(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】半極性自立基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20230808BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230808BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230808BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
C23C16/34
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020540213
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031168
(87)【国際公開番号】W WO2020045005
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2018158077
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】布田 将一
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027893(JP,A)
【文献】特開2018-104279(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164233(WO,A1)
【文献】特開2015-059069(JP,A)
【文献】特表2003-517416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
C23C 16/34
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板を準備する準備工程と、
前記半極性種基板の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長して、III族窒化物半導体層を形成するIII族窒化物半導体層形成工程と、
前記III族窒化物半導体層から、半極性面を主面とする半極性自立基板を切り出す切出工程と、
前記切出工程の後、前記III族窒化物半導体層の一部が残存する前記半極性種基板から前記III族窒化物半導体層の全てを除去する加工工程と、
を実行した後、前記III族窒化物半導体層を除去した前記半極性種基板を再利用して、前記III族窒化物半導体層形成工程と前記切出工程とを行
い、
前記準備工程は、
半極性面を主面とするIII族窒化物半導体層を含む下地基板をサセプターに固着させる固着工程と、
前記サセプターに前記下地基板を固着させた状態で、前記III族窒化物半導体層の前記主面上にHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を成長させ、第1の成長層を形成する第1の成長工程と、
前記サセプター、前記下地基板及び前記第1の成長層を含む積層体を冷却し、前記第1の成長層にクラックを発生させる冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記サセプターに前記下地基板を固着させた状態で、前記第1の成長層の上に、HVPE法でIII族窒化物半導体を成長させ、300μm以上の厚さの第2の成長層を形成する第2の成長工程と、
前記第2の成長層の少なくとも一部を前記半極性種基板として切り出す種基板切出工程と、
を有する半極性自立基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記加工工程では、前記半極性種基板の前記III族窒化物半導体層に接する面側の一部を除去する半極性自立基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記加工工程では、表面観察により、前記III族窒化物半導体層の全ての除去を確認する半極性自立基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記半極性種基板が再利用可能か否かを判断する判断工程をさらに有し、
前記判断工程で再利用可能と判断された場合、前記半極性種基板を再利用し、
前記判断工程で再利用不可と判断された場合、前記半極性種基板の再利用を終了する半極性自立基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の曲率半径が基準値以上である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の曲率半径が基準値未満である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板に所定のクラックが発生していない場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板に所定のクラックが発生している場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の厚さが基準値以上である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の厚さが基準値未満である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の表面粗さが基準値未満である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の表面粗さが基準値以上である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の表面に傷が発生していない場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の表面に傷が発生している場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記半極性種基板の主面は、
{-1-12-3}面から15°以内のオフ角を有する面であり、
前記切出工程では、
{-1-12-3}面を主面とする前記半極性自立基板を切り出す半極性自立基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記第2の成長工程では、前記クラックを境に互いに別れた前記第1の成長層の第1の表面領域及び第2の表面領域各々から成長したIII族窒化物半導体が互いに接合して一体化するまでIII族窒化物半導体を成長させる半極性自立基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半極性自立基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サファイア基板と、ボイドを高密度に発生させたGaN結晶薄膜とを有する下地基板上にGaN結晶厚膜を成長し、その後、GaN結晶厚膜を剥離し、GaN結晶薄膜を除去した後、サファイア基板を再利用して同工程を行う技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、窒化物半導体基板上に窒化物半導体エピタキシャル層を成長させた後、窒化物半導体基板から窒化物半導体エピタキシャル層を分離し、その後、窒化物半導体基板に対して表面処理し、表面処理した窒化物半導体基板を再利用して同工程を行う技術が開示されている。
【0004】
特許文献3には、窒化物半導体からなる矩形の結晶片を接合した下地基板上に窒化物半導体層を形成した後、下地基板から窒化物半導体層を分離し、その後、下地基板を再利用して同工程を行う技術が開示されている。
【0005】
特許文献4には、窒化物半導体基板の表面近傍にイオンを注入した後、窒化物半導体基板にシリコン基板を熱処理により貼りあわせ、イオン注入された層を境として窒化物半導体基板の大部分をシリコン基板から引きはがし、その後、イオン注入された層を除去した窒化物半導体基板を再利用して同工程を行う技術が開示されている。
【0006】
特許文献5には、窒化物半導体基板の上にデバイスを構成するための複数の窒化物半導体層を積層して上層部を形成した後、窒化物半導体基板から上層部を分離し、その後、窒化物半導体基板を再利用して同工程を行う技術が開示されている。
【0007】
特許文献6及び7には、サファイア基板上に、半極性面を主面とするIII族窒化物半導体層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-158497号公報
【文献】特開2014-166953号公報
【文献】特開2015-187043号公報
【文献】特開2006-210660号公報
【文献】特開2007-73569号公報
【文献】特許第6266742号
【文献】特許第6232150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、III族窒化物半導体からなる種基板上にIII族窒化物半導体層を形成し、そして種基板からIII族窒化物半導体層を分離して自立基板を得た後、III族窒化物半導体層を分離した種基板を再利用して同工程を行う技術を検討した結果、次のような課題を見出した。
【0010】
詳細は以下の実施例で示すが、上記技術において種基板上にc面成長でIII族窒化物半導体層を形成した場合、III族窒化物半導体層の表面に孔やクラックが発生しやすくなる。結果、得られた自立基板の表面にも孔やクラックが発生しやすくなる。特許文献1乃至7いずれも、当該課題及びその解決手段を開示していない。
【0011】
本発明は、III族窒化物半導体からなる種基板上にIII族窒化物半導体層を形成し、そして種基板からIII族窒化物半導体層を分離して自立基板を得た後、III族窒化物半導体層を分離した種基板を再利用して同工程を行う技術において、得られる自立基板の表面状態を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、
半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板を準備する準備工程と、
前記半極性種基板の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長して、III族窒化物半導体層を形成するIII族窒化物半導体層形成工程と、
前記III族窒化物半導体層から、半極性面を主面とする半極性自立基板を切り出す切出工程と、
前記切出工程の後、前記III族窒化物半導体層の一部が残存する前記半極性種基板から前記III族窒化物半導体層の全てを除去する加工工程と、
を実行した後、前記III族窒化物半導体層を除去した前記半極性種基板を再利用して、前記III族窒化物半導体層形成工程と前記切出工程とを行う半極性自立基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、III族窒化物半導体からなる種基板上にIII族窒化物半導体層を形成し、そして種基板からIII族窒化物半導体層を分離して自立基板を得た後、III族窒化物半導体層を分離した種基板を再利用して同工程を行う技術において、得られる自立基板の表面状態が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0015】
【
図1】本実施形態の半極性自立基板の製造方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図2】本実施形態の半極性自立基板の製造方法の処理の流れの一例を示す工程図である。
【
図3】本実施形態の準備工程の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態の準備工程処理の流れの一例を示す工程図である。
【
図5】本実施形態の半極性種基板の一例を示す模式図である。
【
図6】本実施形態の半極性種基板の構成を説明するための図である。
【
図7】本実施形態の半極性種基板の構成を説明するための図である。
【
図8】本実施形態の半極性自立基板の製造方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】実施例1の半極性自立基板の表面を示す図である。
【
図10】実施例1のGaN層の表面を示す図である。
【
図11】実施例のスライス位置を説明するための図である。
【
図12】実施例1の分離されたGaN層のスライス面を示す図である。
【
図13】実施例1の半極性種基板に残存したGaN層のスライス面を示す図である。
【
図14】実施例1の利用前の半極性種基板と再利用前の半極性種基板の表面を示す図である。
【
図15】実施例2の半極性自立基板の表面を示す図である。
【
図16】実施例2の成長段階のGaN層の表面を示す図である。
【
図17】実施例2の成長段階のGaN層の表面を示す図である。
【
図18】実施例2の分離されたGaN層のスライス面を示す図である。
【
図19】実施例2の半極性種基板に残存したGaN層のスライス面を示す図である。
【
図20】実施例2の半極性種基板の中心部に存在した貫通孔を示す図である。
【
図21】
図19に示すGaN層のスライス面の中心部に存在した貫通孔を示す図である。
【
図23】比較例1のGaN層の表面を示す図である。
【
図25】比較例2のGaN層の表面を示す図である。
【
図27】比較例3のGaN層の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の半極性自立基板の製造方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0017】
<第1の実施形態>
「全体像及び概略」
図1のフローチャートは、本実施形態の半極性自立基板の製造方法の処理の流れの一例を示す。図示するように、本実施形態の半極性自立基板の製造方法では、準備工程S10と、III族窒化物半導体層形成工程S20と、切出工程S30と、加工工程S40とがこの順に行われる。
【0018】
ここで、
図2の工程図を用いて、各工程の概略を説明する。
【0019】
準備工程S10では、
図2(1)に示すように、半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板1を準備する。
【0020】
III族窒化物半導体層形成工程S20では、
図2(2)に示すように、半極性種基板1の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長して、III族窒化物半導体層2を形成する。
【0021】
切出工程S30では、
図2(3)に示すように、半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2の一部(III族窒化物半導体層の分離部2-2)を分離し、半極性面を主面とする半極性自立基板を得る。なお、III族窒化物半導体層の分離部2-2をスライスして複数の半極性自立基板を得てもよい。
【0022】
加工工程S40では、III族窒化物半導体層2の一部(III族窒化物半導体層の残存部2-1)が残存する半極性種基板1を加工し、III族窒化物半導体層の残存部2-1を除去する。
【0023】
その後、III族窒化物半導体層の残存部2-1を除去した半極性種基板1を再利用して、III族窒化物半導体層形成工程S20と切出工程S30とを実行する。なお、さらに加工工程S40を行い、半極性種基板1を複数回再利用してもよい。
【0024】
次に、各工程を詳細に説明する。
【0025】
「準備工程S10」
準備工程S10では、
図2(1)に示すように、半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板1を準備する。半極性種基板1の主面は、{-1-12-3}面、{-1-12-3}面から15°以内のオフ角を有する面、{-1-12-4}面、{-1-12-2}面等が例示されるが、これらに限定されない。
【0026】
準備工程S10では、
図3のフローチャートに示す処理を実行することで、半極性種基板1を製造する。
図3に示すように、準備工程S10では、固着工程S11と、第1の成長工程S12と、冷却工程S13と、第2の成長工程S14と、種基板切出工程S15とがこの順に行われる。
【0027】
固着工程S11では、下地基板をサセプターに固着させる。例えば、
図4(1)に示すような下地基板10を、
図4(2)に示すようにサセプター20に固着させる。
【0028】
下地基板10は、半極性面を主面とするIII族窒化物半導体層12を含む。III族窒化物半導体層12は、例えばGaN層である。
【0029】
半極性面は、極性面及び無極性面以外の面である。III族窒化物半導体層12の主面(図中、露出している面)は、+c側の半極性面(Ga極性側の半極性面:ミラー指数(hkml)で表され、lが0より大の半極性面)であってもよいし、-c側の半極性面(N極性側の半極性面:ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の半極性面)であってもよい。
【0030】
下地基板10は、III族窒化物半導体層12以外の層を含む積層体であってもよいし、III族窒化物半導体層12のみの単層であってもよい。積層体の例としては、例えば、
図4(1)に示すように、サファイア基板11と、バッファ層(図中、省略)と、III族窒化物半導体層12とをこの順に積層した積層体が例示されるが、これに限定されない。例えば、サファイア基板11を他の異種基板に代えてもよい。また、バッファ層を含まなくてもよい。また、その他の層を含んでもよい。
【0031】
下地基板10の製造方法は特段制限されず、あらゆる技術を採用できる。例えば、所定の面方位となったサファイア基板11上に、バッファ層を介してMOCVD(metal organic chemical vapor deposition)法でIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることで、III族窒化物半導体層12を形成してもよい。この場合、サファイア基板11の主面の面方位や、バッファ層を形成する前のサファイア基板11に対して行う熱処理時の窒化処理の有無や、バッファ層を形成する際の成長条件や、III族窒化物半導体層12を形成する際の成長条件や、サファイア基板11の主面上に金属含有ガス(例:トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム)を供給して金属膜及び炭化金属膜を形成する処理や、バッファ層やIII族窒化物半導体層12を形成する際の成長条件等を調整することで、主面がN極性側及びGa極性側いずれかの所望の半極性面となったIII族窒化物半導体層12を形成することができる。詳細は、特許文献6及び7に開示されている。
【0032】
下地基板10の製造方法のその他の例として、c面成長して得られたIII族窒化物半導体層を加工し(例:スライス等)、所望の半極性面を主面とするIII族窒化物半導体層(下地基板10)を得てもよい。
【0033】
III族窒化物半導体層12の最大径は、例えばΦ50mm以上Φ6インチ以下である。III族窒化物半導体層12の厚さは、例えば50nm以上1mm以下である。サファイア基板11の径は、例えばΦ50mm以上Φ6インチ以下である。サファイア基板11の厚さは、例えば100μm以上10mm以下である。
【0034】
次に、サセプター20について説明する。サセプター20は、第1の成長工程S12や第2の成長工程S14での加熱で反り得る下地基板10の応力で変形しない特性等を有する。このようなサセプター20の例として、カーボンサセプター、シリコンカーバイドコートカーボンサセプター、ボロンナイトライドコートカーボンサセプター、石英サセプター等が例示されるがこれらに限定されない。
【0035】
次に、下地基板10をサセプター20に固着させる方法について説明する。本実施形態では、
図4(2)に示すように、下地基板10の裏面(サファイア基板11の裏面)をサセプター20の面に固着する。これにより、下地基板10の変形を抑制する。固着する方法としては、第1の成長工程S12や第2の成長工程S14での加熱や、当該加熱で反り得る下地基板10の当該反る力等により剥がれない方法が要求される。例えば、アルミナ系、カーボン系、ジルコニア系、シリカ系、ナイトライド系等の接着剤を用いて固着する方法が例示される。
【0036】
図3に戻り、第1の成長工程S12では、
図4(3)に示すように、サセプター20に下地基板10を固着させた状態で、III族窒化物半導体層12の主面上にHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を成長させる。これにより、単結晶のIII族窒化物半導体で構成された第1の成長層30を形成する。例えば、以下の成長条件でGaNをエピタキシャル成長させ、GaN層(第1の成長層30)を形成する。
【0037】
成長温度:900℃~1100℃
成長時間:1h~50h
V/III比:1~20
成長膜厚:100μm~10mm
【0038】
第1の成長工程S12では、サセプター20、下地基板10及び第1の成長層30を含む積層体の側面に沿って、多結晶のIII族窒化物半導体が形成される。多結晶のIII族窒化物半導体は、上記積層体の側面の全部又は大部分に付着する。付着した多結晶のIII族窒化物半導体は互いに繋がり、環状となる。そして、上記積層体は、環状の多結晶のIII族窒化物半導体の内部でホールドされる。
【0039】
なお、第1の成長工程S12では、上記積層体の側面に加えて、サセプター20の裏面にも、多結晶のIII族窒化物半導体が形成され得る。多結晶のIII族窒化物半導体は、上記積層体の側面及びサセプター20の裏面の全部又は大部分に付着する。付着した多結晶のIII族窒化物半導体は互いに繋がり、カップ状の形状となる。そして、上記積層体は、カップ状の多結晶のIII族窒化物半導体の内部でホールドされる。
【0040】
図3に戻り、冷却工程S13では、サセプター20、下地基板10及び第1の成長層30を含む積層体を冷却する。ここでの冷却の目的は、第1の成長層30とサファイア基板11との線膨張係数差に起因して発生する歪み(応力)を利用して第1の成長層30にクラックを発生させることで、応力を緩和することである。第2の成長工程S14の前に、応力を緩和していることが望まれる。当該目的を達成できれば、その冷却の方法は特段制限されない。例えば、第1の成長工程S12の後、上記積層体をHVPE装置の外に一旦取り出し、室温まで冷却してもよい。
【0041】
図4(3)に示すように、冷却工程S13の後の第1の成長層30には、クラック(裂け目、ひび割れ等)31が存在する。クラック31は、図示するように、第1の成長層30の表面に存在し得る。なお、クラック31は、第1の成長工程S12の間に発生したものであってもよいし、冷却工程S13の間に発生したものであってもよい。
【0042】
図3に戻り、第2の成長工程S14では、
図4(4)に示すように、サセプター20に下地基板10を固着させた状態で、第1の成長層30の上に、HVPE法でIII族窒化物半導体を成長させる。これにより、単結晶のIII族窒化物半導体で構成された第2の成長層40を形成する。例えば、以下の成長条件でGaNをエピタキシャル成長させ、GaN層(第2の成長層40)を形成する。第1の成長層30を形成するための成長条件と第2の成長層40を形成するための成長条件は、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0043】
成長温度:900℃~1100℃
成長時間:1h~50h
V/III比:1~20
成長膜厚:100μm~10mm
【0044】
第2の成長工程S14では、第1の成長工程S12で形成された環状の多結晶のIII族窒化物半導体を残した状態で、第1の成長層30の上に第2の成長層40を形成する。環状の多結晶のIII族窒化物半導体を残す目的は、クラック31に起因して複数の部分に分離し得る第1の成長層30を外周からホールドすることで、当該分離を抑制することである。第1の成長層30が複数の部分に分離してしまうと、複数の部分ごとの面方位ずれや、ハンドリング性、作業性等が悪くなる。また、一部の部品がなくなったり、粉々になったりすることで、元の形状を再現できなくなる恐れもある。本実施形態によれば面方位ずれや分離を抑制できるので、当該不都合を抑制できる。
【0045】
なお、第1の成長工程S12で形成された多結晶のIII族窒化物半導体の全部をそのまま残してもよいが、上記目的を実現できればよく、必ずしも、第1の成長工程S12で形成された多結晶のIII族窒化物半導体の全部を残さなくてもよい。すなわち、多結晶のIII族窒化物半導体の一部を除去してもよい。
【0046】
第2の成長工程S14においても、多結晶のIII族窒化物半導体が形成される。多結晶のIII族窒化物半導体は、サセプター20、下地基板10、第1の成長層30及び第2の成長層40を含む積層体の側面や、サセプター20の裏面に沿って形成され得る。
【0047】
また、第2の成長工程S14では、クラック31が存在する第1の成長層30の表面上に、HVPE法でIII族窒化物半導体を成長させ、第2の成長層40を形成する。この場合、成長面(第1の成長層30の表面)は、クラック31部分において不連続となる。クラック31を境に互いに分かれた第1の表面領域及び第2の表面領域各々から成長したIII族窒化物半導体は、成長が進むと互いに接合し、一体化する。
【0048】
図3に戻り、種基板切出工程S15では、第2の成長層40の少なくとも一部を半極性種基板1として切り出す。
【0049】
例えば、
図4(5)に示すように、サセプター20、下地基板10、第1の成長層30及び第2の成長層40を含む積層体をスライスして第2の成長層40の少なくとも一部をサセプター20から分離し、半極性種基板1とする。なお、サセプター20から分離した第2の成長層40の少なくとも一部をスライスして、複数の半極性種基板1を得てもよい。また、スライスの他、研削、研磨、燃焼、分解、溶解などの方法を利用して、第2の成長層40の少なくとも一部をサセプター20から分離してもよい。
【0050】
以上により、半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板1が得られる。
【0051】
当該準備工程S10によれば、応力を緩和した第1の成長層30の上に半導体をエピタキシャル成長させ、第2の成長層40を形成することができる(第2の成長工程S14)。このため、応力を緩和せずに第1の成長層30を厚膜化して同等の厚さにした場合に比べて、第2の成長層40にクラックや割れが生じにくい。
【0052】
このため、当該準備工程S10によれば、半極性面を主面とし、かつ、十分な口径のIII族窒化物半導体を厚膜成長させることが可能となる。結果、第1の成長層30及び第2の成長層40を含むバルク結晶が得られる。例えば、第2の成長層40の膜厚は500μm以上20mm以下であり、その最大口径はΦ50mm以上Φ6インチ以下である。また、第1の成長層30の膜厚は、100μm以上10mm以下である。第1の成長層30と第2の成長層40をあわせると、その膜厚は600μm以上30mm以下となる。第2の成長層40の表面は凹凸になっており、m面系ファセットが存在する。
【0053】
上述のように十分な口径及び十分な膜厚のバルク結晶を製造できる当該準備工程S10によれば、当該バルク結晶から一部(III族窒化物半導体層)を切り出したりすることで、半極性面を主面とし、かつ、十分な口径及び厚さを有する半極性種基板1を効率的に製造することができる。例えば、半極性種基板1の最大径はΦ50mm以上Φ6インチ以下であり、半極性種基板1の厚さは100μm以上10mm以下である。
【0054】
なお、応力を緩和する際に第1の成長層30にはクラック31が発生する。そして、このような第1の成長層30の上に成長する第2の成長層40は、クラック31を境に互いに分かれた第1の成長層30の第1の表面領域及び第2の表面領域各々から成長した結晶が互いに接合することで形成される。ここで、第1の表面領域及び第2の表面領域の界面上には、転位が生じ得る。そして、第1の表面領域及び第2の表面領域の面方位がずれていると、上記界面上の転位が増加する。本実施形態では、環状の多結晶のIII族窒化物半導体により、第1の成長層30を外周からホールドする。このため、上記面方位のずれを抑制できる。結果、上記界面上における転位増加を抑制することができる。
【0055】
また、下地基板10をサセプター20で拘束した状態で第1の成長工程S12、冷却工程S13を行う当該準備工程S10によれば、当該拘束がない状態で同様の処理を行う場合に比べて、第1の成長層30に発生するクラック31の数を減らすことができる。
【0056】
また、下地基板10及び第1の成長層30を含む積層体をサセプター20で拘束した状態で第2の成長工程S14を行う当該準備工程S10によれば、当該拘束がない状態で同様の処理を行う場合に比べて、第1の成長層30や第2の成長層40に発生するクラックの数を減らすこと、分離することを抑制することができる。
【0057】
また、当該準備工程S10によれば、
図5(1)及び(2)に示すように、単結晶で構成された第1の部分51と、多結晶で構成された第2の部分52とで構成された半極性種基板1を製造することができる。
図5(1)及び(2)は、半極性種基板1の平面図であり、主面が示されている。
【0058】
第2の部分52は、第1の部分51の外周に付着している。第2の部分52は環状となり、その内部に第1の部分51をホールドする。第2の部分52は、
図5(1)に示すようにランダムに付着した状態そのままであってもよいし、
図5(2)に示すように研磨や研削等により整えられてもよい。
【0059】
このような本実施形態の半極性種基板1によれば、第2の部分52により径を稼ぐことができる。結果、ハンドリング性や作業性が向上すること、また、半極性種基板1を種基板として利用する際に、単結晶で構成された第1の部分51の成長面積を大きく確保することができる。例えば、第1の部分51の最大径はΦ50mm以上Φ6インチ以下であり、第1の部分51及び第2の部分52を有するIII族窒化物半導体層の最大径はΦ51mm以上Φ6.5インチ以下である。
【0060】
なお、多結晶で構成された第2の部分52を除去し、単結晶で構成された第1の部分51のみからなる半極性種基板1を得てもよい。
【0061】
また、本実施形態の当該準備工程S10によれば、
図6及び
図7に示すように、結晶軸の向きが互いに異なる複数の部分を含む半極性種基板1が製造される。
図7は、
図6のA-A´の断面図である。図示する領域A及び領域B各々は、クラック31を境に互いに分かれた第1の成長層30の第1の表面領域及び第2の表面領域各々から成長した部分である。
【0062】
領域A及び領域Bの結晶は、第1の成長層30の第1の表面領域及び第2の表面領域間の結晶軸のずれ(クラック31に起因するずれ)等に起因して、結晶軸の向きが互いに異なる。図示する領域Aの結晶軸の向きYと領域Bの結晶軸の向きZは、同じ結晶軸の向きを示している。当該特徴は、当該準備工程で製造された半極性種基板1に現れる特徴である。なお、上述の通り、本実施形態では、第1の成長層30を外周からホールドする環状の多結晶のIII族窒化物半導体の存在により、面方位のずれを抑制できる。結果、領域Aの結晶軸の向きYと領域Bの結晶軸の向きZとのなす角を2°以下に抑えることができる。
【0063】
なお、準備工程S10では、
図3のフローチャートに示す処理と異なる処理で半極性種基板1を製造してもよい。例えば、準備工程S10では、c面成長したIII族窒化物半導体のバルク結晶を、スライス面が半極性面となるようにスライスして、半極性種基板1を製造してもよい。
【0064】
「III族窒化物半導体層形成工程S20」
図1に戻り、III族窒化物半導体層形成工程S20では、
図2(2)に示すように、半極性種基板1の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長して、III族窒化物半導体層2を形成する。例えば、半極性種基板1の主面上にHVPE法でIII族窒化物半導体(例:GaN)を成長させ、III族窒化物半導体層2を形成する。成長条件は以下の通りである。
【0065】
成長温度:900℃~1100℃
成長時間:1h~50h
V/III比:1~20
成長膜厚:100μm~20mm
【0066】
「切出工程S30」
図1に戻り、切出工程S30では、III族窒化物半導体層2から、半極性面を主面とする半極性自立基板を切り出す。
【0067】
例えば、切出工程S30では、
図2(3)に示すように、半極性種基板1及びIII族窒化物半導体層2からなる積層体をスライスし、半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2の一部(III族窒化物半導体層の分離部2-2)を分離することで、半極性面を主面とする半極性自立基板を得ることができる。なお、III族窒化物半導体層の分離部2-2をスライスして複数の半極性自立基板を得てもよい。III族窒化物半導体層の分離部2-2を得るためのスライス位置は、例えば、半極性種基板1とIII族窒化物半導体層2との界面から積層方向に沿ってIII族窒化物半導体層2の方に100μm以上500μm以下移動した位置とすることができるが、これに限定されない。
【0068】
半極性自立基板の主面の面方位は半極性種基板1の主面の面方位と同じであってもよい。その他、半極性自立基板の主面の面方位は半極性種基板1の主面の面方位と異なってもよい。いずれも、上記スライスにおけるスライス面の傾きの調整により実現することができる。例えば、半極性種基板1の主面が{hklm}面(例:{-1-12-3}面)から15°以内のオフ角を有する面である場合、半極性自立基板の主面は{hklm}面であってもよい。
【0069】
なお、
図2(3)に示すように、半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2の一部(III族窒化物半導体層の分離部2-2)を分離した後、III族窒化物半導体層2の他の一部(III族窒化物半導体層の残存部2-1)が半極性種基板1に残存する。
【0070】
「加工工程S40」
図1に戻り、加工工程S40は、切出工程S30の後、かつ、半極性種基板1を再利用してIII族窒化物半導体層形成工程S20を行う前に実行される。加工工程S40では、III族窒化物半導体層2の一部(III族窒化物半導体層の分離部2-2)が残存する半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2の全てを除去する。例えば、研磨により、半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2を除去することができる。
【0071】
加工工程S40では、半極性種基板1のIII族窒化物半導体層2に接する面側の一部を除去してもよい。このようにすることで、III族窒化物半導体層2の全ての除去を確実に達成することができる。
【0072】
なお、加工工程S40は、表面観察により、半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2の全てが除去されたことを確認する処理を含んでもよい。ここでの表面観察は、例えば、SEM(Scanning Electron microscope)/CL(Cathodoluminescence)による表面観察である。
【0073】
加工工程S40の後、III族窒化物半導体層2の全てを除去した半極性種基板1を再利用して、III族窒化物半導体層形成工程S20と、切出工程S30とを実行する。なお、半極性種基板1を再利用してIII族窒化物半導体層形成工程S20と切出工程S30とを実行した後、さらに加工工程S40を行い、半極性種基板1を複数回再利用してもよい。例えば、繰り返し利用する回数の上限(例:5回程度)を予め定めておき、その回数に達すると半極性種基板1の再利用を終了してもよい。
【0074】
次に、本実施形態の半極性自立基板の製造方法の作用効果を説明する。本実施形態の半極性自立基板の製造方法では、半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板1上にIII族窒化物半導体層2を形成し、そして半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2を分離して半極性自立基板を得た後、III族窒化物半導体層2を分離した半極性種基板1を再利用して同工程を行う。半極性種基板1の再利用により、コスト面のメリットを生むことができる。
【0075】
また、以下の実施例で示すが、c面を主面とする種基板上にc面を成長面としてIII族窒化物半導体層を形成する場合、得られるIII族窒化物半導体層の表面に貫通孔やクラックが発生しやすくなる。結果、得られた自立基板の表面にも貫通孔やクラックが発生しやすくなる。
【0076】
これに対し、半極性面を主面とする半極性種基板1上に半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体層2を形成する本実施形態の製造方法によれば、上記c面成長の例に比べて、得られるIII族窒化物半導体層2の表面に貫通孔やクラックが発生し難くなる。結果、得られた半極性自立基板の表面にも貫通孔やクラックが発生し難くなる。すなわち、本実施形態の半極性自立基板の製造方法によれば、表面状態が良好な半極性自立基板を製造することができる。
【0077】
また、本実施形態の半極性自立基板の製造方法によれば、主面が半極性面となった半極性自立基板を製造できるので、自立基板上に形成されるデバイスの内部量子効率の向上等が実現される。
【0078】
また、再利用前に半極性種基板1からIII族窒化物半導体層2を完全に除去する本実施形態の半極性自立基板の製造方法によれば、III族窒化物半導体層形成工程S20におけるIII族窒化物半導体の成長において、局所的な歪、異常成長、結晶欠陥等の不具合の発生確率を低減することができる。すなわち、高品質な半極性自立基板を製造することができる。
【0079】
<第2の実施形態>
図8のフローチャートは、本実施形態の半極性自立基板の製造方法の処理の流れの一例を示す。図示するように、本実施形態の半極性自立基板の製造方法では、準備工程S10と、III族窒化物半導体層形成工程S20と、切出工程S30と、加工工程S40と、判断工程S50とがこの順に行われる。
【0080】
本実施形態は、判断工程S50を有する点で、第1の実施形態と異なる。準備工程S10、III族窒化物半導体層形成工程S20、切出工程S30及び加工工程S40は、第1の実施形態と同様である。
【0081】
なお、図示しないが、判断工程S50は、加工工程S40の後でなく、切出工程S30の後かつ加工工程S40の前に行われてもよい。その他、判断工程S50は、切出工程S30の後かつ加工工程S40の前と、加工工程S40の後の両方で行われてもよい。
【0082】
切出工程S30の後かつ加工工程S40の前に判断工程S50を行うことで、再利用不可な半極性種基板1に加工工程S40を行う不都合を抑制できる。また、加工工程S40の後に判断工程S50を行うことで、加工工程S40の影響を考慮して半極性種基板1を再利用可能か否か判断することができる。以下、判断工程S50を説明する。
【0083】
「判断工程S50」
判断工程S50では、半極性種基板1が再利用可能か否かを判断する。判断工程S50で再利用可能と判断された場合、半極性種基板1を再利用する。すなわち、当該半極性種基板1の上にIII族窒化物半導体層2を形成し、III族窒化物半導体層2から半極性自立基板を切り出す。一方、判断工程S50で再利用不可と判断された場合、半極性種基板1の再利用を終了する。
【0084】
以下、判断方法の具体例を説明する。
【0085】
第1の例では、半極性種基板1の曲率半径に基づき、再利用可能か否かを判断する。具体的には、半極性種基板1の曲率半径が基準値以上である場合に再利用可能と判断し、半極性種基板1の曲率半径が基準値未満である場合に再利用不可と判断する。
【0086】
半極性種基板1の反りが大きくなり過ぎると、得られる半極性自立基板も大きく反ってしまい、割れ等の不都合が発生し得る。曲率半径に基づき再利用可能か否かを判断することで、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。なお、曲率半径の基準値は例えば1mであるが、これに準じて適宜設定することができる。
【0087】
切出工程S30の後かつ加工工程S40の前に判断工程S50を実行する場合、エネルギー分散型X線回折(EDXRD)法で主面に対するオフ角を計測し、得られたデータから曲率半径を算出することができる。X線ロッキングカーブ法による計測も可能であるが、切出工程S30により結晶切断面に切断ダメージが発生し、精度の良い計測は困難となるため、好ましくは無い。
【0088】
一方、加工工程S40の後に判断工程S50を実行する場合、加工工程S40により結晶表面の切断ダメージが除去されるため、エネルギー分散型X線回折法およびX線ロッキングカーブ法のどちらの方法でも曲率半径を高精度で計測することができる。
【0089】
このように、判断工程S50を行うタイミングに応じて適切な方法を選択することで、適切に半極性種基板1の状態を評価することができる。
【0090】
第2の例では、半極性種基板1に所定のクラックが発生しているか否かに基づき、再利用可能か否かを判断する。具体的には、半極性種基板1に所定のクラックが発生していない場合に再利用可能と判断し、半極性種基板1に所定のクラックが発生している場合に再利用不可と判断する。所定のクラックは、例えば、予め定められた基準長さ以上のクラックである。基準長さは、「半極性種基板1の直径の50%以上」であってもよいし、「○○cm以上」のように定められてもよい。
【0091】
半極性種基板1に長いクラックが存在していると、その上に形成されるIII族窒化物半導体層2の結晶性に悪影響を及ぼす。所定のクラックが発生しているか否かに基づき再利用可能か否かを判断することで、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。
【0092】
第3の例では、半極性種基板1の厚さに基づき、再利用可能か否かを判断する。具体的には、半極性種基板1の厚さが基準値以上である場合に再利用可能と判断し、半極性種基板1の厚さが基準値未満である場合に再利用不可と判断する。
【0093】
第1の実施形態で説明した通り、加工工程S40では、III族窒化物半導体層2の全ての除去を確実に達成するため、半極性種基板1のIII族窒化物半導体層2に接する面側の一部を除去することができる。かかる場合、半極性種基板1の一部の除去に起因して、半極性種基板1が薄くなっていく。
【0094】
半極性種基板1が薄くなり過ぎると、半極性種基板1やその上に形成されたIII族窒化物半導体層2に反りやクラックが発生しやすくなる。厚さに基づき再利用可能か否かを判断することで、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。なお、厚さの基準値は例えば250μmであるが、これに準じて適宜設定することができる。
【0095】
第4の例では、半極性種基板1の表面粗さに基づき、再利用可能か否かを判断する。具体的には、半極性種基板1の表面粗さが基準値未満である場合に再利用可能と判断し、半極性種基板1の表面粗さが基準値以上である場合に再利用不可と判断する。
【0096】
半極性種基板1の表面粗さが粗くなり過ぎると、半極性種基板1やその上に形成されたIII族窒化物半導体層2の結晶性が損なわれやすくなる。表面粗さに基づき再利用可能か否かを判断することで、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。なお、表面粗さの基準値は例えば5×5μm2の表面粗さRMSが0.5nm以上5nm以下であるが、これに準じて適宜設定することができる。
【0097】
第5の例では、半極性種基板1の表面の傷の有無に基づき、再利用可能か否かを判断する。具体的には、半極性種基板1の表面に傷が発生していない場合に再利用可能と判断し、半極性種基板1の表面に傷が発生している場合に再利用不可と判断する。
【0098】
半極性種基板1の利用や加工工程S40の実施等により、半極性種基板1の表面に研磨痕やキズが発生する可能性がある。半極性種基板1の表面に研磨痕や傷が存在していると、その上に形成されるIII族窒化物半導体層2の結晶性に悪影響を及ぼす。半極性種基板1の表面の傷の有無に基づき再利用可能か否かを判断することで、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。傷の有無を確認する検査は、光学顕微鏡観察やSEM/CL等で実現できる。
【0099】
以上説明した本実施形態の半極性自立基板の製造方法によれば、第1の実施形態と同様な作用効果を実現できる。また、半極性種基板1が再利用可能か否かを適切に判断した後に再利用する本実施形態の半極性自立基板の製造方法によれば、半極性種基板1の状態不良に起因して、製品として不適な半極性自立基板が製造される不都合を抑制できる。
【0100】
<実施例>
「実施例1」
図9に、実施例1の半極性種基板1を示す。実施例1の半極性種基板1は、GaNで構成され、一部に割れがあるが(基板の外周付近に位置する図中縦方向に伸びる割れ)、貫通孔がない。主面の面方位は{-1-12-3}面をm面方向に9°かつc面方向に3°傾けた面であり、径はΦ60mmであり、厚さは800μmであった。
【0101】
当該半極性種基板1上に、以下の成長条件でGaNをエピタキシャル成長して、GaN層(III族窒化物半導体層2)を形成した。
【0102】
成長方法:HVPE法
成長温度:1040℃
V/III比:2000/200
ガス総流量:10314sccm
不純物:アンドープ
成長時間:12時間
【0103】
図10は、実施例1のGaN層の表面を示す。GaN層の表面には貫通孔やクラックが存在しなかった。すなわち、新たな貫通孔やクラックを発生させることなく、GaN層を形成することができた。また、半極性種基板1の表面に存在したクラックがGaN層の表面では消滅していた。
【0104】
GaN層を形成後、
図11に示すように、半極性種基板1とGaN層との界面から積層方向に沿ってGaN層の方(図中、上方向)に300μm移動した位置でスライスして、半極性種基板1とGaN層の一部とを分離した。なお、図示するように、GaN層の中心部の厚さは2500μmであり、最外周部の厚さは1550μmであった。
【0105】
図12は、分離されたGaN層のスライス面を示す。図中の丸は、Φ50mmの円を示す。
図13は、半極性種基板1に残存したGaN層のスライス面を示す。
図12及び
図13に示すように、GaN層の内部においても、貫通孔やクラックが確認されなかった。
【0106】
図14は、GaN層の形成及び分離を実行する前の半極性種基板1(出発基板)、及び、GaN層の形成及び分離を実行した後に研磨でGaN層を除去した半極性種基板1(再利用基板)の表面を示す。上記工程を実施しても、表面に傷などを発生させることなく、半極性種基板1を再利用できることを確認した。
【0107】
「実施例2」
図15に、実施例2の半極性種基板1を示す。実施例2の半極性種基板1は、GaNで構成され、一部に割れがあり、さらに、貫通孔がある。図中、丸印で貫通孔を示している。主面の面方位は{-1-12-3}面をm面方向に9°かつc面方向に3°傾けた面であり、径はΦ60mmであり、厚さは800μmであった。
【0108】
当該半極性種基板1上に、GaNをエピタキシャル成長して、GaN層(III族窒化物半導体層2)を形成した。成長条件は、成長時間を20時間とした成長を2回行った点を除き、実施例1と同様である。
【0109】
図16は半極性種基板1及びGaN層を含む積層体の中心部膜厚が6mmになった時点のGaN層の表面を示す。
図17は、当該積層体の中心部膜厚が12.8mmになった時点のGaN層の表面を示す。いずれにおいても、半極性種基板1に存在しない新たな貫通孔やクラックが生成されていなかった。
【0110】
そして、実施例1と同様に、半極性種基板1とGaN層との界面から積層方向に沿ってGaN層の方(図中、上方向)に300μm移動した位置でスライスして、半極性種基板1とGaN層の一部とを分離した。
【0111】
図18は、分離されたGaN層のスライス面を示す。
図18のスライス面には、貫通孔やクラックが存在しなかった。すなわち、半極性種基板1に存在した貫通孔やクラック(
図15参照)が消滅していた。
【0112】
図19は、半極性種基板1に残存したGaN層のスライス面を示す。中心部に貫通孔が存在したが(図中、丸印)、その他の貫通孔やクラックは存在しなかった。すなわち、半極性種基板1に存在した貫通孔やクラック(
図15参照)の内、中心部の貫通孔は残ったが、他の貫通孔やクラックは消滅していた。
【0113】
図20に、半極性種基板1の中心部に存在した貫通孔の光学顕微鏡観察像を示す。
図21に、
図19に示すGaN層のスライス面の中心部に存在した貫通孔の光学顕微鏡観察像を示す。なお、
図20及び
図21における長さを示す数字の単位は「μm」である。図より、半極性種基板1から離れるに従い(III族窒化物半導体層2を構成するIII族窒化物半導体が成長するに従い)、貫通孔の幅や長さが小さくなっていることが分かる。すなわち、半極性種基板1上にIII族窒化物半導体を成長していくことで、半極性種基板1に存在した貫通孔を小さくしたり、クラックを消滅させたりできることが確認できた。なお、図中の<000-2>投影軸は、<000-2>を半極性種基板1の主面に投影した軸の方向を示す。同様に、図中の<10-10>投影軸は、<10-10>を半極性種基板1の主面に投影した軸の方向を示す。
【0114】
「比較例1」
図22に、比較例1の種基板を示す。比較例1の種基板は、GaNで構成され、貫通孔がある。図中、丸印で貫通孔を示している。主面はc面であり、径はΦ50mmであり、厚さは400μmであった。
【0115】
当該種基板上に、GaNをエピタキシャル成長して、GaN層を形成した。成長条件は、成長時間を20時間とし、Siドーピングを行った点を除き、実施例1と同様である。
【0116】
図23はGaN層の表面を示す。種基板上にあった貫通孔がGaN層においても存在することが分かる。そして、GaN層の貫通孔は種基板上の貫通孔よりも大きいことが確認できる。
【0117】
「比較例2」
図24に、比較例2の種基板を示す。比較例2の種基板は、GaNで構成され、裏面まで貫通していない開口孔がある。主面はc面であり、径はΦ50mmであり、厚さは400μmであった。
【0118】
当該種基板上に、GaNをエピタキシャル成長して、GaN層を形成した。成長条件は、成長時間を20時間とした点を除き、実施例1と同様である。
【0119】
図25はGaN層の表面を示す。種基板上になかった新たな貫通孔がGaN層に存在することが確認できる(図中、丸印で示す)。
【0120】
「比較例3」
図26に、比較例3の種基板を示す。比較例3の種基板は、GaNで構成され、裏面まで貫通していない開口孔がある。主面はc面であり、径はΦ54mmであり、厚さは1.4mmであった。
【0121】
当該種基板上に、GaNをエピタキシャル成長して、GaN層を形成した。成長条件は、成長時間を21時間とした点を除き、実施例1と同様である。
【0122】
図27はGaN層の表面を示す。種基板上になかったクラックがGaN層に存在することが確認できる。また、種基板上になかった貫通孔の存在や、種基板上にあった貫通孔の残存また当該貫通孔の拡大が確認できる。
【0123】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 半極性面を主面とし、III族窒化物半導体からなる半極性種基板を準備する準備工程と、
前記半極性種基板の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長して、III族窒化物半導体層を形成するIII族窒化物半導体層形成工程と、
前記III族窒化物半導体層から、半極性面を主面とする半極性自立基板を切り出す切出工程と、
前記切出工程の後、前記III族窒化物半導体層の一部が残存する前記半極性種基板から前記III族窒化物半導体層の全てを除去する加工工程と、
を実行した後、前記III族窒化物半導体層を除去した前記半極性種基板を再利用して、前記III族窒化物半導体層形成工程と前記切出工程とを行う半極性自立基板の製造方法。
2. 1に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記加工工程では、前記半極性種基板の前記III族窒化物半導体層に接する面側の一部を除去する半極性自立基板の製造方法。
3. 1又は2に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記加工工程では、表面観察により、前記III族窒化物半導体層の全ての除去を確認する半極性自立基板の製造方法。
4. 1から3のいずれかに記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記半極性種基板が再利用可能か否かを判断する判断工程をさらに有し、
前記判断工程で再利用可能と判断された場合、前記半極性種基板を再利用し、
前記判断工程で再利用不可と判断された場合、前記半極性種基板の再利用を終了する半極性自立基板の製造方法。
5. 4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の曲率半径が基準値以上である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の曲率半径が基準値未満である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
6. 4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板に所定のクラックが発生していない場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板に所定のクラックが発生している場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
7. 4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の厚さが基準値以上である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の厚さが基準値未満である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
8. 4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の表面粗さが基準値未満である場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の表面粗さが基準値以上である場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
9. 4に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記判断工程では、前記半極性種基板の表面に傷が発生していない場合に再利用可能と判断し、前記半極性種基板の表面に傷が発生している場合に再利用不可と判断する半極性自立基板の製造方法。
10. 1から9のいずれかに記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記半極性種基板の主面は、{hklm}面から15°以内のオフ角を有する面であり、
前記切出工程では、{hklm}面を主面とする前記半極性自立基板を切り出す半極性自立基板の製造方法。
11. 10に記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記半極性種基板の主面は、{-1-12-3}面から15°以内のオフ角を有する面である半極性自立基板の製造方法。
12. 1から11のいずれかに記載の半極性自立基板の製造方法において、
前記準備工程は、
半極性面を主面とするIII族窒化物半導体層を含む下地基板をサセプターに固着させる固着工程と、
前記サセプターに前記下地基板を固着させた状態で、前記III族窒化物半導体層の前記主面上にHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を成長させ、第1の成長層を形成する第1の成長工程と、
前記サセプター、前記下地基板及び前記第1の成長層を含む積層体を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記サセプターに前記下地基板を固着させた状態で、前記第1の成長層の上に、HVPE法でIII族窒化物半導体を成長させ、第2の成長層を形成する第2の成長工程と、
前記第2の成長層の少なくとも一部を前記半極性種基板として切り出す種基板切出工程と、
を有する半極性自立基板の製造方法。
【0124】
この出願は、2018年8月27日に出願された日本出願特願2018-158077号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。