりケイ素粒子に結合しており、粒子間の空間の大きな変化に対応できない。
【0009】
ポリアクリル酸(PAA)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などのカルボキシ基を含むポリマーバインダーは、PVDFよりもよく機能することが報告されているが、残念なことに、前記バインダーの性能は不十分である。
【0010】
本発明の1つの目的は、ケイ素アノード用のバインダーとして効率的に使用できるポリマーバインダーを提供することである。
【発明の概要】
【0011】
驚くべきことに、今回、高分子量であることを特徴とする特定のVDFコポリマーが、金属基材への優れた接着性を有しており、Li-イオン電池のケイ素電極の作製のためのバインダーとして使用された場合にサイクル性能を改善できることが見出された。
【0012】
したがって、本発明の目的は、
(i)
a)フッ化ビニリデン(VDF)モノマー由来の繰り返し単位、
b)ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モル量に対して、0.05モル%~2.5モル%、好ましくは0.1~2.0モル%、より好ましくは0.2~1.0モル%の量での、少なくとも1種の式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位:
(式中、
- 互いに等しいか若しくは異なる、R
1、R
2及びR
3は独立して、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から選択され、
- R
OHは、水素原子であるか少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
、及び
c)前記ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モル量に対して、0.1モル%~5.0モル%、好ましくは0.5~3.0モル%の量の、少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)由来の繰り返し単位、
を含有する直鎖半結晶性VDFコポリマー[ポリマー(F)]であって、25℃のジメチルホルムアミド中で測定される0.25l/g超、好ましくは0.30l/g超、より好ましくは0.35l/g超の固有粘度を有する直鎖半結晶性VDFコポリマー[ポリマー(F)];
(ii)少なくとも1種のケイ素材料を含む粉末状電極材料;並びに
(iii)任意選択的な、導電性付与剤及び/又は粘度調整剤;
を含有する電極形成組成物[組成物(C)]である。
【0013】
別の目的では、本発明は、ケイ素負極[電極(E)]の製造のための電極形成組成物(C)の使用に関し、前記方法は、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備すること;
(ii)上で定義した電極形成組成物[組成物(C)]を準備すること;
(iii)工程(i)で準備した金属基材の少なくとも1つの表面に工程(ii)で準備した組成物(C)を塗布し、それにより、少なくとも1つの表面上に前記組成物(C)がコーティングされた金属基材を含む組立体を得ること;
(iv)工程(iii)で得た組立体を乾燥すること;
(v)工程(iv)で得た乾燥した組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ること;
を含む。
【0014】
更なる目的では、本発明は、本発明の方法によって得ることができるケイ素負極[電極(E)]に関する。
【0015】
更に別の目的では、本発明は、本発明のケイ素負極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語「半結晶性」は、ASTM D3418に従って10℃/minの加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)により測定した場合に1J/g超、より好ましくは少なくとも8J/gの融解熱を有するポリマーを示すことが意図されている。本明細書で使用される用語「接着する」及び「接着」は、2つの層がそれらの接触面を介して互いに永久的に付着していることを示す。
【0017】
本発明のバインダー組成物は、追加の接着剤を使用することなしに、金属集電体への優れた接着性を有するケイ素負極を首尾よく提供する。
【0018】
更に、出願人は、本発明の電極が、数サイクル後のサイクル性能を改善することができ(少ない低下)、PVDFと、ポリアクリル酸(PAA)やカルボキシメチルセルロース(CMC)などのカルボキシ基とを含む従来のバインダーを使用して作製された電極よりも大きいエネルギー容量を有することを見出した。
【0019】
用語「二フッ化ビニリデン由来の単位」(一般にフッ化ビニリデン、1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)は、式(I):CF2=CH2の繰り返し単位を意味することを意図する。
【0020】
式(I):
の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例としては、特に、
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物、
が挙げられる。
【0021】
用語「少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」は、ポリマー(F)が、上述したように1種又は2種以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位を含み得ることを意味するものと理解される。本明細書の残りの部分においては、表現「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」及び「モノマー(MA)」は、本発明の目的のためには、複数形及び単数形の両方、すなわち1種又は2種以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を指すものと理解される。
【0022】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は好ましくは、以下の式(II):
(式中、互いに等しいか若しくは異なる、R
1、R
2及びR
3のそれぞれは独立して、水素原子であるかC
1~C
3炭化水素基である)
を満たす。
【0023】
更により好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、アクリル酸(AA)である。
【0024】
ポリマー(F)中のモノマー(MA)の繰り返し単位の量の決定は、任意の好適な方法によって実施することができる。とりわけ、酸-塩基滴定法(例えば、アクリル酸含有量の決定によく適している)、NMR法(側鎖に脂肪族水素を含む(MA)モノマー(例えば、HPA、HEA)の定量に適している)、ポリマー(A)の製造中に供給された全(MA)モノマー及び未反応の残留(MA)モノマーに基づく重量収支を挙げることができる。
【0025】
用語「ペルハロゲン化モノマー(FM)」は、ハロゲン原子を含まない繰り返し単位を指すことが意図されている。
【0026】
本明細書の残りにおいて、「ペルハロゲン化モノマー」という表現は、本発明の目的のためには、複数形及び単数形の両方で理解される、すなわち、それらが上記で定義される、1種又は2種以上のハロゲン化モノマーの両方を意味すると理解される。
【0027】
好ましい実施形態では、ペルハロゲン化モノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びテトラフルオロエチレン(TFE)からなる群から選択される。
【0028】
より好ましくは、ペルハロゲン化モノマーは、HFP及びTFEから選択されるペルフルオロ化モノマーである。
【0029】
少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)は、好ましくはHFPである。
【0030】
本発明者らは、ポリマー(F)が直鎖の半結晶性コポリマーである場合に最良の結果が得られることを見いだした。
【0031】
用語「直鎖」は、(VDF)モノマー、(メタ)アクリルモノマー、及びペルハロゲン化モノマー(FM)由来の繰り返し単位の実質的に直鎖の配列からでできているコポリマーを表すことが意図されており;そのためポリマー(F)は、グラフト及び/又は櫛型ポリマーとは区別される。
【0032】
発明者らは、ポリマー(F)のポリフッ化ビニリデン主鎖中のモノマー(MA)及びモノマー(FM)の実質的にランダムな分布が、例えば熱安定性や機械的特性などのフッ化ビニリデンポリマーの他の優れた特性を損なうことなしに、得られるコポリマーの接着性及び屈曲寿命に対するモノマー(MA)及びモノマー(FM)の影響を有利に最大化することを見出した。
【0033】
ポリマー(F)は、典型的には、例えば国際公開第2007/006645号パンフレット及び国際公開第2007/006646号パンフレットに記載の手順に従って、少なくとも1種のVDFモノマーと、少なくとも1種の水素化(メタ)アクリルモノマー(MA)と、少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)との乳化重合又は懸濁重合により得ることができる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(F)において、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1.0モル%の量で含まれ、少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.5~3.0モル%の量で含まれる。
【0035】
より好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は式(II)の親水性(メタ)アクリルモノマーであり、更に好ましくはこれはアクリル酸(AA)であり、ペルハロゲン化モノマー(FM)はHFPであり、ポリマー(F)はVDF-AA-HFPターポリマーである。
【0036】
ポリマー(F)は、典型的には粉末の形態で供給される。
【0037】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(F)の固有粘度は、0.70l/g未満、好ましくは0.60l/g未満、より好ましくは0.50l/g未満である。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(F)の固有粘度は0.35l/g~0.45l/gである。
【0039】
上で詳述した直鎖半結晶性ポリマー(F)は、Li-イオン電池のケイ素電極用のバインダーとして使用することができる。
【0040】
組成物(C)は、ポリマー(F)の溶液(ポリマー(F)のバインダー溶液)から出発して調製することができる。
【0041】
ポリマー(F)のバインダー溶液は、ポリマー(F)を有機溶媒中に溶解することにより調製される。
【0042】
ポリマー(F)を溶解してバインダー溶液を得るために使用される有機溶媒は、好ましくは極性のものであってよく、その例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートを挙げることができる。本発明に用いられるフッ化ビニリデンポリマーは、従来のものより非常により大きい重合度を有することから、より大きい溶解力を有する窒素含有有機溶媒、例えば、上述の有機溶媒のうちで、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドを用いることが更に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されても2種以上の混合物で使用されてもよい。
【0043】
上で詳述したポリマー(F)のバインダー溶液を得るためには、100重量部のこのような有機溶媒に0.1~10重量部、特には1~5重量部のコポリマー(F)を溶解させることが好ましい。0.1重量部未満では、ポリマーは、溶液中に少なすぎる割合を占め、したがって、粉末状の電極材料を結合するその性能を示すことを果たせなくなりがちである。10重量部を超えると、異常に高い溶液の粘度が得られ、その結果、電極形成組成物の調製が困難になるだけでなく、ゲル化減少の回避も問題になり得る。
【0044】
ポリマー(F)バインダー溶液を調製するためには、コポリマー(F)を30~200℃、より好ましくは40~160℃、更に好ましくは50~150℃の高温で有機溶媒に溶解することが好ましい。30℃未満では溶解に長時間要し、均一な溶解が困難になる。
【0045】
電極形成組成物[組成物(C)]は、少なくとも1種のケイ素材料と、任意選択の添加剤(導電性付与剤及び/又は粘度調整剤など)とを含む粉末状電極材料を上で定義したポリマー(F)のバインダー溶液中に添加して分散し、場合によっては得られた組成物を追加の溶媒を用いて希釈することにより、得ることができる。
【0046】
少なくとも1種のケイ素材料を含む粉末状電極材料は、適切には、炭素系材料とケイ素系化合物を含む。
【0047】
本発明では、炭素系材料は、例えば、天然又は人造の黒鉛などの黒鉛、又はカーボンブラックであってもよい。これらの材料は、単独で使用されてもよく、これらの2種以上の混合物として使用されてもよい。炭素系材料は、特には黒鉛であってもよい。
【0048】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素、及び酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上であってよい。より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であってもよい。
【0049】
少なくとも1種のケイ素系化合物は、粉末状電極材料の総重量に対して1~30重量%、好ましくは5~20重量%の範囲の量で粉末状電極材料中に含まれる。
【0050】
特に、限定的な導電性を示すLiCoO2又はLiFePO4などの活物質を用いる場合、本発明の電極形成組成物の塗布及び乾燥により形成された結果として生じる複合電極層の導電性を改善するために導電性付与剤が添加され得る。その例として、カーボンブラック、黒鉛微粉末及び繊維などの炭素質材料、並びにニッケル及びアルミニウムなどの金属の微粉末及び繊維が挙げられる。
【0051】
電極配合物中のポリマー(F)の量は、粉末状電極材料に使用される炭素系材料及びケイ素系化合物の特性に依存する。
【0052】
本発明の電極形成組成物(C)は、ケイ素負極[電極(E)]の製造方法で使用することができ、前記方法は、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備すること;
(ii)上で定義した電極形成組成物[組成物(C)]を準備すること;
(iii)工程(i)で準備した金属基材の少なくとも1つの表面に工程(ii)で準備した組成物(C)を塗布し、それにより、少なくとも1つの表面上に前記組成物(C)がコーティングされた金属基材を含む組立体を得ること;
(iv)工程(iii)で得た組立体を乾燥すること;
(v)工程(iv)で得た乾燥した組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ること;
を含む。
【0053】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀などの金属でできた箔、メッシュ又はネットである。
【0054】
本発明の方法の工程(iii)では、組成物(C)は、典型的には、キャスティング、印刷及びロールコーティングなどの任意の好適な手順によって金属基材の少なくとも1つの表面上に塗布される。
【0055】
任意選択的に、工程(iii)は、工程(iv)で準備した組立体上に、工程(ii)で準備した組成物(2)を、典型的には1回以上塗布することによって繰り返されてもよい。
【0056】
工程(v)では、工程(iv)で得られた乾燥組立体は、電極(E)の目標空隙率及び密度を達成するためにカレンダー加工プロセスなどの圧縮工程を受ける。
【0057】
好ましくは、工程(iv)で得られた乾燥組立体は、ホットプレスされ、圧縮工程中の温度は、25℃~130℃に含まれ、好ましくは約60℃である。
【0058】
電極(E)の好ましい目標空隙率は、15%~40%、好ましくは25%~30%に含まれる。電極(E)の空隙率は、電極の測定された密度と理論密度との間の比率の1の補数として計算され、
- 測定される密度は、24mmに等しい直径と測定された厚さを持つ電極の円形部分の体積で割った質量で与えられ;
- 電極の理論密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物の質量比を掛けた積の合計として計算される。
【0059】
更なる例において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるケイ素負極[電極(E)]に関する。
【0060】
ケイ素負電極(E)は、通常、
- 75重量%~95重量%、好ましくは85重量%~90重量%の量の黒鉛;
- 3重量%~20重量%、好ましくは5重量%~10重量%の量の少なくとも1種のケイ素化合物;
- 0重量%~5重量%、好ましくは0.5重量%~2.5重量%、より好ましくは約1重量%の量の導電性付与剤;
- 1重量%~15重量%、好ましくは5重量%~10重量%の量のポリマー(F);
を含み、重量パーセントは電極(E)の総重量に対するものとして示されている。
【0061】
好ましい一実施形態では、ケイ素負極(E)は、
- 約89重量%の量の黒鉛;
- 約5重量%の量の酸化ケイ素;
- 約1重量%の量の導電性付与剤;
- 約5重量%の量のポリマー(F);
を含み、重量パーセントは電極(E)の総重量に対するものとして示されている。
【0062】
本出願人は、驚くべきことに、本発明のケイ素負極(E)が、バインダーの集電体への優れた接着、並びに従来のケイ素負極バインダーよりも優れた容量保持及び優れた容量を示すことを見出した。
【0063】
本発明のケイ素負極(E)は、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0064】
本発明の二次電池は、好ましくはアルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。
【0065】
本発明の二次電池は、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0066】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって作製することができる。
【0067】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0068】
本発明が以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0069】
原料
黒鉛、Imerys S.A.からActilion2として市販;
酸化ケイ素、ChemicalsからCRZ113として市販;
カーボンブラック、Imerys S.A.からSC45として市販;
カルボキシメチルセルロース(CMC)、Nippon PaperからMAC 500LCとして市販;
40重量%のSBR水性懸濁液、ZEON CorporationからZeon(登録商標)BM-480Bとして市販;
PAA水溶液(35%w/w)、Sigma Aldrichから市販;
NMP、Sigma Aldrichから市販;
ポリマー(A):25℃のDMF中で0.38l/gの固有粘度を有するVDF-AA(0.6モル%)-HFP(0.8モル%)ポリマー。
ポリマー(B-Comp):25℃のDMF中で0.30l/gの固有粘度を有するVDF-AA(0.9モル%)ポリマー、国際公開第2008/129041号パンフレットに記載の通りに調製。
ポリマー(C):25℃のDMF中で0.31l/gの溶融粘度を有するVDF-AA(0.7モル%)-HFP(2.3モル%)ポリマー。
ポリマー(D-Comp):25℃のDMF中で0.38l/gの溶融粘度を有するVDF-AA(0.6モル%)ポリマー、国際公開第2008/129041号パンフレットに記載の通りに調製。
【0070】
ポリマー(A)の調製:
250rpmの速度で作動するインペラーを備えた80リットルの反応器に、順に、24.5Kgの脱塩水及び0.6g/kgMnTのヒドロキシエチルセルロース誘導体(懸濁剤、AkzoNobelからBermocoll(登録商標)E 230FQとして市販)を入れた。ここでのg/MnTは、重合中に導入されたコモノマー(HFP、AA、及びVDF)の合計量の1Kg当たりの生成物のグラムを意味する。
【0071】
反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素をパージした。その後、イソドデカン中のt-アミル-ペルピバレートの75重量%溶液(開始剤、Arkemaから市販)2.65g/kgMnTを添加した。撹拌速度を300rpmに上げた。最後に、8.5gのアクリル酸(AA)と0.85Kgのヘキサフルオロプロピレン(HFP)を反応器に導入し、続いて24.5Kgのフッ化ビニリデン(VDF)を導入した。
【0072】
反応器を50℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120barに固定した。水溶液で希釈した204gのAA(AA濃度12.5g/水1Kg)を供給することにより、圧力を120barに一定に維持した。この供給後、それ以上の水溶液を入れなかったところ、圧力は低下し始めた。次いで、大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。概してコモノマーの約74%~85%の変換が得られた。次いで、そのように得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃でオーブン乾燥した。
【0073】
ポリマー(C)の調製:
250rpmの速度で作動するインペラーを備えた80リットルの反応器に、順に、50.4Kgの脱塩水及び0.6g/kgMnTのヒドロキシエチルセルロース誘導体(懸濁剤、AkzoNobelからBermocoll(登録商標)E 230FQとして市販)を入れた。ここでのg/MnTは、重合中に導入されたコモノマー(HFP、AA、及びVDF)の合計量1Kg当たりの生成物のグラムを意味する。
【0074】
反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素をパージした。その後、イソドデカン中のt-アミル-ペルピバレートの75重量%溶液(開始剤、Arkemaから市販)3.0g/kgMnTを添加した。撹拌速度を300rpmに上げた。最後に、21.6gのアクリル酸(AA)と2.5Kgのヘキサフルオロプロピレン(HFP)を反応器に導入し、続いて22.7Kgのフッ化ビニリデン(VDF)を導入した。
【0075】
反応器を52℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120barに固定した。水溶液で希釈した234gのAA(AA濃度14g/水1Kg)を供給することにより、圧力を120barに一定に維持した。この供給後、それ以上の水溶液を入れなかったところ、圧力は低下し始めた。次いで、大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。概してコモノマーの約74%~85%の変換が得られた。次いで、そのように得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃でオーブン乾燥させた。
【0076】
ポリマー(F)の固有粘度の測定
実施例のポリマーの固有粘度(η)[l/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(F)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、η
rは、相対粘度、すなわち、試料溶液の滴下時間と、溶媒の滴下時間との間の比であり、η
spは、比粘度、すなわち、η
r-1であり、Γは、ポリマー(VDF)については3に相当する実験因子である)
を用いて測定した。
【0077】
負極の製造のための基本手順
負極は、以下の装置を使用して以下に詳述する成分を混合することにより調製した:
- メカニカルミキサー:フラットPTFE軽量分散インペラー(優れた混合分散状態のため)を備えたDispermat(登録商標)シリーズのプラネタリーミキサー(Speedmixer)及びメカニカルミキサー、
- フィルムコーター/ドクターブレード:Elcometer 4340モーター式/自動フィルムアプリケーター、
- 真空オーブン:真空乾燥オーブン-真空を備えたBINDER APTラインVD53、
- ロールプレス:最高100℃のPrecision 4”熱間ロールプレス/カレンダー。
【0078】
実施例1:本発明による負極
NMP中のポリマー(A)の6重量%溶液16.67g、NMP4.33g、黒鉛17.86g、酸化ケイ素0.94g、及びカーボンブラック0.2gを混合することにより、NMP組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することで電極形成組成物(C1)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C1)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、約60分で80℃から130℃までの昇温でオーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで90℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E1))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、5重量%のポリマー(A)、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0079】
実施例2:比較の負極
NMP中のポリマー(B-Comp)の6重量%溶液16.67g、NMP4.33g、黒鉛17.86g、酸化ケイ素0.94g、及びカーボンブラック0.2gを混合することにより、NMP組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することで電極形成組成物(C2-Comp)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C2-Comp)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、約60分で80℃から130℃までの昇温でオーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで90℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E2-Comp))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、5重量%のポリマー(B-Comp)、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0080】
実施例3:本発明による負極
NMP中のポリマー(C)の6重量%溶液16.67g、NMP4.33g、黒鉛17.86g、酸化ケイ素0.94g、及びカーボンブラック0.2gを混合することにより、NMP組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することで電極形成組成物(C3)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C3)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、約60分で80℃から130℃までの昇温でオーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで90℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E3))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、5重量%のポリマー(C)、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0081】
実施例4:比較の負極
NMP中のポリマー(D-Comp)の6重量%溶液16.67g、NMP4.33g、黒鉛17.86g、酸化ケイ素0.94g、及びカーボンブラック0.2gを混合することにより、NMP組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することで電極形成組成物(C4-Comp)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C4-Comp)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、約60分で80℃から130℃までの昇温でオーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで90℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E4-Comp))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、5重量%のポリマー(D-Comp)、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0082】
実施例5:比較の負極(SBR/CMC)
2重量%のCMC水溶液29.05g、脱イオン水4.76g、黒鉛31.25g、酸化ケイ素1.65g、及びカーボンブラック0.35gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物を穏やかに撹拌することにより均質化した。1時間混合した後、2.94gのSBR懸濁液を組成物に添加し、低撹拌で1時間再度混合することで、電極形成組成物(C5-Comp)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C5-Comp)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、60℃で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E5-Comp))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、1.66重量%のCMC、3.33重量%のSBR、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0083】
実施例6:比較の負極(PAA)
PAA水溶液(35%w/w)5.71g、脱イオン水36.3g、黒鉛35.72g、酸化ケイ素1.88g、及びカーボンブラック0.4gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物を10分間プラネタリーミキサーで穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することで、電極形成組成物(C6-Comp)を得た。このようにして得た電極形成組成物(C6-Comp)をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、そのようにして得たコーティング層を、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。このようにして得た負極(電極(E6-Comp))は以下の組成を有していた:89.3重量%の黒鉛、5重量%のPAA、4.7重量%の酸化ケイ素、及び1重量%のカーボンブラック。
【0084】
負極の接着特性の測定
金属箔上の電極組成物コーティングの接着性を評価するために、電極(E1)、電極(E2-Comp)、電極(E3)、電極(E4-Comp)、電極(E5-Comp)、及び電極(E6-Comp)について、規格ASTM D903に従って、20℃で300mm/minの速度で剥離試験を行った。
【0085】
結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
結果は、本発明による電極(E1)が、電極(E2-Comp)、(E4-Comp)、(E5-Comp)、及び(E6-Comp)の接着力と比較して、銅集電体への接着力の極めて優れた値を有することを示している。
【0088】
電池の製造
活物質としてコバルト酸リチウムを使用した正極(LCO、MTIから市販、LCO95.7重量%、PVDFバインダー2重量%、及び炭素2.3重量%の組成を有する)をカソードとして使用した。正極の容量は1.8mAh/cm2である。実施例1~6で負極としてそれぞれ得た負極(E1)又は電極(E2-Comp)又は電極(E3)又は電極(E4-Comp)又は電極(E5-Comp)又は電極(E6-Comp)と、上述した正極の小さなディスクを打ち抜くことにより、Arガス雰囲気下のグローブボックス中でフルコインセル(CR2032)を作製した。コインセルの作製に使用した電解質は、BASFからLP30として市販されている、添加剤としての2重量%のVCと10重量%のF1ECとを含むEC:DMC=1:1(重量%)の二元溶媒中の標準の1MのLiPF6であった。ポリエチレンセパレータ(Tonen Chemical Corporationより市販)は入手したままの状態で使用した。
【0089】
低い電流レートでの最初の充電及び放電サイクル後に、セルを、サイクルを通じての容量低下を示すために0.2Cの定電流レートで定電流サイクルさせた。結果を表2に示す。
【0090】
【0091】
比較電極(E2-Comp)、(E4-Comp)、(E5-Comp)、及び(E6-Comp)を含むものと比較して、特に電極(E1)及び(E3)によって具体化されるような本発明の負極を含むコインセルで大きい高い容量が維持されることが見出された。
【0092】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、一定量の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)と少なくとも1種のペルハロゲン化モノマー(FM)の存在の組み合わせにおけるより大きい固有粘度が、PVDFバインダーを含む電極の改善された容量に貢献すると考えている。
【0093】
上述の事項から、本発明のポリマー(F)及びそれから作製されるあらゆる電極は、改善された性能を有する二次電池で使用するためのケイ素負極用のバインダーの調製における使用に特に適していることが判明した。